説明

太陽電池および太陽電池装置

【課題】エネルギーの変換効率の向上を図り得る太陽電池を提供する。
【解決手段】金属電極2と、この金属電極2の表面に形成されたp型半導体基板3と、このp型半導体基板の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブ4と、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極5とを具備し、上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、これら各カーボンナノチューブに元素周期表の第5族の原子をドーピングしてn型半導体となし、さらに上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のチューブ列群4A,4Bを構成するチューブ列4b,4c;4e,4fに、強さが異なる磁力を付与する磁石体13a,13bをそれぞれ配置したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを用いた太陽電池およびこの太陽電池を用いた太陽電池装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、単結晶、多結晶、アモルファスシリコンからなるシリコン系のものが主流であり、住宅や事業所などに普及しつつあるが、エネルギーの変換効率が低いという欠点がある。エネルギーの変換効率が低い要因の一つして、通常の太陽電池は、バンドギャップが1つしかなく、バンドギャップ未満のエネルギーを有する長波長光線については光電変換できず、逆に、バンドギャップを超えるエネルギーを有する短波長光線については、バンドギャップ分のエネルギーしか光電変換できなかった。
【0003】
このような欠点に対処するものとして、2つ以上の異なるバンドギャップを有する太陽電池が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−197930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、エネルギーの変換効率を向上させるためには、特許文献1に示すように、2つ以上のバンドギャップを有するように、言い換えれば、バンドギャップを細かく調整することが考えられる。
【0006】
しかし、シリコン等の結晶を利用した半導体では、化合物半導体も含めて、元素の選択の仕方により、バンドギャップが固定されてしまい、任意のバンドギャップを得ることが困難であり、したがってエネルギーの変換効率の向上を図ることができなかった。また、タンデムタイプおよびそれ以上の重ね合わせタイプでは、上層の太陽電池が太陽光線を吸収および散乱させることになり、下部の太陽電池に必要な光が減衰してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、エネルギーの変換効率の向上を図り得る太陽電池およびこの太陽電池を用いた太陽電池装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る太陽電池は、金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、
上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したものである。
【0009】
また、請求項2に係る太陽電池は、金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置されるとともにn型半導体にされた透明電極とを具備し、
上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、これら各カーボンナノチューブに元素周期表の第3族の原子をドーピングしてp型半導体となし、
さらに上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したものである。
【0010】
また、請求項3に係る太陽電池は、金属電極と、この金属電極の表面に形成されたp型半導体層と、このp型半導体層の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、
上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、これら各カーボンナノチューブに元素周期表の第5族の原子をドーピングしてn型半導体となし、
さらに上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したものである。
【0011】
また、請求項4に係る太陽電池は、金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、
