説明

太陽熱温水装置及び造水システム

【課題】低価格で製造することができ、かつ軽量な太陽熱温水装置、及び、その太陽熱温水装置を加熱手段として利用した膜蒸留装置を含み低コストで設置が可能な造水システムを提供する。
【解決手段】太陽光を受光する受光部分、受光した太陽光を熱に変換しその熱を処理水に伝達する熱伝達部分、及び前記受光部分内又は前記受光部分と前記熱伝達部分間に設けられた気相を有し、前記受光部分が、太陽光の透過率が90%以上の樹脂から構成され、前記熱伝達部分が、光熱変換物質を含む樹脂からなることを特徴とする太陽熱温水装置、並びに、前記太陽熱温水装置により加熱された処理水を膜蒸留して淡水を回収する造水装置を有する造水システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光エネルギーを熱に変換して温水を製造する太陽熱温水装置に関する。本発明は、又、海水や汚水などから膜蒸留により淡水を製造する造水装置を含み、その加熱手段として前記太陽熱温水装置を用いる造水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
石油、石炭、天然ガス等の化石資源由来の利用による地球温暖化が問題となっている。地球温暖化のような環境問題の有力な解決手段として、太陽光を含む循環型再生可能エネルギーの利用が検討されている。
【0003】
太陽光エネルギーの利用方法としては、太陽光エネルギーを電気に変換する太陽電池、太陽光エネルギーを熱に変換して水を加熱し温水を製造する太陽熱温水装置等が提案されている。しかし、太陽電池は、得られる電気エネルギーに比べ高価であり、設備の費用対効果が普及の妨げになっている。又、太陽熱温水装置は温水を得るものであり電気エネルギーに比べてその利用範囲が限定される。そして、この限定された利用範囲を考慮すると設備コストの高さが問題となりやすく、政府による助成金無しでは普及が進みにくいと言われている。
【0004】
このような太陽熱温水装置の用途として、膜蒸留を利用した造水装置における処理水の加熱が提案されている。膜蒸留は、塩分等を含む処理水を加熱して塩分等は透過しないが水蒸気は透過する疎水性多孔質膜の一方の面に接触させ膜を透過してくる水蒸気を他方の面から回収し淡水を得る方法であり、例えば特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0005】
膜蒸留は、海水、生活排水、毒性のある成分を含む井戸水等の汚水(処理水)から、利用可能な状態の水を分離回収するための造水技術として注目されているが、処理水を加熱して発生させた水蒸気を冷却し凝結させて回収する蒸発法に比べ、処理水の加熱はより低温でよく、例えば80℃以下の加熱でも可能な場合がある。太陽光エネルギーによる加熱は蒸発法でも利用されている(特許文献3)が、膜蒸留での加熱はより低温でよい。そこで、太陽熱温水装置の利用も蒸発法での利用に比べはるかに容易であり、例えば特許文献1で太陽光エネルギーを処理水の加熱手段として用いたシステムが提案されている。
【0006】
又、前記の加熱手段としての利用が考えられる太陽熱温水装置は、太陽熱温水器として広く普及しており、例えば非特許文献1等に記載されている。図3は、非特許文献1に記載されている太陽熱温水装置を模式的に表す図であるが、この太陽熱温水装置は、ガラス板よりなる受光部分、空気層、内部に水路が設けられ表面が黒色のステンレス板からなる熱伝達部分、及び発砲スチロール製の基礎部を有し、受光部分から入射した太陽光は、黒色のステンレス板に照射されて熱に変換され水路中の水を加熱する。発砲スチロール製の基礎部は、受光部分及び熱伝達部分を支えるとともに、熱伝達部分に蓄積した熱の装置の裏面からの放熱を防ぐ保温のために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−1143号公報(請求項1、図1)
