説明

大動脈内バルーンカテーテル

バルーン拡張用の流体流路9a及び血圧測定用の血液流路10aを備えたカテーテル管8aと、カテーテル管8aの遠位端部に取り付けられ、流体流路9aを介して流体が導入・導出されることにより拡張・収縮される拡張収縮部3aを有するバルーン2aと、を有する大動脈内バルーンカテーテルである。バルーン2aがカテーテル管8aに対して、バルーン2aの遠位端部4aおよび近位端部5aにおいて接合されている。カテーテル管8aには、血液流路10aの内部とカテーテル管8aの外部とを連通する血液流入孔31aが形成されている。血液流入孔31aが、バルーン2aの近位端部5aにおける拡張収縮部3aとの境界50より近位端側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の大動脈内に挿入され、バルーンが拡張・収縮されることにより、冠動脈などにおける血流を増大させる大動脈内バルーンカテーテルに関し、さらに詳しくは、腕の動脈から挿入して好適に用いることができる大動脈内バルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
心機能低下時の治療方法として、大動脈内バルーンポンピング法(以下、IABP法と称する)が知られている。このIABP法では、大動脈内にバルーンカテーテルを挿入し、心臓の拍動にあわせてバルーンを拡張・収縮させることにより、大動脈内の血圧を向上させて心機能の補助を行う。
【0003】
心臓の治療や検査に用いられるカテーテルの大半は、患者の苦痛と術者の手間を軽減する観点から、大腿動脈からの挿入を避けて、上腕動脈や橈骨動脈などの腕の血管から挿入されることが多い。しかし、IABP法に用いられる大動脈内バルーンカテーテルは、その構造上の制約から腕の血管から挿入できる程度に細径化することが困難であったため、ほとんどの場合、大腿動脈から挿入されている。
【0004】
ところが、近年では大動脈内バルーンカテーテルを細径化する技術の開発が進んできている(例えば特開平4−343355号公報および特開平7−51377号公報参照)。このため、上腕動脈から挿入できる程度に細径化された大動脈内バルーンカテーテルを製造することが可能となってきている。そこで、大動脈内バルーンカテーテルを上腕動脈から挿入して用いる試みが行われるようになってきている。
【0005】
しかしながら、従来の大動脈内バルーンカテーテルを上腕動脈から挿入すると、大腿動脈から挿入した場合と比べて、大動脈内の血圧変動を高精度で応答性良く計測することができないという問題が生じることが明らかとなってきた。大動脈内の血圧変動の測定の精度が低かったり、測定の時間遅れなどが生じたりすると、心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮が困難になると共に、心機能補助効果の確認を行うことが困難となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、上腕動脈などの腕の血管から挿入しても、大動脈内の血圧変動を高精度に応答性良く計測することが可能な大動脈内バルーンカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、従来ではバルーンの遠位端近傍に設けられていた大動脈内の血圧を測定するために用いる血液流入孔を、バルーンの近位端部における拡張収縮部との境界より近位端側に位置させることにより、上腕動脈などの腕の血管から挿入して、大動脈内の血圧変動を高精度に応答性良く計測することが可能な大動脈内バルーンカテーテルが得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
バルーン拡張用の流体流路及び血圧測定用の血液流路を備えたカテーテル管と、
前記カテーテル管の遠位端部に取り付けられ、前記流体流路を介して流体が導入・導出されることにより拡張・収縮される拡張収縮部を有するバルーンと、を有する大動脈内バルーンカテーテルであって、
前記バルーンが前記カテーテル管に対して、前記バルーンの遠位端部および近位端部において接合され、
前記カテーテル管には、前記血液流路の内部と前記カテーテル管の外部とを連通する血液流入孔が形成され、
前記血液流入孔が、前記バルーンの近位端部における前記拡張収縮部との境界より近位端側に位置している大動脈内バルーンカテーテルが提供される。
【0009】
好ましくは、前記血液流入孔が、前記バルーンの近位端部における前記拡張収縮部との境界より3〜300mm近位端側に位置している。
【0010】
好ましくは、前記血液流入孔の開口面積が、0.2〜3mmである。
【0011】
好ましくは、前記カテーテル管は、外管と、前記外管の内部に前記流体流路を形成するように、前記外管の内周面に軸方向に沿って外周面の少なくとも一部が接合してあり、内部に前記血液流路が形成してある内管と、を有し、
前記内管の遠位端が前記外管の遠位端よりも遠位端側に突出してあり、
前記バルーンの遠位端部が前記内管の遠位端部に接合してあり、前記バルーンの近位端部が前記外管の遠位端部に接合してあり、
前記血液流入孔が、前記内管と外管との接合部に形成してあり、前記血液流入孔の開口縁の全周において、前記外管と内管とが固着してある。
【0012】
あるいは、前記カテーテル管は、外管と、前記外管の内部に前記流体流路を形成するように、前記外管の内部に軸方向に沿って配置してあり、内部に前記血液流路が形成してある内管と、を有し、
前記内管の遠位端が前記外管の遠位端よりも遠位端側に突出してあり、
前記バルーンの遠位端部が前記内管の遠位端部に接合してあり、前記バルーンの近位端部が前記外管の遠位端部に接合してあり、
前記外管の外周面の一部には、窪みが形成してあり、
前記窪みにおいて、前記内管が前記外管の外側に露出し、
前記窪みの内部に位置する前記内管に、前記血液流入孔が形成してあっても良い。
【0013】
この態様において、好ましくは、前記内管が、近位側内管と、この近位端側内管に対して分離している遠位側内管とを有し、
前記近位側内管の遠位端側開口が前記窪みの内部に位置すると共に、前記遠位側内管の近位端側開口が前記窪みの内部に位置し、
これらの近位側開口と遠位端側開口とが前記窪みの内部で所定距離離れて向き合っており、
前記近位側内管の遠位端側開口が前記血液流入孔を構成してある。
【0014】
なお、この態様においては、前記内管を、単一のチューブで構成し、
