説明

多極子

【課題】 本発明は多極子に関し、製造コストを抑え、高加工精度及び高位置精度を確保した多極子電場、多極子磁場、多極子電磁場をそれぞれ独立に発生させることができる多極子を提供することを目的としている。
【解決手段】 複数の電極子2又は磁極子4で構成され、荷電粒子の運動を制御する多極子において、同軸上に非磁性体の多電極子と多磁極子を絶縁体1で支持されるように配置し、前記多磁極子が多電極子の外側に位置するように構成される。非磁性体の多電極子と多磁極子を絶縁体で支持し、前記磁極子4が電極子2の外側に位置するようにしたので、製造コストを抑え、高加工精度及び高位置精度を確保した多極子電場、多極子磁場、多極子電磁場をそれぞれ独立に発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多極子に関し、更に詳しくは電子顕微鏡の収差補正器やウィンフィルタに用いて好適な多極子に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子の運動を制御する多極子は、複数の電極又は磁極で構成されている。また、電極材質に磁性体を用いることによって、電極を磁極として使用する場合もある。図3は従来の多極子の構成例を示す図である。図において、1はドーナツ状に形成された絶縁体、6は電極としてもまた磁極としても用いられる電磁極子、5は該電磁極子6に巻回されたコイルである。
【0003】
図3において、前記電磁極子6は絶縁体1によって支持されている。前記電磁極子6にはコイル5が巻回されていることにより、図に示す装置を多極子電場又は多極子磁場、又は多極子電磁場を発生させることができる。
【0004】
図4は従来の多極子の他の構成例を示す図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、1はドーナツ状に形成された絶縁体、2は該絶縁体1の空洞部の壁面に形成された電極子で、該電極子2はパターンニング(蒸着)されている。電極の極数は12極子の場合を示す。なお、この従来例は、磁極を持たず電極子としてのみ機能するものである。3は電極子2に接続される電圧印加用の導通線である。該導通線と電極子2とは、例えば接着剤又はハンダ付けにより導通できるように構成されている。
【0005】
従来のこの種の装置としては、電子光学系の収差補正を、主偏向器によって選択されるユーザフィールド毎に一様な補正量で行ない、該サブフィールド内で露光位置を選択する静電偏向型副偏向器の入力信号の補正によって、該収差補正を補充するようにしたものが知られている(例えば特許文献1参照)。また、管状絶縁基板の内表面に導電体層によるリードと抵抗体層による抵抗体が設けられ、これら構成要素には絶縁体層が形成され、その絶縁体層上には複数領域に分割された導電体層による電極が形成されたものが知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭62−65419号公報(第3頁、第1図、第2図)
【特許文献2】特開平4−355039号公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示す多極子では、多極子電場、多極子磁場、多極子電磁場を同じディメンジョンで発生させることができるが、多極子の数が増えてくると、その構成が複雑になり、加工精度及び位置精度が確保できないという問題があった。また、電圧によっては、放電耐圧の関係から極子間のギャップに制約があり、磁極を独立に製作できないという問題があった。また、複雑であるためコストがかかるという問題があった。
【0007】
図4に示す多極子では、多極子の電場を発生させることができるが、多極子磁場又は多極子電磁場を発生させることができないという問題があった。この多極子は、前記絶縁体1の内面に電極をパターンニング(蒸着)するのみなので、構造が簡単で製造コストを大幅に抑えることができる。しかしながら、磁極を同様な方法でパターンニングすることができず、また磁路を形成することができないという問題があった。
【0008】
また、図3に示す多電磁極子は電極と磁極が一緒になるため、電極子数と磁極子数を独立に構成することができないという問題があった。また、電極子間の耐圧によって電極子位置は制約を受けるため、磁極としても制約を受けてしまうという問題があった。
【0009】
多極子を用いる装置として、ウィンフィルタや収差補正器が例としてあるが、これらは多極電磁場を必要とし、従来の多極子では複雑な構成になって製造コストがかかり、また加工精度、位置精度を確保できないという問題があった。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、製造コストを抑え、高加工精度及び高位置精度を確保した多極子電場、多極子磁場、多極子電磁場をそれぞれ独立に発生させることができる多極子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)請求項1記載の発明は、複数の電極又は磁極で構成され、荷電粒子の運動を制御する多極子において、同軸上に非磁性体の多電極子と多磁極子を絶縁体で支持されるように配置し、前記多磁極子が多電極子の外側に位置するように構成されたことを特徴とする。
(2)請求項2記載の発明は、前記電極子は前記絶縁体の内面に貼り付けられていることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記電極子及び磁極子は前記絶縁体に支持されており、かつ該絶縁体により真空が保持されていることを特徴とする。
(4)請求項4記載の発明は、前記電極子は、前記絶縁体の内面に蒸着されていることを特徴とする。
(5)請求項6記載の発明は、前記電極子及び磁極子をそれぞれ独立に制御するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(1)請求項1記載の発明によれば、非磁性体の多電極子と多磁極子を絶縁体で支持し、前記磁極子が電極子の外側に位置するようにしたので、製造コストを抑え、高加工精度及び高位置精度を確保した多極子電場、多極子磁場、多極子電磁場をそれぞれ独立に発生させることができる多極子を提供することができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、電極子を絶縁体の内面に貼り付けるようにしているので、製造が簡単となる。
(3)請求項3記載の発明によれば、電極子及び磁極子が絶縁体に支持されており、且つ該絶縁体により真空を保持することができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、電極子を絶縁体の内面に蒸着して作るので、製造が簡単になる。