【特許文献2】特表2003−519001号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2000−325945号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】金山公夫、馬場弘共著、「ソーラーエネルギー利用技術」、森北出版(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような太陽熱温水装置は、ステンレス等の金属の管又はプレス加工した板を用いて水路を設けた構造を有し、この水路を移動する水が太陽光で熱せられた金属から熱を受け取り温水となる。水路を形成する金属には、水存在下でも酸化劣化(錆の発生)しないための防錆性が必要であり、ステンレスやチタン合金等の高価な材料が必要であった。従って、従来の太陽熱温水装置や太陽光利用設備は高価であり、その利用価値がコストパフォーマンスに見合うような低価格になっていないとの問題が指摘されていた。
【0010】
一方、海水や汚染された井戸水等からの膜蒸留による淡水の回収は途上国で潜在需要が多いと考えられる。しかし、特に途上国では、太陽光利用設備やそれを利用した造水システムの高い価格は利用の妨げとなる。そこで、より低コストで製造可能な太陽熱温水装置の開発が望まれていた。
【0011】
又、従来の太陽熱温水装置は重いため、設置箇所が限られかつ設置のためのコストが高いとの問題があり、これも普及を妨げる要因の一つになっている。
【0012】
本発明は、低価格で製造することができ、かつ軽量な太陽熱温水装置を提供することを課題とする。本発明は、又、その太陽熱温水装置を加熱手段として利用した膜蒸留装置を含み低コストで設置が可能な造水システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、従来技術の上記の問題点に鑑み鋭意検討をした結果、
受光部分を、光透過性の樹脂から構成し、
熱伝達部分を、光熱変換物質を含む樹脂から構成し、かつ
前記受光部分内又は前記受光部分と前記熱伝達部分間に、気泡や気層等の気相を設けることにより、低価格で製造することができかつ軽量な太陽熱温水装置が得られることを見出し本発明に至った。以下にその詳細について述べる。
【0014】
請求項1に記載の発明は、
太陽光を受光する受光部分、
受光した太陽光を熱に変換しその熱を処理水に伝達する熱伝達部分、及び
前記受光部分内又は前記受光部分と前記熱伝達部分間に設けられた気相を有し、
前記受光部分が、光透過性の樹脂から構成され、
前記熱伝達部分が、光熱変換物質を含む樹脂からなることを特徴とする太陽熱温水装置である。
【0015】
この発明の太陽熱温水装置は、太陽光のエネルギーを熱に変換して水を含む加熱液体を生成する装置であり、受光部分及び熱伝達部分を有し、通常さらに前記のような基礎部分を有する点では、従来の太陽熱温水装置と同様である。しかしこの発明の太陽熱温水装置は、前記受光部分が、光透過性の樹脂から構成されることを特徴の一つとする。
【0016】
受光部分を構成する樹脂は、従来の太陽熱温水装置におけるガラスの機能を備えるものであるが、ガラス等よりも軽量でありかつ破損しにくい。その結果、装置そのものを軽量にしかつ破損しにくくすることができる。
【0017】
又、この発明の太陽熱温水装置は、受光部分内又は受光部分と前記熱伝達部分間に気相が設けられていることを特徴とする。この気相は、従来の太陽熱温水装置におけるガラスと金属の受光部分との間に設けられた空気層の機能、すなわち光を通すが熱を外部に逃がさない役割を果たすものである。従って、気相が設けられることにより、受光部分からの放熱を抑制し、太陽光エネルギーの熱への変換効率を高めることができる。
【0018】
受光部分は、気相の空気を周囲環境から遮断する役割と同時に、太陽光が熱に変換される熱伝達部まで太陽光を透過させる役割を担う。受光部分を構成する樹脂は、光透過性の樹脂である。光透過性の樹脂とは、太陽光の主成分である波長360〜830nmの光の透過率が高い樹脂を言う。
【0019】
光透過性の樹脂に求められる光の透過率は、樹脂の厚みにより変動し特に限定されないが、波長360〜830nmの光が受光部分を50%以上透過するように、光透過性の樹脂の種類(材質)及び樹脂の厚みを選択することが望ましい。この要請を満たす光透過性の樹脂としては、光を散乱や吸収するフィラー等の混合物が少ない、単独成分の樹脂又は屈折率の差が少ない複数の樹脂成分が混合された樹脂等を挙げることができる。受光部分が光透過性の樹脂からなるので、樹脂を透過するときに失われる熱変換エネルギー(熱に変換することが可能な太陽光のエネルギー)は小さく、実用上ほとんど問題とならない。
【0020】
