説明

多段式インパルス電圧発生装置

【課題】 従来の多段式インパルス電圧発生装置を用いて、積み上げられた充放電回路の途中段までの回路のみを使用する場合、最上段に設けられたシールドと電圧引出し線に接続した放電ギャップとの距離が離れるため、その絶縁性能が低下するという課題を有していた。
【解決手段】 シールド50を充放電回路10の積み上げ方向に移動できるようにすることにより、電圧引出し線70に接続した放電ギャップG周辺の位置までそのシールド50を移動し、放電ギャップG周辺の絶縁性能の低下をなくせるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば高電圧電力機器の雷インパルス電圧試験等に用いられる多段式インパルス電圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多段式インパルス電圧発生装置は、電荷を蓄える充電素子であるコンデンサ、抵抗ならびに放電ギャップ等からなる充放電回路を多段に積み上げたものである。各段のコンデンサに電荷を充電した後、各段の放電ギャップで放電を同時に発生させることから高電圧のインパルス電圧を得る。雷インパルス電圧試験等の各種の試験においては、規格等で決められた所定の波形形状をしたインパルス電圧の発生が要求される。既存の多段式インパルス電圧発生装置では、各充放電回路のコンデンサの容量、充電時のコンデンサへの印加電圧、抵抗値等を適宜調整すること、ならびに特定の段数以上の充放電回路への結線を変更し、充電できなくすることで実質的な低段数化を行い、所定の波形形状を実現している(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−149857号公報(段落0002、段落0008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多段式インパルス電圧発生装置の全段のコンデンサを用いたインパルス電圧発生では、装置頭頂部周辺の電位が最大になり、電界集中による気中絶縁破壊が起こりやすくなる。そのため従来の多段式インパルス電圧発生装置では、上記電界集中の緩和のため装置頭頂部にトロイダル形状、ドーナッツ形状、あるいは複数のポリコーンをリング形状等にした導電性のシールドが設置される。ところが、多段式インパルス電圧発生装置の結線を変更して、途中の段までの充放電回路を使用する場合、そのときの途中最上段の充放電回路に組込まれた放電ギャップに電圧引出し線がつながれ、その放電ギャップ周辺の電位が最大となるので、シールドが機能しにくくなる。すなわち、最大電位となる放電ギャップとシールドとの位置関係が使用段数を減らしたぶんだけ離れるため、シールドによる電界集中の緩和効果が減り、絶縁性能が低下するという課題を有している。
【0005】
本発明は上記の課題を解決し、例え多段式インパルス電圧発生装置の結線を変更し、使用する充放電回路の段数を減らしても、絶縁性能の低下しない多段式インパルス電圧発生装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多段式インパルス電圧発生装置は、充電素子を備えた充放電回路を多段に積み上げ、その充放電回路への電界集中を緩和するシールド設けた装置であって、前記シールドが前記充放電回路の積み上げ方向に移動可能とした点を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成された本発明の多段式インパルス電圧発生装置は、シールドを充放電回路の積み上げ方向に移動できるようにしたため、最大電位となる充放電回路の周辺にシールドを移動できるようになる。従って、例え多段式インパルス電圧発生装置の充放電回路の使用段数を減らして使用する場合であっても、絶縁性能の低下しない多段式インパルス電圧発生装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態1について詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態1の多段式インパルス電圧発生装置の概略構成を示した断面図である。図2は本発明の多段式インパルス電圧発生装置を高電圧電力機器等の被試験対象物に取付けた時の試験回路図である。図3は本発明の多段式インパルス電圧発生装置を用いてインパルス電圧を発生させたときの等電位線分布と電界強度分布を示すシミュレーション結果である。なお、図1ないし図3中において、同一部分ないし相当部分には同一符号を付与している。
【0009】
