説明

天然繊維マットの製造装置及び天然繊維マットの製造方法

【課題】天然繊維マットを製造する湿式抄紙法において、天然繊維独特のにおいを抑制することである。
【解決手段】天然繊維マットの製造装置は、天然繊維の洗浄槽40と、洗浄され湿ったままの天然繊維を溶液に分散させる繊維分散槽と、バインダを溶液に分散させるバインダ分散槽と、繊維分散液とバインダ分散液とを混合する混合槽と、繊維とバインダの分散した混合分散液を抄いて連続的なマットとする抄紙機と、マットの水分を蒸散させる乾燥機とを含んで構成される。洗浄槽40は、洗浄液のpHを検出するpH監視器46と、洗浄液を中和するアルカリ中和剤を添加する中和剤添加部48と、洗浄液を循環させる循環経路44とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維マットの製造装置及び天然繊維マットの製造方法に係り、特に湿式抄紙法を用いた天然繊維マットの製造装置及び天然繊維マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の内装部材、例えばドアの内張り部材、天井部材、スピーカ等が取り付けられるパッケージトレイ等には、基材の上を表皮材で覆ったものが用いられる。表皮材は、車室内の乗客の視覚、触覚等に触れるので、適当な手触り、弾力性、雰囲気等が必要で、繊維系のファブリック、あるいはPVC(塩化ビニール)やTPO(サーモプラスチックポリオレフィン)等の樹脂系の材料等が用いられる。基材は、表皮材を支持するもので、適当な強度と厚みを有し、安価で軽量で製造が容易なものが求められる。かかる基材の材料としては、主にPP(ポリプロピレン)等の樹脂系と、繊維系とが用いられる。繊維系の基材は、一般に、マトリクス要素としての繊維と、繊維を結合する熱可塑性樹脂であるバインダとで構成される。バインダとしては、パウダー状のものと、繊維状のものとがある。繊維状のバインダとしてはPP繊維等が用いられる。また、繊維には、ガラス系の無機繊維、ポリエステル繊維等の有機系繊維、及びケナフや麻の天然繊維が用いられる。ケナフとは、1年で大きく成長するハイビスカス科の植物である。その靭皮を1本1本の繊維に開繊し、産地において例えば川や池で簡単な洗浄によってごみ等が除去されたものが基材の原材料として用いられる。また、天然繊維の麻には、例えばサイザル、ラミー、フラックス、ジュート等と呼ばれるものが用いられる。
【0003】
天然繊維を用いた基材の製造方法としては、大別して湿式と乾式とがある。前者としては、天然繊維を界面活性剤等により分散させた繊維分散液と、バインダパウダーを分散させたバインダ分散液とを混合し、抄紙機上で抄いていわゆるウェブとし、これを板状に切断し、加熱してバインダを溶かす湿式抄紙法が知られている。また、後者としては、天然繊維と樹脂繊維とを混ぜて混綿とし、風で飛ばして、あるいはカードにして積層してウェブとし、これを加熱しながらニードルパンチによってマット化し、これを板状に切断し、加熱してバインダを溶かす乾式ニードルパンチング法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、湿式処理で抗菌処理された天然繊維製品の製造方法等が開示されている。そこでは従来の湿式処理として、天然綿を界面活性剤で湿潤処理し、苛性ソーダ処理で汚れ、ホコリ、油、植物性物質及びその他の異物を洗浄除去し、リンスし、過酸化水素/熱湯バスで漂白し、さらにリンスし、pHを調整し、仕上げ処理し、最終リンスし、乾燥後ベイル処理する工程が述べられている。そして、乾燥処理の前に、繊維に陽イオン結合する抗菌剤が加えられて水の中において摂氏約51.7度で20分攪拌されて、抗菌処理がされることが述べられている。また、別の抗菌剤についても述べられている。
【0005】
また、特許文献2には、植物繊維特有の臭いの放散を解消し、吸水性、消臭性、生分解性を有し、廃棄物を燃焼炭化粉末化して再利用でき、深絞り可能な熱成形性、形状保持性及び寸法安定性に優れた自動車内装材用基材について述べられている。ここでは、ジュート繊維と融点170℃のポリ乳酸繊維とで混合繊維ウェブを形成し、これをニードルパンチ装置にかけて不織布とし、活性炭化粉末を散布しながら200℃×30分の熱処理で成形加工し、ジュート繊維間をポリ乳酸繊維の溶融によって固着し、それと同時に植物繊維の表面部分のペクチン、ヘミセルロースを熱分解し、植物繊維特有の臭いの発散を解消することが述べられている。
