説明

大腸癌治療薬

【課題】大腸癌を治療する新規方法を提供すること。
【解決手段】AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体若しくはその抗体断片を含有する大腸癌治療薬。すなわち、short interfering RNA(以下、siRNAとする。)は、AMIGO2遺伝子の転写産物(mRNA)であって標的とする配列と相補的なRNA(アンチセンスRNA鎖)および当該RNAに相補的なRNA(センスRNA鎖)が結合した二重鎖RNAであり、siRNAが細胞に導入されると、RNAi現象が生じ、相同な配列を有するRNAが分解されるが、本発明のsiRNAは、AMIGO2遺伝子のmRNAを標的として切断し、大腸癌に関与するAMIGO2の発現を特異的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸癌治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、世界各国において主要な死亡原因であり、近年の分子標的薬の出現等によってもなおさらなる治療法が模索されている。特に、抗体を治療薬として用いる技術の発展は著しく、癌に対する治療薬としても、トラスツズマブ、リツキシマブ等が優れた治療効果を示している。また、細胞に二本鎖RNAを導入し、標的遺伝子(mRNA)を破壊することで発現を抑制すると云うRNA干渉(RNA Interference)を用いた癌に対する治療薬も開発されている。
斯様に、現在開発中の治療薬も数多く存在するが、さらに新規な機序により作用する薬剤が求められている。
【0003】
ところで、AMIGO2は、同じファミリーであるAMIGO1及びAMIGO3と、アミノ酸数、ドメイン、及び遺伝子配列のホモロジーが極めて類似している。これらは全て、1回膜貫通型タンパク質で、シグナルペプチドを持つ。このことは、AMIGO2タンパク質が膜タンパク質であると同時に、血液中にも分泌される可能性を示唆している。AMIGOファミリーのタンパク質の構造は、全て類似し細胞外に6つのleucine rich repeats(LRRs)を持ち、これらのドメインを挟むようにしてLRRアミノ末端ドメインとLRRカルボキシル末端ドメインが存在する。また、細胞外の膜貫通ドメインの近くには、immunoglobulinドメインが存在する。AMIGOファミリーは、神経組織に発現し、細胞接着分子として機能することが示唆されている(非特許文献1)。
【0004】
さらに、特許文献1には胃癌とAMIGO2との関連が示されている。また、特許文献2には、AMIGO1が上皮成長因子受容体(EGFR)をリン酸化する機能を有し、EGFRを発現する癌と関連することが示唆されているが、AMIGO2と癌との関連には言及されていない。これらの文献にはAMIGO2遺伝子のsiRNAや抗AMIGO2抗体が大腸癌の診断や治療に使用できるとの記載や示唆はない。
【非特許文献1】J Cell Biol.2003 Mar 17;160(69):963−73.
【特許文献1】国際公開WO2004/003165パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2004/055055パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に癌の手術による治療は、転移巣の治療が困難であるばかりでなく、侵襲と合併症の併発を伴うことが多く、更なる新規な作用機序により作用する薬が望まれている。また、放射線治療については、健常組織への被爆が問題である。
【0006】
本発明の目的は、新たな大腸癌治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、配列番号1および配列番号2の配列を含むsiRNA(二重鎖RNA)を大腸癌細胞に投与すると、AMIGO2遺伝子のmRNAの発現量が低下し、大腸癌細胞の増殖が抑制されることを見出した。
さらに、AMIGO2遺伝子が大腸癌の増殖に関与することから、AMIGO2タンパク質に対する抗体を作製し、好適な抗体を選択すれば、大腸癌の診断薬及び治療薬としての利用も可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体若しくはその抗体断片を含有する大腸癌治療薬を提供するものである。
また、本発明は、抗AMIGO2抗体又はその抗体断片を含有する大腸癌診断薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
手術を伴わず、患者の負担が少ない大腸癌の非侵襲的な治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明により、診断及び治療される疾患は、大腸癌である。診断及び治療の対象となる動物は、ヒトであることが好ましいが、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等の哺乳類でも良い。
【0011】
本発明のshort interfering RNA(以下、siRNAとする。)は、AMIGO2遺伝子(配列番号3)の転写産物(mRNA)であって標的とする配列と相補的なRNA(アンチセンスRNA鎖)および当該RNAに相補的なRNA(センスRNA鎖)が結合した二重鎖RNAである。
一般的にsiRNAが細胞に導入されると、RNAi現象が生じ、相同な配列を有するRNAが分解されるが、本発明のsiRNAは、AMIGO2遺伝子(配列番号3)のmRNAを標的として切断し、大腸癌に関与するAMIGO2の発現を特異的に抑制することができる。
ここでsiRNAは、配列番号1又は配列番号2を含むことが好ましい。
【0012】
本発明のsiRNAには、siRNAそのもの(二重鎖RNA)の他、当該siRNAを生成するようなshRNA(short hairpin RNA),dsRNA(double strand RNA)又はそれらを発現できる発現ベクターも含まれ、これらはRNAiを引き起こすことができればどのような形態のものでもよい。
【0013】
当該siRNAは、人工的に化学合成されたもの、修飾されたもの、生化学的に合成されたもの、又は生物体内で合成されたもの或いは約40塩基以上の二本鎖RNAが生体で分解されたものであり、10塩基対以上の二本鎖RNAである。siRNAの塩基数は、一般的には10〜30塩基、好ましくは15〜25塩基、より好ましくは19〜23塩基である。
また、当該siRNAは、通常、5‘−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3‘末端は約2塩基突出していることが好ましい(Elbashir SM, Harborth J, Lendeckel W, Yalcin A, Weber K, Tuschl T. Duplexes of 21−nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells. Nature. 2001 May 24; 411(6836): 494−8)。
siRNAは一本鎖化し、一方の鎖(ガイド鎖)がタンパク質と共に、RISC(RNA−induced−silencing−complex)を形成する。RISCは、ガイド鎖と相補的な配列を有するmRNAを認識して結合し、siRNAの中央部でmRNAを切断する。斯様にして、siRNAは、その標的となる遺伝子(本発明においてはAMIGO2遺伝子)のmRNAを分解することによりその発現を抑制すること、即ち大腸癌の増殖を抑制することができる。
【0014】
本発明のsiRNAは、AMIGO2遺伝子の塩基配列を基に標的となる配列を選択し、調製することで得られる。
例えば、AMIGO2遺伝子塩基配列に基づき、標的配列として転写産物であるmRNAの連続する領域の配列を選択する。配列の選択の一例としてChalkらの報告(Chalk AM, Wahlestedt C, Sonnhammer EL. Improved and automated prediction of effective siRNA. Biochem Biophys Res Commun. 2004 Jun 18;319(1):264−74.)、Ui−Teiらの報告(Ui−Tei K, Naito Y, Takahashi F, Haraguchi T, Ohki−Hamazaki H, Juni A, Ueda R, Saigo K. Guidelines for the selection of highly effective siRNA sequences for mammalian and chick RNA interference. 2004 Feb 9;32(3):936−48.)による方法等が挙げられるがこれに限定されない。選択した領域に対応する二重鎖RNAを、化学的in vitro合成系、ファージRNAポリメラーゼを用いたin vitro転写法、クローン化cDNAをもとに転写・会合した長いdsRNAをRNaseIII又はDicerによって切断する方法等によって、適宜調製することができる。
なお、得られたsiRNAの配列は、標的とするmRNA配列を切断することができればsiRNA配列の1若しくは数個を置換、欠失、挿入および/または付加したものでもよい。
【0015】
本発明において大腸癌の治療を行う場合、抗AMIGO2抗体と大腸癌細胞に発現したAMIGO2タンパク質を特異的に結合させ、大腸癌細胞に傷害を与えることにより行うことができる。細胞傷害は、抗AMIGO2抗体の細胞傷害活性、例えばADCC活性又はCDC活性を利用することができる。
【0016】
本発明の大腸癌治療および画像診断に用いられる抗体は、AMIGO2タンパク質と特異的に結合する限り、モノクローナル抗体であればキメラ抗体、ヒト化(CDR移植)抗体、ヒト抗体のいずれであっても良い。また、それら抗体は、大腸癌に対する治療効果があれば、市販されている抗体を使用してもよい。好ましくは細胞傷害活性を有する抗体である。さらに、本発明で使用される抗体は、糖鎖を改変された抗体であっても良い。抗体の糖鎖を改変することにより、抗体の細胞傷害活性を増強できる。また、大腸癌治療に用いられる抗体は、抗癌作用を有する抗体であれば良く、抗腫瘍効果のある物質を結合させた抗体でも良い。モノクローナル抗体に抗腫瘍効果を持つ薬物や放射性同位元素を結合させたモノクローナル抗体により、癌の治療が可能である。
【0017】
本発明における細胞傷害活性とは、例えば抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody−dependent cell−mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(complement−dependent cytotoxicity:CDC)活性などを挙げることができる。本発明においてCDC活性とは補体系による細胞傷害活性を意味し、ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性を意味する。
【0018】
抗AMIGO2抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定することができる。例えば、予め標的細胞に取り込ませた放射性物質51Crの放出を指標にした方法[Martin R.et al.(1990)Fine specificity and HLArestriction of myelin basic protein−specific cytotoxic T cell lines from multiple sclerosis patients and healthy individuals.J.Immunol.145,540.等]、予め標的細胞に取り込ませた蛍光物質Calceinの放出を指標にした方法[Lichtenfels R.et al.(1994)CARE−LASS(calcein−release−assay),an improved fluorescence−basedtest system to measure cytotoxic T lymphocyte activity.J.Immunol.Methods 172,227.等]、標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にした方法[Korzeniewski C.and Callewaert DM.(1983)An enzyme−release assay for natural cytotoxicity.J.Immunol.Methods 64,313.等]が報告されている。
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製を行う。
(1)エフェクター細胞の調製
BALB/cマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(Invitrogen社製)中で脾臓細胞を分離する。5−10%ウシ胎児血清(FBS)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×106/mLに調製し、エフェクター細胞を調製する。
