説明

多重パルスインパルシブ誘導ラマン分光装置および測定方法

共鳴周波数光パルス列に応じた光−分子相互作用に基づき、対象を含む分子の少なくとも2種類の振動モード情報(例えば、振動周波数及び振動位相緩和)がラマンスペクトルに反映される分光計測を開示する。ポンプ光パルス列発生手段は、任意の繰り返し数を有し、照射手段を介して試料対象に導光されるポンプ光パルス列を発生する。試料対象からの光は捕集され、試料対象に対する振動コヒーレンスが検出される。試料は、複数の異なる繰り返し周波数にまたがって測定される。捕集された情報を解析する際、検出された情報は、データベース内の既知の他の試料のデータと比較されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス列の繰返し周波数と分子の振動周波数が共鳴する際の、光と分子の相互作用にもとづいた、複数の異なる分子を含む対象を測定するための分光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中の分子に由来する振動スペクトルを、非薬剤かつ低浸襲的に取得し、これら情報を正常組織と癌組織の弁別などの生体診断に利用する方法が検討されている。指紋領域の振動スペクトルが従来から生体試料の分析に利用される一方、最近、数テラヘルツ以下の遠赤外領域における振動スペクトルを生体試料の分析へ利用することが検討されている。生体高分子のテラヘルツ帯の振動スペクトルは、多数の原子が協同的に変位する振動形態(コレクティブモード)や水和構造を反映するため、分子構造に特有な大域的運動や機能発現における構造変化に鋭敏であり得る。このためテラヘルツ帯の振動スペクトルは、生体試料分析において、指紋領域の振動分光情報に相補的な情報を提供することが期待されている。
【0003】
テラヘルツ吸収分光法と自発ラマン分光法は、生体試料のテラヘルツ帯振動スペクトル観測技術として従来知られている。テラヘルツ吸収分光法は、遠赤外光を生体試料へ照射して吸収スペクトルを計測するため、水や生体高分子の光吸収による診断光の減衰がスペクトル測定の障害となる。ラマン散乱法は、一般に近赤外から可視の狭帯域光で生体試料を励起し、試料からの非弾性散乱光を計測する。自発ラマン分光法によって、数テラヘルツ以下の低エネルギー領域のスペクトルを観測する場合、弾性散乱光による背景光に妨害されてしまう。
【0004】
上記以外のテラヘルツ帯の振動スペクトル観測手段として、時間領域のコヒーレント振動分光法がある。インパルシブ誘導ラマン散乱(ISRS)分光法は、試料にフェムト秒パルス光を照射し、誘導ラマン散乱過程により複数の分子振動をコヒーレント励起する。そしてコヒーレント励起された分子振動に起因する、プローブ光変化の時間波形のフーリエ変換から周波数スペクトルを取得する。ISRSでは、生体試料による吸収が小さい近赤外光を使用可能であり、かつ、指向性のある信号光を検出するので線形過程に起因する背景光の影響を最小化できる。該手法は固体や液体分子の物性研究への応用に限定されていたが、最近この手法の一形態であるフェムト秒ラマン誘起カー効果分光法による、液相蛋白質のテラヘルツスペクトルの観測例が報告されている。
【0005】
しかし、テラヘルツ分光情報から生体試料を分析する場合、上記の何れの検出法を用いても、試料の水和状態の変化のような巨視的状態変化を観察可能であるが、タンパク質などの分子や分子群に関する情報を抽出することは難しい。これは生理条件下での生体分子のテラヘルツ帯の振動スペクトルが、モードの稠密さやダンピングのためにバンド構造に乏しい形状を示し、かつ、生体試料では複数の分子からのバンドが重畳される結果、スペクトルがなまされるためである。そのため、生体試料中の、分子についての情報を取得するには、構造のないスペクトルから、分子構造を特徴付けるモード情報を抽出する手段が必要とされている。
【0006】
さらに分光分析以外へのISRSの応用として、該手法によって分子の振動量子状態を制御する検討がなされている。生体応用としては、ISRS過程によって生体試料中の生体高分子のコレクティブモードが振動励起されると、該分子の高次構造変化が誘起され、さらに生体における生理機能が変化する可能性が考えられる。この効果に関する検証実験として、フェムト秒パルス光をウィルスへ照射し不活性化させた報告がされている。ウィルス不活性化の原因として、フェムト秒パルス光に励起される誘導ラマン散乱過程がコート蛋白質のコレクティブモードを励起し、該蛋白質に構造変化が生じた可能性が指摘されている。また、生体高分子のコレクティブモード励起が生体に影響を及ぼす別の例として、リンパ球細胞へのミリ波照射によるゲノム不安定性の惹起が報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体試料のような、異なる複数の種類の分子を含む対象のラマンスペクトル測定において、対象中の分子の振動モードが有する、少なくとも振動周波数と振動位相緩和時間情報の2種類の振動モード情報を反映するラマンスペクトルを観測し、バンド構造のないラマンスペクトルから、分子構造を反映するバンド情報を抽出することを可能にする分光測定装置が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の側面において本発明に係る分光測定装置は、(a)任意の繰返し周波数を有するポンプ光パルス列を発生させる、ポンプ光パルス列発生手段と、(b)前記ポンプ光パルス列とプローブ光とを、測定すべき対象における同一の場所(測定体積)に対しインパルシブに誘導ラマン散乱を励起するように照射する照射手段と、(c)前記ポンプ光パルス列によって、インパルシブに誘導ラマン散乱を励起される、前記測定対象における対象の振動コヒーレンス情報を、前記プローブ光により検出する検出手段と、(d)前記ポンプ光パルス列の異なる複数の繰返し周波数において、前記検出手段で検出した対象の振動コヒーレンス情報から、少なくとも振動周波数情報および振動位相緩和時間情報の2種類の情報が反映される対象のラマンスペクトルを得るスペクトル取得手段、を備えることを特徴としている。
【0009】
光パルス列で分子をインパルシブに誘導ラマン散乱励起する場合、該光パルス列の繰返し周波数が、分子の振動モード周波数と一致し、かつ、該振動モードの振動位相緩和時間内に、誘導ラマン散乱が複数の光パルスで励起されると、該振動モードのバンド強度に増幅作用が生ずることが知られている。本発明に係る分光測定装置は、生体試料中の蛋白質などの振動モードの振動位相緩和時間が、振動モードおよび粘度に依存して異なる性質を利用し、生体試料において該増幅作用を生ぜしめることで、構造の無いスペクトルから分子構造や分子環境を反映するバンド情報を抽出することができる。したがって、本発明に係る分光測定装置は、従来のラマン分光技術で観測されるラマンスペクトルでは観測し得ない、生体試料のラマンスペクトルを観測する効果を有する。
【0010】
第2の側面において本発明にしたがう分光測定装置によれば、前記の特徴を備えた分光測定装置が、さらに、(e)少なくとも振動周波数情報および振動位相緩和時間情報の、2種類の振動情報が反映される、複数の異なる種類の分子のラマンスペクトルを記憶する記憶手段と、(f)前記記憶手段に記憶される、当該ラマンスペクトルから、前記対象のラマンスペクトルに対してケモメトリックス分析をおこなう演算手段を備えることを特徴としている。該2つの手段を備える分光測定装置によって、観測された対象のラマンスペクトルにケモメトリックス分析が施され、該対象の生化学的状態の分類、該対象に含まれる分子濃度の推定、あるいは該対象に含まれる分子の同定がおこなわれる。
【0011】
第3の側面において本発明にしたがう分光測定装置によれば、前記の演算手段がさらに、(g)前記対象のラマンスペクトルに対して、前記演算手段で該対象中に検出される分子のラマンスペクトルを、少なくとも振動周波数情報および振動位相緩和時間情報の、2種類の振動情報が既知であるような所望の標的分子についてのラマンスペクトルと比較する、スペクトル比較手段をさらに備えている。
【0012】
第4の側面において本発明にしたがう分光測定装置によれば、(h)前記スペクトル比較手段の比較結果にもとづいて、標的分子のラマンスペクトルから、所望のラマンバンドのバンド周波数を選択する周波数選択手段と、(i)前記ポンプ光パルス列発生手段の繰返し周波数を、当該周波数選択手段によって選択されたバンド周波数に設定するための周波数設定手段をさらに備えている。これらの手段を備える装置によれば、対象のラマンスペクトル情報にもとづいて、該対象中における標的分子の存在を検出した上で、光パルス列を対象へ照射することができる。これにより、対象中に含まれる標的分子、もしくは当該標的分子を含む少数の分子群における、特定の分子振動のみをインパルシブに誘導ラマン散乱励起し、該標的分子の分子構造の変化を誘起する効果を奏する。
【0013】
第5の側面において本発明にしたがう分光測定装置によれば、ポンプ光パルス列とプローブ光パルスが、レーザ光源と、第1の光ビームと第2の光ビームを生成するためのレーザ光源と結合した分波素子と、前記第1の光ビームを受けてプローブ光を出力する可変光学遅延回路と、多段の可動ステージを介して前記第2の光ビームを受け、少なくとも1つの任意の繰返し周波数を有する前記ポンプ光パルス列を出力するように構成された多重化光パルス発生装置から構成される光学要素によって発生させられる。前記レーザ光源は、100フェムト秒よりも短いパルス時間幅のTLパルスを出力する単一のフェムト秒レーザ光源である。少なくとも1つの側面において本発明に係る分光装置によれば、前記照射手段は、前記プローブ光と前記ポンプ光パルス列を複数の異なる分子を含む測定体積へ導光する導光光学系で構成される。また少なくとも1つの実装によれば、前記検出手段は、前記測定体積と相互作用する光を受光するように構成された光捕集素子と、前記光捕集素子によって集められた検出する光検出器から構成される。
【0014】
少なくとも1つの態様によれば、前記スペクトル取得手段は、記憶装置を備え、前記ポンプ光パルス列を発生手段と電気的に接続されたコンピュータプロセッサと、前記記憶装置と該コンピュータプロセッサにもとづいて、照射手段と、検出手段と、前記ポンプ光パルス列発生手段による繰返し周波数を掃引し、前記プローブ光の遅延を制御し、少なくとも振動周波数と振動位相緩和時間の情報を含む測定体積のラマンスペクトルを決定するプログラム実行手段から構成される。
【0015】
本発明の少なくとも1つの態様によれば、複数の分子を含む測定体積のラマン巣ペクトルを測定する分光測定装置は以下の(a)から(i)から構成される。(a)レーザ光源、(b)第1の光ビームと第2の光ビームを生成するレーザ光源組み合わされた分波装置、(c)前記第1の光ビームを受光し、インパルシブ誘導ラマン散乱を励起する光プローブ信号を出力するように構成された可変光学遅延、(d)前記多段の可動ステージを介して第2の光ビームを受光し、任意の繰返し周波数の少なくとも1つのポンプ光パルス列を出力する多重化光パルス発生装置、(e)前記光プローブ信号と少なくとも1つのポンプ光パルス列を複数の異なる分子を含む測定体積へ導光する導光手段、(f)前記測定体積と相互作用する光を受光するように構成された光捕集素子、(g)前記光捕集素子により集められた光を検出する光検出器、(h)前記可変光学遅延と、前記多重化光パルス発生装置と、前記光検出器と接続された記憶装置付コンピュータプロセッサと、(i)以下の(i)(1)から(i)(3)を実行するためのプログラム実行手段。ここで(i)(1)から(i)(3)は、(i)(1)繰返し周波数掃引と前記多重化光パルス発生装置におけるステージ移動、および、(i)(2)前記可変光学遅延の制御、および(i)(3)少なくとも振動周波数情報と振動位相緩和時間情報を含む測定体積のラマンスペクトルの決定である。
【0016】
本発明の態様である測定対象中の分子についての光と分子の相互作用によって分光測定を実行する方法は、以下(a)から(g)のステップを含む。(a)から(g)のステップは、(a)レーザ光源からポンプ光パルス列を発生し、(b)プローブパルス光を発生し、(c)ポンプ光パルス列とプローブ光パルスを、分子種を含む対象へ導光し、(d)光パルス列の任意の繰返し周波数において、分子の振動コヒーレンスが反映されたスペクトルを取得し、(e)ポンプ光パルス列の繰返し周波数を掃引し、(f)上記のステップを繰返し、(g)分子の振動コヒーレンスが反映されたスペクトルから対象のラマンスペクトルを取得するステップである。
【0017】
本発明は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、別々に、または、任意に好適に組み合わせることが可能な複数の有効な要素を提供する。
【0018】
本発明の要素は、光と分子の相互作用に基づいて分光測定を実施するための装置と方法に関する。
【0019】
本発明の別の要素は、分子標本を照射するために構成された、少なくとも1つの光プローブ信号と少なくとも1つのポンプ光パルス列の発生に関する。
【0020】
本発明の別の要素は、任意の繰返し周波数の光パルス列を発生し、掃引可能なことに関する。
【0021】
本発明の別の要素は、分子の振動周波数情報と振動の位相緩和時間情報の少なくとも2種類の振動情報を含む、分子標本から捕集されるラマンスペクトルに関する分光測定である。
【0022】
本発明の別の要素は、単一のレーザ光源を使用してプローブ信号とポンプ光パルス列を発生に関する。
【0023】
本発明の別の要素は、観測されたラマンスペクトルを分子のスペクトル情報のデータベースと比較することに関する。
【0024】
本発明のさらに別の要素は、分子及び生物試料を低侵襲的方法で試験することに関する。
【0025】
本発明のさらなる要素は、明細書の以下の部分において明らかとされるであろう。なお、明細書における詳細な説明は、発明の好ましい実施形態を十分に開示するためのものであって、これに制限されるものではない。
本発明は、説明の目的のための以下の図面を参照することにより、より十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の分光測定装置において、試料のラマンスペクトルの測定が実施されるフローチャートを示す図である。
