説明

多結晶シリコン棒および多結晶シリコン棒の製造方法

【課題】硬い多結晶シリコン棒を簡易的に選別することにより、割れ難い高品質な多結晶シリコン棒を提供すること。
【解決手段】多結晶シリコン棒(100)の長さを巻尺で測定し、次に、ハンマー(120)で多結晶シリコン棒(100)の打撃を行い、この打撃音をマイク(130)を介して録音器(140)に収録する。そして、打撃音の音響信号を高速フーリエ変換して周波数分布を表示させる。さらに、高速フーリエ変換後の周波数分布の中で、最も大きな音量を示すピーク周波数fを検出する。多結晶シリコン棒の長さ(L)とピーク周波数fの関係を求め、ピーク周波数fがf≧1471/Lの領域(A領域)に属するか否かで、多結晶シリコン棒の硬さを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多結晶シリコン棒および多結晶シリコン棒の製造方法に関し、より詳細には、硬い多結晶シリコン棒を簡易的に選別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造用単結晶シリコンあるいは太陽電池製造用シリコンの原料となる多結晶シリコンの製造方法として、シーメンス法が知られている。シーメンス法は、クロロシランを含む原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて気相成長させる方法である。
【0003】
シーメンス法により多結晶シリコンを成長する際、気相成長装置の反応炉内にシリコン芯線を鉛直方向2本、水平方向1本の鳥居型に組み立て、該鳥居型のシリコン芯線の両端を一対の芯線ホルダを介してベースプレート上に配置した一対の金属電極に固定する。
【0004】
次に、金属電極から電流を導通させてシリコン芯線を水素雰囲気中で900℃以上1200℃以下の温度範囲で加熱しながら、トリクロロシランと水素の混合ガスなどの原料ガスをガスノズルから反応炉内に供給すると、シリコン芯線上にシリコンが結晶成長し、所望の直径の多結晶シリコンが逆U字状に形成される。
【0005】
シーメンス法により気相成長させた多結晶シリコンを用いてFZ(Floating Zone)法により単結晶シリコンを製造する場合、上記逆U字状の多結晶シリコンの両端を切断して所望の長さの多結晶シリコン棒に調整し(切断工程)、この多結晶シリコン棒の外周を研磨して直径を長手方向に表面を均一化し(円筒研磨工程)、さらにこの多結晶シリコン棒の一端を加工して尖らせ(先端加工工程)、最後に多結晶シリコン棒の表面をエッチングして不純物および歪を除去する(エッチング工程)などの処理が施される。
【0006】
このような多結晶シリコン棒は、近年の大口径化に伴い、その気相成長過程や成長後の冷却過程において、内外部にひび割れ(クラック)が形成され易くなっている。
【0007】
多結晶シリコン棒の内外部にひび割れが形成されていると、上述した切断工程、円筒研磨工程、先端加工工程、あるいはエッチング工程において折れてしまうことがある。また、最悪の場合には、FZ法による単結晶シリコンインゴットの育成工程中に、多結晶シリコン棒が割れてしまうこともある。これらの工程中に多結晶シリコン棒が割れてしまうと、それまでの工程作業が無駄になるばかりか、工程で使用している機器が破損されることもある。
【0008】
また、多結晶シリコン棒を、CZ(Czochralski)法による単結晶シリコンインゴットの育成工程における追チャージ材やリチャージ材として用いる場合、多結晶シリコン棒の内外部にひび割れがあると、棒状のままで使用するための機械加工の際や高温に加熱されたCZ炉内のルツボへの降下の際にひび割れを起点にして多結晶シリコン棒が破断して落下し、シリコン融液を飛散させたりルツボを破壊したりすることがある。
【0009】
ここで、追チャージとは、ルツボ内に充填したシリコン塊を溶融後、ルツボ上に吊り下げた多結晶シリコン棒を融液に徐々に溶け込ませてルツボ内の融液量を増加させることである。また、リチャージとは、CZ結晶を引上げた後に、ルツボ上に吊り下げた多結晶シリコン棒を残液に徐々に溶け込ませてルツボ内の融液量を増加させることである。
【0010】
従来より、多結晶シリコン内外部のひび割れを検出するためにの種々の手法が提案されている。例えば、特開2001−21543号公報(特許文献1)には、水中またはその他の液体中に多結晶シリコン塊を置き、その上方で探触子を走査させながら0.5〜10MHzの音波を発信および受信し、探触子直下における異常部を二次平面的に表示させる探傷方法が開示されている。
【0011】
