説明

多重シール式の複合目地構造、目地用二重シール、及び目地用二重シールの設計方法

【課題】目地空間を塞ぐ隣接した少なくとも2つのシールのうち建築物内方のものの耐疲労性を高くして、ライフサイクルの長い目地構造を提案する。
【解決手段】建築物の2つの壁体Pの対向端面の間に形成される目地空間4と、目地空間中に、少なくとも建築物の外から内へ相互に隣接させて設けた1次シール18A及び2次シール18Bを有し、かつこれら1次シール及び2次シールを区切る分離部20を含むシール機構10と、を具備し、1次シール18A及び2次シール18Bは、種類の異なる不定形のシーリング材料を充填して両壁体に密着させるとともに、密着状態で壁体からの圧縮応力に対して変形可能に形成され、2次シール18Bは、1次シールより圧縮変形及び引張変形の繰返しに対する高い耐疲労性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重シール式の複合目地構造、目地用二重シール、及び目地用二重シールの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の長寿命化に伴い、外壁接合部の水密性・気密性の信頼を高める必要が生じている。
【0003】
外壁接合部では、汎用的にシングルシールが使われる。例えば不定形のシーリング材をバックアップ材の非接着面(ボンドブレーカを貼った面)で支えたものが周知である(特許文献1)。他方、十分に目地深さがある場合、水密性向上のために目地の内外両側に互いに離れて2次シール及び1次シールを設けたダブルシールも存在する(特許文献2)。
【0004】
その2次シールと1次シールとの隙間に水が溜まることを防止するため、隙間中の水を排出する排水路を設けることも行われているが(特許文献3)、排水路が詰まる虞がある。
【0005】
また不定形のシール材を支えるバックアップ材を、管状の弾性ガスケットとして、その弾性力で水密性・気密性を発揮する二重シールが提案されている(特許文献4)。
【0006】
外壁材の隙間に定形の1次シールを、その外壁材を支えるフレーム同士の隙間に、1次シールと接する定形の2次シールをそれぞれ嵌合させた二重シールもある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−100378
【特許文献2】特開平08−226218
【特許文献3】特開平08−218504
【特許文献4】特開2000−73462
【特許文献5】特開2007−278019
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「矩形断面をもつシーリングジョイントの耐疲労性に及ぼす形状・寸法の影響」 田中享二 日本建築学会構造系論文報告集第390号 昭和63年8月
【非特許文献2】「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説」 日本建築学会 2008年2月出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4の二重シールは、中空管状の2次シールの弾性疲労により弾力を失うと水密性を損ない、交換が必要となる。また特許文献5の二重シールは、1次シールを外壁材同士の隙間に、また2次シールを外壁支持用のフレーム同士の間隙にそれぞれ嵌合したから、各シールを別々に交換しなければならず、面倒である。従ってメンテナンスコストが嵩む。
【0010】
出願人は、複合目地のライフサイクルを改善するため、建物の外側から内側へ積層状の複数のシールが順次止水機能を果たす隣接多重のシール構造に想起した。
【0011】
こうした積層状のシール構造は、外部からシーリング材を充填して構成することが簡便であるが、このような構造の耐疲労性についてはこれまで十分な研究がなかった。
【0012】
シングルシールの耐疲労性は良く研究されており、例えば図26に示す深さの異なる2つのシールを同様に伸縮させると、深さが大きい方のシールに先に亀裂CRが生じる。
【0013】
目地巾W及び目地深さDの比(D/W)である形状係数の減少により、亀裂発生に至るまでの変形の繰返し回数Nが増加することを表す次式も報告されている(非特許文献1)。
[数式3]logN=−0.48×log(D/P)+5.5
【0014】
しかしながら、これらの情報はシングルシールに関する知識である。シングルシールと積層乃至隣接型の多重シールとでは、各シールの挙動に相違がある。
【0015】
例えば出願人は図5に示す如く2種類のシールを隣接させた状態で、巾W方向に伸縮する実験を行った。そうすると、圧縮時に各シール深さの比により、図6(B)のように各シールが相互に圧接する態様や、図7(B)のように各シールが反対方向へ座屈する態様が見られた。図26の単一シールの変形と異なり、相互に隣接したシールは、その変形の向きが規制され、かつ相互に当接することで応力を及ぼし合う。
【0016】
出願人は、隣接型のシールに亀裂発生に至るまでの繰返し回数の測定実験を行い、そして多重シールのうち最終止水ラインとなるシーリング材と比べて耐疲労性の低いシールに着目して、そのシール深さ(d)及び目地巾(W)と亀裂発生までの繰返し変形回数との疲労性曲線を描いた。
【0017】
その結果、出願人は、上記数式3からは予期できない知見を得た。すなわち、最終止水ラインとなるシーリング材と比べて疲労に弱いシールに係る疲労性曲線は図3に示すような極大点を呈するのである。この性質は、隣接型の二重シールを設計する上で重要である。
【0018】
本発明の第1の目的は、目地空間を塞ぐ隣接した少なくとも2つのシールのうち建築物内方のものの耐疲労性を高くして、ライフサイクルの長い目地構造を提案することである。
【0019】
本発明の第2の目的は、目地空間を塞ぐ2つのシールのうち、一方シールの深さを変数とした場合の疲労性曲線が極大値を示す隣接型の二重シールを提案することである。
【0020】
本発明の第3の目的は、上記疲労性曲線が極大値を示す隣接型の二重シールにおいて良好な耐疲労性を示す範囲で各シールの形状を設計する設計方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1の手段は、多重シール式の複合目地構造であり、
建築物の2つの壁体の対向端面の間に形成される目地空間と、
目地空間中に、少なくとも建築物の外から内へ相互に隣接させて設けた1次シール及び2次シールを有し、かつこれら1次シール及び2次シールを区切る分離部を含むシール機構と、
を具備し、
