説明

大豆油不けん化物含有組成物

【課題】 大豆油不けん化物を組成物全体の50質量%以上含有し、且つ大豆油不けん化物の性状のバラツキの影響を受けずに良好な水への分散性を有する組成物およびこれを含有するカプセル剤を提供する。
【解決手段】 大豆油不けん化物に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルに添加・配合して、大豆油不けん化物を50質量%以上含有する組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分として大豆油不けん化物を組成物全体の50質量%以上含有することを特徴とし、且つ大豆油不けん化物の性状のバラツキの影響を受けず、水への分散性が良好な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆油不けん化物は、植物ステロール約40〜50%および天然トコフェロール約20%を含み、室温で不透明な半固体であり、クロロホルムやエーテルには溶けやすいが、エタノールには極めて溶け難く、水にはほとんど溶けない。また、大豆油不けん化物中に含まれる植物ステロールは、β−シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなどの複数成分を含むうえ、遊離型、脂肪酸とのエステル型、配糖体、アシルステロール配糖体の複数の形で存在する。
また、大豆油不けん化物は、高コレステロール血症を改善する作用を有するとして、日本薬局方外医薬品規格(局外規)に収載されており、大豆油不けん化物を軟カプセルに充填した高コレステロール血症改善カプセル剤が製造・販売されている。例えば、大豆油不けん化物とd−α−トコフェロールに、グリセリン脂肪酸エステルとしてオクチルデシルトリグリセライド50%を配合した軟カプセルが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、大豆油不けん化物は、天然物である大豆油を精製する過程で副製されるものであり、大豆の品種、産地や収穫年の違いの他、製造ロットにより、色調、匂い、物性のみならず、利用成分である植物ステロールの組成や天然トコフェロールの含有率にバラツキがある。
【0004】
このような大豆油不けん化物の特性により、その製剤化は極めて難しい。つまり基本的に水に溶けない上に、大豆油不けん化物は水と接触すると原料に含まれる遊離型ステロールが結晶化して内容物が凝固してしまい水に分散しないなどの問題点がある。水への分散性を保つ為、例えばパンテチン水溶液のような水となじみやすい原料を使用し製剤化することも可能であるが、この場合相対的に1カプセルあたりの大豆油不けん化物の含量が低下する。しかし、例えばカプセル剤においては、必要量の大豆油不けん化物を摂取するためには、カプセルが大型化してしまうか、1回に摂取するカプセルの数が多くなってしまい、好ましくない。通常のカプセル剤の大きさ・摂取すべきカプセル数に留めるためには、大豆油不けん化物を内容物全体の50質量%以上の高含量で含有させることが所望される。そのような医薬品を製造するためには、日本薬局方(日局)が定めるカプセル剤の崩壊試験法に合格するような処方設計が必要となる。さらに、天然物由来の大豆油不けん化物は、上述のようにロットごとにその組成、性状が異なるため、多くのロットにそのまま対応できる処方設計が望まれる。
【特許文献1】特開平5−155761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、有効成分として大豆油不けん化物を内容物全体の50質量%以上含有し、且つ大豆油不けん化物の性状のバラツキの影響を受けず、水への分散性が良好である大豆油不けん化物組成物およびこれを含有するカプセル剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、大豆油不けん化物にポ
リオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせることにより、大豆油不けん化物を50質量%以上含有し、且つ大豆油不けん化物の性状のバラツキに左右されず、水への分散性が良好な組成物を製造できることを見出した。
【0007】
従って、本発明は、大豆油不けん化物を50質量%以上含有し、且つ界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする大豆油不けん化物含有組成物に関する。
本発明はまた、大豆油不けん化物100質量部に対し、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル 1〜25質量部、およびグリセリン脂肪酸エステル 1〜25質量部を含有する、大豆油不けん化物含有組成物に関する。
また、本発明はこれら大豆油不けん化物含有組成物を内容液として配合したカプセル剤に関する。
さらに、本発明は、大豆油不けん化物をポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルに分散・乳化することを特徴とする、大豆油不けん化物を50質量%以上含有する組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大豆油不けん化物を50質量%以上含有し、且つ大豆油不けん化物の性状のバラツキに左右されず、水への分散性が良好な大豆油不けん化物含有組成物およびこれを内容液として含有するカプセル剤が提供される。本発明の組成物は、大豆油不けん化物と共に、特定の乳化剤の組合せ、すなわちポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルを配合することにより、大豆油不けん化物の性状がロット等の違いにより変化しても、良好な水分散性を奏することができる。このため、本発明の組成物を配合したカプセル剤は、その良好な水分散性から優れた高脂血症、高コレステロール血症改善効果が期待されるため、医薬としてのみならず、医療用食品、健康食品等として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
