説明

太陽光集熱装置

【課題】集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された場合に、集熱管の過熱によって引き起こされる異常状態や事故を自動的に回避することができるようにした太陽光集熱装置を提供すること。
【解決手段】集光機構1によって集光された太陽光を集熱管2で受光し、集熱管2の内部を流通する熱媒体にエネルギを伝達するようにするとともに、集光機構1が常に太陽の方向を指向するように太陽の動きに従って集光機構1を移動させる太陽追尾機構5を設けた太陽光集熱装置において、集熱管2の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された場合に、集光機構1によって集光された太陽光の少なくとも一部が集熱管2に照射されない位置まで集光機構1を移動させる待避機構5を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光集熱装置に関し、特に、集光機構によって集光された太陽光を集熱管で受光し、集熱管の内部を流通する熱媒体にエネルギを伝達するようにした太陽光集熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光集熱装置において、熱源を確保するための集光機構として、パラボラトラフ式集光機構、フレネル式集光機構等の各種集光機構が用いられ、集光機構によって集光された太陽光を集熱管で受光し、集熱管の内部を流通する熱媒体にエネルギを伝達するようにしている。
【0003】
ところで、通常、集光機構、その最大の能力を発揮すべく、最大に集光された太陽光を集熱管で受光できるように、集光機構が常に太陽の方向を指向するように太陽の動きに従って集光機構を移動させる太陽追尾機構を設けるようにしている。
【0004】
図1に示すパラボラトラフ式集光機構を備えた太陽光集熱装置を例に、従来の太陽追尾機構について説明する。
この太陽光集熱装置は、パラボラトラフ式集光機構としての反射鏡1と、反射鏡1によって反射した太陽光が集束する焦点に位置する内部を熱媒体が流通する集熱管2と、集熱管2の外周に同心状に配設したガラス製の断熱管3とを備え、集熱管2に集束された太陽光のエネルギによって、集熱管2の内部を流通する熱媒体を加熱することによって、熱として回収するようにしている。
この太陽光集熱装置は、反射鏡1及び集熱管2を一体とし、揺動軸4を介して太陽追尾機構としての駆動装置5により、太陽の動きに追従して移動するようにし、これにより、集熱管2に最大の入熱が行われるようにしている。
そして、図1に示す例では、反射鏡1及び集熱管2は、水平軸が南北に向くように配置するようにしている。
【0005】
この場合、最大のエネルギを回収するために、その時刻の太陽の平行光線角度に対して、
(1)常に垂直になるように反射鏡1の開口の姿勢角度を制御する方式
(2)入射直達光線量が最大になるように反射鏡1の開口の姿勢角度を制御する方式
(3)集熱管2への光集束量が最大になるように反射鏡1の開口の姿勢角度を制御する方式
のいずれかを採用し、機械的に自動追尾し、常に集熱管2に最大の入熱が行われるようにしている。
【0006】
また、追尾方式には、
(1)その時刻毎にタイマーにより反射鏡1の角度を割り出す方式
(2)実際の上記(1)〜(3)の姿勢角度を制御する方式の物理量(集熱管2への入熱量)を常に計測し、PID制御する方式
がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の制御方法では、例えば、夏季の最大入熱運転条件下においても、常に最大の入熱量を得るべく太陽光集熱装置を運用するようにしている。
このような太陽光集熱装置の運用においては、集熱管2の内部を流通する熱媒体への熱伝達が円滑に行われているときは、プラントとしての熱変換量が最大となり、何等問題はない。
【0008】
ところが、一旦、熱伝達が阻害された状況、例えば、オイル等の熱媒体の場合は、熱媒体の流量が過小に、直接蒸発を伴う熱媒体の場合は、沸騰領域又は過熱領域での質量流量が過小になると、入熱過大に対して熱輸送が滞り様々な問題を生じる。
