説明

大腿骨近位部骨折用固定器具

【課題】手術の状況に応じて要求される種々のラグスクリュ取り付け角度に対応でき、異なるラグスクリュ取り付け角度に対応した多くの髄内棒を手術に際して準備しなければならない制約を解消し、髄内棒を手術中に挿入し直す作業の発生も解消する。
【解決手段】髄内棒11は、遠位部側の部分100bの髄内に沿って挿入される棒状に形成され、側面で貫通する第1の貫通孔18が設けられている。スリーブ12は、筒状体として形成されて第1の貫通孔18に挿通され、筒状体長手方向に沿って貫通する第2の貫通孔23が設けられている。ラグスクリュ13は、第2の貫通孔23に挿通される棒状に形成されて、近位部側の部分100aに螺合するネジ部24が先端側に設けられている。角度調整手段は、第1の貫通孔18およびスリーブ12において形成されて、ラグスクリュ13の髄内棒11に対する傾斜角度を可変とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具が知られている(特許文献1、2参照)。特許文献1に記載の大腿骨骨折の治療器具は、大腿骨頭と係合する手段を有するラックねじと、このラックねじを摺動可能に受け入れる中空スリーブと、大腿骨の髄内に挿入される髄内ロッドとを備えたものである。そして、髄内ロッドには貫通した通路が設けられており、この通路にスリーブが受け入れられるようになっている。また、特許文献2に記載の転子間骨折固定具は、ねじ山部を有する大腿骨頸部用ねじを受け入れる角付き開口を有する髄内ロッドと、頸部用ねじと角付き開口の壁部との間で作用して頸部用ねじ及び髄内ロッドの相対回転を防止するためのロック手段とを備えたものである。そして、このロック手段は、角付き開口内を摺動可能なスリーブとして構成されているものである。
【0003】
【特許文献1】特開平4−215751号公報
【特許文献2】特開平5−176942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された大腿骨骨折の治療器具は、大腿骨頭と係合するラックねじの髄内ロッドに対する取り付け角度が一定のままとなっている。また同様に、特許文献2に記載された転子間骨折固定具においても、大腿骨頚部用ねじの髄内ロッドに対する取り付け角度が一定のままとなっている。このように、特許文献1、2に記載のような構成の大腿骨近位部骨折用固定器具では、大腿骨における骨折位置から近位部側の部分に螺合するネジ部が設けられたラグスクリュが、髄内に沿って挿入される髄内棒に対して、固定された一定の取り付け角度で取り付けられてしまうことになる。このため、手術の状況に応じて要求される種々のラグスクリュ取り付け角度に対応できるように、ラグスクリュが髄内棒に対してそれぞれ異なる取り付け角度で取り付けられるように設計されている多くの種類の髄内棒が用意されていなければならないことになる。そして、手術中において、髄内棒を髄内に挿入した後にラグスクリュの取り付け角度がその手術を行っている術者が意図している至適刺入位置にラグスクリュを刺入できないような取り付け角度であった場合には、一度挿入した髄内棒を抜去して取り付け角度の異なる髄内棒を挿入し直さなければならないことになる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、手術の状況に応じて要求される種々のラグスクリュ取り付け角度に対応でき、異なるラグスクリュ取り付け角度に対応した多くの髄内棒を手術に際して準備しなければならない制約を解消し、髄内棒を手術中に挿入し直す作業の発生も解消することができる大腿骨近位部骨折用固定器具を提供することを目的とする。
【0006】
また、特許文献1、2に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具においては、髄内棒の近位部側の端部は遠位部側の端部よりも断面積が大きく広がった形状になっている。このため、髄内棒を大腿骨の髄内に挿入した際に、大腿骨における骨折位置よりも近位部側の部分が髄内棒の近位部側の端部と干渉し易く、大腿骨の近位部側の部分と遠位部側の部分との間において隙間が生じる現象である内反が大きくなってしまう虞がある。そこで、本発明では、髄内棒を大腿骨の髄内に挿入した際における大腿骨の近位部側の部分と髄内棒の近位部側の端部との干渉を抑制し、内反を軽減することができる大腿骨近位部骨折用固定器具を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明は、大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具に関する。
そして、本発明の大腿骨近位部骨折用固定器具は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。即ち、本発明は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第1の特徴は、前記遠位部側の部分の髄内に沿って挿入される棒状に形成されるとともに、側面で貫通する第1の貫通孔が設けられた髄内棒と、筒状体として形成されるとともに前記第1の貫通孔に挿通され、当該筒状体の長手方向に沿って貫通する第2の貫通孔が設けられたスリーブと、前記第2の貫通孔に挿通される棒状に形成されて、前記近位部側の部分に螺合するネジ部が先端側に設けられたラグスクリュと、前記第1の貫通孔および前記スリーブのうちの少なくともいずれか一方において形成されて、前記ラグスクリュの前記髄内棒に対する傾斜角度を可変とする角度調整手段と、を備えていることである。
【0009】
この構成によると、髄内棒が遠位部側の部分の髄内に挿入され、髄内棒の第1の貫通孔にはスリーブが挿入され、スリーブの第2の貫通孔にはラグスクリュが挿入される。そして、第1の貫通孔およびスリーブのうちの少なくともいずれか一方において形成された角度調整手段を手術中の術者が調整することによって、ラグスクリュの髄内棒に対する傾斜角度、即ちラグスクリュ取り付け角度がその術者の意図する角度となるように設定されることになる。さらに、術者の所望の取り付け角度に設定されたラグスクリュのネジ部が近位部側の部分に螺合されることで、骨折位置から近位部側の部分が遠位部側の部分に固定されることになる。このように、角度調整手段を手術中の術者が調整することによって、手術の状況に応じて要求される種々のラグスクリュ取り付け角度に対応できることになる。したがって、本発明の構成によると、異なるラグスクリュ取り付け角度に対応した多くの髄内棒を手術に際して準備しなければならない制約を解消し、髄内棒を手術中に挿入し直す作業の発生も解消することができる大腿骨近位部骨折用固定器具を提供することができる。
