説明

多色生物発光可視化プローブセット、又は一分子型多色生物発光可視化プローブ

【課題】一分子型発光プローブの利点を生かし、しかも標的タンパク質に対する複数の信号に対応して二次元情報(発光信号の波長と強度)を出すことのできるリガンドの検出手段を提供する。
【解決手段】リガンド認識タンパク質、該タンパク質が構造変化をした場合に結合可能となる分子認識ドメインとからなる融合タンパク質の両端につながれた、発光酵素の分割フラグメントからなる一分子型発光プローブを複数の波長の発光酵素を利用して多色発光させる発光プローブのセット。多色発光プローブセット又は一分子型多色プローブの遺伝子を導入した生細胞を用いることで、生細胞内複雑系における標的リガンドの活性度を二次元(波長vs強度)多色で分別・検出し、薬剤に代表されるリガンドの多面的効果(抗癌と発癌作用、アゴニストとアンタゴニストなど)をそれぞれ同時に違う色の二次元情報として単時間内で定量評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、標的タンパク質に特異的なリガンドの両面的な活性を寸時に多色発光で可視化できる多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然界には豊かな自然と生物が共存しており、生物間にはDNA発現など共有の分子メカニズム・原理に基づいて生命現象を維持している。医学・薬学・理学分野における多くの研究テーマは生命体の生命現象の究明を目指している。このような生命現象を理解し、安全な生活環境を確保するためには、危険候補因子を排除する一方、有効な新薬開発も欠かせない。このためには、生命体の基本単位である細胞内におこる様々な分子現象(例えば、タンパク質-タンパク質間相互作用、リン酸化、分子移動、転写・翻訳など)を生物分析する必要がある。ところが、細胞内には、(i)数え切れない多くのタンパク質が存在しており、(ii)その内部構造は細胞小器官などに区切られている複雑な構造であり、(iii)まだ知られざる複雑、且つ巧みな制御システムによって細かくコントロールされている。また、(iv)生命現象のキーとなる標的タンパク質・脂質などは、特異的な吸光スペクトルを持たず、一般的に細胞内には少量しか存在しないため、分光分析による検出が非常に困難である。
したがって、広い範囲の生命科学分野における最近の研究では、特定生命現象における細胞・動物個体内での分子イメージングが主な研究トレンドとなっている(非特許論文[1])。とりわけ、(i)緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein; GFP)のような蛍光色素タンパク質を利用した生物分析、又、(ii)ホタル・ルシフェラーゼ(firefly luciferase; FLuc)のような生物発光タンパク質(bioluminescent protein;特に発光酵素(Lighting Enzyme)をいう)を利用した生体イメージングなどは、世界各国の研究開発競争の激しい分野である。
上記蛍光・発光を用いた従来の基盤技術は、(i)フレット法(fluorescent resonance energy transfer; FRET)、(ii)ブレット法(bioluminescence resonance energy transfer; BRET)、(iii)レポータージーンアッセイ(reporter gene assay)、(iv)タンパク質相補法(protein complementation)、(v)タンパク質再構成法(protein splicing)などをあげることができる。これらの既定技術は、それぞれ長所と短所をもっているため、相互に補いながら使用されている。例えば、蛍光を分析信号とするフレット法とレポータージーンアッセイは、自己蛍光(autofluorescence)によるバックグラウンドの増加が問題となり、蛍光信号検出のために精密なフィルターシステムを介するなど高価設備を必要とするという問題もある。また、外部からの励起光を必要とするため、生体内での生物分析への応用は非常にむずかしい。一方、発光を分析信号とする方法であるタンパク質相補法とタンパク質再構成法は、外部からの基質導入を必要とするという問題点がある(非特許論文[2])。
【0003】
近年、この分野の研究傾向は、(i)上記蛍光・発光法に適用できる有効な蛍光・発光タンパク質の発見、(ii)その遺伝子の動物細胞発現のための改良・最適化、(iii)新規蛍光発光生物分析法の開発などが挙げられる。今まで発見された発光タンパク質(特に発光酵素(Lighting Enzyme; LE)をいう)は大きく分けて、(i)pH感受性LEと(ii)pH非感受性LEに分けられる。pH感受性LEとして、ホタル・ルシフェラーゼ(FLuc)、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ(RLuc)などがあり、pH非感受性LEとしては、クリックビートル・ルシフェラーゼ(click beetle luciferase; CBLuc)、レイルロード・ルシフェラーゼ(railroad luciferase; RRLuc)などがある(非特許論文[3])。上記pH非感受性LEは重金属、温度の影響を受けにくく、生体分析に応用できる長波長の安定的な光信号を出す特徴を有する。このようなCBLucの長所を発光プローブに生かすために、本発明では緑光CBLucと赤光CBLucをLEとして採用した。
また、本発明の実施例として用いられた女性ホルモン受容体(estrogen receptor; ER)は核受容体(nuclear receptors; NRs)スーパーファミリの一種であり、女性の生殖、発達、代謝などに関与する重要タンパク質の一つである。ERは細胞内に広く分布している。女性ホルモンと結合するとERは構造変化を引き起こし、二量体になり、共転写因子(coactivator)などと結合した後、核内で標的遺伝子プロモーター上の応答配列を認識して結合することによって、様々な遺伝子の転写を活性化させる特徴を持っている(非特許論文[4])。
NRの様々なゲノミック作用およびノンゲノミック作用は、それぞれの作用に対応したリガンドの結合によってNR内のリガンド結合ドメイン(LBD)の構造変化が異なり、場合によってはLBD内のリン酸化が引き起こされる。ゲノミック作用を有するリガンドがNRに結合した場合、NRは共転写因子等(coactivator)との結合性を獲得して当該因子に結合する結果、核内転写活性の向上などを引き起こす。このような分子内構造変化、分子間結合による二量化は、ERのみならず、男性ホルモン受容体(AR)、プロゲステロン受容体(PR)、グルココルチコイド受容体(GR)等の様々なNRsで一般的に見られるステロイドホルモン応答機構である(非特許論文[5])。一方、ノンゲノミック作用を有するリガンドが結合したNRは、kinaseを中心とした膜局在タンパク質と結合して、細胞質内信号伝達を活性化させる。
【0004】
以前、本発明者らは、cGMPがその標的分子(cGMP結合タンパク質)に結合することをフレット(FRET;蛍光共鳴エネルギー移動 )現象に基づいて可視化することのできるプローブ(特許文献[1])や、IP3を同じくFRET現象を利用して可視化することのできるプローブ(特許文献[2])を提案している。また、2つの発色団の使用によるFRET現象を指標とするのではなく、一つの発色団を2分割したレポーター分子(発光酵素や蛍光タンパク質)のN末端側とC末端側をそれぞれ2つの独立したタンパク質に連結したプローブを作成した。この独立した2つのタンパク質間の結合によって再構成または自己相補されたレポーター分子の発光強度あるいは蛍光強度を指標としてタンパク質−タンパク質間相互作用を検出する手段(2分子型プローブ:特許文献[3,4])も提案している。また、最近には、一つの分子内のタンパク質-タンパク質間相互作用をLEの自己相補の原理に基づいてバイオイメージングする方法を特許出願した(特願2007-005144)。この手法の特徴は一分子内でpH感受性LEであるFlucのN末端側とC末端側を両端にし、標的のリガンド認識タンパク質を挿入しておいて、リガンドの結合により引き起こされた構造変化を一次元的な発光強度で検出する方法であった。
前記FRET現象を利用した標的リガンドの検出プローブ(特許文献[5]、非特許論文 [7])は、前述のように、短時間でのリガンド検出を可能とするとともに、アゴニストとアンタゴニストをそれぞれ検出可能であるという点において優れているが、自己蛍光によるバックグラウンドの高いこと、及び2つの発色団の波長変化を高精度で測定するために高精度蛍光顕微鏡とフィルター装置、熟練技術者を必要とする。また、外部からの短波長光による励起を必要とするため、短波長光吸収の激しい生体レベルでの生物分析が非常に難しいものであった。
一方、本発明者らが以前開発した、タンパク質スプライシングや自己相補による従来の分割レポーター分子の再構成を利用したタンパク質−タンパク質相互作用の検出法(特許文献[3,4]、非特許論文[2,5])の場合は、非活性分割レポーター分子(シグナル無)と再構成された活性レポーター分子(シグナル有)の単純な比較によって判定が可能であり、微妙な波長変化の測定を必要としない利点がある。ところが、このような方法の場合、それぞれの分割レポーター分子は、別個のプローブとして細胞内に導入されているため(2分子型プローブ)、各々のプローブの発現量が相違してしまう不都合が起こる。そして、2つのプローブを一つの細胞に共導入しようとしても、実際には、どちらか一方のプローブしか導入できなかった細胞が多く存在するため、プローブの非効率さが強く懸念された。また、2つのプローブとして別個に細胞内に導入された分割レポーター分子が活性型の1分子に再構成されるためには両プローブが十分に近接する必要があるが、そのためにはそれぞれの分割レポーター分子に連結されたタンパク質同士の十分強固な結合が必要となり、比較的弱い結合についてはレポーターの再構成が難しく効率が低くなることも問題であった。
【0005】
上記本発明者による先願発明(特願2007-005144)は、以上の問題点を解決するべくなされた発明であり、一分子内に分割レポーターフラグメントと、結合能を有する二つのタンパク質とをつないでおいた形の一分子型発光プローブを提供する新規な生物分析法である。しかしながら、この手法は一つの分子信号のみにしか応答できず、一次元的な発光強度情報しか与えてくれないため、複雑な生細胞内における生体内信号の解析には不十分なものであった。すなわち、生細胞内は複雑系であるにもかかわらず、(i)複数の信号に対する追跡手段を提供できなかった点、(ii)リガンドの性質と強度といった2次元的情報解析ができなかった問題点を抱えていた。例えば、抗がん物質又は新薬のようなリガンドによる刺激があった場合、細胞はそれに対して複数の信号を誘発し、その応答タンパク質は幾つかの選択肢の中から最適信号伝達を瞬時に判断する。このような生体内信号応答原理は先願発明のような一次元的な発光強度測定だけでは到底対応できないものであることから、複数の信号と性質を同時に追跡できる発光プローブの開発が強く望まれていた。
【特許文献1】特開2002-01735号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/113792号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2002/08766号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2004/104222号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2005/078119号パンフレット
【非特許文献1】Massoud, T.F., and Gambhir, S.S. (2003). Genes & Development 17, 545-580.
