説明

太陽電池の検査方法及び装置

【課題】太陽電池が実際に設置された環境において太陽電池全体としての電流を制約するセルを特定する方法を提供する。
【解決手段】所定の周波数の電流によって駆動される半導体発光素子を光源5とする光でセル2を順次に照射し、太陽電池1の出力電流のその周波数の成分を検出する。出力電流が最小のセルを照射した時にはその周波数の成分が大きく検出されるので、太陽電池全体としての電流を制約するセルを特定することができる。また、照射光を半導体レーザとして、離れた場所からセルを正確に照射できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池を検査する方法及び装置、特に、相対的に低出力のセルを発見する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、構造が単結晶型、多結晶型、アモルファス型のいずれであっても、また、材料がシリコン系、化合物系のいずれであっても、pn接合またはpin接合を基本構成とし(以下、このような基本構成の単位を「セル」と言う。)、それぞれのセルに光電変換をさせている。また、太陽電池全体は、セルを直列接続して構成されている。セルが直列接続されているため、太陽電池全体としての電流(例えば出力端子を短絡した場合の電流、ISC)は、セルのうちで電流量(各セルのISCにより評価できる)の最も小さなものによって制約される。直列にするセル数が多い場合、太陽電池使用時にその発電量の小さなセルに逆方向電圧が加わりブレークダウンを起こし、その(逆方向電圧)×(使用電流)だけの電力が該セルで消費される事となるため、電力の浪費のみならず発熱によって発火の危険すらある。そこで、電流を制約しているセルを特定することが、太陽電池全体の評価にとって重要となる。
【0003】
各セルのISCの値を求めるには、電流−電圧特性を求めればよい。電流−電圧特性を示す曲線の電流軸との交点の座標がISCである。特許文献1及び2には、各セルの電流電圧特性を求める方法が開示されている。
特許文献1及び2に開示された方法は、各セルが均等に光を照射されることを仮定した近似式を用いるものである。しかし、実際の太陽電池使用に当たっては、ガラス面の汚れや障害物の陰などによって各セルが均等に光を照射されないことがあり得る。太陽電池を実際に使用する環境において特許文献1及び2に開示された方法を用いて電流電圧特性を求めることは難しい。
さらに、セルの電流電圧特性(ISCを含む。)は、セルに照射される光の量に依存して変化する。セルの劣化や故障に限らず、かかる理由によってISCが小さくなり太陽電池全体としての電流を制約するセルを特定することも重要である。
また、電流を制約しているセルを特定するためには、必ずしもセルの電流−電圧特性を完全に求める必要はなく、ISCの大小が推定できる程度の簡易な測定で十分である。特許文献1及び2に開示された方法よりも簡易な方法が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−281487号公報
【特許文献2】特開2008−171897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、太陽電池が実際に設置された環境において太陽電池全体としての電流を制約するセルを特定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の太陽電池の検査方法は、
2枚以上のセルを有する太陽電池の検査方法であって、
照射光を1つの被評価セルに照射し、太陽電池の特性値を検出する個別セル検査処理と、
前記個別セル検査処理を太陽電池の全てのセルについて順次実行し、前記出力電流の大きさに基づいて太陽電池中の発電電流が最小のセルを特定する発見処理とを含むことを特長とする。
ここで、特性値とは、太陽電池の出力の電流−電圧特性において、所定の電圧に対する電流値又は所定の電流に対する電圧値をいう。
照射光を被評価セルに照射することにより発生する太陽電池の出力電流の変化を見ることができる。後述するように、被評価セルが発電電流が最小のセル(ISCが最小のセル)であれば、セルの機能が完全に失われている等の例外的な場合を除き、照射光によってそのセルのISCが増加し、太陽電池の所定の電圧に対する出力電流も増加する。これに対し、被評価セルが発電電流が最小のセル(ISCが最小のセル)でない場合には、ISCが最小の他のセルに制約され、太陽電池の出力電流はあまり増加しない。また、この電流の増減に対応して、太陽電池の所定の電流に対する出力電圧も被評価セルが発電電流が最小のセルの場合に増加する。この現象を利用して、発電電流が最小のセルを特定することができる。
