説明

多量体組換えタンパク質の高収率分泌

本発明は、高分子量のゼラチン様タンパク質、およびそれを高収率で産生するための方法に関する。また、1またはそれより多くのこのようなタンパク質を含んでなる組成物が、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質もしくはポリペプチドの遺伝子発現系および産生に関する。提供されるのは、高分子量ゼラチン(40kDa以上)を高収率で産生するための方法、ならびに、そのようなゼラチン、および、1もしくはそれより多くのこれらを含んでなるか、または1もしくはそれより多くのこれらからなる組成物である。
【背景技術】
【0002】
Wertenら(2001, Protein Engineering 14:447-454)は、Pichia pastorisにおける組換え極性(親水性)ゼラチン様ポリペプチドの産生について記載している。単量体ユニット(P)(配列番号1)と四量体ユニット(P4)(配列番号2)の双方が、発現する。四量体(P4)の収率は、3〜6g/l精製(clarified)培養液であることが見いだされた。P4ポリペプチドは水酸化されておらず、かつ、オープン構造を有した(すなわち、4℃で三重らせんを形成せず、かつ、本質的にはゲル化しなかった)。また、高極性は、 張力学により測定されるように5%(w/v)までの濃度で水における表面活性がごくわずかであることの説明となった。
【0003】
EP 0926543は、Pichia pastorisにおける水酸化されていない組換えマウスI型(Col1A1、28kDAおよび53kDA)およびラットIII型(Col3A1、21kDa)コラーゲン様ポリペプチドの産生が、単コピーの形質転換体で2〜3g/l、多コピーの形質転換体で〜14.8g/l精製(clarified)培養液の収率であることを記載している(Wertenら、1999年、Yeast 15, 1087-1096)。用いたポリペプチドは天然のCol1A1およびCol1A3の断片であったことから、該断片は、Gly-Xaa-Yaaトリプレットを含んでなる三重らせんドメインの一部であった。
【0004】
多くの問題が、高反復性合成遺伝子の不安定性に関して存在する(Cappello、1990年、Trends Biotechnol.8, 309-311)。天然のゼラチン配列は、合成配列よりも、そのアミノ酸配列における可変性が高いために、安定であり得る。組換え合成コラーゲン様タンパク質もしくはポリペプチド、特に合成配列および/またはゲル化されていない(水酸化されていない)配列を高収率で産生することに対する需要が、なおある。高分子量配列(計算された分子量が70kDa以上のポリペプチドなど)は、低分子量ポリペプチドよりも分解が問題となるため、高収率で産生することが特に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP 0926543
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wertenら、2001, Protein Engineering 14:447-454
【非特許文献2】Wertenら、1999年、Yeast 15, 1087-1096
【非特許文献3】Cappello、1990年、Trends Biotechnol.8, 309-311
【発明の概要】
【0007】
種々の用途に適する可能性のある組換えゼラチン類の産生における収率のさらなる改善を追求して、本発明者は、組換えにより高分子量ゼラチンの産生を試みた際に、得られたポリペプチドの収率が予想外に高く、実際には類似のさらに小さなポリペプチドよりも良いことを、意外にも見いだした。多量体ポリペプチドは、単量体ポリペプチドユニットの少なくとも5連続の反復ユニットからなるか、またはそれを含んでなることが同定され、ここで、前記単量体ポリペプチドユニットは、少なくとも30連続のGly-Xaa-Yaaトリプレット(Glyはグリシンであり、そして、XaaおよびYaaは任意のアミノ酸である)を含んでなる。本発明の一態様において、組換えゼラチン類、ならびに、組換えゼラチン類を含んでなる医薬組成物もしくは栄養補給組成物または細胞支持体が提供される。また、組換えゼラチンおよび/もしくは細胞支持体、または徐放性組成物を細胞接着に関する医学的用途に用いるための方法が、提供される。
【0008】
一般的な定義
「ゼラチン」および「ゼラチン様」ならびに「コラーゲン」および「コラーゲン様」タンパク質もしくはポリペプチドは、本明細書では互換的に用いられ、Gly-Xaa-Yaa(GXY)反復を含んでなるか、またはそれからなるアミノ酸鎖を指す。また、「ゼラチン」、「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」の語は、本明細書では互換的に用いられる。
【0009】
