説明

大正琴

【課題】本発明は、音楽ホール等で演奏を行えるだけのきれいな音色と音量を備えた大正琴を提供することを目的とするものである。
【解決手段】大正琴1は、共鳴胴2の一方の端部側の側面に支持部5固定されており、他方の端部側に下駒8及び手置き台4が固定されている。そして、ユニット体3は、一方の端部側が支持部5の上面に密着して固定され、他方の端部側が共鳴胴2の上方に延設されている。そして、ユニット体3の下面と共鳴胴2の上面との間には所定の間隔の間隙が形成されて両者は離間した状態となっている。共鳴胴2は、ユニット体3の両側に膨らんだ形状に形成され、ユニット体3には、糸巻部32、上駒33及び鍵キー作動機構34が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大正琴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の大正琴は、直方体状の共鳴胴本体の上面の一端側に弦の一端を巻回する糸巻装置及び弦を支持する上駒を設け、上面の他端側に弦の他端を係止する弦係止部材及び弦を支持する下駒を設け、上駒と下駒との間に張設した弦の張力を糸巻装置により調節して所定の音(例えばG音)に調律し、下駒に近い演奏位置においてピック(義甲)で撥弦することにより、音を発生させるようにしている。そして、上駒と下駒との間に張設した弦の下方には所定位置にフレットが設けられた指板が配設されており、鍵キーを押下して指板に弦を圧接することで、所定の音階が発音するようになっている。
【0003】
こうした従来の大正琴では、撥弦により発生する音をきれいな音色で大きく響かせるための改良工夫がなされている。例えば、特許文献1では、フレット板の下面に枕木片を複数本設けてフレット板を共鳴胴表面から離間して固設した点が記載されている。また、特許文献2では、フレット板を共鳴胴の上板から分離するために防振材料からなるフレット板支持部材を介してフレット板を支持するようにした点が記載されている。
【特許文献1】実開平1−113295号公報
【特許文献2】特開平8−221056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献では、共鳴胴の上板の振動を妨げないようにフレット板を上板から離間させるようにしているが、枕木片やフレット支持部材が共鳴胴に固定されているため、フレット板が上板から完全に離間しておらず上板の振動が依然として十分に行われていない。
【0005】
また、従来の大正琴は、明治維新以降の音楽教育において洋楽を取り入れて普及させるため主に教育目的の楽器として開発されてきたもので、音楽ホール等の広い会場で演奏するための楽器として改良がほとんど行われてきていない。そのため、音楽ホール等で演奏するために大正琴にピックアップやアンプ等の装置を取り付けて、演奏した音を電気的に大きくして演奏を行っているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明は、音楽ホール等で演奏を行えるだけのきれいな音色と音量を備えた大正琴を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る大正琴は、一方の端部側に糸巻部を設けるとともに上駒、指板部及び鍵キー作動機構が上面に配置固定されたユニット体と、一方の端部側に前記ユニット体を載置固定する支持部を設けるとともに他方の端部側に下駒及び弦係止部材を設けた共鳴胴と、前記弦係止部材に一方の端部を係止固定されて他方の端部側を前記糸巻部で巻回され前記上駒及び下駒の間に張設して配列された複数の弦とを備え、前記共鳴胴は、前記弦の配列方向において前記ユニット体の両側に膨らむように幅が大きく設定されており、前記ユニット体は、他方の端部が前記下駒と所定の間隔だけ空けて設定されるように前記共鳴胴の上方に延設されるとともにその下面は前記弦の張設方向において前記共鳴胴の全長の半分を超える位置まで前記共鳴胴から離間していることを特徴とする。さらに、前記共鳴胴は、前記弦の配列方向において前記ユニット体の両側に同じ形状に膨らむように形成されていることを特徴とする。