1次シール及び2次シールは、種類の異なる不定形のシーリング材料を充填して両壁体に密着させるとともに、密着状態で壁体からの伸縮応力に対して変形可能に形成され、
2次シールは、1次シールより圧縮変形及び引張変形の繰返しに対する高い耐疲労性を有している。
【0022】
本手段では、図1、図23の如く不定形の複数のシール18A、18B…を隣接させ、建築物外側から内側へシールの耐疲労性を高くしている(図1参照)。これにより、1次シールは、その耐用年数の間、水の浸入を阻止するとともに次シールの耐疲労性を温存する。1次シールの耐用年数の経過後は、2次シールが止水ラインとして働く。2つのシールは、ボンドブレーカなどの分離部で区分され、これにより各シールの耐疲労性が確保される。
【0023】
「多重シール」は、二重シールの他、三重以上のシールを含む。本発明の多重シールは、複数・多層状のシールが建物外方から順次止水ラインとして機能し、目地のライフサイクルを大幅に延長するようにしている。主として多重シールの交換を容易にするために各シールを隣接させており、各シールが独立してシール作用を果たすように分離部を介在させる。「分離部」は、テープ状のものが好適であるが、スポンジ形のものも使用できる。
【0024】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
上記1次シールを、ポリイソブチレン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系のいずれかで形成するとともに、2次シールを、1次シールよりも耐疲労性が高いシリコーン系材料で形成している。
【0025】
本手段は、隣接型のシールの素材の好適な組合せを提案する。1次シール用の材料として挙げた材料は、はっ水汚染の原因となる粘着物質が流出しにくい非シリコーン系の中でも耐疲労性が高い。特にポリイソブチレン系の耐疲労性は優良であり、一部のシリコーン系材料のそれを上回る。故に2次シール用のシリコーン系材料は、先の手段で述べた“1次シールよりも耐疲労性が高い”という条件を満たす必要がある。
【0026】
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ
上記多重シールを二重シールとするとともに、その1次シールを、ポリイソブチレン系材料で形成し、
また上記二重シールの目地深さをDとするとともに目地巾をWとし、かつ1次シールの深さをd、2次シールの深さをdとするとき、
その二重シールの目地深さ及び目地巾が下記の数式1に、また1次シール及び2次シールの深さが下記に数式2にそれぞれ適合することを特徴とする。
[数式1]134≦D/W≦5612
[数式2]0.13≦(d・d0.33)/W1.33≦2.88
【0027】
本手段は、隣接型の二重シールにおける好適な目地深さDの範囲及び各シールの深さの範囲を提案している。図11に示す耐疲労性試験の結果を表す指数(グラフ横軸の指数)として、同図(A)のように形状係数D/Wを用いるよりも、同図(B)のようにD/Wを用いた方が山形のグラフの両側で直線的となり、高い相関関係が得られることが判った。耐疲労性のクライテリアとして4000回を設定し、これを満たす範囲として数式1を得た。数式2の形状因子量は(d/W)及び(d/d)という2つの因子の積で表される。このようにした理由は後述する。この形状因子係数で同じクライテリアを満たすように上限値及び下限値を決めると数式2を得る。
【0028】
第4の手段は、第1の手段又は第2の手段を有し、かつ
上記多重シールは、さらに2次シールの内側に、分離部を介して隣接する不定形の3次シールを有し、この3次シールは、2次シールと同等又はそれ以上の耐疲労性を有する。
【0029】
本手段は、隣接型の多重シールとして、図23に示す三重シールを提案する。3次シールは、2次シールと同等又はそれ以上の耐疲労性を有し、2次シールの水密性及び気密性が失われた後に3次シールが止水ラインとして機能するようにしている。本手段においては、1次シールと2次シールとの間の分離部、又は2次シールと3次シールとの間の分離部を、肉厚で圧縮容易なクッション部とすることができる。隣接するシール同士の間の干渉を和らげるためである。
【0030】
第5の手段は、建築物の外壁の目地空間の内側に充填する不定型の2次シールと、目地空間の外側に充填される不定型の1次シールとを、分離状態で隣接させてなる二重シールであって、
1次シール及び2次シールは、目地巾の増減により中巾方向の伸縮力及びこれら2つのシール間の内部応力に応じて変形することで、
2次シールの深さを一定として1次シールの深さを増加させたときに、二重シールに亀裂が生ずるまでの圧縮変形及び引張変形の繰返し回数で定義する疲労性曲線が増加し、極大点を経て減少するように設け、
2次シールは1次シールよりも耐疲労性が高いことを特徴とする。
【0031】
本手段は、図7(B)の外壁のムーブメントにより1次シール及び2次シールの間に内部応力fが働き、その結果として図3に示す疲労性曲線が極大点Mを有する構成を提案する。この疲労性曲線は、目地深さ及び1次シールの深さの比(d/W)と変形繰返し回数との関係を表し、隣接型二重シールの1次シールの耐疲労性を示している。すなわち、極大値を含む中間領域(A)より右側の領域(A)では、1次シールは自身のシール深さdが大きいほど疲労し易い。他方、中間領域より左側の領域(A)では、自身のシール深さdが小さいほど2次シールから受ける内部応力のダメージが大きく、疲労し易い。
【0032】
第6の手段は、第5の手段を有し、かつ亀裂を生ずるに至るまでの変形の繰返し回数の基準値を4000回とし、この基準値を満足するように1次シール乃至2次シールの深さの上限値及び下限値の範囲を定めたことを特徴とする。
【0033】
本手段は、図3に示す疲労性曲線が極大値を呈する隣接型二重シールの特性を示して、一次シール乃至二次シールの上限値及び下限値を決定することを提案する。具体的には、亀裂を生ずるに至るまでの変形の繰返し回数の基準値を4000回として、この基準値を表すラインと、1次シール及び2次シールの一方を、深さを一定とした疲労性曲線とを描き、これらが交わる2交点I、Iに対応して、1次シール及び2次シールの他方の深さの上限値及び下限値の範囲を定めればよい。
【0034】
第7の手段は、かつ第5の手段又は第6の手段に記載の目地用二重シールを、この二重シールが亀裂を生ずるまでの変形の繰返し回数の所要の基準値を満たすように設計する方法であって、
二重シールの目地巾を決定する段階と、
二重シールの目地深さを設定する段階と、
