説明

多層被覆された金属基体及びその製造方法

金属ストリップを包含する金属板であって、表面側と裏面側とを有し、前記表面側及び裏面側はともに、0.5乃至10μmの範囲内の平均膜厚を有する第1被覆層を含み、前記表面側の第1被覆層は、自己析出性被覆剤が表面側に接触したとき、酸の作用を受けて、二価又は多価の金属イオンを、第1被覆層上に第2被覆層を形成する量的割合で、放出する粒子を含み、しかし、前記裏面側の第1被覆層には前記粒子を含まない金属板。前記表面側の第1被覆層は自己析出性被覆剤により塗布被覆され得る。第1被覆層が施されていない切断端部は前記自己析出性被覆剤により被覆され得る。上記のように被覆された金属板及びそれを製造する方法は本発明の範囲内に包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食防止のための少なくとも2層の異種被覆層を含む金属基体、上記金属基体を製造する方法、及び物品の製造のための、前記金属基体の使用に係るものである。
【背景技術】
【0002】
母材金属は、腐食から保護されなければならない。このことは、鉄、鋼、亜鉛、チタン、アルミニウム、マグネシウム、又はこれらの合金などのような通常の構造用金属のすべてに適用される。これらの金属は、通常、1層以上の無機及び/又は有機被覆層を具備している。腐食防止に加えて、所望の審美的効果もまたこの腐食防止に関連して達成される。多様の被覆方式及び被覆方法が知られており、かつ現在の関連技術において広く普及している。
【0003】
例えば金属表面(必要により清浄化された後)を、所謂化成処理に供することは普通である。この場合、形成された被覆層中には金属表面のイオンが含有されることになる。このような現象を生ずる処理を例示すれば、クロメート処理、被覆層形成性又は被覆層非形成性のりん酸塩処理又は元素B,Si,Ti及び/又はZrの少なくとも1種のフッ化物錯体の酸性水溶液による処理などがある。上記のような化成処理溶液は、上記成分に加えて有機ポリマーを含むことができる。
【0004】
軽度の、又は単に一過性の腐食作用に対しては、上記のような化成処理だけにとどめることで十分である。しかし、通則としては、化成処理を施された金属表面は、種々の膜厚を有する1層以上の有機被覆層により被覆される。これらの有機被覆層は、通常、(架橋された)有機ポリマーを含んでいる。しかしながら、適切な有機被膜剤を選択すれば、化成処理は省略することも可能である。このことは、(好ましくは架橋された、又は、架橋性の)ポリマーを、主成分とする有機被覆剤もまた、露出金属表面上に直接塗布し得ることを意味する。前記有機ポリマーの架橋は、通常、1回以上の下記反応:
複数の炭素−炭素結合を有する化合物の重合反応、
イソシアネートの反応によるウレタン結合の形成、
エポキシ基の開環反応及び
ポリエステル生成反応
を施すことによって達成される。
【0005】
この種の架橋反応は、被覆層の硬化を、例えば熱的又は放射線化学的に、誘起させたときに、被覆された金属板で発生する。しかし、液状媒体中に溶解又は分散している架橋された有機ポリマーを、既に含んでいる被覆剤を用いることも可能である。最終被覆層は、前記液状媒体の蒸発、所謂乾燥により形成される。
【0006】
前記有機被覆剤及びそれによって形成された被覆層は前記有機ポリマーに加えて、前記被覆層の化学的及び物理的特性を改善する成分をさらに含むことができる。例えば、無機及び/又は有機の顔料が、着色剤として、被覆層の摩擦特性を調整するために、及び/又は被覆層の防食性の向上のために、しばしば用いられている。このような顔料の一具体例は、「導電性顔料」と呼称されるものである。この種の顔料は、被覆された金属板に、それが電気溶接を可能にするのに、及び/又はそれが電着塗料による被覆を可能にするのに十分な導電性を付与する。このような導電性顔料を例示するならば、鉄、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、マンガン、マグネシウムのような元素金属の粉末状物これら元素金属の合金、金属リン化物、金属硫化物、金属酸化物、黒鉛、及びカーボンブラックなどがあげられる。この種の被覆剤は、それによって、金属基体上に導電性有機被覆層を構成し得るものであって、その詳細を下記に述べる。
【0007】
また、「自己析出性」被覆剤と呼称されるものも知られている。それらの例が、WO97/07163号(特許文献1)、米国特許第6,312,820号(特許文献2)、WO03/026888号(特許文献3)及びWO03/042275号(特許文献4)に記載されており、これらの文献を、こゝに引用文献とする。自己析出(自動移行析出(autophoretic deposition)とも云う)の方法は、前記被覆剤中の酸の作用によって、被覆されるべき金属表面から二価又は多価金属イオンが溶出する現象に基づくものである。この溶出した金属イオンは、被覆剤中に懸濁している有機ポリマーの負に帯電している基と反応する。その結果、前記有機ポリマーの懸濁状態が不安定化し、懸濁していたポリマー粒子は凝集し、前記金属表面上に皮膜状に沈澱する。この反応は、前記金属表面が、前記ポリマーの皮膜により完全に被覆されたときに、自動的に停止して、金属表面上への酸による腐食作用が更に起らないようにする。このようにして前記金属表面上に生成したポリマー層は、次の工程で焼き付けられ硬化される。このようにして、通常、5乃至25μmの範囲内の膜厚を有する層が生成する。
【0008】