【図2A】図2Aは、本発明に係る分光測定装置における、装置の概略構成を示す図である。
【図2B】図2Bは、本発明に係る分光測定装置における、装置の概略構成を示す図である。
【図2C】図2Cは、本発明に係る分光測定装置における、ポンプ光およびプローブ光の試料への照射方式、および信号光の検出方式を示す図である。
【図2D】図2Dは、本発明に係る分光測定装置における、ポンプ光およびプローブ光の試料への照射方式、および信号光の検出方式を示す図である。
【図3A】図3Aは、本発明に係る分光測定装置に使用される、多重化光パルス発生装置の概略構成を示す図である。
【図3B】図3Bは、本発明に係る分光測定装置に使用される、多重化光パルス発生装置の概略構成を示す図である。
【図4】図4(A)から図4(F)は、本発明に係る分光測定装置によって、複数の異なる種類の分子を含む混合試料のラマンスペクトルを観測する場合に得られる効果について説明した図である。
【図5】図5は、本発明に係る分光測定装置において、試料のラマンスペクトルを測定し、該ラマンスペクトルにもとづいて試料を分析するフローチャートである。
【図6A】図6は、本発明に係る分光測定装置において、試料のラマンスペクトルを測定し、該ラマンスペクトルにもとづいて試料の分析を実施する装置の、概略構成を示す図である。
【図6B】図6は、本発明に係る分光測定装置において、試料のラマンスペクトルを測定し、該ラマンスペクトルにもとづいて試料の分析を実施する装置の、概略構成を示す図である。
【図7A】図7Aは、本発明に係る分光測定装置に使用される、多重化光パルス発生装置の概略構成と、該装置における光パルスの時間波形と周波数スペクトルを示す図である。
【図7B】図7Bは、本発明による分光測定装置の多重化光パルス列発生器における、光パルスの周波数スペクトルと時間プロファイルを示す図である。
【図7C】図7Cは、スペクトルの強度変調によって光パルス列を発生する方式の多重化光パルス発生装置において、多波長フィルタを用いる構成と、および該構成における光パルスの時間波形と周波数スペクトルを示す図である。
【図7D】図7Dは、スペクトルの強度変調によって光パルス列を発生する方式の多重化光パルス発生装置において、強度変調素子を用いる構成と、および該構成における光パルスの時間波形と周波数スペクトルを示す図である。
【図7E】図7Eは、スペクトルの位相変調によって光パルス列を発生する方式の多重化光パルス発生装置の構成を示す図である。
【図7F】図7Fは、本発明による多重化光パルス発生装置の構成を示す図である。
【図8】図8は、本発明に係る分光測定装置における、別の態様の装置の概略構成を示す図である。
【図9】図9は、本発明に係る分光測定装置における、別の態様の装置の概略構成を示す図である。
【図10A】図10Aは、本発明に係る分光測定装置における、別の態様の装置の概略構成を示す図である。
【図10B】図10Bは、図10Aに示した本発明に係る分光診断装置において観測される、誘導ラマン散乱過程と、多重化光パルスによって誘導ラマン散乱励起される、分子の振動状態を表す図である。
【図10C】図10Cは、図10Aに示した本発明に係る分光診断装置において観測される、誘導ラマン散乱過程と、多重化光パルスによって誘導ラマン散乱励起される、分子の振動状態を表す図である。
【図10D】図10Dは、図10Aに示した本発明に係る分光診断装置において観測される、誘導ラマン散乱過程と、多重化光パルスによって誘導ラマン散乱励起される、分子の振動状態を表す図である。
【図10E】図10Eは、図10Aに示した本発明に係る分光診断装置において、複数の異なる分子を含む混合試料のラマンスペクトルを観測する場合にえられる効果について説明した図である。
【図11A】図11Aは、本発明に係る分光測定装置における、別の態様の装置の概略構成を示す図である。
【図11B】図11Bは、本発明に係る分光測定装置における、別の態様の装置の概略構成を示す図である。
【図11C】図11Cは、図11A、図11Bに示した本発明に係る分光診断装置において設定される、多重化光パルス(励起光)およびプローブ光の偏光と3次非線形分極の関係を示す図である。
【図11D】図11Dは、図11A、図11Bに示した本発明に係る分光診断装置において観測される各偏光解消比を有する振動バンドについての、バンド強度の偏光素子回転角依存性を示す図である。
【図12A】図12Aは、本発明に係る分光測定装置における、別の態様の装置の概略構成を示す図である。
【図12B】図12Bは、本発明に係る分光測定装置における、別の態様の装置の概略構成を示す図である。
【図13A】図13Aは、図12A、図12Bに示した本発明に係る分光診断装置において、試料のラマンスペクトル測定法を説明する図である。
【図13B】図13Bは、図12A、図12Bに示した本発明に係る分光診断装置において、試料のラマンスペクトル測定法を説明する図である。
【図13C】図13Cは、図12A、図12Bに示した本発明に係る分光診断装置において、試料のラマンスペクトル測定法を説明する図である。
【図13D】図13Dは、図12A、図12Bに示した本発明に係る分光診断装置において、試料のラマンスペクトル測定法を説明する図である。
【図13E】図13Eは、図12A、図12Bに示した本発明に係る分光診断装置において、試料のラマンスペクトル測定法を説明する図である。
【図14】図14は、本発明に係る分光測定装置において、試料のラマンスペクトルを測定し、該ラマンスペクトルの分析結果にもとづいて、試料中に検出された特定分子のテラヘルツ帯振動モードをインパルシブ誘導ラマン散乱励起するフローチャートを示す図である。
【図15A】図15Aは、本発明に係る分光測定装置において、試料のラマンスペクトルを測定し、該ラマンスペクトルの分析結果にもとづいて、試料中に検出された特定分子のテラヘルツ帯振動モードをインパルシブ誘導ラマン散乱励起する装置の、構成概略を示す図である。
【図15B】図15Bは、本発明に係る分光測定装置において、試料のラマンスペクトルを測定し、該ラマンスペクトルの分析結果にもとづいて、試料中に検出された特定分子のテラヘルツ帯振動モードをインパルシブ誘導ラマン散乱励起する装置の、構成概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る分光測定装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0028】
図1は本発明の態様10の一例であって、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯における、対象12のラマンスペクトル16を出力する分光測定装置14の動作のフローチャートを図示している。ステップ18において、パルスの繰返し周波数がサブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯の中で任意の繰返し周波数を有する、フェムト秒光パルスから成る光パルス列が発生され、ステップ20において、該光パルス列(多重化光パルス)と、少なくともひとつの別の単一光パルス(プローブ光)が照射素子へ導光され、ステップ22において、測定されるべきサンプルが設置された単一の空間位置へ、光パルス列とプローブ光が照射され、ステップ24において、任意の繰返し周波数の光パルス列がインパルシブ誘導ラマン散乱を励起し、分子の振動コヒーレンス信号を反映する周波数スペクトルが取得される。
【0029】
ステップ26において、光パルス列の繰返しがサブテラヘルツからテラヘルツ周波数の領域で掃引され、反復ステップ30において、ステップ18、ステップ20、ステップ22およびステップ24が実行される。ステップ28において、対象のラマンスペクトル16を生成するための光パルス列の個々の掃引繰返し周波数について検出される振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルから、標本のラマンスペクトルが生成される。
【0030】
図1において述べられた各ステップは、本発明の例に拠れば、対象のラマンスペクトルの観測は、破線内で示された200a、200b、200cおよび200dの手段により実行することができる。これら手段に係るハードウェアは図2Aと図2Bに記載される。記載された実施手段について、200aは、図1のステップ18を実行するように構成されたポンプ光パルス列発生手段からなる。照射手段200bは、図1記載のステップ20とステップ22を実行するために構成され、検出手段200cは、図1のステップ24を実行するように構成されており、スペクトル取得手段200dは、図1のステップ26、28及び30を実行するために構成されている。
【0031】
図2Aと図2Bは、本発明に係る分光測定装置の態様を示す。本発明において測定される対象例は、液体もしくは固体状の細胞、組織、生物学的な成分および微生物を含む生物学的な標本である。ここで、”AA”、”BB”、”CC”などと記述される結合ブロックは、1つの図から関連する別の図への信号の接合を詳述するために複数の図において使用されている。
【0032】
ここで後続する項において、試料のラマンスペクトルを測定する方法について、図2Aと図2Bを参照しながらより詳細に説明する。分光測定装置241は、光学装置242と演算制御装置243から構成されている。
【0033】
光学装置242の装置構成としては後述する複数の変形例を採ることができる。光学装置242は、1基のレーザ光源201を備えている。レーザ光源は例えば、100フェムト秒よりも短い時間幅のTLパルスを出力し、かつ数百ミリワット程度の平均出力を有するフェムト秒チタンサファイアレーザである。またレーザの出力パルス光の波長は、例えば750ナノメートルから850ナノメートルの近赤外帯域に含まれている。該レーザからの出力パルス光は分波装置202において2分岐され、一方のパルス光は光路221へ導光される。このパルス光は、誘導ラマン散乱励起される対象の、分子振動の状態を検出するプローブ光として利用される。もう一方のパルス光は、光路222へ導光される。このパルス光は、試料の誘導ラマン散乱を励起する、励起パルス光発生用に使用される。
【0034】
光路221および光路222上にはそれぞれ、可変遅延光学系203(Variable delay)と、多重化光パルス発生装置204(Multiple Optical Pulse Generator)が配置されている。可変遅延光学系203(図示略)は、例えばミラーもしくはリフレクタにより構成される。具体的には、光路221上に配置されたミラーによって光路221を90°折り返し、リフレクタでさらに180°折り返して、さらにもう1枚の光路221上に配されるミラーにより、元の光路221に戻すように構成されている。上記リフレクタは、プローブ光が進行する光路221の光路長が可変であるように、移動可能なステージ上に設置されている。
【0035】
光路222ポンプにそって、光パルス列発生手段200aを構成する、繰返し周波数制御手段216で制御される多重化光パルス発生装置204と、分散補償装置205とが配置されている。光路222へ導光されるフェムト秒パルス光は、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯、具体的には、0.1テラヘルツから20テラヘルツの間のパルスの繰り返し周波数を有する、フェムト秒光パルスからなる光パルス列(多重化光パルス)へ変換される。
【0036】
分散補償装置205からの出力は分波装置206によって光路223と224へ分けられる。一方の光路223は、図2Bのブロック200bにおける、導光光学系208と照射素子211と結合している。他方の光路224は、図2Bのブロック200bにおける、導光光学系209と照射素子212と結合している。照射手段200bは、導光光学系207、208及び209と、照射素子210、211及び212とから構成されている。
【0037】
図1のステップ24において、対象の振動コヒーレンス信号を検出するには、後述するように、多重化光パルスによってインパルシブに試料の誘導ラマン散乱を励起し、該試料へプローブ光を照射する。ここで、該試料と該プローブ光との相互作用による、プローブ光の回折強度、周波数シフトまたは偏光の回転の、いずれかの変化の時間波形が測定されればよい。当該時間波形の測定は、検出手段200Cとプローブ光タイミング制御手段217によって実行される。ポンプ光パルス列繰返し周波数制御手段216と組合わされたスペクトル取得手段200dは、図1のステップ26と28を実行する。すなわち各光パルス列の繰返し周波数ごとに、試料の振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルが測定され、繰返し周波数ごとの試料の当該周波数スペクトルが足し合わされることによって、全測定領域にわたる試料のラマンスペクトルの取得が完了する。
【0038】
図2Bに示されるインパルシブ誘導ラマン散乱信号は、過渡回折格子によって回折させられ、信号捕集要素213で捕集され、光検出器214で検出される。さらに増幅器215で増幅され、スペクトル取得手段200dと結合した検出手段200cに配される検出手段245と結合したディジタル変換器218において検出される。ここで、掃引制御器217は検出手段245、スペクトル取得手段200dとタイミング制御手段217、および光パルス列繰返し周波数制御手段216と結合されている。図2Cおよび図2Dについては後の節で述べられる。
【0039】
多重化光パルス発生装置204を構成する光学配置は、図3Aに示されるマイケルソン干渉計301を基本構成としている。マイケルソン干渉計301は、ビームスプリッタ304と、移動ステージ305および306と、該移動ステージ上に配されたリフレクタ307および308と、ビームダンパー309とを備えている。リフレクタのかわりにミラー対が使用されてもよい。また前記移動ステージの内の、一方のみが可動であってもよい。該マイケルソン干渉計では、ビームスプリッタ304において、入射光パルス310が2分岐された後、該2分岐された光パルスが、該ビームスプリッタで合波されるまでの間に進行する光路の光路長を、各々異なる長さに設定できるために、入射光パルスが2分割される。