【非特許文献2】Kim, S. B.; Ozawa, T.; Watanabe, S.; Umezawa, Y. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2004, 101, 11542-11547.
【非特許文献3】Viviani, V.R., Uchida, A., Viviani, W., and Ohmiya, Y. (2002). Photochem. Photobiol. 76, 538-544.
【非特許文献4】Zhao, C.Q., Koide, A., Abrams, J., Deighton-Collins, S., Martinez, A., Schwartz, J.A., Koide, S., and Skafar, D.F. (2003). J. Biol. Chem. 278, 27278-27286.
【非特許文献5】Kim, S.B., Awais, M., Sato, M., Umezawa, Y., and Tao, H. (2007). Anal. Chem. 79, 1874-1880.
【非特許文献6】Awais, M.; Sato, M.; Lee, X. F.; Umezawa, Y. Angew. Chem. Int. Ed.2006, 45, 2707-2712.
【非特許文献7】Schaufele, F.; Carbonell, X.; Guerbadot, M.; Borngraeber, S.; Chapman, M. S.; Ma, A. A.; Miner, J. N.; Diamond, M. I. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2005, 102, 9802-9807.
【非特許文献8】Paulmurugan, R., and Gambhir, S.S. (2005). Anal. Chem. 77, 1295-1302.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の一分子型発光プローブの利点を生かしつつ、しかもリガンドが標的タンパク質と結合することによって引き起こされる複数の信号に対応して二次元情報(発光信号の波長と強さ)を出すことのできる新しいリガンドの検出手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段として、発光タンパク質は同種のものであってもそれぞれ異なる波長の色を発光することに着目して、従来の一分子型発光プローブのそれぞれに波長の異なる発光タンパク質を分割して用い、これらをセットとして用いることに思い至った。この分割したことによって各発光タンパク質は一時的にその活性をなくす。そして、対象となるリガンド認識タンパク質の構造変化に応じて異なる波長の色を発光させることができ、その発光信号の波長ごとの強さを測定することで、披検物質のリガンドとしての性質及び活性の強度が2次元的に解析できることを見出した。本発明の実施態様では、典型的なpH非感受性の発光タンパク質であるクリックビートル・ルシフェラーゼ(CBLuc)の中で、緑光CBLucと赤光CBLucとの2色を用いた。緑光CBLucと赤光CBLucのそれぞれを二分割した分割フラグメントを両端に有する2種類の一分子型発光プローブをセットで用い、それぞれのプローブ内のリガンド認識タンパク質が構造変化に応じて結合する分子認識ドメイン領域を変えることで、タンパク質の構造変化の違いを緑色光と赤色光のそれぞれの強度に置き換えることができた。この一分子型発光プローブセットを構成するにつき技術的難点としては、(i)一分子内で起きるリン酸化を発光検出する先行技術がなかったため、多色プローブの1軸である赤色発色プローブそのものを構成できなかった点、(ii)2種類の一分子型発光プローブを一つの細胞内に導入した場合、二つの分子間の交差結合が引き起こるおそれがあった。問題点(i)の解決策としては、試行錯誤の末、キナーゼのリン酸化認識部位のみ(SH2ドメイン)を摘出して、リガンド認識タンパク質につなげることによって、標的リガンド認識タンパク質のリン酸化を一分子内で可逆的に検知できることを見出した。問題点(ii)の解決策としては、一連のコントロール実験の結果、多種類分子が共存する場合であっても、一分子内タンパク質間結合が、二分子間結合を含むいかなる結合形態より優先するという知見を見出し、本発明を完成した。
【0008】
さらに、一分子中に、リガンド認識タンパク質を中心とし、緑光CBLucと赤光CBLucそれぞれの分割フラグメント、及びリガンド活性の種類により異なる構造に変化した対象タンパク質にそれぞれ結合する2種類の異なる分子認識ドメインの全要素を一分子中に一列に並べた一分子型多色発光プローブの作成を試みた。対象となるリガンド認識タンパク質はリガンドの種類・活性程度に応じて一分子中の異なる位置に存在する認識配列と結合するので、同じ分子内の異なる発色分割フラグメント同士が結合してそれぞれの発色光を観察できる。
ところで、このような一列に並べる式のプローブを作成するには、プローブ内の数多い全要素を最適順番に並べる必要があり、また一分子プローブに適用できる緑光CBLucと赤光CBLucの最適切断位置を決める必要がある。しかも、一分子内のタンパク質-タンパク質間の組み合わせパターンの違いを、緑色光と赤色光とに置き換えて異なる発色をさせるための分割フラグメント数は四つ(N-LE-1, C-LE-1, N-LE-2, C-LE-2)必要である。ところが、リガンド認識タンパク質を中心にした一分子の内で、いかなる並べ方をしても、この四つの分割フラグメントを全部生かしながら、多色プローブの最適構成を保つのは不可能である。つまり、リガンド認識タンパク質を中心にした一分子の内で、その構造変化によって、2種類の分子認識タンパク質と最適結合させながら、必ず、N-LE-1と C-LE-1とが結合(赤発色)するように、又はN-LE-2とC-LE-2とが結合(緑発色)するように並べることは不可能である。従って、上記発光タンパク質からできた四つの分割フラグメントの中で、必ず、1フラグメントを削る必要がある。
本発明者らによる鋭意研究の結果、切断されたそれぞれ四つの分割フラグメント中、緑光CBLucのC末側フラグメントは、赤光CBLucのC末側フラグメントと同一性質であるとの知見を得た。そこで、両者のC末側フラグメントを共通とし、これが緑光のN末側フラグメントと赤光のN末側フラグメントのいずれかとの組み合わされることにより、異なる発色になるように導いた。このように、本発明では、一分子内タンパク質-タンパク質間の組み合わせパターンをベースに、それらのタンパク質の近傍につなげた分割発色LEとの組み合わせ型を、違うパターンに対しては違う組み合わせになるような一分子型多色プローブを提供でき、本発明を完成することができた。
【0009】
以上のように、本発明により提供された、多色発光プローブセットを用いるか、もしくは一分子型多色プローブを用いることで、生細胞内複雑系における標的リガンドの性質・活性度を二次元(波長vs強度)多色で分別・検出することができ、生理活性物質に代表されるリガンドの両面の効果(抗癌と発癌作用、アゴニストとアンタゴニストなど)をそれぞれ同時に違う色の二次元情報として単時間内で定量評価することができる。
本発明はまた、前記プローブを生細胞で発現することのできる発現ベクターを提供する。
さらに本発明は、多色発光プローブのセット、又は一分子型多色発光プローブを発現している生細胞を含む、リガンド活性定性定量用キットを提供するものであり、さらに前記多色発光プローブのセット、もしくは一分子型多色発光プローブ自体、または、これら発光プローブをコードする遺伝子を含む発現ベクターと共に、LEの基質を組み合わせることにより、リガンド活性定性定量用キットを提供する。
またさらに本発明は、対象のリガンド認識タンパク質に結合する未知のアンタゴニスト/アゴニストをスクリーニングする方法及びそのためのキットも提供する。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕 (1)リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)とC末端側フラグメント(C-LE-1)とがそれぞれ連結されている、第1番目の波長の光を発する一分子型発光プローブ、及び
(2) 上記リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)とC末端側フラグメント(C-LE-2)とがそれぞれ連結されている、第2番目の波長の光を発する一分子型発光プローブ、
を含むことを特徴とする、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブセット。
〔2〕 前記第1の発光酵素が緑色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Green)であって、第1番目の発光シグナルの波長が緑色域であり、前記第2の発光酵素が赤色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Red)であって、第2番目の発光シグナルの波長が赤色域であることを特徴する前記〔1〕に記載の多色発光プローブセット。
〔3〕 前記リガンド認識タンパク質と同一もしくは別のリガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第3番目の構造変化をした場合に結合可能となる第3の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第3の発光酵素(LE-3)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-3)とC末端側フラグメント(C-LE-3)とがそれぞれ連結されている、第3番目の波長の発色をする一分子型発光プローブをさらに含むことを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の多色発光プローブセット。
〔4〕 前記第3の発光酵素が黄色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Yellow)であって、第3番目の発光シグナルの波長が黄色域であることを特徴する前記〔3〕に記載の多色発光プローブセット。
〔5〕 前記リガンド認識タンパク質が、ホルモン、化学物質もしくは信号伝達タンパク質をリガンドとする核受容体(NR)、サイトカイン受容体(cytokine receptor)、又は各種タンパク質キナーゼであることを特徴とする、前記〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の多色発光プローブセット。
〔6〕 前記リガンド認識タンパク質が、エストロゲン受容体(ER)、グルココルチコイド受容体(GR)、アンドロゲン受容体(AR)、及びプロゲステロン受容体(PR)のいずれかの中から選択される核受容体(NR)であることを特徴とする、前記〔5〕に記載の多色発光プローブセット。
〔7〕 前記リガンド認識タンパク質が核受容体(NR)の場合において、第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインが共転写因子(coactivator)由来の分子認識ドメインであり、第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインがリン酸化認識ドメインであることを特徴とする、前記〔5〕又は〔6〕に記載の多色発光プローブセット。
〔8〕 前記共転写因子由来の分子認識ドメインが、LXXLLモチーフを有する分子認識ドメインであり、前記リン酸化認識ドメインがキナーゼ由来のリン酸化認識ドメインであるSH2ドメインであることを特徴とする、前記〔7〕に記載の多色発光プローブセット。
