説明

多軸荷重センサ

【課題】より簡単な構成で高精度の荷重検出を行うことができる多軸荷重センサを提供する。
【解決手段】基部2a〜2dにより囲まれる内周部に可動部5を形成し、その可動部5を、基部2に対して弾性変形する支持部6及び8により四方より支持するように本体1を構成し、その本体1の角部3a,3cをなす直交する2辺にVRセンサ部21を夫々2個ずつ配置し、これらが有する2次コイル25より可動部5の変位量に応じて変化する交流信号を出力する。具体的には、1次コイル24及び2次コイル25を備えたステータコア23を基部3側、可動コア26を可動部5側に夫々配置し、可動部5に荷重が加わり変位が生じるとステータコア23側のコイル24及び25と可動コア26との位置関係を変化させ、1次コイル24が発生した磁束に対して作用する磁気抵抗を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部に対し複数軸方向に印加される荷重に応じて基部との相対位置が変位するように形成される起歪体を用い、前記荷重を検出する多軸荷重センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車や航空機などの移動体を構成する部品であるタイヤなどの運動体について、運動状態を風洞試験やベンチ試験などで計測する場合には、同時に複数の軸方向に作用する荷重(例えばX,Y,Zの各軸方向や、各軸周りに作用するモーメント等)を測定する荷重センサが使用される。或いは、操縦者がジョイスティックを操作した場合に、ジョイスティックに作用した力を検出して操縦指令信号を出力する場合にも、同様な荷重センサが使用される。
【0003】
従来の荷重センサは、一般に、印加される荷重に応じて起歪部に生じる局部的な歪み量を歪みゲージの抵抗値の変化として、ホイットストーンブリッジ回路により検出する構成のセンサなどが採用されることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−201839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように構成される荷重センサには以下のような問題があった。すなわち、歪みゲージの抵抗値変化を検出するので、測定環境の温度が変化する場合には、それに応じて抵抗値を補正する必要がある。また、歪みゲージを取り付ける位置の誤差が出力誤差に直結するので、取り付け後において、最終的に得られる出力結果についても補正を行う必要がある。
そして、基本的には1軸方向に作用する荷重を検出するセンサであるため、複数軸方向に作用する荷重を検出するには複数の荷重センサを組み合わせて用いるしかなく、全体が大型化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡単な構成で複数軸方向に作用する荷重を高精度に検出できる多軸荷重センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の多軸荷重センサは、外周部が基部として固定され、中心部に形成される可動部が前記基部に対して弾性変形する起歪部によって四方より支持され、前記可動部に対し複数軸方向に印加される荷重に応じて前記基部との相対位置が変位するように形成される起歪体と、
前記基部に配置され、ヨーク部の内周側で互いに対向する位置に2つの突極部を有するステータコアと、前記突極部に巻装されて所定の交流信号が入力される1次コイルと、この1次コイルと共に前記突極部に巻装される2次コイルと、前記可動部に固定され、前記1次コイルが発生する磁束が通る磁気回路を前記ステータコアと共に形成し、前記可動部の変位に伴い前記突極部との間の空隙長が変化するように配置される可動コアとを備えてなるセンサ部とを備え、
前記基部は、前記起歪部の位置で区分される4つの領域の1つに、直交する2辺を備えたステータ取付部を有し、
前記可動部は、前記ステータ取付部側に延設され、前記2辺に対してそれぞれ平行となる2辺を備えた可動コア取付部を有し、
前記ステータコアを前記ステータ取付部に取り付けると共に、前記可動コアを前記可動コア取付部に取り付けて、2つのセンサ部を前記2辺にそれぞれ配置し、
前記2つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力することを特徴とする。
【0008】
斯様に構成すれば、起歪体の可動部に荷重が加わることで基部との相対位置が変化すると、ステータコアに巻装されているコイルと可動コアとの間の空隙長が変化するので、1次コイルが発生させた磁束に対して作用する磁気抵抗が変化する。その結果、2次コイルより出力される交流信号も変化するので、その信号変化は、印加された荷重に応じて可動部に生じた変位量に相当する。したがって、2次コイルより出力される交流信号から、可動部に印加された荷重の大きさを得ることができる。そして、2つのセンサ部を、起歪体の1つの角部における2辺に配置することで、可動部に対して印加される荷重を、各辺部に沿った方向に分けて検出することができる。
【0009】
この場合、請求項2に記載したように、前記起歪部を、剛性が比較的低い第1支持部と、剛性が前記第1支持部よりも高く且つ前記基部よりも低い第2支持部とを互いに直交する状態で組み合わせて構成すると良い。斯様に構成すれば、起歪部により4か所で支持されている可動部に対し、基部の辺方向に沿って互いに異なる軸方向の荷重が印加された場合でも、その荷重に対する相対剛性がより高くなる方の支持部がある側において、応力が発生するようになる。
【0010】
また、請求項3に記載したように、前記起歪部を、前記第1支持部を前記基部側に、当該基部が延設されている方向と平行に配置すると共に、前記第2支持部を前記可動部側に配置して、前記第1支持部の中央部と前記第2支持部の先端部とが連続することでT字型に構成するのが好ましい。斯様に構成すれば、上述したように、可動部に対し基部の辺方向に沿って互いに異なる軸方向の荷重が印加された場合に、その荷重の方向と直交する方向に配置されている起歪部において曲げ応力が発生するようになる。
【0011】
この場合、請求項4に記載したように、前記起歪体に対し、前記4つの領域の他の1つに、前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記各取付部に、前記センサ部を更に1つ、前記ステータコアの突極部が前記2辺と直交する方向に配置し、
