説明

太陽光励起固体レーザー発生装置

【課題】 太陽光利用固体レーザーシステムにおいて、太陽とアクティブミラーの間をより柔軟な位置関係で結んで、構造をより簡素にして姿勢制御装置をより単純化する技術を提供する。特に、宇宙空間に配置して利用する場合に有効な太陽光利用固体レーザーシステムを提供する。
【解決手段】 レーザー光5を放射するレーザー発生装置52と、アクティブミラー2とヒートシンク3と太陽光8で励起するLDスタック4とでなるアクティブミラー構造体1を備え、LDスタック4で発生する放射レーザー光をアクティブミラー2に導く光ファイバを備え、LDスタック4を励起する太陽光の受容面が射出開口と一致するように複合放物面集光器(CPC)10を配置して、集光した太陽光8をCPCの入射開口に投射させてアクティブミラー2を励起し、レーザー光5を増幅して出力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を集光してレーザー媒体を励起しレーザー増幅する太陽光励起固体レーザー発生装置に関し、特に、宇宙空間において収集した太陽光エネルギーをレーザーエネルギーに変換して需要場所に伝送する太陽光励起固体レーザーシステムに使用する太陽光励起固体レーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の防止策として太陽エネルギーの利用が進められている。
しかし、太陽光の利用率は、地球の自転、天候の影響がある地上では15%程度であるので、元の太陽エネルギーは只でもエネルギーの安定供給に難がある。
ところが、固体レーザー発生装置を宇宙に設置して地上にレーザ伝送するシステムであれば、地球の自転や天候の影響を受けず、24時間100%利用できる。
【0003】
そこで、アクティブミラーで構成された太陽光変換装置を人工衛星で地球を周回させて、太陽光エネルギーをレーザー光エネルギーに変換して地上に伝送し、需要場所でエネルギーを回収する太陽光利用固体レーザーシステムが構想されている。
地球を周回する人工衛星に搭載された太陽光利用システムは、大型の一次凹面鏡を常時太陽の方向に向けて、太陽光を二次凹面鏡に集め、これをアクティブミラーに入射して励起させ、エネルギー変換して増幅したレーザ光を地上に送信する。地上に到達したレーザーエネルギーは電力に変換して使用したり、水素に変換して蓄積する。
たとえば、一次凹面鏡で集光倍率を100倍とし、二次凹面鏡でさらに10倍とすれば、容易に1MW/m水準の高密度エネルギー回収装置を構成することができる。
【0004】
アクティブミラーは、板状のレーザー媒質の裏面を反射面とし、励起光を入射してレーザー媒質を励起し、レーザー光を反射させると増幅を行う反射型のレーザー増幅素子であり、励起光のエネルギーをレーザー光のエネルギーに変換する光−光エネルギー変換素子である。
アクティブミラーを太陽光で励起してレーザー光にエネルギー変換するアクティブミラー型レーザー発生装置を利用すると、宇宙での太陽光をそのまま光−光の量子遷移によりレーザー光に変換し地上に送るので、エネルギー変換プロセスが少なく、全体としての効率がよい。
【0005】
全反射鏡と出力鏡の間にアクティブミラーを1枚以上配置したレーザー共振器では、共振器内で往復する間にレーザーがアクティブミラーで増幅されて出力鏡から放出される。
また、MOPA方式(Master Oscillator Power Amplifier)のレーザー発生装置は、多段に連結したアクティブミラーを1パスの増幅器として使用するもので、主発振器から放射された品質の高いシードレーザーをそのままパワー増幅するので、高出力で指向性のよいレーザー光を得るのに適している。
【0006】
これらアクティブミラー型レーザ発生装置では、たとえば、図11の概念図に示すように、複数のアクティブミラーが反射面が千鳥に対向するように配置されていて、集光された太陽光をレーザー反射面に直接照射してアクティブミラーを励起するように構成することができる。
アクティブミラーの間を次々に伝播するレーザー光は、アクティブミラーの位置で太陽光と交差するが、互いに干渉することなく、レーザー媒体内で増幅され、一方の端から放射される。
【0007】