これら各カーボンナノチューブにおける透明電極側部分に元素周期表の第5族の原子をドーピングしてn型半導体にするとともに、金属電極側部分に元素周期表の第3族の原子をドーピングしてp型半導体となし、
さらに上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、
上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したものである。
【0012】
さらに、請求項5に係る太陽電池装置は、請求項1乃至4のいずれかに記載の太陽電池を用いた太陽電池装置であって、
太陽電池の透明電極の表面に、太陽光線を分光させる分光器を配置するとともに、この太陽電池における各カーボンナノチューブにて得られた電気を所定電圧に調整する電圧調整器を具備したものである。
【発明の効果】
【0013】
上記太陽電池および太陽電池装置の構成によると、金属電極と透明電極との間にカーボンナノチューブを配置するとともに、このカーボンナノチューブの直径を、段階的に変化させるようになし、さらにこのカーボンナノチューブに強さが異なる磁界を付与することにより、任意のバンドギャップを得るようにしたので、例えば太陽光線を分光させた際に、それぞれの波長に応じたバンドギャップを有するカーボンナノチューブを配置することができる。したがって、太陽光線の広範囲の波長領域に亘って光電変換を行うことができるので、エネルギーの変換効率が優れた、すなわち光電変換効率が優れた太陽電池および太陽電池装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る太陽電池および太陽電池装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】同太陽電池の製造方法を説明する斜視図である。
【図3】同太陽電池における光電変換効率を説明するグラフで、(a)は本実施の形態に係るものを示し、(b)は従来例に係るタンデム型のものを示す。
【図4】本発明の実施例に係る太陽電池の概略構成を示す斜視図である。
【図5】同実施例の変形例に係る太陽電池の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る太陽電池およびこの太陽電池を用いた太陽電池装置を具体的に示した実施例に基づき説明する。
本実施例に係る太陽電池の基本的な構成は、金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させたものである。
【0016】
この基本的な構成をもう少し詳しく説明すると、一対の電極同士間にn型半導体およびp型半導体が配置されるとともに、これら両半導体のうち、少なくとも、一方の半導体をカーボンナノチューブ(CNT)で構成したもので、またこのカーボンナノチューブについては、電極表面に対して垂直(所謂、垂直配向である)に且つ多数(ここでは、3つ以上であり、言い方によっては、「3つ以上の複数」ということもできる)並列に設けられたもので、例えば多数領域に且つ列状に分けられるとともにこれら各領域毎にその直径が段階的に変化され、さらに直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界(磁束、磁力とも言い換えることができる)を付与するようにしたものである。なお、「少なくとも一方の半導体をカーボンナノチューブで構成した」という意味は、一方の電極を半導体にまたは一方の電極側に半導体層を形成するとともに、カーボンナノチューブを半導体にする構成、およびカーボンナノチューブ自体にn型半導体とp型半導体とを形成する構成を考慮したものである。
【0017】
具体的には、多数のカーボンナノチューブからなる小領域(以下、チューブ列ともいう)が6つ(少なくとも、3つ以上であればよい)並列に設けられる(以下、「並置される」ともいう)とともに、これらカーボンナノチューブの直径を段階的に、すなわち3つのチューブ列からなる大領域[以下、チューブ列群(カーボンナノチューブ群)ともいう]毎に段階にて変化させたもので、したがって太いチューブ列群と細いチューブ列群とが設けられている。
【0018】
そして、上記各チューブ列におけるカーボンナノチューブの上下端面に、電極が形成されるとともに、所定のチューブ列に磁界を付与するようにしたものである。すなわち、一方の電極側に磁石体を配置して、所定のチューブ列におけるカーボンナノチューブに磁界を与えるようにしたものである。
【0019】
ところで、上述したカーボンナノチューブの形成方向である「垂直」には、当然ながら許容範囲があり、カーボンナノチューブの根元と先端とを結ぶ直線が、電極表面の垂線に対して、例えば90°±10°の範囲内であればよい。この意味では、「略垂直」と言い換えることもできる。
【0020】
ここで、上記基本的構成に係る太陽電池の製造方法を、図1および図2に基づき説明する。
まず、図1に基づき太陽電池の具体的な構成について説明しておく。