前記窪みの内部に位置する内管のチューブ壁に、孔を開けることにより前記血液流入孔を構成しても良い。
【0015】
本発明において、別の態様では、
前記カテーテル管が、ツールーメンチューブと、バルーン支持管とを有し、
前記ツールーメンチューブには、前記流体流路を構成する第1ルーメンと、前記血液流路を構成する第2ルーメンとが軸方向に沿って形成してあり、
前記ツールーメンチューブの遠位端部には、前記バルーン支持管が接合してあり、
前記バルーン支持管の遠位端部に前記バルーンの遠位端部が接合してあり、前記ツールーメンチューブの遠位端部に前記バルーンの近位端部が接合してあり、
前記ツールーメンチューブにおける側壁に、前記血液流入孔が形成してあっても良い。
【0016】
この態様においては、好ましくは、前記バルーン支持管には、その内部に軸方向に沿って第3ルーメンが形成してあり、この第3ルーメンが、前記第2ルーメンと連通している。
【0017】
本発明においては、前記バルーンを大動脈内に位置させると、前記血液流入孔が血管内に位置し、前記血液流路の近位端開口が体外に位置するようになっている。
本発明の大動脈内バルーンカテーテルは、腕の動脈から挿入して用いられることが好ましい。
【0018】
本発明の大動脈内バルーンカテーテルでは、血圧測定に用いる血液流入孔を、バルーンの近位端部における拡張収縮部との境界より近位端側に位置させてある。このため、上腕動脈などの腕の血管から本発明のバルーンカテーテルを挿入した場合であっても、大動脈内の血圧変動を高精度に応答性良く計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の大動脈内バルーンカテーテルに係る第1実施形態を示す概略図である。
【図2】図2は本発明の大動脈内バルーンカテーテルに係る第2実施形態を示す概略図である。
【図3】図3は本発明の大動脈内バルーンカテーテルに係る第3実施形態を示す概略図である。
【図4】図4は図1に示す大動脈内バルーンカテーテルを左上腕動脈から挿入して使用した状態を示す概略図である。
【図5】図5は従来構造の大動脈内バルーンカテーテルを左上腕動脈から挿入して使用した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳述する。
【0021】
<第1実施形態>
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る大動脈内バルーンカテーテル1aは、IABP法に用いられるものであり、特に腕の動脈から挿入して好適に用いられるものである。この大動脈内バルーンカテーテル1aは、バルーン拡張用の流体流路9a及び血圧測定用の血液流路10aを備えたカテーテル管8aと、カテーテル管8aの遠位端部に取り付けられたバルーン2aと、バルーン2aの遠位端部に接合された先端チップ32aと、を備えている。カテーテル管8aは外管11aと内管17とコネクタ25aとを有する。
【0022】
バルーン2aは、筒状体であり、カテーテル管8aの流体流路9aを介して流体が導入・導出されることにより拡張・収縮される拡張収縮部3aを有する。拡張収縮部3aの遠位端側には、遠位端部4aが形成してあると共に、拡張収縮部3aの近位端側には、近位端部5aが形成してある。バルーン2aの遠位端部4a及び近位端部5aは、バルーン2aをカテーテル管8aの遠位端部に取り付けるための接合代として用いられ、流体によって拡張・収縮しない部分である。
【0023】
バルーン2aの拡張収縮部3aには、遠位端部4a及び近位端部5aに向かって先細のテーパ状に伸びる遠位端側テーパ部6aと近位端側テーパ部7aとを設けることが好ましい。
【0024】
バルーン2aの拡張収縮部3aの外径及び長さは、拡張収縮部3aの内容積(心機能の補助効果に大きく影響する)や動脈の内径等に応じて決定される。例えば、拡張収縮部3aの内容積が20〜50ccである場合には、外径が12〜20mm、軸方向長さが150〜270mmであることが好ましい。また、拡張収縮部3aの膜厚は、30〜120μmであることが好ましい。バルーン2aの遠位端部4a及び近位端部5aの内径は、それぞれが接合されるカテーテル管8aの外径とほぼ等しくされることが好ましく、通常、0.5〜3.4mmの範囲である。また、遠位端部4a及び近位端部5aの長さは、3〜15mmであることが好ましい。
【0025】
バルーン2aの材質は、特に限定されないが、抗血栓性及び耐屈曲疲労特性に優れた材質であることが好ましく、例えばウレタン系エラストマー、ポリウレタンとシリコーンの共重合体などの合成樹脂により構成されている。バルーン2aを成形する手法は特に限定されないが、ディッピング成形法やブロー成形法が好適に用いられる。
【0026】
大動脈内バルーンカテーテル1aのカテーテル管8aを構成する外管11aは、その内部に軸方向に沿って第1ルーメン12aが形成されている管状体である。この第1ルーメン12aは、カテーテル管8aのバルーン拡張用の流体流路9aとして利用される。外管11aの内径及び肉厚は、上腕動脈などの腕の動脈からの挿入を可能にし、かつ、流体流路9aの十分な流路断面積を確保するように決定され、内径が1.0〜3.5mmであり、肉厚が0.05〜0.3mmであることが好ましく、内径が1.0〜2.3mmであり、肉厚が0.05〜0.15mmであることがさらに好ましい。
【0027】
また、外管11aの軸方向長さは、その遠位端を大動脈内に挿入したとき、近位端が体外に位置するように設定され、通常、400〜800mmである。外管11aを構成する材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、フッ素樹脂等の合成樹脂を用いることができる。
【0028】
カテーテル管8aを構成する内管17は、その内部に軸方向に沿って第2ルーメン18が形成されている管状体である。この内管17の第2ルーメン18は、カテーテル管8aの血圧測定用の血液流路10aとして利用される。また、第2ルーメン18は、患者の動脈内への大動脈内バルーンカテーテル1aの挿入時に用いられるガイドワイヤを挿通するためにも用いることができる。
【0029】