二重シールを構成する1次シール及び2次シールのうちの2次シールの深さを設定する段階と、
二重シールの目地深さから2次シールの深さを差し引き、その差分としての1次シールの深さを算出する段階と、
上記二重シールの疲労性曲線と、亀裂を生ずるまでの変形の繰返し回数の基準値を表すラインとが交わる2つの交点から、1次シールの深さの上限値及び下限値を設定し、この上限値及び下限値の間に上記1シールの深さの算出値の数値が適合するか否かを判断する段階と、
この算出値が上限値及び下限値の間に適合するときには、二重シールの目地深さを決定する段階とを含む。
【0035】
本手段は、図21に示す二重シールの設計方法において、その二重シールの疲労曲線が極大値を呈することを利用して繰返し変形の基準値を満たすようにシール深さの上限値及び下限値を設定することを提案している。別途に計算したシール深さがこの上限値と下限値との範囲に収まれば適切な設計値として採用する。
【発明の効果】
【0036】
第1の手段に係る発明によれば、相互に隣接する2つのシールのうち2次シールの耐疲労性を1次シールのそれより高くしたから、1次シールの水密性及び気密性が失われたときに2次シールが止水ラインとして機能し、目地の寿命を長くすることができる。
【0037】
第2の手段に係る発明によれば、次の効果を生ずる。
○1次シールとして非シリコーン系を選択したから、汚れが付着しにくい。
○非シリコーン系の中で耐疲労性の高い材料(ポリイソブチレン系など)で1次シールを形成するとともに、この1次シールでシリコーン系の2次シールの外面に隣接させたから、2次シールが1次シールで保護される期間が長くなり、実用上の耐用年数が長くなる。
【0038】
第3の手段に係る発明によれば、二重シールの目地巾D及び目地深さが数式1(134≦D/W≦5612)に、また1次シール及び2次シールの各深さの比d、dが数式2(0.13≦(d・d0.33)/≦2.88)にそれぞれ適合するようにしたから、各シールの変形の干渉による耐疲労性の低下を回避できる。
【0039】
第4の手段に係る発明によれば、三重シールを採用したから、さらに実用上の耐用年数が長くなる。
【0040】
第5の手段に係る発明によれば、耐疲労性の高い2次シールを1次シールに隣接させた二重シールの疲労性曲線に極大点を呈することを見出したから、各シールの変形の干渉により2次シールの耐疲労性が損なわれないようにシール深さを設計することができる。
【0041】
第6の手段に係る発明によれば、亀裂発生に至るまでの変形回数の基準を満たすように二重シールの一方シールの深さの範囲を定めたから、良好な耐疲労性が得られる。
【0042】
第7の手段に係る発明によれば、隣接型の二重シールの疲労性曲線が極大値を示す性質を利用して、疲労性曲線と亀裂発生までの繰返し回数を表す直線のラインとの交点から適切なシール深さを決定するから、十分な耐疲労性が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多重式目地構造の断面図である。
【図2】図1の構造に使用される二重シールの疲労性曲線を表すグラフである。
【図3】図1の構造に使用される二重シールに係る1次シールの疲労性曲線を表すグラフである。
【図4】図1の多重式目地構造が経年変化を経た後の断面図である。
【図5】図1の目地に用いる二重シールの性能を試験するための装置の斜視図である。
【図6】図5の装置で本発明の二重シールの一例を変形させたときの説明図である。
【図7】図5の装置で本発明の二重シールの他の例を変形させたときの説明図である。
【図8】図5の装置で参考例の二重シール(分離部なし)を変形された場合の説明図である。
【図9】図5の装置で耐疲労性と分離部の有無との関係を測定した結果を示している。
【図10】図5の装置で本発明の二重シール及び単体シールについて、形状係数(D/W,d/W)を変化させたときの耐疲労性を測定した結果を示すグラフである。
【図11】図5の装置で本発明の二重シール及び単体シールについて、形状係数(D/W,d/W)を変化させたときの耐疲労性を測定した結果を示すグラフである。
【図12】図11のデータを、横軸(D/W)のDをポリイソブチレン系シーリング材料の深さdIBに置き換えて記述したものである。
【図13】図5の装置でシール深さの比を一定として形状係数を変化させたときの本発明の耐疲労性の増減を測定した結果を示すグラフである。
【図14】本発明の第2実施形態に二重シールの設計方法を示すグラフであって、図11のデータを、第1の形状因子量(D/W)で表したものである。
【図15】図14の第1の形状因子量として(D/W)を選んで、図11のデータからクライテリアを満たす当該因子の範囲を設計する作業を示す図である。
【図16】図11のデータを、ポリイソブチレンの深さを含む第2の形状因子量(dIB/W)で表したグラフである。
【図17】図11のデータを、シリコーンの深さを含む第3の形状因子量(dSR/W)で表したグラフである。
【図18】図11のデータを、第4の形状因子量dIB×dSR/Wm+1で表したグラフである。
【図19】図11のデータを、第4の形状因子量dIB×dSR/Wm+1のmを0.33として描いたグラフである。
【図20】図19の第4の形状因子量を用いて、図11のデータからクライテリアを満たす当該因子の範囲を設計する作業を示す図である。
【図21】本発明の第3の実施形態である二重シールの設計方法の手順を示すフローチャートである。
【図22】図21の設計方法に使用する資料である。
【図23】本発明の第4実施形態に係る多重式目地構造の断面図である。
【図24】図23の多重式目地構造の作用説明図である。
【図25】本発明の二重シールを利用した場合の耐用年数を参考例のそれと比較したグラフである。
【図26】従来のシングルシールについて伸縮試験を行った様子を示す説明図である。
【図27】公知のシリコーンの性能を表す資料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
図1から図22は、本発明の第1の実施形態に係る多重シール式の複合目地構造2及びその設計方法を示している。なお、図1中で、Pはパネルとして形成した外壁である。
【0045】
この複合目地構造2は、目地空間4と、シール機構10とで構成されている。
【0046】
目地空間4は、この図示例では、2つの外壁Pの対向端面Eの間に形成されている。好適な図示例では、外壁Pであるパネルの端部を建築物の内方へ折り曲げるとともに、これら屈折板6A、6Bのうちの一方6Aの先部を垂直板部8とすることで、目地空間4を画成している。もっともこの構成は適宜変更することができる。
