説明

多結晶シリコンの製造方法、製造装置及び多結晶シリコン

【課題】高圧かつ原料大量供給の条件で、ロッドの溶断を防ぎつつ高い成長速度と収率でシリコンロッドを大径に成長させる。
【解決手段】反応炉内のシリコン芯棒に通電してシリコン芯棒を発熱させ、シリコン芯棒にクロロシラン類を含む原料ガスを供給することにより、シリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させロッドとして成長させる多結晶シリコンの製造方法において、高圧で原料ガスを大量に供給する条件で、シリコン芯棒への電流の調整により表面温度を所定の範囲に維持すると共に、ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達するまで単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を所定範囲内に維持しながら原料ガスを供給する前半工程と、ロッド径に応じて予め定めておいた電流値に設定するとともに単位表面積当たりの原料ガス供給量を低下させることで、ロッドの表面温度と中心温度を所定温度に維持する後半工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造方法、多結晶シリコンの製造装置及びその製造方法によって製造された多結晶シリコンに関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンの製造方法としては、シーメンス法による製造方法が知られている。この多結晶シリコンの製造方法では、反応炉内に種棒となるシリコン芯棒を多数立設して通電加熱しておき、この反応炉にクロロシランガスと水素ガスとを含む原料ガスを供給して、加熱したシリコン芯棒に接触させ、その表面に原料ガスの熱分解もしくは水素還元によって多結晶シリコンを析出させ、ロッド状に成長させる方法である。この場合、シリコン芯棒は2本ずつ組み合わせられ、その上端部が同じシリコン製の連結棒により連結状態とされることにより、逆U字状又はΠ字状に構築される。
このような多結晶シリコンの製造方法において、シリコンの成長速度を速める方法のひとつに原料供給量を増加させる方法がある。
【0003】
特許文献1によると、原料ガスの供給量が少ないと多結晶シリコンの析出が不十分になると記載されており、原料ガスの供給を十分に行うことでシリコンの成長速度を高められる。なお、特許文献1では、ロッドの単位表面積当たりの原料ガス供給量を3.5×10−4〜9.0×10−4mol/cmminの範囲に管理することが記載されている。
一方、原料ガスを過剰に供給すると、多結晶シリコンの析出反応に寄与する原料ガスの割合が減少するので、原料あたりの多結晶シリコンの生成量(収率)が低下し好ましくない。
そこで、反応炉の圧力を上げる条件で原料供給量を増加させ、収率の低下を抑えながら、成長速度を増加させることが考えられる。特許文献2には1〜16バール、好ましくは4〜8バールの圧力でシリコンを製造することが記載されている。また、特許文献3には、シーメンス法ではないが、シリコンの析出を1ミリバール〜100バール(絶対圧)の圧力で行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−128492号公報
【特許文献2】米国特許第4179530号明細書
【特許文献3】特表2007−526203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、反応炉内部を高圧にしたうえで原料ガスを大量に供給すれば、収率を維持しつつ、シリコンの成長速度を速めることができ、効率よく多結晶シリコンを製造できると考えられる。
この多結晶シリコンにおいて、半導体用の単結晶シリコン製造で使用されるCZ(チョクラルスキー法)用リチャージロッドやFZ(フローティングゾーン法)用ロッドは、ロッド径が大きい方が効率的に単結晶シリコンを製造することができることから、例えば100mm以上の直径を有する多結晶シリコンのロッドが求められている。さらに表面形状が滑らかな多結晶シリコンが良い。
しかしながら、反応炉内部を高圧にしたうえで原料ガスを大量に供給すると、ロッド表面と接するガス流量が増えることでシリコンのロッドからガスへの対流伝熱が大きくなる。このとき、ロッドの表面温度をシリコンロッド成長に適した温度に維持しようとすると、通電電流を大きくする必要があり、通電電流を大きくすることによって、ロッドの中心温度が通常の圧力や流量の場合に比べて大幅に上昇する。このため、ロッドがある程度成長すると、シリコン芯棒と連結棒との連結部分が特に高温となって溶断が起き、ロッドを例えば100mm以上に太らせることができないという問題がある。シーメンス法による多結晶シリコンの製造はバッチ式であり、成長後のロッドが細いと生産性が下がってしまう。
【0006】
この溶断を防ぐためには、通常、シリコン芯棒へ通電する電流を調整することにより、ロッドの表面温度を下げることが行なわれるが、表面温度を下げた場合は、成長速度や収率が減少してしまうため、効率よく多結晶シリコンを成長させることができない。また、中心温度と表面温度の差が大きくなることで、成長終了後にロッドを室温まで冷却する段階で熱応力によりロッドにクラックが発生し易いという不具合もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、高圧で原料ガスを従来よりも大量に供給する条件で高い成長速度と収率を維持しながら、ロッドの溶断を防ぎつつ、滑らかな表面形状のロッドを大径に成長させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述したように、反応炉内部を高圧にしたうえで原料ガスを大量に供給すると、ガス流量が増えることでロッドからガスへの対流伝熱が大きくなり、ロッドの中心温度が大幅に上昇するため、ロッドに溶断が起き易く、ロッドを例えば100mm以上に太らせることができないという問題がある。シリコン芯棒へ通電する電流を調整してロッドの表面温度を下げれば、溶断を防ぎつつロッドを大径に成長させることができるが、この方法では成長速度や収率が損なわれる。そこで、シリコン芯棒への電流と原料ガスの供給量との両方を制御することにより、ロッドの表面温度と中心温度を所定の温度範囲に維持することで、高い成長速度と収率を維持しながら、溶断を防ぎつつ、滑らかな表面形状のロッドをロッド径100mm以上に成長させる方法を発明した。
【0009】