(2)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を5−10%FBS含有RPMI1640(Invitrogen社製)にて適宜希釈し、補体溶液を調製する。
(3)標的細胞の調製
AMIGO2を発現する細胞(AMIGO2をコードする遺伝子で形質転換された細胞、膵癌細胞)を用意する。予め標的細胞に取り込ませた放射性物質51Crの放出を指標にした方法で細胞傷害活性を測定する場合は0.2mCiの51Cr−クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)とともに、細胞を10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより放射体標識する。放射体標識後、細胞を10%FBS含有DMEM培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×105/mLに調製して標的細胞を調製する。
予め標的細胞に取り込ませた蛍光物質の放出を指標にした方法で細胞傷害活性を測定する場合は25μMのCalcein−AM[3’,6’−Di(O−acetyl)−4’,5’−bis[N,N−bis(carboxymethyl)aminomethyl]fluorescein,tetraacetoxymethyl ester]とともに、細胞をPBS(Phosphate−Buffered Saline)中で37℃にて30分間培養することにより蛍光標識する。蛍光標識後、細胞を5% FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)で2回洗浄し、細胞濃度を2×105/mLに調製して標的細胞を調製する。標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にした方法で細胞傷害活性を測定する場合には、細胞を濃度2×105/mLに調製してそのまま用いる。
次いで、ADCC活性、又はCDC活性の測定を行う。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗AMIGO2抗体を50μLずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、エフェクター細胞100μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。培養後、100μLの上清を回収し、51Crの放出を指標とする場合にはガンマカウンター(COBRAIIAUTO−GMMA、MODELD5005、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定する。細胞傷害活性(%)は(A−C)/(B−C)×100により求めることができる。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1%Triton−X100などの界面活性剤を加えて細胞を全溶解した試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。蛍光物質Calceinの放出を指標とする場合には蛍光プレートリーダー(励起波長485nm/蛍光波長520nm)で蛍光強度を測定する。標的細胞に内在するLDHの放出を指標とする場合には、LDHとDiaphoraseの共役反応によってテトラゾリウム塩から生成される赤色のホルマザンをマイクロプレートリーダー(波長490nm)で測定する。
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞50μLと、抗AMIGO2抗体20μLを加え、氷上にて30分間反応させる。その後、補体溶液10μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。培養後、50μLの上清を回収し、放射活性などを測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして求めることができる。
【0019】
さらに、抗AMIGO2抗体は、大腸癌治療薬として癌組織に特異的にターゲティングさせるミサイル療法に用いることができる。すなわち、癌細胞に傷害をもたらす薬物を結合させた抗体を投与することにより、癌部特異的に移行させ、治療効果および副作用の軽減を意図した治療方法である。
薬物と抗体の結合は、当業者に公知の方法で行うことができる(Clin Cancer Res.2004 Jul 1;10(13):4538−49.)。抗体に結合させる薬物は、癌細胞に傷害をもたらす公知の物質を用いることができるが、好ましくは抗癌剤と毒素であり、さらに好ましくはCalicheamicin、DM1、DM4、リシン、PseudomonasエキソトキシンAである。
【0020】
大腸癌治療に用いられる抗体は、AMIGO2タンパク質と特異的に結合する抗体に、癌細胞に傷害をもたらす放射性同位元素を結合することにより、細胞傷害活性を付加あるいは増強させたものでもよい。抗体と放射性同位元素の結合は、当業者公知の方法により、行うことができる(Bioconjug Chem.1994 Mar−Apr;5(2):101−4.)。利用する放射性同位元素は、当業者に公知の物質を用いることができるが、好ましくはβ線やα線を放出する核種であり、さらに好ましくは131I、99mTc、111In、90Yである。
【0021】
放射性同位元素を含む化合物を結合させた抗体を用いた大腸癌治療は、当業者公知の方法により行うことができる(Bioconjug Chem.1998 Nov−Dec;9(6):773−82.)。具体的には、最初に少量の放射性同位元素を含む化合物を結合させた抗体を患者に投与し、全身のシンチグラムを行う。正常組織の細胞と抗体の結合が少なく、癌細胞と抗体の結合が多いことを確認した上で、放射性同位元素を含む化合物を結合させた抗体を大量に投与する。
【0022】
本発明で使用される抗AMIGO2抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗AMIGO2抗体として、哺乳動物由来あるいはトリ由来モノクローナル抗体が好ましい。特に、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。
【0023】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、AMIGO2タンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。
【0024】
まず、抗体取得の感作抗原として使用されるAMIGO2タンパク質は、AMIGO2タンパク質をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のヒトAMIGO2タンパク質を精製して得ることができる。また、天然のAMIGO2タンパク質を精製して用いることもできるし、アミノ酸合成によって得ることもできる。AMIGO2の遺伝子配列、アミノ酸配列はGenBank等のデータベースから入手することができ、例えばGenBank番号(NM 181847)に開示された遺伝子/アミノ酸配列(配列番号3及び4)を発現することによって得ることが可能である。
抗原として用いるAMIGO2は全長でも良いし、断片でも良い。また、AMIGO2には、一塩基多型(SNP)、挿入、欠失、置換等のバリアントも含まれる。
【0025】
次に、この精製AMIGO2タンパク質を感作抗原として用いる。あるいは、AMIGO2タンパク質の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。この際、部分ペプチドはヒトAMIGO2タンパク質のアミノ酸配列より化学合成により得ることもできるし、ヒトAMIGO2遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで得ることもでき、さらに天然のヒトAMIGO2タンパク質をタンパク質分解酵素により分解することによっても得ることができる。部分ペプチドとして用いるヒトAMIGO2タンパク質の部分および大きさは限られない。
【0026】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはトリ、ウサギ、サル等が使用される。
【0027】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。特に分子量の小さい部分ペプチドを感作抗原として用いる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
【0028】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0029】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J.Immnol.(1979)123,1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81,1−7)、NS−1(Kohler.G.and Milstein,C.Eur.J.Immunol.(1976)6,511−519)、MPC−11(Margulies.D.H.et al.,Cell(1976)8,405−415)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature(1978)276,269−270)、FO(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods(1980)35,1−21)、S194(Trowbridge,I.S.J.Exp.Med.(1978)148,313−323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277,131−133)等が好適に使用される。
【0030】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.、Methods Enzymol.(1981)73,3−46)等に準じて行うことができる。
【0031】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、さらに所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0032】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0033】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0034】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0035】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法で行えばよい。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させ、担体を洗浄した後に酵素標識二次抗体等を反応させることにより、培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれるかどうか決定できる。目的とする抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることができる。この際、抗原としては免疫に用いたものを用いればよい。
【0036】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで、AMIGO2タンパク質に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分能を有するミエローマ細胞と融合させ、AMIGO2タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となるAMIGO2タンパク質を投与して抗AMIGO2抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞からAMIGO2タンパク質に対するヒト抗体をそれぞれ取得してもよい(WO 94/25585号パンフレット、WO 93/12227号パンフレット、WO 92/03918号パンフレット、WO 94/02602号パンフレット参照)。
【0037】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0038】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0039】
