説明

多結晶シリコン焼結体の製造方法

【課題】残存酸素濃度が低い多結晶シリコン焼結体を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る多結晶シリコン焼結体の製造方法は、例えば、シリコン粉末を成形して成形体を得る第1工程と、前記成形体を加熱装置中に装入する第2工程とを具備している。これら第1及び第2工程は、非酸化性ガス雰囲気下で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン焼結体の製造方法に関する。この方法により製造された多結晶シリコン焼結体は、例えば、太陽電池用のシリコンウエハとして使用され得る。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、環境破壊、及び石油資源の枯渇などの環境問題が深刻化している。そのため、火力発電や原子力発電などに代わる発電手段として、太陽電池を用いた太陽光発電が注目されている。
【0003】
太陽光発電は、上記環境問題の解決に相応しい特性を有している。しかしながら、この発電手段は、発電コストが高い。それゆえ、太陽光発電は、広く一般的に普及するには到っていない。太陽光発電の発電コストの高さは、主に、太陽電池用のシリコンウエハの製造コストが高いことに起因している。
【0004】
太陽電池用のシリコンウエハとしては、単結晶のシリコンウエハと多結晶のシリコンウエハとが知られている。これらは、一般的に、インゴットからの切り出しにより製造される。具体的には、単結晶のシリコンウエハは、例えば、溶融シリコンからチョクラルスキー法により得られた単結晶シリコンのインゴットを用いて製造される。また、多結晶のシリコンウエハは、例えば、溶融シリコンからキャスト法により得られた多結晶シリコンのインゴットを用いて製造される。そして、これらインゴットは、例えば、ダイヤモンド砥粒を用いたワイヤーソーにより、薄板状に切り出される。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、以下の欠点を有している。第1に、溶融シリコンの製造のために、莫大な熱エネルギーが必要である。第2に、インゴットの作製に多大な時間を要する。第3に、インゴットの切削工程において、シリコンの屑が不可避的に発生する。即ち、上記の方法は、エネルギーコスト、生産性、及び製品歩留まりの各面で、不利益を有している。
【0006】
そこで、これら問題点を解消すべく、粉末冶金法による多結晶シリコン焼結体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。これらの方法によると、エネルギーコスト、生産性、及び製品歩留まりを、ある程度改善することが可能となる。
【0007】
しかしながら、これらの方法を用いた場合であっても、多結晶シリコン焼結体に残存する酸素の濃度を充分に低くすることは困難であった。このことは、優れた性能を有する多結晶シリコン焼結体を製造するに当たり、大きな障害となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−109012号公報
【特許文献2】特公昭53−014914号公報
【特許文献3】国際公開第2004/055909号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、残存酸素濃度が低い多結晶シリコン焼結体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面によると、シリコン粉末を成形して成形体を得る第1工程と、前記成形体を加熱装置中に装入する第2工程とを具備し、前記第1及び第2工程は非酸化性ガス雰囲気下で行われる多結晶シリコン焼結体の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第2側面によると、シリコン粉末と成形助剤とを含む混合物を調製する第1工程と、前記混合物を成形して成形体を得る第2工程と、前記成形体を加熱装置中に装入する第3工程とを具備し、前記第1、第2及び第3工程は非酸化性ガス雰囲気下で行われる多結晶シリコン焼結体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、残存酸素濃度が低い多結晶シリコン焼結体を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一態様に係る多結晶シリコン焼結体の製造方法を説明する。この方法は、例えば、シリコン粉末を成形して成形体を得る工程と、成形体を加熱装置中に装入する工程と、成形体を焼成して多結晶シリコン焼結体を得る工程とを含んでいる。或いは、この方法は、シリコン粉末と成形助剤とを含む混合物を調製する工程と、混合物を成形して成形体を得る工程と、成形体を加熱装置中に装入する工程と、成形体を焼成して多結晶シリコン焼結体を得る工程とを含んでいてもよい。
