説明

多重通信用ジョイントコネクタ

【課題】コネクタハウジングへのインサート成形に起因するフェライト・プレートの変形を防止して、透磁率低下による多重通信用ジョイントコネクタの特性劣化を抑制し、伝送される波形ひずみを改善することができる多重通信用ジョイントコネクタを提供する。
【解決手段】複数の相手方コネクタとそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部22が形成されたコネクタハウジング21と、コネクタ嵌合部22内に突出するようにコネクタハウジング21に配置され、且つ相手方コネクタがコネクタ嵌合部22に嵌合した際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続する端子27と、端子27によって貫通されるようにコネクタハウジング21内に配置されたフェライト・プレート23と、端子27によって貫通されたフェライト・プレート23を覆うようにコネクタハウジング21内に配置された弾性部材30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の相手方コネクタと嵌合可能な多重通信用ジョイントコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
車両などにおいては、CAN(Control Area Network)通信によって複数の電装品を制御するため、多重通信用ジョイントコネクタを用いた接続が行われている。このような信号伝達用のコネクタには、ノイズの輻射や信号伝送に及ぼす悪影響を軽減するため、信号に重畳されるノイズを除去する機能が要求される。従来、ノイズ除去機能を有するコネクタとしては、フェライト磁心とチップコンデンサによって構成されるローパスフィルタ回路をコネクタに内蔵させたローパスフィルタ内蔵コネクタが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、コネクタハウジングと、金属板によって一体成形されたジョイント回路としての連鎖バスバーと、第1および第2の抵抗およびコンデンサを有する終端抵抗回路と、から構成された多重通信用ジョイントコネクタも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−78658号公報
【特許文献2】特開2003−123918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示す従来の多重通信用ジョイントコネクタ10は、複数のコネクタ嵌合部2を有する合成樹脂製のコネクタハウジング1と、複数の貫通孔4が設けられて長方形板状に形成されたフェライト・プレート3と、バスバー6とピン状の端子7とが金属板によって一体成形された接続部5と、を備える。ローパスフィルタとして機能するフェライト・プレート3は、コネクタハウジング1と一体にインサート成形されており、このフェライト・プレート3の貫通孔4に接続部5の端子7が挿通されてコネクタ嵌合部2に配置されている。この構成により、上下左右に隣り合う端子7の間にはフェライト・プレート3の一部が位置することになる。
【0006】
しかし、フェライト・プレート3をコネクタハウジング1にインサート成形すると、成形後の合成樹脂の収縮によって板状のフェライト・プレート3に曲げ応力が作用し、図6に示すように、反りなどの変形が生じる場合がある。このように変形するほどの応力がフェライト・プレート3に作用すると、ビラリ効果(Villari effect)として一般に知られている逆磁歪現象によって、フェライト・プレート3の透磁率が低下する。このため、フェライト・プレート3は、ローパスフィルタとして十分なインピーダンス特性が得られなくなって、伝送される波形ひずみの改善が不十分となる問題があった。また、このビラリ効果を考慮して十分な特性が得られるようにフェライト・プレート3を大きくすることは、多重通信用ジョイントコネクタ10のコストアップ要因となり、好ましくない。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コネクタハウジングへのインサート成形に起因するフェライト・プレートの変形を防止して、透磁率低下による多重通信用ジョイントコネクタの特性劣化を抑制し、伝送される波形ひずみを改善することができる多重通信用ジョイントコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る多重通信用ジョイントコネクタは、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1) 複数の相手方コネクタとそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部が形成されたコネクタハウジングと、