【0040】
図3Aの多重化光パルス発生装置では、該干渉計301、302および303が3台直列に連結されていて、入射パルス光310から、8個の光パルスからなる光パルス列311を発生できる。この場合、例えば干渉計301、302および303における、2つの光路の光路長差を、それぞれ0.3mm、0.6mm、1.2mmに設定すれば、1テラヘルツの繰返し周波数を有する、光パルス列が生成される。また同様に、該干渉計をN個直列に連結すれば、2個のパルス光からなるパルス列を発生できる。
【0041】
図3Bに示す装置構成も、多重化光パルス発生装置204に使用されるマイケルソン干渉計の一形態である。該干渉計は、偏光ビームスプリッタ313と、1/2波長板312と、1/4波長板314、315とを組み合わせて、光アイソレータとしても機能するようになっている。この構成では、干渉計からの戻り光が生じないために光損失が小さく、干渉計を多段化することができる。この干渉計をN個直列に連結すれば、入射パルス光から、2個のパルス光からなるパルス列を発生できる。
【0042】
前記多重化光パルス発生装置で発生する、光パルス列の繰り返し周波数は、光パルス列繰返し周波数制御手段216によって、所望の値に設定可能することができる。次に該手段について具体的に説明する。図3Aの干渉計では、移動ステージ305または306を移動させることによって、ビームスプリッタ304においてニ分岐された、光パルスの一方が進行する光路と、他方の光パルスが進行する光路との間の光路長差を調節することができる。該手段は、該移動ステージと、演算制御装置243に格納された、スキャン制御装置237およびコンピュータ230が、通信ケーブルで電気的に接続された構造である。これにより、コンピュータ230にロードされた制御プログラムから、スキャン制御装置237を介して、該移動ステージを移動させることができる。さらに該手段においては、該制御プログラムによって、多重化光パルス発生装置から出力される、2個の光パルスの時間間隔が、全て相等しくなるように、N個の各々の干渉計で発生する光路長差を設定することができる。
【0043】
多重化光パルス発生装置204の後段には、光路222上に分散補償装置205が設置されて、光源から該発生装置迄の全光路において付与される群速度分散によって生じる、光パルスのパルス時間幅広がりが補償されてもよい。該分散補償装置は、チャープミラー対、回折格子対、あるいはプリズム対の何れかで構成される。
【0044】
多重化光パルスは、分波装置206においてさらに等分割され、それぞれの光パルスが光路223と光路224の異なる光路を進行する。ここで光路223を進行する多重化光パルスを励起パルス光1、光路224を進行する多重化光パルスを励起パルス光2とする。可変遅延光学系203を通過したプローブ光と、励起パルス光1および励起パルス光2は、照射手段200Bにより試料へ照射される。当該照射手段はそれぞれ、導光光学系207、208および209と、照射素子210、211および212とから構成される。
【0045】
当該導光光学系は、ミラーおよびレンズ群から構成される空間光学系か、もしくは中空ファイバである。照射素子211と212は、ミラーおよび(もしくは)レンズから構成される構造であって、励起パルス光1と励起パルス光2が、試料中で交差することによって過渡回折格子が形成されるように、該2つの励起パルス光の間に相対的な角度をつけて、試料の同一の領域を照射する配置がとられている。また、照射素子210は、ミラーおよび(もしくは)レンズで構成されていて、該過渡回折格子が形成される領域へ、ブラッグ条件を満足させてプローブ光を照射する配置がとられている。この様な、2つの励起パルス光およびプローブ光の照射形態として、一般にBOX−CARS形と呼称される光学配置をとることができる。
【0046】
図2Cおよび図2Dは、本発明に係る試料照射を説明している。光ビーム221、223及び224は、図2A及び図2Bから分かるように、照射素子210、211及び212(例えば、レンズ)によって分配され、試料に当たる。その結果試料から出力されたビームは、光ビーム221’、223’及び224’を含み、捕集素子213、フィルタ及び検出器214によって受容されることとなる。
【0047】
励起パルス光1と励起パルス光2の照射によって、試料がインパルシブに誘導ラマン散乱励起され、試料中に過渡回折格子が形成される。該過渡回折格子に回折されるプローブ光は、信号光捕集素子213によって集光され、光検出器214で検出される。光検出器214は、光電子増倍管またはフォトダイオードである。ここで信号光捕集素子213は、図2Bに示すように、試料に対して前記照射素子と反対側に配置されて、過渡回折格子によってブラッグ条件を満たす方向に回折し、試料を透過してくるプローブ光を集光するように配置されることが効率よく信号を得るために望ましい。しかし試料によっては、図2Cに示すように、該信号光捕集素子を、試料に対して前記照射素子と同じ側に配置して、試料から反射もしくは散乱される回折プローブ光を集光する配置がとられてもよい。
【0048】
光検出器214において光電変換された、回折プローブ光の強度信号は、増幅器215で増幅された後、演算制御装置243に備えられたAD変換器218によって、同様に演算制御装置243に備えられたコンピュータ230へ取り込まれる。
【0049】
多重化光パルス(光パルス列)を構成するフェムト秒光パルスによって、試料に含まれる分子の複数の振動状態がコヒーレントに励起される。このコヒーレントな励起状態(振動コヒーレンス)は非定常状態であるため時間発展し、それに伴って分子振動が生ずる。また、この時間発展する振動コヒーレンスは、一定時間(振動位相緩和時間)の間保たれる。試料中の分子振動に由来する、試料の振動コヒーレンス信号は、以下に説明する方法によって観測することができる。
【0050】
前述したプローブ光の回折強度は、試料中に形成される過渡回折格子、すなわち過渡的な屈折率の空間分布の変化を反映する。一方、前記励起パルス光に誘起されるインパルシブ誘導ラマン散乱過程によって生じる、試料中の分子の振動コヒーレンスは、振動基底状態と振動励起状態のエネルギー差、言い換えれば、モードの振動周波数に相当するビート周波数で過渡的な屈折率変化を変調する。したがって、励起パルス光に対してプローブ光を試料に照射するタイミングをスキャンしながら、プローブ光の回折強度を記録すれば、該回折強度の時間波形に分子の振動コヒーレンス信号が反映されることになる。
【0051】
プローブ光タイミング制御手段217は、可変遅延光学系203に備えられた、リフレクタもしくはミラー対を配する移動ステージを作動させる機能を有し、該移動ステージと、スキャン制御装置237と、コンピュータ230とが通信ケーブルで電気的に接続された構造を有している。これにより、該移動ステージが、スキャン制御装置237を介して、コンピュータ230上で動作する制御プログラムによって操作される。
【0052】
検出手段200Cは、コンピュータ230上で動作する、前記移動ステージの制御、演算およびデータ取得機能を有するプログラムと、信号光捕集素子213、光検出器214、増幅器215およびAD変換器218とから構成される。該検出手段では、プローブ光タイミング制御手段217によって、可変遅延光学系203の移動ステージを所定の位置に設定する。さらに試料において回折されたプローブ光を光検出器214で検出し、そのプローブ光強度をAD変換器218からコンピュータ230へ取り込み、記憶する。この過程は、当該移動ステージの位置がスキャンされながら複数回反復される。
【0053】
このように、検出手段200Cによって、光パルス列の任意の繰返し周波数で、試料をインパルシブに誘導ラマン散乱励起するときの振動コヒーレンス信号が測定される。具体的には、可変遅延光学系203において生ずる光路221の光路長変化量を、1マイクロメートルから数マイクロメートル刻みで逐次変化させながら、当該変化量ごとに回折プローブ光の強度を記録すれば、十分な時間分解能で振動コヒーレンス信号の時間波形を測定できる。
【0054】
さらに検出手段200Cは、フーリエ変換演算を実行する機能を備える。これにより、任意の特定繰返し周波数を有する多重化光パルスを試料へ照射する際の、試料の振動コヒーレンス信号に対して、フーリエ変換演算が施され、該信号の周波数スペクトルが求められる。
【0055】
また、多重化光パルスの持続時間よりも時間幅の広いパルス光を、プローブ光として用いれば、可変遅延光学系203の移動ステージ位置をスキャンせずに、振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルを測定することも可能である。このような測定が実施できる装置構成については、後に詳述する。
【0056】
多重化光パルスで試料を励起する場合に観測される、試料の振動コヒーレンス信号においては、光パルス列の繰返し周波数に一致した振動周波数を有する振動モードの振動コヒーレンス成分のみが増強され、他の振動周波数を有する振動モードの振動コヒーレンス成分は増強されない。よって、該周波数スペクトルには、該光パルス列の繰返し周波数に一致する振動モードのラマンバンドのみが出現する。
【0057】
したがって、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯の任意の領域において、試料のラマンバンドを観測するのに十分な周波数幅で、ラマンスペクトルを測定するには、光パルス列繰返し周波数制御手段216によって、光パルス列の繰返し周波数をスキャンする必要がある。スペクトル取得手段200Dは、コンピュータ230上で動作する、前記移動ステージの制御、演算、およびデータ取得機能を有するプログラムである。該スペクトル取得手段は、光パルス列繰返し周波数制御手段216によって、光パルス列の繰返し周波数を、任意の特定周波数に設定した上で、検出手段200Cにより検出される、試料の振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルを取得することができる。さらに、該スペクトル取得手段は、光パルス列の繰返し周波数をスキャンしながら、この過程を反復し、光パルス列の繰返し周波数ごとの、試料の振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルを取得する機能を有する。
【0058】
ここで、スペクトル取得手段200Dにより、光パルス列の繰返し周波数ごとに取得された振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルに現れる、ラマンバンドのバンド強度が計算される。スキャンした全繰返し周波数に対して、当該バンド強度が算出されることにより、該スキャン領域における、試料のラマンスペクトルが生成される。当該バンド強度としては、ラマンバンドのピーク強度、もしくはバンドの面積強度が求められればよい。
【0059】
ここで、前述した光パルス列の異なる繰返し周波数ごとに、測定される試料の振動コヒーレンス信号のバンド強度を、該周波数ごとにプロットして得られる試料のラマンスペクトルは、試料中の分子の振動モードにおける、振動周波数情報と振動位相緩和情報の、2種類の振動モード情報が反映されたラマンスペクトルであることを説明する。さらに、本発明の方法によって、生体試料のような、複数の異なる化学成分(分子)を含む混合試料のラマンスペクトルを測定すれば、従来のラマン分光技術によって観測される、ブロードで構造に乏しい該試料のラマンスペクトルに対して、該試料に含まれる分子のバンド情報が抽出された、ラマンスペクトルを得られる効果を奏することを、図4(A)から図4(F)に示される模式的なスペクトルを参照して説明する。
【0060】
図4(A)、図4(C)、図4(E)はそれぞれ、従来のラマン測定法、すなわち、自発ラマン分光または単一光パルス励起のインパルシブ誘導ラマン分光法で観測される、模式的なラマンスペクトルを示している。自発ラマン散乱分光と単一光パルスで励起する方式のインパルシブ誘導ラマン散乱分光法は、等価なラマンスペクトル情報を与えることが知られている。
【0061】
図4(A)において、実線で示されるスペクトルは、分子Aのラマンスペクトルを示す。ここで、該ラマンスペクトルは、3つの異なる振動モード、modeA1(一点鎖線)、modeA2(破線)およびmodeA3(点線)によるラマンバンドから構成されるとする。図4(C)において、実線で示されるスペクトルは、分子Bのラマンスペクトルを示す。該ラマンスペクトルは、3つの異なる振動モード、modeB1(一点鎖線)、modeB2(破線)およびmodeB3(点線)によるラマンバンドから構成されると仮定する。図4(E)において、実線で示されるスペクトルは、分子Aおよび分子Bを含む混合試料のラマンスペクトルであり、点線と破線はそれぞれ、混合試料のラマンスペクトルに寄与する、分子Aと分子Bのラマンスペクトルを示している。
【0062】
この様に、従来のラマン分光技術によって観測されるラマンスペクトルは、混合試料に含まれる複数の分子の構造に乏しいラマンバンドが、それぞれ足し合わされることにより、より特徴のないブロードなスペクトルになってしまう。
【0063】
次に、本方法で得られる混合試料のラマンスペクトルは、当該試料中の分子の振動モードにおける、振動周波数情報と振動位相緩和情報の、2種類の振動モード情報が反映されたラマンスペクトルであることを説明する。
【0064】
一般に、単一種類の化学成分(分子)からなる純物質に対しては、所定の単一の繰り返し周波数を持つ多重化光パルスによってインパルシブに誘導ラマン散乱励起する場合であって、かつ当該純物質に多重光パルス列の繰返し周波数に一致する周波数の振動モードが存在するならば、インパルシブ誘導ラマン散乱過程によって生じた該振動モードの振動コヒーレンス信号の選択性が向上することが知られている(A. M. Weiner et al. “Femtosecond multiple pulse impulsive stimulated Raman scattering spectroscopy” J. Opt. Soc. Am. B, Vol. 8 1264 (1991)参照。)。この選択性は、振動モードの振動位相緩和時間と、多重光パルス列の照射時間との関係において決定される。