すなわち、本発明の多結晶シリコンの製造方法は、反応炉内のシリコン芯棒に通電してシリコン芯棒を発熱させ、該シリコン芯棒にクロロシラン類を含む原料ガスを供給することにより、シリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させロッドとして成長させる多結晶シリコンの製造方法において、前記反応炉内の圧力が0.4〜0.9MPaであり、前記シリコン芯棒への電流を漸次増大させて前記ロッドの表面温度を所定の範囲に維持すると共に、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達するまで単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を2.0×10−7〜3.5×10−7mol/sec/mmの範囲内に維持しながら原料ガスを供給する前半工程と、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達した後、ロッド径に応じて予め定めておいた電流値に設定するとともに前記単位表面積当たりの原料ガス供給量を低下させることで、前記ロッドの表面温度と中心温度を所定範囲に維持する後半工程とを有することを特徴とする。
【0010】
この製造方法は、反応炉内の圧力が0.4〜0.9MPaで、プロセスの前半では、ロッド径の増大に応じて電流を増加することでロッドの表面温度を所定範囲内に維持し、ロッドの単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を従来よりも大量供給となる2.0×10−7〜3.5×10−7mol/sec/mmの範囲内に維持する。そして、ロッドの中心温度が融点未満の所定温度に達した後のプロセスの後半では、電流と原料ガス供給量とを制御することで、ロッドの表面温度を所定範囲に維持したままロッドの中心温度の上昇を防止するのである。これにより、プロセスの前半では高圧条件と原料ガスの大量供給によってロッドを短時間で成長させ、プロセスの後半ではロッドの表面温度を所定の範囲に維持することで高い収率を維持しながら、ロッドの中心温度の上昇を抑えることで、溶断を防ぎつつロッドの径を大きくすることができる。
【0011】
なお、圧力が0.9MPaを超えると、フランジ厚み等が極端に厚くなるなどの耐圧設計上の問題が発生する。一方、圧力が0.4MPa未満となると、プロセス全体にわたり収率が低下してしまう。また、圧損を考慮するとガスを大量に流すため配管径が大きくなり、反応炉の炉下や基台の構造が複雑になってしまう。
ガス流量については、3.5×10−7mol/sec/mmを超えると前半工程の収率低下が大きくバッチとして収率が低下してしまう。一方、ガス流量が2.0×10−7mol/sec/mm未満になると、シリコンを高速に成長させることができない。また、シリコンロッドの表面に凹凸が形成されるため、滑らかな表面を持つ半導体用単結晶シリコンを製造するのに適した多結晶シリコンを製造することができなくなる。
【0012】
ここで、シーメンス法では四角形の断面を持ったシリコン芯棒が利用されるが、このシリコン芯棒の断面が成長に伴い丸棒状態になるか否かが最終的に製造されるシリコンロッドの表面状態に大きな影響を及ぼす。丸棒状態にするにはプロセスの前半において原料ガスを十分に供給する必要がある。本発明の多結晶シリコンの製造方法によれば、プロセスの前半工程では原料ガスを大量に供給するので、四角形の断面が十分に丸い断面を持ったシリコンロッドに成長する。プロセス後半工程でガス流量の調整は行われるが、プロセス前半工程において、丸棒状態になるので最終的に製造されるシリコンロッドは表面形状が滑らかであり、半導体用の多結晶シリコンとして適している。
【0013】
本発明の製造方法において、前記後半工程におけるロッドの中心温度は1200〜1300℃の範囲内であるとよい。シリコンの融点未満でできるだけ高い温度に設定するのである。
本発明の製造方法において、前記反応炉の内壁面温度を250〜400℃としてもよい。そうすることでロッド表面から輻射により反応炉の内壁に伝わる熱量を少なくすることができ、前半工程を長く維持することでバッチとしての成長速度を速めることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法において、前記原料ガスを200〜600℃に予熱した後に前記反応炉に供給してもよい。そうすることでロッド表面から原料ガスに対流伝熱で逃げる熱量を少なくすることができ、前半工程を長く維持することでバッチとしての成長速度を速めることができる。
この場合、予熱温度を200〜400℃にすると、半導体用多結晶シリコンの製造に好適である。
原料ガスの予熱温度が400℃を超える温度となると、予熱器等の金属材料から不純物が原料ガスに混入し、製造される多結晶シリコンの不純物濃度が増加する。したがって、半導体用途に適した多結晶シリコンを製造するためには加熱温度は200〜400℃がよい。一方で原料ガスを400〜600℃に加熱した多結晶シリコンであっても、太陽電池用途などに利用することが可能である。
【0015】
このように原料ガスを予熱する場合、前記反応炉から排出される排ガスと原料ガスとを熱交換させることにより原料ガスを予熱すると効率的である。
さらに、本発明の製造方法は、前記反応炉として、最外周位置のロッドと反応炉の内壁面との間に原料ガス供給用の噴出ノズルを有しないものを使用するとよい。
最外周位置のロッドは反応炉の内壁に直接対向しているため、その面から輻射により反応炉の内壁に伝わる熱量が多く溶断を起こし易い。原料ガス供給用の噴出ノズルをその面側に有しない構造とすれば、それらのロッドからガスへの対流伝熱についてはこれを抑えることにより、溶断を起こし難くすることができる。
【0016】
そして、以上の製造方法によって製造された多結晶シリコンは、高い成長速度と収率を維持しながら、100mm以上の径とすることができる。
【0017】
