説明

太陽電池モジュール用充填材、およびそれを用いた太陽電池モジュール、ならびに太陽電池モジュール用充填材の製造方法

【課題】本発明は、ホットスポット現象が発生したときに充填材の白濁を抑制することができる太陽電池モジュール用充填材を提供することを主目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するために、本発明は、エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含む充填材用樹脂と、紫外線吸収剤、光安定化剤、熱安定化剤およびマスターバッチ用ポリエチレンを含むマスターバッチと、を有する太陽電池モジュール用充填材であって、上記重合用ポリエチレンおよび上記マスターバッチ用ポリエチレンが、0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする太陽電池モジュール用充填材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホットスポット現象等に伴う温度変化が生じた場合であっても、白濁しにくい太陽電池モジュール用充填材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。
太陽電池素子は単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板を用いて作製することが多い。このため太陽電池素子は物理的衝撃に弱く、また屋外に太陽電池を取り付けた場合に雨などからこれを保護する必要がある。また、太陽電池素子1枚では発生する電気出力が小さいため、複数の太陽電池素子を直並列に接続して、実用的な電気出力が取り出せるようにする必要がある。このため複数の太陽電池素子を接続し透明基板および充填材で封入して太陽電池モジュールを作製することが通常行われている。一般に太陽電池モジュールは、透明前面基板、充填材、太陽電池素子、充填材および裏面保護シート等を順次積層し、これらを真空吸引して加熱圧着するラミネーション法等を利用して製造される。
【0003】
太陽電池モジュールに用いられる充填材としては、その加工性、施工性、製造コスト、その他等の観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)が、最も一般的なものとして使用されている。しかしながら、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂からなる充填材は、太陽電池素子との接着強度が必ずしも十分ではなく、長時間使用により剥離を生じたり、加熱時に酢ビガスが発生し異臭の元となったり発泡したりする等の問題があった。そこで、充填材に接着性を付与し、酢ビガスの発生をなくす方法として、樹脂にシラン化合物を重合させる方法が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
屋外に設置された太陽電池モジュールでは、発電中の太陽電池モジュールの複数の太陽電池素子のうち、ある1つの太陽電池素子が何かの影になって発電が不十分になった場合、この太陽電池素子は抵抗となる。このときこの太陽電池素子の両電極にはその抵抗値と流れる電流との積の電位差が発生する。すなわち、太陽電池素子に逆方向のバイアス電圧がかかることとなり、この太陽電池素子は発熱するようになる。このような現象はホットスポットと呼ばれている。
【0005】
そして、ホットスポット現象が発生して太陽電池素子の温度が上昇すると、これに伴い充填材の温度も上昇する。充填材として、ポリエチレン系樹脂を用いた場合に、充填材の融点を超える温度変化があった場合、ポリエチレン系樹脂が一旦融解し、再度固化する際、その一部が結晶化し、白濁してしまい、外観が著しく損なわれる。
【0006】
ホットスポット現象が発生したときの太陽電池モジュールの温度上昇を抑制する方法としては、例えば太陽電池モジュールの裏面側に表面が凹凸状の熱放射率の高いフィルムを設けることや太陽電池モジュールの周囲に配設されるモジュール枠に通風口を設けることが提案されている(例えば特許文献3参照)。また、裏面側充填材にアルミナやジルコニアなどの熱伝導率を大きくする粒子を含有させることで、ホットスポット現象が発生したときでも太陽電池モジュール内部の熱伝導率を向上させて太陽電池素子の温度上昇を抑制する方法が提案されている(例えば特許文献4参照)。太陽電池モジュールや太陽電池素子の温度上昇を抑えることができれば、結果的に充填材の温度上昇も抑えられるので、充填材の白濁を抑制することが可能であると考えられる。しかしながら、いずれの特許文献においてもホットスポット現象の発生に伴う充填材の白濁を防止することについては述べられていない。
【0007】
また、従来の充填材としては上述したようにエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が中心であり、接着性のよい、樹脂にシラン化合物を重合させた共重合体樹脂を用いた充填材の白濁防止についての提案は行われていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特公昭62−14111号公報
【特許文献2】特開2004−214641号公報
【特許文献3】特開平6−181333号公報
【特許文献4】特開2004−327630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ホットスポット現象が発生したときに充填材の白濁を抑制することができる太陽電池モジュール用充填材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含む充填材用樹脂と、紫外線吸収剤、光安定化剤、熱安定化剤およびマスターバッチ用ポリエチレンを含むマスターバッチと、を有する太陽電池モジュール用充填材であって、上記重合用ポリエチレンおよび上記マスターバッチ用ポリエチレンが、0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする太陽電池モジュール用充填材を提供する。
【0011】
本発明によれば、重合用ポリエチレンおよびマスターバッチ用ポリエチレンの密度が比較的低いので、ホットスポット現象などで温度変化があった場合でも、ポリエチレンの結晶化を妨げるので、充填材の白濁を抑制することが可能である。
【0012】
また、上記発明においては、上記太陽電池モジュール用充填材を厚みが600±15μmのシート状としたとき、波長6000nm以上25000nm以下の範囲内におけるピーク面積が12000以下であることが好ましい。
プランクの法則より、太陽熱、もしくはホットスポット現象によりセルが数十℃〜百数十℃の熱を得た場合に、セルが放射すると考えられる熱の波長分布は約6000nm〜25000nmに含まれる。太陽光の輻射熱や太陽電池の発電時に発生する熱等により太陽電池素子の温度が上昇するとその温度特性から発電効率が低下する場合があるが、約6000nm〜25000nmにおけるピーク面積が低ければ吸熱性が低い充填材となり、太陽光の輻射熱や太陽電池の発電時に発生する熱等により太陽電池素子の温度が上昇した場合に、その温度特性から発電効率が低下することを抑制することができる。また、ホットスポット現象などで発生した熱を充填材が蓄えにくくなるので、充填材の白濁を抑制することができ、外観が損なわれることを防ぐことができる。