【0006】
また、特許文献3には、ハイドロコロイド膨潤によって水により膨潤される重合体変性繊維状パルプをA型繊維状パルプとして、通常の製紙パルプをB型繊維状パルプとして用い、使い捨て紙タオル等の吸収性紙の連続湿式抄紙法が開示されている。ここでは、A型繊維状パルプが、プロトン化状態とアルカリ金属カチオン交換状態とで異なる特性を有することに着目している。すなわちプロトン化状態では、機械的剪断力が比較的強い湿式抄紙工程及び部分的脱水工程での崩壊に対し抵抗性があり、アルカリ金属カチオン交換状態では熱分解に抵抗性がある。したがって、長網上で抄紙されるときは酸性下でプロトン化とし、次にアルカリ金属カチオン交換状態にして最終恒温乾燥することが述べられている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−245777号公報
【特許文献2】特開2003−201659号公報
【特許文献3】特開平3−130494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
乾式ニードルパンチング法によって得られたマットを基材として用いると、高温下等で天然繊維から揮発する低分子量脂肪酸によるにおいの発生がある。においの元の低分子量脂肪酸の代表は、すっぱいにおいの酢酸系、あるいは汗臭いにおいの吉草酸系である。一方、湿式抄紙法によって得られたマットを基材として用いる場合は、湿式プロセスの間に、天然繊維から揮発する低分子量脂肪酸等が水等に溶けて流出するので、においの発生を少なくすることができるが、水中に抽出された低分子量脂肪酸等によって、プロセス中の水等が汚染され、水等の循環リサイクルのために、多大のコストがかかる。また、乾式において、天然繊維の洗浄工程を付加することが考えられるが、乾式は水系をもともと使用しない前提で工程及び製造装置が構成されているので、新たに天然繊維洗浄システムを導入するためには、多大のコストがかかる。
【0009】
このように、従来技術においては、天然繊維独特のにおいを抑制するためには、多大のコスト等を要する。
【0010】
本発明の目的は、湿式抄紙法において、比較的安価な方法で、天然繊維独特のにおいを抑制することを可能にする天然繊維マットの製造装置及び天然繊維マットの製造方法を提供することである。他の目的は、湿式抄紙法において、天然繊維からの低分子量脂肪酸等によるプロセスの汚染を抑制することを可能とする天然繊維マットの製造装置及び天然繊維マットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る天然繊維マットの製造装置は、天然繊維の洗浄槽と、洗浄され湿ったままの天然繊維を、界面活性剤を含む溶液に分散させる繊維分散槽と、バインダを、界面活性剤を含む溶液に分散させるバインダ分散槽と、天然繊維を分散させた溶液と、バインダを分散させた溶液とを混合する混合槽と、混合された天然繊維とバインダを含む溶液を移動網の上に流し、連続的なマットとする抄紙機と、連続的なマットの水分を蒸散させる乾燥機と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る天然繊維マットの製造装置において、洗浄槽は、洗浄液を循環させる循環経路と、洗浄液を中和するアルカリ中和剤を添加する中和剤添加部と、を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る天然繊維マットの製造装置において、洗浄槽は、洗浄液のpHを検出するpH監視器を有し、中和剤添加部は、pH監視器の検出に応じて洗浄液を中性に維持するようにアルカリ中和剤を添加することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る天然繊維マットの製造装置において、洗浄槽は、天然繊維としてケナフ繊維を洗浄し、バインダ分散槽は、バインダとしてポリプロピレン樹脂粉末を分散させることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る天然繊維マットの製造方法は、天然繊維を洗浄する繊維洗浄工程と、洗浄され湿ったままの天然繊維を、界面活性剤を含む溶液に分散させる繊維分散工程と、バインダを、界面活性剤を含む溶液に分散させるバインダ分散工程と、天然繊維を分散させた溶液