説明

太陽電池インターコネクタ用導体及び太陽電池用インターコネクタ

【課題】0.2%耐力が低くセルの反りを抑えることができ、かつ、疲労特性に優れ、繰り返し応力が作用した場合であっても破断等のトラブルを未然に防止することができる太陽電池インターコネクタ用導体、及び、太陽電池用インターコネクタを提供する。
【解決手段】太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続する太陽電池用インターコネクタとして使用される太陽電池インターコネクタ用導体であって、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成からなり、0.2%耐力が100MPa以下とされるとともに、EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルからなる太陽電池モジュールにおいて、セル間を接続する太陽電池用インターコネクタに適した太陽電池インターコネクタ用導体及び太陽電池用インターコネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない発電方式として太陽電池モジュールを利用したものが注目され、様々な分野で広く使用されている。太陽電池モジュールは、例えば特許文献1に記載されているように、pn接合されたシリコン等の半導体の板材からなるセルを複数備え、これらのセルが太陽電池用インターコネクタおよびバスバーによって電気的に接続された構成とされている。
ここで、セル間を電気的に接続する太陽電池用インターコネクタとしては、例えば特許文献2に示すように、無酸素銅やタフピッチ銅からなる銅平角線にはんだめっき層が形成されたものが広く使用されており、このはんだめっき層を介してセルに接続されている。
【0003】
また、太陽電池用インターコネクタとセルとのはんだ付け工程においては、太陽電池用インターコネクタとセルは、はんだの液相線温度以上にまで昇温された後、常温にまで冷却される。ここで、シリコン等で構成されたセルの熱膨張係数と銅平角線からなる太陽電池用インターコネクタの熱膨張係数が異なるため、昇温された際に太陽電池用インターコネクタが延びた状態でセルと接合され、冷却時に太陽電池用インターコネクタが収縮することにより、セルに反りが発生するという問題があった。セルに反りが発生した場合、太陽電池モジュールを構成することができなくなったり、枠体への取付ができなくなったりするといった不都合が生じることになる。また、この反りによってセルが破損してしまうおそれもある。
【0004】
そこで、セルの反りを防止するために、例えば特許文献3には、0.2%耐力を規定した銅材を用いた太陽電池用インターコネクタが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−166915号公報
【特許文献2】特開平11−21660号公報
【特許文献3】特開2006−054355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の太陽電池用インターコネクタに用いられる銅材(太陽電池インターコネクタ用導体)においては、使用環境下において振動や曲げ、引張、圧縮などの各種応力が負荷され、結果として弾性変形が繰り返されることで、銅材の結晶粒界に転位が蓄積し、転位が動き難くなり、亀裂が発生して破断に至ることがある。このため、太陽電池用インターコネクタに用いられる銅材(太陽電池インターコネクタ用導体)には、いわゆる疲労特性が求められているのである。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、0.2%耐力が低くセルの反りを抑えることができ、かつ、疲労特性に優れ、繰り返し応力が作用した場合であっても破断等のトラブルを未然に防止することができる太陽電池インターコネクタ用導体、及び、太陽電池用インターコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の太陽電池インターコネクタ用導体は、太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続する太陽電池用インターコネクタとして使用される太陽電池インターコネクタ用導体であって、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成からなり、0.2%耐力が100MPa以下とされるとともに、EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされていることを特徴としている。
【0009】
銅中には不可避不純物としてSが存在している。銅中に存在するSは、0.2%耐力を上昇させるとともに、上述の特殊粒界比率(Lσ/L)を低くさせる作用を有する元素である。
