説明

多様な繊維素材に適用される捺染インク、その製造方法及びそれを用いた捺染方法

【課題】各種繊維に幅広く使用できる捺染インクを提供する。製造に当たり複雑で難しい分散工程を省略することから、インク製造工程の単純化を図り、しかも
優れた発色性と保存安定性を有する捺染インクを提供する。
【解決手段】反応性分散染料と前記染料を溶解し得る溶剤よりなり、前記反応性分散染料は水不溶性であり、800以下の分子量を有し、繊維素材内に存在する
水酸基またはアミド基と共有結合可能な反応性基を有するインクジェット捺染インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、綿、絹、ナイロンなどのような様々な繊維素材、編物素材、特に混紡繊維の捺染において、衣服を含むプリント繊維製品の商品価値
を高めるべく、優れた発色性と染色堅牢度及び広い色域を有するインクジェット捺染インク、その製造方法及び該インクを用いた捺染方法に関する。また、本発
明は、ポリエステル超極細繊維及びナイロン/ポリエステル超極細繊維に適したインクジェット捺染用インクを提供する。
【背景技術】
【0002】
現在、繊維捺染の市場では、多様な消費者の要求を満足させるために、製造方法が従前の少数製品大量製造から少量バッチ式製造に急速に変化している。少量
バッチ式製造は、多様なデザインと迅速な放出(delivery)を必要とするが、これは従来の捺染方法によっては達成しくいものである。このため、以前
のアナログ(従来)方式による方法は、極めて非効率的であり、経済性面で競争力が劣る。したがって、現在、インクジェットシステムを利用したデジタル捺染
技術が広く普及しつつある。デジタルインクジェット捺染技術は、捺染条件確認作業、サンプル製造及び少量の製品製造に広範囲にわたって使われており、今後
短時間で絹スクリーン捺染、ロータリー捺染、ローラー捺染などのような従来の捺染方法を代替するものと言われている。
【0003】
現在、市販中のインクジェット捺染用インクは、染料インクと顔料インクと分類され、さらに染料インクは酸性インク、反応性インク、分散インクなどに分類
される。顔料インクの数種が市販されているが、彩度と発色性に劣っているため、染料インクが通常使われている。酸性インク及び反応性インクは水溶性なの
で、綿、絹などのような天然繊維の捺染に用いられる。これに対して、分散インクは、着色物質として分散染料を用い、該着色物質と分散剤を水に入れて水中で
これを分散させてインクを形成することで得られる。分散インクは、通常合成繊維の捺染に用いられる。
【0004】
現在、衣服用繊維素材は一般的に合成繊維としてのポリエステル繊維と天然繊維としての綿繊維との混紡繊維であり、このような混紡繊維は繊維産業において
大きな比重を占めている。混紡繊維の捺染において、合成繊維と天然繊維の捺染方法及び条件が異なるため二つの染色段階を行う必要があるので、その工程が複
雑であり、経済性が劣るという欠点がある。
【0005】
【特許文献1】アメリカ特許明細書第4969951号
【特許文献2】アメリカ特許明細書第3974160号
【特許文献3】アメリカ特許明細書第4500455号
【特許文献4】アメリカ特許明細書第4515716号
【特許文献5】特開平第3−247665号公報、
【特許文献6】大韓民国特許第2002−004026号公報
【特許文献7】大韓民国特許第2002−061916号公報
【特許文献8】大韓民国特許第2002−0161777号公報
【0006】
このような欠点を解消するための一つの方法として、前記特許文献1(アメリカ特許明細書第4969951号)は、反応性染料と分散染料の特性をいずれも
有する反応性分散染料を用いて混紡繊維に適用できるインク及び該インクを用いたインクジェット捺染方法を開示している。しかし、前記インクの製造に当た
り、反応性分散染料を水中に分散させることによりコロイド化された(colloidized)インクが用いられる。染料の分散による捺染インクの製造に当
たり、重要な点は安定したコロイドを得ることである。しかしながら、安定したコロイドを得ることは極めて難しいことから、ミリング工程の如き特別な分散工
程を行う必要がある。
【0007】
一般的な分散工程は下記の通りである。
インクを製造するため、先ず、染料と分散剤、例えばリグニンスルホン酸及びナフタリンポリマーを水性系中に均一−混合させた後、ビーズミルまたはプレス
ミル、例えばマイクロフルイダイザー(商品名、アメリカのマイクロフルイディクス社製)を用いて分散させる。その次、微粒子化
(micronization)を経て得られたコロイドを適当に混合させる。かくして得られたコロイドの平均粒径は約150nmである。
【0008】
しかし、このような毎回の分散工程作業から一定した結果を得ることは極めて難しいことである。一定レベル未満の平均粒径を保持するとともに、毎回プロパ
ティ(property)を正確に設定する作業が適切に行わないと、平均粒径よりも大きな粒子がインクジェットヘッドのノズルに充填されることになる。こ