と、バインダを分散させた溶液とを混合する混合工程と、混合された天然繊維とバインダを含む溶液を移動網の上に流し、連続的なマットとする抄紙工程と、連続的なマットの水分を蒸散させる乾燥工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、天然繊維を洗浄し、洗浄され湿ったままの天然繊維を、界面活性剤を含む溶液に分散させ、一方で、バインダを、界面活性剤を含む溶液に分散させ、天然繊維を分散させた溶液とバインダを分散させた溶液とを混合し、混合された天然繊維とバインダを含む溶液を移動網の上に流して連続的なマットとし、連続的なマットの水分を蒸散乾燥させて、天然繊維のマットを製造する。
【0017】
上記構成により、従来知られている湿式抄紙法に接続する前工程として、天然繊維の洗浄工程を行うことができる洗浄槽を設け、洗浄槽で洗浄されて湿ったままの天然繊維を、界面活性剤を含む溶液に分散させる。このように分散工程の前段階で天然繊維を洗浄することで、従来の湿式抄紙法に、比較的容易に洗浄槽を接続でき、この洗浄によって、天然繊維独特のにおいを抑制することが可能になる。
【0018】
また、洗浄槽は、洗浄液の循環経路と、洗浄液を中和するアルカリ中和剤を添加する中和剤添加部とを有するので、天然繊維を洗浄することで抽出される低分子量脂肪酸等によって酸性化された洗浄液を清浄化する。したがって、天然繊維を洗浄することで抽出される低分子量脂肪酸等の影響は洗浄槽のみでとどめることができ、また、洗浄槽の段階でも洗浄液はリサイクルできる。このように、湿式抄紙法において、天然繊維からの低分子量脂肪酸等によるプロセスの汚染を抑制することができる。
【0019】
また、洗浄槽は、洗浄液のpHを検出するpH監視器を有し、中和剤添加部は、pH監視器の検出に応じて洗浄液を中性に維持するようにアルカリ中和剤を添加するので、洗浄槽における洗浄液を自動的に清浄化でき、天然繊維からの低分子量脂肪酸等によるプロセスの汚染を抑制することができる。
【0020】
また、洗浄槽は、天然繊維としてケナフ繊維を洗浄し、バインダ分散槽は、バインダとしてポリプロピレン樹脂粉末を分散させることとするので、一般的な材料を用いて、天然繊維独特のにおいが抑制された天然繊維マットを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1は、天然繊維マットの製造装置30の構成を示す図である。図1には、天然繊維マットの製造装置30の構成要素ではないが、天然繊維とバインダの原料から、ローラにまかれた状態のマットに至るまでのプロセスの途中における半製品等も図示されている。
【0022】
天然繊維マットの製造装置30は、未洗浄の天然繊維10を洗浄するための洗浄槽40と、洗浄され湿ったままの天然繊維を、界面活性剤を含む溶液に分散させる繊維分散槽62と、バインダである熱可塑性樹脂パウダー12を、界面活性剤を含む溶液に分散させるバインダ分散槽64と、天然繊維を分散させた繊維分散液14と、バインダを分散させたバインダ分散液16とを混合する混合槽66と、混合され繊維とバインダとを含む混合分散液18を移動網の上に流し、連続的なマット22とする抄紙機68と、連続的なマット22の水分を蒸散させる乾燥機70と、乾燥されたマットを巻き取ってロール状マット24とする巻取機72を含んで構成される。
【0023】
原材料の1つである未洗浄の天然繊維10は、ケナフ繊維である。上記のように、ケナフ繊維としては、ケナフの幹の皮の部分である靭皮をはぎ、これを1本一本の繊維に開繊維したものを用いることができる。繊維の長さは、例えば50mm程度である。生産現地等で、ごみ等を取り除くため、簡単な予備洗浄が行われてもよい。もちろん、未洗浄の天然繊維10として、それ以外の天然繊維、例えば麻繊維等を用いてもよい。
【0024】
原材料のもう1つは、バインダで、ここでは熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP)のパウダーが用いられる。パウダーの大きさは、1mm以下の粒径、例えば200μmから500μmの平均粒径のものを用いることができる。バインダの材質は、熱可塑性樹脂であれば、それ以外のもの、たとえばポリエチレン(PE)、植物由来原料から製造されるポリ乳酸(PLA)等であってもよい。
【0025】