【0065】
具体的には、振動モードの振動位相緩和時間が多重光パルス列の照射時間よりも長い場合には、多重パルス光列でインパルシブ誘導ラマン散乱を励起することによって、該振動モードの振動コヒーレンス信号が増幅され、一方モードの振動位相緩和時間が、多重パルス列の照射時間よりも十分短い場合には、逆に振動コヒーレンス信号は増幅されない。つまり、上記方法によれば、振動モードの振動位相緩和時間によって振動コヒーレンス振動が、相対的に増減されることがわかる。
【0066】
ただし、この方法はあくまでも、純物質の振動モードの増強効果についての言及に留まり、この方法では、本発明が対象とする、生体試料のような混合試料の、周波数幅の大きな特徴を持つ複数の異なる分子のバンド情報(振動周波数情報)を抽出することはできない。よって本発明では、この複数の異なる分子のバンド情報(振動周波数情報)に対応させて、多重化パルス列の繰り返し周波数を変化させ、それらを個別に増減させて、弁別可能な特徴として抽出させる様にしている。
【0067】
なお、蛋白質など生体高分子の振動モードにおける振動位相緩和時間が、これらを構成する複数の化学物質の分子内や分子間の相互作用に影響されて振動モード毎に異なり、また、粘度や温度などの物理環境によっても異なることが確認されている。
【0068】
したがって、上述の様に、繰り返し周波数を変化させた多重化光パルスによって、生体高分子等の混合試料をインパルシブ誘導ラマン散乱励起すれば、当該試料中に含まれる複数の分子の振動位相緩和時間が、それぞれの分子の分子内や分子間の相互作用および物理環境に関連した違いとなり、さらにそれぞれの分子に含まれる振動モードの振動コヒーレンス信号の増減の違いとなり、最終的にこれらを反映した(つまり振動周波数情報と振動位相緩和情報の、2種類の振動モード情報が反映された)異なるラマンバンドとして振動コヒーレンス信号の周波数スペクトル上に現れることは明らかである。よって、試料中の異なる種類の分子の振動モードにおいて、モード周波数が縮退していて弁別不可能であるとしても、本発明を用いれば振動位相緩和情報を利用することによって、これら複数の振動モードを弁別することが可能である。
【0069】
図4(B)、図4(D)、図4(F)に示されるスペクトルを参照して、本発明の分光測定装置によって、異なる複数の種類の分子を含む混合試料のラマンスペクトルを観測するときに得られる効果を加えて具体的に説明する。ここで該化学成分としては、例えば、生体試料中に含まれる、蛋白質などの生体分子が想定される。図4(B)、図4(D)および図4(F)はそれぞれ、分子A、分子B、および分子Aと分子Bを含む混合試料を、多重化光パルスで励起するときに得られるラマンスペクトルである。
【0070】
ここで、A分子のモード、modeA3の振動位相緩和時間が、多重化光パルスの照射時間よりも十分短く、かつ、他モードの振動位相緩和時間が多重化光パルスの照射時間よりも長い状況を仮定する。この場合、分子Aのラマンスペクトルは、modeA3のバンドの寄与が減少し、modeA1及びmodeA2のバンドによって特徴付けられ、図4(B)の実線のようになる。一方、分子Bにおいては、modeB2の振動位相緩和時間が多重化光パルスの照射時間よりも十分短く、かつ、他モードの振動位相緩和時間が多重化光パルスの照射時間よりも長い状況を仮定する。この場合、分子Bのラマンスペクトルは、modeB2のバンドの寄与が減少し、modeB1及びmodeB3のバンドによって特徴付けられ、図4(D)の実線のようになる。
【0071】
このように、図4(B)および図4(D)のスペクトルには、分子の振動モードの周波数情報(modeA1、A2、A3、B1、B2及びB3のラマンバンド)と振動位相緩和情報(各振動モードの持つ振動位相緩和時間に伴う各バンドの増減)が含まれていて、それぞれの分子のバンド情報が特徴的に現れている。
【0072】
分子Aと分子Bの混合試料のラマンスペクトルは、それぞれの分子のラマンスペクトルの線形和であって、図4(F)に図示される実線となる。このラマンスペクトルには、同様に分子の振動モードの周波数情報(modeA1、A2、A3、B1、B2及びB3のラマンバンド)と振動位相緩和情報(各振動モードの持つ振動位相緩和時間に伴う各バンドの増減)が含まれており、分子Aと分子Bのバンド情報が明瞭に示されている。
【0073】
図4(F)に示される本発明の方法で測定された混合試料のラマンスペクトルと、図4(E)に示される、従来のラマン測定法で取得されるラマンスペクトルとを比較すると、本測定法によれば、ブロードな混合試料のラマンスペクトルから、分子Aと分子Bのバンド情報が抽出された、ラマンスペクトルを観測できることが明らかである。さらに、図4(B)と図4(D)において実線で示される、分子Aと分子Bのラマンスペクトルを予め測定し、既知のスペクトル情報としておけば、混合試料のラマンスペクトルから、該混合試料に含まれる化学成分の割合についての情報を得られる。
【0074】
以上の様に、本発明の分光測定装置によれば、繰り返し周波数を変化させ多重化光パルスによって試料のインパルシブ誘導ラマン散乱を励起することで、試料内分子の振動モードの周波数情報に加えて、振動モードの位相緩和時間情報を振動バンドの弁別に利用できるので、分子のバンド情報が抽出された混合試料のラマンスペクトルを測定することが可能である。これにより、自発ラマンもしくは単一パルス励起のインパルシブ誘導ラマン散乱法のような、従来のラマン分光測定によって得られる試料のラマンスペクトルから、混合試料の化学成分(分子)を分析するよりも、精度の高い分析を実施できる効果を奏する。
【0075】
図5は、サンプル402のラマンスペクトルを測定し、取得したラマンスペクトルに基づいてサンプルを分析する、本発明の分光測定装置414によって実行されるステップの態様(フローチャート)例400を示している。
図6Aと図6Bは装置構成の概略を示している。ここでは、該試料が生体試料であるとして説明する。
【0076】
図6Aおよび図6Bには、光学装置642と分析装置643が図示されている。ここで光学装置642は、図2Aおよび図2Bに記された前述の光学装置242と同一の装置である。
したがって、ポンプ光パルス列発生手段200Aおよび照射手段200Bと同一のポンプ光パルス列発生手段600Aおよび照射手段600Bを有する。
あるいは、後述する光学装置242の装置構成の変形例に相当する装置であってもよい。
【0077】
分析装置643は、検出手段600C、スペクトル取得手段600D、および演算手段600Fを備えている。さらに、当該分析装置は、前記スキャン制御装置237と同一のスキャン制御装置637を備えている。ここで、検出手段600Cおよびスペクトル取得手段600Dは、前記検出手段200Cおよびスペクトル取得手段200Dと同一の手段であって、当該2つの手段によって、前述のように、多重化光パルスの繰返し周波数ごとに観測された振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルから、試料のラマンスペクトルが生成される。
【0078】
演算手段600Fは、試料のラマンスペクトルに対してケモメトリックス分析を実行するプログラムであって、コンピュータ630上で動作する。該演算手段で実行されるケモメトリックス分析法は、具体的には、スペクトル分類、スペクトル検量、およびスペクトル波形分離など、一般に使用されるケモメトリックス分析のソフトウェアパッケージに備えられている手法である。
【0079】
これにより本分光測定装置によれば、図5のフローチャートに従って、特に要素600aから600fへ分類される416、418、420、422、424、426、428、430および432のステップに従って試料のラマンスペクトルが測定される。図5のステップは、ポンプ光パルス列の発生ステップ416、ポンプ光パルス列とプローブパルスを照射素子へ導光するステップ418、対象へポンプ光パルス列とプローブパルスを照射するステップ420、光パルス列の任意の周波数で振動コヒーレンススペクトルを取得するステップ422、ポンプ光パルス列の繰返し周波数を掃引するステップ424、ステップ416、418、420、422および424を反復するステップ426、スペクトルデータ434に応じてステップ432で分析される対象のラマンスペクトル430を、ポンプ光パルス列の繰返し周波数ごとの振動コヒーレンススペクトルから取得するステップ428を含む。
【0080】
演算手段600Fにおいて実行される、生体試料のラマンスペクトル分析の手法によれば、複数の試料のラマンスペクトルに対して、主成分分析を施すことによって主成分スコアのスコアプロットを作成し、該プロットの分布から、試料のスペクトルを分類することで試料の診断がなされてもよいし、あるいは、複数の試料のラマンスペクトルに対してクラスター分析が施され、試料のラマンスペクトル間で算出される、スペクトル距離にもとづいてラマンスペクトルが分類されることによって、試料の診断がなされてもよい。
【0081】
演算手段600Fによる、生体試料のラマンスペクトル分析の別の手法によれば、記憶手段600Eに、予め複数の異なる種類の生体分子のラマンスペクトルを記憶させておく。該記憶手段は、コンピュータ630に内蔵されるメモリまたは、外部記憶装置である。該生体分子のラマンスペクトルは、本発明の分光測定装置によって観測される、分子の振動周波数情報と振動位相緩和情報の、少なくとも2種類の振動モード情報が反映されたラマンスペクトルである。さらに該ラマンスペクトルには、前記2種類の振動モード情報に加えて、振動モードごとの3次非線形感受率のテンソル成分に関する情報が反映されていても良い。
【0082】
これにより、記憶手段600Eに記憶された複数の生体分子のラマンスペクトルデータから、分光モデル、すなわちケモメトリックス分析に用いられる、検量モデルまたはトレーニングセットを設計した上で、測定される試料のラマンスペクトルに対して、Principle Component Regression(PCR)法、もしくはPartial Least Square Fitting(PLS)法のスペクトル検量法を実行すれば、生体試料中の分子の濃度を予測することができる。
【0083】
この場合、設計された該分光モデルに包含される分子については、試料中に存在する当該分子の濃度予測にもとづいて、試料を診断することもできる。あるいは、スペクトル検量によって濃度が予測された分子のラマンスペクトルから、生体試料のラマンスペクトルを再現し、観測された試料のラマンスペクトルと、該再現スペクトルとの差スペクトルを求めることができる。該差スペクトルは、分光モデルに包含されていない、分子もしくは分子群のラマンスペクトルが抽出されたものであって、この差スペクトルにもとづいて試料の診断がおこなわれても良い。
【0084】
図6Aと図6Bによれば、図2Aと図2Bにて述べたのと同様にして、単一のレーザ光源601が使用され、光路621と光路622を作る分波器602と組合わされている。光路621上には光学遅延603が配され、光が照射手段600bおよび導光光学系607、および照明素子610へ到達する前に、タイミング制御手段617によって到達タイミングが制御される。光路622上には、繰返し周波数制御手段616により制御される多重化光パルス発生装置604と、分散補償装置605から構成されるポンプ光パルス列発生装置600aが配されている。
【0085】
分散補償装置605からの光出力は、分波器606によって光路623と624へ分けられる。一方の光路623は、図6Bに図示される区画600bの導光光学系608と照射素子611へ接続され、光路624は、図6Bに図示される区画600bの導光光学系609と照射素子612へ接続される。照射手段200bは、導光光学系607、608、609と照射素子610、611、および612とから構成される。信号光捕集素子613と光検出器614によって検出されるインパルシブ誘導ラマン散乱信号は、増幅器615によって増幅され、AD変換器618によってディジタル信号へ変換され、検出手段600cの検出器645により検出される。
【0086】
また、演算手段600Fによる生体試料のラマンスペクトル分析のさらに別の手法によれば、生体試料において、複数のラマンスペクトル測定をする。その上でこれらのラマンスペクトル群に対して混合スペクトル分離(Self Modeling Curve Resolution)法を実施し、該ラマンスペクトルを構成する成分スペクトルを算出しても良い。さらに、該成分スペクトルのそれぞれを、記憶手段600Eに記憶された生体分子のラマンスペクトルと照合すれば、生体試料中に存在する分子を同定することが可能である。
【0087】
多重化光パルス発生装置204は、上述の構成以外にも様々な態様をとることができる。図7Aに光パルスのスペクトル振幅変調を利用する方式の該装置の構成を示す。該装置は、レーザ光源720の後段に正の群速度分散を付与する周波数分散素子721と光学遅延回路を配している。該周波数分散素子にはガラスブロックを使用すればよい。光学遅延回路は前述のマイケルソン干渉計301であって、ビームスプリッタ704で光パルスを2分割し、各々が別の光路723、724を進行する間に、パルス間に相対遅延時間Tが作られる。図7Bは、光路722上のa点およびb点と、光路725上のc点の各点における光パルスのスペクトルと時間波形を示している。
【0088】
周波数分散素子721に入射するTLパルスは、該素子で正のチャーピングを受け、b点において図7Bのパネル(b)に示すような周波数スペクトルと時間波形を示す。さらに干渉計において、2分割されたチャープパルス間に相対遅延時間Tが与えられると、c点における合成波形は、図7Bのパネル(c)に示す光パルスのパルス列となる。より具体的には、c点における光パルス強度波形は以下の計算で求められる。b点におけるチャープパルス光の時間幅がτ、チャープレート値がCであり、かつb点からc点の間における分散の影響を無視できる場合、c点において干渉計の片方の光路723を経由する光パルスの電場の時間波形E1は、パルス瞬時波形がガウス型であり、Eを振幅強度とすると以下のように表せる。
【0089】
【数1】

