説明

太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物及び太陽電池モジュール

【課題】太陽電池モジュールの製造時に、EVAシートの加熱加圧時間を短縮することができる太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物及びこれによって形成された太陽電池封止膜を備える太陽電池モジュールの提供。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル共重合体に、下記一般式(1)で表わされる有機過酸化物が配合されている太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。


(式中、R1は、炭素数5〜10のアルキル基、R2〜R7は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜5のアルキル基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物及び太陽電池モジュールに関し、より詳しくは、太陽電池モジュールの製造時に太陽電池用封止膜の形成時間を短縮することのできる太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物及びこれによって形成された太陽電池封止膜を備える太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や環境汚染の防止の面から、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池が注目され、開発が進められている。
【0003】
種々の太陽電池のうち、結晶系シリコン太陽電池は一般に、下記の構造を有している。すなわち、板状の結晶系シリコン発電素子の表面側に配置された透明保護部材としてのガラス基板と、裏面側に配置された保護部材としてのバックシートと、これらの間に、透光性を有する封止材としてのエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」という。)が充填され、ガラス基板及びバックシートを一体化してなる膜が形成されており、このEVA製の膜によって、当該結晶系シリコン発電素子等が封止された構成を備えている。
【0004】
このような構成を備える太陽電池モジュールの製造は、封止膜形成用の2枚のEVA製のシート状樹脂組成物(以下、EVAシート)を用い、専用の封止装置によって下記のようにして行われる。ガラス基板、表側の封止膜用のEVAシート、結晶系シリコン発電素子、裏側の封止膜用のEVAシート及びバックシートをこの順で積層し(図1参照)、この状態で、真空にしながら加熱加圧をして、EVAシートを架橋硬化させて接着一体化して結晶系シリコン発電素子を封止材によって封止することにより行われる。
【0005】
なお、封止膜形成用のEVAシートは、一般に熱溶融性の樹脂を、直線状スリットを有するT−ダイから押し出し、冷却ロール又は水槽で急冷固化するT−ダイ法や、カレンダー法等によりシート状に成形されたものである。
【0006】
EVAシートを用いた太陽電池モジュールの製造においては、その封止工程の加熱加圧に伴い、EVAシート内に予め添加している有機過酸化物を熱分解させて有機ラジカルを発生させ、EVA樹脂内に架橋構造を持たせることによって、太陽電池モジュールの耐久性を向上させている。
【0007】
封止膜用のEVAシートに従来用いられてきた有機過酸化物は、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンやt−ブチルパーオキシ−2−エチルモノカーボネートである。例えば、特許文献1に、架橋剤に用いられる有機過酸化物として、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−190865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
EVA樹脂内に架橋構造を持たせるための有機過酸化物等の硬化剤は、形成される封止膜の形成工程や性能を決定する重要な役割を果たすが、下記に述べるように、上記した以外に適したものがなかった。これに対し、封止膜の形成速度の迅速化や、封止膜の性能の向上に寄与し得る硬化剤を適用できれば、今後が期待されている太陽エネルギーの有効利用に資する、より有用な太陽電池の提供が可能となる。
【0010】
上述した従来用いている2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルモノカーボネートの2種以外の有機酸化物を用いた場合は、JIS−C8917に準拠する耐湿熱試験を実施すると、バックシート側で発泡が生じ、太陽電池の耐久性に影響し、改善の余地があった。
【0011】
また、従来用いている2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンやt−ブチルパーオキシ−2−エチルモノカーボネートには、熱分解温度が高過ぎるという課題があった。すなわち、これらをEVAの架橋剤として封止膜用のEVAシートに用いた場合、その高い分解温度に起因してEVAシートを架橋硬化させるための時間が長くなるという問題があった。そして、このことが、太陽電池モジュールの製造の際における、EVAシートを融解、架橋硬化させ、一体化する工程時間に直結し、太陽電池の生産性の向上を阻害する一因となっていた。これに対し、本発明者らの検討によれば、例えば、同一温度で、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンよりも分解速度が速いt−ブチルパーオキシ−2−エチルモノカーボネートをEVAの架橋剤として適用した場合であっても、封止装置の温度を、EVAシートを用いた場合における通常の加熱温度である135℃に設定して太陽電池モジュールを製造した場合、真空時間5分及び加圧時間15分を要しており、更なる迅速化が切望されている。
【0012】
しかし、EVAシートを架橋硬化させて封止膜を形成する工程の時間短縮を追求する一方で、封止膜としての基本性能が損なわれることは避けなければならない。例えばt−ブチルパーオキシ−2−エチルモノカーボネートよりも低温分解型の有機過酸化物をEVAシートに添加した場合には、太陽電池モジュールの製造の際に、バックシート側で発泡することが知られている。
【0013】
したがって、本発明は、上記の問題を有利に解決し、太陽電池モジュールの製造時に、EVAシートの加熱加圧時間を短縮することができる太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物及びこれによって形成された太陽電池封止膜を備える太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体に、下記一般式(1)で表わされる有機過酸化物が配合されていることを特徴とする太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物を提供する。

