説明

大型の動物の着ぐるみ

【課題】リアルな動きをすることができる、四足歩行の大型の動物の着ぐるみを提供する。
【解決手段】頭口部、頸部、胴体部、前足部、後足部及び尾部を有し、全体として骨格部材とそれを被覆する表皮部材とから構成された大型の動物を模した着ぐるみにおいて、胴体部と前足部、胴体部と後足部の内部をそれぞれ連通させて、前足操縦者および後足操縦者が直立して入れる大きさを有する空洞を形成し、その空洞内にそれぞれの操縦者が背負う背負子を、胴体部の骨格部材に固定して設置された背負子支持部材に固定して取り付けける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルな動きが可能な大型の動物を模した着ぐるみ、特にその内部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
着ぐるみとは、人体着用ぬいぐるみの略で、人間が着用可能な大型のぬいぐるみを意味する。特殊衣類や材料を用いて作られ、その内部に人間が入って全身を覆い、擬人化した動物や怪獣など、架空の生物に姿を変える演出で、各種イベントや遊園地のエンターテイメントショー、テレビ番組等で多く使用されている。
【0003】
一方、恐竜のような大型動物の実物大の復元模型は、各種博覧会や博物館等で展示に供されることが多い。また、大型動物の動く映像が必要な場合には、現在では、コンピューターグラフィックス(CG)によりリアルな動きを実現することが可能であり、これは映画の特殊撮影等でしばしば利用されている。しかしながら、遊園地、テーマパーク、舞台演劇等の場で、大型動物のリアルな動きが必要となる場合には、実物大の着ぐるみが必要になる。
【0004】
従来、恐竜のような大型動物を模した着ぐるみの場合には、前後左右に長く大きな形状であるためバランスが取りにくく、無理に動くと転倒の危険があり、実用に供する着ぐるみを製造することが困難であった。本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意取り組んだ結果、先に、胴体部と足部の内部が連通して形成される空洞内の、着ぐるみのほぼ平衡点に相当する位置に、空洞内に入って着ぐるみを操作する操縦者が背負う背負子を着ぐるみの骨格部分に固定して設置すると、全長約6メートルのものであっても非常に安定した動作でリアルな動きを実現できることを見出し、特許を取得した(特許文献1)。しかし、特許文献1記載の発明では、着ぐるみに入る操縦者が一人に限定されるため、二足歩行の動物にしか適用できず、また、より大型の着ぐるみになると一人では荷重を支え切れず、さらには安全に動き回ることが困難であった。
【0005】
また、大型着ぐるみの操縦法について記載された先行例は、本発明者の知る限りほとんど存在せず、わずかに特許文献1における「着ぐるみの適当な位置にテレビカメラを設置し、内部でモニターを見ながら自発的に動かしてもよいし、あるいは、外部の誘導者との間で無線による交信を行い、その指示に基づいて動くようにしてもよい。」との記載および本発明者による「操縦者は2台の内部モニターと無線通信を利用することで安全性を確保」するとの記載が知られているにすぎなかった(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4295297号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2009年東京都ベンチャー技術大賞(東京都産業労働局商工部創業支援課、2009年発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、リアルな動きができる四足歩行の大型動物の着ぐるみを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の発明は、頭口部、頸部、胴体部、前足部、後足部及び尾部を有し、全体として骨格部材とそれを被覆する表皮部材とから構成されており、胴体部と前足部、胴体部と後足部の内部はそれぞれ連通して一つもしくは二つの空洞を形成しており、その空洞は、前足部に入る前足操縦者および後足部に入る後足操縦者が直立して入れる大きさを有しており、その空洞内には、前足操縦者用および後足操縦者用の背負子支持部材が胴体部の骨格部材に固定して設置されており、それぞれの背負子支持部材には、操縦者が背負う位置に背負子が設置されている、リアルな動きが可能な大型の動物の着ぐるみである。
【0010】
本発明の第二の発明は、上記の着ぐるみにおいて、前足操縦者用の背負子が空洞の頭側に設けられた背負子支持部材に設置され、後足操縦者用の背負子が空洞の尾側に設けられた背負子支持部材に前足操縦者用背負子と対向して設置されることである。
本発明の第三の発明は、上記の着ぐるみにおいて頭口部と頸部の動きを操作するための頸部操作手段を備えることである。
