説明

多連弁装置

【課題】 弁ハウジング内に形成したスプール摺動穴が締結部材の締結力で歪むように変形するのを防止でき、スプールの摺動性を確保できるようにする。
【解決手段】 4個の弁ハウジング2〜5のうち一方の弁ハウジング2,4に、スプール摺動穴7,8から離間した位置に有底な凹窪部12をそれぞれ形成する。そして、各凹窪部12の底面側には、スプール摺動穴7,8の軸線よりも合せ面2B,4Bに近い高さ位置に締結ボルト6用の座面部14をそれぞれ形成する。また、相手方となる他の弁ハウジング3,5には、スプール摺動穴7,8から離間して前記凹窪部12とは異なる位置に他の凹窪部18をそれぞれ形成する。そして、凹窪部18の底面側には、スプール摺動穴7,8の軸線よりも合せ面3B,5Bに近い高さ位置に締結ボルト6用の座面部19をそれぞれ形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械に搭載され、走行用および作業用等の複数の油圧アクチュエータを駆動制御するのに好適に用いられる多連弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械では、例えば油圧ポンプ等の油圧源から油圧アクチュエータ(例えば、油圧モータ、油圧シリンダ等)に圧油を供給・排出するため、該油圧アクチュエータと油圧源との間に複数のスプール弁(方向制御弁)からなる多連弁装置を設ける構成としている。
【0003】
そして、この種の従来技術による多連弁装置には、複数のスプール摺動穴を有し該各スプール摺動穴に連通する油圧源側の油通路、アクチュエータ側の油通路がそれぞれ設けられた弁ハウジングと、該弁ハウジングの各スプール摺動穴内にそれぞれ挿嵌して設けられ前記油圧源側の油通路とアクチュエータ側の油通路とを選択的に連通,遮断する複数のスプールとを備えたものがある。
【0004】
また、このような多連弁装置に用いる弁組立体としては、例えば3〜4個以上の弁ハウジングを有し、これらの弁ハウジングを互いの合せ面により衝合して重ね合せ、この状態で前記各弁ハウジングを複数の締結部材により一体的に締結する構成とした、所謂スタック型と呼ばれるタイプのものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−344143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来技術による多連弁装置は、例えば複数個の弁ハウジングを互いの合せ面で衝合して重ね合せ、この状態で長尺ボルトからなる締結部材を各弁ハウジング内に貫通させるように挿入し、その先端(突出端)にナットを螺着することにより複数個の弁ハウジングを一体に締結する構成としている。
【0007】
この場合、複数の弁ハウジングは、一般に鋳物で製造されており、それぞれの合せ面を貫通して延びる曲がりくねった通路穴が形成されている。そして、これらの通路穴は合せ面の位置が通路の接続箇所となるため、前記長尺ボルトとナットとによる締付力を十分に大きくしない限り、両者の合せ面の間から油漏れ等が発生する原因になってしまう。
【0008】
このため、各弁ハウジングに形成したスプール摺動穴は、前記長尺ボルトとナットとによる強い締付力で歪み変形することがある。そして、この場合の歪み量が大きくなると、スプール摺動穴内に挿嵌されるスプールの動きが悪くなって、多連弁装置としての信頼性、寿命が低下する。
【0009】