また、本発明の多結晶シリコンの製造装置は、反応炉と、反応炉内に設置されシリコン芯棒に通電する複数の電極と、反応炉内にクロロシラン類を含む原料ガスを供給する噴出ノズルと、反応後のガスを反応炉から排出するガス排出口とを備え、前記シリコン芯棒に通電してシリコン芯棒を発熱させ、該シリコン芯棒に前記原料ガスを供給することにより、シリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させロッドとして成長させる多結晶シリコンの製造装置において、前記ロッドの表面の温度を測定する温度計と、前記ロッドの径を測定するロッド径算出器と、前記反応炉の圧力を制御するとともに、前記原料ガスの供給量及び前記電極から前記シリコン芯棒に通電する電流を前記温度計で測定した温度及び前記ロッド径算出器で測定したロッド径を用いて制御する制御手段を有し、前記制御手段は、前記反応炉内の圧力を0.4〜0.9MPaとし、前記シリコン芯棒への電流を漸次増大させて前記ロッドの表面温度を所定の範囲に維持すると共に、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達するまで単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を2.0×10−7〜3.5×10−7mol/sec/mmの範囲内に維持しながら原料ガスを供給する前半工程と、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達した後、ロッド径に応じて予め定めておいた電流値に設定するとともに前記単位表面積当たりの原料ガス供給量を低下させることで、前記ロッドの表面温度と中心温度を所定範囲に維持する後半工程とを行うようにプログラムされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プロセスの前半工程では従来よりも高圧状態と原料ガスの大量供給とにより、ロッドを短時間で成長させ、プロセスの後半工程では、ロッドの中心温度をモニターしながらロッドの表面温度と中心温度を所定の範囲に維持するよう電流と原料ガスの供給量とを制御しているから、ロッドの溶断を防止しつつ、クロロシラン類供給量当たりのシリコン生成量を高く確保した状態で大径の多結晶シリコンロッドを最短の時間で製造することができる。
また、プロセス前半で大量に原料ガスが供給されるので、四角形断面のシリコン芯棒を丸棒状で表面形状が滑らかなロッドに成長させることができ、半導体用に適した多結晶シリコンを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の多結晶シリコン製造方法に用いられる製造装置を示す反応炉を断面にした構成図である。
【図2】本発明の製造方法におけるプロセス中の制御内容の変化を示すグラフであり、(a)がシリコン芯棒への電流値I、ロッド単位表面積当たりのクロロシラン類供給量F、(b)がロッドの中心温度Tc及び表面温度Tsについてのロッド径RDに対する変化をそれぞれ示している。
【図3】本発明の製造方法の前半工程における制御の例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の製造方法の後半工程における制御の例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の製造方法におけるプロセス後半におけるロッド径RDと電流値Iとの関係を示すグラフである。
【図6】ロッドの熱バランスを説明するために示した模式図である。
【図7】本発明の他の実施形態の多結晶シリコン製造方法に用いられる製造装置を示す図1同様の構成図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態の多結晶シリコン製造方法に用いられる製造装置を示す図1同様の構成図である。
【図9】本発明の実施例E1〜E6の製造方法における制御内容の変化を示すグラフであり、(a)が単位表面積当たりのクロロシラン類供給量F、(b)が電流値I、(c)がロッド表面温度Ts及び中心温度Tcについてのロッド径RDに対する変化をそれぞれ示している(以下、図10〜図15において同じ)。
【図10】比較例として電流値及びクロロシラン類供給量の調整をしなかった場合の制御内容の変化を示すグラフである。
【図11】比較例として電流値のみを調整した場合の制御内容の変化を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例E7〜E9の製造方法における制御内容の変化を示すグラフである。
【図13】実施例E9に対して、電流値及びクロロシラン類供給量の調整をしなかった比較例C13、電流値のみを調整した比較例E14の制御内容の変化を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例E10,E11の製造方法における制御内容の変化を示すグラフである。
【図15】本発明の実施例E12,E13の製造方法における制御内容の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の多結晶シリコンの製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の製造方法において用いられる多結晶シリコン製造装置の全体図であり、この多結晶シリコン製造装置は反応炉を有している。この反応炉1は、炉底を構成する基台2と、この基台2上に取り付けられた釣鐘形状のベルジャ3とを具備している。
基台2上には、図1に示すように、シリコン芯棒4が取り付けられる複数の電極5と、クロロシラン類と水素ガスとを含む原料ガスを炉内に噴出するための噴出ノズル6と、反応後のガスを炉外に排出するためのガス排出口7とがそれぞれ複数設けられている。
【0021】
各電極5は、ほぼ円柱状に形成されたカーボンからなり、基台2上に一定の間隔をおいてほぼ同心円状に配置されているとともに、それぞれ基台2に垂直に立設されており、反応炉1の外部の電源装置8に接続されている。この電源装置8には電流制御装置30が備えられており、シリコン芯棒4へ通電する電流量を調整することができるようになっている。また、各電極5の上端部には、その軸心に沿って孔(図示略)が形成され、その孔内に、シリコン芯棒4の下端部が挿入状態に取り付けられている。
また、シリコン芯棒4は、下端部が電極5内に差し込まれた状態に固定されることにより、上方に延びて立設されており、このシリコン芯棒4と同じシリコンによって形成された連結部材(図示略)によって各シリコン芯棒4の上端部が二本ずつを対として連結され、全体として逆U字状又はΠ字状となるように組み立てられている。
【0022】
また、原料ガスの噴出ノズル6は、各シリコン芯棒4に対して均一に原料ガスを供給することができるように、反応炉1の基台2の上面のほぼ全域に分散して適宜の間隔をあけながら複数設置されている。これら噴出ノズル6は、反応炉1の外部の原料ガス供給源9に接続され、この原料ガス供給源9には原料ガス調整器10が備えられ、この原料ガス調整器10によって噴出ノズル6からの原料ガス供給量及び圧力を調整できるようになっている。また、ガス排出口7は、基台2の外周部付近の上に適宜の間隔をあけて複数設置され、排ガス処理系11に接続されている。
【0023】
なお、反応炉1の中心部には加熱装置として、基台2上の電極5に、逆U字状又はΠ字状に組み立てられて立設されたカーボン製のヒータ15が設けられている。このヒータ15は、シリコン芯棒4とほぼ同じ高さとされ、運転初期の段階で中心部付近のシリコン芯棒4を輻射熱で加熱するようになっている。