洗浄槽40は、未洗浄の天然繊維10を水と共に攪拌して洗浄する機能を有する洗浄装置である。洗浄槽40の詳細な構成は、図2を用いて後に詳述する。洗浄槽40で洗浄された天然繊維は、適当な供給路を通って繊維分散槽62に送り込まれる。洗浄済みの天然繊維の搬送は、適度な水に載せて、搬送ポンプ等を用いて行うことができる。
【0026】
繊維分散槽62は、適当な界面活性剤を含む溶液を収容する槽で、これに洗浄槽40で洗浄された天然繊維が湿ったままで投入され、適当に攪拌され、天然繊維を溶液中に均一に分散させる機能を有する。界面活性剤としては、天然繊維を水の中で凝集させない機能を有する適当なものを用いることができる。天然繊維を分散させた繊維分散液14は、適当な供給路を通って混合槽66に送り込まれる。供給路は、適当な供給パイプと、搬送ポンプ等で構成することができる。
【0027】
バインダ分散槽64は、適当な界面活性剤を含む溶液を収容する槽で、これに原料である熱可塑性樹脂パウダー12が投入され、適当に攪拌され、熱可塑性樹脂パウダー12を溶液中に均一に分散させる機能を有する。界面活性剤としては、熱可塑性樹脂パウダー12を水の中で凝集させない機能を有する適当なものを用いることができる。バインダを分散させたバインダ分散液16は、適当な供給路を通って混合槽66に送り込まれる。供給路は、適当な供給パイプと、搬送ポンプ等で構成することができる。
【0028】
混合槽66は、繊維分散槽62から送りこまれる繊維分散液14と、バインダ分散槽64から送りこまれるバインダ分散液16とを収容する槽で、これらの溶液を適当な混合比で攪拌し、均一に分散させる機能を有する。混合比は、後工程の抄紙工程の能力を考慮して設定されるが、例えば、固形物の割合が1:1であるように設定することができる。すなわち、混合溶液の単位体積当りに含まれる混合天然繊維の量とバインダの量とが、同じ量となるように設定することができる。混合比の設定は、混合槽66に接続される繊維分散槽62からの供給路及びバインダ分散槽64からの供給路にそれぞれ流量調整弁等を設け、それらの開度を調整することで行うことができる。混合槽66において均一に分散された天然繊維とバインダを含む混合分散液18は、適当な供給路を通って抄紙機68に送り込まれる。供給路は、適当な供給パイプと、搬送ポンプ等で構成することができる。
【0029】
抄紙機68は、適当な粗さの網目を有する網部材が移動する装置で、混合槽66からの溶液がその移動網の上方に供給され、固形物20が網の上に残り、液体部分が網の下に流れ落ち、網の移動によって、適当な厚さのシート状のどろどろした固形物を連続的に抄き取る機能を有する。このような機能を有する装置は一般的に抄紙機と呼ばれているが、ここで抄紙といっているのは、固形物をシート状に抄き取ることを指しており、狭義の紙を抄くわけではない。抄き取られた連続的シート状の固形物は、ウェブ又はマット22と呼ばれることがある。マット22の厚さは、分散液の濃度と移動網の速度等で設定できる。例えば、上記のように、繊維とバインダの混合比を1:1とし、移動網の速度を10m/分として、100mm程度の厚さのマット22を連続的に得ることができる。また、マット22の幅は、抄紙機68の移動網の幅で設定でき、例えば2m程度とすることができる。
【0030】
乾燥機70は、マット22に含まれている水分を蒸散させる機能を有する加熱装置で、具体的には、コンベアが内部を移動する加熱炉で構成することができる。コンベアは、連続的に流れてくるマット22を受け取れるように、抄紙機68の移動網に接続されることが好ましい。乾燥は、バインダである熱可塑性樹脂の軟化点以上に設定する。例えば、190℃に設定することができる。乾燥機70の長さは、バインダである熱可塑性樹脂が溶融し、繊維をバインダで結合するのに十分な時間と、マット22に含まれる水分を蒸散させるのに十分な時間等の条件を考慮して設定することができる。乾燥と、バインダの溶融とを2段階で行えるように、乾燥機70の搬送路に沿った温度分布を適当な階段状、あるいは適当な温度勾配とすることもできる。
【0031】
巻取機72は、乾燥し、繊維とバインダが適当に結合したマットをロール状マット24として順次連続的に巻き取る機能を有する装置である。なお、巻取機72で得られるロール状マット24は、その後、適当な成形機にかけられ、例えば、ドアの内張り部材、天井部材、スピーカ等が取り付けられるパッケージトレイ等に用いられる基材の形状に成形される。
【0032】
