説明

多層成形体

【課題】燃料等の有機物流体搬送の際の配管用部材、容器、燃料チューブ等の用途において、ポリアリーレンスルフィド本来の有機物流体に対する優れたバリヤー性を損なうことなく、他の樹脂成分と優れた密着性を発現する多層成形体、及びこれらの性能を具備した燃料用部品を提供する。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートに代表される多価イソシアネート化合物(a2)、及びエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体に代表される熱可塑性エラストマー(a3)を必須成分とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、ポリアミド等のアミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基およびエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)とを共押出して多層構造体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料等の有機物流体搬送の際の配管用部材、容器、燃料チューブに適する多層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶剤、燃料、液化ガス、その他各種のポリマー原料、中間体、製品などの流動性を有する有機物流体用の配管用部材、配管部品、チューブ製品は、金属材料に変わりプラスチック化が進められてきており、例えば、車両用の燃料配管部材や容器には、ガソリンなどの燃料に対するバリアー性能が高いポリアミド樹脂が用いられている。
【0003】
しかしながら、急速に普及しつつあるアルコール含有ガソリンに対しては、ポリアミド樹脂のバリアー性は決して十分なものではなく、比較的アルコール含有ガソリンに対するバリアー性の高い12ナイロンであっても、大気中への燃料拡散防止の各種法規制に対応可能な高いバリヤー性を得られない状況であった。
【0004】
一方、アルコール含有ガソリンに対する非常に高いバリアー性を有する樹脂材料としてポリフェニレンスルフィド樹脂が注目されている。しかしながら、ポリフェニレンスルフィド樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性を有しているものの、耐衝撃性が十分でなく自動車用燃料チューブや燃料タンクへの適用が困難なものであった。そこで、自動車用燃料チューブや燃料タンクを製造する方法として、ポリフェニレンスルフィド樹脂の層、接着層、及びポリエチレン層の3層の構造体とすることで、ポリフェニレンスルフィド樹脂のバリアー性を保持しながら、最終製品全体として耐衝撃性を兼備させた成形容器が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、ポリフェニレンスルフィドは他の樹脂成分との接着性が低いため前記多層構造体は層間の剥離が生じ易く、バリアー性の顕著な低下を引き起こすという問題を有していた。特に、高温環境となるエンジンルーム内で用いる部材に使用される場合には温度上昇に伴うポリエチレン層の著しい軟化に由来する変形を生じる等の不具合が生じるものであった。
【0006】
そこで、前記ポリフェニレンスルフィドを用いた多層構造体におけるポリエチレン層の軟化の問題を解決する方法として、ポリフェニレンスルフィドからなる層と、ポリアミドからなる層とを積層した多層構造体が知られている。かかる多層構造体としては、具体的には、ポリフェニレンスルフィドと、エポキシ基含有ポリオレフィンとの混合物からなる層、オレフィン系接着層、ポリアミドからなる層を積層させた多層構造体が知られている(下記特許文献3参照)。然し乍ら、かかる多層構造体はポリオレフィン系の接着層を使用しているため、やはり、高温環境下で使用される場合は層間の剥離強度が不足するものであった。
【0007】
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、ポリアミドおよびアミド結合、エステル結合、ウレタン結合、カルボキシル基、酸無水物基およびエポキシ基の中から選ばれる1種以上の結合または官能基を有する官能基含有熱可塑樹脂の少なくとも1種を10〜150重量部配合してなるポリフェニレンスルフィド系樹脂層と、ポリアミドの層とを接着層を介さずに多層化して多層構造体とする技術が知られている(下記特許文献4)。しかしながら、この多層構造体は、ポリアミド樹脂層との接着性を得るために、ポリフェニレンスルフィドに多量のポリアミドおよび変性オレフィン系樹脂を含有させる必要があり、ポリアリーレンスルフィドが本来有するバリヤー性が損なわれてしまうものであった。
【0008】
【特許文献1】特開平5−193060号公報
【特許文献2】特開平5−193061号公報
【特許文献3】特開平11−156970号公報
【特許文献4】特開平10−138372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、燃料等の有機物流体搬送の際の配管用部材、容器、燃料チューブ等の用途において、ポリアリーレンスルフィド本来の有機物流体に対する優れたバリヤー性を損なうことなく、他の樹脂成分と優れた密着性を発現する多層成形体、及びこれらの性能を具備した燃料用部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリアリーレンスルフィドに、多価イソシアネート化合物を配合した樹脂成分を、特定の官能基を有する熱可塑性樹脂と共押出することによって、ポリアリーレンスルフィドの有する性能を低下させることなく層間の密着性が飛躍的に向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、多価イソシアネート化合物(a2)、及び熱可塑性エラストマー(a3)を必須成分とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基およびエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)とを共押出して得られる構造を有することを特徴とする多層成形体に関する。
【0012】
