説明

大電流放電用二次電池

【課題】電解液の漏洩を防止可能で蓋ケースと蓋キャップとの接合信頼性の高い大電流放電用二次電池を提供する。
【解決手段】大電流放電用二次電池20は、開放端を有する金属製の電池缶1内に正、負電極及びセパレータを含む電極群11と電解液とが収容され、開放端が絶縁性のガスケット13を介して金属製の密閉蓋10で密閉されている。密閉蓋10は皿状の蓋ケース2のフランジ部と蓋キャップ4のフランジ部とが重ね合わされて接合されており、密閉蓋10が電極群11の一方の電極の出力端子を兼ねている。蓋ケース2には蓋キャップ4より低融点の材質が用いられており、蓋ケース2のフランジ部と蓋キャップ4のフランジ部とは、蓋ケース2のフランジ部に回転工具を圧入して該蓋ケースのフランジ部の回転工具圧入箇所のみを塑性流動させる摩擦攪拌接合により接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大電流放電用二次電池に係り、特に、開放端を有する金属製の電池缶内に正、負電極及びセパレータを含む電極群と電解液とが収容され、開放端が絶縁性のガスケットを介して金属製の密閉蓋で密閉されていると共に、密閉蓋は皿状の蓋ケースのフランジ部と蓋キャップのフランジ部とが重ね合わされて接合されており、密閉蓋が電極群の一方の電極の出力端子を兼ねた大電流放電用二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車などの電源には、電気自動車の始動を補助するため大電流放電用二次電池が用いられている。このような大電流放電用二次電池には単電池を多数個(例えば40〜100個)直列に接続した組電池が用いられており、各単電池からは大電流(例えば、60〜200アンペア)が供給される。
【0003】
一般に、単電池の正極の出力端子には2ミリオーム程度の電気抵抗が存在するため、組電池の正極の出力端子だけでも総計80〜200ミリオームに達し、4.8〜40Vもの損失(電圧降下)が生じることになる。この損失を軽減するために、例えば、出力端子の導通断面積を大きくすると、単電池ひいては組電池全体の重量が増加してしまうという問題がある。これに対して、本発明者らは、既に、蓋ケースと蓋キャップとを一体に溶接する構造を提案している(例えば、特許文献1、2参照)。これらの構造は、いずれも、溶接される部材に大電流を流し、部材自体の抵抗と、部材間の接触抵抗による発熱で溶接する抵抗溶接によるものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−090892号公報
【特許文献1】特開2002−170531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の抵抗溶接では、融点の低いアルミニウム系材料からなる蓋ケースと、融点の高い炭素鋼からなる蓋キャップとを接合する場合には、両者を溶融して接合するため、アルミニウムと鉄の金属化合物が接合部に形成される結果、接合部が脆くなり、疲労強度や接合信頼性の点で問題がある。
【0006】
また、両者の融点が異なるために、融点の低い蓋ケースには抵抗溶接時の接触抵抗のバラツキのために極端に発熱量が大きくなって、いわゆる「散り」が発生し、蓋ケースに穴が形成されることがある。このとき、融点の低いアルミニウム系材料からなる蓋ケースに微小な穴が形成されていても、融点の高い鉄系材料からなる蓋キャップには穴が開いていため、気密検査を行っても穴を検出することができない。従って、電池の実用状態において、電解液が蓋ケースの穴から浸入して鉄系材料からなる蓋キャップを腐食させ、その結果、電解液の漏洩に至ることがあった。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、電解液の漏洩を防止可能で蓋ケースと蓋キャップとの接合信頼性の高い大電流放電用二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、開放端を有する金属製の電池缶内に正、負電極及びセパレータを含む電極群と電解液とが収容され、前記開放端が絶縁性のガスケットを介して金属製の密閉蓋で密閉されていると共に、前記密閉蓋は皿状の蓋ケースのフランジ部と蓋キャップのフランジ部とが重ね合わされて接合されており、前記密閉蓋が前記電極群の一方の電極の出力端子を兼ねた大電流放電用二次電池において、前記蓋ケースには前記蓋キャップより低融点の材質が用いられており、前記蓋ケースのフランジ部と前記蓋キャップのフランジ部とは、前記蓋ケースのフランジ部に回転工具を圧入して該蓋ケースのフランジ部の回転工具圧入箇所のみを塑性流動させる摩擦攪拌接合により接合されている。
