説明

多方向スライド型電子部品

【課題】外径の小型化が図れると共に組み立て作業が容易に行える多方向スライド型電子部品を提供する。
【解決手段】第2,第3ケース60,40内に面方向に移動自在に設置される操作体本体部11を有する操作体10と、第1,第2ケース140,60内に設置され操作体10の移動する位置に応じて検出出力を変化させる検出手段(第1,第2のスライド移動体100,80と摺動子110,90と摺接パターン161)とを具備する。操作体本体部11の下面に第1バネ収納部13を設けてその内周側面を第1バネ受け面15とし、一方操作体本体部11の第1バネ収納部13に対向する第3ケース40の内面に第2バネ収納部43を設けてその内周側面を第2バネ受け面46とする。第1バネ収納部13と第2バネ収納部43を対向することで形成される空間内にリング状弾性体30を収納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作体を平面上の多方向に移動することでその移動位置に応じた出力信号を得ることができる多方向スライド型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スライド式電子部品の中には、例えば特許文献1に示すように、筐体(10)の内部に、操作体(13)の大径部(13a)と、この大径部(13a)を包囲する環状コイルばね(14)と、操作体(13)の位置を検出する摺動子(17,18)等の検出手段とを収納・設置し、操作体(13)をスライド操作することで大径部(13a)がそのスライド方向に位置する環状コイルばね(14)の部分を押圧して伸張させ、前記スライド操作する力を除去すると環状コイルばね(14)の引っ張り力によって操作体(13)を初期位置に自動復帰させる構造の多方向スライド型電子部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−310669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の多方向スライド型電子部品には、以下のような問題点があった。
(1)大径部(13a)の外周に環状コイルばね(14)を取り付けるので、その分筐体(10)の外径寸法が大きくなり、小型化が阻害される。
【0005】
(2)この多方向スライド型電子部品の組み立て時において、大径部(13a)の外周に環状コイルばね(14)を取り付ける際、直接大径部(13a)に環状コイルばね(14)を取り付けようとすると、環状コイルばね(14)は大径部(13a)から外れ易いので、その組立作業は煩雑になる。このため特許文献1においては、筐体(10)の治具挿通孔(10c)にピン形状の組立治具(30)を挿通し、この組立治具(30)に環状コイルばね(14)を巻装して仮保持した状態で上ケース(11)に操作体(13)や下ケース(12)等を順次組み立て、その後組立治具(30)を治具挿通孔(10c)から抜き取ることで、環状コイルばね(14)を大径部(13a)に取り付けていた。この方法によれば、大径部(13a)の外周に環状コイルばね(14)を確実に取り付けることができる。しかしながらこの方法の場合、組立治具(30)に環状コイルばね(14)を一旦仮保持した後に組立治具(30)を取り外すという工程が必要になるので、その分組立工数が増加し、生産効率の向上が図れない。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、外径の小型化が図れると共に組み立て作業が容易に行える多方向スライド型電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる多方向スライド型電子部品は、開口を有するケースと、前記ケース内に面方向に移動自在に設置され且つ前記ケースの開口よりも大径に形成された操作体本体部と前記ケースの開口に露出する操作部とを有する操作体と、前記操作体の移動する位置に応じて検出出力を変化させる検出手段と、を具備し、前記操作体本体部の少なくとも上下何れか一方の面に凹部からなる第1バネ収納部を設けてその内周側面を第1バネ受け面とし、一方操作体本体部の第1バネ収納部に対向するケースの内面に凹部からなる第2バネ収納部を設けてその内周側面を第2バネ受け面とし、前記操作体本体部の第1バネ収納部とケースの第2バネ収納部を対向することで形成される空間内にリング状弾性体を収納してリング状弾性体の外周を第1,第2バネ受け面に同時に弾接させて操作体を中立位置に保持し、ケースに対して操作体を中立位置から移動した際は、前記リング状弾性体が圧縮変形することで中立位置への弾性復帰力が生じるように構成している。