また、本発明は、更に、前記多層成形体からなることを特徴とする燃料用部品に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃料等の有機物流体搬送の際の配管用部材、容器、燃料チューブ等の用途において、ポリアリーレンスルフィド本来の有機物流体に対する優れたバリヤー性を損なうことなく、他の樹脂成分と優れた密着性を発現する多層成形体、及びこれらの性能を具備した燃料用部品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の多層成形体は、前記した通り、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、多価イソシアネート化合物(a2)、及び熱可塑性エラストマー(a3)を必須成分とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基およびエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)とを共押出して得られる構造を有するものである。
【0016】
ここで用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記構造式(1)
【0017】
【化1】

【0018】

(式中、R及びRは、それぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)
で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
【0019】
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記PAS樹脂(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0020】
【化2】

【0021】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂(A)の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0022】
また、前記PAS樹脂(A)は、前記構造式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)〜(7)
【0023】
【化3】

【0024】

で表される構造部位を、前記構造式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂(A)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。
前記PAS樹脂(A)中に、上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0025】
また、前記PAS樹脂(A)は、その分子構造中に、下記構造式(8)
【0026】
【化4】

【0027】
で表される3官能性の構造部位、或いは、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、1モル%以下であることが好ましい。
【0028】
かかるPAS樹脂(A)は、例えば下記(1)〜(4)によって製造することができる。
方法1:ポリハロゲン芳香族化合物類を硫黄と炭酸ソーダの存在下に重合させる方法。
ジハロゲン芳香族化合物類を極性溶媒中でスルフィド化剤の存在下に重合させる方法。
方法2:P−クロルチオフェノールを自己縮合させる方法。
方法3:N−メチルピロリドンとポリハロゲノ芳香族化合物を混合し加熱しておき、反応系内の水分量が有機極性溶媒の2〜50モル%の範囲内になる様な速度で含水スルフィド化剤を加えてポリハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させる方法。
方法4:N−メチルピロリドン中でアルカリ金属硫化物とポリハロゲノ芳香族化合物との反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流させることによりポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS)を製造する方法、
方法5:N−メチルピロリドン、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ金属硫化物を混合し、次いで、得られた混合液を脱水して、固形のアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属水硫化物(b)と、N−メチルピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩とを含むスラリーを製造し(工程1)、次いで、前記スラリーの存在下、ポリハロゲノ芳香族化合物と前記アルカリ金属水硫化物と、前記したN−メチルピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩とを反応させて重合を行う(工程2)方法
【0029】
これらの中でも、線状の高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂が容易に得られる点から特に方法3、方法4、及び方法5が好ましい。
【0030】
上記方法3について詳述すれば、方法3は、具体的には、N−メチルピロリドン及びジハロ芳香族化合物の混合物を150℃以上に加熱し、次いで、含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入することにより、反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲に調整し乍ら反応させる方法が挙げられる。ここで、反応温度は200〜300℃、好ましくは210〜280℃の範囲であることが反応が良好に進行する点から好ましい。
【0031】
反応終了後は、まず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で加熱して溶媒だけを留去し、ついで缶残固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、それから中和、水洗、ろ別および乾燥をすることによって目的物を回収できる。
【0032】
方法3で用いる含水スルフィド化剤は、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、あるいはこれらの混合物等の含水物が挙げられる。
【0033】