内管17の内径は、ガイドワイヤを挿通可能であれば特に限定されないが、0.1〜1.5mmであることが好ましい。内管17の肉厚は、バルーン2aを支持可能であれば特に限定されないが、0.05〜0.4mmであることが好ましい。また、内管17の軸方向長さは、通常、550〜1100mmである。この内管17を構成する材質としては、高い曲げ弾性率を有し、且つ、ある程度の可撓性を有する材質であることが好ましい。具体的には、ステンレス、タングステン、ニッケル−チタン合金などの金属や、ポリエーテルエーテルケトン等の合成樹脂、もしくは合成樹脂を金属により補強した複合材料を用いることが好ましい。これらの中でもより高い弾性率を持ち且つ永久変形し難いという観点からは超弾性を示すニッケル−チタン合金を用いることが好ましく、より破断し難いという観点からは、ポリエーテルエーテルケトンを用いることが好ましい。
【0030】
内管17は、外管11aの第1ルーメン12a内に軸方向に延在していて、内管17の両端は外管11aから突出している。そして、外管11aの内周面と内管17の外周面とは、少なくとも一部で接着剤などにより固着されている。
【0031】
この実施形態では、その固着部の少なくとも一部において、外管11aと内管17の側壁を貫く血液流入孔31aが形成されている。この血液流入孔31aを介して内管17の第2ルーメン18は、外管11aの外部と連通する。ただし、この血液流入孔31aの開口縁の全周において、外管11aと内管17とが固着してあるので、この血液流入孔31aを通して第1ルーメン12aと外管11aの外部とを直接に連通することはない。また、この血液流入孔31aを通して第1ルーメン12aと第2ルーメン18とが直接に連通することはない。なお、内管17の第2ルーメン18は、その両端部においても、外管11aの外部と連通している。第1ルーメン12aは、コネクタ25aの流体導入口27aにおいてのみ、外管11aの外部と連通している。
【0032】
血液流入孔31aを構成するための方法としては、特に限定されないが、たとえば、予めそれぞれの側壁に開口を設けた内管17と外管11aとを、それぞれの開口縁の位置が一致するように固着する方法が例示される。あるいは、内管17と外管11aとを固着してから、該固着部において双方の側壁を貫く開口を設けることで、血液流入孔31aを形成してもよい。
【0033】
血液流入孔31a(すなわち、血液流路10aの遠位端開口)を設ける位置は、バルーン2aの近位端部5aにおける拡張収縮部3aとの境界50より近位端側である。その位置は、バルーン2aを大動脈内に位置させると、血液流入孔31aが血管内に位置する位置であれば特に限定されない。具体的には、この血液流入孔31aの位置は、その孔31aの遠位端側開口縁が、バルーン2aの拡張収縮部3aとの境界50より(L=)3〜300mm近位端側に位置していることが好ましく、(L=)8〜100mm近位端側に位置していることがより好ましい。
【0034】
血液流入孔31aを、このような位置に設ければ、バルーン2aを下行大動脈内に位置させる時に、血液流入孔31aが下行大動脈内上方、大動脈弓部内、左鎖骨下動脈内などの心臓近傍の血管内に位置する。このため、心臓の拍動により生じる血圧変動を、より高精度で応答性良く計測することができる。
【0035】
なお、近位端部5aにおける拡張収縮部3aとの境界50とは、図1に示すように、拡張収縮部3aの近位端側テーパ部7aと近位端部5aとの境界であり、近位端部5aにおける外管11aまたは内管17との接合代の始点となる部分である。
【0036】
図1に示す本実施形態では、血液流入口31aは、バルーン2aの近位端部5aより近位端側に設けられているが、この近位端部5a上に設けることも可能である。この場合には、内管17と外管11aとバルーン2aの近位端部5aが一体に固着されている箇所において、それぞれの側壁を貫く血液流入孔31aが形成される。
【0037】
また、血液流入孔31aの開口形状は特に限定されないが、円形または外管11aの中心軸に沿った長軸を有する楕円形が好ましい。また、血液流入孔31aの開口面積は、0.2〜3mmであることが好ましい。血液流入孔31aの開口面積が0.2mmより小さいと、該血液流入孔31aにおける血液の取り込みが十分に行われず、十分な血圧変動の計測が困難となる。また、3mmを超える開口面積を有する血液流入孔31aを設けると、当該位置におけるカテーテル管8aの強度が不足するおそれがある。
【0038】
バルーン拡張用の流体流路9aとして用いられる外管11aの第1ルーメン12aの気密を保つ観点から、外管11aの内周面及び内管17の外周面は、少なくとも血液流入孔31aの周辺部において、平らであることが好ましい。
【0039】
外管11aの内周面と内管17の外周面とは、少なくとも血液流入孔31aの周辺部で固着されていればよいが、少なくとも外管全長の60%の長さにわたって固着されていることが好ましく、外管11a全長にわたって固着されていることがより好ましい。外管11aの内周面と内管17の外周面を、少なくとも外管11a全長の60%の長さにわたって固着すれば、第1ルーメン12aにおけるバルーン拡張用の流体に対する流路抵抗が小さくなるので、バルーン2aの拡張・収縮を速やかに行うことができる。
【0040】
大動脈内バルーンカテーテル1aのカテーテル管8aを構成するコネクタ25aは、3箇所で開口する内腔を備えた成形体である。すなわち、このコネクタ25aは、内管17と外管11aとの接続口となる外管接続口26aと、バルーン拡張用の流体流路9aの近位端開口となる流体導入口27aと、血圧測定用の血液流路10aの近位端開口となる血圧測定孔28aとを有する。
【0041】
このコネクタ25aの長さは、通常、10〜150mmである。また、コネクタ25aを構成する材質としては、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
図1に示す大動脈内バルーンカテーテル1aでは、外管11aは、その近位端部がコネクタ25aの外管接続口26aに挿入されて接続されており、内管17は、その近位端部がコネクタ25aの外管接続口26aから血圧測定孔28aに達するまで挿入されて接続されている。
【0043】
大動脈内バルーンカテーテル1aを使用する際においては、流体導入口27aには、例えばチューブを介して、バルーン2a内にヘリウムガス等の流体を導入・導出するためのポンプ装置が接続される。そして、血圧測定孔28aには、例えば生理食塩水を満たしたチューブを介して、血液流入孔31a(血液流路10aの遠位端開口)における血圧を測定するための血圧測定装置が接続される。
【0044】