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme,A.M.et al.,Eur.J.Biochem.(1990)192,767−775,1990参照)。
具体的には、抗AMIGO2抗体を産生するハイブリドーマから、抗AMIGO2抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin,J.M.et al.,Biochemistry(1979)18,5294−5299)、APGC法(Chomczynski,P.et al.,Anal.Biochem.(1987)162,156−159)等により行って全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用して目的のmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0040】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等を用いて行う。また、cDNAの合成および増幅を行うには、5’−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5’−RACE法(Frohman,M.A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85,8998−9002、Belyavsky,A.et al.,Nucleic Acids Res.(1989)17,2919−2932)等を使用することができる。
【0041】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。
【0042】
目的とする抗AMIGO2抗体のV領域をコードするDNAをそれぞれ得たのち、これを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。
【0043】
本発明で使用される抗AMIGO2抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0044】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523号公報参照)。
【0045】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert,K.M.et al.,Bio/Technology(1994)12,699−702)。
【0046】
本発明で使用される抗体は、抗体の全体分子に限られず、AMIGO2タンパク質に結合する限り、抗体の断片またはその修飾物であってもよく、二価抗体も一価抗体も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv、1個のFabと完全なFcを有するFab/c、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968−2976、Better,M.& Horwitz,A.H.Methods in Enzymology(1989)178,476−496,Academic Press,Inc.、Plueckthun,A.& Skerra,A.Methods in Enzymology(1989)178,476−496,Academic Press,Inc.、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology(1989)121,652−663、Rousseaux,J.et al.,Methods in Enzymology(1989)121,663−669、Bird,R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132−137参照)。
【0047】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0048】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部または所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0049】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0050】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0051】
抗体の修飾物として、標識物質等の各種分子と結合した抗AMIGO2抗体を使用することもできる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0052】
さらに、本発明で使用される抗体は、二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体は分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がAMIGO2タンパク質を認識し、他方の抗原結合部位が標識物質等を認識してもよい。二重特異性抗体は2種類の抗体のHL対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
【0053】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3’側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0054】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0055】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277,108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18,5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0056】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列および発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341,544−546;FASEBJ.(1992)6,2422−2427)により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240,1041−1043)により発現することができる。
【0057】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P.et al J.Bacteriol.(1987)169,4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0058】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0059】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞または原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの動物細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。
【0060】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0061】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0062】
前記のように発現、産生された抗体は、細胞、宿主動物から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティーカラムを用いて行うことができる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、HyperD、POROS、Sepharose FF(Pharmacia製)等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、上記アフィニティーカラム以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。
【0063】
本発明の大腸癌治療薬は、AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、顆粒化、錠剤化、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。
【0064】
経口投与用には、AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、錠剤、丸薬、糖衣剤、軟カプセル、硬カプセル、溶液、懸濁液、乳剤、ゲル、シロップ、スラリー等の剤形に製剤化することができる。
【0065】
非経口投与用には、AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、座剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、治療剤を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液または懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体を粉末化し、ラクトースまたはデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、抗AMIGO2抗体をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の治療剤は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【0066】
さらに、AMIGO2遺伝子のsiRNAは、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。このような投与形態は、公知の方法を用いればよく、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996; 別冊実験医学「遺伝子導入& 発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されている。
【0067】
投与量および投与回数は、剤形および投与経路、ならびに患者の症状、年齢、体重によって異なるが、一般に、AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体は、1日あたり体重1kgあたり、約0.001mgから1000mgの範囲、好ましくは約0.01mgから10mgの範囲となるよう、1日に1回から数回投与することができる。
【0068】
更に、本発明において大腸癌診断を行う場合、被験者の血液中および臓器組織にAMIGO2タンパク質が検出された場合に、被験者が大腸癌である可能性が高いと判定される。また、大腸癌と診断された患者の血液あるいは組織中AMIGO2タンパク質濃度を測定することにより、その患者が治療対象患者か否かを判定すること(治療対象患者の選択)ができる。さらに、大腸癌の治療後、AMIGO2タンパク質測定において、AMIGO2タンパク質の量が術前より減少した場合、治療の経過が良好であると判定される。一方、治療後のAMIGO2タンパク質の量が低下しないあるいは増加する場合には、再発および転移があると判定される。大腸癌診断は、画像診断、生検および血液診断により行うことができる。
【0069】
画像診断においては、標識した抗AMIGO2抗体を投与後画像診断によりAMIGO2タンパク質を検出することにより行うことができる。より具体的には、抗AMIGO2抗体に、標識物質として放射性同位元素で標識したプローブを被験者に投与し、PETまたはSPECTで癌組織を検出することができる。使用する放射性同位元素は、当業者に公知の物質を用いることができるが、好ましくは陽電子放出放射性同位元素であり、さらに好ましくは11C、13N、18F、15O、94mTc、124Iである。抗AMIGO2抗体への放射性同位元素の標識は、当業者公知の方法により行うことができる。
【0070】
生検により大腸癌診断を行う方法としては、被験者から得られた臓器組織を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫染色、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくは免疫染色である。免疫染色などの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0071】
