説明

大気浄化機能を有する印刷媒体およびその施工方法

【課題】屋外構築物、例えば、土木・建築、フェンス、コンテナ等の壁面を用いて、大気中の汚染物質を分解除去し、大気汚染を防止すると共に、広告・告知メディアとして、また景観保持・改善としての効果を奏する印刷媒体およびその施工方法を提供することである。
【解決手段】屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接または該側面に設置された基板に、接着剤層を介して被印刷媒体、該被印刷媒体に印刷を施した印刷層を積層し、この印刷層を覆う透過性のフィルムまたはシートを接着積層した保護層、更に該保護層の表面に光触媒粒子を含有する光触媒を披着させて積層した光触媒層とを必須の層とする多層構造からなる大気浄化機能を有する印刷媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外構築物の少なくとも1つの側面を利用する大気浄化機能を有する印刷媒体およびその施工方法に関する。より詳しくは、屋外構築物の外表面を、広告、告知、美観・景観等の改善・向上のために活用すると共に、排ガス、粉塵等の動植物に対して有害な有機物質による外気の汚染を削減せしめるに有効な印刷媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の支持媒体に施された文字、絵柄を通じて情報を伝える手段として、印刷媒体が、古くから広く利用されている。この印刷媒体による情報伝達は、近年、情報メディアとして、電子メディアが広く活用される等多様化している。しかしながら、いまなお、屋内外構築物の内外面を利用した印刷媒体が、小型から大型まで、広告、告知、景観改善、美観創出のための媒体として広く利用されている。
このような印刷媒体は、特に、屋外に設置されて、外気に曝されると、自動車やトラック等の化石燃料の燃焼排気ガス等による大気中の有機汚染物質により損傷を受け、その有用期間が短くなってしまう。
また、印刷媒体自体の問題としてだけではなく、大気の汚染は、地上の動植物にとって正常な生活、発育等を阻害するものとして深刻な悪影響を与え、大気汚染の防止や汚染された大気の清浄化等に様々な対策が検討され、実施されている。
【0003】
例えば、高速道路や自動車専用道路等の環境は、自動車の排気ガスにより汚染が進行し、この大気汚染を極力防ぐための工夫も多々行われている。道路附帯設備物が、大気汚染物質により変色し、美感が損なわれるのを防止する対策として、接着層を介して光触媒層を基材に担持した道路附帯設備物構成材が提案されている(特許文献1)。
この提案に見られるように、空気中に飛散する悪臭や有害物質を分解して除去する材料、または、排水処理や浄水処理等を行うための環境浄化材料として、光触媒活性を有する酸化チタン(チタニア)が開発されている。
しかしながら、なお、広告メディアとしての効果を有し、かつ、大気の汚染を除去する効果を合わせて有する印刷媒体は、未だ十分に満足できる提案がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−27124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、屋外構築物、例えば、土木・建築物、コンテナ、フェンス、パネル等の側面を利用して、大気中の汚染物質を分解除去し、大気汚染を防止すると共に、広告・告知メディアとして、また景観保持としての効果を奏する、大気浄化機能を有する印刷媒体およびその施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
1.屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接または該側面に設置された基板に、接着剤層を介して、被印刷媒体の表面に印刷を施した印刷層を積層し、この印刷層を覆う透過性のフィルムまたはシートを積層した保護層、更に該保護の表面に光触媒粒子を含有する塗液を塗着させて積層した光触媒層とを必須の層とする多層構造からなる大気浄化機能を有する印刷媒体、
2.印刷層が、剥離シート、接着剤層および被印刷素材層を積層して調製された被印刷媒体の素材層面に所望の印刷を施して、該印刷を施した印刷媒体の剥離シートを剥離して接着し積層した層である1項記載の大気浄化機能を有する印刷媒体、
3.保護層が、シリカ系樹脂を含有する透明性の塗液を、印刷層の表面に塗布または吹付けて膜状に披着させたフィルムまたはシートである1項記載の大気浄化機能を有する印刷媒体、
