多軸ステッチ基材の製造方法
【課題】多軸ステッチ基材の製造において、緯糸を並行に引き揃えてシート化し、安定した糸幅で緯糸テープを挿入するとともに供給張力の変動を小さくする製造方法を提供する。
【解決手段】多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、2層以上が交差積層した積層体をステッチ糸で一体化させた多軸ステッチ基材を製造するに際し、緯糸挿入において、下記の工程により、2〜50本の強化繊維糸条からなる5〜50cm幅の緯糸テープを挿入する。(A)強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する工程。(B)複数の糸条それぞれについて緯入れに必要な量の緯糸をエアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する工程。(C)補強繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成する工程。(D)緯糸テープを挿入する工程。
【解決手段】多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、2層以上が交差積層した積層体をステッチ糸で一体化させた多軸ステッチ基材を製造するに際し、緯糸挿入において、下記の工程により、2〜50本の強化繊維糸条からなる5〜50cm幅の緯糸テープを挿入する。(A)強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する工程。(B)複数の糸条それぞれについて緯入れに必要な量の緯糸をエアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する工程。(C)補強繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成する工程。(D)緯糸テープを挿入する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料に用いられる強化繊維布帛として使用する多軸ステッチ基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などの強化繊維を用いた複合材料は、その優れた力学特性、軽量化効果などから航空機をはじめ、船舶、スポーツ・レジャー用途など様々な用途に使用されている。これらの複合材料においては、連続繊維からなるシートを所定枚数積層した形で使用されるが、繊維配列方向の力学的特性は優れるものの繊維配列方向からずれるに従い、その特性は低下する。このため、通常は、疑似等方積層と呼ばれる繊維の配列角度を、例えば、0°、±α°、90°といった方向にずらした形で積層されている。しかしながら、通常の二方向性織物を使用すると、繊維の配列方向が0°(経方向)、90°(緯方向)の二方向にのみしか配列していないことから、±α°の斜め方向については、織物をα°の方向に裁断して使用せざるを得なく、材料のロスが大きくなることや積層に時間がかかるといった問題があった。
【0003】
一方、上記課題に対して、シートの長手方向、幅方向、斜め方向にそれぞれ強化繊維糸条を並行に配列し、これらが積層した状態でステッチ糸でステッチし、一体化した多軸ステッチ基材が提案されており、一枚の材料で疑似等方性が得られることから、材料のカットロスの削減や積層作業の軽減が可能である。
【0004】
ここで、多軸ステッチ基材を製造するにあたっては、クリールから強化繊維糸条を複数本引き出して引き揃えて緯糸テープとし、幅方向および斜め方向に挿入する工程を経る。特に一層当たりの強化繊維目付が50〜150g/m2と低い場合、ボビンから解舒した糸条をいかに糸幅が狭まらないように引き揃えて緯糸テープ化し、挿入するかが重要となる。すなわち、糸幅が狭まってしまうと、糸条間の隙間が大きい、いわゆるギャップの大きい不均一な材料しか得られないという問題があった。強化繊維基材における上記ギャップは、複合材料にした場合に、樹脂リッチ部分となり、応力集中が生じた場合に破壊の起点になりやすくなる。また、硬化収縮によりこの部分が凹んでしまい、表面凹凸が大きくなる問題を引き起こす。
【0005】
この課題を解決すべく、特許文献1には、緯糸を一定張力で挿入する方法が提案されている。この方法は、緯糸に撚りが入らないように、かつ、一定張力で挿入できることから糸幅を安定して保持できるが、織物であることから一糸条の挿入にしか適用できないという問題、織物であるため0°と90°にしか繊維が配向できないという問題があった。
一方、特許文献2には、張力を付与しながら多糸条の緯糸を供給する多軸ステッチ基材の製造方法が提案されている。この方法は、ボビンからたて取り解舒されたトウを、デバイスを介してもつれをほどき、緯糸テープ化して一定張力を保ちながら緯挿入方法であるが、ボビンから解舒される際は張力が付与されていない。また、たて取り解舒であることから、解舒時にボビン1周分の糸長につき1回の撚りが入ってしまう。このため、特に糸条断面が扁平状の強化繊維を用いて低目付の強化繊維ステッチ基材を製造しようとした際には、撚り部分で糸幅が極端に狭くなって糸幅が不均一となり、ギャップの大きい多軸ステッチ基材になってしまうという問題があった。また、デバイスを通過した強化繊維は、アクチュエータの伸縮により張力を一定にするとのことであるが、緯糸挿入における解舒速度はかなり速いので、緯糸挿入における急激な張力変動に対応できず、糸がダメージを受けやすいことや緯糸挿入時の把持ミスが生じやすいという問題もあった。
この問題を改善すべく、特許文献3には、ボビンから強化繊維糸を横取り解舒して緯挿入する多軸シートの製造方法が提案されている。この方法は強化繊維糸を横取り解舒し、緯糸挿入における糸の両端を固定して挿入することから解舒撚りが入ることがない。しかし、緯糸テープ挿入するにあたって必要な糸長をプーリングする機構を有していないことから、緯糸挿入における急激な張力変動に対応できず、糸がダメージを受けやすいという問題があった。また、モータの回転をコントロールしても、停止時のオーバランにより糸がゆるむことによって糸がねじれたり、回転開始時のスタート遅れにより緯糸の過度な張力が作用し、安定して緯糸挿入することが困難であるといった問題もあった。
すなわち、多糸条の緯糸を糸幅が狭まらないように引き揃えて緯糸テープ化し、一定張力で挿入できる多軸ステッチ基材の製造方法は上記提案では達成されておらず、かかる課題を解決できる技術が望まれていた。
【特許文献1】国際公開特許WO03/031703号パンフレット
【特許文献2】特表2001−516406号公報
【特許文献3】米国公開特許明細書US2002−0006496号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑み、多軸ステッチ基材を製造するにあたって、緯糸を糸幅が狭まらないように並行に引き揃えてシート化し、糸幅が安定した状態で、かつ、供給張力の変動を小さいことから強化繊維を損傷させることなく、よこ糸テープ挿入ができる多軸ステッチ基材の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の多軸ステッチ基材の製造方法は、多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層構成を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(A) 少なくとも、前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
また、かかる多軸ステッチ基材の製造方法の該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(A) 少なくとも、前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する解舒工程
(E) 該緯糸挿入に必要な量の緯糸を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
また、さらにかかる多軸ステッチ基材の製造方法の該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返すことで緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
また、さらにかかる多軸ステッチ基材の製造方法における該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(E) 緯糸挿入に必要な緯糸を、弾性伸縮体の伸縮により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強化繊維糸条からなる多糸条の緯糸を撚りが入ることなく引き揃えて緯糸テープ化し、一定張力で連続して緯糸テープ挿入できることから、一層当たりの強化繊維目付が低目付であってもギャップが形成されない強化繊維ステッチ基材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、前記課題、つまり多軸ステッチ基材を製造するにあたって、緯糸を糸幅が狭まらないように並行に引き揃えてシート化し、糸幅が安定した状態で緯糸テープ挿入するとともに、かつ、供給張力の変動を小さくすることができる多軸ステッチ基材の製造方法について、鋭意検討し、多軸ステッチ基材を製造する方法における、基材の緯糸挿入工程において、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する緯糸貯留工程を設けてみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る多軸ステッチ基材を製造するための緯糸シート挿入に関する装置の一例を示す概略断面図である。
本発明の多軸ステッチ基材とは、緯糸テープ挿入手段によって挿入して得られる、90°方向(基材幅方向)に強化繊維糸条が配列しているシート(以下、90°層と略称)やα°層(0<α<90)などの緯方向の挿入層と、場合によって、緯糸テープ挿入手段とは別途供給される0°層の経方向の挿入層とを含む複数の層が、交差積層された後、ステッチ糸にてステッチされて各層が一体化されたものである。
ここで、緯糸テープ挿入にあたっては、2〜50本の多糸条の強化繊維糸条をボビンから解舒しながら引き揃えて、5〜50cm幅の緯糸テープにする必要がある。緯糸ボビン10から緯糸テープとして供給される緯糸挿入工程に至る間に、緯糸Twfが通過する緯糸供給路YPwfを有している。この緯糸供給路YPwfは、緯糸ボビン10から横取り解舒する緯糸解舒手段30と、多軸ステッチ基材Sに至る緯糸Twfの一部を一時的に貯留する緯糸貯留手段40と、緯糸Twfをガイドし、糸条の幅を規制して複数の緯糸をシート化するガイドローラ群50を含むテープ形成手段70と、緯糸把持装置21とキャリア22などを含む緯糸テープ挿入手段20とを有している。なお、緯糸テープ挿入手段は、前述の通りテープを把持して挿入する場合と、テープを把持せずにピンやフックなどに引っ掛けながら挿入する場合とがあり、いずれの方法でも緯糸テープを挿入できる。
【0010】
以下、本発明の次の(A)解舒工程、(B)貯留工程、(C)テープ形成工程および(D)緯糸挿入工程の各工程について、それぞれ詳細に説明する。
【0011】
(A)解舒工程
この解舒工程においては、少なくとも、前記強化繊維糸10を巻回したボビンをコンタクトローラ11に接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する。なお、本発明において、実質的に一定速度とは、平均速度の±10%の範囲の速度を指す。
【0012】
図2は、本発明に係る緯糸解舒手段の一例(緯糸解舒手段30)を示す概略断面図である。ここでは、緯糸ボビン10からこれに接するコンタクトローラ11を介して解舒時に撚りが入らないように横取り解舒しつつ、緯糸Twfを実質的に一定速度で引き出す引取ローラー31から構成される一定速度解舒機構を有している。
【0013】
図2では、更に緯糸に常時張力を付与するテンションローラ32からなる張力付与機構を示している。かかる張力付与機構を有する態様は、本発明における好ましい態様といえる。
【0014】
引取ローラ31は、回転駆動される駆動ローラ31aとニップローラ31b(駆動してもよいし、駆動しないで駆動ローラーに従って回転してもよい。)とから構成され、緯糸Twfは、駆動ローラ31aとニップローラ31bとにニップされながら引き取られる。
図2において、緯糸解舒手段30は、緯糸ボビン10、コンタクトローラ11、引取ローラ31、テンションローラ32から構成されている。そして、緯糸Twfは、テンションローラ32を経て駆動ローラ31aとニップローラ31bとで案内され、駆動ローラ31aの回転により、実質的に一定速度で緯糸ボビン10から解舒される。
【0015】
テンションローラ32は、その機能を最大限に発揮させるため、緯糸ボビン10から緯糸Twfを解舒する時は、上方に位置し、緯糸挿入が停止すると自動的に下方に下がるとともに、テンションローラ32と連動するブレーキが働いてボビン10の惰性回転を停止させるテンション付与機構を有するのが好ましい。テンションローラの上下動は、矢印32aで示される。
【0016】
ここで、前記の緯糸解舒手段30は、少なくとも緯糸シート挿入にあたって、必要とされる緯糸糸条の本数分を供給できる能力を有している。また、緯糸Twfの解舒速度は、緯糸テープの挿入速度およびキャリア22の移動距離によって決まる。
【0017】
本発明の解舒工程において、かかる手段をとる理由を以下に説明する。
【0018】
すなわち、強化繊維糸条は、一般的に所定のワインド数でトラバースさせながら巻き取られている。特に扁平状になっている幅広の糸条(以下、扁平糸と略す)をトラバースさせながらボビンに巻き取ると、トラバース反転箇所において、扁平糸を幅方向に屈曲させることになるために、屈曲部の内角に近いフィラメントは緩んだ状態で、屈曲の外角に近いフィラメントは緊張状態で巻き取られた状態で仮セットされている。 かかるボビンから扁平糸をボビン端部を起点として引き出しながら解舒させると、平糸の幅方向におけるボビン中央側のフィラメントがゆるんだ状態で、ボビン端部側のフィラメントは緊張した状態となる。かかる糸条にかかる張力差により、扁平糸は、容易にねじれ、そのねじれが緯糸供給するにあたり、仮撚、細糸となることから、多糸条を引き揃えて緯糸テープとし挿入するにあたり、緯糸テープ内にギャップを形成する。ここで、コンタクトローラ11を、緯糸を巻いたボビン10の径の変化に追従できるよう接触させることにより、扁平糸をボビンに押さえつけながら引き出すことができる。 その結果、糸幅が固定され、ボビンからの解舒時の糸幅変動、仮撚の混入を防止できるのである。さらに、本発明では横取り解舒するため、ボビン1周分の糸長につき1回の撚りが入ることもなく、緯糸Twfがその糸幅が安定して保持されるのである。
【0019】
図2において、緯糸ボビンから引き出された緯糸Twfは、通常は上方に位置しているテンションローラ32に接しながら、引取ローラ31へと向かう。なお、多軸ステッチ装置における緯糸テープ挿入が停止した際、ボビン10が惰性回転しても、それに応じてテンションローラ32が自動的に下方に下がることにより、常時、緯糸Twfに張力が付加されている状態が維持されるために、緯糸Twfのねじれを防止することができるものである。
【0020】
駆動ローラ31aとニップローラ31bからなる実質的に一定速度で解舒する機構を通過した緯糸Twfは、次の工程である緯糸貯留工程にて貯留される。この緯糸貯留工程により、多軸ステッチ装置の緯糸テープ挿入が間欠的でも、一定速度で連続供給するものであっても、問題なく緯糸テープを挿入することができる。更に、緯糸供給路YPwfにおいて、テンション付与機構が備わっていると、緯糸Twfのゆるみの発生をより一層防止することができる上、緯糸貯留工程への引き込み張力も安定させることができるので好ましい。
【0021】