前記3つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力するように構成しても良い。斯様に構成すれば、第3のセンサ部によって、可動部に対して各辺部と直交する方向に印加される荷重を検出することができる。
【0012】
また、請求項5に記載したように、前記起歪体に対し、前記2つのセンサ部が配置されている領域の対角線上に位置する領域にも、前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記各取付部の2辺に、前記センサ部を更に2つ配置し、
前記4つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力するように構成すると良い。斯様に構成すれば、可動部に印加される2軸方向の荷重を、2個を1組とする2組のセンサ部より出力される交流信号の平均からそれぞれ求めることができる。
【0013】
また、請求項6に記載したように、前記起歪体において、他の2つの領域にも前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記各取付部の1辺に、前記センサ部を対称となるようにそれぞれ配置し、
前記6つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力するように構成しても良い。斯様に構成すれば、可動部に印加される3軸方向の荷重を、3組のセンサ部より出力される交流信号の平均からそれぞれ求めることができる。
【0014】
また、これらの場合、請求項7に記載したように、前記センサ部に、前記ステータコアに、前記2つの突極部が配置されている方向と直交する方向にも、前記1次コイル及び前記2次コイルが券装された2つの突極部を備えると良い。斯様に構成すれば、1つのセンサ部によって2軸方向に印加された荷重を検出できるので、請求項1のようにセンサ部が2つの場合でも3軸方向の荷重を検出したり、請求項3のようにセンサ部が4つの場合には、3軸方向の荷重に加えて各軸周りのモーメントについても(計6分力)検出が可能となる。
【0015】
また、請求項8に記載したように、前記センサ部を、前記突極部と前記可動コアとが対向する部位の形状をそれぞれ平面に形成し、両者の対向面が平行をなすように配置するのが好ましい。斯様に構成すれば、ステータコアの突極部と可動コアとの対向面が平行を維持した状態で両者間の空隙が変化するようになり、可動コアが多軸方向に変位した場合に磁気的なクロスカップリングの発生が防止される。
【0016】
そして、請求項9に記載したように、前記起歪体における前記4つの領域の全てに、前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記センサ部を、前記各取付部の各辺にそれぞれ配置し、
前記8つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力するように構成すれば、上述した6分力のそれぞれを、2つのセンサ部の出力の組み合わせから平均して求めることができる。
【0017】
以上の場合において、請求項10に記載したように、前記起歪体に、前記可動部の変位量を制限する変位制限手段を配置するのが好ましい。斯様に構成すれば、可動部に対して想定した以上の過大な荷重が印加された場合に、可動部が変位制限部材に当接することで起歪体が不可逆的に変形することを防止できる。
【0018】
この場合、請求項11に記載したように、前記変位制限手段を、前記基部と前記可動部との間に配置され、中空部を有する変位制限部材と、前記基部側より挿入され、前記変位制限部材の中空部を貫通して先端部が前記可動部側に設けられた凹部に到達するように配置される支持部材とで構成すると良い。斯様に構成すれば、可動部が各辺に沿って変位することで基部と可動部との空隙が狭まる量を、変位制限部材により制限できる。
【0019】
また、請求項12に記載したように、前記変位制限手段に、前記基部,前記可動部の何れか一方の両面側に、スペーサを介して固定される変位制限部材を備え、前記変位制限部材の先端部が、前記基部,前記可動部の他方側に係るように配置しても良い。斯様に構成すれば、可動部が各辺と直交する方向に変位した場合の変位量を、スペーサの厚さ寸法により調整できる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の多軸荷重センサによれば、歪みゲージやブリッジ回路を使用することなく、可動部に印加された荷重を複数軸方向について検出できるので、測定環境の温度や、歪みゲージの取り付け位置に応じた補正を行う必要がなく、簡単な構成で高精度の荷重検出を行うことができる。また、センサ全体を小型化することができる。
【0021】
請求項2記載の多軸荷重センサによれば、可動部に対し、基部の辺方向に沿って互いに異なる軸方向の荷重が印加された場合でも、その荷重に対する相対剛性がより高くなる方の支持部がある側で応力を発生させることができ、起歪体による荷重応力の発生形態を単純化して設計を容易にすることができる。
【0022】
請求項3記載の多軸荷重センサによれば、可動部に対し基部の辺方向に沿って互いに異なる軸方向の荷重が印加された場合に、その荷重の方向と直交する方向に配置されている起歪部において曲げ応力を発生させることができるので、設計を一層容易にすることができる。
【0023】
請求項4記載の多軸荷重センサによれば、3つのセンサ部よって、可動部に対して印加される荷重を3軸方向について検出することができる。
請求項5記載の多軸荷重センサによれば、4つのセンサ部よって、可動部に印加される2軸方向の荷重を、2個を1組とする2組のセンサ部より出力される交流信号の平均からそれぞれ求めることができ、検出精度を更に向上させることができる。
【0024】
請求項6記載の多軸荷重センサによれば、6つのセンサ部によって、可動部に印加される3軸方向の荷重を、3組のセンサ部より出力される交流信号の平均からそれぞれ求めることができ、検出精度を向上させることができる。
【0025】
請求項7記載の多軸荷重センサによれば、1つのセンサ部によって2軸方向に印加された荷重を検出できるので、決められた数のセンサ部でより多くの軸方向の荷重を検出することが可能となる。