れは生成物の品質低下の原因となり、ゆえに連続的な捺染が不可になる。それとは反対に、分散し過ぎると、小サイズの粒子が過多に増えてしまい、インク性質
の変化をもたらす。さらに、これはインクジェットヘッドにおける吐出安定性(discharge
stability)に変化を誘導する。しかも、超微粒子を保持するためには、多くの機械及び電気エネルギーが入力されなければならない。
【0009】
この種の微細な粒子は、安定性が劣り、僅か6ヶ月の保存安定性(storage
stability)を有し、しかも熱安定性を保ちにくい。このような複雑な工程にもかかわらず分散工程を行う理由は、インクジェットヘッドの特性面にお
いて色濃度(color
density)を上げるにはインクの粘度が極めて低い必要があるからである。従前の分散染料の場合、色濃度を上げるためには染料の量を増やさなければな
らないし、このため、染料の粘度も高くなる。このような染料の粘度上昇を防止するためには、粘度が上がらないように染料がコロイドタイプで存在する必要が
あり、これによりインクへの転換が可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点を解決するために開発されたもので、水性分散工程の非均一性及び製品の品質低下を含む問題点を解決した、均一性に優れた捺
染インク(uniformprinting
ink)を提供する。本発明によれば、ポリエステル、綿、絹、ナイロンなどのような各種の繊維素材、特にその混紡繊維、さらに超極細繊維に至るまで同様に
適用できるインクが、インクジェット捺染の適用可能範囲の拡大を目指して提供される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したように、従来の分散方法の欠点を克服するために、本発明者らはインクジェットヘッドに向いている物理的特性を有する有機溶剤を選択し、該有機溶
剤に溶解できる反応性分散染料を用いてインクジェット捺染用インクを開発した。
【0012】
本発明は、1種以上の有機溶剤と該有機溶剤に溶解できる1種以上の反応性分散染料とからなるインクを用いて様々な紡織繊維(textile
fiber)を捺染する方法及び、このようなインクジェットインクを提供する。
【0013】
本発明によって提供される繊維捺染用インクジェットインクは、発色のための着色剤、該着色剤を溶解させるための第1の溶剤、及び濡れ性(wetting
action)のための第2の溶剤からなる。また、本発明のインクは、捺染特性を調節するために非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤をさらに
含むことができる。
【0014】
本発明に適した染料、すなわち反応性分散染料は、分子量800以下の水不溶性の染料であって、その分子中に繊維の水酸基またはアミン基またはアミド基と
共有結合を形成し得る反応性基、例えば、モノクロロ−1,3,5−トリアジン基、ジクロロ−1,3,5−トリアジン基、卜リクロロ−1,3,5−トリアジ
ン基、ビニールスルホン基、スルファトエチルスルホン基、アクリルアミド基、エチレンイミン基、アジド基、スルホンエチレンイミン基、トリクロロピリミジ
ン基、モノクロロジフロロピリミジン基、クロロベンゾチアゾール基、ジクロロピリダゾン基、ジクロロピリダジン基、ジクロロキノザリン
(dichloroquinozaline)基、エポキシ基、3−カルボキシピリジニオトリアジン(carboxypyridiniotriazine)
基などを有する。とりわけ、特許文献2(アメリカ特許明細書第3974160号)、特許文献3(第4500455号)及び特許文献4(アメリカ特許明細書
第4515716号)、特許文献5(特開平第3−247665号公報)、特許文献6(大韓民国特許第2002−004026号公報)、特許文献7(大韓民
国特許第2002−061916号公報)及び特許文献8(大韓民国特許第2002−0161777号公報)に、その染料が開示されている。
【0015】
前記特許に記載の反応性分散染料は、綿などを含む天然繊維の染色に用いられる反応性染料の特性と合成繊維(特に、ポリエステル)の染色に用いられる分散
染料の特性とを組み合わせたような特性を有し、さらに分散染料の特性を持ちながら同時に分子内に反応性基を含むことから、綿、ポリエステル、絹、羊毛など
を含む各種の繊維に適用できる多機能性を有する。特に、このような染料は混紡繊維の如き捺染しにくい素材の捺染に用いられる。綿−ポリ混紡繊維の場合、浸
染(dip
dyeing)は二つの溶液、すなわち反応性染料の染色溶液と分散染料の染色溶液による二つの染色段階(2−槽(bath)・2−段階法)を経て達成され
るが、これに対して、反応性分散染料は、一回(1−槽・2−段階法)で染色することができる。捺染(インクジェット捺染の場合と同一)の場合、混紡繊維の