さらに、前記ユニット体は、前記共鳴胴から離間した部分において両側部が中心部よりも厚さが厚くなるように下面が湾曲形成されていることを特徴とする。さらに、前記下駒から前記弦係止部材までの前記弦を覆うように設けられるとともに前記共鳴胴の側面に一方の端部が固定された手置き台を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記のような構成を有することで、糸巻部、上駒、指板部及び鍵キー作動機構をユニット化してユニット体とし、ユニット体を共鳴胴の一方の端部側に設けた支持部に載置固定してその下面を共鳴胴から離間して設置しているので、共鳴胴に接触して振動を妨げるものを極力排除することが可能となり、共鳴胴からのきれいな音色を大きくかつ長く響かせることができる。
【0009】
そして、ユニット体は、他方の端部が下駒と所定の間隔だけ空けて設定されるように共鳴胴の上方に延設されるとともにその下面は弦の張設方向において共鳴胴の全長の半分を超える位置まで共鳴胴から離間するようにすれば、弦の張設方向に共鳴胴を大きく設定することができる。すなわち、開放弦の音の高さにより下駒と上駒との間の長さは決まってくるため、共鳴胴を大きく設定するためにはユニット体の下方に拡大していく必要があるが、本発明の場合には、上述したようにユニット化されているため共鳴胴を容易に拡大することができる。そして、ユニット体の下面を弦の張設方向において共鳴胴の全長の半分を超える位置まで離間しておけば、共鳴胴の振動への影響を抑えることができる。
【0010】
また、共鳴胴の幅を弦の配列方向においてユニット体の両側に膨らむように大きく設定することで、音楽ホール等での演奏に耐えるだけの豊かな音色と音量を発生させることが可能となる。従来の大正琴のように、直方体状で細長い共鳴胴では、音量を大きくしようとすると弦を強く弾かなければならず、そのため雑音が混じって音色が悪くなるが、本発明のように構成することで、共鳴胴により音量が大きくなるため音色を重視した細やかな演奏ができるようになる。
【0011】
そして、ユニット体の下面を、共鳴胴から離間した部分において両側部が中心部よりも厚さが厚くなるように湾曲形成することで、ユニット体の強度が向上し鍵キー作動機構で鍵キーを押下してもユニット体が撓む等の変形が抑えられる。特に、ユニット体に搭載された鍵キー作動機構は重量が重く、それを十分支持することができる補強を行う必要がある。
【0012】
また、下駒から弦係止部材までの弦を覆うように設けられるとともに共鳴胴の側面に一方の端部が固定された手置き台を備えることで、ピックを持つ手を手置き台に置くため共鳴胴に手が接触することがなく、さらに手置き台が共鳴胴の側面に固定されるため共鳴胴の上面の振動が影響を受けることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0014】
図1及び図2は、本発明に係る実施形態に関する平面図及び側面図を示している。大正琴1は、共鳴胴2の一方の端部側の側面に支持部5が固定されており、他方の端部側に手置き台4が固定されている。そして、ユニット体3は、一方の端部側が支持部5の上面に密着して固定され、他方の端部側が共鳴胴2の上方に延設されている。そして、ユニット体3の下面と共鳴胴2の上面との間には所定の間隔の間隙6が形成されて両者は離間した状態となっている。
【0015】
共鳴胴2は、上板2a及び下板2bが徳利状に膨らんだ形状に形成されており、上板2a及び下板2bの周縁部に所定幅の側板2cが接着されている。上板2a、下板2b及び側板2cは、木製の薄板からなり、側板2cは、上板2a及び下板2bの膨らんだ周縁に合せて湾曲形成されている。したがって、共鳴胴2の内部は上板2a及び2bの外形状に沿った空洞が形成されている。上板2a及び下板2bの形状は、膨らんだ形状であれば、徳利状以外の形状、例えば菱形や瓢箪状でもよく、表面積が大きいほど共鳴による音量を豊かにすることができる。
【0016】