【0026】
請求項8記載の多軸荷重センサによれば、可動コアが多軸方向に変位した場合にセンサ部における磁気的なクロスカップリングの発生が防止されるので、変位量の検出精度を一層向上させることができる。
【0027】
請求項9記載の多軸荷重センサによれば、3軸方向に印加された荷重と、各軸周りのモーメントとを、2つのセンサ部の出力の組み合わせから平均して求めることができる。
請求項10記載の多軸荷重センサによれば、可動部に対して想定した以上の過大な荷重が印加された場合に、可動部が変位制限部材に当接することで起歪体が不可逆的に変形することを防止できるので、強度を確保して信頼性を向上させることができる。
【0028】
請求項11記載の多軸荷重センサによれば、可動部が各辺に沿って変位することで基部と可動部との空隙が狭まる量を、変位制限部材の厚さ寸法により調整して制限できる。
請求項12記載の多軸荷重センサによれば、可動部が各辺と直交する方向に変位した場合の変位量を、スペーサの厚さ寸法によって容易に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施例であり、(a)は多軸荷重センサの正面及び(b)のB−B断面を1/2ずつ示す図、(b)は(a)のC−C断面図、(c)は(a)の一部の拡大図、(d)は(a)のD−D断面図、(e)は(b)の一部の拡大図
【図2】本体の正面図
【図3】本体の斜視図
【図4】ステータコアの底面図
【図5】(a)は1次コイルに交流信号が通電された場合に発生する磁束がステータコア及び可動コアを通る状態を示す図、(b)はその等価回路図
【図6】信号入出力回路の機能ブロック図
【図7】多軸荷重センサに荷重が印加された場合の各部の信号波形図
【図8】各VRセンサ部からの出力信号に基づき6分力を求めるための説明図
【図9】本発明の第2実施例を示す図1(a)相当図
【図10】図8相当図
【図11】本発明の第3実施例を示す図9相当図
【図12】図8相当図
【図13】本発明の第4実施例を示す図9相当図
【図14】本発明の第5実施例を示す図4相当図
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について図1乃至図8を参照して説明する。図2は、多軸荷重センサを構成する本体(起歪体)1の正面図、図3は同斜視図である。本体1は、正方形状の鋼材を切り出し加工することで形成されており、正方形の各辺に対応する基部2a〜2dは、固定側に取り付けられて固定される。そして、面取り加工されている4つの角部3a〜3dには、本体1をボルトなどにより取り付け固定するための取付け穴4a〜4dが形成されている。
【0031】
各基部2a〜2dによって囲まれている本体1の中央部には、可動部5が形成されており、その可動部5は、各基部2a〜2dの中央部に形成されている第1支持部6a〜6dによって支持されている。可動部5は、中央に配置される円形部7と、その円形部7の外周部から、各基部2a〜2dに直交するように四方に延びる第2支持部8a〜8dを有している。すなわち本体1は、4か所にある第1支持部(起歪部)6a〜6d及び可動部5の第2支持部(起歪部)8a〜8dにより、角部3a〜3dが属する4つの領域Z1〜Z4に区切られている。
【0032】
各基部2a〜2dの内周側は、4つの角部3a〜3dに対応してそれぞれ直交する2辺を構成する内周辺部9a1及び9b1,9b2及び9c2,9c3及び9d3,9d4及び9a4を有している。そして、可動部5は、4つの第2支持部8a〜8dの間から各角部3a〜3d側に向けて張り出すように形成され、各内周辺部9a1及び9b1,9b2及び9c2,9c3及び9d3,9d4及び9a4に対し、所定の空隙を以てそれぞれ平行となる2辺を有する中空正方形状の可動コア取付部10a〜10dを有している。
【0033】
第1支持部6a〜6dは、各基部2a〜2dの中央部に各辺方向に沿って形成された長穴部11a〜11dと、可動コア取付部10a〜10d並びに第2支持部8a〜8dを形成するために切り出された空間との間に残る薄い板バネ状の部材で形成されている。そして、第1支持部6の中央部が上記第2支持部8の先端部に直交してつながることで、両者は概ねT字型に組み合わされている。尚、第1支持部6及び第2支持部8の厚さ寸法(図面の奥行き方向寸法)は、基部2の厚さ寸法の1/3未満程度となっている。
【0034】
可動部5の中央部は、例えばジョイスティックのような図示しない棒状の操作部材を挿入固定するための取付け穴12が形成されている。そして、本体1の各基部2a〜2dが固定側に固定された状態で操作部材に対して荷重が印加されると、第1支持部6及び第2支持部8がその荷重に応じて弾性変形することで、可動部5の位置が変位するようになっている。尚、第1支持部6の剛性は低く、第2支持部8の剛性は第1支持部6よりも高く且つ基部2の剛性よりも低くなっている。
【0035】
図3及び図1に示すように、本体1の角部3a,3cに対応するそれぞれの2辺部分には、後述するVR(Variable Reluctance)センサ部を構成するステータコアを挿入して取付け固定するための4つの取付け穴(ステータコア取付部)13a〜13dが形成されている。また、それらに対応して、可動コア取付部10a,10cには、VRセンサ部を構成する可動コアを挿入して取付け固定するための4つの取付け穴14a1,14b1,14c3,14d3(図1(a)参照)が形成されている。更に、基部2b,2dには、VRセンサ部との電気配線を行うためのケーブルを挿入して取り付けるための挿入穴15(図3に15dのみ図示)が形成されている。
【0036】
図1は、本体1に4個のVRセンサ部21を取り付けることで多軸荷重センサ22を構成した状態を示しており、(a)は正面及び(b)のB−B断面を1/2ずつ示す図、(b)は(a)のC−C断面図、(c)は(a)の一部の拡大図、(d)は(a)のD−D断面図、(e)は(b)の一部の拡大図である。尚、図1(a)における左右方向をX軸,上下方向をY軸,奥行き方向をZ軸とする。
VRセンサ部21は、ステータコア23,1次コイル24,2次コイル25,可動コア26で構成されている。また、図4は、図1(a)に示す底面側のセンサカバー27と後述する基板28とを取り外して、本体1の内部に配置されるVRセンサ部21をステータ側から見た状態を示している。
【0037】