「高分子量」は、本明細書では、約50、60kDaと同等またはそれを超えるポリペプチド、および特に、約70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、250、〜300kDaもしくはそれ以上と同等またはそれを超えるポリペプチドなどの、計算された分子量が少なくとも約40kDaのポリペプチドを指す。
【0010】
「実質的に同一の」、「実質的な同一性」または「本質的に類似の」もしくは「本質的な類似性」の語は、デフォルトのパラメータを用いたスミス−ウォーターマンアルゴリズムを用いて対での配列比較を行ったときに、二つのポリペプチドが少なくとも70%、72%、74%、75%、76%、77%または78%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、90%、95%、98%、99%またはそれより多くのアミノ酸配列同一性を含んでなることを意味する。より好ましくは、ポリペプチドは、前記アミノ酸配列同一性を含んでなり、その上、アラインメントに3未満のギャップ、好ましくは2未満のギャップ、よりいっそう好ましくは1未満のギャップ、そして最も好ましくは0ギャップがある。配列アラインメントおよび配列同一率スコアは、Accelrys Inc., 9685 Scranton Road, San Diego, CA 92121-3752、米国から入手可能なGCGウィスコンシンパッケージ バージョン10.3、またはEmbossWIN(例えば、バージョン2.10.0)などのコンピュータープログラムを用いて決定してもよい。二つの配列間の配列同一性を比較するには、例えばEmbossWINプログラム「ウォーター」に用いられるスミス・ウォーターマンアルゴリズム(Smith TF, Waterman MS(1981年)J.Mol.Biol 147(1);195-7)などの局所アラインメントアルゴリズムを用いることが好ましい。タンパク質用置換マトリックスであるBlosum62を用いた場合のデフォルトパラメータは、ギャップ開裂ペナルティ10.0およびギャップ伸長ペナルティ0.5である(HenikoffおよびHenikoff、1992年、PNAS 89, 915-919)。
【0011】
「含んでなる」の語は、述べられた部分、工程または構成成分の存在を明記するものとして解釈されるべきであるが、ただし、1またはそれより多くのさらなる部分、工程または構成成分の存在を除外するものではない。
【0012】
加えて、不定冠詞「a」もしくは「an」による要素への言及は、ただ一つの要素が存在することを文脈が明らかに必要としているのでなければ、1より多くの要素が存在する可能性を除外しない。このように、不定冠詞「a」もしくは「an」は、通常は「少なくとも1」を意味する。
【0013】
「単量体」は、線状にユニットを繰り返してより長いポリペプチドを作出することによって「多量体」を作出するために用いられることが可能な、ポリペプチドユニットを指す。単量体ユニットは、所望により、1、2、3、4もしくは5の連結アミノ酸が単量体ユニット間に存在していてもよいが、好ましくは、アミノ酸を介在せずに繰り返される。本明細書では、(配列番号3)のポリペプチドが単量体の例である。本明細書では、(配列番号4)のポリペプチドは、単量体「P」(配列番号3)の反復ユニットの「70kDa以下での分子量の反復」であって、特に該「反復」が四量体である。ポリペプチド「P4」(配列番号4)の反復ユニットは、2、3、4回もしくはそれより多く繰り返されて、8P反復ユニット(8−mer)(配列番号5)、12P反復ユニット(12−mer)(配列番号6)、16P反復ユニット(16−mer)(配列番号7)等を形成してもよい。
【0014】
「宿主」または「宿主生物」または「組換え宿主細胞」は、本明細書では、本発明によるポリペプチドをコードする核酸配列を導入されている微生物を指す。好ましい宿主は、ピキア(Pichia)属の酵母(好ましくは、Pichia pastoris、ハンゼヌラ(Hansenula)(好ましくは、Hansenula polymorpha)、Axula(好ましくは、Axula adeninivorans))である。
【0015】
【化1】

【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるポリペプチドおよび核酸配列
本発明の一側面において、高分子量であるゼラチン様ポリペプチドが提供される。ゼラチン様ポリペプチドは、好ましくは、15、20、25、30、33、35、40、45、50またはそれより多く連続したGXYトリプレット(単量体ユニット)の領域を少なくとも含んでなり、好ましくは、それが少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20回繰り返されて高分子量ポリペプチドを形成している。好ましい態様において、単量体ユニットは、偶数の反復により繰り返されている。すなわち、高分子量ポリペプチドは、単量体ユニットを少なくとも8、10、12、14、16、18、20、24、28または32回含んでなる。