【0047】
上記垂直壁部8の先端と他方の屈折板6Bとの間には、目地巾Wの縮小を可能とするための間隙Gを設けている。外壁の温度ムーブメントや地震力などの外力により、目地巾Wが変動する可能性があるからである。
【0048】
シール機構10は、バックアップ材12と、二重シール16とで構成されている。
【0049】
上記バックアップ材12は、不定形のシーリング材を支える目地底材であり、その先端面を上記垂直板部8の外面に突き当てて目地空間4の奥部に挿入させている。
【0050】
好適な図示例では、バックアップ材12の外面を、片面粘着テープであるボンドブレーカを貼り付けて非接着面14としている。バックアップ材などの目地底にボンドブレーカを貼って、シーリング材の硬化途中で外壁の収縮や膨張によるシーリング材に亀裂を生じないようにすることは、従来から知られた技術である(特許文献1の段落0011)。なお、バックアップ材の深さαは、後述の1次シール及び2次シールの深さとの関係を考慮して設定する。
【0051】
上記二重シール16は、1次シール18Aと2次シール18Bと分離部20とからなり、1次シールと2次シールとが分離部を介して隣接している。すなわち、2次シール用のシーリング材をバックアップ材12の外側に充填し、その2次シールの外面に分離部20を適用し、さらに1次シール用のシーリング材を分離部20の外側に充填させてなる。
【0052】
本発明の二重シール16の特長は、目地の施工には、1次シール18Aの外面及びこれに連なる外壁Pの外面が、図4(A)に破線で示すように止水ラインLを構成し、1次シール18Aの耐用年数が過ぎた後には、図4(C)に示すように2次シール18Bの外面から外壁Pの外面に亘る部分が止水ラインLを構成することである。2次シール18Bの耐用年数も経過すれば二重シール16全体を交換すればよい。
【0053】
前述の特許文献3の二重シールが目地空間の内外2箇所で水を食い止め、漏水の危険を減らすということを着想とするのに対して、本発明の二重シールは、耐疲労性が異なるシーリング材を積層させて、時の経過とともに各シールが交代で止水ラインとして機能するものである。二重シール16のライフサイクルは次式のように与えられる。
[数式4] [二重シールのライフサイクル]=[1次シールの耐用年数]+[1次シールの耐用年数を経過してから2次シールの止水性能が失われるまでの間]
【0054】
一見すると、[2次シールの耐用年数]=[二重シールのライフサイクル]のようであるが、1次シール18Aが2次シール18Bの外面全体を覆っているために、1次シール18Aが紫外線・熱・雨水などの劣化要素から2次シール18Bを保護する。従って2次シール18Bが外界に晒されている場合の耐用年数に比べて、ライフサイクルの改善が図られる。
【0055】
1次シール18Aと分離部20と2次シール18Bとを隙間なく連続させた理由は、次の通りである。
第1に、省スペース化が可能となり、所要のシール深さを確保し易い。
第2に、外壁Pの外面から2次シールまでの距離が小さくなるので、2次シール18Bの耐用年数が経過したときに、目地に治具などを挿入して二重シールを引き出すことも簡単となる。
第3に、1次シールがはく離した場合、1次シールと2次シールとが隣接しているため、台風時に雨水が浸入し、1次シールと2次シールとの間に溜まることに起因する2次シールの耐久性低下のおそれが少ない。なお、風速が7〜8m/sを超えると、水平面と比較して、
外壁面(垂直面)の雨量は多くなり、風速40 m/sの場合は、外壁面(垂直面)の雨量は水平面の7〜8倍程度なる。
【0056】
上記分離部20は、1次シール18A及び2次シール18Bとして充填されたシーリング材が相互に接着する縁切り手段である。二つのシールが接着して、シール深さが大となり、耐疲労性が低下することを防止するためである。図9では、分離部を設けた場合と分離部を省略した場合とで、隣接型二重シールの耐疲労性の比較実験を行っているが、例えば●で示す試験体と(黒丸)と◇で表す試験体とでは、耐疲労性に大きな相違がある。これについては後述する。
【0057】
上記分離部20は、1次シール18A及び16Bの変形に影響しないように、柔軟かつ薄肉に形成するとよい。分離部の構成として、バックアップ材に使用されるボンドブレーカを採用することができる。もっとも特許文献1のボンドブレーカはシール材の亀裂の発生を防止するもの、分離部としてのそれは、隣接型の2つのシールが接着してシール深さが実質的に増加することを避けるものであり、機能が異なる。本実施形態の分離部20は、厚さαの小さい(例えば0.1mm程度)のテープとしている。主として厚さの如何によらずシーリング材同士の縁切りにより耐疲労性の向上に貢献することを示すためである。しかしながら、分離部を、後述の如く肉厚のスポンジ状物とすることも可能である。
【0058】
また上記分離部20は、非通気性又は非通水性の材料で形成することができる。これにより、1次シール18Aの気密性及び水密性が破られたときに、空気又は水から2次シールを保護する機能が発揮される。
【0059】
上記1次シール18A及び2次シール18Bは、目地巾方向の両端部を外壁Pの対向端面Eに密着させるとともに、各シールの隣接端部を分離部20で縁切りしているので、それぞれ深さd及びdの別々のシールとして作用する。
【0060】
他方、1次シール18A及び2次シールBは、1次シールの内側に分離部20を介して隣接させているから、目地巾Wが変動したときに、各シールが相互に干渉しながら変形する。例えば各シールが相反する方向に座屈したり、一方のシールが深さ方向に膨らむことで、その膨張方向へ他方のシールを座屈させる。これらの変形が耐疲労性に与える影響を制御することが本発明の主題の一つである。
【0061】
1次シール18A及び2次シール18Bのシーリング材は、2次シール18Bが高い耐疲労性を有するように選択する。
【0062】
上記1次シール18Aは、ポリイソブチレン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系のいずれかで形成する。耐疲労性に関しては、これらの素材の中でポリイソブチレン系が最も優れており、その次が変成シリコーン系乃至ウレタン系であり、その次がポリサルファイド系である。これらの素材はシリコーンに比べて美装性が高い。
【0063】