ユニット体3は、厚みのある木製の矩形状基台30の一方の端部側に矩形状の開口部31を形成し、開口部31内に糸巻部32を設置固定している。糸巻部32は、公知のものと同様のものを用いることができ、3本の弦7の一方の端部をそれぞれ巻付バーに巻回して巻付バーを摘み部により回転させることで弦7に与える張力を調節する。糸巻部32に隣接して上駒33及び鍵キー作動機構34が順次基台30の上面に配置固定されている。 鍵キー作動機構34は、弦7の張設方向に複数の鍵キー35が配列されており、これらの鍵キー35は、弦の張設方向に延設されたキー支持部36に上下動可能に支持されている。キー支持部36は、天板37の下面に固定され、天板37の長手方向の両端部が基台30に立設する一対の取付部材38により所定の高さに固定される。そして、キー支持部36の下方には、弦7を挟んで帯状の指板39が対向するように基台30の上面に接着固定されている。キー支持部36に支持された鍵キー35は、弦7に接触しない位置に保持されているが、鍵キー35を押下することで、鍵キー35と指板39との間に弦7が圧接挟持されるようになる。指板39上には、弦7が所定の音の高さで振動する弦長(下駒8を起点とした長さ)となる位置にフレットが複数突設されており、鍵キー35の指板39上の圧接位置は、これらのフレットの間に位置決めされている。そのため、鍵キー35を押下すると弦7が圧接された状態となり、対応するフレットの弦長に基づく音を奏することができる。こうした鍵キー作動機構の構造は公知のものと同様である。
【0017】
共鳴胴2に固定された支持部5は、木製でL字状に形成されており、その上面は共鳴胴2の上板2aと面一となるように設定されている。そして、支持部5の上面には、糸巻部32が配設された基台30の下面が接着固定されている。
【0018】
ユニット体3の他方の端部から所定間隔を空けた位置に下駒8が共鳴胴2の上板2aの上面に載置されており、糸巻部32に一方の端部を巻回された弦7が上駒33の上端に係合して鍵キー作動機構34内を通り下駒8の上端に係合している。そして、下駒8に係合された弦7の他方の端部は、手置き台4の根元部分において共鳴胴2の側面に固定された弦係止部材に係止されている。
【0019】
したがって、3本の弦7は、上駒33と下駒8との間に互いに平行で等間隔に配列される。そして、ユニット体3と下駒8との間の演奏位置においてピックにより弦7を弾くことで発音するようになる。共鳴胴2の上板2aには、演奏位置を囲むように三日月状の響口20a及び20bが穿設されており、共鳴胴2の振動から発する音の音色を豊かなものにする。響口の形状は、三日月状に限定されることはなく共鳴胴2の音響特性に応じて適宜変更すればよい。
【0020】
手置き台4は、木製の板状体で根元部分が折れ曲がるように形成されており、先端が下駒8に近接した位置まで延設されている。そして、根元部分が共鳴胴2の側面に固定されている。また、根元部分には、矩形状の開口部が形成されて上述した弦係止部材が配置されている。
【0021】
図3及び図4は、それぞれ図1のA−A断面図及びB−B断面図である。共鳴胴2の内部には、下駒8の設定位置の直下に棒状の魂柱21が配設されている。魂柱21は、上板2aの下面に接着固定された補強バー22と下板2bの上面に接着固定された補強バー23との間に圧接されて保持されている。魂柱21を設けることで、弦7の振動が下駒8から上板2a及び下板2bに伝搬して共鳴胴2全体が振動してより豊かな音量と音色を奏するようになる。
【0022】
共鳴胴2の上板2aと基台30との間には、基台30の下面を所定の厚さだけ削除して間隙6が形成されている。間隙6を形成する範囲は、弦7の張設方向の共鳴胴2の全長をLとすると、間隙6が形成された範囲までの長さdがL/2を超えるように設定するとよい。このように間隙6の形成範囲を設定することで、共鳴胴2が基台30から受ける影響を抑えて十分な振動を行うことができる。さらに、好ましくは、黄金比の比率(L/d=1.618・・・)とすれば共鳴胴2の共振を十分行うことができる。また、基台30の強度が十分得られる場合には、共鳴胴2の全長にわたって間隙6を形成するようにしてもよい。
【0023】
図3に示すように、手置き台4は、弦7を覆う部分がわずかに湾曲形成されて演奏の際の手の動きをスムーズに行えるようにしており、根元部分の開口部には弦係止部材9が設けられている。
【0024】