また、特開2007−218638号公報(特許文献2)には、多結晶シリコンウエハの赤外線透過光による画像データと赤外線反射光による画像データとを比較し、同じ位置に対応する明度または輝度の差分を画素毎にとり、内外部にクラックがあるかどうかを判断する割れ検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−21543号公報
【特許文献2】特開2007−218638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1および特許文献2に開示の探傷方法や割れ検査方法は、検査装置が大掛かりなものとならざるを得ない。また、従来より作業員の打音による割れ検査も行われているが、この打音検査は官能検査であるため、必然的に、作業員毎の判断のバラツキが生じてしまう。
【0014】
本発明は、このような従来の多結晶シリコンのひび割れ(クラック)を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、大掛かりな装置を必要とせず且つ高い精度で硬くて割れにくい多結晶シリコン棒を選別する手法を提供し、ひいては、高品質な多結晶シリコン棒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するために、本発明の多結晶シリコン棒の製造方法は、気相法により多結晶シリコンを成長させ、該多結晶シリコンを長さがL(m)の多結晶シリコン棒とし、該多結晶シリコン棒を打撃して得られた打撃音の周波数分析を行い、該打撃音のピーク周波数f(Hz)を求め、f≧1471/Lを満足する多結晶シリコン棒を選別することを特徴とする。
【0016】
前記多結晶シリコン棒の選別基準として、前記ピーク周波数fの上限値を、f≦1471/L+1000とすることとしてもよい。
【0017】
また、前記選別される多結晶シリコン棒は、打撃音の波形から求めた固有周波数f0と前記ピーク周波数fとの比R(f0/f)が0.9≦R≦1.1であることとしてもよい。
【0018】
本発明の多結晶シリコン棒は、長さがL(m)の多結晶シリコン棒であって、該多結晶シリコン棒の打撃音は、周波数分析して得られるピーク周波数f(Hz)が、f≧1471/Lを満足することを特徴とする。
【0019】
前記ピーク周波数fは、f≦1471/L+1000を満足することとしてもよい。
【0020】
また、前記多結晶シリコン棒の打撃音の波形から求めた固有周波数f0と前記ピーク周波数fとの比R(f0/f)が0.9≦R≦1.1であることとしてもよい。
【0021】
前記多結晶シリコン棒は、例えば、シーメンス法による気相成長で得られたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、例えば、多結晶シリコン棒を打撃するハンマーと、打撃音を録音するボイスレコーダと、周波数分析に用いるソフトおよびPC(パソコン)と、多結晶シリコン棒の長さを測定する巻尺があれば実施できるので、大掛かりな装置を必要とすることなく簡易に行うことができる。
【0023】
本発明によれば、硬くて割れにくい多結晶シリコン棒を選別することにより、高品質な多結晶シリコン棒を製造することが可能となる。
【0024】
また、内外部のひび割れの有無を一義的に判断できるので、官能検査などのようなバラツキが生じない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の多結晶シリコン棒の選別方法の一態様を説明するための概略図である。
【図2】本発明において多結晶シリコン棒からの打撃音を周波数分析する手順を説明するためのフローチャートである。
【図3A】打撃音の音響信号の一例を示す図である。
【図3B】打撃音の音響信号を高速フーリエ変換して得られた周波数分布の一例を示す図である。
【図4】多結晶シリコン棒について、固有周波数をピーク周波数で除した値とピーク周波数の関係を求めた結果を示す図である。
【図5】R値が0.9以上1.1以下の多結晶シリコン棒につき、その長さとピーク周波数の関係を示すグラフである。
【図6】内外部にひび割れの無い多結晶シリコン棒を選別するための工程例を示すフローチャートである。
【図7】多結晶シリコン棒の製造に用いる装置の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の多結晶シリコン棒の選別方法の一態様を説明するための概略図である。図中、符号100は選別対象である多結晶シリコン棒であり、ここで例示した多結晶シリコン棒100は、上述したシーメンス法による気相成長により得られたもので、直径は約110mmであり、長さは約1600mmである。また、符号110はこの多結晶シリコン棒100を載せるコロであり、符号120は多結晶シリコン棒100を叩くハンマーであり、符号130はハンマー120による打撃により発生する多結晶シリコン棒100からの音を拾うためのマイクであり、符号140はマイク130で拾った打撃音を記録する録音機である。