また、コネクタ25の外管接続口26aと流体導入口27aは、図1に示すように、直線状の管路によって連通することが好ましい。外管接続口26aと流体導入口27aが、直線状の管路によって連通すれば、該管路が屈曲している場合に比べて、コネクタ25a内におけるバルーン拡張用の流体に対する流路抵抗が小さくなるので、バルーン2aの拡張・収縮を速やかに行うことができる。
【0045】
そして、図1に示す大動脈内バルーンカテーテル1aでは、バルーン2aの近位端部5aの内周面が、外管11aの遠位端部の外周面に接合され、バルーン2aの遠位端部4aが、先端チップ32aを介して、内管17の遠位端部に接合される。これによって、バルーン2aが外管11a及び内管17(換言すれば、カテーテル管8aの遠位端部)に取り付けられている。これらの接合方法としては、熱融着や接着などを挙げることができる。この接合によって、バルーン2aの内部は、外管11aの遠位端開口以外に対して、気密状態となっている。
【0046】
バルーン2aの遠位端部に接合された先端チップ32aは、比較的柔軟な材質で構成された部材であり、内管17の遠位端部が動脈血管壁を穿孔するのを防止する機能を果たす。この先端チップ32aを構成する材質としては、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の合成樹脂或いは天然ゴム等を用いることができるが、抗血栓性の観点からは、ウレタン系エラストマーを用いることが好ましい。
【0047】
また、先端チップ32aを構成する材質の硬度としては、ショアA硬度50〜95が好ましく、ショアA硬度65〜80がより好ましい。ショアA硬度が95以上であると、硬すぎて、血管壁を穿孔するおそれが生じ、ショアA硬度が50以下であると、柔らかすぎて、内管17の遠位端部が先端チップ32aを突き破り、血管壁を穿孔するおそれがある。なお、ここでいうショア硬度とは、JIS規格K−7215に従って計測される物性値を指す。
【0048】
また、この先端チップ32aを構成する材質にエックス線造影剤を配合することにより、大動脈内バルーンカテーテル1aを血管内に挿入する際に、当該先端チップ32aを体外からエックス線透視で観察できる。このエックス線造影剤としては、金、白金、タングステン、鉛等の金属、または、酸化チタン、硫酸バリウム、三酸化ビスマス、次炭酸ビスマス等の金属化合物が挙げられる。
【0049】
先端チップ32aの形状は、内部にガイドワイヤを挿通するために管状であることが好ましい。また、先端チップ32aの遠位端は半球状であることが好ましい。先端チップ32aの軸方向長さは、5〜25mmであることが好ましく、その外径は1.6〜3.4mm、内径は0.1〜1.5mmであることが好ましい。
【0050】
<第2実施形態>
図2に示すように、第2実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1bは、以下に示す相違点以外は、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aと同様である。すなわち、図2に示す実施形態では、図1に示す内管17の代りに、近位側内管19と遠位側内管21とが用いられ、外管11bの外周面の一部に軸方向に沿って伸びる窪み13が設けられている。
【0051】
図2に示すように、第2実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1bのカテーテル管8bは、外管11bと近位側内管19と、遠位側内管21と、コネクタ25bと、から構成されている。カテーテル管8bを構成する外管11bは、その内部に軸方向に沿って第1ルーメン12bが形成されている管状体である。この第1ルーメン12bは、カテーテル管8bのバルーン拡張用の流体流路9bとして利用される。この外管11bの寸法及び材質は、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aの外管11aと同様のものを用いることができる。
【0052】
外管11bの外周面には、軸方向に沿って伸びる窪み13が設けられている。窪み13の軸方向長さは、通常、1〜12mmであり、窪み13の幅は、通常、0.1〜3mmである。窪み13の深さは、近位側内管19の外径と同等であることが好ましく、通常、0.5〜2.1mmである。外管11bの外周面に窪み13を設ける方法は特に限定されないが、例えば、加熱したコテを外管11bの外壁に押し当てることにより設けることができる。
【0053】
大動脈内バルーンカテーテル1bのカテーテル管8bを構成する近位側内管19は、その内部に軸方向に沿って第2ルーメン20が形成されている管状体である。この第2ルーメン20は、カテーテル管8bの血圧測定用の血液流路10bとして利用され、ガイドワイヤを挿通するためにも利用することができる。近位側内管19の内径は、0.4〜1.5mmであることが好ましく、近位側内管19の肉厚は、0.05〜0.3mmであることが好ましい。また、近位側内管19の軸方向長さは、通常、100〜950mmである。この近位側内管19を構成する材質としては、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aの内管17と同様のものを用いることができる。
【0054】
近位側内管19は、外管11bの第1ルーメン12b内に軸方向に延在している。そして、近位側内管19の近位端部は外管11bの近位端から突出しており、近位側内管19の遠位端部は、外管11bの窪み13の近位端部において、外管11bの側壁を貫いていて、外部に露出した状態になっている。すなわち、近位側内管19の遠位端開口は、第1ルーメン12bの外に位置しており、該遠位端開口を介して近位側内管19の第2ルーメン20は外部と連通している。なお、近位側内管19の遠位端部が外管11bの外壁を貫いた箇所において、近位側内管19の外周面と外管11bの外壁とは気密に接合されている。また、近位側内管19の近位端部は、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aにおける内管17と同様に、コネクタ25bに接続されている。
【0055】
第2実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1bでは、近位側内管19の第2ルーメン20全体が、血圧測定用の血液流路10b全体を構成しているので、近位側内管19の遠位端開口が血液流入孔31b(血液流路10bの遠位端開口)となっている。そして、この血液流入孔31bを設ける位置は、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aと同様である。