前記コネクタ嵌合部内に突出するように前記コネクタハウジングに配置され、且つ前記相手方コネクタが前記コネクタ嵌合部に嵌合した際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続する端子と、
前記端子によって貫通されるように前記コネクタハウジング内に配置されたフェライト・プレートと、
前記端子によって貫通された前記フェライト・プレートを覆うように前記コネクタハウジング内に配置された弾性部材と、
を備えることを特徴とする多重通信用ジョイントコネクタ。
(2) 上記(1)の構成の多重通信用ジョイントコネクタであって、
前記弾性部材は、前記フェライト・プレートをモールド成形することによって形成される、
こと。
(3) 上記(2)の構成の多重通信用ジョイントコネクタであって、
前記コネクタハウジングは、前記フェライト・プレートが前記弾性部材によってモールド成形されたものをインサート成形することによって形成される、
こと。
【0009】
上記(1)〜(3)の構成の多重通信用ジョイントコネクタによれば、フェライト・プレートが弾性部材によって覆われた状態でコネクタハウジングに配置されているので、コネクタハウジングの樹脂が収縮しても、そのコネクタハウジングの樹脂収縮に伴う外力が弾性部材に作用し、弾性部材が変形する。このため、フェライト・プレートに作用する応力は小さく、フェライト・プレートの変形を大幅に抑制することができる。これによって、フェライト・プレートの変形に起因する特性劣化(透磁率低下)を小さくすることができ、ローパスフィルタ機能を良好に維持して、多重通信用ジョイントコネクタを介して伝送される波形ひずみを改善することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多重通信用ジョイントコネクタによれば、フェライト・プレートが弾性部材に覆われた状態でコネクタハウジングに配置されるので、コネクタハウジングの樹脂が収縮しても、変形するのは主に弾性部材であるため、フェライト・プレートの変形を大幅に抑制することができる。これによって、フェライト・プレートの変形に起因する特性劣化(透磁率低下)を小さくすることができ、ローパスフィルタ機能を良好に維持して、多重通信用ジョイントコネクタを介して伝送される波形ひずみを改善することができる。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る多重通信用ジョイントコネクタの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る多重通信用ジョイントコネクタの、フェライト・プレートおよび弾性部材の断面図であり、(a)はその縦断面図、(b)は(a)のIIb−IIb線の矢視断面図である。
【図3】多重通信用ジョイントコネクタの特性(インピーダンス)の測定位置を示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る多重通信用ジョイントコネクタの特性の改善率を従来の多重通信用ジョイントコネクタと比較して示すグラフである。
【図5】従来の多重通信用ジョイントコネクタの分解斜視図である。
【図6】図5に示すインサート成形されたフェライト・プレートの変形状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る多重通信用ジョイントコネクタの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る多重通信用ジョイントコネクタの分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る多重通信用ジョイントコネクタの、フェライト・プレートおよび弾性部材の断面図であり、(a)はその縦断面図、(b)は(a)のIIb−IIb線の矢視断面図である。図3は、多重通信用ジョイントコネクタの特性(インピーダンス)の測定位置を示す平面図である。図4は、本発明の実施形態に係る多重通信用ジョイントコネクタの特性の改善率を従来の多重通信用ジョイントコネクタと比較して示すグラフである。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態の多重通信用ジョイントコネクタ100は、複数の相手方コネクタ(図示せず)とそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部22(図1では8個)を有する合成樹脂製のコネクタハウジング21と、1対の貫通孔24が設けられて略矩形板状のフェライト・プレート23と、コネクタ嵌合部22内に突出するようにコネクタハウジング21に配置され、且つ相手方コネクタがコネクタ嵌合部22に嵌合した際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続する1対の接続部25と、を備える。
