説明

多重shRNA発現ベクター

【課題】 本発明は単一ベクターに複数のshRNA生成ユニットが搭載された多重shRNA発現ベクターを提供する。
【解決手段】 本発明の多重shRNA発現ベクターは、標的遺伝子の発現を抑制するためのshRNAを生成し得るshRNA生成ユニットをベクター内に複数担持した多重shRNA発現ベクターであって、前記shRNA生成ユニットは、プロモーターの下流にshRNAをコードしたDNAが接続されて構成され、前記shRNAをコードしたDNAは、前記標的遺伝子のmRNAと相補的な配列を有するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスDNAと、該アンチセンスDNAと対合し得る配列からなるセンスRNAをコードしたセンスDNAとがリンカーDNAで連結されて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子の発現を抑制し得るshRNAを産生するベクターに関し、特に、複数の遺伝子を標的とした複数のshRNAを単一のベクターから産生させるベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(以下、「RNAi」という)は、近年の生命科学の偉大な発見の一つである(非特許文献1、2、3)。しかし、効果的な短い干渉用RNA(以下、「siRNA」という)二本鎖をデザインするために種々改善が行なわれているにもかかわらず(非特許文献4、5)、なおも低いトランスフェクション効率および方法により効率的なRNAiを誘導することが難しい(非特許文献6)。ベクターより発現されるsiRNA系が開発されたことは革新的進歩であり(特許文献1、非特許文献7、8)、従来のオリゴsiRNAを用いた場合の以下の(1)から(3)に掲げる課題等を克服することができる。
(1)オリゴsiRNA二本鎖のノックダウン効率は、宿主細胞株のトランスフェクション効率に大きく依存する。十分なノックダウン効果を得るためには大量でかつ最適条件下でトランスフェクションを行う必要があり、そのため、最適化などの時間およびオリゴRNAの大量合成の費用もかかる。
(2)第二に、オリゴsiRNA二本鎖が一過性であるという特性のため、長い半減期を有する標的遺伝子をサイレンシングさせることは難しい。
(3)第三に、ほとんどのトランスフェクション法は、細胞障害性であり、このために細胞死、アポトーシスおよび細胞増殖のような重要な表現型の変化を観察することが難しい。
【0003】
上記に示すオリゴsiRNAを用いた場合の課題は、DNAであるsiRNA発現ベクターを用い、ベクターからsiRNAを発現させることにより安定なノックダウン細胞株を確立することによって、これら問題を克服することができる。
【0004】
また、大規模RNAiライブラリを作製するいくつかの労力のかかる技術が導入されたが(非特許文献9、10)、それらは費用および時間を要し、同じ細胞において多数の遺伝子を類似のレベルまで安定にノックダウンするためには最適化が必要である。大規模RNAiライブラリのスクリーニングの目的以外にも、複数種の選択マーカーを使用することなく、標的とする多数の遺伝子を安定にかつ同時に抑制し得る多重ノックダウン法の開発が要望されている。
【0005】
最近の研究では、鎖長の短いヘアピン(short hairpin:以下、「sh」と略す)型RNAダイサー基質が、RNAiの誘導において有効であることが報告された(非特許文献11)。この結果から、将来、sh型RNA発現ベクターはRNAi解析のための主流のツールとなることが予想される。
【0006】
【特許文献1】WO 03/046186パンフレット
【非特許文献1】Fire, A. et al. Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans. Nature 391, 806-811 (1998).
【非特許文献2】Elbashir, S.M. et al. Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells. Nature 411, 494-498 (2001).
【非特許文献3】Hannon, G.J. & Rossi, J.J. Unlocking the potential of the human genome with RNA interference. Nature 431, 371-378 (2004).
【非特許文献4】Schwarz, D.S. et al. Asymmetry in the assembly of the RNAi enzyme complex. Cell 115, 199-208 (2003).
【非特許文献5】Reynolds, A. et al. Rational siRNA design for RNA interference. Nat Biotechnol 22, 326-330 (2004).
【非特許文献6】Dykxhoorn, D.M., Novina, C.D. & Sharp, P.A. Killing the messenger: short RNAs that silence gene expression. Nat Rev Mol Cell Biol 4, 457-467 (2003).
【非特許文献7】Miyagishi, M. & Taira, K. U6 promoter-driven siRNAs with four uridine 3' overhangs efficiently suppress targeted gene expression in mammalian cells. Nat Biotechnol 20, 497-500 (2002).
【非特許文献8】Brummelkamp, T.R., Bernards, R. & Agami, R. A system for stable expression of short interfering RNAs in mammalian cells. Science 296, 550-553 (2002).
【非特許文献9】Miyagishi, M. & Taira, K. Strategies for generation of an siRNA expression library directed against the human genome. Oligonucleotides 13, 325-333 (2003).
【非特許文献10】Downward, J. Use of RNA interference libraries to investigate oncogenic signalling in mammalian cells. Oncogene 23, 8376-8383 (2004).
【非特許文献11】Siolas, D. et al. Synthetic shRNAs as potent RNAi triggers. Nat Biotechnol 23, 227-231 (2005)
【非特許文献12】Imamura, T. et al. Proteomic analysis of the TGF-beta signaling pathway in pancreatic carcinoma cells using stable RNA interference to silence Smad4 expression. Biochem Biophys Res Commun 318, 289-296 (2004)
【非特許文献13】Jazag, A. et al. Smad4 silencing in pancreatic cancer cell lines using stable RNA interference and gene expression profiles induced by transforming growth factor-beta. Oncogene (2004).
【非特許文献14】Zanta M.A. et al., Gene delivery: a single nuclear localization signal peptide is sufficient to carry DNA to the cell nucleus. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Jan 5;96(1):91-6)
【非特許文献15】Liu F, Huang L. Improving plasmid DNA-mediated liver gene transfer by prolonging its retention in the hepatic vasculature. J. Gene Med. 2001 Nov-Dec;3(6):569-76
【非特許文献16】Zawel, L. et al. Human Smad3 and Smad4 are sequence-specific transcription activators. Mol Cell 1, 611-617 (1998).
【非特許文献17】Ijichi, H. et al. Systematic analysis of the TGF-beta-Smad signaling pathway in gastrointestinal cancer cells. Biochem Biophys Res Commun 289, 350-357 (2001)
【非特許文献18】Ijichi, H. et al. Smad4-independent regulation of p21/WAF1 by transforming growth factor-beta. Oncogene 23, 1043-1051 (2004).
【非特許文献19】Seoane, J., Le, H.V., Shen, L., Anderson, S.A. & Massague, J. Integration of Smad and forkhead pathways in the control of neuroepithelial and glioblastoma cell proliferation. Cell 117, 211-223 (2004).
【非特許文献20】Jackson, A.L. et al. Expression profiling reveals off-target gene regulation by RNAi. Nat Biotechnol 21, 635-637 (2003).
【非特許文献21】Bridge, A.J., Pebernard, S., Ducraux, A., Nicoulaz, A.L. & Iggo, R. Induction of an interferon response by RNAi vectors in mammalian cells. Nat Genet 34, 263-264 (2003)
【非特許文献22】Pardali, K. et al. Role of Smad proteins and transcription factor Sp1 in p21(Waf1/Cip1) regulation by transforming growth factor-beta. J Biol Chem 275, 29244-29256 (2000)
【非特許文献23】Kretschmer, A. et al. Differential regulation of TGF-beta signaling through Smad2, Smad3 and Smad4. Oncogene 22, 6748-6763 (2003).
【非特許文献24】Major, M.B. & Jones, D.A. Identification of a gadd45beta 3' enhancer that mediates SMAD3- and SMAD4-dependent transcriptional induction by transforming growth factor beta. J Biol Chem 279, 5278-5287 (2004).
【非特許文献25】Siegel, P.M. & Massague, J. Cytostatic and apoptotic actions of TGF-beta in homeostasis and cancer. Nat Rev Cancer 3, 807-821 (2003)
【非特許文献26】Takaku, K. et al. Gastric and duodenal polyps in Smad4 (Dpc4) knockout mice. Cancer Res 59, 6113-6117 (1999)
【非特許文献27】Ashcroft, G.S. et al. Mice lacking Smad3 show accelerated wound healing and an impaired local inflammatory response. Nat Cell Biol 1, 260-266 (1999).
【非特許文献28】Shin, I., Bakin, A.V., Rodeck, U., Brunet, A. & Arteaga, C.L. Transforming growth factor beta enhances epithelial cell survival via Akt-dependent regulation of FKHRL1. Mol Biol Cell 12, 3328-3339 (2001)
【非特許文献29】Haley, B. & Zamore, P.D. Kinetic analysis of the RNAi enzyme complex. Nat Struct Mol Biol 11, 599-606 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、sh型の発現ベクターにおいて、多数の遺伝子を標的とする、あるいは単一遺伝子を標的とする、多数のshRNA発現カセットを単一ベクターに備えた、多重ノックダウンシステムを開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、単一のベクターから多数のshRNAを発現し得るシステムの開発に当たって、Smad−TGF-βのシグナル伝達系の機能解析を同時に行なうことを試みた。本発明者らは、複雑なシグナル伝達経路を分析するために、短いヘアピン型RNA発現ベクターを用いたSmad4の機能的分析を既に報告したが(非特許文献12、13)、他のSmad遺伝子を同時にノックダウンすることにより、さらなる機能分析を行い得ると考えた。
【0009】
本発明者らは、鋭意努力した結果、複数の遺伝子を標的とするsh型RNAsを産生し得る系の開発に成功するとともに、Smadファミリーを同時に抑制し得る系を開発することに成功した。本発明は、これら成果に基づくものであり、具体的には以下に示す通りである。
【0010】
1. 標的遺伝子の発現を抑制するためのshRNAを生成し得るshRNA生成ユニットをベクター内に複数担持した多重shRNA発現ベクターであって、
前記shRNA生成ユニットは、プロモーターの下流にshRNAをコードしたDNAが接続されて構成され、
前記shRNAをコードしたDNAは、前記標的遺伝子と相補的な配列を有するアンチセンスDNAと、該アンチセンスDNAと対合し得る配列からなるセンスDNAとがリンカーDNAで連結されて構成された、多重shRNA発現ベクター。
2. センスDNA内には、アンチセンスDNAと相補しないミスマッチ配列が含まれる、上記1記載の多重shRNA発現ベクター。
3. ミスマッチ配列がセンスDNA内に2〜55%含まれる、上記2記載の多重shRNA発現ベクター。
4. センスDNA上のミスマッチ配列が、アンチセンスDNA上の対応する塩基との関係において置換、欠失、挿入または付加のいずれかまたはこれらの組合せにより形成されている、上記2記載の多重shRNA発現ベクター。
5. 置換がセンスDNA上のCをTへ、またはGをAに変更することによる、上記4記載の多重shRNA発現ベクター。
6. ベクターが一過的な発現を誘導するベクターまたは安定的な発現を誘導するベクターである、上記1記載の多重shRNA発現ベクター。
7. ベクター内に担持されている複数のshRNA生成ユニットが下記(1)から(3)のいずれかまたはこれら二つ以上の組合せに該当する、上記1記載の多重shRNA発現ベクター。
(1)単一遺伝子の同一部位を標的とした同一のshRNA生成ユニットが複数からなる
(2)単一遺伝子の異なるニ以上の部位を標的とした複数のshRNA生成ユニットからなる
(3)異なるニ以上の遺伝子を標的とした複数のshRNA生成ユニットからなる
8. プロモーターがpolIII系プロモーターである、上記1記載の多重shRNA発現ベクター。
9. 第一shRNA生成ユニットを備えた環状構造の第一shRNA発現ベクターおよび第二shRNA生成ユニットを備えた環状構造の第二shRNA発現ベクターを原料として、多重shRNA発現ベクターを製造する方法であって、
前記第一および第二shRNA発現ベクターには同様に、第一、第二shRNA生成ユニットの上流、下流にそれぞれ制限酵素A、Bの認識消化部位a、bが設けられ、
前記第一および第二shRNA発現ベクターにはそれぞれshRNA生成ユニットを含まない側のa−b領域内にのみ存在する制限酵素Cの認識消化部位cが備えられ、
前記制限酵素A、B、Cは全て異なり、前記AとBとは互いに接続可能な末端を生成し、前記Cの消化末端とは接続し得ない制限酵素であり、前記a、b部位は第一、第二 shRNA発現ベクター内に単一箇所として存在する条件において、
下記(1)から(4)の工程を含む、方法。
(1)制限酵素A、Cで第一shRNA発現ベクターを消化する工程、
(2)制限酵素B、Cで第二shRNA発現ベクターを消化する工程、
(3)前記(1)、(2)の消化断片を混合し、ライゲーションを行なう工程
(4)第一shRNA発現ベクターの第一shRNA生成ユニットを含むa-c断片と、第二
shRNA発現ベクターの第二shRNA生成ユニットを含むb-c断片とが接続された
環状構築物を回収する工程
10. 制限酵素A、B、Cは粘着末端を生成する制限酵素である、上記9記載の方法。
11. 制限酵素A、Bは、それぞれ生成する末端が互いに接続した際にaともbとも異なる配列を形成し得る、上記9記載の方法。
12. 第一、第二shRNA発現ベクターには選択マーカーが備えられ、前記選択マーカー内に部位cが設けられ、
前記(3)工程の後に、前記選択マーカーで選択する工程を含む、上記9記載の方法。
13. 多重shRNA発現コンストラクト製造用のベクターであって、
プロモーターと、
前記プロモーターの下流に設けられたshRNAをコードしたDNAを挿入し得るクローニング領域と、
一つ以上の選択マーカーとが備えられ、
前記プロモーターの上流側に制限酵素Aの認識消化部位aが設けられ、
前記クローニング領域の下流に制限酵素Bの認識部位bが設けられ、
一の選択マーカー内には制限酵素Cの認識消化部位cが備えられ、
前記AとBとは接続可能な末端を生成し得る制限酵素であり、前記制限酵素Cは前記A、Bの消化末端とは接続し得ない断端を形成し得る制限酵素であり、前記a、b部位は単一の部位として備えられている、
ベクター。
14. 制限酵素A、B、Cは粘着末端を生成する制限酵素である、上記13記載のベクター。
15. 制限酵素A、Bは、それぞれ生成する末端が互いに接続した際にaともbとも異なる配列を形成し得る、上記14記載のベクター。
16. 上記1から8のいずれかに記載のベクターを保持した、細胞。
17. 上記1から8のいずれかに記載のベクターを保持した、非ヒト動物。
18. 上記1から8のいずれかに記載のベクターを成分とする、医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単一のベクターから複数のshRNAを発現させることが可能となる。そのため、ベクター上で単一のshRNAのコピーを多数として、細胞内での発現するコピー数を増加させることもできる。また、一つの遺伝子の異なる部分を標的とする異種のshRNAをコードしたDNAを一つのベクターに搭載させることにより、より強力に遺伝子の発現抑制が期待できる。さらに、本発明で最も有効な用途として、異なる遺伝子をそれぞれターゲットとした複数のshRNAを単一のベクターに搭載させることにより、一種類のベクターの導入により、同時に複数の遺伝子をRNAi効果により発現抑制することが可能となる。例えば、一つのシグナル伝達経路に関与する複数の遺伝子をターゲットとした多重shRNAベクターの場合には、該シグナル伝達経路の複数のポイントが抑制されるため、強力に経路伝達の抑制を行なうことができる。これによりシグナル伝達経路に関与する一遺伝子の抑制では検出することができないような機能を解明することも期待できる。とりわけ、バイパス経路などが別に存在するようなシグナル伝達系のような場合に、本発明の多重shRNA発現ベクターを用いれば、本流とバイパスとの両経路それぞれに関与する遺伝子を同時にターゲットとして発現抑制することも可能である。
また、本発明の多重shRNA発現ベクターによれば、従来、その作成には時間と手間を要したダブル/トリプルノックアウトマウスを作成することなく、同時に多数の遺伝子を抑制した動物を得ることも可能となる。
以上の通り、本発明によれば、遺伝子/タンパク質の機能解明を加速させる重要なツールとなるとともに、疾患の発生機序などの解明にも寄与することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[第一の実施形態]
本発明は、第一に標的遺伝子をノックダウンするためのshRNAを多数生成し得る多重shRNA発現ベクターに関する。
shRNAは、short hairpin RNAの略であり、RNA干渉を誘導し得る二重鎖RNAである。RNA干渉に利用される二重鎖RNAには、一般に、siRNAとshRNAとがある。siRNAは両末端が開放された構造を有するが、shRNAでは一端がループにより閉ざされた構造を有している。本発明では、このうちshRNAを発現させる系に関する。shRNAは一端がループ構造を有し、一本の連なったRNA配列として合成すればよいことから、発現ベクターに基づく生成において有利である。このように発現ベクターからの生成効率のよいshRNAを本発明では、単一ベクターから複数発現させる構成を有している。
【0013】
単一ベクターから複数のshRNAを生成するために、本発明ベクターには複数のshRNAユニットが搭載されている。一ベクターに搭載させる複数のshRNA生成ユニットの組み合わせは、次のいずれかあるいはこれら二つ以上の組合せが可能である。
(1)同一遺伝子の同一箇所を標的とする同一のshRNAを生成する複数のユニット
(2)同一遺伝子の異なる箇所を標的とする異なるshRNAを生成する複数のユニット
(3)二以上の異なる遺伝子を標的とするshRNAを生成する複数のユニット
上記の通り、本発明における「多重」とは、shRNA配列は同一であっても、異なっていてもよいが、shRNAをコードしているDNAのユニット数として複数であることを意味する。
【0014】
一つのベクターに搭載させるshRNA生成ユニットの数は、特に制限はなく、ベクターに挿入し得るインサートの長さにより搭載ユニット数を決定することができる。例えば、搭載するshRNA生成ユニットの数は、一般には2〜30、好適には2〜10、より好適には2〜5とすることができる。
【0015】
各shRNA生成ユニットは、shRNA生成に必須の要素として、shRNAをコードしたDNAとその上流にプロモーターが備えられている。また、shRNAをコードしたDNAは、標的遺伝子と相補的な配列を有するアンチセンスDNAと、アンチセンスDNAと対合し得る配列からなるセンスDNAとがリンカーDNAで連結されて構成される。すなわち、shRNAをコードしたDNAはアンチセンスDNA−リンカーDNA−センスDNAという構成からなる。この構成より、アンチセンスRNA−リンカーRNA−センスRNAという構成を持ったRNAが発現され、このうちアンチセンスRNAとセンスRNAが二重鎖を形成して shRNAが生成される。
【0016】
ここで、アンチセンスDNAは、オフターゲットエフェクトなどを回避し得るように、標的遺伝子と完全相補する配列を備え、標的以外の遺伝子とはミスマッチを有する配列を選択することが好ましい。配列のデザインについては、例えば、以下の表1に示すプログラムなどを用いて実施することができる。
【0017】
【表1】