(式中、R1は、炭素数5〜10のアルキル基であり、R2、R4、R6は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜5のアルキル基、エステル基、チオ基、アルコキシ基、水酸基、アリール基及びアミド基からなる群から選ばれるいずれかである。R3、R5、R7は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜5のアルキル基、エステル基、チオ基、アルコキシ基、水酸基、アリール基及びアミド基からなる群から選ばれるいずれかであるか、または、R3、R5、R7によってシクロ環内に二重結合を形成することができる。)
【0015】
本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。上記一般式(1)のR1が、t−ヘキシル基である上記太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。上記一般式(1)で表わされる有機過酸化物が、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、または、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5トリメチルシクロヘキサンである上記太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。上記有機過酸化物の配合量が、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して5質量部以下で添加されている上記太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。
【0016】
また、本発明の別の実施形態では、上記太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物によって形成された太陽電池封止膜を備えていることを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物であるEVAシートに、架橋剤として、従来用いられていたものよりも低温分解型で、これにより形成される封止膜が十分な性能のものとなる特定の有機過酸化物を配合することで、EVAシートによって形成される封止膜の性能維持と、該封止膜を形成する工程の時間短縮を達成でき、ひいては、高品質の太陽電池の提供と、該太陽電池の生産性の向上に寄与できる。本発明によれば、従来よりも迅速に、そのJIS−C8917に準拠する耐湿熱試験で発泡しない太陽電池封止膜を提供することができる太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のシート状樹脂組成物を太陽電池モジュールに適用して積層構造とする場合の一例を説明するための模式的な断面図である。
【図2】本発明の実施例における太陽電池モジュールの積層構造の一例を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物の実施形態を、より具体的に説明する。
図1に、本発明のシート状樹脂組成物を適用して太陽電池モジュールを構成する場合の一例を説明する模式的な断面図を示した。図1に示す太陽電池モジュール1は、結晶系シリコン発電素子よりなる複数の発電セル10を有している。この発電セル10を保護するため、バックシート12が発電セル10の裏面側に設けられ、白板ガラス14が発電セル10の受光面側に設けられている。そして、白板ガラス14とバックシート12との間に、発電セル10を挟んだ状態で封止するために、2枚のEVAシート16及び18を用いて、下記のようにして、これらは一体化される。図1に示したように、EVAシート16を発電セル10の裏面側に配置し、表面側に、EVAシート18を配置する。次に、発電セル10、裏面側のEVAシート16、表面側のEVAシート18、白板ガラス14及びバックシート12を、これらの積層方向に加圧しつつ加熱して、裏面側及び表面側のEVAシート16及び18を架橋硬化させる。この結果、発電セル10は封止膜によって封止され、かつ、この状態で接着一体化されて太陽電池モジュール1が形成される。
【0020】
図2は、本発明の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物を適用した太陽電池モジュールの別の構成例を説明するための模式的な断面図であるが、以下、図2について説明する。なお、図2中、図1と同一部材については同一符号を付しているため、以下では重複する説明は省略する。
【0021】
図2に示した太陽電池モジュール2は、バックシート22が、合計2層のプラスチックシート221と、これらのプラスチックシート221に挟まれた1層のプラスチックシート222とからなる。プラスチックシート221は、ポリフッ化ビニル樹脂とすることができ、また、プラスチックシート222は、ポリエステル樹脂とすることができる。それ以外の部材、構成は、図1と同じである。図2に示した太陽電池モジュール2は、バックシート22が、プラスチックシート221層とプラスチックシート222層とからなる構造を有するが、このような構造の太陽電池モジュール2においても本発明のシート状樹脂組成物を適用することで、良好な太陽電池における封止膜を形成することができる。
【0022】
上記で説明した発電セル10の、裏面側及び表面側に配置されるEVAシート16及び18に適用される本発明のシート状樹脂組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体に、下記一般式(1)で表わされる有機過酸化物が添加配合されてなることを特徴とするものである。