〔9〕 前記リガンド認識タンパク質と同一もしくは別のリガンド認識タンパク質と共に、当該リガンド認識タンパク質が構造変化をした場合に結合可能となる第n番目の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第n番目の発光酵素(LE-n)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-n)とC末端側フラグメント(C-LE-n)とがそれぞれ連結されている、第n番目の波長の発色をする一分子型発光プローブをさらに含むことを特徴とする、前記〔1〕ないし〔8〕のいずれかに記載の多色発光プローブセット(ただし、nは3以上の自然数)。
〔10〕 リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)とC末端側フラグメント(C-LE-1)とがそれぞれ連結されており、N-LE-1のさらにN末端側に、当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインが連結され、さらにそのN末端側に第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)が連結されており、リガンド認識タンパク質がリガンドの結合により第1番目の構造変化をして第1の分子認識ドメインと結合すると、N-LE-1とC-LE-1とが自己相補して第1番目の波長の発光シグナルを発し、また第2番目の構造変化をして第2の分子認識ドメインと結合すると、N-LE-2とC-LE-1とが自己相補して第2番目の波長の発光シグナルを発する、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブ。
〔11〕 前記第1の発光酵素が緑色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Green)であって、第1番目の発光シグナルの波長が緑色域であり、前記第2の発光酵素が赤色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Red)であって、第2番目の発光シグナルの波長が赤色域であることを特徴する、前記〔10〕に記載の一分子型多色発光プローブ。
〔12〕 前記リガンド認識タンパク質が、核受容体(NR)、サイトカイン受容体(cytokine receptor)、又は各種タンパク質キナーゼであることを特徴とする、前記〔10〕又は〔11〕に記載の一分子型多色発光プローブ。
〔13〕 前記リガンド認識タンパク質が、エストロゲン受容体(ER)、グルココルチコイド受容体(GR)、アンドロゲン受容体(AR)、及びプロゲステロン受容体(PR)のいずれかの中から選択される核受容体(NR)であることを特徴とする、前記〔12〕に記載の一分子型多色発光プローブ。
〔14〕 前記リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に、結合可能となる第1の分子認識ドメインが共転写因子(coactivator)由来の分子認識ドメインであり、第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインがリン酸化認識ドメインであることを特徴とする、前記〔10〕ないし〔13〕のいずれかに記載の一分子型多色発光プローブ。
〔15〕 前記共転写因子由来の分子認識ドメインが、LXXLLモチーフを有する分子認識ドメインであり、前記リン酸化認識ドメインがキナーゼ由来のリン酸化認識ドメインであるSH2ドメインであることを特徴とする、前記〔14〕に記載の一分子型多色発光プローブ。
〔16〕 前記〔1〕ないし〔9〕のいずれかに記載の多色発光プローブセットを、生細胞中で発現可能な核酸のセットであって、
(1)リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)をコードする核酸とC末端側フラグメント(C-LE-1)をコードする核酸とがそれぞれ連結されている、第1番目の波長の光を発する一分子型発光プローブをコードする核酸、及び
(2)上記リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸の両端に、第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)をコードする核酸とC末端側フラグメント(C-LE-2)をコードする核酸とがそれぞれ連結されている、第2番目の波長の光を発する一分子型発光プローブをコードする核酸、を含むことを特徴とする、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブセットをコードする核酸のセット。
〔17〕 リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブセットを生細胞中で発現可能な単一発現ベクター又は発現ベクターセットであって、前記〔16〕に記載の多色発光プローブセットをコードする核酸のセットが全て挿入された発現ベクター、又はそれぞれの核酸が挿入された発現ベクターセット。
〔18〕 前記〔17〕に記載の発現ベクター又は発現ベクターセットが導入され、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブのセットを発現するように形質転換された生細胞。
〔19〕 前記〔10〕ないし〔15〕のいずれかに記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸であって、
リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)をコードする核酸とC末端側フラグメント(C-LE-1)をコードする核酸とがそれぞれ連結されており、N-LE-1のさらにN末端側に、当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインをコードする核酸が連結され、さらにそのN末端側に第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)をコードする核酸が連結されている一分子型多色発光プローブをコードする核酸であり、リガンド認識タンパク質がリガンドの結合により第1番目の構造変化をして第1の分子認識ドメインと結合すると、N-LE-1とC-LE-1とが自己相補して第1番目の波長の発光シグナルを発し、また第2番目の構造変化をして第2の分子認識ドメインが結合すると、N-LE-2とC-LE-1とが自己相補して第2番目の波長の発光シグナルを発する、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブをコードする核酸。
〔20〕 リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブを生細胞中で発現可能な発現ベクターであって、前記〔19〕に記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクター。
〔21〕 前記〔20〕に記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターを用いて形質転換された、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブを発現する生細胞。
〔22〕 前記〔18〕に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は前記〔21〕に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞において、細胞内で発現している多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブを、披検物質で刺激し、発色した色の波長及び強度を測定し、披検物質のリガンドとしての性質及びその活性の強度を解析することを特徴とする、対象タンパク質に対する披検物質のリガンドとしての活性の定性定量分析法。
〔23〕 前記〔18〕に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は前記〔21〕に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞において、細胞内で発現している多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブを、披検物質で刺激し、その刺激前後の各発色団の強度変化値の比をとることで、披検物質のアンタゴニスト/アゴニスト活性を評価する方法。
〔24〕 前記〔18〕に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は前記〔21〕に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞において、細胞内で発現している多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブを、披検物質で刺激し、発色した色の波長及び強度を測定する工程を含むことを特徴とする、対象のリガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストをスクリーニングする方法。
〔25〕 前記〔18〕に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は前記〔21〕に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞を含むことを特徴とする、披検物質の、対象リガンド認識タンパク質に対するリガンドとしての活性の定性定量分析用キット。
〔26〕 前記〔18〕に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は前記〔21〕に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞を含むことを特徴とする、リガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストのスクリーニング用キット。
〔27〕 前記〔17〕に記載の多色発光プローブセットを生細胞中で発現可能な単一発現ベクターもしくは発現ベクターセット、又は前記〔20〕に記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターと共に、各発光プローブに用いられている発光酵素の基質とを組み合わせた、リガンド活性の定性定量分析用キット、又はリガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストのスクリーニング用キット。
〔28〕 前記〔1〕ないし〔9〕のいずれかに記載の多色発光プローブセット、又は前記〔10〕ないし〔15〕のいずれかに記載の一分子型多色発光プローブと共に、各発光プローブに用いられている発光酵素の基質とを組み合わせた、リガンド活性の定性定量分析用キット、又はリガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストのスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、薬剤・毒物・発癌物質を一例とする標的特異的リガンドにおける多面的生理活性(薬理作用、毒性、発癌性など)の有無を多色・二次元スペクトルとして、簡便かつ高速・正確に検出するための新しい手段が提供される。多色発光プローブセットもしくは一分子多色発光プローブを発現するよう形質転換された生細胞、及びそのための発現ベクターを用いることで、幅広い「リガンド認識タンパク質」に対する未知のアンタゴニスト/アゴニストもスクリーニングする基盤技術を提供する。