4.屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接または該側面に設置された基板に、剥離シート、接着剤層および被印刷素材層を積層して調製された被印刷媒体に所望の印刷を施して、該被印刷媒体の剥離シートを剥離して接着し、ついで、該印刷媒体の表面に、透過性のフィルムまたはシートで覆って接着積層して保護層を形成し、さらに、該保護層の表面に光触媒を含む塗液を塗布または吹付けて光触媒層を形成させることを特徴とする大気浄化機能を有する印刷媒体の施工方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の大気浄化機能を有する印刷媒体は、屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接または該側面に設置された基板に、接着剤または粘着剤層を介して被印刷素材に印刷を施した印刷層を積層し、この印刷層を覆う透過性のフィルムまたはシートを積層して保護層とし、更に該保護層の表面に光触媒粒子を含有する光触媒層を塗着させて積層した多層構造からなるものである。この印刷媒体は、屋外構築物の少なくとも1側面に直接、または該側面に設置された基板に、好ましい態様として、予め調製された被印刷媒体に所望の文字や絵柄を印刷した印刷層、該層の表面を覆う透過性フィルムまたはシートによる保護層、さらに該保護層の表面に光触媒を含有する光触媒層を順次積層して施工することができる。この施工は、印刷媒体の設置現場で各層を順次積層する方法であっても、また、予め必要な各層を積層して調製された印刷媒体を屋外構築物の側面に設置することもできる。したがって、印刷媒体の大きさに従い、施工費用に適合した施工法を選択し、実施することができる。
【0008】
本発明によれば、印刷媒体の屋外構築物への取り付けは、簡略な工程で施工でき、所望の広告または告知情報を知らしめたり、また、市街地や建造物の建造現場の美観を整備したり、あるいは市街地や港湾に置かれたコンテナの美観を向上させたりすることができる。また、印刷媒体の構造は、印刷媒体の文字または絵柄が明瞭に視認でき、印刷に使用される絵具や顔料の光触媒による影響を防ぐことができる。
さらに、光触媒層に塗着された光触媒粒子が、大気中の、例えば、アルデヒド、メルカプタン、アンモニア、各種のアミン類等の悪臭物質や有害物質の分解脱臭や、NOx、SOx、PCB、ダイオキシン、有機ハロゲン化合物、有機リン化合物等の有害物質の分解除去や、各種の菌類や藻類等の殺菌・藻処理等の効果も認められるので、本発明の印刷媒体を設置した屋外構築物周辺の空間の環境保護および環境浄化に寄与することができる。光触媒のNOxガスの分解効果は、樹木が齎す軽減効果に比べても著しく優れたものであるので、樹木の少ない市街地や港湾地域の排ガス等による大気中の有害物質の低減に極めて有効であり、その設置された印刷媒体の有用期間を長く維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において、屋外構築物とは、屋外に建築、建設、建造される土木、建築物を目的として構築された物、陸上または海上を運航する車輌、または物品の運搬や保管をする構造物等を言う、例えば、建築物、建築物周辺に作られる外構物(例えば、柵、フェンス、パネル等の囲い)、コンテナ(貨物の運送に用いる輸送箱、簡易倉庫としての利用等)、車輌の車体等を含み、本発明の印刷媒体はこれらの側面に適用して本発明の効果を奏するものである。
また、本発明において、被印刷媒体とは、紙、合成紙、不織布、樹脂シートまたはフィルム等の印刷され得る素材自体または、これらの素材に接着剤または粘着剤層、および剥離剤、剥離シート等を積層して調製された印刷され得る媒体を指す。また、印刷媒体とは、前記の被印刷媒体上に印刷を施されたものを言い、両者を区別した。
【0010】
本発明の大気浄化機能を有する印刷媒体は、少なくとも次の層を積層した多層構造からなるものである。
すなわち、屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接または、該側面に設置された基板に取り付けられる、少なくとも、
(1)接着剤層を介した接着されている、被印刷媒体の表面に印刷を施した印刷層、
(2)この印刷層を覆う透過性のフィルムまたはシートを積層した保護層、
(3)更に該保護層の表面に光触媒粒子を含有する塗液を塗着させて積層した光触媒層、
を順次積層した多層構造からなる印刷媒体である。
これら(1)〜(3)の層を必須の層とし、必要により本発明の効果を阻害しない範囲で他の層を含ませることはできる。
【0011】
また、本発明の施工方法は、上記の印刷媒体を施工できる方法であれば、特に限定されないが、好ましくは、次の方法が挙げられる。