前記アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられ、水和物、水溶液として用いられる。これらの中でも、硫化ナトリウムと硫化カリウムが好ましく、特に硫化ナトリウムが好ましい。これら硫化アルカリ金属は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基、硫化水素とアルカリ金属塩基とを反応させることによっても得られるが、反応系外で調製されたものを用いてもよい。
【0034】
アルカリ金属水硫化物としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム等が挙げられ、水和物、水溶液として用いることができる。
【0035】
上記水硫化アルカリ金属の中では水硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。これら水硫化アルカリ金属は、硫化水素とアルカリ金属塩基とを反応させることによっても得られるが、反応系外で調製された物を用いてもかまわない。
【0036】
また、ここで用いるポリハロゲノ芳香族化合物は、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0037】
これらの中でも、本発明では線状高分子量PAS樹脂を効率的に製造できることを特徴とする点から、2官能性のジハロゲノ芳香族化合物が好ましく、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp−ジクロロベンゼンが好ましい。また、線状PAS樹脂のポリマー構造の一部に分岐構造を持たせたい場合には、上記ジハロ芳香族化合物と共に、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、又は1,3,5−トリハロベンゼンを一部併用することが好ましい。
【0038】
次に、上記方法4について詳述すれば、方法4は、具体的には、反応容器内にN−メチルピロリドン、アルカリ金属硫化物、及びポリハロゲノ芳香族化合物を投入し、まず不活性ガス雰囲気下で、重合系の水分量が所定の量となるよう、必要に応じて脱水または水添加する。反応系内の水分量はアルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜1.7モル、特に0.8〜1.2モルとすることが副反応生成物の生成を抑制する点から好ましい。ここで、反応缶の気相部分の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、自体公知の冷却手段により行える。たとえば、反応缶内の上部に設置した内部コイルに冷媒体を流す方法、反応缶外部の上部に巻きつけた外部コイルまたはジャケットに冷媒体を流す方法、反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーを用いる方法、反応缶外部の上部に水をかける又は気体(空気、窒素等)を吹き付ける等の方法が挙げられる。
【0039】
また、方法4の反応条件は、230〜275℃の温度条件下で0.1〜20時間反応を行うことが好ましい。
【0040】
反応終了後は、常法により、反応スラリーを濾過、溶剤洗、酸処理、水洗、更に、必要により、溶剤洗と水洗とを繰り返して目的とするポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)を得ることができる。
【0041】
次に、上記方法5につき詳述すれば、方法5は、具体的には、まず、N−メチルピロリドン、ポリハロゲノ芳香族化合物、含水アルカリ金属硫化物を混合し、次いで、得られた混合液を脱水して、固形のアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属水硫化物と、N−メチルピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩とを含むスラリーを製造する(工程1)。ここで、前記N−メチルピロリドンの仕込み量は、含水アルカリ金属硫化物に対してN−メチルピロリドンを当量未満、中でも含水アルカリ金属硫化物1モルに対してN−メチルピロリドンを0.01〜0.9モルとなる割合で用いることが好ましい。
【0042】
次いで、工程1を経て得られたスラリーに、必要により、水、ポリハロゲノ芳香族化合物、アルカリ金属硫化物、N−メチルピロリドン等を加え、180〜300℃の範囲、好ましくは200〜280℃の範囲で反応乃至重合させることにより目的とするポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)を得ることができる。
【0043】
ここで、工程2におけるポリハロゲノ芳香族化合物の量は、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)を得られる点から好ましい。
【0044】
また、工程2では、従って、本発明の工程2では前記固形のアルカリ金属硫化物の消費率が10%の時点における該重合スラリーが実質的に無水状態であることがポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)の高分子量化の点から好ましい。
【0045】
ここで、ポリハロゲノ芳香族化合物は、前記方法3にて例示したものが何れも使用でき、含水アルカリ金属硫化物は、前記方法3にて例示したアルカリ金属硫化物の含水物が何れも使用できる。
【0046】
このようにして得られるポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した場合のピーク分子量が35,000以上となる範囲であることが低温での耐衝撃性、強靭性の向上が顕著であることから好ましく、また、成形時の流動性が良好であることから200、000以下が好ましい。中でも、これらの性能バランスの点から40、000〜100、000の範囲であることが特に好ましい。ここで、ゲル浸透クロマトグラフィーにより求める事が出来る。この測定法では、特に限定はしないが、PAS樹脂の溶解溶媒として1−クロロナフタレンが使用でき、200℃前後の高温で溶解し測定する事が出来る。本発明で使用する、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の分子量は、非ニュートン指数1.00〜1.30のものが特に好ましい。
【0047】