このような自動移行的に析出した被覆層の形成には、ポリマーのエマルジョンを不安定化する二価又は多価の金属イオンが、金属基体から溶出し得ることが要求される。この要求は通常、自己析出性被覆剤を、露出している金属表面に作用可能にすることによって満たされる。これに代わる方法は、二層被覆を形成する方法であってWO96/02384号(特許文献5)に記載されている。この特許文献5によれば、先ず、金属表面を、粉末状の金属を含む第1被覆層により被覆する。次に第2工程において、第2自己析出性被覆層を前記第1層上に析出させる。この方法において、前記第2被覆剤中に含まれる酸が作用すると、第1被覆層中の粉末状金属から十分な量の二価又は多価の金属イオンが溶出して、前記自己析出性被覆剤が析出して第2被覆層を形成する。この二重被覆層の形成用の第1及び第2被覆剤の具体的例示として、前記特許文献5を引用文献とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO97/07163号
【特許文献2】米国特許第6,312,820号
【特許文献3】WO03/026888号
【特許文献4】WO03/042275号
【特許文献5】WO96/02384号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はWO96/02384(特許文献5)の教示をさらに、発展させるものであって、本発明は応力腐食の増大の結果として必要になった、「第1被覆層のみの上に第2被覆層を析出させる」という目的を達成するものである。本発明は不必要な被覆及びそれによる材料の不必要な使用を回避するものである。本発明のアイディアの発展により、予じめ被覆された金属板の切断端部(cut edges)に十分な防食被覆を具備するという目的をさらに達成するものである。この結果、前述の金属板から製造された構造部材(component)のクリンプ加工、或はフランジ状に加工された部分に、十分な防食を達成させるものであって、更なるシーリング剤を、施す必要がなくなる。
【0011】
本発明は、その第1様相において、表面側と裏面側とを有する金属板(metal sheet)に関するものであって、前記表面側及び裏面側の両方が、0.5乃至10μmの範囲内の平均膜厚を有する第1被覆層を有し、前記表面側の第1被覆層が、前記表面側に自己析出被覆剤が接触したとき、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを、前記第1被覆層上に第2被覆層を形成する量的割合で放出する粒子を含み、しかし、前記裏面側の第1被覆層は、前記裏面側に自己析出性被覆剤が接触したとき、酸の作用を受けて、二価又は多価の金属イオンを、第2被覆層を形成する量で放出する粒子を含まない金属シートである。前記用語「自己析出性被覆剤」及びその析出メカニズムは前記背景技術の項において、既に説明されている。
【0012】
また、本発明は、上記において定義されている金属板を包含し、この金属板は、その表面側の第1被覆層上に、析出した自己析出性被覆剤を構成するものである。前記自己析出性被覆剤は新らたに析出し、未硬化のものであってもよく、或は、硬化した状態で存在していてもよい。
【0013】
「金属板」とは、いずれかの形状を有する板材、或は金属ストリップ(metal strip)として理解される。上記背景技術の項において記載されているように、金属板は通常の構造用金属、例えば、鉄又は鋼、亜鉛めっき、亜鉛合金めっき、或はアルミニウムめっき又はアルミニウム合金めっきされた鉄又は鋼、亜鉛、マグネシウム、チタン、並びにこれらの金属の1種を少なくとも50質量%まで含む合金などから作られたものであってもよい。前記金属板は、具体的には、電気亜鉛めっき鋼又は溶融亜鉛めっき鋼から作られたものであってもよい。
【0014】
前記用語「表面側」及び「裏面側」は本発明による被覆方法によって定義されるもので、前記「表面側」は、自己析出性被覆剤から形成される被覆層を受け入れるべき、或は受け入れずみの金属板の一面側として理解される。この被覆された金属板を、後に、例えば車輌、などの物品の製造に使用される場合、金属板は空洞を形成する方法により成形され、或は接続され、前記表面側は、前記空洞の外側に位置する。前記裏面側は、空洞の内側を形成し、その結果、前記裏面側の露出面には腐食作用が少なく、また美的要求が少ないため、必要要件を満たし得るものである。前記内側を形成する金属板の第1被覆層は、その目的に対して十分なものであり、この第1被覆層を、さらに追加被覆する必要は全くない。この種の追加被覆は、材料の節約及び重量軽減のために本発明によって回避されるべきことである。本発明の金属板が、クリンプ加工(crimping)又はフランジ取り付け(flanging)により接続され、そこで、金属板の裏面側が、フランジ又はクリンプ加工された折り目の内側で終っており、金属板の表面側が、接続部の外側を形成しているときには、上記と同様の作用効果が考えられる。
【0015】
用語「第1被覆層」は表裏各面側の第1被覆層を意味するものであって、表裏各面側に塗布されるものである。しかし、各面側が、予じめ化成処理に供されたものであることを除外するものではない。このことは下記において検討する。潜在的化成処理により形成された第1被覆層は、必要により施されたものであって不可欠なものではないから、被覆序列を数えるに当り考慮外とされる。本発明によれば、表面側の第1被覆層と裏面側の第1被覆層とは、自己析出性被覆剤(及び自動的移行性被覆剤(autophoretic coating agent)又は自己析出性又は自動移行性樹脂(autophoretic resin)と称されるもの)は、表面側の第1被覆層上に析出沈着することができる、という点において、互に異るものである。本発明によれば、裏面側の第1被覆層においては、上記の析出は行われない。そのためには、表面側の第1被覆層の組成が、裏面側のそれとは異るものであることが必要である。
【0016】