【0015】
接続部25は、ピン状に形成された複数の端子27(図1では各列につき8本)と、この複数の端子27を一端において接続するバスバー26(図1では2本)とを有している。左右方向に隣り合う一対の端子27は、フェライト・プレート23の貫通孔24に挿通されてコネクタ嵌合部22内に突出するように、一つのコネクタ嵌合部22内に配置される。各コネクタ嵌合部22内に配置される一対の端子27には、多重通信を実現する伝送方式に則った信号が伝送される。
【0016】
より具体的な事例を以ってフェライト・プレート23の機能を説明する。多重通信用ジョイントコネクタがCANに利用される場合であって、一対の端子27に差動信号が入力される伝送路では、一対の端子27の一方に接続されるH側信号ラインと一対の端子27の他方に接続されるL側信号ラインの間のインピーダンスのバランスを保つこと(H側信号ラインのインピーダンス特性≒L側信号ラインのインピーダンス特性)が必須である。このため、H側信号ラインとL側信号ラインの間に位置するフェライト・プレート23が、H側信号ラインとL側信号ラインの間のインピーダンスのバランスを保つこともまた必須である。
【0017】
例えば、一対の端子27のそれぞれに、端子27を内部に挿通させるフェライト材を別々に装着するように多重通信用ジョイントコネクタを構成した場合、各端子27に装着された個々のフェライト材のインピーダンス特性にばらつきが生じる結果、H側信号ラインとL側信号ラインの間のインピーダンスのバランスが保たれないことが懸念される。H側信号ラインとL側信号ラインの間のインピーダンスのバランスが保たれていない場合、H側信号ラインとL側信号ラインに誘導される同相モード(コモンモード)のノイズ成分が、差動成分として働き、その結果、このような差動成分がbitエラーの要因となってしまう。
【0018】
一方、図1に示すフェライト・プレート23によれば、一対の端子27の間にインピーダンス特性が均一のフェライト・プレート23が位置するため、H側信号ラインとL側信号ラインの間のインピーダンスのバランスが保たれる。この結果、多重通信用ジョイントコネクタを介して伝送される波形ひずみを改善することができる。
【0019】
フェライト・プレート23は、略矩形板状であり、1対の貫通孔24が縦方向に8組設けられている。それぞれの貫通孔24は端子27によって貫通される。また、フェライト・プレート23は、貫通孔24の開口を除くその表面が弾性部材30によって覆われている。フェライト・プレート23を弾性部材30によって覆う際には、高い弾性を持つ材料(例えばエラストマー材)によってフェライト・プレート23をモールド成形することによって形成する。尚、フェライト・プレート23の貫通孔24が弾性部材30によって覆われていない(言い換えれば、弾性部材30には、貫通孔24に向かい合う箇所に孔31が形成されている。)理由は、一対の端子27を貫通孔24に挿通させるためである。弾性部材30によってモールド成形されたフェライト・プレート23をインサート成形して、コネクタハウジング21を形成することになる。なお、本発明は、フェライト・プレート23がコネクタハウジング21にインサート成形される構成に限定されるものではなく、弾性部材30によってモールド成形されたフェライト・プレート23がコネクタハウジング内に配置される構成であればよい。例えば、予め成形しておいたコネクタハウジング21に、弾性部材30によってモールド成形されたフェライト・プレート23を取り付ける構成であってもよい。
【0020】
弾性部材30は、高い弾性を持つ材料(例えばエラストマー材)によってフェライト・プレート23をモールド成形することによって形成される。フェライト・プレート23をインサート成形して、コネクタハウジング21を形成した際には、弾性部材30は、その表面がコネクタハウジング21に面する。このため、成形後のコネクタハウジング21に樹脂収縮が生じた場合、まず、弾性部材30に、そのコネクタハウジング21の樹脂収縮に伴う外力が作用する。弾性部材30がフェライト・プレート23よりも剛性が小さければ、弾性部材30がそのコネクタハウジング21の樹脂収縮によってより大きく変形する。なお、本発明は、フェライト・プレート23をモールド成形することによって弾性部材30が成形される構成に限定されるものではなく、弾性部材30がフェライト・プレート23の外側面に位置する構成であればよい。例えば、予め成形しておいたカバー状の弾性部材30に、弾性部材30の伸縮性を利用して、フェライト・プレート23をその弾性部材30の内部に押し込む構成であってもよい。
【0021】