しかし、結像光学系を使って太陽光をアクティブミラー表面に直接入射させる構成では、数1000倍のエネルギー集中度を得るために反射鏡とアクティブミラーの位置関係を正確に規定する精密な構造を宇宙空間で形成すると共に、高度な姿勢制御装置を備えて、人工衛星が地球を公転して姿勢を変化させるに従って太陽を追尾しながら太陽とアクティブミラーの位置関係を正確に制御する必要がある。
なお、アクティブミラーに照射する太陽光はエネルギー密度が極めて高くなっているため、姿勢制御の精度が悪いときなど、照射領域がずれる場合には周囲の機構に損傷を与える危険がある。
また、高出力のアクティブミラー型レーザ発生装置では、アクティブミラーに大量の太陽光を照射するが、変換効率が1でないため熱エネルギーが蓄積するので、昇温により出力が不安定になったり、甚だしくは装置が破損したりする危険が常にある。このため、高い能力のヒートシンクを備える必要がある。
【0008】
非結像系集光器として、複合放物面集光器(CPC:Compound Parabolic Concentrator) がある。
図12は、CPCの光軸を含む断面図である。
A’は放物線BB’の焦点、B’は放物線AA’の焦点に当たり、放物線AA’の対称軸はA’Bと平行、放物線BB’の対称軸はAB’と平行であり、放物線AA’と放物線BB’は光軸に対して対称な放物線である。これら放物線を光軸の周りに回転した形状がCPCである。
CPCは、光軸に対してある開口角θ以下で入射開口に入射する光線を射出開口に到達させる一方、開口角θ以上の角度で入射する光線は入射開口に戻してしまう機構になっている。
【0009】
したがって、入射光の向きが変動しても、開口角θ以上に変動しなければ、入射開口に入射した光線は射出開口に到達する。このため、開口角θを適当に選ぶことにより、太陽を追尾することなく太陽光を取り込んで利用する装置を組み立てることができる。
また、図12の形状では、射出開口面積aに対して入射開口面積はa/sinθとなり、集光倍率が1/sinθとなるので、容易に数倍から10倍程度の集光倍率を持たせることができる。
【0010】
特許文献1には、非結像光学的集中装置の製造方法が教示されているが、ここでCPCの基本的な形状例が開示されている。
また、特許文献2には、小型のCPCをアレイ配置したパネルを利用することにより、太陽を追尾しないで太陽光発電する地上設備が開示されている。
しかし、特許文献1,2には、アクティブミラーとCPCを組み合わせることに関連する記載がなく、また、宇宙空間でCPCを使用することについて何ら示唆するところがない。
【特許文献1】特表平11−509011号公報
【特許文献2】特開2004−053027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、アクティブミラーに太陽光を取り込んでレーザーにエネルギー変換する太陽光利用固体レーザーシステムにおいて、太陽とアクティブミラーの間をより柔軟な位置関係で結んで、構造をより簡素にして姿勢制御装置をより単純化する技術を提供することである。特に、宇宙空間に配置して利用する場合に有効な太陽光利用固体レーザーシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の太陽光励起固体レーザー装置は、レーザー光を放射するレーザー発生装置と、余剰熱を放散するヒートシンクを裏側に密接して設けた1個以上のアクティブミラーを備えて、このアクティブミラーを集光した太陽光で励起して、レーザー光がアクティブミラー反射面で反射する間にレーザ光を増幅して放射する固体レーザ装置であって、
アクティブミラーの前面にアクティブミラーの反射面を射出開口とする複合放物面集光器(CPC)を配置して太陽光をCPCの入射開口に投射させるように配置し、CPCの側面のレーザー光の光路位置にレーザー光が透過する窓を設けたことを特徴とする。
【0013】
本発明の太陽光励起固体レーザー装置は、アクティブミラーの前面から太陽光を照射してアクティブミラーを太陽光で直接励起するもので、アクティブミラーの前面にCPCを配置して、集光した太陽光をCPCの入射開口に導入するようにしたものである。本発明の太陽光励起固体レーザー装置では、太陽とアクティブミラーの間の位置関係が多少変動しても、アクティブミラーの入射開口から外れない限り、アクティブミラーに太陽光エネルギーを入射させることができる。