表面側の第1被覆層は、表面側の第1被覆層が、前記自己析出性被覆剤の酸の作用を受けて、二価又は多価の金属イオンを所定の放出量で放出し、この放出された金属イオンにより前記自己析出性被覆剤の樹脂分散液が、不安定化されて、それが表面側の第1被覆層上に沈着するという点において、裏面側の第1被覆層とは相違するものである。これに対し、裏面側の第1被覆層は、前記自己析出性被覆剤の酸成分の作用により二価又は多価金属イオンを放出し得る粒子を含ませることは全くなく、或は含ませるとしても、裏面側の前記粒子の濃度は、前記自己析出性被覆剤の樹脂成分を析出沈着させるには不十分な少量に限られる。
【0017】
上述のような表面側及び裏面側上の第1被覆層相互の構成上の差違により、各第1被覆層を具備している金属板は、前記自己析出性被覆剤と、十分に接触することができる。前記自己析出性被覆剤の沈着は、表面側のみにおいて行われ、裏面側においては行われない。このことは、一方では、表面側に対してのみの、目標たる第2被覆層の被覆を簡単容易にする。しかし他方では、裏面側の第1被覆層に亀裂又は欠陥を発生させ、そこで前記第1被覆層の使用中に腐食作用が発生することがある。前記自己析出性被覆剤の酸は、前記欠陥部を腐食し、かつ、金属基体から、金属イオンを溶出させることができるから、前記自己析出性被覆剤の樹脂成分は、前記欠陥部に沈着して、それを被覆するようになる。前記自己析出性被覆剤が、裏面側の第1被覆層における前記欠陥部において部分的に析出沈着(spot deposition)することは、その部分の腐食防止作用を向上させるため、望ましいことである。
【0018】
前記表面側及び裏面側の両方の第1被覆層の平均膜厚は、少なくとも0.5μmであるようにされ、いずれの場合も少なくとも1μmであることが好ましい。しかし、10μmより厚い平均膜厚は不必要である。前記平均膜厚の最大値は、好ましくは5μmであり、さらに好ましくは3μmである。本発明における用語「平均膜厚」は、第1被覆層、特に表面側の第1被覆層の表面が、粒子の存在によって不均一であるという事実を考慮に入れたものである。従って前記第1被覆層の前記膜厚は平均値で表示されており、その膜厚の、増大、減少方向の部分的偏差は前記粒子の分布及びその膜厚により変動する。前記平均膜厚は、例えば、渦流法により測定することができる。或は、走査電子顕微鏡を使用して、被覆された金属板の断面において、測定することができる。さらに、この平均膜厚は、被覆層を剥離し、被覆層の膜厚に関する知識を用いて、質量の変化から、被覆層の膜厚を算出することにより定めることも可能である。
【0019】
従って、前記表面側の第1被覆層は、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する粒子を十分な量で含んでいなければならない。前記裏面側の第1被覆層は、上記のような粒子を全く含まないようにすることが好ましい。しかし、裏面側の第1被覆層中の前記粒子は、少量であるならば、有害ではない。いずれの場合も前記自己析出性被覆剤が、金属板の裏面側に作用するときには、裏面側の第1被覆層から、二価又は多価金属イオンが前記自己析出性被覆剤の樹脂成分が、裏面側第1被覆層上に沈着する程の量で放出されないことを確実にすることが必要である。例えば、表面側の第1被覆層が、酸の作用を受けて、二価又は多価の金属イオンを放出する粒子を、少なくとも10容積%、好ましくは、(好ましさの順に)20容積%、30容積%及び50容積%の含有量で含有する場合には、上記の条件が満たされる。前記容積含有率に対応する質量含有率は、当該粒子の比重に依存して定まり、粒子の重量含有率は、著しく変化し得るものである。これに対して、前記裏面側の第1被覆層においては、酸の作用を受けて二価又は多価金属イオンを放出する粒子の含有率は、5容積%以下であることが好ましく、より好ましくは3容積%以下であり、さらに好ましくは1容積%以下である。
【0020】
酸の作用を受けて二価又は多価金属イオンを放出する粒子のサイズは、第1被覆層の所望平均膜厚に適合するように制限されなければならない。上記粒子のサイズの最小値は、第1被覆層の所望平均膜厚の100%以下である。前記粒子のサイズは、その最小値において上記第1被覆層の所望平均膜厚以下であることが好ましく、前記粒子のサイズは、その最小値において、前記第1被覆層の所望平均膜厚よりも小さいことがさらに好ましい。従って、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する粒子は、0.01乃至5μmの範囲内の長さを有する最短軸であることが好ましく、最短軸の長さが3μm以下であることがより好ましい。ほぼ球状の粒子を用いると、上述の粒子のサイズは、光散乱法を用いることにより、或は所定孔径を有するフィルターを通して濾過することにより、確認できる。球形より著しく異なる形状の粒子、例えばフレーク状粒子の場合、粒子のサイズを、走査式電子顕微鏡法により測定することが好ましい。正確に球状の粒子においては、その最短軸の長さは粒子直径に相当する。フレーク状の粒子においては、その最短軸は、当該フレークの面に直角をなす軸である。
【0021】
酸の作用を受けて、二価又は多価の金属イオンを放出する前記粒子は、種種の物質により作ることができる。例えば粒子は、金属粒子、特に鉄、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、又はアルミニウム、或は前記金属の1種を少なくとも50質量%の含有率で含む合金の粒子であってもよい。前記粒子は、さらに、二価又は多価の金属の化合物、例えば、リン酸塩、酸化物又は水酸化物であって、酸の作用を受けて、それから、前記金属イオンを、放出するものから形成されていてもよい。この例は、上述のような、金属のリン酸塩、酸化物又は水酸化物であるが、TiO2,ZrO2、及びリン酸カルシウム又はリン酸マグネシウムなどであってもよい。