上記2次シール18Bは、1次シールより耐疲労性の高いシリコーン系材料(好ましくは脱ヒドロキシルアミン形シリコーン)で形成する。建築物の外壁に一般的に使用されるシーリング材は、2成分(基剤+硬化剤)形であり、そのシーリング材の耐疲労性の評価を次の表1に示す(同文献第141頁)。
【0064】
【表1】

【0065】
上記の表1中のシリコーン系シーリング材は、脱ヒドロキシルアミン形である。基剤としてのシリコーンの耐疲労性を種類別に示すために、1成分形の耐疲労性を次の表2に示す(非特許文献2の第141頁)。
【0066】
【表2】

【0067】
図27には、上記脱ヒドロキシルアミン形シリコーンのシーリング材の経年係数と50%引張応力度との関係を示している。このグラフは、高層建築物のシーリング目地(劣化付加の比較的大きな部位)に適用された上記シリコーンの実際の曝露データである。20〜25年を経ても十分な物性を保持していることが判る。
【0068】
上記構成によれば、目地を施工してから一定の期間は、図4(A)に示すように1次シール18Aが止水ラインとして水などの進入を阻止する。また1次シール18Aは、紫外線、風雨などの劣化要素から、2次シール18Bを保護する。従って2次シール18Bは、その性能(耐候性、耐水性など)を温存することができる。同期間中、地震などの影響は2次シールにも及ぶが、シリコーンは耐疲労性が高いので性能が大きく劣化することはない。
【0069】
次に1次シールが劣化すると、次に2次シール18Bが止水ラインとして機能する。シリコーン単体のシールに比較しても寿命が高まる。
【0070】
図2は、この二重シールの疲労性曲線を描いたグラフである。このグラフの縦軸は亀裂発生に至るまでの変形の繰返し回数Nであり、また横軸は、形状係数(D/W)である。形状係数は、2次シールの深さを一定とし、1次シールの深さを変化させることで増減することにしている。図示のようにこの疲労性曲線は極大点Mを有する。
【0071】
このグラフに二重シールが満たすべき繰返し回数のクライテリアを表す基準線Cを水平にひき、この線と疲労性曲線との交点I、Iを通過する2つの垂直線V、Vを描く。
【0072】
上記基準線Cは、外壁のムーブメントの発生頻度(回/年)と1次シールの耐用年数(年)との積として設計することが好適である。例えば昼夜の熱による膨張・収縮のムーブメントを365(回/年)、1次シールの耐用年数を10年として、365×10≒4000回と設定することができる。
【0073】
形状係数が大きい方の交点Iを通るよりも垂直線Vよりも外側の領域Aでは、1次シールの深さが大きくなるにつれて耐疲労性が低下する。この傾向は、従来既知の事柄である。
【0074】
形状係数が小さい方の交点Iを通るよりも垂直線Vよりも外側の領域Aでは、1次シールの深さが小さくなるにつれて耐疲労性が低下する。この領域では、1次シール及び2次シールの変形が干渉し合うことで、耐疲労性が低下するものと理解される。
【0075】
図3は、図2の形状係数(D/W)のうち二重シール全体の深さDを、1次シールdに置き換えて、疲労性曲線を描いたものである。
【0076】
二つの垂直線V、Vの内側の領域Aに形状係数がおさまるように1次シール及び2次シールdの深さを設計すればよい。さらに詳しい設計方法については後述する。
【0077】
図5は、本実施形態の性能試験を行うための実験装置30を示している。この実験装置は、披着板を兼ねる2枚の平行な可動板32に試験体34の両端を密着させ、試験体を伸縮させることができるように構成している。可動板32は、アルミニウム合金板である。
【0078】
上記試験体34は、複合目地としては、2成分形の深さdSRのシリコーン系シーリング材(以下SRという)と深さdIBの2成分ポリイソブチレン系シーリング材(以下IBという)との間に分離部であるボンドブレーカ(以下BBという)を挟んだものと、分離部を省略したものとをそれぞれ用いた。
【0079】
分離部を省略した試験体34の詳細を表3に、また分離部を含む試験体34の詳細を表4にそれぞれ記載した。
【0080】
【表3】



【0081】
【表4】

【0082】
また比較例として各シーリング材単体の試験体の詳細を次の表5に記載している。

【0083】
【表5】

【0084】
実験方法として、上記の表に示した構成のシーリング材を施工し、標準養生後に試験体とした。試験体に、室内環境下で目地幅30%の変形を圧縮、引張方向に繰り返し与え、繰り返し回数2000回毎に目視観察を行い、亀裂、割れなどの不具合の発生した繰り返し回数を記録した。
【0085】
図6及び図7は、BB付きの試験体34の変化を目視観察した様子を描いている。BBがあると、SRとIBとが接合せず、SR及びIB単独の目地深さで変形した。複合目地中のSRの目地深さをdSR、IBの目地深さをdIB、複合目地の目地幅をWとすると、dSR/W≦0.3又はdIB/W≧0.3の場合、圧縮時にSR,IBに弓状の座屈変形が生じ(図6(B)参照)、他の場合は全て圧縮時に目地幅部が横に膨らむ変形を生じた(図7(B)参照)。
【0086】
ここで従来の図26の二重シールではシールの巾方向中間部からクラックCRに生じるのに対して、本発明の構成では図7(B)に示すようにシールの巾方向両端部付近で亀裂CRを生じた。これは、同図に示す2つのシールの両端部が接触することで、相互に深さ方向の内部応力fを及ぼすのに対して、各シールの両端面は可動板に密接されているので、その密接力fと内部応力fとにより、上記両端部が強制的に変形されるためと考えられる。
【0087】
図8は、本発明との対比例であるBB無しの試験体34の変化を目視観察した様子を描いている。BBがないとSRとIBとが接着して、圧縮変形時にSRが横に膨らむと同時にIBも横に押し出された。
【0088】
図9は、BBがある本発明の試験体と、BBがない対比例の試験体との試験結果を示している。全ての試験体でIBに亀裂が生じたが、BBがないとSRとIBとが接着せず、複合目地の合計目地深さDで耐疲労性が決定されるため、同一のD/Wであれば、BBがあると耐疲労性が優れる結果となった。
【0089】
なお、上記実験結果では、BBを有しない試験体でも亀裂発生までの圧縮回数が前述の基準値(4000回)を超えているものもある。従って本発明の構成のうちBBを省略することも出来ないものではないが、実用上はBBが設けた方が有利である。
【0090】
図10は、BBが有る複合目地の場合をD/W、IB単体の場合をd/Wとして、両者の耐疲労性を比較した結果を示す。
【0091】