また、反応炉1には、そのベルジャ3の壁に覗き窓16が設けられており、外部から放射温度計(温度計)17によって内部のロッドの表面温度を測定できるようになっている。
なお、反応炉1の基台2及びベルジャ3は二重壁状に構築されており、内部の空間部2a,3aに冷却材が流通し得るようになっている。図1中の符号18は冷却材供給管、符号19は冷却材排出管を示している。
また、原料ガス調整器10によって調整された原料ガス供給量及び排ガス量から後述するようにシリコン芯棒4に析出したロッドの径を算出するロッド径算出器40が設けられている。そして、原料ガス調整器10が反応炉1内の圧力を制御しつつ、この原料ガス調整器10及び電流制御装置30は、ロッド径算出器40の算出結果及び放射温度計17の測定結果をもとに原料ガス供給量及び電極5からの電流量を制御して、後述する前半工程及び後半工程を行うようにプログラムされており、これら原料ガス調整器10及び電流制御装置30によって制御手段50が構成される。
【0024】
このように構成した多結晶シリコン製造装置を使用して、多結晶シリコンを製造する方法について説明する。
まず、反応炉1の中心に配置されているヒータ15及び各シリコン芯棒4に接続されている電極5にそれぞれ通電して、これらヒータ15及びシリコン芯棒4を発熱させる。このとき、ヒータ15はカーボン製であるためシリコン芯棒4よりも先に発熱して温度上昇し、このヒータ15の輻射熱によって近傍のシリコン芯棒4が通電可能となる状態までに温度上昇すると、シリコン芯棒4も自身の電極5からの通電によって抵抗発熱状態となり、その熱が反応炉1の半径方向等に次々に伝達して、最終的に反応炉1内の全てのシリコン芯棒4が通電して発熱状態となる。これらシリコン芯棒4が原料ガスの分解温度にまで上昇することにより、噴出ノズル6から噴出した原料ガスがシリコン芯棒4の表面上で多結晶シリコンを析出し、これが径方向に成長して図1の鎖線で示すようにシリコンのロッドRとなる。多結晶シリコンの析出に供された後の排ガスは、反応炉1の内底部のガス排出口7から排ガス処理系11に送られる。
【0025】
この多結晶シリコンの製造プロセスの中で、シリコン芯棒4に通電される電流値、原料ガス中のクロロシラン類の供給量等が制御されるが、プロセスの前半と後半とで分けて制御される。図2(a)は、製造プロセス中の電流値IとロッドRの単位表面積当たりのクロロシラン類供給量Fの変化を示しており、図2(b)は、ロッドRの中心温度Tcと表面温度Tsの変化を示している。プロセスの前半をA領域とし、後半をB領域とする。以下、このプロセスの前半と後半に分けて、図2を参照しながら制御内容の詳細を説明する。ここで、クロロシラン類は、トリクロロシランが主成分であるが、モノクロロロシラン、ジクロロシラン、四塩化珪素、ポリマー(例えばSiCl)等を含むものとしてもよい。
【0026】
<プロセスの前半工程>
多結晶シリコンをロッドの表面全体に均等に析出させるため、図2(a)のA領域で示すように、ロッドの単位表面積当たりのクロロシラン類供給量Fは2.0×10−7〜3.5×10−7mol/sec/mmの範囲内となるように維持される。これは従来の常圧タイプの反応炉での供給量より多い量である。このため、ロッドRの径(以下ロッド径という)RDが増大するにしたがって、ロッドRの周辺に供給される原料ガスの供給量は増加する。反応炉1内の圧力としては、0.4〜0.9MPa(絶対圧)とされる。この圧力が低過ぎると、プロセス全体にわたり収率が低下してしまう。さらに圧損を考慮するとガスを大量に流すため配管径が大きくなり、反応炉の炉下や基台の構造が複雑になってしまう。また、圧力の上限は、反応炉1の耐圧強度上決められる。
また、この原料ガスの供給量の調整とともに、ロッドRの表面温度Tsを1000〜1100℃の範囲内に維持するように電流値Iを調整する。表面温度Tsを高くすると、多結晶シリコンの成長速度を早めることができる。しかし、ロッド径RDの増大に伴って電流値Iは増加する。このため、ロッドRの中心温度Tcは図2(b)のA領域に示すようにロッド径RDの増大にしたがって上昇する。この中心温度Tcがシリコンの融点に達しないうちは、原料ガスの大量供給、高圧での製造が可能である。そこで、ロッドRの中心温度Tcをモニターし、それがシリコンの融点未満の1200〜1300℃になるまでは、同様の方法で原料ガス供給量(クロロシラン類供給量F)と電流値Iとを調整する。
【0027】
なお、このロッドRの中心温度Tcは、ロッドRの表面温度Ts、ロッド径RD、電流値I、シリコンの物性値(比抵抗、熱伝導度)を基にして図3に示すフローチャートにしたがって算出される。以下のS1〜S6は図3中の各ステップと対応する。
ロッドRの表面温度Tsは、反応炉1の覗き窓16から放射温度計17で測定する(S1)。そして、シリコン芯棒4に通電する電流値Iを制御することにより、ロッドRの表面温度Tsを1000〜1100℃に維持する(S2)。
一方、ロッド径算出器40では、反応炉1からの排ガスをガスクロマトグラフ等で組成分析し、クロロシラン類の供給積算量との関係から、生成されたシリコンの重量を求め、その重量からロッド径RDを算出する(S3)。そして、そのロッド径RD及びロッドRの長さからロッドRの表面積を求める(S4)。このロッドRの表面積と、前述した単位表面積当たりのクロロシラン類供給量Fを基に原料ガスの供給量を求める(S5)。
【0028】
そして、これらロッドRの表面温度Ts、ロッド径RD、電流値I、シリコンの物性値(比抵抗、熱伝導度)を基にして、ロッド内での電流による抵抗発熱量とロッド内での熱伝導(円管の熱伝導)を考慮して、ロッド内の温度分布を算出し、ロッドRの中心温度Tcを求める(S6)。この場合、シリコンの物性値である比抵抗、熱伝導度は、温度依存性を有するものであり、一般に知られた数値を用いればよいが、予め温度との関係を調べておいてもよい。
上述の方法により求められるロッドRの中心温度Tcは、表面温度が測定されたロッドとそれにつながる連結部材、ならびにその連結部材と連結している他方のロッドの平均中心温度である。
シリコンロッドの溶断は、例えばシリコンロッドと連結部との連結点のような部位において、局所的に温度が上がりその中心部での温度が融点以上になることで起こる。そこで、上述の方法で求められたロッドの平均中心温度Tcを用いて、ロッドの溶断する温度を監視・制御することで溶断を防ぐ。この場合、連結部位の温度は、平均中心温度Tcよりも高い温度になっている。つまり、この平均中心温度Tcをシリコンの融点1410℃よりも低い温度に管理することで溶断を防ぐことができる。溶断を防ぐためには、接合部の接合度合い、シリコン芯棒の形状、使用しているシリコン芯棒の長さなどにより異なるが、1200〜1300℃の範囲であるとよい。