ステータコア23は、図4に示すように円管状をなすヨークの内周側において、90度置きに設けられた4つの突極部23a〜23dを備えており、それらに1次コイル24a〜24d及び2次コイル25a〜25dがそれぞれ巻装されている。可動コア26は概ね円柱状であり、4つの突極部23a〜23dに囲まれている中心部に、それらの突極部23a〜23dとの間に僅かなギャップ(空隙長)を有するように挿入されており、その先端部は、上述したように取付穴14に挿入された状態で、ボルトなどにより可動コア取付部10(可動部5)に固定されている。尚、ステータコア23及び可動コア26は、例えば本体1をなす鋼材とほぼ同じ温度膨張特性の磁性体で構成されている。
【0038】
図5は、VRセンサ部21の動作原理を説明するもので、(a)は1次コイル24a,24cに交流信号が通電された場合に発生する磁束がステータコア23及び可動コア26を通る状態を示し(コイル24(b,d),25(b,d)は省略)、(b)はその等価回路を示す。1次コイル24a,24cに対しては、図5(b)に示すように励磁用の交流電源29より所定周波数の交流信号が与えられるが、それにより励磁されてステータコア23及び可動コア26を通る磁束は、ある時点で図5(a)に破線で示す方向となるよう、1次コイル24a,24cが巻装されている。
【0039】
2次コイル25a,25cは、直列逆相接続となるよう巻装されており、1次コイル24a,24cとは、突極部23aと可動コア26とのギャップδa,突極部23cと可動コア26とのギャップδcとを含む磁気回路を介して磁気的に結合されている。2次コイル25aより出力される交流信号をVaとすると、2次コイル25cより出力される交流信号Vcは交流信号Vaの逆相となり、これらの直列出力は(Va+Vc)である。
そして、可動コア26が変位してギャップδa,δcの大小関係が変化すると、1次コイル24a/2次コイル25a,1次コイル24c/2次コイル25cの磁気的結合状態,すなわち、磁気回路のリラクタンス(磁気抵抗)が変化するため、2次側の出力信号(Va+Vc)も変化することになる。また、コイル24(b,d),25(b,d)側の動作も上記と全く同様である。
【0040】
尚、上記のようなVRセンサ部21の原理説明と同様の説明は、例えば特開昭57−60212号公報や、特開平5−52588号公報などにも記載されている(但しこれらの公報では、VRセンサによって回転位置を検出する場合の原理が説明されている)。また、ステータコア23を上記のように構成すると、各軸方向について磁気的なクロスカップリングが発生することで僅かに誤差が生じるが、その影響は非常に小さく、例えば最大計測レンジの0.2%程度であるから実用上は無視することができる。
【0041】
4個のVRセンサ部21(#1〜#4)を本体1に取り付ける場合には、ステータコア23の突極部23a−23cがなす軸、又は突極部23b−23dがなす軸の何れか一方が(例えば前者とする)、基部2の辺方向に一致するようにして配置する。すると、他方の軸(後者)は、基部2の辺方向に対して直交するように配置される。
【0042】
図1(d)に示すように、ステータコア23の下方には基板28が配置されており、1次コイル24,2次コイル25の両端は、基板28に形成されている図示しない配線パターンに接続されている。そして、これらのコイル24,25と外部との間における入出力信号は、基板28に接続されるケーブル60を介して行われる(尚、図1(a)にはケーブル60を挿入穴15に挿入した状態で固定するためのナットを示している。
【0043】
また、可動部5と各基部2a〜2dとの間には、可動部5の最大変位量を制限するための機構が設けられている。図1(c)は、可動部5のX軸方向変位を制限する構成部分を示しており、基部2cには、ボルト(支持部材,変位制限手段)30をねじ止めするためのねじ穴31が形成されている。可動部5の第2支持部8cは、第1支持部6cと交差して長穴部11c側に若干突出した突出部を有しており、その突出部において基部2cと対向する面には、上記ボルト30の先端部を受け入れるための受入れ穴(バカ穴,凹部,変位制限手段)32が形成されている。そして、ボルト30は、ねじ穴31にねじ止めされる際に、基部2cと上記突出部との間に配置されるリング状のスペーサ(変位制限部材,変位制限手段)33の中空部を貫通することで、スペーサ33を両者間に保持させる。したがって、可動部5がX軸方向に変位する場合の変位量は、スペーサ33の厚さ寸法により調整・制限することができる。
【0044】
以上のボルト30及びスペーサ33等で構成される変位制限手段は、その他の基部2a,2b,2dにもそれぞれ設けられており、可動部5のX軸方向,Y軸方向変位を制限するようになっている。尚、ボルト30の径寸法と、受入れ穴32の径寸法との差を調整することで、可動部5のZ軸方向変位を制限することも可能である。
尚、変位制限の調整精度が不要な場合は、上記突出部の先端が基部2に当接することで最大変位量を制限できる(変位する範囲は、両者間の空隙に相当する)。すると、ボルト30及びスペーサ33は不要となるので、構成を簡素化できる。
【0045】
また、図1(b)及び(e)には、可動部5のZ軸方向変位をより確実に制限するための構成を示している。可動コア取付部10dにおいて第2支持部8dに対し平行となる辺部には、矩形板状のストッパ34が、上記スペーサ33と同様にリング状であるスペーサ35を介して2本のボルト36により固定されている。その状態で、ストッパ34の先端部は基部2dの一部に係るようになっている。また、本体1の背面側にも、同様の構成が配置されている。したがって、可動部5がZ軸方向に変位する場合の変位量は、スペーサ35の厚さ寸法により調整・制限することができる。以上のストッパ34及びスペーサ35等で構成される変位制限手段は、その他の可動コア取付部10a,10b,10cにもそれぞれ設けられており、可動部5のZ軸方向変位を制限するようになっている。
【0046】
この場合も、変位制限の調整精度が不要であれば、可動コア取付部10と基部2とが対向する面の空隙寸法に応じて、可動部5の最大変位を制限できる。すなわち、Z軸方向変位が大きくなると可動コア取付部10の対向面の角が可動部5側に当接することで、最大変位量が制限される。