【0013】
また、本発明においては、上述した太陽電池モジュール用充填材を用いた充填材層を有することを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。
【0014】
本発明によれば、上述した太陽電池モジュール用充填材を用いた充填材層を有するので、透明前面基板や太陽電池素子との密着性が良く、外観の美しいものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、太陽電池モジュール用充填材に含まれる重合用ポリエチレンおよびマスターバッチ用ポリエチレンの密度が比較的低いので、ホットスポット現象などで温度変化があった場合でも、充填材の白濁を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の太陽電池モジュール用充填材、およびこれを用いた太陽電池モジュール、ならびに太陽電池モジュール用充填材の製造方法について説明する。
【0017】
A.太陽電池モジュール用充填材
まず、本発明の太陽電池モジュール用充填材について説明する。本発明の太陽電池モジュール用充填材は、エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含む充填材用樹脂と、紫外線吸収剤、光安定化剤、熱安定化剤およびマスターバッチ用ポリエチレンを含むマスターバッチと、を有する太陽電池モジュール用充填材であって、上記重合用ポリエチレンおよび上記マスターバッチ用ポリエチレンが、0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、重合用ポリエチレンおよびマスターバッチ用ポリエチレンの密度が比較的低いので、ホットスポット現象などで発生した熱により温度が上昇し、その後、外気温の降下などで冷却された場合のように温度変化があった場合でも、ポリエチレンの結晶化が妨げられ、充填材の白濁を抑制することができる。その結果、温度が上昇した太陽電池モジュール用充填材が冷却された場合のヘイズ(曇度)の上昇が抑制されるので、温度の変化によるヘイズの変化が少なくなり、外観が損なわれにくい太陽電池モジュール用充填材を得ることができる。
【0019】
さらに、本発明においては、重合用ポリエチレンおよびマスターバッチ用ポリエチレンとして、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが用いられる。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものであり、分子量分布が小さいことが知られている。本発明においては、分子量分布が小さく、かつ低密度であるポリエチレンを用いることで、充填材の白濁等を抑制することができる。すなわち、ホットスポット現象などで発生した熱により温度が上昇し、その後、外気温の降下などで冷却された場合に、分子量分布が大きく、密度の高いポリエチレンを用いると、融点が高く結晶化しやすいポリエチレンが先に結晶化し、それが核となることで、充填材の白濁が生じ易くなると考えられるが、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンのように分子量分布が小さく、かつ低密度であるポリエチレンを用いることによって、充填材の白濁を抑制することができる。
【0020】
また、本発明における充填材用樹脂に含まれるシラン変性樹脂は、上述したように透明前面基板や裏面保護シート、例えばガラス等との密着性に優れ、かつ主鎖がポリエチレンからなるものであることから有害なガスを発生させず、作業環境を悪化させないという利点を有する。
【0021】
さらに、本発明の太陽電池モジュール用充填材は紫外線吸収剤と光安定化剤と熱安定化剤と含有するので、長期にわたり安定した機械強度、接着強度、黄変防止、ひび割れ防止、優れた加工適性を得ることができる。
以下、本発明の太陽電池モジュール用充填材の各構成について説明する。
【0022】
1.充填材用樹脂
まず、本発明に用いられる充填材用樹脂について説明する。本発明に用いられる充填材用樹脂は、エチレン性不飽和シラン化合物および所定の重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含むものである。さらに、上記充填材用樹脂は、必要に応じて、添加用ポリエチレンを含有することが好ましい。上記シラン変性樹脂はコストが高いため、添加用ポリエチレンを併用することでコストの低減を図ることができるからである。
以下、充填材用樹脂に含まれるシラン変性樹脂および添加用ポリエチレン、ならびに充填材用樹脂のその他の点について説明する。
【0023】
(1)シラン変性樹脂
本発明における充填材用樹脂に含まれるシラン変性樹脂は、エチレン性不飽和シラン化合物および所定の重合用ポリエチレンを重合させてなるものである。このようなシラン変性樹脂は、例えばエチレン性不飽和シラン化合物と重合用ポリエチレンとラジカル発生剤とを混合し、高温で溶融、混練し、エチレン性不飽和シラン化合物を重合用ポリエチレンにグラフト重合させることにより得ることができる。
【0024】
本発明においては、上記重合用ポリエチレンとして、0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが用いられる。このようなメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が比較的低く、分子量分布が小さいことから、温度変化によるポリエチレンの結晶化を妨げ、充填材の白濁を抑制することができる。
【0025】
また、上記重合用ポリエチレンは、上述したように0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するものであるが、中でも密度が0.898〜0.905g/cmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
このような重合用ポリエチレンとしては、メタロセン触媒を用いて合成された直鎖状のポリエチレンであって、上記密度を有するものであれば特に限定されるものではなく、一般的なメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを用いることができる。また、上記重合用ポリエチレンは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
一方、上記シラン変性樹脂に用いられるエチレン性不飽和シラン化合物としては、上記重合用ポリエチレンとグラフト重合するものであれば特に限定されるものではなく、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、および、ビニルトリカルボキシシランからなる群から選択される少なくとも1種類のものを用いることができる。中でも、ビニルトリメトキシシランが好適に用いられる。
【0028】
本発明の太陽電池モジュール用充填材中のエチレン性不飽和シラン化合物の含有量は、10ppm以上が好ましく、より好ましくは20ppm以上である。本発明においては、上述した重合用ポリエチレンと重合させたエチレン性不飽和シラン化合物を用いることにより、太陽電池モジュール用充填材を用いて太陽電池モジュールとした場合に透明前面基板や裏面シート、例えばガラス等との密着性が実現するものである。上記エチレン性不飽和シラン化合物の含有量が上記範囲に満たない場合は、ガラス等との密着性が不足する。