このようにしてロッドRの平均中心温度Tcを算出し、これをモニターしながら、その平均中心温度Tcが1200〜1300℃に達するまでは、上記のようにして電流値Iと原料ガス供給量(クロロシラン類供給量F)とを制御し、その温度範囲内にロッドRの平均中心温度Tcが達した段階からは、次のように制御する。
【0029】
<プロセスの後半工程>
このプロセスの後半の制御内容は図4のフローチャートにまとめた。
プロセスの前半の場合と同様に、反応炉1の排ガスのガスクロマトグラフ等の分析により、ロッド径RDを算出する(S7)。そして、このロッド径RDに応じて、予め求めておいた電流値Iを設定する(S8)。この電流値Iは、維持すべきロッドRの表面温度Ts、ロッドRの平均中心温度Tc、シリコンの物性値(比抵抗、熱伝導度)から、各ロッド径RDに応じて求められる。例えば、ロッドRの平均中心温度Tcを1250℃、ロッドRの表面温度Tsを1100℃にする場合には、各ロッド径RD(mm)に応じて図5に示すような電流値I(A)とする。
また、ロッドRの表面温度Tsを測定しながら(S9)、表面温度Tsが1000〜1100℃になるように原料ガスの供給量(クロロシラン類供給量F)を調整する(S10)。このとき、ロッドRの単位表面積当たりのクロロシラン類供給量Fは、図2(a)の領域Bに示すように、ロッド径RDの増大に伴って減少する。また、この領域Bに示すようにロッドRの表面温度Ts及び平均中心温度Tcは所定範囲内に維持される。
【0030】
以上のようにして、ロッドの表面温度と平均中心温度が所望の範囲となるように、原料ガスの供給量と電流値とを制御するのであるが、後半においては、電流値は、ロッドの平均中心温度が溶断温度までに上昇しないようにロッドの径に対して予め決めておいた値を使用し、その電流値とロッドの表面温度に応じた供給量の原料ガスを供給するのである。
そして、このような制御とすることにより、ロッドの平均中心温度を所定範囲内に抑えて溶断を防ぎつつ、表面温度を所定範囲に維持することにより、大径で表面形状も滑らかなロッドを高い収率で製造することができる。
【0031】
なお、このような原料ガスの供給量(クロロシラン類の供給量F)及び電流値Iを制御することにより、ロッドの表面温度Ts及び平均中心温度Tcを制御できるのは、次のような理論に基づく、
シリコンのロッドの熱バランスを考えると、図6に模式化して示したように、ロッドRに電流を流すことによる抵抗発熱量Q1、ロッド表面からの輻射により反応炉の壁(ベルジャ)3へ逃げる熱量Q2、ロッド表面からガスへ対流伝熱で逃げる熱量Q3を考慮する必要があり、これら熱量について、
Q1=Q2+Q3 (式1)
の関係が成り立つ必要がある。
【0032】
また、各熱量はそれぞれ以下の変数で決められる。
Q1=f(Ts,Tc,I,V,RD)
Q2=f(Ts,RD)
Q3=f(F,As,Ts)
ここで、Ts:ロッド表面温度、Tc:ロッド平均中心温度、I:電流、V:電圧、RD:ロッド径、F:クロロシラン類供給流量、As:ロッド表面積とする。また、ロッドの本数と長さは一定とする。
【0033】
抵抗発熱量Q1について、Q1=f(Ts,Tc,I,V,RD)の内、表面温度Ts、ロッド径RD、その他の平均中心温度Tc、電流値I、電圧Vのいずれか一つが決まれば、Q1と残った変数の値は決まる。例えば、あるRDの状態において、Ts=1100℃の状態に維持したいとして、
(1)Tc=1250℃としたい場合は、Q1と流すべき電流Iとその時の電圧Vが決まる。
(2)I=3000Aとした場合は、Tc、V、Q1が決まる。
上記の状態を実際に実現するには(式1)の熱バランスからQ2とQ3の合計値がQ1の熱量と等しくならなくてはならない。
ここで、プロセスの後半で、(1)の条件のように表面温度Tsと平均中心温度Tcを維持したいとする。(1)の条件では、Ts=1100℃、Tc=1250℃としようとしている。この時に流すべき電流値Iとロッドの発熱量Q1の値は一義的に求まる。
また、表面温度Tsとロッド径RDが決まっているので、壁へ逃げる熱量Q2の値は自ずと決まる。対流伝熱で逃げる熱量Q3については、ロッド表面積Asとロッド表面温度Tsが決まっているので、調整可能なのはクロロシラン類供給流量Fである。以上のことから、流すべき電流値Iを流した状態で、流量Fを調整すれば、Q2とQ3の合計値がQ1と等しくなる条件で、(1)の表面温度Tsと平均中心温度Tcを維持することができるのである。
【0034】
図7は本発明の多結晶シリコン製造装置の他の実施形態を示している。この図7に示す多結晶シリコン製造装置は、原料ガスを反応炉1内に供給する前に加熱する予熱器21が設置されている。
この実施形態の多結晶シリコン製造装置のように、反応炉1に供給される原料ガスを予め加熱しておくことにより、ロッドからガスへの熱損失を減少させ、より高速でロッドを成長させることができる。予熱温度としては200〜600℃とすることができる。
なお、図8に示すさらに他の実施形態のように、予熱器22として、反応炉1に供給される原料ガスと、反応炉1内から排出される高温の排ガスとを熱交換させる構成としてもよい。
これら図7及び図8において、図1と共通部分には同一符号を付して説明は省略する。
【実施例】
【0035】
次に、具体的な実施例について説明する。
以下の例では、トリクロロシランを主成分として4.5mol%のジクロロシラン(SiHCl)を含むクロロシラン類を使用し、H/クロロシラン類のモル比が8となるように水素(H)と混合して反応炉へ供給した。そして、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量、圧力を表1及び表2に示すように設定し、ロッド表面温度Tsは1100℃となるように電流値を調整した。表1が実施例、表2が比較例を示している。なお、原料ガスの供給温度は100℃とし、反応炉の内壁面温度は200℃とした。
【0036】
そして、比較例については、図10に示すように、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量Fは一定とし、ロッド径RDの増加に伴って電流値Iを図10(b)に示すように増大させることにより、図10(c)に示すようにロッドの平均中心温度Tcが変化した。平均中心温度Tcの増加に伴う電流値及びガス流量の調整は行っていない。
この図10に示すように、比較例においては、ロッド径RDが100mmに達する前に溶断が発生し、それ以上ロッドを成長させることはできなかった(図10中×印が溶断を示す)。表2に示した最終ロッド径は、溶断が生じた時点でのロッド径である。また、溶断が発生した時点のロッド平均中心温度は1255〜1265℃であった。