【0014】
これら混合工程、成形工程、及び装入工程は、非酸化性ガス雰囲気下で行われる。非酸化性ガスとしては、例えば、水素ガス、アルゴンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、及び窒素ガスが挙げられる。これらのうち、アルゴンガス又は窒素ガスを用いることが特に好ましい。
【0015】
粉末冶金法では、粉末の取り扱い及び成形は、通常は大気下で行われる。しかしながら、本発明者らは、上述した各工程を通常通り大気下で行うと、多結晶シリコン焼結体の残存酸素濃度が高くなることを初めて見出した。そこで、本発明者らは、この知見に基づいて、上述した各工程を非酸化性ガス雰囲気下で行うことを検討した。その結果、上述した各工程を非酸化性ガス雰囲気下で行うことにより、多結晶シリコン焼結体の残存酸素濃度を大幅に低減できることを見出した。
【0016】
上述した各工程を非酸化性ガス雰囲気下で行う場合、例えば、非酸化性ガスを封入したグローブボックスを使用する。非酸化性ガス雰囲気中の酸素濃度は、例えば10体積%以下とし、好ましくは5体積%以下とし、より好ましくは3体積%以下とする。この酸素濃度が過度に高いと、シリコン粉末の表面酸化が生じ易くなる。その結果、後述する焼成工程における酸素除去が不十分となり、多結晶シリコン焼結体の残存酸素濃度が高くなる。
【0017】
本発明者らは、特に、非酸化性ガス雰囲気中の酸素濃度を5体積%以下とすると、シリコン粉末の表面酸化の進行を大幅に抑制できることを見出している。即ち、こうすると、多結晶シリコン焼結体の残存酸素濃度を特に低くすることが可能となる。
【0018】
以下、混合工程、成形工程、装入工程、及び焼成工程の具体的な手順を例示する。
【0019】
(A)混合工程
この工程では、シリコン粉末と成形助剤とが混合される。
シリコン粉末は、例えば、流動床法、亜鉛還元法、又は冶金学的方法により得られる。多結晶シリコン焼結体を太陽電池用のシリコンウエハとして用いる場合、このシリコン粉末に要求されるシリコンの純度は、例えば、5N(99.999%)〜6N(99.9999%)程度である。
【0020】
シリコン粉末の平均粒子径は、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。シリコン粉末の平均粒子径が小さいほど、また、粒子径が小さい粉末の含有率が高くなるほど、後述する焼成処理において、焼結が進行しやすくなる。
【0021】
シリコン粉末の平均粒子径の下限は特に限定されないが、0.05μm以上であることがより好ましい。シリコン粉末の粒子径が極端に小さくなると、シリコン粒子間に働く付着力(ファンデルワールス力)が大きくなる。その結果、シリコン粉末が粒径が大きな凝集状態の粒子(2次粒子)として成形体中に存在するため、焼結を阻害する恐れがある。
【0022】
なお、上述したシリコン粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により得られる値を意味している。
【0023】
成形助剤としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)及びポリビニルアルコール(PVA)などの有機バインダ、並びに、ベントナイト及び水ガラスなどの無機バインダが挙げられる。
【0024】
また本発明において、成形助剤としては、金属、合金、酸素原子を実質的に含有していない金属化合物、又は、これらの混合物を用いることが好ましい。こうすると、後述する焼成工程において、金属成分の揮散と共に、シリコン粉末表面に付着している酸素が除去される。その結果、多結晶シリコン焼結体における残存酸素濃度が更に低くなる。
【0025】