【0056】
大動脈内バルーンカテーテル1bのカテーテル管8bを構成する遠位側内管21は、その内部に軸方向に沿って第3ルーメン22が形成されている管状体である。この第3ルーメン22は、患者の動脈内への大動脈内バルーンカテーテル1bの挿入時に用いられるガイドワイヤが挿通される。
【0057】
遠位側内管21の内径は、0.1〜1.0mmであることが好ましく、遠位側内管21の肉厚は、バルーン2bを支持可能であれば特に限定されないが、0.05〜0.4mmであることが好ましい。また、遠位側内管21の軸方向長さは、通常、150〜570mmである。この遠位側内管21を構成する材質としては、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aの内管17と同様のものを使用することができる。
【0058】
遠位側内管21は、外管11bの第1ルーメン12b内に軸方向に延在している。そして、遠位側内管21の遠位端部は外管11bの遠位端から突出しており、遠位側内管21の近位端部は、外管11bの窪み13の遠位端部において、外管11bの側壁を貫いていて、外部に露出した状態になっている。すなわち、遠位側内管21の近位端開口は、第1ルーメン12bの外に位置しており、該近位端開口を介して遠位側内管21の第3ルーメン22は外部と連通している。なお、遠位側内管21の近位端部が外管11bの側壁を貫いた箇所において、遠位側内管21の外周面と外管11bの内周面とは気密に接合されている。
【0059】
そして、図2に示す大動脈内バルーンカテーテル1bでは、バルーン2bの近位端部5bの内周面が、外管11bの遠位端部の外周面に接合され、バルーン2bの遠位端部4bが、先端チップ32bを介して、遠位側内管21の遠位端部に接合される。これによって、バルーン2bが外管11b及び遠位側内管21(換言すれば、カテーテル管8bの遠位端部)に取り付けられている。これらの接合方法としては、熱融着や接着などを挙げることができる。この接合によって、バルーン2bの内部は、外管11bの遠位端開口以外に対して、気密状態となっている。
【0060】
近位側内管19の遠位端と遠位側内管21の近位端の間隔は、1〜10mmであることが好ましい。この間隔が1mmより近いと、遠位側内管21の第3ルーメン22内の血圧変動が血液流入孔31b(近位側内管19の遠位端開口)に影響を及ぼして正確な血圧を測定できないおそれがある。10mmより遠いと、当該位置におけるカテーテル管8bの強度が不足するおそれがある。
【0061】
近位側内管19と遠位側内管21の内径は異なっていてもよく、特に、遠位側内管21の内径を近位側内管19の内径より小さくすることが好ましく、遠位側内管21の内径を近位側内管19の内径の50〜95%とすることがより好ましい。近位側内管19の内径は、血液流入孔31bにおける血圧変動を近位側内管19の近位端開口(血圧測定孔28b)まで伝達させるためにある程度の大きさを有することが必要である。これに対して、遠位側内管21の内径は、ガイドワイヤが挿通可能であれば十分であり、その内径を小さくすることで、遠位側内管21が細径化されるので、患者への大動脈内バルーンカテーテル1bの挿入が容易になる。
【0062】
近位側内管19と遠位側内管21の肉厚も異なっていてもよく、特に、近位側内管19の肉厚を遠位側内管21の肉厚より薄くすることが好ましく、近位側内管19の肉厚を遠位側内管21の肉厚の50〜95%とすることがより好ましい。遠位側内管21は、バルーン2bを支持するためにある程度の肉厚を有することが必要である。これに対して、近位側内管19は、外管11bとコネクタ25b内に位置するのでそれほど厚くする必要がなく、その肉厚を薄くすることで、流体流路9bの流路断面積が広くなり、バルーン2bの拡張・収縮が速やかに行われる。
【0063】
なお、第2実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1bのその他の構成は、第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。また、図1と図2において、共通する部材には、共通する符号を付し、その説明は一部省略する。
【0064】
<第3実施形態>
図3に示すように、第3実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1cは、カテーテル管8cが、ツールーメンチューブ14と、バルーン支持管24と、コネクタ25cとから構成されている点が、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aと異なっている。
【0065】
第3実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1cのカテーテル管8cを構成するツールーメンチューブ14は、その内部に軸方向に沿って第1ルーメン15と第2ルーメン16とが形成されている管状体である。この第1ルーメン15は、カテーテル管8cのバルーン拡張用の流体流路9cとして利用され、第2ルーメン16は、カテーテル管8cの血圧測定用の血液流路10cとして利用される。また、第2ルーメン16は、ガイドワイヤを挿通するためにも利用することができる。
【0066】
ツールーメンチューブ14の外径は、通常、1.2〜4.0mmであり、当該ツールーメンチューブ14の軸方向長さは、通常、400〜800mmである。ツールーメンチューブ14の第1ルーメン15及び第2ルーメン16の断面形状は、特に限定されないが、楕円状であることが好ましく、また、第1ルーメン15の断面積は0.6〜6mm、12ルーメン16の断面積は0.01〜1.7mmであることが好ましい。
【0067】
ツールーメンチューブ14を構成する材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、フッ素樹脂などの合成樹脂を用いることができ、これらの合成樹脂を金属により補強した複合材料を用いることもできる。
【0068】
ツールーメンチューブ14の側壁には、血液流入孔31cが形成されていて、第2ルーメン16と外部が該血液流入孔31cを介して連通している。血液流入孔31c、すなわち、血液流路10cの遠位端開口を設ける位置は、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aと同様である。