【0022】
好ましくは、前記表面側及び裏面側の両第1被覆層及び前記第2被覆層は、有機ポリマーを含有する。特に、第1被覆層において、前記ポリマーは架橋されていなくてもよい。前記ポリマーを例示すれば、ポリビニルアルコール、ビニルピロリドンの重合体又は共重合体、アクリル酸、メタクリル酸、又はマレイン酸の重合体又は共重合体、ポリエステル、直鎖状ポリウレタン、並びにアミノ置換ポリビニルフェノールの重合体及び共重合体があげられる。しかし、前記ポリマーは、被覆層形成前に既に架橋されていてもよく、或は被覆層形成後に架橋してもよい。前者の場合、ポリマーは、溶剤又は懸濁剤の揮発除去の際に、物理的に乾燥することによって、硬化される、前記二番目の場合、ポリマーは化学反応により架橋し、この化学反応は加熱することにより、又は輻射線照射により生起する。
【0023】
上述の被覆の目的に対して、現技術において知られている架橋された、又は架橋性有機ポリマーを、上記いずれの場合のためのポリマーとして用いることができる。このことは前記導入部において、明記されている。前記導入部において述べられたポリマーの種類及び架橋及び硬化又は乾燥のメカニズムは、本発明の製品及び製造方法に用いられるべき被覆層及び被覆剤にも転用することができる。
【0024】
前記第1被覆層を、既存技術において知られている被覆剤を用いて形成することができる。例えば、前記表面側の第1被覆層は、WO96/02384号の実施例1乃至3に従って製造できるものである。また、既存技術において、「溶接用プライマー」又は「溶接可能な被覆層」として知られている被覆剤を、前記表面側の第1被覆層に用いることも可能である。前記溶接用プライマー又は溶接可能な被覆層は、有機ポリマーからなる母材(matrix)中に、導電性顔料を含有するものであり、前記導電性顔料は、それで被覆された前記被覆層に、金属板を電気溶接可能にするために十分な導電性を付与するものである。若し、こゝに使用された前記導電性顔料が金属又は金属の、例えば酸化物などの化合物であって、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出するものであるならば、このような導電性顔料からなる溶接可能な被覆層は本発明の製品及び製造方法における表面側の第1被覆層として好適なものである。例えば導電性顔料として金属亜鉛、金属アルミニウム、金属鉄及び鉄酸化物を含む前述のような既知の溶接可能な被覆層は、好適である。
【0025】
前記表面側の第1被覆層を形成し得る、前述の種類の被覆剤の一例がWO99/24515に記載されている。この文献は、(ブロックされた)ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂及び窒素含有硬化剤及び導電性充填剤を主成分として含む導電性かつ溶接可能な防食被覆の組成を開示している。この文献に示されている導電性充填剤から亜鉛又はアルミニウムが選択されたとき、それを用いて得られた被覆剤は本発明の目的に好適なものである。前記組成物の更なる詳細については、上記文献を参照文献とする。
【0026】
WO01/30923号は、導電性被覆層を記載しており、この被覆層は、亜鉛又はアルミニウムが、導電性顔料として選択された場合、本発明における表面側の第1被覆層として機能できるものである。この被覆層に用いられている有機結合剤が130乃至159℃の範囲内の比較的低い物品温度において、硬化しているという事実は注目すべきである。この結合剤は、例えば、ポリウレタン/アクリレート共重合体分散体、ポリウレタン/ポリカーボネート分散体、ポリウレタン/ポリエステル分散体及びアクリレート/共重合体分散体、並びにこれらの混合物から選ぶことができる。好適な組成の詳細は、上記文献の複数の態様の実施例から、知ることができるが、上記文献の記載事項において、そこで導電性顔料として用いられているりん化鉄は、亜鉛又はアルミニウムにより代替することを必要とする。前記文献に例示されている態様において用いられている鉄りん化物を、他の成分、例えば金属鉄又は鉄酸化物、或は一般に、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する金属又は金属化合物により代替されるならば、本発明の表面側の第1被覆層として使用し得る組成物を得ることができる。
【0027】
前記表面側の第1被複層として好適な他の被覆剤がWO01/85860号に開示されており、導電性顔料として、又は、上記文献に記載の導電性顔料の代りに亜鉛又はアルミニウムが選択されたときには酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する金属又は金属が用いられる。この文献によれば前記被覆剤は少なくとも1種のエポキシ樹脂を含む有機結合剤、シアノグアニジン、ベンゾグアナミン、及び可塑性化された尿素樹脂から選択された少なくとも1種の硬化剤並びに、ポリオキシアルキレントリアミン及びエポキシ樹脂のアミン付加物から選ばれた少なくとも1種のアミン付加物を含んでいる。前記被覆剤に関する詳細は前記文献から、具体的にはその実施態様から得ることができ、この文献中の鉄りん化物は、導電性顔料としては、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する実施例として既に記載した金属又は化合物により置き換える必要がある。
【0028】