次に、本発明で用いる多価イソシアネート化合物(a2)は、具体的な化合物としては、例えばテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,2,4(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のアルキレンジイソシアネート;該アルキレンジイソシアネートが三量化したイソシアヌレート型脂肪族ポリイソシアネート、該アルキレンジイソシアネートとエチレングリコール又はトリメチロールプロパンとの反応生成物であるウレタン結合含有脂肪族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネートの5量化物及び7量化物;イソホロンジイソシアネート及びジシクロヘキシルジメチルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、その他リジンジイソシアネート、及び、ジエチルフマレートジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、2量化トルエンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、3,3’−ビトルエン−4,4’−ジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートフェニル)エーテル、ビス(4−イソシアネートフェニル)チオエーテル、ビス(4−イソシアネートフェニル)スルホン等の芳香族ジイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネート、トリイソシアネートベンゼン、トリイソシアネートナフタレン、トリス(4−イソシアネートフェニル)ホスファイト、トリス(4−イソシアネートフェニル)ホスフェート等の芳香族トリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等の多官能イソシアネート、並びに、前記芳香族ジイソシアネート又は芳香族トリイソシアネートの水添加物が挙げられる。
【0048】
これらの中でも特に、他の樹脂成分との密着性に優れる点からアルキレンジイソシアネート、該アルキレンジイソシアネートが三量化したイソシアヌレート型脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ジイソシアネートが好ましい。
【0049】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の前記多価イソシアネート化合物(a2)の含有量は、0.1〜4質量%であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)の溶融安定性が特に良好となり、熱可塑性樹脂(B)と共押出した際の、該熱可塑性樹脂(B)との密着性が良好となる点から好ましく、特にこれらの効果が顕著に現れる点から0.5〜3質量%であることが好ましい。
【0050】
次に、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の熱可塑性エラストマー(a3)は、多層積層体に耐衝撃性を付与し、また、熱可塑性樹脂(B)との密着性を改善するための必須の成分である。かかる熱可塑性エラストマー(a3)は、具体的には、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するエラストマーであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と溶融混練した際の分散性に優れる点から好ましい。また、耐熱性に優れ、かつ、混合の容易であり、耐衝撃性の向上の効果も顕著である点からポリオレフィン系エラストマーまたはニトリル系エラストマーが好ましい。
【0051】
前記ポリオレフィン系エラストマーとしては、また、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、エステル基、ビニル基等の官能基を有するものが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)との相溶性に優れる点から好ましい。
【0052】
また、更にこれらの中でも、酸無水物、酸、エステル等のカルボン酸に起因する官能基又はエポキシ基が特に好ましい。
【0053】
前記ポリオレフィン系エラストマーとしては、例えば、α−オレフィン類と前記官能基を有するビニル重合性化合物類との共重合で得ることが出来る。前記α−オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−等の炭素数2〜8のα−オレフィン類等が挙げられる。また、前記官能基を有するビニル重合性化合物類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル類等のα,β−不飽和カルボン酸類及びそのアルキルエステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4〜10の不飽和ジカルボン酸とそのモノ及びジエステル類、及びその酸無水物等のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその無水物、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
これらの官能基類を複数個、同時に含有した共重合体を用いることができる。これらの好ましい例としては、α−オレフィン類、無水マレイン酸、アクリル酸グリシジルの三元共重合体が挙げられる。
【0055】
次に、前記ニトリル系エラストマーは、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の様な不飽和結合を有するニトリルと共役二重結合を有するブタジエン、メチルブタジエン等との共重合により得られるものが挙げられる。この共重合体は二重結合の一部または全部を水素添加して耐熱性を高めたタイプは更に好ましい。
【0056】
これらの官能基を含んだ熱可塑性エラストマー(a3)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との分散性が良好になり、均一混合された樹脂組成物を得ることが容易になり、耐低温破断性などが向上する。
【0057】
かかる熱可塑性エラストマー(a3)の配合割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中10〜20質量%であることが密着性の改善とバリアー性とのバランスに優れる点から好ましく、特に12〜18質量%であることが好ましい。
【0058】