そして、上述したように可動部5の最大変位量を制限することで、最大に変位した場合でも、可動コア26が突極部23a〜23dと直接接触しない程度のギャップが確保されるように設定されている。
【0047】
図6は、多軸荷重センサ22にケーブル60を介して接続される信号入出力回路41の機能ブロック図である。1次SIN電圧発生回路42は、図5(b)に示す交流電源29と同様に、1次コイル24に対して交流信号(SIN波)VREFを出力する。2次信号入力回路43は、2次コイル25より出力される信号(Va+Vc),(Vb+Vd)を増幅して、次段の同期検波回路44に出力する。同期検波回路44は、1次SIN電圧発生回路42より交流信号VREFが与えられ、2次信号入力回路43より出力される信号を同期検波すると次段の整流回路45に出力する。整流回路45は、第1軸方向変位量に対応する直流信号VOUT_1と、第2軸方向変位量に対応する直流信号VOUT_2とを出力する。
【0048】
次に、本実施例の作用について図7及び図8も参照して説明する。本体1は、基部2側が固定された状態で可動部5に対してX,Y,Z軸方向の荷重が印加されると、可動部5がその荷重の大きさに応じて各軸方向に変位する。また、可動部5に対してX,Y,Zの各軸周りのモーメントが印加された場合も、可動部5は変位を生じる。
例えば、可動部5に対してX軸方向の荷重が印加された場合を想定する。この場合の荷重は、主としてY軸方向に位置する支持部6b及び8bと、支持部6d及び8dとに加わる。この時、第1支持部6b及び6dは引張り・圧縮荷重を受け、第2支持部8b及び8dは曲げ荷重を受けるが、前者の引張り・圧縮荷重に対する相対剛性に対して、後者の曲げ荷重に対する相対剛性の方がより小さくなる。
【0049】
またこの時、X軸方向に位置する支持部6a及び8aと、支持部6c及び8cとに着目すると、第1支持部6a及び6cは曲げ荷重を受け、第2支持部8a及び8cは引張り・圧縮荷重を受けることになり、相対剛性の関係が上記と逆転する。すなわち、第1支持部6a及び6cの低い相対剛性が支配的であり、これらは実質的に、荷重に対する応力の発生には関与しないと言える。結果として、X軸方向の荷重に対しては、第2支持部8b及び8dが受ける曲げ荷重に対する応力に応じて可動部5のX軸方向変位が生じることになる。
【0050】
Y軸方向の荷重については、上記の説明とX,Yの関係が逆になる。そして、第1支持部6は曲げ荷重に対する剛性が極めて低いため、第1支持部6と第2支持部8との交点が回転中心となって弱いバネ効果を持つヒンジとして機能する。また、Z軸方向の荷重については、4か所の支持部6及び8により荷重を均等に分担することになり、それらはいずれも上述したヒンジとして機能する。更に、Z軸周りモーメントMzが印加されると、そのモーメント荷重はX軸,Y軸の荷重経路を均等に経由する。
【0051】
図7は、荷重センサ1に荷重が印加されて、突極部23と可動コア26とのギャップδa,δcの大小関係が変化した場合における、各部の信号波形を示している(図5に対応した説明である)。図7(a)に示すように、信号入出力回路31より荷重センサ22の1次コイル24a,24cに入力される交流信号VREFは、常に周波数が一定で且つ振幅の最大値が一定となっている。
そして、ケース(A)のように可動部5に荷重が印加されておらず、ギャップ(δa=δc)である場合は、図7(b)に示すように、2次コイル25aより出力される正相信号Vaと、2次コイル25cより出力される逆相信号Vcとの振幅は等しいので、それらの合成信号(Va+Vc)はゼロになる(図7(c)参照)。したがって、信号入出力回路41より出力される信号VOUT_1もゼロレベルとなる(図7(f)参照)。
【0052】
この状態から、ケース(B)のように可動部5に荷重が印加されて、両ギャップの大小関係が(δa>δc)になると、図7(b)に示すように、2次コイル25aより出力される正相信号Vaの振幅はより小さく、2次コイル25cより出力される逆相信号Vcの振幅はより大きくなるように変化する。すると、それらの合成信号(Va+Vc)は、逆相信号Vcの振幅を僅かに小さくしたものとなり(図7(c)参照)、その信号を同期検波した出力は、ゼロレベルに対して負側となる成分が抽出される(図7(d)参照)。したがって、その成分を整流・平滑した信号VOUTは、ゼロレベルを下回るように出力される(図7(f)参照)。
【0053】
一方、ケース(C)のように、ケース(B)とは逆方向となる荷重が印加されて、両ギャップの大小関係が(δa<δc)になると、各信号の大小関係も逆転する。すなわち、図7(b)に示すように、正相信号Vaの振幅はケース(A)を基準としてより大きく、逆相信号Vcの振幅はより小さくなるように変化するので、それらの合成信号(Va+Vc)は、正相信号Vaの振幅を僅かに小さくしたものとなり(図7(c)参照)、その信号を同期検波した出力は、ゼロレベルに対して正側となる成分が抽出される(図7(d)参照)。したがって、その成分を整流・平滑した信号VOUT_1は、ゼロレベル上回るように出力される(図7(f)参照)。
【0054】
尚、実際に信号入出力回路41より出力される信号VOUT_1は単一電源Vpによるので、図7に示す「ゼロレベル」は、グランドレベルと電源電圧Vpとの中間レベルに設定される。そして、もう1方の軸方向に沿った変位に応じて出力される合成信号(Vb+Vd)についても、上記と同様の原理で変化する。
【0055】
また、この場合、可動部5に印加される荷重の大きさに応じて可動コア26が変位する特性は線形を示す。したがって、信号入出力回路41より出力される信号VOUTに本体1の変形応力に応じた係数を乗じれば、可動部5の1軸方向に印加された荷重を得ることができる。そして、4つのVRセンサ部21(#1〜#4)より出力される信号VOUTをA/D変換し、そのデータをマイクロコンピュータに与えて図8に示すように処理することで、可動部5に印加された荷重を、X,Y,Zの各軸方向の分力Fx,Fy,Fzと、それらの各軸回りのモーメントMx,My,Mzとの6分力成分にそれぞれ分けて求めることができる。
【0056】
VRセンサ部21において、ステータコア23の突極部23a−23cがなす軸を第1軸,突極部23b−23dがなす軸を第2軸と称する。すると、4つのVRセンサ部21(#1〜#4)より出力される各軸方向の出力信号Vout_1,Vout_2は、可動部5の変位量を以下の各軸方向について示すことになる。