図1(a)に本発明の多段式インパルス電圧発生装置100の充放電回路の全段(10段)を使用したときの概略構成を示す。多段式インパルス電圧発生装置100の各充放電回路10は、絶縁製の絶縁架台20の内側に多段に積み上げられ、10段ともに結線され、各段全てのコンデンサに充電されるようになっている。なお、充放電回路の構成とその接続については後で詳細に説明する。絶縁架台20の最上部には複数の滑車30が取付けられ、それぞれの滑車30上にロープ40が配置されている。その各ロープ40の一端にはドーナッツ形状のシールド50が取付けられ、もう一方の他端にはウインチ60が取付けられている。また、シールド50は、そのドーナッツ孔の内側を前記絶縁架台20が貫通するよう複数のロープ40で各滑車30を支点に吊り下げられ、そしてそれぞれのロープ40の他端側に取付けられたウインチ60の巻上げ、巻降ろしによって上下移動できるようになっている。すなわち、シールド50は絶縁架台20の内側の充放電回路の積み上げ方向に沿って移動可能である。なお、ここでのシールド50は、最上段の充放電回路10とほぼ等しい高さに配置されている。多段に積み上げられた最上部の充放電回路10の図示しない放電ギャップの一端には、電圧引出し線70が取付けられ、インパルス電圧を取り出せるようになっている。また、電圧引出し線70は前記シールド50に支持させることが可能になっており、合わせてこの電圧引出し線70との接続により放電ギャップとほぼ同じ電位を保てるようになっている。
【0010】
図1(b)に充放電回路の途中の7段まで使用したときの本発明の多段式インパルス電圧発生装置100の概略構成を示す。充放電回路10は、絶縁架台20の内側に多段に積み上げられ、1段目から途中の7段目まで結線され、それぞれのコンデンサに充電されるようになっている。ただし、7段目以上の充放電回路10のコンデンサへは充電されないようにしている。なお、図1では充電可能なコンデンサを持つ充放電回路10を斜線で、充電されないようにしたコンデンサを持つ充放電回路10を白抜きで表現している。シールド50は、図1(a)と同様に複数のロープ40で各滑車30を支点に吊り下げられ、途中の7段目の充放電回路10とほぼ等しい高さに移動・配置されている。7段目の充放電回路10に取付けられた図示しない放電ギャップには、電圧引出し線70が取付けられ、インパルス電圧が取り出されるようになっており、合わせてこの電圧引出し線70により放電ギャップとほぼ同じ電位を保てるようにしている。
【0011】
図2(a)は、図1(a)の多段式インパルス電圧発生装置100を高電圧電力機器等の被試験対象物に取付けた時の試験回路である。多段式インパルス電圧発生装置100の最上段の充放電回路10の放電ギャップGの一端に電圧引出し線70が接続され、波頭調整用抵抗Rsと放電抵抗Roを介して、被試験対象物のコンデンサCoにインパルス電圧を加えられるようになっている。なお、図に示すように本発明の多段式インパルス電圧発生装置100は、充電コンデンサC、充電抵抗R、制動抵抗rおよび放電ギャップGから構成される各充放電回路10のそれぞれの充電抵抗Rを直列の関係に接続したものである。また、シールド50は、10段目の充放電回路10とほぼ同じ高さ位置に配置され、その放電ギャップGとほぼ同電位に保たれるようにしている。
【0012】
図2(b)は、図1(b)の多段式インパルス電圧発生装置100を高電圧電力機器等の被試験対象物に取付けた時の試験回路である。多段式インパルス電圧発生装置100の7段目の充放電回路10の放電ギャップGの一端に電圧引出し線70が接続され、波頭調整用抵抗Rsと放電抵抗Roを介して、被試験対象物のコンデンサCoにインパルス電圧を加えられるようになっている。なお、図に示すように本発明の多段式インパルス電圧発生装置100のシールド50は、各ウインチ60に接続した複数のロープ40を巻降ろすことによって、7段目の充放電回路10とほぼ同じ高さ位置まで移動され、また、7段目の充放電回路10の放電ギャップGとほぼ同じ電位に保たれるようにしている。
【0013】
図3は本発明の多段式インパルス電圧発生装置100を用いてインパルス電圧を発生させたときの装置右側周辺の等電位線分布と電界強度分布を示すシミュレーション結果である。図3において、横軸は多段式インパルス電圧発生装置からの水平方向の距離であり、縦軸は垂直方向の高さである。また、図中の各曲線Vはそれぞれ等電位線を示し、シールド50上の電位が最も高く等電位に保たれ、シールド50から離れるに伴い低電位になっている。各矢印Eは多段式インパルス電圧発生装置100表面の電界強度分布である。個々の矢印Eの向く方向は電界の方向であり、その長さは電界強度に対応している。また、充電されたコンデンサを持つ充放電回路10を斜線で、充電されていないコンデンサを持つ充放電回路10を白抜きで表現している。
【0014】