【0028】
本発明の選別方法では、多結晶シリコン棒100をハンマー120で叩き、これにより生じた打撃音の周波数を解析して多結晶シリコン棒100の硬さを判断する。このため、多結晶シリコン棒100の本来の打撃音を得るためには、多結晶シリコン棒100はなるべく他の部材と接触していないことが望ましい。つまり、正確な周波数解析を行うためには、他部材との接触面積が可能な限り狭くなる状態で多結晶シリコン棒100を保持することが望ましい。そこで、図1に示した例では、2つのコロ110の上に多結晶シリコン棒100を載置している。
【0029】
多結晶シリコン棒100の打撃に用いるハンマー120は、打撃時に多結晶シリコン棒100への重金属汚染が殆ど無い材質のものであることが望ましい。例えば、プラスチックハンマーやタングステンハンマーを用いることが望ましい。
【0030】
多結晶シリコン棒100をハンマー120で叩くと、100Hz〜5000Hzの打撃音がする。多結晶シリコン棒100が長尺になるほど打撃音の周波数は低くなる。また、多結晶シリコン棒100の内外部にひび割れがあると、打撃音の周波数は低くなる。
【0031】
多結晶シリコン棒100からの打撃音は、マイク130により拾われ、録音器140に収録される。録音器140として、例えばデジタルボイスレコーダを用いると、音響信号がアナログからデジタルに変換されて録音される。
【0032】
図2は、本発明において、多結晶シリコン棒からの打撃音を周波数分析する手順を説明するためのフローチャートである。先ず、多結晶シリコン棒100の長さを巻尺で測定する(S101)。次に、ハンマー120を用いて多結晶シリコン棒100の打撃を行い(S102)、この打撃音をマイク130を介して録音器140に収録する(S103)。そして、この打撃音を解析して固有周波数f0を算出し(S104)、さらに、打撃音の音響信号を高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)して周波数分布を表示させる(S105)。
【0033】
図3Aおよび図3Bは、それぞれ、打撃音の音響信号の一例および当該音響信号を高速フーリエ変換して得られた周波数分布の一例である。
【0034】
図3Aに示した打撃音の音響信号波形の山から次の山(あるいは谷から次の谷)までの時間、すなわち周期をまず読み取り、その値の逆数を固有周波数f0として得る。続いて、図3Bに示したように、音響信号の高速フーリエ変換により周波数分布を得る。なお、デジタルに変換された音響信号を高速フーリエ変換するフリーソフトは、インターネットで入手可能である。
【0035】
ハンマー120で多結晶シリコン棒100のひび割れの無い部位を叩いた際に生じる打撃音の波形は正弦波に近く、高速フーリエ変換後の周波数分布において認められる大きな音量を示す周波数は1つか2つである。
【0036】
これに対し、多結晶シリコン棒100のひび割れがある部位をハンマー120で叩くと、恰も、長さが少しずつ異なる複数の多結晶シリコン棒を一度に叩いたときに得られるかのような打撃音が生じる。具体的には、振動数がごく僅か異なる多数の音波が形成され、打撃音の波形は1周期内に多数の山と谷を有する唸りのような波形となる。このため、波形の周期は長くなり、周波数は低くなって打撃音が低く聞こえるようになる。このような打撃音の音響信号を高速フーリエ変換すると、多数の周波数が比較的大きな音量をもつ周波数分布が得られる。
【0037】
そこで、本発明では、高速フーリエ変換後の周波数分布の中で、最も大きな音量を示すピーク周波数fを検出する(S106)。このピーク周波数fは打撃音を形成する主な周波数であり、打撃音の波形が仮に単一の正弦波により形成されている場合は、ピーク周波数fと固有周波数f0が完全に一致する。一方、多数の音波が重なって打撃音の波形を形成している場合は、ピーク周波数fと固有周波数f0がずれてくる。
【0038】
そこで、固有周波数f0とピーク周波数fを比較する(S107)。
【0039】
打撃音の波形を形成する音波の数が比較的少なく、それらの周波数の差が小さい場合には、打撃音の波形は正弦波の周期が少し長くなる程度なので、固有周波数f0はピーク周波数fよりやや小さくなる。
【0040】
