説明

多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維およびその製造方法

【課題】 多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維を提供する。
【解決手段】炭素六角網面の積層体からなる炭素ナノ繊維素3を、前記炭素六角網面2の少なくとも一端が炭素ナノ繊維1の側周面を形成するように、繊維軸方向Lに沿って複数積層して形成した炭素ナノ繊維素群4を、さらに、繊維軸方向Lに沿って複数積層して形成してなる炭素ナノ繊維1において、前記炭素ナノ繊維素3を構成する炭素六角網面2の面間隔d002及び積層の大きさLc002が、それぞれ0.3360nm以下及び20nm以上であり、かつ比表面積が50m/g以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素ナノ繊維(カーボンナノファイバーともいう。)に代表される繊維状ナノ炭素材料は、炭素六角網面が繊維軸方向に対し一定角度の積層配列で構成されていることが知られている。このような炭素ナノ繊維は、一般的に高い黒鉛化度とサブナノから数百ナノスケールの繊維状の特長により、種々の用途への適用が期待されている。
【0003】
本発明者らは、炭素ナノ繊維の構造についてさらに詳細に検討し、特許文献1において、炭素ナノ繊維が、炭素六角網面の積層体からなる炭素ナノ繊維素を単位として、かかる炭素ナノ繊維素を、繊維軸に対して一定方向に沿って複数積層して形成した炭素ナノ繊維素群を、さらに、繊維軸方向に沿って複数積層して形成されていることを開示した。
【特許文献1】特開2003−342839号公報
【0004】
また、特許文献1では、炭素ナノ繊維を1600℃以上の高温で黒鉛化処理すると、炭素ナノ繊維素の軸方向末端が、二次元的にはループ状に、三次元的にはドーム状の連結端部(より詳細には、炭素のネットワーク)が構成されており(図3(b)参照)、結果として、炭素ナノ繊維素が一つの構成単位であることを明確にした。
【0005】
しかしながら、本発明者らが更に詳細に検討を行ったところ、炭素ナノ繊維は、黒鉛化処理前の状態では、比表面積は大きいものの、十分な黒鉛化度が得られず、一方、黒鉛化処理後の状態では、高い黒鉛化度を有するものの、比表面積が、黒鉛化処理前の状態の炭素ナノ繊維に比べて格段に低くなることがわかった。その原因としては、黒鉛化処理前の状態では、炭素六角網面の端面の大部分が炭素ナノ繊維の表面に存在し、それらの端面の寄与によって比較的高い表面積が得られるが、1600℃以上の温度で熱処理を施すことによって、このような炭素六角網面の端面がドーム状に連結される結果として、表面積が小さくなることが推定できる。特に、炭素繊維等の比較的大きい繊径をもつものに比べて通常繊径が100nm以下と小さい炭素ナノ繊維では、表面に出ている炭素六角網面の端面の、繊維全体の表面積に寄与する割合が高いことが推測できる。
【0006】
このため、高比表面積と高黒鉛化度の双方を具備する炭素ナノ繊維は、現状では存在しにくい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維およびその製造方法を提供することにあり、特に、特許文献1に記載された炭素ナノ繊維(繊維状ナノ炭素)の表面性状の改良にある。特許文献1には、黒鉛化処理後、炭素ナノ繊維表面には、炭素六角網面の端面が完全になくなる点について記載されている。こうした炭素ナノ繊維の表面から炭素六角網面の端面がなくなることは、熱処理後の炭素六角網面の連結によって、ドーム状への変形で表面積が小さくなることを意味する。
【0008】