【0017】
GXYトリプレットにおいて、X(またはXaa)およびY(またはYaa)は任意のアミノ酸であってよい。天然コラーゲンでは、XaaおよびYaaは、それぞれプロリンおよびヒドロキシプロリンであることが多く、ヒドロキシプロリンは、例えば宿主細胞中に存在するプロリル-4-ヒドロキシラーゼによって、翻訳後に水酸化されている。本明細書では、本発明によるポリペプチドは、好ましくは、機能P4H酵素をコードする異種遺伝子が導入されていない、メチロトローフ酵母ピキアなどの組換え宿主細胞で産生されるために、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ(P4H)酵素による翻訳後修飾が本質的にはない。このように、本発明の一側面において、単量体および多量体は、ヒドロキシプロリンを含まず、かつ、天然コラーゲンの三重らせん構造特性がない。「ヒドロキシプロリンを含まない」とは、本明細書では、ヒドロキシプロリン残基を本質的に含まないゼラチン様ポリペプチドを指し、ヒドロキシプロリン残基がゼラチン様タンパク質中のアミノ酸残基の2%未満、好ましくは1%未満であり、より好ましくはヒドロキシプロリン残基が存在しないことを意味する。ヒドロキシプロリンの量は、例えばHP AminoQuantシリーズII、操作ハンドブック、1990年、ヒューレット・パッカードGmbH、ドイツ連邦共和国、Waldbronn分析部門、HP Part No. 01090-90025に記載されたもののような、任意の標準的なアミノ酸分析法によって測定することが可能である。
【0018】
「三重らせん構造がない」とは、円偏光二色性スペクトルにおけるコラーゲン三重らせんの正のピークの特性が本質的にないことを指す。円偏光二色性分光測定は、Wertenら(2001年、Protein Engineering 14:447-454)に記載のように行うことが可能である。
【0019】
本発明の一側面において、ポリペプチドは天然ゼラチンよりも親水性である。例えば、単量体および/または多量体のGRAVY値(親水性の総平均;KyteおよびDoolittle 1982年、J.Mol.Biol. 157, 105-132)は、-1.5、-1.6、-1.7、-1.8、-1.9以下などのように、-1.4未満である。親水性は、配列中の疎水性アミノ酸(Trp、Tyr、Phe、Leu、Ile、ValおよびMetなど)の割合を低減することにより増加させることが可能である。例えば、単量体および/または多量体ポリペプチドは、3、2または1未満、最も好ましくは0の、プロリンおよびグリシン以外の記述した疎水性アミノ酸を含んでなってもよい。また、単量体および/または多量体は、アスパラギン(Asn)および/またはグルタミン(Gln)などの親水性アミノ酸を多量に含んでなってもよい。
【0020】
反復ユニット間に短い介在アミノ酸またはアミノ酸のストレッチが存在してもよいが、反復は介在アミノ酸を本質的に含まないことが好ましく、ここで「本質的に含まない」とは、単量体間に存在する介在アミノ酸が、5、4、3、2もしくは1未満、最も好ましくは0であることを意味する。多量体は、一端もしくは両端、例えばNおよび/もしくはC末端にさらなるアミノ酸を含んでなってもよい。例えば、1、2、3、6、9、12、15またはそれより多くのアミノ酸が存在してもよい。これらは、GXY三つ組の形態であってもよい。
【0021】
多量体の構築を促進するために、多量体タンパク質は、反復しているアミノ酸配列の一部でないN末端およびC末端アミノ酸を含んでなってもよい。
単量体ユニットは天然コラーゲンタンパク質(ヒトI、IIまたはIII型コラーゲンタンパク質など、例えばCol1A1、Col3A1等)の断片であってもよいが、ただし、好ましくは、自然界に生じない合成配列である。
【0022】
一態様において、単量体は、配列番号3(P反復ユニット)もしくはそれと本質的に同一のアミノ酸を含んでなるか、またはそれからなる。配列番号3と本質的に同一のアミノ酸配列は、上記に定義したデフォルトパラメータでスミス・ウォーターマン・アルゴリズムを用いて対での配列比較を行ったときに、配列番号3と少なくとも70%、80%、85%、89%、90%、95%、98%、99%またはそれより多くのアミノ酸同一性を含んでなるアミノ酸配列である。
【0023】
一態様において、70kDa以下の分子量での反復は、配列番号4(P4反復ユニット)もしくはそれと本質的に同一のアミノ酸を含んでなるか、またはそれからなる。配列番号4と本質的に同一のアミノ酸配列は、上記に定義したデフォルトパラメータでスミス・ウォーターマン・アルゴリズムを用いて対での配列比較を行ったときに、配列番号4と少なくとも70%、80%、85%、89%、90%、95%、98%、99%またはそれより多くのアミノ酸同一性を含んでなるアミノ酸配列である。