一方、エチレン性不飽和シラン化合物の含有量は、4000ppm以下が好ましく、より好ましくは3000ppm以下である。上限値は、ガラス等との密着性の観点からは限定されるものではないが、上記範囲を超えるとガラス等との密着性は変わらずコストが高くなる。
【0029】
上記シラン変性樹脂は、太陽電池モジュール用充填材中に好ましくは1〜80重量%の範囲内、さらに5〜70重量%の範囲内で含有されることが好ましい。本発明の太陽電池モジュール用充填材は、上記シラン変性樹脂を含有することによりガラス等との密着性が高くなる。したがって、ガラス等との密着性、かつコストの点から、上記範囲内が好適である。
【0030】
また、上記シラン変性樹脂は、190℃でのメルトマスフローレートが0.5〜10g/10分であるものが好ましく、1〜8g/10分であるものがより好ましい。本発明の太陽電池モジュール用充填材の成形性、および透明前面基板や裏面保護シートとの接着性等に優れるからである。
さらに、上記シラン変性樹脂の融点は、110℃以下であることが好ましい。本発明の太陽電池モジュール用充填材を用いた太陽電池モジュールの製造時において、加工性等の面から上記範囲が好適である。なお、上記融点は、プラスチックの転移温度測定方法(JIS K 7121)に準拠し、示差走査熱量分析(DSC)により測定した値とする。この際、融点ピークが2つ以上存在する場合は高い温度の方を融点とする。
【0031】
上記シラン変性樹脂に添加するラジカル発生剤としては、例えばジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−パーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、または、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0032】
上記ラジカル発生剤は、上記シラン変性樹脂中に0.001重量%以上含まれることが好ましい。上記範囲未満では、エチレン性不飽和シラン化合物と重合用ポリエチレンとのラジカル重合が起こりにくいからである。
【0033】
なお、本発明に用いられるシラン変性樹脂は、合わせガラス用途にも使用できるものである。合わせガラスは、ガラスとガラスとの間に柔軟で強靭な樹脂等をはさんで加熱圧着して作製されるものであるので、ガラスとの密着性の点から、上記シラン変性樹脂を用いることができる。
【0034】
また、上記シラン変性樹脂の調製方法としては、特に限定されるものではないが、例えばエチレン性不飽和シラン化合物と重合用ポリエチレンとラジカル発生剤との混合物を、加熱溶融混合し、エチレン性不飽和シラン化合物を重合用ポリエチレンにグラフト重合させる方法を挙げることができる。この際、加熱温度は300℃以下が好ましく、さらには270℃以下が好ましく、最も好ましい温度は230℃以下である。
【0035】
(2)添加用ポリエチレン
次に、本発明に用いられる添加用ポリエチレンについて説明する。上述したように、上記充填材用樹脂は、必要に応じて、添加用ポリエチレンを含有することが好ましい。上記添加用ポリエチレンとしては、具体的には、上記シラン変性樹脂に用いられる重合用ポリエチレンと同様のもの、すなわち、0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを挙げることができる。本発明においては、特に、添加用ポリエチレンが上記重合用ポリエチレンと同一のポリエチレンであることが好ましい。
【0036】
添加用ポリエチレンの含有量は、上記シラン変性樹脂100重量部に対し、0.01重量部〜9900重量部が好ましく、90重量部〜9,900重量部がより好ましい。また、上記シラン変性樹脂を2種以上用いる場合には、その合計量100重量部に対し、添加用ポリエチレンの含有量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
また、上記添加用ポリエチレンは、190℃でのメルトマスフローレートが0.5〜10g/10分であるものが好ましく、1〜8g/10分であるものがより好ましい。本発明の太陽電池モジュール用充填材の成形性等に優れるからである。
さらに、上記添加用ポリエチレンの融点は、130℃以下であることが好ましい。本発明の太陽電池モジュール用充填材を用いた太陽電池モジュールの製造時における加工性等の面から上記範囲が好適である。なお、上記融点は、上述した方法により測定した値とする。
【0038】
(3)その他
本発明に用いられる充填材用樹脂は、190℃でのメルトマスフローレートが0.5〜10g/10分であるものが好ましく、1〜8g/10分であるものがより好ましい。太陽電池モジュール用充填材の成形性、透明前面基板および裏面保護シートとの接着性等に優れるからである。
また、充填材用樹脂の融点は130℃以下であることが好ましい。本発明の太陽電池モジュール用充填材を用いた太陽電池モジュールの製造時において、加工性等の面から上記範囲が好適である。また、太陽電池モジュールの構成部材、例えば太陽電池素子や透明前面基板を再利用する場合に、融点がこの程度であれば容易に再利用することができるからである。なお、上記融点は、上述した方法により測定した値とする。
【0039】
2.マスターバッチ
次に、本発明に用いられるマスターバッチについて説明する。本発明に用いられるマスターバッチは、紫外線吸収剤、光安定化剤、熱安定化剤およびマスターバッチ用ポリエチレンを含むものである。
以下、マスターバッチに含まれるマスターバッチ用ポリエチレン、紫外線吸収剤、光安定化剤および熱安定化剤について説明する。
【0040】
(1)マスターバッチ用ポリエチレン
まず、本発明に用いられるマスターバッチ用ポリエチレンについて説明する。本発明においては、マスターバッチ用ポリエチレンとして、0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが用いられる。このようなメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が比較的低く、分子量分布が小さいことから、温度変化によるポリエチレンの結晶化を妨げ、充填材の白濁を抑制することができる。
【0041】
上記マスターバッチ用ポリエチレンとしては、上記「1.充填材用樹脂」に記載した重合用ポリエチレンと同様のものを用いることができるので、ここでの説明は省略する。
【0042】
(2)紫外線吸収剤
次に、本発明に用いられる紫外線吸収剤について説明する。本発明に用いられる紫外線吸収剤は、太陽光中の有害な紫外線を吸収して、分子内で無害な熱エネルギーへと変換し、太陽電池モジュール用充填材中の光劣化開始の活性種が励起されるのを防止するものである。具体的には、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチレート系、アクリルニトリル系、金属錯塩系、ヒンダードアミン系、あるいは、超微粒子酸化チタン(粒子径:0.01μm〜0.06μm)および超微粒子酸化亜鉛(粒子径:0.01μm〜0.04μm)等の無機系などの紫外線吸収剤が挙げられる。
【0043】