上記の理由により、本発明においては、従来の一定速度でない緯糸解舒方法(例えば、モータ回転のオンオフ制御による緯糸解舒)のように、モータ回転が高速であっても、供給速度の変動や、緯糸の張力変動の増大がなく、また、スタート時の緯糸オーバーランにより、緯糸貯留工程に至る前に緯糸がゆるんで、緯糸にねじれが発生するという問題の発生を確実に防止することができるものである。
また、本発明に係る緯糸解舒手段としては、以下の解舒手段であってもよい。
(F)解舒工程
図3は、本発明に係る緯糸解舒手段の別の態様を示す概略断面図である。
【0022】
図3において、緯糸解舒手段30は、緯糸ボビン10を回転させる機構(ここでは、モータ10M)、コンタクトローラ11、緯糸Twfを案内するガイドローラ31c、から構成されている。更に、緯糸ボビン10とガイドローラ31cとの間の緯糸供給路YPwfにおいて緯糸ボビン10から横取り解舒された緯糸Twfに張力を付与する張力付与機構(テンションローラ33)、および、モータ10Mの回転を制御するボビン回転制御機構10C(図示せず)とから構成されている。かかるボビン回転機構10Cは、後述する緯糸貯留工程における緯糸貯留装置に設置した貯留糸量検出センサーで検出される貯留緯糸量(例えば、貯留装置における緯糸の位置を検出することにより算出される)に関する情報から、モータ10Mの回転を制御する。
【0023】
本発明においては、その機能を最大限に発揮させるため、図3におけるテンションローラ33は、図2におけるテンションローラ32と同様に、ボビン10から緯糸Twfを解舒するときは上方に位置し、織機が停止すると自動的に下方に下がると共に、ブレーキが働いて惰性回転を停止させる機構を有することが好ましい。テンションローラの上下動は、矢印33aで示される。
【0024】
モータ10Mは、緯糸貯留工程における緯糸Twfの貯留量が過多乃至過少にならないよう、緯糸貯留装置に設置した貯留糸量検出センサーからの信号により、回転駆動が制御・調整される。すなわち、緯糸貯留装置に設置したセンサーが緯糸貯留量の過多を検出するとモータ10Mの回転が停止し、ボビン10からの緯糸Twfの供給が停止する。そして、センサーからの緯糸Twfについての検出信号がなくなると、再びモータ10Mが回転し、緯糸Twfの供給が再開される。
【0025】
一方、緯糸貯留量検出センサーが緯糸貯留量の過小を検出するとモータ10Mの回転数が上昇し、緯糸Twfの供給量が増加して緯糸貯留工程における緯糸Twfの貯留量の不足を防ぐことが出来る。
【0026】
かかる(F)解舒工程においては、前述の通り前記(A)解舒工程に比較して本発明の前記課題を解決するのに貢献できない。しかしながら、テンションローラ33の機構と組み合わせることにより、緯糸にかかる張力変動を最小限に抑制でき、緯糸のねじれ発生を防止することができる。また、後述の(B)貯留工程、(C)テープ形成工程および(D)緯糸挿入工程、または、(E)貯留工程、(C)テープ形成工程および(D)緯糸挿入工程の工程、との組み合わせにより、本発明の前記課題を解決することができるのである。
【0027】
なお、コンタクトローラ11と強化繊維糸条の緯糸ボビン10とは、0.3〜9kg/mの線圧で接触していることが好ましい。0.3kg/m未満であると、コンタクトローラを接触させている意味が希薄になる場合がある。一方、9kg/mを超えると、特に強化繊維が炭素繊維である場合、解除する際に毛羽が発生しやすくなり、品位の高い多軸ステッチ基材が得られない場合がある。
【0028】
また、コンタクトローラ11としては、直径が10〜50mmのベアリングを内蔵した従動回転ローラ(消極回転ローラ)が好ましく採用される。直径があまり小さいと、緯糸Twfが屈曲して、それを構成している多数のフィラメントが切れやすい場合がある。また、強化繊維糸条が巻き付きやすくなる場合がある。一方、直径が50mmを超えると、回転の惰性が大きくなって、始動、停止時の緯糸Twfの張力変動が大きくなり過ぎる場合がある。また、コンタクトローラの長さは、緯糸ボビンよりも同等以上であれば問題ない。
【0029】
更に、特に強化繊維が炭素繊維である場合、コンタクトローラ11の材質により、解舒の際に毛羽が発生することがある。かかる毛羽を最小限に抑制するために、コンタクトローラは金属製の鏡面仕上または梨地仕上であることが好ましい。場合によってはセラミックス製のものであってもよい。
(B)緯糸貯留工程
緯糸貯留工程は、複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により緯糸貯留装置内で折り返すことで貯留させるものである。本装置における好ましい態様としては、緯糸を案内する糸道案内ガイドに緯糸を接触させながら緯糸を貯留する機構が挙げられる。
【0030】
図4は、本発明に係る緯糸貯留装置の一例を示す概略断面図である。
【0031】
図1における引取ローラ31から引き出された緯糸Twfは、緯糸貯留手段40に至る。緯糸貯留手段40は、緯糸貯留筒体41(以下、単に筒体41という。)等から構成され、一糸条もしくは多糸条の強化繊維糸を同時に貯留するものである。なお、この筒体は、緯糸挿入に必要な2〜50本の糸条を一時的に貯留できるような一つの緯糸貯留筒体、もしくは緯糸糸条1本あるいは複数本を同時に貯留できる複数の緯糸貯留筒体のいずれであってもよい。かかる装置を安価にする場合には前者が、また、製造する多軸ステッチ基材の品質を優先させる(強化繊維糸条同士の隙間であるギャップを最小限にする)場合には後者が、それぞれ好ましく使用される。
【0032】
筒体41は、その一端に外気に解放された緯糸出入口42と、その他端に筒体41内の空気を吸引、排出する空気排出口43を有する。空気排出口43には、吸引ホース44が接続され、吸引ホースは、吸引機(例えば、ブロアなど)(図示せず)に接続されている。筒体41の緯糸出入口42の一つの辺には、糸導入側入口ガイド42aが設けられ、この辺に対向する辺には、糸導出側出口ガイド42bが設けられている。筒体41に至った緯糸Twfは、糸導入側入口ガイド42aに接触しながら筒体41内へと入り、U字形に屈曲して貯留され、糸導出側出口ガイド42bに接触しながら筒体外へと導出される。
【0033】
筒体41の緯糸出入口42は、緯糸Twfが導入される側と導出される側のみを開口させ、これらの間を閉じたものとすることもできる。しかし、この場合、緯糸出入口42から入った空気が筒体41内で急激に拡散され、空気に流れに乱れが生じ、緯糸Twfが旋回してねじれ易くなる。このため、緯糸出入口42は、全面開放形にすることが好ましい。また、緯糸出入口42の横断面形状は、筒体41の横断面形状とできるだけ同一にすることが好ましい。また、筒体41の幅方向の断面形状は、筒体41から空気排出口43に向かって実質的に一様であるのが好ましい(後に示す図5、図6においても同様)。筒体41内の空気の流れが層流状態となり、筒体41内における緯糸Twfの旋回を防ぐことができ、緯糸Twfに発生するねじれ、仮撚りを最小限にすることができるためである。特に、緯糸Twfが扁平糸の場合には、その扁平状態を維持するために格段の効果を発現する。
【0034】
緯糸Twfが扁平糸の場合、筒体41内にU字形に貯留されることで、緯糸Twfの折り返し部分に空気が衝突し、糸の中央部から端部に流れる気流によって緯糸Twfが開繊され、糸が拡幅される効果が得られる。
【0035】
かかる強化繊維糸条は、集束剤を付与した状態でボビンに巻いたことにより、望ましくない形状で固定されることがあるが、糸条が空気の衝突を受けることにより解消・開繊される。補強繊維糸についても同様に、望ましくない形態で固定され、糸ねじれが発生し、緯糸Twfの糸幅のバラツキが増加することを最小にすることができる。
【0036】
なお、本発明においては、緯糸Twfにかかる張力は、筒体41内で、常に空気吸引による小さな負荷がかかった状態で貯留されていることから、変動がほとんどない。このため、間欠的なよこ糸挿入を行うときのよこ糸の貯留時も、異常張力発生による緯糸Twfの損傷がないことから強化繊維を傷つけることがない。また、空気吸引であるため、緯糸Twfを引き揃え緯糸テープとして緯糸挿入工程にてキャリア22で挿入するにあたり高速挿入が可能となる。
【0037】
緯糸出入口42は、少なくとも、互いに平行な第一の辺42cと第二の辺42dを有し、第一の辺42cに沿って糸導入側入口ガイド42aが設けられている。そして、第二の辺42dに沿って糸導出側出口ガイド42bが設けられていることが好ましい。かかる糸道案内ガイドにより、緯糸Twfの筒体41への導入と、筒体41からの導出とが行われ、緯糸Twfは、筒体41内の壁面に接触しながらU字形に折り返されるため、筒体41内におけるねじれや仮撚りの発生が防止される。特に、緯糸Twfが扁平糸の場合、扁平状態を良好に維持できる。
【0038】
筒体41内の糸接触手段は、筒体41自体の内壁面で構成されていても良いが、筒体41内に設置された糸道案内ガイドから構成されている形態が、本発明の好ましい形態といえる。更に、糸道案内ガイド(導入側)と糸道案内ガイド(導出側)との間の、緯糸出入口に平行な方向における距離Lが、緯糸出入口42から空気排出口43に向かって漸減していることが一層好ましい。すなわち、糸道案内ガイド(導入側)を含む面と、糸道案内ガイド(導出側)を含む面とは、筒体41に対する傾斜をつけて配置するのが良い。かかる配置により、筒体41内での緯糸Twfのねじれの発生を防止あるいは減少させることができる。なお、かかる糸道案内ガイドについての詳細は、図5、6を参照して後述する。
【0039】
また、緯糸Twfを筒体41に貯留しつつ、緯糸挿入をより高速に行うため、吸引ホース44が接続されている吸引機の吸引力を大きくした場合、筒体41内で、緯糸TwfがU字形状となったときの曲率半径が小さくなるとともに、筒体41自体の内壁面に緯糸Twfが接触する割合が小さくなる。その結果、緯糸Twfが、筒体41内で、宙に浮いて、気流の乱れなどで、緯糸Twfにねじれが生じ易くなる。特に、緯糸Twfが扁平糸の場合、この現象は、扁平糸の扁平状態の維持を阻害する場合がある。
【0040】
この現象を防止するため、緯糸貯留筒体41内において、緯糸Twfに接触して緯糸Twfをガイドする糸道案内ガイド(導入側)と、糸道案内ガイド(導出側)との、緯糸貯留筒体41の幅方向における距離Lは、緯糸出入口42から空気排出口43に向かって漸減するのがよい。すなわち、糸道案内ガイド(導入側)を含む面と、糸道案内ガイド(導出側)を含む面とは、緯糸貯留筒体41と傾斜をつけて配置するのが良い。このような配置により、緯糸Twfの貯留筒体41内での緯糸Twfのねじれの発生を防止あるいは減少させることができる。
【0041】
緯糸貯留筒体41の長手方向に対する、糸道案内ガイド(導入側)を含む面および糸道案内ガイド(導出側)を含む面のそれぞれの傾斜角は、貯留筒体41内での緯糸Twfの貯留状態を考慮して、緯糸Twfが糸道案内ガイド面にスムーズに接触するように決めれば良いが、例えば炭素繊維(繊度800〜3,400tex)においては、0.5/100ないし10/100の勾配とすることが好ましい。
【0042】
糸道案内ガイド(導入側)を含む面および糸道案内ガイド(導出側)を含む面は、空気透過性シート、あるいは、間隔をおいて設けられた多数本の平行な棒状体(ピン)で形成するのが好ましい。かかる糸道案内ガイド(導入側、導出側)の具体例を、図5および図6を用いて説明する。
【0043】
図5は、本発明に係る緯糸貯留装置の別の態様を示す概略断面図である。
【0044】
図6は、本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【0045】
図5、6において、筒体41は、一端に緯糸出入口42を、他端に空気排出口43を有する。筒体41は、緯糸の糸道案内ガイド45、46(導入側:45a、46a、導出側:45b、46b)を有する。糸道案内ガイド(導入側)45aあるいは46aと、糸道案内ガイド(導出側)45bあるいは46bとの、筒体幅方向における距離Lは、緯糸出入口42から空気排出口43に向かって漸減している。また、筒体41の幅方向の断面形状は、筒体41から空気排出口43に向かって実質的に一様断面であるのが好ましい。
【0046】
糸道案内ガイド45aおよび45bは、例えば、それぞれ対向するネットから構成されていてもよい。また、糸道案内ガイド46aおよび46bは、例えば、それぞれ間隔をおいて設けられた多数本の平行なピンから構成されていてもよい。糸導入側入口ガイド42aから導入される緯糸Twfは、糸道案内ガイド(導入側)であるネットに接触しながら筒体41内方へ向かう糸道を形成する。しかる後、筒体41外に向かう緯糸Twfは、糸道案内ガイド(導出側)であるネットに接触しながら外方へ向かい、糸導出側出口ガイド42bへの糸道を形成する。
【0047】
図5において、横断面積が一様な筒体41内に、2つのネットを傾斜させて設けることにより、緯糸貯留筒体41内の吸引空気の多くが、糸道案内ガイド同士の間を流れ、一部は糸道案内ガイドを通り抜け外側に流れる。すなわち、ネット同士の間の空気の流れにより、緯糸Twfは、筒体41内にU字形に引き込まれる。また、ネットを通り抜けて流れる空気の流れにより、緯糸Twfは、ネットの方向に吸引され、ネットに確実に接触した状態でU字形に貯留されるため、宙に浮いて気流の乱れなどでねじれる現象が防止される。
【0048】
かかるネットを形成する空気透過性のシートとしては、例えば、金網、プラスチックネットやパンチングメタルが用いられる。空気透過性シートの空隙率は、空気が通過できる面積のシート全面積に対する比[(空気が通過できる面積)/(シート全面積)]で表されるが、空隙率は10%以上であることが好ましく、かつ、1箇所当たりの空隙部の最大幅は、3mm以下であることが好ましい。かかる空隙率が10%未満であり、かつ、1箇所あたりの空隙部の最大幅が3mmを超えると、空気透過性のシートを通過できる空気量が少なくなり、筒体41内で、緯糸Twfが宙に浮いて、気流の乱れなどにより、緯糸Twfにねじれが発生しやすくなり、また、緯糸Twfが空隙部に引き込まれて、擦過毛羽が発生しやすくなる。
【0049】
図6においては、横断面形状が一様な筒体41内にピン群が構成する面の2つの面を傾斜させて設けられている。ピン群が構成する面同士の間に形成される気流により、緯糸Twfは、筒体41内にU字形に引き込まれる。また、個々のピン間を通り抜け外側に流れる空気の流れにより、緯糸Twfは、ピン群を構成する面の方向に吸引される。すなわち、緯糸Twfは、個々のピン同士に確実に接触した状態で貯留され、U字形に貯留された緯糸Twfが、宙に浮いて気流の乱れなどでねじれる現象が防止される。この手法は、緯糸Twfが扁平糸の場合、その扁平状態を維持するために特に好ましい。また、炭素繊維糸条の損傷を最小限に抑制することができるため、本発明において特に好ましい態様といえる。
【0050】
図4、図5および図6における緯糸出入口42の形状は、導入される緯糸Twfが位置する第一の辺42cと導出される第二の辺42dが、実質的に直線で、それぞれの辺が直線であればいずれであっても構わない。例えば並行する2つの直線からなる辺42c、42dの両端が円弧で結ばれたものや、この両端が直線で結ばれてなる台形でも良い。すなわち、筒体41の緯糸出入口42を含みその内部において緯糸Twfが接触する箇所が、直線で、互いに並行であれば、筒体41への緯糸Twfの引き込み、引き出し、および、貯留にあたって、緯糸Twfがこれらの直線部分に接触しながら走行するため、緯糸Twfのねじれの発生が防止される。
【0051】
筒体41の幅方向の断面形状が矩形であり、かつ、この矩形の一方の短辺側から、緯糸Twfを引き込み、他方の短辺側から、緯糸Twfを引き出すようにすることが好ましい。この方法により、筒体41内に吸引された空気のほとんどを、緯糸Twfの折り返し部に衝突させることができ、ブロア等の能力を有効に発揮させることができる。また、緯糸引き込み部と引き出し部との間の距離を大きくできることから、筒体41内で、緯糸Twfを大きな曲率で折り返すことが可能となり、緯糸Twfの損傷を小さくすることができる。
【0052】
さらに、緯糸ボビンから緯糸を解舒させながら引き揃えて緯糸テープ化する際に、引き揃える個々の緯糸間で僅かな糸長差が生じる可能性があるが、エアー吸引による貯留機構であれば、ガイドローラがない非接触の状態でも、貯留筒体内で緯糸を貯留できる。このため僅かな糸長差が生じた場合においても、複数本の糸条を一つの貯留筒体で同時に貯留することができる。