生検により大腸癌診断を行う他の様態として、抗AMIGO2抗体を一次抗体として使用した免疫組織学的染色法を行うことができる。具体的には、被験者から得られた検体を公知の方法によりパラフィンや凍結等により固定し、切片を作製する。次いで、切片を一次抗体として抗AMIGO2抗体、二次抗体としてIgGを認識するビオチン標識抗体をそれぞれ用いて処理する。二次抗体は、IgGを認識する公知の抗体を用いることができ、例えばウサギ抗IgG抗体などを挙げることができる。二次抗体に標識物質を結合させ、それぞれの標識物質に適した公知の方法により、切片中のAMIGO2タンパク質の有無を検出する。また、二次抗体を使用せず、抗AMIGO2抗体に標識物質を結合させ、免疫組織学的染色法を行うこともできる。標識物質は当業者公知の物質を用いることができるが、例えばペルオキシターゼ、FITCなどを挙げることができる。抗体と標識物質の結合は、当業者に公知の方法で行うことができ、具体的には、ストレプトアビジンとビオチンを利用した結合方法を挙げることができる。
【0072】
大腸癌診断を行う他の様態としては、被験者から得られた血液、血清、または血漿を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme−linked immunosorbent assay:ELISA)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0073】
血液、血清、または血漿を検体とした大腸癌診断方法としては、例えば、抗AMIGO2抗体を支持体に固定し、ここに被検試料を加え、インキュベートを行い抗AMIGO2抗体とタンパク質を結合させた後に洗浄して、抗AMIGO2抗体を介して支持体に結合したAMIGO2タンパク質の検出を行う方法を挙げることができる。
【0074】
本発明において抗AMIGO2抗体を固定するために用いられる支持体としては、例えば、アガロース、セルロースなどの不溶性の多糖類、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの合成樹脂や、ガラス、フェライトなどの不溶性の支持体を挙げることができる。これらの支持体は、ビーズやプレートなどの形状で用いることが可能である。ビーズの場合、これらが充填されたカラムなどを用いることができる。プレートの場合、マルチウェルプレート(96穴マルチウェルプレート等)、やバイオセンサーチップなどを用いることができる。抗AMIGO2抗体と支持体との結合は、化学結合や物理的な吸着などの通常用いられる方法により結合することができる。これらの支持体はすべて市販のものを用いることができる。
【0075】
抗AMIGO2抗体と試料中のAMIGO2タンパク質の結合は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液などが使用され、通常用いるpHの範囲であればよい。また、インキュベーションの条件としては、すでによく用いられている条件、例えば、4℃〜37℃にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、抗AMIGO2抗体とAMIGO2タンパク質の結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween−20等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0076】
本発明によるAMIGO2タンパク質の検出方法においては、AMIGO2タンパク質を検出したい被検試料の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、AMIGO2タンパク質を含まない陰性コントロール試料やAMIGO2タンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、AMIGO2タンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果と、AMIGO2タンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被検試料中のAMIGO2タンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被検試料の数値から標準曲線に基づいて、被検試料に含まれるAMIGO2タンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0077】
抗AMIGO2抗体を介して支持体に結合したAMIGO2タンパク質の検出の好ましい態様として、標識物質で標識された抗AMIGO2抗体を用いる方法を挙げることができる。例えば、支持体に固定された抗AMIGO2抗体に被検試料を接触させ、洗浄後に、AMIGO2タンパク質を特異的に認識する標識抗体を用いて検出する。
【0078】
抗AMIGO2抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131Iなど)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチン、ルテニウムなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、ペルオキシダーゼなどの酵素を結合させたストレプトアビジンをさらに添加することが好ましい。標識物質と抗AMIGO2抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0079】
具体的には、抗AMIGO2抗体を含む溶液をプレートまたはビーズなどの支持体に加え、抗AMIGO2抗体を支持体に固定する。プレート、またはビーズを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSA、ゼラチン、アルブミンなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートまたはビーズに加える。インキュベートの後、洗浄し、標識抗AMIGO2抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートまたはビーズを洗浄し、支持体に残った標識抗AMIGO2抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合には液体シンチレーションやRIA法により検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、1,2−フェニレンジアミン(オルソ−フェニレンジアミン)、3,3’,5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)などを挙げることができる。蛍光物質または化学発光物質の場合にはルミノメーターにより検出することができる。
【0080】
本発明のAMIGO2タンパク質検出方法の特に好ましい態様として、ビオチンで標識された抗AMIGO2抗体と、ストレプトアビジンを用いる方法を挙げることができる。
【0081】
具体的には、抗AMIGO2抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗AMIGO2抗体を固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSAなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、ビオチン標識抗AMIGO2抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素と結合したアビジンを加える。インキュベーション後、プレートを洗浄し、アビジンに結合している酵素に対応した基質を加え、基質の酵素的変化などを指標にAMIGO2タンパク質を検出する。
【0082】
本発明のAMIGO2タンパク質検出方法の他の態様として、AMIGO2タンパク質を特異的に認識する一次抗体を一種類以上、および該一次抗体を特異的に認識する二次抗体を一種類以上用いる方法を挙げることができる。
【0083】
例えば、支持体に固定された一種類以上の抗AMIGO2抗体に被検試料を接触させ、インキュベーションした後、洗浄し、洗浄後に結合しているAMIGO2タンパク質を、一次抗AMIGO2抗体、および該一次抗体を特異的に認識する一種類以上の二次抗体により検出する。この場合、二次抗体は好ましくは標識物質により標識されている。
【0084】
本発明のAMIGO2タンパク質の検出方法の他の態様としては、凝集反応を利用した検出方法を挙げることができる。該方法においては、抗AMIGO2抗体を感作した担体を用いてAMIGO2タンパク質を検出することができる。抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。感作した粒子を試料と混合し、一定時間攪拌する。試料中にAMIGO2タンパク質が高濃度で含まれるほど粒子の凝集度が大きくなるので、凝集を肉眼でみることによりAMIGO2タンパク質を検出することができる。また、凝集による濁度を分光光度計等により測定することによっても検出することが可能である。
【0085】
本発明のタンパク質の検出方法の他の態様としては、例えば、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法を挙げることができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはタンパク質−タンパク質間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である。例えば、BIAcore(Biacore International AB社製)等のバイオセンサーを用いることにより抗AMIGO2抗体とAMIGO2タンパク質との結合をそれぞれ検出することが可能である。具体的には抗AMIGO2抗体を固定化したセンサーチップに、被検試料を接触させ抗AMIGO2抗体に結合するAMIGO2タンパク質を共鳴シグナルの変化としてそれぞれ検出することができる。
【0086】
本発明の検出方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもでき、一度に大量の試料について検査を行うことも可能である。
【0087】
本発明の大腸癌診断薬は、キットの形態であってもよい。本発明の大腸癌診断薬は少なくとも抗AMIGO2抗体を含む。該診断薬がELISA法等のEIA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。該診断薬がラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該診断薬は、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0088】
本発明の生検組織および血液などの試料を用いた診断用抗AMIGO2抗体は、AMIGO2タンパク質にそれぞれ特異的に結合すればよく、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。具体的には、マウス抗体、ラット抗体、トリ抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましく、高感度で特異的な測定が可能であれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0089】
又、支持体に固定される抗AMIGO2抗体と標識物質で標識される抗AMIGO2抗体は、AMIGO2タンパク質の同じエピトープを認識してもよいが、異なるエピトープを認識することが好ましく、部位は特に制限されない。
【実施例】
【0090】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0091】
実施例1 AMIGO2遺伝子のsiRNA投与によるヒト大腸癌細胞株の細胞増殖抑制
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)より購入したヒト大腸癌細胞株HCT−116にAMIGO2遺伝子のmRNAを切断する活性を持つ2種のsiRNAをトランスフェクションし増殖に及ぼす影響を検討した。
具体的には、AMIGO2遺伝子のmRNAを切断する活性を持つ2種のsiRNA(1:GGUUCAAGCUGGCAGAACUTTおよびAGUUCUGCCAGCUUGAACCTTの二重鎖RNA、2:GGCUUUAAUGUGUUCUAGATTおよび、UCUAGAACACAUUAAAGCCTTの二重鎖RNA)をそれぞれトランスフェクションに供した。