大豆油不けん化物としては、ソイステロール等の市販品、その他いかなる大豆油不けん化物も使用することができる。大豆油不けん化物の配合量は組成物全体の50質量%以上、好ましくは50〜70質量%の範囲である。
【0010】
本発明において用いるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(6)ソルビタン、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノヤシ油脂肪酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン等が挙げられるが、大豆油不けん化物の性状の違いに影響を受けずに良好な水分散性を付与しうるモノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンがより好ましい。
【0011】
また、グリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の種類やエステル結合の様式により多数あるが、本発明において用いうるグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えばジカプリル酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリルが好ましく、大豆油不けん化物の性状の違いに影響を受けずに良好な水分散性を付与しうるジカプリル酸グリセリルがより好ましい。
【0012】
本発明の大豆油不けん化物含有組成物において、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの配合量は、大豆油不けん化物100質量部に対し、1〜25質量部、好ましく
は8〜12質量部の範囲である。また、グリセリン脂肪酸エステルの配合量は、大豆油不けん化物100質量部に対し、1〜25質量部、好ましくは8〜12質量部の範囲である。
従って、本発明のより好ましい形態として、大豆油不けん化物を組成物全体の50質量%以上、好ましくは50〜70質量%含有し、且つ大豆油不けん化物100質量部に対し、ポリソルベート80 1〜25質量部、好ましくは8〜12質量部およびジカプリル酸グリセリル1〜25質量部、好ましくは8〜12質量部を含有する組成物を挙げることができる。
【0013】
これらのほかに原料として油脂や食用油を使用することもできる。これら油脂や食用油としては、一般に食用され、常温で液体のものであればいかなるものでもよい。例えば大豆油、菜種油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、パーム油、米ぬか油、小麦胚芽油、ヒマワリ油、ベニバナ油、落花生油、鯨油、イワシ油、イカ油、EPA、DHAなどの天然動植物油、中鎖長脂肪酸トリグリセリド(MCT)、炭素数4〜22の脂肪酸のモノ、ジ及びトリグリセリドまたはこれらの混合物が挙げられ、好ましくは大豆油、サフラワー油、綿実油、MCT等であり、より好ましくはサフラワー油である。
【0014】
また、本発明の組成物には、所望によりビタミンAやビタミンE等の脂溶性のビタミンを添加・配合してもよく、好ましくは酢酸d−α−トコフェロール等である。
本発明の組成物に、油脂や植物油、脂溶性ビタミン等の成分を添加・配合する場合には、大豆油不けん化物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルの上記配合量を妨げない範囲に留める必要がある。
【0015】
本発明の大豆油不けん化物含有組成物を製造する方法は、組成物の全重量に基づき大豆油不けん化物50質量%以上を、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルに混合・乳化することを特徴とする。この場合、大豆油不けん化物をあらかじめポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはグリセリン脂肪酸エステルのいずれか一方に混合・乳化し、次いで他方を添加して混合・乳化してもよく、あるいはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルに同時に混合・乳化してもよい。また、その他の原料は、大豆油不けん化物の混合・乳化の前に予め配合しても、大豆油不けん化物の混合・乳化後に配合してもよい。
【0016】
本発明の大豆油不けん化物含有組成物は水への分散性が良好であるが、その分散性は、例えば本発明の組成物を軟カプセルに充填した場合に日局の崩壊試験法に規定される崩壊性(水分散性)を有する、すなわち20分以内にすべてが崩壊するというものであり、好ましくは17分未満で崩壊する、さらに好ましくは14分未満で崩壊するというものである。
【実施例】
【0017】
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例に先立ち、実施例において用いた大豆油不けん化物以外の原料の一覧を示す。
原 料 商 品 名
モノオレイン酸POE(20)ソルビタン TO−10M,日光ケミカルズ製
モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン TP−10EX,日光ケミカルズ製
モノステアリン酸POE(20)ソルビタン TS−10,日光ケミカルズ製
モノステアリン酸POE(6)ソルビタン TS−106,日光ケミカルズ製
ジカプリル酸グリセリル サンファットGDC−S,太陽化学製
モノオレイン酸グリセリル MGO,日光ケミカルズ製
モノラウリン酸デカグリセリル デカグリン1−L,日光ケミカルズ製
モノステアリン酸デカグリセリル デカグリン1−50SV,日光ケミカルズ製
サフラワー油 サフラワーサラダ油(S),日清オイリオ製
酢酸d−αトコフェロール d−α−F1360,コグニスジャパン製
【0018】
大豆油不けん化物として6ロット(No.A〜F)用いた。大豆油不けん化物の各ロットについての分析値を表1に示す。
【表1】