受光部分を構成する光透過性の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン樹脂等を挙げることができる。太陽光の透過性が高い点ではポリメチルメタクリレートやポリカーボネート、環状ポリオレフィン等も適しているが、本発明の目的からより安価で汎用性の高いポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が好適に用いられる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記気相が、前記受光部分内に設けられた気泡からなることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱温水装置である。
【0022】
光を通すが熱を外部に逃がさない役割を果たす気相としては、受光部分を構成する樹脂中に分散された気泡を挙げることができる。樹脂中の気泡の含有量や、気泡の大きさ、形状等は特に限定されないが、これらの条件により、保温性や太陽光の乱反射による透過率の低下が影響される。そこで、充分な保温性及び太陽光の透過率が得られるように、これらの条件が選択される。
【0023】
具体的には、受光側(装置の外表面側)に大きな気泡を配置し、熱伝達部分側に近くなるに従って気泡の大きさを小さくして配置する方法を好ましい態様として挙げることができる。通常の場合、気泡の径は、受光側では数100μm〜数mm程度、熱伝達部分に最も近いところでは径数10μm程度が好ましいが、例えば平均1mmの気泡のみで構成しても構わない。
【0024】
請求項3に記載の発明は、前記気相が、前記受光部分と前記熱伝達部分間に設けられた気層であることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱温水装置である。光を通すが熱を外部に逃がさない役割を果たす気相としては、樹脂中の気泡の代わりに、気泡を1つに合体して層状とし受光部分と熱伝達部分の間に配置しても良い。この太陽熱温水装置は、気泡を分散する態様に比べて、太陽熱の吸収性・保持性には劣るものの、非常に簡便で低コストで製造できるため、太陽光の受光面積を大きく取れる場合は好適である。
【0025】
請求項4に記載の発明は、前記受光部分が管状を成し、前記熱伝達部分は、前記受光部分の内腔内に設けられて、前記受光部分の内径よりも小さい外径を有する管状を成し、前記気層は、前記受光部分と前記熱伝達部分間の隙間であり、及び前記熱伝達部分の内腔が、前記処理水の水路であることを特徴とする請求項3に記載の太陽熱温水装置である。例えば、受光部分及び熱伝達部分を管状とし、受光部分の管の内腔に受光部分の内径よりも小さい外径を有する管である熱伝達部分を設け、前記受光部分と前記熱伝達部分の両管の隙間の気層を気相とし、前記熱伝達部分の管の内腔を前記処理水の水路とした太陽熱温水装置を作成できる。この装置は、受光部分と熱伝達部分の間に気層を設ける態様の中でも、より簡便で低コストで製造できるため好適である。
【0026】
より簡便で低コストで製造できる態様としては、管状の熱伝達部分を複数並べた上に、シート状の受光部分を広げて被せた構造も挙げることができる。この構造では、管状の熱伝達部分とシート状の受光部分の間の空間(気層)が気相となる。
【0027】
請求項1の発明の太陽熱温水装置は、前記熱伝達部分が光熱変換物質を含む樹脂から構成されることもその特徴の一つとする。
【0028】
前記のように従来の太陽熱温水装置では、熱伝達部分では、ステンレスやチタン合金等の防錆性に優れた金属が用いられ、この金属の管又はプレス加工した板を用いて熱せられる水が流れる水路を形成していた。熱伝達部分を構成する材料には、耐酸化劣化性(防錆性)に優れるとともに優れた熱伝達率や機械的強度が求められる。ステンレスやチタン合金等の金属は、防錆性、熱伝達率、機械的強度に優れ又形状の加工もし易いが、高価であり又重いものであった。本発明では、この金属の代わりに、軽量な樹脂が用いられ、この樹脂により水路を形成するので、装置全体もより軽量で設置しやすいものとすることができる。
【0029】
請求項5に記載の発明は、前記光熱変換物質を含む樹脂が、架橋ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の太陽熱温水装置である。前記光熱変換物質を含む樹脂としては、架橋された熱可塑性樹脂、特に架橋ポリオレフィン樹脂が好ましい。架橋ポリオレフィン樹脂は、熱可塑性のポリオレフィン樹脂を電子線照射や化学架橋剤等により架橋して得られるものであり、ステンレスやチタン合金等の金属と比較してはるかに安価である。本発明は、高価な金属に代わって安価な架橋ポリオレフィン樹脂を利用することで太陽熱温水装置の設備コストを大幅に下げることを特徴としている。