本発明は、熱処理後、炭素六角網面の連結によってドーム状への変形で小さくなった表面積を、さらに硝酸等の化学処理を行い、連結部のドーム形状を効果的に壊すことによって、炭素ナノ繊維の表面に炭素六角網面の端面を再度露出させ、熱処理による高黒鉛化度を維持しながら、表面に、再度露出させた炭素六角網面の端面らによって、表面積を黒鉛化前の状態近くまで回復できるという知見に基づいてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)炭素六角網面の積層体からなる炭素ナノ繊維素を、前記炭素六角網面の少なくとも一端が炭素ナノ繊維の側周面を形成するように、繊維軸方向に沿って複数積層して形成した炭素ナノ繊維素群を、さらに、繊維軸方向に沿って複数積層して形成してなる炭素ナノ繊維において、前記炭素ナノ繊維素を構成する炭素六角網面の面間隔(d002)及び積層の大きさ(Lc002)が、それぞれ0.3360nm以下及び20nm以上であり、比表面積が50m/g以上であり、かつ、前記炭素ナノ繊維の側周面を形成する炭素六角網面の端同士が炭素繊維素ごとに相互に連結されて形成されるループ状の連結端部のうちの50%以上は、ループ状の連結が切断された非連結端であることを特徴とする多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維。
【0010】
(2)前記炭素ナノ繊維は、炭素六角網面が繊維軸方向に対し実質的に直交配列されたプレートレット構造を有する上記(1)記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維。
【0011】
(3)400〜1200℃の温度範囲で炭素含有ガスを、金属または合金触媒の存在下で熱分解反応させて、炭素ナノ繊維を生成する工程と、生成した炭素ナノ繊維を、真空又は不活性ガスの雰囲気下で1600℃以上の熱処理を行って、黒鉛化する工程と、黒鉛化した炭素ナノ繊維を硝酸等の酸処理によって高表面積化する工程と、
を有することを特徴とする多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。
【0012】
(4)炭素ナノ繊維生成工程で生成される炭素ナノ繊維は、炭素六角網面の積層体からなる炭素ナノ繊維素を、前記炭素六角網面の少なくとも一端が炭素ナノ繊維の側周面を形成するように、繊維軸方向に沿って複数積層して形成した炭素ナノ繊維素群を、さらに、繊維軸方向に沿って複数積層して形成してなる上記(3)記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。
【0013】
(5)黒鉛化工程で生成される黒鉛化炭素ナノ繊維は、その側周面を形成する炭素六角網面の端同士が、炭素ナノ繊維素ごとに相互に連結されて、ループ状の連結端部を形成してなる上記(3)又は(4)記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。
【0014】
(6)黒鉛化炭素ナノ繊維を、硝酸を用いて酸処理することにより、前記連結端部のうちの50%以上は、ループ状の連結が切断されて非連結端になる上記(5)記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、高比表面積と高黒鉛化度の双方を具備する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維を提供することが可能になった。
この発明の炭素ナノ繊維は、従来の炭素ナノ繊維では達成できなかった、高比表面積と高黒鉛化度の双方を具備することができるので、高い耐酸化特性と電気伝導性が要求される触媒の担体や電子放出系ディスプレイ(FED)の陰極電極材等に適用が期待できる。小型移動式燃料電池の陽極触媒は、高い電位での耐酸化特性と電気導電性が必須である。しかし、現在までその物性を満足させる担体が存在していないので、担体なしの白金ブラックが使われている。燃料電池の普遍化のためには、こうした燃料電池触媒の貴金属含有量を減らせる触媒の開発が最も重要である。本発明の高黒鉛化度高表面積炭素ナノ繊維は、メタノール直接型燃料電池と高分子メンブレーン型燃料電池用陽極触媒用担体として期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明に従う炭素ナノ繊維1は、図1に示すように、2〜12層の炭素六角網面2の積層体からなる炭素ナノ繊維素3を、前記炭素六角網面2の少なくとも一端が炭素ナノ繊維1の側周面1aを形成するように、繊維軸方向Lに沿って複数積層して形成した炭素ナノ繊維素群4を、さらに、繊維軸方向Lに沿って複数積層して形成されている。