(5)請求項5記載の発明によれば、電極子及び磁極子が同軸に対して離れた位置に存在しているので、電極子及び磁極子をそれぞれ独立に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態例を示す構成図である。図3、図4と同一のものは、同一の符号を付して示す。図に示す構成例は、非磁性体の電極子と、磁極子とからなり、それぞれの光軸からの距離が異なり、かつ磁極子の位置が電極子の外側に位置し、かつ磁極子を支持する絶縁体の内側に電極子がパターンニングされている構成となっている。非磁性体としては、例えば銅(Cu)が好適に用いられる。
【0014】
図1において、1はドーナツ状に形成された絶縁体である。該絶縁体1としては、例えば碍子が用いられる。2は該絶縁体1の内部に設けられた4分割された電極子、3は該電極子2と電気的に接続される導通線である。4は4個設けられた磁極子、5は該磁極子4に巻回されたコイルである。7は絶縁体1の内部に形成された空洞部である。絶縁体1をドーナツ状に形成すれば、空洞部7が実現できることになる。
【0015】
図では、電極子2、磁極子4としてそれぞれ4個設けられた例を示しているが、これに限るものではなく、任意の数の電極子2、磁極子4を設けることができる。電極子2としては、非磁性体が用いられる。そして、電極子2と磁極子4は、光軸(絶縁体1の円の中心)に関して、光軸からの距離が異なり、磁極子の位置が電極子の外側に位置している。そして、磁極子4は真空チャンバの外側、即ち大気中に設けられている。
【0016】
このように構成された多極子において、絶縁体1の内側はドーナツ状に形成され、中心部は空洞部7となっている。そして、この空洞部7に面して非磁性体の電極子2が形成されている。この電極子2は、非磁性体の膜が貼り付けられて実現されている。非磁性体の膜を貼り付けるようにすると、製造が簡単になる。
【0017】
このように構成された多極子において、導通線3から電圧を電極子2に印加すると、空洞部7内部に電界が発生する。一方、コイル5に直流電圧を流すと、空洞部7内に磁界が発生する。これら電界と磁界は別々に発生させることもできるし、同時に発生させることができる。即ち、本発明によれば、電極子2と磁極子4が同軸に対して離れた位置に存在しているので、電極子及び磁極子をそれぞれ独立に制御することができる。即ち、同軸である光軸上に多極子電場又は多極子磁場又は多極子電磁場を独立に発生させることができる。
【0018】
本発明によれば、非磁性体の多電極子と多磁極子を絶縁体1で支持し、前記多磁極子が多電極子の外側に位置するようにしたので、製造コストを抑え、高加工精度及び高位置精度を確保した多極子電場、多極子磁場、多極子電磁場をそれぞれ独立に発生させることができる多極子を提供することができる。また、本発明によれば、電極子2及び磁極子4が絶縁体1に支持されており、且つ該絶縁体1により真空を保持することができる。
【0019】
図2は本発明の第2の実施の形態例を示す構成図である。この実施の形態例も、非磁性体の電極子と、磁極子とからなり、それぞれの光軸からの距離が異なり、かつ磁極子の位置が電極子の外側に位置する構成は、図1に示す第1の実施の形態例と同じである。
【0020】
図2において、1はドーナツ状の絶縁体、2は電極子、3は電極子2と電気的に接続された導通線、4は磁極子、5は該磁極子4上に巻回されたコイル、7は絶縁体1の中心部に形成された空洞部である。図1に示す実施の形態例と比較して、この実施の形態例では、電極2が12極ある場合を示している。そして、電極2は絶縁体1の内部にパターンニング(蒸着)されてできている。このようにすれば、製造を簡単にすることができる。
【0021】
絶縁体1の内側には光軸を中心として空洞が形成されており、その内面に複数の被磁性体の電極子2がパターンニングされている。前記電極子2は、それぞれ導通線3によって独立に独立に電場を印加することができる。コイル5を巻いた複数の磁極子4が前記絶縁体1に支持されており、その位置は光軸を電極子2と同軸とし、且つ前記電極子2の外側に配置されている。このようにして、同軸である光軸上に多極子電場又は多極子磁場又は多極子電磁場を独立に発生させることができる。
【0022】
このように構成された多極子において、導通線3から電圧を電極子2に印加すると、空洞部7内部に電界が発生する。一方、コイル5に直流電圧を流すと、空洞部7内に磁界が発生する。これら電界と磁界は別々に発生させることもできるし、同時に発生させることができる。同時に発生させる場合には、電場と磁場が重畳されることになる。
【0023】
上述したような本発明による多極子は、走査型電子顕微鏡等の収差補正装置や、ウィーンフィルタ等に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態例を示す構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態例を示す構成図である。
【図3】従来の多極子の構成例を示す図である。
【図4】従来の多極子の他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 絶縁体
2 電極子
3 導通線
4 磁極子
5 コイル
7 空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極子又は磁極子で構成され、荷電粒子の運動を制御する多極子において、
同軸上に非磁性体の多電極子と多磁極子を絶縁体で支持されるように配置し、前記多磁極子が多電極子の外側に位置するように構成されたことを特徴とする多極子。
【請求項2】
前記電極子は前記絶縁体の内面に貼り付けられていることを特徴とする請求項1記載の多極子。
【請求項3】
前記電極子及び磁極子は前記絶縁体に支持されており、かつ該絶縁体により真空が保持されていることを特徴とする請求項1又は2記載の多極子。
【請求項4】
前記電極子は、前記絶縁体の内面に蒸着されていることを特徴とする請求項1記載の多極子。
【請求項5】
前記多極子及び磁極子をそれぞれ独立に制御するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の多極子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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