【0014】
本発明の太陽光励起固体レーザー装置では、レーザー光が反射する面と太陽光が入射する面が同じ面になる。一方、CPCは入射開口に入射した光線を射出開口に伝達する装置で、射出開口における射出光線はほぼ全ての方向に分布するから、CPC出射開口とアクティブミラー表面との間に空隙があると射出光線が漏れて、アクティブミラーに十分なエネルギーが入射しないことになる。したがって、CPCの射出開口面にアクティブミラー表面が位置するように配置されるが、レーザー光の光路にレーザー光を透過する窓を設けて、レーザー光の光路を確保している。
【0015】
レーザー光の透過窓は、光路分を切り抜いたものであってもよい。また、レーザー光を透過するダイクロイックミラーで形成してもよい。ダイクロイックミラーで形成する場合は、CPCにおける太陽光の反射を確保して集光効率を劣化させない。
アクティブミラーは、Crを添加したNd:YAGのセラミックをレーザー媒体として形成されることが好ましい。Cr/Nd:YAGセラミックは、誘導放出断面積が大きく、熱伝導率も高い。また、可視光領域における吸収波長分布が大きく、黒体輻射に近い太陽光を吸収するのに適している。
【0016】
また、本発明第2の太陽光励起固体レーザー装置は、アクティブミラー裏面のヒートシンクの裏面に太陽光で励起するレーザーダイオード(LD)スタックを設け、LDスタックの各放射レーザー光を発光端からアクティブミラーに導く光ファイバをヒートシンクを貫通して備え、LDスタックのLDを励起する太陽光を受容する面の外側に受容面が射出開口と一致するように複合放物面集光器(CPC)を配置して、集光した太陽光をこのCPCの入射開口に投射させるようにしたことを特徴とする。
【0017】
本発明第2の太陽光励起固体レーザ装置は、アクティブミラーの後ろ面に太陽光励起(LD)スタックを配置し、LDスタックの裏側に受容面を設けて射出開口と一致するようにCPCを設けたものである。集光した太陽光をCPCで受容してLDスタックを励起し、発生する半導体レーザ光をアクティブミラーの励起光として入射させるようにして、太陽光で間接的にレーザー光を増幅して放射させる。LDスタックで発生した励起光はヒートシンクを貫通する光ファイバでアクティブミラーの背面に導かれる。
【0018】
CPCは、アクティブミラーの裏側に設けられるので、アクティブミラーで増幅されるレーザー光の走行を妨げない。
LDスタックは、裏の受容面に太陽光を照射すると直接にレーザ光を発生する太陽光直接励起方式レーザダイオードスタックを用いることができる。
また、太陽電池を介して電気的にレーザ光を発生するレーザダイオードを多数分布させたレーザダイオードスタックであって、太陽電池の受容面に太陽光を照射して起電力を発生させ、太陽電池から電力の供給を受けてアクティブミラーを励起する光を発生するものであってもよい。
【0019】
光ファイバーから放出される励起光はアクティブミラーに入射した後に少なくとも一部がアクティブミラーの表面内側で全反射する方向角を持つようにすることが好ましい。
レーザー媒体には多数の分布したLDスタックから励起光が注入され、注入された励起光は少なくとも一部がレーザー媒体の表面内側で全反射して拡散して、レーザー媒体中に励起光が充満するため、入射するレーザー光は効率よく励起光と反応して増幅される。
【0020】
励起光がアクティブミラーの表面内側で全反射するようにするため、光ファイバーから入射する励起光が反対側の表面に当たる位置に円錐型のミラーを配置してもよい。また、励起光の入射位置に円錐型の凹みを形成してもよい。さらに、光ファイバの先端に、励起光を拡散する光学系を備えてもよい。このような光学系として凹面レンズや円錐状の凹みを持つ円錐レンズなどが利用できる。
【0021】
レーザー媒体をNd:YAGあるいはYb:YAGとしたときは、その励起光源として、それぞれ波長が808nmと941nm近傍のレーザ光を発生するLDを使用することが好ましい。
