説明

大豆ペーストの製造方法

【課題】従来では不可能とされた大豆を用いて、粘度の低い、いわゆるさらっとした本当の餡、すなわち大豆ペーストを得ることが可能な大豆ペーストの製造方法の提供。
【解決手段】重曹を入れた水に大豆を浸漬する浸漬工程(S11)と、大豆を重曹を入れた水とともに炊いた後、煮汁を排出し、大豆を水洗いする渋切り工程(S12)と、大豆を重曹を入れた水とともに炊く本炊き工程(S13)と、大豆が炊き上がった後、煮汁を排出し、水洗いする水洗い工程(S14)と、水洗いした大豆を潰す豆潰し工程(S15)とを含むことにより、重曹が大豆中に浸透し、大豆に含まれる水溶性蛋白質のみならず不溶性蛋白質までをも分解するので、大豆の蛋白質含有量がペースト化に適した量となり、粘度の低い、いわゆるさらっとした大豆ペーストが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆を原料とする大豆ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餡とは、学問的には、豆に熱をかけ、澱粉をアルファ化したもので、かつ細胞膜に包まれたものをいう。餡は、饅頭、羊羹、餅、最中等の和菓子や、餡パン等の菓子パンなどの材料として使用されている。餡としては、あずきを用いた小豆餡が一般的である。餡の原料としては、その他に、いんげん豆、そら豆、えんどう豆等が使用されているが、大豆は一般的に使用されていない。
【0003】
大豆は栄養価が高く、食品材料としては際立って優れているが、一方で蛋白質および脂質が多く、澱粉が少ないため、餡材料としては適切でないと考えられている。例えば、小豆は、蛋白質が約20質量%、糖質が約55%、脂質が約2%であるのに対し、大豆は、蛋白質が約40質量%、脂質が約20質量%であり、蛋白質および脂質の含量が、小豆に比べて著しく高い。
【0004】
このように、大豆は餡材料としては適切でないが、その一方で栄養価が高いので、従来、この大豆を用いた大豆餡を製造する様々な試みがなされている。例えば、水蒸気の存在下で加熱して水溶性蛋白質を3〜13%とし、これを微粉砕して100〜500メッシュの粒度分を採取する方法(特許文献1)、大豆を水に浸漬した後、水切りし、蒸煮または水煮する方法(特許文献2)、大豆を加圧下で煮熟し、大豆臭の原因となっている成分を蒸気とともに加圧器外に排出除去する方法(特許文献3)や、大豆を加圧下で蒸気加熱した後、摩砕する方法(特許文献4)等が知られている。
【0005】
【特許文献1】特公昭42−5177号公報
【特許文献2】特開昭61−104758号公報
【特許文献3】特開昭62−138161号公報
【特許文献4】特開平9−56356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、大豆は蛋白質および脂質が多く、澱粉が少ないために、餡原料としてはほとんど用いられていない。蛋白質が多いと、砂糖を加えて加温混練しても、糊状となってしまい、粘度の低い、いわゆるさらっとした本当の餡にはならない。また、脂質に起因する大豆特有の大豆臭といった異臭がつきまとうので、嗜好品としては敬遠される傾向にある。
【0007】
また、前述のように、特許文献1〜4には、主として蒸気で加熱することにより、大豆の蛋白質含有量を減らして餡を製造することが記載されているが、蒸気加熱で減らすことのできる蛋白質は水溶性蛋白質だけであり、不溶性蛋白質を減らすことはできない。したがって、上記従来方法では、不溶性蛋白質を含めた大豆の全蛋白質の含有量を減らすことができず、上記のような問題点を解決するには至っていない。
【0008】
そこで、本発明においては、従来では不可能とされた大豆を用いて、粘度の低い、いわゆるさらっとした本当の餡、すなわち大豆ペーストを得ることが可能な大豆ペーストの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の大豆ペーストの製造方法は、重曹を入れた水に大豆を浸漬する工程と、大豆を、重曹を入れた水とともに炊く本炊き工程と、大豆が炊き上がった後、煮汁を排出し、水洗いする工程と、水洗いした大豆を潰す工程とを含む。
【0010】
本発明の大豆ペーストの製造方法によれば、重曹が大豆中に浸透し、大豆に含まれる水溶性蛋白質のみならず不溶性蛋白質までをも分解するので、大豆の蛋白質含有量がペースト化に適した量となり、粘度の低い、いわゆるさらっとした大豆ペーストが得られる。
【0011】