本発明の第四の発明は、上記の着ぐるみにおいて、頭口部の動きを操作するための頭口部操作手段を備えることである。
本発明の第五の発明は、上記の着ぐるみにおいて、頭口部の口の開閉を操作するための口部操作手段を備えることである。
本発明のその他の発明については、以下に順次説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の大型の動物を模した着ぐるみは、前足部および後足部と胴体部が形成する空洞に、前足部、後足部に相当する位置でそれぞれ大人一人が直立して入れる程度の空洞となっており、操縦者二名で着ぐるみの前後の荷重を分担して負担するため、より大型の四足歩行の着ぐるみを安定に動かすことができる。また、片方の操縦者が頭口部と頸部を操作し、他方が尾部を操作するように役割を分担することにより、一人で操作する場合に比較して、よりリアルな動きを実現することができる。
【0012】
第二の発明によれば、二人の操縦者が向き合う形になるため、着ぐるみの操作を行う際の意思疎通を図りやすくなるうえ、前足操縦者の前進歩行は後ろ向きになるため、着ぐるみの前足膝関節の動きが、四足歩行の大型動物に特有な歩行時の膝の動きにより近いものになる。第三ないし第五の発明によれば、頭口部と頸部の動き、頭口部の動き、または頭口部の口の開閉を操作することが可能になり、大型動物の動きをさらにリアルに実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】四足歩行の恐竜の着ぐるみの全体像を示すと共に、内部構造を説明するための図である。
【図2】図1に示す恐竜の着ぐるみの、頸部操作手段、頭口部操作手段および口部操作手段の一例を説明するための図である。
【図3】図2に示す頭口部操作手段において、頭口部の左右の動作を操作する手段を説明するための図である。
【図4】図2に示す頭口部操作手段において、頭口部の上下の動作を操作する手段、および口部操作手段を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の着ぐるみは、頭口部、頸部、胴体部、足部及び尾部を有し、全体として外形を構成する骨格部材とそれを被覆する表皮部材とから構成される大型の動物を模した着ぐるみである。大型の動物とは、実在の動物であっても、各種キャラクターや怪獣等の架空の動物であっても、あるいは恐竜等の存在が科学的に裏付けられたようなものでもよい。好ましい大型動物は、四足で歩行するものであり、それ以上の多足で歩行するものであっても四足歩行が可能な動物であればよい。
【0015】
骨格部材の構成は、頭部、頸部、胴体部、前足部、後足部及び尾部の外形を形成し、且つ、維持できるものであれば特に限定されるものではないが、できるだけ軽量な材質を用いて全重量が軽くなるように構成する必要がある。骨格部材の材質としては、木、竹等の天然材、ポリエチレン、ポリ塩化ビニール等のプラスチック、ポリスチレン、ポリウレタン等の合成樹脂発泡材、ガラス繊維や炭素繊維等を強化材としたFRP、アルミニウム等の軽量金属などを挙げることができる。
【0016】
例えば、木材と合成樹脂発泡材を用いて胴体部の骨格部材を構成する場合には、背骨に当たる部分並びに頸部と胴体部との連結面および尾部と胴体部との連結面に当たる部分を木材で構成し、胴体部の形状に作った合成樹脂発泡材を背骨部分の木材に接着することによって作製することができる。外形を維持する上で骨格部材間の補強が必要な場合には、板状、棒状、パイプ状などの補強用部材を用いて適宜補強することができ、その場合には、その補強用部材も骨格部材に包含される。炭素繊維で強化された樹脂(CFRP)のように強度に優れた材料で骨格部材を構成する場合には、背骨部分とその他の胴体部分を区別することなく、同じ材料で胴体部を作製することもできる。また、頸部のように骨格部材に大きな負荷がかからない部分の場合には、外形を維持できる程度の強度を有する限り、合成樹脂のスポンジ状発泡材のような、より柔軟な材料を使用して作製することもできる。
【0017】
表皮部材の材質としては、着ぐるみの動作によって破壊されない強度を有するものであればよいが、できるだけ軽量で、且つ伸縮可能なものが好ましく、例えば、各種布地、紙、各種のフイルム、各種のゴム、各種の発泡材等が用いられる。なかでも伸縮可能な薄膜とポリウレタン等の発泡材の組合せからなる材料が好ましい。
【0018】
着ぐるみは前足部と後足部を有しており、胴体部と前足部、胴体部と後足部の内部はそれぞれ連通して一つもしくは二つの空洞を形成している。その空洞は、前足部および後足部にそれぞれ大人の操縦者が直立して入れる程度の大きさが必要である。
【0019】