ここで洗浄槽40について説明する。図2は、洗浄槽40の詳細な構成を示す図である。洗浄槽40は、繊維を含む洗浄液11を収容するタンク42と、タンク42の底部54から上部開口56へ向かう洗浄液11の循環経路44と、循環経路44の途中に設けられる洗浄液循環ポンプ45と、洗浄液11のpHを検出するpH監視器46と、pH監視器46の検出に応じて洗浄液11を中性に維持するようにアルカリ中和剤を添加する中和剤添加部48と、洗浄液11を攪拌する攪拌機58とを含んで構成される。
【0033】
タンク42は、円筒状の上部枠と、上部枠に接続され、底に向かって先細のテーパとなるテーパ底部とから構成され、上部枠の上部が開口する溶液収容槽である。タンク42のテーパ底部の適当な深さ位置にはフィルタ50が設けられ、フィルタ50の下側、すなわちタンク42の底部54には循環経路44に接続される排出孔が設けられ、フィルタ50の上側には、繊維分散槽62への供給路に接続される繊維排出口52が設けられる。なお、繊維排出口52の先の供給路の途中に、繊維送出ポンプ60が設けられる。フィルタ50は、繊維を含む溶液を、繊維と、繊維を含まない溶液とに分離する機能を有する。かかるフィルタ50としては、適当な粗さの網目を有する網部材を用いることができる。
【0034】
循環経路44は、上記のように、タンク42の底部54の排出口と、タンク42の上部枠の上部開口56との間に設けられる洗浄液循環パイプで、これによって洗浄液11は、上部開口56からタンク42の内部に供給され、フィルタ50を介して繊維が除かれた溶液となって、タンク42の底部54から再び上部開口56に戻されて循環することができる。
【0035】
洗浄液11の始発液としては、水を用いることができる。したがって、洗浄槽40を最初に稼動させるときには、図示されていない適当な水供給口から、タンク42に水が張られる。そして、その後に、図1で説明したように、未洗浄の天然繊維10が水の中に投入され、攪拌機58で攪拌されると、天然繊維に含まれる水溶性の低分子量脂肪酸等が水に溶出する。したがって、洗浄槽40が稼働中のタンク42の中の洗浄液11は、水と、繊維と、繊維から溶出した低分子量脂肪酸等を含む溶液となっている。洗浄液11は、天然繊維に含まれる水溶性の低分子量脂肪酸等が溶出しやすいように、適当な温度の温水を用いてもよい。例えば、40℃の温水を用いることができる。温水とするために、タンク42にヒータ等を設けることができる。
【0036】
pH監視器46は、洗浄液11のpHを検出し、その結果を中和剤添加部48に伝達する機能を有する測定器である。かかるpH監視器46としては、電子式のpH測定器を用いることができる。中和剤添加部48は、pH監視器46の検出結果に応じて、洗浄液11に対し、酸性を中和するアルカリ中和剤を供給する機能を有する。アルカリ中和剤としては、アルカリ水溶液、例えばNaOH水溶液等を用いることができる。中和剤添加部48のアルカリ中和剤の添加量は、洗浄液11のpHが所定の範囲に維持するように、pH監視器46の検出値をフィードバックして制御される。洗浄液11が維持すべきpHの範囲としては、ほぼ中性から弱アルカリ性となることが望ましく、例えばpH8からpH9の範囲等に設定することができる。この例では、pH監視器46がpH9以上を検出するとアルカリ中和液が洗浄液11に滴下され、pH監視器46がpH8以下になるとアルカリ中和液の滴下を止める制御とすることができる。
【0037】
上記構成の天然繊維マットの製造装置30の作用等について、図3のフローチャートを用いて説明する。図3は、天然繊維のにおいを抑制できる天然繊維マットの製造方法の各手順を示すフローチャートである。天然繊維のにおいを抑制できる天然繊維マットを製造するには、原料の1つである天然繊維を準備し(S10)、洗浄を行う(S12)。
【0038】
洗浄は、上記のように、洗浄槽40に始発洗浄液である水を張り、そこに未洗浄の天然繊維10を投入し、攪拌機58で攪拌することで行われる。始発洗浄液としては、単なる水を用いることができ、必要があれば水に適当な洗浄剤を添加してもよい。温水を用いることで洗浄能力が上昇する。水中で攪拌することで天然繊維に含まれるごみ等の異物が除去されるほか、水溶性の低分子量脂肪酸等が水中に溶解して天然繊維から離脱する。そのために洗浄液11は酸性化するが、pH監視器46によって所定のpH閾値を超えることが検出されると、中和剤添加部48の作用により、アルカリ中和液が洗浄液11に滴下され、酸性が弱アルカリの方向に中和される。上記の例では、洗浄液11がpH9以上でアルカリ中和液の滴下が始まり、pH8で滴下が止められる。これにより、洗浄液11は、pH8からpH9の範囲の状態に維持される。