【0018】
アンチセンスDNAは標的遺伝子のRNAと完全相補する配列を選択することが好ましいが、一方、センスDNAはアンチセンスDNAと対合し得る配列であれば、アンチセンスDNAとの間にミスマッチ配列を有していてもよい。むしろ、アンチセンスDNAと完全相補する配列からセンスDNAを構成した場合には、上記「アンチセンスDNA−リンカーDNA−センスDNA」はインバーテッドリピート構造となり、リアレンジなどによりベクターが不安定化することがある。そのため、センスDNAは好ましくは、アンチセンスDNAと相補しないミスマッチ配列を備えることが好ましい。ミスマッチ配列の割合は、例えば、2〜55%、好ましくは、10〜35%、より好ましくは15〜25%程度とすることができる。一例を示せば、二重鎖形成領域の長さとして21塩基長を有するshRNAにおけるセンス鎖上のミスマッチ塩基の数は、1〜11塩基、好ましくは2〜7塩基、より好ましくは3〜5塩基である。なお、二重鎖形成領域の長さは、後述するように17〜200など選択に広がりがあるため、その選択長さに応じて、センス鎖上のミスマッチ塩基の数を決定することができる。
【0019】
ミスマッチは、一般的には置換、すなわちセンスDNAの配列においてアンチセンスDNA配列と相補しない他の塩基に置き換えにより形成されるが、本発明ではこれに限定されない。例えば、センスDNA配列上から一つ以上の塩基を欠失させ、アンチセンスDNAと対応する塩基をがないことにより形成された不対合、センスDNA配列内にアンチセンスDNAと対応しない塩基を挿入することにより形成された不対合、センスDNA配列の末端に任意の塩基を付加することより形成される不対合も本発明でいうミスマッチ配列に含まれる。置換によるミスマッチ配列を形成させる場合には、センスDNA上のアンチセンスDNAと相補するシトシン(C)をチミン(T)へ、またはアンチセンスDNAと相補するグアニン(G)をアデニン(A)に置き換えることが好ましい。C,Gに比べ、A,Tは結合の力が弱いことから、不安定なインバーテッドリピート構造によるベクターのリアレンジを抑制することができる。
【0020】
上記アンチセンスDNAとセンスDNAの長さは、標的遺伝子との特異的な結合を保持し得る長さ以上であればよい。一方、哺乳動物細胞内では長い鎖長の二重鎖RNAは細胞毒性を有することがある。そのため、哺乳動物細胞を宿主とする場合には、細胞内で発現させたshRNAが細胞毒性を与えない長さとすることが好ましい。例えば、哺乳動物細胞内の遺伝子をターゲットとする場合には、アンチセンスDNAとセンスDNAの長さは17〜200塩基、好ましくは18〜55塩基、さらに好ましくは19〜23塩基とすることができる。
【0021】
アンチセンスDNAとセンスDNAをつなぐリンカーDNAは、shRNAにおけるヘアピン構造を形成させるための構造体である。リンカーDNAの配列はshRNAの生成を阻害するようなターミネーション配列以外であれば任意の配列から構成することができる。長さは、アンチセンスRNA、センスRNAとの対合に支障のない長さであればよい。一例としては、マイクロRNAのヘアピン部位の配列などを挙げることができる。また、リンカーDNAをtRNAをコードしたDNAで構成してもよい。実際に後述する実施例ではリンカーDNA配列として「gtgtgctgtcc」(配列番号:1)ならびにその相補鎖や 「acgtgtgctgtccgt」(配列番号:2)ならびにその相補鎖を用いた。
【0022】
上記shRNAをコードしたDNAからshRNAを発現させるためにshRNA生成ユニットには、「プロモーター」が備えられている。このプロモーターは、shRNAを発現させることができるものであれば、polII系、polIII系のいずれでもよいが、好ましくはshRNAのような短いRNAの発現に適したpolIII系を用いることができる。このpolIII系のプロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、tRNAプロモーター、レトロウイルス性LTRプロモーター、アデノウイルスVAlプロモーター、5S rRNAプロモーター、7SK RNAプロモーター、7SL RNAプロモーター、H1 RNAプロモーターなどを挙げることができる。
【0023】
上記プロモーターとして、誘導可能なプロモーターを用いることにより、所望のタイミングでsiRNAを発現させることも可能となる。このような誘導可能なプロモーターとしては、テトラサイクリンで誘導可能なU6プロモーター(Ohkawa, J. & Taira, K. Control of the functional activity of an antisense RNA by a tetracycline-responsive derivative of the human U6 snRNA promoter. Hum Gene Ther. 11, 577-585 (2000))等が挙げられる。また、組織特異性のあるプロモーターあるいはCre-LoxPシステムのようなDNA組み換えのシステムを用いて、ベクターからのshRNAの発現を制御してもよい。
【0024】
また、プロモーターからshRNAという短い配列を精度よく発現させるために、shRNAをコードしたDNAの3'末端に転写を終結させるためのターミネーターを備えることが好ましい。ターミネーターは、プロモーターの転写を終結し得る配列であれば、特に限定はなく、例えば、T(チミン)やA(アデニン)が4つ以上連続した配列、パリンドローム構造を形成し得る配列などを用いることができる。
【0025】
上記shRNA生成ユニットを担持させるベクターは、導入したい細胞や目的に応じて選択することができる。哺乳動物細胞では、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、フォーミーウイルスベクターなどのウイルスベクターなどが挙げられる。また、ウイルスベクターではなく、ダンベル型DNA(非特許文献14)、またはnaked plasmidもまた好適に用いることができる(非特許文献15)。目的別にみると、上記ベクターのうち一過性の遺伝子抑制を行なう場合には、染色体外に存在するベクターやプラスミドを用いることが好ましい。安定的に標的遺伝子の発現抑制を行なう場合には、染色体内にインテグレーションする能力を有するベクターを選択することが好ましい。
【0026】
ベクターに複数のshRNA生成ユニットを搭載させる場合、各shRNA生成ユニットの発現方向は同一となるように搭載させても、方向を定めずに搭載させてもよい。また、各ユニット間の距離も、間隔を空けずに連結させても、任意の配列により間隔を空けて接続してもよい。
ベクターには、必要に応じて、ベクターが導入された細胞を選択し得る選択マーカーなどをさらに保持させることができる。選択マーカーとしては、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子のような薬剤耐性マーカー、ガラクトシダーゼなどの酵素活性を指標に選択し得るマーカー、あるいは、GFPなどの蛍光発光などを指標に選択し得るマーカーなどが挙げられる。また、EGFレセプター、B7−2、またはCD4などの表面抗原を指標に選択し得る選択マーカーなども用いてもよい。このように選択マーカーを用いることにより、宿主へのshRNA発現ベクターの導入に役立つことばかりではなく、後述するような多重shRNA発現ベクターの製造にも役立ち得る。
【0027】
上記多重shRNA発現ベクターは、搭載されたshRNA生成ユニットが標的とする一あるいは複数の標的遺伝子の発現を抑制し得る。特に複数の標的遺伝子をターゲットとする場合に有利な手段となる。この多重shRNA発現ベクターが導入された細胞や非ヒト動物は、特定の標的遺伝子が抑制されたモデル細胞やモデル動物として利用し得る。特に、ベクターを染色体内にインテグレーションする能力を有するベクターを用いた場合には、標的とする一つあるいは複数の遺伝子を安定的に抑制することができる。そのため、従来、膨大な時間を費やして作成されたマルチプルノックアウト動物を、本ベクターを導入することにより簡便に作成することも可能となる。こうして本発明のベクターを用いて作製されたノックダウン動物は、標的遺伝子等の機能解析への応用や、疾患モデル動物として創薬スクリーニングなどに利用することができる。なお、ここで用いることができる細胞は特に限定はなく、原核生物由来の細胞、真核生物由来の細胞などを含めることができる。また非ヒト動物は、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ブタ、サルなどを含めることができる。
【0028】
また、標的とする遺伝子は特に限定はないが、疾患関連遺伝子や、疾患を誘導するような異物(細菌、ウイルス)の遺伝子などをターゲットとすることもできる。ウイルスとしては、例えば、HIV、RSV、HCV、HBVなどを標的とすることができる。これらウイルスを標的とする場合には、ウイルス染色体上の複数の遺伝子をターゲットするshRNAをコードしたDNA、あるいは、ウイルス染色体上の一遺伝子内の複数の部位をターゲットとするshRNAをコードしたDNAを搭載することができる。
またウイルス染色体上の遺伝子と、宿主の内因性遺伝子とをターゲットとする複数のshRNAを生成するユニット群を搭載することができる。例えば、HIVの場合には宿主内の細胞にHIVが感染する経路として、CCR5ファミリーの受容体や表面抗原が関与することが知られている。CCR5ファミリーには、CCR5、CXCR4、CD4などが含まれる。したがって、HIV感染を治療するための多重shRNAベクターとしては、例えば、HIVのいずれかの遺伝子、特に増殖や感染に関与する遺伝子をターゲットとしたshRNAと、宿主のCCR5ファミリーのいずれかの遺伝子をターゲットとしたshRNAとを発現させ得る構成を一例として挙げることができる。
【0029】
[第二の実施形態]
本発明は、第二に上記多重shRNA発現ベクターを効率よく製造する方法に関する。本発明の製造方法は、一つのshRNA生成ユニット(便宜的に「第一shRNA生成ユニット」という)を備えた環状構造の第一shRNA発現ベクターと、第二shRNA生成ユニットを備えた環状構造の第二shRNA発現ベクターをそれぞれ調製する。ベクターに挿入するshRNA生成ユニットの構成、デザインは上記第一の実施形態と同一であるため、その説明は省略する。また、shRNA生成ユニットの生成は、当業者が用いる遺伝子工学的な手法により実施することができ、例えば、DNA合成器で合成しても、またはPCRを用いて合成してもよい。
【0030】
第一shRNA発現ベクターと、第二shRNA発現ベクターのベクター骨格部分は異種であってもよいが、好ましくは同一のベクターを用いる。ベクター上のshRNA生成ユニットが接続される部位または領域の上流と下流には、異なる制限酵素A、Bの認識消化部位a、b(以下、それぞれ「部位a」、「部位b」と記載する)がそれぞれ備わり、さらに、shRNA生成ユニットを含まない側のa−b領域内にのみ存在する制限酵素Cの認識消化部位c(以下、それぞれ「部位c」と記載する)が備えられている必要がある。部位a、b、cはベクター自身に備わっている配列であっても、人為的に挿入したもののいずれであってもよい。
【0031】
先ず、制限酵素A、Bは以下の条件を満たすものから任意に選択し得る。
(1)部位a、bが異なる配列である
(2)部位a、bがベクターおよびshRNA生成ユニットを含めて、それぞれ単一である
(3)制限酵素AとBは互いに接続可能な末端を生成する
このような制限酵素A、Bは平滑末端あるいは粘着末端を形成するものであってもよい。例えば、粘着末端を形成する制限酵素A,Bの組合せは、表2−1、表2−2において、突出塩基配列が共通し、突出塩基数が同じもの同士から選択することができる。
【0032】
【表2−1】