【0007】
本発明の太陽電池の検査方法は、
前記照射光は所定の周波数の電流によって駆動される半導体発光素子を光源とする光であり、
前記発見処理は、太陽電池の出力電流中の前記周波数の成分(所定周波数成分)を検出し、前記所定周波数成分の大小に基づいて太陽電池中の発電電流が最小のセルを特定することを特徴とする。
この特徴を実現するためには、太陽電池の大きな出力電流の中から所定の周波数を持つ交流成分を抽出する機能(電流トランス、或はコンデンサで直流分を除いたあと、当該交流を所定の周波数域のみを透過するフィルタ回路に通し、そのフィルタ回路を通過したものを「所定の周波数」を持つ交流分(信号)とする機能)を持てばよい。
強度を所定の周期で変化させた光を発光させるためには、所定の周波数の電流によって駆動される半導体発光素子を光源とすることができる。
なお、「大小に基づいて」とは、所定周波数成分の大小の比較に基づく場合のみでなく、所定周波数成分の有無に基づく場合も含む。後述するように、理想的な回路においては正常な照射光を正常なセルに照射した場合には所定周波数成分がない。
【0008】
本発明の太陽電池の検査方法は、
前記検査処理及び前記発見処理を、太陽電池を設置した状態で実行することを特徴とする。
設置場所によっては、障害物の陰などのせいで光が十分に照射されず、その結果発電電流が小さいセルが存在し得る。このようなセルについても、結果として発電電流が小さくなっていることを発見できる。そこで、太陽電池を設置したままで、被評価セル以外のセルに対して追加の照射光を加えることなく検査を実行する。
【0009】

本発明の太陽電池の検査装置は、

所定の周波数の電流によって駆動される半導体発光素子である光源装置と、
太陽電池の出力電流を検出する信号抽出装置とを備えることを特徴とする。
光源装置と信号抽出装置とによって、上記の検査を行う装置が構成される。
【0010】

本発明の太陽電池の検査装置は、

前記信号抽出装置は、太陽電池の出力端子間に負荷と直列に接続される電流トランスであって、この電流トランスの二次側に誘起される信号から前記所定の周波数の成分を検出するものであることを特徴とする。
電流トランスによって、二次側のコイルには、太陽電池の出力電流のうちの変化する成分のみを抽出することができる。
もし、信号抽出装置を負荷に直列に入れられない場合には、上記電流トランスにコンデンサを直列に入れて直流を除いた物を信号抽出装置として、負荷と並列に挿入する事もできる。
いずれにしても、負荷抵抗は既存の負荷を原則にしているが、この測定装置を太陽電池製造ライン中に入れる、或は研究・開発用とすることを想定すれば、負荷抵抗を電気的な擬似負荷として抵抗値を外部から掃引するのが良い。
【0011】
本発明の太陽電池の検査装置は、
前記半導体発光素子は、半導体レーザであることを特徴とする。
半導体レーザはコヒーレンスが良く、太陽電池から数m離れた場所からでも1つのセルを正確に照射することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の太陽電池の検査方法は、太陽電池が実際に設置された環境において太陽電池全体としての電流を制約するセルを特定することができる。
本発明の太陽電池の検査装置は、その方法を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の太陽電池の検査装置の構成の例を示す図である。
【図2】図2は、信号抽出部の例を示す図である。
【図3】図3は、光源部の例を示す図である。
【図4】図4は、セル及び太陽電池の電流−電圧特性を示す図である。
【図5】図5は、セル及び太陽電池の電流−電圧特性の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の太陽電池の検査装置の構成の例を示す図である。太陽電池1は20個のセル2が直列に接続されたものである。なお、本実施例ではセルの数を20個としているが、2個以上の何個であってもよい。
太陽電池の出力端子には、負荷と直列に信号抽出部3が設けられている。信号抽出部3において抽出された信号は、判定部4に送信される。
光源部5が別途に設けられ、光源部5から射出された光が1つのセルに照射されている。