ここで、本発明の太陽電池インターコネクタ用導体においては、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされているので、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素が、不可避不純物のひとつとして銅中に存在するS(硫黄)と反応して金属間化合物を生成し、Sの影響を抑制することが可能となる。よって、太陽電池インターコネクタ用導体の0.2%耐力を低減できるとともに、特殊粒界比率(Lσ/L)を高くすることが可能となる。ここで、特殊粒界比率(Lσ/L)が高い場合には、結晶性の高い粒界が増加することにより転位が蓄積しても破断しにくくなり、疲労特性が向上することになる。
【0010】
なお、本発明における特殊粒界比率(Lσ/L)は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いたEBSD測定装置によって、結晶粒界、特殊粒界を特定し、その長さを算出すること得られるものである。
結晶粒界は、二次元断面観察の結果、隣り合う2つの結晶間の配向方位差が15°以上となっている場合の当該結晶間の境界として定義される。
また、特殊粒界とは、結晶学的にCSL理論(Kronberg et al:Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949))に基づき定義されるΣ値で3≦Σ≦29に属する対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2(D.G.Brandon:Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966))を満たす結晶粒界であるとして定義される。
【0011】
ここで、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0003質量%以上0.002質量%以下の範囲で含有することが好ましい。
この場合、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の含有量が合計で0.0003質量%以上とされているので、銅中のSの影響を抑制することができ、0.2%耐力を低く、かつ、特殊粒界比率(Lσ/L)を高くすることができる。また、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の含有量が合計で0.002質量%以下とされているので、導電率を確保することができるとともに、0.2%耐力を低く抑えることができる。
【0012】
また、前記不可避不純物中のSの含有量が0.003質量%以下とされていることが好ましい。
この場合、銅中のSの含有量が0.003質量%以下とされているので、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素によってSの影響を確実に抑えることが可能となり、0.2%耐力を低く、かつ、特殊粒界比率(Lσ/L)を高くすることができる。
【0013】
本発明の太陽電池用インターコネクタは、太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続する太陽電池用インターコネクタであって、断面が矩形状をなす平角線とされた前述の太陽電池インターコネクタ用導体と、この太陽電池インターコネクタ用導体の延在方向に延びる主面のうち少なくとも一面に形成されたはんだめっき層と、を有することを特徴としている。
【0014】
この構成の太陽電池用インターコネクタによれば、断面が矩形状をなす平角線とされた太陽電池インターコネクタ用導体の0.2%耐力が100MPa以下とされるとともに、EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされているので、0.2%耐力が低く、かつ、疲労特性に優れることになる。さらに、この太陽電池インターコネクタ用導体の延在方向に延びる主面のうち少なくとも一面にはんだめっき層が形成されているため、はんだ接合によって、簡便に太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続することができる。
【0015】
さらに、本発明の太陽電池用インターコネクタは、太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続する太陽電池用インターコネクタであって、断面が矩形状をなす平角線とされた太陽電池インターコネクタ用導体と、この太陽電池インターコネクタ用導体の延在方向に延びる主面のうち少なくとも一面に形成されたはんだめっき層と、を有し、前記太陽電池インターコネクタ用導体は、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成からなり、EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされており、前記はんだめっき層が形成された状態で引張試験を行って永久歪み量が0.2%となる荷重を前記太陽電池インターコネクタ用導体の断面積で除して得られた0.2%耐力値が100MPa以下とされていることを特徴としている。
【0016】