そこで、従来技術では、複数の弁ハウジングを一体に締結したままの状態で、スプール摺動穴の仕上げ加工等を追加で行うようにしている。しかし、このような追加の仕上げ加工を行うと、その後の洗浄作業によっても追加の仕上げ加工で発生した切粉が、ハウジングの合せ面を貫通して延びる通路穴の中に残留する可能性があり、洗浄作業等を十分に行うことが難しく、多連弁装置としての信頼性が低下するという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、弁ハウジング内に形成したスプール摺動穴が締結部材の締結力で歪むように変形するのを防止でき、信頼性や寿命を向上することができるようにした多連弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明は、スプールを摺動可能に挿嵌するためのスプール摺動穴を有し該スプール摺動穴を挟んで対向する両方の外側面または1つの外側面が合せ面となった略長方形状のブロック体からなる複数個の弁ハウジングと、該各弁ハウジングを前記合せ面で衝合し重ね合せた状態で該各弁ハウジングを一体的に締結する複数の締結部材とを備えてなる多連弁装置に適用される。
【0012】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記各弁ハウジングには、前記スプール摺動穴の軸線よりも前記合せ面に近い高さ位置に締結用の座面部を形成し、前記締結部材は、前記各弁ハウジングのうち一方の弁ハウジングに設けた前記座面部を相手方の弁ハウジングに対して押付けた状態で2つの弁ハウジング間を締結する構成としたことにある。
【0013】
また、請求項2の発明によると、前記各弁ハウジングには、前記スプール摺動穴の伸長方向をX軸方向とし、該X軸方向に対してそれぞれ垂直な方向をY軸方向、Z軸方向とした場合に、前記座面部をX軸方向に伸びる前記スプール摺動穴に対しY軸方向に離間して複数個設け、該各座面部は、Z軸方向で前記スプール摺動穴の軸線よりも前記合せ面に近い位置に形成する構成としている。
【0014】
また、請求項3の発明によると、前記各弁ハウジングは、X軸方向に伸びる前記スプール摺動穴に対しY軸方向に離間してZ軸方向に凹設され前記締結部材が挿入される複数の凹窪部を有し、前記各座面部は該各凹窪部の底面側に設ける構成としている。
【0015】
さらに、請求項4の発明によると、前記一方の弁ハウジングに設けた前記座面部には、前記相手方の弁ハウジングとの合せ面に向けて延びるボルト挿通穴を穿設し、前記相手方の弁ハウジングには、該ボルト挿通穴と対向する位置で前記スプール摺動穴の軸線よりも前記合せ面に近い位置に雌ねじ穴を形成し、前記締結部材は前記ボルト挿通穴を介して該雌ねじ穴に螺合される雄ねじを有した締結ボルトにより構成している。
【発明の効果】
【0016】
上述の如く、請求項1の発明によれば、例えば上,下に重ね合せた2つの弁ハウジングは、一方の弁ハウジングの座面部を相手方の弁ハウジングに対して押付けた状態で締結部材により締結することができる。そして、前記座面部の高さ位置は、スプール摺動穴の軸線よりも合せ面に近い高さ位置であるため、締結部材による締付力の影響がスプール摺動穴に及ぶのを低減することができ、スプール摺動穴が歪むように変形するのを抑えることができる。
【0017】
しかも、2つの弁ハウジングは、それぞれの合せ面を互いに衝合し重ね合せた状態で締結部材により一体的に締結されるため、両者の合せ面同士を密に当接するように衝合することができ、当該合せ面における油漏れ、シール不良等の発生を抑え、シール性を確保することができる。これにより、多連弁装置としての信頼性を向上することができ、耐久性、寿命を高めることができる。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、弁ハウジングには、X軸方向に延びるスプール摺動穴に対しY軸方向に離間して複数の座面部を設け、これらの座面部はZ軸方向で前記スプール摺動穴の軸線よりも合せ面に近い位置に形成しているので、2つの弁ハウジングはそれぞれの合せ面をZ軸方向で互いに衝合し重ね合せるようにして複数の締結部材により一体的に締結することができ、各締結部材による締付力の影響が各スプール摺動穴に及ぶのを低減することができる。