【0021】
この太陽電池1は、ステンレス(SUS:JIS記号)などよりなる対向電極としての金属電極2と、この金属電極2の表面(上面)に配置されるとともにシリコン(Si)よりなる基板に元素周期表の第3族の原子であるボロン(B)がドーピングされてなるp型半導体基板(p型半導体層)3と、このp型半導体基板3の表面(上面)に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブ4と、これら各カーボンナノチューブ4の上面に配置された透明電極(FTO,ZnO,ITO,FTO/ITO,GZO,AZOなどが用いられる)5とを具備し、上記並置されたカーボンナノチューブ4の直径を、太いものと細いものとの2段階に変化させるとともに、これら各カーボンナノチューブ4に元素周期表の第5族の原子であるリン(P)をドーピングしてn型半導体にしたものである。なお、カーボンナノチューブ4は、6列にて並置されるとともに、さらにその直径が2段階でもって変化されているため、以下の説明においては、各列のカーボンナノチューブ4をチューブ列(4a〜4f)と称するとともに、直径が同一である複数のチューブ列、ここでは3つのチューブ列(4a〜4c,4d〜4f)をチューブ列群(4A,4B)と称して説明する。
【0022】
そして、上記太陽電池1に太陽光線を、カーボンナノチューブ4のチューブ列(4a〜4f)に応じてすなわち6つの波長領域に分光して導くためのプリズムなどの分光器(分光素子と呼ぶこともできる)12と、当該太陽電池1における透明電極5とは反対側の金属電極2の下面に配置されてカーボンナノチューブ4に所定の磁界を付与するための複数の磁石体13と、太陽電池1の各チューブ列(4a〜4f)により得られた電気を電気配線14を介して導き所定電圧に調整するための電圧調整器(電圧出力回路でもある)15とを具備することで、太陽電池装置11が構成されており、その詳細については後述する。なお、分光器12の手前には、太陽光線を集める集光用レンズ部16が配置される。
【0023】
ところで、この集光用レンズ部16としては、例えば、径の大きさが異なるシリンドリカルレンズが用いられている。すなわち、この集光用レンズ部16は、径が大きい第1シリンドリカルレンズ16aと径が小さい第2シリンドリカルレンズ16bとから構成され、互いの設置間隔Lは、第1シリンドリカルレンズ16aの焦点距離f1と第2シリンドリカルレンズ16bの焦点距離f2とを合わせた距離(L=f1+f2)にされている。したがって、第1シリンドリカルレンズ16aに平行な太陽光線が入射されると、太陽光線は一度焦点を結んだ後、第2シリンドリカルレンズ16bに入射して再び平行光線で出射することになる。このとき、出射した太陽光線である平行光線の幅はf2/f1に縮小されている。なお、この出射した平行光線の幅はできるだけ狭い(細い)ほうがよい。
【0024】
そして、この平行光線を分光器12により、分光光線として太陽電池1(正確には透明電極5上)に入射させる。また、分光器12と太陽電池1との距離は、第1シリンドリカルレンズ16aより、太陽電池1の大きさが小さくて済むような距離にすることが望ましい。なお、集光用レンズ部16は、シリンドリカルレンズを平面上に複数配置することで、太陽光線を無駄なく太陽電池1側に導くことができるが、レンズの形状についてはこれに限定されず、円形レンズであってもよい。
【0025】
ところで、上記磁石体13は、カーボンナノチューブ4における各チューブ列(4a〜4f)毎に、そのバンドギャップを変化させるために設けられるもので、上述したように、磁界が付与されないものと、強さが異なる磁界すなわち磁力が付与されるものとがある。例えば、磁石体13は、チューブ列群(4A,4B)に対して、チューブ列の個数から1を引いた個数だけ配置される。
【0026】
すなわち、図4に示すように、左側チューブ列群4Aの一端側のチューブ列4aには、磁石体が配置されず、その他端寄りの中間のチューブ列4bには磁力が弱い磁石体13aが配置され、さらに他端側の右側のチューブ列4cには、磁力が強い磁石体13bが配置されている。そして、右側チューブ列群4Bの一端側のチューブ列4dには、磁石体が配置されず、その他端寄りの中間のチューブ列4eには磁力が弱い磁石体13aが配置され、さらに他端側の右側チューブ列4eには、磁力が強い磁石体13bが配置されている。なお、チューブ列群に配置される2つの磁石体の強さについては、各チューブ列郡毎において同じ強さもの(つまり2種類の磁石体)を配置してもよく、また各チューブ列毎に異なるものであってもよい[この場合、4種類の強さが異なる磁石体が配置される(2種類×2(チューブ列群の数)=4種類)]。
【0027】
これにより、例えば左端のチューブ列4aから右端のチューブ列4fのバンドギャップが、順番に、大きくなるようにされている。つまり、6つの異なる波長に対応するカーボンナノチューブ4を列状に配置することができる。