光源部5から判定部4に向けて、信号線を通じて発光量の情報等を送信する。
【0016】
図2は、信号抽出部の例を示す図である。同図(a)は負荷と直列に接続する場合のもので、導線31は、太陽電池の出力端子に接続されている。電流トランス33が負荷と直列に接続されている。電流トランス33の二次側導線34は、判定部4に接続されている。直列に入れるといっても簡単な場合には、電流トランス33の鉄芯が可動式円環状で、負荷へ繋がる線の被服の外からこれを抱き込む形にすれば、既存の配線を外さずに設置できる。同図(b)は負荷と並列に接続する場合のもので、導線31は、太陽電池の出力端子に接続されている。コンデンサ32及びコイル33が直列に接続されている。コイル33の導線34は、判定部4に接続されている。直流を遮断してあるので、これも既存配線に全く影響を与えることはない。
【0017】
図3は、光源部の例を示す図である。光源51は半導体発光素子、好ましくは半導体レーザである。本実施例では半導体レーザとする。光源51は所定の周波数、本実施例では300Hz、の電流によって駆動され、1/300秒の周期で光量が増減する。光源51から発せられた光は、光導管52を通じて照射方向が均一化され、レンズ53によってセルの大きさに収束される。
【0018】
検査を行う際の動作は、以下のとおりである。
太陽電池1の出力端子に信号抽出部の導線31を接続する。光源部5からの光照射が行われていない状態においては、太陽電池1からは一定の電流が流れる。電流の変化がないので、電流トランス33を介して導線34に信号が送られるものではない。
光源部5からの光で1つのセルを照射する。光源部5からの光は所定の周波数で増減するので、照射を受けているセルの電流−電圧特性も周期的に変化する。これによって太陽電池1の出力電流が変化すると、その変化によってコイル33を介して導線34に信号が送られる。
光源部5からの光で1つのセルを照射する。光源部5からの光は所定の周波数で増減するので、照射を受けているセルの電流−電圧特性も周期的に変化する。これによって太陽電池1の出力電流が変化すると、その変化によって電流トランス33を介して導線34に信号が送られ、判定部4に伝わる。
判定部4は、その信号を分析し、所定の周波数の変化によるものを検出する。本実施例においては、所定の周波数に同調する電気回路を用いて、その周波数の信号を検出する。なお、信号をA/D変換してコンピュータによる処理を行ってもよい。
【0019】
図4は、セル及び太陽電池の電流−電圧特性を示す図である。(a)は、正常なセルの電流−電圧特性を示す。曲線61は光照射時の電流−電圧特性、曲線62は無照射時の電流−電圧特性である。(b)は、曲線63は上記正常なセルを20個直列に接続した太陽電池の光照射時の電流−電圧特性である。太陽電池のISCは各セルのISCに等しい。太陽電池全体の出力エネルギー((b)に描かれた長方形の面積)を最大化するよう、負荷抵抗(=V/I)を制御して使う場合が多い。以上は、20個のセル全てが正常である場合についてのものである。
【0020】
発電電流の小さい異常なセルの電流−電圧特性を(c)に示す。曲線71は光照射時の電流−電圧特性、曲線61は正常なセルの電流−電圧特性で、比較の為示してある。光照射時の短絡電流ISC’は、ISCよりも小さな値となっている。このとき、太陽電池の電流−電圧特性は、(d)の曲線73のようになる。具体的には、曲線63の図の右側において異常なセルの影響があり、曲線73はその部分で曲線63と相違している。
【0021】
図5は、セル及び太陽電池の電流−電圧特性の変化を示す図である。(a)は、正常なセルを周期的に光量の変化する光源で照射した場合の電流−電圧特性を示す。光量が少ないときには曲線64、光量が多いときには曲線65となる。光量の変化に対応して、曲線64と曲線65との間で電流−電圧特性も変化する。
太陽電池(電流−電圧特性は曲線73)において、一つの正常なセルの電流−電圧特性が(a)のように変化しても、太陽電池の電流−電圧特性は(b)のように曲線73から大きく変化しない。
【0022】
一方、(c)は、異常なセルを周期的に光量の変化する光源で照射した場合の電流−電圧特性を示す。光量の変化に対応して、曲線74と曲線75との間で電流−電圧特性も変化する。このとき、太陽電池の電流−電圧特性は、(d)の曲線76と曲線77との間で変化する。