前記裏面側の第1被覆層は、前記表面側の前述の第1被覆層と同様に構成することができるが、但し、それとは違って、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する顔料は全く用いられない。換言すれば、上記文献に記載された導電性顔料は用いられず、顔料としてはカーボンブラック又は黒鉛が選択使用される。このようなやり方は、前記文献の技法において、使用されるべき製品の範囲をせまくするものであり、その理由は、前記文献の技法においては、表面側及び裏面側の第1被覆層用に同一の基本製品を用いることが可能であり、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する前記顔料の1種が、表面側の被覆層用製品に追加添加されるからである。
【0029】
しかし、裏面側の第1被覆層を析出沈着する被覆剤の組成は、表面側の第1被覆層の析出沈着用被覆剤の組成から独立に選択することもできる。このために使用可能な被覆剤は、一般に、現在の技術において、所謂「プライマー」として知られているものである。これらに適用すべき条件は、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する粒子の最大濃度に関する上述の条件のみである。例えば、ドイツ特許出願DE 10 2006 039633号に記述されているような被覆剤を使用できる。この被覆剤は、チタン及び/又はジルコニウムのフルオロ錯体イオンを含有し、(前記フルオロ錯体イオンは、自己析出性被覆剤が、前記被覆層上に析出、沈着してくる程度に、かつ酸の影響下において、溶解しないようにして、形成完了した層中に組み込まれている)、さらに少なくとも1種の防錆顔料と、1乃至3の範囲内で水溶性又は水分散性の少なくとも1種の有機ポリマーとを含み、この被覆剤は、それが50質量%の濃度の水溶液であるとき、1乃至3の範囲内のpH値を示す。前記ポリマーの構成に関するさらに詳細な情報及びその組成の具体例は、上述の文献から入手できる。しかし、またこの文献に、被覆剤の、前記外の任意の成分として記載されているカチオンは、使用すべきではない。
【0030】
ドイツ特許出願DE 10 2007 001653号に記述されている組成物も、前記裏面側の第1被覆層を析出沈着するための被覆剤として使用することができる。しかし、この文献において、使用されている導電性顔料はいずれも完全に除外すべきであり、或はカーボンブラック及び黒鉛は導電性顔料として選択すべきである。さらに、この文献中に、任意の成分として列挙されている顔料で、酸の作用を受けて、二価又は多価の金属イオンを放出し得る顔料は、除外すべきである。
【0031】
前記第2被覆層を、例えばWO96/02384号の実施例4に記載されているような自己析出性被覆剤を用いて塗布することができる。この被覆剤は、アクリル樹脂ラテックスと、カーボンブラックと、フッ化鉄と、フッ化水素酸とを含み、かつ、1乃至4の範囲内のpHを有するの水溶液又は懸濁液からなるものである。この被覆剤は更に過酸化水素を含有する。その固形分濃度(樹脂とカーボンブラックとの合計)は4乃至10質量%である。前記第2被覆層を形成するために好適な添加剤は、前記文献:WO97/07163号、米国特許6,312,820号、WO03/026888号、WO03/042275号及び他の前述の文献に記載されている。例えば、前記自己析出性被覆剤は、WO03/042275号にさらに詳細に記載されているようなアニオンとして機能する構成を有するエポキシ樹脂から製造することができる。エポキシ樹脂のアニオン機能付与は、例えば、スルホネート基、硫酸塩基、りん酸塩基、ホスホン酸塩基又はカルボン酸塩基を組み込むことによって達成できる。このエポキシ樹脂の分散体は、前記文献の第12頁、第25行乃至第14頁、第22行に記載されている追加硬化剤を、含有していることが好ましい。前記自己析出性被覆剤は、さらに「自己析出促進剤」(本明細書において、左記のように表記する)を含み、この自己析出促進剤は金属表面を部分的に溶解することができ、それによって樹脂の析出沈着を生ずる前記金属イオンを放出することができる。前記自己析出促進剤用として選択されることが好ましい化合物は、WO03/042275号の第15頁第19行乃至第16頁第17行に記載されている。この目的に特に好ましい酸は、例えば、フッ化水素酸、六フッ化珪酸、六フッ化チタン酸、酢酸、りん酸、硫酸、硝酸、ペルオキシ酸、くえん酸、又は酒石酸である。上記促進剤の機能は過酸化水素又は二価の鉄(II)イオンによるものとさらに推測することができる。この種の物質は一般に、自己析出性被覆剤における析出促進剤として知られており、本発明の製品及び方法にも、その有機ポリマー成分が自己析出性被覆剤を含むか否かに関係なしに使用することができる。
【0032】
本発明の製品及び製法に使用可能な自己析出性被覆剤は、分散されたエポキシ樹脂と、WO03/026888号にさらに説明されているもののような、分散されたアクリル樹脂との混合物を含有する。また、硬化剤も、上記文献の第7頁、第15行乃至第9頁、第23行にさらに記載されているように、追加使用されることが好ましい。さらに、上述のような「自己析出促進剤」が、用いられることが好ましい。
【0033】
自己析出性被覆剤は、他のアニオン性機能を付与された樹脂を主成分として含むこともできる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸の重合体又は共重合体を使用することができる。他のグループの自己析出性被覆剤は、樹脂成分として、ポリ(アルキレンクロライド)、例えば、米国特許第6,312,820号に記載されている安定化されたビニリデンクロライド樹脂を含んでいる。この樹脂は、塩化ビニルとの共重合体であってもよい。この場合、アニオン性機能付与された塩化ビニルは、自己析出性被覆剤の主成分として機能することができる。
【0034】