このように構成すれば、リング状弾性体が操作体本体部の外周よりも内側に配置されるので、多方向スライド型電子部品の外径寸法の小型化を図ることができる。またリング状弾性体は、凹部からなる第1,第2バネ収納部内にそのまま収納できるので、収納の際に別途特別な治具を使用する必要はなく、多方向スライド型電子部品の組み立て作業を容易に行うことができる。
【0008】
ここで前記操作体本体部は円形であり、また前記第1バネ収納部と第2バネ収納部は同一内径の円形凹部であり、前記リング状弾性体はこれら第1,第2バネ収納部内に圧入されてその外周が前記第1,第2バネ受け面に同時に弾接するように構成することが好ましい。このようにリング状弾性体の外周を同時に第1,第2バネ受け面に弾接すれば、ケースに対して操作体を確実に中立位置に保持できる。また第1,第2バネ収納部は同一内径の円形凹部なので、操作体を何れの面方向に移動しても同一の弾発力が働き、良好な操作感触が得られる。
【0009】
また前記リング状弾性体は、コイルバネをリング状に巻き回して構成するか、或いは弾性を有する帯状金属板をリング状に巻き回して構成することが好ましい。このように構成すれば、リング状弾性体の外周の何れの部分を押圧して圧縮変形させても、元の形状に戻ろうとする均一な弾性復帰力が生じる。
【0010】
また本発明にかかる多方向スライド型電子部品の組立方法は、開口を有するケース内に面方向に移動自在に操作体の操作体本体部を収納し、その際前記ケースの開口に操作体の操作部を露出し、一方前記ケース内に前記操作体の移動する位置に応じて検出出力を変化する検出手段を収納して組み立てられる多方向スライド型電子部品の組立方法において、前記操作体本体部は前記ケースの開口よりも大径に形成されていて少なくとも上下何れか一方の面には凹部からなる第1バネ収納部が設けられてその内周側面が第1バネ受け面とされており、前記操作体本体部の第1バネ収納部に対向するケースの内面には凹部からなる第2バネ収納部が設けられてその内周側面が第2バネ受け面とされており、さらにリング状弾性体を用意し、前記ケース内に操作体本体部を収納する際は、予め前記第1バネ収納部又は第2バネ収納部の何れか一方に前記リング状弾性体を圧縮しながら挿入した後に、他方を被せ、これによってリング状弾性体の外周を第1,第2バネ受け面に同時に弾接させて操作体を中立位置に保持させるように構成している。このように構成すれば、特別な治具を使用することなく、リング状弾性体を操作本体部とケースの間に容易に収納でき、多方向スライド型電子部品の組み立て作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多方向スライド型電子部品の外径寸法の小型化が図れると共に組み立て作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】多方向スライド型電子部品1の斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】多方向スライド型電子部品1の分解斜視図である。
【図4】多方向スライド型電子部品1を下側から見た分解斜視図である。
【図5】多方向スライド型電子部品1の動作説明用断面図である。
【図6】中立状態でのリング状弾性体30と第1,第2バネ受け面15,46との係合状態を示す平面概略図である。
【図7】移動状態でのリング状弾性体30と第1,第2バネ受け面15,46との係合状態を示す平面概略図である。
【図8】他のリング状弾性体30−2と第3ケース40とを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の1実施形態に係る多方向スライド型電子部品1の斜視図、図2は図1のA−A断面図、図3は多方向スライド型電子部品1の分解斜視図、図4は多方向スライド型電子部品1を下側から見た分解斜視図である。これらの図に示すように多方向スライド型電子部品1は、第2ケース60の下側に操作体10とリング状弾性体30と第3ケース40を設置し、第2ケース60の上側に第2のスライド移動体80と第1のスライド移動体100と回転止用移動体120と第1ケース140とを設置して構成されている。なお第1,第2,第3ケース140,60,40を合わせた全体がケースを構成する。また以下の説明において、「上」とはリング状弾性体30から操作体10を見る方向をいい、「下」とはその反対方向をいうものとする。また下記する回転止用移動体120と第2のスライド移動体80のスライド移動方向を第1の方向E、第1のスライド移動体100のスライド移動方向を第2の方向Fとする。第1,第2の方向E,Fは直交しており、両方向によって1つの面が形成され、下記するようにこの面方向に前記操作体10がスライド移動する。