(式中、R1は、炭素数5〜10のアルキル基であり、R2、R4、R6は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜5のアルキル基、エステル基、チオ基、アルコキシ基、水酸基、アリール基及びアミド基からなる群から選ばれるいずれかである。R3、R5、R7は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜5のアルキル基、エステル基、チオ基、アルコキシ基、水酸基、アリール基及びアミド基からなる群から選ばれるいずれかであるか、または、R3、R5、R7によってシクロ環内に二重結合を形成することができる。)
【0023】
上記式(1)で表わされる有機過酸化物は、従来のt−ブチルパーオキシ−2−エチルモノカーボネートよりも低温分解型の有機過酸化物であるため、同一温度で、封止装置でEVAを架橋硬化させた場合には、より迅速な架橋硬化が可能になる。さらに、形成した封止膜内には、前記したJIS−C8917に準拠する耐湿熱試験で発泡がないことを確認した。この結果、上記の特定の有機過酸化物を含有してなるシート状樹脂組成物は、太陽電池封止膜用材料として有用であると結論した。すなわち、上記した特定の有機過酸化物をEVAに配合したEVAシートによれば、太陽電池モジュールの製造に際して、良好な封止膜となることは勿論、加熱加圧時間の短縮を図ることができ、ひいては太陽電池の生産性を向上させることができることを見出して、本発明に至ったものである。
【0024】
一般式(1)で表わされる有機過酸化物は、EVAとの相溶性等を考慮するとR1が炭素原子数5〜10のアルキル基であることを要する。すなわち、炭素数が5以上でEVA内での溶解が良好となり、10以下で、EVA内での分散が良好となる。更に、具体的には、R1は、n−ブチル基又はt−ヘキシル基が好ましく、より好ましくは、t−ヘキシル基である。
【0025】
シクロ環の有する置換基R2〜R7としては、炭素数1〜5のアルキル基、エステル基、チオ基、アルコキシ基、水酸基、アリール基、アミド基等が挙げられる。好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。なお、置換基を有する場合、複数の置換基で置換されていてもよい。また、一般式(1)中のシクロ環は、隣接する炭素間に二重結合を形成したものであってもよい。
【0026】
本発明に用いる一般式(1)で表わされる有機過酸化物としては、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、または、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5トリメチルシクロヘキサンが特に好ましい。
【0027】
本発明において有機過酸化物の配合量は、EVA100質量部に対して、5質量部以下の範囲で添加することが好ましい。より好ましくは、0.1〜5.0質量部、更には0.3〜3.0質量部、特に好ましくは0.3〜2.5質量部である。EVA100質量部に対して0.1質量部以上とすれば、本発明で所期の目的とする有機過酸化物としての効果が十分に得られ、5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、さらには2.5質量部以下とすることで、より良好な封止膜を形成でき、また、未反応の有機過酸化物が残存するという不具合を招かない。
【0028】
有機過酸化物を配合させるEVAについては、特に限定するものではないが、エチレン単位65〜75質量%及び酢酸ビニル単位25〜35質量%からなるものを用いることができる。また、その成形性、機械的強度等を考慮すると、JIS K7210−1999基準の190℃、2,160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が、3〜30g/10分であることが好ましい。
【0029】
本発明の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物には、EVA及び上記有機酸化物の他に、下記に挙げるような種々の添加剤を加えることができる。
【0030】