【0024】
好ましくは、単量体および反復核酸配列は、例えば、デノボ合成から、あるいは、天然コラーゲン様タンパク質の断片のクローニング、および所望により、所望のアミノ酸をコードするようなさらなるDNA修飾によって、公知の分子生物学的技術を用いて作製される。単量体をコードする核酸配列が作製されると、高分子量のタンパク質をコードする核酸配列を作出するために、標準的なクローニング技術を用いて線状にこの核酸配列を繰り返すことが可能である(例は、Wertenら(2001年、Protein Engineering 14:447-454)に見いだされることが可能である)。遺伝子コードの縮重により、明らかに異なる核酸分子が同じアミノ酸配列をコードすることが可能である。核酸配列のコドン使用頻度は、好ましくは、宿主において高発現している遺伝子のコドン使用頻度に適応させる(SreekrishnaおよびKropp、1996年、Nonconventional yeasts in biotechnology、ハンドブック、シュプリンガー社、ベルリン、203〜253ページを参照されたい)。
【0025】
このように、単量体をコードする核酸配列は、好ましくは、連続的に繰り返されて、高分子量の多量体をコードする核酸配列を形成し、次いで、本明細書の以下に記載のように、該多量体を組換え微生物にて産生することが可能である。
【0026】
好ましい多量体は、P反復ユニット(単量体)の多量体および/または上述のP4反復、あるいはこれらのバリアントである。最も好ましくは、同じ単量体および/もしくは反復ユニットが繰り返されて、高分子量ポリペプチドを形成する。一態様において、それぞれ配列番号5、6および7として示されるP8−mer、P12−merおよびP16−mer、ならびにそのバリアントが、本明細書にて提供される。配列番号5、6および7のバリアントには、上記に定義したデフォルトパラメータでスミス・ウォーターマン・アルゴリズムを用いて対での配列比較を行ったときに、配列番号5、6または7と少なくとも70%、80%、85%、89%、90%、95%、98%、99%またはそれより多くのアミノ酸同一性を含んでなるアミノ酸配列を含んでなるか、またはそれからなるポリペプチドが含まれる。
【0027】
一態様において、本発明による多量体組換えゼラチン類、例えば配列番号5、6および7は、グリシン−プロリン−プロリン(GPP)トリプレットより始まり、そして、カルボキシ末端で二つのグリシン残基(GG)により伸長されている。このように、本発明による組換えゼラチン類にはGPP((配列番号3))GGが含まれ、ここで、Xは5以上から選択される整数であり、好ましくは、Xは8もしくは12もしくは16である。これらの配列は、それぞれ配列番号8、9および10であり、そして、本発明による好ましい態様である。
【0028】
高分子量タンパク質の計算された分子量は、好ましくは、少なくとも約40、50、60、70、80、90、100、120、140、180、220、260、〜約300キロダルトン(kDa)またはそれより多い。分子量は、Emboss Win pepstatなどのコンピュータープログラムを用いて計算することが可能である。SDS−PAGEにより測定される分子量では、正確なサイズ推定がなされない可能性がある。好ましくは、「ポリペプチド」について言及する場合、本明細書において特に明記しない限り、同じアミノ酸配列および分子量の複数のポリペプチドを意味する、すなわち、「均質な」タンパク質組成を指す。特定の態様では、同様に定義される、2、3またはそれより多くの高分子量タンパク質の混合物が、提供される(以下を参照されたい)。
【0029】
本発明による高分子量ポリペプチドの産生方法
単量体ユニットを繰り返すことによって、高分子量タンパク質を高収率で得ることが可能なことが、意外にも見いだされた。したがって、いずれの理論にも縛られることなく、多量体タンパク質の収率と分子量との間に直接的な相関が存在すると考えられる。
【0030】
本発明による高分子量の多量体ゼラチン類を、EP-A-0926543、EP-A-1014176またはWO01/34646に開示されるような組換え法によって産生することが可能である。また、本発明のゼラチン類の産生および精製を可能にするためには、EP-A-0926543およびEP-A-1014176における実施例が参考となる。
【0031】