この構成の太陽電池用インターコネクタによれば、断面が矩形状をなす平角線とされた太陽電池インターコネクタ用導体がMg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成からなり、EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされているので、太陽電池インターコネクタ用導体における結晶粒界の整合性が向上し、転位が蓄積し難くなり、疲労特性が向上することになる。
【0017】
また、前記はんだめっき層が形成された状態で引張試験を行って永久歪み量が0.2%となる荷重を前記太陽電池インターコネクタ用導体の断面積で除して得られた0.2%耐力値が100MPa以下とされているので、はんだ接合時セルの反りを低減することが可能となる。
なお、はんだめっき層が形成された状態で引張試験を行って永久歪み量が0.2%となる荷重を前記太陽電池インターコネクタ用導体の断面積で除して得られた0.2%耐力が100MPa以下とされていることから、太陽電池インターコネクタ用導体自体の0.2%耐力についても100MPa以下となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、0.2%耐力が低くセルの反りを抑えることができ、かつ、疲労特性に優れ、繰り返し応力が作用した場合であっても破断等のトラブルを未然に防止することができる太陽電池インターコネクタ用導体、及び、太陽電池用インターコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態である太陽電池用インターコネクタを備えた太陽電池モジュールの説明図である。
【図2】図1におけるX−X断面図である。
【図3】図1の太陽電池モジュールに備えられた太陽電池セルの説明図である。
【図4】図3におけるY−Y断面図である。
【図5】本実施形態である太陽電池用インターコネクタの断面図である。
【図6】連続鋳造圧延装置を概略的に示した模式図である。
【図7】本実施形態である太陽電池インターコネクタ用導体の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態に係る太陽電池用インターコネクタ及び太陽電池インターコネクタ用導体について添付した図面を参照して説明する。
図1及び図2に、本実施形態である太陽電池用インターコネクタ10を用いた太陽電池モジュール20を示す。図3及び図4に、太陽電池モジュール20を構成する太陽電池セル21を示す。
【0021】
図1及び図2に示す太陽電池モジュール20は、複数の太陽電池セル21と、これらの太陽電池セル21を電気的に直列に接続する太陽電池用インターコネクタ10と、太陽電池用インターコネクタ10が接続されるバスバー25、26と、を備えている。
太陽電池セル21は、例えばpn接合されたシリコンからなり、図3及び図4に示すように、概略正方形平板状をなし、本実施形態では、一辺が130mm、厚さが0.18mmのものを使用した。
【0022】
この太陽電池セル21の表面に、本実施形態である太陽電池用インターコネクタ10が配設されている。
図1及び図2に示すように、太陽電池用インターコネクタ10は、太陽電池セル21の表面及び裏面に接合され、隣接する太陽電池セル21同士を電気的に接続している。そして、太陽電池用インターコネクタ10が正極のバスバー25及び負極のバスバー26にそれぞれ接続されるように構成されており、これら太陽電池用インターコネクタ10およびバスバー25、26によって太陽電池モジュール20に備えられたすべての太陽電池セル21が直列に接続されることになる。
【0023】
太陽電池用インターコネクタ10は、図5に示すように、断面が矩形状をなす平角線とされた太陽電池インターコネクタ用導体11と、この太陽電池インターコネクタ用導体11の外周面に形成されたはんだめっき層12と、を有している。
この太陽電池用インターコネクタ10においては、図4に示すように、はんだめっき層12を介して太陽電池セル21に接合されている。
【0024】
太陽電池インターコネクタ用導体11は、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で、0.0001質量%以上0.01質量%以下、好ましくは0.0003質量%以上0.002質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成の銅材で構成されている。また、不可避不純物中のSの含有量が0.003質量%以下とされている。
ここで、希土類元素とは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luのことである。
【0025】
また、太陽電池インターコネクタ用導体11は、0.2%耐力が100MPa以下とされている。本実施形態では、太陽電池インターコネクタ用導体11の0.2%耐力は50MPa以下とされている。
【0026】
さらに、太陽電池インターコネクタ用導体11は、EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされており、本実施形態では、特殊粒界比率(Lσ/L)が60%以上とされている。なお、疲労特性の観点から特殊粒界比率(Lσ/L)が65%以上であることがより望ましい。