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)は、前記したポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、多価イソシアネート化合物(a2)、熱可塑性エラストマー(a3)に加え、無機系又は有機系の各種強化材、充填材、潤滑剤、安定剤などを併用することができる。これらの配合量はポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中、5重量%以下であることが好ましい。
【0059】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)を製造する方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、多価イソシアネート化合物(a2)、熱可塑性エラストマー(a3)、およびその他の配合成分を予めヘンシェルミキサー又はタンブラー等で混合した後、1軸又は2軸押出混練機などに供給して250℃〜350℃で混練し、造粒しペレット化することにより得る方法が挙げられる。特に、ここで前記混練機は、混練用のニーディングディスクを備えた同方向回転の2軸押出混練機を用いることが組成物の均一性が良好となる点から好ましい。
【0060】
次に、上記したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と共押出する、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基およびエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)は、具体的には、分子末端に水酸基を有するポリカーボネート樹脂、水酸基やカルボキシル基を有するポリエステル樹脂、水酸基やイソシアネート基を有するポリウレタン、並びに、エポキシ基、カルボキシル基、又は酸無水物基をペンダント状に有する変性ポリオレフィン、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0061】
ここで前記ポリカーボネート樹脂は、具体的には、二官能性フェノール化合物の高分子炭酸エステルが挙げられ、該二官能性フェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のビスフェノール類;p、p'−ジヒドロキシビフェニル、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル等のようなジヒドロキシビフェニル類;レゾルシノール、ハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジヒドロキシ−3−メチルベンゼン等のジヒドキシベンゼン類が挙げられる。
【0062】
また、前記ポリカーボネート樹脂を製造するために、上記した該二官能性フェノール化合物と反応させるカーボネート化剤は、具体的には、臭化カルボニル、塩化カルボニル等のハロゲン化カルボニル、ジフェニルカーボネート、ジ(クロロフェニル)カーボネート、ジ(トリルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のカーボネートエステル、ハイドロキノンビスクロロホルメート、エチレングリコールハロホルメート等のハロホルメートが挙げられる。
【0063】
また、前記ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとから得られる芳香族ポリエステル樹脂であることが好ましく、特に、ジカルボン酸成分の60モル%以上がテレフタル酸であるジカルボン酸と脂肪族ジオールとから得られる芳香族ポリエステルが好ましい。ここで、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸の他の化合物は、例えば、アゼライン酸、セバシン酸、アジピン酸、ドデカンジカルボン酸などが挙げられる。一方、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキセンジメタノールなどが挙げられる。かかるポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキセンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらの中でも、特にポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレートがポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)との密着性の点から好ましい。
【0064】
また、ここで使用するポリウレタン樹脂とは、ポリイソシアネートとジオールとから得られるものであり、ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート、および4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0065】
次に、エポキシ基、カルボキシル基、又は酸無水物基をペンダント状に有する変性ポリオレフィンはポリオレフィンを主鎖とし、その側鎖にエポキシ基、カルボキシル基、又は酸無水物基をペンダント状に有するものである。
【0066】
具体的には、エポキシ基を含有するポリオレフィンとしては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のグリシジル(メタ)アクリレートと、α−オレフィンとの共重合体が挙げられ、カルボキシル基、又は酸無水物基を含有するポリオレフィンとしては、ポリオレフィン樹脂にマレイン酸、琥珀酸、フタル酸あるいはこれらの酸無水物を反応させたものが挙げられる。
【0067】
ここで用いるα−オレフィンは、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン1、デセン−1、およびオクテン−1などが挙げられる。
【0068】
次に、ポリアミド樹脂は、アミノ酸化合物、ラクタム化合物の重合体、あるいはジアミン化合物とジカルボン酸化合物との重縮合体が挙げられる。
【0069】
ここでアミノ酸化合物は、具体的には、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、及びパラアミノメチル安息香酸が挙げられる。ラクタム化合物は、ε−アミノカプロラクタム、及びω−ラウロラクタムが挙げられる。
【0070】