処理のためには2種以上のインクを必要とする。しかし、この場合、均一な染色が極めて難しいし、しかも温度調節、表面pH調節などを含む極めて複雑な条件
が必要となる。このような場合、前記特許公報に記載の反応性分散染料を用いてインクジェット捺染を行うと、ただ一段階の工程で捺染ができる。
【0016】
さらに、超極細繊維は一般繊維糸に比べ極めて細いため、その表面積が幾何級数的に増えてしまい。このため、超極細繊維を一般分散染料を用いて染色または
捺染すれば、発色性及び染色堅牢度が低下する。超極細繊維はポリエステル超極細繊維とナイロン/ポリ(以下、「N/P超極細繊維」という)
超極細繊維とに類別される。特に、本発明の反応性分散染料インクをN/P超極細繊維に適用すると、反応性基がナイロンのアミン基と反応し、ファンデルワー
ルス結合(Van del Waals
bond)によってポリエステルに吸着することにより、優れた染色堅牢度を有する捺染製品が得られる。ポリエステル超極細繊維の場合、前述した特許に記載
の染料をもって染色するとき、分散染料に比べて染料の構造からみると極性基が比較的に増加する。よって、この染料は、ポリエステル物質
(polyester
material)中に浸透するよりはポリエステル物質の表面に吸着及び保持され、このため、染料の外観レベル(apparent
level)が上がり、その結果、発色性が改善され、さらに堅牢度が低下しないことを特徴とする。本発明に係るインクの構成成分として用いられる反応性分
散染料の構造は、上述した特許公報に記載されている。これらのうち代表的な幾つかの例を挙げると下記の通りであるが、本発明に用いられる反応性分散染料は
これらに制限されるものではない。
【0017】
【化1】


(黄色)
【0018】
【化2】


(赤色)
【0019】
【化3】


(青色)
【0020】
本発明による溶剤型繊維捺染インク(solvent-type fiber printing
ink)の着色剤として用いられる前記反応性分散染料のインク中の構成比は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜7%、より好ましくは1.5%〜5%であ
る(以下、表示比率はいずれも重量に基づいている)。
【0021】
インクジェットインクに用いられる溶剤は水と有機溶剤に類分できるが、本発明では染料を溶解できる有機溶剤が用いられるべきである。産業分野において通
常インクジェットインクとして使われている有機溶剤には、メチルエチルケトン、メタノール、メチルイソブティルケトンなどがある。この種の産業用インクに
は連続的にインクを吐出するコンティニュアス方式(continuous
mode)が採用されている。この方式によれは、インク溶液を連続的に吐出し、充電電極に電荷を加えることでインクの液滴を分離した後、インク滴の方向を
高電圧偏向電極へコントロールすることにより、低い解像度を有する捺染製品が得られる。捺染に用いられないインクは回収し、密閉インクタンクに集めて再利
用するか、廃棄することができる。コンティニュアス方式のインクに用いられる溶剤は低い沸点と高い揮発性を有するため、ドロップオンデマンド方式
(drop on demand
mode)には適さない。さらに、インクジェットヘッドが速やかに作動するため、溶剤が低い引火点を有するものであってはならない。また、溶剤は極めて低
い粘度を保持するものでなければ、インクジェットヘッドの特性に適さない。本発明に採用されるロップオンデマンド方式によれば、捺染に必要なインク滴のみ
を選択的に吐出するので、高い解像度を有する捺染製品が得られる。さらに、この方式は、インク消費量が少なく、簡単な捺染装置(printing
device)が使用され、少量の電力だけを消費するという利点を有する。特に、本発明に使用される溶剤は、反応性分散染料に存在する反応性基を溶解し得
るものでなければならない。本発明者らは、染料内に存在する特定の反応性基面から反応性分散染料の研究を行ってきており、その結果、極性非プロトン性有機
溶剤(polar aprotic organic
solvents)が反応性分散染料を特に容易に溶解させるということを発見した。また、ジメチルスルホキシド、エチレンカーボネート、ペルクロロエチレ
ン、トリクロロエチレン、ハロゲン化脂肪族炭化水素化合物などを含んで本発明に使用される溶剤は、繊維素材の品質に実質的な影響は与えないほどの少量でポ
リエチレンまたはナイロンなどの繊維織物(fiber
textures)の結晶質部分を溶解させるか、あるいは反応性分散染料が繊維素材にスムーズに吸着するかその繊維素材中で反応できるべく繊維の非結晶質
部分を膨脹させる触媒としての役割を果す。その結果、捺染製品のレベリング(leveling)及び堅牢度を改善することができる。しかし、溶剤は上に挙
げた例に限定されるものではない。
【0022】
したがって、本発明による繊維素材の捺染に用いられるインクジェットインクは、基本構成成分として、下記の特性のいずらか一つを選択的に有する溶剤(第