【0090】
また、相対遅延時間Tが与えられた光パルスの電場波形E2は、以下の通りである。
【数2】

【0091】
c点における光パルスの電場波形Eは、次のように表わされる。
【数3】

【0092】
さらに、c点における光パルスの強度波形は次のように表わされる。
【数4】

【0093】
ここで、上式の第3および第4項は以下のように計算される。
【数5】

【0094】
したがって、以下の式が得られる。
【数6】

【0095】
パルス光の時間幅τは相対遅延時間Tよりもずっと大きいので、c点における光パルス強度の時間波形は以下の式で近似できる。
【数7】

【0096】
したがって、c点における光パルス列の繰返し周波数は、遅延時間TとチャープレートCの積に比例する。前述の光パルス列繰返し周波数制御手段216によって、光学遅延回路(干渉計)で生ずる相対遅延時間Tを調整すれば、チャープパルスのパルス時間幅内で、所望の繰り返し周波数の光パルス列を得ることができる。
また、周波数分散素子721で付与する群速度分散量を増やしてパルスの時間波形を伸張させた上で、相対遅延時間Tを小さくすれば、同じ繰返し周波数を保ったまま光パルスの個数を増やすこともできる。
【0097】
本構成の多重化光パルス発生装置によれば、光学遅延回路(干渉計)で発生するパルス間の相対遅延時間Tを変化させるだけで、光パルス同士の時間間隔を簡便かつ高精度で変更することができる。そのため高分解能の分光スペクトルを簡便に測定することが可能である。また、該遅延時間の発生には1台の干渉計があればよく、多重化光パルス発生装置の構成を簡潔化することができる。
【0098】
また本構成の多重化光パルス発生装置によれば、該装置への入射パルス光としてSC光を使用してもよい。この場合レーザ光源720をピコ秒またはナノ秒レーザとし、該レーザ出力をPCFファイバに入射させて発生するSC光を入射パルス光とすればよく、高繰返し周波数の光パルス列が発生可能な装置を安価に構成できる。
【0099】
図7Cは、光パルスのスペクトル強度変調を利用する方式の、多重化光パルス発生装置における別の構成と、該構成における光路727上のa点、b点における、光パルスのスペクトルと時間波形を示す。該構成では、マルチピークフィルタ726によって入射光パルスのスペクトルが振幅変調され、時間軸上で光パルス列がえられる。該マルチピークフィルタには、ファブリ・ペロー型波長可変フィルタもしくはファイバブラッググレーティング波長可変フィルタが使用されればよい。
【0100】
図7Dは、光パルスのスペクトル強度変調を利用する方式の、多重化光パルス発生装置におけるさらに別の構成と、該構成における光路731上の、a点、b点、c点、およびd点における光パルスのスペクトルと時間波形を示す。該構成は、パルス光源からの出力に群速度分散を付与する周波数分散素子728と、該分散素子とは逆の群速度分散を付与する周波数分散素子729と、該2つの周波数分散素子間に配された強度変調素子730とから構成される。該装置に入射する光パルスは、周波数分散素子728の効果によって大きくチャープされ、図7Dのパネル(b)のような時間波形となり、光スペクトル情報が時間軸上にマッピングされる。さらに、該強度変調素子によってスペクトル振幅が時間的に変調された該光パルス(c)は、周波数分散素子729の効果によってその時間波形が圧縮され、パネル(d)のような光パルス列が発生する。
【0101】
図7Eは光パルスのスペクトル位相変調を利用する方式の、多重化光パルス発生装置の概略構成と、該構成における光路735上の、a点、b点、c点、およびd点における光パルスのスペクトルと時間波形を示す。該装置は、パルス光源からの出力に群速度分散を付与する周波数分散素子732と、該分散素子とは逆の群速度分散を付与する周波数分散素子733と、該2つの周波数分散素子間に配された位相変調素子734とから構成される。
【0102】
本装置においては、まず入射パルス光に群速度分散を付与することでパルスの時間波形を大きく伸長させる。すなわち光パルスを大きくチャープさせて、光スペクトル情報を時間軸上にマッピングする。次に、該位相変調素子によって光パルスの位相を時間的に変調する。このとき光スペクトル位相も同時に変調される。さらに、位相変調されたチャープパルス光を周波数分散素子733に通し、光パルスの時間波形を再び圧縮する。このような操作によって、光パルスのスペクトル位相が周期的に変調され、時間軸上にて光パルス列を得ることができる。光スペクトルのスペクトル変調周波数は、群速度分散による位相変化量と位相変調器の位相変調周期により決定される。
【0103】
スペクトルの位相変調を利用する方式の、多重化光パルス発生装置の具体的構成を図7Fに示す。Yb−dopedMLL736からはフーリエ変換限界(TL)に近い短パルスが出力され、該出力光は、Circulator737のポート1に入力される。Circulator737のポート2から出力された光は、Chirped FBG739にA側から入力される。該Chirped FBGでは光パルスに、+β2_FBGの群速度分散が付与される。ChirpedFBGにて反射された光パルスは、ほぼ線形チャープを有し、時間幅は十分に広げられている。Chirped FBGで反射された光は、Circulator737のポート2に入力され、Circulator737のポート3から出力される。
【0104】
Circulator737のポート3から出力された光は、EOM740に入力される。該EOMでは入力された光に対して一定の周期で位相変調が施される。該EOMにて位相変調が施された光パルスは、Circulator738のポート1に入力される。Circulator738のポート1に入力された光は、ポート2に出力され、Chirped FBG739にB側から入力される。Chirped FBGでは光パルスに−β2_FBGのGVDが与えられる。Chirped FBGにて反射された光パルスは、線形チャープが補償されて光パルス列になっている。Chirped FBGで反射された光は、Circulator738のポート2に入力され、Circulator738のポート3から出力される。
【0105】
本装置を光スペクトルの振幅変調を利用する方式の装置構成と比較すると、低損失で所望の繰り返し周波数の光パルス列の生成が可能である。また、位相変調器の変調周期を変えることにより、高精度に光パルス列の繰り返し周波数を変えることができる。また機械的可動部品を用いないため、故障確率を低く抑えることができる。したがって安定、簡便かつ高精度に分光スペクトルを取得する効果を奏する。
【0106】
本発明に係る分光測定装置について、これまで図2Aの装置構成にもとづいて説明してきた。しかし、該装置構成において、光学装置242に相当する箇所の構成は、別の装置構成であってもよい。以下にそれら装置構成について説明する。但し、これらの本発明に係る分光測定装置の構成の変形例において、演算制御装置243に相当する箇所は、それぞれ共通の構成と機能を有するものであるとし、以下の説明では特に言及しない。また、以下に説明する、光学装置の様々な態様の構成が、前述の分析装置643と組み合わされて、試料のラマンスペクトル測定および該スペクトルの分析を実施する装置の構成がとられてもよい。
【0107】
図8は、光学装置242に関する、他の別の態様を示す図である。光学装置842の装置構成では、光路821上に波長変換素子806および光学フィルタ818が配置され、プローブ光の波長が多重化光パルス(励起パルス光)の波長よりも短い波長へ変換されるとともに、基本波成分は光学的に除かれる。波長変換素子806としては、例えばラマンシフターや非線形光学結晶を使用すればよい。光路821を進行するプローブ光と、光路822を進行する多重化光パルスは、合波装置807において合波されて共通の光路823上を進行する。プローブ光と多重化光パルスは、さらに導光光学系808と照射素子809から構成される、照射手段825によって、ほぼ同軸で試料へ照射される。
【0108】
信号光捕集素子810は、試料に対して照射素子809と反対側に配置されて、試料を透過するプローブ光を集光することが望ましい光学配置であるが、試料に対して照射素子と同じ側に配置されて、試料からのプローブ光の反射光もしくは散乱光を集光する配置とすることも可能である。信号光捕集素子810に集光されたプローブ光と励起パルス光の内、励起パルス光のみが光学フィルタ(ハイパスフィルタ)811により除去され、さらにプローブ光が分光器812よって波長分散させられて、分光器の出射スリットに配置された光検出器813で検出される。光検出器813としては、光電子増倍管、フォトダイオードまたはCCD検出器が使用される。
【0109】
インパルシブ誘導ラマン散乱過程による試料の屈折率変化によって、プローブ光の周波数はシフトするが、この周波数シフトの時間波形は振動コヒーレンス信号のビート周波数で変調されている。したがって分光器812によって信号光を波長分散させた後、特定波長におけるプローブ光強度の時間波形を観測すれば、試料の振動コヒーレンス信号を得られる。さらに多重光パルス列繰返し調節手段816により、多重化光パルス列の繰返し周波数をスキャンして、繰返し周波数ごとに観測される振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルを計算すれば、試料のラマンスペクトルを取得できる。
【0110】
本実施形態の光学装置842によれば、プローブ光と多重化光パルスを試料へほぼ同軸で照射することができるので、照射手段825を簡略化できる。またフィルタ811によって、試料を透過もしくは試料に散乱される励起光を除去することができる。これに加えて、プローブ光の波長が励起光よりも短い波長であるので、たとえ励起光の照射によって試料が蛍光を発したとしてもその影響を受けない。したがって、背景光の影響が抑制された良好なラマンスペクトルを取得することができる。
【0111】
図9は、本発明の分光測定装置において、光学装置242に関する別の態様の装置構成を示す図である。光学装置942の構成においては、光路921上に波長変換素子906および光学フィルタ920が配置され、プローブ光の波長が多重化光パルス(励起光)の波長よりも短い波長へ波長変換されるとともに、基本波成分は光学的に除かれる。波長変換素子906は、例えばラマンシフターや非線形光学結晶とすればよい。また、光路921と光路922上に偏光子907と908が配置されていて、プローブ光の偏光が多重化光パルスの偏光に対して45度の角度をなすように設定される。偏光子907の後段には、4分の1波長板909が、プローブ光の偏光が直線偏光から僅かに楕円偏光となるように、その透過軸をプローブ光の偏光方向より僅かに傾けて配置されている。プローブ光と多重化光パルスは、合波装置910によって合波され、さらに導光光学系911と照射素子912から構成される、照射手段925によって、試料へほぼ同軸に照射される。
【0112】
信号光捕集素子913は、試料に対して照射素子912と反対側に配置されて、試料を透過するプローブ光を集光することが望ましい光学配置であるが、試料に対して照射素子と同じ側に配置されて、試料からのプローブ光の反射光もしくは散乱光を集光する配置とすることも可能である。信号光捕集素子913に集光されたプローブ光と励起光(多重化光パルス)の内、励起光のみが光学フィルタ(ハイパスフィルタ)915により除去される。
【0113】
光学フィルタ915の前段には偏光子914が配置される。該偏光子914は、その透過軸が、多重化光パルスの偏光方向に対してプローブ光の偏光方向とは逆方向へ45度傾くように配置されている。言い換えれば、透過軸がプローブ光の偏光と直交する配置となっている。よって、励起光が照射されていない場合には、プローブ光の内、4分の1波長板909によって発生する偏光子914の透過成分のみが、光検出器916において検出される配置になっている。
【0114】
多重化光パルスによって、試料をインパルシブに誘導ラマン散乱励起すると、試料に屈折率異方性が誘起され、プローブ光の偏光が回転する。この作用によって偏光子914を透過するプローブ光成分が新たに生ずる。試料の屈折率異方性は振動コヒーレンス信号のビート周波数で変調されているので、偏光子914を透過するプローブ光の時間波形を光検出器916で検出すれば、試料の振動コヒーレンス信号を得られる。さらに多重光パルス列繰返し周波数制御手段918により、多重化光パルスの繰返し周波数をスキャンし、各繰返し周波数における振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルを計算すれば、試料のラマンスペクトルを取得できる。
【0115】
本実施形態の光学装置942によれば、プローブ光と多重化光パルスを試料へほぼ同軸に照射することができるので、導光光学系および照射素子における光学系を簡略化できる。また光学フィルタ915によって、試料を透過もしくは試料に散乱される励起光を除去することができる。これに加えて、プローブ光の波長が励起光よりも短い波長であるので、励起光の照射によって試料が蛍光を発したとしてもその影響を受けない。したがって、背景光の影響が抑制された良好なラマンスペクトルを取得することができる。
【0116】
また本実施形態では、プローブ光における偏光子914の透過成分を局部発振光とする光ヘテロダイン検出によって、3次非線形感受率に線形な振動コヒーレンス信号を得られる。この場合ラマンスペクトル強度は分子濃度に比例するので、生体試料に含まれる、相対的に低濃度の分子を観測する用途においてホモダイン検出よりも感度の高い測定が可能である。
【0117】
さらに振動モードの偏光解消比の大きさ、より具体的にはモードの偏光解消比の0.33に対する大小によって、周波数スペクトルに正または負のラマンバンドが観測される。したがって分子の周波数と振動位相緩和時間を含む振動モード情報に加えて、振動モードの偏光解消比が反映されたラマンスペクトル情報を観測することが可能であり、構造のないラマンスペクトルから分子もしくは分子群の構造を特徴づけるバンド情報を抽出する上で更なる効果を奏する。
【0118】
図10Aは、本発明の分光測定装置において、光学装置242に関する別の態様の装置構成を示す図である。本実施例の光学装置1042は、多重化光パルスとプローブ光を、ほぼ同軸で試料に照射する構成の光学装置842、942と同様の形態であるが、多重化光パルス発生装置が配された光路1022のほうに、非線形光学結晶1006が配置されていることを特徴とする。
【0119】
本実施例の一例としては、非線形光学結晶1006によって、レーザ光源1001(チタンサファイアレーザ)の基本波の第2高調波、あるいは第3高調波を発生し、該高調波から多重化光パルス(励起光)を発生させる。一方、プローブ光にはチタンサファイアレーザの基本波を使用する。したがって本実施例においては、励起光のエネルギーが試料中の分子の電子励起状態(例えばS1励起状態)に共鳴していれば、図10Bのエネルギーダイアグラムに示される誘導ラマン散乱過程を利用して該分子の振動コヒーレンス信号を観測することになる。また、信号光捕集素子1010に集光されたプローブ光と励起光の内、励起光のみがロングフィルタ1011により除去される。
【0120】
ラマン散乱過程による遷移確率Rは、クラマース・ハイゼンベルグ・ディラック(KHD)分散式で表される。該式によると、次の2つのラマン散乱過程、(1)分子の電子励起状態を介さないラマン散乱過程、(2)分子の電子励起状態、例えばS1状態、を介するラマン散乱過程における遷移確率Rは、ある振動モードについての原子核の座標をQ、始状態の振動状態をv”、終状態の振動状態をv’、ラマン遷移の中間状態の振動状態をvとすると次の量に比例する。
【0121】
【数8】