【0053】
なお、本発明において、貯留筒体内にセパレータを設置し、各糸条をセパレートした状態で貯留させることもできる。
(E)貯留工程
緯糸の貯留手段は前記エアー吸引による貯留に限定されず、他の貯留手段として、図7に示す緯糸挿入に必要な量の緯糸を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程、あるいは図8に示す緯糸挿入に必要な量の緯糸を、弾性伸縮体の伸縮により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程であっても本発明の前記課題を解決することができる。
【0054】
図7は、本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示すの概略断面図である。
図8は、本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示すの概略断面図である。
図7において、エアー吸引により緯糸貯留筒体内に貯留するのではなく、2本の水平ガイドローラ(47a,47b)間にダンサローラ48を設置し、水平ガイドローラ間に設置したこのダンサローラに緯糸を接触させながら走行させている。かかるダンサローラは、その自重で運動させてもよいし、予め算出されたストローク量をモーター等により運動させてもよい。また、図8の通り、弾性伸縮体49aに連結したダンサローラ49bを設置する貯留する方法であっても構わない。
このような構成にて緯糸を貯留することにより、多数本の緯糸を引き揃えて緯糸テープとし間欠的に緯糸挿入するにあたって、2本の水平ガイドローラ(47a、47b)間に設置したダンサローラ48に緯糸を接触させながら走行させ、ダンサローラ48の上下運動により、緯糸にゆるみが生じることを防止するのである。
なお、前述したダンサローラを用いた緯糸貯留機構(弾性伸縮体に連結した機構を含む)は、緯糸シートの緯糸挿入速度が特に速い場合には、ダンサローラの上下運動が給糸速度に追従せず、緯糸がゆるむ可能性がある。かかる理由から、特に高速運転時においては、前述のエアー吸引による貯留方式が好ましいが、そこまで高速運転しない場合は、ダンサローラを用いる方式でも本発明の前記課題を解決することができる。
【0055】
また、別の視点からは、緯糸Twfを緊張させておく他の方法としては、空気吸引による緯糸貯留手段や、ダンサローラの移動による緯糸貯留手段、それぞれ単独ではなく、併用してもよい。更に、緯糸供給路YPwfに設けた偏芯カムなどにより機械的な緯糸貯留手段をも用いることもできる。かかる態様にすることにより、必要な緯糸量に対し、その一部を機械的に貯留することで、残りの長さのみを、空気吸引で緯糸貯留筒体内で貯留することができる。この場合、緯糸貯留筒体での緯糸Twfの引き込み量を少なくすることができ、かつ、緯糸貯留筒体の長さを短くすることができ、装置設置スペースを削減できるのである。
【0056】
なお、空気吸引よる緯糸Twfの貯留にあたっては、エアージェットを併用しても良い。このエアージェットは、緯糸テープ挿入キャリア22の動きにあわせ、緯糸Twfの貯留量が最も少なくなった時に、緯糸出入口42の外側から瞬間的にエアーを噴射し、緯糸Twfを緯糸貯留筒体に押し込むことで、緯糸貯留筒体への緯糸Twfを引き込み易くすることができる。
【0057】
また、緯糸の解舒手段が、緯糸の解舒量を緯糸貯留手段に設置したセンサーにより検出し、ボビンに直結したモータの回転によりコントロールする手段で、かつ、緯糸の貯留手段が、ダンサローラの移動による貯留手段の場合においては、ダンサローラの可動範囲の任意の位置に前述した緯糸の貯留量の過小および過大を検出するセンサーを取り付けることや、トルクモーターによるトルク検知などによって、緯糸ボビンからの緯糸解舒量をコントロールすることができる。
(C)テープ形成工程
このテープ形成工程では、2〜50本それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて、5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを形成する。
緯糸貯留筒体に貯留された緯糸Twfを緯糸テープ供給把持装置に供給する方法について説明する。
緯糸貯留工程をへて、強化繊維糸条はそれぞれの強化繊維糸条の糸幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程へと導かれる。かかる強化繊維糸条の糸幅は、規制ガイドを通過させることでそれぞれが実質的に同一になるように規制される。かかる規制ガイドが、ローラ状であり、後述の垂直ガイドローラ、水平ガイドローラなどの機能を兼用したものであると、本発明の前記課題を効率的に解決できるので好ましい態様といえる。
このテープ形成工程は、緯糸の高さ方向および水平方向の位置を決める水平ガイドローラ51、垂直ガイドローラ52および水平ガイドローラ53からなるガイドローラ群50や、緯糸Twfに張力を付与する板バネテンション装置60などを含む構成であってもよい。かかるガイドローラ群や、テンション装置が組み込まれた構成であると、特に扁平状の強化繊維糸条を用いる場合は、強化繊維糸条の扁平状態を維持することができ、本発明の前記課題を容易に解決することができる。
【0058】
かかるガイドローラ群50は、緯糸の高さ方向および水平方向の位置を決める水平ガイドローラ51、垂直ガイドローラ52および水平ガイドローラ53から構成される。各ガイドローラは、直径が10〜20mm程度で、長さが100〜300mm程度のベアリングを内蔵した従動回転ローラ(消極回転ローラ)が好ましく採用される。直径があまり小さいと、緯糸Twfが屈曲して、それを構成している多数のフィラメントについて、フィラメント切れを起こしやすい場合がある。また、直径が20mmを越えると、回転の惰性が大きくなって、始動、停止時の緯糸Twfの張力変動が大きくなる場合がある。
【0059】
各ガイドローラの長さは、通過する緯糸Twfが、左右または上下方向に移動した場合、通過する緯糸Twfが、各ガイドローラの指示部に接触すると、緯糸Twfの形状、特に、扁平な形状を損なう場合がある。
【0060】
また、水平ガイドローラ51および53は、案内する緯糸Twfの高さ方向の位置を決め、垂直ガイドローラ52は、緯糸Twfの水平方向の位置を決めるものであることから一糸条においては、少なくとも2個の円筒状ガイドローラを有していればよい。また、ガイドローラ群50には、少なくとも水平方向と垂直方向のガイドローラが、交互に配置されていることが好ましい。
【0061】
水平ガイドローラ51と垂直ガイドローラ52との間、および、垂直ガイドローラ52と水平ガイドローラ53との間で、特に緯糸Twfが扁平糸の場合は、その扁平面が90°ねじられることになる。このため、水平ガイドローラ51と垂直ガイドローラ52との間、および、垂直ガイドローラ52と水平ガイドローラ53との間の距離は、50mm以上とすることが好ましい。この距離が50mm未満の場合、緯糸Twfが捩じれたまま、垂直ガイドローラ52や水平ガイドローラ53を通過して織り畳まれてしまう場合がある。また、短い距離で扁平糸が90°ねじられると、扁平糸の両端部に張力が加わり、毛羽が発生し易い。
【0062】
垂直、水平ガイドローラは、それぞれ、1本のガイドローラであっても良いが、それぞれを、2本のガイドローラを1組として、緯糸Twfが2本のガイドローラをS字状を描いて通過するようにさせると、緯糸Twfに作用する張力が安定し、緯糸Twfの各ガイドローラ上での位置決めを確実に行うことが出来る。
ここで、糸幅を規制するにあたっては、所定の寸法を有している規制ガイドに糸条を通過させる。かかる規制ガイドは、ローラー形状であると、例えば、緯糸テープを形成する個々の緯糸における糸幅は、多軸ステッチ基材1層におけるシート目付にあうように、規制ガイドローラの位置や間隔を調整することで規制できる。このように糸幅を規制した状態で緯糸テープ把持装置に導くとともに緯糸テープ挿入により、所定の一層あたりの強化繊維目付の多軸ステッチ基材を得ることができ、本発明において好ましい態様といえる。
かかる規制ガイドローラは、糸幅を規制するために、上記のように所定の寸法の溝などを有している溝付(鍔付)ガイドローラーであると、糸幅をより精度よくコントロールできることから、本発明において好ましい態様といえる。
また別の視点からは、この強化繊維糸条の糸幅を規制する規制ガイドローラが、所定の寸法の溝を有したものでなく、少なくとも2本のローラを隣り合う緯糸を交互に通過させるものであれば、ローラを通過する際に糸幅が拡げられたとしても、個々の緯糸は隣接することがないのでより安定して糸幅を規制することができる。
【0063】
図9は、本発明に係る規制ガイドローラの一例を示す概略縦断面図である。
図9に示すように、糸条の幅を規制する手段が、少なくとも2本のローラ71を隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させるものであると、ローラに溝を加工する必要がなく、安価に糸幅を規制することができ、かつ、強化繊維糸条に対するダメージが少なくでき、毛羽発生を最小限に抑制することができるため、本発明における規制ガイドローラの好ましい態様ということができる。
図10は、本発明に係る規制ガイドローラの一例を示す別の概略断面図である。
図10に示すように糸条の幅を規制する手段が、少なくとも2本のローラ72を隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させ、かつ、ローラに溝を有していると強化繊維糸条の糸幅がローラに設けた溝幅により規制されることから、より安定して糸幅を規制することがでる。
【0064】
これらのローラにより所定位置に位置決めされ、かつ、糸幅が規制された2〜50本の緯糸Twfは、引き揃えられてシート幅5〜50cmの緯糸テープとなり、それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程へと導かれる。
【0065】
次に、板バネテンション装置について説明する。水平ガイドローラ53から緯糸テープ挿入工程に至る間に、緯糸Twfの張力を均一にさせることおよび多数本の強化繊維糸条を引き揃えるために板バネテンション装置60が配置されていることが好ましい。この板バネテンション装置60は、幅の広い2枚の板バネ60a、60bで、緯糸Twfを挟み込むことにより、緯糸Twfの張力を均一に維持するものである。
【0066】
緯糸Twfの供給は、原理的には、ガイドローラ群50および規制ガイドローラ群により、緯糸Twfの糸道を決めているが、緯糸Twfの張力変動や緯糸Twfの緯糸テープ挿入手段20の動作により、緯糸Twfの糸道が変わることがある。したがって、緯糸Twfが糸幅方向に移動しても、緯糸供給路YPwfに緯糸Twfの端部と干渉する介在物がないことが好ましく、そのために幅の広い板バネ60a、60bを備えた板バネテンション装置60が用いることが好ましい。板バネテンション装置60は、後述する緯糸テープ挿入機構20のキャリア22の間欠的な緯糸テープの挿入に際し、引取ローラ31によって一定速度で解舒される緯糸Twfの引取ローラ31とガイドローラ群50間における、貯留工程において解消しきれない緩みを抑制するため、緯糸Twfを常に緊張させておくものである。緯糸Twfは、緊張させておかないと、緩んだ際に強化繊維糸条がねじれてしまい、そのままガイドローラを通過して細幅化して、ギャップのある緯糸テープになってしまう場合がある。
(G)開繊工程
得られる多軸ステッチ基材のギャップ形成を最小限にし、本発明の前記課題を解決するために、上記(B)または(E)の緯糸貯留工程と、(C)のテープ形成工程との間に、緯糸を開繊させる(G)開繊工程を含むことが好ましい。
【0067】
かかる開繊工程では、貯留した強化繊維糸条の幅を、ボビン上の糸幅よりも大きい糸幅に拡げる。この方法によって、多糸条を引き揃えて緯糸テープ化する際に並行する糸条間の隙間が形成されにくくなり、緯糸挿入後にギャップの発生のない層を形成させることができる。
【0068】
なお、これらの緯糸の開繊工程においては、緯糸テープ化するにあたっての一糸条あたりの糸幅より広くなるようにいったん拡げて、緯糸テープ化する際に一糸条当たりの所定の糸幅に狭める方法を採ることが、安定して糸幅を容易かつ正確にコントロールできることから好ましい。
【0069】
これらの開繊工程においては、温度50〜150℃、湿度40〜60%の範囲の雰囲気下でローラを擦過するもの、および/または、その軸方向に揺動している揺動ローラを通過するものであることが好ましい。糸条拡幅のためにはサイジング剤の軟化が必要であるが、この方法によって、強化繊維糸条に付着しているサイジング剤を軟化させることができ、ボビン上での糸幅が狭い強化繊維糸であっても容易に拡幅が可能となり、緯糸テープ化する際にギャップの発生をなくすることができる。
【0070】
なお、緯糸は上記開繊工程で糸幅を拡げなくてもボビンから解舒する際に緯糸を50〜150℃の範囲に加熱することによっても同様に拡幅し得ることができることから好ましい。
(D)緯糸挿入工程
緯糸テープ挿入工程において、緯糸テープ挿入手段20は、緯糸テープ把持装置21とキャリア22から構成される。なお、緯糸テープ挿入手段は、前述の通りテープを把持して挿入する場合(把持挿入)と、テープを把持せずにピンやフックなどに引っ掛けながら挿入する場合(引掛挿入)とがあり、いずれの方法でも緯糸テープを挿入できる。
把持挿入の場合は、緯糸テープ挿入速度の高速化(製造費用の低コスト化)が難しいが、ギャップの形成を最小限に抑制することができる。引掛挿入の場合は、緯糸テープ挿入速度の高速化が容易だが、ギャップが把持挿入の方法よりも形成され易い。目的によってかかる方法を使い分けることができるが、本発明においては、把持挿入の方が本発明の課題を効率的に解決できるため好ましい。それぞれの緯糸テープ挿入手段について、以下に詳しく説明する。
把持挿入の場合は、緯糸テープ形成工程にて、それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えられた緯糸テープは、緯糸テープ挿入工程へと導かれる。そして、緯糸テープ把持装置21に把持された緯糸テープは、キャリア22が所定の方向に緯糸テープの配置位置をずらしながら、繰り返し緯糸テープを挿入することで所定の方向に強化繊維糸条が配列した緯糸シートが形成される。一般的に強化繊維糸条ボビンを配置するクリールは、緯糸テープ1つについて1箇所であるため、キャリア22は、往路では緯糸テープを搬送し、復路では緯糸テープを把持していない状態で運動することになる。
一方、引掛挿入の場合は、緯糸テープは把持されず、得られる多軸ステッチ基材の両端に配置されたピンやフックなどに緯糸テープを引っ掛けながら、キャリア22は、往路でも復路でも緯糸テープを挿入する。このため、引掛挿入では緯糸テープ把持装置21は用いられない。緯糸テープは、キャリア22が所定の方向に緯糸テープの配置位置をずらしながら、繰り返し緯糸テープ挿入することで所定の方向に強化繊維糸条が配列した緯糸シートが形成される。
緯糸Twfならびに0°糸シートを形成している強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを用いることができる。なかでも、比強度、比弾性率が高い炭素繊維は、複合材料にした際に軽量で、かつ、力学特性が優れることから好ましく使用される。
強化繊維糸条は、取り扱い性やステッチイング時の耐ニードル擦過性を向上させるために、0.2〜2.5重量%の集束剤が付着されていることが好ましい。上記範囲内の集束剤が付着されている強化繊維糸条は、糸道ガイドとの擦過による毛羽発生が効率的に抑えられる上に、複合材料にしたときには、マトリックス樹脂との接着性が増し、力学特性を向上させることができる。