1の溶剤)を含有する。
【0023】
a)反応性分散染料に対する溶解度が1%以上で、自己粘度(self-viscosity)が0.1cP〜30cPである有機溶剤、または
b)極性半プロトン性有機溶剤、または
c)繊維織物(fiber texture)を少量溶解させるか膨脹機能を発揮し得る有機溶剤
【0024】
前述した特性を有する機溶剤は、例として、1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン、乳酸エチル、ホルムアミド、2−ピロリジノン、N−メチル−2−ピロ
リドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−シクロヘキシルピロリドン、N−ヒドロキシエチルピロリドン、ヘキサメチレン
ホスホルアミド、トリクロロエチレンなどが挙げられるが、これらに局限されるものではない。第1の溶剤の構成比は55%〜99.5%、好ましくは70%
〜99%、より好ましくは80%〜95%である。第1の溶剤は、単一成分にしても、2種以上の溶剤の混合物にしても良い。
【0025】
また、インクジェットプリンターのヘッドに適した溶液流動性を保障し、湿潤性を提供するため、多価アルコールの如き有機溶剤を第2の溶剤として使用でき
る。第2の溶剤の構成比は1%〜30%、好ましくは3%〜20%である。このような多価アルコールは、例として、エチレングリコール、ジエチレングリコー
ル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジ
オール、ヘキシレングリコール、グリセリンなどが挙げられるが、これらに局限されるものではない。また、第2の溶剤は単一成分にしても、2種以上の溶剤の
混合物にしても良い。
【0026】
インクの表面張力を保持するとともに各繊維素材に対する浸透性を調節するため、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤をさらに含むことができ
る。非イオン性界面活性剤は、例として、アルキル鎖に結合しているポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドブロック共重合体、及びフッ素をベースに
する界面活性剤が挙げられ、また、陰イオン性界面活性剤は、例として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム(laurylic
acid sodium)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウムなどが挙げられるが、これらに局限されるものではない。
【0027】
この際、界面活性剤の含有比率は、0.05%〜5%、好ましくは0.1%〜3%、さらに好ましくは0.07%〜1%である。また、界面活性剤は、単一成
分にしても、2種以上の界面活性剤の混合物にしても良い。
【0028】
上述した如き繊維の捺染を行うのに用いられる、溶剤をベースにするインクジェットインクは、従来の方法によって構成成分を混合することにより得られる。
この目的のために、反応性分散染料は、染料製造後に対流乾燥(convection
drying)または真空乾燥、凍結乾燥によって形成された粉末の状態で使用し、このときのインクの水分量は2重量%以内にする必要がある。
【0029】
かくして得られたインクは、通常の表面張力が30〜70dyn/cmで、粘度が1cP〜20cP、好ましくは2cP〜10cP
である。インク溶液のpHは3〜10、好ましくは5〜9である。
【0030】
前記表面張力値は表面張力計Surface Tensiomater21(商品名、フィッシャー・サイエンティフィック社製)を利用して、粘度は粘度計
DV−2+Viscometer(商品名、ブルックフィールド社製)を利用してそれぞれ測定されたものである。得られたインクは、テフロン
(Teflon登録商標)製のメンブランフィルターにてろ過して不純物と溶解性に劣る染料粒子とを除去した上で使用される。
【0031】
得られたインクは、市販されている繊維素材用インクジェットプリンターまたは一般のインクジェットプリンターに充填することにより使用できるようにな
る。本発明のインクが適用できるインクジェットプリンターはいずれかに限定されるものではないが、ピエゾ方式のヘッドを採用したインクジェットプリンター
の方がサーマル方式またはバブルジェット(登録商標)方式のプリンターよりも好まれる。
【0032】
本発明によって捺染できる素材には、ポリエステル織物及び編物、ポリエステル超極細繊維、ポリエステル−ナイロン混紡織物及び編物、N/P超極細繊維織
物、ポリ・綿混紡織物、編物、絹、綿及びビスコースなどを含む各種の素材がある。特に、本発明の目的に適した繊維素材は、各種の混紡繊維及びポリエステル