本発明のシート状樹脂組成物には、形成した封止膜におけるEVAの架橋度を大きくするために、EVAに架橋助剤を配合又は含浸させることができる。ここで用いられる架橋助剤は、アリル基含有化合物、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種であり、具体的には、アリル基含有化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等が好ましく用いられる。また、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物としては、アクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体、例えば、そのエステルを用いることができる。この場合、エステルのアルコール残基として、メチル基、エチル基、ドデシル基、ステアリル基、ラウリル基のようなアルキル基の他に、シクロヘキシル基、テトラヒドロフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基等を挙げることができる。更に、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多官能アルコールとのエステルも同様に用いることができる。これらの架橋助剤は、EVA100質量部に対して10質量部以下の範囲で添加できる。
【0031】
本発明のシート状樹脂組成物には、EVAと、他の物質材料との接着力を更に向上させるために、接着向上剤として、シランカップリング剤を配合又は含浸することができる。この場合、使用されるシランカップリング剤としては、例えば、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。また、これらのシランカップリング剤の配合量は、EVA100質量部に対して5質量部以下の範囲で添加することが好ましい。
【0032】
また、上記以外にも、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤等を添加することができる。
【0033】
紫外線吸収性能を付与するために用いられる紫外線吸収剤としては、公知のもの、中でも特にベンゾフェノン系の紫外線吸収剤が好適である。紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−5−スルホベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0034】
光安定性、熱安定性を一層向上させる目的で用いられる酸化防止剤としては、フェノール系、イオウ系、リン系、アミン系、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系等を挙げることができる。具体的には、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペラジル)セバケート等を用いることができる。
【0035】
図1におけるバックシート寄りのEVAシート層16は、太陽電池としての効率向上のため、着色剤を用いて着色してもよい。着色剤による着色は、チタン白、炭酸カルシウム等による白色、ウルトラマリン等による青色、カーボンブラック等による黒色、ガラスビーズ及び光拡散剤等による乳白色等を挙げることができる。好ましくは、チタン白による白色への着色である。これらの着色剤の添加量は、EVA100質量部に対して10質量部以下、好ましくは3質量部以下で添加することができ、予め着色剤を高濃度で含有するマスターバッチによって、添加することもできる。
【0036】
本発明の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物は、太陽電池モジュールの製造時における生産性の向上を目的として、上述した種々の材料を有してなる透明の軟質樹脂組成物を成膜して得られるフィルムに、エンボス加工を施したシート状とすることもできる。もっとも、エンボス加工は必須ではない。
【0037】
また、本発明の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物を使用して形成した太陽電池モジュールにおいて、太陽光の吸収のための面は、ガラスに限らず、光を透過することができるものであれば使用できる。例えば、ガラスを、透明アクリル樹脂、透明ポリカーボネート樹脂等に代えることができる。
【0038】
更に、本発明において用いる発電素子としては、シリコン発電素子に限らず、光エネルギーを電気に変換できるものであれば使用可能である。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明の主旨を越えない限り本実施例に本発明が限定されるものではない。
【0040】
まず、図2に示したEVAシート16及び18に用いるものとして、表1及び表2に従い配合し、片面にエンボス加工を施した0.45mm厚の1〜12の12種のEVAシートを作製した。
【0041】