【0019】
また、請求項3の発明によると、弁ハウジングには、X軸方向に延びるスプール摺動穴に対しY軸方向に離間してZ軸方向に凹設され各締結部材が挿入される複数の凹窪部を設けることにより、該各凹窪部の底面側に前記座面部をそれぞれ形成することができる。そして、この場合の凹窪部は、弁ハウジングのZ軸方向の両側に位置する2つの合せ面のうち、一方の合せ面から他方の合せ面に向けてZ軸方向に延びる凹溝として形成することができ、その溝深さをスプール摺動穴の軸線よりも下方となる深さに設定することができる。
【0020】
さらに、請求項4の発明によると、座面部には相手方の弁ハウジングとの合せ面に向けて延びるボルト挿通穴を穿設し、相手方の弁ハウジングには該ボルト挿通穴と対向する位置で前記スプール摺動穴の軸線よりも前記合せ面に近い位置に雌ねじ穴を形成し、締結部材は前記ボルト挿通穴を介して該雌ねじ穴に螺合される締結ボルトにより構成している。これにより、例えば上,下に重ね合せた2つの弁ハウジングのうち、一方の弁ハウジングの座面部から締結ボルトをボルト挿通穴内に挿通し、その先端側を相手方の弁ハウジング側で雌ねじ穴に螺合することができ、2つの弁ハウジング間には強い締結力を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態による多連弁装置を示す正面図である。
【図2】図1の多連弁装置を上方からみた平面図である。
【図3】図1の多連弁装置を右側からみた右側面図である。
【図4】多連弁装置を図2中の矢示IV−IV方向からみた縦断面図である。
【図5】図4中の弁ハウジングを組立てる前の分解状態で示す断面図である。
【図6】比較例による多連弁装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態による多連弁装置を、添付図面を参照して詳細に説明する。ここで、図1ないし図5は本発明の実施の形態による多連弁装置を示している。
【0023】
図中、1は本実施の形態で採用した多連弁装置で、該多連弁装置1は、図1〜図4に示すように、上,下に重ね合わせて衝合される複数個の弁ハウジング2,3,4,5と、該弁ハウジング2,3,4,5を一体的に締結する複数個の締結ボルト6,6,…等とにより構成されている。
【0024】
そして、弁ハウジング2,3,4,5は、例えば図5に示すように予め決められた高さ寸法Hに形成されている。また、締結ボルト6は締結部材を構成するもので、図5中に示すように、ボルトヘッドとしての頭部6Aと、該頭部6Aとは軸方向の反対側に位置して外周面に雄ねじが形成されたねじ部6Bとを有している。
【0025】
この場合、弁ハウジング2〜5は、左,右方向(図2中のX軸方向)と前,後方向(Y軸方向)に延びると共に、上,下方向(Z軸方向)にもそれぞれ延びた略長方形状または直方体状のブロック体として、例えば鋳造等の成形手段を用いて形成されている。また、弁ハウジング2には、図4に示す如くZ軸方向の上,下面(外側面)が合せ面2A,2Bとして形成され、他の弁ハウジング3〜5についても、同様に上,下の合せ面3A,3B、合せ面4A,4B、合せ面5A,5Bがそれぞれ形成されている。
【0026】
そして、弁ハウジング2は、相手方の弁ハウジング3上に合せ面2B,3Aを介して互いに衝合するように重ね合わされる。また、弁ハウジング3は、相手方の弁ハウジング4上に合せ面3B,4Aを介して互いに衝合するように重ね合わされ、弁ハウジング4は、相手方の弁ハウジング5上に合せ面4B,5Aを介して互いに衝合するように重ね合わされるものである。
【0027】