図3(a)は全段の充放電回路10を用いたときのシミュレーション結果である。このとき、シールド50は最上段の充放電回路10の周辺に設置している。このとき電界強度Eが最も強くなる部位は、シールド50上の水平方向の端部である。図3(b)は、7段目までの充放電回路10を使用し、実質的な使用段数を減らしたときのシミュレーション結果である。ただし、シールド50は、従来の装置と同様に最上段の充放電回路10の周辺に設置している。このとき電界強度Eが最も強くなるのは、7段目の充放電回路10上であり、その電界強度は図3(a)の最大値よりも強くなっている。図3(c)は、図3(b)と同様に7段目までの充放電回路10を使用し、シールド50を7段目の充放電回路10の周辺にまで移動した時のシミュレーション結果である。このとき電界強度Eが最も強くなっているのは、シールド50上の水平方向の端部である。その端部での電界強度は、図3(a)のシールド50上の端部での最大値よりも弱くなっている。これはシールド50を7段目の充放電回路10の周辺まで移動させたことにより、多段式インパルス電圧発生装置100表面で発生する電界集中を緩和し、電界強度Eの最大値も低下したことによる。なお、図3(b)、(c)においては、8段目ないし10段目のコンデンサは充放電に関与しないように結線されている。また、充放電回路10の7段目の電位は、シールド50とほぼ等しくなるように結線されている。
【0015】
上記のように構成された本発明の多段式インパルス電圧発生装置100は、シールド50を充放電回路10の積み上げ方向に移動できるようにしたため、最大電位となる充放電回路10の周辺にシールド50を移動させることができ、例え多段式インパルス電圧発生装置100の充放電回路10の使用段数を減らす場合であっても、絶縁性能を低下させずにすむ装置であることがわかる。なお、本実施の形態1では、シールド50の移動をロープ40につなげたウインチ60による巻降ろしないし、巻上げで実施したが、例えば絶縁架台20に絶縁性のチェーンやギヤ等を設け、それにシールド50をかみ合わせ接続することで移動できるようにしても良く、同様に他の如何なる移動手段でシールドを移動させても同様の効果が得られることは明らかである。また、本実施の形態1では放電ギャップを備えた充放電回路10を用いたが、他の例えばサイリスタ等のスイッチングデバイスを用いた充放電回路であってもよく、またその回路構成において用いる各素子・デバイスの結線を直列ないし並列にしてもよく、すなわち充放電の可能な回路でありさえすれば、同様の効果を得ることができることは明らかである。また、本実施の形態1では、ドーナッツ形状のシールド50を用いたが、他の例えばトロイダル形状あるいは複数のポリコーンをリング形状にしたシールドであってもよく、更にシールド効果を有するものであれば如何なる形状のものであっても、同様の効果を得ることができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多段式インパルス電圧発生装置の断面図である。
【図2】本発明の多段式インパルス電圧発生装置の試験回路図である。
【図3】本発明の多段式インパルス電圧発生装置のシミュレーション結果である。
【符号の説明】
【0017】
10 充放電回路 50 シールド
70 電圧引出し線 100 多段式インパルス電圧発生装置
G 放電ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電素子を備えた充放電回路を多段に積み上げ、その充放電回路への電界集中を緩和するシールド設けた装置であって、前記シールドが前記充放電回路の積み上げ方向に移動可能としたことを特徴とする多段式インパルス電圧発生装置。
【請求項2】
多段式インパルス電圧発生装置の高電圧を引き出す電圧引出し線に接続された放電ギャップの電位とシールドの電位が、ほぼ等電位になるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の多段式インパルス電圧発生装置。
【請求項3】
シールドに電圧引出し線を支持させたことを特徴とする請求項2に記載の多段式インパルス電圧発生装置。
【請求項4】
放電ギャップに接続した電圧引出し線により、シールドの電位を前記放電ギャップの電位とほぼ等電位になるようにしたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の多段式インパルス電圧発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−131071(P2009−131071A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304276(P2007−304276)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】