超極細繊維及びN/P超極細繊維であり、これらから発色及び通常の堅牢度面において優れた捺染製品が得られる。
【0033】
本発明によって作製されたインクを用いて繊維素材を捺染する場合、上記した繊維素材は予め前処理をしなければならない。この前処理段階は、現在の捺染工
場(printing factories)でのように前処理溶液を用いて手動操作やローラ操作の如きパット法(padding
manner)、もしくはインクジェットやスプレー法(spray method)の如きコーティング法(coating
manner)を利用して行うことができる。主成分として現在のスクリーン捺染糊(screen printing
paste)の製造時に構成された糊(例えば、水溶性天然重合体としてのアルギン酸ナトリウム)を用いて前処理溶液の組成物を混合する。しかし、これは前
処理方法によってそれぞれ別々である。
【0034】
このように前処理された繊維素材を本発明によるインクで捺染し、その後、公知の捺染後処理法(printing aftertreatment
mathod)、すなわち蒸熱法、乾燥加熱法(dry
heating)、高温蒸熱法(HTスチーミング法)などで処理することにより、染料を繊維素材にフィックスする。この方法のプロセスは、関連技術分野に
おける周知の方法によって行われる。得られた結果物は、繊維素材の種類に応じて、還元洗浄(reduction
clearing)及びアルカリ洗浄(alkaline
clearing)を行い、中性洗剤で洗浄した後、きれいな水で仕上げ洗浄を行う。その次、裁断及び縫製作業を行い最終的に衣類製品が得られる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、各種繊維、特に混紡繊維及びN/P超極細繊維に至るまで幅広く使用できる捺染インクを提供することができる。また、本発明は、捺染インクの製
造に当たり複雑で難しい分散工程を省略することから、インク製造工程の単純化を図り、しかも優れた発色性と保存安定性を有する捺染インクを提供することが
できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明を実施するための最良の形態は、特許請求の範囲に記載した通りの捺染インクとその製法である。
下記の実施例及び比較実施例は本発明の理解を容易にするためのものであり、別途の説明がない限り、パーセント(%)は重量%を示す。
【0037】
実施例1
インク(A)の製造
前記化学式3の染料(青色) 5%
ジメチルホルムアミド 90%
プロピレングリコール 4%
プルロニック P84 1%
【0038】
前記成分撹を攪拌器で約30分間混合した後、テフロン(登録商標)製の0.45m MFSメンブランフィルター(ADVANTEC
MFS,INC.製)にてろ過し、表面張力33dyn/cm、粘度3.0cPのインク(A)を得た。
【0039】
実施例2
インク(B)の製造
前記化学式3の染料(青色) 4%
ジメチルスルホキシド 85%
ポリエチレングリコール(分子量400) 10%
プルロニック P92 1%
【0040】
前記実施例1と同様にして、前記成分を混合した後、ろ過し、表面張力32dyn/ cm、粘度3.9cPのインク(B)を得
た。
【0041】
比較実施例1
(1) 分散液の製造
C.I.ディスパーズ ブルー 60 20%
ナフタリンホルムアルデヒド共重合体 5%
蒸留水 75%
【0042】
前記成分を適当な容器に入れ、充分に混合して撹拌し、その後、0.5mmの80%ZrO2ビーズで充填したダイノミル(dio-mill)KDL−A
(商品名、スイスのBACHOFEN社製)を12時間循環させてミリングを行い、最終平均粒径155nmの分散液を得た[粒径分析器のゼータプラス(商品
名、BROOKHAVEN INC.製)にて測定]。
【0043】
(2) 水をベースにするインク(C)の製造
前記(1)の分散液(青色) 20%
エチレングリコール 20%
グリセリン 10%
プルロニック L62[BASF社製] 1%
蒸留水 49%
【0044】
前記成分を撹拌基で充分に撹拌した後、ポアサイズ(pore size)1.0のメンブランフィルターにてろ過を行い、表面張力40dyn/cm
粘度5.0cPのインク(C)を得た。
【0045】
比較実施例2
(1)分散液の製造
前記化学式3の染料(青色) 20%
リグニンスルホン酸 5%
蒸留水 75%
【0046】
前記比較実施例1の(1)と同様にして、前記成分を分散し、最終平均粒径155nmの分散液を得た。
【0047】
(2) 水をベースにするインク(D)の製造
前記(1)の分散液 20%
エチレングリコール 20%
グリセリン 10%
プルロニック L62[BASF社製] 1%
蒸留水 49%
【0048】
前記比較実施例1の (2)と同様にして、前記成分をろ過し、表面張力35dyn/ cm、粘度4.8cPのインク(C)を得
た。
【0049】
実験1