すなわち、屋外構築物の少なくとも1つの側面に、直接または該側面に設置された基板に、
(1)(a)剥離シート、接着剤層および被印刷素材層を積層して調製された被印刷媒体の素材層面に所望の印刷を施して、該印刷を施した印刷媒体の剥離シートを剥離して接着し、または、(b)被印刷素材に印刷を施したあと、印刷媒体を、屋外構築物の側面または基板に接着剤により接着して、印刷層を形成し、ついで、
(3)(c)該印刷媒体の表面に、フィルムまたはシートを覆って接着して保護層を積層し、または(d)該印刷媒体の表面に、フィルム形成能を有する樹脂を披着してフィルム状に保護層を形成し、
(4)該保護層の表面に光触媒を含む塗液を塗布または吹付けて光触媒層を形成させることを特徴とする大気浄化機能を有する印刷媒体の施工方法、
である。
【0012】
本発明の大気浄化機能を有する印刷媒体を設置する屋外構築物の個所は、本発明の印刷媒体が有効に本発明の効果を奏する少なくとも1つの外部側面、いわゆる壁面であり、光照射を受ける側面が好ましい。その側面は、平面でも、なだらかな曲面でも良い。また、被印刷媒体または印刷媒体を強固に接着できる面であれば、多少の粗面であっても良い。壁面が粗面であるときは、滑らかな平面とするため、接着剤の接着力を低下させない範囲で、緩衝・充填剤を予め塗布すればよい。
あるいは、屋外構築物の側面に、平面である基板を、ビス等の留め具で強固に取り付けても、または、本願に関わる被印刷媒体または印刷媒体を取り付けるための枠体を設けて取り付けても良い。
なお、本発明の印刷媒体は、特に太陽光が届く範囲の位置で大気浄化機能を奏するので、係る位置であれば、側面のみならず、天井、床面であっても、必要により適用することは可能であり、また、光触媒が可視光応答型を用いれば、適用できる範囲が上記の範囲に限定されず、より紫外線が弱い、広い範囲の光照射下で適用できる。
【0013】
基板を用いるとき、基板の材質としては、木材、木質ボード、合板等の木質繊維板、無機基材でも、または有機重合体から選ぶことができる。
無機基材としては、Si化合物、Al化合物、各種セラミックスや金属等が挙げられる。具体的には、シリカ、アルミナ、ムライト、スピネル、ジルコニア、チタニア、黒鉛、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、鉄、ステンレス、チタン、ジルコン等が挙げられる。
【0014】
有機重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン6、ナイロン66、アラミド、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、シリコン樹脂、ビニルアセタール樹脂、ポリアセテート、ABS樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フェノール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。
【0015】
また、基板を屋外構築物に固定するために、印刷媒体を取りつける枠体を設置する場合は、その形状や材質は特に限定されない。強度と耐久性、耐候性等を考慮して適宜選択できる。特に、アルミニウム板体が、軽量で設置しやすく、かつ、撓むこともなく平面を保持する強度を有しているので、好ましい。枠体に基板を設置するには、接着剤、ビス止め等、任意の固定方法が使用すればよい。
【0016】
本発明の大気浄化機能を有する印刷媒体の各層について説明する。
印刷層は、染料や顔料等の塗料で文字または絵柄を直接描写または印刷し得る素材を用いて構成される。被印刷素材としては、特に限定されず、紙、合成紙、布、不織布、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン等のプラスチックフィルムやシート等が使用される。
本発明の印刷媒体は、
(1)これらの被印刷素材を、施工現場で屋外構築物の所望の側面に、または側面に設置された基板に接着剤により貼着し、その素材上に文字および絵柄を描写した印刷層(この手描の態様も印刷層と言う)、
(2)また、予め被印刷素材に印刷した印刷媒体を接着剤で貼着した印刷層、
(3)さらに好ましくは、剥離シート、接着剤層および被印刷素材層を積層して調製された、例えば、被印刷素材層の一方の面に接着剤を塗布して接着剤層を設け、その層上に剥離シートを貼付した被印刷媒体を用い、その印刷素材面に印刷した印刷媒体を、剥離シートを剥離して接着した印刷層、
があげられる。
【0017】