本発明においては、前足操縦者用および後足操縦者用の背負子が、直立した操縦者が背負う位置で背負子支持用部材に固定されている。背負子支持用部材は、胴体部の骨格部材に固定して設置される。骨格部材が木材製の背骨を有する場合には、背骨用の木材に背負子支持部材を固定することが好ましい。その際、背負子支持部材と、胴体部と頸部との連結部位または胴体部と尾部との連結部位との間に補強用部材を取り付けると、背負子支持部材の固定化がより安定したものになる。この補強用部材の取り付け部位は、胴体部の構造を考慮して、適宜決定することができる。
【0020】
特許文献1においては、背負子の設置部位は着ぐるみのほぼ平衡点、即ち、着ぐるみ全体を天秤棒と見た場合の支点に相当する位置に特定されているが、本発明においては、外観上から特定される前足部および後足部の位置によって自ずと背負子の設置部位は制限される。しかし、その場合であっても、前足部及び後足部の位置関係や上げ底の程度を考慮したうえで、二人の操縦者の荷重負担ができるだけ均等になるような位置に設置することが好ましい。
【0021】
背負子(しょいこ)とは、荷物をくくりつけ又は載せて、背負い紐(ベルト)で人の背中に背負う形式の運搬具であるが、本発明においては、空洞内部に入った操縦者が、背負子で着ぐるみを背負う構造に形成されている限り、その形状や材質、骨格部材への固定方法等は何ら制限されるものではない。例えば、胴体部と前足部、胴体部と後足部の内部がそれぞれ連通して一つの空洞を形成している場合には、胴体部の頭側および尾側の双方に背負子支持部材を胴体部の骨格部材に連結して設け、その部材に背負子を取り付ける構造が例示される。胴体部と前足部、胴体部と後足部の内部がそれぞれ連通して二つの空洞を形成している場合には、それぞれの空洞内に背負子支持部材を胴体部の骨格部材に連結して設け、その部材に背負子を取り付ける構造が例示される。
【0022】
また、胴体部が頸部または尾部との連結部位に板状、柱状などの連結部材を備えている場合には、前足部および後足部の位置関係によっては、その連結部材を利用して背負子を設置することもできる。上記の説明において、胴体部の頸部または尾部との連結部材は、着ぐるみの外形を維持するための補強用部材の機能を有しており、また、場合によっては背負子支持部材の役割も兼ね得るものである。その意味で、この補強用部材は、本発明における骨格部材にも含まれ、また、背負子支持部材にも相当することがある。
【0023】
本発明においては、前足部用と後足部用に独立した二つの空洞を設けることもできるが、次に説明するような理由で、両者に共通の一つの空洞として、内部に入る前足部用操縦者が後ろ向きとなり、後足部用操縦者が前向きとなって対面する形になるように背負子を設置することが好ましい。この場合は、空洞の頭側の背負子支持部材に前足部用操縦者のための背負子が設けられ、空洞の尾側の背負子支持部材に後足部用操縦者のための背負子が設けられる。このような形態にすると、着ぐるみが前進するときに前足用の操縦者が後ろ向きに進むことになり、前足の関節の動きが実物の動きに近い、よりリアルなものとなる。
【0024】
本発明の着ぐるみは、二人の操縦者が中に入って着ぐるみの荷重を分担して負担するので、全体のバランスをとることが容易であり、一人の操縦者で操作する着ぐるみに比較してより大きなサイズの着ぐるみであっても、着用し操縦することができる。例えば、全長が約10〜15mのものでも二人の操縦者によって安定に操縦することができる。
【0025】
着ぐるみの空洞内(操縦者が直立して入る空洞内)には、頭口部と頸部の動きを操作する頸部操作手段、頭口部の動きを操作するための頭口部操作手段、頭口部の口の開閉を操作するための口部操作手段を適宜備えることができる。これらの手段を備えると、着ぐるみ全体を動かす他に、頭口部と頸部を連動して動かしたり、頭口部を動かしたり、あるいは口の開閉を行うことが可能となり、大型の動物のよりリアルな動きを実現することができる。
【0026】
頸部操作手段としては、頸部から胴体部の空洞まで延びた操作アームと、この操作アームに連結する操作ハンドルとから構成されているものが好ましく、例えば、図2に示したような構成が挙げられる。図2は、頭口部と頸部、頸部と胴体部のそれぞれの連結法および頸部操作手段の構造がわかるように、頸部と胴体部の内部を模式的に図示している。図を簡略化するために、頸部の骨格部材は省略している。図2において、操作アーム101は、アルミニウム等の金属やプラスチック等の棒状又はパイプ状の部材である。操作アームの頸部側は、その先端部104の近傍でボルトとナットなどの適宜な方法で、頸部の連結部材103に連結することができる。例えば、図3に示すように、連結部材103を操作アーム101の先端に設けた切欠きに挟み込むと、ボルトとナットで簡単に連結することができる。操作アーム101の他端側にはハンドル102が付設されている。頸部3と胴体部4の連結部には頸部動作用支点108が設けられており、頸部3はハンドル102の上下の動きに連動してハンドルの動きとは反対の方向に動作する。また、頭口部2と頸部3を、上下の回動不能の形で連結すると、操作アームの動きによって生じる頸部の動きに連動して頭口部2も上下に動作する。図2において、頸部動作用支点108を左右の動作が可能な構造にすることもでき、その場合には、頸部3はハンドル102の左右の動きに連動してハンドルの動きとは反対の方向に動作する。