また、レーザー媒体をセラミック化することが好ましい。セラミック化によって、大型のレーザー媒体を形成すること可能である。また、セラミックは、熱伝導率も高く熱の放出能力が大きいので、高密度実装が可能となり、結局レーザー媒質が軽量化される。特に、宇宙空間に設置する場合には装置軽量化の効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の1実施例に係る太陽光励起固体レーザー装置の概念図、図2は本実施例で使用するアクティブミラー構造体の例を示す構成図、図3はアクティブミラー構造体の主要部拡大図、図4はアクティブミラーへの導光部を例示する拡大構成図、図5はアクティブミラーへの導光部の別の態様を示す拡大構成図、図6はアクティブミラー構造体の別の例を示す構成図、図7は本実施例の第2の態様に係る太陽光励起固体レーザー装置の概念図、図8は第2態様に係る太陽光励起固体レーザー装置におけるCPC部分の断面図、図9はその平面図、図10は本発明の固体レーザー装置を用いて構成した宇宙太陽レーザー発生装置の概念図、図11は従来のアクティブミラー型太陽光励起固体レーザー装置例を説明する概念図、図12は複合放物面集光器(CPC)の原理を説明するための光軸を含む断面図である。
【0023】
図1に示す本実施例の太陽光励起固体レーザー装置は、宇宙空間で太陽光エネルギーをレーザーエネルギーに変換するアクティブミラー型レーザー装置である。レーザー光5を発振するレーザ発生器52と、対向して千鳥に配列されたアクティブミラー2により形成される。レーザー光5は、アクティブミラー2における反射を順次繰り返して、励起光のエネルギーを加重して増幅され、出力レーザー光51として端面から放出される。
出力レーザー光51は出力反射鏡7によって進行方向を調整することができる。
【0024】
アクティブミラー2に補填されるレーザー励起光は、LDスタック4で生成されヒートシンク3内に埋設された光ファイバーを通してアクティブミラー2に供給される。
LDスタック4にはそれぞれ、収束された太陽光8が照射する複合放物面集光器(CPC)10が入射開口を外側に向けて設けられる。
CPC10は、内壁が反射面になって出口側に徐々に窄まる円形断面を有する筒形であって、図10に示した通り、中心軸を含む断面を取ったとき、内壁の断面が対向する内壁断面の出口側先端に焦点を有する放物線を描くような回転体でできた非結像集光光学系である。
【0025】
CPCでは、入射開口に入射する光線は、中心軸に対する傾きがたとえば30°など設計上決まる開口角θより小さい角度である限り、全て出射開口に達する。したがって、CPCの集光効率は開口比と等しく、簡単に3〜10の値を持たせることができる。また、入射光の向きが多少変化しても、集光効率は変化しない。
CPC10の入射開口に入射した集光された太陽光8は全てLDスタック4の入力部に到達するようになっている。
また、集光した太陽光8の集光位置が多少ずれても、CPCの入射開口内に収まる限り、LDスタック4の光受容部に伝達され、周辺にある他の部材を破損させることはない。
【0026】
図2は、本実施例のアクティブミラー構造体1の例を示す構成図である。図2のアクティブミラー構造体1は、宇宙空間で太陽光エネルギーをレーザー光に転換して伝送するために構成したものである。
図2に示すように、アクティブミラー構造体1は、レーザー媒体により形成されるアクティブミラー2と、熱良導体で形成され多数の光ファイバー31が縦断するように埋め込まれたヒートシンク3と、多数のレーザーダイオード(LD)が配列されたレーザーダイオードスタック(LDスタック)4と、LDスタック4の光受容面を射出開口とするCPC10とで構成される。
LDスタック4は、太陽光を直接に励起光に変換する太陽光直接励起方式のLDを多数集積した固体レーザーである。ヒートシンク3には極大面積の放熱板37を接続して、吸収しきれず熱として蓄積する太陽光エネルギーを黒体輻射により宇宙空間に放散させる。
【0027】
さらに、図3の概念的な断面図に示すように、LDスタック4の多数の発光部41はLDごとに存在し、光ファイバー31はレーザー発光部41のおのおのに対応して多数分布した状態で設けられている。
ヒートシンク3には、LDスタック3の光ファイバー31の先端に当たる位置にすり鉢形のくぼみ34が設けられていて、光ファイバー先端部の収納スペースとなり、かつ光ファイバー31から放出されるレーザー励起光をアクティブミラー2に導く導光空間33となっている。
【0028】