【0014】
操作体10は合成樹脂(例えば液晶ポリマー等)の成形体であり、略円板形状の操作体本体部11の上面中央から棒状の操作部21を突出して構成されている。操作体本体部11の下面には円形の凹部からなる第1バネ収納部13が形成されている。第1バネ収納部13の内周側面を第1バネ受け面15としている。第1バネ収納部13の内径寸法は下記するリング状弾性体30の自然長での外径寸法よりも少し小さい内径寸法に形成されている。第1バネ収納部13の深さ寸法は下記するリング状弾性体30を構成するコイルばねの外径寸法の略半分の寸法に形成されている。第1バネ収納部13の中央(操作部21の真下位置)には小突起状の支持部17が設けられている。支持部17の高さ寸法は下記するリング状弾性体30を構成するコイルばねの外径寸法と略同一の寸法に形成されている。操作部21は円柱形状の棒状体の外周面にその上下全長にわたって互いに平行な一対の平面部23を形成して構成されており、同時に操作部21は一対の円弧面25を有している。
【0015】
リング状弾性体30は、コイルバネをリング状に巻き回して構成されている。具体的には、所定の長さの直線状のコイルバネの両端を連結することでリング状に形成している。前記連結は、例えば直線状のコイルばねの一方の端部の外径を小さくし、この端部をもう一方の端部の内径内にねじ込むように挿入して行っても良い。また例えば前記連結は、コイルばねの内径に挿入される突起を両面に有する1つのバネ受けを用意し、このバネ受けの両突起にそれぞれ直線状のコイルバネの両端の内径部分を挿入することで行っても良い。下記するように、リング状弾性体30は圧縮される方向に力が印加されるだけなので、コイルばね両端の連結部分には常に両端が押し合う方向の力が作用する。このため前記連結部分は引っ張られて連結が外れる恐れはなく、その連結強度は弱くても良い。従って容易に直線状のコイルバネをリング状に形成することが可能となる。
【0016】
第3ケース40は合成樹脂(例えば液晶ポリマー等)を略矩形平板状に成形して構成されており、上面には円形の凹部からなる操作体本体部収納部41が形成されている。操作体本体部収納部41の底面中央には円形の凹部からなる第2バネ収納部43が形成されており、その内周側面を第2バネ受け面46としている。操作体本体部収納部41の深さ寸法は前記操作体本体部11の厚み寸法と略同一の深さ寸法に形成され、またその内径寸法は操作体本体部11が面方向全ての方向に向けて移動できるように操作体本体部11の外径寸法よりも大きな内径寸法となっている。また操作体本体部収納部41の底面は操作体本体部11の底面外周部分が載置されて摺接する摺接面45となっている。第2バネ収納部43の内径寸法は、前記操作体10の第1バネ収納部13の内径寸法と同一に形成されている。第2バネ収納部43の深さ寸法はリング状弾性体30のコイルばねの外径寸法の略半分の寸法に形成されている。第3ケース40の各角部近傍には、上下に貫通する小孔からなる被取付部47が形成されている。
【0017】
第2ケース60は合成樹脂(例えば液晶ポリマー等)の成形品であり、その上面に出力取出用基板160を取り付けている。第2ケース60は略矩形平板状であってその中央に円形の貫通孔からなる操作部挿通部61を設けている。操作部挿通部61の内径寸法は前記操作体10の操作体本体部11の外径寸法よりも小さく形成されている。第2ケース60の各角部の前記第3ケース40の各被取付部47に対向する位置には上下に貫通する小孔からなる被取付部63が設けられている。出力取出用基板160はフレキシブル回路基板であり、可撓性を有する合成樹脂フイルムの上面の2つの外周辺近傍部分に一対ずつ2組の摺接パターン161を形成し、またその外周から引出部163を引き出して構成されている。各組の摺接パターン161は一対の抵抗体パターンと導電体パターンとによって構成されている。出力取出用基板160の中央にも前記操作部挿通部61とほぼ同じ大きさの円形の貫通孔からなる操作部挿通部165が形成されている。この出力取出用基板160はその上面が第2ケース60の上面に露出するようにインサート成形によって第2ケース60に一体化されている。
【0018】