VRセンサ部21 Vout_1 Vout_2
#1 Y Z
#2 X Z
#3 Y Z
#4 X Z
【0057】
そして、図8(a)に示す2つの縦軸方向の太線は、VRセンサ部21(#1,#3)のY軸成分信号を表しており、それらの加算平均[(#1Y+#3Y)/2]がY軸方向分力Fyに比例し、それらの減算結果[#1Y−#3Y]がZ軸周りのモーメントMzに比例することを示している。また、図8(b)に示す2つの縦軸方向の太線は、VRセンサ部21(#1,#3)のZ軸成分信号を表しており、それらの加算平均[(#1Z+#3Z)/2]がZ軸方向分力Fzに比例し、それらの減算結果[#1Z−#3Z]がX軸周りのモーメントMxに比例することを示している。
【0058】
例えば、VRセンサ部21(#1,#3)は、本体1の中心に対して対象となる位置に配置されており、Y軸方向分力Fy及びZ軸周のモーメントMzが印加されている場合、Y軸成分信号#1,#3は以下のようになる。
#1Y=Kfy×Fy+Kmz×Mz
#3Y=Kfy×Fy−Kmz×Mz
尚、Kfy,Kmzは、荷重に対する比例係数である。これらの式より、分力Fy,モーメントMzを個別に求めれば、上記の通りになる。
【0059】
同様に、図8(c)はVRセンサ部21(#2,#4)のX軸成分信号の加算平均[(#2X+#4X)/2]がX軸方向分力Fxに比例し、それらの減算結果[#2X−#4X]がZ軸周りのモーメントMzに比例することを示し、図8(d)は同Z軸成分信号の加算平均[(#2Z+#4Z)/2]がZ軸方向分力Fzに比例し、それらの減算結果[#2Z−#4Z]がY軸周りのモーメントMyに比例することを示している。
尚、以上では、Z軸方向分力FzとZ軸周りモーメントMzとが重複して得られているが、何れか一方を採用しても良いし、両者の加算平均を結果として出力しても良い。そして、上記のマイクロコンピュータにより6分力成分を求めて、例えば荷重の数値(即値)を表示器等に表示させるなどする。
【0060】
以上のように本実施例によれば、正方形状の4辺をなす基部2a〜2dにより囲まれる内周部に可動部5を形成し、その可動部5を、基部2に対して弾性変形する起歪部,すなわち支持部6及び8により四方より支持するように本体1を構成する。そして、本体1の角部3a,3cをなす直交する2辺にVRセンサ部21をそれぞれ2個ずつ配置して、これら4つのVRセンサ部21(#1〜#4)が有する2次コイル25より、可動部5の変位量に応じて変化する交流信号を出力するようにした。
【0061】
具体的には、VRセンサ部21を構成する、1次コイル24及び2次コイル25を備えたステータコア23を基部3側、可動コア26を可動部5側にそれぞれ配置し、可動部5に荷重が加わり変位が生じると、ステータコア23側のコイル24及び25と可動コア26との位置関係を変化させ、1次コイル24に周波数及び最大振幅が一定の正弦波信号を与えて1次コイル24が発生した磁束に対して作用する磁気抵抗を変化させ、それに応じて2次コイル25より出力される交流信号の変化が、印加された荷重に相当するようにした。
【0062】
すなわち、2次コイル25より出力される交流信号(Va+Vc)から可動部5に印加された荷重の大きさを得ることができるので、従来技術とは異なり、歪みゲージやブリッジ回路を使用することなく荷重を検出できる。したがって、測定環境の温度や、歪みゲージの取り付け位置に応じた補正を行う必要がなく、簡単な構成で高精度の荷重検出を行うことができる。そして、多軸荷重センサ22の全体を小型化することができる。
また、歪みゲージを接着によって取り付けるような構成部分がなく、VRセンサ部21は、本体1に対して機械的に圧入結合されるので、信頼性や耐環境性を向上させることができる。更に、支持部6及び8からなる起歪部の微小変位(微小歪み)を検出できるので、使用時の応力を、本体1をなす材料の降伏点に比較して十分低くでき、過荷重に対する余裕も大きくとることができる。
【0063】
また、基部2と可動部5との間にリング状のスペーサ33を配置し、基部2側より挿入され、スペーサ33の中空部を貫通して先端部が可動部5側に設けられた受入れ穴32に到達するように配置されるボルト33とで変位制限機構を構成したので、可動部5が各辺に沿って変位することで基部2と可動部5との空隙が狭まる量を制限し、可動部5に対して想定した以上の過大な荷重が印加された場合に、本体1が不可逆的に変形することを防止して、荷重センサ22の強度を確保して信頼性を向上させることができる。
更に、可動部5の両面側に、スペーサ35を介してボルト36により固定されるストッパ34を備え、そのストッパ34の先端部が、基部2側に係るように配置して変位制限機構を構成したので、可動部5がZ軸方向に変位した場合の変位量を、スペーサ35の厚さ寸法により調整できる。
【0064】
(第2実施例)
図9及び図10は本発明の第2実施例を示すものであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。第2実施例の多軸荷重センサ51は、本体(起歪体)52と、8個のVRセンサ部21とで構成されている。本体52には、可動部5の可動コア取付部10a,10cとは異なる対角線上に位置する可動コア取付部10b,10dにも、VRセンサ部21がそれぞれ2個ずつ配置されている。そして、各VRセンサ部21との電気的接続を図るためのケーブル60は、各基部2a〜2dにおいて、2個のVRセンサ部21が配置されている位置の間に1つずつ設けられている(図9では、#4,#8に対応するケーブル60のみ示す)。
【0065】
次に、第2実施例の作用について図10も参照して説明する。8つのVRセンサ部21(#1〜#8)より出力される各軸方向の出力信号Vout_1,Vout_2は、可動部5の変位量を以下の各軸方向について示すことになる。
VRセンサ部21 Vout_1 Vout_2
#1 Y Z
#2 X Z
#3 Y Z
#4 X Z
#5 Y Z
#6 X Z
#7 Y Z
#8 X Z
【0066】
そして、図10(a)に示す2つの縦軸方向太線は、VRセンサ部21(#1,#3)のY軸成分信号を表しており、それらの加算平均[(#1Y+#3Y)/2]がY軸方向分力Fyに比例し、それらの減算結果[#1Y−#3Y]がZ軸周りのモーメントMzに比例することを示している。