前記第2被覆層は、黒色又は有色の顔料、具体的に述べるならばカーボンブラックを含むことが好ましい。前記顔料は、一方では審美的目的を達する効果のあるものであり、また他方では、第2被覆層の均一性及び連続性を視感的にモニターすることを容易にするという効果がある。これらの黒色又は有色顔料に加えて、又はそれに代えて、第2被覆層は、別の顔料を含むことができる。その例をあげると、特に、防食性を向上させる層状の、又は非層状の顔料などである。その特別な例はカルシウム−含有シリケートであり、これは、例えば“Shieldex”の商標により知られている。更に前記第2被覆層は摩擦を減少させ、それによって、成形性を向上させる成分を含むことができる。この成分を例示すると、ワックス又は層状構造を有する無機顔料、例えば、黒鉛又は硫化モリブデンなどである。例えば、タルクなどの層状シリケートもまた、この目的に適合するものである。
【0035】
前記表面側の第2被覆層は、下限値が少なくとも5μm、好ましくは少なくとも10μm及び上限値が25μm、好ましくは20μmの平均膜厚を有することが好ましい。この平均膜厚は例えば11乃至14μmの範囲内にあることができる。前記第1被覆層の平均膜厚に関してなされた前記事項は、用語「平均膜厚」に関しても同様に適用される。このことは前記平均膜厚の測定方法についても同様である。
【0036】
前記第1被覆層は露出している金属表面上に直接に塗布される。しかし、金属表面上の第1被覆層の腐食防止性及び/又は密着性を向上させるために、前記金属板は、その少なくとも片側上の第1被覆層の下に化成処理層を含むことができる。この化成処理層とは、従来技術において既知の化成処理により形成された被覆層のことであって、この化成処理において、金属板から放出される金属イオンが、この化成処理層中に組み込まれる。このような化成処理の、最もよく知られている例は、クロメート処理、層形成性又は非層形成性りん酸塩処理、及び、好ましくは、元素B,Si,Ti及び/又はZrのフルオライド錯体の酸性溶液の作用である。特に、前記酸性溶液は、有機ポリマーも含むことができる。この有機ポリマーのよく知られた例は、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸の重合体又は共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアミン、ポリイミン及びアミノ置換ポリビニルフェノールなどである。本発明の態様において、金属板が前記第1被覆層の析出沈着前に、前記フルオライド錯体の溶液の作用による化成処理に供されたものであることが好ましい。
【0037】
前記金属板は、予じめ切断された金属片も包含する。この金属片には、切断後、前記被覆層が塗布される。このときの切断端部もまた次に被覆される。しかし、本発明に係る前記金属板が、第1被覆層を、金属板の表・裏面側のそれぞれにストリップ法により形成し、所望により、化成処理の後に、金属ストリップの表面側及び裏面側上に形成することにより製造されることが好ましい。さらに前記第2被覆層が、金属ストリップの前記表面側上に形成され、それによって表面側が形成される。この場合、得られた金属ストリップを使用者のもとに輸送し、そこで加工し、具体的に述べれば切断し、プレス成形し、構造部材を得るために接合することができる。本発明に係る被覆の結果として、プレス成形に要する成形オイルの使用量が減少する。ときには、成形オイルの使用を完全に省くことができ、それによって、プレス成形後に必要な洗浄を単純化し、材料を節約することができる。
【0038】
しかし、本発明により被覆された金属板は、また、製鋼工場において、表面側及び裏面側の各第1被覆層を、ストリップ法を用いて金属ストリップ上に形成し、この形状の金属ストリップを、下流工程の加工者に送ることによって、得ることができる。この下流工程においてこの金属ストリップは所望サイズの板材に切断され、このとき、表面側から裏面側まで伸びる切断端部が形成される。また下流工程において、前記金属板に孔が、打ち抜かれるときにも切断端部が形成される。これらの切断端部には第1被覆層は形成されていない。若し、この切断端部が、クリンプ加工された折り目又はフランジの内部にある場合、この切断端部は保護されていない状態にあるため、特に腐食に対して弱い。しかし、表面側及び裏面側上の第1被覆層のみを有する金属板が前記切断又は打ち抜き後に、自己析出性被覆剤と接触させて、第2被覆層を析出沈着させる場合には、前記自己析出性被覆剤は金属板の表面側のみならず、切断端部にも析出沈着する。その理由は、第1被覆層から二価又は多価の金属イオンが、前記切断端部その他を被覆するのに十分な量で、自己析出性被覆剤の溶液中に放出されることにある。その結果、表面側のみならず、切断端部も第2被覆層により被覆されることになる(切断端部の被覆層は、第2被覆層のみである)。それによって、前記切断端部は十分な腐食防止を受け、クリンプ又は折り曲げ加工後に、更に防食処理を必要としない。それ故に、この特定態様において、本発明に係る金属板は、それが表面側から裏面側に伸びる少なくとも1つの端部を含み、この端部は、表面側又は裏面側の第1被覆層に対応する被覆層を含まないが、表面側の第2被覆層に対応する被覆層を有することにより特徴づけられるものである。
【0039】
本発明に係る金属板から作られた部品例えば、自動車の車体の部品の加工処理の段階において、前記第2被覆層がさらに被覆され得る。裏面側の第1被覆層が接合の際に生ずる空洞内にある場合、この第2被覆層を省略することができる。
【0040】
本発明の第2の様相において、本発明は本発明に係る前記金属板から、少なくとも部分的に作られた物品に係るものである。前記物品とは、前記第2被覆層上にさらに塗料層を含むことができる。このタイプの物品は、例えば、車輌、建築用基材、金属家具又は家庭用器具(白物)、或はその各部品を包含する。本発明に係る物品は、航空機又は船舶の構成要素を包含する。
【0041】