ここで、特殊粒界比率(Lσ/L)は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いたEBSD測定装置によって、結晶粒界、特殊粒界を特定し、その長さを算出することにより得られるものである。すなわち、本実施形態である太陽電池インターコネクタ用導体11においては、通常の結晶粒界よりも特殊粒界の方がより多く存在しているのである。
【0027】
結晶粒界は、二次元断面観察の結果、隣り合う2つの結晶間の配向方位差が15°以上となっている場合の当該結晶間の境界として定義される。
また、特殊粒界とは、結晶学的にCSL理論(Kronberg et al:Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949))に基づき定義されるΣ値で3≦Σ≦29に属する対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2(D.G.Brandon:Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966))を満たす結晶粒界であるとして定義される。
【0028】
また、本実施形態である太陽電池用インターコネクタ10においては、はんだめっき層12が形成された状態で引張試験を行って永久歪み量が0.2%となる荷重を太陽電池インターコネクタ用導体11の断面積で除して得られた0.2%耐力値が100MPa以下とされており、本実施形態では70MPa以下とされている。
【0029】
次に、本実施形態である太陽電池用インターコネクタ10及び太陽電池インターコネクタ用導体11を製造する際に使用される連続鋳造圧延装置30について説明する。
本実施形態では、図6に示す連続鋳造圧延装置30を用いて所定の外径の銅荒引線70を製出し、この銅荒引線70をさらに伸線加工及び圧延加工を実施することで本実施形態である太陽電池インターコネクタ用導体11が製造される。
連続鋳造圧延装置30は、図6に示すように、溶解炉31と、保持炉32と、鋳造樋33と、ベルト・ホイール式連続鋳造機50と、連続圧延装置35と、コイラー38とを有している。
【0030】
溶解炉31として、本実施形態では、円筒形の炉本体を有するシャフト炉を用いている。炉本体の下部には円周方向に複数のバーナ(図示略)が上下方向に多段状に配備されている。そして、炉本体の上部から原料である電気銅が装入され、前記バーナの燃焼によって電気銅が溶解され、銅溶湯が連続的につくられる。
【0031】
保持炉32は、溶解炉31でつくられた銅溶湯を、所定の温度で保持したままで一旦貯留し、一定量の銅溶湯を鋳造樋33に送るためのものである。
【0032】
鋳造樋33は、保持炉32から送られた銅溶湯を、ベルト・ホイール式連続鋳造機50の上方に配置されたタンディシュ40まで移送するものである。この鋳造樋33は、例えばAr等の不活性ガス又は還元性ガスでシールされている。なお、この鋳造樋33には、不活性ガスによって銅溶湯を攪拌する攪拌手段(図示なし)が設けられている。
【0033】
タンディシュ40には、移送された銅溶湯に対して元素を添加する元素添加手段41が設けられている。また、タンディシュ40の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル42が配置されており、この注湯ノズル42を介してタンディシュ40内の銅溶湯がベルト・ホイール式連続鋳造機50へと供給される。
ベルト・ホイール式連続鋳造機50は、外周面に溝が形成された鋳造輪51と、この鋳造輪51の外周面の一部に接触するように周回移動される無端ベルト52とを有しており、前記溝と無端ベルト52との間に形成された空間に、注湯ノズル42を介して供給された銅溶湯を注入して冷却し、棒状鋳塊60を連続的に鋳造するものである。
【0034】
そして、このベルト・ホイール式連続鋳造機30は、連続圧延装置35に連結されている。この連続圧延装置35は、ベルト・ホイール式連続鋳造機50から製出された棒状鋳塊60を連続的に圧延して、所定の外径の銅荒引線70を製出するものである。連続圧延装置35から製出された銅荒引線70は、洗浄冷却装置36および探傷器37を介してコイラー38に巻き取られる。
【0035】
次に、連続鋳造圧延装置30を用いた太陽電池用インターコネクタ10の製造方法について、図6及び図7を用いて説明する。
まず、溶解炉31に、純度99.99質量%の銅原料(いわゆる4NCu)を投入して溶解し、銅溶湯を得る(溶解工程S01)。この溶解工程S01では、シャフト炉の複数のバーナの空燃比を調整して溶解炉31の内部を還元雰囲気とする。
【0036】
溶解炉31によって得られた銅溶湯は、保持炉32及び鋳造樋33を介してタンディシュ40まで移送される。
ここで、不活性ガス又は還元性ガスでシールされた鋳造樋33を通過する銅溶湯は、前述の攪拌手段によって攪拌されることによって、銅溶湯と不活性ガス又は還元性ガスとの反応が促進される。
【0037】