SRより先にIBに亀裂が生じたため、二重シールの耐疲労性を左右するのはIBの構造であると考えられる。実験者は、W=12mmかつd/W=D/Wであれば、複合目地の方がIBのみの目地深さの割合が小さくなるため、耐疲労性が優れると予想していたが、実際にはD/Wが小さくなると、シーリング材単体の耐疲労性が優れる結果であった。これは、IBの座屈変形の影響に加えて、隣接するSRの挙動が干渉するためと思われる。他方で、D/Wが大きくなるとIB単体の耐疲労性が低下するため、複合目地とシーリング材単体の耐疲労性は同等程度であった。以上から、複合目地には最適な形状があると判断される。
【0092】
図11は、同図(A)において、BBを有する場合の形状係数(D/W)に対する耐疲労性の測定結果を示している。この結果から、複合目地の耐疲労性は、D/Wに対して、上に凸状の曲線に従うことが判る。すなわち、D/Wが小さいと、IBの座屈変形の影響と隣接するSRの挙動が干渉する影響とにより耐疲労性が低下する。またD/Wが大きいとシーリング材単体の耐疲労性が低下し、複合目地の耐疲労性も低下する。同図(B)は、上記形状係数に代えて形状因子量(D/W)を用いたものである。この形状因子量については後述する。
【0093】
この実験では、ポリイソブチレン系の1次シールとシリコーン系の2次シールの組み合わせについてだけ実験をしているが、疲労性曲線が上に凸状となる傾向は、ポリイソブチレンを、変成シリコーン系材料又はポリサルファイド系シーリング材料に代えても表れると推察できる。その理由は、これらの素材がポリイソブチレン系材料と同様のゴム弾性(ポアソン比0.48)を有するからである。これについてさらに後述する。
【0094】
図12は、図11から複合目地の目地幅、目地深さを、図11中のD/WをdIB/Wに置き換えて表示したものである。ここで変形の繰返し回数の基準を適当に選択し、その基準を超える範囲で図12から複合目地中のIBの目地深さを適宜読み取り、さらにSRの目地深さを算出する方法で好適な耐疲労性を有する複合目地の断面形状の設定が可能となった。
【0095】
図13は、BBがある同一形状の複合目地でdSR、dIBの目地深さの比率が異なる場合の試験結果を示している。
【0096】
複合目地の合計目地深さに対するIBの目地深さの割合が大きい方が、耐疲労性に優れるといえる。目地深さが小さくなると耐疲労性が優れるという過去の知見と反対の傾向であった。これは、SRの挙動がIBに干渉しているためと思われる。
【0097】
図14から図20では、以上の実験結果を踏まえて、本発明の第2実施形態である二重シールの設計手法について説明する。二重シールの構造は第1実施形態のものをそのまま援用する。シングルシールでは、目地深さをd、目地巾をWとすると、シーリング材の耐疲労性を(d/W)という形の形状因子量で表現することが通常的に行われている。但し、nは正の整数である。そこで二重シールの耐疲労性を、D/W,dIB/W、dSR/Wで表すことを検討する。
【0098】
図14は、図11に示す実験データを、その横軸のD/WをD/Wに置き換えて示している。このデータが示す耐疲労性は極値を示している。この極値を境にデータを、1次シールの深さにより耐疲労性が低下するグループと、2次シールからの挙動の干渉により耐疲労性が低下するグループとに大別し、各グループのデータを指数近似し、近似式との相関係数が最大となるnを求めた。その相関係数はn=3.0のときに最大となった。
【0099】
図15は、第1の形状因子量としてD/Wを選んで、当該因子の小さい範囲(同図18)及び大きい範囲(同図B)のデータを表記したものである。そして耐疲労性のクライテリアとして、4000回の変形回数を選択した。同図(A)のデータから第4の形状因子量の下限値を、また同図(B)のデータから第4の形状因子量の上限値を求めて、数式1(134≦D/W≦5612)を得た。
【0100】
図16は、第2の形状因子量として、dIB/Wを横軸に選び、図11のデータを表記している。但し、n=1,3,5,7である。第2の形状因子量は、2次シールであるシリコーンの形状因子を含んでいないのであるが、n=1の場合は第2の形状因子量の増減に伴い耐疲労性が低下する傾向が見受けられる。もっとも、n=3,5,7の場合には、明確な傾向を読み取ることができない。従って耐疲労性の高いシリコーンと耐疲労性の低いポリイソブチレンの二重シールの耐疲労性は、(dIB/W)に依存すると推察できる。
【0101】
図17は、第3の形状因子量として、dSR/Wを横軸に選び、図11のデータを表記している。n=1,3,5,7であるが、いずれのnの値についても、明確な傾向を読み取ることができない。第3の形状因子量は、シリコーンの形状因子のみを含むものである。
【0102】
図17の解析結果から、シリコーンとポリイソブチレンとの組み合わせでは、後者に亀裂が発生するため、シリコーンの形状因子のみを含む因子量では、亀裂発生の傾向を予測できないものと推察される。そこでポリイソブチレンの深さのみに関係する因子(dIB/W)の他に、シリコーンの変形がポリイソブチレンの変形に干渉する強さを表す因子として(dSR/dIB)を導入し、(dIB/W)×(dSR/dIBと表す。これを変形すると(dIBn−m×dSR)/Wである。これは無次元量であるから、簡単のためにn−m=1とおくと、dIB×dSR/Wm+1を得る。これを第4の形状因子量とする。
【0103】
図18は、第4の形状因子量として、dIB×dSR/Wm+1を横軸に選び、図11のデータを表記している。m=−1,−0.5,0.5,1,2である。m=−1の場合は1対1の対応がみられないが、その他の場合はおおむね1対1の対応がみられ、第4の形状因子量の増減で耐疲労性が低下する傾向を表示できた。
【0104】
図18の結果から、第4の形状因子量のmを適切に設定すれば、2次シールの挙動の干渉の影響と目地深さの増大の影響による耐疲労性の低下を表示できることが判った。
【0105】
図18(m=−0.5,0.5,1,2の場合)から、2次シールの挙動の干渉の影響によって耐疲労性が低下するプロットと、目地深さの増大によって耐疲労性が低下するプロットの2種類に大別し、mを適当に変化させた第4の形状因子量と実験結果との関係を指数近似した。2次シールの挙動の干渉の影響のプロットの近似式の相関係数が最大となるmを求めた。相関係数が最大となったのはm=0.33のときである。これを上記dIB×dSR/Wm+1に代入して、dIB×dSR0.33/W1。33を得る。
【0106】
図19は、第4の形状因子量としてdIB×dSR0.33/W1。33を横軸にとり、耐疲労性を表したグラフである。
【0107】