コントロールとしては、細胞に対し非特異的なRNAi効果を示さないことが保証されているsiRNA(以下non−silencing dsRNAと略する)を用いた。以下の容量は全て96穴平底組織培養プレートの1ウェル当たりの数値で示している。1.2pmolのAMIGO2遺伝子に対するsiRNA、または1.2pmolのnon−silensing dsRNAを20μLのOpti−MEM I(Invitrogen社)と混合した後、0.15μLのLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社)を添加混合し、室温で20分間放置した。HCT−116細胞を10%牛胎仔血清(Thermo Electron社)を含むMcCoy’s 5A培地(Invitrogen社)で100μL中6,000個となるように懸濁し、上記siRNAとLipofectamine RNAiMAX複合体溶液と混合した。これを96穴平底組織培養プレート(Corning社)に1ウェル当たり120μL播種し、37℃、5%炭酸ガス気流中で培養した。1、2、3日後に培地を除去後、プレートを−80℃で30分間以上静置し、室温で5分間放置した。0.25% CyQUANT GR reagentおよび5% cell lysis buffer(いずれもMolecular Probes社)を含む水溶液を1ウェルあたり200μL添加し、15分間放置した後、励起波長485nm、発光波長535nmにて蛍光強度を計測することにより、細胞内DNA含量を測定した。
その結果、AMIGO2遺伝子に対するsiRNAを投与した細胞はnon−silensing dsRNA投与細胞に比べて2日後において約14%および7%蛍光強度が低下し、統計学的に有意な差(P<0.01およびP<0.05)を示した(図1)。
【0092】
実施例2 AMIGO2遺伝子のsiRNA投与によるAMIGO2遺伝子のmRNA発現量低下
実施例1で用いたヒト大腸癌細胞株HCT−116の細胞懸濁液およびsiRNAとLipofectamine RNAiMAX複合体溶液の混合液と同じ物を、1ウェル当たり175,000個(3500 μL)の細胞密度で6穴平底組織培養プレート(BDファルコン社)に播種した。37℃、5%炭酸ガス気流中で一晩培養した後、RNeasy Mini Total RNA Kit(QIAGEN社)を用いてトータルRNAを抽出した。約400 ngのトータルRNAを鋳型として、TaqMan Reverse Transcription Reagents(Applied Biosystems社)を用いて添付プロトコールに従い逆転写反応した。AMIGO2遺伝子の発現量の測定はトータルRNAにして4ngに相当するcDNAを鋳型とし、TaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems社)5μL、AMIGO2遺伝子の第1エクソンの一部と第2エクソンの一部に由来する塩基配列を増幅するプライマーセットを含むTaqMan Reagent(Applied Biosystems社)を0.5μLを加え、反応液量10μLとし、定量的PCR法を用いて測定した。PCR反応は、50℃・2分、95℃・10分の後、95℃・15秒、60℃・1分のサイクルを40回繰り返した。一方、同量の鋳型cDNA中に含まれるβ−アクチン遺伝子発現量をTaqman Pre−Developed Assay Reagents Human ACTB(Applied Biosystems社)を用いて測定し内部標準とした。
【0093】
AMIGO2遺伝子に対するsiRNAを投与した群では、陰性対照として用いたnon−silensing dsRNA投与群に比してAMIGO2のmRNA発現量は95および77%低下していた。これらの結果より、AMIGO2遺伝子の発現量の低下によりヒト大腸癌細胞株HCT−116の細胞増殖抑制が誘発されたことが示された(図2)。
【0094】
実施例3 AMIGO2cDNAのクローニング
AMIGO2のcDNAは、膵臓癌細胞株PK−59細胞由来のcDNAをテンプレートにしたPCR法によって増幅した。この時、GenBank番号(NM 181847)の配列情報を元にORF領域(open reading flame)を含む断片を増幅するように設計されたプライマーセットAMIGO2FW(配列番号5)とAMIGO2RV(配列番号6)を用いた。このPCR反応にはKOD−plus(東洋紡社)を用い、条件は94℃−15秒、60℃−15秒、68℃−120秒、40サイクルで行った。
その後、アガロースゲル電気泳動により目的のサイズに近い約1.6kbpのバンドを含むゲルを切り出し、このゲル断片からキアクイックゲル抽出キット(QIAquick gel extraction kit;キアゲン社)を用いて精製を行うことによって目的のAMIGO2の全長cDNA(以下、AMIGO2fullcDNA)を得た。
【0095】
実施例4 AMIGO2の抗原の調製
(1)AMIGO2の全長cDNAのほ乳類動物細胞での発現ベクターの作製
前述のAMIGO2fullcDNAをほ乳類発現用ベクターpEF4/Myc−HisB(Invitrogen社製)へ挿入するために、2種類の制限酵素KpnI(TaKaRa社製)およびEcoRV(TaKaRa社製)で処理した後、同じくKpnI/EcoRVで処理したpEF4/Myc−HisBにラピッドDNAライゲーションキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)によってライゲーションすることによって挿入した。定法により塩基配列解析を行い、目的の発現ベクターpEF4/AMIGO2fullを得た。
【0096】
(2)AMIGO2の細胞外領域に相当する部分長cDNAのほ乳類動物細胞での発現ベクターの作製
AMIGO2の全長cDNA(AMIGO2fullcDNA)をテンプレートにし、GenBank番号(NM 181847)の配列情報を元にAMIGO2の細胞外領域に相当する部分のcDNA断片(sAMIGO2cDNA)を増幅するように設計されたプライマーセットAMIGO2FW(配列番号5)とsAMIGO2−Rv−KY(配列番号7)を用いてPCR反応を行った。この反応にはKOD−plus(東洋紡社)を用い、条件は94℃−15秒、60℃−15秒、68℃−90秒、40サイクルで行った。
アガロースゲル電気泳動により目的のサイズに近い約900bpのバンドを含むゲルを切り出し、ゲル断片からキアクイックゲル抽出キット(QIAquick gel extraction kit;キアゲン社)を用いて精製を行うことによって目的のsAMIGO2cDNAを得た。
このsAMIGO2cDNAをほ乳類発現用ベクターpEF4/Myc−HisB(Invitrogen社製)へ挿入するために、2種類の制限酵素KpnI(TaKaRa社製)およびXbaI(TaKaRa社製)で処理した後、同じくKpnI/XbaIで処理したMyc−HisBにラピッドDNAライゲーションキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)によってライゲーションすることによって挿入した。定法により塩基配列解析を行い、目的の発現ベクターpEF4/sAMIGO2を得た。
【0097】
(3)AMIGO2全長タンパク質およびsAMIGO2タンパク質の発現
FuGENE6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)のプロトコールに準じて、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×105 cellのCHO細胞を播種し一晩培養を行い、翌日に、8μgの発現ベクターpEF4/AMIGO2fullまたはpEF4/sAMIGO2と16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清Opti−MEM培地(Invitrogen社製)に混合し、15〜45分間の室温におけるインキュベーションを行った後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌日に限界希釈法および選択試薬であるZeocin(Invitrogen社製)を用いてクローニングを開始した。
AMIGO2全長発現CHOは、抗AMIGO2モノクローナル抗体(R&D systems社製)を用いたウェスタンブロットおよびフローサイトメトリー(ベクトンディッキンソン社製FACScaliburを使用)を用いることにより、シグナルが強く、しかも増殖が良好なクローンを選択した。その結果、AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)が得られ、EXZ1005をモノクローナル抗体作製時のスクリーニングに使用した。
sAMIGO2発現CHO細胞のスクリーニングは、抗AMIGO2モノクローナル抗体(R&D Systems社製、MAB2080)を用いたウェスタンブロットで培養上清中に分泌されるsAMIGO2の濃度を解析することで行った。培養上清中への分泌量が多く、しかも増殖が良好なクローンを選択した結果、sAMIGO2発現CHOクローン(EXZ0902)が得られた。この選択されたsAMIGO2発現CHOクローン(EXZ0902)を培養面積1,500cm2のローラーボトル3本を用い、ローラーボトル1本あたり無血清培地CHO−S−SFM−II(Invitrogen社)333mLにて72時間培養を行い、培養上清を回収した。得られた培養上清からHisTrapHPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてsAMIGO2 Myc−His tag融合タンパク質(以下、sAMIGO2タンパク質として示す)の精製を行った。非還元下のSDS−PAGEで解析したところ、95%以上の純度であることが確認された(図3)。この精製された融合タンパク質をPBSに対し透析を行い、免疫用抗原およびエピトープ同定などの解析用タンパク質として用いた。sAMIGO2タンパク質の濃度は、既知濃度の純品のウシ血清アルブミンを検量線としたBCA法(PIERCE社製キットを使用)で算出した。
【0098】
(4)AMIGO2のimmunoglobulinドメインを発現する組み換えバキュロウイルスの作製
実施例3で調製したAMIGO2fullcDNAをテンプレートにし、GenBank番号(NM 181847)の配列情報を基にAMIGO2のimmunoglobulinドメインに相当する部分のcDNA断片(AMIGO2/IgcDNA)を増幅するように設計されたプライマーセットBS/AMIGO2/Ig−FW(配列番号8)とBS/AMIGO2/Ig−RV(配列番号9)を用いてPCR反応を行った。この反応にはKOD−plus(東洋紡社)を用い、94℃−15秒、60℃−15秒、68℃−50秒、40サイクルの条件で反応させた。アガロースゲル電気泳動を行うことによって目的のサイズのcDNA断片を含むゲルを切り出し、ゲル断片からキアクイックゲル抽出キット(QIAquick gel extraction kit;キアゲン社)を用いて目的のAMIGO2IgcDNAを得た。このAMIGO2IgcDNAを制限酵素KpnI(TaKaRa社製)によって37℃で1時間処理した後、フェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿により回収した。このようにして調製したAMIGO2IgcDNAを、KpnI(TaKaRa社製)を用いて切断したpBacSurf1(Novagen社製)に挿入し、トランスファーベクターpBS/AMIGO2/Igを構築した。次いで、4μgのpBS/AMIGO2/Igを制限酵素BpII(Fermentas社)にて切断直鎖化した後、Invitrogen社の指示書に準じてBac−N−Blue DNAと共にSf9細胞に導入し、AMIGO2のimmunoglobulinドメインとgp64の融合タンパク質発現組み換えバキュロウイルスを調製した。
上記により調製した組み換えバキュロウイルスをSf9細胞(2x106個細胞/mL)にMOIが5となるように加え感染させた後、27℃で3日間培養した。AMIGO2のimmunoglobulinドメインとgp64の融合タンパク質を発現する発芽型バキュロウイルス(BV)は3日間培養後の培養上清より回収した。すなわち、培養液を800xgで15分間遠心し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した後、回収した培養上清を45,000gで30分間遠心した。沈殿物をPBSで懸濁した標品をAMIGO2−Ig−BV画分とし、後述する抗AMIGO2モノクローナル抗体のエピトープ同定に使用した。
【0099】
実施例5 膵臓癌細胞株のウェスタンブロットによるAMIGO2の検出
市販の抗AMIGO2モノクローナル抗体(R&D Systems社製、MAB2080)を用いて、膵臓癌細胞株12種(Capan1,KLM1,MIA PaCa2,NOR−P1,Panc1,PK−1,PK−8,PK−9,PK−45H,PK−45P,PK−59、QGP−1)および陽性コントロールとしてのAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)の細胞ライゼート中のAMIGO2をウェスタンブロットにより検出した。すなわち、各細胞をRIPA緩衝液(150mM塩化ナトリウム、1% Triton X−100、1% デオキシコール酸、0.1% SDS、2μg/mL アプロチニン、2μg/mL pepstatinA、2μg/mL leupeptin、0.87mg/mL PMSF、10mMトリスヒドロキシアミノメタン塩酸塩(pH7.4))にて可溶化することで調製した細胞ライゼートを非還元条件下SDS−PAGEの各レーンに、膵臓癌細胞の場合は10μL、陽性コントロールのAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)の場合は0.5μLアプライした。