【0010】
本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第2の特徴は、前記角度調整手段は、湾曲しながら延びるように形成された前記第1の貫通孔と、当該第1の貫通孔に沿った湾曲形状の外形に形成された前記スリーブとによって形成されていることである。
【0011】
この構成によると、湾曲形成された第1の貫通孔に挿通された湾曲形状の外形のスリーブを第1の貫通孔に沿って摺動させるように変位させることで、スリーブの配向方向が変更され、このスリーブの第2の貫通孔に挿通されているラグスクリュの配向方向も同時に変更されることになる。即ち、第1の貫通孔に沿ってスリーブを変位させることでラグスクリュ取り付け角度を容易に調整することができる。
【0012】
本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第3の特徴は、前記第1の貫通孔は、遠位部側から近位部側に向かって反り返る方向に傾きの角度が変化するように湾曲形成されていることである。
【0013】
この構成によると、第1の貫通孔が遠位部側から近位部側に向かって反り返る方向に傾きの角度が変化するように湾曲形成されている。このため、術者は、第1の貫通孔に沿ってスリーブを近位部側に向かって所望のラグスクリュ取り付け角度となるまで少しずつ押し込むように変位させながらように調整することができ、ラグスクリュ取り付け角度の調整作業をより容易に行うことができる。
【0014】
本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第4の特徴は、前記角度調整手段は、円形断面の孔として形成された前記第1の貫通孔と、断面外形が前記第1の貫通孔の円形断面に対応する円形に形成されるとともに前記第2の貫通孔がスリーブ長手方向に対して斜めに貫通するように形成されている前記スリーブと、によって形成されていることである。
【0015】
この構成によると、円形断面の第1の貫通孔内でこの第1の貫通孔の円形断面に対応した円形断面に形成されたスリーブを適宜角度分だけ回すことでスリーブ長手方向に対して斜めに貫通形成された第2の貫通孔の第1の貫通孔に対する傾きが所定の角度だけ変化することになる。したがって、スリーブを第1の貫通孔内で適宜角度回すことでラグスクリュ取り付け角度を容易に調整することができる。
【0016】
本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第5の特徴は、前記ラグスクリュは、その軸中央部の直径よりも前記ネジ部の最大直径の方が大きくなるように形成され、前記スリーブは、前記第2の貫通孔の近位部側に配向する部分の内周側の縁部における少なくとも一部に前記軸中央部の通過を許容する範囲で突出する鍔部が設けられ、前記第2の貫通孔が前記ネジ部および前記軸中央部の通過を許容するとともに、前記鍔部が設けられることで前記第2の貫通孔の近位部側の開口径が前記ネジ部の最大直径よりも小さく且つ前記ネジ部の最小直径よりも大きくなるように形成され、前記ラグスクリュには、さらに、前記ネジ部が設けられている先端側とは反対の後端側に、当該ラグスクリュが前記第2の貫通孔内で近位部側に向かって摺動したときに前記鍔部と当接可能な段部が形成されていることである。
【0017】
この構成によると、まず、ラグスクリュのネジ部および軸中央部をスリーブの第2の貫通孔に挿通することができる。そして、スリーブは鍔部が設けられることで第2の貫通孔の近位部側の開口径がネジ部の最大直径よりも小さく且つ最少直径よりも大きくなるように形成されているため、ラグスクリュを回転させながら第2の貫通孔内に挿入していくことで、ラグスクリュのネジ部を鍔部で狭められた第2の貫通孔の開口部を通過させることができる。このため、ラグスクリュのネジ部を第2の貫通孔の開口部を通過させた後は、ネジ部の最大直径が第2の貫通孔の近位部側の開口径よりも大きくネジ部と鍔部とが当接することになり、大腿骨内に配置された際におけるスリーブからのラグスクリュの抜け落ち防止が図られることになる。さらに、ラグスクリュの後端側にはスリーブの鍔部と当接可能な段部が設けられていることで、ラグスクリュが第2の貫通孔を突き抜けてしまうことも防止できる。
【0018】
本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第6の特徴は、前記角度調整手段は、遠位部側から近位部側に向かって断面積が減少するテーパ状孔として形成された前記第1の貫通孔と、側周面が前記第1の貫通孔に沿ったテーパ状面としてそれぞれ形成される複数の前記スリーブであって、前記第2の貫通孔の断面中心を結ぶ中心線と前記第1の貫通孔の断面中心を結ぶ中心線とがなす角度が互いに異なるように前記第2の貫通孔がそれぞれ形成されている複数の前記スリーブと、によって形成されていることである。
【0019】
この構成によると、第1の貫通孔に対する第2の貫通孔の傾きが異なるスリーブを用いるとラグスクリュ取り付け角度も異なることになる。したがって、第1の貫通孔に対する第2の貫通孔の傾きが異なる複数のスリーブのうちから所望のラグスクリュ取り付け角度に対応するスリーブを適宜選定することで、髄内棒は共通のものを使用したままスリーブを交換するだけでラグスクリュ取り付け角度を容易に調整することができる。
【0020】
本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第7の特徴は、前記髄内棒には、前記第1の貫通孔とは異なる貫通孔であって、側面で貫通するとともに断面の形状が長孔形状となるように形成された第3の貫通孔が設けられ、前記第3の貫通孔に挿通されるとともに前記近位部側の部分に螺合する第2のスクリュをさらに備えていることである。
