説明

多色湿式化粧料の充填方法

【課題】多色湿式化粧料において、充填密度の均一性を確保しつつ、化粧料の色境界を鮮明に仕上げる。
【解決手段】充填ヘッド1に設けられた可動式の仕切り板1dを下降させ、擦切面1eで開口部が覆われた化粧皿2内を、仕切り板1dによって複数の区画に区分する。この状態で、複数色のスラリーを注入孔1f,1gより吐出することによって、区分された区画のそれぞれを充填する。この状態を維持しながら、仕切り板1dの下端が擦切面1e以上の高さになるまで、仕切り板1dを上昇させる。そして、化粧皿2に対する充填ヘッド1の相対的なスライドによって、充填空間内の複数色のスラリーを擦切面1eで擦り切る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色湿式化粧料の充填方法に係り、特に、仕切り板を用いた多色湿式化粧料のフロント充填に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、フロント充填による多色湿式化粧料の充填方法が開示されている。この充填方法では、まず、化粧皿が収容された枠体上に仕切り治具を配置する。この仕切り治具の下面には、下方に突出した仕切り板が設けられており、仕切り治具の配置によって、化粧皿が収容された枠体の内部空間が仕切り板によって複数の収容領域に区分される。つぎに、区分された収容領域のそれぞれに、個々の収容領域に対応した充填穴が設けられたマスキングプレートを介して、充填手段により多色の化粧料が充填される。そして、充填手段、マスキングプレートおよび仕切り治具を除去した後、それぞれの収容領域内の化粧料が上方よりプレスされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−119835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の充填方法では、収容領域内に充填された多色化粧料の表面が隆起した状態でプレスが行われるため、化粧料表面に加わるプレス圧が不均一になる。その結果、充填密度の均一性を確保しにくく、化粧料の色境界にボケやぶれが生じ易いという問題が生じる。充填密度の不均一さは固形化粧料の強度不足を招き、色境界の不鮮明さは見栄えの低下に繋がる。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、多色湿式化粧料において、充填密度の均一性を確保しつつ、化粧料の色境界を鮮明に仕上げることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決すべく、本発明は、化粧皿内に多色湿式化粧料を充填する充填方法を提供する。この充填方法は、複数の注入孔と、擦切面とを有する充填ヘッドに設けられた可動式の仕切り板を下降させ、擦切面で開口部が覆われた化粧皿内を、仕切り板によって複数の区画に区分する第1のステップと、擦切面によって開口部が覆われた状態で、互いの色が異なる複数の湿式化粧料を充填ヘッドに設けられた複数の注入孔より吐出することによって、上記区分された複数の区画内に複数の湿式化粧料を充填する第2のステップと、擦切面によって開口部が覆われた状態で、仕切り板の下端が擦切面以上の高さになるまで、仕切り板を上昇させる第3のステップと、化粧皿に対する充填ヘッドの相対的なスライドによって、充填された複数の湿式化粧料を擦切面で擦り切る第4のステップとを有する。
【0007】
ここで、本発明において、上記第3のステップで上昇させた仕切り板の下端は、充填ヘッドの擦切面と略面一であることが好ましい。また、上記第4のステップにおいて、充填ヘッドのスライド方向は、仕切り板によって規定される複数の湿式化粧料の境界方向であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、擦切面で化粧皿の開口部を覆い、かつ、仕切り板で充填空間を区分した上で、複数色の湿式化粧料の充填が行われる。また、化粧皿の開口部を覆った状態を維持しながら、充填ヘッドのスライドに支障がないように仕切り板を上昇させた上で、複数色の湿式化粧料の擦り切りが行われる。化粧料表面の隆起が生じないように化粧皿の開口部を擦切面で覆った状態で、多色充填と、その後の擦り切りによる化粧料表面の平坦化とが行われるので、充填密度の均一性を確保しつつ、化粧料の色境界を鮮明に仕上げることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】充填ヘッドの外観斜視図
【図2】ターンテーブルの要部斜視図
【図3】化粧皿上に充填ヘッドをセットした状態を示す図
【図4】充填ヘッドに設けられた可動式仕切り板の下降状態を示す図
【図5】化粧皿内に多色スラリーを注入する状態を示す図
【図6】充填ヘッドに設けられた可動式仕切り板の上昇状態を示す図
【図7】充填ヘッドのスライド状態を示す図