強化繊維糸条は、10,000〜100,000本のフィラメントから形成されていることが好ましい。また、強化繊維糸条の繊度は、500〜7,000texであることが好ましい。かかる繊度が500tex未満であると、糸条が細すぎて、強化繊維糸条がねじれることによる問題がほとんどなく、本発明の効果が発揮されない場合がある。また、強化繊維糸条が高価であり、かかる細繊度糸条を多数本使用することになるので多軸ステッチ基材そのものも高価になってしまう。一方、繊度が7,000texを越えると、低目付(例えば、100〜150g/m2/層)の多軸ステッチ基材を作製する際に緯糸をかなり拡幅させなければならない。また、拡幅させたとしても僅かな力で糸幅が変動しやすく、安定して緯糸幅を維持しながらの緯糸テープ挿入が困難となる場合がある。
また、強化繊維糸条の糸幅は5〜30mmの範囲が好ましい。5mm未満であると、糸幅が狭すぎて、強化繊維糸がねじれることによる問題がほとんどなく、本発明の効果が発揮されない場合がある。また、多軸ステッチ基材を作製する際に緯糸をかなり拡幅させなければならないため、低目付化が困難になる。一方、糸幅が30mmを越えると、低目付の強化繊維基材を作製しやすくなるものの、各工程を通過する際に僅かな力で糸幅が変動しやすく、安定して緯糸幅を維持しながら緯糸テープを挿入させることが困難となる場合がある。
また、特に、低目付(例えば、150g/m2/層以下)の多軸ステッチ基材を得ようとした場合、強化繊維糸条が扁平状であることが好ましい。強化繊維糸条の扁平率は、糸幅(YW)の糸厚み(YT)に対する比(YW/YT)である幅厚み比(WTR)が30〜100であることが好ましい。幅厚み比(WTR)、すなわち、扁平率が30未満であると、1層当たりの目付を小さくしようとすると強化繊維糸条間の隙間(ギャップ)の大きくなった多軸ステッチ基材になる場合がある。一方、幅厚み比(WTR)、すなわち、扁平率が100を越えると、1層当たりの目付が低目付のものが得られるものの、僅かな力で糸幅が変動しやすく、安定して緯糸幅を維持しながら緯糸テープを挿入させることが困難になる場合がある。
【0071】
また、本発明において多軸ステッチ基材を製造するにあたり、緯糸挿入される強化繊維シートの1層当たりの強化繊維目付は、50〜150g/m2の低目付であることが好ましい。50g/m2未満であると、緯糸テープ化する際の強化繊維糸条の間隔が大きくなりすぎることから本発明の製造方法を用いても緯糸テープを形成する際にギャップをなくすることが困難である場合がある。一方、150g/m2を越えると、緯糸テープ化する際の強化繊維糸条の間隔が小さくなり、緯糸テープを形成する際のギャップを容易になくすることができる場合があり、本発明の製造方法を用いる理由が希薄となる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
【0073】
(実施例1)
引張強度が4,900MPa、引張弾性率が230GPa、フィラメント数が12,000本の炭素繊維糸条(繊度800tex)であり、糸幅YWが6.5mm、糸厚みYTが0.15mm、糸幅YWの糸厚みYTに対する幅厚み比WTRが43の扁平形態で、サイジング剤を0.6重量%付着させて形態を維持させた炭素繊維扁平糸条を緯糸Twfとして用いた。
【0074】
図1、図6,図11に示す装置を用いて以下の手順により、±45°に強化繊維が配向した多軸ステッチ基材Aを作成した。
まず、緯糸の解舒工程として、緯糸Twfを緯糸ボビン10から緯糸Twfをコンタクトローラ11を介して一定速度で引き出しながら横取り解舒した。
【0075】
続いて、貯留工程にて、解舒した緯糸を緯糸貯留筒体41内で緯糸をエアー吸引により貯留を行った。このエアー吸引における緯糸貯留筒体41は、その内部に、間隔をおいて設けられた多数本の平行なピンから構成される糸道案内ガイド(導入側)46aと間隔をおいて設けられた多数本の平行なピンから構成される糸道案内ガイド(導出側)46bとを有する。そして、緯糸シート挿入機構20での1回の緯糸シート挿入に必要な150cm長さの緯糸Twfを、空気吸引により、緯糸貯留筒体41B内のピンに接触させながらU字形に屈曲させつつ貯留した。なお、緯糸貯留筒体41は、横断面寸法が110mm×50mm、長さ100cmとし、吸引は、定格吸引量が0.6m3/分のブロアを用いた。なお、緯糸貯留筒体41の緯糸出入口42における空気吸引量は、1.0m3/分であった。
【0076】
そして、エアー吸引緯糸貯留工程にて貯留した多糸条の緯糸を、テープ形成工程として、水平ガイドローラ、垂直ガイドローラ、水平ガイドローラ、板バネテンション装置を通過させ、強化繊維糸条の配列密度が1.5本/cmになるように6本引き揃え9cm幅の緯糸テープを形成した。なお、緯糸幅は、かかる水平ガイドローラに溝を設けた規制ガイドローラ(溝付)により、各糸条を6.5〜7.0mmの範囲の糸幅に規制した。
【0077】
ついで、テープ挿入工程として、緯糸テープ把持装置21に把持された緯糸テープを基材の長手方向に対して+45°方向に強化繊維が配列するようにキャリア22の移動により緯糸テープの挿入を繰り返し行うことで、+45°方向に強化繊維糸条が配列したシートを作成した。同じようにして+45°シートの上に、−45°に強化繊維糸条が配列したシートを作製し、56dtexのポリエステル糸を用いて基材の長手方向にステッチ間隔5mm(5ゲージ、2.0コース/cm)、ループ距離3.8mm(2.6ウェール/cm)になるようにステッチ(鎖編組織)を行い、一層当たりの炭素繊維目付が120g/m2である±45°に強化繊維が配向した多軸ステッチ基材Aを作成した。
【0078】
得られた多軸ステッチ基材Aは、緯糸ボビンからの解舒時や貯留時においてねじれの発生がなく、均一な糸幅の緯糸を供給することが可能であった。このため、多軸ステッチ基材においては、1層当たりの炭素繊維目付が120g/m2であるにもかかわらずギャップの発生は見られなかった。その結果を、表1に示した。
【0079】
(実施例2)
緯糸ボビンを70℃に加熱しながら緯糸ボビンから緯糸の解舒を行ったほかは実施例1と同じようにして多軸ステッチ基材Bを作製した。
【0080】
得られた多軸ステッチ基材Bは、緯糸ボビンを加熱したことにより、炭素繊維糸に付着しているサイジング剤が軟化するとともに、緯糸ボビンからの解舒後にガイドローラを通過することにより巻き癖が解消されるとともに、さらに解舒時や貯留時においてねじれの発生がないことから、均一な糸幅の緯糸を供給することが可能であった。このため、ギャップの発生のない緯糸テープが得られ、多軸ステッチ基材においてもギャップの発生が見られなかった。
【0081】
(実施例3)
緯糸の解舒方式を緯糸貯留筒体内に設置したセンサーのオンオフ信号によりボビンを回転させ、緯糸の供給量をコントローラしたほかは実施例1と同じようにして多軸ステッチ基材Cを作製した。
【0082】
得られた多軸ステッチ基材Cは、緯糸貯留筒体内に設けたセンサーのオンオフ信号とボビンの回転開始時間に若干のずれが生じたもののテンションローラの上下動により常時緯糸に張力が作用することから解舒時や貯留時においてねじれの発生がなく、均一な糸幅の緯糸を供給することが可能であった。このため、多軸ステッチ基材においては、1層当たりの炭素繊維目付が120g/m2であるにもかかわらずギャップの発生は見られなかった。
【0083】
(比較例1)
比較のため、緯糸の解舒手段として、緯糸ボビンから縦取り解舒するとともにコンタクトローラを使用しなかったほかは、実施例1と同様にして多軸ステッチ基材Dを作製した。
【0084】
得られた多軸ステッチ基材Dは、エアー吸引による貯留のため多糸条の緯糸を同時に引き揃えても張力の変動がほとんどなく、安定して緯糸テープかできたものの、緯糸供給時のたて取り解舒のため解舒撚りよるねじれが入ってしまうことから、緯糸が部分的に拡がらず、糸幅が狭くなる箇所が発生したことから、最大3.2mmのギャップが発生した。その結果を、表1に示した。
【0085】
(比較例2)
比較のため、緯糸の貯留方法として、エアー吸引よる緯糸貯留装置、テンションローラ、コンタクトローラを用いなかったほかは、実施例1と同様にして多軸ステッチ基材Eを作製した。
【0086】
得られた多軸ステッチ基材Eは、貯留機構を有していないことから間欠的な緯糸挿入により緯糸張力変動が大きく、緯糸にゆるみが生じたことからねじれを生じ、緯糸が部分的に拡がらず、糸幅が狭くなる箇所が発生したことから、最大5.1mmのギャップが発生した。その結果を、表1に示した。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜3の製造方法では、1層当たりの炭素繊維目付が120g/m2の低目付であるにもかかわらず、ギャップの発生が1.0mm以下と高品位の炭素繊維ステッチ基材が得られた。
一方、比較例1の製造方法においては、縦取り解舒であることから解舒撚りが入り、常時張力を付与させながら緯糸供給を行っても得られた多軸ステッチ基材においては、最大3.2mmと大きなギャップが生じた。また、比較例2の製造方法においては、緯糸に常時張力を付与させることができないことから、緯糸がゆるんだ際にねじれが生じ、得られた多軸ステッチ基材においては、最大5.1mmと大きなギャップが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の多軸ステッチ基材の製造方法によれば、緯糸を糸幅が狭まらないように緯糸を並行に引き揃えてシート化し、糸幅が安定した状態で緯糸テープ挿入するとともに、かつ、供給張力の変動が小さくすることができるため、高品質の(力学特性、耐久性に優れた)多軸ステッチ基材を得ることができる。このような多軸ステッチ基材は、航空機、自動車、船舶、などの構造部材、外装部材、内装部材などをはじめ、コンクリートなどの構造体の補修・補強などに用いるのが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る多軸ステッチ基材を製造するための緯糸シート挿入に関する装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る緯糸解舒手段の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る緯糸解舒手段の別の態様を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る緯糸貯留装置の一例を示す概略縦断面図である。
【図5】本発明に係る緯糸貯留装置の別の態様を示す概略縦断面図である。
【図6】本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図8】本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図9】本発明に係るテープ形成工程の一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明に係る規制ガイドローラの一例を示す概略断面図である。
【図11】本発明に係る規制ガイドローラの別の態様を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0091】
10 :緯糸ボビン
10M:モータ
11 :コンタクトローラ
20 :緯糸テープ挿入手段
21 :緯糸把持装置
22 :キャリア
30 :緯糸解舒手段
31 :引取ローラ
31a:駆動ローラ
31b:ニップローラ
31c:ガイドローラ
32、33:テンションローラ
32a、33a:テンションローラの上下動方向
40 :緯糸貯留手段
41 :緯糸貯留筒体
42 :緯糸出入口
42a:糸導入側入口ガイド
42b:糸導出側出口ガイド
42c:第一の辺
42d:第二の辺
43 :空気排出口
44 :吸引ホース
45、46 :糸道案内ガイド
45a、46a:糸道案内ガイド(導入側)
45b、46b:糸道案内ガイド(導出側)
47a、47b:水平ガイドローラ
48、49b:ダンサローラ
49a:弾性伸縮体
50、70:ガイドローラ群
51、53:水平ガイドローラ
52 :垂直ガイドローラ
71、72:規制ガイドローラ
60 :板バネテンション装置
60a、60b:板バネ
Twf:緯糸
Swf:緯糸シート
L :距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料に用いられる強化繊維布帛として使用する多軸ステッチ基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などの強化繊維を用いた複合材料は、その優れた力学特性、軽量化効果などから航空機をはじめ、船舶、スポーツ・レジャー用途など様々な用途に使用されている。これらの複合材料においては、連続繊維からなるシートを所定枚数積層した形で使用されるが、繊維配列方向の力学的特性は優れるものの繊維配列方向からずれるに従い、その特性は低下する。このため、通常は、疑似等方積層と呼ばれる繊維の配列角度を、例えば、0°、±α°、90°といった方向にずらした形で積層されている。しかしながら、通常の二方向性織物を使用すると、繊維の配列方向が0°(経方向)、90°(緯方向)の二方向にのみしか配列していないことから、±α°の斜め方向については、織物をα°の方向に裁断して使用せざるを得なく、材料のロスが大きくなることや積層に時間がかかるといった問題があった。
【0003】
一方、上記課題に対して、シートの長手方向、幅方向、斜め方向にそれぞれ強化繊維糸条を並行に配列し、これらが積層した状態でステッチ糸でステッチし、一体化した多軸ステッチ基材が提案されており、一枚の材料で疑似等方性が得られることから、材料のカットロスの削減や積層作業の軽減が可能である。
【0004】
ここで、多軸ステッチ基材を製造するにあたっては、クリールから強化繊維糸条を複数本引き出して引き揃えて緯糸テープとし、幅方向および斜め方向に挿入する工程を経る。特に一層当たりの強化繊維目付が50〜150g/m2と低い場合、ボビンから解舒した糸条をいかに糸幅が狭まらないように引き揃えて緯糸テープ化し、挿入するかが重要となる。すなわち、糸幅が狭まってしまうと、糸条間の隙間が大きい、いわゆるギャップの大きい不均一な材料しか得られないという問題があった。強化繊維基材における上記ギャップは、複合材料にした場合に、樹脂リッチ部分となり、応力集中が生じた場合に破壊の起点になりやすくなる。また、硬化収縮によりこの部分が凹んでしまい、表面凹凸が大きくなる問題を引き起こす。
【0005】
この課題を解決すべく、特許文献1には、緯糸を一定張力で挿入する方法が提案されている。この方法は、緯糸に撚りが入らないように、かつ、一定張力で挿入できることから糸幅を安定して保持できるが、織物であることから一糸条の挿入にしか適用できないという問題、織物であるため0°と90°にしか繊維が配向できないという問題があった。
一方、特許文献2には、張力を付与しながら多糸条の緯糸を供給する多軸ステッチ基材の製造方法が提案されている。この方法は、ボビンからたて取り解舒されたトウを、デバイスを介してもつれをほどき、緯糸テープ化して一定張力を保ちながら緯挿入方法であるが、ボビンから解舒される際は張力が付与されていない。また、たて取り解舒であることから、解舒時にボビン1周分の糸長につき1回の撚りが入ってしまう。このため、特に糸条断面が扁平状の強化繊維を用いて低目付の強化繊維ステッチ基材を製造しようとした際には、撚り部分で糸幅が極端に狭くなって糸幅が不均一となり、ギャップの大きい多軸ステッチ基材になってしまうという問題があった。また、デバイスを通過した強化繊維は、アクチュエータの伸縮により張力を一定にするとのことであるが、緯糸挿入における解舒速度はかなり速いので、緯糸挿入における急激な張力変動に対応できず、糸がダメージを受けやすいことや緯糸挿入時の把持ミスが生じやすいという問題もあった。
この問題を改善すべく、特許文献3には、ボビンから強化繊維糸を横取り解舒して緯挿入する多軸シートの製造方法が提案されている。この方法は強化繊維糸を横取り解舒し、緯糸挿入における糸の両端を固定して挿入することから解舒撚りが入ることがない。しかし、緯糸テープ挿入するにあたって必要な糸長をプーリングする機構を有していないことから、緯糸挿入における急激な張力変動に対応できず、糸がダメージを受けやすいという問題があった。また、モータの回転をコントロールしても、停止時のオーバランにより糸がゆるむことによって糸がねじれたり、回転開始時のスタート遅れにより緯糸の過度な張力が作用し、安定して緯糸挿入することが困難であるといった問題もあった。