これに対して、打撃音の波形を形成する音波の数が多くなり、唸りの波形がはっきり認められるようになると、唸りの周波数がピーク周波数fとなる。このとき、唸りの周期は打撃音の周期よりも長いので、固有周波数f0はピーク周波数fより大きくなる。
【0041】
発明者らの検討によれば、総計31本の多結晶シリコン棒について固有周波数f0とピーク周波数fを測定してひび割れとの関係を調査したところ、ひび割れを有する多結晶シリコン棒が10本、ひび割れの無い多結晶シリコン棒が21本あった。また、これらの多結晶シリコン棒のそれぞれにつき固有周波数f0をピーク周波数fで除した値(R)を求めたところ、0以上2以下であった。
【0042】
次に、固有周波数f0をピーク周波数fで除した値(R)の上限値を徐々に下げ下限値を徐々に上げて範囲を次第に限定していき、その限定範囲内に属するひび割れ有りの多結晶シリコン棒の本数とひび割れ無しの多結晶シリコン棒の本数を調べた。その結果を表1に示す。
【0043】
[表1]

【0044】
表1に示すように、固有周波数f0をピーク周波数fで除した値(R)を0.5以上1.5以下に限定したときは、ひび割れ有りの10本の多結晶シリコン棒のうちの7本、すなわち70%が、ひび割れ無しの多結晶シリコン棒と区別できなかった。しかし、R値の範囲を0.9以上1.1以下に限定すると、ひび割れ無しの多結晶シリコン棒と区別できないひび割れ有りの多結晶シリコン棒は僅かに1本のみとなった。
【0045】
R値の範囲を0.9以上1.1以下に限定した場合、このR値範囲にあるひび割れ無しの多結晶シリコン棒は19本であり、全体の本数(21本)から2本少ないだけである。つまり、ひび割れ無しの多結晶シリコン棒の殆どは、そのR値が0.9以上1.1以下の範囲にあることがわかる。これに対し、0.9以上1.1以下のR値範囲にあるひび割れ有りの多結晶シリコン棒の本数は1本のみであり、ひび割れ有りの多結晶シリコン棒の殆どは、そのR値が0.9未満であるか1.1を超えているかの何れかである。
【0046】
図4は、表1に纏めたものとは別の多結晶シリコン棒の母集団について、上記R値とピーク周波数fの関係を求めた結果を示す図である。なお、黒丸はひび割れが無い多結晶シリコン棒の値を示し、白丸はひび割れが有る多結晶シリコン棒の値を示している。
【0047】
図4に示すように、ひび割れが有る多結晶シリコン棒(白丸)は、その殆どが0.9未満または1.1超のR値を示すが、中には、0.9以上1.1以下の範囲のR値を示すものがある。
【0048】
図5は、R値が0.9以上1.1以下の多結晶シリコン棒につき、その長さ(L)とピーク周波数の関係を示すグラフである。横軸は多結晶シリコン棒の長さ(L)の逆数(単位m-1)であり、縦軸はピーク周波数(f:単位Hz)である。
【0049】
図5に示した結果から、概ね同じR値を示す多結晶シリコン棒であっても、相対的に高いピーク周波数の領域(A領域)と相対的に低い周波数の領域(B領域)の何れかに分類される傾向を明瞭に読み取ることができる。また、何れの領域においても、多結晶シリコン棒が長尺になるほど、すなわち横軸の値が小さいほど、ピーク周波数(f)が低くなる傾向が認められる。
【0050】
上述のA領域に属する多結晶シリコン棒のピーク周波数は、概ね、f=1471/L+583の関係を有している。また、B領域に属する多結晶シリコン棒のピーク周波数は、概ね、f=1471/L−583の関係を有している。従って、A領域とB領域の境界を上記2つの関係式の中間として定義付けると、境界線はf=1471/Lとなる。
【0051】
つまり、A領域に属する多結晶シリコン棒のピーク周波数はf≧1471/Lとなる。但し、発明者らの検討したところによれば、A領域に属する多結晶シリコン棒のピーク周波数は、f≦1471/L+1000の範囲にある。
【0052】
図5に示したように、B領域に属する多結晶シリコン棒のピーク周波数は、A領域に属する多結晶シリコン棒のピーク周波数に比較して低く、B領域に属する多結晶シリコン棒をハンマーで叩くと比較的容易に割ることができる。これに対して、A領域に属する多結晶シリコン棒は硬く、ハンマーで叩いても割れにくい。すなわち、打撃音の周波数解析を行い、ピーク周波数fが上述したA領域とB領域の何れに属するかを知ることにより、多結晶シリコン棒が硬くて割れにくいかどうかを判断することができる。
【0053】
そこで本発明では、上述したような原理に基づき、多結晶シリコン棒の長さに対するピーク周波数の確認を行い(S108)、多結晶シリコン棒の硬さ、ひいては割れにくさを判断する(S109)。
【0054】
図6は、硬い多結晶シリコン棒を選別するための工程例を示すフローチャートである。また、図7は、多結晶シリコンの製造に用いる装置の構成例を示す概略図である。