合成樹脂によって成形されたコネクタハウジング21は、成形後に樹脂収縮が生じる。しかし、フェライト・プレート23は、図2に示すように、弾性部材30によって覆われた状態でコネクタハウジング21にインサート成形されているので、そのコネクタハウジング21の樹脂収縮に伴う外力が弾性部材30に作用し、弾性部材30がそのコネクタハウジング21の樹脂収縮によってより大きく変形する。このため、フェライト・プレート23の変形は抑制される。従って、逆磁歪現象によるフェライト・プレート23の透磁率の低下が防止され、フェライト・プレート23のローパスフィルタ機能が良好に維持されて、多重通信用ジョイントコネクタ100を介して伝送される波形ひずみを改善することができる。
【0022】
図4に、弾性部材によって表面が覆われていないフェライト・プレートを備える従来の多重通信用ジョイントコネクタ10(図5参照)と、弾性部材によって表面が覆われたフェライト・プレートを備える本発明の多重通信用ジョイントコネクタ100との特性を比較して示す。
【0023】
図3に示すように、フェライト・プレートの所定の4箇所(点線で囲まれる1〜4の領域。該領域は、4個の貫通孔24を含む。)の測定位置にインピーダンス測定器40を接続し、コネクタハウジング1、21にインサート成形される前のフェライト・プレート3、23のインピーダンスと、インサート成形後のフェライト・プレート3、23(多重通信用ジョイントコネクタ10、100)のインピーダンスと、を測定し、インサート成形前後(インサート成形前のインピーダンスを100%とする)におけるインピーダンスを求めた。
【0024】
本発明の多重通信用ジョイントコネクタ100による特性の改善率を示したものが図4である。図4では、従来の多重通信用ジョイントコネクタ(弾性部材によって表面が覆われていないフェライト・プレートを備えるもの)によるインサート成形後のインピーダンスを「1」とした場合の、本発明の多重通信用ジョイントコネクタ(弾性部材によって表面が覆われたフェライト・プレートを備えるもの。)によるインサート成形後のインピーダンスの数値を「改善率」として縦軸に表している。また、測定点を横軸に表している。図4に示すように、いずれの測定点においても、インピーダンス特性が改善されていることがわかる。
【0025】
したがって、本発明の多重通信用ジョイントコネクタによれば、フェライト・プレートが弾性部材によって覆われた状態でコネクタハウジングに配置されるので、コネクタハウジングの樹脂が収縮しても、各フェライト・プレートに作用する応力は小さく、フェライト・プレートの変形を大幅に抑制することができる。これによって、フェライト・プレートの変形に起因する特性劣化(透磁率低下)を小さくすることができ、ローパスフィルタ機能を良好に維持して、多重通信用ジョイントコネクタを介して伝送される波形ひずみを改善することができる。
【0026】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0027】
21 コネクタハウジング
22 コネクタ嵌合部
23 フェライト・プレート
24 貫通孔
25 接続部
26 バスバー
27 端子
30 弾性部材
31 孔
100 多重通信用ジョイントコネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相手方コネクタとそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部が形成されたコネクタハウジングと、
前記コネクタ嵌合部内に突出するように前記コネクタハウジングに配置され、且つ前記相手方コネクタが前記コネクタ嵌合部に嵌合した際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続する端子と、
前記端子によって貫通されるように前記コネクタハウジング内に配置されたフェライト・プレートと、
前記端子によって貫通された前記フェライト・プレートを覆うように前記コネクタハウジング内に配置された弾性部材と、
を備えることを特徴とする多重通信用ジョイントコネクタ。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記フェライト・プレートをモールド成形することによって形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の多重通信用ジョイントコネクタ。
【請求項3】
前記コネクタハウジングは、前記フェライト・プレートが前記弾性部材によってモールド成形されたものをインサート成形することによって形成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の多重通信用ジョイントコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−253642(P2011−253642A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124962(P2010−124962)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】