ヒートシンク3は、集光された太陽光8が入射するLDスタック4、レーザ光5が反射するアクティイブミラー2、レーザ励起光が透過する光ファイバー31から吸収した余剰熱を放熱フィン37に伝達する。放熱フィン37はヒートシンク3を繋いだ上、宇宙に広く突出して、装置で発生する余剰熱を宇宙空間に放射して、装置の過熱を抑制する。
【0029】
光ファイバー31の先端部に形成される導光空間33には、図4に示すように、円錐型反射鏡38を配置することが好ましい。
円錐型反射鏡38は、光ファイバー31の中心軸延長上に頂点が来るように配置される。コア32から放射されたレーザー励起光6は、反射鏡38に反射して導光空間33の開口からアクティブミラー2に入射する。
レーザー励起光6がアクティブミラー2に入射するときの入射角は、円錐型反射鏡38がなかったときと比較すると極めて大きくなり、アクティブミラー2に入射したレーザー励起光はアクティブミラー2の表面に対する傾きが小さくなり、従来より広い範囲に分散するようになる。
【0030】
また、表面で全反射する成分が多くなるので、アクティブミラー2の中に閉じ込められてレーザー増幅に寄与する割合が大きくなってエネルギー変換効率が向上する。
したがって、アクティブミラー2で反射するレーザー光5が効率よく増幅されるようになる。
また、この方法は、アクティブミラー2の内部に特別な工作を施す必要がないので、アクティブミラー2の加工が容易である。
【0031】
アクティブミラー2のヒートシンク3に接する裏面には増幅するレーザー光5に対するレーザー反射膜21が形成されていて、レーザー光5が高い反射率で反射するようになっている。なお、レーザー光5が光ファイバー31に照射すると光ファイバー31が損傷を受ける可能性があるため、レーザー反射膜21は光ファイバー31の先端位置に設けられる導光空間33の部分にも存在させることが好ましい。
【0032】
また、アクティブミラー2の表面はレーザー励起光6に対する反射率が高いことが求められるが、導光空間33に当たる部分はレーザー励起光6が透過する必要がある。このため、アクティブミラー2の裏面には増幅するレーザー光5に対するレーザー反射膜21を形成し、これと貼り合わせるヒートシンク3の表面に励起光に対する反射率が高い励起光反射面35を形成することが好ましい。
【0033】
LDスタック4から放射されたレーザー励起光6は光ファイバ31のコア32を透過して端末から導光空間33に放出され、さらにアクティブミラー2中に入射する。導光空間33には円錐型反射鏡38が設けられているので、レーザ励起光6の大きな部分は、反射鏡38の表面で反射してアクティブミラー2の表面に対して浅い角度になってからアクティブミラー2中に入射し、アクティブミラー2の中に拡散する。アクティブミラー2の屈折率と外側の媒体の屈折率の関係で決まる全反射の臨界角より大きな角でアクティブミラー2の表面に入射した励起光6はアクティブミラー2の外部に放散されず、アクティブミラー2中に残ってレーザー光5の増幅に寄与する。
【0034】
アクティブミラー2は、励起光のエネルギーがレーザー光に伝達しやすいレーザー媒体で形成され、励起光の吸収率も大きい。したがって、従来手法のようにアクティブミラーの外周から励起光を注入するのでは、励起光はアクティブミラーの中で直ぐに減衰して、レーザー光増幅に対して寄与できるレーザー媒体のボリュームが大きくならない。
これに対して、本実施例のアクティブミラー構造体1では、LDスタックを用いて多数の励起光入射点を設ける上、励起光入射位置に反射鏡を配置して入射した励起光をアクティブミラーの広がり方向に拡散させるので、アクティブミラーの殆どの部分に励起光が拡散してレーザー光増幅が行えるようになり、大面積のアクティブミラーを形成することが可能になり、励起光のエネルギーをレーザー光に伝達するエネルギー変換効率が向上する。
【0035】
また、本実施例のアクティブミラー構造体1は、励起光をアクティブミラーの裏側から供給し、レーザー光が入射する表側にはレーザー光の走行の障害となるような設備を設けない。したがって、構成上の簡約化ができる上に、エネルギー変換効率も向上する。
【0036】
なお、アクティブミラー2のレーザー媒体は、Nd:YAGあるいはYb:YAGのセラミックとすることが好ましい。これらのレーザ媒体は、それぞれ波長が808nmと941nm近傍で吸収率が高く、エネルギー交換を効率よく行うので、これらのレーザ媒体を使うときは、これらの波長を有するレーザ光を発生するLDをレーザ励起光源とすることが好ましい。