本発明は、さらに本発明に係る金属板を、前述の物品の製造を目的とする本発明による金属板の使用に係るものである。前述のようにこれらの物品の製造のために、本発明に係る金属板は成形され接続され、また、適用可能ならば、塗装被覆される。
【0042】
本発明のさらに他の様相は、上述の金属板を製造する方法に係るものである。この製造方法において、未被覆金属板又は金属ストリップを
a)必要により清浄化する工程、
b)所望により、化成処理に供する工程、
c1)前記金属板又はストリップの表面側を、乾燥及び/又は焼付け後に、表面側の第1被覆層を生成する第1被覆剤と接触させる工程、
c2)前記金属板又はストリップの裏面側を、乾燥及び/又は焼付け後に裏面側の第1被覆層を形成する第1被覆剤と接触させる工程、但し、
この場合前記工程c1)及びc2)は同時に、或は任意の順序をもって行われてもよく、かつ
d)前記表面側及び裏面側上に、第1被覆層を具備している金属板を、自己析出性被覆剤に接触させて、それにより、前記第1被覆層上に第2被覆層を形成させる工程、及び
e)前記第2被覆層を乾燥及び/又は焼付けする工程、但し、本発明においては、前記「乾燥」とは、ポリマー系中の溶剤又は懸濁剤の揮発による前記ポリマー系の物理的硬化を表わしており、また前記「焼付け」とは例えば本明細書の導入部に記載されているような化学反応によって、前記ポリマー系を硬化させることを表わしており、前記化学反応による硬化は、加熱又は高エネルギー照射(所謂、例えば、UV線又は電子線などのような化学線照射)により生起させることができる、
を含むものである。
【0043】
使用される金属板の組成並びに化成処理溶液及び被覆剤に関して、上記記載事項が同様に適用される。
【0044】
前記第1被覆層が直接、製造されたばかりの金属板、例えば、亜鉛めっき後の亜鉛めっき鋼板上に形成される場合には洗浄処理は不必要である。しかし、当該金属板又は金属ストリップが、第1被覆剤の塗布の前に、貯蔵され、輸送され、又は油剤処理され、それにより汚れた場合には、前記第1被覆剤を塗布する前に、それを洗浄することが推奨される。このような洗浄処理を被覆工程の前に施すことは、当業界において、通常のことであり、またよく知られていることである。特に、この目的のためには、アルカリ性水性洗浄剤が用いられる。所望により、既に説明したように、前記第1被覆剤による被覆の前に、化成処理を施すことができる。
【0045】
金属板又は金属ストリップの表面側及び裏面側に、被覆剤を施すことができる方法、特にストリップ法も上記と同様に当業界において、よく知られかつ一般的なことである。浸漬法は好適ではない。これは、表面側と、裏面側とは、別々に処理されるべきであるからである。表面側及び裏面側は別々に、表面側用被覆剤及び裏面側用被覆剤のそれぞれと接触させ、この表・裏両面側の接触を、同時に、又は任意の準備で行うことが好ましい。この接触は、例えばスプレーし、続いて絞りロール法又は、ローラー塗布法により実施することができる。未乾燥塗布膜の膜厚は、乾燥及び/又は焼付けの後に、所望の乾燥膜厚となるように、しぼりローラー又は塗布ローラーのローラー間隙を調節することにより適合させることが可能である。本明細書の導入部に記載されているように、特に有機被覆層の乾燥又は焼付けのための種々の方法が既存技術において、よく知られている。これらの方法は本発明に係る方法についても用いることができる。
【0046】
上記において説明したように、第2被覆層の形成は、シングルパート(single−part)法又はストリップ法を用いる第1被覆層の乾燥又は焼付け後、直ちに施されてもよい。本発明方法において、スプレー法及び浸漬法は特に好適である。本発明方法においては、表面側及び裏面側の両方を、自己析出性被覆剤と接触させることが好ましく、その理由は、このようにすると裏面側の被覆層における欠陥が自己析出性被覆剤の局部的析出沈着によって修正されることにある。
【0047】
しかしながら、金属板又は金属ストリップを、第1被覆層及び第2被覆層のそれぞれの形成の中間において貯蔵し、及び/又は輸送することができる。本発明の方法の一特定態様は、金属板又は金属ストリップを、各第1被覆層の形成の後で、かつ第2被覆層の形成の前に、切断して、表面側から裏面側まで伸びており、かつ表面側又は裏面側の第1被覆層に相当する被覆がなされていない少なくとも1つの端部を形成することからなるものである。このような方法で切断された金属板が自己析出性被覆剤と接触したとき、第2被覆剤が表面側のみでなく、前記切断端部にも析出沈着するようになり、それによって前記切断端部も腐食から保護される。
【0048】
前記金属板が第1被覆層の形成と第2被覆層の形成との間において、貯蔵され及び/又は輸送されたとき、或は油被覆され、前記第1被覆層が汚された場合、第2被覆層の形成の前に、第1被覆層を具備した金属板を洗浄、例えば通常に市販されているアルカリ性洗浄剤を用いて洗浄することが推奨される。この方法はWO96/02384の実施例4に記載の手法に対応するものである。
【0049】
従って、本発明は、材料の使用量及び加工工程数を減少させることによって、腐食防止された構造部材の製造を単純化するものである。クリンプ加工された折り目部分及びフランジの凹部の内側が、裏面側の第1被覆層によって、腐食から十分に保護される。これらの部分においては、当業界において従来通常になされていた防食処理をさらに施すことはもはや不要である。本発明に係る方法の特に好ましい態様において、切断端部は前記自己析出性被覆剤の層により被覆され、かつそれによって、腐食から保護される凹部のワックスによる充填又は電着塗装はもはや不要である。
【0050】