【0021】
この構成によると、髄内棒に設けられた第3の貫通孔に第2のスクリュを挿通して大腿骨の近位部側の部分に螺合させることで、この第2のスクリュが回旋防止機能を果たし、近位部側の部分が回動してしまうことを防止することができる。また、第3の貫通孔の断面形状が長孔形状となるように形成されており、第2のスクリュの取り付け角度の自由度を大きくすることができる。このため、ラグスクリュ取り付け角度との干渉が発生することを防止しながら、第2のスクリュを大腿骨の近位部側の部分に対して所望の角度で容易に取り付けることができる。
【0022】
本発明に係る大腿骨近位部骨折用固定器具における第8の特徴は、前記髄内棒の近位部側の先端部分には、テーパ面状に形成された切っ先部が設けられていることである。
【0023】
この構成によると、髄内棒の近位部側の先端部分にテーパ面状の切っ先部が設けられている。このため、髄内棒を大腿骨の髄内に挿入した際に、大腿骨における骨折位置よりも近位部側の部分と髄内棒の近位部側の端部との間で干渉が発生することを抑制し、内反を軽減することができる大腿骨近位部骨折用固定器具を提供することができる。
【0024】
また、上記他の目的を達成するための本発明の他の観点に係る大腿骨近位部骨折用固定器具は、大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具であって、前記遠位部側の部分の髄内に沿って挿入される棒状に形成されるとともに、側面で貫通する第1の貫通孔が設けられた髄内棒と、筒状体として形成されるとともに前記第1の貫通孔に挿通され、当該筒状体の長手方向に沿って貫通する第2の貫通孔が設けられたスリーブと、前記第2の貫通孔に挿通される棒状に形成されて、前記近位部側の部分に螺合するネジ部が先端側に設けられたラグスクリュと、を備え、前記髄内棒の近位部側の先端部分には、テーパ面状に形成された切っ先部が設けられていることを特徴とする。
【0025】
この構成によると、髄内棒の近位部側の先端部分にテーパ面状の切っ先部が設けられている。このため、髄内棒を大腿骨の髄内に挿入した際に、大腿骨における骨折位置よりも近位部側の部分と髄内棒の近位部側の端部との間で干渉が発生することを抑制し、内反を軽減することができる大腿骨近位部骨折用固定器具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具として広く適用することができるものである。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る大腿骨近位部骨折用固定器具1(以下、単に固定器具1という)の斜視図であり、図2は図1の正面側とは反対の後方側から見た固定器具1の斜視図を示したものである。この図1および図2に示すように、固定器具1は、髄内棒11と、スリーブ12と、ラグスクリュ13と、回旋防止スクリュ14と、スリーブ押さえ部材15と、スリーブ押さえロックネジ16と、補助ネジ17とを備えて構成されている。なお、スリーブ押さえ部材15およびスリーブ押さえロックネジ16については、図1では髄内棒11の内側に配置された状態を、図2では分解斜視図として示している。
【0028】
図3は、固定器具1の正面図を示したものであって、髄内棒11の一部およびスリーブ12について断面で示したものである。また、図4は、髄内棒11の一部断面を含む正面図を示したものである。なお、図3では、スリーブ押さえロックネジ16および補助ネジ17については図示を省略している。図1乃至図4に示すように、髄内棒11は、棒状に形成されており、側面で貫通する貫通孔18(本実施形態における第1の貫通孔)が設けられている。また、髄内棒11は、その軸方向(棒状に延在する長手方向)に沿って中空孔19が形成されている。
【0029】
図6は、固定器具1が大腿骨100に配置された状態を示す正面図であるが、この図6に示すように、固定器具1は、大腿骨100の近位部にて骨折が発生した際に大腿骨100における骨折位置(図中にて二点鎖線で示す位置)から遠位部側の部分100bに対して近位部側の部分100aを固定するために用いられる。そして、この図6に示すように、棒状に形成されている髄内棒11は、遠位部側の部分100bの髄内に沿って挿入されることになる。なお、図6では、左足大腿骨に適用された場合を例示しており、固定器具1における大腿骨100の内部に配置されている部分を点線で示している。
【0030】
また、髄内棒11にその側面で貫通するように設けられた貫通孔18は、図4にて一点鎖線Aでその輪郭線および中心線に沿う方向を示すように、湾曲しながら延びるように形成されている。そして、この貫通孔18は、遠位部側から近位部側に向かって反り返る方向に傾きの角度が変化するように湾曲形成されている(図4中の一点鎖線Aを参照)。
【0031】
また、髄内棒11には、貫通孔18とは異なる貫通孔であって、貫通孔18と同様に髄内棒11の側面で貫通する貫通孔20(本実施形態における第3の貫通孔)が形成されている。この貫通孔20は、図1乃至図4に示すように、断面の形状が長孔状(髄内棒11の軸方向に延びる長孔状)となるように形成されている。なお、貫通孔20は、図4にて一点鎖線Bで示すように、真っ直ぐな貫通孔として形成されている。また、髄内棒11には、その近位部側の先端部分において、図1乃至図4に示すように、テーパ面状に形成された部分であるテーパ面21を有する切っ先部22が設けられている。
【0032】
図5は、スリーブ12の断面図(図5(a))とその側面図(図5(b))とを示したものである。図1乃至図3、図5に示すように、スリーブ12は、筒状体として形成されており、髄内棒11に設けられた貫通孔18に挿通される。そして、このスリーブ12には、その筒状体の長手方向に沿って真っ直ぐに貫通する貫通孔23(本実施形態における第2の貫通孔)が設けられている。このスリーブ12の外形は、髄内棒11の貫通孔18に沿った湾曲形状に形成されている。このように形成されているため、スリーブ12を髄内棒11の貫通孔18に挿通させた状態でスリーブ12の位置を貫通孔18に沿って摺動させることができるようになっている。
【0033】