ポリペプチドを、このようなポリペプチドをコードする核酸配列の発現によって、適切な微生物により産生させることが可能である。該プロセスは、真菌細胞または酵母細胞を用いて適切に実施することが可能である。宿主細胞には、ハンゼヌラ、Axula、トリコデルマ(Trichoderma)、アスペルギルス(Aspergillus)、ペニシリウム(Penicillium)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、ニューロスポラ(Neurospora)またはピキアのような高発現宿主細胞が適している。真菌および酵母細胞は、細菌よりも、反復配列の不適切な発現に対する感受性が低いため、好ましい。最も好ましくは、宿主は、発現したコラーゲン構造を攻撃するプロテアーゼを高レベルに有さないであろう。この点において、ピキアまたはハンゼヌラが、非常に適した発現系の例を供する。Pichia pastorisの発現系としての使用は、EP-A-0926543およびEP-A-1014176に開示されている。一態様において、微生物には、特にプロリンの水酸化、およびさらにリジンの水酸化などの活性翻訳後プロセシング機構がない。別の態様において、宿主系は内因性プロリン水酸化活性を有し、それによって組換えゼラチンが水酸化される。当業者は、本発明による組成物に適する組換えゼラチン様タンパク質の発現に適した宿主細胞を供する、本明細書に記載された必要なパラメータに基づいて、公知の工業用酵素を産生する真菌宿主細胞、具体的には酵母細胞から、適切な宿主細胞を、宿主細胞および発現される配列に関する知識と組み合わせて選択することが可能であろう。
【0032】
また、組換えポリペプチドは非常に安定であり、かつタンパク質分解に抵抗性であることから、本発明には必要でないが、例えば1またはそれより多くのタンパク質分解性酵素が欠損する株などの、突然変異宿主株を用いてもよい。
【0033】
一態様において、計算された分子量が少なくとも70kDaである高分子量の多量体ポリペプチドを産生するための方法であって、
(a)本明細書に上述の多量体ポリペプチドをコードする核酸配列と機能可能なように連結されているプロモーターを含んでなる発現ベクターを作出し;
(b)酵母種、好ましくはPichia pastorisを前記発現ベクターで形質転換し;
(c)前記の形質転換された酵母宿主を、前記ポリペプチドの産生に適した条件下で培養し;
(d)所望により、前記ポリペプチドを培養培地および/または宿主細胞から精製する;
工程を含んでなる、前記高分子量ポリペプチドが少なくとも10g/l、好ましくは少なくとも12g/l、より好ましくは少なくとも14g/l培養液のレベルにて産生される方法が、提供される。
【0034】
本発明による組成物、製品および使用
一態様において、本発明は、本発明による多量体を少なくとも一つ含んでなる組成物に関する。一態様において、該組成物は、医薬組成物、または栄養組成物もしくは栄養補給組成物である。例えば、本多量体は、血液代用液における血漿増補剤として用いられることが可能である。また、本多量体は、薬物放出制御のためのマトリックスを構成するか、またはそれに含まれることが可能である。また、本発明はさらに、疼痛、癌療法、心血管系疾患、心筋修復、血管新生、骨修復および再生、創傷治療、神経性刺激/療法または糖尿病の治療用薬剤の製造に向けた、このような徐放性組成物の使用を提供する。
【0035】
別の態様において、本発明は、本発明による多量体を少なくとも一つ含んでなる固体支持体に関する。一態様において、固体支持体は、例えばステント、細胞支持体、皮膚充填剤等の、医療用具である。
【0036】
本発明による多量体を含んでなる細胞支持体は、例えば、
1)1またはそれより多くの本発明による多量体ポリペプチドでコーティングされた、コアビーズ(例えば、マイクロキャリアビーズ)またはペトリ皿等などの細胞培養支持体;
2)1またはそれより多くの本発明による多量体ポリペプチドでコーティングされた、インプラントまたはトランスプラント用具(臀部、歯科またはその他のインプラント等);
3)1またはそれより多くの本発明による多量体ポリペプチドでコーティングされた、人工皮膚マトリックス材料などの組織工学用スキャフォールドまたはマトリックス;
4)1またはそれより多くの本発明による多量体ポリペプチドでコーティングされた、創傷治癒製品;
5)1もしくはそれより多くの本発明による多量体ポリペプチドを含んでなるか、またはそれからなる、組織接着剤;
からなる群より選択されてもよい。
【0037】
また、本組換えタンパク質は、写真用途において、例えばハロゲン化銀乳剤における保護コロイドとして、非常に有用である。また、一態様において、本発明は、本発明によるゼラチンを含んでなるハロゲン化銀乳剤に関する。
【実施例】
【0038】
Pの四量体の遺伝子を含んでなるベクターであるpPIC9-P4の構築については、Wertenら(2001年、Protein Engineering 14:447-454)に詳細に記載されており、参照によって本明細書に援用される。
【0039】
AOXlプロモーターおよびP4遺伝子を含有するpPIC9-P4のBglII-Not断片を、pPIC9-P4から同じ酵素で消化したpPICZ Aへサブクローニングして、pPICZ-P4を得た。pPICZ-P4のゼオシン耐性遺伝子中DraIII部位を部位特異的突然変異により除去し、DraIII部位をP4遺伝子に特有なものとした。pPICZ-P4のP4遺伝子含有HindIII- PflMI断片を、DraIIIおよびHindIIIで消化したpPICZ-P4にサブクローニングした。