【0033】
【表2−2】

また、平滑末端を形成する制限酵素A、Bの組合せは、表3から選択することができる。
【表3】

なお、表2、3において、RはA又はGを、YはC又はTを、MはA又はCを、KはG又はTを、SはC又はGを、WはA又はTを、HはA、CまたはTを、BはC、G又はTを、VはA、C又はGを、DはA、G又はTを、NはA、C、G又はTを、それぞれ意味する。
【0034】
制限酵素Cは、以下の条件を満たすものから任意に選択し得る。
(1)部位cは部位a、bと異なる
(2)部位a、bがベクターおよびshRNA生成ユニットを含めて、それぞれ単一である
制限酵素Cも平滑末端あるいは粘着末端を形成するものであってもよく、制限酵素A、Bの異なる制限酵素であれば特に制限はない。
【0035】
また、ベクターには好ましくは薬剤耐性または栄養要求性などの選択マーカーを備えることが好ましい。選択マーカーを備えることにより、後述する遺伝子組換え後の産物を宿主の形質転換体から回収する際の効率を向上し得る。選択マーカーは、回収する際の宿主により選択し得るが、大腸菌などの原核生物の場合には、カナマイシン、アンピシリンなどの薬剤耐性マーカーなどを用いることができる。また、目的とする多重shRNA発現ベクターの回収を容易にするためには、上記部位cは選択マーカー内に設置することが好ましい。
【0036】
上記第一shRNA発現ベクターと第二shRNA発現ベクターとを調製した後、以下の(イ)から(ニ)の一連の操作を実施する。
(イ)制限酵素A、Cで第一shRNA発現ベクターを消化する
(ロ)制限酵素B、Cで第二shRNA発現ベクターを消化する
(ハ)前記(イ)、(ロ)で生成された消化断片を混合し、ライゲーションを行なう
(ニ)第一shRNA発現ベクターの第一shRNA生成ユニットを含むa-c断片と、第二shRNA発現ベクターの第二shRNA生成ユニットを含むb-c断片とが接続された環状構築物を回収する
【0037】
上記(イ)、(ロ)の工程は、選択した制限酵素に適した条件で消化を行なう。(イ)、(ロ)の工程後に、必要に応じて、目的とする消化断片、すなわち、第一shRNA発現ベクター由来の第一shRNA生成ユニットを含むa-c断片、第二shRNA発現ベクター由来の第二shRNA生成ユニットを含むb-c断片をそれぞれ単離精製してもよい。単離精製する方法の一例を示せば、電気泳動によりフラグメントを分画し、目的の長さのフラグメントをゲルから回収して、精製することができる。(ハ)工程におけるライゲーション反応は常法に従って実施することができる。
【0038】
(ホ)工程において、目的とする環状構築物、すなわち多重shRNA発現ベクターを回収するための手法は特に限定はなく、一般の遺伝子工学的な手法を用いることができる。効率のよい手法として、大腸菌などの宿主に形質転換し、形質転換体から回収する方法が挙げられる。ベクターに選択マーカーが備わっている場合には、選択マーカーを指標として形質転換体を選択することにより効率を上げることができる。さらに、上記制限酵素Cの部位cを選択マーカー内に設けることにより、目的とする多重shRNA発現ベクターの回収を一層効率的に行なうことができる。すなわち、選択マーカーを指標として目的通りにライゲーションが行なわれた産物を選択的に分取することが可能となる。
【0039】
上述の通り、最終的に製造された多重shRNA発現ベクターは、上記第一shRNA生成ユニットを含むa-c断片と第二shRNA発現ベクター由来の第二shRNA生成ユニットを含むb-c断片とが接続されて形成されている。すなわち、a-c断片のaとb-c断片のbが接続し、c同士が接続して形成された。ここでaとbが接続されると、もはや制限酵素Aによっても、制限酵素Bによっても消化されない配列が形成される。したがって、最終的に製造された多重shRNA発現ベクターは、shRNA生成ユニットを二つ以上備え、第一shRNA発現ベクター由来の部位bが一箇所、第二shRNA発現ベクター由来の部位aが一箇所、第一と第二のshRNA発現ベクター由来の部位cが接続されて再び形成された部位cが一箇所を備えた構造を有する。従って、ここで生成された多重shRNA発現ベクターは、本製造方法の原料である第一shRNA発現ベクターあるいは第二shRNA発現ベクターとして再び出発物質として利用しえる。得られた多重shRNA発現ベクターを出発物質として利用することにより、shRNA生成ユニットの搭載数を自在に増やすことが可能となる。
【0040】
[第三の実施形態]
本発明は、第三に多重shRNA発現コンストラクト製造用のベクターに関する。本ベクターは、上記第2の実施形態の製造原料となる第一あるいは第二shRNA発現ベクターの製造に使用するためのベクターである。具体的には、次の通りである。
本発明のベクターは、プロモーターと、前記プロモーターの下流に設けられたshRNAコードDNAをクローニングし得るクローニング領域と、一つ以上の選択マーカーとが備えられている。前記プロモーターの上流側に制限酵素Aの認識消化部位aが設けられ、前記クローニング領域の下流に制限酵素Bの認識部位bが設けられ、一の選択マーカー内には制限酵素Cの認識消化部位cが備えられている。前記AとBとは接続可能な末端を生成し得る制限酵素であり、前記制限酵素Cは前記A、Bの消化末端とは接続し得ない断端を形成し得る制限酵素である。前記制限酵素A,Bがそれぞれ認識するa、b部位はベクター内で単一の部位として備えられている。
【0041】
上述した通り、第二の実施形態の製造方法を実施するためには、制限酵素A、B、Cに対応した部位a、b、cがベクターに備えられている必要がある。このような制限酵素部位の設置を容易にするために、本発明の多重shRNA発現ベクターの製造に使用する制限酵素部位が予め設けられた空のベクター(空のベクターとはshRNAをコードしたDNAが搭載される前段階のベクターを意味する)を提供することにより、多重shRNA発現ベクターの製造を容易にすることができる。また、shRNAをコードしたDNAを挿入するクローニング領域として、制限酵素A、B、Cの認識部位と異なる単一認識部位の制限酵素部位を一つ以上設けることにより、第一あるいは第二のshRNA発現ベクターをコードしたDNAの挿入を容易にすることができる。
なお、使用し得るベクターの種類、プロモーターは第一の実施形態で説明した通りであるため、その説明は省略する。制限酵素A、B、Cおよび対応する部位a、b、cについては好適な態様を含め、第二の実施形態で説明した通りであることから、その説明は省略する。
【0042】
[第四の実施形態]
本発明は、第一の実施形態の多重shRNA発現ベクターを成分とする、医薬組成物に関する。
上記第一の実施形態に示した多重shRNA発現ベクターから発現されるshRNAの標的を疾患関連遺伝子とすることにより、このshRNA発現ベクターを医薬品として利用することができる。例えば、後述する実施例に示す通り、SMADファミリーの複数を標的とする多重shRNA発現ベクターはTGF-β経路が関与する疾患、例えば、癌などの予防・治療に有用となる。特に、Smad2、Smad3、およびSmad4を多重shRNA発現ベクターにより同時にノックダウンすることにより、いずれかの遺伝子を単独でノックダウするよりもTGF-β経路を強く阻害して、アポトーシスを強く誘導することができることが示された。したがって、これらSmad2、Smad3、およびSmad4を標的とする多重shRNA発現ベクターは制癌剤として応用が期待される。
【0043】
それ以外の疾患に関しても、疾患の原因が複数の遺伝子の発現に起因しているような場合には、本発明の多重shRNA発現ベクターを用いて、これら原因因子の発現を同時に抑制することにより疾患の予防・治療を図ることが可能となる。したがって、本発明の多重shRNA発現ベクターは、遺伝子の発現、とりわけ、二つ以上、好ましくは、3つ以上の遺伝子の発現が原因となる疾患の治療薬の開発に応用し得る。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。まず、実施例を説明するに当たり、本実施例で用いた方法、材料について説明する。
〔方法および材料〕
1)siRNAの設計および構築
Smad2、Smad3、またはTGFRB2遺伝子を標的とする異なる四つの配列を独自のアルゴリズム(非特許文献9)を用いて選択した。サイレンシング活性を改善するため、および本文に記述した技術的障害を克服するため、ヘアピンループのセンスDNA内のみにCからTまたはAからGの変異を多数導入し、アンチセンスDNAとセンスDNAとに複数のミスマッチを形成させた。ヘアピン型の単一のRNAiベクターを構築するため、合成センスオリゴヌクレオチドおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド5 μl(100 mM)を1 M NaCl( 1μl)と混合した。この混合液を95℃で2分間インキュベートし、72℃まで急速に冷却して、2時間かけて4℃に徐々に冷却して、センスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドをアニーリングさせた。本発明者らは、アニールしたオリゴヌクレオチドをTE緩衝液によって200倍に希釈して、1 μlをプラスミドDNAとのライゲーションのために用いた。pcPUR+U6iカセットプラスミド(3〜5 μg)を反応溶液(100 μl)中でBspMIにより消化した。消化後の反応液を電気泳動した。目的の長さのDNA断片を含むゲル小片を切除し、小片中のDNAをMinEluteゲル精製キット(キアゲン)を用いて精製した。DNAライゲーションキットバージョン2.1(TAKARA)を用いて、線状化したプラスミドDNAと上記アニーリングさせたオリゴヌクレオチドをライゲーションさせた。ライゲーション産物により大腸菌宿主細胞を形質転換した。
【0045】