【0028】
ここで、上述したチューブ列(4a〜4f)に対する具体的な数値、すなわち太陽光線の波長と、バンドギャップと、カーボンナノチューブの直径との関係を、下記の表1に示す。
【0029】
【表1】

この表1から、例えば磁界なしのS1遷移時直径が0.774nmのカーボンナノチューブに、例えば磁束量子[φ=c×h/e,但し、cは光速、hはプランク定数、eは電荷を表わす]の0.75倍または0.85倍の磁界を付与すると、バンドギャップは約1.25倍または1.5倍となり、直径を細くすることなく、つまり太くした状態で、短い波長のバンドギャップに対応させることができる。すなわち、カーボンナノチューブの製作が容易となる。
【0030】
次に、図2に基づき、上記太陽電池1の要部であるカーボンナノチューブの部分を主体とした太陽電池の製造方法を概略的に説明しておく。
まず、図2(a)に示すように、板状のステンレス(SUS)などからなる金属電極2の表面に配置されたp型半導体基板3の表面に、スパッタリング法などにより触媒としての金属[例えば、鉄(Fe)]の薄膜を形成した後、電子ビームなどにより縦横に切れ目を入れるとともにこの切れ目を入れる際の間隔を調整して触媒微粒子10(10a〜10f)をチューブ列(4a〜4f)に対応して形成する。この鉄の触媒微粒子(10a〜10f)については、各チューブ列群4A,4B毎の直径に応じた大きさにされている。例えば、図面の左側3列10A(10a〜10c)には直径が大きいものが、また右側の3列10B(10d〜10f)には直径が小さいものが配置される。すなわち、左側の触媒微粒子10Aの直径が大きくされて、右側の触媒微粒子10Bの直径が小さくされている。
【0031】
なお、触媒微粒子10をカーボンナノチューブ4の直径に応じた大きさにする方法として、スパッタリングなどの方法により形成する薄膜の厚みを左側から右側に行くにしたがって薄くしてもよい。スパッタリングを用いる場合は、スパッタ条件(スパッタ時間・スパッタ源と薄膜形成面との距離)により薄膜の厚みを変えることができる。また、スパッタ源と薄膜形成面との距離を連続的に変えることにより、薄膜の厚みを連続的に変化させることができるため、やはり、カーボンナノチューブ4の直径を連続的に変化させることができる。
【0032】
次に、図2(b)に示すように、熱CVD法により、鉄の触媒微粒子10(10a〜10f)上にカーボンナノチューブ4(4a〜4f)を形成する。このとき、触媒微粒子10の大きさに応じて、その上面に形成されるカーボンナノチューブ4の直径つまり太さが決まる。
【0033】
次に、図2(c)に示すように、カーボンナノチューブ4(4a〜4f)に元素周期表の第3族の原子をドーピングする(なお、CVD時に第3族の原子を含むガスを微量に混ぜて成長させるようにしてもよい)。
【0034】
次に、図2(d)に示すように、電極境界部分にマスクをして、各チューブ列4(4a〜4f)の上面に透明電極5をPVD法により形成する。
ここで、熱CVD法について、少し具体的に説明しておく。
【0035】
すなわち、p型半導体基板3の表面に鉄の触媒微粒子10を形成し、この触媒微粒子を核として高温雰囲気下で原料ガスを導きカーボンナノチューブを成長させる。なお、触媒微粒子としては、Feの代わりに、Ni、Coなどを用いてもよい。
【0036】
具体的には、これらの金属またはその錯体等の化合物の溶液をスプレーや刷毛でp型半導体基板3に塗布し、またはクラスター銃でp型半導体基板3に打ち付けた後、乾燥させ、必要であれば加熱して皮膜を形成する。
【0037】
皮膜の厚みは、厚過ぎると加熱による粒子化が困難になるので、好ましくは1〜100nmの範囲とされる。
次に、この皮膜を、好ましくは減圧下または非酸化雰囲気中にて、650〜800℃の範囲で加熱すると、直径1〜50nm程度の鉄の触媒微粒子が形成される。カーボンナノチューブの原料ガスとしては、アセチレン、メタン、エチレンなどの脂肪族炭化水素を使用することができ、特に、アセチレンが好ましい。アセチレンの場合、単層から多層構造で太さ0.4〜38nmのカーボンナノチューブが鉄の触媒微粒子を核として透明電極上にブラシ状に形成される。カーボンナノチューブの形成温度は、好ましくは650〜800℃の範囲で、また熱CVD法による形成時間は1〜30分の範囲である。
【0038】
また、透明電極5を形成するPVD法としては、真空蒸着法またはスパッタリング法が用いられる。
次に、太陽電池1を用いた太陽電池装置11について説明する。
【0039】
すなわち、図1に示すように、太陽電池1の各チューブ列(4a〜4f)に太陽光線の分光が照射されるように、分光器(分光素子でもある)12を配置し、分光された光線が、それぞれの波長に対応するチューブ列(4a〜4f)の透明電極5上に導かれるようにする。
【0040】