ここで、本炊き工程前には、大豆を、重曹を入れた水とともに炊いた後、煮汁を排出し、大豆を水洗いする渋切り工程を含むことが望ましい。この渋切り工程において、大豆を重曹を入れた水とともに炊くことにより、前述のように大豆に含まれる蛋白質が分解され、煮汁とともにこの分解された蛋白質が大豆と分離される。その後、さらに本炊き工程において、大豆を重曹を入れた水とともに炊くことで、さらに大豆の蛋白質含有量を減らすことができ、大豆の蛋白質含有量をペースト化に適した量として大豆ペーストを得ることができる。
【0012】
また、重曹を入れた水は、さらに漂白剤を入れたものであることが望ましい。漂白剤を入れて大豆を炊くことにより、大豆ペーストの色が脱色されるとともに、大豆の臭みの元となる脂質を取り除くことができる。なお、漂白剤としては、次亜硫酸ナトリウムや次亜塩素酸ソーダ等を使用することができる。
【0013】
また、重曹は、大豆に対して2.5〜5質量%入れることが望ましい。この範囲の量の重曹を入れることで、大豆をペースト化に最も適した蛋白質含有量とするための大豆の蛋白質分解量とすることができる。重曹が2.5質量%未満の場合、大豆は柔らかくなるだけで、充分に蛋白質を分解することができなくなる。一方、重曹が5質量%超の場合、必要以上に大豆の蛋白質が分解され過ぎるので、ペースト化に適さなくなる。
【発明の効果】
【0014】
(1)重曹を入れた水に大豆を浸漬し、重曹を入れた水とともに炊き、大豆が炊き上がった後、煮汁を排出し、水洗いし、水洗いした大豆を潰すことにより、重曹が大豆中に浸透し、大豆に含まれる水溶性蛋白質のみならず不溶性蛋白質までをも分解するので、大豆の蛋白質含有量がペースト化に適した量となり、粘度の低い、いわゆるさらっとした大豆ペーストが得られる。得られた大豆ペーストは蛋白質含有量が少ないので腐敗しにくく、日持ちするので、常温でも長期間保存することが可能となる。
【0015】
(2)本炊き工程前に、大豆を重曹を入れた水とともに炊いた後、煮汁を排出し、大豆を水洗いすることにより、さらに大豆の蛋白質含有量を減らすことができ、特に蛋白質含有量の多い種類の大豆であっても、その蛋白質含有量をペースト化に適した量として大豆ペーストを得ることができる。
【0016】
(3)重曹を入れた水にさらに漂白剤を入れたことによって、大豆ペーストの色が脱色されるとともに、大豆の臭みの元となる脂質を取り除くことができるので、色良く、臭みのない大豆ペーストを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔1〕黄大豆ペーストの製造方法
まず、大豆として黄大豆を用いた大豆ペーストとしての黄大豆生餡の製造方法について説明する。図1は黄大豆生餡の製造工程を示すフロー図である。
【0018】
(ステップS11)
黄大豆に付着している不純物を取り除くために水洗いして、釜や鍋等の器の中に仕込み、黄大豆に対して重曹(重炭酸曹達)を2.5〜5質量%、漂白剤としての次亜硫酸ナトリウムを0.8質量%入れ、さらに充分な水を入れて20〜30分間浸漬する。
【0019】
(ステップS12)
釜を強火に掛け、黄大豆を重曹および漂白剤を入れた水とともに炊く。沸騰後、火力を落とし、10〜15分後(豆が浮いた頃)にびっくり水(差し水)を当初の水の量の20〜30質量%添加する。この注水後、強火で炊き、沸騰後に火力を落として煮炊きを行う。そして、炊き始めから30分後位に煮汁を全部排出し、黄大豆に付着している不純物を取り除くために簡単に水洗いする。
【0020】
(ステップS13)
水洗い後、再度黄大豆に対して重曹を2.5〜5質量%、漂白剤としての次亜硫酸ナトリウムを0.5質量%入れ、さらに充分な水を入れて本炊きを行う。まず強火で炊き、沸騰後、火力を落として、約2時間前後の煮炊き時間(豆の量および火力により加減する。)で煮炊きを行う。なお、水は充分に入れておく。
【0021】
(ステップS14)
充分に黄大豆が炊き上がったら、煮汁を排出し、黄大豆に付着している不純物を取り除くために簡単に水洗いする。そして、黄大豆を入れた鍋等に水または湯を入れ、70〜80℃位に加熱し、硫酸カルシウム0.5〜1%程度を水に溶いて注入し、30分前後放置し、排水する。その後、水を掛け、薬品分を取り除く。
【0022】
(ステップS15)
最後に煮豆を笊等に取り出し、裏漉し機(ミンチ機械)に掛けて潰すことにより、黄大豆の生餡が得られる。得られる生餡は、仕込量の約210質量%前後である。
【0023】