太陽電池モジュール用充填材中の紫外線吸収剤の含有量としては、その粒子形状、密度等によって異なるが、具体的には0.075重量%〜0.3重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%〜0.2重量%の範囲内である。なお、マスターバッチ中の紫外線吸収剤の含有量としては、特に限定されるものではないが、太陽電池モジュール用充填材中の紫外線吸収剤の含有量が上記の範囲となるように、マスターバッチ中の紫外線吸収剤の含有量を選択することが好ましい。
【0044】
(3)光安定化剤
次に、本発明に用いられる光安定化剤について説明する。本発明に用いられる光安定化剤は、太陽電池モジュール用充填材中の光劣化開始の活性種を捕捉し、光酸化を防止するものである。具体的には、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードピペリジン系化合物などの光安定化剤が挙げられる。
【0045】
太陽電池モジュール用充填材中の光安定化剤の含有量としては、その粒子形状、密度等によって異なるが、具体的には0.1重量%〜0.4重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.15重量%〜0.3重量%の範囲内である。なお、マスターバッチ中の光安定化剤の含有量としては、特に限定されるものではないが、太陽電池モジュール用充填材中の光安定化剤の含有量が上記の範囲となるように、マスターバッチ中の光安定化剤の含有量を選択することが好ましい。
【0046】
(4)熱安定化剤
次に、本発明に用いられる熱安定化剤について説明する。本発明に用いられる熱安定化剤は、太陽電池モジュール用充填材の酸化劣化を防止するものである。具体的には、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4´−ジイルビスホスフォナイト、および、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等のリン系熱安定化剤;8−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物等のラクトン系熱安定化剤;フェノール系熱安定化剤;アミン系熱安定化剤;硫黄系熱安定化剤;などを挙げることができる。また、これらを1種または2種以上を用いることもできる。中でも、リン系熱安定化剤およびラクトン系熱安定化剤を併用して用いることが好ましい。
【0047】
太陽電池モジュール用充填材中の熱安定化剤の含有量としては、その粒子形状、密度等によって異なるが、具体的には0.01重量%〜0.16重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.01重量%〜0.17重量%の範囲内である。なお、マスターバッチ中の熱安定化剤の含有量としては、特に限定されるものではないが、太陽電池モジュール用充填材中の熱安定化剤の含有量が上記の範囲となるように、マスターバッチ中の熱安定化剤の含有量を選択することが好ましい。
【0048】
なお、上記熱安定化剤の含有量の測定方法としては、還流・再沈殿法による前処理を行い、定性分析および定量分析を行う方法を用いるものとする。すなわち、(1)太陽電池モジュール用充填材に溶媒を加えて還流抽出を行い、樹脂成分および添加剤成分を溶解させる。(2)この溶解液に貧溶媒を加えて樹脂成分を沈殿させた後、ろ過を行う。(3)ろ液を濃縮、定容したものを供試液とする。(4)得られた供試液について、定性分析および定量分析を行う。この際、定性分析には、ガスクロマトグラフ/質量分析装置(GC/MS)、および高速液体クロマトグラフ/紫外線検出器(HPLC/UVD)を用い、定量分析には、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化検出器(GC/FID)を用いるものとする。
【0049】
3.太陽電池モジュール用充填材
本発明においては、太陽電池モジュール用充填材の密度が0.895g/cm〜0.910g/cm程度であることが好ましく、より好ましくは0.898g/cm〜0.905g/cm程度である。上述したように、本発明においては、重合用ポリエチレンおよびマスターバッチ用ポリエチレンの密度が所定の範囲であることから、太陽電池モジュール用充填材全体の密度としては上記範囲内であることが好ましいのである。
【0050】
なお、上記密度は、JIS K 7112に規定の密度勾配管法により測定した値とする。具体的には、比重の異なる液体を入れた試験管の中へサンプルを投入し、止まった位置を読み取ることにより密度を測定した。
【0051】
本発明においては、太陽電池モジュール用充填材を厚みが600±15μmのシート状としたとき、波長6000nm以上25000nm以下の範囲内におけるピーク面積が12000以下、中でも10700以下であることが好ましい。
なお、上記ピーク面積は、FT−IR610(日本分光株式会社製)を用いて、赤外分光法により6000nmから25000nmの赤外吸収スペクトルを測定し、得られた赤外吸収スペクトルから、ピーク面積が算出される。なお、本発明においては、上記ピーク面積を市販のソフトウェア(Spectra Manager for Windows(登録商標)95/NTスペクトル解析version1.50.00[Build8] 日本分光株式会社製)を用いて算出した。
【0052】
さらに、太陽電池モジュール用充填材は、光線透過性が高いことが好ましい。具体的には、太陽電池モジュール用充填材の全光線透過率が、70%〜100%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは80%〜100%の範囲内、最も好ましくは90%〜100%の範囲内である。なお、上記全光線透過率は、通常の方法により測定することができ、例えばカラーコンピュータにより測定することができる。
【0053】
また、太陽電池モジュール用充填材がシート状に成形されたものである場合、その厚みは、50〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に100〜1250μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲より薄い場合はセルを支持することができずセルの破損が生じやすくなり、上記範囲より厚い場合はモジュール重量が重くなり設置時などの作業性が悪いばかりでなく、コスト面でも不利となる場合もあるからである。
なお、本発明の太陽電池モジュール用充填材の製造方法については、後述する「C.太陽電池モジュール用充填材の製造方法」の欄に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0054】
B.太陽電池モジュール
次に、本発明の太陽電池モジュールについて説明する。本発明の太陽電池モジュールは、上述した太陽電池モジュール用充填材を用いた充填材層を有することを特徴とするものである。
【0055】
図1は、本発明の太陽電池モジュールの一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、複数個の太陽電池素子1が同一平面状に並べられており、太陽電池素子1間には配線電極2および取り出し電極3が配置されている。太陽電池素子1は、その両面が表側充填材層4aと裏側充填材層4bにより挟持されており、表側充填材層4aの外側には透明前面基板5が積層され、裏側充填材層4bの外側には裏面保護シート6が積層されている。この太陽電池モジュールTはアルミニウムなどの外枠7で固定されていてもよい。本発明においては、表側充填材層4aおよび裏面充填材層4bの少なくとも一方に、上述した太陽電池モジュール用充填材を用いることができ、中でも表面充填材層4aに用いることが好ましい。