泳動終了後のゲルからタンパク質をニトロセルロース膜(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に転写し、一次抗体として抗AMIGO2モノクローナル抗体(R&D Systems社製)を反応させ、次いで二抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を反応させてAMIGO2を検出した。
【0100】
その結果、分子量約75〜65kDaの位置にPK−45H,PK−45P,PK−59およびQGP−1の細胞ライゼートにおいて強いバンドが検出され、Capan1,Panc1,PK−1の細胞ライゼートにおいて弱いバンドが検出された。その他の細胞ライゼートにおいては、バンドはほとんど検出されなかった。この結果は、GeneChipU133の解析結果と相関し、mRNAの発現スコアが高い細胞株においてのみAMIGO2タンパク質が検出された(図4)。陽性コントロールのAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)のライゼートで検出されたAMIGO2の分子量は約85kDaであり、膵臓癌細胞のそれと比較するとやや高分子量であるが、これは陽性コントロールのAMIGO2タンパク質のC末端側に付加されているMyc−His tag(分子量約3kDa)と、糖鎖構造の違いに基づくものと推察された。
【0101】
実施例6 抗AMIGO2モノクローナル抗体によるAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)および膵臓癌細胞株のフローサイトメトリー
上述の細胞ライゼートのウェスタンブロットでAMIGO2が検出されたAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)および膵臓癌細胞株PK−45Pを用いて、細胞膜表面にAMIGO2が発現しているか否かをFACScalibur(ベクトンディッキンソン社製)を用いたフローサイトメトリーで解析した。すなわち、AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)および膵臓癌細胞株PK−45Pを2mM EDTA−PBSで処理することで培養プレートから剥離後、1×106個/mLとなるようにFACS溶液(1%ウシ血清アルブミン、0.1mMEDTA、0.1% NaN3を含有するPBS)に懸濁した。この細胞懸濁液を50μL/wellとなるように96ウェルプレート(BDファルコン社製)に播種し市販の抗AMIGO2モノクローナル抗体(0.6μg/well、R&D Systems社製)を加えて4℃で60分間反応させ、FACS溶液(200μL/well)で2回洗浄した後、FITC標識抗マウスIgG抗体(ジャクソン社製)を加えて、4℃で30分間反応させた。
そしてFACS溶液で2回洗浄した後、使用説明書に準じてFACScalibur(ベクトンディッキンソン社製)を用いてフローサイトメトリーを実施した。抗AMIGO2モノクローナル抗体の陰性コントロールには正常マウスIgGを用いた。また、抗AMIGO2モノクローナル抗体を細胞に反応させる前に、sAMIGO2タンパク質(5.1μg/well)と抗AMIGO2モノクローナル抗体を反応させることで、フローサイトメトリーでのピークシフトが消失するか否か調べた。
【0102】
AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)での結果を図5に示した。抗AMIGO2モノクローナル抗体を反応させることでピークシフトが観察され、このピークシフトは抗AMIGO2モノクローナル抗体を事前にsAMIGO2タンパク質と反応させることで消失した。膵臓癌細胞株PK−45Pでの結果を図6に示した。AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)の結果と同様に、抗AMIGO2モノクローナル抗体を反応させることでピークシフトが観察され、このピークシフトは抗AMIGO2モノクローナル抗体を事前にsAMIGO2タンパク質と反応させることでほぼ消失した。
【0103】
これらの結果より、AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)および膵臓癌細胞株PK−45Pの細胞膜表面上にAMIGO2タンパク質が発現していることが明らかとなり、抗AMIGO2抗体作製においてスクリーニング用細胞として使用することとした。
【0104】
実施例7 抗AMIGO2モノクローナル抗体の作製
PBSに溶解した50μgのsAMIGO2タンパク質とTiter−MAX(TiterMax USA,Inc.)を等量混合してMRL/lprマウス(三共ラボサービス)に腹腔内注射する事により初回免疫を行った。2回目以降の免疫は同様に調製した25μgタンパク質量相当のsAMIGO2タンパク質とTiter−MAXを混合して腹腔内注射することにより実施した。最終免疫から3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、ポリエチレングリコール法によってマウスミエローマ細胞NS1との細胞融合を行った。
ハイブリドーマ培養上清中の抗AMIGO2抗体のスクリーニングは、実施例6の方法に従いAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を用いたフローサイトメトリー(ベクトンディッキンソン社製FACScaliburを使用)で行った。その結果、表1に示すように陽性ハイブリドーマ28種が得られた。表中、IMS(mmunized ouse erum)は陽性コントロールとして用いたsAMIGO2タンパク質を免疫したマウス抗血清(0.3μL/well使用)を示し、NMS(on−immunized ouse erum)は陰性コントロールとして用いた免疫前のマウス抗血清(0.3μL/well使用)を示す。
【0105】
【表1】

【0106】
次いで、これら28種の陽性ハイブリドーマの培養上清について、実施例6の方法に従いAMIGO2を発現していることが明らかな癌細胞株である膵臓癌由来細胞株PK−45Pを用いたフローサイトメトリーでの反応性を調べた。また、この実験においては、培養上清中に含まれる抗AMIGO2抗体が、膵臓癌細胞PK−45Pの細胞膜上に発現するAMIGO2に特異的に反応することを確認する目的で、各ハイブリドーマの培養上清を細胞に反応させる前にsAMIGO2タンパク質(5.1μg/well)を培養上清に添加し、培養上清に含まれる抗体が中和されてフローサイトメトリーでのピークシフトが減弱するか否か調べた。その結果、1種(PPZ2927)を除く27種のハイブリドーマ培養上清において、sAMIGO2タンパク質の添加によってピークシフトが減弱し、この27種のハイブリドーマ培養上清中に含まれる抗体は膵臓癌細胞株PK−45Pの細胞膜上に発現しているAMIGO2に特異的に結合することが確認された。
【0107】
【表2】

【0108】
続いて、表2に示したハイブリドーマのうち、PPZ2927を除く27種のハイブリドーマを限界希釈法によってクローニングし、最終的に20種のクローンを確立した。次いでクローニング後のハイブリドーマをプリスタン処理したBALB/c AJcl−nu/nuマウス(日本クレア)の腹腔内に移植(1x107個/匹)し、腹水を作製した。
【0109】
実施例8 各種抗AMIGO2モノクローナル抗体の精製とサブクラスの同定
実施例7で作製した腹水から、硫酸アンモニウムによる塩析およびHiTrap ProteinGカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)によるアフィニティークロマトグラフィーにより抗体を精製した。各精製抗体のサブクラスは、マウス・モノクローナル抗体アイソタイピングキット(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いて調べた(表3)。
【0110】
【表3】

【0111】
実施例9 ウェスタンブロットによる抗AMIGO2モノクローナル抗体のエピトープ同定
抗原としてsAMIGO2タンパク質あるいはAMIGO2−Ig−BV画分を還元及び非還元条件のサンプルバッファーで処理し、1レーン当たり150ng(sAMIGO2タンパク質)あるいは590ng(AMIGO2−Ig−BV画分)をアプライし、SDS−PAGEを行った。電気泳動終了後、ゲル内のタンパク質をHybond−P膜(GEヘルスケアバイオサイエンス)に38Vで16時間転写した。転写膜を40%ブロックエース(雪印)/TBS(50mM Tris−HCl(pH7.5),150mMNaCl)を用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、40%ブロックエース(雪印)/TBS液で3μg/mLに希釈した抗AMIGO2モノクローナル抗体を室温で1時間反応させた後、膜をTBST(50mM Tris−HCl(pH7.5),150mM NaCl,0.05% Tween20)で5分間x3回洗浄した。
その後、10%ブロックエース(雪印)/TBSで5,000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(GEヘルスケアバイオサイエンス)を室温で1時間反応させた後、TBSTで5分間x3回洗浄を行った。最後にECL検出試薬(GEヘルスケアバイオサイエンス)を作用させ、化学発光シグナルをX線フィルムに5分間感光させた。各抗原に対する抗体の反応性はバンドの濃淡で判定し、その結果を表4にまとめた。
【0112】
【表4】

【0113】
この結果から、PPZ2904,PPZ2912,PPZ2913,PPZ2936,PPZ2952,PPZ3016,PPZ3122の7種の抗AMIGO2モノクローナル抗体は、AMIGO2のimmunoglobulinドメインに存在するエピトープを認識することが分かった。また、この7種のモノクローナル抗体は、還元下の抗原にも反応したことから、ジスルフィド結合によって形成されるAMIGO2の立体構造に依存しないエピトープを認識することも分かった。
PPZ3130は、sAMIGO2には反応するがAMIGO2−Igに反応しないことより、LRRアミノ末端ドメインからLRRカルボキシル末端ドメインで構成される領域に存在するエピトープを認識することが分かった。PPZ3130も還元下の抗原に反応するので、ジスルフィド結合によって形成されるAMIGO2の立体構造に依存しないエピトープを認識することが分かった。
【0114】
他の12種の抗AMIGO2モノクローナル抗体(PPZ2919,PPZ2920,PPZ2937,PPZ2956,PPZ3003,PPZ3124,PPZ3125,PPZ3133,PPZ3135,PPZ3145,PPZ3148,PPZ3160)は、いずれの抗原にも反応しなかった。この12種のモノクローナル抗体はAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)に強く反応するが(表1参照)、ウェスタンブロットで反応しなかった。その理由として、これらモノクローナル抗体の認識するエピトープがAMIGO2の高次構造によって形成されておりSDSに暴露されることでエピトープの構造が消失したことが考えられる。
【0115】
実施例10 抗AMIGO2モノクローナル抗体の解離定数の測定
BIAcore3000システム(BIAcore社)を用いてモノクローナル抗体の解離定数を測定した。まず、センサーチップCM5に、抗マウスIgG抗体(BIAcore社)に対しアミンカップリング法を用いて固相化した。次に、各種抗AMIGO2抗体を数百RU程度の固相化量となる様にHBS−EP(10mM HEPES,pH7.4,150mM NaCl,3mM EDTA,0.005% surfactant P20)に0.1% Tween 20を加えたbufferで調製した上でインジェクションし、抗AMIGO2抗体を固定化した。次いで、sAMIGO2タンパク質を上記bufferに25nMから50nM、100nM、200nMの各濃度で調製したものをインジェクションし、結合・解離を測定した後、解析プログラム(BIA evaluation)を用いて解離定数を求めた。その測定結果を表5に示した。
【0116】
【表5】

【0117】
表5より、解離定数が10-9オーダーの低い数値を示すPPZ3133,PPZ3122,PPZ3016,PPZ2956,PPZ2920の5種のモノクローナル抗体は、sAMIGO2タンパク質を捕捉する能力が高いので、ELISA法による血液あるいは組織中AMIGO2測定系の構築に応用できる。