図1乃至図3に示すラグスクリュ13は、スリーブ12の貫通孔23に挿通される棒状に形成されており、大腿骨100の近位部側の部分100aに螺合するネジ部24が先端側に設けられている。このラグスクリュ13は、その軸部25がスリーブ12の貫通孔23に挿通された状態でネジ部24と反対側の端部をビスで止めるようにすることもできる。このラグスクリュ13は、軸部25とネジ部24の最大直径(ネジ部24における山の頭頂部分での直径、すなわち、ネジ部24の軸方向と垂直な平面に対する山の頭頂部分の平面視での直径)とが同寸法となるように形成されている。なお、ラグスクリュ13は、軸部25よりもネジ部24の最大直径の方が大きくなるように形成されているとともに、そのネジ部24の最大直径がスリーブ12の貫通孔23の直径よりも大きくなるように形成されていてもよい。このように、ラグスクリュ13において軸部25よりも直径の大きいネジ部24が設けられてこのネジ部24が貫通孔23の直径よりも大きくなるように形成されている場合、貫通孔23に挿通されているラグスクリュ13がそのネジ部24で貫通孔23の縁部分と当接することになり、大腿骨100内に配置された際にけるスリーブ12からのラグスクリュ13の確実な抜け落ち防止が図られることになる。
【0034】
図1乃至図3に示す回旋防止スクリュ14(本実施形態における第2のスクリュ)は、髄内棒11に設けられた長孔状断面の貫通孔20に挿通されるようになっている。そして、この回旋防止スクリュ14は、その先端側において、大腿骨100の近位部側の部分100aに螺合するネジ部27が設けられている。この回旋防止スクリュ14が大腿骨100の近位部側の部分100aに螺合することで、近位部側の部分100aの遠位部側の部分100bに対する回旋方向の変位が規制されて防止されることになる。
【0035】
図2および図3に示すスリーブ押さえ部材15は、先端側が二股に分かれた形状に形成されており、その先端側が髄内棒11の中空孔19に対して切っ先部22側から挿入されるようになっている。これにより、スリーブ押さえ部材15は、髄内棒11の中空孔19に挿入されてその遠位部側に配置されることになる。そして、この状態で、スリーブ押さえ部材ウ15は、その先端側の二股部分が、髄内棒11の貫通孔20に挿通されている回旋防止スクリュ14の軸部29に跨るようにしてさらにその先端側に位置しているスリーブ12に当接してこれを押さえ付けることができるようになっている。スリーブ押さえロックネジ16は、スリーブ押さえ部材15が上記のようにスリーブ12を押さえ付けた状態で、髄内棒11の中空孔19に切っ先部22側から嵌め込まれる。そして、スリーブ押さえロックネジ16の外周には雄ネジ部が形成されており、この雄ネジ部が中空孔19の切っ先部22側の端部に形成された雌ネジ部と螺合するようになっている。これにより、スリーブ押さえロックネジ16を中空孔19の雌ネジ部に螺合させてスリーブ押さえ部材15をスリーブ12に当接させた状態で固定し、スリーブ12を位置決めできるようになっている。
【0036】
図1および図6に示す補助ネジ17は、髄内棒11の軸部分の中途に設けられた長孔状の断面の貫通孔28に挿通されるようになっており、その先端側には大腿骨100と螺合するネジ部が形成されている。この補助ネジ17を設けることで、大腿骨100の髄内にて髄内棒11が回旋することを確実に防止されるようになっている。
【0037】
また、固定器具1においては、貫通孔18およびスリーブ12に形成されて、ラグスクリュ12の髄内棒11に対する傾斜角度を可変とする角度調整手段が設けられている。本実施形態においては、この角度調整手段は、湾曲形成された貫通孔18と、この貫通孔18に沿った湾曲形状の外形のスリーブ12とによって形成されている。
【0038】
上述した固定器具1が、大腿骨近位部にて骨折が発生した際に、図6に示すように、骨折位置から遠位部側の部分100bに対して近位部側の部分100aを固定するために用いられることになる。大腿骨近位部側の骨折した部位に対してかかる手術が行われる場合、術者によって、髄内棒11が遠位部側の部分100bの髄内に挿入され、その後、スリーブ12が髄内棒11の貫通孔18に挿通される。そして、ラグスクリュ13がその軸部25でスリーブ12の貫通孔23に挿通される。また、ビスをラグスクリュ13の先端側と反対側の端部に取り付けることもできる。
【0039】
髄内棒11の貫通孔18にスリーブ12が配置され、スリーブ12の貫通孔23にラグスクリュ13が配置された上述の状態から、術者は、スリーブ12を髄内棒11の貫通孔18内で摺動させるように変位させる。すなわち、術者は、貫通孔18およびスリーブ12によって形成されている角度調整手段を調整する。この角度調整手段による調整によって、ラグスクリュ13の髄内棒11に対する傾斜角度、即ちラグスクリュ取り付け角度がその術者の意図する角度となるように設定されることになる。そして、術者の所望の取り付け角度に設定されたラグスクリュ13のネジ部24が近位部側の部分100aに螺合されることで、骨折位置から近位部側の部分100aが遠位部側の部分100bに固定されることになる。
【0040】
また、回旋防止スクリュ14も貫通孔20に挿通されて、さらにこの回旋防止スクリュ14のネジ部27が近位部側の部分100bに螺合される。そして、スリーブ押さえ部材15が回旋防止スクリュ14を跨いでスリーブ12と当接するまで中空孔19内に挿入され、スリーブ押さえロックネジ16が中空孔19の切っ先部22側の端部に設けられた雌ネジ部と螺合されて、スリーブ12の位置決めが行われる。また、補助ネジ17も貫通孔28に挿通されて、その先端側に設けられたネジ部が大腿骨100と螺合される。これにより、図6に示す状態となり、大腿骨100の遠位部側の部分100bに対して近位部側の部分100aを固定器具1により固定する作業が終了することになる。
【0041】
なお、固定器具1は、図7に例示するような種々の形態の大腿骨骨折に対して用いることができる。骨折しているものの近位部側の部分100aと遠位部側の部分100bとの間でほとんど相対変位が生じていない形態のもの(図7(a))、近位部側の部分100aと遠位部側の部分100bとの間で相対変位が生じているが骨の欠損が生じていない形態のもの(図7(b))、図7(b)の場合とは異なって骨の欠損が生じている形態のもの(図7(c))、複雑骨折となっている形態のもの(図7(d))、図7(a)〜(d)に示すように人体外側に向かって骨折位置が高くなるような形態ではなく人体内側に向かって骨折位置が高くなるような形態のもの(図7(e))など、種々の形態の大腿骨骨折に対して固定器具1を適用することができる。