【0056】
本発明によれば、上述した太陽電池モジュール用充填材を用いた充填材層を有するので、上述した利点を有する太陽電池モジュールとすることができる。具体的には、ホットスポット現象等による温度変化の影響による充填材の白濁を抑制することができ、外観が損なわれるのを防ぐことができる。
以下、本発明の太陽電池モジュールの構成について説明する。
【0057】
1.充填材層
本発明に用いられる充填材層は、「A.太陽電池用モジュール用充填材」に記載の充填材を用いてなるものである。上記充填材層は、太陽電池素子と透明前面基板または裏面保護シートとを接着させる役割をもつものであるため、透明前面基板または裏面保護シートとの密着性が高いことが好ましい。具体的には、充填材層の25℃雰囲気下における180°剥離試験において測定された透明前面基板または裏面保護シートとの剥離強度が、1N/15mm幅〜150N/15mm幅の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3N/15mm幅〜150N/15mm幅、最も好ましくは10N/15mm幅〜150N/15mm幅の範囲内である。
【0058】
なお、上記剥離強度は以下の試験方法により得た値とする。
試験機:エー・アンド・ディー(A&D)株式会社製の引っ張り試験機〔機種名:テンシロン〕
測定角度:180°剥離
剥離速度:50mm/min
【0059】
また、充填材層は、密着性を長期間保持していることが好ましく、太陽電池モジュールを温度85℃、湿度85%の高温多湿状態にて1000時間放置した後の25℃雰囲気下における180°剥離試験において測定された透明前面基板または裏面保護シートとの剥離強度が、0.5N/15mm幅〜140N/15mm幅の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3N/15mm幅〜140N/15mm幅、さらに好ましくは10N/15mm幅〜140N/15mm幅の範囲内である。なお、測定方法は上述した方法と同様の方法が用いられる。
【0060】
充填材層の厚みは、50〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に100〜1250μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲より薄い場合はセルを支持することができずセルの破損が生じやすくなり、上記範囲より厚い場合はモジュール重量が重くなり設置時などの作業性が悪いばかりでなく、コスト面でも不利となる場合もあるからである。
【0061】
2.太陽電池素子
本発明に用いられる太陽電池素子としては、光起電力としての機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、一般に太陽電池素子として使用されているものを使用することができる。例えば、単結晶シリコン型太陽電池素子、多結晶シリコン型太陽電池素子等の結晶シリコン太陽電池素子、シングル結合型もしくはタンデム構造型等からなるアモルファスシリコン太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウムリン(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)や銅インジウムセレナイド(CuInSe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子などが挙げられる。また、薄膜多結晶性シリコン太陽電池素子、薄膜微結晶性シリコン太陽電池素子、薄膜結晶シリコン太陽電池素子とアモルファスシリコン太陽電池素子とのハイブリッド素子等も使用することができる。
【0062】
これらの太陽電池素子は、例えば、ガラス基板、プラスチック基板、金属基板等の基板上に、pn接合構造等の結晶シリコン、p−i−n接合構造等のアモルファスシリコン、化合物半導体等の起電力部分が形成されて構成される。
【0063】
本発明の太陽電池モジュールにおいては、図1に示すように、太陽電池素子1が複数個並べられている。この太陽電池素子1が太陽光に照らされると、電子(−)と正孔(+)が発生し、太陽電池素子間に配置された配線電極2および取り出し電極3により電流が流れ出す仕組みである。
【0064】
3.透明前面基板
本発明において、透明前面基板は、モジュール内部を風雨や外部衝撃、火災などから保護し、太陽電池モジュールの屋外暴露における長期信頼性を確保する機能を有する。
このような透明前面基板としては、太陽光の透過性、電気絶縁性を有し、かつ、機械的もしくは化学的ないし物理的強度に優れているものであれば特に限定されるものではなく、一般に太陽電池モジュール用の透明前面基板として用いられているものを使用することができる。例えば、ガラス板、フッ素系樹脂シート、環状ポリオレフィン系樹脂シート、ポリカーボネート系樹脂シート、ポリ(メタ)アクリル系樹脂シート、ポリアミド系樹脂シート、またはポリエステル系樹脂シートなどが挙げられる。これらの中でも、本発明における透明前面基板としては、ガラス板を用いるのが好ましい。ガラス板は、耐熱性に優れており、使用済みの太陽電池モジュールから各構成部材を分離し、ガラス板表面に付着した表側充填材を除去する際の加熱温度を十分に高く設定することができるため、リユースもしくはリサイクルが容易なものとなるからである。
【0065】
4.裏面保護シート
裏面保護シートは、太陽電池モジュール裏面を外界から保護する耐候性フィルムである。本発明に用いられる裏面保護シートとしては、例えばアルミニウム等の金属板もしくは金属箔、フッ素系樹脂シート、環状ポリオレフィン系樹脂シート、ポリカーボネート系樹脂シート、ポリ(メタ)アクリル系樹脂シート、ポリアミド系樹脂シート、ポリエステル系樹脂シート、または耐候性フィルムとバリアフィルムとをラミネート積層した複合シートなどが挙げられる。
本発明に用いられる裏面保護シートの厚みは、20μm〜500μmの範囲内が好ましく、より好ましくは60μm〜350μmの範囲内である。
【0066】
5.その他の構成部材
本発明においては、上記のほか、太陽光の吸収性、補強、その他の目的のもとに、さらに他の層を任意に加えて積層することもできる。
また、各構成部材を積層した後、各層を一体成形体として固定するために外枠を設ける
こともできる。外枠としては、上記裏面保護シートに用いた材料と同様のものを使用でき
る。
【0067】
6.太陽電池モジュールの製造方法
本発明の太陽電池モジュールの製造方法は、特に限定されるものではなく、一般に太陽電池モジュールの製造方法として用いられている方法が使用できる。例えば、透明前面基板、太陽電池モジュール用充填材、太陽電池素子、太陽電池モジュール用充填材、および裏面保護シートを対向させてこの順に積層し、さらに必要な場合はその他の構成部材を積層して、次いでこれらを真空吸引等により一体化して加熱圧着するラミネーション法等の通常の成形法を利用し、これらの各構成部材を一体成形体として加熱圧着成形する方法が挙げられる。
【0068】