すなわち、多糸条の緯糸を糸幅が狭まらないように引き揃えて緯糸テープ化し、一定張力で挿入できる多軸ステッチ基材の製造方法は上記提案では達成されておらず、かかる課題を解決できる技術が望まれていた。
【特許文献1】国際公開特許WO03/031703号パンフレット
【特許文献2】特表2001−516406号公報
【特許文献3】米国公開特許明細書US2002−0006496号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑み、多軸ステッチ基材を製造するにあたって、緯糸を糸幅が狭まらないように並行に引き揃えてシート化し、糸幅が安定した状態で、かつ、供給張力の変動を小さいことから強化繊維を損傷させることなく、よこ糸テープ挿入ができる多軸ステッチ基材の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の多軸ステッチ基材の製造方法は、多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層構成を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(A) 少なくとも、前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
また、かかる多軸ステッチ基材の製造方法の該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(A) 少なくとも、前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する解舒工程
(E) 該緯糸挿入に必要な量の緯糸を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
また、さらにかかる多軸ステッチ基材の製造方法の該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返すことで緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
また、さらにかかる多軸ステッチ基材の製造方法における該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とするものである。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(E) 緯糸挿入に必要な緯糸を、弾性伸縮体の伸縮により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強化繊維糸条からなる多糸条の緯糸を撚りが入ることなく引き揃えて緯糸テープ化し、一定張力で連続して緯糸テープ挿入できることから、一層当たりの強化繊維目付が低目付であってもギャップが形成されない強化繊維ステッチ基材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、前記課題、つまり多軸ステッチ基材を製造するにあたって、緯糸を糸幅が狭まらないように並行に引き揃えてシート化し、糸幅が安定した状態で緯糸テープ挿入するとともに、かつ、供給張力の変動を小さくすることができる多軸ステッチ基材の製造方法について、鋭意検討し、多軸ステッチ基材を製造する方法における、基材の緯糸挿入工程において、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する緯糸貯留工程を設けてみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る多軸ステッチ基材を製造するための緯糸シート挿入に関する装置の一例を示す概略断面図である。
本発明の多軸ステッチ基材とは、緯糸テープ挿入手段によって挿入して得られる、90°方向(基材幅方向)に強化繊維糸条が配列しているシート(以下、90°層と略称)やα°層(0<α<90)などの緯方向の挿入層と、場合によって、緯糸テープ挿入手段とは別途供給される0°層の経方向の挿入層とを含む複数の層が、交差積層された後、ステッチ糸にてステッチされて各層が一体化されたものである。
ここで、緯糸テープ挿入にあたっては、2〜50本の多糸条の強化繊維糸条をボビンから解舒しながら引き揃えて、5〜50cm幅の緯糸テープにする必要がある。緯糸ボビン10から緯糸テープとして供給される緯糸挿入工程に至る間に、緯糸Twfが通過する緯糸供給路YPwfを有している。この緯糸供給路YPwfは、緯糸ボビン10から横取り解舒する緯糸解舒手段30と、多軸ステッチ基材Sに至る緯糸Twfの一部を一時的に貯留する緯糸貯留手段40と、緯糸Twfをガイドし、糸条の幅を規制して複数の緯糸をシート化するガイドローラ群50を含むテープ形成手段70と、緯糸把持装置21とキャリア22などを含む緯糸テープ挿入手段20とを有している。なお、緯糸テープ挿入手段は、前述の通りテープを把持して挿入する場合と、テープを把持せずにピンやフックなどに引っ掛けながら挿入する場合とがあり、いずれの方法でも緯糸テープを挿入できる。
【0010】
以下、本発明の次の(A)解舒工程、(B)貯留工程、(C)テープ形成工程および(D)緯糸挿入工程の各工程について、それぞれ詳細に説明する。
【0011】
(A)解舒工程
この解舒工程においては、少なくとも、前記強化繊維糸10を巻回したボビンをコンタクトローラ11に接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する。なお、本発明において、実質的に一定速度とは、平均速度の±10%の範囲の速度を指す。
【0012】
図2は、本発明に係る緯糸解舒手段の一例(緯糸解舒手段30)を示す概略断面図である。ここでは、緯糸ボビン10からこれに接するコンタクトローラ11を介して解舒時に撚りが入らないように横取り解舒しつつ、緯糸Twfを実質的に一定速度で引き出す引取ローラー31から構成される一定速度解舒機構を有している。
【0013】
図2では、更に緯糸に常時張力を付与するテンションローラ32からなる張力付与機構を示している。かかる張力付与機構を有する態様は、本発明における好ましい態様といえる。
【0014】
引取ローラ31は、回転駆動される駆動ローラ31aとニップローラ31b(駆動してもよいし、駆動しないで駆動ローラーに従って回転してもよい。)とから構成され、緯糸Twfは、駆動ローラ31aとニップローラ31bとにニップされながら引き取られる。
図2において、緯糸解舒手段30は、緯糸ボビン10、コンタクトローラ11、引取ローラ31、テンションローラ32から構成されている。そして、緯糸Twfは、テンションローラ32を経て駆動ローラ31aとニップローラ31bとで案内され、駆動ローラ31aの回転により、実質的に一定速度で緯糸ボビン10から解舒される。
【0015】
テンションローラ32は、その機能を最大限に発揮させるため、緯糸ボビン10から緯糸Twfを解舒する時は、上方に位置し、緯糸挿入が停止すると自動的に下方に下がるとともに、テンションローラ32と連動するブレーキが働いてボビン10の惰性回転を停止させるテンション付与機構を有するのが好ましい。テンションローラの上下動は、矢印32aで示される。
【0016】
ここで、前記の緯糸解舒手段30は、少なくとも緯糸シート挿入にあたって、必要とされる緯糸糸条の本数分を供給できる能力を有している。また、緯糸Twfの解舒速度は、緯糸テープの挿入速度およびキャリア22の移動距離によって決まる。
【0017】
本発明の解舒工程において、かかる手段をとる理由を以下に説明する。
【0018】
すなわち、強化繊維糸条は、一般的に所定のワインド数でトラバースさせながら巻き取られている。特に扁平状になっている幅広の糸条(以下、扁平糸と略す)をトラバースさせながらボビンに巻き取ると、トラバース反転箇所において、扁平糸を幅方向に屈曲させることになるために、屈曲部の内角に近いフィラメントは緩んだ状態で、屈曲の外角に近いフィラメントは緊張状態で巻き取られた状態で仮セットされている。 かかるボビンから扁平糸をボビン端部を起点として引き出しながら解舒させると、平糸の幅方向におけるボビン中央側のフィラメントがゆるんだ状態で、ボビン端部側のフィラメントは緊張した状態となる。かかる糸条にかかる張力差により、扁平糸は、容易にねじれ、そのねじれが緯糸供給するにあたり、仮撚、細糸となることから、多糸条を引き揃えて緯糸テープとし挿入するにあたり、緯糸テープ内にギャップを形成する。ここで、コンタクトローラ11を、緯糸を巻いたボビン10の径の変化に追従できるよう接触させることにより、扁平糸をボビンに押さえつけながら引き出すことができる。 その結果、糸幅が固定され、ボビンからの解舒時の糸幅変動、仮撚の混入を防止できるのである。さらに、本発明では横取り解舒するため、ボビン1周分の糸長につき1回の撚りが入ることもなく、緯糸Twfがその糸幅が安定して保持されるのである。
【0019】
図2において、緯糸ボビンから引き出された緯糸Twfは、通常は上方に位置しているテンションローラ32に接しながら、引取ローラ31へと向かう。なお、多軸ステッチ装置における緯糸テープ挿入が停止した際、ボビン10が惰性回転しても、それに応じてテンションローラ32が自動的に下方に下がることにより、常時、緯糸Twfに張力が付加されている状態が維持されるために、緯糸Twfのねじれを防止することができるものである。
【0020】
駆動ローラ31aとニップローラ31bからなる実質的に一定速度で解舒する機構を通過した緯糸Twfは、次の工程である緯糸貯留工程にて貯留される。この緯糸貯留工程により、多軸ステッチ装置の緯糸テープ挿入が間欠的でも、一定速度で連続供給するものであっても、問題なく緯糸テープを挿入することができる。更に、緯糸供給路YPwfにおいて、テンション付与機構が備わっていると、緯糸Twfのゆるみの発生をより一層防止することができる上、緯糸貯留工程への引き込み張力も安定させることができるので好ましい。
【0021】
上記の理由により、本発明においては、従来の一定速度でない緯糸解舒方法(例えば、モータ回転のオンオフ制御による緯糸解舒)のように、モータ回転が高速であっても、供給速度の変動や、緯糸の張力変動の増大がなく、また、スタート時の緯糸オーバーランにより、緯糸貯留工程に至る前に緯糸がゆるんで、緯糸にねじれが発生するという問題の発生を確実に防止することができるものである。
また、本発明に係る緯糸解舒手段としては、以下の解舒手段であってもよい。
(F)解舒工程
図3は、本発明に係る緯糸解舒手段の別の態様を示す概略断面図である。
【0022】
図3において、緯糸解舒手段30は、緯糸ボビン10を回転させる機構(ここでは、モータ10M)、コンタクトローラ11、緯糸Twfを案内するガイドローラ31c、から構成されている。更に、緯糸ボビン10とガイドローラ31cとの間の緯糸供給路YPwfにおいて緯糸ボビン10から横取り解舒された緯糸Twfに張力を付与する張力付与機構(テンションローラ33)、および、モータ10Mの回転を制御するボビン回転制御機構10C(図示せず)とから構成されている。かかるボビン回転機構10Cは、後述する緯糸貯留工程における緯糸貯留装置に設置した貯留糸量検出センサーで検出される貯留緯糸量(例えば、貯留装置における緯糸の位置を検出することにより算出される)に関する情報から、モータ10Mの回転を制御する。
【0023】
本発明においては、その機能を最大限に発揮させるため、図3におけるテンションローラ33は、図2におけるテンションローラ32と同様に、ボビン10から緯糸Twfを解舒するときは上方に位置し、織機が停止すると自動的に下方に下がると共に、ブレーキが働いて惰性回転を停止させる機構を有することが好ましい。テンションローラの上下動は、矢印33aで示される。
【0024】
モータ10Mは、緯糸貯留工程における緯糸Twfの貯留量が過多乃至過少にならないよう、緯糸貯留装置に設置した貯留糸量検出センサーからの信号により、回転駆動が制御・調整される。すなわち、緯糸貯留装置に設置したセンサーが緯糸貯留量の過多を検出するとモータ10Mの回転が停止し、ボビン10からの緯糸Twfの供給が停止する。そして、センサーからの緯糸Twfについての検出信号がなくなると、再びモータ10Mが回転し、緯糸Twfの供給が再開される。
【0025】
一方、緯糸貯留量検出センサーが緯糸貯留量の過小を検出するとモータ10Mの回転数が上昇し、緯糸Twfの供給量が増加して緯糸貯留工程における緯糸Twfの貯留量の不足を防ぐことが出来る。
【0026】
かかる(F)解舒工程においては、前述の通り前記(A)解舒工程に比較して本発明の前記課題を解決するのに貢献できない。しかしながら、テンションローラ33の機構と組み合わせることにより、緯糸にかかる張力変動を最小限に抑制でき、緯糸のねじれ発生を防止することができる。また、後述の(B)貯留工程、(C)テープ形成工程および(D)緯糸挿入工程、または、(E)貯留工程、(C)テープ形成工程および(D)緯糸挿入工程の工程、との組み合わせにより、本発明の前記課題を解決することができるのである。
【0027】
なお、コンタクトローラ11と強化繊維糸条の緯糸ボビン10とは、0.3〜9kg/mの線圧で接触していることが好ましい。0.3kg/m未満であると、コンタクトローラを接触させている意味が希薄になる場合がある。一方、9kg/mを超えると、特に強化繊維が炭素繊維である場合、解除する際に毛羽が発生しやすくなり、品位の高い多軸ステッチ基材が得られない場合がある。
【0028】
また、コンタクトローラ11としては、直径が10〜50mmのベアリングを内蔵した従動回転ローラ(消極回転ローラ)が好ましく採用される。直径があまり小さいと、緯糸Twfが屈曲して、それを構成している多数のフィラメントが切れやすい場合がある。また、強化繊維糸条が巻き付きやすくなる場合がある。一方、直径が50mmを超えると、回転の惰性が大きくなって、始動、停止時の緯糸Twfの張力変動が大きくなり過ぎる場合がある。また、コンタクトローラの長さは、緯糸ボビンよりも同等以上であれば問題ない。
【0029】
更に、特に強化繊維が炭素繊維である場合、コンタクトローラ11の材質により、解舒の際に毛羽が発生することがある。かかる毛羽を最小限に抑制するために、コンタクトローラは金属製の鏡面仕上または梨地仕上であることが好ましい。場合によってはセラミックス製のものであってもよい。
(B)緯糸貯留工程
緯糸貯留工程は、複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により緯糸貯留装置内で折り返すことで貯留させるものである。本装置における好ましい態様としては、緯糸を案内する糸道案内ガイドに緯糸を接触させながら緯糸を貯留する機構が挙げられる。
【0030】
図4は、本発明に係る緯糸貯留装置の一例を示す概略断面図である。
【0031】
図1における引取ローラ31から引き出された緯糸Twfは、緯糸貯留手段40に至る。緯糸貯留手段40は、緯糸貯留筒体41(以下、単に筒体41という。)等から構成され、一糸条もしくは多糸条の強化繊維糸を同時に貯留するものである。なお、この筒体は、緯糸挿入に必要な2〜50本の糸条を一時的に貯留できるような一つの緯糸貯留筒体、もしくは緯糸糸条1本あるいは複数本を同時に貯留できる複数の緯糸貯留筒体のいずれであってもよい。かかる装置を安価にする場合には前者が、また、製造する多軸ステッチ基材の品質を優先させる(強化繊維糸条同士の隙間であるギャップを最小限にする)場合には後者が、それぞれ好ましく使用される。
【0032】
筒体41は、その一端に外気に解放された緯糸出入口42と、その他端に筒体41内の空気を吸引、排出する空気排出口43を有する。空気排出口43には、吸引ホース44が接続され、吸引ホースは、吸引機(例えば、ブロアなど)(図示せず)に接続されている。筒体41の緯糸出入口42の一つの辺には、糸導入側入口ガイド42aが設けられ、この辺に対向する辺には、糸導出側出口ガイド42bが設けられている。筒体41に至った緯糸Twfは、糸導入側入口ガイド42aに接触しながら筒体41内へと入り、U字形に屈曲して貯留され、糸導出側出口ガイド42bに接触しながら筒体外へと導出される。