次に、元素添加手段41によって、タンディシュ40内の銅溶湯にMg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素が連続的に添加される(元素添加工程S02)。これにより、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素の含有量が合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下、より好ましくは、0.0003質量%以上0.002質量%以下に調整された銅溶湯が生成される。
【0038】
このように成分調整された銅溶湯は、ベルト・ホイール式連続鋳造機50に注湯ノズル42を介して供給され、棒状鋳塊60が連続的に製出される(連続鋳造工程S03)。ここで、連続鋳造工程S03では、鋳造輪51に形成された前記溝と無端ベルト52との間に形成された空間が台形状をなしていることから、断面略台形状をなす棒状鋳塊60が製出されることになる。
【0039】
この棒状鋳塊60は、連続圧延装置35に供給されてロール圧延加工が施され、所定の外径(本実施形態では直径8mm)の銅荒引線70が製出される(連続圧延工程S04)。この連続圧延工程S04においては、400〜900℃の範囲で圧延が実施される。
【0040】
連続圧延装置35から製出された銅荒引線70は、洗浄冷却装置36および探傷器37を介してコイラー38に巻き取られる。洗浄冷却装置36は、連続圧延装置35から製出された銅荒引線70をアルコール等の洗浄剤で表面を洗浄するとともに冷却するものである。また、探傷器37は、洗浄冷却装置36から送られた銅荒引線70の傷を探知するものである。
【0041】
次に、得られた銅荒引線70に対して伸線加工を実施し、所定の外径(本実施形態では直径0.5mm)の銅線を製出する(伸線工程S05)。その後ロール圧延によって断面矩形状をなす平角線とする(圧延工程S06)。次に、この平角線を焼鈍する(焼鈍工程S07)。
【0042】
次に、断面減少率5〜25%で加工を実施して最終形状(本実施形態では、幅W1mm、厚さH0.2mm)とする(軽加工工程S08)。本実施形態では、圧下率5〜25%で軽圧延を実施している。なお、焼鈍工程S07と軽加工工程S08は繰り返し実施してもよい。
そして、最終形状とされた平角線に対して、500℃以上、好ましくは700℃以上で熱処理を行う(仕上熱処理工程S09)。なお、この仕上熱処理工程S09は、バッチ炉、パイプ炉、通電焼鈍のいずれの方法で実施してもよい。
以上のような手順によって、本実施形態である太陽電池インターコネクタ用導体11が製出される。
【0043】
そして、この太陽電池インターコネクタ用導体11の表面にはんだめっき層12を形成する(はんだめっき工程S10)。本実施形態では、太陽電池インターコネクタ用導体11をSn−Ag−Cuめっき浴に連続的に浸漬させることによって、はんだめっき層12を形成する。
これにより、太陽電池インターコネクタ用導体11とはんだめっき層12とを備えた太陽電池用インターコネクタ10が製造される。
【0044】
このような構成とされた本実施形態である太陽電池インターコネクタ用導体11によれば、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の添加元素を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされ、より好ましくは、上記元素の含有量が0.0003質量%以上0.002質量%以下とされているので、上述の元素が、不可避不純物のひとつとして銅中に存在するS(硫黄)と反応して金属間化合物を生成し、Sの影響を抑制することが可能となる。
よって、太陽電池インターコネクタ用導体の0.2%耐力を低減できるとともに、特殊粒界比率(Lσ/L)を高くすることが可能となる。ここで、特殊粒界比率(Lσ/L)が高い場合には、組織全体の結晶粒界の整合性が向上し、転位が蓄積し難くなり、疲労特性が向上することになる。
【0045】
さらに、本実施形態では、不可避不純物中のSの含有量が0.003質量%以下とされているので、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素によってSの影響を確実に抑えることが可能となり、0.2%耐力を低く、かつ、特殊粒界比率(Lσ/L)を高くすることができる。
なお、本実施形態では、太陽電池インターコネクタ用導体11の0.2%耐力が50MPa以下とされ、特殊粒界比率(Lσ/L)が60%以上とされていることから、セルの反りを抑えることができ、かつ、繰り返し応力が作用した場合であっても破断等のトラブルを未然に防止することができる。
【0046】
また、本実施形態である太陽電池用インターコネクタ10は、はんだめっき層12が形成された状態で引張試験を行って永久歪み量が0.2%となる荷重を太陽電池インターコネクタ用導体11の断面積(W×H)で除して得られた0.2%耐力値が100MPa以下、具体的には70MPa以下とされているので、はんだ接合時セルの反りを低減することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、ベルト・ホイール式連続鋳造機を用いて太陽電池インターコネクタ用導体を製造するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、断面が矩形状をなす鋳塊を製出し、この鋳塊を圧延して所定幅でスリットして平角線を形成してもよい。