次に、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物との重縮合体に用いられるジアミン化合物は、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等の脂環式ジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0071】
一方、ジカルボン酸化合物は、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0072】
これらのなかでも、特に、ガソリン等の燃料に対するバリアー性及び耐衝撃性に優れる点から、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)が好ましく、特に、6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロンが好ましい。
【0073】
また、これらポリアミド樹脂は、その重合度が1%の濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度で1.5〜7.0の範囲、特に2.0〜6.5の範囲のものが耐衝撃性に優れる点から好ましい。
【0074】
以上詳述した、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基およびエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)の中でも、特に燃料チューブ等の燃料配管部材用途における耐衝撃性や燃料バリアー性に優れる点からポリアミド樹脂が好ましい。
【0075】
本発明の多層積層体は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、前記熱可塑性樹脂(B)とを共押出して得られるものである。ここで、共押出する方法は、具体的には、燃料チューブなどのチューブ状成形体を得る為には、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)、及び前記熱可塑性樹脂(B)とを、押出し機内に投入し、溶融混練後、溶融状態で接触しつつダイを通り積層チューブに成形する方法が挙げられる。ここで、押出し機は、一軸又は二軸の押出し機であって、ダイ部において各々のシリンダーで可塑化された樹脂を1つの多層チューブに合一化させるチューブ用ダイを具備するものが好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)を溶融混練する際のシリンダー内の温度は280〜320℃であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂(B)を溶融混練する際のシリンダー内の温度は230〜270℃であることが好ましい。
【0076】
前記チューブ成形体を得る場合、その層構成は、内層に前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)からなる層(以下、「(A)層」と略記する。)、外層に前記熱可塑性樹脂(B)からなる層(以下、「(B)層」と略記する。)とを有する2層構造であってもよいし、さらに、前記(B)層の外郭に(A)層を配設した3層構造、さらに該(A)層の外郭に(A)層を配設した4層構造であってもよい。本発明では、特に、耐衝撃性及び燃料バリアー性のバランスが良好となる点から2層構造であることが好ましい。
【0077】
また、本発明の多層積層体における一層あたりの厚みは、その用途によって異なるが、例えば、燃料チューブに用いる場合、チューブ状成形体の全厚が0.8〜1.2mmであることが好ましく、前記(A)層の一層の厚さと、(B)層の一層の厚さとの比率が、(A)層/(B)層=10/90〜40/60であることがバリアー性と耐衝撃性とのバランスの点から好ましい。
【0078】
本発明の多層積層体として、燃料タンク、容器などの成形体を得るには、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、前記熱可塑性樹脂(B)とを多層シート状に共押出し、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法等の他、深絞成形、真空成形等の成形法により賦形することによって製造することができる。また、かかる燃料タンク、容器などの用途においては、燃料等との接液面側を記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)からなる層、外側を前記熱可塑性樹脂(B)からなる層にすることが燃料バリアー性の点から好ましい。
【0079】
以上詳述した本発明の多層成形体は、上記した通り、燃料等の有機物流体搬送の際の配管用部材、容器、燃料チューブに適するものであるが、具体的用途は、パイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー、等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)、など燃料を搬送する為の配管及び配管に付属する各種の部品、及び、燃料ポンプやキャニスター等のハウジング、燃料タンク等が挙げられる。また、本発明の部材は、勿論、他の材料と複合化や、接着、カシメ等により、他材料と合わせてよい。
【実施例】
【0080】
以下に実施例及び参考例により本発明の効果を示す。
(測定方法及び評価方法)
[ピーク分子量の測定]
下記合成例1で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂のピーク分子量をゲル浸透クロマトグラフにて測定した。
【0081】
装置;超高温ポリマー分子量分布測定装置(センシュウ科学社製「SSC−7000」)
カラム ;UT−805L(昭和電工社製)
カラム温度;210℃
溶媒 ;1−クロロナフタレン
UV検出器(360nm)で6種類の単分散ポリスチレンを校正
に用いて分子量分布とピーク分子量を測定した。
[耐衝撃性]
下記表−1の配合で調整した各ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物について、ASTM D−256に準拠し、23℃でのノッチ付アイゾット衝撃強度を行い評価した。
[燃料バリアー性]
下記表−1の配合で調整した各ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物について、フューエルC燃料(イソオクタン/トルエン/エタノール=45/45/10体積%)の40℃におけるガス透過係数をJIS K7126 A法に準拠し、差圧方式のGC検出で測定した。