第2のスライド移動体80は合成樹脂(例えば液晶ポリマー等)の成形品であり、略長方形状の板状に成形されており、その中央にはその長手方向に向かう略長方形状の長孔81が形成されている。長孔81の長手方向に沿う両内側辺83は平行であり、両内側辺83間の幅寸法は前記操作体10の操作部21の平行な一対の平面部23間の幅寸法とほぼ同一である。第2のスライド移動体80の上面の前記長孔81の両端外側位置には、上方向に向かって突出する突出部85が設けられている。両突出部85は第2のスライド移動体80の長手方向に直交する方向(第1の方向E)に向かって延びており、両突出部85の対向する内側壁間の離間距離は、下記する第1ケース140のレール部145−2,145−4の外側側壁間の離間距離とほぼ同一に形成されている。第2スライド移動体80の下面の一端近傍には、弾性金属板製の摺動子90が取り付けられている。摺動子90は基部91から2本のアーム状の弾接部93を突出し、これら弾接部93を略180°折り返して構成されている。
【0019】
第1のスライド移動体100は合成樹脂(例えば液晶ポリマー等)の成形品であり、略長方形状の板状に成形されており、その中央にはその長手方向に向かう略長方形状の長孔101が形成されている。長孔101の長手方向に沿う両内側辺103は平行であり、両内側辺103間の幅寸法は前記操作体10の操作部21の円弧面25の直径寸法とほぼ同一である。第1のスライド移動体100の上面の前記長孔101の両端外側位置には、上方向に向かって突出する突出部105が設けられている。両突出部105は第1のスライド移動体100の長手方向に直交する方向(第2の方向F)に向かって延びており、両突出部105の対向する内側壁間の離間距離は、下記する第1ケース140のレール部145−1,145−3の外側側壁間の離間距離とほぼ同一に形成されている。第1のスライド移動体100の下面の一端近傍には、弾性金属板製の摺動子110が取り付けられている。摺動子110は基部111から2本のアーム状の弾接部113を突出し、これら弾接部113を略180°折り返して構成されている。
【0020】
回転止用移動体120は長方形状(帯状)の金属板(例えば鉄板)製であり、その両端辺部分は下向きにL字状に折り曲げられることでその両外側面を摺動部121としている。両摺動部121間の離間距離は、下記する第1ケース140の対向するレール部145−2,145−4の内側壁間の離間距離とほぼ同一である。回転止用移動体120の中央にはその長手方向に向かう略長方形状の長孔123が形成されている。長孔123の長手方向に沿う両内側辺125は平行であり、両内側辺125間の幅寸法は前記操作部21の平行な一対の平面部23間の幅寸法とほぼ同一である。
【0021】
第1ケース140は合成樹脂(例えば液晶ポリマー等)の成形品であり、略矩形平板状であってその中央に円形の貫通孔からなる開口141を設けて構成されている。開口141の内径寸法は、前記第2ケース60の操作部挿通部61の内径寸法と略同一である。第1ケース140の下面の各角部近傍には、前記第2ケース60の各被取付部63及び第3ケース40の各被取付部47に挿入される小突起からなる取付部143が形成されている。第1ケース140の下面の開口141の周囲には開口141を囲むように、矩形状に突出するレール部145−1〜4が形成されている。
【0022】
多方向スライド型電子部品1を組み立てるには、まず第1ケース140の下面側に回転止用移動体120と第1のスライド移動体100と第2のスライド移動体80を設置する。その際、回転止用移動体120と第2のスライド移動体80は同一方向を向け、第1のスライド移動体100はこれらに直交する方向を向ける。このとき回転止用移動体120の両摺動部121を第1ケース140の対向するレール部145−2,145−4の内側壁内に挿入・係合し、第1のスライド移動体100の両突出部105を第1ケース140の対向するレール部145−1,145−3の外側側壁側に挿入・係合し、第2のスライド移動体80の両突出部85を第1ケース140の対向するレール部145−2,145−4の外側側壁側に挿入・係合する。これによって回転止用移動体120と第2のスライド移動体80はレール部145−2,145−4に沿って第1の方向Eに向かってスライド移動すると共に、第1のスライド移動体100はレール部145−1,145−3に沿って第2の方向Fに向かってスライド移動するように構成される。
【0023】