同様に、図10(b)に示す2つの縦軸方向矢印は、VRセンサ部21(#1,#3)のZ軸成分信号を表しており、それらの加算平均[(#1Z+#3Z)/2]がZ軸方向分力Fzに比例し、それらの減算結果[#1Z−#3Z]がX軸周りのモーメントMxに比例することを示している。
【0067】
また、図10(c)はVRセンサ部21(#2,#4)のX軸成分信号の加算平均[(#2X+#4X)/2]がX軸方向分力Fxに比例し、それらの減算結果[#2X−#4X]がZ軸周りのモーメントMzに比例することを示し、図10(d)は同Z軸成分信号の加算平均[(#2Z+#4Z)/2]がZ軸方向分力Fzに比例し、それらの減算結果[#2Z−#4Z]がY軸周りのモーメントMyに比例することを示している。
【0068】
以上のように第2実施例によれば、本体52における4つの角部3a〜3dを成す直交する2辺のそれぞれにVRセンサ部21を配置し、それら8つのセンサ部21が有する2次コイル25より、可動部5の変位量に応じて変化する交流信号を出力するように構成したので、上述した6分力のそれぞれを、2つのVRセンサ部21の出力の組み合わせから平均して求めることができ、荷重の検出精度を一層向上させることができる。
【0069】
(第3実施例)
図11及び図12は本発明の第3実施例を示すものであり、第2実施例と異なる部分について説明する。第3実施例の多軸荷重センサ53は、第2実施例の多軸荷重センサ51より2個のVRセンサ部21(#7,#8)を除去したもので、本体54は、それに応じて対応する取付け穴13や挿入穴15が除去されている。この場合、VRセンサ部は、必ずしも第1及び第2実施例と同様に、ステータコア23の突極部23a〜23d,1次コイル24a〜24d,2次コイル25a〜25dを全て備える必要はない。第1実施例の図5に示したように、突極部23a及び23c,1次コイル24a及び24c,2次コイル25a及び25cだけを備えたVRセンサ部21’であっても良く、この場合でも、X,Y,Zの各軸方向分力Fx,Fy,Fzの検出が可能となる。
【0070】
ただし、VRセンサ部21’(#2,#4)をX軸方向の変位検出用とし、VRセンサ部21’(#1,#3)をY軸方向の変位検出用とし、VRセンサ部21’(#5,#6)をZ軸方向の変位検出用とした場合、VRセンサ部21’(#5,#6)については、突極部23a及び23cに沿う軸方向が、基部2a,2cの辺方向と直交するようにしてステータコア23を配置する。
【0071】
次に、第3実施例の作用について図12も参照して説明する。第3実施例の多軸荷重センサ53では、VRセンサ部21’(#2,#4)が出力する信号#2X,#4Xの加算平均よりX軸方向分力Fxを求め、VRセンサ部21’(#1,#3)が出力する信号#1Y,#3Yの加算平均よりY軸方向分力Fyを求め、VRセンサ部21’(#5,#6)が出力する信号#5Z,#6Zの加算平均よりZ軸方向分力Fzを求めることができる。
以上のように第3実施例によれば、6つのVRセンサ部21によって、可動部5に印加される3軸方向の荷重Fz,Fy,Fzを、3組のVRセンサ部21’より出力される交流信号の平均からそれぞれ求めることができる。
【0072】
(第4実施例)
図13は本発明の第4実施例を示すものであり、第1実施例と異なる部分について説明する。第4実施例の多軸荷重センサ55は、第1実施例の多軸荷重センサ22より、2個のVRセンサ部21(#1,#2)を除去したもので、本体(起歪体)56は、それに応じて対応する取付け穴13や挿入穴15が除去されている。斯様な構成でも第3実施例と同様に、X,Y,Zの各軸方向分力Fx,Fy,Fzの検出が可能となる。
【0073】
次に第4実施例の作用について説明する。第4実施例では、第1実施例のように全ての分力について2つのVRセンサ部21からの出力を平均して求めることはしない。したがって、X軸方向分力Fxについては、VRセンサ部21(#4)の出力Vout_1:#4Xのみに基づいて求め、Y軸方向分力Fyについては、VRセンサ部21(#3)の出力Vout_1:#3Yのみに基づいて求める。そして、Z軸方向分力Fzについては、VRセンサ部21(#3,#4)の各出力Vout_2:#3Z,#4Zの2つが得られるので、それらの加算平均に基づいて求めるようにする。
以上のように第4実施例によれば、2つのVRセンサ部21からの出力によって、各軸方向荷重Fz,Fy,Fzを求めることができる。
【0074】
(第5実施例)
図14は本発明の第5実施例を示すものであり、第1実施例と異なる部分について説明する。図14は図4相当図であり、第5実施例のVRセンサ部57は、第1実施例のVRセンサ部21と同様に、可動側の変位量を2軸方向について検出するもので、ステータコア23’における突極部23a’〜23d’が、可動コア26’と対向する部位の面形状が、第1実施例のように円弧をなす曲面ではなく、平面をなすように形成されている。また、可動コア26’が突極部23a’〜23d’と対向する部分も同様に平面をなすように形成されており、突極部23a’〜23d’と可動コア26とがなす各部の検出ギャップδa〜δdは、何れも平行をなしている。
【0075】
上記のように構成することで、検出ギャップδa〜δdは、ステータコア23’と可動コア26’との対向面が平行を維持した状態で変化するようになり、可動側が変位した場合に、X軸方向,Y軸方向との間における磁気的なクロスカップリングの発生が防止される。したがって、変位量の検出精度をより一層向上させることができる。
【0076】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
ストッパ34,スペーサ35,ボルト36より構成される変位制限手段を、基部2側に固定しても良い。
変位制限手段については、必要に応じて設ければ良い。
第3実施例において、3軸方向荷重Fz,Fy,Fzを、2個のVRセンサ部21の出力を平均して求める必要がない場合には、VRセンサ部21を3個のみ(例えば#1,#2,#5)配置すれば良い。
本体1の具体的構成も一例であり、少なくとも基部,起歪部,可動部を備えており、VRセンサ部を取り付け可能に構成されていれば、その他の詳細部分については個別の設計に応じて適宜変更して良い。
【符号の説明】
【0077】