【0040】
この結果、プラスミドpPICZ-P8の形成が生じた。プラスミドpPICZ-P12は、pPICZ-P8のHindIII-PflMI断片を、HindIIIおよびDraIIIで消化したpPICZ-P4にサブクローニングすることによって作出した。同様に、pPICZ-P16は、pICZ-P8のHindIII-PflMI断片を、HindIIIおよびDraIIIで消化したpICZ-P8にサブクローニングすることによって作出した。
【0041】
プラスミドpPICZ-P4、pPICZ-P8、pPICZ-P12およびpPICZ-P16をPmeIで線状にし、そしてP. pastoris X-33へ形質転換した。多コピーの組み込み体は、1.0および1.5 mg/mlのゼオシンで選択した。製造者(インビトロジェン社)のプロトコールにしたがった。
【0042】
これらの形質転換により得られた代表的な株を標準的な発酵条件下(約4のpH)で高密度細胞培養にて生育させ、そして、上清中の関連するゼラチン類の収率をUPLCを用いて測定した(標準品としてBSAを用いた)。
【0043】
得られた収率は:
P4 7〜9 g/1
P8 14.19〜15.89 g/1
P12 14.23〜18.41 g/1
であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体ポリペプチドユニットの少なくとも5連続の反復ユニットからなるか、またはそれを含んでなる多量体ポリペプチドであって、前記単量体ポリペプチドユニットが少なくとも30連続のGly-Xaa-Yaaトリプレットを含んでなり、Glyはグリシン、XaaおよびYaaは任意のアミノ酸である、前記多量体ポリペプチド。
【請求項2】
前記単量体ユニットが少なくとも33連続のGly-Xaa-Yaa反復からなる、請求項1に記載の多量体ポリペプチド。
【請求項3】
前記単量体ポリペプチドユニットが配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3と少なくとも70%のアミノ酸同一性を含んでなるアミノ酸配列からなるか、あるいはそれを含んでなる、請求項1または2に記載の多量体ポリペプチド。
【請求項4】
前記多量体ポリペプチドが配列番号5、6または7のアミノ酸配列、あるいは、配列番号5、6または7と少なくとも70%の同一性を含んでなるアミノ酸配列を含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多量体ポリペプチド。
【請求項5】
前記多量体ポリペプチドが配列番号8、9または10のアミノ酸配列からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多量体ポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも一つの多量体を含んでなる、組成物。
【請求項7】
前記組成物が医薬組成物、または栄養組成物もしくは栄養補給組成物である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも一つの多量体を含んでなる、固体支持体。
【請求項9】
支持体が医療装置、細胞支持体または皮膚充填剤である、請求項8に記載の固体支持体。
【請求項10】
計算された分子量が少なくとも40kDaである高分子量の多量体を産生するための方法であって、
−請求項1〜5のいずれか1項に記載の多量体ポリペプチドをコードする核酸配列と機能可能なように連結されているプロモーターを含んでなる発現ベクターを作出し;
−酵母種、好ましくはPichia pastorisを前記発現ベクターで形質転換し;
−前記の形質転換された酵母宿主を、前記ポリペプチドの産生に適した条件下で培養し;
−所望により、前記ポリペプチドを培養培地および/または宿主細胞から精製する;
工程を含んでなり、前記高分子量ポリペプチドが少なくとも10g/l培養液のレベルにて産生される、前記方法。
【請求項11】
前記多量体ポリペプチドが配列番号5、6または7を含んでなるか、あるいは配列番号8、9または10からなる、請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2010−539159(P2010−539159A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524797(P2010−524797)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050593
【国際公開番号】WO2009/035323
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】