【0042】
ここで、大腿骨100の近位部側の部分100aと遠位部側の部分100bとの間において隙間が生じる内反の発生を抑制することができる固定器具1の機能について説明する。図8は、従来技術にかかる一般的な固定器具によって近位部側の部分100aを遠位部側の部分100bに対して固定する場合を説明する図である。図8(a)に示すように、まず、骨折した大腿骨100において、遠位部側の部分100bに対して近位部側の部分100aを固定する際の従来技術にかかるラグスクリュ102の刺し込み予定位置X1(一点鎖線で図示)が決められる。次いで、図8(b)に示すように、遠位部側の部分100bの髄内に従来技術にかかる髄内棒101が挿入される。この髄内棒101の近位部側の端部101aは断面積が大きく広がった形状になっている。このため、髄内棒101を遠位部側の部分100bに挿入した際に、近位部側の部分100aが髄内棒101の端部101aと干渉し易くなることになり、近位部側の部分100aと遠位部側の部分100bとの間において生じる隙間Y1が大きくなってしまう。すなわち、大きな内反が生じてしまうことになる。この結果、ラグスクリュ102の刺し込み可能位置X2(一点鎖線で示す)が刺し込み予定位置X1とずれてしまうことになる。そして、この図8(b)の状態から図8(c)に示すようにラグスクリュ102が刺し込み可能位置X2に沿って刺し込まれることになり、ラグスクリュ102の位置が手術開始時に予定していた刺し込み予定位置X1よりも高い位置に刺し込まれてしまうことになる。
【0043】
これに対して、本実施形態の固定器具1によって近位部側の部分100aを遠位部側の部分100bに対して固定する場合を図9を参照しながら説明する。図9(a)は、図8(a)と同様に刺し込み予定位置X1を説明する図である。刺し込み予定位置X1が決められると、図9(b)に示すように、遠位部側の部分100bの髄内に髄内棒11が挿入される。この髄内棒11の近位部側の先端部分には、テーパ面21が形成された切っ先部22が設けられている。このため、髄内棒11を遠位部側の部分100bに挿入した際に、近位部側の部分100aと髄内棒11の端部(切っ先部22)との間で干渉することを抑制し易くなり、近位部側の部分100aと遠位部側の部分100bとの間において生じる隙間Y2が小さくなることになる。すなわち、内反を軽減できることになる。この結果、ラグスクリュ13の刺し込み可能位置X3(一点鎖線で示す)と刺し込み予定位置X1とのずれを小さくすることができる。そして、図9(b)の状態から図9(c)に示すようにラグスクリュ13が刺し込み可能位置X3に沿って刺し込まれることになり、ラグスクリュ13を手術開始時に予定していた刺し込み予定位置X1からあまりずれない位置に刺し込むことができることになる。なお、図9では、回旋防止スクリュ14を用いていない場合を例示しているが、回旋防止スクリュ14を用いることもできる。
【0044】
以上説明した固定器具1によると、髄内棒11の貫通孔18とスリーブ12とによって構成される角度調整手段を手術中の術者が調整することによって、手術の状況に応じて要求される種々のラグスクリュ取り付け角度に対応できることになる。したがって、固定器具1によると、異なるラグスクリュ取り付け角度に対応した多くの髄内棒を手術に際して準備しなければならない制約を解消し、髄内棒を手術中に挿入し直す作業の発生も解消することができる。
【0045】
また、固定器具1によると、湾曲形成された貫通孔18に挿通された湾曲形状の外形のスリーブ12を貫通孔18に沿って摺動させるように変位させることで、スリーブ12の配向方向が変更され、このスリーブ12の貫通孔23に挿通されているラグスクリュ13の配向方向も同時に変更されることになる。すなわち、髄内棒11の貫通孔18に沿ってスリーブ12を変位させることでラグスクリュ取り付け角度を容易に調整することができる。
【0046】
また、固定器具1によると、髄内棒11の貫通孔18が遠位部側から近位部側に向かって反り返る方向に傾きの角度が変化するように湾曲形成されている。このため、術者は、貫通孔18に沿ってスリーブ12を近位部側に向かって所望のラグスクリュ取り付け角度となるまで少しずつ押し込むように変位させながらように調整することができ、ラグスクリュ取り付け角度の調整作業をより容易に行うことができる。
【0047】
また、固定器具1によると、髄内棒11に設けられた貫通孔20に回旋防止スクリュ14を挿通して大腿骨100の近位部側の部分100aに螺合させることで、この回旋防止スクリュ14が回旋防止機能を果たし、近位部側の部分100aが回動してしまうことを防止することができる。また、貫通孔20の断面形状が長孔形状となるように形成されており、回旋防止スクリュ14の取り付け角度の自由度を大きくすることができる。このため、ラグスクリュ取り付け角度との干渉が発生することを防止しながら、回旋防止スクリュ14を大腿骨100の近位部側の部分100aに対して所望の角度で容易に取り付けることができる。
【0048】
また、固定器具1によると、髄内棒11の近位部側の先端部分にテーパ面状の切っ先部22が設けられている。このため、髄内棒11を大腿骨100の髄内に挿入した際に、大腿骨100における骨折位置よりも近位部側の部分100aと髄内棒11の近位部側の端部との間で干渉が発生することを抑制し、内反を軽減することができる。
【0049】
なお、第1実施形態の固定器具1においては、スリーブ12およびラグスクリュ13aの形態を図10に示すスリーブ12aおよびラグスクリュ13aのように変形して実施することもできる。図10は、変形例に係るスリーブ12aおよびラグスクリュ13aを示す図であって、スリーブ12aについては断面図を、ラグスクリュ13aについては一部切欠き断面図をそれぞれ示している。
【0050】