本発明において、このようなラミネーション法を用いた際のラミネート温度は、90℃〜230℃の範囲内であることが好ましく、特に110℃〜190℃の範囲内とすることが好ましい。上記範囲より温度が低いと十分に溶融せず、透明前面基板、補助電極、太陽電池素子、裏面保護シートなどとの密着性が悪くなる可能性があるからである。
【0069】
ラミネート時間は、5〜60分の範囲内が好ましく、特に8〜40分の範囲内が好ましい。ラミネート時間が短すぎると十分に溶融せず、各構成部材との密着性が悪くなる可能性があるからである。また、ラミネート時間が長すぎる、工程上の問題となる場合がある。
なお、これらの各構成部材を積層させた一体成形体を固定化するための外枠は、各構成部材を積層した後、加熱圧着する前に取り付けることもできるが、加熱圧着後に取り付けてもよい。
【0070】
C.太陽電池モジュール用充填材の製造方法
次に、本発明の太陽電池モジュール用充填材の製造方法について説明する。本発明の太陽電池モジュール用充填材の製造方法は、エチレン性不飽和シラン化合物と、密度が0.895〜0.910g/cmの範囲内であり、かつ、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンである重合用ポリエチレンと、を重合させてなるシラン変性樹脂を含む充填材用樹脂に、紫外線吸収剤と、光安定化剤と、熱安定化剤と、密度が0.895〜0.910g/cmの範囲内であり、かつ、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであるマスターバッチ用ポリエチレンと、を含むマスターバッチを加熱溶融させる工程を有することを特徴とするものである。
【0071】
従来、マスターバッチを作製する際には、熱安定化剤等の添加剤の分散性をよくするために、添加剤とマスターバッチ用ポリエチレンを粉砕したポリエチレンパウダーとを混合する場合が多く、この際には比較的密度の高いポリエチレンを用いるのが主流であった。これは、高密度のポリエチレンの方が粉砕しやすく加工性に優れており、低コスト化が図れるからである。しかしながら、高密度のポリエチレンは結晶化しやすいという欠点があり、充填材が白濁する要因となっていた。
本発明によれば、マスターバッチ用ポリエチレンの密度が比較的低いので、ホットスポット現象などで温度変化があった場合でもポリエチレンの結晶化を妨げられ、充填材の白濁を抑えることができる。したがって、温度変化により白濁しにくい太陽電池モジュール用充填材を製造することができる。
以下、本発明の太陽電池モジュール用充填材の製造方法について、構成ごとに説明する。
【0072】
1.充填材用樹脂
本発明に用いられる充填材用樹脂は、エチレン性不飽和シランと、密度が0.895〜0.910g/cmの範囲内であり、かつ、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンである重合用ポリエチレンと、を重合させてなるシラン変性樹脂を含むものである。このような充填材用樹脂としては、「A.太陽電池モジュール用充填材」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0073】
2.マスターバッチ
本発明に用いられるマスターバッチは、紫外線吸収剤と、光安定化剤と、熱安定化剤と、密度が0.895〜0.910g/cmの範囲内であり、かつ、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであるマスターバッチ用ポリエチレンと、を含むものである。このようなマスターバッチとしては、「A.太陽電池モジュール用充填材」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0074】
3.太陽電池モジュール用充填材の作製方法
次に、太陽電池モジュール用充填材の作製方法について説明する。本発明においては、上記充填材用樹脂に上記マスターバッチを加熱溶融させる工程を行うことによって、太陽電池モジュール用充填材を作製する。
この際、添加用ポリエチレンを含む充填材用樹脂と、マスターバッチとを加熱溶融させても良いし、添加ポリエチレンを含まない充填材用樹脂と、添加用ポリエチレンと、マスターバッチとを加熱溶融させても良い。
【0075】
また、これらの加熱溶融方法としては、特に限定されるものではない。加熱温度は300℃以下が好ましく、さらには270℃以下が好ましく、最も好ましい温度は230℃以下である。また、本発明においては、加熱溶融した後に、太陽電池モジュール用充填材をシート状に成形してもよい。この場合には、加熱溶融後にTダイ、インフレなどの既存の方法を用いることができる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0077】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに説明する。
[実施例1]
(シラン変性樹脂の調製)
密度0.898g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン100重量部に対し、ビニルトリメトキシシラン2.5重量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1重量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、シラン変性樹脂を得た。
【0078】
(マスターバッチの調製)
密度0.900g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3.75重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤5重量部と、リン系熱安定化剤0.5重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチを得た。
【0079】
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
上記シラン変性樹脂20重量部に対して、上記マスターバッチ5重量部と、添加用ポリエチレンとしての密度0.905g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン80重量部とを混合し、φ150mm押出し機、1000mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度230℃、引き取り速度2.3m/minで総厚600μmの太陽電池モジュール用充填材を作製した。
【0080】
(太陽電池モジュールの作製)
厚み3mmのガラス板(透明前面基板)と、厚み600μmの太陽電池モジュール用充填材と、多結晶シリコンからなる太陽電池素子と、厚み600μmの太陽電池モジュール用充填材と、厚み38μmのポリフッ化ビニル系樹脂シート(PVF)、厚み30μmのポリエチレンテレフタレートシートおよび厚み38μmのポリフッ化ビニル系樹脂シート(PVF)からなる積層シート(裏面保護シート)とをこの順に積層し、太陽電池素子面を上に向けて、太陽電池モジュールの製造用の真空ラミネータにて150℃で15分間圧着して、太陽電池モジュールを作製した。
【0081】
[実施例2]
(マスターバッチの調製)