腐食負荷が少なく、美的要求が低い場合、例えば機械的技術又は工業技術において、前記表面側の第2被覆層は最終被覆層をなすことができる。腐食防止を向上させるため、および例えば、車輌構造などにおける強い審美的要求に対しては、例えば、自動車構造においては、通常の充填剤及び仕上げ被覆剤を用いて第2被覆層を被覆塗装することができる。しかし、第1塗装工程として、従来通常のカチオン電着塗装を施すことを排除することができる。その代りに、前記第2被覆層が、前記電解浸漬被覆層の機能をはたすものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側と裏面側とを有する金属板であって、前記表面側及び裏面側の両方が、0.5乃至10μmの範囲内の平均膜厚を有する第1被覆層を有し、
前記表面側の第1被覆層が、前記表面側に、自己析出性被覆剤が接触したとき、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを前記第1被覆層上に第2被覆層を形成する量的割合で、放出する粒子を含み、しかし、前記裏面側の第1被覆層は、前記裏面側に、自己析出性被覆剤が接触したとき酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを、第2被覆層を形成する量で、放出する粒子を含まない、ことを特徴とする金属板。
【請求項2】
前記表面側の第1被覆層が、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する粒子を、少なくとも10容積%の含有量で含み、かつ前記裏面側の第1被覆層が、酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する粒子を5容積%以下の含有量で含む、請求項1に記載の金属板。
【請求項3】
酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する前記粒子が0.01乃至5μmの範囲内の長さの最短軸を有する、請求項1又は2に記載の金属板。
【請求項4】
酸の作用を受けて二価又は多価の金属イオンを放出する前記粒子が鉄、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム又はアルミニウムの粒子、前記金属の1種を少なくとも50質量%の含有量で含む合金の粒子及び二価又は多価の金属の化合物の粒子から選ばれる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属板。
【請求項5】
前記表面側及び/又は裏面側の第1被覆層が有機ポリマーを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属板。
【請求項6】
前記表面側及び/又は裏面側上の第1被覆層の下に、化成処理層を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金属板。
【請求項7】
前記表面側の第1被覆層上に、第2被覆層として、自己析出性被覆剤の析出層を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の金属板。
【請求項8】
前記第2被覆層が有機ポリマーを含む、請求項7に記載の金属板。
【請求項9】
前記第二被覆層が黒色又は有色顔料を含む、請求項7又は8に記載の金属板。
【請求項10】
前記第2被覆層が5乃至25μmの範囲内の、好ましくは10乃至20μmの範囲内の、平均膜厚を有する請求項7乃至9のいずれか1項に記載の金属板。
【請求項11】
前記表面側から前記裏面側まで伸び、前記表面側又は裏面側の第1被覆層に相当する被覆層を含まないが、しかし、前記表面側の第2被覆層に相当する被覆層を含む少なくとも1個の端部を含む、請求項7乃至10のいずれか1項に記載の金属板。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の金属板を、少なくとも1部に用いて製造された物品。
【請求項13】
請求項12に記載の物品の製造のための、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の金属板の使用。
【請求項14】
請求項7乃至11のいずれか1項に記載の金属板を製造するための方法であって、未被覆金属板材又は金属ストリップを
a)必要により清浄化し、
b)所望により、化成処理に供し、
c1)前記表面側と、乾燥及び/又は焼付け後に、前記表面側の第1被覆層を形成する第1被覆剤とを接触させ、
c2)前記裏面側と、乾燥及び/又は焼付け後に、前記裏面側上に第1被覆層を形成する第1被覆剤とを接触させ、
前記工程c1)及びc2)は同時に、又は任意の順序において施されていてもよく、
d)前記表面側及び裏面側上に、第1被覆層を具備している前記金属板を、自己析出性被覆剤と接触させて前記表面側上に第2被覆層を形成し、
e)前記第2被覆層を乾燥及び/又は焼付ける、
金属板製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法を実施し、かつ前記工程c)と工程d)との間に、前記金属板又は金属ストリップを切断して、前記表面側から前記裏面側まで伸び、かつ前記表面側又は裏面側の第1被覆層に相当する被覆層を持たない少なくとも1個の端部を形成する、請求項11に記載の金属板を製造する方法。

【公表番号】特表2010−522104(P2010−522104A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500086(P2010−500086)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063332
【国際公開番号】WO2008/116510
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】