Smad-2および-3ダブルノックダウンコンストラクトは以下のように作製した。pcPUR+U6-Smad2iをBamHIおよびScaIによって消化し、一方のpcPUR+U6-Smad3iをScaIおよびBglIIによって消化した(段階1)。U6プロモーターおよびヘアピンループ単位を含む断片を精製し(段階2)、その後、ライゲーションを行なって、ダブルノックダウンベクターを構築した(段階3)。BglIIおよびBamHI消化により形成された末端がアニーリングすることで形成されたつなぎ目は、もはやBglIIおよびBamHIのいずれでも切断することができない。このように、多数のsiRNAsのコード領域を順次ベクターに組み込む際に、同じ技法を繰り返すことができる。ScaI部位はアンピシリン耐性遺伝子に存在し、これはバックグラウンドの細菌コロニーの数を減少させる。同じ方法を他のダブルまたはトリプルノックダウンコンストラクトに適用した。なお、pcPUR+U6iカセット(非特許文献13)、およびpcPUR+U6iGFPならびにpcPUR+U6+Smad4i(非特許文献7、12)については既に報告されている。pCMV5-TGFβRII/HAはJ.L.Wranaより提供され、pcDEF3-Flag(N)-Smad2およびpcDEF3-Flag(N)-Smad3は、K. Miyazono氏から寄贈された。(CAGA)9-Luc(非特許文献16)は、S.E. Kern氏から寄贈された。およびp3TP-Luxは、J. Massague氏からの寄贈され、既に報告もされている(Wrana J L, Attisano L, Carcamo J, Zentella A, Doody J, Laiho M, Wang X-F, Massague J. TGF-β signals through a heteromeric protein kinase receptor complex. Cell 1992;71:1003-1014)。ウミシイタケのルシフェラーゼのコード配列の上流にシミアンウイルス(SV)40プロモーターを含むpRL-SV40(プロメガ)を、ルシフェラーゼアッセイにおける内部標準として用いた。
【0046】
2)細胞培養およびトランスフェクション
HeLa細胞株(アメリカンタイプカルチャーコレクション、ロックビル、メリーランド州)は10%ウシ胎児血清(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州)を含むダルベッコ改変イーグル培地において継代した。ヒトケラチサイト細胞株HaCaT(J Cell Biol. 1988 Mar;106(3):761-71.Normal keratinization in a spontaneously immortalized aneuploid human keratinocyte cell line.Boukamp P, Petrussevska RT, Breitkreutz D, Hornung J, Markham A, Fusenig NE.)は10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地において継代した。トランスフェクションは、製造元の説明書に従って「Effectene」(キアゲン)を用いて行った。安定なRNAi細胞を確立するために、細胞をピューロマイシン(和光)1 μg存在下で2週間培養して選択した。安定したshRNAを発現している細胞を確立するために、HaCaT細胞株における選択のためのピューロマイシン濃度を検定し、ピューロマイシンが発現していない細胞は3日以内に全て死滅するという適切な濃度として1μg/mlを選択した。生存細胞はsiRNA発現ベクターが導入されたウェルで観察された。最初のコロニーは2週間目に現れ、その後さらに2週間培養してオリジナルストックを作成したり、発現解析を実行するための細胞数として十分な密集度まで増殖させた。安定した細胞株における標的内在性遺伝子の発現のノックダウンは、上記オリジナルストックおよびオリジナルストックを20回継代した細胞を用いて試験した。細胞をピューロマイシン(1μg/ml)含有培地(Wako, Tokyo, Japan)にてさらに培養した。
【0047】
3)ウェスタンブロット
ウェスタンブロッティングは既に記述されている通りに実施した(非特許文献18)。等量のタンパク質を電気泳動して、タンパク質をそれぞれ、250倍希釈した抗Smad2/3もしくは抗Smd4抗体(BDトランスダクションラボラトリーズ)、2500倍希釈した抗β-アクチンもしくは抗Flag抗体(シグマ)、抗HA抗体(ロシュ)、または1000倍希釈した抗PAI-1抗体(BDトランスダクションラボラトリーズ)によって検出した。
【0048】
4)ノーザン解析
トータルRNAは安定的にノックダウンされた細胞よりIsogen Reagent (Wako, Tokyo, Japan)を用い、添付資料に従って回収した。トータルRNA(5μg)は18%(重量/容量)ポリアクリルアミド尿素ゲルにてサイズ分画し、Hybond N+メンブレン(Amersham, Little Chalfont, UK)に転写した。転写後のメンブレンを室温にて乾燥させ、紫外光で固定した。メンブレンは溶液(30% formamide, 10% dextran sulfate, 5x SSC, 0.5% SDS, 1x Denhardt’s solution, and 0.2 mg/ml salmon sperm DNA (Sigma Aldrich Co., Saint Louis, MO))にてプレハイブリダイゼーションを行なった。ハイブリダイゼーションは合成オリゴヌクレオチドプローブにて36度、3時間行った。このプローブはSmad2、3及び4に対するsiRNAと相補的な配列で構成した。ローディングコントロールとして、ヒトtRNAバリンに対する相補的なプローブを用いた。プローブ配列は次の通りである。
・tRNA valinに対するプローブ:(配列番号:150)
5’-GAA CGT GAT AAC CAC TAC ACT ACG GAA ACC CTA TAG TGA GTC GTA TTA GGC GGG AAC CGC CTA ATA CGA CTC ACT ATA GG-3’
・Smad2 siRNAに対するプローブ: (配列番号:98)
5'-GGATTGAACTTCATCTGAA-3',
・Smad3 siRNAに対するプローブ: (配列番号:99)
5'-GGATTGAGCTGCACCTGAA-3’
・Smad4 siRNAに対するプローブ: (配列番号:100)
5'-GTACTTCATACCATGCCGA-3'.
合成プローブはT4ポリヌクレオチドキナーゼ(Takara Shuzo Co., Kyoto, Japan)を用いて、32P(Amasham, Little Chalfont, UK)標識した。メンブレンを2x SSC を用いて36度にて2回洗い、その後、Fujix Bio-Image Analyzer BAS1000 (Fuji Photo Film Co. Ltd., Tokyo, Japan)を用いて解析した。
【0049】
5)ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼアッセイは既に記述されている通りに実施した(非特許文献18)。細胞に、(CAGA)9-luc、またはp3TP-LuxおよびpRL-SV40をトランスフェクトした。24時間後、細胞をTGF-β1(R&Dシステムズ)2.5 ng存在下または非存在下でさらに24時間インキュベートして、ダブルルシフェラーゼアッセイを行った。(CAGA)9-lucまたはp3TP-Luxのホタルのルシフェラーゼ活性をpRL-SV40のウミシイタケのルシフェラーゼ活性に基づき標準化した。TGF-β1非存在における細胞のルシフェラーゼレベルに値1.0を割り付けて、相対活性を計算した。実験は1試料あたり2個ずつ3回実施した。
【0050】
6)定量的逆転写酵素PCR
既に記述されているように(非特許文献13)、ABI 7000リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いて定量的RT-PCR分析を行った。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のmRNAレベルに対する各遺伝子のmRNAレベルの比を計算して、値1.0を親細胞に割付した。各実験は1試料あたり3個ずつ2回繰り返した。以下のプライマーを用いた。
・BTBD1
フォワード(5'-CAAGGCGTCGCTGAAGGA-3';配列番号:3)
リバース(5'-CCCAGTACGAAGCGCACAT-3';配列番号:4)
・ プロミニン2
フォワード(5'-TGCCCTCTGTGGACCATGT-3';配列番号:5)
リバース(5'-GGCGTTGAAGGTGCTGTTCT-3';配列番号:6)
・ OAS1
フォワード(5'-AGGTGGTAAAGGGTGGCTCC-3';配列番号:7)
リバース(5'-ACAACCAGGTCAGCGTCAGAT-3';配列番号:8)
・ GAPDH
フォワード(5'-CCACCCATGGCAAATTCC-3';配列番号:9)
リバース(5'-TGGGATTTCCATTGATGACAAG-3';配列番号:10)
M13(配列の確認のため)、リバース(5'-CAGGAAACAGCTATGAC-3';配列番号:11)
【0051】
7)浸潤アッセイ
浸潤は、BDバイオコートマトリゲル浸潤チャンバー(BDバイオサイエンシズ)を用いて、直径8 mmのマトリゲルコーティングポリカーボネートメンブレン(孔径8μm)によって測定した。全体でノックダウンまたは対照HaCaT細胞105個をウェルの上室に播種し、培養した。24時間後、細胞をTGF-β(1 5 ng/ml)存在下または非存在下でさらに24時間インキュベートした。次に、濾紙の上部表面に存在する細胞を綿花で拭き取って、濾紙の下側に浸潤した細胞を固定して、「DiffQuick」(Dade Behring)によって染色し、明視野顕微鏡によって無作為な5視野を選択して、倍率200倍で視野内の染色細胞を計数した。実験は3回繰り返した。
【0052】
8)創傷閉鎖アッセイ
創傷閉鎖アッセイは既に記述されている通りに(非特許文献13)実施した。コンフルエント細胞単層に、幅1.2 mmのピペットの先端を用いて剥離させて損傷を与え、TGF-β1 5 ng/mlの存在下または非存在下で24時間インキュベートした。細胞の遊走を、様々な時間に注意深く観察した。実験は3回繰り返した。
7)アポトーシス
10 cm培養皿に細胞2×106個を播種し、TGF-β(1 5 ng)存在下または非存在下で24時間インキュベートして、ApopTagフルオレセインin situ アポトーシス検出キットS7111(Serologicals Corporation)を用いてアポトーシスを分析した。測定には、「CellQuest」ソフトウェアを備えたベクトン・ディッキンソンフローサイトメーターを用いた。実験は1試料あたり2個ずつ3回繰り返した。
【0053】
〔実施例1〕
(1)シングルsiRNA発現ベクターの作製
既に報告されている有効なsiRNA設計に関する様々なアルゴリズムに基づくソフトウェア(非特許文献9)を用いて、Smad2遺伝子(配列番号:12)、Smad3遺伝子(配列番号:13)、およびTGFRB2遺伝子(配列番号:14)のそれぞれに対して、鎖長21ヌクレオチドの標的部位4箇所を設計した(表4)。また、Smad4については既に報告がされているターゲット部位を用いた。
【0054】
【表4】