具体的には、集熱管2の外表面が異常過熱され、集熱管2が局部変形を起こし、破損するおそれがある。また、集熱管2の温度が、局部的に材料の変態点以上に上昇し、集熱管2自体の健全性が損なわれるおそれがある。また、集熱管2の集熱効率を向上させるための機能、例えば、選択吸収膜、反射防止膜等の機能劣化が生じるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記従来の太陽光集熱装置の実情に鑑み、集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された場合に、集熱管の過熱によって引き起こされる異常状態や事故を自動的に回避することができるようにした太陽光集熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の太陽光集熱装置は、集光機構によって集光された太陽光を集熱管で受光し、集熱管の内部を流通する熱媒体にエネルギを伝達するようにするとともに、集光機構が常に太陽の方向を指向するように太陽の動きに従って集光機構を移動させる太陽追尾機構を設けた太陽光集熱装置において、前記集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された場合に、集光機構によって集光された太陽光の少なくとも一部が集熱管に照射されない位置まで集光機構を移動させる待避機構を設けたことを特徴とする。
【0011】
この場合において、集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害されたことを、以下の(a)〜(d)のいずれか又は複数の組み合わせによって、検知するようにすることができる。
(a)集熱管の表面温度が許容値を超えた場合
(b)熱媒体の温度が許容値を超えた場合
(c)熱媒体の圧力が許容値を超えた場合
(d)熱媒体の流量が許容値を超えて低下した場合
【発明の効果】
【0012】
本発明の太陽光集熱装置によれば、集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された場合に、集光機構によって集光された太陽光の少なくとも一部が集熱管に照射されない位置まで集光機構を移動させる待避機構を設けることにより、集熱管の過熱によって引き起こされる異常状態や事故を自動的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】太陽光集熱装置の説明図である。
【図2】反射鏡によって集光された太陽光を集熱管で受光する状態を示す説明図である。
【図3】正常運転時における反射鏡によって集光された太陽光を集熱管で受光する状態を示す説明図である。
【図4】待避機構を作動させた状態における反射鏡によって集光された太陽光を集熱管で受光する状態を示す説明図である。
【図5】太陽光集熱装置の運転方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の太陽光集熱装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明の太陽光集熱装置を、図1に示すパラボラトラフ式集光機構を備えた太陽光集熱装置を例に説明する。
【0016】
この太陽光集熱装置は、集光機構としての反射鏡1によって集光された太陽光を集熱管2で受光し、集熱管2の内部を流通する熱媒体にエネルギを伝達するようにするとともに、反射鏡1が常に太陽の方向を指向するように太陽の動きに従って反射鏡1を揺動軸4を介して移動させる太陽追尾機構としての駆動装置5を設けた太陽光集熱装置において、集熱管2の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害されたことを検知した場合に、反射鏡1によって集光された太陽光の少なくとも一部が集熱管2に照射されない位置まで反射鏡1を揺動軸4を介して揺動移動させる待避機構(本実施例においては、太陽追尾機構としての駆動装置5と共用)を設け、これにより、集熱管2の過熱によって引き起こされる異常状態や事故を自動的に回避するようにしている。
【0017】
この場合、集熱管2の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害されたことの検知は、例えば、以下の(a)〜(d)のいずれか又は複数の組み合わせによって行うことができる。
(a)集熱管の表面温度が許容値を超えた場合
(b)熱媒体の温度が許容値を超えた場合
(c)熱媒体の圧力が許容値を超えた場合
(d)熱媒体の流量が許容値を超えて低下した場合
【0018】
そして、太陽光集熱装置の運転中に、集熱管2の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害されたことを検知した場合は、太陽光集熱装置の保護の観点から、反射鏡1によって集光された太陽光の少なくとも一部、好ましくは、全部が集熱管2に照射されない退避位置まで反射鏡1を揺動軸4を介して揺動移動(待避角度:−α)させる。
【0019】
この場合、反射鏡1を揺動軸4を介して揺動移動させる方向は、通常の太陽追尾機構による揺動移動方向(追尾方向)と逆方向に設定するようにする。
このとき、追尾方向と逆方向へ揺動移動させる理由は、正方向の待避位置まで移動させると、異常要因が排除されない場合、時間経過とともに再び反射鏡1によって集光された太陽光が集熱管2に照射される事態を回避するためである。