図20は、第4の形状因子量として、dIB×dSR0.33/W1。33を選んで、当該因子の小さい範囲(同図18)及び大きい範囲(同図B)のデータを表記したものである。2次シールの挙動の干渉の影響によって耐疲労性が低下するプロットに対する相関係数は0.73で最大となり(同図18)、このとき目地深さの増大によって耐疲労性が低下するプロットに対する指数近似式の相関係数は0.72となった(同図B)。ここで変形回数4000回のクライテリアを適用すると、数式2(0.13≦(d・d0.33)/W1.33≦2.88)を得る。
【0108】
図21及び図22は、本発明の第3実施形態である目地構造の設計方法を示す。
【0109】
図21は、上記設計方法の手順を示すフローチャートである。具体的な手順は次の通りである。
【0110】
第1に、目地巾の算定を行う。いわゆるワーキングジョイントは、外壁のムーブメントに追従するために従来公知の数式5を満足しなければならない。但し、Wは設定目地巾(mm)、δはムーブメント(mm)、εはシーリング材の設計伸縮率・設計変形率(%)、Weは目地巾の施工誤差(mm)である。
[数式5]W≧(δ/ε)×100+|We|
【0111】
そこで対象となる外壁接合部がワーキングジョイントであるか否かを確認する。ワーキングジョイントでないときには、Weの絶対値をそのまま目地巾として採用する。ワーキングジョイントであるときには、数式5右辺の各変数を代入して、Wを計算する。そして、その計算値が、シーリング材毎に設定されている目地巾の許容範囲にあることを確認する。
【0112】
この目地巾の許容範囲は、シーリング材が垂れたり、充填作業が困難にならないようにシーリング材の種類毎に従来から用いられている範囲であり、シリコーン系、ポリイソプチレン系、変形シリコーン系、ポリサルファイド系、及びポリウレタン系では10〜40mmである。そして計算値が目地巾許容範囲であることを確認して、Wを決定する。
【0113】
第2に、目地巾Wに応じて目地深さDを設定する。この目地深さは従来公知の図22の指針に示された範囲において選択することが好適である。
【0114】
第3に、1次シールd及び2次シールdを設定する。具体的には、2次シールdを選び、1次シールd(=D−d−α−α)を計算する。
【0115】
第4に、1次シールdを図2のグラフに当てはめ、1次シールの計算値が一定のクライテリアを満たす領域Aに収まるか否かを判定する。収まれば、その1次シール及び2次シールの深さの組を採用し、満たさなければ再びDの設定に戻って設計し直す(※6)。
【0116】
図23及び図24は、本発明の第4実施形態である目地構造を示している。この目地構造は、第1実施形態の二重シール16を三重シール17に代えたものである。第1の実施形態と同じ構成については、同一の符号を使用することで説明を省略する。
【0117】
上記三重シールは、図23に示すように2次シール18Bの内面に分離部20を介して3次シール18Cを隣接させている。
【0118】
3次シール18Cは、2次シール18Bと同等又はそれ以上の耐疲労性を有する。3次シール18Cの耐疲労性が2次シール18Bの耐疲労性よりも高い場合には、少なくとも3次シールの耐用年数のうち2次シールの耐用年数を超える部分において、3次シールが止水ラインとして機能する。
【0119】
具体的な素材の選択の一例としては、最も耐疲労性の高い脱ヒドロキシルアミン形のシリコーンを3次シール18Cの素材として、その次に耐疲労性の高いポリイソブチレン系を2次シール18Bの素材として、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系のいずれか一つを1次シール18Aの素材として採用することができる。
【0120】
また本実施形態では、1次シール18Aと2次シール18Bとの間の分離部を、スポンジのように圧縮容易で肉厚のスポンジなどで形成することができる。三重シールの構成では、2次シール18Bは、1次シール18Aと3次シール18Cとの間に挟まれており、両側から圧縮応力が作用するために、二重シールの場合に比べて変形による劣化が早く進行する可能性がある。そこで上記スポンジなどをクッションとして、各シールの干渉を抑制しているのである。
【0121】
目地が巾方向に伸縮するときには、図24に示すように圧縮時に分離部20Aが収縮するので、1次シール18aと2次シール18bとは殆ど干渉し合わない。従って2次シールの変形による劣化を低減できる。
【0122】
図示例では、1次シール及び2次シールの間の分離部20Aをスポンジ状物にしているが、これに代えて、或いはこれとともに、2次シール及び3次シールの間の分離部20Bをスポンジ状物にすることもできる。そのスポンジ状物の厚さは、各シールの目地深さ方向の変形量に応じて、各変形が干渉し合わないように定めることができる。
【実施例】
【0123】
[実施例1]
図25は、本発明の二重シールを目地に適用した場合のライフサイクルコストを、通常工法と対比して、シミュレーションした例を示す。
【0124】
同図中の横軸には経過年数を、縦軸には単位長さ(m)当りのライフサイクルコスト(円)をとっている。さらに同図中、CAは、1次シールのみを用いた通常工法の事例であり、CAは、シリコーン系1次を用いかつ清掃を行った事例である。CAは、本発明を適用した例である。
【0125】
各事例のライフサイクルコストを表す線は、水平線と垂直線とを繰り返しているが、この垂直線はこの時点でシールの交換が行われ、費用が発生したことを意味している。費用の概算は次の基本データをもとに行っている。
【0126】
【表6】

【0127】
本発明の工法CAの場合、通常の工法CA,CAに比べて目地の耐用年数が倍以上となり、総合的にみてコストダウンにつながる。
【0128】
なお、上述の実施形態及び実施例は、本発明の好適な適用の例であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0129】
[実施例2]
前述のポリイソブチレン系の1次シールとシリコーン系の2次シールとからなる二重シールを、変成シリコーン系・ポリサルファイド系などの何れかである1次シールとシリコーン系の2次シールとからなる二重シールに発展させた場合の形状範囲に関して述べる。
【0130】