図10に示す変形例に係るスリーブ12aおよびラグスクリュ13aは、第1実施形態の固定器具1においてスリーブ12およびラグスクリュ13に替えて用いることができるようになっており、スリーブ12およびラグスクリュ13と同様の構成を備えて形成されているが、第1実施形態とはいくつか異なった形態も備えて構成されている。
【0051】
まず、ラグスクリュ13aは、図10(a)に示すように、軸部25aにおけるその軸中央部の直径(図中に両端矢印で直径寸法Aを示す直径)よりもネジ部24aの最大直径(図中に両端矢印で直径寸法Bを示す直径)の方が大きくなるように形成されている(すなわち、B>Aとなるように形成されている)。そして、スリーブ12aは、第2の貫通孔23aの近位部側に配向する部分の内周側の縁部に軸25aの軸中央部の通過を許容する範囲で第2の貫通孔23aの内側に向かって突出する鍔部40が設けられている。なお、図10では、第2の貫通孔23aの近位部側に配向する部分の内周側の縁部の全周に亘って鍔部40が設けられている場合を例示しているが、その縁部の少なくとも一部に鍔部40が設けられているものであってもよい。また、加えて、スリーブ12aは、第2の貫通孔23aがネジ部24aおよび軸25aの軸中央部の通過を許容する寸法に形成されるとともに、鍔部40が設けられることで第2の貫通孔23aの近位部側の開口径がネジ部24aの最大直径(寸法B)よりも小さく且つネジ部24aの最小直径(ネジ部24aの谷部での直径)よりも大きくなるように形成されている。さらに、ラグスクリュ13aには、ネジ部24aが設けられている先端側とは反対の後端側に、ラグスクリュ13aが第2の貫通孔24a内で近位部側に向かって摺動したときに鍔部40と当接可能な段部41が形成されている。
【0052】
この変形例によると、まず、ラグスクリュ13aのネジ部24aおよび軸部25aの軸中央部をスリーブ12aの第2の貫通孔23aに挿通することができる(図10(a)参照)。そして、スリーブ12aは鍔部40が設けられることで第2の貫通孔23aの近位部側の開口径がネジ部24aの最大直径よりも小さく且つ最少直径よりも大きくなるように形成されているため、ラグスクリュ13aを回転させながら第2の貫通孔23a内に挿入していくことで、ラグスクリュ13aのネジ部24aを鍔部40で狭められた第2の貫通孔23aの開口部を通過させることができる(すなわち、図10(a)に示す状態を経て図10(b)に示す状態へと移行させることができる)。このため、ラグスクリュ13aのネジ部24aを第2の貫通孔23aの開口部を通過させた後は、ネジ部24aの最大直径が第2の貫通孔23aの近位部側の開口径よりも大きくネジ部24aと鍔部40とが当接することになり、大腿骨100内に配置された際におけるスリーブ12aからのラグスクリュ13aの抜け落ち防止が図られることになる。さらに、ラグスクリュ13aの後端側にはスリーブ12aの鍔部40と当接可能な段部41が設けられていることで、図10(b)に示すように段部41が鍔部40と当接するため、ラグスクリュ13aが第2の貫通孔23aを突き抜けてしまうことも防止できる。
【0053】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態に係る大腿骨近位部骨折用固定器具2(以下、単に固定器具2という)の斜視図である。また、図12は、固定器具2の正面図を示したものであって、髄内棒11の一部およびスリーブ30について断面図で示したものである。この図11および図12に示す固定器具2は、第1実施形態の固定器具1と同様に、髄内棒11と、スリーブ30と、ラグスクリュ13と、回旋防止スクリュ14と、スリーブ押さえ部材15と、スリーブ押さえロックネジ16(図示せず)と、補助ネジ17とを備えて構成されている。ただし、角度調整手段の構成が第1実施形態の場合とは異なっている。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同様の要素については、図面にて同一の符合を付して説明を割愛する。
【0054】
固定器具2においては、髄内棒11の貫通孔32(第2実施形態における第1の貫通孔)と複数のスリーブ30とによってラグスクリュ取り付け角度を調整する角度調整手段が形成されている。図13は、固定器具2の髄内棒11の一部断面を含む正面図を示したものである。図11乃至図13に示すように、固定器具2の髄内棒11において側面で貫通する貫通孔32は、遠位部側から近位部側に向かって断面積が減少するテーパ状孔として形成されている。
【0055】
また、固定器具2においては、貫通孔31(第2実施形態における第2の貫通孔)の形成の仕方がそれぞれ異なるスリーブ30が複数備えられている。図14は、複数のスリーブ30(30a、30b、30c、30d)の断面図とその側面図とを示したものである。複数のスリーブ30は、その外形は同形状に形成されており、それぞれその側周面33が髄内棒11の貫通孔32に沿ったテーパ状面として形成されている。そして、貫通孔31(31a、31b、31c、31d)は、真っ直ぐな貫通孔として各スリーブ30においてそれぞれ形成されている。しかし、図14に示すように、各スリーブ30において、各貫通孔31の傾き角がそれぞれ異なっている。
【0056】
図14(a)に示すスリーブ30aでは、側周面33からなる外形の断面中心を結ぶ中心線である外形断面中心線C1に対して、貫通孔31aの断面中心を結ぶ中心線である貫通孔中心線C2が3°傾いた状態となるように、貫通孔31aがスリーブ30aに対して貫通形成されている。なお、外形断面中心線C1は、スリーブ30が髄内棒11の貫通孔32に挿通された状態では、貫通孔32の断面中心を結ぶ中心線と一致することになる。また、スリーブ30は、外形断面中心線C1を中心として180°回転させた状態でも髄内棒11の貫通孔32に挿通できるように、その側周面33の形状が形成されている。このため、図14(a)に示すスリーブ30aは、外形断面中心線C1と重なる髄内棒11の貫通孔32の中心線に対して、貫通孔中心線C2が+3°または−3°傾いた状態となるように、貫通孔32に挿入されることになる。
【0057】