よって、細胞・生体内複数信号伝達を同時に多色可視化し、発光色・強度を指標とした精密な生物分析ができる。従来法ではできなかったリガンドの多面的活性評価ができ、また複数の信号を迅速・簡便かつ高サンプル処理能で二次元的に検出する能力を有するプローブである。発癌物質のような生体内危険因子の高速スクリーニング、抗がん剤の薬作用の迅速定量評価(新薬開発)に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、波長の異なる複数種類の従来型の発光プローブのセット、もしくは一分子型多色プローブに関する。
本発明の多色発光プローブのセットにおいては、それぞれの発光プローブの構成要素が、(i)リガンド応答性タンパク質と(ii)そのリガンド応答性タンパク質と可逆的に結合する分子認識ドメインと共に、(iii)分割された各発光タンパク質(LE)を両端に有した構造の融合タンパク質であり、各発光プローブは、生細胞内で引き起こされる様々なリガンド認識タンパク質の構造変化に対応してそれぞれ波長の異なる光を発する。
本発明における「一分子型多色プローブ」とは、標的特異的リガンドによる複数の活性の程度を認識でき、多色生物発光として可視的に表すことのできる全要素を単一融合分子内に最適集積したプローブである。具体的には、(i)リガンド応答性タンパク質と(ii)そのリガンド応答性タンパク質と可逆的に結合する分子認識ドメイン(たとえば、SrcのSH2ドメイン)と共に、(iii)三つの分割フラグメント化されたLE(2種類のN末側LEフラグメントと共通のC末側LEフラグメント)をその基本構成要素とする融合タンパク質であり、それぞれのタンパク質をコードするDNAを直鎖状に連結したキメラDNAが挿入された発現ベクターにより生細胞内で発現されたものである。ここで、「キメラDNA」とは、幾つかの異なる由来のDNA短編が直鎖状に連結され、各DNAの発現産物であるタンパク質(ペプチド)を構成要素とする融合タンパク質分子を発現することのできるDNAである。
なお、ここで「発光タンパク質(LE)の分割」とは、単一分子であるLEを、2分子に分割することで、一時非活性化(発光能を消失した)したことを意味する。分割位置は分子内親水性部位であり、2つの分割LEが近接した場合に自己相補によって活性回復できるように(発光能を取り戻す)好適に再構築される部位で分割されたものである。
【0013】
これらの各構成要素は、直鎖状の融合分子となるように、各構成要素をコードするDNAをそれぞれ直接に、あるいは最適の「リンカーペプチド」をコードするDNAを介在させて、直鎖状に連結されたキメラDNAとして発現ベクターに挿入する。
本発明の多色発光プローブのセットをコードするキメラDNAセット又は一分子型多色プローブをコードするキメラDNAを含む発現ベクターを用いて生細胞を形質転換し、生細胞内で発現する多色発光プローブのセット又は一分子型多色プローブを用いて、プローブ内のリガンド認識タンパク質に対する披検物質のリガンドとしての性質、強度を解析する。
ここで、多色発光プローブのセットを生細胞で発現させる場合には、それぞれの発光プローブをコードする核酸を、すべて単一の発現ベクターに挿入して生細胞に導入してもよいし、各核酸を含む発現ベクターを同一の生細胞に同時に導入してもよい。
【0014】
本発明において、「生細胞」とは、その本来の機能を維持した状態の培養細胞または生物個体内に存在する真核細胞(酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞)であり、特にヒトを含めた哺乳動物細胞である。生細胞には原核細胞も含まれる。
本発明で用いる「発現ベクター」としては、公知の真核又は原核細胞発現用ベクターを特段の制限なく使用することができる。また、前記のキメラDNAの発現を制御するため(例えば、生物個体における特定組織での発現)、公知の組織特異的プロモーター配列を組込むようにしてもよい。またプローブ発現ベクターは、例えばマイクロインジェクション法やエレクトロポーレーション法等の公知のトランスフェクション法により細胞内に導入することができる。あるいは脂質による細胞内導入法(BioPORTER(Gene Therapy Systems社、米国)、Chariot(Active Motif社、米国)等)を採用することもできる。
【0015】
以下、発光プローブの各構成要素について説明する。
本発明における「リガンド認識タンパク質」とは、細胞外部からの刺激に応答するタンパク質であり、リガンド刺激に反応してタンパク質構造の変化ができ、その結果、他タンパク質又は共役活性タンパク質(coactivator)の分子認識ドメインと結合することができるものである。このような「リガンド認識タンパク質」としては、たとえば、ホルモン、化学物質又は信号伝達タンパク質(例えば、サイトカイン、ケモカイン、インシュリン)をリガンドとする核受容体(NR)、サイトカイン受容体(cytokine receptor)、または各種タンパク質キナーゼが用いられる。特に核受容体リガンド結合ドメイン(NR LBD; Nuclear Receptor Ligand Binding Domain)が好ましく、エストロゲンをリガンドとするエストロゲン受容体(ER)、グルココルチコイド受容体(GR)、アンドロゲン受容体(AR)、又はプロゲステロン受容体(PR)が好適に用いられる。細胞内セカンドメッセンジャー、脂質セカンドメッセンジャーをリガンドとして対象とする場合には、各セカンドメッセンジャーの結合ドメインを採用することができる。
実施例としてあげた女性ホルモン受容体(estrogen receptor; ER)LBDは、全長ヒトERの配列情報(GenBank/P03372)に基づき、そのLBD領域(アミノ酸番号305-550)を遺伝子工学的に、又はPCR合成によって調製し、使用することができる。なお、核受容体のLBDは、例えばアンドロゲン受容体LBD(LBD of androgen receptor; AR LBD)は、全長ヒトARの配列情報(GenBank/AF162704)に基づき、そのLBD領域(アミノ酸番号672-910)を遺伝子工学的に調製し、使用することができる。またヒトグルココルチコイド受容体LBD(LBD of glucocorticoid receptor;GR LBD)は、全長ヒトGR(GenBank/1201277A)の配列情報に基づき、そのLBD領域(アミノ酸番号527-777)を調製し、使用することができる。他にヒトミネラルコルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor; MR;GenBank/P08235)とヒト黄体ホルモン受容体(progesterone receptor; PR; GenBank/P06401)も、それぞれ本発明の多色発光プローブのリガンド認識タンパク質として使える。
【0016】
本発明における「リガンド」とは、生細胞内のリガンド認識タンパク質分子に特異的に結合してその機能を変化させうる物質を意味する。例えば受容体タンパク質(例えば核受容体やGタンパク質結合型受容体)に対するアゴニスト又はアンタゴニストである。あるいは細胞内の情報伝達に関与する分子に特異的に結合するサイトカイン(cytokine)、ケモカイン(chemokine)、インシュリンのような信号伝達タンパク質、細胞内セカンドメッセンジャー(second messenger)、脂質セカンドメッセンジャー、リン酸化アミノ酸残基又はGタンパク質結合型受容体リガンドであることを別の好ましい態様としている等である。
【0017】
本発明における「リン酸化認識ドメイン」は、リン酸化アミノ酸残基を認識できるドメインであり、各種キナーゼ系タンパク質の「SH2ドメイン」と呼ばれる部位がこれに相当する。本願実施例では、発癌制御タンパク質であるSrc(proto-oncogene tyrosine-protein kinase Src; GenBank/NP938033)のリン酸化認識ドメイン(SH2ドメイン;アミノ酸番号150-248)を利用したが、他のSH2 ドメインも同様に用いることができる。たとえば、細胞増殖・発癌などに関連する、「増殖因子レセプター結合タンパク質Grb2(growth factor receptor-binding protein 2 )のSH2 ドメイン」も好ましく用いられる。
また、本発明におけるER LBDと結合できるペプチド配列としては、典型的には共転写因子(coactivator)由来のLXXLLモチーフが用いられる。好ましくは、共転写因子の一種であるRip140(GenBank/NP003480)、又はSrc-1a(steroid receptor coactivator 1 isoform 1; GenBank/NP003734)のLXXLLモチーフ(約15アミノ酸)が用いられる。他にER LBDと結合できるペプチド配列として、FXXLFモチーフ、WXXLFモチーフなども用いることができる。
【0018】
また本発明における発光タンパク質のうちでも、特に発光酵素(LE:Lighting Enzyme)は、「N-末側とC-末側に分割でき(それぞれN-LEとC-LEという)」、ホタル・ルシフェラーゼ(firefly luciferase;FLuc)、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ(Renilla luciferase;RLuc)、ガウシア・ルシフェラーゼ(Gaussia luciferase;GLuc)、クリックビートル・ルシフェラーゼ(Click Beetle luciferase;CBLuc)などが好ましい態様であるが、本発明の実施例では2色のCBLucである緑光CBLucと赤色CBLucを用いた。黄色域の波長のホタル・ルシフェラーゼ(FLuc)を取り入れた三色発光プローブを構築することもできる。
これらのLEは、アミノ酸配列や遺伝子(cDNA)の塩基配列が公知であり(例えば、FLucはGenBank/AB062786等、CBLucはGenBank/AY258592.1等)、これらの配列情報に基づいて公知の方法によりDNAを取得することができる。これらのLEを2分割する位置は、公知の情報等を参考に適宜に設定することができる。例えば、FLucの場合には、非特許文献[8]に開示されているように、そのアミノ酸配列の437/438部位で切断することができ、CBLucの場合には、後記実施例に示したように412/413部位で切断することができる。またRLucの場合には、特許文献[4]に開示されているように、適当な部位での切断が可能であるが、そのアミノ酸配列91/92で切断した場合に、再構成後の発光強度が最も強くなる。さらに、CBLucの場合には、そのアミノ酸配列の439/440、又は412/413の位置等で2分割することができる。また後記の実施例に示したように、N末端フラグメント(N-LE)とC末端フラグメント(C-LE)の一部は重複したり、または欠失したものを使用することもできる。
【0019】
以上の各構成要素は、両端と内部に分割LEが位置することを条件に、任意の順序で連結することができる。ただし、ERに対するリガンドを検出するためにER LBD、LXXLLモチーフ、Src SH2を使用する場合は、後記の実施例に示したように、N-LEはSrc SH2に連結し、C-LEはLBDと連結させる必要がある。具体的なプローブ構成は、N末端側から[N-LE/Src SH2/N’-LE /LXXLLモチーフ/ER LBD/C-LE]である。またこのプローブから発癌性物質探索の目的で、発癌制御タンパク質であるSrcをベースとして、リン酸化検知用プローブのみを構成することもできる。この場合、プローブ構成はN末端側から[N-LE/Src SH2/ER LBD/C-LE]である。