【0037】
これに対して、実施例では、図9に示すように、ロッドの平均中心温度Tcが1250℃に達した時点から、ロッド表面温度Tsを1100℃、平均中心温度Tcを1250℃に維持するように、クロロシラン類供給量Fと水素供給量と電流値Iとを調整してロッドを成長させた。水素供給量は図示しないが、H/クロロシラン類のモル比8がほぼ変わらないように調整した。いずれの実施例においても、ロッド径が125mmを超えた時点で成長反応を終了した。また、反応終了直前の単位表面積当たりのクロロシラン供給量及び水素供給量は、プロセスの前半工程から後半工程へ切り替わる時点の単位面積当たりのクロロシラン供給量及び水素供給量の2分の1〜3分の1程度になっていた。
なお、表1において、収率とは、シリコン生成量と供給したクロロシラン類の量の比率(mol%)である。また、単位時間単位クロロシラン類当たりのシリコン生成量は成長速度を示す値である。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
以上の結果からわかるように、比較例の場合は、ロッド径が100mmに達する前に、ロッドの平均中心温度が上昇して溶断が生じたが、ロッドの平均中心温度が1250℃に達した後にクロロシラン類供給量Fと電流値Iとを調整した実施例においては、いずれの場合もロッド径は100mm以上に成長させることができた。
【0041】
次に、プロセス後半でのクロロシラン類供給量F及び電流値Iの調整効果を検証するために、以下の検討を行った。すなわち、表1及び表2の場合と同様、トリクロロシランを主成分として4.5mol%のジクロロシラン(SiHCl)を含むクロロシラン類を使用し、H/クロロシラン類のモル比が8となるようにHと混合して反応炉へ供給し、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量、圧力を表2の場合と同様に設定し、プロセスの前半ではロッド表面温度Tsが1100℃となるように電流値を調整した。そして、図11に示すように、ロッドの平均中心温度Tcが1250℃に達した時点から、平均中心温度Tcが1250℃を超えないように電流値Iのみを調整した。そして、表1の実施例の場合と同様に、ロッド径が125mmを超えた時点で成長反応を終了させた。最終ロッド径と収率、単位時間単位クロロシラン類当たりのシリコン生成量を調べたところ、表3に示す通りであった。なお、原料ガスの供給温度は100℃とし、反応炉の内壁面温度は200℃とした。
【0042】
【表3】

【0043】
この表3に示す通り、ロッド径については100mm以上に成長させることができたが、収率が5〜9mol%、単位時間単位クロロシラン類当たりのSi生成量が比較例C11を除いて1.4〜2.7×10−4[g(Si)/g(クロロシラン類)/hr]と、表1の実施例と比べて悪化している。これは、ロッドの平均中心温度を1250℃に維持するために電流のみを調整したことでロッドの表面温度が低下したためである。比較例C11については、単位時間単位クロロシラン類当たりのSi生成量は実施例E1と同じであるが、収率が低くなっている。したがって、収率、成長速度のいずれをも高めるためには、電流値とクロロシラン類供給量(あるいは原料ガス供給量)との両方を調整することが有効である。
【0044】
次に、実施例E7,E8の実験を行った。
実施例E7,E8とも、他の例と同様にトリクロロシランを主成分として4.5mol%のジクロロシランを含むクロロシラン類を使用し、H/クロロシラン類のモル比が8となるようにHと混合して反応炉へ供給した。ロッドの表面温度を1100℃、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を3.1×10-7mol/sec/mmとし、E7については圧力を0.9MPa、E8については圧力を0.6MPaとなるように実施した。またロッドの平均中心温度Tcは、E7が1200℃、E8が1300℃に達した後にクロロシラン類及び水素のガス供給量と電流値を調整することで、プロセス後半工程においては、ロッド表面温度Tsを1100℃、平均中心温度TcをそれぞれE71200℃、E8で1300℃に維持した。この場合、E8については、シリコン芯棒と連結棒との連結部分が1410℃近くまで温度が上昇しないように適切な手段(例えば溶接)を施した。
実施例E7,E8の結果を表4に示した。また、シリコンロッド径に対する単位表面積当たりのクロロシラン類供給量、電流値、ロッドの表面温度Ts、ロッドの平均中心温度Tcを図12に示した。水素供給量は図示しないが、H/クロロシラン類のモル比8が変わらないように調整した。
【0045】
【表4】

【0046】
表4に示すように、ロッド径を100mm以上に成長させることが出来、比較例C7〜C12と比べて高い収率でシリコンを成長させることができた。実施例E7については同じ単位表面積あたりのクロロシラン類供給量、圧力である比較例C12と比べて高い収率、単位時間単位クロロシラン類当たりのシリコン生成量でシリコンを成長させることができた。
【0047】
また、E8に対する比較例として、電流値及びガス流量の調整をしない比較例C13と、プロセス後半においてロッドの中心温度が1300℃を超えないように電流値のみを調整した比較例C14との実験も行った。他の例と同様にトリクロロシランを主成分として4.5mol%のジクロロシランを含むクロロシラン類を使用し、H/クロロシラン類のモル比が8となるようにHと混合して反応炉へ供給した。ロッドの表面温度を1100℃、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を3.1×10-7mol/sec/mmとし、圧力を0.6MPaとなるように実施した。C13、C14とも、実施例E9の場合と同様に、シリコン芯棒と連結棒との連結部分が1410℃近くまで温度が上昇しないように適切な手段(例えば溶接)を施した。
結果を比較例C13については表5に、比較例C14については表6に示した。
また、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量F、電流値I、ロッド表面温度Ts及び中心温度Tcについてのロッド径RDに対する変化を図13に示した。この図13には、比較のため先の実施例E8の場合も重ねて表示した。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