【0122】
上記(1)の場合は、図10Cのようにラマン散乱過程の始状態v”と終状態v’の振動量子数の差が+1の過程だけ許容される。一方、(2)は、振動波動関数の重なりの程度を表す因子(フランク・コンドン積)を表していて、一般に倍音、高次倍音遷移で該因子は零でない。つまり図10Dのように、電子励起状態を介するインパルシブ誘導ラマン散乱によって、基本音だけでなく励起パルス光のエネルギー幅内に存在する高次の振動モードも振動励起される。
【0123】
このような電子励起状態を介したインパルシブ誘導ラマン散乱によって、混合試料を観測するときに得られる効果について、図10Eを参照して説明する。図10Eにおいて、点線、破線、一点鎖線、二点鎖線、およびA文字でラベルした影付バンドは、それぞれ異なる分子種に由来する基本音バンドである。また、B文字およびC文字でラベルした影付バンドはそれぞれ、Aバンドの倍音と3倍音である。
【0124】
まず電子励起状態を介さないラマン遷移の場合について説明する。多重化光パルスの繰返し周波数を、ω1からω2までスキャンしたとき、各モードの振動位相緩和時間が多重化光パルスの持続時間より短いか、もしくは各モード間で大きな差がないとすると、それぞれのバンドが重畳された実線のスペクトルが観測される。このときAバンドを与える分子情報は、実線のスペクトルに埋没している。次に電子励起状態を介するラマン遷移の場合について説明する。ここで多重化光パルスのキャリア周波数が、影付バンドを与える分子の電子励起状態にのみ共鳴しているとする。この場合、多重化光パルスの繰返し周波数をω1からω2までスキャンしたとき、実線のスペクトルに加えて、影付のAバンドの高次倍音であるB、Cのバンドも観測される。このB、Cバンドは、その周波数が多重化光パルスの繰返し周波数から大きく離調しているため、スペクトル上で他の分子由来のバンドと重畳しない。
【0125】
したがって本実施例によれば、生体試料に含まれる、ある特定分子の電子励起状態のエネルギーに共鳴する多重化光パルスを生体試料へ照射することで、該分子のラマンスペクトル情報のみを抽出して観測する効果を奏する。
【0126】
本実施例において、多重化光パルスをチタンサファイアレーザの第2高調波から発生させると、その中心波長は390〜430nmの範囲に含まれる。この場合生体試料から、ヘム、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)などの補因子を含有するタンパク質のラマンスペクトルを選択的に観測することができる。また、チタンサファイアレーザの第3高調波の波長を使用すると、その中心波長は260〜285nmの範囲に含まれる。この場合、生体試料からデオキシリボ核酸、リボ核酸のラマンスペクトルを選択的に観測することができる。
【0127】
図11A、図11Bは、本発明の分光測定装置において、光学装置242の別の態様の装置構成を示す図である。本実施例の構成では、多重化光パルスとプローブ光を交差させて試料へ照射する方式である、光学装置1142の構成、もしくは、多重化光パルスとプローブ光を、ほぼ同軸に試料へ照射する方式である、光学装置1192の構成がとられる。
【0128】
まず光学装置1142の構成について以下に説明する。該構成の基本構成は光学装置242であって、さらにプローブ光および多重化光パルスの偏光を所望の方向へ設定できるように、光路1121および、光路1122を分波装置1106で2分岐した後の光路1123、1124において、各光路に偏光子1107、1108および1109を配置してある。また、信号光捕集素子1116の後段に偏光素子1117が配置されている。偏光素子1117は、ローションプリズムまたはウォラストンプリズムのような偏光ビームスプリッタである。該偏光素子は、多重化光パルスとは空間的に分離された回折プローブ光が、信号光捕集素子1116によって集光された後に、回折プローブ光から互いに直交する偏光を有する2つのパルス光を生成する作用を有する。該パルス光は光検出器1118で検出される。
【0129】
また、光学装置1192の基本構成は、図8に図示する光学装置842であって、さらにプローブ光および多重化光パルスの偏光を所望の方向へ設定できるように、光路1171および1172上に偏光子1156および1157が配置されている。また、信号光捕集素子1161の後段に、偏光素子1162が、分光器1165の前段に偏光解消子1164が配置されている。偏光素子1162は、例えばローションプリズムまたはウォラストンプリズムのような偏光ビームスプリッタであり、回折プローブ光から互いに直交する偏光を有する2つのパルス光を生成する。
【0130】
図11Cは、光学装置1142もしくは1192における、多重化光パルスおよびプローブ光の偏光方向と、偏光素子1162として使用される偏光ビームスプリッタの直交する2つの光学軸X,Yと、光照射により誘起される3次非線形分極P(3)の向きとの関係を表す。ここで、Epump1、Epump2は多重化光パルス、即ち励起光の偏光を表しx軸方向と平行である。またEprobeはプローブ光の偏光を表す。ここで、励起光とプローブ光の偏光は、互いに45度の角度をなすように設定されている。また、偏光ビームスプリッタの一方の光学軸Xは、励起光の偏光に対して可変角βの角度をなすように配置されている。
【0131】
χ(3)R1111およびχ(3)R2211を振動モードRの3次非線形感受率のテンソル成分、P(3)x,P(3)y,P(3)x,P(3)yを、それぞれ図11Cのx、y方向およびX、Y方向に生ずる3次非線形分極とすると、以下の関係が成立する。
【数9】