【図8】化粧皿内のスラリーのプレス状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態に係る充填ヘッドの外観斜視図である。この充填ヘッド1は、矩形プレート状のヘッド部1aと、中空状の一対の供給管1b,1cと、可動式の仕切り板1dとを主体に構成され、化粧皿2内に多色湿式化粧料を充填する。ヘッド部1a、および、その上方に取り付けられた供給管1b,1cは共に金属製であり、両者は強固に一体化されている。ヘッド部1aは、仕様として要求される強度を確保するのに十分な厚みを有する。このヘッド部1aの下方には、水平かつ平坦な擦切面1eが形成されている。この擦切面1eは、2つの役割を担っている。一つは、化粧皿2の開口部を覆って湿式化粧料の充填空間を形成する役割であり、もう一つは、充填空間に充填されたスラリーを擦り切る役割である。
【0011】
一方の供給管1bは、ヘッド部1aの上面における図の左側にオフセットした位置に溶接等によって取り付けられている。この供給管1bは、ヘッド部1aに形成された貫通孔と連通している。供給管1bを介して外部から供給された第1の湿式化粧料は、この貫通孔を介して、擦切面1eに設けられた注入孔1fより吐出される。また、他方の供給管1cは、ヘッド部1aの上面における図の右側にオフセットした位置に溶接等によって取り付けられている。この供給管1cは、ヘッド部1aに形成された貫通孔と連通している。供給管1cを介して外部から供給された第2の湿式化粧料は、この貫通孔を介して、擦切面1eに設けられた注入孔1gより下方に吐出される。第1および第2の湿式化粧料は、互いの色が異なっており、流動性を有するスラリーとして供給される。スラリーは、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウといった固形粉末化粧料の化粧料基材と、エタノール、水、流動パラフィン、イソパラフィン、イソプロピルアルコール等の揮発性溶剤とを混合したものである。なお、同図には示していないが、スラリーの充填時に充填空間内の空気(エア)等を抜くために、ヘッド部1aを貫通する小径の排出孔を設けてもよい。
【0012】
また、ヘッド部1aの中央には、スリット状の貫通孔が設けられており、この貫通孔内には、矩形プレート状を有する肉薄な仕切り板1dが挿入されている。この仕切り板1dは、図示しない昇降機構によって、擦切面1eから下方に突出した下降状態および擦切面1eから下方に突出していない上昇状態に昇降制御される。
【0013】
多色湿式化粧料の製造工程では、充填ヘッド1に対して化粧皿2を相対移動させるための手段として、図2に示すように、取付軸を中心に回転可能なターンテーブル4が用いられる。このターンテーブル4の周方向には凹状に陥没した取付部4aが複数設けられており、それぞれの取付部4aに基板3が着脱自在に嵌入される。基板3の一部(略中央)は、化粧皿2の形状に応じた陥没部3aが設けられている。本実施形態において、この陥没部3aの深さは化粧皿2の高さよりも浅くなっている。したがって、陥没部3aに化粧皿2をセットした状態では、化粧皿2の上縁の方が基板3の上面よりも高くなって、基板3の上面より化粧皿2が突出する。ターンテーブル4は、所定の間隔で所定の角度だけ回転し、これに応じて、これに嵌入されたそれぞれの基板3も水平面上を断続的に移動する。
【0014】
つぎに、図3から図8を参照しつつ、多色湿式化粧料の製造方法について説明する。上述した充填ヘッド1は、図示しない昇降装置が有する昇降機構に取り付けられ、油圧や空気圧を制御することによって昇降する。
【0015】
まず、基板3の陥没部3aに化粧皿2をセットする。そして、プッシャーによってターンテーブル4を回転させて、化粧皿2を充填ヘッド1の下に配置する。そして、図3に示すように、上昇していた充填ヘッド1を下降させて、ヘッド部1aの下方に形成された擦切面1eを化粧皿2の上縁に当接させる。これによって、化粧皿2の開口部が擦切面1eで覆われて、化粧皿2の内壁と、擦切面1eとによって囲まれた充填空間が形成される。
【0016】
つぎに、図4に示すように、仕切り板1dを下降させ、仕切り板1dの下端を化粧皿2の内底に当接させる。これにより、擦切面1eで開口部が覆われた化粧皿2の内部空間は、仕切り板1dによって複数の区画A,Bに区分される。区画Aは、上述した第1の湿式化粧料(第1のスラリー)の充填空間となり、区画Bは、第2の湿式化粧料(第2のスラリー)の充填空間となる。
【0017】
つぎに、図5に示すように、擦切面1eによって化粧皿2の開口部が覆われた状態で、供給管1b,1c内を加圧することによって、一方の注入孔1fより第1のスラリー、他方の注入孔1gより第2のスラリーがそれぞれだけ吐出される。注入孔1fより吐出された第1のスラリーは、仕切り板1dによって充填空間Bへの移動が規制されつつ横方向に広がりながら、充填空間A内に充填される。また、注入孔1gより吐出された第2のスラリーは、仕切り板1dによって充填空間Aへの移動が規制されつつ横方向に広がりながら、充填空間B内に充填される。第1および第2のスラリーが規定量に相当する分だけそれぞれ吐出されると、充填空間A,B内に完全に充填されたスラリーの更なる膨張を擦切面1eが規制する形になる。これにより、スラリー自体が加圧されて、スラリーの凝縮によって充填密度が均一化される。
【0018】