【0033】
筒体41の緯糸出入口42は、緯糸Twfが導入される側と導出される側のみを開口させ、これらの間を閉じたものとすることもできる。しかし、この場合、緯糸出入口42から入った空気が筒体41内で急激に拡散され、空気に流れに乱れが生じ、緯糸Twfが旋回してねじれ易くなる。このため、緯糸出入口42は、全面開放形にすることが好ましい。また、緯糸出入口42の横断面形状は、筒体41の横断面形状とできるだけ同一にすることが好ましい。また、筒体41の幅方向の断面形状は、筒体41から空気排出口43に向かって実質的に一様であるのが好ましい(後に示す図5、図6においても同様)。筒体41内の空気の流れが層流状態となり、筒体41内における緯糸Twfの旋回を防ぐことができ、緯糸Twfに発生するねじれ、仮撚りを最小限にすることができるためである。特に、緯糸Twfが扁平糸の場合には、その扁平状態を維持するために格段の効果を発現する。
【0034】
緯糸Twfが扁平糸の場合、筒体41内にU字形に貯留されることで、緯糸Twfの折り返し部分に空気が衝突し、糸の中央部から端部に流れる気流によって緯糸Twfが開繊され、糸が拡幅される効果が得られる。
【0035】
かかる強化繊維糸条は、集束剤を付与した状態でボビンに巻いたことにより、望ましくない形状で固定されることがあるが、糸条が空気の衝突を受けることにより解消・開繊される。補強繊維糸についても同様に、望ましくない形態で固定され、糸ねじれが発生し、緯糸Twfの糸幅のバラツキが増加することを最小にすることができる。
【0036】
なお、本発明においては、緯糸Twfにかかる張力は、筒体41内で、常に空気吸引による小さな負荷がかかった状態で貯留されていることから、変動がほとんどない。このため、間欠的なよこ糸挿入を行うときのよこ糸の貯留時も、異常張力発生による緯糸Twfの損傷がないことから強化繊維を傷つけることがない。また、空気吸引であるため、緯糸Twfを引き揃え緯糸テープとして緯糸挿入工程にてキャリア22で挿入するにあたり高速挿入が可能となる。
【0037】
緯糸出入口42は、少なくとも、互いに平行な第一の辺42cと第二の辺42dを有し、第一の辺42cに沿って糸導入側入口ガイド42aが設けられている。そして、第二の辺42dに沿って糸導出側出口ガイド42bが設けられていることが好ましい。かかる糸道案内ガイドにより、緯糸Twfの筒体41への導入と、筒体41からの導出とが行われ、緯糸Twfは、筒体41内の壁面に接触しながらU字形に折り返されるため、筒体41内におけるねじれや仮撚りの発生が防止される。特に、緯糸Twfが扁平糸の場合、扁平状態を良好に維持できる。
【0038】
筒体41内の糸接触手段は、筒体41自体の内壁面で構成されていても良いが、筒体41内に設置された糸道案内ガイドから構成されている形態が、本発明の好ましい形態といえる。更に、糸道案内ガイド(導入側)と糸道案内ガイド(導出側)との間の、緯糸出入口に平行な方向における距離Lが、緯糸出入口42から空気排出口43に向かって漸減していることが一層好ましい。すなわち、糸道案内ガイド(導入側)を含む面と、糸道案内ガイド(導出側)を含む面とは、筒体41に対する傾斜をつけて配置するのが良い。かかる配置により、筒体41内での緯糸Twfのねじれの発生を防止あるいは減少させることができる。なお、かかる糸道案内ガイドについての詳細は、図5、6を参照して後述する。
【0039】
また、緯糸Twfを筒体41に貯留しつつ、緯糸挿入をより高速に行うため、吸引ホース44が接続されている吸引機の吸引力を大きくした場合、筒体41内で、緯糸TwfがU字形状となったときの曲率半径が小さくなるとともに、筒体41自体の内壁面に緯糸Twfが接触する割合が小さくなる。その結果、緯糸Twfが、筒体41内で、宙に浮いて、気流の乱れなどで、緯糸Twfにねじれが生じ易くなる。特に、緯糸Twfが扁平糸の場合、この現象は、扁平糸の扁平状態の維持を阻害する場合がある。
【0040】
この現象を防止するため、緯糸貯留筒体41内において、緯糸Twfに接触して緯糸Twfをガイドする糸道案内ガイド(導入側)と、糸道案内ガイド(導出側)との、緯糸貯留筒体41の幅方向における距離Lは、緯糸出入口42から空気排出口43に向かって漸減するのがよい。すなわち、糸道案内ガイド(導入側)を含む面と、糸道案内ガイド(導出側)を含む面とは、緯糸貯留筒体41と傾斜をつけて配置するのが良い。このような配置により、緯糸Twfの貯留筒体41内での緯糸Twfのねじれの発生を防止あるいは減少させることができる。
【0041】
緯糸貯留筒体41の長手方向に対する、糸道案内ガイド(導入側)を含む面および糸道案内ガイド(導出側)を含む面のそれぞれの傾斜角は、貯留筒体41内での緯糸Twfの貯留状態を考慮して、緯糸Twfが糸道案内ガイド面にスムーズに接触するように決めれば良いが、例えば炭素繊維(繊度800〜3,400tex)においては、0.5/100ないし10/100の勾配とすることが好ましい。
【0042】
糸道案内ガイド(導入側)を含む面および糸道案内ガイド(導出側)を含む面は、空気透過性シート、あるいは、間隔をおいて設けられた多数本の平行な棒状体(ピン)で形成するのが好ましい。かかる糸道案内ガイド(導入側、導出側)の具体例を、図5および図6を用いて説明する。
【0043】
図5は、本発明に係る緯糸貯留装置の別の態様を示す概略断面図である。
【0044】
図6は、本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【0045】
図5、6において、筒体41は、一端に緯糸出入口42を、他端に空気排出口43を有する。筒体41は、緯糸の糸道案内ガイド45、46(導入側:45a、46a、導出側:45b、46b)を有する。糸道案内ガイド(導入側)45aあるいは46aと、糸道案内ガイド(導出側)45bあるいは46bとの、筒体幅方向における距離Lは、緯糸出入口42から空気排出口43に向かって漸減している。また、筒体41の幅方向の断面形状は、筒体41から空気排出口43に向かって実質的に一様断面であるのが好ましい。
【0046】
糸道案内ガイド45aおよび45bは、例えば、それぞれ対向するネットから構成されていてもよい。また、糸道案内ガイド46aおよび46bは、例えば、それぞれ間隔をおいて設けられた多数本の平行なピンから構成されていてもよい。糸導入側入口ガイド42aから導入される緯糸Twfは、糸道案内ガイド(導入側)であるネットに接触しながら筒体41内方へ向かう糸道を形成する。しかる後、筒体41外に向かう緯糸Twfは、糸道案内ガイド(導出側)であるネットに接触しながら外方へ向かい、糸導出側出口ガイド42bへの糸道を形成する。
【0047】
図5において、横断面積が一様な筒体41内に、2つのネットを傾斜させて設けることにより、緯糸貯留筒体41内の吸引空気の多くが、糸道案内ガイド同士の間を流れ、一部は糸道案内ガイドを通り抜け外側に流れる。すなわち、ネット同士の間の空気の流れにより、緯糸Twfは、筒体41内にU字形に引き込まれる。また、ネットを通り抜けて流れる空気の流れにより、緯糸Twfは、ネットの方向に吸引され、ネットに確実に接触した状態でU字形に貯留されるため、宙に浮いて気流の乱れなどでねじれる現象が防止される。
【0048】
かかるネットを形成する空気透過性のシートとしては、例えば、金網、プラスチックネットやパンチングメタルが用いられる。空気透過性シートの空隙率は、空気が通過できる面積のシート全面積に対する比[(空気が通過できる面積)/(シート全面積)]で表されるが、空隙率は10%以上であることが好ましく、かつ、1箇所当たりの空隙部の最大幅は、3mm以下であることが好ましい。かかる空隙率が10%未満であり、かつ、1箇所あたりの空隙部の最大幅が3mmを超えると、空気透過性のシートを通過できる空気量が少なくなり、筒体41内で、緯糸Twfが宙に浮いて、気流の乱れなどにより、緯糸Twfにねじれが発生しやすくなり、また、緯糸Twfが空隙部に引き込まれて、擦過毛羽が発生しやすくなる。
【0049】
図6においては、横断面形状が一様な筒体41内にピン群が構成する面の2つの面を傾斜させて設けられている。ピン群が構成する面同士の間に形成される気流により、緯糸Twfは、筒体41内にU字形に引き込まれる。また、個々のピン間を通り抜け外側に流れる空気の流れにより、緯糸Twfは、ピン群を構成する面の方向に吸引される。すなわち、緯糸Twfは、個々のピン同士に確実に接触した状態で貯留され、U字形に貯留された緯糸Twfが、宙に浮いて気流の乱れなどでねじれる現象が防止される。この手法は、緯糸Twfが扁平糸の場合、その扁平状態を維持するために特に好ましい。また、炭素繊維糸条の損傷を最小限に抑制することができるため、本発明において特に好ましい態様といえる。
【0050】
図4、図5および図6における緯糸出入口42の形状は、導入される緯糸Twfが位置する第一の辺42cと導出される第二の辺42dが、実質的に直線で、それぞれの辺が直線であればいずれであっても構わない。例えば並行する2つの直線からなる辺42c、42dの両端が円弧で結ばれたものや、この両端が直線で結ばれてなる台形でも良い。すなわち、筒体41の緯糸出入口42を含みその内部において緯糸Twfが接触する箇所が、直線で、互いに並行であれば、筒体41への緯糸Twfの引き込み、引き出し、および、貯留にあたって、緯糸Twfがこれらの直線部分に接触しながら走行するため、緯糸Twfのねじれの発生が防止される。
【0051】
筒体41の幅方向の断面形状が矩形であり、かつ、この矩形の一方の短辺側から、緯糸Twfを引き込み、他方の短辺側から、緯糸Twfを引き出すようにすることが好ましい。この方法により、筒体41内に吸引された空気のほとんどを、緯糸Twfの折り返し部に衝突させることができ、ブロア等の能力を有効に発揮させることができる。また、緯糸引き込み部と引き出し部との間の距離を大きくできることから、筒体41内で、緯糸Twfを大きな曲率で折り返すことが可能となり、緯糸Twfの損傷を小さくすることができる。
【0052】
さらに、緯糸ボビンから緯糸を解舒させながら引き揃えて緯糸テープ化する際に、引き揃える個々の緯糸間で僅かな糸長差が生じる可能性があるが、エアー吸引による貯留機構であれば、ガイドローラがない非接触の状態でも、貯留筒体内で緯糸を貯留できる。このため僅かな糸長差が生じた場合においても、複数本の糸条を一つの貯留筒体で同時に貯留することができる。
【0053】
なお、本発明において、貯留筒体内にセパレータを設置し、各糸条をセパレートした状態で貯留させることもできる。
(E)貯留工程
緯糸の貯留手段は前記エアー吸引による貯留に限定されず、他の貯留手段として、図7に示す緯糸挿入に必要な量の緯糸を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程、あるいは図8に示す緯糸挿入に必要な量の緯糸を、弾性伸縮体の伸縮により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程であっても本発明の前記課題を解決することができる。
【0054】
図7は、本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示すの概略断面図である。
図8は、本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示すの概略断面図である。
図7において、エアー吸引により緯糸貯留筒体内に貯留するのではなく、2本の水平ガイドローラ(47a,47b)間にダンサローラ48を設置し、水平ガイドローラ間に設置したこのダンサローラに緯糸を接触させながら走行させている。かかるダンサローラは、その自重で運動させてもよいし、予め算出されたストローク量をモーター等により運動させてもよい。また、図8の通り、弾性伸縮体49aに連結したダンサローラ49bを設置する貯留する方法であっても構わない。
このような構成にて緯糸を貯留することにより、多数本の緯糸を引き揃えて緯糸テープとし間欠的に緯糸挿入するにあたって、2本の水平ガイドローラ(47a、47b)間に設置したダンサローラ48に緯糸を接触させながら走行させ、ダンサローラ48の上下運動により、緯糸にゆるみが生じることを防止するのである。
なお、前述したダンサローラを用いた緯糸貯留機構(弾性伸縮体に連結した機構を含む)は、緯糸シートの緯糸挿入速度が特に速い場合には、ダンサローラの上下運動が給糸速度に追従せず、緯糸がゆるむ可能性がある。かかる理由から、特に高速運転時においては、前述のエアー吸引による貯留方式が好ましいが、そこまで高速運転しない場合は、ダンサローラを用いる方式でも本発明の前記課題を解決することができる。
【0055】
また、別の視点からは、緯糸Twfを緊張させておく他の方法としては、空気吸引による緯糸貯留手段や、ダンサローラの移動による緯糸貯留手段、それぞれ単独ではなく、併用してもよい。更に、緯糸供給路YPwfに設けた偏芯カムなどにより機械的な緯糸貯留手段をも用いることもできる。かかる態様にすることにより、必要な緯糸量に対し、その一部を機械的に貯留することで、残りの長さのみを、空気吸引で緯糸貯留筒体内で貯留することができる。この場合、緯糸貯留筒体での緯糸Twfの引き込み量を少なくすることができ、かつ、緯糸貯留筒体の長さを短くすることができ、装置設置スペースを削減できるのである。
【0056】
なお、空気吸引よる緯糸Twfの貯留にあたっては、エアージェットを併用しても良い。このエアージェットは、緯糸テープ挿入キャリア22の動きにあわせ、緯糸Twfの貯留量が最も少なくなった時に、緯糸出入口42の外側から瞬間的にエアーを噴射し、緯糸Twfを緯糸貯留筒体に押し込むことで、緯糸貯留筒体への緯糸Twfを引き込み易くすることができる。
【0057】
また、緯糸の解舒手段が、緯糸の解舒量を緯糸貯留手段に設置したセンサーにより検出し、ボビンに直結したモータの回転によりコントロールする手段で、かつ、緯糸の貯留手段が、ダンサローラの移動による貯留手段の場合においては、ダンサローラの可動範囲の任意の位置に前述した緯糸の貯留量の過小および過大を検出するセンサーを取り付けることや、トルクモーターによるトルク検知などによって、緯糸ボビンからの緯糸解舒量をコントロールすることができる。
(C)テープ形成工程
このテープ形成工程では、2〜50本それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて、5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを形成する。
緯糸貯留筒体に貯留された緯糸Twfを緯糸テープ供給把持装置に供給する方法について説明する。
緯糸貯留工程をへて、強化繊維糸条はそれぞれの強化繊維糸条の糸幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程へと導かれる。かかる強化繊維糸条の糸幅は、規制ガイドを通過させることでそれぞれが実質的に同一になるように規制される。かかる規制ガイドが、ローラ状であり、後述の垂直ガイドローラ、水平ガイドローラなどの機能を兼用したものであると、本発明の前記課題を効率的に解決できるので好ましい態様といえる。
このテープ形成工程は、緯糸の高さ方向および水平方向の位置を決める水平ガイドローラ51、垂直ガイドローラ52および水平ガイドローラ53からなるガイドローラ群50や、緯糸Twfに張力を付与する板バネテンション装置60などを含む構成であってもよい。かかるガイドローラ群や、テンション装置が組み込まれた構成であると、特に扁平状の強化繊維糸条を用いる場合は、強化繊維糸条の扁平状態を維持することができ、本発明の前記課題を容易に解決することができる。
【0058】
かかるガイドローラ群50は、緯糸の高さ方向および水平方向の位置を決める水平ガイドローラ51、垂直ガイドローラ52および水平ガイドローラ53から構成される。各ガイドローラは、直径が10〜20mm程度で、長さが100〜300mm程度のベアリングを内蔵した従動回転ローラ(消極回転ローラ)が好ましく採用される。直径があまり小さいと、緯糸Twfが屈曲して、それを構成している多数のフィラメントについて、フィラメント切れを起こしやすい場合がある。また、直径が20mmを越えると、回転の惰性が大きくなって、始動、停止時の緯糸Twfの張力変動が大きくなる場合がある。