これら金属、合金及び金属化合物の各々は、シリコンの焼結温度における蒸気圧が10−1atm以上であることが特に好ましい。この場合、焼成工程における金属成分の揮散が特に生じ易くなる。その結果、シリコン粉末表面に付着している酸素がより除去されやすくなり、多結晶シリコン焼結体における残存酸素濃度が特に低くなる。また、この場合、多結晶シリコン焼結体における金属不純物濃度を低減することもできる。
【0026】
シリコンの焼結温度における蒸気圧が10−1atm以上である金属としては、例えば、カドミウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ビスマス、バリウム、サマリウム及び鉛からなる群より選択される金属が挙げられる。シリコンの焼結温度における蒸気圧が10−1atm以上である合金としては、例えば、CaZn、CaCu、MgPb、及びCaPbが挙げられる。また、シリコンの焼結温度における蒸気圧が10−1atm以上であり且つ酸素原子を実質的に含んでいない金属化合物としては、例えば、塩化亜鉛、塩化鉛、塩化銅、硫化銅、及び硫化鉄が挙げられる。なお、この金属化合物は、炭素原子を実質的に含んでいないことがより好ましい。こうすると、多結晶シリコン焼結体の残存炭素濃度も低減することが可能となる。
【0027】
なお、ここで「シリコンの焼結温度」とは、1270℃以上であり且つシリコンの融点(1410℃)未満である特定の温度を意味している。「シリコンの焼結温度」は、例えば、1360℃である。
【0028】
シリコン粉末と成形助剤との混合方法には、特に制限はない。例えば、シリコン粉末と成形助剤とは、乾式法により混合されてもよく、湿式法により混合されてもよい。
【0029】
なお、成形助剤は、省略してもよい。即ち、以上において説明した混合工程は、省略してもよい。成形助剤を省略すると、多結晶シリコン焼結体に、成形助剤に由来した不純物が残らなくなる。その結果、多結晶シリコン焼結体の不純物濃度が低下する。但し、この場合、多結晶シリコン焼結体の強度が弱くなり、製品の歩留まりが悪くなることがある。
【0030】
(B)成形工程
この工程では、シリコン粉末、又は、シリコン粉末と成形助剤とを含む混合物が成形される。この工程は、例えば、金型加圧成形、湿式プレス成形、又は、ドクターブレード法を用いたグリーンシート成形により行われる。成形体の形状には、特に制限はない。
【0031】
(C)装入工程
この工程では、成形工程により得られた成形体が、加熱装置中に装入される。この装入工程は、例えば、非酸化性ガス雰囲気中で成形体を密閉容器に移すことと、非酸化性ガスで満たした加熱装置中で、上記成形体を密閉容器から取り出すこととを含んでいる。
【0032】
(D)焼成工程
この工程では、加熱装置中に装入された成形体が焼成処理に供される。この工程は、典型的には、水素ガスなどの還元雰囲気下で行う。また、この工程は、上述した通り、1270℃以上であり且つシリコンの融点(1410℃)未満の温度で行う。
【0033】
この焼成処理により、シリコン粉末の焼結及び酸素除去が生じる。その結果、得られる多結晶シリコン焼結体中の酸素含有量は、焼成処理前の成形体と比較して減少する。
【0034】
上述した方法では、混合工程、成形工程及び装入工程を非酸化性雰囲気下で行っているため、焼成工程により得られる多結晶シリコン焼結体は、残存酸素濃度が極めて低い。
【実施例】
【0035】
<雰囲気及び酸素濃度の影響:成形助剤なしの場合>
酸素濃度が5.6ppmであり、平均粒径が0.5μmであるシリコン粉末を準備した。これを1t/cmの成形圧で圧縮成形し、直径が50mmであり、厚みが0.5mmであるプレス成形体を得た。なお、上記の成形工程は、アルゴンガス又は窒素ガスで満たしたグローブボックス内で行った。グローブボックス中の酸素濃度は、酸素濃度計を用いてモニタリングし、下記表1に記載のように調整した。
【0036】
得られた成形体の各々は、グローブボックス内で密閉容器に入れた後、アルゴンガス又は窒素ガスで置換した真空炉内に装入した。次いで、これらの各々を、真空管状炉を用いた焼成処理に供した。この焼成は、1L/minの水素ガスフローのもと、1360℃で3時間に亘って行った。このようにして、多結晶シリコン焼結体を得た。
【0037】
なお、比較例として、成形及び装入工程を大気下で行ったこと以外は上で説明したのと同様にして、多結晶シリコン焼結体を製造した。
【0038】
これら多結晶シリコン焼結体の各々について、不活性ガス融解赤外線吸収法による酸素分析装置(LECO TC−436)を用いて、残存酸素濃度を測定した。その結果を、下記表1に示す。なお、表1には、原料として用いたシリコン粉末の酸素濃度も併せて示している。