【0020】
そして、集熱管2の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された異常要因が排除され、上記の検知対象としていた計測物理量(温度・圧力)が安全領域に到達した時点で、再び通常の太陽光集熱装置の運転に復帰する。
なお、太陽光集熱装置の運転のフローチャートの一例を図5に示す。
【0021】
ところで、上記待避角度:−αは、図2に示すパラボラトラフ式集光機構の場合、反射鏡1の形状によって次式で求まる限界待避角度−αcritical以上の値に設定することが望ましい。
【0022】
【数1】

αcritical:反射鏡1の限界待避角度[deg]
W:反射鏡1の開口幅[m]
A:反射鏡1の放物面の2次係数
F:焦点距離
D:レシーバ(断熱管3)の外径[m]
【0023】
この太陽光集熱装置によれば、正常運転時においては、図3のように、レシーバ(集熱管2)に反射鏡1によって集光された太陽光のすべてが集束されるように(レシーバから外れないように)、太陽追尾機構としての駆動装置5によって、太陽を追尾するように反射鏡1の姿勢制御が行われる。
一方、太陽光集熱装置の運転中に、集熱管2の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害されたことを検知した時点で、待避機構としての駆動装置5によって、反射鏡1によって集光された太陽光の少なくとも一部、好ましくは、全部が集熱管2に照射されない退避位置まで反射鏡1を揺動軸4を介して揺動移動(待避角度:−α)させることにより、図4に示すように、反射鏡1によって集光された太陽光がレシーバ(集熱管2及び断熱管3)から外れ、レシーバ(集熱管2及び断熱管3)の過熱によって引き起こされる異常状態や事故を自動的に回避することができる。
【0024】
なお、本実施例においては、パラボラトラフ式集光機構を備えた太陽光集熱装置を例に説明したが、集光機構として、複数の長尺の平面分割鏡からなるフレネルミラー型の反射鏡やリニアフレネルレンズ等の公知の集光機構を備えた太陽光集熱装置にも同様に適用することができ、これを排除するものでない。
【0025】
以上、本発明の太陽光集熱装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の太陽光集熱装置は、集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された場合に、集熱管の過熱によって引き起こされる異常状態や事故を自動的に回避することができることから、太陽光の入射角度の変化が大きい地域で使用される太陽光集熱装置の用途に好適に用いることができ、また、それ以外の地域で使用される太陽光集熱装置の用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 反射鏡(集光機構)
2 集熱管(レシーバ)
3 断熱管(レシーバ)
4 揺動軸
5 駆動装置(太陽追尾機構、待避機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光機構によって集光された太陽光を集熱管で受光し、集熱管の内部を流通する熱媒体にエネルギを伝達するようにするとともに、集光機構が常に太陽の方向を指向するように太陽の動きに従って集光機構を移動させる太陽追尾機構を設けた太陽光集熱装置において、前記集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害された場合に、集光機構によって集光された太陽光の少なくとも一部が集熱管に照射されない位置まで集光機構を移動させる待避機構を設けたことを特徴とする太陽光集熱装置。
【請求項2】
集熱管の内部を流通する熱媒体への熱伝達が阻害されたことを、以下の(a)〜(d)のいずれか又は複数の組み合わせによって、検知するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の太陽光集熱装置。
(a)集熱管の表面温度が許容値を超えた場合
(b)熱媒体の温度が許容値を超えた場合
(c)熱媒体の圧力が許容値を超えた場合
(d)熱媒体の流量が許容値を超えて低下した場合

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127536(P2012−127536A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277088(P2010−277088)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【出願人】(504005781)株式会社日立プラントメカニクス (16)