比較例C13ではロッド径を100mm以上に成長させることができず、ロッド径85mmで溶断が生じた。溶断温度は1322℃であった。電流値を調整した比較例C14では、ロッド径を100mm以上に成長させることはできたが、単位時間単位クロロシラン類当たりのシリコン生成量、収率とも、実施例E9より劣る結果であった。
【0051】
次に、反応炉の二重壁の内部空間に流通される冷却材の温度と流量調整を行うことで、反応炉の内壁の温度を250℃、300℃、400℃に維持して実施例E9、E10、E11の実験を行った。他の例と同様にトリクロロシランを主成分として4.5mol%のジクロロシランを含むクロロシラン類を使用し、H/クロロシラン類のモル比が8となるようにHと混合して反応炉へ供給した。ロッドの表面温度を1100℃、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を3.1×10-7mol/sec/mmとし、圧力を0.6MPaとなるように実施した。
またロッドの平均中心温度Tcが1250℃に達した後にクロロシラン類及び水素のガス供給量と電流値を調整することで、プロセス後半工程においては、ロッド表面温度Tsを1100℃、平均中心温度Tcを1250℃に維持した。なお、原料ガスの供給温度は100℃とした。
結果を表7に示す。また、シリコンロッド径に対する単位表面積当たりのクロロシラン類供給量、電流値、ロッドの表面温度Ts、ロッドの平均中心温度Tcを図14に示した。水素供給量は図示しないが、H/クロロシラン類のモル比8が変わらないように調整した。
【0052】
【表7】

【0053】
表7に示すように、ロッド径を100mm以上に成長させることが出来、C7〜C12の比較例に比べ高い収率でシリコンを成長させることができた。
また、反応炉の壁の温度制御を250、300、400℃としたことで、ロッドからの輻射と対流による熱損失が減少したことで前半工程を長くすることができた。そのため、同じ圧力、ガス条件で反応炉の内壁面温度が200℃であるE4に比べて、高い単位時間単位クロロシラン類当たりのシリコン生成量でシリコンを成長させることができた。
このように反応炉の壁の温度制御をする場合、ロッドからの輻射と対流を抑えるために、反応炉の内壁面の平均温度を250〜400℃に維持するとよい。高温になり過ぎると、壁の構成材から不純物が内部雰囲気に混入する可能性があるので、上限としては400℃が好ましい。
【0054】
さらに、図8に示す多結晶シリコン装置を用いて実施例E12を実施した。この図8に示す装置では、排ガスとの熱交換によって原料ガスを加熱する予熱器22が設けられている。
また、図7に示す多結晶シリコン製造装置を用いて実施例E13、E14の実験を行った。この図7に示す装置では、予熱器21が、排ガスの熱を利用するのではなく、原料ガス加熱のための熱源を有している。
実施例E12〜E14においては、他の例と同様にトリクロロシランを主成分として4.5mol%のジクロロシランを含むクロロシラン類を使用し、H/クロロシラン類のモル比が8となるようにHと混合して反応炉へ供給した。図8に示す排ガスとの熱交換による予熱器22を経由した後の原料ガス温度を200℃とした場合をE12、図7に示す予熱器21を経由した後の原料ガス温度を400℃、600℃にした場合をぞれぞれE13、E14とした。いずれも、ロッドの表面温度1100℃、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を3.1×10-7mol/sec/mm、圧力を0.6MPaとなるように実施した。またロッドの平均中心温度Tcが1250℃に達した後にクロロシラン類及び水素のガス供給量と電流値を調整することで、ロッドの表面温度Tsを1100℃、平均中心温度Tcを1250℃に維持した。なお、反応炉の内壁面温度は200℃とした。
実施例E12〜E14の結果を表8に示した。また、シリコンロッド径に対する単位表面積当たりのクロロシラン類供給量、電流値、ロッドの表面温度Ts、ロッドの平均中心温度Tcを図15に示した。
【0055】
【表8】

【0056】
表8に示すように、ロッド径を100mm以上に成長させることができ、比較例と比べて高い収率でシリコンを成長させることができた。
また、炉内に供給される原料ガスの温度を予め加熱したことで、ロッドからガスへの熱損失が減少し前半工程を長く維持することができた。そのため、単位時間単位クロロシラン類当たりのシリコン生成量は同じ圧力、ガス条件で原料ガス供給温度が100℃である実施例E4が3.4×10−4g(Si)/g(クロロシラン類)/hrであったのに対し、200℃に加熱した実施例E12及び400℃に加熱した実施例E13では3.5×10−4g(Si)/g(クロロシラン類)/hr、600℃に加熱した実施例E14では3.6×10−4g(Si)/g(クロロシラン類)/hrと改善し、より高速にロッドを成長させることができた。製造されたロッドの純度を調べたところ、E12及びE13については半導体用シリコンに適していたが、E14はそれらより純度が低く、半導体用としては適さない純度であった。
【0057】
このように、原料ガスを予熱する場合、200〜600℃に予熱すると、ロッドから雰囲気ガスへの熱損失を効果的に減少させることができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態ではロッド径をガスクロマトグラフィー等の分析結果から求めるようにしたが、覗き窓から直接ロッド径を測定するようにしてもよい。その場合、ロッドが重なり合って、中心部に配置されるロッドを確認できない場合は、最外周位置に配置されているロッドの径で代表してもよい。
また、特開2001−146499号公報に開示の方法も適用可能である。
また、同一条件のバッチ処理を繰り返す場合は、図3と図4に示したフローチャートにしたがってS1〜S10の各ステップを実施して電流と原料ガス供給量の調整パターンをレシピとして決定し、その後は、そのレシピを用いて処理することができる。その場合、レシピを決定した後はロッド表面温度の測定等が不要になる。
【0059】
また、反応炉としては、前述したようにシリコン芯棒を保持する電極がほぼ同心状に配置されるが、その最外周位置の電極と反応炉の壁との間に、原料ガス供給用の噴出ノズルを有しない形態とすると、最外周位置のロッドから雰囲気ガスへの対流伝熱が抑えられるのでよい。最外周位置のロッドは反応炉の内壁に直接対向しているため、その内壁面からの輻射により逃げる熱量が多い。最外周位置のロッドの温度を所定温度に維持するには、電流量を多くする必要があり、溶断を起こし易い。原料ガス供給用の噴出ノズルがその面側に有しない構造とすれば、それらのロッドからガスへの対流伝熱についてはこれを抑えることにより、溶断を起こし難くすることができる。