そして、各透明電極5に電気配線14を介して電圧調整器15が接続されて、所定の電圧が得られるようにされている。なお、この電圧調整器15は、チューブ列(4a〜4f)に電気配線14を介して接続されたDC/DCコンバータ17と、これらDC/DCコンバータ17に電気配線18を介して接続された電力加算部19とから構成されて、所定電圧の電力が出力される。なお、DC/DCコンバータ17は、各チューブ列(4a〜4f)から取り出される電圧が同一(所定電圧)となるように調整(変換)するためのものである。
【0041】
ここで、カーボンナノチューブ4の直径が異なる場合の光電変換能力、すなわちエネルギーのバンドギャップについて説明しておく。
カーボンナノチューブの直径が異なると、それぞれのバンドギャップの値が異なり、したがって分光された太陽光線が持っているエネルギーhνと等しいバンドギャップを持った直径のカーボンナノチューブをp型またはn型半導体として作っておけばよい。
【0042】
すなわち、バンドギャップの異なるカーボンナノチューブ(バンドギャップがEg〜Eg、但し、Egn−1<Eg)がn個ある場合、Egより小さくEg以上のエネルギーをもった光はバンドギャップEgの太陽電池で受光されて光電変換が行われる。また、Egより小さくEg以上のエネルギーをもった光については、バンドギャップEgの太陽電池で受光されて光電変換が行われる。以下、同様に、バンドギャップEgを越え、紫外線までの最大エネルギーを有する光については、Egのバンドギャップを持った太陽電池で受光して光電変換が行われる。
【0043】
そして、さらに所定のバンドギャップを有するカーボンナノチューブに磁界を付与することにより、上述したように、バンドギャップの値を大きくすることができる。すなわち、同じ直径を有するカーボンナノチューブに、強さが異なる磁界を付与することにより、それぞれのバンドギャップの値を変更させる、つまり調整し得ることになる。
【0044】
このような構成の太陽電池を用いることにより、光電変換し得るエネルギー量を図示すると、図3(a)のグラフのようになる。なお、比較例として、従来技術であるタンデム型の太陽電池の場合を(b)に示しておく。これらのグラフから、カーボンナノチューブの直径を段階的に変化させるとともに強さが異なる磁界を付与することにより得られる、つまり光電変換し得るエネルギー量が格段に優れていることが分かる。
【0045】
すなわち、この太陽電池の構成によると、透明電極と金属電極との間にカーボンナノチューブを配置するとともに、このカーボンナノチューブの直径を、段階的に変化させるようになし、さらにこのカーボンナノチューブに強さが異なる磁界を付与することにより、任意のバンドギャップを得るようにしたので、言い換えれば、カーボンナノチューブのバンドギャップの値を細かく調整することができるので、例えば太陽光線を分光させた際に、それぞれの波長に応じたバンドギャップを有するカーボンナノチューブを配置することができる。したがって、太陽光線の広範囲の波長領域に亘って光電変換を行うことができるので、エネルギーの変換効率が優れた、すなわち光電変換効率が優れた太陽電池および太陽電池装置を提供することができる。
【0046】
なお、上記太陽電池装置においては、一つの太陽電池を用いた構成として説明したが、勿論、上記太陽電池を多数設けることにより、大きい発電電力が得られることは言うまでもない。この場合、電圧調整器を例えば一つに纏めることもできる。
【0047】
また、上記説明においては、カーボンナノチューブの直径を触媒微粒子の大きさにより調整するようにしたが、例えば熱CVD法による形成時間を調節するようにしても、その直径を制御することができる。
【0048】
ところで、上記実施例においては、直径が異なるチューブ列群を2つ設けた太陽電池について説明したが、直径が異なるチューブ列群を3つ以上設けることもできる。
ここで、カーボンナノチューブのチューブ列群を5つ設けた場合について説明しておく。
【0049】
図5に示すように、この太陽電池21は、3つの同一直径からなるチューブ列(4a〜4c,4d〜4f,4g〜4i,4j〜4l,4m〜4o)をチューブ列群(4A〜4E)毎に直径が異なるように配置したものである。
【0050】
そして、これら各チューブ列群(4A〜4E)の下方においても、上述した実施例と同様に、磁界が付与されないもの、つまり磁石体が配置されない場合と、磁力が弱い磁石体13(13a)と、磁力が強い磁石体13(13a)とが配置されている。
【0051】
すなわち、各チューブ列群(4A〜4E)における各チューブ列(4a〜4c,4d〜4f,4g〜4i,4j〜4l,4m〜4o)に対して、3段階にて磁界が付与されたことになる。
【0052】
したがって、磁界(磁力)の強さが3種類(磁界がない場合を含む)×カーボンナノチューブの直径が5種類=15種類のバンドギャップが、例えば小さいものから大きいものの順番に配置されたことになる。
【0053】