【0019】
1.大豆油不けん化物含有組成物の調製
大豆油不けん化物含有組成物は、特殊機化工業(株)「T.Kアヂホモミクサー2M−2型」を用い以下の工程により行った。なお、組成物調製の間はアヂホモミクサーのジャケットを10℃以下に設定し、調製液の温度が18℃以下になるようにした。また、各原料を容器内に仕込む時以外は容器を密封し、真空ポンプにて脱気、減圧条件下で調製を行った。
【0020】
工程1:異なるロットの大豆油不けん化物を容器に仕込み、攪拌用パドルを回しながら、1〜2時間保持し原料を均一にした。
工程2:次いで各種ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを仕込み、攪拌用パドルを回しながら、数十分保持し混合液を均一にした。
工程3:次いで各種グリセリン脂肪酸エステルを仕込み、攪拌用パドルを回しながら、数十分保持し混合液を均一にした。
工程4:その他の原料である、サフラワー油、酢酸d−α−トコフェロールを仕込み、攪拌用パドルを回しながら、数十分保持し混合液を均一にした後、パドルの条件を変えないで、ホモミクサーを5000rpm以上に設定、その状態で1〜2時間保持し均一分散させた。その後、パドルおよびホモミクサーを停止し取り出して組成物(乳化液)を得た。なお、その他の原料を用いない場合には、工程3の後にホモミクサーを5000rpm以上に設定、その状態で1〜2時間保持した。
【0021】
2.軟カプセル製造
得られた大豆油不けん化物を、ゼラチンおよびグリセリンを用いる通常の軟カプセル充填工程にてカプセル充填を行い、内容量300mgの軟カプセルを製造した。
【0022】
3.軟カプセルの崩壊試験
水への分散性を調べるために、日局における崩壊試験法に従って、製造した各軟カプセルの崩壊性(内容液の水分散性)を評価した。
各軟カプセルにつきそれぞれ6粒を用いて、下記の評価基準により崩壊試験を行った。なお、カプセル崩壊時は滴が水中に細かく分散され、目視により油滴が確認できなくなった時点とした。本発明の実施例および比較例の大豆油不けん化物含有組成物の組成とその軟カプセルの法改正の評価を下記の表2に示す。
評価 基 準
+++ すべてのカプセルが崩壊するに要した時間が14分未満
++ すべてのカプセルが崩壊するに要した時間が14分以上17分未満
+ すべてのカプセルが崩壊するに要した時間が17分以上20分未満
− 20分以内にすべてのカプセルが崩壊しきらない
【0023】
【表2】

【0024】
以上の結果から、本発明の大豆油不けん化物含有組成物は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルロットとグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせることにより、大豆油不けん化物が変わっても日局に規定される軟カプセルの崩壊性の基準を満たす良好な水
分散性を有することが確認された。特に、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしてモノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、グリセリン脂肪酸エステルとしてジカプリル酸グリセリルを併せて用いた時にはいずれのソイステロールロットで評価した時でも極めて良好な水分散性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆油不けん化物を50質量%以上含有し、且つ界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする大豆油不けん化物含有組成物。
【請求項2】
大豆油不けん化物100質量部に対し、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル
1〜25質量部、およびグリセリン脂肪酸エステル 1〜25質量部を含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(6)ソルビタン、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、モノヤシ油脂肪酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンからなる群から選択される、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
グリセリン脂肪酸エステルが、ジカプリル酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリルからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物を内容液として含有するカプセル剤。


【公開番号】特開2007−8857(P2007−8857A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−191077(P2005−191077)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【出願人】(500109283)第一薬品株式会社 (1)
【Fターム(参考)】