図14(b)に示すスリーブ30bでは、外形断面中心線C1に対して、貫通孔中心線C2が2°傾いた状態となるように、貫通孔31bがスリーブ30bに対して貫通形成されている。よって、スリーブ30bは、髄内棒11の貫通孔32の中心線に対して、貫通孔中心線C2が+2°または−2°傾いた状態となるように、貫通孔32に挿入されることになる。図14(c)に示すスリーブ30cでは、外形断面中心線C1に対して、貫通孔中心線C2が1°傾いた状態となるように、貫通孔31cがスリーブ30cに対して貫通形成されている。よって、スリーブ30cは、髄内棒11の貫通孔32の中心線に対して、貫通孔中心線C2が+1°または−1°傾いた状態となるように、貫通孔32に挿入されることになる。図14(d)に示すスリーブ30dでは、外形断面中心線C1と貫通孔中心線C2とが一致するように(傾きが0°となるように)、貫通孔31dがスリーブ30bに対して貫通形成されている。
【0058】
このように、複数のスリーブ30(30a、30b、30c、30d)は、貫通孔31(31a、31b、31c、31d)の断面中心を結ぶ貫通孔中心線C2と髄内棒11の貫通孔32の断面中心を結び外形断面中心線C1に重なる中心線とがなす角度が互いに異なるように、貫通孔31がそれぞれ形成されていることになる。そして、貫通孔31にラグスクリュ13が挿通されると、スリーブ30が異なれば、異なる貫通孔31の角度に応じてラグスクリュ13も異なる角度で髄内棒11に対して傾斜した状態になることになる。
【0059】
以上説明した第2実施形態に係る固定器具2によると、髄内棒11の貫通孔32に対する貫通孔31の傾きが異なるスリーブ30を用いるとラグスクリュ取り付け角度も異なることになる。したがって、貫通孔32に対する貫通孔31の傾きが異なる複数のスリーブ30のうちから所望のラグスクリュ取り付け角度に対応するスリーブ30を適宜選定することで、髄内棒11は共通のものを使用したままスリーブ30を交換するだけでラグスクリュ取り付け角度を容易に調整することができる。
【0060】
(第3実施形態)
図15は、本発明の第3実施形態に係る大腿骨近位部骨折用固定器具3(以下、単に固定器具3という)の斜視図である。また、図16は、固定器具3の正面図を示したものであって、髄内棒11の一部およびスリーブ34について断面図で示したものである。この図15および図16に示す固定器具3は、第1実施形態の固定器具1と同様に、髄内棒11と、スリーブ34と、ラグスクリュ13と、回旋防止スクリュ14と、スリーブ押さえ部材15と、スリーブ押さえロックネジ16(図示せず)と、補助ネジ17とを備えて構成されている。ただし、角度調整手段の構成が第1実施形態の場合とは異なっている。なお、第3実施形態の説明において、第1実施形態と同様の要素については、図面にて同一の符合を付して説明を割愛する。
【0061】
固定器具3においては、髄内棒11の貫通孔36(第3実施形態における第1の貫通孔)とスリーブ34とによってラグスクリュ取り付け角度を調整する角度調整手段が形成されている。図17は、固定器具3の髄内棒11の一部断面を含む正面図を示したものである。図15乃至図17に示すように、固定器具3の髄内棒11において側面で貫通する貫通孔36(第3実施形態における第1の貫通孔)は、円形断面の孔として真っ直ぐに延びる貫通孔として形成されている。
【0062】
図18は、スリーブ34の断面図(図18(a))とその側面図(図18(b))とを示したものである。図15、図16、及び図18に示すように、スリーブ34は、髄内棒11の貫通孔36の円形断面に対応するように断面外形が円形に形成されている。そして、スリーブ34においては、貫通孔35(第3実施形態における第2の貫通孔)がスリーブ長手方向に対して斜めに真っ直ぐ貫通するように形成されている。すなわち、図18に示すように、スリーブ34は、その側周面37からなる外形の断面中心を結ぶ中心線である外形断面中心線C3に対して、貫通孔35の断面中心を結ぶ中心線である貫通孔中心線C4が傾いた状態となるように、貫通孔35がスリーブ34に対して貫通形成されている。
【0063】
以上説明した第3実施形態に係る固定器具3によると、円形断面の貫通孔36内でこの貫通孔36の円形断面に対応した円形断面に形成されたスリーブ34を適宜角度分だけ回すことでスリーブ長手方向に対して斜めに貫通形成された貫通孔35の貫通孔36に対する傾きが所定の角度だけ変化することになる。したがって、スリーブ34を貫通孔35内で適宜角度回すことでラグスクリュ取り付け角度を容易に調整することができる。
【0064】
なお、第3実施形態に係る固定器具3においては、スリーブ34およびラグスクリュ13に関し第1実施形態の変形例と同様の変形例を実施することもできる。すなわち、固定器具3のスリーブ34に関して第1実施形態の変形例のスリーブ12aと同様の鍔部40を設け、固定器具3のラグスクリュ13を第1実施形態の変形例のラグスクリュ13aに変更して実施してもよい。
【0065】
以上、本発明の第1乃至第3実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具として広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施形態に係る大腿骨近位部骨折用固定器具の斜視図である。
【図2】図1に示す固定器具を図1の正面側とは反対の後方側から見た斜視図である。
【図3】図1に示す固定器具の一部断面を含む正面図である。
【図4】図3に示す固定器具における髄内棒の一部断面を含む正面図である。
【図5】図1に示す固定器具におけるスリーブの断面図およびその側面図である。
【図6】図1に示す固定器具が大腿骨に配置された状態を示す正面図である。
【図7】大腿骨骨折の各種形態を例示して説明する図である。
【図8】従来技術にかかる固定器具によって大腿骨の近位部側の部分を遠位部側の部分に対して固定する場合を説明する図である。
【図9】図1に示す固定器具によって大腿骨の近位部側の部分を遠位部側の部分に対して固定する場合を説明する図である。
【図10】第1実施形態の変形例に係るスリーブおよびラグスクリュを示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る大腿骨近位部骨折用固定器具の斜視図である。
【図12】図11に示す固定器具の一部断面を含む正面図である。