前記実施例1と実施例2及び比較実施例1と比較実施例2によって作製されたインクを用いて、Epson Stylus Color3000プリンター(商
品名、EPSON
INC.製)を利用してそれぞれ絹、綿、ポリエステル、ポリエステル超極細繊維及びN/P超極細繊維を捺染した。次いで、該捺染製品の絹及び綿のそれぞれ
を20分及び10分間102℃で蒸熱処理し、その後、洗浄、乾燥を行い、最終捺染製品を得た。ポリエステル、ポリエステル超極細繊維及びN/P超極細繊維
の場合、捺染後、オーブンにて10分間175℃で乾燥加熱処理を行い、還元洗浄、次に乾燥させることにより、捺染製品を得た。かくして得られた関連結果を
下記の表1に示す。実験値であるOD及びΔE*の定義は表1の下で説明し、この値はSpectrodensitrometer530(商品名、X-
RITE,INC.製)を用いて得られた。
【0050】
【表1】

【0051】
注)
(1) OD: OD= −log10として計算される光学密度。値が大きいほど色調が高い。
(2) △E: E−E(E1
捺染前に前処理されたオリジナル素材のE値であり、Eは捺染後に後処理工程の
終了時のE値である。)
【0052】
値は√{(L)+(A)+(B)}として表現さ
れる。ここで、Lは数値で表現される明度の固有値(intrinsic
value)であり、aは数値で表現されるレッド/グリーングレード(red/green
grade)の色の固有値であり、bは数値で表現されるブルー/イエローグレード(blue/yellow
grade)の色の固有値である。よって、△E値が高いほど色の相対的色調が高くなる。
【0053】
以上からわかるように、本発明によって作製されたインクから得られるインクジェット捺染製品(printed
products)は、比較実施例によって作製されたインクから得られる捺染製品(printed materials)に比べて高い発色性を有する。
【0054】
実施例3
インク(E)の製造
前記化学式1の染料(黄色) 2%
ジメチルスルホキシド 90%
エチレングリコール 7%
プルロニック P62 1%
【0055】
前記実施例1と同様にして、前記成分を混合した後、ろ過し、表面張力35dyn/ cm、粘度3.5cPのインク(E)を得
た。
【0056】
実施例4
インク(F)の製造
前記化学式1の染料(黄色) 1.5%
1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン 67.5%
N−メチルピロリドン 20%
ポリエチレングリコール(分子量400) 10%
プルロニック L92 1%
【0057】
前記実施例1と同様にして、前記成分を混合した後、ろ過し、表面張力33dyn/ cm、粘度3.9cPのインク(F)を得
た。
【0058】
比較実施例3
(1) 分散液の製造
前記化学式1の染料(黄色) 20%
リグニンスルホン酸 5%
蒸留水 75%
【0059】
前記比較実施例1の(1)と同様にして、前記成分を分散し、最終平均粒径155nmの分散液を得た。
【0060】
(2) 水をベースにするインク(G)の製造
前記(1)の分散液(青色) 10%
エチレングリコール 20%
グリセリン 10%
プルロニック L72[BASF社製] 1%
蒸留水 59%
【0061】
前記比較実施例1の(2)と同様にして、ろ過を行い、表面張力40dyn/ cm、粘度4.3cPのインク(G)を得た。
【0062】
実験2
前記実施例3と実施例4及び比較実施例3によって作製されたインクのそれぞれを、実験1と同様にして処理することにより、捺染製品を得た。得られた結果は
下記の表2に示す。インクの種類を除いた他の条件及び関連素材は表1と同様である。
【0063】
【表2】

【0064】
以上からわかるように、本発明によって作製されたインクから得られるインクジェット捺染製品は、比較実施例によって作製されたインクから得られる捺染製
品に比べて高い発色性を有する。
【0065】
実施例5
インク(H)の製造
前記化学式1の染料(赤色) 5%
N−メチルピロリドン 90%
ポリエチレングリコール(分子量400) 4%
プルロニック F108 1%
【0066】
前記実施例1と同様にして、前記成分を混合した後、ろ過し、表面張力31dyn/ cm、粘度4.5cPのインク(H)を得
た。
【0067】
実施例6
インク(I)の製造
前記化学式2の染料(赤色) 4%
1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン 65%
N−メチルピロリドン 20%
ポリエチレングリコール(分子量400) 10%
プルロニック L72 1%
【0068】
前記実施例1と同様にして、前記成分を混合した後、ろ過し、表面張力30dyn/ cm、粘度4.5cPのインク(I)を得
た。
【0069】
実施例7
インク(J)の製造
前記化学式2の染料(赤色) 4%
1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン 65%