他のリガンドとリガンド認識タンパク質との結合を対象とする場合は、それぞれに適宜な連結順序を採用することができる。そのような適宜な順序は、例えばプローブ発現ベクターへの各DNAの挿入順序を変更しながら確認することができる。発現ベクターへのDNA挿入は当業者であれば容易に行うことができるが、適切な連結順序の選択にはある程度の試行錯誤を必要とする。
また、このプローブは、各構成要素がリンカーペプチドで連結されてもよい。特に、LBDとLBD相互作用ペプチドは、リガンドのLBDへの結合に際して互いが近接して結合するように、立体妨害(steric hindrance)の少ない柔軟性の高い(glycine (G), alanine (A), serine (S)など)リンカーペプチド(例えば、グリシンとセリンの繰り返し配列からなるGSリンカー)で連結することが好ましい。本プローブのためには、各構成要素間を5-10個のGSリンカーでつなげることを最適とする。
【0020】
本発明の一分子型多色プローブにおいて、最も好ましい連結順序は、N側から[N-LE/キナーゼのSH2ドメイン/N’-LE/LXXLLモチーフ/NR LBD/C-LE]である。ここで、N-LE及びN’-LEはそれぞれ、異なる発色をする発光酵素のN末側フラグメントであり、C-LEは両別色の酵素における共通したC末側フラグメントである。これら短編化された三つのフラグメントが両端と真中に配置されており、そのプローブの内部にはNR LBDがリガンドとの結合したことによって第一番目又は第二番目の構造変化した際の、第一分子認識ドメインである「LXXLLモチーフ」配列及び第二分子認識ドメインであるキナーゼのSH2ドメインという順序に、挟み込んだ形で連結されている。本発明の実施例で用いたものは、N-LEとしては赤色のCBLucのN末端側フラグメントであり、N’-LEは緑色のCBLucのN末端側フラグメントであって、C-LEは赤色のC末端側フラグメントである。
【0021】
本発明における「リガンドとしての活性の定性定量分析」とは、生細胞中で発現している多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブを披検物質(リガンドそのものでも、リガンドを含む試料でもよい)で刺激し、発光した光の波長及び強度を指標に、発光プローブ内のリガンド認識タンパク質がどんな構造変化をし、どの領域の分子認識ドメインと結合したか、すなわち披検物質がどのタイプの構造変化を引き起こしたか、を2次元的に解析し評価することにより、リガンドとしての性質及びその活性の程度を判定することを意味する。リガンドとしての性質が未知の披検物質に対して、この多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブによる分析法を適用することにより、アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニングができる。
たとえば、女性ホルモンレセプター(ER)に対する披検物質のアゴニスト/アンタゴニスト活性は、ERのリン酸化認識ドメインとLXXLLモチーフとの結合性度に対応する赤色光と緑色光それぞれの強度により評価される。そして、下記の女性ホルモンスコア計算法を用いれば客観的な数値化が可能となる。
女性ホルモンスコア=540nmでの発光変化値/610nmでの発光変化値
【0022】
本発明の各スクリーニング方法においては、典型的には多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターを用いて形質転換した生細胞を披検物質で刺激し、発光した光の波長及び強度を測定するが、生細胞がない状態でも、培地中に分泌された多色発光プローブのセット又は一分子型多色発光プローブを含む培養液又は精製された多色発光プローブのセット又は一分子型多色発光プローブを用いれば、各発光酵素の基質を同時に存在させることで、in vitroでの観察も可能である。
多色発光プローブのセット、又は一分子型多色発光プローブは、上述のように哺乳動物細胞のような真核細胞のみならず、細菌のような原核細胞で大量発現させることもできる。例えば、哺乳類細胞の場合でも適切なシグナル配列(MGVKVLFALICIAVAEAなど)を繋いで培地中に大量に分泌させることによって、精製工程なしでも分析に用いることのできる、大量なプローブ含有培養上清が得られる。また、さらに精製用のタグ(例えば、His Tag; HHHHHH)をつけることで、大量に精製された多色発光プローブのセット、又は一分子型多色発光プローブを得ることができる。これらの精製多色発光プローブのセット、又は精製一分子型多色発光プローブと、発光酵素の基質と組み合わせたキットは、これらの発光プローブを発現している生細胞を用いるキットと同様に、リガンド活性定性定量用キット、又はアンタゴニスト・アゴニストスクリーニング用キットとして用いることができる。
精製された多色発光プローブのセット、又は一分子型多色発光プローブを用いて分析、又はスクリーニングをするために、以下の方法を適用できるが、この方法には限定されない。
(i)細胞から分泌されたプローブを培地から回収して4℃でストックする(原核細胞で発現させた場合、48時間培養で0.5 mg/L程度のプローブを回収できる)。
(ii)上記プローブを含む培地100μLに基質であるcoelenterazine 20μL (最終濃度:40μM)を加えておく。
(iii)リガンドをさらに加えて20分インキュベーションする。
(iv)発光値を測定する。
また、多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターの場合も、発光酵素の基質と組み合わせたキットとすることができる。
このようなキットを用いて分析、又はスクリーニングをするために、以下の方法を適用できるが、この方法には限定されない。
(i)10 cm培養plateに培養した細胞に既知のLipofection試薬(例えば,TransIT−LT1(Mirus))を使って,発現ベクターを導入する。
(ii) 36時間後,リガンド刺激して20分待つ。
(iii)細胞を回収し,既知のLysis bufferを300μL加え,5分間インキュベーションする。
(iv)このlysate 100μLにcoelenterazine 20μL (最終濃度:40μM)を加えて,即時に発光値を測定する。
このように、本発明のスクリーニング用キットとしては、多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターを用いて形質転換した生細胞を含むキットのほか、多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターとプローブ内の各発光酵素の基質とを組み合わせたキット、ならびに多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブとプローブ内の各発光酵素の基質とを組み合わせたキットも用いられる。
【0023】
本発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。なお、用語は基本的にはIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるものであり、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。また発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA技術)」、東京化学同人 (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、本発明で使用する各種タンパク質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/等)から入手することができる。
【0024】
以下、本発明の実施態様として、pSimer-Gシリーズ(緑色の光を発する発光プローブ)、pSimer-Rシリーズ(赤色の光を発する発光プローブ)、又、pSimer-RGシリーズプローブ(一分子内で各要素間の組み合わせ型によって、赤色・緑色の光を発する一分子型多色発光プローブ)を用いたリガンド検出方法について、図1に基づき説明するが、本発明はこの実施態様に限定されるものではない。この図1の例では、LBDとしてER LBD、その分子認識ドメインとしてLXXLLモチーフとSrcのSH2ドメイン、またLEとして緑色及び赤色の光を発するCBLucをそれぞれ2分割した三つのフラグメント(N末側二つとC末側一つ)を使用している。また、ER LBDと他の構成要素とはGSリンカー(linker)によって連結されている。
pSimer-Gシリーズ、pSimer-Rシリーズ、又、pSimer-RGシリーズプローブはいずれも刺激なしには直立状態であるため分割したLEフラグメント間の相互作用は起こらない。ところが、アンタゴニストリガンドが存在した場合、pSimer-Rシリーズプローブのみが応答し赤色を出す。一方、アゴニストリガンドが存在する場合には、pSimer-Gシリーズプローブのみが応答し緑色を出す。リガンドによっては両側の活性を共に持つものがありその場合には赤、緑両信号が発信される。このpSimer-GとpSimer-Rシリーズの最適プローブを組み合わせた形のpSimer-RGシリーズプローブにおいては前述した現象が一つの分子内で起こる。
また各シリーズプローブ内で起こるリガンド依存的構造変化は可逆的であり、リガンドがER LBDから取り除かれれば直線構造に戻る。一般に、リガンドとその標的分子との結合は一過性であるため、このプローブを発現する細胞は、繰り返しのリガンド検出が可能である。
なお、これらのスクリーニング方法の対象となる被験物質には、例えば、有機または無機の化合物(特に低分子量の化合物)、生物活性を持つタンパク質、ペプチド等が含まれる。これらの物質は、機能や構造が既知のものであっても未知のものであってもよい。また、「コンビナトリアルケミカルライブラリー」は、目的物質を効率的に特定するための被験物質群として有効な手段である。コンビナトリアルケミカルライブラリーの調製およびスクリーニングは、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,004,617号;5,985,365号を参照)。さらには、市販のライブラリー(例えば、米国ComGenex社製、ロシアAsinex社製、米国Tripos, Inc.社製、ロシアChemStar, Ltd社製、米国3D Pharmaceuticals社製、Martek Biosciences社製などのライブラリー)を使用することもできる。また、コンビナトリアルケミカルライブラリーを、本プローブを発現する細胞の集団に適用することによって、いわゆる「ハイスループットスクリーニング」を実施することもできる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1) 一分子型発光プローブセットのためのcDNAを含むプラスミドの構築
(1−1) リン酸化によるタンパク質間相互作用に基づく一分子型赤色発光プローブをコードする核酸の構築