【0048】
また、鋳塊を800℃以上の温度で押出加工し、得られた押出素線に対して伸線加工を実施することによって、平角線を形成してもよい。この場合、最終形状に加工する前に焼鈍を実施し、断面減少率5〜25%で加工を実施して最終形状とし、最終形状とされた平角線に対して500℃以上、好ましくは700℃以上で熱処理を行うことにより、本発明の太陽電池インターコネクタ用導体を製造してもよい。
【0049】
また、はんだめっき層形成工程S10において、太陽電池インターコネクタ用導体11をめっき浴中に浸漬させることによってはんだめっき層12を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他のめっき方法によってはんだめっき層12を形成してもよい。
さらに、はんだめっき層12をSn−3.0質量%Ag−0.5質量%Cuの鉛フリーはんだで構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の組成のはんだで構成してもよい。
また、図5に示すように、はんだめっき層12を太陽電池インターコネクタ用導体11の外周面全体に形成したもので説明したが、これに限定されることはなく、太陽電池インターコネクタ用導体11の延在方向に延びる主面のうち少なくとも1つに形成されていればよい。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明に係る太陽電池インターコネクタ用導体及び太陽電池用インターコネクタについて評価した評価試験の結果について説明する。
銅の含有率が99.99質量%とされた銅原料を用いて、図7のフロー図に記載した方法で太陽電池インターコネクタ用導体を製出した。このとき、最終形状に加工する前に焼鈍を実施し、断面減少率7%で加工を実施して最終形状とした。また、添加元素量、S量、仕上熱処理工程S09の温度条件を表1に記載のとおり変更した。
さらに、浸漬めっき法により、得られた太陽電池インターコネクタ用導体の表面にSn−3.0質量%Ag−0.5質量%Cuからなるはんだめっき層を形成した。
【0051】
<特殊粒界比率>
得られた太陽電池インターコネクタ用導体について、特殊粒界比率(Lσ/L)を算出した。各試料について、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。
そして、EBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SEM、EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界、特殊粒界を特定し、その長さを算出することにより、平均結晶粒径及び特殊粒界長さ比率の解析を行った。
まず、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、電子線を試料表面に2次元で走査させ、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とした。
また、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、隣接する結晶粒の界面が特殊粒界を構成する結晶粒界の位置を決定するとともに、特殊粒界の全特殊粒界長さLσと、上記測定した結晶粒界の全粒界長さLとの粒界長さ比率Lσ/Lを求め、特殊粒界比率(Lσ/L)とした。
【0052】
<0.2%耐力試験>
JIS Z 2241に準拠して、島津製作所製AG−5kNXを用いて引張試験を行い、0.2%耐力を測定した。
なお、太陽電池インターコネクタ用導体における0.2%耐力は、太陽電池インターコネクタ用導体に対して引張試験を実施し、永久歪み量が0.2%となる荷重を太陽電池インターコネクタ用導体の断面積で除して得られたものとした。
また、太陽電池用インターコネクタにおける0.2%耐力は、はんだめっき層が形成された太陽電池用インターコネクタに対して引張試験を実施し、永久歪み量が0.2%となる荷重を太陽電池インターコネクタ用導体の断面積で除して得られたものとした。
【0053】
<疲労特性>
各試料について、MIT耐折試験機(株式会社東洋精機製作所製、MIT−DA)を用い、試料に0.1kgの荷重を負荷し、片側折り曲げ角度を90°、折り曲げ半径を5.0mm、折り曲げ速度を90往復/分とし、繰り返し曲げ荷重を負荷した。試料に亀裂が生じ、最終的に破断に至るまでの繰り返し曲げ回数を測定し、疲労特性とした。
表1中の疲労特性は、往復折り曲げ回数が250回を超えるものを◎、250回以下で200回を超えるものを○、200回以下のものを×として表した。
【0054】
特殊粒界比率(Lσ/L)、0.2%耐力、疲労特性について評価した結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素を添加していない比較例1,2においては、特殊粒界比率(Lσ/L)が55%未満とされている。比較例1では、疲労特性が不十分であることが確認される。一方、S量が40ppmとされた比較例2においては、疲労特性は優れるものの、太陽電池用インターコネクタの0.2%耐力及び太陽電池インターコネクタ用導体の0.2%耐力が100MPaを超えていることが確認される。