【0030】
熱可塑性のポリオレフィン樹脂は、成形が容易であり、従って、水路を有する熱伝達部分の形状に容易に加工できる。又、形状の加工後、電子線照射等による架橋を施すことにより、優れた機械的強度を得ることができる。そして、架橋ポリオレフィン樹脂は水中酸素等によりほとんど酸化されず、ステンレスやチタン合金等の金属と比べても優れた耐熱性や耐酸化劣化性を有する。
【0031】
さらに、架橋ポリオレフィン樹脂は、ステンレスやチタン合金等の金属と比較してはるかに軽量である。重い金属に代わって軽い架橋ポリオレフィン樹脂を利用することで太陽熱温水装置の重量を大幅に下げることができる。すなわち、ステンレスで約8、比較的軽いアルミニウムでも3ある比重が、ポリオレフィンは1前後であるので、同じ形状であれば7〜8割も軽くなる。その結果、設置可能な範囲が広がり又設置のコストを低減することができる。
【0032】
熱伝達部分を構成する樹脂が、光熱変換物質を含むことにより、太陽光の熱変換及び処理水に熱を伝達する効率を高めることができる。
【0033】
光熱変換物質とは、光エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換する物質であり、例えば、炭素(カーボン:黒鉛等)の粉、炭素の繊維、金属の粉、金属の繊維を挙げることができる。樹脂の熱伝達率は金属より悪く、例えば架橋ポリオレフィン樹脂の熱伝達率は金属より2桁以上悪いが、樹脂に光熱変換物質を含ませることにより、光エネルギーを効率よく熱に変換することができるので、処理水の加熱の効率も、従来の金属からなる熱伝達部分の場合に近いものとすることができる。
【0034】
請求項6に記載の発明は、架橋ポリオレフィンが電子線架橋されたポリエチレンであることを特徴とする請求項5に記載の太陽熱温水装置である。
【0035】
架橋ポリオレフィン樹脂の原料となるオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの他に、非晶性で透明性に優れる環状オレフィン系の樹脂(例えば、Topas Advanced Polymers GmbH社製の商品名TOPAS)等を挙げることができる。中でもポリエチレンは、結晶性のために透明性が劣るものの安価であり、特に低密度及び中密度ポリエチレンは柔軟で、曲げや形状変化が容易であるので好ましく用いられる。本発明の太陽熱温水装置では、このようなポリエチレンを電子線照射により架橋されたものが好ましく用いられる。
【0036】
電子線架橋されたポリエチレンは、他の用途であるが床暖房システムにおける給湯パイプとして利用されており、80℃の熱水を供給する配管として50年保証を実現していることからも、優れた耐久性を有すると言える。
【0037】
請求項7に記載の発明は、前記光熱変換物質が、炭素であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の太陽熱温水装置である。
【0038】
前記例示の光熱変換物質の中でも、炭素は、熱伝達効率や熱吸収・熱変換効率が優れるので好ましい。特に炭素繊維は、低い配合量で熱伝達効率や熱吸収・熱変換効率を高めることが可能である。従って、配合による架橋ポリオレフィンの強度低下を小さくすることができるので、本発明において好適である。さらに炭素はラジカル吸収剤としての役割もあるため、架橋ポリオレフィンの劣化を防止し、耐久性を飛躍的に向上させる効果を持っている点でも好ましい。炭素を含むことにより、光熱変換物質を含む樹脂は、黒色の樹脂となる。
【0039】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の太陽熱温水装置、及び前記太陽熱温水装置により加熱された処理水を膜蒸留して淡水を回収する造水装置を有することを特徴とする造水システムである。
【0040】
前記のように、膜蒸留は、塩分等を含む処理水を加熱して、塩分等は透過しないが水蒸気は透過する疎水性多孔質膜の一方の面に接触させ、膜を透過してくる水蒸気を他方の面から回収し淡水を得る方法である。本発明の太陽熱温水装置は、この膜蒸留における処理水の加熱手段として好適に用いることができる。