【0017】
図2は、黒鉛化処理後の炭素ナノ繊維の構成を概念的に示したものである。黒鉛化後は、通常図2に示すように、前記炭素ナノ繊維の側周面を形成する炭素六角網面の端同士が、炭素繊維素ごとに相互に連結されてループ状の連結端部を形成している。
【0018】
炭素ナノ繊維の代表的な3次元構造としては、例えば図3(a)に示すようなプレートレット(Platelet)構造、図3(b)に示すようなへリングボーン(Herringbone)構造及び図3(c)に示すようなチューブラ(Tubular)構造が挙げられ、これらの中で、前記炭素六角網面2の両端2a、2bが炭素ナノ繊維1の側周面1aを形成するのは、プレートレット構造の場合であり、前記炭素六角網面2の一端2aが炭素ナノ繊維1の側周面1aを形成するのは、へリングボーン構造の場合である。
【0019】
そして、この発明の構成上の主な特徴は、炭素ナノ繊維の黒鉛化度を高めるとともに、黒鉛化度を高めることによって低下する傾向がある比表面積をも高い水準まで戻すことにあり、より詳細には、前記炭素ナノ繊維素を構成する炭素六角網面の面間隔(d002)及び積層の大きさ(Lc002)を、それぞれ0.3360nm以下及び20nm以上とし、かつ比表面積を50m/g以上とすることにある。
【0020】
なおここでいう「黒鉛化度」とは、黒鉛単結晶(d002=0.3354nm)に近い度合いを意味する。また、「比表面積」は、BET吸着等温式から得られる単分子層吸着量を用いる表面積であって、本発明では、吸着質として窒素を用いた場合の表面積(m2/g)とする。
【0021】
本発明者らは、炭素ナノ繊維1の側周面1aを形成する炭素六角網面2の端同士が、黒鉛化処理前では、図4(a)に示すように、側周面1aに個別に露出した状態で比表面積は91m2/gあるが、黒鉛化処理後は、図4(b)に示すように、炭素ナノ繊維素3´ごとに相互に連結されて、ループ状の連結端部5を形成し(図4(b)参照)、これに伴って、炭素ナノ繊維1の比表面積が32m2/g大幅に減少することが判明した。
【0022】
そして、本発明者らは、黒鉛化した炭素ナノ繊維1の比表面積を高めるためさらに検討を行ったところ、炭素ナノ繊維1を、その側周面1aを形成する炭素六角網面2の端同士が形成するループ状の連結端部5、5同士が、炭素ナノ繊維1の側周面1aに微小凹凸を形成するような乱れた配置になるように構成すること、及び/又は、炭素ナノ繊維1を、その側周面1aを形成する炭素六角網面2、2の端同士が形成する連結端部5のループ状の連結を切断するように構成することによって、炭素ナノ繊維1の比表面積が格段に向上することを見出し、この発明を完成させるに至った。
【0023】
この発明は、炭素ナノ繊維1が、炭素六角網面2が繊維軸方向Lに対し実質的に直交配列されたプレートレット構造を有する場合に、最も高黒鉛化度と高比表面積の双方を満足させること、より具体的には、炭素ナノ繊維素3を構成する炭素六角網面2の面間隔(d002)及び積層の大きさ(Lc002)が、それぞれ0.3360nm以下及び20nm以上であり、かつ比表面積を50m/g以上とすることができる。
【0024】
次に、この発明に従う炭素ナノ繊維の製造方法について以下で説明する。
まず、400〜1200℃の温度範囲で、例えば一酸化炭素(CO)又はメタン(CH)やエチレン(C)等の炭化水素のような炭素含有ガスを、水素分圧0〜90体積%の水素ガスと混合してなる混合ガス中で、鉄(Fe)に代表される金属またはFeを重量比で20%以上含む合金からなる触媒の存在下で、一定時間(好適には0.1〜24時間)反応させて、プレートレット構造の炭素ナノ繊維を生成する(炭素ナノ繊維生成工程)。
【0025】
反応温度を400〜1200℃に限定したのは、400℃未満だとプレートレット構造を有する炭素ナノ繊維が合成できないからであり、1200℃を超えると鉄触媒が活性を失ってプレートレット構造の炭素ナノ繊維の合成が殆どできないからである。