また、弁ハウジング2には、図1に示すように油液の給排ポート2C,2D等が設けられ、これらの給排ポート2C,2Dは、後述のスプール摺動穴7または8に連通し、スプールにより油液の給排が制御されるものである。なお、他の弁ハウジング3〜5にも、同様に給排ポート3C,3D、給排ポート4C,4D、給排ポート5C,5D等が設けられている。
【0028】
7,8は弁ハウジング2に形成された例えば2個のスプール摺動穴で、該スプール摺動穴7,8は、図1、図2に示すようにX軸方向で互いに平行に延びた円形穴として形成され、Y軸方向で互いに離間して配設されている。この場合、スプール摺動穴7,8の軸線O−Oは、図2に例示するようにX軸と平行に延びている。そして、図4、図5中では、スプール摺動穴7,8の軸心Oを通りY軸と平行な直線を後述の仮想線13により示している。
【0029】
そして、これらのスプール摺動穴7,8内には、例えば油圧源と油圧アクチュエータとの間で油通路間を連通,遮断するスプール(いずれも図示せず)が摺動可能に挿嵌されるものである。また、このようなスプール摺動穴7,8は、他の弁ハウジング3〜5についても同様に形成されている。
【0030】
9,10は弁ハウジング2に着脱可能に設けられたカバー筒で、該カバー筒9,10は、図1、図2に示すようにX軸方向に延びるスプール摺動穴7の軸方向両側に位置して弁ハウジング2の側面に取付けられている。ここで、カバー筒9,10にはそれぞれフランジ部9A,10Aが設けられ、該フランジ部9A,10Aは、それぞれボルト11,11,…により弁ハウジング2の各側面に固定されている。そして、これらのカバー筒9,10は、所謂方向制御弁の油圧パイロット部を構成するものである。
【0031】
また、このようなカバー筒9,10は、図2に示すようにX軸方向に延びるスプール摺動穴8の軸方向両側でも同様に弁ハウジング2の各側面にフランジ部9A,10A、ボルト11を介して設けられている。さらに、このようなカバー筒9,10は、図1に示すように他の弁ハウジング3〜5に対しても、X軸方向に延びるスプール摺動穴7,8の軸方向両側にそれぞれ位置して弁ハウジング3〜5の各側面にフランジ部9A,10A、ボルト11を介して設けられている。
【0032】
12,12,…は弁ハウジング2に設けられた凹窪部で、該各凹窪部12は、図2〜図4に示すようにスプール摺動穴7,8からY軸方向の前,後に離間してZ軸方向に延びる有底な凹溝として形成され、その底面側が後述の座面部14を構成するものである。そして、凹窪部12は、締結部材である締結ボルト6を内側に挿入可能な大きさをもって形成されている。
【0033】
ここで、各凹窪部12は、図2に示す如く弁ハウジング2の4隅となる角隅側を予め決められた深さで切取るように形成され、その平面形状はL字形をなしている。また、凹窪部12の溝深さH1 は、図5に示す如く弁ハウジング2の高さ寸法Hに対して、例えば下記の数1式を満たす関係に設定されている。
【0034】
そして、凹窪部12は、スプール摺動穴7,8の軸心O(例えば、2つの軸心Oを通りY軸と平行な仮想線13)よりも下方となる位置までZ軸方向に凹設されている。
【0035】
【数1】

【0036】
即ち、凹窪部12は、弁ハウジング2のZ軸方向の両側に位置する2つの合せ面2A,2Bのうち、一方の合せ面2Aから他方の合せ面2Bに向けてZ軸方向に延びる凹溝として形成され、その溝深さH1 は、スプール摺動穴7,8の軸心O(仮想線13)よりも下方となる深さに設定されている。
【0037】
14,14,…は各凹窪部12により弁ハウジング2に形成された座面部を示し、これらの座面部14は、各凹窪部12と共に弁ハウジング2の4隅となる角隅側に設けられ、凹窪部12の底面側に平面形状がL字状をなす座面として形成されている。そして、座面部14の高さ寸法H2 は、凹窪部12の溝深さH1 により決められ、弁ハウジング2の高さ寸法Hに対して、例えば下記の数2式、数3式を満たす関係に設定されている。
【0038】
【数2】