【0027】
本発明において、頭口部操作手段としては、頭口部から胴体部の空洞まで延びたワイヤー(ワイヤーロープを含む)と、その頭口部と反対側端末に付設されたレバーまたはハンドルからなるものが好ましい。頭口部の左右の動きを操作する手段としては、例えば、図2〜図4に示したような、左右一対のワイヤーとそれぞれのワイヤーを左右に固定した操作ハンドルで構成されるものが挙げられる。なお、図3は、頭口部の左右の動きを操作する手段を説明するための図であり、ワイヤーと頭口部およびワイヤーとハンドルを連結する態様を示している。図2、図3および図4において、ワイヤー109の先端は、頭口部の上顎部分の骨格部材201に固定され、その反対側端末は操作ハンドル102の係止点111に固定される。ワイヤー110も同様に、上顎部分の骨格部材201と操作ハンドル102の逆側の係止点112に固定される。操縦者が右手用の操作ハンドルを左側に回転するとワイヤー109が引っ張られ、蝶番106を可動点として頭口部が左方向に動作する。逆に、左手用の操作用ハンドルを右側に回転すると、ワイヤー110が引っ張られ、蝶番106を可動点として頭口部が右方向に動作する。
【0028】
頭口部の上下の動きを操作する手段としては、例えば、図2および図4に示したような、自転車のリムブレーキに用いられるワイヤーとレバーからなる操作手段が好ましい。なお、図4は、頭口部の上下の動きを操作する手段および口部の開閉を操作する手段の細部を説明するための図である。図2において、ワイヤー113としては、金属や合成樹脂などで作った鞘でカバーした鞘付きワイヤーが好ましく使用される。ワイヤーは、手元側の頭部上下動用操作レバー118から空洞内、頸部内を通って延びており、その先端は、頭部の頸部側に設けたワイヤー設置用部材114の上部に固定されている。このワイヤー設置用部材114は、連結部材105と回動可能に連結されている。また、鞘付きワイヤーの鞘は、ワイヤーの係止点より手前で連結部材105に固定されている。連結部材105は、左右の回動自在で、上下の回動不能の蝶番により、操作アーム101を固定した連結部材103と連結している。頭部上下動用操作レバー118を引き締めると、ワイヤー設置用部材114が後方に引っ張られるため、連結部位203を回転軸として回転し、頭口部が上方向に動作する。そして、頭部上下動用操作レバーを放すとワイヤーによる張力が緩み、頭部の重力によってワイヤー設置用部材114が前方に回転することにより頭口部は元の位置に戻る。
【0029】
口部の開閉を操作する手段としては、頭口部の上下の動きを操作する手段と同様に、自転車のリムブレーキに用いられるワイヤーとレバーからなる操作手段が好ましい。図2において、ワイヤー117としては、鞘付きワイヤーが好ましく使用される。ワイヤーは、手元側の口開閉操作用レバー123から空洞内、頸部内を通って延びており、その先端は頭口部2の下顎部分に係止されている可動片119に連結されている。頭口部2の上顎部分と下顎部分は、図4に示したように蝶番204で開閉可能に連結されている。鞘は、ワイヤー設置用部材114に固定されている。ワイヤー設置用部材114と可動片119は、口が閉じる状態になるようにバネ122で連結されている。操縦者が口開閉操作用レバー123を引き締めると、ワイヤーの動きを介してバネ122が伸び、蝶番204を可動点として下顎部分が動くことにより口が開く。そして、口開閉操作用レバーを放すと、ワイヤーによる張力が緩み、バネ122の復元力によって可動片119が元の位置に戻り、口が閉じる。口開閉用操作レバーを適切に操作すれば、口の開閉をリアルな動作で行うことができる。
【0030】
着ぐるみの尾部は、骨格部材とそれを覆う表皮部材から構成されるが、骨格部材の構造は外形を維持できるかぎり限定されるものではなく、例えば、前記特許文献1に記載されている構造が例示される。この特許文献1に記載されている尾部は、尾部の骨格部材として、尾部内部の空洞部分に尾部の骨格を模して配置された柔軟な板状部材と、この板状部材に一定の間隔を置いて固定して配置された、複数の発泡材のブロックを有している。柔軟な板状部材としては、例えば、プラスチックやゴム等の板状部材が用いられる。これらは、大型動物の尾の部分の骨格に相当するもので、尾部内部の空洞部分のほぼ中心線に沿った部分に配置される。例えば、恐竜の尾部の場合は、この板状部材は、尾の付け根から尾の末端側へ向かって徐々に狭く(小さく)なっている。尾部の骨格部材をこのように構成すると、後足操縦者による体の左右の動きに連動して尾部が動き、しかも尾の先端ほど大きく揺れるので、非常にリアルな動きになる。また、上記の構造に限らず、合成樹脂の発泡体(スポンジ状のものを含む)で所望の形状の尾部を構成することもできる。