【0041】
すなわち、本発明の太陽熱温水装置は、軽くて取り扱いおよびメンテナンスが容易でかつ安価であるので、これを利用した本発明の造水システムは、初期投資および運転コストが小さいという膜蒸留による造水の長所をより活かすことが可能である。
【0042】
なお、本発明の太陽熱温水装置は、膜蒸留による造水システムの加熱装置として特に利用価値が高いものであるがこの利用に限定されない。風呂等の生活用水としての温水の製造等、通常の太陽熱温水器と同様な用途にも利用可能である。例えば、柔軟で曲げや形状変化が容易な材料を用いることにより、耐荷重の低い屋根でも設置できる太陽熱温水器、普段は折りたたんで収納し使用時にはベランダの桟に布団を干すように太陽にかざす太陽熱温水器としての利用も可能である。
【発明の効果】
【0043】
本発明の太陽熱温水装置は、従来の太陽熱温水装置と同様の耐久性や太陽エネルギーの変換効率を有し、又その製造も容易であるが、さらに、従来の太陽熱温水装置と比べて低価格で製造することができ、かつ軽量である。従って、この太陽熱温水装置を加熱手段として利用した本発明の造水システムは、安価であり、途上国等での需要にも十分対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の太陽熱温水装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の造水システムの一例を示す斜視図である。
【図3】従来の太陽熱温水装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の太陽熱温水装置の他の例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の太陽熱温水装置の他の例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の太陽熱温水装置の他の例を模式的に示す図である。
【図7】実施例の太陽熱温水装置の平面図である。
【図8】実施例における水温の変化及び照度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
次に、本発明を実施するための形態を、図に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態へ変更することができる。
【0046】
図3は、従来の太陽熱温水装置の一例を模式的に示す断面図である。この太陽熱温水装置は、半強化ガラス板からなる受光部分と、ステンレスからなる熱伝達部分、その間の空気層(非特許文献1によると、ガラスとステンレスは1cm以上離すのが一般とある)と、これらを支える発泡スチロール製の基礎部よりなる。ステンレスからなる熱伝達部分中には、加熱される液体が通る被加熱水の水路が設けられている。ステンレスのガラス板側の表面には、太陽光を吸収するためカーボン等を含む黒色の塗料層が設けられることが多い。
【0047】
太陽光のエネルギーは、熱に変換され、この熱はステンレスにより伝達されて水路内の水を加熱する。ステンレスから発生した赤外線は、ガラス板により外部への放出が抑制され、さらに空気層でステンレスからの伝熱も防止されているため、熱放出による加熱効率の低下が防がれている。又、基礎部の発泡スチロールによっても外部への熱放出が抑制され、加熱効率の低下が防がれている。
【0048】
このように従来の太陽熱温水装置は、加熱効率には優れる。しかし、ガラス板を使用するので破損しやすく、又、ガラス板やステンレスを使用するので重い。さらに、ステンレスを使用するので高価である。
【0049】
図1(a)は、本発明の太陽熱温水装置の一例を模式的に示す断面図である。この太陽熱温水装置の受光部は、太陽光の透過率90%以上の透明な樹脂からなる。又、図に示すように、この透明な樹脂は気泡を含むので、装置内で発生した熱の外部への放熱は抑制されており、熱放出による加熱効率の低下が防がれている。
【0050】
図1(b)は、図1(a)の太陽熱温水装置の受光部を拡大して模式的に示す断面図である。図1(a)では受光部の気泡は模式的に示されその構造の詳細は示されていないが、実際は、図1(b)に示すように、受光側に大きな気泡を配置し、熱伝達部側に小さな気泡を配置している。このように気泡を配置することにより、受光の効率が高くなるとともに、装置内で発生した熱の外部への放熱も効率よく抑制することができる。