N,N−ジメチルアセトアミド 20%
ポリエチレングリコール(分子量400) 10%
プルロニック L92 1%
【0070】
前記実施例1と同様にして、前記成分を混合した後、ろ過し、表面張力32dyn/ cm、粘度4.6cPのインク(J)を得
た。
【0071】
実施例8
インク(K)の製造
前記化学式2の染料(赤色) 4%
乳酸エチル 65%
N−メチルピロリドン 20%
ポリエチレングリコール(分子量400) 10%
プルロニック L35 1%
【0072】
前記実施例1と同様にして、前記成分を混合した後、ろ過し、表面張力30dyn/ cm、粘度4.0cPのインク(K)を得
た。
【0073】
比較実施例4
(1) 分散液の製造
前記化学式2の染料(赤色) 20%
ナフタリンホルムアルデヒド共重合体 5%
蒸留水 75%
【0074】
前記比較実施例1の(1)と同様にして、前記成分を分散し、最終平均粒径140nmの分散液を得た。
【0075】
(2) 水をベースにするインク(L)の製造
前記(1)の分散液(青色) 20%
エチレングリコール 20%
グリセリン 10%
プルロニック L108[BASF社製] 1%
蒸留水 49%
【0076】
前記比較実施例1の (2)と同様にして、前記成分をろ過し、表面張力33dyn/ cm、粘度5.1cPのインク(L)を得
た。
【0077】
実験3
前記前記実施例5〜8及び比較実施例4によって作製されたインクのそれぞれを、実験1と同様にして処理することにより、捺染製品を得た。得られた結果は
下記の表3に示す。インクの種類を除いた他の条件及び関連素材は表1と同様である。
【0078】
【表3】

【0079】
以上からわかるように、本発明によって作製されたインクから得られるインクジェット捺染製品は、比較実施例によって作製されたインクから得られる捺染製
品に比べて高い発色性を有する。
【0080】
実験4
前記実施例及び比較実施例によって作製されたインクのそれぞれを密閉容器に入れ 、室温(25℃)で30日、90日及び180日間保存した後、保存安定
性に対して観察した。得られた結果は下記の表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
◎ : 凝集なし、粘度増加なし
○ : 若干の凝集、平均粒径200nm未満
△ : 少量の凝集、平均粒径200nm〜300nm
× : 多量の凝集、平均粒径300nm超過
【0083】
前記結果から、比較実施例1〜4による水をベースにするインクは保存安定性が低下し、実施例1〜8のインクは極めて安定した状態を保持するということが
分かる。
【0084】
以上からわかるように、本発明によって作製されたインクから得られるインクジェット捺染製品は、比較実施例によって作製されたインクから得られる捺染製
品に比べて高い発色性を有する。
【0085】
以上、本発明を好適な実施例に基づいて説明したが、本発明は、捺染インクの製造において安定したコロイドを得るための分散段階を省略できるインク製造方
法及びそのインクを特徴とするもので、上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の以下の事項によって特定される。
【0086】
本発明は、請求項1に記載した通り、インクジェット捺染インクにおいて、反応性分散染料と前記染料を溶解し得る溶剤とよりなり、前記反応性分散染料は、
水不溶性であり、800以下の分子量を有し、繊維素材内に存在する水酸基またはアミド基と共有結合可能な反応性基を有することを特徴とするインクジェット
捺染インクとして実現できる。
【0087】
本発明は、請求項2に記載した通り、前記反応性分散染料0.5〜10重量%と、前記染料を溶解できる溶剤90〜99.5%とよりなることを特徴とする請
求項1記載のインクジェット捺染インクとすることができる。
【0088】
本発明は、請求項3に記載した通り、2〜30個の炭素原子を有する多価アルコールをさらに含み、前記反応性分散染料0.5〜10重量%と、前記染料を溶
解できる溶剤60〜98.5% 重量と、
炭素原子2〜30個の多価アルコール1〜30重量%とよりなることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染インクとすることができる。
【0089】
本発明は、請求項4に記載した通り、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤をさらに含み、前記反応性分散染料0.5〜10重量%と、前記染料
を溶解できる溶剤55〜98.45 重量%と、
炭素原子2〜30個の多価アルコール1〜30重量%と、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤0.05〜5重量%とよりなることを特徴とする請
求項1記載のインクジェット捺染インクとすることができる。