つぎに、図6に示すように、擦切面1eによって化粧皿2の開口部が覆われた状態で、仕切り板1dを上昇させる。充填ヘッド1をスライドさせる際、仕切り板1dがスライドの邪魔にならないように、仕切り板1dは、その下端が擦切面1e以上の高さになるまで上昇させる。その際、仕切り板1dをあまり引き上げすぎると、擦切面1eに凹状の窪みが生じ、これに起因して化粧料の色境界が不鮮明になる可能性がある。このような窪みの発生を防止するために、上昇させた仕切り板1dの下端が擦切面1eと略面一になるようにすることが好ましい。なお、仕切り板1dの上昇によって、第1および第2のスラリーの境界部分に仕切り板1dの厚み相当の微小な隙間が生じるが、この隙間はプレス(後工程)による化粧料自体の変形で完全に消失する。
【0019】
つぎに、図7に示すように、充填ヘッド1を下降させた状態のまま、プッシャーによってターンテーブル4を回転させて、ヘッド部1aに対して基板3を水平方向に相対移動させる。このスライドによって、充填空間A,B内に充填された第1および第2のスラリーは擦切面1eによって擦り切られ、スラリー表面の高さは化粧皿2の上縁相当になる。なお、充填ヘッド1のスライド方向は、仕切り板1dによって規定されるスラリーの境界方向と一致させることが好ましい。色境界を跨ぐ方向への擦切面1eの変位を抑制することで、これに起因した色境界の乱れを有効に抑制できる。
【0020】
そして、図8に示すように、擦切面1eの擦り切りによって表面が平坦化された第1および第2のスラリーを、プレスヘッド5を用いて上方よりプレスする。平坦化されたスラリーにプレスを施すので、表面が隆起した状態のものに施す場合と比較して、色境界のボケやぶれが生じ難い。なお、このプレス工程でスラリーの揮発成分を除去する場合には、プレスヘッド5として多孔性の部材を用い、プレスヘッド5とスラリーとの間に、多孔性のプレスシートを介在させることが好ましい。
【0021】
そして、スラリー内の残存揮発成分を乾燥除去することによって、多色湿式化粧料が完成する。最終的な化粧料表面は、プレス工程等に起因して、化粧皿2の上縁よりも所定の高さだけ低くなる。
【0022】
このように、本実施形態によれば、擦切面1eで化粧皿2の開口部を覆い、かつ、仕切り板1dで充填空間を区分した上で、複数色のスラリーの充填が行われる。また、化粧皿2の開口部を覆った状態を維持しながら、充填ヘッド1のスライドに支障がないように仕切り板1dを上昇させた上で、複数色のスラリーの擦り切りが行われる。スラリー表面の隆起が生じないように化粧皿2の開口部を擦切面1eで覆った状態で、多色充填と、その後の擦り切りによる化粧料表面の平坦化とが行われるので、多色湿式化粧料の充填密度の均一性を確保しつつ、化粧料の色境界を鮮明に仕上げることが可能になる。
【0023】
なお、上述した実施形態では、単一の仕切り板1dを用いて2つの充填空間A,Bを形成し、2色の湿式化粧料を充填するケースについて説明したが、複数の仕切り板1dを用いて、或いは、仕切り板1dの形状を工夫することによって、3色以上の湿式化粧料の充填を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上のように、本発明に係る多色湿式化粧料の充填方法は、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウといった様々な湿式化粧料に広く適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 充填ヘッド
1a ヘッド部
1b,1c 供給管
1d 仕切り板
1e 擦切面
1f,1g 注入孔
2 化粧皿
3 基板
4 ターンテーブル
5 プレスヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧皿内に多色湿式化粧料を充填する充填方法において、
複数の注入孔と、擦切面とを有する充填ヘッドに設けられた可動式の仕切り板を下降させ、前記擦切面で開口部が覆われた化粧皿内を、前記仕切り板によって複数の区画に区分する第1のステップと、
前記擦切面によって前記開口部が覆われた状態で、互いの色が異なる複数の湿式化粧料を前記複数の注入孔より吐出することによって、前記区分された複数の区画内に前記複数の湿式化粧料を充填する第2のステップと、
前記擦切面によって前記開口部が覆われた状態で、前記仕切り板の下端が前記擦切面以上の高さになるまで、前記仕切り板を上昇させる第3のステップと、
前記化粧皿に対する前記充填ヘッドの相対的なスライドによって、前記充填された複数の湿式化粧料を前記擦切面で擦り切る第4のステップと
を有することを特徴とする多色湿式化粧料の充填方法。
【請求項2】
前記第3のステップにおいて、上昇させた前記仕切り板の下端は、前記擦切面と略面一であることを特徴とする請求項1に記載された多色湿式化粧料の充填方法。
【請求項3】
前記第4のステップにおいて、前記充填ヘッドのスライド方向は、前記仕切り板によって規定される前記複数の湿式化粧料の境界方向であることを特徴とする請求項1または2に記載された多色湿式化粧料の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−32247(P2011−32247A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182642(P2009−182642)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】