【0051】
図1(a)の太陽熱温水装置の熱伝達部分は、光熱変換物質を含む架橋ポリオレフィン樹脂から形成されており、光熱変換物質としては例えばカーボン繊維を用いることができる。受光した太陽光のエネルギーは光熱変換物質により熱に変換されるが、被加熱水の水路は、光熱変換物質が分散されている範囲に設けられているので、熱は効率よく被加熱水に伝達される。熱伝達部分の下には、基礎部が設けられているが、これは前記の従来の太陽熱温水装置の基礎部と同様な作用、機能を奏するものである。従って、例えば、発泡スチロール等により形成することができる。
【0052】
図2は、本発明の造水システムの一例を示す斜視図である。この造水システムによる淡水の製造を以下説明する。
【0053】
処理水、例えば海水や有害物質を含む井戸水等は人力等により汲み上げられて、原水貯留容器に入れられる。原水貯留容器に貯留されている処理水は、配管1を通って本発明の太陽熱温水装置に送られ加熱される。
【0054】
加熱された処理水は膜蒸留モジュールに送られ、膜蒸留により処理水中の水が凝結水(淡水)として回収される。回収された凝結水(淡水)は、配管3を通って淡水貯留容器に貯留され、適時、人力等により汲み上げられて利用される。使用される配管に、架橋ポリオレフィン樹脂からなる管を使用するとシステムを軽量化しやすく好ましい。
【0055】
図4は、本発明の太陽熱温水装置の他の一例を模式的に示す断面図である。この例は、パイプ状として、パイプの表面を受光部分としたものである。図4(a)は、パイプの横断面図であり、図4(b)は、パイプの縦断面図である。図より明らかなように、パイプの表面側に気泡を含む受光部分が設けられ、その内側に熱伝達部分が設けられ、その熱伝達部分の内部、パイプの中心に被加熱水の水路が設けられている。
【0056】
このパイプ状の太陽熱温水装置も、受光部分は気泡を含みかつ太陽光の透過率が90%以上の樹脂から構成され、熱伝達部分は光熱変換物質を含む架橋ポリオレフィン樹脂から構成されている。従って、安価、軽量であり、優れた熱変換効率を奏する。パイプ状の太陽熱温水装置を柔軟な樹脂により作製すると、取り扱いや設置が容易な太陽熱温水装置とすることができる。例えば、ゴムホースのように、普段は折りたたんで収納し、使用時にはベランダ上に這わせて配置するような太陽熱温水器とすることができる。このパイプ状の太陽熱温水装置の熱伝達部分を製造する具体例を以下に参考例として示す。
【0057】
参考例
プライムポリマー社製の直鎖状中密度ポリエチレン「ネオゼックス」または直鎖状低密度ポリエチレン「ウルトゼックス」を、内径5mm、外径6mmの管状となるように溶融押出成型した後、電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を300kGy照射することで電子線架橋ポリエチレン管を得る。この溶融押出時に、カーボンブラック(例えば三菱化学社製 導電性カーボンブラック等)や炭素繊維(三菱レイヨン社製「パイロフィル」等)を5〜30重量部数、樹脂ペレットと一緒に混合して溶融押出することで、太陽光熱変換性、熱伝導性に優れた電子線架橋ポリオレフィン管を得ることができる。
【0058】
図5は、本発明の太陽熱温水装置の他の一例を模式的に示す(横)断面図である。この例は、太陽熱温水装置をパイプ状として、パイプの表面側を受光部分とし、その内腔中に熱伝達部分が設けられている点では図4の例と同じである。又、熱伝達部分の内部、パイプの中心に被加熱水の水路が設けられている点でも図4の例と同じである。
【0059】
しかし図5より明らかなように、この例では、熱伝達部分の外径は受光部分の内径より小さく、受光部分と熱伝達部分の間の隙間にある気層を、気相としている。すなわち、この例は、請求項4の態様に該当する。この太陽熱温水装置も、受光部分は太陽光の透過率が90%以上の樹脂から構成され、熱伝達部分は光熱変換物質を含む樹脂から構成されている。従って、安価、軽量であり、優れた熱変換効率を奏する。又、前記のように、この太陽熱温水装置は、気泡を分散する態様に比べて、太陽熱の吸収性・保持性には劣るものの、非常に簡便で低コストで製造できるため、太陽光の受光面積を大きく取れる場合には好適に用いられる。
【0060】