予め調製される被印刷媒体において、剥離シートとしては、特に限定されないが、表面にシリコンがコーティングされている紙や表面が平滑なポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂シートからなるものが使用できる。また、印刷素材と剥離シートとの間の接着剤層に用いられる接着剤としては、印刷素材と剥離シートの組み合わせに応じて、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エマルジョン系接着剤等を適宜選択して用いることができる。また、接着剤のほか、目的に応じ粘着剤が適宜使用されることがある。
また、印刷素材または印刷媒体を、側面または基板に接着する接着剤は、特に限定されず、印刷媒体の大きさ、重量を勘案し、各種の接着剤の中から適切なものを選択使用できる。例えば、アクリレート系接着剤、尿素メラミン系接着剤、フェノール系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコン系接着剤等が挙げられる。
【0018】
被印刷媒体の素材層の表面に表示される文字や絵柄等の作成方法は、所望の文字や絵柄が描写できる方法であれば特に限定されない。手描きは勿論、凸版印刷、オフセット印刷、平板印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷または静電印刷等の印刷方式が適用される。
これらの印刷において用いられるインク塗料の染料または顔料は、特に限定されないが、耐候性の優れたものが選択使用される。
【0019】
保護層は、被印刷媒体の素材面に、上記により文字または絵柄を印刷した印刷媒体の表面を覆うフィルムまたはシートの層である。
フィルムまたはシートの素材として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン6、ナイロン66、アラミド、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、シリコン樹脂、ビニルアセタール樹脂、ポリアセテート、ABS樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フェノール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂等から選択される樹脂のフィルムまたはシートであり、印刷された文字や絵柄を視認できる透過性良好な素材を使用する。
なかでも、光触媒粒子との相容性に優れた樹脂、例えば、シリカ系樹脂(シリカ化合物を含有するケトン樹脂)の有機溶媒溶液を印刷層表面に所定の厚みに塗布または吹付けて、薄膜を形成したものが作業性および酸化チタン粒子の均一な分布および触媒効果を有効に発現させるフィルムまたはシートとして好ましい。
通常、保護層の厚みは、通常0.1〜0.5μmであればよい。
【0020】
また、これらフィルムまたはシートを印刷媒体層の表面(印刷した表面を指す)に接着するには、フィルムまたはシートの一方の面に予め接着剤層、更に該層に剥離シートを貼付してなるように調製された表面保護フィルムまたはシートを使用することもできる。剥離シートを有するフィルムまたはシートでは、剥離シートを剥離しながら印刷媒体の表面に貼着する。
あるいは、印刷媒体の表面に接着剤を塗布し、その後、フィルムまたはシートを貼着しても良い。
接着剤としては、特に限定されず、通常、フィルムまたはシートを接着に用いられるものが使用される。例えば、アクリル系樹脂、スチレンブタジエン共重合体、天然ゴム、フェノール系樹脂、また、加熱により接着性が付与される感熱接着剤といわれるもの、例えば、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、またはこれらの共重合体、アクリル樹脂またはエチレン−アクリル酸共重合体等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の未硬化の熱硬化樹脂を用いることもできる。
【0021】
光触媒層は、光触媒粒子をバインダーに含有させた塗工剤を保護層の表面に塗布またはスプレーで塗着させて形成する層である。