レーザ媒体をセラミック化することにより大型のアクティブミラーを形成することが可能になる。また、セラミック化したこれら媒体は、熱伝導率も高く熱の放出能力が大きいので、高密度実装が可能となり、結局アクティブミラー構造体が軽量化され、特に、宇宙空間に設置する場合には大きな効果が見込まれる。
【0037】
なお、図5に示すように、図4に示した円錐型反射鏡38の代わりに、アクティブミラー2の増幅するレーザー光5が入射する側の面に底面を持った円錐型反射鏡22を設けてもよい。
円錐型反射鏡22は、各光ファイバー31ごとに設けられ、コア32のある中心軸の延長上に頂点が来るように配置される。光ファイバー31から放射されアクティブミラー2に入射したレーザー励起光6は、反射鏡22に反射して進行方向を屈曲し、広い範囲に励起光が到達するようになる。さらに、反射後の励起光6は、アクティブミラー2の表面で全反射してアクティブミラー2の中に閉じ込められる割合が大きくなってエネルギー変換効率が向上する。
反射鏡22は、レーザー媒体に円錐状の凹みを形成しその壁面に金属を堆積させて、または誘電体多層膜によるダイクロイックミラーの反射面23とすることによって形成したものであってもよい。
【0038】
また、反射鏡22の反射面23は、放物線を光ファイバー31の中心軸を回転軸とする放物線回転面であってもよい。このような放物線回転面で反射した励起光6は、アクティブミラー2の表面とほぼ平行の方向に放射されて、励起光6がアクティブミラー2内を最も遠方まで到達する。
【0039】
なお、円錐型反射鏡38の代わりに、別の光学的方法を用いることもできる。たとえば、導光空間33に対峙してアクティブミラー2にレーザー励起光を入射する位置に円錐形の凹みを形成したものを利用してもよい。レーザー励起光6が凹みの表面からアクティブミラー2に入射するときは入射角より屈折角の方が小さいので、アクティブミラー2内におけるレーザー励起光の進行方向はアクティブミラー2表面との角度が小さくなり、励起光の浸透領域を広げる効果がある。
【0040】
また、光ファイバー31の先端部に形成される導光空間33に凹レンズを配置して、レーザー励起光がアクティブミラー2の表面に入射する角度をより大きくしてもよい。凹レンズは、レーザ励起光の進行方向をアクティブミラー2の拡がり方向に近づけるので、アクティブミラー2の内部でレーザー光を円滑に増幅することができる。また、アクティブミラー2の内部に特別な構造を形成しないので、アクティブミラー2の加工が簡単である。
【0041】
図6は、本実施例のアクティブミラー構造体1の別の例を示す構成図である。図6のアクティブミラー構造体1も、宇宙空間で太陽光エネルギーをレーザー光に転換して伝送するために構成したもので、図2のものと比較すると、LDスタック4として電力により励起光に変換するLDを集積したものを使用するところが異なる。
このため、LDスタック4に電力ケーブル92を介して太陽電池9を接続し、太陽電池9の光受容面を射出開口とするCPC10を設けてある。
【0042】
集光した太陽光8をCPC10で受容して、太陽電池9の光受容面に集光し、太陽光エネルギーを太陽電池9で電力変換し、LDスタック4が電力ケーブル92を通して供給される電力でレーザー励起光を発生してアクティブミラー2に供給する。励起したアクティブミラー2で反射して増幅された出力レーザー光51は、出力反射鏡7により放出方向を調節されて遠隔の受光装置に向かって射出される。
太陽電池9も、変換しきれない太陽エネルギーで過熱するのを防ぐため、大きな放熱板37を接続して、蓄積する熱を宇宙空間に放散させる。
【0043】
図7は本実施例の第2の態様に係る太陽光励起固体レーザー装置の概念図、図8はレーザー光反射部分の断面図、図9は平面図である。
本態様も、レーザー光5を発振するレーザ発生器52と、対向して千鳥に配列されたアクティブミラー2により形成され、CPC10を用いてアクティブミラー2に太陽光8を集めるアクティブミラー型レーザー装置であるが、アクティブミラー2のレーザー光反射面に集光した太陽光8を直接照射するところが図1に示す第1の態様と異なる。
【0044】