【0031】
また、本発明の着ぐるみをよりリアルな形態にするために、足部を上げ底に構成することができる。上げ底は、大型動物の足の長さに応じて適宜設ければよく、前足部および後足部のいずれか一方、もしくは双方を上げ底にすることができる。恐竜のような大型動物の場合には、一般に前足よりも後足が長いことが多いので、後足部を上げ底にすることが好ましい。また、双方の足部を上げ底に構成する場合には、前足部よりも後足部の上げ底を高く構成すことが好ましい。たとえば、胴体部(背びれ部を除く)の高さが約3mの着ぐるみの場合、前足部の上げ底は0〜20cm程度、後足部の上げ底は30〜50cm程度で構成される。このように足部を上げ底にすることによって、着ぐるみが大型動物の形態により類似することになり、その動きをよりリアルに具現化することができる。
【0032】
本発明の着ぐるみは、頭口部、頸部、胴体部、前足部、後足部及び尾部に加えて、背びれ部を備えていてもよい。背びれ部を設けることにより、背びれを有する大型動物のリアルな形態の着ぐるみにすることができる。背びれ部は、必要な数の背びれ用部材を背中に相当する骨格部分に設ければよく、接着などによって固定して連結してもよいが、運搬や保管の便宜上、着脱自在に結合することが好ましい。
【0033】
背びれ用部材は、背びれの骨格部分とそれを覆う表皮部分とから構成される。骨格部分および表皮部分を形成するための材料としては、前述した胴体部分を形成するものと同じものを使うことができる。背びれ用部材には、その下端に連結用の差し込み部位を設けることができ、また、その底面には面ファスナーのような連結用部材を設けることができる。 一方、胴体部の背中に相当する骨格部分には、背びれ用部材を取り付けるための取り付け受け部を設けることができ、また、背びれ用部材の底面に設けた連結部位に対応する位置に同様の連結部位を設けることができる。このような構造にすると、背びれ用部材の着脱が自在になり、大型の着ぐるみを運搬するときには背びれ部用部材を取り外すことができる。
【0034】
本発明の着ぐるみは、必要に応じて、頭口部、頸部、胴体部、前足部、後足部及び尾部の少なくとも一部を分解自在に構成することができる。例えば、頭口部、頸部、胴体部、前足部、後足部、尾部に分解できるように構成することができる。とくに、尾部は長い形状になることが多いため、運搬や保管の便を考慮すると、胴体から分離できる構造にすることが好ましい。それぞれの部分を結合する方法は適宜選択すればよいが、通常は各部分の連結部位を蝶番やボルトとナットで結合する方法が採用される。着ぐるみへの操縦者の出入り口は適宜設ければよく、例えば、前足部および後足部の左右の足の内股部分の表皮部分を、ファスナー等を用いて開閉自在に構成すればよい。
【0035】
本発明の着ぐるみは、動物の動きを模して動き回ることを使命とするものである。着ぐるみの操縦は、空洞内に入る二名の操縦者によって行われるが、その操縦は、着ぐるみの適当な位置に設置した、前方を監視するための前方監視用カメラで撮影する映像を、空洞内に設置したモニターで確認しながら行うことができる。また、着ぐるみの置かれている周囲の状況を俯瞰できる位置で撮影された映像を空洞内に設置した別のモニターで確認できれば、より安全に着ぐるみを操縦することができる。さらに、外部にいる誘導員と操縦者の間で相互に通信可能な手段、例えば無線通信器を備えていると、誘導員の指示に基づいて操縦することができる。
【0036】
前方監視用カメラの取り付け位置は、進行方向の様子がわかる位置であることが好ましく、例えば、頭口部、頸部もしくは胴体部のいずれかの部位であって、周囲から目立たない位置に取り付けられる。好ましくは、図1に示すような頸部と胴体部の連結部位の周辺である。モニターの設置は、モニター配設用部材を用いることにより行うことができる。骨格部材が木材製の背骨を有する場合には、背骨用の木材にモニター配設用部材を固定することが好ましい。その際、モニター配設用部材が不安定になる場合には、モニター配設用部材と胴体部の骨格部材とを連結する補強用部材を取り付けることによって、安定化することができる。
【0037】
