説明

多相一体型平滑リアクトル

【課題】平滑化を図るためのリアクトル素子の軽量化を図ることができる。
【解決手段】平滑化を図るための多相一体型平滑リアクトルにおいて、複数個のリアクトル素子から構成され、前記リアクトル素子は、環状に配置され、前記リアクトル素子から発生する磁束の方向はそれぞれ同じであり、前記リアクトル素子間を磁束が循環する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多相一体型平滑リアクトル、特に、例えば、電車の電源回路用多相チョッパ装置に用いられる、平滑化を図るためのリアクトル素子の軽量化を図ることができる多相一体型平滑リアクトルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブレーキ時の回生電気エネルギーの有効利用を目的とした架線ハイブリッド電車が開発された。架線ハイブリッド電車とは、走行に必要な電力を、架線と車載蓄電装置とから同時に供給することが可能な電車であり、車載蓄電装置のパワーやエネルギー量次第で無架線区間での架線レス走行が可能な電車である。
【0003】
このような架線ハイブリッド電車において、主電動機等の電源回路には、チョッパ装置が用いられている。そして、チョッパ装置を多相化することによりチョッパによるリプル電流の抑制を図っていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4に、三相チョッパ装置におけるチョッパ回路の一例を示す。図4において、1、2、3は、平滑化を図るためのリアクトル素子であり、図4に示すように、互いに間隔をあけて平行に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−340561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、例えば、架線ハイブリッド電車における、主電動機等の電源回路に用いられるチョッパ装置は、これを多相化することによりチョッパによるリプル電流の抑制を図っていたが、多相化することによって、平滑化を図るためのリアクトル素子の搭載数が増加し、これによるリアクトルの重量増加により車体重量が増加するといった問題があった。架線ハイブリッド電車に限らず、省エネの観点から車体の軽量化が望まれている。
【0007】
そこで、本願発明者等は、多相チョッパ装置等における平滑化を図るためのリアクトル素子の軽量化を図るべく、鋭意検討を重ねた。この結果、以下のような知見を得た。
【0008】
例えば、三相の場合のスイッチング回路の電圧方程式は、A相、B相、C相がonの場合、下式により表される。
【0009】
【数1】

【0010】
なお、上記式において、振幅Aとは、図5に示すものである。
【0011】
上記式4からリプルの振幅Aは、リアクトル素子の自己インダクタンス(L)と相互インダクタンス(M)との和の逆数に比例することが分かる。そこで、リアクトル素子の相互インダクタンス(M)を有効に活用して、実質的なインダクタンスを高くすることができるようにリアクトル素子を配置すれば、リプル電流の振幅Aを小さくすることができる。換言すれば、リプル電流の振幅Aを一定とすれば、リアクトル素子のコイルの巻数を減少させることができ、この結果、リアクトル素子の軽量化を図ることができる。従って、例えば、多相チョッパ装置を搭載した電車の場合には、リアクトルの軽量化が図れるので、車体重量の軽減化を図ることができる。
【0012】
この発明は、上記知見に基づきなされたものであり、複数個のリアクトル素子を環状に配置することによって、相互インダクタンスを増加させ、かくして、リアクトル素子の軽量化を図ることができる多相一体型平滑リアクトルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、下記を特徴とする。
【0014】
請求項1に記載の発明は、平滑化を図るための多相一体型平滑リアクトルにおいて、複数個のリアクトル素子から構成され、前記リアクトル素子は、環状に配置され、前記リアクトル素子から発生する磁束の方向はそれぞれ同じであり、前記リアクトル素子間を磁束が循環することに特徴を有する。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の多相一体型平滑リアクトルにおいて、前記リアクトル素子は、円弧状に形成されていることに特徴を有する。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の多相一体型平滑リアクトルにおいて、前記リアクトル素子は、等間隔をあけて配置されていることに特徴を有する。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の多相一体型平滑リアクトルは、電車の電源回路用多相チョッパ装置に用いられることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、それぞれ同じ方向に磁束が発生する複数個のリアクトル素子を環状に配置して、リアクトル素子間を磁束を循環させることによって、実質的なインダクタンスが増加し、かくして、リアクトル素子の軽量化によりリアクトルの軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の多相一体型平滑リアクトルにおけるリアクトル素子の配置を示す平面図である。
【図2】この発明の多相一体型平滑リアクトルにおけるリアクトル素子の他の配置を示す平面図である。
【図3】従来のリアクトル素子の配置例を示す平面図である。
【図4】多相チョッパ装置におけるチョッパ回路の一例を示す回路図である。
【図5】振幅Aの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の多相一体型平滑リアクトルの一実施態様を、三相の場合を例にあげて、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、この発明の多相一体型平滑リアクトルにおけるリアクトル素子の配置を示す平面図である。
【0022】
図1に示すように、この発明の多相一体型平滑リアクトルは、平滑化を図るための3個のリアクトル素子1、2、3からなり、リアクトル素子1、2、3は、それぞれ円弧状に形成されていると共に、環状に等間隔をあけて配置され、しかも、リアクトル素子1、2、3から発生する磁束の方向は、それぞれ同じである。
【0023】
このように、それぞれ同じ方向に磁束が発生する、円弧状に形成されたリアクトル素子1、2、3を環状に等間隔をあけて配置することによって、発生する磁束は、各リアクトル素子間を循環するので、相互インダクタンスが増加する。この結果、上述したリプル電流の振幅Aを表す式4において、実質的なインダクタンスを表す(L+2M)の値が増加する。従って、リプル電流の振幅Aを一定とすると、リアクトル素子のコイルの巻数を減少させることができ、この結果、リアクトルの軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0024】
次に、この発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
【0025】
図1に示すように、3個の円弧状リアクトル素子を環状に等間隔をあけて配置した場合、図2に示すように、3個の直線状リアクトル素子を三角形状に等間隔をあけて配置した場合の各々について、各リアクトル素子を同一条件で励磁したときの自己インダクタンス(L)、相互インダクタンス(M)、実質的インダクタンス(L´:L+2M)を求めた。図1および図2の配置において、リアクトル素子から発生する磁束の方向はそれぞれ同じである。各リアクトル素子の寸法と間隔は、図示の通りであった。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1において、TYPE1−Aは、図1に示す配置でコイルの巻数が多い場合、TYPE1−Bは、図2に示す配置でコイルの巻数が多い場合、TYPE2−Aは、図1に示す配置でコイルの巻数が少ない場合、TYPE2−Bは、図2に示す配置でコイルの巻数が少ない場合である。TYPE1とTYPE2において、コイルの巻数と長さは表2に示す通りであった。
【0028】
【表2】