【0039】
【数3】

【0040】
これにより、座面部14の高さ位置は、スプール摺動穴7,8の軸心O(仮想線13)よりも下方となる位置、即ち合せ面2Bに近い位置に配設されている。そして、座面部14と合せ面2Bとの間には、図5に示すようにZ軸方向に延びるボルト挿通穴15が穿設され、このボルト挿通穴15内には、凹窪部12側から締結ボルト6が挿入されるものである。また、座面部14の高さ寸法H2 を、寸法(H/6)よりも大きくすることにより、座面部14から合せ面2Bまでの肉厚を確保し、所要の強度を保つことができる。
【0041】
ここで、締結部材を構成する締結ボルト6は、その頭部6A側が座面部14に当接する位置までボルト挿通穴15内に挿入され、ねじ部6Bの先端側が相手方の後述する雌ねじ穴17に螺着される。これにより、弁ハウジング2と相手方の弁ハウジング3とは、複数個の締結ボルト6を用いて一体的に締結されるものである。
【0042】
16,16,…は弁ハウジング2の合せ面2A側に設けられ内周面に雌ねじが形成された雌ねじ穴で、該各雌ねじ穴16は、図2、図4に示すように弁ハウジング2の合せ面2A側で、凹窪部12に隣接した位置に配設されている。そして、雌ねじ穴16は、Z軸方向に所定の深さをもって延び、凹窪部12からはY軸方向に離間した位置に形成されている。この場合、雌ねじ穴16は、スプール摺動穴7,8の軸心(仮想線13)よりも合せ面2Aに近い長さ位置となるように、軸方向の長さ寸法を形成するのがよい。なお、弁ハウジング2の雌ねじ穴16についても、弁ハウジング2上に別の弁ハウジング(図示せず)を重ね合わせる場合に締結ボルト6のねじ部6Bが螺合されるものである。
【0043】
17,17,…は弁ハウジング3の合せ面3A側に設けられ内周面に雌ねじが形成された雌ねじ穴で、該各雌ねじ穴17は、図4に示す如く相手方となる弁ハウジング3の合せ面3A側で、弁ハウジング2のボルト挿通穴15と上,下方向(Z軸方向)で対向する位置に配設されている。この場合、雌ねじ穴17は、スプール摺動穴7,8の軸心(仮想線13)よりも合せ面3Aに近い長さ位置となるように、軸方向の長さ寸法を形成するのがよい。そして、雌ねじ穴17には、弁ハウジング2の凹窪部12側からボルト挿通穴15内に挿入された締結ボルト6のねじ部6Bが螺合され、これにより、2つの弁ハウジング2,3が図4に示す如く締結されるものである。
【0044】
18,18,…は相手方の弁ハウジング3に設けられた凹窪部で、該各凹窪部18は、図3〜図5に示すようにスプール摺動穴7,8からY軸方向に離間してZ軸方向に延びる有底な凹溝として形成され、その内側には締結ボルト6が隙間をもって挿入される。そして、凹窪部18は、弁ハウジング3の合せ面3A側に雌ねじ穴17と隣接して配置され、一方の弁ハウジング2に設けた雌ねじ穴16と上,下方向(Z軸方向)で対向する位置に配設されるものである。
【0045】
ここで、凹窪部18は、弁ハウジング2に設けた凹窪部12と同様に、溝深さH1 を有し、弁ハウジング3の高さ寸法Hに対して前記の数1式を満たす関係に設定されている。しかし、弁ハウジング3の凹窪部18は、平面形状がコ字状またはU字状をなして形成され、平面形状がL字状をなす凹窪部12(図2参照)とは異なるものである。
【0046】
19,19,…は各凹窪部18により弁ハウジング3に形成された座面部を示し、これらの座面部19は、各凹窪部18の底面側に平面形状がコ字状またはU字状をなす座面として形成されている。そして、座面部19は、前述した弁ハウジング2の座面部14と同様な高さ寸法H2 を有し、弁ハウジング3の高さ寸法Hに対して前記数2式、数3式を満たす関係に設定されている。これにより、座面部19の高さ位置は、図5に示す如くスプール摺動穴7,8の軸心O(仮想線13)よりも下方となる位置、即ち合せ面3Bに近い位置に配設されている。