密度0.898g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー30重量部に対して、密度0.900g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンレジン70重量部と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤7重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤10重量部と、リン系熱安定化剤1重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチを作製した。
【0082】
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
実施例1で用いたシラン変性樹脂40重量部に対して、上記マスターバッチ5重量部と、添加用ポリエチレンとしての密度0.900g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン60重量部とを混合し、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュール用充填材を作製した。
さらに、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0083】
[実施例3]
(マスターバッチの調製)
密度0.896g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3.75重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤2.5重量部と、リン系熱安定化剤0.25重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチを作製した。
【0084】
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
実施例1で用いたシラン変性樹脂10重量部に対して、上記マスターバッチ5重量部と、添加用ポリエチレンとしての密度0.900g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン90重量部とを混合し、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュール用充填材を作製した。
さらに、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0085】
[実施例4]
(シラン変性樹脂の調製)
密度0.896g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン100重量部に対し、ビニルトリメトキシシラン2.5重量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1重量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、シラン変性樹脂を得た。
【0086】
(マスターバッチの調製)
密度0.904g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤1.88重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤10重量部と、リン系熱安定化剤0.5重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチを作製した。
【0087】
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
上記シラン変性樹脂20重量部に対して、上記マスターバッチ5重量部と、添加用ポリエチレンとしての密度0.898g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン80重量部とを混合し、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュール用充填材を作製した。
さらに、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0088】
[実施例5]
(シラン変性樹脂の調製)
密度0.904g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン100重量部に対し、ビニルトリメトキシシラン2.5重量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1重量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、シラン変性樹脂を得た。
【0089】
(マスターバッチの調製)
密度0.896g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3.75重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤20重量部と、リン系熱安定化剤0.5重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチを作製した。
【0090】
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
上記シラン変性樹脂20重量部に対して、上記マスターバッチ5重量部と、添加用ポリエチレンとしての密度0.898g/cmのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン80重量部とを混合し、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュール用充填材を作製した。
さらに、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0091】
[比較例1]
(マスターバッチの調製)
密度0.940g/cmの中密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3.75重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤10重量部と、リン系熱安定化剤1重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチを作製した。
【0092】
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
実施例1で用いたシラン変性樹脂10重量部に対して、上記マスターバッチ5重量部と、添加用ポリエチレンとして密度0.900g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン90重量部とを混合し、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュール用充填材を作製した。
さらに、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0093】
[比較例2]
(マスターバッチの調製)