【0069】
また、血液流入孔31cの開口形状は特に限定されないが、円形またはツールーメンチューブ14の中心軸に沿った長軸を有する楕円形が好ましい。また、血液流入孔31cの開口面積は、0.2〜3mmであることが好ましい。血液流入孔31cの開口面積が0.2mmより小さいと、該血液流入孔31cにおける血液の取り込みが十分に行われず、血圧変動の計測が困難となる。また、3mmを超える開口面積を有する血液流入孔31cを設けると、当該位置におけるカテーテル管8c(ツールーメンチューブ14)の強度が不足するおそれがある。
【0070】
大動脈内バルーンカテーテル1cのカテーテル管8cを構成するバルーン支持管23は、その内部に軸方向に沿って第3ルーメン24が形成されている管状体である。この第3ルーメン24は、患者の動脈内への大動脈内バルーンカテーテル1cの挿入時に用いられるガイドワイヤが挿通される。バルーン支持管23の内径は、0.1〜1.0mmであることが好ましく、バルーン支持管23の肉厚は、バルーン2cを支持可能であれば特に限定されないが、0.05〜0.4mmであることが好ましい。また、バルーン支持管23の軸方向長さは、バルーン2cの軸方向長さとほぼ等しく、通常、150〜300mmである。このバルーン支持管23を構成する材質としては、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aの内管17と同様のものを使用することができる。
【0071】
バルーン支持管23は、バルーン支持管23の第3ルーメン24とツールーメンチューブ14の第2ルーメン16が連通するように、その近位端部がツールーメンチューブ14の第2ルーメン16内に挿入されて、外部に対して気密に接合されている。また、バルーン2cの近位端部5cの内周面が、ツールーメンチューブ14の遠位端部の外周面に接合され、バルーン2の遠位端部4cが、先端チップ32cを介して、バルーン支持管23の遠位端部に接合される。これによって、バルーン2cがツールーメンチューブ14及びバルーン支持管23の遠位端部(換言すれば、カテーテル管8cの遠位端部)に取り付けられている。これらの接合方法としては、熱融着や接着などを挙げることができる。この接合によって、バルーン2cの内部は、ツールーメンチューブ14の第1ルーメン15の遠位端開口以外に対して、気密状態となっている。
【0072】
第3実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1cのカテーテル管8cを構成するコネクタ25cは、バルーン拡張用の流体流路9cの一部を構成する第1管路29と、血圧測定用の血液流路10cの一部を構成する第2管路30をそれぞれ独立に備えた成形体である。
【0073】
コネクタ25cとツールーメンチューブ14は、第1ルーメン15と第1管路29及び第2ルーメン16と第2管路30のそれぞれが連通するように接続されている。このような接続により、コネクタ25cの第1管路29の近位端開口である流体導入孔27cは、バルーン拡張用の流体流路9cの近位端開口として利用することができ、第2管路30の近位端開口である血圧測定孔28cは、血圧測定用の血液流路10cの近位端開口として利用することができる。このコネクタ25cを構成する材質としては、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aにおけるコネクタ25aと同様の材質を用いることができる。
【0074】
また、コネクタ25cの第1管路29は、直線状に構成することが好ましい。第1管路29が直線状の管路であれば、第1管路29内におけるバルーン拡張用の流体に対する流路抵抗が小さくなるので、バルーン2cの拡張・収縮を速やかに行うことができる。
【0075】
なお、第3実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1cのその他の構成は、第1実施形態のものと同様であり、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0076】
<バルーンカテーテルの使用方法>
つぎに本発明の大動脈内バルーンカテーテルの使用方法を、第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aを左上腕動脈から挿入して使用する場合を例として、図面を参照しながら説明する。図4は、本発明の大動脈内バルーンカテーテルに係る第1実施形態の大動脈内バルーンカテーテル1aを左上腕動脈から挿入して使用した状態を示す概略図であり、図5は、従来構造の大動脈内バルーンカテーテルを左上腕動脈から挿入して使用した状態を示す概略図である。
【0077】
まず、大動脈内バルーンカテーテル1aのバルーン2aを内管17に巻きつけておき、内管17内(第2ルーメン)にガイドワイヤ33を挿通しておく。そして、セルジンガー法によりカテーテルイントロデューサー34を左上腕動脈38に穿刺し、該カテーテルイントロデューサー34を介して、ガイドワイヤ33を挿通した大動脈内バルーンカテーテル1aを左上腕動脈38に挿入する。なお、カテーテルイントロデューサー34は必ずしも使用する必要は無く、ガイドワイヤ33及び大動脈内バルーンカテーテル1aを左上腕動脈38に設けた穿孔に直接挿入することもできる。
【0078】
つぎに、バルーン2aが左鎖骨下動脈39を通って、下行大動脈40内に位置するように、ガイドワイヤ33を先行させながら、大動脈内バルーンカテーテル1aを押し進める。図4に示すように、バルーン2a全体が下行大動脈40内に位置したら、ガイドワイヤ33を抜き取り、コネクタ25aの流体導入口に、例えばチューブを介してポンプ装置(図示せず)を接続し、血圧測定孔に例えば生理食塩水を満たしたチューブを介して血圧測定装置(図示せず)を接続する。その後、血圧測定装置により、血液流入孔31a(血液流路の遠位端開口)から、血液流路内の血液を介してコネクタ25aの血圧測定孔(血液流路の近位端開口)に伝達される血圧変動を計測し、この計測結果をもとにして、ポンプ装置の駆動を行い、流体流路を介してバルーン2a内にヘリウムガス等の流体を導入・導出する。このような操作により、心臓の拍動にあわせたバルーン2aの拡張・収縮が行われ、このバルーン2aの拡張・収縮により心機能の補助が行われる。
【0079】