前足部用と後足部用に独立した二つの空洞を設ける場合には、前足操縦者用および後足操縦者用に別々のモニター配設用部材が必要になるが、一つの空洞を設けて前足操縦者と後足操縦者が対面する形態の場合には、空洞内の前足部と後足部のほぼ中間の位置に、骨格部材に固定してモニター配設用部材を取り付け、その部材を利用して前足部用操縦者および後足部用操縦者のためのモニターをそれぞれ設置することができ、効率的である。また、モニター用配設用部材には、モニターの他にバッテリー、電流電圧計、スイッチなどを適宜取り付けることもできる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の具体例を、図を参照しながら説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
図1は、大型の動物の具体例である四足歩行の恐竜を模した着ぐるみ1の全体像を示しており、着ぐるみ1の内部構造が分かるように描かれている。なお、図1において、着ぐるみ1の骨格部材は、一部を除き省略されている。着ぐるみ1は、頭口部2、頸部3、胴体部4、前足部5、後足部6、尾部7および背びれ部8を有している。胴体部4と前足部5及び後足部6の内部は一つの空洞9を形成しており、前足部および後足部には、それぞれ前足操縦者26および後足操縦者27が直立して入れる大きさの空洞となっている。図1は、空洞9に入った二名の操縦者26、27が、それぞれ背負子14、16を背中に背負っている様子を示している。
【0040】
着ぐるみ1の頭口部2、頸部3、尾部7および背びれ部8は、それぞれを他の部位から分離できるように構成されており、胴体部4、前足部5および後足部6は一体として構成されている。胴体部と頸部は連結面11で、また、胴体部と尾部は連結面12で連結されている。頭口部2と頸部3、胴体部4と背びれ部8も適宜な手法で連結されている(図示していない)。着ぐるみ1は、骨格部材10とそれを覆う表皮部材(図示していない)を有しており、骨格部材は木材と合成樹脂発泡材(スポンジ状を含む)で構成され、また、表皮部材は樹脂製薄膜とポリウレタン発泡体の組合せからなる伸縮可能な材料で構成されている。
【0041】
空洞9の頭部側には、前足操縦者用背負子支持部材13が胴体部4の骨格部材10に連結して設けられており、そこに前足操縦者用背負子14が固定されている。また、空洞9の尾部側には、後足操縦者用背負子支持部材15が胴体部4の骨格部材10に連結して設けられており、そこに後足操縦者用背負子16が固定されている。前足操縦者用背負子支持部材13は、その部材を安定化するために補強部材17により連結面11と連結されている。同様に、後足操縦者用背負子支持部材15は、補強部材18により連結面12と連結されている。
【0042】
後足部6は上げ底19に構成されており、胴体部4の頸部3近傍に前方監視用カメラ20が設置されている。尾部7は、特許文献1の図3に記載された構造と同じであり、内部の空洞のほぼ中央部分に配置された板状部材21と、その部材に一定の間隔をおいて配置された複数の発泡材ブロック22で骨格部材を構成している。空洞9のほぼ中間の位置に、モニター配設用部材23が胴体部4の骨格部材10に連結して設けられており、そのモニター配設用部材23には前足操縦者用モニター24および後足操縦者用モニター25が設置されている。
【0043】
背びれ部8は、下端に連結用の差し込み部位を設けた背びれ用部材を、胴体部4の骨格部材に設けた背びれ部材の受け部に挿入することによって分解自在に連結されている(図示していない)。着ぐるみ1の全長(尾部を含む)は約7m、胴体部4の高さ(背びれ部8を含む)は約4mであり、後足部6は約40cmの上げ底19になっている。
【0044】
着ぐるみ1は、頭口部2と頸部3の動きを操作するための頸部操作手段を備えている。図2において、101は頸部3から胴体部4の空洞9まで延びた操作アームであり、102は、操作アームに連結する概ねU字型の操作ハンドル102である。操作アーム101は、アルミニウム等の金属やプラスチック等の棒又はパイプ状の部材である。操作アーム101は、頸部3と胴体部4の連結面11を貫通しており、その先端部104の近傍で、頭口部2と頸部3を連結する頸部側の連結部材103に固定されている。連結部材103は、頭口部の連結部材105と蝶番106により上下の回動不能に固定されている。操作アームの他端側は、ハンドル102の中央部107で固定されている。頸部3と胴体部4の連結部には頸部動作用支点108が設けられており、頸部3は、ハンドル102の上下の動きに連動して、ハンドルの動きとは反対の方向に動作する。また、この実施例では、上下の回動不能な蝶番106を使用しているので、頭口部も頸部の動きと連動して上下に動作する。
【0045】