次に第1のスライド移動体100等を収納した第1ケース140の下側に、第2ケース60を設置し、その際第1ケース140の各取付部143を第2ケース60の各被取付部63に挿入し、各取付部143の先端を第2ケース60の下面側に突出する。
【0024】
次に第2ケース60の下側に操作体10を設置する。その際、操作体10の操作部21を、第2ケース60の操作部挿通部61と出力取出用基板160の操作部挿通部165に挿入すると共に、第2のスライド移動体80の長孔81と第1のスライド移動体100の長孔101と回転止用移動体120の長孔123とが重なっている部分に挿入し、さらに第1ケース140の開口141に挿入する。このとき回転止用移動体120の両内側辺125は操作部21の両平面部23に当接(または接近)し、第1のスライド移動体100の両内側辺103は操作部21の両円弧面25に当接(または接近)し、第2のスライド移動体80の両内側辺83は操作部21の両平面部23に当接(または接近)する。
【0025】
次に操作体10の操作体本体部11下面の第1バネ収納部13内に、リング状弾性体30をその外形を少し縮めながら圧入(挿入)する。次にリング状弾性体30の下側に第3ケース40を被せ、その際第2バネ収納部43内にリング状弾性体30の下半分を挿入する。同時に第2ケース60の下面側に突出した第1ケース140の各取付部143を第3ケース40の各被取付部47に挿入する。そして第3ケース40の下面から突出した各取付部143の先端を熱かしめする。これによって多方向スライド型電子部品1が完成する。なお上記組立手順はその一例であり、他の各種異なる組立手順を用いて組み立てても良いことはいうまでもない。例えばリング状弾性体30は予め第3ケース40の第2バネ収納部43内に圧入し、その後この第3ケース40上に操作体10を設置することでリング状弾性体30の上半分を第1バネ収納部13内に挿入しても良い。
【0026】
以上説明したように、多方向スライド型電子部品1は、第1,第2,第3ケース140,60,40と、第2,第3ケース60,40内に面方向に移動自在に設置される操作体本体部11を有する操作体10と、第1,第2ケース140,60内に設置され前記操作体10の移動する位置に応じて検出出力を変化させる検出手段(第1,第2のスライド移動体100,80と両摺動子110,90と両摺接パターン161)とを具備し、操作体本体部11の下面に凹部からなる第1バネ収納部13を設けてその内周側面を第1バネ受け面15とし、一方操作体本体部11の第1バネ収納部13に対向する第3ケース40の内面に凹部からなる第2バネ収納部43を設けてその内周側面を第2バネ受け面46とし、前記操作体本体部11の第1バネ収納部13と第3ケース40の第2バネ収納部43を対向することで形成される空間内にリング状弾性体30を収納して構成されている。
【0027】
図6はこのときのリング状弾性体30と第1,第2バネ受け面15,46との係合状態を示す平面概略図である。同図に示すようにリング状弾性体30は外力が加わらない状態ではその弾性復帰力によって円形を維持しようとするため、リング状弾性体30の外周が第1,第2バネ受け面15,46に同時に弾接(押圧)することで第1,第2バネ受け面15,46を同一位置に一致させる。つまり第3ケース40に対して操作体10を中立位置に保持する。
【0028】
上記構成の多方向スライド型電子部品1において、中立位置の操作体10を第2の方向Fにスライド移動すると、図5に示すように、操作部21は、その円弧面25が第1のスライド移動体100の内側辺103を押圧し、第1のスライド移動体100を第2の方向Fにスライド移動する。これによって第1のスライド移動体100に取り付けている摺動子110が出力取出用基板160の一方の組の摺接パターン161上を摺動し、その出力信号が変化する。なお操作部21が第2の方向Fに移動する際、操作部21は回転止用移動体120の長孔123と第2のスライド移動体80の長孔81内をその長手方向に向かって移動するので、回転止用移動体120と第2のスライド移動体80は移動しない。
【0029】
このとき図7に示すように第3ケース40の第2バネ収納部43に対して操作体10の第1バネ収納部13が移動し、これによってリング状弾性体30は第2,第1バネ受け面46,15に左右から押圧されて略楕円形状に圧縮される。これによって第2,第1バネ受け面46,15間には、リング状弾性体30が元の形状に戻ろうとする弾性復帰力が印加される。つまり第3ケース40に対して操作体10を中立位置から移動した際は、リング状弾性体30が圧縮変形することで中立位置への弾性復帰力が生じる。従って操作体10の移動を止めてその押圧を解除すれば、操作体10は元の中立位置に自動復帰し、図6に示す状態に戻る。