【0132】
ここで、振動モードRの偏光解消比ρを導入すると、等方的な試料であれば、
【数10】

の関係が成り立つ。よって3次の非線形分極のX方向成分は、
【数11】

で表せる。
【0133】
したがって、偏光ビームスプリッタから射出される、互いに偏光が直交するプローブ光のうち、図11CのX軸方向に平行な成分を観測すると、その信号強度は前項の3次非線形分極P(3)x(*)の2乗に比例する量であり、3次非線形感受率のテンソル成分χ(3)R1111と、振動モードの偏光解消比ρと、プリズムの光学軸の回転角βとに依存する。
【0134】
振動モードの各偏光解消比において、観測される信号光強度と回転角βとの関係は、図11Dにプロットされる曲線となる。但し、各曲線の振幅強度は、各モードの3次非線形感受率のテンソル成分χ(3)R1111に比例するが、図11Dでは規格化して図示してある。信号強度と回転角βの関係より、回転角βを90度付近に設定すると偏光解消ラマンモードの信号を消失させ、回転角βを135度付近に設定すると、完全偏光ラマンモードの信号を消失するようにできる。このように偏光素子1117あるいは1162を操作することによって、ラマンスペクトル上で特定の偏光解消比を有するモードの寄与を最小化することが可能である。
【0135】
さらに前記回転角βを108度に設定すれば、分子の3次非線形分極の生成において電子の瞬時応答に由来する信号成分を除去することができる。これにより、原子核に由来する振動コヒーレンス信号のみを検出することが可能であり、精度よく試料のラマンスペクトルを測定することができる。
【0136】
本実施形態の光学装置1142または1192によれば、分子の周波数と振動位相緩和時間を含むモード情報に加えて、振動モードの3次非線形感受率テンソル成分の情報も反映されたラマンスペクトル情報を観測することが可能であり、構造のないラマンスペクトルから分子もしくは分子群の構造を特徴づけるバンド情報を抽出するうえで更なる効果を奏する。
【0137】
図12Aに図示する光学装置1242の装置構成は、多重化光パルス(励起光)とプローブ光を、試料へ同軸に照射する方式の光学装置942を基本構成としている。また、図12Bに図示する光学装置1292の装置構成は、励起光とプローブ光を非同軸で照射する方式の光学装置242を基本構成としている。いずれの構成でも、プローブ光が進行する光路1221、1271上に狭帯域フィルタ1218、1267が配置されていて、フェムト秒パルス光から狭線幅のプローブ光を発生することができる。該プローブ光のパルス時間幅は、たとえば数ピコ秒程度であって、多重化光パルスのパルス列の持続時間よりも長ければよい。また光検出器1216、1265はそれぞれ分光器1215、1264に取りつけられていて、分光器によって波長分散された信号光を検出するようになっている。
【0138】
図13Aから図13Eを参照して、本実施例の光学装置1242によって、試料のラマンスペクトル測定がなされる原理を説明する。多重化光パルス(励起パルス光)とプローブ光の時間波形は図13Aに示す関係であって、各パルス光が試料へ照射されるタイミングを調整するには、プローブ光タイミング調整手段1232によって、可変遅延光学系1203で発生する光路1221の光路長変化量を調節させればよい。
【0139】
光路1221上に設置された偏光子1207の透過軸と、光路1223上に設置された偏光子1213の透過軸は互いに直交するよう設定されている。したがって、励起パルス光が試料へ照射されない場合には、プローブ光が偏光子1213を透過しないので、試料へ照射される励起パルス光と偏光子1213を透過するプローブ光波形は、図13Bに図示するようにゼロ値である。これに対し、励起光が照射されると、インパルシブ誘導ラマン散乱過程によって試料に振動コヒーレンスが生成し、試料に生じる過渡的な屈折率異方性によって、偏光が回転したプローブ光が偏光子1213を透過する。
【0140】
プローブ光の偏光の回転は、振動コヒーレンス信号の時間波形に従い、かつ振動コヒーレンス信号の周波数は多重化光パルスの繰返し周波数に一致するので、結果的に偏光子1213を透過するプローブ光は、多重パルス列の繰返し周波数の2倍の周波数を有する信号となる。
【0141】
したがって図13Cに図示するように、観測される信号光は、もとのプローブ光が、多重パルス列の繰返し周波数の2倍の周波数で強度変調された信号に相当する。プローブ光は振動コヒーレンス信号の搬送波であるので、図13Dに図示する周波数スペクトルでは、周波数ωprobeを有するプローブ光バンドの側波帯に、分子の振動周波数ωの2倍の周波数だけシフトしたバンドが現れる。図13Dのスペクトルは、励起光の繰返し周波数が特定値のときのスペクトルであるが、該繰返し周波数ごとにスペクトル強度をプロットすれば図13Eに図示される試料のラマンスペクトルが取得される。
【0142】
上述のラマンスペクトル観測法は、狭線幅のプローブ光の強度がコヒーレント振動のビート周波数で強度変調を受けさえすれば実施可能である。したがって、試料に生じた過渡回折格子に回折されるプローブ光を検出する方式である、光学装置242の構成にも応用可能できる。また該装置構成の一形態である光学装置842の構成でも実施可能である。
【0143】
本実施例に係る分光測定装置によれば、生体試料中の分子の振動コヒーレンスの周期で強度変調されるプローブ光の周波数スペクトルを観測するため、励起パルス光に対して、プローブ光を試料へ照射するタイミングを掃引する必要が無い。加えて振動コヒーレンス信号のフーリエ変換から、該信号の周波数スペクトルを求める必要も無い。したがって、試料のラマンスペクトル取得に要する時間を短縮する効果を奏する。さらに、可変遅延光学系1203、または1253において生ぜしめる光路長変化量に精度を要さないので、装置を簡便化する効果を奏する。
【0144】
本発明に係る分光測定装置のさらに別の態様によれば、生体試料のラマンスペクトルを測定し、さらに該ラマンスペクトルにもとづいて試料を分析する装置において、分析の結果、試料中にある特定分子の存在が認められる場合に、該特定分子における、サブテラヘルツ帯もしくはテラヘルツ帯周波数を有する特定の振動バンドを、インパルシブに誘導ラマン散乱励起する手段が備えられている。
【0145】
図14および図15は、本実施例に係る分光測定装置において、試料中の特定分子における特定の振動バンドを、インパルシブに誘導ラマン散乱励起するための、装置の動作のフローチャート、およびそれを実行するための装置構成の概略を示している。本実施例の分光測定装置においては、図14に記載される、AからCの3段階の手続きが実施される。該手続きを列挙すれば、以下の通りである。
A.試料のラマン分光分析
B.試料中における標的分子の存在判定と、該標的分子のテラヘルツ帯振動バンドの選択
C.試料への多重化光パルスの照射による、標的分子のインパルシブ誘導ラマン散乱の励起
【0146】
上記手続きの内、Aの手続きにおいては、本発明に係る分光測定装置によって、分子の振動周波数および振動位相緩和時間の、少なくとも該2種類の振動モード情報が反映された試料のラマンスペクトルが測定される。さらに、取得された該試料のラマンスペクトルにもとづいて、ケモメトリックス分析が実施される。
【0147】
また、Bの手続きにおいては、第一に、ケモメトリックス分析の結果、試料において検出される分子のラマンスペクトルが、予め選定された所望の標的分子のラマンスペクトルと比較され、該標的分子が試料中に存在するか否かが判定される。さらに、該所望の標的分子が試料中に存在する場合には、標的分子における、サブテラヘルツ帯もしくはテラヘルツ帯の周波数を有する、特定の振動バンドが選択される。ここで、該所望標的分子としては、例えば、生体にとって好ましくない生化学反応を触媒する酵素、あるいは転写調節蛋白質などがあげられる。
さらに、Cの手続きにおいて、多重化光パルスが、その光パルス列の繰返し周波数を、選択された標的分子の振動バンド周波数に同調された上で、試料へ照射される。
【0148】
試料のラマン分光分析は、図14のフローチャートにおける、点線枠内の手続き(A−1)から(A−4)によって実行される。これらの手続きが実行される方法を、図15に示される装置構成を参照して説明する。
【0149】
本実施例に係る分光測定装置1541は、光学装置1542および分析装置1543から構成される。図15においては、光学装置1542として、光学装置242と同様の構成が示されているが、該光学装置の構成の変形例として先に説明された、何れの構成がとられてもよい。ただし、本実施例における装置構成では、光路1521上にシャッター1518が設置されていて、必要に応じて光路1521を遮断し、多重化光パルスのみを試料へ照射できるようになっている。
【0150】
分析装置1543は、検出手段1500C、スペクトル取得手段1500D、記憶手段1500E、演算手段1500F、スペクトル比較手段1500G、周波数選択手段1500H、周波数設定手段1500Iおよびスキャン制御装置1537を備えている。ここで検出手段1500Cは、コンピュータ1530上で動作するプログラムと、信号光捕集素子1513、光検出器1514、増幅器1515およびAD変換器1519から構成される。またスペクトル取得手段1500Dは、コンピュータ1530で動作するプログラムである。当該検出手段とスペクトル取得手段は、前述の検出手段200Cおよびスペクトル取得手段200Dと同一の手段である。スキャン制御装置1537は、前述のスキャン制御装置237と同一の装置である。
【0151】
前述した、検出手段200Cおよびスペクトル取得手段200Dを用いて為される、試料のスペクトル取得方法と同様に、検出手段1500C及びスペクトル取得手段1500Dによって、多重化光パルスの各繰返し周波数で取得された、振動コヒーレンス信号の周波数スペクトルが求められる。さらに、該繰返し周波数ごとの周波数スペクトルから、生体試料のラマンスペクトルが取得される。また、演算手段1500Fは、前述の演算手段600Fが有する演算機能を備えていて、取得された生体試料のラマンスペクトルに対して、ケモメトリックス分析を実行することができる。
【0152】
演算手段1500Fにおける、ラマンスペクトルの分析手段としては、特定の生体分子が、試料中に存在するか否かを判定するためのケモメトリックス分析が実行される。ここで以下において、その具体的な方法について説明する。記憶手段1500Eには、測定試料の構成成分であると予測される、多数の異なる種類の生体分子のラマンスペクトルを格納した、スペクトルデータベースが記憶されている。該記憶手段は、コンピュータ1530に内蔵されたメモリ、または、外部記憶装置のどちらでもよい。
【0153】
これら生体分子のラマンスペクトルは、振動周波数情報と振動位相緩和情報の、少なくとも該2種類の振動モード情報が反映されるラマンスペクトルである。さらに該ラマンスペクトルには、前記2種類の振動モード情報に加えて、振動モードごとの3次非線形感受率のテンソル成分に関する情報が反映されていても良い。該スペクトルデータベースを利用して分光モデル(検量モデル)を構築した上で、Principle Component Regression(PCR)法あるいは、Partial Least Square Fitting(PLS)法のスペクトル検量が実施され、試料中の分子の濃度が求められる。
【0154】
また、該分光モデルに包含されない、すなわち、スペクトル検量の対象外となる非検量分子が存在する場合には、スペクトル検量によって濃度を予測された分子のラマンスペクトルから、試料のラマンスペクトルが構築され、取得された試料のラマンスペクトルと、該構築された試料のラマンスペクトルとの間の差スペクトルが求められる。この差スペクトルは、分光モデルに包含されない分子もしくは分子群のラマンスペクトルとなっている。該ラマンスペクトルが、記憶手段1500Eに記憶される、生体分子ごとのラマンスペクトルと逐一照合されることによって、試料中に存在する分子が検出されてもよい。
【0155】
また演算手段1500Fによるスペクトル分析の別の手法によれば、本分光測定装置によって、生体試料における複数のラマンスペクトルを測定した上で、それら複数のスペクトルに対して、混合スペクトル分離(Self Modeling Curve Resolution)計算を実施し、該試料のラマンスペクトルを構成する成分スペクトルが求められてもよい。この場合、該成分スペクトルの各々に対して、記憶手段1500Eに記憶される生体分子のスペクトルデータを照合することによって、試料中に存在する分子が検出されてもよい。
【0156】
また、本分光測定装置によって観測される試料のスペクトルにおいて、スペルトル上でオーバーラップの少ない、孤立した振動バンドが存在する場合には、ケモメトリックス分析を実施せずに、該試料のスペクトルと前記スペクトルデータベースに記憶されたスペクトルの波形パターンを照合することのみによって、分子の検出がおこなわれてもよい。
【0157】
図14におけるステップ1404(A)の下に包含される複数のステップは、本発明の分光測定装置が測定に利用される際のステップを示していて、以下に列挙されるステップである。ステップ1416(A−1)においては、振動周波数と振動位相緩和時間の少なくとも2種類の振動情報を反映する試料のラマンスペクトルが取得され、ステップ1418(A−2)においては、取得されたラマンスペクトルについてケモメトリックス解析が実施され、ステップ1420(A−3)においては、ケモメトリックス解析に基づいて、試料中に存在する分子の検出がなされる。ステップ1422(A−4)では、上記検出された分子のラマンスペクトルが予め選択された所望の標的分子のラマンスペクトルと比較されることにより、標的分子が試料中に含有されるか否かの判定が実施される。所望の標的分子が試料中に存在する場合には、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯までの周波数を有する特定の振動バンドが選択される。そのような標的分子は、例えば、生体に不適切な生化学反応を触媒する酵素や転写因子である。光パルス列の繰返し周波数が、選択された標的分子の振動周波数に同調された後、標的分子を含むサンプルは多重化光パルス列によって光照射される。
【0158】
上述のラマンスペクトル分析手段によって、試料から複数の異なる分子種が検出されると、図14のフローチャートにおける、破線枠内の手続き(B−1)から(B−4)が実行される。該手続きは以下に列挙する通りである。
B−1.標的分子のラマンスペクトルの取得
B−2.試料において検出された分子のラマンスペクトルと、標的分子のラマンスペクトルとの比較
B−3.標的分子が試料に存在するか否かの判定
B−4.標的分子中の、サブテラヘルツからテラヘルツ帯の特定ラマンバンドの選定
上記手続きによって、試料へ多重化光パルスを照射して、インパルシブに誘導ラマン散乱を励起する対象となる、標的分子の振動モードが選択される。
【0159】
以下において、上記の手続きの実施法を具体的に説明する。記憶手段1500Eに記憶される、生体分子のラマンスペクトルのデータベースには、標的分子である所望の分子の、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯のラマンスペクトルが必ず記憶されている。該所望の標的分子のラマンスペクトルは、スペクトル比較手段1500Gによって記憶手段1500Eから読み出される。また同様に、前記ケモメトリックス分析の結果、試料中に検出される複数の異なる分子のラマンスペクトルも、当該スペクトル比較手段によって、記憶手段1500Eから読み出される。
【0160】
スペクトル比較手段1500Gは、例えばコンピュータ1530上で動作するプログラムであって、試料において検出された複数の異なる種類の分子のラマンスペクトルと、該標的分子のラマンスペクトルを比較し、該2つのスペクトル間の類似度を判定する。該比較手段においては、振動周波数ごとに、該2つのラマンスペクトルにおけるスペクトル強度の強度差の2乗が計算され、さらに該振動周波数についての強度差の2乗の総和が計算される。この場合には、該総和値が所定の値に対して大きいか小さいかによって、該2つのラマンスペクトル間の類似性が判定される。
【0161】
あるいは、該2つのラマンスペクトルにおいて、ラマンバンドごとのバンドのピーク周波数の差を計算し、同様の方法でスペクトルが比較されてもよい。あるいは、該スペクトル比較手段は、該2つのラマンスペクトルが画面に表示され、操作者の目視によってスペクトルが比較される手段でもよい。この様なスペクトル比較手段により、試料中に検出された分子のラマンスペクトルと、当該標的分子のラマンスペクトル間の類似性が高いと判定される場合には、当該標的分子が試料中に存在すると判定される。
【0162】
周波数選択手段1500Hは、例えばコンピュータ1530上で動作するプログラムであって、前述の比較手段1500Gによって、試料中に存在すると判定された標的分子のラマンスペクトルに現れる、ラマンバンドのピーク周波数を数値的に読取る手段である。あるいは、当該周波数選択手段は、前述の比較手段1500Gによる、ラマンスペクトルの比較結果を画面上に表示し、操作者が目視でラマンバンドのピーク周波数を読取る手段であってもよい。これにより、前記スペクトル比較手段で、測定試料中に標的分子が存在すると判定される場合には、当該周波数選択手段によって、該標的分子のラマンスペクトルから、サブテラヘルツからテラヘルツ帯の振動周波数を有する、所望のラマンバンドのピーク周波数が読取られる。
【0163】
前記方法によって、標的分子における特定のラマンバンド周波数が取得されると、次に図14のフローチャートにおける、一点鎖線の枠内の手続きである、手続きC−1から手続きC−3が実行される。光パルス列繰返し周波数制御手段1516は、前述の光パルス列繰返し周波数制御手段216と同一の手段であって、コンピュータ1530にロードされた制御プログラムによって、スキャン制御装置1537を介して、多重化光パルス発生装置1504において発生させる光パルス列の繰返し周波数を、所望の値に設定することができる。
【0164】
周波数設定手段1500Iは、周波数選択手段1500Hによって読取られた標的分子のラマンバンド周波数値を、設定されるべき光パルス列の繰返し周波数値として、該制御プログラムへ渡す手段である。当該手段は、コンピュータ1530上のプログラムであるか、もしくは、操作者が標的分子のラマンバンド周波数値を該制御プグラムへ入力することができる、インターフェースである。これにより、多重化光パルスの繰返し周波数が、当該ラマンバンド周波数へ同調させられる。同時に、光路1521上のシャッター1518が閉じられ、多重化光パルスのみが光路1523、1524の両方もしくは片方を進行して、照射素子から試料へ照射される。
【0165】
生体試料への多重化光パルスの照射によって、試料中の分子のインパルシブ誘導ラマン散乱が励起される。このとき、予め設定された多重化光パルスの繰返し周波数と相等しい標的分子の振動モードのみが、他の振動モードよりも効率的に振動励起されることになる。ここで、標的分子が、蛋白質や核酸のような分子量の大きな生体分子であるならば、前述の手続きB4、すなわち標的分子の振動バンドの決定手続きにおいて、適切な周波数のテラヘルツ振動バンドを選びさえすれば、該生体分子のコレクティブモードを励起可能である。
【0166】
このような多重化光パルス照射による、生体試料中の分子のコレクティブモード励起において望ましい形態の一例は、生体試料へ近紫外光よりも長い波長を有する多重化光パルスを照射することによって、該試料中に存在する標的分子のS1励起状態(第1電子励起状態)を介して該標的分子のインパルシブ誘導ラマン散乱過程を励起することである。この場合、前述したようにフランク・コンドン因子が非零値を有するので、多重化光パルスの周波数幅に含まれる高次のコレクティブモードが振動励起されて、生体分子の大振幅運動を誘起する効果を奏する。このようなISRSの励起形態は、ヘム、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)およびNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸)などの補因子を含有する酵素タンパク質が標的分子であるときに適用可能である。
【0167】
本実施例に係る分光測定装置によれば、ISRSによって、生体試料中に含まれる、特定のテラヘルツ振動周波数を有する分子振動のみを励起することができる。該テラヘルツ振動モードが蛋白質のコレクティブモードである場合には、高次振動モードが励起されることによって、蛋白質の高次構造変化が誘起される可能性が生ずる。したがって多重化光パルスを生体へ照射することで、生体にとって望ましくない生化学反応を触媒する酵素蛋白質の活性阻害作用を生ぜしめることができる。
【0168】
単一フェムト秒パルス光で励起する形態のISRSでは、阻害対象となる酵素蛋白質において、機能に関与しない振動モードや、該酵素分子以外の分子の振動モードも励起されてしまう。この様に、振動励起過程においてモード選択性がないことはエネルギー的に非効率である上に、擾乱を与える必要の無い生体分子の振動モードまで励起されてしまうため、生体試料に悪影響を与える可能性がある。多重光パルス列で生体試料を励起すれば、光照射による生体試料の損傷を抑制し、かつ、特定分子もしくは極少数の異なる分子種のみの振動モードを励起する効果を奏する。
【0169】