【0047】
20,20,…は各座面部19に穿設されたボルト挿通穴で、該各ボルト挿通穴20は、座面部19と合せ面3Bに向けてZ軸方向に延びる貫通穴として形成され、このボルト挿通穴20内には、弁ハウジング3の凹窪部18側から締結ボルト6が挿入される。そして、ボルト挿通穴20に挿入された締結ボルト6は、その頭部6A側が座面部19に当接され、ねじ部6Bの先端側が相手方の雌ねじ穴16に螺着され、これによって、2つの弁ハウジング3,4が図4に示す如く締結されるものである。
【0048】
また、弁ハウジング3の相手方となる弁ハウジング4には、前述した弁ハウジング2と同様に、凹窪部12、座面部14、ボルト挿通穴15および雌ねじ穴16等がそれぞれ形成されている。一方、弁ハウジング4の相手方となる弁ハウジング5には、前述した弁ハウジング3と同様に、雌ねじ穴17、凹窪部18、座面部19およびボルト挿通穴20等がそれぞれ形成されている。
【0049】
21,21,…は弁ハウジング2〜5の側面に設けられた取付穴で、これらの取付穴21には、カバー筒9,10のフランジ部9A,10Aを介して各ボルト11(図1〜図3参照)が螺着され、これにより各カバー筒9,10は、弁ハウジング2〜5の両側面に着脱可能に取付けられるものである。
【0050】
本実施の形態による多連弁装置1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0051】
まず、当該多連弁装置1の組立作業について説明すると、下記のように弁ハウジング2,3,4,5を順次上,下に重ね合わせるように衝合し、この状態で弁ハウジング2,3,4,5間を、それぞれ複数個の締結ボルト6を用いて一体的に締結するものである。
【0052】
即ち、多連弁装置1の組立作業時には、最初に、弁ハウジング5の合せ面5A上に弁ハウジング4の合せ面4Bを重ね合せるように衝合し、この状態で弁ハウジング4の凹窪部12側からボルト挿通穴15内に締結ボルト6を挿入する。そして、ボルト挿通穴15に挿入された締結ボルト6の頭部6A側を弁ハウジング4の座面部14に強く当接させる位置まで、ねじ部6Bの先端側を弁ハウジング5の雌ねじ穴17に螺着し、これによって2つの弁ハウジング4,5間を締結ボルト6により強固に締結する。
【0053】
次に、弁ハウジング3の合せ面3Bを弁ハウジング4の合せ面4A上に重ね合せるように衝合し、この状態で弁ハウジング3の凹窪部18側からボルト挿通穴20内に締結ボルト6を挿入する。そして、締結ボルト6の頭部6A側が弁ハウジング3の座面部19に強く当接するように、ねじ部6Bの先端側を弁ハウジング4の雌ねじ穴16に螺着し、これによって2つの弁ハウジング3,4間を締結ボルト6により強固に締結する。
【0054】
さらに、弁ハウジング3の合せ面3A上には、弁ハウジング2の合せ面2Bを重ね合せるように衝合し、この状態で弁ハウジング2の凹窪部12側からボルト挿通穴15内に締結ボルト6を挿入する。そして、締結ボルト6の頭部6A側が弁ハウジング2の座面部14に強く当接するように、ねじ部6Bの先端側を弁ハウジング3の雌ねじ穴17に螺着し、これによって2つの弁ハウジング2,3間を締結ボルト6により強固に締結する。
【0055】
一方、弁ハウジング2〜5の各スプール摺動穴7,8内には、それぞれのスプールが摺動可能に挿嵌し、各カバー筒9,10側には、パイロット配管(いずれも図示せず)等を接続する。これにより、多連弁装置1の弁ハウジング2側で、例えば左,右の走行用の方向制御弁を構成できる。そして、他の弁ハウジング3〜5側では、例えば作業装置のブーム用、アーム用、バケット用または旋回用の方向制御弁等を構成することができる。
【0056】