サイレンシング活性を改善するため、およびsiRNA発現構築物において起こる頻繁な変異またはパリンドローム配列によるシークエンシングの難しさのような技術的な障害を克服する配列をデザインした。表5に示すようにセンス鎖は上記ターゲット部位の配列に二つまたはそれ以上のCからTまたはAからGの点変異を挿入し、アンチセンス鎖はRNA干渉を誘導し得るようにターゲット配列との相補性を保つ配列とした。なお、Smad4に関しては、既に抑制効果が報告されている表4に示すターゲット配列のセンス鎖にミスマッチを挿入して配列をデザインした。なお、Smad4に関してはその遺伝子配列(配列番号:15)に基づき、他の標的領域の選択および他のshRNA配列をデザインすることは可能である。
【表5】

ミスマッチ塩基は斜体字にて示す。
【0055】
上記センス鎖、アンチセンス鎖にリンカーDNAを接続し、shRNAをコードしたDNAを構成し、これにクローニング用の制限酵素サイトおよび転写終結コドンを挿入したDNA鎖を化学合成し、また、その相補鎖も化学合成した(表6)。これら2本のDNA鎖をアニーリングして、二本鎖DNA断片を形成した。
【0056】
【表6】


注)ミスマッチ配列は斜体で示す。リンカー(ループ)配列は下線を付して示す。ターミネーター(転写終結コドン) は二重下線を付して示す。BspMI 認識サイトは破線を付して示す。
【0057】
上記互いに相補するDNAをアニーリングして生成したDNA断片をpcPUR+U6-iカセット(非特許文献7)にそれぞれサブクローニングして、siRNA発現ベクターを構築した。これらsiRNA発現ベクターによるサイレンシング効率をスクリーニングするために、これらベクターをSmad2-、Smad3-またはTGFRB2-発現ベクターと共にHeLa細胞に一過的にコトランスフェクションをした。トランスフェクション48時間後に細胞を回収し、細胞破砕液を調製して、ウェスタンブロッティングによりSmad2、Smad3またはTGFRB2タンパク質を検出した(図1a)。
【0058】
Smad2における四つの部位のうち一つ、Smad3における四つの部位のうち三つ、およびTGFRB2における4箇所全てを標的としたsiRNAが、その標的遺伝子の発現を0〜10%まで抑制し有効であることが確認された(図1a)。標的遺伝子をノックダウンするために最も有効であることが確認された標的部位、具体的には、Smad2に関して部位1、Smad3に関して部位2、およびTGFRB2に関して部位1を選択し、以下の実施例に使用した。これらの部位を含む発現ベクターは、それぞれSmad2、Smad3、またはTGFRB2タンパク質をノックダウンすることから、「pcPUR+U6-Smad2i」、「pcPUR+U6-Smad3i」、および「pcPUR+U6-TGFRB2i」と命名した。代表としてpcPUR+U6-Smad2iの模式図を示す(図1d)。
【0059】
Smad2およびSmad3は互いに極めて高い相同性を有するタンパク質であることから、pcPUR+U6-Smad2iによりSmad3を、pcPUR+U6-Smad3iによりSmad2をノックダウンし得るかを、上記サイレンシング活性を測定した実験と同様に、Hela細胞へのSmad3−あるいはSmad2−発現ベクターともにコトランスフェクションを行い、その後、ウェスタンブロット分析って調べた(図1b)。互いに相同性が高いタンパク質をコードしたSmad2およびSmad3遺伝子をそれぞれ標的としたpcPUR+U6-Smad2i、pcPUR+U6-Smad3iは、交差作用はなく特異的に標的遺伝子をノックダウンすることが確認された。このように、本発明者らはSmad2、Smad3、およびTGFRB2に対して、それぞれ特異的に単一遺伝子を抑制し得るノックダウンベクターを得ることに成功した。
【0060】
(2)ダブルまたはトリプルsiRNA発現ベクターの開発
次に、本発明者らは、これらの構築物を組み合わせることによって多数の遺伝子を同時に抑制し得る多重ノックダウンベクターの作製を試みた。pcPUR+U6ベクターは、U6プロモーターの上流にBglII認識部位、RNAi挿入領域の下流にBamHI認識部位、およびアンピシリン遺伝子内にScaI認識部位を有する。これら制限酵素の認識部位は全て、プラスミド内に1箇所ずつ存在する。Smad2およびSmad3を標的とするダブルノックダウンベクターを作製するために、本発明者らは、pcPUR+U6-Smad2iをBamHIおよびScaIによって、そしてpcPUR+U6-Smad3iをBglIIおよびScaIによって消化し(図1cにおけるステップ1)、発現カセットを含む断片をライゲーションして、Smad2およびSmad3の双方をダブルノックダウンし得る単一のベクターを作製した(図1cにおけるステップ2)。Smad2およびSmad3、Smad2およびSmad4、ならびにSmad3およびSmad4に対するダブルノックダウンベクターをそれぞれ、pcPUR+U6-Smad23i、pcPUR+U6-Smad24i、およびpcPUR+U6-Smad34iと命名した(図1d)。 全ての経路に関連するSmads(Smad2、Smad3、およびSmad4)を標的とするトリプルノックダウンベクターpcPUR+U6-Smad234iも、同じ方法で作製した(図1d)。このシステムの長所は、BglIIおよびBamHI消化によりそれぞれ形成される断端は相補的な一本鎖が突出した粘着末端であるが、これらをライゲーションさせた後の結合部位はBglIIあるいはBamHIによっても切断することができない。つまり、二つのプラスミドを結合させて形成された新たなベクターにおいても、BglII、BamHIおよびScaI認識部位を各一つ存在する状態に維持することができる。そのため、多数の遺伝子を標的とする多重ノックダウンベクターは、同じ技法を繰り返すことにより容易に作製することができる。なお、アンピシリン耐性遺伝子における唯一のScaI部位は、バックグラウンド細菌コロニーの数の減少に関与する。
【0061】
〔実施例2〕Smadsノックダウンの確認
上記シングルあるいは多重ノックダウンベクターの有効性を調べるために、本発明者らは、機能的TGF-β経路を有するヒトケラチノサイト細胞株HaCaTを用いて分析した。この細胞株は、TGF-βシグナル伝達の解析に適していることが知られている(非特許文献19)。HaCaTに上記ベクターをトランスフェクトし、5週間経過後に、1 μg/mlピューロマイシンによって選択して安定なノックダウン細胞株S2KD、S3KD、S4KD、S23KD、S24KD、S34KD、S234KD、およびiGFPをそれぞれ得た。これら細胞を破砕した破砕液を用いて、ウェスタンブロット分析を行った(図2a)。なお、本発明者らは、独立した細胞クローンではないが、ピューロマイシン耐性ポリクローナル細胞の混合物である安定な細胞プールを用いて、プラスミドのゲノム組込による如何なる細胞変化もないことを確認した。
【0062】
図2aに示すように、安定な形質転換体(レーン2〜8)のほとんどは、意図した通りの内因性のSmad2、Smad3、およびSmad4タンパク質の発現が劇的に減少していることが示された。とりわけS234KD細胞内では、異なる三つのsiRNAsが発現されるが、この手法により3つの標的遺伝子がノックダウンされた。ノーザン解析では、シングル、ダブル、トリプルノックダウン細胞において、Smad2、Smad3およびSmad4に対するsiRNAが、安定的に同量発現し、それも長時間の培養(トランスフェクション31時間経過)後においても維持されることが示された(図2b)。
一方、TGFRB2を標的とするノックダウンベクターではトランスフェクション後に生じた大量の細胞死のために、安定なTGFRB2ノックダウン細胞株を得ることができなかった。しかし、この結果は細胞の生存にとってTGFRB2が重要であることを示唆している。多重ノックダウンにおける各遺伝子のサイレンシング効率は、siRNA発現コンストラクトがベクター内に挿入された位置または数により影響を受けなかった(データは示していない)。
【0063】
非標的メッセンジャーRNA(mRNA)転写物のサイレンシングを誘導するためには、siRNAと同一な11〜15隣接ヌクレオチド配列で十分であると報告されている(非特許文献21)。本発明者らは、独自のアルゴリズムを用いることによって標的配列を注意深く選択したが、非特異的遺伝子をノックダウンする可能性を除外することができなかった。本発明者らの細胞における非標的遺伝子のサイレンシングを調べるために、本発明者らは、BLASTデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)を用いて、本発明者が用いたRNAi部位にマッチする少なくとも11隣接ヌクレオチドを有する任意の相補的配列の存在をヒトゲノムから検索した。TGFRB2部位に関しては、如何なる遺伝子も配列類似性を有しないようであった。Smad2部位1に関しては、BTB/POZドメインを含む一つのタンパク質(以下「BTBD1」という)が17隣接ヌクレオチドがマッチし、他のいくつか検索されたものは、類似性が低かった。5回膜貫通糖タンパク質(プロミニン2)は、Smad3の部位2と類似する15隣接ヌクレオチドを有していた。
【0064】
本発明者らは、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて、ノックダウン細胞における非標的遺伝子のmRNA発現を調べた。ノックダウン細胞株(S2KD、S3KD)およびコントロールの親HaCaT細胞またはiGFP対照細胞株からトータルRNAを回収し、RT-PCRを行った(図2C、D)。