【0118】
実施例11 AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)および膵臓癌細胞株に対する抗AMIGO2抗体の細胞傷害活性(CDC活性)
CDC活性の測定は、標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にする方法によった。具体的には、CytoTox96 Non−Radioactive Cytotoxicity Assay Kit(プロメガ社製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って以下の通り実施した。
【0119】
標的細胞として、AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)およびAMIGO2を発現していることが明らかである癌細胞株として、膵臓癌細胞株PK−45Pを用いた。これらの細胞をプレートから剥離後、2×105個/mLとなるように10%FBS含有DMEM培地に懸濁し、96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に100μL/wellで分注して炭酸ガスインキュベーター中で一夜培養した。翌日、プレート底面に接着した細胞を5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)で2回洗浄した後、各ウェルに5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)を30μLずつ分注し、さらに実施例8の表3に示した精製抗AMIGO2モノクローナル抗体20種それぞれを30μL/well(抗体濃度:10.7μg/mL、反応時の抗体終濃度は4μg/mLとなる)分注した後、氷上で30分間インキュベーションした。
次いで、Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)で16倍に希釈した補体標品(標的細胞がAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)の場合)あるいは同培地で8倍に希釈した補体標品(標的細胞が膵癌細胞株PK−45Pの場合)を20μL/well分注し、炭酸ガスインキュベーター中で4時間培養した。培養後、50μLの上清を回収し、平底の酵素アッセイ用プレートへ移した。そこへ、キット付属の基質混合液を50μL/well添加し、遮光下、室温で30分間インキュベートした。インキュベート後、反応停止液50μL/wellを添加した。反応停止後、マイクロプレートリーダーを用いて波長490nmにて吸光度を測定した。なお、陽性コントロール(IMS)としてsAMIGO2タンパク質を免疫したマウス抗血清(100倍希釈)を、陰性コントロール(NMS)として免疫前のマウス抗血清(100倍希釈)を用いた。
【0120】
細胞傷害活性は、以下の通り求めることができる。
細胞傷害活性(%)=(A−B−C)/(D−C)×100
A:[各試料における吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
B:[補体に由来するLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
C:[標的細胞から自然に放出されるLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
D:[0.9%Triton−X100添加により標的細胞から100%放出されたLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
【0121】
結果を表6に示した。AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を用いたCDC活性の測定値において、高いCDC活性(70%以上)を示すものは13クローンであった。膵臓癌細胞株PK−45Pを用いたCDC活性測定値において、高いCDC活性(10%以上)を示すものは7クローン、低いCDC活性(10%未満)を示すものは13クローンであった。
【0122】
【表6】

【0123】
表6において、高いCDC活性を示した7種の抗体(PPZ2919,PPZ2937,PPZ3003,PPZ3124,PPZ3125,PPZ3135,PPZ3148)について、定量的にCDC活性を求めるべく反応時の抗体濃度を200〜0ng/mL[標的細胞としてAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を用いた場合]、200〜0μg/mL[標的細胞として膵癌細胞株PK−45Pを用いた場合]となるように調製し、上述の方法でCDC活性を測定した。
AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を標的細胞に用いたときの結果を図7に示した。CDC活性50%を示すときの抗体濃度(EC50、AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を標的細胞に用いた場合)あるいはCDC活性25%を示すときの抗体濃度(EC25、膵臓癌細胞株PK−45Pを標的細胞に用いた場合)を求めたところ、表7のようになり、上位4種の抗体はPPZ2919,PPZ3124,PPZ3135,PPZ3148であった。
【0124】
【表7】

【0125】
このように高いCDC活性を示した抗AMIGO2モノクローナル抗体は、細胞傷害活性に基づく癌の治療薬として有用と考えられる。なお、CDC活性を示さないモノクローナル抗体であっても、フローサイトメトリーで膵臓癌細胞の膜表面上に発現するAMIGO2への結合が確認されれば、抗体をアイソトープ標識あるいは細胞傷害活性を有する化合物を結合させることで癌の治療薬として有用と考えられる。
【0126】
実施例12 ELISAによるAMIGO2検出試薬の構築
実施例10の抗AMIGO2モノクローナル抗体の解離定数の測定で、解離定数が10-9オーダーの低い数値を示す、すなわちAMIGO2の捕捉能力が高いPPZ3133,PPZ3122,PPZ3016,PPZ2956,PPZ2920の5種のモノクローナル抗体の組合せでELISAによるAMIGO2検出試薬の構築を行った。
5種のモノクローナル抗体のペルオキシダーゼ(POD)標識は、Peroxidase Labelling Kit−SH(同仁化学)を用い、キット付属のマニュアルの用法容量に従い実施した。
Maxi sorp 96穴プレート(Nunc社製)に精製抗AMIGO2モノクローナル抗体(5μg/mL)を100μL/wellで分注し、4℃一夜放置することで固相化した。0.05% Tween−20を含むPBS(以後、Tween−PBS)でウェルを洗浄し、40%ブロックエース(雪印乳業製)を含む20mM Tris−HCl,150mM NaCl pH8.0(40% BA−TBS)を200μL/well分注し、室温で1時間放置することでプレート上の未吸着部分をブロッキングした。Tween−PBSでウェルを洗浄後、40% BA−TBSで0.73ng/mLとなるように希釈したsAMIGO2タンパク質を100μL/well分注し、室温で1時間反応させた。
Tween−PBSでウェルを洗浄後、10%ブロックエース(雪印乳業製)を含む20mM Tris−HCl,150mM NaCl pH8.0(10%BA−TBS)で0.1μg/mLとなるように希釈したペルオキダーゼ標識抗AMIGO2モノクローナル抗体を100μL/well分注し、室温で1時間反応させた。Tween−PBSで洗浄後、TMB試薬(SCYTEK社)で暗所にて室温、30分間反応させたのち、STOP液(SCYTEK社)にて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した。吸光度1.1以上を○、吸光度1.1未満0.6以上を△、吸光度0.6未満を×として評価した(表8)。
【0127】
【表8】

【0128】
実施例13 ELISAによる膵臓癌細胞ライゼートおよび培養上清中のAMIGO2の検出
実施例12の結果より、PPZ3133を固相抗体、PPZ3122をペルオキシダーゼ標識抗体とした組合せで膵臓癌細胞ライゼートおよび培養上清中のAMIGO2の検出を試みた。
細胞がほぼコンフルエントに増殖してから4日目の細胞を用いて、細胞ライゼートおよび培養上清を以下のようにして調製した。
膵臓癌細胞ライゼートは、抽出用緩衝液(150mM塩化ナトリウム、1%TritonX−100、2μg/mLアプロチニン、2μg/mL pepstatinA、2μg/mL leupeptin、0.87mg/mL phenylmethane sulfonyl fluoride(PMSF)、10mMトリスヒドロキシアミノメタン塩酸塩(pH7.4))で細胞を可溶化させることで調製し、40% BA−TBSで10倍に希釈した標品をサンプルとした。膵臓癌細胞培養上清は、遠心分離(3,000回転、10分)で細胞を除去した上清を40%BA−TBSで3倍に希釈した標品をサンプルとした。
【0129】
Maxi sorp 96穴プレート(Nunc社製)にPPZ3133(5μg/mL)を100μL/wellで分注し、4℃一夜放置することで固相化した。0.05%Tween−20を含むPBS(以後、Tween−PBS)でウェルを洗浄し、40% BA−TBSを200μL/well分注し、室温で1時間放置することでプレート上の未吸着部分をブロッキングした。Tween−PBSでウェルを洗浄後、上記のようにして調製した希釈後の膵臓癌細胞ライゼートおよび細胞培養上清を100μL/well分注し、室温で1時間反応させた。Tween−PBSでウェルを洗浄後、10% BA−TBSで0.1μg/mLとなるように希釈したペルオキシダーゼ標識PPZ3122を100μL/well分注し、室温で1時間反応させた。Tween−PBSで洗浄後、TMB試薬で暗所にて室温、30分間反応させたのち、STOP液にて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
膵臓癌細胞ライゼートおよび培養上清中のAMIGO2の濃度は、既知濃度のsAMIGO2タンパク質を検量線として算出した。膵臓癌細胞ライゼート中のAMIGO2は、Bradford法(Bio−Rad社製 Protein Assayキット使用)で求めた全タンパク質濃度あたりのAMIGO2濃度として算出した。
【0130】
その結果、表9の通り細胞ライゼート中のAMIGO2は、MIA PaCa2において検出限界以下であったが、PK−1,PK−45PおよびPK−59では、1.9ng/mg protein,4.4ng/mg protein,6.7ng/mg proteinの濃度で検出された。この濃度は、GeneChipU133でのmRNAの発現スコアの程度にほぼ比例した。また、PK−1,PK−45PおよびPK−59では、それぞれ1.9ng/mL、2.9ng/mL、2.4ng/mLの濃度で細胞培養液中にもAMIGO2が検出されたが、MIA PaCa2では検出限界以下であった。この事実は、細胞膜上に発現したAMIGO2が何らかの原因により切断され、可溶型AMIGO2として細胞培養液中に遊離することを示している。さらには、被験者の血液あるいは体液を検体として、この可溶型AMIGO2を検出することで、癌の診断の可能性が示唆された。
【0131】
【表9】

【0132】
実施例14 AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)に対する抗AMIGO2抗体の細胞傷害活性(ADCC活性)
ADCC活性の測定は、標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にする方法によった。具体的には、CytoTox96 Non−Radioactive Cytotoxicity Assay Kit(プロメガ社製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って以下の通り実施した。
【0133】
エフェクター細胞の調製
C3Hマウス(8週齢、オス、埼玉実験動物)から脾臓を摘出し、10%FBS含有RPMI1640培地中で脾細胞を分離した。同培地で洗浄後、細胞濃度を5×106個/mLに調製し、500U/mL ヒトIL−2(PEPROTECHEC社製)、10ng/mL マウスGM−CSF(PEPROTECHEC社製)存在下で5日間培養した。測定当日、脾細胞を回収し、5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)で洗浄後、同培地で1.25×107個/mLに調製し、エフェクター細胞とした。
【0134】
標的細胞の調製