【0039】
洗浄液11は、洗浄液循環ポンプ45の作用により、タンク42の底部54から上部開口56へ循環されるが、その過程で、フィルタ50によって繊維と溶液に分離される。フィルタ50によって分離された繊維は、洗浄され湿った状態の天然繊維13として、繊維送出ポンプ60によって、繊維分散槽62へ送出される。繊維分散槽62においては、繊維分散が行われる(S14)。すなわち、繊維分散槽62には、界面活性剤を含む溶液が張られ、そこに洗浄槽40から送出されてきた湿った洗浄済み天然繊維13が投入され、適当な攪拌機等で攪拌される。
【0040】
S10,S12,S14の工程と平行し、もう1つの原料であるバインダとして熱可塑性樹脂パウダー12が準備され(S16)、界面活性剤を含む溶液が張られたバインダ分散槽64においてバインダが投入され、適当な攪拌機等で攪拌が行われてバインダ分散が行われる(S18)。
【0041】
S14において得られた繊維分散液14と、S18において得られたバインダ分散液16とは、混合槽66において混合が行われる(S20)。ここで繊維とバインダとが均一に分散された混合分散液18は、抄紙機68に送られ、固形物が抄き取られ、連続抄紙が行われる(S22)。
【0042】
S22において得られた連続的マット22は、乾燥機70において連続乾燥が行われる(S24)。ここではマット22中の水分の蒸散と、バインダの溶融が行われ、繊維とバインダとが接合する。連続乾燥の条件は、上記のように、マット22の温度がバインダである熱可塑性樹脂の軟化点以上となるようにし、そしてバインダである熱可塑性樹脂が溶融して繊維をバインダで結合するのに十分で、かつマット22に含まれる水分を蒸散させるのに十分な時間の間、加熱を行うものとすることができる。
【0043】
S24に続いて、巻取機72においてロール巻取が行われ、ロール状マット24が得られる。なお、巻取機72で得られるロール状マット24は、その後、適当な成形機にかけられて、基材の所望形状に成形される。
【0044】
この製造工程において、天然繊維は天然繊維洗浄工程(S12)において十分に洗浄されて、においの源となる水溶性低分子量脂肪酸等が洗浄液11に抽出される。また、洗浄液11は、洗浄槽40の範囲で循環し、ごくわずかの量が洗浄済みの天然繊維と共に繊維分散槽62に持ち出されるのみである。したがって、繊維洗浄工程(S12)以後の工程に、水溶性低分子量脂肪酸等はほとんど持ち込まれず、分散、混合、抄紙、水分蒸散等の湿式工程において、水溶性低分子量脂肪酸等の汚染を抑制することができる。
【0045】
また、天然繊維洗浄工程(S12)においては、上記のように、水溶性低分子量脂肪酸等が抽出されることと平行して、アルカリ水溶液等による中和が行われ、洗浄液11が所定のpHの範囲に維持され、水溶性低分子量脂肪酸等に対する洗浄能力が維持される。これにより、洗浄液11が循環でき、洗浄に必要な全体水量を少ないものとすることができる。また、洗浄液11の循環は、洗浄槽40の範囲にとどまり、天然繊維マットの製造装置30全体を循環させる必要がないので、洗浄液循環ポンプ45の容量を小型のものとすることができる。
【実施例1】
【0046】
図4は、図3で説明した製造方法と、従来技術の製造方法とでそれぞれ天然繊維マットを製造し、その結果を比較した図である。ここで、実施例は、図2で説明した洗浄槽40を備える図1の天然繊維マットの製造装置30を用い、図3の製造手順によって製造した天然繊維マットである。この製造方法は、従来の湿式抄紙法に、洗浄液を中和でき循環できる洗浄槽を前工程側に接続したものに相当する。比較例は、従来技術のいわゆる乾式ニードルパンチ法によって製造した天然マットである。実施例と比較例において、天然繊維は同じケナフ繊維を用いた。バインダも同じポリプロピレンを用いたが、実施例においては、湿式抄紙法に適したパウダー状のものを用い、比較例においては乾式ニードルパンチ法に適した繊維状のものを用いた。天然繊維とバインダの含有質量比は、天然マットの単位面積当たり同量、すなわち、1:1とした。乾燥条件は、実施例と比較例で同じである。
【0047】