非標的遺伝子であるBTBD1、プロミン2、OAS1の発現は、親HaCaT細胞(図2b、c)またはiGFP対照細胞株(データは示していない)と比較して、SK2DまたはSK3D細胞において減少しなかった。このことから、本発明者らは、確立された細胞株において非標的遺伝子のサイレンシングが存在しなかったと結論した。別の報告から、インターフェロン反応が哺乳類細胞においてU6プロモーター/レンチウイルスshRNA構築物によって誘導されたことが証明された(非特許文献21)。α/βインターフェロンは、二本鎖RNA(dsRNA)-結合酵素であるOAS1を誘導し、これはdsRNA依存的に活性化される。本発明者らの構築物は、レンチウイルスに由来しなかったが、如何なる非特異的RNA分解を除外するためにOAS-1誘導をチェックした。理論的には、より多くのsiRNAsを産生する可能性がある三重ノックダウン細胞は、より多くのOAS-1を誘導する可能性があるが、ノックダウン細胞株と親HaCaT細胞株(図2E)あるいはiGFP対照細胞株(データは示していない)との間には、OAS-1 mRNAの統計学的な差は認められなかった。
【0065】
〔実施例3〕TGF-β経路の機能解析
pcPUR-U6構築物が標的遺伝子に対して高い特異性を有し、遺伝子のサイレンシングにおいて有効であることが示唆されたことから、これらの細胞を用いてTGF-β経路の機能解析を行うこととした。
TGF-β経路の機能的解析は、Smad-依存的レポーター(CAGA)9-Lucを用いたルシフェラーゼアッセイにより行った。ルシフェラーゼアッセイにおいて、カノニカルTGF-β-Smadに依存的なシグナル伝達は、S2KDを除く全ての細胞株において顕著に阻害されたことが示された(図2F)。S2KD細胞においてTGF-βによるルシフェラーゼ誘導が保存されたこと(図2F)は、Smad3およびSmad4が「CAGA」Smad結合エレメントに結合するがSmad2は結合しないという当初の報告(非特許文献16)と一致する。
【0066】
一方、「CAGA」Smad結合エレメントとは異なるエレメントを備えたp3TP-Lucレポータープラスミドを用いてルシフェラーゼアッセイを行った。p3TP-Lucレポータープラスミドは、TGF-βによって選択的に誘導されるPAI-1プロモーターの-740/-636領域にヒトコラゲナーゼ遺伝子由来の三つのTREエレメント(Smadを介して活性化されるTGF-βファミリーの一つactivin経路に特異的なエレメント)を結合させた配列の下流にルシフェラーゼ遺伝子が接続されている。このp3TP-Lucをレポータープラスミドとして用いた場合には、S2KD細胞におけるTGF-β添加時のルシフェラーゼ活性の誘導は、対照細胞の20%にダウンレギュレートされた(データは示していない)。
【0067】
本発明者らは、ノックダウン細胞株において、周知のTGF-β反応性遺伝子であるPAI-1の誘導を調べた。この解析を行うために、ノックダウン細胞株をTGF-β存在下あるいは非存在下で培養し、その後、細胞破砕液を調製して、ウェスタンブロット解析を行った(図2G)。解析の結果、TGF-βに起因したPAI-1誘導が、S2KD細胞株を除く全てのノックダウン細胞株において阻害されたことが示された。このPAI-1ウェスタンブロットの結果は、先に示したレポーターアッセイの結果(図2f)と一致した。このことからTGF-β媒介PAI-1誘導は、そのプロモーター領域における「CAGA」 Smad結合エレメントに大きく依存していることが示唆された。
【0068】
〔実施例4〕Smadsノックダウン細胞株の表現型
複数のSmadタンパク質間での機能的な違いに関する知見は、Smadドミナント-ネガティブ構築物(非特許文献22)、アンチセンスRNA(非特許文献23)、およびsiRNA二本鎖(非特許文献24)を用いることによって過去に蓄積されている。これらの研究は、これまでの方法の特性が一過性であったために表現型の観察が制限されたことから、表現型の変化よりも、むしろ分子標的またはシグナル伝達の変化に主に重点を置いていた。これらとは対照的に、上述したように安定なRNAi構築物が得られたことによって、本発明者らは、Smadをノックダウンした際における、浸潤、創傷閉鎖、およびアポトーシスのようなTGF-β-Smad依存的表現型における変化に着目することとした。
【0069】
(1)浸潤
マトリゲル浸潤チャンバーを用いたin vitroシステムにより、TGF-β依存的浸潤を分析した(図3b)。マウスにおいてSmad4が失われると、転移の増加および腫瘍の浸潤が起こるという報告があるが(非特許文献25、26)、本発明者らの結果は、TGF-β非存在下でのS4KD細胞の浸潤活性が他の如何なる細胞よりも低いこと、そしてTGF-βが浸潤を強く刺激する(41.3倍の増加)ことを示している。対照的に、S2KDおよびS3KD細胞は基礎レベルで浸潤特徴を有するが、TGF-βに対する反応は弱い(増加倍数はそれぞれ、8.3倍および3.5倍)。S23KD、S24KD、およびS34KD細胞のTGF-β依存的浸潤は、対照iGFP細胞と比較して統計学的に有意差を示さなかった(増加倍数はそれぞれ、4.3、4.3、3.8および3.8倍)。S4KD細胞におけるTGF-βによる浸潤の増加倍率は、無傷のSmad4を有する対照細胞の10倍より大きかった(図3a、b)。TGF-βによって誘導される浸潤は、Smad4ノックダウン細胞と比較してトリプルノックダウン細胞株では統計学的に有意に減少し(増加倍率、8.25倍)、Smad4の機能を欠損する細胞では、Smad2およびSmad3がTGF-β媒介細胞浸潤にとって重要であることを示唆している。
【0070】
(2)創傷閉鎖
TGF-βは、細胞の遊走を活性化することによって創傷の閉鎖を促進することが知られていることから、本発明者らは、確立されたノックダウン細胞株においてTGF-βが創傷閉鎖を誘導するか否かを調べた。幅1.2 mmのチップによってコンフルエント細胞単層に損傷を与え、創傷の閉鎖をTGF-βの投与の24時間後に観察した。本発明者らの先の報告において、Smad4ノックダウンは、Pac-1細胞においてTGF-βによって誘導された創傷の閉鎖を阻害した(非特許文献13)。本発明者らは、HaCaT細胞において類似の結果を観察した。図3cおよび3dに示すように、Smad3のみまたはSmad2もしくはSmad4と共に失われると、創傷閉鎖が加速された。この知見は、Smad3ノックアウトマウスにおける報告と一致する(非特許文献27)。対照的に、S2KDおよびS234KD細胞は、対照細胞と比較して創傷閉鎖が弱かった(図3c、d)。全てのSmadsは、同じTGF-β経路の下流のメディエータであるが、それぞれのSmadは、細胞の遊走に対する関与が異なるように思われる。
【0071】
(3)アポトーシス
細胞のアポトーシスに及ぼすTGF-βの影響は、細胞タイプに応じて大きく異なる(非特許文献25)。HaCaT細胞において、TGF-βは、FKHRL1のAkt-依存的調節を通してアポトーシスを抑制することによって細胞の生存性が高まることが報告されている(非特許文献28)。本発明者らは、TGF-βの能力がその下流の調節因子の破壊によって影響を受けるか否かを調べた(図3d)。TGF-βの存在下/非存在下における異なる細胞タイプに関するアポトーシス細胞の割合は、以下の通りであった:
iGFP 0.21/0.15
S2KD 0.61/1.01
S3KD 1.64/1.78
S4KD 0.29/0.31
S23KD 1.41/2.50
S24KD 1.47/2.5
S34KD 1.48/1.31
S234KD 1.42/12.32
意外にも、TGF-βは、シングルまたはダブルノックダウン細胞においてアポトーシスをなおも予防した。本発明者らが全てのSmads(Smad2、Smad3、およびSmad4)をノックダウンしたところ、TGF-βは、そのアポトーシス防止機能を喪失して、アポトーシス誘導機能を獲得した。基礎となるメカニズムは不明であるが、本発明者らのデータは、この細胞株において全てのSmadsをノックダウンすることのより、Smad非依存的なTGF-β経路がアポトーシスシグナルを伝達することを示唆している。
【0072】
〔実施例5〕HIVノックダウン用のshRNA配列のデザイン
次にHIVをノックダウンするためのshRNAのデザインを行なった。HIVゲノムDNA配列に基づきsiRNAの次の16箇所のターゲット部位を選択した。
Site1 AGACCAGGATGAACAACAA (配列番号:118)
Site2 AGACAAAGATGACTTATAA (配列番号:119)
Site3 AGAGAAGAATTCACTTAGA (配列番号:120)
Site4 GAGAAAGCGCTTAAGTTTA (配列番号:121)
Site5 GGATGAACAACAATCAAAC (配列番号:122)
Site6 GCGACATAGTTTACAGAGA (配列番号:123)
Site7 GGTGAGATGCTAAACACAT (配列番号:124)
Site8 AGAACACCTTATATCCCAA (配列番号:125)
Site9 GGAAGAAGCTGATTGAGAG (配列番号:126)
Site10 GATAGAGTGTACATAACAG (配列番号:127)
Site11 ACCCAAAGATTATCCAGGA (配列番号:128)
Site12 GGCAGGACATTGGTGACAT (配列番号:129)
Site13 GGGACAACTCTATCAAGAT (配列番号:130)
Site14 GCTCTGACGTGCATAGGAA (配列番号:131)
Site15 GGCTCAAATGTATAGAAAG (配列番号:132)
Site16 AATGGAACGTCATCTGTGA (配列番号:133)
【0073】
上記配列をターゲットとし、上記Smad遺伝子のノックダウン用のshRNAの構築と同様に、アンチセンス鎖とミスマッチ配列を含むセンス鎖とをリンカーDNAにより接続してshRNAをコードしたDNA配列を構築した(表7)。各ターゲット部位に対するshRNAコードDNAの例を示す。なお、ミスマッチの有無、位置などによりこの配列は変更することができる。表7において、斜体はミスマッチ配列を示し、一本下線はリンカーDNAを、二本下線はターミネター配列を示す。
【0074】
【表7】