【0009】
本発明では、蓋キャップより低融点の蓋ケースのフランジ部に回転工具を圧入させ、蓋ケースのフランジ部の回転工具圧入箇所のみを塑性流動させる摩擦攪拌接合により、接合温度を低く抑え、抵抗溶接の場合のように蓋ケースのフランジ部と蓋キャップのフランジ部との間に形成される脆い化合物層をなくすと共に、摩擦攪拌接合を行うことにより抵抗溶接の場合に生じるいわゆる「散り」の発生を防止する。従って、蓋キャップには経時によっても電解液による腐食穴が発生せず、電解液の漏洩が防止可能で蓋ケースと蓋キャップとの接合信頼性の高い大電流放電用二次電池を提供することができる。
【0010】
本発明において、蓋ケースには、例えば、アルミニウムもしくはアルミニウム合金を用いることができる。一方、蓋キャップには、例えば、炭素鋼、ニッケル、ステンレス鋼のいずれかを用いることができる。蓋キャップにニッケル、銅等の軟質金属をメッキすることにより、蓋キャップの表面酸化被膜が容易に剥離して接合界面が活性化して良好な接合がし易くなるが、コスト等の観点から、ニッケルメッキされた炭素鋼を用いることが好ましい。また、蓋ケースと蓋キャップとの接触抵抗を低減させるためには、蓋ケースのフランジ部と蓋キャップのフランジ部とが複数箇所で接合されていることが好ましく、密閉蓋は蓋キャップのフランジ部と蓋ケースのフランジ部とが摩擦攪拌接合とカシメ結合とを併用して接合されていることがより好ましい。更に、蓋ケースのフランジ部は、先端の中央部に前記蓋ケースの厚みより小さい高さを持ったドーム状の膨らみを有する略平面状の回転工具で塑性流動され、蓋キャップのフランジ部に接合されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蓋キャップより低融点の蓋ケースのフランジ部に回転工具を圧入させ、蓋ケースのフランジ部の回転工具圧入箇所のみを塑性流動させる摩擦攪拌接合により接合温度を低く抑えることで、抵抗溶接の場合のように蓋ケースのフランジ部と蓋キャップのフランジ部との間に形成される脆い化合物層をなくすことができると共に、摩擦攪拌接合により抵抗溶接の場合のような散りが生じないため、蓋キャップに電解液による腐食穴が発生せず、電解液の漏洩が防止可能で蓋ケースと蓋キャップとの接合信頼性の高い大電流放電用二次電池を提供することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係る大電流放電用二次電池の実施の形態について説明する。
【0013】
1.正極の作製
平均粒径が10ミクロンのマンガン酸リチウム、平均粒径が3ミクロンの炭素粉末と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(商品名:KF#120、呉羽化学工業(株)製)とを、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて混合してスラリーを作製する。このスラリーを集電体である厚みが20ミクロンのアルミニウム箔の両面に塗布、乾燥後、プレスして一体化する。その後、幅が94mmに切断して短冊状の正極を作製した。
【0014】
2.負極の作製
平均粒径が20ミクロンの炭素粒子と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(商品名:KF#120、呉羽化学工業(株)製)とを溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに投入し混合して、スラリー状の溶液を作製する。このスラリーを集電体である厚みが10ミクロンの銅箔の両面に塗布、乾燥後、プレスして一体化する。その後、幅が94.5mmに切断して短冊状の負極を作製した。
【0015】
3.密閉蓋の作製
図1に示すように、厚さt(図2参照)=0.4mmのアルミニウムからなる皿状の蓋ケース2のフランジ部と、厚さ0.6mmの鉄に約5μmのニッケルメッキを施してなる蓋キャップ4のフランジ部とを重ね合わせ、蓋ケース2のフランジ部の周縁をカシメ結合した(以下、カシメ結合した部分をカシメ部5という。)。