図5に示すように、バルーン2dの遠位端近傍に血液流路の遠位端開口60を有する従来構造の大動脈内バルーンカテーテル1dでは、腕の血管から挿入すると血液流路の遠位端開口60が下行大動脈40の下方に位置してしまう。そのため、心臓の拍動により生じる血圧変動が、血液流路の遠位端開口に及ぶまでに、バルーン2dが挿入された下行大動脈40内における圧力損失によって減衰するために、心臓の拍動により生じる血圧変動を十分に計測することができなくなる。これに対して、本発明の大動脈内バルーンカテーテル1aでは、図4に示すように、血液流入孔31a(血液流路の遠位端開口)が、バルーン2aの拡張収縮部の境界50(図1参照)より近位端側に位置している。このため、カテーテルを腕の血管から挿入した場合において、血液流路の遠位端開口を下行大動脈40の上方などの心臓近傍に位置させることができる。その結果、圧力損失による減衰がほとんど生じないので、心臓の拍動により生じる血圧変動を高精度に応答性良く計測することができる。
【0080】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0081】
つぎに、本発明をさらに具体的な実施例(山羊を用いた動物実験)に基づいて説明する。
【0082】
<実施例1>
まず、軸方向長さ510mm、内径2.1mm、肉厚0.11mmのポリアミド製の外管と、軸方向長さ720mm、内径0.72mm、肉厚0.11mm のニッケル−チタン合金製の内管と、軸方向長さ200mm、内容積30cc、外径14mm、膜厚70μmのウレタン系エラストマー製のバルーンと、軸方向長さ10mm、内径0.72mm、外径2.1mmのウレタン系エラストマー製の先端チップと、ABS製のコネクタと、を用いて、本発明の第1実施形態として説明した構造を有する大動脈内バルーンカテーテルを作製した。なお、血液流入孔は、バルーンの拡張収縮部から10mm近位端側に、円形状に2.0mmの大きさで設けた。
【0083】
そして、山羊(メス、体重約43Kg)の皮膚を切開し、頚動脈を露出させ、頚動脈にカテーテルイントロデューサー(内径2.4mm)を穿刺した。つぎに、このカテーテルイントロデューサーを介して、ガイドワイヤ(軸方向長さ1500mm、外径0.5mm)を挿通した大動脈内バルーンカテーテルを、山羊の頚動脈から挿入した。その後、ガイドワイヤを先行させながら、大動脈内バルーンカテーテルを押し進めて、バルーン全体を山羊の下行大動脈内に位置させた。なお、山羊の頚動脈から大動脈内バルーンカテーテルを挿入してバルーン全体を下行大動脈内に位置させると、人間の腕の動脈から挿入した場合と同様に、バルーンの遠位端は下行大動脈の下方に位置し、バルーンの近位端は下行大動脈の上方に位置することになる。
【0084】
そして、大動脈内バルーンカテーテルのコネクタに、ポンプ装置および血圧測定装置としての機能を備えた大動脈内バルーンカテーテル駆動装置(ゼオンメディカル社製、商品名IABPコンソール907)を接続した。つぎに、大動脈内バルーンカテーテル駆動装置のポンプ装置を駆動させない状態で、血圧測定装置を稼動させることによって、バルーンの拡張・収縮を行わずに血圧測定を行ったところ、測定された最高血圧は200mmHg、最低血圧は120mmHgであった。その後、大動脈内バルーンカテーテル駆動装置の血圧トリガー機能(血圧測定装置の血圧測定結果をもとにして、ポンプ装置を制御する機能)を用いて、心臓の拍動4回のうち1回の拍動にあわせてポンプ装置を稼動させる設定で、ヘリウムガスによるバルーンの拡張・収縮を実施したところ、設定通り心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮を行うことができた。
【0085】
<比較例1>
まず、血液流入孔を設けなかったこと以外は、実施例1で用いた大動脈内バルーンカテーテルと同じ構造を有する従来構造の大動脈内バルーンカテーテルを作製した。そして、実施例1で用いた大動脈内バルーンカテーテルを、山羊から抜き取ってから、実施例1と同様に、従来構造の大動脈内バルーンカテーテルのバルーン全体を山羊の下行大動脈内に位置させた。つぎに、実施例1と同様に、バルーンの拡張・収縮を行わずに血圧測定を行ったところ、測定された最高血圧は140mmHg、最低血圧は115mmHgであった。その後、血圧トリガー機能を用いて、心臓の拍動4回のうち1回の拍動にあわせてポンプ装置を稼動させる設定で、ヘリウムガスによるバルーンの拡張・収縮を実施しようとしたが、計測された血圧変動が十分でないために、血圧トリガー機能が働かず、心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮を行うことができなかった。
【0086】
<参考例1>
まず、比較例1で用いた従来構造の大動脈内バルーンカテーテルを、山羊から抜き取り、山羊の頚動脈の止血をして、切開した皮膚を縫合した。そして、その山羊の皮膚を切開し、大腿動脈を露出させ、大腿動脈にカテーテルイントロデューサーを穿刺した。つぎに、このカテーテルイントロデューサーを介して、従来構造の大動脈内バルーンカテーテルのバルーン全体を山羊の下行大動脈内に位置させた。
【0087】
なお、山羊の大腿動脈から従来構造の大動脈内バルーンカテーテルを挿入してバルーン全体を下行大動脈内に位置させると、人間の大腿動脈から挿入した場合と同様に、バルーンの遠位端は下行大動脈の上方に位置し、バルーンの近位端は下行大動脈の下方に位置する。その後、実施例1と同様に、バルーンの拡張・収縮を行わずに血圧測定を行ったところ、測定された最高血圧は190mmHg、最低血圧は110mmHgであった。それから、大動脈内バルーンカテーテル駆動装置の血圧トリガー機能を用いて、心臓の拍動4回のうち1回の拍動にあわせてポンプ装置を稼動させる設定で、ヘリウムガスによるバルーンの拡張・収縮を実施したところ、設定通り心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮を行うことができた。
【0088】