以上の記載から、本発明が以下に示す様々な方法で、ただしこれに限定されることなく、具現化されることができることが理解されるであろう。
【0170】
1. 複数の異なる種類の分子を含む対象体積のラマンスペクトルを測定するための分光測定装置であって、任意の繰返し周波数を有するポンプ光パルス列を発生させるポンプ光パルス列発生手段と、前記ポンプ光パルス列及びプローブ光を測定すべき対象体積における同一の場所に対しインパルシブ誘導ラマン散乱を励起するように照射する照射手段と、前記プローブ光に応答した前記対象体積の振動コヒーレンス情報及び前記ポンプ光パルス列によるインパルシブ誘導ラマン散乱の励起を検出する検出手段と、前記ポンプ光パルス列の複数の異なる繰返し周波数の各々において前記検出手段によって検出された前記対象からの振動コヒーレンス情報の収集に応じて、少なくとも振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む前記対象体積のラマンスペクトルを得るスペクトル取得手段とを備える分光測定装置。
【0171】
2. 複数の異なった分子のラマンスペクトルと、振動周波数情報と振動位相緩和時間情報についての少なくとも2種の振動情報を反映するラマンスペクトルを記憶する記憶手段と、該記憶手段によって記憶されたラマンスペクトルに基づいてケモメトリックス分析を実施する演算手段とをさらに備える実施形態1に記載の分光測定装置。
【0172】
3. 前記演算手段が、前記対象のラマンスペクトルに対して、前記演算手段で該対象中に検出される分子のラマンスペクトルを、少なくとも振動周波数情報および振動位相緩和時間情報の、2種類の振動情報が既知であるような所望の標的分子についてのラマンスペクトルと比較するスペクトル比較手段をさらに備える実施形態2に記載の分光測定装置。
【0173】
4. 実施形態3の分光測定装置は、前記スペクトル比較手段の比較結果にもとづいて、前記標的分子のラマンスペクトルから、所望のラマンバンドのバンド周波数を選択する周波数選択手段と、前記ポンプ光パルス列発生手段の繰返し周波数を、前記比較結果に応じて設定するための周波数設定手段とをさらに備え、これにより対象中の標的分子における、特定の分子振動が選択的に励起される。
【0174】
5. 前記照射手段が、前記測定体積に対し前記周波数設定手段により設定されたポンプ光パルス列を照射するが、プローブ光を照射しない実施形態4に記載の分光測定装置は。
【0175】
6. 前記ポンプ光パルス列が、フェムト秒光パルスから構成され、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯の任意の繰返し周波数を有する実施形態1に記載の分光測定装置。
【0176】
7. 前記スペクトル取得手段が、ポンプ光パルス列の繰返し周波数を掃引する手段を具備する実施形態1に記載の分光測定装置。
【0177】
8. レーザ光源と、第1の光ビームと第2の光ビームを生成する前記レーザ光源と組み合わされた分波装置と、前記第1の光ビームを受けてプローブ光を出力するように構成された可変光学遅延と、多段の可動ステージを介して前記第2の光ビームを受け、任意の繰返し周波数を有する、前記ポンプ光パルス列を出力するように構成された多重光パルス発生器とを備える実施形態1に記載の分光測定装置。
【0178】
9. 前記レーザ光源が、時間パルス幅が100フェムト秒よりも短いTLパルスを出力する単一のフェムト秒光源である実施形態8に記載の分光測定装置。
【0179】
10. 前記照射手段が、前記プローブ光と前記光パルス列を、複数の異なる分子を含む測定体積へ導光するための導光手段を含んでいる実施形態1に記載の分光測定装置。
【0180】
11. 前記検出手段が、前記測定体積と相互作用する光を受光するように構成された光捕集素子と、前記光捕集素子によって捕集される光を検出するように構成された光検出器とを備える実施形態1に記載の分光測定装置。
【0181】
12. 前記スペクトル取得手段が、記憶装置を備えたコンピュータプロセッサと、電気的に接続された前記ポンプ光パルス列発生手段と、照射手段及び検出手段と、前記コンピュータプロセッサと記憶装置を介してポンプ光パルス列の繰返し周波数を掃引し、前記プローブ光の遅延を制御し、かつ、ポンプ光パルス列の複数の異なる繰返し周波数毎に前記検出手段により検出される振動コヒーレンス情報に応じて、少なくとも振動周波数情報と振動位相緩和時間の情報を含む測定体積についてのラマンスペクトルを決定するプログラム実行手段とを含む実施形態1に記載の分光測定装置。
【0182】
13. 複数の分子を含む測定体積のラマンスペクトルを測定する分光測定装置であって、以下を含む。レーザ光源と、第1の光ビームと第2の光ビームを生成する、前記レーザ光源と組合わされた分波装置と、第1の光ビームを受けてインパルシブ誘導ラマン散乱を観測するプローブパルス光を出力する可変光学遅延と、多段の可動ステージを介して前記第2の光ビームを受け、任意の周波数の少なくとも1つのポンプ光パルスを出力するように構成された多重化光パルス発生装置と、前記プローブパルス光及び少なくとも1つのポンプ光パルス列を複数の分子を含む測定体積へ導光する導光光学系と、前記測定体積と相互作用する光を受光するように構成される光捕集素子と、前記光捕集素子によって集められた光を検出する光検出器と、コンピュータプロセッサと、記憶装置と、前記多重化光パルス発生装置と、前記光検出器と、前記コンピュータプロセッサと記憶装置を介してポンプ光パルス列の繰返し周波数を掃引し、前記プローブ光の遅延を制御し、かつ、ポンプ光パルス列の複数の異なる繰返し周波数毎に前記検出手段により検出される振動コヒーレンス情報に応じて、少なくとも振動周波数情報と振動位相緩和時間の情報を含む測定体積についてのラマンスペクトルを決定するプログラム実行手段。
【0183】
14. 前記プログラムが、複数の異なる分子のラマンスペクトルと、振動周波数情報と振動位相緩和時間の少なくとも2種類の振動情報を反映するラマンスペクトルを蓄積し、蓄積されたラマンスペクトルに基づいて、対象のラマンスペクトルについてケモメトリックス分析を実行することをさらに含む実施形態13に記載の分光測定装置。
【0184】
15. 前記プログラムは、測定体積において検出された分子のラマンスペクトルと標的分子のラマンスペクトルとを、振動周波数情報と振動位相緩和時間情報を含む少なくとも2種類の振動情報について比較することをさらに含む実施形態14に記載の分光測定装置。
【0185】
16. 前記プログラムが、前記ラマンスペクトルの比較結果に基づいて、標的分子のラマンスペクトルから所望のラマンバンドについてバンド周波数を選択し、ポンプ光パルス列の繰返し周波数を設定し、標的分子における特定の分子振動を選択的に励起することを更に含む実施形態15に記載の分光測定装置。
【0186】
17. ポンプ光パルス列がサブテラヘルツからテラヘルツ帯における任意の繰返し周波数のフェムト秒光パルスから構成される実施形態13に記載の分光測定装置。
【0187】
18. レーザ光源からポンプ光パルス列およびプローブパルスを発生するステップと、測定されるべき分子を含む対象へ該ポンプ光パルス列およびプローブ光パルスを導光するステップと、光パルス列の任意の繰返し周波数について振動コヒーレンススペクトルを取得するステップと、ポンプ光パルス列の繰返し周波数を掃引するステップと、これらのステップの反復を実行し、振動コヒーレンススペクトルから標的分子のラマンスペクトルを取得するステップを含む、対象中の分子についての光と分子の相互作用に基づいて分光測定を実施する方法。
【0188】
19. 前記プローブパルスと前記ポンプ光パルス列が単一のレーザ光源から発生させられる実施形態18に記載の測定方法。
【0189】
20. 複数の異なる分子のラマンスペクトル、並びに振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報の少なくとも2種類の振動情報を反映するラマンスペクトルを蓄積するステップと、蓄積したラマンスペクトルに基づいて対象のラマンスペクトルのケモメトリックス解析を実施するステップとを更に含む実施形態18に記載の測定方法。
【0190】
上述した記載は多くの詳細を含むが、これらは発明の範囲を制限するものではなく、本発明の好ましい実施形態のうちのいくつかの説明を単に提供するものであると解釈されるべきである。したがって、本発明の範囲は、当業者にとって明白であろう他の実施形態を完全に包含し、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に以外にものによって制限されるべきではないと解釈されるべきである。特許請求の範囲において、単数としての要素の記述は、「唯一」を意味しているのではなく「1またはそれ以上」を意図している。上述の好ましい実施形態の、周知技術におけるものとして知られているすべての構造的、化学的、および機能的な均等物が、参照によって明確に本明細書に組み込まれ、本発明の請求項によって包含されることが意図されている。また、装置または方法は、本発明が解決しようとする全ての課題に対処する必要はない。さらに、添付の特許請求の範囲に明らかに記載されるのが素子であるか、構成要素であるか、方法のステップであるかにかかわらず、本開示におけるいかなる要素、コンポーネント、または方法ステップも、要素、コンポーネント、方法ステップが請求項に明確に記載されているか否かに関わらず、一般公衆に開放されることは意図されていない。本書に記載の請求項の要素は、その要素が「means for」のフレーズを用いて明確に記載されていない限り、米国特許法第112条第6段落の規定の下に解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる種類の分子を含む対象体積のラマンスペクトルを測定するための分光測定装置であって、
任意の繰返し周波数を有するポンプ光パルス列を発生させるポンプ光パルス列発生手段と、
前記ポンプ光パルス列及びプローブ光を測定すべき対象体積における同一の場所に対しインパルシブ誘導ラマン散乱を励起するように照射する照射手段と、
前記プローブ光に応答した前記対象体積の振動コヒーレンス情報及び前記ポンプ光パルス列によるインパルシブ誘導ラマン散乱の励起を検出する検出手段と、
前記ポンプ光パルス列の複数の異なる繰返し周波数の各々において前記検出手段によって検出された前記対象からの振動コヒーレンス情報の収集に応じて、少なくとも振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む前記対象体積のラマンスペクトルを得るスペクトル取得手段とを備える分光測定装置。
【請求項2】
複数の異なる種類の分子のラマンスペクトルであって、振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む少なくとも2種類の振動情報を反映したラマンスペクトルを記憶する記憶手段と、
該記憶手段に記憶されている前記ラマンスペクトルを用いて、前記対象のラマンスペクトルに対してケモメトリックス分析を行う演算手段とをさらに具備する請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項3】
前記演算手段が、前記対象体積中に検出された分子のラマンスペクトルを、振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む少なくとも2種類の情報が既知であるような所望の標的分子についてのラマンスペクトルと比較するスペクトル比較手段をさらに具備する請求項2に記載の分光測定装置。
【請求項4】
前記スペクトル比較手段の比較結果に基づいて、前記標的分子のラマンスペクトルから所望のラマンバンドのバンド周波数を選択する周波数選択手段と、
前記ポンプ光パルス列の繰返し数を前記比較結果に応じて設定する周波数設定手段とをさらに具備し、
前記対象中の前記標的分子における特定の分子振動を選択的に励起する請求項3に記載の分光測定装置。
【請求項5】
前記照射手段が、測定すべき前記体積に対し、前記周波数設定手段により設定された前記ポンプ光パルス列を照射するが、前記プローブ光を照射しない請求項4に記載の分光測定装置。
【請求項6】
前記ポンプ光パルス列が、フェムト秒光パルスから構成され、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯までの範囲の任意の繰返し数を有する請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項7】
前記スペクトル取得手段が、ポンプ光パルス列の繰返し数を掃引するする請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項8】
レーザ光源と、
該レーザ光源と組み合わされ第1の光ビームと第2の光ビームを発生するためのレーザ分波装置と、
前記第1の光ビームを受光してプローブ光を出力する可変光学遅延と、
前記第2の光ビームを多段の可動ステージを介して受光し、任意の周波数を有する少なくとも1つの前記ポンプ光パルス列を出力するように構成された多重化光パルス列発生装置とをさらに具備する請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項9】
前記レーザ光源が、100フェムト秒よりも短い時間幅を各々有する変換限界(TL)パルスを出力する単一のフェムト秒光源である請求項8に記載の分光測定装置。
【請求項10】
前記照射手段が、前記プローブ光と前記ポンプ光パルス列を複数の異なる分子を含む測定体積へ導光する導光光学系を備える請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項11】
前記検出手段が、前記対象体積と相互作用する光を受光するように構成された光捕集素子と、該光捕集素子によって集められた光を検出する光検出器とを備える請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項12】
前記スペクトル取得手段が、記憶装置を有するとともに、前記ポンプ光パルス列発生手段、照射手段及び検出手段に電気的に接続されたコンピュータプロセッサと、
前記ポンプ光パルス列発生手段の繰返し数を掃引するステップ、
前記プローブ光の遅延を制御するステップ、及び
ポンプ光パルス列の複数の異なる繰返し周波数ごとに前記検出手段による光の検出に応じて決定される振動コヒーレンス情報に応じて、少なくとも振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む前記対象体積のラマンスペクトルを決定するステップを前記コンピュータプロセッサ及び記憶装置によって実行可能なプログラムとを備える請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項13】
複数の分子を含む対象体積のラマンスペクトルを測定する分光測定装置であって、
レーザ光源と、
該レーザ光源と組み合わされ第1の光ビームと第2の光ビームを発生するための分波装置と、
前記第1の光ビームを受光してインパルシブ誘導ラマン散乱を励起するプローブパルス光を出力する可変光学遅延と、
多段の可動ステージを介して前記第2の光ビームを受光し、任意の繰り返し数を有する少なくとも1つのポンプ光パルスを出力するように構成された多重化光パルス発生装置と、
前記プローブパルス光及び少なくとも1つのポンプ光パルス列を複数の異なる分子を含む対象体積へ導光する導光光学系と、
前記対象体積と相互作用する光を受光するように構成される光捕集素子と、
該光捕集素子によって集められた光を検出する光検出器と、
前記可変光学遅延、前記多重化光パルス発生装置及び前記光検出器と接続されたコンピュータプロセッサ及び記憶装置と、
前記多重化光パルス発生装置における前記ポンプ光パルス列の繰返し数及び可動ステージの掃引を実行するステップ、
前記可変光学遅延における遅延を制御するステップ、及び
前記ポンプ光パルス列の複数の異なる繰返し周波数毎に前記検出手段による光の検出に応じて決定される振動コヒーレンス情報に応じて、少なくとも振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む前記対象体積についてのラマンスペクトルを決定するステップとを前記コンピュータプロセッサ及び記憶装置によって実行可能なプログラムとを備える分光測定装置。
【請求項14】
前記プログラムが、
複数の異なる分子のラマンスペクトルであって、振動周波数情報及び振動位相緩和時間を含む少なくとも2種類の振動情報を反映したラマンスペクトルを蓄積するステップと、
蓄積されたラマンスペクトルを用いて、前記対象のラマンスペクトルについてケモメトリックス分析を実行するステップとをさらに含む請求項13に記載の分光測定装置。
【請求項15】
前記プログラムが、前記対象体積において検出された分子のラマンスペクトルを、振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む少なくとも2種類の振動情報が既知であるような所望の標的分子のラマンスペクトルと比較するステップをさらに含む請求項14に記載の分光測定装置。
【請求項16】
前記プログラムが、
前記ラマンスペクトルの比較結果に基づいて、標的分子のラマンスペクトルから所望のラマンバンドのバンド周波数を選択するステップと、
前記ラマンスペクトルの比較結果に基づいて、前記ポンプ光パルス列の繰返し数を設定するステップとをさらに含み、
前記対象体積中の前記標的分子における特定の分子振動を選択的に励起する請求項15に記載の分光測定装置。
【請求項17】
前記ポンプ光パルス列が、サブテラヘルツ帯からテラヘルツ帯までの範囲における任意の繰返し数のフェムト秒光パルスから構成される請求項13に記載の分光測定装置。
【請求項18】
対象中の分子についての光と分子の相互作用に基づいて分光測定を実施する方法であって、
レーザ光源からポンプ光パルス列を発生するステップと、
プローブパルスを発生するステップと、
測定されるべき分子を含む対象へ前記ポンプ光パルス列及びプローブパルスを導光するステップと、
前記光パルス列の任意の繰返し周波数における振動コヒーレンススペクトルを取得するステップと、
前記ポンプ光パルス列の繰返し数を掃引するステップと、
以上のステップの反復を実行するステップと、
振動コヒーレンススペクトルから前記標的のラマンスペクトルを取得するステップとを含む方法。
【請求項19】
前記プローブパルス及び前記ポンプ光パルス列が、単一のレーザ光源から発生される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
複数の異なる分子のラマンスペクトルであって、振動周波数情報及び振動位相緩和時間情報を含む少なくとも2種類の振動情報を反映したラマンスペクトルを蓄積するステップと、
蓄積されたラマンスペクトルを用いて前記対象のラマンスペクトルについてケモメトリックス解析を実施するステップとを更に含む請求項18に記載の方法。

【図1】
image rotate

image rotate

【図2A】
image rotate

image rotate

【図2B】
image rotate

image rotate

【図2C】
image rotate

image rotate

【図2D】
image rotate

image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

image rotate

【図5】
image rotate

image rotate

【図6A】
image rotate

image rotate

【図6B】
image rotate

image rotate

【図7A】
image rotate

image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図7D】
image rotate

【図7E】
image rotate

【図7F】
image rotate

【図8】
image rotate

image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図10D】
image rotate

【図10E】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図11D】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図13C】
image rotate

【図13D】
image rotate

【図13E】
image rotate

【図14】
image rotate

image rotate

【図15A】
image rotate

image rotate

【図15B】
image rotate

image rotate


【公表番号】特表2013−511718(P2013−511718A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539953(P2012−539953)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/056475
【国際公開番号】WO2011/062842
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】