【0059】
各ガイドローラの長さは、通過する緯糸Twfが、左右または上下方向に移動した場合、通過する緯糸Twfが、各ガイドローラの指示部に接触すると、緯糸Twfの形状、特に、扁平な形状を損なう場合がある。
【0060】
また、水平ガイドローラ51および53は、案内する緯糸Twfの高さ方向の位置を決め、垂直ガイドローラ52は、緯糸Twfの水平方向の位置を決めるものであることから一糸条においては、少なくとも2個の円筒状ガイドローラを有していればよい。また、ガイドローラ群50には、少なくとも水平方向と垂直方向のガイドローラが、交互に配置されていることが好ましい。
【0061】
水平ガイドローラ51と垂直ガイドローラ52との間、および、垂直ガイドローラ52と水平ガイドローラ53との間で、特に緯糸Twfが扁平糸の場合は、その扁平面が90°ねじられることになる。このため、水平ガイドローラ51と垂直ガイドローラ52との間、および、垂直ガイドローラ52と水平ガイドローラ53との間の距離は、50mm以上とすることが好ましい。この距離が50mm未満の場合、緯糸Twfが捩じれたまま、垂直ガイドローラ52や水平ガイドローラ53を通過して織り畳まれてしまう場合がある。また、短い距離で扁平糸が90°ねじられると、扁平糸の両端部に張力が加わり、毛羽が発生し易い。
【0062】
垂直、水平ガイドローラは、それぞれ、1本のガイドローラであっても良いが、それぞれを、2本のガイドローラを1組として、緯糸Twfが2本のガイドローラをS字状を描いて通過するようにさせると、緯糸Twfに作用する張力が安定し、緯糸Twfの各ガイドローラ上での位置決めを確実に行うことが出来る。
ここで、糸幅を規制するにあたっては、所定の寸法を有している規制ガイドに糸条を通過させる。かかる規制ガイドは、ローラー形状であると、例えば、緯糸テープを形成する個々の緯糸における糸幅は、多軸ステッチ基材1層におけるシート目付にあうように、規制ガイドローラの位置や間隔を調整することで規制できる。このように糸幅を規制した状態で緯糸テープ把持装置に導くとともに緯糸テープ挿入により、所定の一層あたりの強化繊維目付の多軸ステッチ基材を得ることができ、本発明において好ましい態様といえる。
かかる規制ガイドローラは、糸幅を規制するために、上記のように所定の寸法の溝などを有している溝付(鍔付)ガイドローラーであると、糸幅をより精度よくコントロールできることから、本発明において好ましい態様といえる。
また別の視点からは、この強化繊維糸条の糸幅を規制する規制ガイドローラが、所定の寸法の溝を有したものでなく、少なくとも2本のローラを隣り合う緯糸を交互に通過させるものであれば、ローラを通過する際に糸幅が拡げられたとしても、個々の緯糸は隣接することがないのでより安定して糸幅を規制することができる。
【0063】
図9は、本発明に係る規制ガイドローラの一例を示す概略縦断面図である。
図9に示すように、糸条の幅を規制する手段が、少なくとも2本のローラ71を隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させるものであると、ローラに溝を加工する必要がなく、安価に糸幅を規制することができ、かつ、強化繊維糸条に対するダメージが少なくでき、毛羽発生を最小限に抑制することができるため、本発明における規制ガイドローラの好ましい態様ということができる。
図10は、本発明に係る規制ガイドローラの一例を示す別の概略断面図である。
図10に示すように糸条の幅を規制する手段が、少なくとも2本のローラ72を隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させ、かつ、ローラに溝を有していると強化繊維糸条の糸幅がローラに設けた溝幅により規制されることから、より安定して糸幅を規制することがでる。
【0064】
これらのローラにより所定位置に位置決めされ、かつ、糸幅が規制された2〜50本の緯糸Twfは、引き揃えられてシート幅5〜50cmの緯糸テープとなり、それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程へと導かれる。
【0065】
次に、板バネテンション装置について説明する。水平ガイドローラ53から緯糸テープ挿入工程に至る間に、緯糸Twfの張力を均一にさせることおよび多数本の強化繊維糸条を引き揃えるために板バネテンション装置60が配置されていることが好ましい。この板バネテンション装置60は、幅の広い2枚の板バネ60a、60bで、緯糸Twfを挟み込むことにより、緯糸Twfの張力を均一に維持するものである。
【0066】
緯糸Twfの供給は、原理的には、ガイドローラ群50および規制ガイドローラ群により、緯糸Twfの糸道を決めているが、緯糸Twfの張力変動や緯糸Twfの緯糸テープ挿入手段20の動作により、緯糸Twfの糸道が変わることがある。したがって、緯糸Twfが糸幅方向に移動しても、緯糸供給路YPwfに緯糸Twfの端部と干渉する介在物がないことが好ましく、そのために幅の広い板バネ60a、60bを備えた板バネテンション装置60が用いることが好ましい。板バネテンション装置60は、後述する緯糸テープ挿入機構20のキャリア22の間欠的な緯糸テープの挿入に際し、引取ローラ31によって一定速度で解舒される緯糸Twfの引取ローラ31とガイドローラ群50間における、貯留工程において解消しきれない緩みを抑制するため、緯糸Twfを常に緊張させておくものである。緯糸Twfは、緊張させておかないと、緩んだ際に強化繊維糸条がねじれてしまい、そのままガイドローラを通過して細幅化して、ギャップのある緯糸テープになってしまう場合がある。
(G)開繊工程
得られる多軸ステッチ基材のギャップ形成を最小限にし、本発明の前記課題を解決するために、上記(B)または(E)の緯糸貯留工程と、(C)のテープ形成工程との間に、緯糸を開繊させる(G)開繊工程を含むことが好ましい。
【0067】
かかる開繊工程では、貯留した強化繊維糸条の幅を、ボビン上の糸幅よりも大きい糸幅に拡げる。この方法によって、多糸条を引き揃えて緯糸テープ化する際に並行する糸条間の隙間が形成されにくくなり、緯糸挿入後にギャップの発生のない層を形成させることができる。
【0068】
なお、これらの緯糸の開繊工程においては、緯糸テープ化するにあたっての一糸条あたりの糸幅より広くなるようにいったん拡げて、緯糸テープ化する際に一糸条当たりの所定の糸幅に狭める方法を採ることが、安定して糸幅を容易かつ正確にコントロールできることから好ましい。
【0069】
これらの開繊工程においては、温度50〜150℃、湿度40〜60%の範囲の雰囲気下でローラを擦過するもの、および/または、その軸方向に揺動している揺動ローラを通過するものであることが好ましい。糸条拡幅のためにはサイジング剤の軟化が必要であるが、この方法によって、強化繊維糸条に付着しているサイジング剤を軟化させることができ、ボビン上での糸幅が狭い強化繊維糸であっても容易に拡幅が可能となり、緯糸テープ化する際にギャップの発生をなくすることができる。
【0070】
なお、緯糸は上記開繊工程で糸幅を拡げなくてもボビンから解舒する際に緯糸を50〜150℃の範囲に加熱することによっても同様に拡幅し得ることができることから好ましい。
(D)緯糸挿入工程
緯糸テープ挿入工程において、緯糸テープ挿入手段20は、緯糸テープ把持装置21とキャリア22から構成される。なお、緯糸テープ挿入手段は、前述の通りテープを把持して挿入する場合(把持挿入)と、テープを把持せずにピンやフックなどに引っ掛けながら挿入する場合(引掛挿入)とがあり、いずれの方法でも緯糸テープを挿入できる。
把持挿入の場合は、緯糸テープ挿入速度の高速化(製造費用の低コスト化)が難しいが、ギャップの形成を最小限に抑制することができる。引掛挿入の場合は、緯糸テープ挿入速度の高速化が容易だが、ギャップが把持挿入の方法よりも形成され易い。目的によってかかる方法を使い分けることができるが、本発明においては、把持挿入の方が本発明の課題を効率的に解決できるため好ましい。それぞれの緯糸テープ挿入手段について、以下に詳しく説明する。
把持挿入の場合は、緯糸テープ形成工程にて、それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えられた緯糸テープは、緯糸テープ挿入工程へと導かれる。そして、緯糸テープ把持装置21に把持された緯糸テープは、キャリア22が所定の方向に緯糸テープの配置位置をずらしながら、繰り返し緯糸テープを挿入することで所定の方向に強化繊維糸条が配列した緯糸シートが形成される。一般的に強化繊維糸条ボビンを配置するクリールは、緯糸テープ1つについて1箇所であるため、キャリア22は、往路では緯糸テープを搬送し、復路では緯糸テープを把持していない状態で運動することになる。
一方、引掛挿入の場合は、緯糸テープは把持されず、得られる多軸ステッチ基材の両端に配置されたピンやフックなどに緯糸テープを引っ掛けながら、キャリア22は、往路でも復路でも緯糸テープを挿入する。このため、引掛挿入では緯糸テープ把持装置21は用いられない。緯糸テープは、キャリア22が所定の方向に緯糸テープの配置位置をずらしながら、繰り返し緯糸テープ挿入することで所定の方向に強化繊維糸条が配列した緯糸シートが形成される。
緯糸Twfならびに0°糸シートを形成している強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを用いることができる。なかでも、比強度、比弾性率が高い炭素繊維は、複合材料にした際に軽量で、かつ、力学特性が優れることから好ましく使用される。
強化繊維糸条は、取り扱い性やステッチイング時の耐ニードル擦過性を向上させるために、0.2〜2.5重量%の集束剤が付着されていることが好ましい。上記範囲内の集束剤が付着されている強化繊維糸条は、糸道ガイドとの擦過による毛羽発生が効率的に抑えられる上に、複合材料にしたときには、マトリックス樹脂との接着性が増し、力学特性を向上させることができる。
強化繊維糸条は、10,000〜100,000本のフィラメントから形成されていることが好ましい。また、強化繊維糸条の繊度は、500〜7,000texであることが好ましい。かかる繊度が500tex未満であると、糸条が細すぎて、強化繊維糸条がねじれることによる問題がほとんどなく、本発明の効果が発揮されない場合がある。また、強化繊維糸条が高価であり、かかる細繊度糸条を多数本使用することになるので多軸ステッチ基材そのものも高価になってしまう。一方、繊度が7,000texを越えると、低目付(例えば、100〜150g/m2/層)の多軸ステッチ基材を作製する際に緯糸をかなり拡幅させなければならない。また、拡幅させたとしても僅かな力で糸幅が変動しやすく、安定して緯糸幅を維持しながらの緯糸テープ挿入が困難となる場合がある。
また、強化繊維糸条の糸幅は5〜30mmの範囲が好ましい。5mm未満であると、糸幅が狭すぎて、強化繊維糸がねじれることによる問題がほとんどなく、本発明の効果が発揮されない場合がある。また、多軸ステッチ基材を作製する際に緯糸をかなり拡幅させなければならないため、低目付化が困難になる。一方、糸幅が30mmを越えると、低目付の強化繊維基材を作製しやすくなるものの、各工程を通過する際に僅かな力で糸幅が変動しやすく、安定して緯糸幅を維持しながら緯糸テープを挿入させることが困難となる場合がある。
また、特に、低目付(例えば、150g/m2/層以下)の多軸ステッチ基材を得ようとした場合、強化繊維糸条が扁平状であることが好ましい。強化繊維糸条の扁平率は、糸幅(YW)の糸厚み(YT)に対する比(YW/YT)である幅厚み比(WTR)が30〜100であることが好ましい。幅厚み比(WTR)、すなわち、扁平率が30未満であると、1層当たりの目付を小さくしようとすると強化繊維糸条間の隙間(ギャップ)の大きくなった多軸ステッチ基材になる場合がある。一方、幅厚み比(WTR)、すなわち、扁平率が100を越えると、1層当たりの目付が低目付のものが得られるものの、僅かな力で糸幅が変動しやすく、安定して緯糸幅を維持しながら緯糸テープを挿入させることが困難になる場合がある。
【0071】
また、本発明において多軸ステッチ基材を製造するにあたり、緯糸挿入される強化繊維シートの1層当たりの強化繊維目付は、50〜150g/m2の低目付であることが好ましい。50g/m2未満であると、緯糸テープ化する際の強化繊維糸条の間隔が大きくなりすぎることから本発明の製造方法を用いても緯糸テープを形成する際にギャップをなくすることが困難である場合がある。一方、150g/m2を越えると、緯糸テープ化する際の強化繊維糸条の間隔が小さくなり、緯糸テープを形成する際のギャップを容易になくすることができる場合があり、本発明の製造方法を用いる理由が希薄となる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
【0073】
(実施例1)
引張強度が4,900MPa、引張弾性率が230GPa、フィラメント数が12,000本の炭素繊維糸条(繊度800tex)であり、糸幅YWが6.5mm、糸厚みYTが0.15mm、糸幅YWの糸厚みYTに対する幅厚み比WTRが43の扁平形態で、サイジング剤を0.6重量%付着させて形態を維持させた炭素繊維扁平糸条を緯糸Twfとして用いた。
【0074】
図1、図6,図11に示す装置を用いて以下の手順により、±45°に強化繊維が配向した多軸ステッチ基材Aを作成した。
まず、緯糸の解舒工程として、緯糸Twfを緯糸ボビン10から緯糸Twfをコンタクトローラ11を介して一定速度で引き出しながら横取り解舒した。
【0075】
続いて、貯留工程にて、解舒した緯糸を緯糸貯留筒体41内で緯糸をエアー吸引により貯留を行った。このエアー吸引における緯糸貯留筒体41は、その内部に、間隔をおいて設けられた多数本の平行なピンから構成される糸道案内ガイド(導入側)46aと間隔をおいて設けられた多数本の平行なピンから構成される糸道案内ガイド(導出側)46bとを有する。そして、緯糸シート挿入機構20での1回の緯糸シート挿入に必要な150cm長さの緯糸Twfを、空気吸引により、緯糸貯留筒体41B内のピンに接触させながらU字形に屈曲させつつ貯留した。なお、緯糸貯留筒体41は、横断面寸法が110mm×50mm、長さ100cmとし、吸引は、定格吸引量が0.6m3/分のブロアを用いた。なお、緯糸貯留筒体41の緯糸出入口42における空気吸引量は、1.0m3/分であった。
【0076】
そして、エアー吸引緯糸貯留工程にて貯留した多糸条の緯糸を、テープ形成工程として、水平ガイドローラ、垂直ガイドローラ、水平ガイドローラ、板バネテンション装置を通過させ、強化繊維糸条の配列密度が1.5本/cmになるように6本引き揃え9cm幅の緯糸テープを形成した。なお、緯糸幅は、かかる水平ガイドローラに溝を設けた規制ガイドローラ(溝付)により、各糸条を6.5〜7.0mmの範囲の糸幅に規制した。
【0077】
ついで、テープ挿入工程として、緯糸テープ把持装置21に把持された緯糸テープを基材の長手方向に対して+45°方向に強化繊維が配列するようにキャリア22の移動により緯糸テープの挿入を繰り返し行うことで、+45°方向に強化繊維糸条が配列したシートを作成した。同じようにして+45°シートの上に、−45°に強化繊維糸条が配列したシートを作製し、56dtexのポリエステル糸を用いて基材の長手方向にステッチ間隔5mm(5ゲージ、2.0コース/cm)、ループ距離3.8mm(2.6ウェール/cm)になるようにステッチ(鎖編組織)を行い、一層当たりの炭素繊維目付が120g/m2である±45°に強化繊維が配向した多軸ステッチ基材Aを作成した。
【0078】
得られた多軸ステッチ基材Aは、緯糸ボビンからの解舒時や貯留時においてねじれの発生がなく、均一な糸幅の緯糸を供給することが可能であった。このため、多軸ステッチ基材においては、1層当たりの炭素繊維目付が120g/m2であるにもかかわらずギャップの発生は見られなかった。その結果を、表1に示した。
【0079】
(実施例2)
緯糸ボビンを70℃に加熱しながら緯糸ボビンから緯糸の解舒を行ったほかは実施例1と同じようにして多軸ステッチ基材Bを作製した。
【0080】