【0055】
図7を参照すると、多結晶シリコンの製造装置50は、シーメンス法によりシリコン芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させるための装置であり、ベースプレート1と反応容器10により概略構成され、得られる多結晶シリコン100は、鳥居型に組み立てたシリコン芯線5の鉛直部分5aに気相成長する直胴部100aと水平部分(ブリッジ部5b)に気相成長するブリッジ部100bからなる。
【0056】
ベースプレート1には、シリコン芯線5に電流を供給する金属電極2と、窒素ガス、水素ガス、トリクロロシランガスなどのプロセスガスを供給するガスノズル3と、排気ガスを排出する排気口4が配置される。
【0057】
金属電極2は、不図示の別の金属電極に接続されるか或いは反応炉外に配置された電源に接続され、外部からの電力供給を受ける。この金属電極2の側面には絶縁物7が設けられており、この絶縁物7に挟まれた状態でベースプレート1を貫通している。
【0058】
図7に示したように、多結晶シリコン100を気相成長させる際には、反応炉10内に、鉛直方向に2本(5a)と水平方向に1本(5b)の芯線を鳥居型に組み立ててシリコン芯線5とし、シリコン芯線5の鉛直方向部分5aの両端部をそれぞれ炭素電極30に保持された芯線ホルダ20により固定し、金属電極2に供給された外部電力を、炭素電極30を介してシリコン芯線5へと通電させる。
【0059】
なお、金属電極2とベースプレート1と反応炉10は、冷媒を用いて冷却される。また、芯線ホルダ20と炭素電極30は共にグラファイト製である。
【0060】
先ず、図7で例示した構成の装置で、シーメンス法により逆U字状の多結晶シリコンを気相成長する(S201)。
【0061】
多結晶シリコンの気相成長終了後、反応炉10から逆U字状の多結晶シリコンを取り出し、直胴部100aとブリッジ部100bに分ける。ただし、多結晶シリコン棒100の両端にはひび割れが残存していることが多いので、多結晶シリコン棒100の両端は切断する(S202)。
【0062】
次に、図1に示したように、多結晶シリコン棒100をコロ110の上に載せてハンマー120で叩き、マイク130を介して打撃音を収録する。そして、図2を参照して説明した要領で上記衝撃音の周波数分析を行い、固有周波数f0をピーク周波数fで除した値が全ての領域で0.9以上1.1以下であるかどうかを確認する(S203)。
【0063】
なお、簡便法として、多結晶シリコン棒100全体をハンマー120で叩き、音が比較的低い領域の打音のみを収録し、周波数分析してもよい。
【0064】
固有周波数f0をピーク周波数fで除した値が0.9未満、もしくは1.1超の領域がある場合は内外部にひび割れが存在するものと思われるため、その領域は切断除去する(S204)。なお、この場合、ひび割れ領域を切断除去した後に再び周波数分析を行う(S205)。また、必要に応じ、ステップS204とS205を複数回繰り返して、最終的に、固有周波数f0をピーク周波数fで除した値が全ての領域で0.9以上1.1以下であることを確認する(S206)。
【0065】
次に、多結晶シリコン棒100の長さLを巻尺等で測定し、当該多結晶シリコン棒100の長さLの逆数1/Lに対し、上記ピーク周波数が上述したA領域に属するかB領域に属するかを確認する(S207)。A領域に属する多結晶シリコン棒100は、B領域に属するものよりも硬くて割れにくい。すなわち、打撃音がA領域に属する多結晶シリコン棒をB領域に属する多結晶シリコン棒から選別することにより、硬くて割れにくい多結晶シリコン棒を得ることができる(S208)。
【0066】
[実施例1]シーメンス法による気相成長によって得られた多結晶シリコンの両端を切断して、長さ1.2m、直径121mmの多結晶シリコン棒100とした。この多結晶シリコン棒100をタングステンカーバイド製のハンマー120で叩き、その打撃音をマイク130の付属したデジタルボイスレコーダー140に収録した。収録された打撃音の固有周波数は1563Hzであった。
【0067】
続いて、この打撃音の音響信号を高速フーリエ変換して周波数分布を表示させたところ、ピーク周波数は1636.5Hzであった。このとき、固有周波数をピーク周波数で除した値は0.96である。また、上述のA領域とB領域の境界線となる式(f=1471/L)に当該多結晶シリコン棒の長さ1.2mを代入すると、境界ピーク周波数は約1226Hz(=1471/1.2)となるが、上述のピーク周波数(1636.5Hz)はこの境界ピーク周波数よりも高い。従って、多結晶シリコン棒100はA領域に属するものとして選別した。