【0016】
次いで、図2に示すように、先端の直径Dが3.2mmで中央がわずかにドーム状ないし球面状に膨らんだ略平面状の端面を持つ回転工具(接合回転ツール)と蓋キャップ4のフランジ部を支持するバックアップ部材17(アンビル)とを用いて、これら2部材を、カシメ部5より内側のフランジ部6の4箇所に、蓋ケース2の側から摩擦攪拌接合を施し、両者を一体に接合して密閉蓋10を作製した。回転工具先端の中央の膨らみ15の径dは、回転工具の先端の直径Dの1/2である1.6mmとし、膨らみの高さhは0.1mmとした。なお、蓋キャップ4に設けられた通気口8は、電池内圧が異常に上昇した場合に、蓋ケース2に形成された略V字状の溝からなる開裂部3が開裂して電池内部のガスを排気するためのものである(図1参照)。
【0017】
4.電池の組立て
上述した正極と負極とを組み合わせ、厚さが25μm、幅が100mmのポリエチレン多孔膜からなるセパレータを介して捲回し、電極群11を作製する。この電極群11を、開放端を有する金属製の有底円筒状の電池缶1に挿入し、密閉蓋10と電極群11の正極のリード板12とを電気的に接続し、非水電解液(不図示)を注入する。次に、この電池缶1の開放端に絶縁性のガスケット13を介して密閉蓋10をカシメにより取り付けて密閉し、直径が40mmで高さが114mm、容量が6Ahの大電流放電用二次電池(大電流放電用リチウムイオン電池)20を作製した。
【0018】
また、比較のために、従来の抵抗溶接で接合した密閉蓋も作製した。これらの密閉蓋の電気抵抗を測定したところ、いずれも、およそ0.10〜0.14mΩであり、本実施形態の電池に用いた摩擦攪拌接合でも、抵抗溶接と同等の導通性が得られることを確認した。
【0019】
5.電池の充放電試験
本実施形態における密閉蓋10と、従来の抵抗溶接を用いた密閉蓋とを各300個作製し、全てヘリウムリーク式の気密検査装置で漏れをチェックしたが、いずれの溶接方法で作製した密閉蓋も気密漏れは全く検出できなかった。これらの密閉蓋を用いて大電流放電用二次電池を各300個作製し、充放電試験に供した。この際、蓋ケースの溶接部に穴が開いていた場合に、早期に電解液の漏洩に至るよう、電池を倒立状態で(正極端子を下方に向けて)充放電した。充電は4.1V、6Aの定電圧・定電流で3時間、放電は6Aで2.7V終止とした。
【0020】
その結果、本実施形態の大電流放電用二次電池20では3ヶ月間の試験において全く異常がなかったのに対し、従来の抵抗溶接を用いた電池では、300個中11個の電池において蓋キャップに穴が開き、電解液の漏洩に至った。これら漏洩が発生した電池を解体し、密閉蓋10を詳細に調査した結果、全て抵抗溶接時に蓋ケース2に発生した微小な穴に電解液が浸入し、鉄系材料からなる蓋キャップ4を腐食させたことが原因であることが確かめられた。
【0021】
次に、本実施形態の大電流放電用二次電池20の作用等について説明する。
【0022】
本実施形態の大電流放電用二次電池20は、蓋ケース2のフランジ部と蓋キャップ4のフランジ部との接合に、先端が略平面に近い形状の回転工具14による摩擦攪拌接合を用いている。通常知られている摩擦攪拌接合によって重ね接合を行う場合は、図3に示すように、先端中央に小さな突起21を有する回転工具20を用い、この突起21の先端が下側の部材19(蓋キャップ4のフランジ部)の内部に達し、かつ、回転工具20のショルダ部16が上側の部材18(蓋ケース2のフランジ部)の表面より内部まで圧入された状態で行う。しかし、このような従来の摩擦攪拌接合では、たとえ上側の部材18が融点の低いアルミニウム系などの軟質の素材であっても、下側の部材19が融点の高い鉄系材料などである場合には、上側の部材18と下側の部材19の材料の変形抵抗の違いにより欠陥が発生して良好な接合ができない。
【0023】
本実施形態においては、図2に示すように、先端の中央部に大きな突起がなく、上側の部材18(蓋ケース2のフランジ部)の厚さtより小さい高さhを持ったわずかなドーム状の膨らみ15を有する、略平面に近い先端形状の回転工具14を用いていており、蓋キャップ4より融点の低い蓋ケース2のフランジ部に回転工具14を圧入させることにより、蓋ケース2のフランジ部の回転工具20の圧入箇所のみを塑性流動させて、接合温度を低くすることにより、蓋ケース2のフランジ部と下側の部材19(蓋キャップ4のフランジ部)との脆い化合物層をなくすことができる。また、この摩擦攪拌接合では、上述した「散り」の発生がないため、経時により、蓋キャップ4のフランジ部に電解液による腐食穴が発生しない。従って、本実施形態の大電流放電用二次電池20では、出力端子の電気抵抗は従来の抵抗溶接によるものと同等であり、かつ、溶接時に蓋ケース2に穴が開くことが皆無のため、電池の実用段階で重大な故障を引き起こすことがなく、電池の信頼性が大幅に向上することが確かめられた。