【0082】
装置;ガス透過率・透湿度測定装置:GTRテック社製「GTR−30VAD」
GC検出部:島津製作所社製「GC−14A」
[ピール強度]
各実施例及び比較例にて製造した多層チューブ作製方法により得られたチューブを用いて、長さ方向にチューブを切り開いてシート状とし、10mm幅に切りそろえて、ISO−11339に従い、後述表−2中の所定の温度でピール強度を測定した。
【0083】
製造例1
(PPS樹脂の合成)
まず、以下材料を混合して含水スルフィド化剤を作成した。
【0084】
(1)含水フレーク状硫化ナトリウム(ナガオ製) : 1.5kg
純度/NaS(58.9質量%)、NaSH(1.3質量%)
(2)含水フレーク状水硫化ナトリウム(ナガオ製);0.225kg
純度/NaSH(71.2質量%)、NaS(2.7質量%)
(3)水 0.425kg
以上、3種類を混合して含水スルフィド化剤2.15kgを作成した。
【0085】
次に、温度センサー、冷却器、滴下槽、溜出物分離槽、攪拌翼を備えた反応槽にパラジクロロベンゼン(1.838kg)、N−メチルピロリドン(4.958kg)、水(0.09kg)を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら100℃迄昇温した。反応槽を密封した後220℃、内圧を0.22MPaとして、上記含水スルフィド化剤(2.15kg)を滴下した。
【0086】
滴下反応中に脱水を行い、共出するパラジクロロベンゼンを反応槽に戻し、水を系外に出す事によって、系中の水量がN―メチルピロリドン1モルに対し0.02〜0.5モルとなるよう調節して反応を行った。反応は昇温により、240℃になる迄行い、その後、240℃で1時間保持して反応を終了した。
【0087】
反応終了時に水は極性溶剤(N−メチルピロリドン)の0.17モル%である事が確認でき、当ポリマーは反応中及び反応終了時も水は極性溶剤1モルに対し、0.02〜0.5モル範囲であった事を確認した。
当反応物は通常の方法で水洗い、乾燥して白色粉末のポリマーを得た。このポリマーを「PPS−1」とする。PPS−1はピーク分子量40,700、非ニュートン指数1.05であった。
【0088】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)の調整)
表−1中に示した各種材料を、表−1中の質量百分率で均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用い290〜330℃で混練押出しして組成物「A−1」〜「A−8」を得た。
【0089】
【表1】

【0090】
上記表−1中の略号は以下の通りである。
ADD−1 : 4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
ADD−2 : イソシアヌレート型脂肪族ポリイソシアネート(大日本インキ化学工業株式会社製「バーノックDN−980S」)
ELA−1 : エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体
(住友化学株式会社製「ボンドファーストE」)
ELA−2 : エチレン・ブテン共重合体(三井化学株式会社製「タフマーA−4085」)
【0091】
実施例1〜4、比較例1〜3
[多層チューブの作製]
2つの可塑化シリンダー(内径20mmφ、1軸押出しスクリュー)を有し、ダイの部分で各々のシリンダーで可塑化された樹脂を1つの2層チューブに合一化させるチューブ用ダイを有する2層チューブ作製装置を用いて、表−2の材料を用いて、表−2の温度でチューブを押出し、巻き取り速度を調整して、外径8mmφ、内径6mmφの2層のチューブを作製した。なお、これらの2層のチューブは内層の厚みは0.2〜0.3mm、外層の厚みは0.8〜0.7mmであった。
【0092】
[チューブの評価]
前記の評価方法に基づき、ピール強度を評価した。
【0093】
【表2】

【0094】
表−2中の略号は以下の通りである。
PA−12:12−ナイロン(エムス昭和電工社製「グリルアミドL25W40」)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、多価イソシアネート化合物(a2)、及び熱可塑性エラストマー(a3)を必須成分とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基およびエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)とを共押出して得られる構造を有することを特徴とする多層成形体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(B)が脂肪族系ポリアミドである請求項1記載の多層成形体。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の多価イソシアネート化合物(a2)の含有率が0.1〜4質量%である請求項1又は2記載の多層成形体。
【請求項4】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の熱可塑性エラストマー(a3)の含有率が10〜20質量%である請求項1、2又は3記載の多層成形体。
【請求項5】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中のポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量で35,000〜200,000である請求項1〜4の何れか1つに記載の多層成形体。
【請求項6】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中のポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)が、非ニュートン指数1.00〜1.30のリニア型ポリアリーレンスルフィドである請求項5記載の多層成形体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つの多層成形体からなることを特徴とする燃料用部品。

【公開番号】特開2008−110561(P2008−110561A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295733(P2006−295733)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】