ER LBD(305−550アミノ酸)のcDNAとSrcのリン酸化認識ドメイン(SH2)のcDNAをPCRにより増幅しながら、特異的な制限酵素サイトをそれぞれの両末端に導入した。ER LBDとSrc SH2とをつなげた組み換えDNAをLigationにより作成した。次に、CB RedのcDNAの最初から4/5辺りにある親水性アミノ酸をコードするcDNAを目安に5箇所切断を行った。結果として5組のCB Red cDNAフラグメント(CB Red-NとCB Red-C)を作成した。この5組のN末側(CB Red-N)とC末側(CB Red-C)のcDNAフラグメントの間に上記Src SH2-ER LBD連結物を挿入した。その結果として、[CB Red-N/Src SH2/ER LBD/CB Red-C]の遺伝子コンストラクトを作成し、pcDNA3.1(+)ベクター骨格(Invitrogen)にサブクローニングした。構築したプラスミドはBigDye Terminator Cycle SequencingキットとABI Prism310遺伝子解析装置より配列確認を行った。この系列のプラスミドをpSimer-Rと名づけた。また、切断位置の違いからpSimer-R1から-R5までの名前をつけた。
【0027】
(1−2) 共転写因子(coactivator)とER LBDとのタンパク質間結合に基づく一分子型緑色発光プローブをコードする核酸の構築
CB Greenのアミノ酸配列の全長からPCR反応により1-439アミノ酸をコードするN-末側cDNAフラグメント(CB Green-N)と440-542アミノ酸をコードするC-末側cDNAフラグメント(CB Green-C)作成した。共転写因子を代表するものとしてSrc1とRip140のLXXLLモチーフ、総計6種類のcDNAフラグメントを合成し(表[1])、上記ER LBDとそれぞれ連結したものを作成した。次に、CB Green-NとCB Green-Cとの間に前記LXXLLモチーフ-ER LBDの連結物を挿入した形のキメラDNAを作成し、pcDNA3.1(+)ベクター骨格(Invitrogen)にサブクローニングした。構築したプラスミドはBigDye Terminator Cycle SequencingキットとABI Prism310遺伝子解析装置より配列確認を行った。この系列のプラスミドをpSimer-Gと名づけた。
【0028】
【表1】

【0029】
(1−3) 一分子型多色発光プローブをコードする核酸の構築
上記pSimer-RシリーズとpSimer-Gシリーズの骨格を基に一分子型多色発光プローブを組み立てた。上記、pSimer-R2からはCB Red-NとSrc SH2を切り出した一方、pSimer-G6からはCB Green−N、LXXLLモチーフ、ER LBD、CB Green−Cを切り出して、図2のpSimer-RGに示したキメラcDNAを作成した。
【0030】
(実施例2) 一分子型発光プローブ発現プラスミドの生細胞への遺伝子導入
サル腎臓由来COS-7細胞を10% ステロイド欠損牛胎児血清(FBS)と1% ペニシリン−ストレプトマイシン(P/S)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM; Sigma)を用いて12穴プレートで37 ℃、5% CO2インキュベーターで培養した。12穴プレート中のCOS-7細胞には、脂質による市販遺伝子導入キットであるTransIT-LT1(Mirus)を用いてpSimer-G、pSimer-R、又はpSimer-RGシリーズプラスミドをトランスフェクションした。各プラスミドを含有するCOS-7細胞を16時間インキュベーター内で培養し、それぞれの発光プローブを十分に発現させ、以下の実験に用いた。
【0031】
(実施例3) リン酸化測定用赤色発光プローブ(pSimer-Rシリーズ)用のCBLuc-Redにおける最適切断位置の決定
上記(実施例2)で示したように、pSimer-R1から-R5までのプラスミドをそれぞれCOS-7細胞に導入し、16時間培養することにより十分発光プローブを発現させておく。市販抗癌剤であるOHT(4-hydroxytamoxifen)有り無しの条件で20分間刺激した時の発光値をルミノメーターで測定した。その結果、pSimer-R2をもつ細胞がOHT存在下で最も強い発光強度を示すことを観察した。(図3)
この結果からは、pSimer-R2における切断位置(412と413番の間)がCBLuc-Redの最適な切断位置であることが示されている。
また、pSimer-R2を持つ細胞の全波長スペクトルを観測することにより約610nmの赤波長を示す信号であることを確認した(図4)。
【0032】
(実施例4) pSimer-R2を持つ様々な細胞のリガンド感受性測定
まず、プローブの様々な細胞におけるリガンド感受性を調べるために、pSimer-R2をヒト子宮頸部癌由来HeLa細胞、サル腎臓由来COS-7細胞、マウス線維芽由来NIH 3T3細胞、ヒト乳がん由来MCF-7細胞に導入した。その後、女性ホルモンアゴニスト(E2)、黄体ホルモン(prog:progesterone)、プロシミドン(proc:procymidone; fungicide)、ICI 182780(ICI:女性ホルモンアンタゴニスト;抗乳癌剤)、4-タモクシフェン(OHT:4-hydroxytamoxifen;抗乳癌剤)、表皮成長ファクター(EGF:epidermal growth factor)をそれぞれ細胞に20分間刺激し、発光数値の増加をルミノメーターで測定した(図5)。
その結果、各細胞とも、特に、市販抗癌剤OHT及び抗乳癌剤アンタゴニストICIに対して顕著な発光強度を示した。
【0033】
(実施例5) pSimer-R2を持つ細胞による発光値の経時変化
リガンド刺激時間による発光強度の変化をpSimer-R2を持つCOS-7細胞で観察した(図6)。OHT刺激から15分で最高発光値が観測された。一方、E2の刺激では注目すべき発光強度の増加は観測されなかった。
【0034】
(実施例6) ポイント変異(point mutation)によるER LBDのリン酸化検証
(実施例5)において、pSimer-R2を持つ細胞でのリガンド依存的な発光強度の増加の理由が、リガンドによってER LBD内にリン酸化が起こったため、ER LBDとSrc SH2(リン酸化認識ドメイン)との結合によるものであるかどうかを調べる必要がある。そこで、実際に、この変化がER LBDのリン酸化によるものであるか否かを検証するために、ER LBDにおけるリン酸化位置(537位のアミノ酸)を潰した形のnegative controlプローブpSimer-R2mを作成した。
ついで、pSimer-R2又はpSimer-R2mをそれぞれ持つCOS-7細胞を用意し、アゴニスト(E2)及びアンタゴニスト(CPA)による発光強度の増加度を測定した。その結果、pSimer-R2を持つ細胞のみにリガンド依存的発光強度の増加が観測された。一方、pSimer-R2mを持つ細胞からはリガンド感受性が観測されなかった(図7)。
したがって、OHTのようなリガンドによって、ER LBDがリン酸化され、これにより、ER LBDとSrc SH2との結合が起こり、結果として発光値の増加が観測されたと結論付けられる。
すなわち、前記実施例4において、市販抗癌剤OHT及びアンタゴニストICIで観察された強い赤色波長の発光は、OHTやICIが女性ホルモンレセプター(ER)をリン酸化しSrcのリン酸化認識ドメイン(SH2)との結合性を付与する活性を有していることを示すものである。そして、pSimer-R2の発光プローブにおけるこのような作用は、アンタゴニスト活性物質や他の抗癌性物質のスクリーニングに適用できることを示すものでもある。
【0035】
(実施例7) 女性ホルモンLBDと結合できる最適LXXLLモチーフの決定
まず、上記[表1]に示したように各pSimer-G骨格に適用できるものとして、6種類のLXXLLモチーフを製作しpSimer-G内部に導入した。6種類のプラスミドのいずれかを持つCOS-7細胞のリガンド感受性を測定した(図8)。具体的には、それぞれのCOS-7細胞をE2(17β-estradiol:女性ホルモンアゴニスト)、又はOHT(性ホルモンアンタゴニスト)で20分刺激した結果、pSimer-G6を持つ細胞からコントロールに対する最強の発光強度比(S/N比)を得た。次に、pSimer-G6を持つ細胞が示す全波長スペクトルをリガンド有り無しの条件で測定した(図9)。その結果は、リガンドなし(0.1% DMSO;vehicle)に比べて女性ホルモン依存的に発光値が増加し、540nmの緑光を示していることが確認できた。
このことは、女性ホルモン受容体(ER)に対してアゴニスト活性を有するリガンドが結合すると、LXXLLモチーフを含む領域への結合できる構造変化が引き起こされることを示すものであり、pSimer-G系列の発光プローブにおけるこのような作用は、アゴニスト活性物質のスクリーニングに適用できることを示すものでもある。
【0036】
(実施例8) pSimer-G6を持つCOS-7細胞による発光強度のリガンド濃度依存性の測定
上記(実施例7)の実験と同様の手法で、pSimer-G4とpSimer-G6をそれぞれ細胞に導入した後に、細胞における発光強度のリガンド濃度依存性を調べた(図10)。両細胞共にE2の場合は、約10-8 Mから発光強度の増加を示し、10-5 Mあたりで最高値を示した。OHTの場合も、pSimer-G6を持つ細胞で発光強度が増加を示す濃度が10-6 Mである以外は同様である。リガンド選択性においては、両側細胞共にOHTに比べE2への選択性の方が高いが、特にpSimer-G6を持つ細胞の場合はきわめてE2の選択性が高い。一方、DHT(男性ホルモンアゴニスト)に対してはいずれの細胞も全体的に低い発光強度を示した。
この結果、pSimer-G6が緑色発光プローブのもっとも有力な候補であり、特にアゴニスト(E2)に対して優れた選択性を示す。
【0037】
(実施例9) pSimer-RシリーズとpSimer-Gシリーズにおける最適プラスミドを共導入したCOS-7細胞のリガンド応答性の観察(図1では番号1と2にあたる。)
(9−1)pSimer-R2とpSimer-G4を共発現する細胞のリガンド応答性
pSimer-R2とpSimer-G4を共に持つCOS-7細胞に20分のリガンド刺激を行い、その結果生じる発光の全波長スペクトルを観測した(図11)。そのスペクトルから赤(610nm)と緑(540nm)の二つの光波長が観測された。この結果は同一細胞内でpSimer-R2とpSimer-G4が発現し、それぞれノンゲノム信号伝達(赤;発癌又は抗癌に関与する)とゲノム信号伝達(緑;女性性関連を制御する)が活性化されたという意味を持つ。この結果より、同一細胞内でリガンドの多面的な生物活性をそれぞれ違う波長の色で分別可能なセンサー細胞ができたことを意味する。ここでいうゲノム信号というのは、従来のタンパク質発現に関与する細胞内信号とことである。一方、ノンゲノム信号というのは、直接タンパク質発現に関与しない細胞内信号のことを示す。これが細胞内の信号伝達を大きく分ける代表的な分け方である。
さらに、リガンドによる赤(610 nm)と緑(540 nm)信号の強度の比から、測定したリガンドがゲノム活性(ここではアゴニスト活性とも言える)又はノンゲノム活性(ここではアンタゴニスト活性とも言える)のどちらに傾いているかを数値で表現することができる。pSimer-R2とpSimer-G4プラスミドを共導入したCOS-7細胞によるリガンド応答性を数値化して評価するために、リガンドによる540と610 nm発光強度の変動値の比で表し、女性ホルモン性スコア(estrogenicity score)と名づけた。この計算法は[表2]に示したとおりであり、同時に[表2]には、各リガンドのそれぞれの値を示す。この計算法によると、E2は1.62のスコアを持ち、女性ホルモンアンタゴニストOHTは0.62のスコアを示す。
【0038】
【表2】

Abbreviations: E2, 17β-estradiol; DES, diethylstilbestrol; OHT, 4-hydroxytamoxifene; ICI, ICI182780; DHT, 5α-dihydroxytestosterone; T, testosterone; PCB, polychlorinated biphenyls; CPA, cyproterone acetate.