また、着ぐるみ1は、頭口部2から胴体部4の空洞9まで延びた一対のワイヤー109、110と概ねU字型のハンドル102を有する、頭口部2の左右の動きを操作する頭口部操作手段を備えている。図2〜図4において、着ぐるみの左側のワイヤー109の頭側先端は、頭口部2の上顎部分の骨格部材201の左側に設ける係止点202に固定され、その反対側端末は操作ハンドル102の左側(図2では手前側)の係止点111に固定されている。右側のワイヤー110も同様に、上顎部分の骨格部材201に固定され(図示していない)、その反対側は操作ハンドルの係止点112に固定されている。前足操縦者26が右手用の操作ハンドル102を左側に回転するとワイヤー109が引っ張られ、蝶番106を可動点として頭口部2が左方向に動作する。逆に、左手用の操作用ハンドルを右側に回転すると、ワイヤー110が引っ張られ、蝶番106を可動点として頭口部が右方向に動作する。
【0046】
さらに、着ぐるみ1は、頭口部2から胴体部4の空洞9まで延びたワイヤーと、その頭口部と反対側端末に付設された操作用レバーを有する、頭口部の上下の動きを操作するための頭口部操作手段を備えている。図2および図3において、ワイヤー113は鞘付きのものであり、ワイヤーの先端は、頭口部2の頸部側に設けたワイヤー設置用部材114の上部に設けられた係止点115で固定されている。このワイヤー設置用部材114は、対向して設けた板状部材114´とともに、連結部位203において頭口部2の連結部材105と回動可能に連結されている。また、鞘付きワイヤーの鞘の先端は、ワイヤーの係止点115よりも頸部側で連結部材105の係止点116で固定されている。頸部連結部材103と頭口部連結部材105は、左右の回動自在で、上下の回動不能の蝶番106により連結されている。頭部上下動用操作レバー118を引き締めると、ワイヤーの張力によりワイヤー設置用部材114が後方に引っ張られるため、ワイヤー設置用部材114と頭口部連結部材105との連結部位203を回転軸として回転し、頭口部2が上方向に動作する。そして、操作レバー118を放すとワイヤーによる張力が緩み、頭部の重力によってワイヤー設置用部材114が前方に回転することにより頭口部は元の位置に戻る。
【0047】
着ぐるみ1は、頭口部2から胴体部4の空洞まで延びたワイヤーと、その頭口部2と反対側端末に付設された操作用レバーを有する、頭口部の口の開閉の動きを操作するための口部操作手段を備えている。図2および図4において、ワイヤー117は鞘付きのものであり、ワイヤーの先端は、頭口部2の下顎部分に係止されている可動片119に設けた係止点120で固定されている。また、鞘の先端は、ワイヤー設置用部材114に設けた係止点121で固定されている。ワイヤー設置用部材114と可動片119は、口が閉じる状態になるようにバネ122で連結されている。前足操縦者26が口開閉用レバー123を引き締めると、ワイヤー117の動きを介してバネ122が伸び、蝶番204を可動点として下顎部分が動き、口が開くようになる。そして、口開閉用レバー123を放すとワイヤーによる張力が緩み、バネ122の復元力により口が閉じた状態に戻る。口開閉用レバー123の操作を適宜調節することにより、口の開閉をリアルな動きにすることができる。
【0048】
着ぐるみ1の尾部7の骨格部材は、尾部内部の空洞部分のほぼ中央部分に配置された柔軟なプラスチック製の板状部材21、板状部材21に一定の間隔を置いて固定して配置された、複数のポリスチレン発泡材のブロック22から構成されている。このような構造にすることによって、後足操縦者27が体を左右に動かすだけで、尾部としての自然な動きが発現できる。
【0049】
図1の着ぐるみ1においては、胴体部4の骨格部材10に連結してモニター配設用部材23が設けられている。モニター配設用部材23は、空洞9内の前足部5と後足部6のほぼ中間の位置で、背中部分に相当する骨格部材10に固定されており、そのモニター配設用部材23を利用して前足操縦者用および後足操縦者用のモニター24、25が設置されている。図1では、モニターだけを図示しているが、必要に応じて、バッテリー、電流電圧計、外部カメラ映像受信器、スイッチなどを適宜設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明においては、着ぐるみの内部構造を操縦者二名が入れる構造とすることによって、従来の操縦者一名の着ぐるみでは実現できなかった大型サイズの着ぐるみを提供可能とし、しかも、従来以上にリアルな動きを実現することができる。従って、本発明の着ぐるみは、遊園地やテーマパークあるいはテレビ番組等でのエンターテイメントショーで用いることができるのはもちろん、その動きがリアルであることから、舞台演劇や映画の特殊撮影においても広く利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 着ぐるみ
2 頭口部
3 頸部
4 胴体部
5 前足部
6 後足部
7 尾部
8 背びれ部
9 空洞
10 骨格部材および表皮部材(表皮部材は図示せず)
11 、12 連結面
13 前足操縦者用背負子支持部材
14 前足操縦者用背負子
15 後足操縦者用背負子支持部材
16 後足操縦者用背負子
17、18 補強部材