HIV感染を抑制し、防御するための多重shRNA発現ベクターは、上記各shRNAを任意に二以上組み合わせてベクターに導入することにより作成する。そして、このベクターをHIV感染している細胞に導入することにより、HIVの増殖等の活動を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
上記実施例において、本発明の多重shRNA発現ベクターは、二つ以上の標的を同時にサイレンシングさせる際に有効であることが示された。複数の遺伝子のノックアウト動物モデルの作製技術および本発明による多遺伝子を標的とした安定なRNAi技術という両者は、異なる技術であるが、多数の遺伝子発現を安定に抑制するという共通の特徴を有する。前者はこれまでに生命科学の研究において膨大な功績を残す技術であるが、後者として挙げた本発明の方法は前者の技術を代替しえる技術となることが期待される。
RNAiの機構は、循環的に作用する酵素複合体であり、一度活性化されると、単一のRISC複合体がおそらく複数のRNA標的の多数のコピーを切断することができ(非特許文献29)、この特徴によって多数の標的を同時に有効にサイレンシングすることができるであろう。仮に、産生されたshRNAsの濃度が低いために有効なshRNAが作用しない場合には、プラスミドに担持させるRNAiカセットのコピー数を2倍、4倍、さらに増加させることによって、効率的なノックダウンを行い得るコンストラクトとすることができることを本実施例に示した結果は示唆している。
【0076】
このシステムの長所は、全体的なプラスミドの長さを顕著に変化させることなくshRNAsの数を増加させることができる点である。例えば、細胞にトランスフェクションにより導入し得るプラスミドDNAの長さの上限が20 kbである場合には、理論的には、一つのsiRNA発現プラスミドには30個以上のshRNAカセットを担持させることができるであろう。したがって、この方法を用いて有効にサイレンシングすることができる標的の最大数あるいはコピー数を決定するためには、用いる細胞、標的の量、および再生能に応じて、当業者であれば適宜調整することができるであろう。
【0077】
以上の通り、本発明は、多数の標的遺伝子の発現を抑制する手法として、各種遺伝子の機能解析、創薬ターゲットの同定などの生命科学の分野において広く利用される技術となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】RNAiベクターの構成および構築方法を模式的に示すとともにシングルノックダウンコンストラクトの効果を示す図面である。(a)シングルノックダウンコンストラクトを用いたRNAi効果を検討した結果を示す。Smad2、Smad3、またはTGFRB2遺伝子のそれぞれに関して四つの標的部位を設計して、pcPUR+U6iカセットにサブクローニングして各siRNA発現ベクターを構築した。各siRNA発現ベクターを、Smad2-、Smad3-、またはTGFRB2-発現ベクターと共に同時にHeLa細胞に一過性にトランスフェクトして、ウェスタンブロット分析によってサイレンシング効率を検討した。同じ試料を1試料あたり2個ずつローディングした。(b)siSmad2またはsiSmad3によるSmad-2または-3の特異的ノックダウンを示す。HaCaT細胞にpcDEF3-Flag(N)-Smad2、pcDEF3-Flag(N)-Smad3、およびpcPUR+U6-Smad2i(左のレーン)、またはpcPUR+U6-Smad3i(中央のレーン)、またはpcPUR+U6-GFPi(右のレーン)を一過性にトランスフェクトした。細胞を溶解した後、本発明者らは、ウェスタンブロット分析を行った。(c)多重標的siRNA発現ベクターの生成ストラテジーを模式的に示す。pcPUR+U6-iカセットは、U6プロモーターの上流にBglIIの制限酵素部位を有し、RNAiクローニング部位の下流にBamHIを有し、およびアンピシリン耐性遺伝子においてScaI部位を有する。これらの部位は全てこのプラスミドにおいて単一サイトである。Smad2および-3の双方を標的とするダブルノックダウンベクターを作製するために、pcPUR+U6-Smad2iはBamHIおよびScaIによって消化し、pcPUR+U6-Smad3iはBglIIおよびScaIによって消化した。これら制限酵素により線状化された二つの断片をライゲーションして、ダブルノックダウンベクターを作製した。(d)実施例において作製されたシングル、ダブル、およびトリプルsiRNA発現ベクターの模式図である。このうちpcPUR+U6-Smad4iは既に報告されている(非特許文献12、13)。
【図2】実施例で作成した安定なノックダウン細胞の有効性および特異性を示す図である。(a)内因性のSmadノックダウン:HaCaT細胞にpcPUR+U6-GFPi、pcPUR+U6-Smad2i、pcPUR+U6-Smad3i、pcPUR+U6-Smad4i、pcPUR+U6-Smad23i、pcPUR+U6-Smad24i、pcPUR+U6-Smad34i、またはpcPUR+U6-Smad234iをトランスフェクトさせて、ピューロマイシン(1 μg/ml)と共にインキュベートして安定に形質転換した細胞を選択した。トータル細胞溶解物を用いてウェスタンブロット分析を行った。(b)各細胞株におけるSmad2,3および4に対するsiRNAの発現をノーザン解析により検出した結果を示す。(c、d)ノックダウンベクターは、BTBD1およびプロミニン2などの非特異的標的遺伝子のサイレンシングを誘発せず、また(e)インターフェロン誘導を誘発しなかった。これら検証は、図示された細胞株における(c)BTBD1、(d)プロミニン2、または(e)OAS1の相対的発現を定量的逆転写酵素PCRによって評価することで行なった。親HaCaT細胞における遺伝子発現レベルに値1.0を割付した。(f)ノックダウン細胞におけるTGF-β-Smadシグナル伝達の阻害:ノックダウン細胞および対照細胞に(CAGA)9-lucおよびpRL-SV40をトランスフェクトした。24時間後、細胞をTGF-β1 2.5 ng/mlの存在下または非存在下でさらに24時間インキュベートして、ダブルルシフェラーゼアッセイを行った。(CAGA)9-lucのホタルのルシフェラーゼ活性を、pRL-SV40のウミシイタケルシフェラーゼ活性に対して標準化した。TGF-β1の非存在下での細胞におけるルシフェラーゼのレベルに値1.0を割付し(白い棒)、相対活性を計算した。実験は1試料あたり2個ずつ3回行って、平均値および標準誤差(S.E.)を示す。(g)TGF-β1によるPAI-1の誘導をウェスタンブロットによって調べた。細胞を5 ng/ml TGF-βの存在下または非存在下で10時間インキュベートして、トータル細胞溶解物を調製した。
【図3】TGF-β依存的細胞表現型の分析を示す図である。(a)浸潤アッセイの代表的な像、および(b)浸潤細胞の数を示す。(b)において、TGF-β1の非存在下(白い棒)および存在下(黒い棒)でマトリゲルの中を浸潤した細胞数を、無作為な5視野において計数した。実験は3回繰り返し、平均値および標準誤差(S.E.)を示す。(c)遊走アッセイの代表的な像を示す。創傷閉鎖はTGF-β(1 5 ng/ml)存在下または非存在下で24時間後に評価した。(d)図示した細胞株におけるTGF-β1の非存在下(白い棒)および存在下(黒い棒)で培養した後の創傷の端から端までの距離を創傷形成時のその距離を基準とした百分率として示す。実験を3回繰り返して、平均値および標準誤差(S.E.)を示す。(e)TGF-β(1 5 ng)非存在下(白い棒)または存在下(黒い棒)における24時間のアポトーシス細胞の百分率を示す。3回の独立した実験を行ったが類似の結果が得られ、代表的な結果を示す。
【図1d】