図面中、1は本体(起歪体)、2は基部、5は可動部、6は第1支持部(起歪部)、8は第2支持部(起歪部)、10は可動コア取付部、13は取付け穴(ステータコア取付部)、21,21’はVRセンサ部、22は多軸荷重センサ、23はステータコア、23a〜23dは突極部、24は1次コイル、25は2次コイル、26は可動コア、30はボルト(支持部材,変位制限手段)、32は受入れ穴(凹部,変位制限手段)、33はスペーサ(変位制限部材,変位制限手段)、34はストッパ(変位制限手段)、35はストッパ(変位制限部材,変位制限手段)、51は多軸荷重センサ、52は本体(起歪体)、53は多軸荷重センサ、54は本体(起歪体)、55は多軸荷重センサ、56は本体(起歪体)、57はVRセンサ部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部が基部として固定され、中心部に形成される可動部が前記基部に対して弾性変形する起歪部によって四方より支持され、前記可動部に対し複数軸方向に印加される荷重に応じて前記基部との相対位置が変位するように形成される起歪体と、
前記基部に配置され、ヨーク部の内周側で互いに対向する位置に2つの突極部を有するステータコアと、前記突極部に巻装されて所定の交流信号が入力される1次コイルと、この1次コイルと共に前記突極部に巻装される2次コイルと、前記可動部に固定され、前記1次コイルが発生する磁束が通る磁気回路を前記ステータコアと共に形成し、前記可動部の変位に伴い前記突極部との間の空隙長が変化するように配置される可動コアとを備えてなるセンサ部とを備え、
前記基部は、前記起歪部の位置で区分される4つの領域の1つに、直交する2辺を備えたステータ取付部を有し、
前記可動部は、前記ステータ取付部側に延設され、前記2辺に対してそれぞれ平行となる2辺を備えた可動コア取付部を有し、
前記ステータコアを前記ステータ取付部に取り付けると共に、前記可動コアを前記可動コア取付部に取り付けて、2つのセンサ部を前記2辺にそれぞれ配置し、
前記2つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力することを特徴とする多軸荷重センサ。
【請求項2】
前記起歪部は、剛性が比較的低い第1支持部と、剛性が前記第1支持部よりも高く且つ前記基部よりも低い第2支持部とを互いに直交する状態で組み合わせて構成されていることを特徴とする請求項1記載の多軸荷重センサ。
【請求項3】
前記起歪部は、前記第1支持部が前記基部側に、当該基部が延設されている方向と平行に配置されると共に、前記第2支持部が前記可動部側に配置されており、前記第1支持部の中央部と前記第2支持部の先端部とが連続することでT字型に構成されていることを特徴とする請求項2記載の多軸荷重センサ。
【請求項4】
前記起歪体は、前記4つの領域の他の1つに、前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記各取付部に、前記センサ部を更に1つ、前記ステータコアの突極部が前記2辺と直交する方向に配置し、
前記3つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の多軸荷重センサ。
【請求項5】
前記起歪体は、前記2つのセンサ部が配置されている領域の対角線上に位置する領域にも、前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記各取付部の2辺に、前記センサ部を更に2つ配置し、
前記4つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の多軸荷重センサ。
【請求項6】
前記起歪体は、他の2つの領域にも前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記各取付部の1辺に、前記センサ部を対称となるようにそれぞれ配置し、
前記6つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力することを特徴とする請求項5記載の多軸荷重センサ。
【請求項7】
前記センサ部は、前記ステータコアに、前記2つの突極部が配置されている方向と直交する方向にも、前記1次コイル及び前記2次コイルが巻装された2つの突極部を備えていることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の多軸荷重センサ。
【請求項8】
前記センサ部は、前記突極部と前記可動コアとが対向する部位の形状がそれぞれ平面に形成され、両者の対向面が平行をなすように配置されていることを特徴とする請求項7記載の多軸荷重センサ。
【請求項9】
前記起歪体は、前記4つの領域の全てに、前記ステータ取付部及び前記可動コア取付部を備え、
前記センサ部を、前記各取付部の各辺にそれぞれ配置し、
前記8つのセンサ部が有する2次コイルより、前記可動部の変位量に応じて変化する交流信号を出力することを特徴とする請求項7又は8記載の多軸荷重センサ。
【請求項10】
前記起歪体に、前記可動部の変位量を制限する変位制限手段を配置したことを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の多軸荷重センサ。
【請求項11】
前記変位制限手段は、
前記基部と前記可動部との間に配置され、中空部を有する変位制限部材と、
前記基部側より挿入され、前記変位制限部材の中空部を貫通して先端部が前記可動部側に設けられた凹部に到達するように配置される支持部材とで構成されることを特徴とする請求項10記載の多軸荷重センサ。
【請求項12】
前記変位制限手段は、前記基部,前記可動部の何れか一方の両面側に、スペーサを介して固定される変位制限部材を備え、
前記変位制限部材の先端部は、前記基部,前記可動部の他方側に係るように配置されることを特徴とする請求項10又は11記載の多軸荷重センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−169564(P2010−169564A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12985(P2009−12985)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(390029193)エヌエスディ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】