【0039】
(9−2)pSimer-R2とpSimer-G6を共導入した細胞のリガンド応答性
関連した実験として、pSimer-R2とpSimer-G6を共発現するCOS-7細胞に20分のリガンド刺激をし、その結果生じた発光の全波長スペクトルを観測した(図12)。図11の場合と同じく540と610 nm辺りに発光強度バンドが観測された。同じ女性ホルモン性スコア計算法によれば、E2は1.8のスコアを持ち、女性ホルモンアンタゴニストOHTは0.38のスコアを示した。他のリガンドもそれぞれの数値を[表3]に示した。
このようなスコアで表示することで、各リガンドのアンタゴニスト/アゴニスト活性を客観的に数値化して示すことができる。
【0040】
【表3】

Abbreviations: E2, 17β-estradiol; DES, diethylstilbestrol; OHT, 4-hydroxytamoxifene; ICI, ICI182780; DHT, 5α-dihydroxytestosterone; T, testosterone; PCB, polychlorinated biphenyls; CPA, cyproterone acetate.
【0041】
(実施例10) pSimer-RGシリーズプラスミドを持つCOS-7細胞のリガンド依存性の測定(pSimer-RGは、図1及び図14における番号7に相当。)
pSimer-RG1又はpSimer-RG2をそれぞれ持つCOS-7細胞のリガンド依存性全波長スペクトルを観測した(図13)。図13中のaとbはそれぞれpSimer-RG1又はpSimer-RG2を導入したCOS-7細胞からのスペクトルである。
ここで、pSimer-RG2は、通常のLXXLLモチーフを含む配列を繋いだものであるが、pSimer-RG1は当該配列を逆に繋ぎ、「LXXLL」の対応する位置に「LLXXL」配列が来るように設計した。
その結果、正常にLXXLLモチーフが繋がれたpSimer-RG2を持つ細胞は、E2、OHT、溶媒で各々20分間刺激した場合、それぞれ違うスペクトルを示した。この結果から適切なLXXLLモチーフを選ぶことによって、リガンドの女性ホルモン活性及び制癌活性をスペクトルパターンで分別できることを示している。即ち、一分子内での構造変化によって、リガンドの多面的な活性程度をそれぞれに対応する多色発光信号として、短時間で表示できることを示している。
一方、LXXLLモチーフが正確ではないpSimer-RG1を持つ細胞におけるリガンド依存的発光スペクトルはE2、OHT、溶媒(0.1% DMSO)による刺激に対していずれも特異的な波長変化を示さなかった。この場合は、溶媒刺激の時から既に高い緑光発光を示しており、これは図14bのプローブ分子平衡図における番号9の構造に平行が偏ったことがうかがわれる。
pSimer-RG2から発現された一分子多色発光プローブは、はっきりとBackgroundと区別でき、しかも異なるリガンドごとに異なるパターンを示しているので、リガンドのアゴニスト及び/又はアンタゴニスト活性を、図13bに示されたように、それぞれの発光スペクトルパターンで定性的・定量的に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】一分子型発光プローブセット及び一分子型多色発光プローブのリガンド反応概念図。数字1はリガンド制癌性検知用赤色発光プローブである。ER LBDとそのリン酸化認識ドメインである発癌制御タンパク質SrcのSH2ドメインとのリガンド依存的な結合に基づいて作動する。これは、リガンドのノンゲノミック活性の指標にもなる。一方、数字2はリガンド刺激を受けたER LBDと共転写因子のSrc-1aのLXXLLモチーフとの結合によって作動するプローブである。その結果、緑色発光を示し、リガンドのゲノミック活性の指標になる。数字7は、上記緑光と赤光プローブを一分子内に集積して作成したプローブであり、検知対象となるリガンドの活性性質によって、一分子内LEフラグメント間の異なる組み合わせが起こり、その結果、多色発光を示す。ここでいうNとCはそれぞれLEのN-末側とC-末側フラグメントを示す。
【図2】各発光プローブ・コンストラクトの概念図。それぞれpSimer-Rシリーズ、pSimer-Gシリーズ、pSimer-RGシリーズプローブのcDNAコンストラクト骨格を示す。
【図3】リン酸化測定用赤色発光プローブ(pSimer-Rシリーズ)に適用できるCBLuc-Red内最適切断位置の決定。
【図4】pSimer-R2を持つ細胞の様々なリガンドにおける全波長応答スペクトル。
【図5】pSimer-R2を導入した各細胞のリガンド応答性(発光強度)。
【図6】pSimer-R2を導入したCOS-7細胞における、リガンド依存的な赤光発光強度値の経時変化。
【図7】女性ホルモンLBD(ER LBD)のリン酸化部位(537番アミノ酸)を潰したpSimer-R2mを導入したCOS-7細胞におけるリガンド感受性の変化。
【図8】ER LBDと結合できる最適LXXLLモチーフの決定。
【図9】pSimer-G6を導入したCOS-7細胞によるリガンド依存的発光強度スペクトル。
【図10】pSimer-Gシリーズの有力プラスミドであるpSimer-G4とpSimer-G6によるリガンド濃度依存性の測定。
【図11】pSimer-R2とpSimer-G4プラスミドを共導入したCOS-7細胞によるリガンド応答全波長スペクトル。
【図12】pSimer-R2とpSimer-G6プラスミドを共導入したCOS-7細胞によるリガンド応答全波長スペクトル
【図13】pSimer-RGシリーズプラスミドを導入したCOS-7細胞によるリガンド依存的全波長スペクトル。aとbはそれぞれpSimer-RG1と-RG2を導入したCOS-7細胞からのスペクトルである。
【図14】本発明で示した各種一分子型多色プローブの細胞内リガンド応答モデル図。aはpSimer-RシリーズとpSimer-Gシリーズプローブを共導入した場合(一分子型発光プローブセット)、細胞質内でのプローブの平行移動による応答概念図であり、bはpSimer-RGシリーズプローブを導入した場合(一分子型多色発光プローブ)、細胞質内でのプローブの平行移動による応答モデル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)とC末端側フラグメント(C-LE-1)とがそれぞれ連結されている、第1番目の波長の光を発する一分子型発光プローブ、及び
(2)上記リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)とC末端側フラグメント(C-LE-2)とがそれぞれ連結されている、第2番目の波長の光を発する一分子型発光プローブ、
を含むことを特徴とする、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブセット。
【請求項2】
前記第1の発光酵素が緑色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Green)であって、第1番目の発光シグナルの波長が緑色域であり、前記第2の発光酵素が赤色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Red)であって、第2番目の発光シグナルの波長が赤色域であることを特徴する請求項1に記載の多色発光プローブセット。
【請求項3】
前記リガンド認識タンパク質と同一もしくは別のリガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第3番目の構造変化をした場合に結合可能となる第3の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第3の発光酵素(LE-3)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-3)とC末端側フラグメント(C-LE-3)とがそれぞれ連結されている、第3番目の波長の光を発する一分子型発光プローブをさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の多色発光プローブセット。
【請求項4】
前記第3の発光酵素が黄色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Yellow)であって、第3番目の発光シグナルの波長が黄色域であることを特徴する請求項3に記載の多色発光プローブセット。
【請求項5】
前記リガンド認識タンパク質が、ホルモン、化学物質もしくは信号伝達タンパク質をリガンドとする核受容体(NR)、サイトカイン受容体(cytokine receptor)、又は各種タンパク質キナーゼであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の多色発光プローブセット。
【請求項6】
前記リガンド認識タンパク質が、エストロゲン受容体(ER)、グルココルチコイド受容体(GR)、アンドロゲン受容体(AR)、及びプロゲステロン受容体(PR)のいずれかの中から選択される核受容体(NR)であることを特徴とする、請求項5に記載の多色発光プローブセット。
【請求項7】
前記リガンド認識タンパク質が核受容体(NR)の場合において、第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインが共転写因子(coactivator)由来の分子認識ドメインであり、第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインがリン酸化認識ドメインであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の多色発光プローブセット。
【請求項8】
前記共転写因子由来の分子認識ドメインが、LXXLLモチーフを有する分子認識ドメインであり、前記リン酸化認識ドメインがキナーゼ由来のリン酸化認識ドメインであるSH2ドメインであることを特徴とする、請求項7に記載の多色発光プローブセット。
【請求項9】
前記リガンド認識タンパク質と同一もしくは別のリガンド認識タンパク質と共に、当該リガンド認識タンパク質が構造変化をした場合に結合可能となる第n番目の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第n番目の発光酵素(LE-n)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-n)とC末端側フラグメント(C-LE-n)とがそれぞれ連結されている、第n番目の波長の発色をする一分子型発光プローブをさらに含むことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の多色発光プローブセット(ただし、nは3以上の自然数)。
【請求項10】
リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)とC末端側フラグメント(C-LE-1)とがそれぞれ連結されており、N-LE-1のさらにN末端側に、当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインが連結され、さらにそのN末端側に第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)が連結されており、リガンド認識タンパク質がリガンドの結合により第1番目の構造変化をして第1の分子認識ドメインと結合すると、N-LE-1とC-LE-1とが自己相補して第1番目の波長の発光シグナルを発し、また第2番目の構造変化をして第2の分子認識ドメインと結合すると、N-LE-2とC-LE-1とが自己相補して第2番目の波長の発光シグナルを発する、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブ。