アクティブミラー2は、たとえば、Crを添加したNd:YAGのセラミックで形成される。Nd/Cr:YAGは太陽光8の吸収とレーザー光5への変換の効率が比較的高く、また、セラミック化することにより大型のレーザー媒体を形成すること可能である。
レーザ発生器52から射出されたレーザー光5は、太陽光8で励起されたアクティブミラー2で順次繰り返し反射して増幅され、太陽光エネルギーを変換した光エネルギーを搬送する出力レーザー光51として端面から放出される。
【0045】
アクティブミラー2は裏面にヒートシンク3を密着接合して、レーザー媒体で発生する熱を速やかにヒートシンク3に移転し、ヒートシンク3は放熱フィン37に熱を伝えて宇宙空間に輻射させ、装置の昇温を防止する。
本態様におけるCPC10は、レーザー光5の通路を遮る位置に配置されるので、レーザー5の通路と干渉する位置にレーザ光5を透過する透過窓101を備える。透過窓101は単にCPC10の反射壁を切り欠いた孔であってもよいし、太陽光8の反射面を確保しながらレーザー光5の波長成分をよく透過するダイクロイックミラーであってもよい。
なお、CPC10の全反射面を太陽光8の殆どを反射しレーザー光5を透過するダイクロイックミラー面で形成してもよい。
【0046】
本態様の太陽光励起固体レーザー装置は、アクティブミラー2が太陽光8を受容して直接的にレーザー媒体を励起し、アクティブミラー2中を透過するレーザー光5のエネルギーに転換するので、比較的簡素な構成で効率のよい太陽光利用を図ることができる。
【0047】
図10は、図1あるいは図7に示した本実施例の太陽光励起固体レーザー装置を用いて構成する宇宙太陽レーザー発生装置の概念図である。
図10に示す宇宙太陽レーザー発生装置では、太陽光16は大面積の凹面鏡を構成する第1集光器11でエネルギー密度を約100倍にして縦長の第2集光器12に集中し、第2集光器12で反射して縦方向に配設されたレーザー増幅器14の両側にそれぞれ設けられたCPC13に入射させる。第2集光器12とCPC13でほぼ10倍に集光すると、受光部における太陽光のエネルギー密度は1000倍になる。
CPC13に入射した太陽光は、レーザー増幅器14でレーザー光エネルギーに変換されて、出力レーザー光17として地上などのエネルギー需要地にある受容施設に伝搬される。
利用できなかったエネルギーは構造支持構造を兼ねる放熱板15の黒体輻射により宇宙空間に放出して、システムの昇温を防止する。
【0048】
効率の高い太陽エネルギー利用を達成するためには、図中の放熱板を太陽光線に平行に向け、第1集光器11の受光面を太陽の方向に向けて、集光器上に陰を作らず太陽光線に対する受光面の角度を垂直に維持することが必要である。
太陽に対する追尾制御の性能が劣る場合は、受光部への入射角が変化し集中した太陽光が周辺機器に照射して損傷を与えたり受光する太陽エネルギーが変動することがある。しかし、CPC13を介在させているため、収束太陽光入射方向の許容範囲を拡大し、機器の損傷を防止しエネルギー変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の1実施例に係る太陽光励起固体レーザー装置の概念図である。
【図2】本実施例で使用するアクティブミラー構造体の例を示す構成図である。
【図3】本実施例におけるアクティブミラー構造体の主要部拡大図である。
【図4】本実施例におけるアクティブミラーへの導光部を例示する拡大構成図である。
【図5】本実施例のアクティブミラーへの導光部の別の態様を示す拡大構成図である。
【図6】本実施例のアクティブミラー構造体の別の例を示す構成図である。
【図7】本実施例の第2の態様に係る太陽光励起固体レーザー装置の概念図である。
【図8】第2態様に係る太陽光励起固体レーザー装置におけるCPC部分の断面図である。
【図9】図8のCPC部分の平面図である。
【図10】本実施例の太陽光励起固体レーザー装置を用いて構成した宇宙太陽レーザー発生装置の概念図である。アクティブミラーを使用した固体レーザー装置の概念図である。
【図11】従来のアクティブミラー型レーザ発生装置を説明する概念図である。
【図12】複合放物面集光器(CPC) の光軸を含む断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 アクティブミラー構造体