【0026】
前記触媒は、プレートレット構造を有する炭素ナノ繊維を生成する場合には、鉄(Fe)触媒または鉄が重量比で20%以上含まれている鉄合金を用いることが好ましい。
【0027】
次に、生成したプレートレット構造の炭素ナノ繊維を、真空又は不活性ガスの雰囲気下で1600℃以上、好適には2000℃以上、最適には2800℃で熱処理を行って、黒鉛化する(黒鉛化処理工程)。1600℃未満だと、十分に黒鉛化が進行しないからである。
【0028】
この発明では、上記黒鉛化処理によって、前記炭素六角網面の面間隔d002及び積層の大きさLc002が、それぞれ0.3360nm以下及び20nm以上になるようにして、高黒鉛化度にする。
【0029】
しかしながら、黒鉛化処理した炭素ナノ繊維は、上述したように、炭素ナノ繊維の側周面を形成する炭素六角網面の末端同士が、炭素ナノ繊維素ごとに相互に連結されて、ループ状の連結端部を形成する結果、比表面積が、黒鉛化処理前の炭素ナノ繊維に比べて、格段に小さくなる傾向がある。
【0030】
そこで、この発明では、黒鉛化処理後に、さらに黒鉛化した炭素ナノ繊維の側周面の表面改質処理を行う(高表面積化工程)。
【0031】
高表面積化工程としては、例えば、硝酸等の酸処理により行うことが好ましい。
【0032】
具体的には、高表面積化処理前の炭素ナノ繊維では、側周面に、ループ状の連結端部同士が、規則正しく配置されていたのに対し、高表面積化工程として、例えば硝酸に代表される酸液で酸処理すれば、連結端部の大部分が、ループ状の連結が50%以上切断されて非連結端となり、黒鉛化処理前の炭素ナノ繊維の側周面状態に近づく結果、再露出した炭素六角網面端面の寄与によって比表面積を高めることができる。この場合も、酸処理、機械的粉砕処理によって、ループ状の連結端部同士が歪を解放する方向に相互に移動することになるため、黒鉛化度も高めることができる。
【0033】
酸処理条件としては、例えば硝酸を用いる場合には、濃度は5〜35.5%、酸処理時間は10分〜240時間、酸処理温度は常温〜230℃とすることが好ましい。硝酸の濃度を5%未満とすると酸処理効果が少ない。酸処理時間が10分未満では、炭素六角網面の連結部が殆ど壊れないし、240時間を超える処理は経済性が落ちる。温度は230℃超えでは硝酸の分解が激しいので望ましくない。
【0034】
加えて、高表面積化工程として、ボールミル等の機械的粉砕処理と酸処理とを併用してもよい。
【0035】
尚、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0036】
次に、この発明の製造方法に従ってプレートレット構造を有する炭素ナノ繊維を製造し、性能を評価したので以下で説明する。
30mgの沈殿法で調整した超微粒鉄(Fe)触媒を石英製のボート(長さ10mm、幅2.5mm、深さ1.5mm)に載せ、内径4.5cmの石英管の中で、触媒活性化のため、水素とヘリウムの混合ガス(水素分圧20%)を100sccm(cc/min)流しながら500℃で2時間還元する。その後、一酸化炭素と水素の混合ガス(水素分圧20体積%)を100sccm流しながら600℃の温度で1時間反応させて、所定量(640mg)のプレートレット構造の炭素ナノ繊維(PCNF)を生成した。
【0037】
その後、生成した炭素ナノ繊維は、アルゴン(Ar)雰囲気下で、2800℃、10分間熱処理を行って、黒鉛化炭素ナノ繊維とした(GPCNF)。
【0038】
次いで、黒鉛化した炭素ナノ繊維を2つに分け、一方は、ボールミルを用いた機械的粉砕処理で高表面積化処理を施すことによって炭素ナノ繊維(GPCNF-M)を製造し、他方は、硝酸を用いた酸処理で高表面積化処理を施し、本発明の炭素ナノ繊維(GPCNF-NA)を製造した。なお、機械的粉砕処理は、直径2mmと10mmのガラスボールを1:1で混合して用い、エタノール中で72時間処理した。また、酸処理は、200℃の10%硝酸(HNO)溶液中で48時間浸漬処理した。
【0039】