【表1】

【0039】
表1から分かるように、成形及び装入工程を非酸化性ガス雰囲気下で行うことにより、多結晶シリコン焼結体の残存酸素濃度を大幅に低減できた。特に、酸素濃度を5体積%以下とすることにより、残存酸素濃度を1000ppm以下の低水準に抑えることができた。
【0040】
<雰囲気及び酸素濃度の影響:成形助剤ありの場合>
シリコン粉末に対して10体積%のZn粉末を成形助剤として加えたことを除いては、先に説明したのと同様にして、多結晶シリコン焼結体を製造した。シリコン粉末とZnとの混合は、アルゴンガス又は窒素ガスで満たしたグローブボックス内で行った。グローブボックス中の酸素濃度は、酸素濃度計を用いてモニタリングし、下記表2に記載のように調整した。
【0041】
また、先と同様に、比較例として、混合、成形及び装入工程を大気下で行ったこと以外は上で説明したのと同様にして、多結晶シリコン焼結体を製造した。
【0042】
これら多結晶シリコン焼結体の各々について、不活性ガス融解赤外線吸収法による酸素分析装置(LECO TC−436)を用いて、残存酸素濃度を測定した。その結果を、下記表2に示す。なお、表2には、原料として用いたシリコン粉末の酸素濃度も併せて示している。
【表2】

【0043】
表1と表2との比較により、成形助剤としてZnを添加すると、多結晶シリコン焼結体の残存酸素濃度を更に減少させられることが分かった。特に、工程内酸素濃度が高くなるほど、Zn粉末の添加による効果が大きかった。
【0044】
<成形助剤の種類の影響>
成形助剤の種類を変更したこと以外は、先の実施例11と同様にして、多結晶シリコン焼結体を製造した。なお、これら多結晶シリコン焼結体の製造に当っては、非酸化性ガスとしてアルゴンガスを用いた。これにより、工程内酸素濃度を1.0体積%に調整した。
【0045】
多結晶シリコン焼結体の各々について、不活性ガス融解赤外線吸収法による酸素分析装置(LECO TC−436)を用いて、残存酸素濃度を測定した。その結果を、工程を大気下で行った比較例1と合わせて、下記表3に示す。
【表3】

【0046】
表3に示す結果から、実施例と比較例とを比較すると、非酸化性ガス雰囲気下で混合、成形及び装入工程を行うことにより、成形助剤の種類に依らず、残存酸素濃度をある程度低減できることが分かった。特に、金属、合金、又は、酸素原子を実質的に含有していない金属化合物を成形助剤として用いると、残存酸素濃度を大幅に低減できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粉末を成形して成形体を得る第1工程と、前記成形体を加熱装置中に装入する第2工程とを具備し、前記第1及び第2工程は非酸化性ガス雰囲気下で行われる多結晶シリコン焼結体の製造方法。
【請求項2】
シリコン粉末と成形助剤とを含む混合物を調製する第1工程と、前記混合物を成形して成形体を得る第2工程と、前記成形体を加熱装置中に装入する第3工程とを具備し、前記第1、第2及び第3工程は非酸化性ガス雰囲気下で行われる多結晶シリコン焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記成形助剤は、有機バインダ、無機バインダ、金属、合金、金属化合物、又はこれらの混合物である請求項2に記載の多結晶シリコン焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記成形助剤は、金属、合金、酸素原子を実質的に含有していない金属化合物、又はこれらの混合物である請求項3に記載の多結晶シリコン焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記金属、前記合金、及び前記金属化合物の各々は、シリコンの焼結温度における蒸気圧が10−1atm以上である請求項4に記載の多結晶シリコン焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記非酸化性ガス雰囲気中の酸素濃度は5体積%以下である請求項1乃至5の何れか1項に記載の多結晶シリコン焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記非酸化性ガスは、アルゴンガス又は窒素ガスである請求項1乃至6の何れか1項に記載の多結晶シリコン焼結体の製造方法。