【0024】
なお、本実施形態では、蓋ケース2と蓋キャップ4をかしめてから摩擦攪拌接合を行う例を示したが、この順序は逆でも全く支障はなく、先に摩擦攪拌接合を行ってから、この接合部を覆うように蓋ケース2の周縁をかしめることにより、フランジ部6を狭くして、密閉蓋10の外径を小さくし、より小径の電池にこの構造の密閉蓋を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は電解液の漏洩を防止可能で蓋ケースと蓋キャップとの接合信頼性の高い大電流放電用二次電池を提供するものであるため、大電流放電用二次電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明が適用可能な実施形態の大電流放電用二次電池の部分断面図である。
【図2】実施形態の大電流放電用二次電池の蓋ケースのフランジ部と蓋キャップのフランジ部との摩擦攪拌接合に用いた回転工具の説明図である。
【図3】従来の摩擦攪拌接合に用いられる回転工具の説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 電池缶
2 蓋ケース
4 蓋キャップ
5 カシメ部
9 摩擦攪拌部
10 密閉蓋
11 電極群
13 ガスケット
14 回転工具
15 膨らみ
20 大電流放電用二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放端を有する金属製の電池缶内に正、負電極及びセパレータを含む電極群と電解液とが収容され、前記開放端が絶縁性のガスケットを介して金属製の密閉蓋で密閉されていると共に、前記密閉蓋は皿状の蓋ケースのフランジ部と蓋キャップのフランジ部とが重ね合わされて接合されており、前記密閉蓋が前記電極群の一方の電極の出力端子を兼ねた大電流放電用二次電池において、前記蓋ケースには前記蓋キャップより低融点の材質が用いられており、前記蓋ケースのフランジ部と前記蓋キャップのフランジ部とは、前記蓋ケースのフランジ部に回転工具を圧入して該蓋ケースのフランジ部の回転工具圧入箇所のみを塑性流動させる摩擦攪拌接合により接合されたことを特徴とする大電流放電用二次電池。
【請求項2】
前記蓋ケースはアルミニウムもしくはアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1に記載の大電流放電用二次電池。
【請求項3】
前記蓋キャップは炭素鋼、ニッケル、ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の大電流放電用二次電池。
【請求項4】
前記蓋キャップはニッケルメッキされた炭素鋼であることを特徴とする請求項1に記載の大電流放電用二次電池。
【請求項5】
前記蓋ケースのフランジ部と前記蓋キャップのフランジ部とは複数箇所で接合されたことを特徴とする請求項1に記載の大電流放電用二次電池。
【請求項6】
前記密閉蓋は、前記蓋キャップのフランジ部と前記蓋ケースのフランジ部とが前記摩擦攪拌接合とカシメ結合とを併用して接合されていることを特徴とする請求項1に記載の大電流放電用二次電池。
【請求項7】
前記蓋ケースのフランジ部は、先端の中央部に前記蓋ケースの厚みより小さい高さを持ったドーム状の膨らみを有する略平面状の回転工具で塑性流動され、前記蓋キャップのフランジ部に接合されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の大電流放電用二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−99986(P2006−99986A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281336(P2004−281336)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】