二重シールが図3のように極値を示すことは、シリコーン系及びポリイソブチレン系の組み合わせでしか実験的に確認されていないが、ポリイソブチレン系を変成シリコーンやポリサルファイド系などに置き換えても、同様の傾向を生ずると考えられる。何故なら同図において1次シールの深さdが小さい領域でdの減少により耐疲労性が低下する原因は、1次シールが薄くなることで相対的に2次シール側からの干渉を強く受けるためである。同じようにシリコーン系の2次シールから干渉を受け、ポリイソブチレン系の1次シールを用いて亀裂を生じ易くなるならば、これより耐疲労性に劣る素材を用いた場合に、同等又はそれ以上に亀裂が発生するのでなければ不自然である。
【0131】
変成シリコーンなどを用いるときには、数式2に代る式を実験的に定める。より簡略な方法として、各シーリング材単体で亀裂が発生するときの繰返し回数の平均値Naveから推測することもできる。具体的には、ポリサルファイド系を直接の適用対象とする数式3を指数表示してN=316228×(d5/W)-0.48とし、変成シリコーンの耐疲労性をN=316228×(d5/W)-0.48×Cと推定する。単体の繰返し回数の平均値Naveを算出し、試験水準の平均値(d5/W)aveを求め、N=316228×(d5/W)-0.48から(d5/W)aveのときのポリサルファイド系のNave’を求め、C=Nave/Nave’を求める。
【0132】
この方法で変成シリコーンについてC=27となった。クライテリアを繰返し回数4000回とすると、変成シリコーンに関して、数式2に代る式として、0.21≦(d1×d20.33)/W1.33≦2.18が得られた。
【0133】
なお、本明細書に記載された各実施形態及び実施例は、限定的なものと解されるべきではなく、本願特許請求の範囲に記載された発明は、その性質に反しない限り、他の形態により実施することが可能である。
【符号の説明】
【0134】
2…複合目地構造 4…目地空間 6A、6B…屈折板 8…垂直板部
10…シール機構 12…バックアップ材 14…非接着面 16…二重シール
17…三重シール 18A…1次シール 18B…2次シール 18C…3次シール
20…分離部
30…実験装置 32…可動板 34…試験体 SR…シリコーン系シール材
C…クライテリア D…複合目地深さ E…外壁の対向端面 G…間隙
、I…交点 L…止水ライン M…極大点 P…外壁 W…目地巾
BB…ボンドブレーカ CA…事例1 CA…事例2 CA…事例3
CR…亀裂 IB…ポリイソブチレン系シール材
…内部応力 f…密着力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の2つの壁体の対向端面の間に形成される目地空間と、
目地空間中に、少なくとも建築物の外から内へ相互に隣接させて設けた1次シール及び2次シールを有し、かつこれら1次シール及び2次シールを区切る分離部を含むシール機構と、
を具備し、
1次シール及び2次シールは、種類の異なる不定形のシーリング材料を充填して両壁体に密着させるとともに、密着状態で壁体からの伸縮応力に対して変形可能に形成され、
2次シールは、1次シールより圧縮変形及び引張変形の繰返しに対する高い耐疲労性を有したことを特徴とする、多重シール式の複合目地構造。
【請求項2】
上記1次シールを、ポリイソブチレン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系のいずれかで形成するとともに、2次シールを、1次シールよりも耐疲労性が高いシリコーン系材料で形成したことを特徴とする、請求項1記載の多重シール式の複合目地構造。
【請求項3】
上記多重シールを二重シールとするとともに、その1次シールを、ポリイソブチレン系材料で形成し、
また上記二重シールの目地深さをDとするとともに目地巾をWとし、かつ1次シールの深さをd、2次シールの深さをdとするとき、
その二重シールの目地深さ及び目地巾が下記の数式1に、また1次シール及び2次シールの深さが下記に数式2にそれぞれ適合することを特徴とする、請求項2記載の多重シール式の複合目地構造。
[数式1]134≦D/W≦5612
[数式2]0.13≦(d・d0.33)/W1.33≦2.88
【請求項4】
上記多重シールは、さらに2次シールの内側に、分離部を介して隣接する不定形の3次シールを有し、この3次シールは、2次シールと同等又はそれ以上の耐疲労性を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の多重シール式の複合目地構造。
【請求項5】
建築物の外壁の目地空間の内側に充填する不定型の2次シールと、目地空間の外側に充填される不定型の1次シールとを、分離状態で隣接させてなる二重シールであって、
1次シール及び2次シールは、目地巾の増減により中巾方向の伸縮力及びこれら2つのシール間の内部応力に応じて変形することで、
2次シールの深さを一定として1次シールの深さを増加させたときに、二重シールに亀裂が生ずるまでの圧縮変形及び引張変形の繰返し回数で定義する疲労性曲線が増加し、極大点を経て減少するように設け、
2次シールは1次シールよりも耐疲労性が高いことを特徴とする、目地用二重シール。
【請求項6】
亀裂を生ずるに至るまでの変形の繰返し回数の基準値を4000回とし、この基準値を満足するように1次シール乃至2次シールの深さの上限値及び下限値の範囲を定めたことを特徴とする、請求項5に記載の目地用二重シール。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の目地用二重シールを、この二重シールが亀裂を生ずるまでの変形の繰返し回数の所要の基準値を満たすように設計する方法であって、
二重シールの目地巾を決定する段階と、
二重シールの目地深さを設定する段階と、
二重シールを構成する1次シール及び2次シールのうちの2次シールの深さを設定する段階と、
二重シールの目地深さから2次シールの深さを差し引き、その差分としての1次シールの深さを算出する段階と、
上記二重シールの疲労性曲線と、亀裂を生ずるまでの変形の繰返し回数の基準値を表すラインとが交わる2つの交点から、1次シールの深さの上限値及び下限値を設定し、この上限値及び下限値の間に上記1シールの深さの算出値の数値が適合するか否かを判断する段階と、
この算出値が上限値及び下限値の間に適合するときには、二重シールの目地深さを決定する段階とを含む、目地用二重シールの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−7447(P2012−7447A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146717(P2010−146717)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】