また、原料ガスは水素とクロロシランとを含む。この原料ガスとしては、H/クロロシラン類のモル比を8としたが、これに限定されるものではなく、気相中でシリコンが析出してしまわないように、またロッドを速やかに成長させるために、例えばモル比を5〜10とするとよい。
後半工程で、単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を調整する場合、実施例のように単位表面積当たりの水素の量も調整し、H/クロロシラン類のモル比をあまり変化させないことが好ましい。すなわち、後半工程で単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を調整する場合は、単位面積当たりの原料ガスの総量を調整する。さらに、モル比は多結晶シリコンの製造プロセス中に変更してもよい。したがって、ロッド表面温度及び中心温度を所定の範囲に維持しながら、ロッドを成長させることができる。
また、原料ガスにSiHやSi等を含んでいてもよく、シーメンス法以外にも、SiHを主成分とするアシミ(ASiMi)法による多結晶シリコン製造方法にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 反応炉
2 基台
2a 空間部
3 ベルジャ
3a 空間部
4 シリコン芯棒
5 電極
6 噴出ノズル
7 ガス排出口
8 電源装置
9 原料ガス供給源
10 原料ガス調整器
11 排ガス処理系
15 ヒータ
16 覗き窓
17 放射温度計
18 冷却材供給管
19 冷却材排出管
21 予熱器
22 予熱器
30 電流制御装置
40 ロッド径算出器
50 制御手段
R ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応炉内のシリコン芯棒に通電してシリコン芯棒を発熱させ、該シリコン芯棒にクロロシラン類を含む原料ガスを供給することにより、シリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させロッドとして成長させる多結晶シリコンの製造方法において、
前記反応炉内の圧力が0.4〜0.9MPaであり、前記シリコン芯棒への電流の調整によりロッドの表面温度を所定の範囲に維持すると共に、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達するまで単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を2.0×10−7〜3.5×10−7mol/sec/mmの範囲内に維持しながら原料ガスを供給する前半工程と、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達した後、ロッド径に応じて予め定めておいた電流値に設定するとともに前記単位表面積当たりの原料ガス供給量を低下させながら前記ロッドの表面温度と中心温度を所定範囲に維持する後半工程とを有することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記後半工程におけるロッドの中心温度は1200〜1300℃の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記反応炉の内壁面温度を250〜400℃とすることを特徴とする請求項1又は2記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスを200〜600℃に予熱した後に前記反応炉に供給することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記原料ガスを200〜400℃に予熱した後に前記反応炉に供給することを特徴とする請求項4記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
前記反応炉から排出される排ガスと原料ガスとを熱交換することにより原料ガスを予熱することを特徴とする請求項5記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項7】
前記反応炉として、最外周位置のロッドと反応炉の内壁面との間に原料ガス供給ノズルを有しないものを使用することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された直径100mm以上の多結晶シリコン。
【請求項9】
反応炉と、反応炉内に設置されシリコン芯棒に通電する複数の電極と、反応炉内にクロロシラン類を含む原料ガスを供給する噴出ノズルと、反応後のガスを反応炉から排出するガス排出口とを備え、前記シリコン芯棒に通電してシリコン芯棒を発熱させ、該シリコン芯棒に前記原料ガスを供給することにより、シリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させロッドとして成長させる多結晶シリコンの製造装置において、
前記ロッドの表面の温度を測定する温度計と、前記ロッドの径を測定するロッド径算出器と、前記反応炉の圧力を制御するとともに、前記原料ガスの供給量及び前記電極から前記シリコン芯棒に通電する電流を前記温度計で測定した温度及び前記ロッド径算出器で測定したロッド径を用いて制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記反応炉内の圧力を0.4〜0.9MPaとし、前記シリコン芯棒への電流を漸次増大させて前記ロッドの表面温度を所定の範囲に維持すると共に、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達するまで単位表面積当たりのクロロシラン類供給量を2.0×10−7〜3.5×10−7mol/sec/mmの範囲内に維持しながら原料ガスを供給する前半工程と、前記ロッドの中心温度がシリコンの融点未満の所定温度に達した後、ロッド径に応じて予め定めておいた電流値に設定するとともに前記単位表面積当たりの原料ガス供給量を低下させることで、前記ロッドの表面温度と中心温度を所定範囲に維持する後半工程とを行うようにプログラムされていることを特徴とする多結晶シリコンの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−37699(P2011−37699A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160105(P2010−160105)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】