2 アクティブミラー
21 レーザー反射膜
22 反射鏡
23 反射面
24 回転軸
25 円錐形凹み
3 ヒートシンク
31 光ファイバー
32 コア
33 導光空間
34 すり鉢形くぼみ
35 励起光反射面
36 凹レンズ
37 放熱フィン
38 反射鏡
4 レーザーダイオードスタック(LDスタック)
5 レーザー光
51 出力レーザー光
52 レーザー発生器
6 レーザー励起光
7 出力反射鏡
8 太陽光
9 太陽電池
91 放熱フィン
92 電力ケーブル
10 CPC集光光学系
101 透過窓
11 第1集光器
12 第2集光器
13 CPC集光器
14 レーザー増幅器
15 放熱板
16 太陽光
17 出力レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を放射するレーザ発生装置と、余剰熱を放散するヒートシンクを裏側に密接して設けた1個以上のアクティブミラーを備えて、該アクティブミラーを集光した太陽光で励起して、該アクティブミラー反射面で反射する間に前記レーザ光を増幅して放射する固体レーザ装置であって、
前記アクティブミラーの前面に該アクティブミラーの反射面を射出開口とする複合放物面集光器(CPC)を配置して前記太陽光を該CPCの入射開口に投射させるように配置し、前記CPCの側面の前記レーザ光の光路位置に該レーザ光が透過する窓を設けたことを特徴とする太陽光励起固体レーザ装置。
【請求項2】
前記レーザ光が透過する窓は、前記レーザ光を透過するダイクロイックミラーで形成されることを特徴とする請求項1記載の太陽光励起固体レーザ装置。
【請求項3】
前記アクティブミラーは、Crを添加したNd:YAGのセラミックで形成されることを特徴とする請求項1または2記載の太陽光励起固体レーザ装置。
【請求項4】
レーザ光を放射するレーザ発生装置と、余剰熱を放散するヒートシンクを裏側に密接して設けた1個以上のアクティブミラーを備えて、該アクティブミラーを集光した太陽光で励起して、該アクティブミラー反射面で反射する間に前記レーザ光を増幅して放射する固体レーザ装置であって、
前記アクティブミラー裏面のヒートシンクの裏面に太陽光で励起するレーザダイオード(LD)スタックを設け、該LDスタックの各放射レーザ光を発光端から前記アクティブミラーに導く光ファイバを該ヒートシンクを貫通して備え、該LDスタックのLDを励起する太陽光を受容する面の外側に該受容面を射出開口とする複合放物面集光器(CPC)を配置して、前記集光した太陽光を該CPCの入射開口に投射させるようにしたことを特徴とする太陽光励起固体レーザ装置。
【請求項5】
前記LDスタックは、裏の受容面に太陽光を照射すると直接にレーザ光を発生する太陽光直接励起方式レーザダイオードスタックであることを特徴とする請求項4記載の太陽光励起固体レーザ装置。
【請求項6】
前記LDスタックは、前記受容面に照射した太陽光により起電力を発生する太陽電池から電力の供給を受けて前記アクティブミラーを励起する光を発生するレーザダイオードを多数分布させたレーザダイオードスタックであることを特徴とする請求項4記載の太陽光励起固体レーザ装置。
【請求項7】
前記光ファイバーから放出される前記励起光が前記アクティブミラーに入射した後に少なくとも一部が前記アクティブミラーの表面内側で全反射する方向角を持つことを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の太陽光励起固体レーザ装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の太陽光励起固体レーザ装置を備えて、宇宙空間で太陽光エネルギーをレーザ光に変換し、該レーザ光によりエネルギーを需要場所に伝送することを特徴とする太陽光利用固体レーザシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−98450(P2008−98450A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279244(P2006−279244)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】