これに対し、図6に例示した比較例による多連弁装置1′の場合には、弁ハウジング2′,3′,4′,5′を上,下に重ね合わせるように衝合し、この状態で弁ハウジング2′〜5′間にわたって、例えば4本の長尺ボルト22,22,…を上,下方向に貫通して設ける。そして、各長尺ボルト22の先端(下端)側にはそれぞれナット23を螺着し、弁ハウジング2′〜5′間を長尺ボルト22とナット23とによって一体的に締結するものである。
【0057】
しかし、このように長尺ボルト22とナット23とを用いて弁ハウジング2′〜5′間を締結した場合には、弁ハウジング2′〜5′に形成したスプール摺動穴7′,8′は、長尺ボルト22とナット23とによる締付力を、図6中の矢示F,F方向に受けるため、例えば図6中に二点鎖線で示す如く楕円形状に歪み変形することがある。そして、この場合の歪み量が大きくなると、スプール摺動穴7′,8′内に挿嵌されるスプールの動きが悪くなって、多連弁装置1′としての信頼性、寿命が低下する。
【0058】
そこで、本実施の形態では、多連弁装置1を構成する例えば4個の弁ハウジング2〜5のうち弁ハウジング2,4には、スプール摺動穴7,8からY軸方向に離間してZ軸方向に延びる有底な凹窪部12,12,…を形成し、これらの凹窪部12の底面側には、スプール摺動穴7,8の軸心O(仮想線13)よりも下方となって合せ面2B,4Bに近い高さ位置に締結ボルト6用の座面部14をそれぞれ形成している。
【0059】
また、相手方となる他の弁ハウジング3,5には、スプール摺動穴7,8からY軸方向に離間して前記各凹窪部12とは異なる位置にZ軸方向に延びる他の凹窪部18,18,…を形成し、これらの凹窪部18の底面側には、スプール摺動穴7,8の軸心O(仮想線13)よりも下方となって合せ面3B,5Bに近い高さ位置に締結ボルト6用の座面部19を形成している。
【0060】
そして、前記各座面部14,19には、相手方となる弁ハウジング3〜5の合せ面3A〜5Aに向けてZ軸方向に延びるボルト挿通穴15,20をそれぞれ穿設し、弁ハウジング2〜5の合せ面2A〜5A側には、各ボルト挿通穴15,20と対向する位置に締結ボルト6がそれぞれ螺着される雌ねじ穴16,17を形成する構成としている。
【0061】
これにより、例えば上,下に重ね合せた2つの弁ハウジング2,3を、一方の弁ハウジング2の座面部14からボルト挿通穴15を介して相手方の弁ハウジング3の雌ねじ穴17に向けて伸びた締結ボルト6により締結することができる。そして、この場合には、座面部14の高さ位置がスプール摺動穴7,8の軸心O(仮想線13)よりも合せ面2B,3Aに近い高さ位置に配置されている。
【0062】
このため、締結ボルト6による締付力は、図4中に示す矢示F,F方向で両者の合せ面2B,3Aに向けて主に作用し、締結力の影響がスプール摺動穴7,8に及ぶのを低減することができ、これによりスプール摺動穴7,8が歪むように変形するのを抑えることができる。
【0063】
しかも、この場合の弁ハウジング2,3は、それぞれの合せ面2B,3Aを互いに衝合し重ね合せた状態で締結ボルト6により一体的に締結されるため、両者の合せ面2B,3Aを密に当接するように衝合することができ、合せ面2B,3A間における油漏れ、シール不良等の発生を抑え、十分なシール性を確保することができる。
【0064】
また、他の弁ハウジング3,4間、弁ハウジング4,5間についても、夫々の締結ボルト6による締付力の影響がスプール摺動穴7,8に及ぶのを低減することができ、これによりスプール摺動穴7,8が歪むように変形するのを抑えることができる。
【0065】
また、例えば一方の弁ハウジング2,4に設ける凹窪部12、座面部14と相手方の弁ハウジング3,5に設ける凹窪部18、座面部19とを、Y軸方向で互いに異なる位置に配置することにより、両者の凹窪部12,18と座面部14,19とがZ軸方向で互いに重なり合うのを防ぐことができ、弁ハウジング2〜5毎に締結ボルト6による締結強度を十分に確保することができる。