【0090】
本発明は、請求項5に記載した通り、非染料を溶解し得る溶剤は、a)反応性分散染料に対する溶解度が1%以上で、自己粘度(self-
viscosity)が0.1cP〜30cPである有機溶剤、b)極性半プロトン性有機溶剤、及びc)繊維織物を少量溶解させるか膨潤機能を発揮し得る有
機溶剤よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染インクとすることができる。
【0091】
本発明は、請求項6に記載した通り、表面張力30〜70dyn/ cm、粘度1cP〜20cP、pH3〜10であることを特徴
とするインクの製造方法において、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の各構成成分を混合する段階を含む製造方法として実現できる。
【0092】
本発明は、請求項7に記載した通り、インクジェット方式で繊維素材にインクを加える段階と固定段階と洗浄段階を含むインクジェット捺染方法において、前
記インクは、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット捺染方法とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、均一性に優れた捺染インクの利用を提供する。各種繊維、特に混紡繊維及びN/P超極細繊維に至るまで幅広く使用できる捺染インクの利用をを提
供する。製造に当たり複雑で難しい分散工程を省略することから、インク製造工程の単純化を図り、しかも優れた発色性と保存安定性を有する捺染インクの利用
を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット捺染インクにおいて、
反応性分散染料と前記染料を溶解し得る溶剤とよりなり、
前記反応性分散染料は、水不溶性であり、800以下の分子量を有し、繊維素材内に存在する水酸基またはアミド基と共有結合可能な反応性基を有することを
特徴とするインクジェット捺染インク。
【請求項2】
前記反応性分散染料0.5〜10重量%と、前記染料を溶解できる溶剤90〜99.5%とよりなることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染イン
ク。
【請求項3】
2〜30個の炭素原子を有する多価アルコールをさらに含み、
前記反応性分散染料0.5〜10重量%と、前記染料を溶解できる溶剤60〜98.5%
重量と、炭素原子2〜30個の多価アルコール1〜30重量%とよりなることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染インク。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤をさらに含み、
前記反応性分散染料0.5〜10重量%と、前記染料を溶解できる溶剤55〜98.45%重量と、炭素原子2〜30個の多価アルコール1〜30重量%と、
非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤0.05〜5重量%とよりなることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染インク。
【請求項5】
染料を溶解し得る溶剤は、(a)反応性分散染料に対する溶解度が1%以上で、自己粘度(self-viscosity)が0.1cP〜30cPである有
機溶剤、(b)極性半プロトン性有機溶剤、及び(c)繊維織物を少量溶解させるか膨潤機能を発揮し得る有機溶剤よりなる群から選ばれることを特徴とする請
求項1記載のインクジェット捺染インク。
【請求項6】
表面張力30〜70dyn/cm、粘度1cP〜20cP、pH3〜10であることを特徴とするインクの製造方法において、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の各構成成分を混合する段階を含む製造方法。
【請求項7】
インクジェット方式で繊維素材にインクを加える段階と固定段階と洗浄段階を含むインクジェット捺染方法において、
前記インクは、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット捺染方法。

【公表番号】特表2006−519888(P2006−519888A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500656(P2006−500656)
【出願日】平成16年3月6日(2004.3.6)
【国際出願番号】PCT/KR2004/000475
【国際公開番号】WO2004/079079
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(505335441)インクテック カンパニー リミテッド (19)
【Fターム(参考)】