それぞれ得られた天然繊維マットは、冷間プレス法により、所定の形状に成形された。所定の形状としては、車両用ドアの内張り部材に用いられる基材形状とした。そして、成形後の基材を、それぞれ車両の環境条件に含まれる範囲の高温下に置き、においの発生有無を検査するにおい試験を行った。その結果、比較例の基材においては、脂肪酸特有の酸っぱいにおいの発生が検出されたが、実施例の基材においては特に問題となるにおいは検出されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る実施の形態における天然繊維マットの製造装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における洗浄槽の詳細な構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、天然繊維のにおいを抑制できる天然繊維マットの製造方法の各手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態の製造方法と、従来技術の製造方法とでそれぞれ天然繊維マットを製造し、その結果を比較した図である。
【符号の説明】
【0049】
10 未洗浄の天然繊維、11 洗浄液、12 熱可塑性樹脂パウダー、13 洗浄済みの天然繊維、14 繊維分散液、16 バインダ分散液、18 混合分散液、20 固形物、22 マット、24 ロール状マット、30 天然繊維マットの製造装置、40 洗浄槽、42 タンク、44 循環経路、45 洗浄液循環ポンプ、46 pH監視器、48 中和剤添加部、50 フィルタ、52 繊維排出口、54 底部、56 上部開口、58 攪拌機、60 繊維送出ポンプ、62 繊維分散槽、64 バインダ分散槽、66 混合槽、68 抄紙機、70 乾燥機、72 巻取機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維の洗浄槽と、
洗浄され湿ったままの天然繊維を、界面活性剤を含む溶液に分散させる繊維分散槽と、
バインダを、界面活性剤を含む溶液に分散させるバインダ分散槽と、
天然繊維を分散させた溶液と、バインダを分散させた溶液とを混合する混合槽と、
混合された天然繊維とバインダを含む溶液を移動網の上に流し、連続的なマットとする抄紙機と、
連続的なマットの水分を蒸散させる乾燥機と、
を含むことを特徴とする天然繊維マットの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の天然繊維マットの製造装置において、
洗浄槽は、
洗浄液を循環させる循環経路と、
洗浄液を中和するアルカリ中和剤を添加する中和剤添加部と、
を有することを特徴とする天然繊維マットの製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の天然繊維マットの製造装置において、
洗浄槽は、
洗浄液のpHを検出するpH監視器を有し、
中和剤添加部は、pH監視器の検出に応じて洗浄液を中性に維持するようにアルカリ中和剤を添加することを特徴とする天然繊維マットの製造装置。
【請求項4】
請求項2に記載の天然繊維マットの製造装置において、
洗浄槽は、天然繊維としてケナフ繊維を洗浄し、
バインダ分散槽は、バインダとしてポリプロピレン樹脂粉末を分散させることを特徴とする天然繊維マットの製造装置。
【請求項5】
天然繊維を洗浄する繊維洗浄工程と、
洗浄され湿ったままの天然繊維を、界面活性剤を含む溶液に分散させる繊維分散工程と、
バインダを、界面活性剤を含む溶液に分散させるバインダ分散工程と、
天然繊維を分散させた溶液と、バインダを分散させた溶液とを混合する混合工程と、
混合された天然繊維とバインダを含む溶液を移動網の上に流し、連続的なマットとする抄紙工程と、
連続的なマットの水分を蒸散させる乾燥工程と、
を含むことを特徴とする天然繊維マットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−106372(P2008−106372A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287148(P2006−287148)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(595030354)ケープラシート株式会社 (4)
【Fターム(参考)】