【0042】

【0043】
表1及び表2中、EVAは、酢酸ビニル含有率:28%、MFR:7g/10分(JIS K7210−1999基準、190℃、2160g荷重)のものを用い、有機過酸化物(1)〜(6)は、次のものを用いた。
【0044】
有機過酸化物(1):1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン
有機過酸化物(2):1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5トリメチルシクロヘキサン
有機過酸化物(3):1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン
有機過酸化物(4):1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5トリメチルシクロヘキサン
有機過酸化物(5):t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート
有機過酸化物(6):t−ブチルパーオキシ−2−エチルモノカーボネート
【0045】
また、表1及び表2のシランカップリング剤は、γ−メタクロキシプロピルトリメトキシシランを用い、紫外線吸収剤は2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンを用いた。
【0046】
(太陽電池モジュールの作成)
上記で得られた各EVAシートを用いて、太陽電池モジュールサンプルを作製し、性能を評価した。太陽電池モジュールは、下記のものをそれぞれ、図2のように積層し、ラミネーター(太陽電池の封止装置)を用いて作製した。
図2のプラスチックシート221には、テドラー(厚み:38μm、デュポン社商品名)を使用し、図2のプラスチックシート222には、ポリエステルフィルム(厚み:250μm)を使用した。また、発電セル10には、シリコン発電素子を用い、白板ガラス14には、厚さ3mmの白板ガラスを用いた。EVAシート層16及び18には、表1及び表2に示す無色透明EVAシート(No.1〜12)を用いて、12種の太陽電池モジュール積層物を得た。
【0047】
上記で得た太陽電池モジュール製造用の積層物を、ラミネーターを用いて、135℃で5分間脱気して、その後、135℃で10分間大気圧プレスを行うことにより、12種の太陽電池モジュールサンプル(No.1〜12)を作製した。
【0048】
(ゲル分率の測定)
得られた12種の太陽電池モジュールサンプルのそれぞれから、熱キシレンにて未架橋のEVAを抽出し、EVAのゲル分率を測定した。その結果、実施例のEVAシート(No.1、2、7〜12)を用いた太陽電池モジュール、並びに、比較例のEVAシート(No.3、4)を用いた太陽電池モジュールは、EVAシートのゲル分率が80%以上であり、十分な架橋率であることを確認した。一方、従来例のEVAシート(No.5、6)を用いた太陽電池モジュールは、EVAシートのゲル化率が75%以下であり、実施例のものに比べて架橋が不十分であることがわかった。
【0049】
(架橋速度)
さらに検討した結果、従来例のEVAシート(No.6)を用いた太陽電池モジュールは、ラミネーターで十分に架橋させるためには、135℃で5分間脱気して、その後135℃で15分間大気圧プレスを行う必要があった。このことから、実施例のEVAシートを用いて得られた太陽電池モジュールは、加熱加圧時間が10分と短いにもかかわらず、十分に架橋されており、短時間で一体化して、良好な封止膜を形成できていることが確認された。
【0050】
(耐湿熱試験)
上述した実施例及び比較例の10種の太陽電池モジュールサンプル、それぞれに対して、JIS C−8917に準拠する耐湿熱試験を実施した。その結果、実施例のEVAシート(No.1、2、7〜12)を用いた太陽電池モジュールサンプルはバックシート側に発泡がなかったが、比較例のEVAシート(No.3、4)を用いた太陽電池モジュールサンプルは、バックシート側に発泡が観察された。結果を表3に示した。なお、評価基準は以下に示す通りである。
<評価基準>
◎:バックシート側に発泡はない
○:バックシート側に僅かに発泡が確認される
×:バックシート側に発泡がある
【0051】

【符号の説明】
【0052】
1、2:太陽電池モジュール
10:発電セル
12、22:バックシート
14:白板ガラス
16:EVAシート(バックシート側)
18:EVAシート(ガラス面側)
221、222:プラスチックシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体に、下記一般式(1)で表わされる有機過酸化物が配合されていることを特徴とする太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。

(式中、R1は、炭素数5〜10のアルキル基であり、R2、R4、R6は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜5のアルキル基、エステル基、チオ基、アルコキシ基、水酸基、アリール基及びアミド基からなる群から選ばれるいずれかである。R3、R5、R7は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜5のアルキル基、エステル基、チオ基、アルコキシ基、水酸基、アリール基及びアミド基からなる群から選ばれるいずれかであるか、または、R3、R5、R7によってシクロ環内に二重結合を形成することができる。)
【請求項2】
前記一般式(1)のR1が、t−ヘキシル基である請求項1に記載の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表わされる有機過酸化物が、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、または、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5トリメチルシクロヘキサンである請求項1に記載の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機過酸化物の配合量が、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して5質量部以下で添加されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池封止膜用のシート状樹脂組成物によって形成された太陽電池封止膜を備えていることを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252127(P2011−252127A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128643(P2010−128643)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(593140255)サンビック株式会社 (12)
【Fターム(参考)】