上記製造方法によって製造した炭素ナノ繊維(GPCNF-NA)について、理学社製の広角X線回折装置(CuKα線、40kV、30mA、Stepwise Method)を用い、5°から90°までの回折を行い、回折パターンを得た。得られた回折パターンを学振法によって、黒鉛化度の指標となる面間隔d002と積層の大きさLc002を算出した。また、炭素ナノ繊維の比表面積についても、吸着質として窒素を用いて求めた。これらの結果を表1に示す。さらに、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)を用いて、炭素ナノ繊維の側周面の微細組織を観察した。炭素ナノ繊維の側周面の高分解能透過型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0040】
比較のため、黒鉛化処理前の炭素ナノ繊維(PCNF)や、黒鉛化処理後で高表面積化処理前の炭素ナノ繊維(GPCNF)についても、同様に、面間隔d002、積層の大きさLc002、比表面積および高分解能透過型電子顕微鏡観察を行ったので、表1と図5に併せて示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示す結果から、ボールミルを用いた機械的粉砕処理で高表面積化処理を施すことによって製造した炭素ナノ繊維(GPCNF-M)は、黒鉛化処理後の炭素ナノ繊維(GPCNF)に比べて黒鉛化度が高くなっているものの、比表面積が45m2/gと小さい。
これに対し、硝酸を用いた酸処理で高表面積化処理を行った本発明の炭素ナノ繊維(GPCNF-NA)は、前記炭素ナノ繊維素を構成する炭素六角網面の面間隔d002が0.3356nm、積層の大きさLc002が137nmであり、かつ比表面積が66m2/g以上であり、黒鉛化度が高く、また、比表面積も、黒鉛化処理後の炭素ナノ繊維(GPCNF)に比べて格段に大きく、黒鉛化度と比表面積の双方を高い水準で両立している。
【0043】
また、図5(a)〜(d)に示す結果から、黒鉛化処理することにより、炭素ナノ繊維の側周面を形成する炭素六角網面の末端同士が炭素ナノ繊維素ごとに相互に連結されて、ループ状の連結端部を形成し(図5(b))、その後、ボールミルを用いて機械的粉砕処理を行って高表面積化処理を施した場合には、連結端部同士が、炭素ナノ繊維の側周面に微小凹凸を形成するような乱れた配置になり(図5(c))、炭素六角網面の端面は繊維の表面に露出しないが、硝酸を用いて酸処理で行って高表面積化処理を施した場合には、連結端部の大部分で、ループ状の連結が切断されて非連結端に変化しているのがわかる(図5(d))。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明によれば、多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の提供が可能になった。
この発明の炭素ナノ繊維は、従来の炭素ナノ繊維では達成できなかった、高比表面積と高黒鉛化度の双方を具備することができるので、高い耐酸化特性と電気伝導性が要求される触媒の担体や電子放出系ディスプレイ(FED)の陰極電極材等に適用が期待できる。小型移動式燃料電池の陽極触媒は、高い電位での耐酸化特性と電気導電性が必須である。しかし、現在までその物性を満足させる担体が存在していないので、担体なしの白金ブラックが使われている。燃料電池の普遍化のためには、こうした燃料電池触媒の貴金属含有量を減らせる触媒の開発が最も重要である。本発明の高黒鉛化度高表面積炭素ナノ繊維は、メタノール直接型燃料電池と高分子メンブレーン型燃料電池用陽極触媒用担体として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、黒鉛化処理前の炭素ナノ繊維の構成を説明するための模式図である。
【図2】黒鉛化処理後の炭素ナノ繊維の構成を説明するための模式図である。
【図3】(a),(b),(c)は、炭素ナノ繊維の3つの代表的な構造を示す模式図であり、(a)がプレートレット構造、(b)がへリングボーン構造、そして、(c)がチューブラ構造である。