図4に示すように、鍵キー作動機構34のキー支持部36は、鍵キー35の作動バー35aの基端部を回動可能に支持する軸支部36aと作動バー35aをガイドするガイド部36bを備えており、軸支部36aでは、コイルバネ等により作動バー35aが上方に位置するように付勢されている。そして、ガイド部36bでは、作動バー35aの上下方向の移動を案内するガイド溝が形成されている。したがって、鍵キー35の鍵ボタン35bに指を置いて押下すれば、作動バー35aが下降して指板39上に弦7を圧接するようになる。
【0025】
天板37と基台30との間には、鍵キー35が配列された側とは反対側に木製の補強板40が天板37の長手方向にわたって接着固定されている。また、基台30の下面には、間隙6が形成されている部分では、両側部分30aの厚さが中心部30bの厚さよりも厚くなるようにアーチ状に湾曲形成されており、鍵キー作動機構34の重量を支持するためや鍵キー35を押下した場合等演奏時の圧力にも基台30が変形しないように強度向上が図られている。
【0026】
ユニット体3の強度を向上させるためには、図5のユニット体3の断面図に示すように、指板39の長手方向の全長にわたって囲むように金属製補強板41を設けたり、補強板40にさらに金属製の補強板42を設けるとよい。このような補強を行うことで、ユニット体3及び共鳴胴2を間隙6で離間した構造でも安定した状態で演奏を行うことができる。
【0027】
以上のように、本発明に係る大正琴は、共鳴胴2からユニット体3及び手置き台4を離間した構造とすることで共鳴胴2の振動を妨げることなく、また共鳴胴2を大きくすることでより豊かな音色と音量を得ることができ、音楽ホール等での演奏に用いる楽器として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る実施形態に関する平面図である。
【図2】本発明に係る実施形態に関する側面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】ユニット体の断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 大正琴
2 共鳴胴
3 ユニット体
4 手置き台
5 支持部
6 間隙
7 弦
8 下駒
9 弦係止部材
30 基台
32 糸巻部
33 上駒
34 鍵キー作動機構
39 指板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部側に糸巻部を設けるとともに上駒、指板部及び鍵キー作動機構が上面に配置固定されたユニット体と、一方の端部側に前記ユニット体を載置固定する支持部を設けるとともに他方の端部側に下駒及び弦係止部材を設けた共鳴胴と、前記弦係止部材に一方の端部を係止固定されて他方の端部側を前記糸巻部で巻回され前記上駒及び下駒の間に張設して配列された複数の弦とを備え、前記共鳴胴は、前記弦の配列方向において前記ユニット体の両側に膨らむように幅が大きく設定されており、前記ユニット体は、他方の端部が前記下駒と所定の間隔だけ空けて設定されるように前記共鳴胴の上方に延設されるとともにその下面は前記弦の張設方向において前記共鳴胴の全長の半分を超える位置まで前記共鳴胴から離間していることを特徴とする大正琴。
【請求項2】
前記共鳴胴は、前記弦の配列方向において前記ユニット体の両側に同じ形状に膨らむように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の大正琴。
【請求項3】
前記ユニット体は、前記共鳴胴から離間した部分において両側部が中心部よりも厚さが厚くなるように下面が湾曲形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の大正琴。
【請求項4】
前記下駒から前記弦係止部材までの前記弦を覆うように設けられるとともに前記共鳴胴の側面に一方の端部が固定された手置き台を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の大正琴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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