【請求項11】
前記第1の発光酵素が緑色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Green)であって、第1番目の発光シグナルの波長が緑色域であり、前記第2の発光酵素が赤色の光を発するルシフェラーゼ(Luc-Red)であって、第2番目の発光シグナルの波長が赤色域であることを特徴する、請求項10に記載の一分子型多色発光プローブ。
【請求項12】
前記リガンド認識タンパク質が、核受容体(NR)、サイトカイン受容体(cytokine receptor)、又は各種タンパク質キナーゼであることを特徴とする、請求項10又は11に記載の一分子型多色発光プローブ。
【請求項13】
前記リガンド認識タンパク質が、エストロゲン受容体(ER)、グルココルチコイド受容体(GR)、アンドロゲン受容体(AR)、及びプロゲステロン受容体(PR)のいずれかの中から選択される核受容体(NR)であることを特徴とする、請求項12に記載の一分子型多色発光プローブ。
【請求項14】
前記リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に、結合可能となる第1の分子認識ドメインが共転写因子(coactivator)由来の分子認識ドメインであり、第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインがリン酸化認識ドメインであることを特徴とする、請求項10ないし13のいずれか1項に記載の一分子型多色発光プローブ。
【請求項15】
前記共転写因子由来の分子認識ドメインが、LXXLLモチーフを有する分子認識ドメインであり、前記リン酸化認識ドメインがキナーゼ由来のリン酸化認識ドメインであるSH2ドメインであることを特徴とする、請求項14に記載の一分子型多色発光プローブ。
【請求項16】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の多色発光プローブセットを、生細胞中で発現可能な核酸のセットであって、
(1)リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)をコードする核酸とC末端側フラグメント(C-LE-1)をコードする核酸とがそれぞれ連結されている、第1番目の波長の光を発する一分子型発光プローブをコードする核酸、及び
(2)上記リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸の両端に、第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)をコードする核酸とC末端側フラグメント(C-LE-2)をコードする核酸とがそれぞれ連結されている、第2番目の波長の光を発する一分子型発光プローブをコードする核酸、を含むことを特徴とする、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブセットをコードする核酸のセット。
【請求項17】
リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブセットを生細胞中で発現可能な単一発現ベクター又は発現ベクターセットであって、請求項16に記載の多色発光プローブセットをコードする核酸のセットが全て挿入された発現ベクター、又はそれぞれの核酸が挿入された発現ベクターセット。
【請求項18】
請求項17に記載の発現ベクター又は発現ベクターセットが導入され、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する多色発光プローブのセットを発現するように形質転換された生細胞。
【請求項19】
請求項10ないし15のいずれか1項に記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸であって、
リガンド認識タンパク質と共に当該リガンド認識タンパク質が第1番目の構造変化をした場合に結合可能となる第1の分子認識ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸の両端に、第1の発光酵素(LE-1)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-1)をコードする核酸とC末端側フラグメント(C-LE-1)をコードする核酸とがそれぞれ連結されており、N-LE-1のさらにN末端側に、当該リガンド認識タンパク質が第2番目の構造変化をした場合に結合可能となる第2の分子認識ドメインをコードする核酸が連結され、さらにそのN末端側に第2の発光酵素(LE-2)を分割したN末端側フラグメント(N-LE-2)をコードする核酸が連結されている一分子型多色発光プローブをコードする核酸であり、リガンド認識タンパク質がリガンドの結合により第1番目の構造変化をして第1の分子認識ドメインと結合すると、N-LE-1とC-LE-1とが自己相補して第1番目の波長の発光シグナルを発し、また第2番目の構造変化をして第2の分子認識ドメインが結合すると、N-LE-2とC-LE-1とが自己相補して第2番目の波長の発光シグナルを発する、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブをコードする核酸。
【請求項20】
リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブを生細胞中で発現可能な発現ベクターであって、請求項19に記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクター。
【請求項21】
請求項20に記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターを用いて形質転換された、リガンドの種類と活性度に応じた波長及び強度の二次元発光シグナルを発する一分子型多色発光プローブを発現する生細胞。
【請求項22】
請求項18に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は請求項21に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞において、細胞内で発現している多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブを、披検物質で刺激し、発色した色の波長及び強度を測定し、披検物質のリガンドとしての性質及びその活性の強度を解析することを特徴とする、対象タンパク質に対する披検物質のリガンドとしての活性の定性定量分析法。
【請求項23】
請求項18に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は請求項21に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞において、細胞内で発現している多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブを、披検物質で刺激し、その刺激前後の各発色団の強度変化値の比をとることで、披検物質のアンタゴニスト/アゴニスト活性を評価する方法。
【請求項24】
請求項18に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は請求項21に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞において、細胞内で発現している多色発光プローブセット又は一分子型多色発光プローブを、披検物質で刺激し、発色した色の波長及び強度を測定する工程を含むことを特徴とする、対象のリガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストをスクリーニングする方法。
【請求項25】
請求項18に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は請求項21に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞を含むことを特徴とする、披検物質の、対象リガンド認識タンパク質に対するリガンドとしての活性の定性定量分析用キット。
【請求項26】
請求項18に記載の多色発光プローブセットを発現する生細胞、又は請求項21に記載の一分子型多色発光プローブを発現する生細胞を含むことを特徴とする、リガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストのスクリーニング用キット。
【請求項27】
請求項17に記載の多色発光プローブセットを生細胞中で発現可能な単一発現ベクターもしくは発現ベクターセット、又は請求項20に記載の一分子型多色発光プローブをコードする核酸を含む発現ベクターと共に、各発光プローブに用いられている発光酵素の基質とを組み合わせた、リガンド活性の定性定量分析用キット、又はリガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストのスクリーニング用キット。
【請求項28】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の多色発光プローブセット、又は請求項10ないし15のいずれか1項に記載の一分子型多色発光プローブと共に、各発光プローブに用いられている発光酵素の基質とを組み合わせた、リガンド活性の定性定量分析用キット、又はリガンド認識タンパク質に対するアンタゴニスト及び/又はアゴニストのスクリーニング用キット。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図8】
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【図10】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−34059(P2009−34059A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202308(P2007−202308)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月2日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/journals/ancham/index.html」「http://pubs3.acs.org/acs/journals/toc.page?incoden=ancham&indecade=0&involume=79&inissue=5」「http://pubs.acs.org/cgi−bin/article.cgi/ancham/2007/79/i05/html/ac061934u.html」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年5月5日 社団法人 日本分析化学会発行の「第68回分析化学討論会講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年6月1日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/journals/ancham/index.html」「http://pubs3.acs.org/acs/journals/toc.page?incoden=ancham&indecade=0&involume=79&inissue=13」「http://pubs.acs.org/cgi−bin/article.cgi/ancham/2007/79/i13/html/ac0621571.html」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】