【図2c−e】

【図2f】

【図3b】

【図3d】

【図3e】

【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図2a】

【図2b】

【図2g】

【図3a】

【図3c】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的遺伝子の発現を抑制するためのshRNAを生成し得るshRNA生成ユニットをベクター内に複数担持した多重shRNA発現ベクターであって、
前記shRNA生成ユニットは、プロモーターの下流にshRNAをコードしたDNAが接続されて構成され、
前記shRNAをコードしたDNAは、前記標的遺伝子と相補的な配列を有するアンチセンスDNAと、該アンチセンスDNAと対合し得る配列からなるセンスDNAとがリンカーDNAで連結されて構成された、多重shRNA発現ベクター。
【請求項2】
センスDNA内には、アンチセンスDNAと相補しないミスマッチ配列が含まれる、請求項1記載の多重shRNA発現ベクター。
【請求項3】
ミスマッチ配列がセンスDNA内に2〜55%含まれる、請求項2記載の多重shRNA発現ベクター。
【請求項4】
センスDNA上のミスマッチ配列が、アンチセンスDNA上の対応する塩基との関係において置換、欠失、挿入または付加のいずれかまたはこれらの組合せにより形成されている、請求項2記載の多重shRNA発現ベクター。
【請求項5】
置換がセンスDNA上のCをTへ、またはGをAに変更することによる、請求項4記載の多重shRNA発現ベクター。
【請求項6】
ベクターが一過的な発現を誘導するベクターまたは安定的な発現を誘導するベクターである、請求項1記載の多重shRNA発現ベクター。
【請求項7】
ベクター内に担持されている複数のshRNA生成ユニットが下記(1)から(3)のいずれかまたはこれら二つ以上の組合せに該当する、請求項1記載の多重shRNA発現ベクター。
(1)単一遺伝子の同一部位を標的とした同一のshRNA生成ユニットが複数からなる
(2)単一遺伝子の異なるニ以上の部位を標的とした複数のshRNA生成ユニットからなる
(3)異なるニ以上の遺伝子を標的とした複数のshRNA生成ユニットからなる
【請求項8】
プロモーターがpolIII系プロモーターである、請求項1記載の多重shRNA発現ベクター。
【請求項9】
第一shRNA生成ユニットを備えた環状構造の第一shRNA発現ベクターおよび第二shRNA生成ユニットを備えた環状構造の第二shRNA発現ベクターを原料として、多重shRNA発現ベクターを製造する方法であって、
前記第一および第二shRNA発現ベクターには同様に、第一、第二shRNA生成ユニットの上流、下流にそれぞれ制限酵素A、Bの認識消化部位a、bが設けられ、
前記第一および第二shRNA発現ベクターにはそれぞれshRNA生成ユニットを含まない側のa−b領域内にのみ存在する制限酵素Cの認識消化部位cが備えられ、
前記制限酵素A、B、Cは全て異なり、前記AとBとは互いに接続可能な末端を生成し、前記Cの消化末端とは接続し得ない制限酵素であり、前記a、b部位は第一、第二 shRNA発現ベクター内に単一箇所として存在する条件において、
下記(1)から(4)の工程を含む、方法。
(1)制限酵素A、Cで第一shRNA発現ベクターを消化する工程
(2)制限酵素B、Cで第二shRNA発現ベクターを消化する工程
(3)前記(1)、(2)の消化断片を混合し、ライゲーションを行なう工程
(4)第一shRNA発現ベクターの第一shRNA生成ユニットを含むa-c断片と、第二shRNA発現ベクターの第二shRNA生成ユニットを含むb-c断片とが接続された環状構築物を回収する工程
【請求項10】
制限酵素A、B、Cは粘着末端を生成する制限酵素である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
制限酵素A、Bは、それぞれ生成する末端が互いに接続した際にaともbとも異なる配列を形成し得る、請求項9記載の方法。
【請求項12】
第一、第二shRNA発現ベクターには選択マーカーが備えられ、前記選択マーカー内に部位cが設けられ、
前記(3)工程の後に、前記選択マーカーで選択する工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
多重shRNA発現コンストラクト製造用のベクターであって、
プロモーターと、
前記プロモーターの下流に設けられたshRNAをコードしたDNAを挿入し得るクローニング領域と、
一つ以上の選択マーカーとが備えられ、
前記プロモーターの上流側に制限酵素Aの認識消化部位aが設けられ、
前記クローニング領域の下流に制限酵素Bの認識部位bが設けられ、
一の選択マーカー内には制限酵素Cの認識消化部位cが備えられ、
前記AとBとは接続可能な末端を生成し得る制限酵素であり、前記制限酵素Cは前記A、Bの消化末端とは接続し得ない断端を形成し得る制限酵素であり、前記a、b部位は単一の部位として備えられている、
ベクター。
【請求項14】
制限酵素A、B、Cは粘着末端を生成する制限酵素である、請求項13記載のベクター。
【請求項15】
制限酵素A、Bは、それぞれ生成する末端が互いに接続した際にaともbとも異なる配列を形成し得る、請求項14記載のベクター。
【請求項16】
請求項1から8のいずれかに記載のベクターを保持した、細胞。
【請求項17】
請求項1から8のいずれかに記載のベクターを保持した、非ヒト動物。
【請求項18】
請求項1から8のいずれかに記載のベクターを成分とする、医薬組成物。

【公開番号】特開2008−237023(P2008−237023A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206601(P2005−206601)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】