以上のように、本実施形態における黄大豆生餡の製造方法では、重曹が黄大豆中に浸透し、黄大豆に含まれる水溶性蛋白質のみならず不溶性蛋白質までをも分解するので、黄大豆の蛋白質含有量がペースト化に適した量となり、粘度の低い、さらっとした黄大豆生餡が得られる。特に、本実施形態における黄大豆のような蛋白質含有量の多い種類の大豆の場合、渋切り工程において一度重曹を入れた水により黄大豆を炊き、煮汁を全部排出して水洗いした後に、再度重曹を入れた水により黄大豆を本炊きしているので、黄大豆の蛋白質含有量を充分に下げて、腐敗しにくく日持ちの良い黄大豆生餡が得られる。
【0024】
また、本実施形態における黄大豆生餡の製造方法では、重曹を入れた水にさらに漂白剤を入れることにより、黄大豆の色が脱色されるとともに、黄大豆の臭みの元となる脂質が取り除かれる。したがって、色良く、臭みのない黄大豆生餡が得られる。
【0025】
〔2〕黒大豆ペーストの製造方法
次に、大豆として黒大豆を用いた黒大豆ペーストとしての黒大豆生餡の製造方法について説明する。図2は黒大豆生餡の製造工程を示すフロー図である。
【0026】
(ステップS21)
黒大豆に付着している不純物を取り除くために水洗いして、釜や鍋等の器の中に仕込み、黒大豆に対して重曹を2.5〜5質量%入れ、さらに充分な水を入れて20〜30分間浸漬する。
【0027】
(ステップS22)
釜を強火に掛け、黒大豆を重曹を入れた水とともに炊く。沸騰後、火力を落とし、10〜15分後(豆が浮いた頃)にびっくり水を当初の水の量の20〜30質量%添加する。この注水後、強火で炊き、沸騰後に火力を落として、約2時間前後の煮炊き時間(豆の量および火力により加減する。)で煮炊きを行う。なお、水は充分に入れておく。また、途中で釜の中の灰汁(豆等に付着している不純物)を数回取り除く。
【0028】
(ステップS23)
充分に黒大豆が炊き上がったら、煮汁を排出し、黒大豆に付着している不純物を取り除くために簡単に水洗いする。なお、炊き上がり質量は、仕込量の約225質量%前後である。
【0029】
(ステップS24)
最後に煮豆を笊等に取り出し、裏漉し機(ミンチ機械)に掛けて潰すことにより、黒大豆の生餡が得られる。得られる生餡は、仕込量の約220質量%前後である。
【0030】
以上のように、黒大豆の場合には、黄大豆と比較して蛋白質含有量が少ないので、黄大豆のような渋切り工程を行うことなく、重曹による一度の本炊き工程で充分に蛋白質を分解して、粘度の低い、さらっとした黒大豆生餡が得られる。また、黒大豆の場合には、皮の部分に栄養分が多く含まれ、また臭み成分も少ないので、漂白剤についても入れていない。
【0031】
なお、上記〔1〕、〔2〕で得られた生餡を用いて練り餡を製造することも可能である。練り餡の製造方法については従来と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る大豆ペーストは、饅頭、羊羹、餅、最中等の和菓子、餡パン等の菓子パンやその他の大豆加工食品の材料として有用である。また、この大豆ペーストを乾燥させたものは、煎餅やクッキー等の材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】黄大豆生餡の製造工程を示すフロー図である。
【図2】黒大豆生餡の製造工程を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重曹を入れた水に大豆を浸漬する工程と、
前記大豆を、重曹を入れた水とともに炊く本炊き工程と、
前記大豆が炊き上がった後、煮汁を排出し、水洗いする工程と、
前記水洗いした大豆を潰す工程と
を含む大豆ペーストの製造方法。
【請求項2】
前記本炊き工程前に、前記大豆を、重曹を入れた水とともに炊いた後、煮汁を排出し、大豆を水洗いする渋切り工程を含む請求項1記載の大豆ペーストの製造方法。
【請求項3】
前記重曹を入れた水は、さらに漂白剤を入れたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の大豆ペーストの製造方法。
【請求項4】
前記重曹は、前記大豆に対して2.5〜5質量%入れることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の大豆ペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−121920(P2006−121920A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311385(P2004−311385)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(500042946)株式会社とうばた (1)
【Fターム(参考)】