【0030】
一方中立位置の操作体10を第1の方向Eにスライド移動すると、操作部21は、その平面部23が回転止用移動体120の内側辺125と第2のスライド移動体80の内側辺83を同時に押圧し、これらを第1の方向Eにスライド移動する。これによって第2のスライド移動体80に取り付けている摺動子90が出力取出用基板160の他方の組の摺接パターン161上を摺動し、その出力信号が変化する。なお操作部21が第1の方向Eに移動する際、操作部21は第1のスライド移動体100の長孔101内をその長手方向に向かって移動するので、第1のスライド移動体100は移動しない。また操作体10の駆動を解除すれば、リング状弾性体30の弾性復帰力によって、前記の場合と同様に操作体10は元の中立位置に自動復帰する。
【0031】
また操作体10を第1,第2の方向E,Fに同時に移動すれば、それぞれの方向E,Fへの移動距離に応じて回転止用移動体120と第1のスライド移動体100と第2のスライド移動体80とが移動し、それぞれの組の摺接パターン161から移動に応じた出力信号が得られることは言うまでもない。また操作体10の駆動を解除すれば、リング状弾性体30の弾性復帰力によって、前記の場合と同様に操作体10は元の中立位置に自動復帰する。
【0032】
一方操作部21に回転方向の力が加わった場合は、回転止用移動体120の両内側辺125に操作部21の両平面部23が当接することで操作部21の回転は阻止される。従って第1,第2のスライド移動体100,80に対して操作部21の回転力は印加されず、これらが回転することによって生じる出力信号の変動を確実に防止でき、常に正確な出力信号が得られる。
【0033】
上記多方向スライド型電子部品1によれば、リング状弾性体30が操作体本体部11の外周よりも内側に配置されるので、多方向スライド型電子部品1の外径寸法の小型化を図ることができる。
【0034】
またリング状弾性体30は、凹部からなる第1,第2バネ収納部13,43内にそのまま押し込むことで収納できる。つまり収納の際に別途特別な治具を使用する必要はなく、リング状弾性体30を操作本体部11と第3ケース40の間に容易に収納でき、多方向スライド型電子部品1の組み立て作業を容易に行うことができる。
【0035】
また上記多方向スライド型電子部品1は、リング状弾性体30の外周が同時に第1,第2バネ受け面15,46に弾接するので、ケース140,60,40に対して操作体10を確実に中立位置に保持できる。また第1,第2バネ収納部13,43は同一内径の円形凹部なので、操作体10を何れの面方向に移動しても同一の弾発力が働き、良好な操作感触が得られる。またリング状弾性体30はコイルバネをリング状に巻き回して構成したので、リング状弾性体30の外周の何れの部分を押圧して圧縮変形させても、元の形状に戻ろうとする均一な弾性復帰力が得られる。
【0036】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、図8に示すように、リング状弾性体として、弾性を有する帯状金属板をリング状に巻き回して構成したリング状弾性体30−2を用いても良い。このリング状弾性体30−2は帯状金属板をリング状に複数回巻き回して構成されているが、1回以上巻き回して構成すればよい。リング状弾性体30−2の外周面はその略全周の下半分が第3ケース40の第2バネ受け面46に弾接しており、同時に第3ケース40の上部に被せられる操作体10の第1バネ受け面15にもその略全周の上半分が弾接する。このリング状弾性体30−2の場合も、その外周の何れの部分を押圧して圧縮変形させても、元の形状に戻ろうとする均一な弾性復帰力が得られる。なおさらにリング状弾性体は、ゴム材をリング状に形成したものや、その他の各種材質・構造のもので構成しても良い。
【0037】
また上記多方向スライド型電子部品1では、第1バネ収納部13を操作体本体部11の下面に設けたが、その代りに第1バネ収納部を操作体本体部11の上面に設けても良い。この場合は第2バネ収納部を第2ケース60の下面(即ち第1バネ収納部に対向するケースの内面)に設け、リング状弾性体30は操作体本体部11と第2ケース60の間(第1バネ収納部と第2バネ収納部を対向することで形成される空間内)に設置する。
【0038】