実施例1、比較例1および参考例1で測定された最高血圧、最低血圧、最高血圧と最低血圧との差、心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮の可否を表1にまとめて示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1を参照すると、実施例1と参考例1では、ほぼ同様の血圧変動を示し、心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮を行うことができたが、比較例1では、最高血圧と最低血圧との差が小さくなっており、心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮を行うことができなかった。この山羊を用いた動物実験の結果より、従来構造の大動脈内バルーンカテーテルを、人間の腕の動脈から挿入すると、大腿動脈から挿入した場合に比べて、血圧変動を高精度で応答性良く計測することができず、心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮を行うことができないといえる。これに対して、本発明の大動脈内バルーンカテーテルを用いることで、腕の動脈から挿入しても、血圧変動を高精度に応答性良く計測することができ、心臓の拍動にあわせたバルーンの拡張・収縮を行うことができるといえる。
【0091】
以上、説明したように、本発明の大動脈内バルーンカテーテルでは、血圧測定に用いる血液流入孔をバルーンの近位端部における拡張収縮部との境界より近位端側に位置させることによって、上腕動脈などの腕の動脈から挿入した場合であっても、大動脈内の血圧変動を高精度に応答性良く計測することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン拡張用の流体流路及び血圧測定用の血液流路を備えたカテーテル管と、
前記カテーテル管の遠位端部に取り付けられ、前記流体流路を介して流体が導入・導出されることにより拡張・収縮される拡張収縮部を有するバルーンと、を有する大動脈内バルーンカテーテルであって、
前記バルーンが前記カテーテル管に対して、前記バルーンの遠位端部および近位端部において接合され、
前記カテーテル管には、前記血液流路の内部と前記カテーテル管の外部とを連通する血液流入孔が形成され、
前記血液流入孔が、前記バルーンの近位端部における前記拡張収縮部との境界より近位端側に位置している大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項2】
前記血液流入孔が、前記バルーンの近位端部における前記拡張収縮部との境界より3〜300mm近位端側に位置している請求項1に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項3】
前記血液流入孔の開口面積が、0.2〜3mmである請求項1に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項4】
前記カテーテル管は、外管と、前記外管の内部に前記流体流路を形成するように、前記外管の内周面に軸方向に沿って外周面の少なくとも一部が接合してあり、内部に前記血液流路が形成してある内管と、を有し、
前記内管の遠位端が前記外管の遠位端よりも遠位端側に突出してあり、
前記バルーンの遠位端部が前記内管の遠位端部に接合してあり、前記バルーンの近位端部が前記外管の遠位端部に接合してあり、
前記血液流入孔が、前記内管と外管との接合部に形成してあり、前記血液流入孔の開口縁の全周において、前記外管と内管とが固着してあることを特徴とする請求項1に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項5】
前記カテーテル管は、外管と、前記外管の内部に前記流体流路を形成するように、前記外管の内部に軸方向に沿って配置してあり、内部に前記血液流路が形成してある内管と、を有し、
前記内管の遠位端が前記外管の遠位端よりも遠位端側に突出してあり、
前記バルーンの遠位端部が前記内管の遠位端部に接合してあり、前記バルーンの近位端部が前記外管の遠位端部に接合してあり、
前記外管の外周面の一部には、窪みが形成してあり、
前記窪みにおいて、前記内管が前記外管の外側に露出し、
前記窪みの内部に位置する前記内管に、前記血液流入孔が形成してあることを特徴とする請求項1に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項6】
前記内管が、近位側内管と、この近位端側内管に対して分離している遠位側内管とを有し、
前記近位側内管の遠位端側開口が前記窪みの内部に位置すると共に、前記遠位側内管の近位端側開口が前記窪みの内部に位置し、
これらの近位端側開口と遠位端側開口とが前記窪みの内部で所定距離離れて向き合っており、
前記近位側内管の遠位端側開口が前記血液流入孔を構成していることを特徴とする請求項5に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項7】
前記カテーテル管が、ツールーメンチューブと、バルーン支持管とを有し、
前記ツールーメンチューブには、前記流体流路を構成する第1ルーメンと、前記血液流路を構成する第2ルーメンとが軸方向に沿って形成してあり、
前記ツールーメンチューブの遠位端部には、前記バルーン支持管が接合してあり、
前記バルーン支持管の遠位端部に前記バルーンの遠位端部が接合してあり、前記ツールーメンチューブの遠位端部に前記バルーンの近位端部が接合してあり、
前記ツールーメンチューブにおける側壁に、前記血液流入孔が形成してあることを特徴とする請求項1に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項8】
前記バルーン支持管には、その内部に軸方向に沿って第3ルーメンが形成してあり、この第3ルーメンが、前記第2ルーメンと連通している請求項7に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項9】
前記バルーンを大動脈内に位置させると、前記血液流入孔が血管内に位置し、前記血液流路の近位端開口が体外に位置するようになっている請求項1に記載の大動脈内バルーンカテーテル。
【請求項10】
腕の動脈から挿入して用いられる請求項1に記載の大動脈内バルーンカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/011794
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512512(P2005−512512)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010839
【国際出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】