【0066】
従って、本実施の形態によれば、複数の弁ハウジング2〜5を上,下に重ね合せて締結ボルト6により締結したときに、スプール摺動穴7,8が歪むように変形するのを抑えることができ、これにより、多連弁装置1としての信頼性、組立時の作業性等を向上することができ、その耐久性、寿命を高めることができる。
【0067】
なお、前記実施の形態では、合計4個の弁ハウジング2〜5を上,下に重ね合せ、それぞれを締結ボルト6により締結する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば2個の弁ハウジングを上,下に重ね合せて締結ボルト6により締結する構成としてもよく、3個の弁ハウジング、または5個以上の弁ハウジングを重ね合わせる場合にも適用できるものである。
【0068】
また、前記実施の形態では、多連弁装置を油圧ショベル等の建設機械における制御弁装置に用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明による多連弁装置はこれに限らず、例えばホイール式油圧ショベル、油圧クレーン、ホイールローダ、ブルドーザ、またはダンプトラックと呼ばれる作業車両等にも適用することができ、建設機械以外の油圧装置にも適用できるものである。
【符号の説明】
【0069】
1 多連弁装置
2,3,4,5 弁ハウジング
2A,2B,3A,3B,4A,4B,5A,5B 合せ面
6 締結ボルト(締結部材)
7,8 スプール摺動穴
12,18 凹窪部
14,19 座面部
15,20 ボルト挿通穴
16,17 雌ねじ穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプールを摺動可能に挿嵌するためのスプール摺動穴を有し該スプール摺動穴を挟んで対向する両方の外側面または1つの外側面が合せ面となった略長方形状のブロック体からなる複数個の弁ハウジングと、該各弁ハウジングを前記合せ面で衝合し重ね合せた状態で該各弁ハウジングを一体的に締結する複数の締結部材とを備えてなる多連弁装置において、
前記各弁ハウジングには、前記スプール摺動穴の軸線よりも前記合せ面に近い高さ位置に締結用の座面部を形成し、
前記締結部材は、前記各弁ハウジングのうち一方の弁ハウジングに設けた前記座面部を相手方の弁ハウジングに対して押付けた状態で2つの弁ハウジング間を締結する構成としたことを特徴とする多連弁装置。
【請求項2】
前記各弁ハウジングには、前記スプール摺動穴の伸長方向をX軸方向とし、該X軸方向に対してそれぞれ垂直な方向をY軸方向、Z軸方向とした場合に、前記座面部をX軸方向に伸びる前記スプール摺動穴に対しY軸方向に離間して複数個設け、該各座面部は、Z軸方向で前記スプール摺動穴の軸線よりも前記合せ面に近い位置に形成してなる請求項1に記載の多連弁装置。
【請求項3】
前記各弁ハウジングは、X軸方向に伸びる前記スプール摺動穴に対しY軸方向に離間してZ軸方向に凹設され前記各締結部材が挿入される複数の凹窪部を有し、前記各座面部は該各凹窪部の底面側に設ける構成としてなる請求項2に記載の多連弁装置。
【請求項4】
前記一方の弁ハウジングに設けた前記座面部には、前記相手方の弁ハウジングとの合せ面に向けて延びるボルト挿通穴を穿設し、前記相手方の弁ハウジングには、該ボルト挿通穴と対向する位置で前記スプール摺動穴の軸線よりも前記合せ面に近い位置に雌ねじ穴を形成し、前記締結部材は前記ボルト挿通穴を介して該雌ねじ穴に螺合される雄ねじを有した締結ボルトにより構成してなる請求項1,2または3に記載の多連弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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