【0068】
この多結晶シリコン棒100を蛍光灯下で目視検査したところ、ひび割れは全く無かった。そして、多結晶シリコン棒100の両端を切断し、円筒研磨、先端加工、及びエッチングを施し、FZ法による単結晶インゴットの育成を行ったが、これらの一連の工程中において、多結晶シリコン棒100に割れが発生することは無かった。
【0069】
[比較例1]上述した実施例1と同様に、シーメンス法により得られた長さ1.5m、直径122mmの多結晶シリコン棒の固有周波数とピーク周波数を測定した。その結果は、固有周波数が147Hz、ピーク周波数が75.4Hz、固有周波数をピーク周波数で除した値が1.96であった。
【0070】
上述のA領域とB領域の境界線となる式(f=1471/L)に当該多結晶シリコン棒の長さ1.5mを代入すると、境界ピーク周波数は約981Hz(=1471/1.5)となるが、上述のピーク周波数(75.4Hz)はこの境界ピーク周波数よりも遥かに低い。従って、この多結晶シリコン棒はB領域に属するものとして分別した。
【0071】
また、この多結晶シリコン棒を蛍光灯下で目視検査したところ、ひび割れが多くあり、FZシリコンインゴット育成用の多結晶シリコン棒としての加工は行わなかった。
【0072】
このように、本発明によれば、多結晶シリコン棒の硬さ、ひいては割れにくさを簡易的に検知することが可能となり、この手法に基づいて割れ難い多結晶シリコン棒を選別して高品質な多結晶シリコン棒を製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により、硬く割れにくい多結晶シリコン棒のみを選別することが可能となり、FZ法やCZ法によるシリコン単結晶の育成に用られる多結晶シリコン棒の工程内での割れの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 ベースプレート
2 金属電極
3 ガスノズル
4 排気口
5 シリコン芯線
5a 鉛直方向部分
5b ブリッジ部
10 反応容器
20 芯線ホルダ
30 炭素電極
31 上部電極
32 下部電極
50 多結晶シリコンの製造装置
100 多結晶シリコン棒
110 ころ
120 ハンマー
130 マイク
140 録音器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さがL(m)の多結晶シリコン棒であって、該多結晶シリコン棒の打撃音は、周波数分析して得られるピーク周波数f(Hz)が、f≧1471/Lを満足することを特徴とする多結晶シリコン棒。
【請求項2】
前記ピーク周波数fは、f≦1471/L+1000を満足することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン棒。
【請求項3】
前記多結晶シリコン棒の打撃音の波形から求めた固有周波数f0と前記ピーク周波数fとの比R(f0/f)が0.9≦R≦1.1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶シリコン棒。
【請求項4】
前記多結晶シリコン棒はシーメンス法による気相成長で得られたものである請求項1乃至3の何れか1項に記載の多結晶シリコン棒。
【請求項5】
気相法により多結晶シリコンを成長させ、該多結晶シリコンを長さがL(m)の多結晶シリコン棒とし、該多結晶シリコン棒を打撃して得られた打撃音の周波数分析を行い、該打撃音のピーク周波数f(Hz)を求め、f≧1471/Lを満足する多結晶シリコン棒を選別することを特徴とする多結晶シリコン棒の製造方法。
【請求項6】
前記多結晶シリコン棒の選別基準として、前記ピーク周波数fの上限値を、f≦1471/L+1000とすることを特徴とする請求項5に記載の多結晶シリコン棒の製造方法。
【請求項7】
前記選別される多結晶シリコン棒は、打撃音の波形から求めた固有周波数f0と前記ピーク周波数fとの比R(f0/f)が0.9≦R≦1.1であることを特徴とする請求項5又は6に記載の多結晶シリコン棒の製造方法。
【請求項8】
前記気相法はシーメンス法である請求項5乃至7の何れか1項に記載の多結晶シリコン棒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−17997(P2012−17997A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153828(P2010−153828)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】