得られた多軸ステッチ基材Bは、緯糸ボビンを加熱したことにより、炭素繊維糸に付着しているサイジング剤が軟化するとともに、緯糸ボビンからの解舒後にガイドローラを通過することにより巻き癖が解消されるとともに、さらに解舒時や貯留時においてねじれの発生がないことから、均一な糸幅の緯糸を供給することが可能であった。このため、ギャップの発生のない緯糸テープが得られ、多軸ステッチ基材においてもギャップの発生が見られなかった。
【0081】
(実施例3)
緯糸の解舒方式を緯糸貯留筒体内に設置したセンサーのオンオフ信号によりボビンを回転させ、緯糸の供給量をコントローラしたほかは実施例1と同じようにして多軸ステッチ基材Cを作製した。
【0082】
得られた多軸ステッチ基材Cは、緯糸貯留筒体内に設けたセンサーのオンオフ信号とボビンの回転開始時間に若干のずれが生じたもののテンションローラの上下動により常時緯糸に張力が作用することから解舒時や貯留時においてねじれの発生がなく、均一な糸幅の緯糸を供給することが可能であった。このため、多軸ステッチ基材においては、1層当たりの炭素繊維目付が120g/m2であるにもかかわらずギャップの発生は見られなかった。
【0083】
(比較例1)
比較のため、緯糸の解舒手段として、緯糸ボビンから縦取り解舒するとともにコンタクトローラを使用しなかったほかは、実施例1と同様にして多軸ステッチ基材Dを作製した。
【0084】
得られた多軸ステッチ基材Dは、エアー吸引による貯留のため多糸条の緯糸を同時に引き揃えても張力の変動がほとんどなく、安定して緯糸テープかできたものの、緯糸供給時のたて取り解舒のため解舒撚りよるねじれが入ってしまうことから、緯糸が部分的に拡がらず、糸幅が狭くなる箇所が発生したことから、最大3.2mmのギャップが発生した。その結果を、表1に示した。
【0085】
(比較例2)
比較のため、緯糸の貯留方法として、エアー吸引よる緯糸貯留装置、テンションローラ、コンタクトローラを用いなかったほかは、実施例1と同様にして多軸ステッチ基材Eを作製した。
【0086】
得られた多軸ステッチ基材Eは、貯留機構を有していないことから間欠的な緯糸挿入により緯糸張力変動が大きく、緯糸にゆるみが生じたことからねじれを生じ、緯糸が部分的に拡がらず、糸幅が狭くなる箇所が発生したことから、最大5.1mmのギャップが発生した。その結果を、表1に示した。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜3の製造方法では、1層当たりの炭素繊維目付が120g/m2の低目付であるにもかかわらず、ギャップの発生が1.0mm以下と高品位の炭素繊維ステッチ基材が得られた。
一方、比較例1の製造方法においては、縦取り解舒であることから解舒撚りが入り、常時張力を付与させながら緯糸供給を行っても得られた多軸ステッチ基材においては、最大3.2mmと大きなギャップが生じた。また、比較例2の製造方法においては、緯糸に常時張力を付与させることができないことから、緯糸がゆるんだ際にねじれが生じ、得られた多軸ステッチ基材においては、最大5.1mmと大きなギャップが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の多軸ステッチ基材の製造方法によれば、緯糸を糸幅が狭まらないように緯糸を並行に引き揃えてシート化し、糸幅が安定した状態で緯糸テープ挿入するとともに、かつ、供給張力の変動が小さくすることができるため、高品質の(力学特性、耐久性に優れた)多軸ステッチ基材を得ることができる。このような多軸ステッチ基材は、航空機、自動車、船舶、などの構造部材、外装部材、内装部材などをはじめ、コンクリートなどの構造体の補修・補強などに用いるのが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る多軸ステッチ基材を製造するための緯糸シート挿入に関する装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る緯糸解舒手段の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る緯糸解舒手段の別の態様を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る緯糸貯留装置の一例を示す概略縦断面図である。
【図5】本発明に係る緯糸貯留装置の別の態様を示す概略縦断面図である。
【図6】本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図8】本発明に係る緯糸貯留装置のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図9】本発明に係るテープ形成工程の一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明に係る規制ガイドローラの一例を示す概略断面図である。
【図11】本発明に係る規制ガイドローラの別の態様を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0091】
10 :緯糸ボビン
10M:モータ
11 :コンタクトローラ
20 :緯糸テープ挿入手段
21 :緯糸把持装置
22 :キャリア
30 :緯糸解舒手段
31 :引取ローラ
31a:駆動ローラ
31b:ニップローラ
31c:ガイドローラ
32、33:テンションローラ
32a、33a:テンションローラの上下動方向
40 :緯糸貯留手段
41 :緯糸貯留筒体
42 :緯糸出入口
42a:糸導入側入口ガイド
42b:糸導出側出口ガイド
42c:第一の辺
42d:第二の辺
43 :空気排出口
44 :吸引ホース
45、46 :糸道案内ガイド
45a、46a:糸道案内ガイド(導入側)
45b、46b:糸道案内ガイド(導出側)
47a、47b:水平ガイドローラ
48、49b:ダンサローラ
49a:弾性伸縮体
50、70:ガイドローラ群
51、53:水平ガイドローラ
52 :垂直ガイドローラ
71、72:規制ガイドローラ
60 :板バネテンション装置
60a、60b:板バネ
Twf:緯糸
Swf:緯糸シート
L :距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(A) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら、横取り解舒する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【請求項2】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(A) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する解舒工程
(E) 該緯糸挿入に必要な緯糸量を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【請求項3】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な緯糸を、エアー吸引により緯糸貯留装置内で折り返すことで緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程。
【請求項4】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(E) 緯糸挿入に必要な緯糸を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【請求項5】
上記(B)または(E)工程において、強化繊維糸条の幅を、ボビン上の糸幅よりも大きい糸幅に拡げることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項6】
上記(B)または(E)工程と、(C)工程との間に、緯糸を開繊させる下記(G)開繊工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
(G) 貯留した強化繊維糸条の幅を、ボビン上の糸幅よりも大きい糸幅に拡げる開繊工程
【請求項7】
該開繊工程(G)における開繊させる手段が、温度50〜150℃、湿度40〜60%の範囲の雰囲気下でローラを擦過するものであることを特徴とする請求項6に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項8】
該開繊工程(G)における開繊させる手段が、その軸方向に揺動している揺動ローラを通過するものであることを特徴とする請求項6または7に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項9】
上記(A)または(F)工程において、ボビンから解舒する際に、緯糸を50〜150℃の範囲に加熱することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項10】
上記(C)工程において、糸条の幅を規制する手段が、所定の寸法の規制ガイドに糸条を通過させるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項11】
前記ガイドが、所定の寸法の溝を設けた溝付ローラであることを特徴とする請求項10に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項12】
上記(C)工程において、糸条の幅を規制する手段が、少なくとも2本のローラを隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項13】
該強化繊維糸の糸条繊度が、500〜7,000texで、かつ、糸幅5〜30mm、糸幅/厚み比が30〜100の扁平状炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項14】
該層構成の1層当たりの強化繊維目付が50〜150g/m2であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項15】
多糸条の緯糸挿入時における強化繊維糸条間同士の最大隙間が2mm以下であることを特徴とする請求項14に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項1】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(A) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら、横取り解舒する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な量の緯糸を、エアー吸引により貯留装置内で折り返して貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【請求項2】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(A)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(A) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を実質的に一定速度で引き出しながら横取り解舒する解舒工程
(E) 該緯糸挿入に必要な緯糸量を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【請求項3】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(B)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(B) 複数の糸条それぞれについて、緯糸挿入に必要な緯糸を、エアー吸引により緯糸貯留装置内で折り返すことで緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程。
【請求項4】
多数本の強化繊維糸条が並行にシート状に配列して層を構成し、前記層の2層以上が交差積層されて積層体を構成し、ステッチ糸で一体化された多軸ステッチ基材を製造するに際し、該基材の緯糸挿入において、下記(F)、(E)、(C)および(D)の工程により、2〜50本の強化繊維糸条から構成される5〜50cm幅の範囲の緯糸テープを挿入することを特徴とする多軸ステッチ基材の製造方法。
(F) 前記強化繊維糸を巻回したボビンをコンタクトローラに接触させつつ、緯糸を横取り解舒するとともに、該緯糸挿入に必要な量の緯糸を貯留する緯糸貯留装置の緯糸貯留量を検出するセンサーからの信号により引出速度を制御して、緯糸の供給量を調整する解舒工程
(E) 緯糸挿入に必要な緯糸を、ダンサローラの移動により緊張させながら緯糸を貯留する緯糸貯留工程
(C) それぞれの強化繊維糸条の幅を同一に規制しながら引き揃えて緯糸テープを形成するテープ形成工程
(D) 緯糸テープを挿入する緯糸挿入工程
【請求項5】
上記(B)または(E)工程において、強化繊維糸条の幅を、ボビン上の糸幅よりも大きい糸幅に拡げることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項6】
上記(B)または(E)工程と、(C)工程との間に、緯糸を開繊させる下記(G)開繊工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
(G) 貯留した強化繊維糸条の幅を、ボビン上の糸幅よりも大きい糸幅に拡げる開繊工程
【請求項7】
該開繊工程(G)における開繊させる手段が、温度50〜150℃、湿度40〜60%の範囲の雰囲気下でローラを擦過するものであることを特徴とする請求項6に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項8】
該開繊工程(G)における開繊させる手段が、その軸方向に揺動している揺動ローラを通過するものであることを特徴とする請求項6または7に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項9】
上記(A)または(F)工程において、ボビンから解舒する際に、緯糸を50〜150℃の範囲に加熱することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項10】
上記(C)工程において、糸条の幅を規制する手段が、所定の寸法の規制ガイドに糸条を通過させるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項11】
前記ガイドが、所定の寸法の溝を設けた溝付ローラであることを特徴とする請求項10に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項12】
上記(C)工程において、糸条の幅を規制する手段が、少なくとも2本のローラを隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項13】
該強化繊維糸の糸条繊度が、500〜7,000texで、かつ、糸幅5〜30mm、糸幅/厚み比が30〜100の扁平状炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項14】
該層構成の1層当たりの強化繊維目付が50〜150g/m2であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【請求項15】
多糸条の緯糸挿入時における強化繊維糸条間同士の最大隙間が2mm以下であることを特徴とする請求項14に記載の多軸ステッチ基材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−299426(P2006−299426A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117938(P2005−117938)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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