図においてV0で示された電圧にバイアスして電流を測定すれば、対応する電流値はΔIだけ変化しているのがわかる。又は、図1において太陽電池の負荷を0Ωから順次大きくしてゆけば、途中で信号抽出部の電流トランス33を介して電流変動分、即ち交流分を検出できることになる。この実施例では、光源51を300Hzで変調しているので、電流トランス33の二次側からこの300Hz の信号がえられる。
ここで、負荷抵抗の値は太陽電池の電流―電圧特性のほぼ右肩の電圧/電流値から大凡の値を求めることができる。
【0023】
以上の考察のとおり、異常なセルを照射した場合には、太陽電池の電流−電圧特性が変化し、特性値も増減する。信号抽出部3により、その変化に基づく信号が判定部4に送信される。一方、正常なセルを照射した場合には、太陽電池の電流−電圧特性はほとんど変化せず、判定部4には信号が出ない。判定部4において、信号の大きさ及び信号の周波数に基づいて、異常なセルを特定することができる。
【0024】
以上、異常なセルが1つの場合について説明した。異常なセルが2つ以上ある場合には、それらのうち発電電流が小さいものほど、低電圧側(低負荷抵抗側)に信号が出る。通常の太陽光発電システムでは、最大効率で動作させるべく負荷抵抗を制御しているので、負荷抵抗の変更幅が狭い事が予測される。この条件で信号が出ない場合は、発電量が小さなセルがあっても殆ど影響が無いといえる。
太陽光発電システムが負荷抵抗を変える仕組みを持たない場合には、パワートランジスタ等によって負荷抵抗を変える仕組みを付け加えて測定すればよい。
また、信号抽出部が負荷と直列に入った場合を説明したが、負荷と並列に信号抽出部を入れることも可能である。但し、この場合にはコンデンサを入れて直流を遮断する事が必要である。
【0025】
この装置は、太陽電池1の出力端子に信号抽出部3をつなぎ、光源部5を手に持ってセルを照射することで動作する。太陽電池を設置したままの状態で動作させることが可能である。
更に、太陽電池を設置したままの状態で動作させることにより、評価対象のセル以外に対してこれらを通電させるために光を照射する必要がなく、装置が小型・軽量である点が特徴である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
太陽電池が実際に設置された環境において太陽電池全体としての電流を制約するセルを発見することができる太陽電池の検査方法及び装置であり、太陽電池を生産又は設置する企業による活用が期待できる。
【符号の説明】
【0027】
1 太陽電池
2 セル
3 信号抽出部
4 判定部
5 光源部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のセルを有する太陽電池の検査方法であって、
照射光を1つの被評価セルに照射し、太陽電池の出力電流を検出する個別セル検査処理と、
前記個別セル検査処理を太陽電池の全てのセルについて順次実行し、前記出力電流の大きさに基づいて太陽電池中の発電電流が最小のセルを特定する発見処理とを含むことを特長とする、太陽電池の検査方法。
【請求項2】
前記照射光は所定の周波数の電流によって駆動される半導体発光素子を光源とする光であり、
前記発見処理は、太陽電池の出力電流中の前記周波数の成分(所定周波数成分)を検出し、前記所定周波数成分の大小に基づいて太陽電池中の発電電流が最小のセルを特定することを特徴とする、請求項1に記載の太陽電池の検査方法。
【請求項3】
前記検査処理及び前記発見処理を、太陽電池を設置した状態で実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の太陽電池の検査方法。
【請求項4】
所定の周波数の電流によって駆動される半導体発光素子である光源装置と、
太陽電池の出力電流を検出する信号抽出装置とを備えることを特徴とする、太陽電池の検査装置。
【請求項5】
前記信号抽出装置は、太陽電池の出力端子間に接続される回路であって負荷と直列に接続される電流トランスであって、この電流トランスの二次側に誘起される信号から前記所定の周波数の成分を検出するものであることを特徴とする、請求項4に記載の太陽電池の検査装置。
【請求項6】
前記半導体発光素子は、半導体レーザであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の太陽電池の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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