光触媒粒子として、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、硫化カドミウム、タンタル酸カリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、セレン化カドミウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化タングステン、酸化スズ等が挙げられるが、好ましくは、酸化チタンであり、酸化チタンは、その結晶構造の違いからルチル型、アナタ−ゼ型およびブルッカイト型の酸化チタンがあるが、好ましくは、ルチル型、アナタ−ゼ型酸化チタンであり、より好ましくは、触媒能が高く、透明性の高い微粒子のアナターゼ型酸化チタン、また、紫外線下のみならず可視光下でも光触媒効果を発揮する高効率酸化チタン光触媒が、印刷媒体の設置環境によっては選択使用されることが好ましい場合がある。
【0022】
光触媒粒子は、溶媒に分散させてスラリーとし、これにバインダーを添加して塗工剤として、これを前記の保護層の表面に塗着させる。塗工する方法は、箆、鏝、ローラー等の塗布用具を用いて塗布しても、また、スプレー塗布用具を用いて吹付けても良い。スプレー塗装の方法は特に限定されず、エアー霧化方式、エアーレス方式、エアー霧化低圧方式等のそれぞれの方式に適切なスプレーガンを用いて塗装し塗膜を形成することができる。作業効率からスプレーによる塗布が好ましい。
光触媒粒子の溶媒には、特に制限がないが、通常、光触媒粒子の表面は、親水性であるため、親水性溶媒が好ましく用いられる。また、水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒のような水系溶媒が推奨される。
【0023】
スラリー中の光触媒粒子の含有割合については特に制限はなく、例えば、0.01質量%〜50質量%、さらには1質量%〜40質量%の範囲が望ましい。光触媒粒子の含有量が0.01質量%を下回ると、塗工後に十分な光触媒効果が得られない。
50質量%を超えると増粘等により塗工不良となり、かつ、経済的に不利である。水を含有する溶媒を使用するときは、そのスラリーのpHは5〜9であることが好ましい。さらに好ましくは、pH6〜8である。pHが5より小さいか、9より大きいと、生体や環境に対して好ましくない影響を与えたり、金属に対する腐蝕作用が無視できなくなったりするので、好ましくない。コーティング等の成型時の光触媒能や接着性の向上のために、前記スラリーに、各種金属酸化物を追加することができる。金属元素としては、遷移金属元素やアルカリ土類金属、アルカリ金属、IIIb族またはIV族から選ばれるZr、Si、Sn、Tiが好ましい。中でも、Zr、Siが好ましい。
前記金属酸化物の追加方法には、特に制限はないが、例えば、金属アルコキシドを原料として液相法により合成されたゾルを前記スラリーに添加する方法が挙げられる。
【0024】
上記スラリー(分散体)にバインダーを任意に添加して塗工剤となし、これをシートの表面に塗布することにより、光触媒活性を有するシートを製造することができる。塗工剤は、塗料やコーティング組成物等の形態で使用することができる。ここで添加するバインダーの材料については特に制限はなく、有機系バインダーであっても、無機系バインダーであってもよい。有機系バインダーには、水溶性のバインダーが挙げられるが、具体例としては、ポリビニルアルコール、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、セルロイド、キチン、澱粉シート、ポリアクリルアミド等が挙げられる。無機系バインダーとしては、Zr化合物、Si化合物、Ti化合物、Al化合物が例示される。具体的には、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等のジルコニウム化合物、アルコキシシラン、ケイ酸塩等の珪素化合物等が挙げられる。
【0025】
塗工剤中のバインダーの添加量は、例えば、0.01質量%〜20質量%、好ましくは1質量%〜10質量%の範囲が好ましい。
バインダーとの混合後の塗工剤のpHは5〜9、好ましくは6〜8である。
上記例示したスラリーは、光透過率が高いので、これから得られる膜も透明性が高い。透明性の高い膜を与える光触媒粒子としては、液相法によって合成された二酸化チタンを原料として使うことが推奨される。
具体的には、TiCl水溶液や硫酸チタニル水溶液を原料として熱加水分解したり、中和加水分解したりして得られる粒子を多塩基酸塩で表面処理した粒子等が例示される。通常、形成された膜が光触媒活性を効果的に示す膜の厚みは、0.01〜100μmである。また、干渉縞を効果的に抑制するためには、その膜の厚みは、0.01〜0.1μm、または1μm以上であることが好ましい。
以下、本発明の具体的実施態様を実施例としてあげる。しかし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