【図13】図12に示す固定器具における髄内棒の一部断面を含む正面図である。
【図14】図11に示す固定器具において用いられる複数のスリーブの断面図およびその側面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る大腿骨近位部骨折用固定器具の斜視図である。
【図16】図15に示す固定器具の一部断面を含む正面図である。
【図17】図16に示す固定器具における髄内棒の一部断面を含む正面図である。
【図18】図15に示す固定器具におけるスリーブの断面図およびその側面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 大腿骨近位部骨折用固定器具
11 髄内棒
12 スリーブ、角度調整手段
13 ラグスクリュ
18 貫通孔(第1の貫通孔)、角度調整手段
23 貫通孔(第2の貫通孔)
24 ネジ部
100 大腿骨
100a 近位部側の部分
100b 遠位部側の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具であって、
前記遠位部側の部分の髄内に沿って挿入される棒状に形成されるとともに、側面で貫通する第1の貫通孔が設けられた髄内棒と、
筒状体として形成されるとともに前記第1の貫通孔に挿通され、当該筒状体の長手方向に沿って貫通する第2の貫通孔が設けられたスリーブと、
前記第2の貫通孔に挿通される棒状に形成されて、前記近位部側の部分に螺合するネジ部が先端側に設けられたラグスクリュと、
前記第1の貫通孔および前記スリーブのうちの少なくともいずれか一方において形成されて、前記ラグスクリュの前記髄内棒に対する傾斜角度を可変とする角度調整手段と、
を備えていることを特徴とする大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項2】
前記角度調整手段は、湾曲しながら延びるように形成された前記第1の貫通孔と、当該第1の貫通孔に沿った湾曲形状の外形に形成された前記スリーブとによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項3】
前記第1の貫通孔は、遠位部側から近位部側に向かって反り返る方向に傾きの角度が変化するように湾曲形成されていることを特徴とする請求項2に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項4】
前記角度調整手段は、円形断面の孔として形成された前記第1の貫通孔と、断面外形が前記第1の貫通孔の円形断面に対応する円形に形成されるとともに前記第2の貫通孔がスリーブ長手方向に対して斜めに貫通するように形成されている前記スリーブと、によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項5】
前記ラグスクリュは、その軸中央部の直径よりも前記ネジ部の最大直径の方が大きくなるように形成され、
前記スリーブは、前記第2の貫通孔の近位部側に配向する部分の内周側の縁部における少なくとも一部に前記軸中央部の通過を許容する範囲で突出する鍔部が設けられ、前記第2の貫通孔が前記ネジ部および前記軸中央部の通過を許容するとともに、前記鍔部が設けられることで前記第2の貫通孔の近位部側の開口径が前記ネジ部の最大直径よりも小さく且つ前記ネジ部の最小直径よりも大きくなるように形成され、
前記ラグスクリュには、さらに、前記ネジ部が設けられている先端側とは反対の後端側に、当該ラグスクリュが前記第2の貫通孔内で近位部側に向かって摺動したときに前記鍔部と当接可能な段部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項6】
前記角度調整手段は、
遠位部側から近位部側に向かって断面積が減少するテーパ状孔として形成された前記第1の貫通孔と、
側周面が前記第1の貫通孔に沿ったテーパ状面としてそれぞれ形成される複数の前記スリーブであって、前記第2の貫通孔の断面中心を結ぶ中心線と前記第1の貫通孔の断面中心を結ぶ中心線とがなす角度が互いに異なるように前記第2の貫通孔がそれぞれ形成されている複数の前記スリーブと、
によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項7】
前記髄内棒には、前記第1の貫通孔とは異なる貫通孔であって、側面で貫通するとともに断面の形状が長孔形状となるように形成された第3の貫通孔が設けられ、
前記第3の貫通孔に挿通されるとともに前記近位部側の部分に螺合する第2のスクリュをさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項8】
前記髄内棒の近位部側の先端部分には、テーパ面状に形成された部分を有する切っ先部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の大腿骨近位部骨折用固定器具。
【請求項9】
大腿骨近位部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための大腿骨近位部骨折用固定器具であって、
前記遠位部側の部分の髄内に沿って挿入される棒状に形成されるとともに、側面で貫通する第1の貫通孔が設けられた髄内棒と、
筒状体として形成されるとともに前記第1の貫通孔に挿通され、当該筒状体の長手方向に沿って貫通する第2の貫通孔が設けられたスリーブと、
前記第2の貫通孔に挿通される棒状に形成されて、前記近位部側の部分に螺合するネジ部が先端側に設けられたラグスクリュと、
を備え、
前記髄内棒の近位部側の先端部分には、テーパ面状に形成された部分を有する切っ先部が設けられていることを特徴とする大腿骨近位部骨折用固定器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−68011(P2008−68011A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251342(P2006−251342)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【出願人】(596117935)
【Fターム(参考)】