【0029】
比較のために、図3に示すように、3個の直線状リアクトル素子1、2、3を互いに平行に等間隔をあけて配置した場合について、自己インダクタンス(L)、相互インダクタンス(M)、実質的インダクタンス(L´:L+ΣM)を求めた。図4に示す配置は、従来の配置である。リアクトル素子から発生する磁束の方向はそれぞれ同じである。各リアクトル素子の寸法と間隔は、図示の通りであった。その結果を表3に示す。コイルの巻数と長さは表2のTYPE1であった。
【0030】
【表3】

【0031】
表1から明らかなように、3個の円弧状リアクトル素子を環状に等間隔をあけて配置した場合は、3個の直線状リアクトル素子を三角形状に等間隔をあけて配置した場合に比べて実質的インダクタンス(L´:L+2M)が増加している。しかも、3個の円弧状リアクトル素子を環状に等間隔をあけて配置した場合は、コイルの巻数を10%減少させたにもかかわらず、実質的なインダクタンスは4mHを超えている。
【0032】
すなわち、3個の円弧状リアクトル素子を環状に配置した場合、実質的インダクタンスは、図3に示す配置の場合の3.56mHを超えている。従って、従来の実質的インダクタンス3.56mHを維持すればいい場合には、3個の円弧状リアクトル素子を環状に等間隔をあけて配置すれば、コイルの巻数を減少させることができ、その分、リアクトル素子の軽量化が図れ、この結果、リアクトルの軽量化を図ることができることが分かった。
【0033】
なお、3個の直線状リアクトル素子を三角形状に等間隔をあけて配置した場合であっても、TYPE1−Bでは、実質的インダクタンスは、図3の配置の場合の実質的インダクタンス3.56mH以上の3.88mHである。従って、設置スペースの関係上、リアクトル素子を環状に配置することができないような場合には、リアクトル素子を三角形状に配置しても良い。
【0034】
以上は、三相の場合であるが、二相あるいは四相以上であっても良い。また、この発明の多相一体型平滑リアクトルは、多相チョッパ装置以外に、軽量化を図る必要性がある他のリアクトルに適用しても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1:リアクトル素子
2:リアクトル素子
3:リアクトル素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑化を図るための多相一体型平滑リアクトルにおいて、
複数個のリアクトル素子から構成され、前記リアクトル素子は、環状に配置され、前記リアクトル素子から発生する磁束の方向はそれぞれ同じであり、前記リアクトル素子間を磁束が循環することを特徴とする多相一体型平滑リアクトル。
【請求項2】
前記リアクトル素子は、円弧状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の多相一体型平滑リアクトル。
【請求項3】
前記リアクトル素子は、等間隔をあけて配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の多相一体型平滑リアクトル。
【請求項4】
電車の電源回路用多相チョッパ装置に用いられることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の多相一体型平滑リアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−192682(P2010−192682A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35553(P2009−35553)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発委託事業/高放熱充放電変換器と軽量スケルトンパネルによる省エネ車両技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】