標的細胞として、AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を用いた。細胞をプレートから剥離後、5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)に懸濁し、2×104個/wellとなるように96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に30μL/well分注した。
【0135】
ADCC活性の測定
標的細胞に濃度2.4μg/mLの抗体液を10μL/well分注した後、30分間インキュベーションした。次いで、エフェクター細胞を40μL/well分注し、炭酸ガスインキュベーター中で4時間培養した。培養後、50μLの上清を回収し、平底の酵素アッセイ用プレートへ移した。そこへ、キット付属の基質混合液を50μL/well添加し、遮光下、室温で30分間インキュベートした。インキュベート後、反応停止液50μL/wellを添加し、マイクロプレートリーダーを用いて波長490nmにて吸光度を測定した。
細胞傷害活性は、以下の通り求めることができる。
細胞傷害活性(%)=(A−B−C)/(D−C)×100
A:[各試料における吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
B:[エフェクター細胞に由来するLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
C:[標的細胞から自然に放出されるLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
D:[0.9%Triton−X100添加により標的細胞から100%放出されたLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
【0136】
結果を表10に示した。表中、陰性対照とはAMIGO2に反応性を示さないことが事前に判明している抗体である。この陰性対照の抗体が示したADCC活性値3.2%に対し、20%以上の高いADCC活性を示す4種抗体(PPZ2952,PPZ3122,PPZ3133およびPPZ3145)が得られた。表11に各クローンの性質をまとめた。
【0137】
【表10】

【0138】
【表11】

【0139】
実施例15 全長AMIGO2強制発現CHO細胞株のscidマウスへの生着・増殖抑制試験
(1)全長AMIGO2強制発現CHO細胞株のscidマウスへの移植
実施例3で作製した全長AMIGO2強制発現CHO細胞株(EXZ1005)をscidマウス(メス、7週齢)の右側腹部皮下に1x107細胞個/マウスとなるように移植した。
(2)scidマウスにおける全長AMIGO2強制発現CHO細胞株の生着・増殖抑制試験
(1)で作製したマウスモデルに対して、移植日をday0として、このday0を含みday27まで3日間隔でマウス尾静脈から抗体を投与し(合計10回投与)、AMIGO2強制発現CHO細胞株の生着性確認(触診による)ならびに生着後腫瘍塊の体積測定(皮膚を介して腫瘍塊の長径Lと短径Wをノギスで測定し、腫瘍体積Vを計算式V=LW2/2で算出した。単位mm3)を3〜4日間隔でday42まで実施した。
投与抗体として、CDC活性あるいは/およびADCC活性を示した4種の抗AMIGO2モノクローナル抗体(PPZ2952,PPZ3122,PPZ3124,PPZ3148)を選択した。
【0140】
このとき、PPZ2952はサブクラスIgG1、PPZ3122、PPZ3124およびPPZ3148はサブクラスIgG2aであるので、移植したCHO細胞に反応しない陰性コントロール抗体として、それぞれのサブクラスに対応する3423(サブクラスIgG1)およびK7124(サブクラスIgG2a)も投与した。一群10匹として、一回の抗体投与量はマウス体重から換算して25mg/kgとした。
サブクラスがIgG1の抗体群に関する結果を図8に、サブクラスがIgG2aの抗体群に関する結果を図9に示した。抗体投与期間、すなわちday0からday15までの期間は各試験群とも腫瘍の生着が確認された。しかし、抗体投与終了後の腫瘍体積の増加をみると、PPZ2952、PPZ3122、PPZ3124、PPZ3148のいずれの抗体とも、陰性コントロールの3423あるいはK7124に比較し、腫瘍増殖抑制効果が認められた。
【0141】
実施例16 抗体結合によるAMIGO2蛋白質の細胞内移行
(1)蛍光物質による抗体の標識
0.5M NaClを含む50mM炭酸水素ナトリウムバッファー(pH8.5)で濃度5mg/mLとなるように調製した抗AMIGO2モノクローナル抗体(PPZ3124)365μLに撹拌下でジメチルフォルムアミドに溶解した5mg/mL Alexa Fluor 488 Succinimidyl Ester(Molecular Probes社)1.7μLを添加し、暗所にて室温で1時間反応させた(PPZ3124とAlexa Fluor 488のモル比=1:2)。反応液の全量を予め150mM NaClを含む20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.2)で平衡化したPD−10カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、抗体溶出画分をプールした後、抗体濃度が1mg/mLとなるように限外濾過により濃縮した。波長280nmでの抗体のモル吸光係数(220,000M-1cm-1)および波長495nmでのAlexa Fluor 488のモル吸光係数(71,000M-1cm-1)より算出したPPZ3124抗体1分子あたりの蛍光物質Alexa Fluor 488の結合数は、0.8分子であった。
【0142】
(2)共焦点レーザー顕微鏡を用いた抗体結合AMIGO2蛋白質の細胞内移行の確認
直径35mmのガラスベースディッシュ(IWAKI製)に実施例4(3)で作製したAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を5×105cellで播種し2日間培養した後、培地を捨て、上記で調製したAlexa Fluor 488標識PPZ3124を20μg/mLの濃度で含む10%FBS含有F−12HAM培地200μLを細胞に加え室温で5分間インキュベートした。次いで、10%FBS含有F−12HAM培地で細胞を洗浄し、同培地200μLを添加後、共焦点レーザー顕微鏡(倒立型IX81、オリンパス製)で経時的(0,0.5,1,2時間)にデータを取得した(励起波長488nm/蛍光波長519nm)。反応直後では細胞膜表面に局在した蛍光シグナルが、時間経過と共に細胞内に移行する様子が観察された(図10)。すなわち、細胞膜表面上に存在するAMIGO2に抗体(PPZ3124)が結合すると、エンドサイトーシスによってAMIGO2−抗体複合体が細胞内に取り込まれることが分かった。
【0143】
実施例17 細胞傷害活性を持つ物質をコンジュゲートした抗体によるAMIGO2発現細胞の増殖抑制
実施例4(3)で作製したAMIGO2全長発現CHO細胞を10%FBS含有F−12HAM培地で懸濁し、平底96ウェルプレートの1ウェルあたり5x103個となるように捲き込み1夜培養した(70μL/ウェル)。次いで、1次抗体として抗AMIGO2抗体PPZ3124あるいは陰性コントロール抗体K7124を種々濃度含む10%FBS含有F−12HAM培地(Sigma社)を30μL/ウェルで添加し(PPZ3124あるいはK7124のウェル内での終濃度:0.1,1,10,100ng/mL、各濃度3重測定)、5%CO2インキュベーター内(37℃)に1時間静置した。F−12HAM培地(FBS不含)で2回細胞を洗浄し、CHO−S−SFM−II培地(Invitrogen社)で0.21μg/mLとなるように希釈した植物由来毒素Saporin結合抗マウスIgGヤギIgG(商品名:Mab−ZAP,フナコシ)を2次抗体として150μL/ウェルで添加し、5%CO2インキュベーター内(37℃)に48時間静置した。次いで、各ウェルにXTT試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社製細胞増殖キットII)を75μL/ウェルで添加し、5%CO2インキュベーター内(37℃)に6時間静置した。マイクロプレートリーダーを用いて波長450nmにおける吸光度(各ウェルの生細胞数に比例する)を測定し、2次抗体のみ反応させたウェルの吸光度の平均値を100%とし、1次抗体を種々濃度で反応させたウェル吸光度の相対%を求めた。この相対%を生細胞数(%)として1次抗体濃度に対してプロットした結果を図11に示した。
1次抗体としてPPZ3124を反応させた場合、生細胞数(%)は抗体の濃度依存的に大きく低下した。この結果は、細胞膜上に存在するAMIGO2タンパク質にPPZ3124が濃度依存的に結合し、それに応じて植物由来毒素Saporin結合抗マウスIgGヤギIgGが結合した後、実施例16に示したエンドサイトーシスによって植物由来毒素Saporinが細胞内に取り込まれ細胞毒性を示したことを示している。すなわち、抗AMIGO2モノクローナル抗体PPZ3124を間接的あるいは直接的に植物由来毒素Saporinで標識し、AMIGO2発現細胞に作用させることで細胞増殖抑制作用を持たせることができる。
【0144】
本明細書に記載したハイブリドーマのうち以下に示すものを産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(住所:茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に寄託した。
PPZ3124(識別番号:PPMX0502、受託番号:FERM BP−10809)
PPZ3148(識別番号:PPMX0504、受託番号:FERM BP−10810)
PPZ3122(識別番号:PPMX0507、受託番号:FERM BP−10811)
PPZ3133(識別番号:PPMX0508、受託番号:FERM BP−10812)
以上を、平成18(2006)年9月8日付で寄託した。
PPZ3145(識別番号:PPMX0519、受託番号:FERM BP−10813 )
以上を、平成18(2006)年9月27日付で寄託した。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】AMIGO2遺伝子のsiRNA投与によるヒト大腸癌細胞株の細胞増殖抑制の結果を示す。
【図2】AMIGO2遺伝子のsiRNA投与によるAMIGO2遺伝子のmRNA発現量の結果を示す。
【図3】精製sAMIGO2の非還元下のSDS−PAGEによる解析結果を示す。
【図4】市販の抗AMIGO2モノクローナル抗体を用いたAMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)ライゼートおよび膵癌細胞株ライゼートのウェスタンブロットによる解析結果を示す。
【図5】AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)のフローサイトメトリーによる解析結果を示す。
【図6】膵癌細胞株PK−45Pのフローサイトメトリーによる解析結果を示す。
【図7】AMIGO2全長発現CHOクローン(EXZ1005)を標的細胞としたCDC活性の定量的解析結果を示す。
【図8】全長AMIGO2強制発現CHO細胞株を移植したscidマウスにおける抗AMIGO2モノクローナル抗体(サブクラスがIgG1の抗体)の腫瘍生着・増殖抑制試験の評価結果を示す。
【図9】全長AMIGO2強制発現CHO細胞株を移植したscidマウスにおける抗AMIGO2モノクローナル抗体(サブクラスがIgG2aの抗体)の腫瘍生着・増殖抑制試験の評価結果を示す。
【図10】抗AMIGO2モノクローナル抗体が細胞膜表面上のAMIGO2に結合することでエンドサイトーシスされることを確認した結果を示す。
【図11】細胞傷害活性を持つ物質のコンジュゲート抗体によるAMIGO2発現細胞の増殖抑制効果を調べた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AMIGO2遺伝子のsiRNA又は抗AMIGO2抗体若しくはその抗体断片を含有する大腸癌治療薬。
【請求項2】
AMIGO2遺伝子のsiRNAが、配列番号1又は配列番号2を含むものである請求項1記載の大腸癌治療薬。
【請求項3】
抗AMIGO2抗体又はその抗体断片が、AMIGO2タンパク質の細胞外領域と結合するものである請求項1又は2記載の大腸癌治療薬。
【請求項4】
抗AMIGO2抗体又はその抗体断片が、細胞傷害活性を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の大腸癌治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−1267(P2011−1267A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270345(P2007−270345)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】