ところで、上記実施例においては、金属電極の表面に形成されたp型半導体基板とn型半導体にされたカーボンナノチューブとでpn接合を構成したが、例えば透明電極をn型半導体にするとともにカーボンナノチューブをp型半導体にしてよい。
【0054】
この場合の太陽電池は、金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置されるとともにn型半導体にされた透明電極とを具備し、
上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、これら各カーボンナノチューブに元素周期表の第3族の原子をドーピングしてp型半導体となし、
さらに上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したものである。
【0055】
また、カーボンナノチューブを上下に分けて、透明電極側部分をn型半導体にするとともに、金属電極側部分をp型半導体にしてもよい。
この場合の太陽電池は、金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、
これら各カーボンナノチューブにおける透明電極側部分に元素周期表の第5族の原子をドーピングしてn型半導体にするとともに、金属電極側部分に元素周期表の第3族の原子をドーピングしてp型半導体となし、
さらに上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、
上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したものである。
【0056】
なお、上記説明においては、同一直径のカーボンナノチューブ群毎に、強さが異なる磁界を付与するように構成したが、例えば複数のカーボンナノチューブ群を全て同一直径にするとともに、各カーボンナノチューブ群毎に、強さが異なる磁界を付与することもできる。
【符号の説明】
【0057】
1 太陽電池
2 金属電極
3 p型半導体基板
4 カーボンナノチューブ
5 透明電極
11 太陽電池装置
12 分光器
14 出力調整器
17 DC/DCコンバータ
21 太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、
上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したことを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置されるとともにn型半導体にされた透明電極とを具備し、
上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、これら各カーボンナノチューブに元素周期表の第3族の原子をドーピングしてp型半導体となし、
さらに上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したことを特徴とする太陽電池。
【請求項3】
金属電極と、この金属電極の表面に形成されたp型半導体層と、このp型半導体層の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、
上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、これら各カーボンナノチューブに元素周期表の第5族の原子をドーピングしてn型半導体となし、
さらに上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したことを特徴とする太陽電池。
【請求項4】
金属電極と、この金属電極の表面に且つ当該表面に垂直に複数並置されたカーボンナノチューブと、これら各カーボンナノチューブの金属電極とは反対側に配置された透明電極とを具備し、
これら各カーボンナノチューブにおける透明電極側部分に元素周期表の第5族の原子をドーピングしてn型半導体にするとともに、金属電極側部分に元素周期表の第3族の原子をドーピングしてp型半導体となし、
さらに上記並置されたカーボンナノチューブの直径を一方側から他方側に向かって段階的に変化させるとともに、
上記金属電極側に且つ直径が段階的に変化されたカーボンナノチューブにおける同一直径のカーボンナノチューブ群に、強さが異なる磁界を付与するように構成したことを特徴とする太陽電池。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の太陽電池を用いた太陽電池装置であって、
太陽電池の透明電極の表面に、太陽光線を分光させる分光器を配置するとともに、この太陽電池における各カーボンナノチューブにて得られた電気を所定電圧に調整する電圧調整器を具備したことを特徴とする太陽電池装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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