【図4】(a),(b)は、炭素ナノ繊維を構成する炭素ナノ繊維素の黒鉛化処理前後の構造を示す模式図であり、(a)が黒鉛化処理前の構造(PCNF)、(b)が黒鉛化処理後の構造(GPCNF)である。
【図5】図5(a)〜(d)は、プレートレット構造を有する炭素ナノ繊維の高分解能透過型電子顕微鏡写真であって、(a)が黒鉛化処理前の炭素ナノ繊維(PCNF)、(b)が黒鉛化処理後の炭素ナノ繊維(GPCNF)、(c)がボールミルを用いた機械的粉砕処理後の炭素ナノ繊維(GPCNF-M)、そして(d)が硝酸を用いた酸処理後の炭素ナノ繊維(GPCNF-NA)である。
【符号の説明】
【0046】
1 炭素ナノ繊維
2 炭素六角網面
3 (黒鉛化処理前の)炭素ナノ繊維素
3´ 黒鉛化処理後の炭素ナノ繊維素
4 炭素ナノ繊維素群
5 連結端部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素六角網面の積層体からなる炭素ナノ繊維素を、前記炭素六角網面の少なくとも一端が炭素ナノ繊維の側周面を形成するように、繊維軸方向に沿って複数積層して形成した炭素ナノ繊維素群を、さらに、繊維軸方向に沿って複数積層して形成してなる炭素ナノ繊維において、
前記炭素ナノ繊維素を構成する炭素六角網面の面間隔(d002)及び積層の大きさ(Lc002)が、それぞれ0.3360nm以下及び20nm以上であり、比表面積が50m/g以上であり、かつ、前記炭素ナノ繊維の側周面を形成する炭素六角網面の端同士が炭素繊維素ごとに相互に連結されて形成されるループ状の連結端部のうちの50%以上は、ループ状の連結が切断された非連結端であることを特徴とする多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維。
【請求項2】
前記炭素ナノ繊維は、炭素六角網面が繊維軸方向に対し実質的に直交配列されたプレートレット構造を有する請求項1記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維。
【請求項3】
400〜1200℃の温度範囲で炭素含有ガスを、金属または合金触媒の存在下で熱分解反応させて、炭素ナノ繊維を生成する工程と、
生成した炭素ナノ繊維を、真空又は不活性ガスの雰囲気下で1600℃以上の熱処理を行って、黒鉛化する工程と、
黒鉛化した炭素ナノ繊維を硝酸等の酸処理によって高表面積化する工程と、
を有することを特徴とする高黒鉛化度及び高比表面積を有する多数の炭素六角端面を表面に有する超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。
【請求項4】
炭素ナノ繊維生成工程で生成される炭素ナノ繊維は、炭素六角網面の積層体からなる炭素ナノ繊維素を、前記炭素六角網面の少なくとも一端が炭素ナノ繊維の側周面を形成するように、繊維軸方向に沿って複数積層して形成した炭素ナノ繊維素群を、さらに、繊維軸方向に沿って複数積層して形成してなる請求項3記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。
【請求項5】
黒鉛化工程で生成される黒鉛化炭素ナノ繊維は、その側周面を形成する炭素六角網面の端同士が、炭素ナノ繊維素ごとに相互に連結されて、ループ状の連結端部を形成してなる請求項3又は4記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。
【請求項6】
黒鉛化炭素ナノ繊維を、硝酸を用いて酸処理することにより、前記連結端部のうちの50%以上は、ループ状の連結が切断されて非連結端になる請求項5記載の超高黒鉛化度炭素ナノ繊維の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−240958(P2006−240958A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62411(P2005−62411)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】