密度0.910g/cmのチーグラー触媒系直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3.75重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤5重量部と、リン系熱安定化剤0.5重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化した耐候剤マスターバッチを作製した。
【0094】
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
実施例1で用いたシラン変性樹脂10重量部に対して、上記耐候剤マスターバッチ5重量部と、添加用ポリエチレンとして密度0.900g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン90重量部とを混合し、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュール用充填材を作製した。
さらに、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0095】
[比較例3]
(太陽電池モジュール用充填材の作製)
比較例1と同様の方法でマスターバッチを作製した。
実施例1で用いたシラン変性樹脂20重量部に対して、上記マスターバッチ5重量部と、酢酸ビニル(VA)含量12%のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)80重量部とを混合し、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュール用充填材を作製した。
さらに、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0096】
[比較例4]
(太陽電池モジュールの作製)
実施例1の太陽電池モジュール用充填材の代わりに、市販の太陽電池モジュール用EVAシート(厚さ600μm)を用いたこと、および真空ラミネータにて150℃で5分圧着した後に150℃に保持したオーブンに30分放置したこと以外は、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0097】
[特性の評価]
実施例1〜5および比較例1〜4における太陽電池モジュール用充填材および太陽電池モジュールについて、下記の試験を行った。各試験の測定結果を下記表1に示す。
【0098】
(1)ヘイズの測定
(室温放置)
太陽電池モジュール用充填材について、スガ試験機(株)製 SMカラーコンピュータ(SM−C)によりヘイズ(%)を測定した。具体的には、太陽電池モジュール用充填材を、表裏全光線透過率91%、ヘイズ0.2%、厚み3mmの青板フロートガラスで挟みこみ、太陽電池モジュール製造用の真空ラミネータにより150℃で15分間圧着した後、室温(25℃)で放置することにより冷却して、ヘイズ測定用のサンプルを作製し、このサンプルについてヘイズを測定した。
【0099】
(急冷)
上記のヘイズ測定用のサンプルを150℃のオーブンに1時間投入し、取出した後、即座に−20℃の冷凍庫に投入して10分間放置した。冷凍庫から取り出し、室温(25℃)で放置し、サンプル温度が室温になった後にスガ試験機(株)製 SMカラーコンピュータ(SM−C)によりヘイズを測定した。
【0100】
(徐冷)
上記のヘイズ測定用のサンプルを150℃のオーブンに1時間投入した後、オーブンの設定温度を徐々に下げ、冷却速度1℃/minで室温(25℃)まで冷却した。その後、スガ試験機(株)製 SMカラーコンピュータ(SM−C)によりヘイズを測定した。
【0101】
(2)密着性の測定
太陽電池モジュールの製造後、太陽電池モジュール用充填材層と透明前面基板との室温(25℃)下での剥離強度(N/15mm幅)を測定した。
【0102】
(3)ホットスポット試験
太陽電池モジュールについてJIS規格C8917に基づいてホットスポット試験を行い、試験後の外観を評価した。
【0103】
(4)ピーク面積
FT−IR610(日本分光株式会社製)を用いて、赤外分光法により6000nmから25000nmの赤外吸収スペクトルを測定し、得られた赤外吸収スペクトルから、ピーク面積を算出した。一例として実施例1の赤外吸収スペクトルを図2に示す。斜線部が求めたピーク面積である。
【0104】
(5)太陽電池モジュール温度
太陽電池モジュールを日当たりの良い屋外の架台に設置し、気温約32℃の条件で1時間暴露し、その後、太陽電池モジュールの温度を測定した。
【0105】
【表1】

【0106】
表1から明らかなように、実施例1〜5における太陽電池モジュール用充填材のヘイズは冷却速度による違いが少なく、ホットスポット試験後に白濁が生じにくかった。また、ピーク面積が小さく、熱線の吸収が低いことが確認できた。更に、屋外暴露時の太陽電池モジュールの温度が低いことが確認できた。
これに対し、比較例1〜4における太陽電池モジュール用充填材では、冷却速度によるヘイズの差が大きく、ホットスポット試験後に白濁した。更に、比較例3、4における太陽電池モジュール用充填材ではピーク面積が大きく、熱線の吸収が高いことが確認できた。更に、屋外暴露時の太陽電池モジュールの温度が高いことが確認できた。
尚、以上の効果については、上記実施例及び比較例で挙げた透明前面基板、裏面保護シートの構成によらず他の構成においても同様な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図2】実施例1の太陽電池モジュール用充填材の赤外吸収スペクトルである。
【符号の説明】
【0108】
1 … 太陽電池素子
2 … 配線電極
3 … 取り出し電極
4a … 表側充填材層
4b … 裏側充填材層
5 … 透明前面基板
6 …裏面保護シート
T … 太陽電池モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含む充填材用樹脂と、紫外線吸収剤、光安定化剤、熱安定化剤およびマスターバッチ用ポリエチレンを含むマスターバッチと、を有する太陽電池モジュール用充填材であって、前記重合用ポリエチレンおよび前記マスターバッチ用ポリエチレンが、0.895〜0.910g/cmの範囲内の密度を有するメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする太陽電池モジュール用充填材。
【請求項2】
前記太陽電池モジュール用充填材を厚みが600±15μmのシート状としたとき、波長6000nm以上25000nm以下の範囲内におけるピーク面積が12000以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール用充填材。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の太陽電池モジュール用充填材を用いた充填材層を有することを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−150069(P2007−150069A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344050(P2005−344050)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】