19 上げ底
20 前方監視用カメラ
21 板状部材
22 発泡材ブロック
23 モニター配設用部材
24 前足操縦者用モニター
25 後足操縦者用モニター
26 前足操縦者
27 後足操縦者
101 操作アーム
102 操作ハンドル
103、105 連結部材
104 操作アームの先端
106 蝶番
107 ハンドルの中央点
108 頸部動作用支点
109、110 ワイヤー
111、112 係止点
113、117 鞘付きワイヤー
114 ワイヤー設置用部材
114´ 板状部材
115、116 係止点
118 頭部上下動操作レバー
119 可動片
120、121 係止点
122 バネ
123 口開閉操作レバー
201 上顎部分の骨格部材
202 係止点
203 連結部位
204 蝶番

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭口部、頸部、胴体部、前足部、後足部及び尾部を有し、全体として骨格部材とそれを被覆する表皮部材とから構成された大型の動物を模した着ぐるみであって、胴体部と前足部、胴体部と後足部の内部はそれぞれ連通して一つもしくは二つの空洞を形成しており、その空洞は、前足部に入る前足操縦者および後足部に入る後足操縦者が直立して入れる大きさを有しており、その空洞内には、前足操縦者用および後足操縦者用の背負子支持部材が胴体部の骨格部材に固定して設置されており、それぞれの背負子支持部材には、操縦者が背負う位置に背負子が設置されていることを特徴とするリアルな動きが可能な大型の動物の着ぐるみ。
【請求項2】
胴体部、前足部および後足部が連通して一つの空洞を形成しており、前足操縦者用の背負子が空洞の頭側に設けられた背負子支持部材に設置され、後足操縦者用の背負子が空洞の尾側に設けられた背負子支持部材に前足操縦者用背負子と対向して設けられている請求項1記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項3】
頸部から胴体部の空洞まで延びた操作アームと、該操作アームに連結する操作用ハンドルを有する、頭口部と頸部の動きを操作するための頸部操作手段が備えられている請求項1または2に記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項4】
頭口部から胴体部の空洞まで延びたワイヤーと、その頭口部と反対側端末に付設された操作用レバーまたは操作用ハンドルを有する、頭口部の動きを操作するための頭口部操作手段が備えられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項5】
頭口部から胴体部の空洞まで延びたワイヤーと、その頭口部と反対側端末に付設された操作用レバーを有する、頭口部の口の開閉を操作するための口部操作手段が備えられている請求項1〜4のいずれか1項に記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項6】
少なくとも一方の足部が上げ底に構成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項7】
頭口部、頸部もしくは胴体部に前方監視用カメラを設置し、空洞内のモニター配設用部材に前方監視用カメラの映像を表示する前方監視モニターが設置されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項8】
さらに、着ぐるみの周辺の映像を表示する外部俯瞰モニターがモニター配設用部材に設置されている請求項7記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項9】
モニター配設用部材が、前足部と後足部の間で胴体部の骨格部材に固定して設置されており、前足操縦者用および後足操縦者用の前方監視モニター並びに所望により設けられる外部俯瞰モニターがモニター配設用部材に設置されている請求項7または8に記載の大型の動物の着ぐるみ。
【請求項10】
大型の動物が、恐竜である請求項1〜9のいずれか1項に記載の大型の動物の着ぐるみ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−120557(P2012−120557A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271132(P2010−271132)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【特許番号】特許第4809495号(P4809495)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(506243426)有限会社 ON−ART (2)
【Fターム(参考)】