インクジェット印刷に適用可能な剥離シート、接着剤層および印刷素地層(軟質系のポリオレフィン系)からなる被印刷媒体(ニップコーポレーション社製:NBG1200GMRT)を用い、屋外耐候性有機溶剤系インクを用いて所望の文字および絵柄にデザインされた広告をインクジェット印刷装置により印刷し、印刷済みの印刷媒体を調製した。
この印刷媒体を、コンテナの側面に剥離シートを剥離して、直接に貼着した。
印刷媒体層の表面に、シリカ樹脂をケトン系溶媒に溶解した溶液にアルコール・水により粘度を調整した塗液(石原産業(株)、銘柄名:ハイドロテクトST−K152aおよびハイドロテクトST−K152b)を調製し、この塗液をエアースプレーガンにより、塗膜の厚さが0.2〜0.3μmになるように吹付けて、保護フィルム層を形成させた。
つぎに、粒子径が0.5〜1nmのアナターゼ型の酸化チタン微粒子を、アルコール・水に溶解した酸化チタン含有の塗工液(石原産業(株)、銘柄名:ハイドロテクトST−K252)をエアースプレーガンにより、塗膜の厚さが0.1〜0.2μmになるように保護層の表面に吹付けて光触媒層を形成させた。
光触媒層は、透過性良好な塗膜であり、印刷された文字および絵柄が十分に視認できた。
また、その大気浄化機能は次の参考例に示すように優れたものである、
【0027】
参考例
実施例1に準じて、光触媒層を形成した試料を調製し、この試料を用いてNOxの分解率を測定した。
試料(50mm×100mm)の正面から紫外線を5時間照射した後、気体が流通するような容器中で、NOxを1ppmの濃度に設定した混合ガスを毎分3リットル、5時間供給し分解率を測定した。
その結果、試料のNOx除去率は、供給したNO量当たり27.6%であり、試料の1000m当たりの除去量は75gと計算された。
ポプラが1日当たりに減らすNOxの量は、0.57g/1本であれば(環境再生保全機構編「大気浄化植樹マニュアル」)、本発明の印刷媒体1000m当たりのNOx除去量は、1日8時間の照射として、75g×8(1日の照射時間)/5(試験時間)=120gであるので、この除去量はポプラ120/0.57=210.5本分に相当することになり、その効果は大きいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の大気浄化機能を有する印刷媒体は、屋外構築物である、例えば、柵、フェンス、パネル、コンテナ等の側面を広告、告知情報の表示する媒体として、また、その周辺の大気中の悪臭物質や有害物質の分解脱臭や、NOやSOの有害物質の分解除去等の効果も認められるので、屋外構造物の側面を広告、景観美観の向上・改善に有効に利用できるとともの環境浄化にも資することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接または該側面に設置された基板に、接着剤層を介して被印刷媒体の表面に印刷を施した印刷層を積層し、この印刷層を覆う透過性のフィルムまたはシートを積層した保護層、更に該保護層の表面に光触媒粒子を含有する塗液を塗着させて積層した光触媒層とを必須の層とする多層構造からなる大気浄化機能を有する印刷媒体。
【請求項2】
印刷層が、剥離シート、接着剤層および被印刷素材層を積層して調製された被印刷媒体の素材層面に所望の印刷を施して、該印刷を施した印刷媒体の剥離シートを剥離して接着し積層した層である請求項1記載の大気浄化機能を有する印刷媒体。
【請求項3】
保護層が、シリカ系樹脂を含有する透明性の塗液を、印刷層の表面に塗布または吹付けて膜状に披着させたフィルムまたはシートである請求項1記載の大気浄化機能を有する印刷媒体。
【請求項4】
屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接または該側面に設置された基板に、剥離シート、接着剤層および被印刷素材層を積層して調製された被印刷媒体に所望の印刷を施して、該被印刷媒体の剥離シートを剥離して接着し、ついで、該印刷媒体の表面に、透過性のフィルムまたはシートで覆って接着積層して保護層を形成し、さらに、該保護層の表面に光触媒を含む塗液を塗布または吹付けて光触媒層を形成させることを特徴とする大気浄化機能を有する印刷媒体の施工方法。

【公開番号】特開2010−214843(P2010−214843A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65773(P2009−65773)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(509331205)ビイ アンド ビイ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】