図6は、本発明の太陽熱温水装置の他の一例を模式的に示す図であり、図6(a)は、その(横)断面図であり、図6(b)は斜視図である。この例の太陽熱温水装置は、管状の熱伝達部分を複数並べた上にシート状の受光部分を広げて被せた構造であり、熱伝達部分と受光部分の間には、気層(気相)が形成されている。この構造の場合は、気相を確保するための手段の設置が望まれるが、この例では、気相を確保するために、管状熱伝達部とシート状受光部の間に樹脂ネットが挿入されている。又、この構造は熱が逃げやすいとの問題があるが、この問題を防ぐためこの例では、背面(熱伝達部分の、受光部分に対する反対側)に熱が逃げるのを防止するために発泡性樹脂等の断熱層が設けられている。
【実施例】
【0061】
透明な内径8mm、外径11mmのナイロンチューブ(光透過性の樹脂)の管内に、内径4mm外径6mmのポリプロピレンチューブを挿入し、ナイロンチューブを受光部分、ポリプロピレンチューブを熱伝達部分、両管の隙間を気相としたチューブ状の太陽熱温水装置を作製した。なお、ポリプロピレンチューブは、ポリプロピレン中にカーボンブラックを配合した黒色のポリプロピレンチューブである。
【0062】
このチューブ状の太陽熱温水装置の全長12mを、図7に示すように平面にとぐろ状に巻き付けたものに、太陽光を照射し、ペリスタポンプにて水をポリプロピレンチューブ管内に流して、入力水温、出力水温、太陽光の照度を測定した。図8は2011年2月3日大阪市内で測定したデータ例である。水の流量は測定途中で4.4ml/分から9.5ml/分、17ml/分と2回変化させた。測定中の外気温は8〜15℃であり、入力水温も図8に示すように10〜17℃であったが、出力水温は、最高62℃、平均でも50℃を超える温度まで達し、入力水温と出力水温の温度差(昇温)も、最大46℃、平均36℃以上であった。
【0063】
なお、比較例として、前記の黒色ポリプロピレンチューブを、ナイロンチューブに挿入しない点以外は実施例と同様の条件での測定を行ったが、昇温5℃未満で出力水温は、30℃にも達しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を受光する受光部分、
受光した太陽光を熱に変換しその熱を処理水に伝達する熱伝達部分、及び
前記受光部分内又は前記受光部分と前記熱伝達部分間に設けられた気相を有し、
前記受光部分が、光透過性の樹脂から構成され、
前記熱伝達部分が、光熱変換物質を含む樹脂からなることを特徴とする太陽熱温水装置。
【請求項2】
前記気相が、前記受光部分内に設けられた気泡からなることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱温水装置。
【請求項3】
前記気相が、前記受光部分と前記熱伝達部分間に設けられた気層であることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱温水装置。
【請求項4】
前記受光部分が管状を成し、
前記熱伝達部分は、前記受光部分の内腔内に設けられて、前記受光部分の内径よりも小さい外径を有する管状を成し、
前記気層は、前記受光部分と前記熱伝達部分間の隙間であり、及び
前記熱伝達部分の内腔が、前記処理水の水路であることを特徴とする請求項3に記載の太陽熱温水装置。
【請求項5】
前記光熱変換物質を含む樹脂が、架橋ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の太陽熱温水装置。
【請求項6】
架橋ポリオレフィンが電子線架橋されたポリエチレンであることを特徴とする請求項5に記載の太陽熱温水装置。
【請求項7】
前記光熱変換物質が、炭素であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の太陽熱温水装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の太陽熱温水装置、及び前記太陽熱温水装置により加熱された処理水を膜蒸留して淡水を回収する造水装置を有することを特徴とする造水システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−145319(P2012−145319A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161735(P2011−161735)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】