また上記多方向スライド型電子部品1では、検出手段として、第1,第2のスライド移動体100,80と摺動子110,90と摺接パターン161を用いたが、操作体10の移動する位置に応じて検出出力を変化させる検出手段であれば、どのような構造であっても良い。また操作体10やケース140,60,40の形状、構造も種々の変形が可能であることは言うまでもない。また出力取出用基板160は硬質基板で構成しても良く、その際第2ケース60にインサート成形しないで第2ケース60上に取り付けても良い。さらに第2ケース60の表面自体に摺接パターン161を形成することで出力取出用基板160を省略しても良い。
【符号の説明】
【0039】
1 多方向スライド型電子部品
10 操作体
11 操作体本体部
13 第1バネ収納部
15 第1バネ受け面
21 操作部
30 リング状弾性体
40 第3ケース(ケース)
43 第2バネ収納部
46 第2バネ受け面
60 第2ケース(ケース)
80 第2のスライド移動体(検出手段)
90 摺動子(検出手段)
100 第1のスライド移動体(検出手段)
110 摺動子(検出手段)
120 回転止用移動体
140 第1ケース(ケース)
141 開口
161 摺接パターン(検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有するケースと、
前記ケース内に面方向に移動自在に設置され且つ前記ケースの開口よりも大径に形成された操作体本体部と、前記ケースの開口に露出する操作部とを有する操作体と、
前記操作体の移動する位置に応じて検出出力を変化させる検出手段と、を具備し、
前記操作体本体部の少なくとも上下何れか一方の面に凹部からなる第1バネ収納部を設けてその内周側面を第1バネ受け面とし、
一方操作体本体部の第1バネ収納部に対向するケースの内面に凹部からなる第2バネ収納部を設けてその内周側面を第2バネ受け面とし、
前記操作体本体部の第1バネ収納部とケースの第2バネ収納部を対向することで形成される空間内にリング状弾性体を収納してリング状弾性体の外周を第1,第2バネ受け面に同時に弾接させて操作体を中立位置に保持し、
ケースに対して操作体を中立位置から移動した際は、前記リング状弾性体が圧縮変形することで中立位置への弾性復帰力が生じることを特徴とする多方向スライド型電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の多方向スライド型電子部品であって、
前記操作体本体部は円形であり、
また前記第1バネ収納部と第2バネ収納部は同一内径の円形凹部であり、
前記リング状弾性体はこれら第1,第2バネ収納部内に圧入されてその外周が前記第1,第2バネ受け面に同時に弾接することを特徴とする多方向スライド型電子部品。
【請求項3】
請求項2に記載の多方向スライド型電子部品であって、
前記リング状弾性体は、コイルバネをリング状に巻き回して構成されるか、或いは弾性を有する帯状金属板をリング状に巻き回して構成されていることを特徴とする多方向スライド型電子部品。
【請求項4】
開口を有するケース内に面方向に移動自在に操作体の操作体本体部を収納し、その際前記ケースの開口に操作体の操作部を露出し、
一方前記ケース内に前記操作体の移動する位置に応じて検出出力を変化する検出手段を収納して組み立てられる多方向スライド型電子部品の組立方法において、
前記操作体本体部は前記ケースの開口よりも大径に形成されていて少なくとも上下何れか一方の面には凹部からなる第1バネ収納部が設けられてその内周側面が第1バネ受け面とされており、
前記操作体本体部の第1バネ収納部に対向するケースの内面には凹部からなる第2バネ収納部が設けられてその内周側面が第2バネ受け面とされており、
さらにリング状弾性体を用意し、
前記ケース内に操作体本体部を収納する際は、予め前記第1バネ収納部又は第2バネ収納部の何れか一方に前記リング状弾性体を圧縮しながら挿入した後に、他方を被せ、これによってリング状弾性体の外周を第1,第2バネ受け面に同時に弾接させて操作体を中立位置に保持させることを特徴とする多方向スライド型電子部品の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93132(P2013−93132A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232986(P2011−232986)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000215833)帝国通信工業株式会社 (262)
【Fターム(参考)】