【0057】
また、仕上熱処理工程S08の温度条件が250℃とされた比較例3においては、疲労特性は良好であるものの、太陽電池用インターコネクタの0.2%耐力及び太陽電池インターコネクタ用導体の0.2%耐力が100MPaを超えることが確認される。
さらに、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素の含有量が0.01質量%を超える比較例4〜6においては、いずれも太陽電池用インターコネクタの0.2%耐力及び太陽電池インターコネクタ用導体の0.2%耐力が100MPaを超えることが確認される。特に、S量が45ppmとされた比較例6においては、特殊粒界比率(Lσ/L)が43%と低くなっており、疲労特性も比較例4,5と比較して低くなっている。
【0058】
これに対して、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上の元素の含有量が合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲とされ、特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされた実施例1〜9においては、太陽電池用インターコネクタの0.2%耐力及び太陽電池インターコネクタ用導体の0.2%耐力が100MPa以下とされ、かつ、疲労特性に優れていることが確認される。
【符号の説明】
【0059】
10 太陽電池用インターコネクタ
11 太陽電池インターコネクタ用導体
12 はんだめっき層
20 太陽電池モジュール
21 太陽電池セル(セル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続する太陽電池用インターコネクタとして使用される太陽電池インターコネクタ用導体であって、
Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成からなり、
0.2%耐力が100MPa以下とされるとともに、
EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされていることを特徴とする太陽電池インターコネクタ用導体。
【請求項2】
Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を0.0003質量%以上0.002質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池インターコネクタ用導体。
【請求項3】
前記不可避不純物中のSの含有量が0.003質量%以下とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の太陽電池インターコネクタ用導体。
【請求項4】
太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続する太陽電池用インターコネクタであって、
断面が矩形状をなす平角線とされた請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の太陽電池インターコネクタ用導体と、この太陽電池インターコネクタ用導体の延在方向に延びる主面のうち少なくとも一面に形成されたはんだめっき層と、を有しことを特徴とする太陽電池用インターコネクタ。
【請求項5】
太陽電池モジュールにおいてセル間同士を接続する太陽電池用インターコネクタであって、
断面が矩形状をなす平角線とされた太陽電池インターコネクタ用導体と、この太陽電池インターコネクタ用導体の延在方向に延びる主面のうち少なくとも一面に形成されたはんだめっき層と、を有し、
前記太陽電池インターコネクタ用導体は、Mg,Ca,Sr,Ba,Zr,Ti,Mn又は希土類元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲で含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成からなり、EBSD法にて測定した全ての結晶粒界長さLに対する特殊粒界長さLσの比率である特殊粒界比率(Lσ/L)が55%以上とされており、
前記はんだめっき層が形成された状態で引張試験を行って永久歪み量が0.2%となる荷重を前記太陽電池インターコネクタ用導体の断面積で除して得られた0.2%耐力値が100MPa以下とされていることを特徴とする太陽電池用インターコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−49893(P2013−49893A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188520(P2011−188520)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】