説明

太陽電池用ウェーハ、太陽電池用ウェーハの製造方法、太陽電池セルの製造方法、および太陽電池モジュールの製造方法

【課題】固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから製造したにもかかわらず、変換効率の高い太陽電池を作製できる太陽電池用ウェーハを提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池用ウェーハは、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから製造する、酸テクスチャ処理前の太陽電池用ウェーハであって、該太陽電池用ウェーハの少なくとも片面の表面には、アモルファス層がなく、かつ、前記固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池用ウェーハ、太陽電池用ウェーハの製造方法、太陽電池セルの製造方法、および太陽電池モジュールの製造方法に関する。本発明は、特に、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから製造したにもかかわらず、変換効率の高い太陽電池を作製可能な太陽電池用ウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽電池セルは、シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハを用いて作製される。太陽電池セルの変換効率を高めるためには、太陽電池セルの受光面で反射してしまう光および太陽電池セルを透過してしまう光を低減する必要がある。例えば、シリコンウェーハを用いて結晶系太陽電池を作製する場合、シリコンウェーハは光電変換に寄与する可視光の透過率が低いため、変換効率を向上させるためには、受光面となるシリコンウェーハ表面における可視光の反射ロスを低く抑え、入射する光を有効に太陽電池の中に閉じ込めることが重要である。
【0003】
シリコンウェーハ表面における入射光の反射ロスを低減する技術としては、表面に反射防止膜を形成する技術と、表面にテクスチャ構造とよばれるミクロなピラミッド型の凹凸などの凹凸構造を形成する技術とがある。後者の技術のうち、表面にテクスチャ構造を形成する方法は、単結晶シリコンに適した方法であり、(100)単結晶シリコン表面をアルカリ溶液でエッチングする方法が代表的である。これは、アルカリ溶液を用いたエッチングでは、(111)面のエッチング速度が(100)面、(110)面のエッチング速度よりも遅いことを利用するものである。後者の技術としては、酸溶液による等方性のエッチングも知られている。これは、硝酸とフッ酸を含有する酸を使用し、シリコン表面を硝酸でSiOに酸化した後、そのSiOをフッ酸で溶解するという反応が進行することを利用するものである。表面において結晶方位がそろっていない多結晶のシリコンウェーハに対してアルカリ溶液によるエッチング処理を施しても、ウェーハ表面上に(100)面が露出した結晶粒にしかテクスチャ構造を形成できず、その他の結晶粒については十分なテクスチャ構造が形成できない。このため、多結晶のシリコンウェーハには主に酸溶液によるエッチングで凹凸構造を形成するのが主流である。本明細書において以後、反射ロスを低減する目的で多結晶ウェーハ表面に酸溶液によりエッチングを施す処理を「酸テクスチャ処理」という。
【0004】
ここで特許文献1は、多結晶シリコン基板の表面を酸溶液によりエッチングしたのみでは十分な曲線因子を得られないことに着目し、酸テクスチャ処理の前に、多結晶シリコン基板の表面をNaOH等のアルカリ溶液により7μm以上エッチングする工程を備える太陽電池用ウェーハの製造方法を開示している。インゴットから切り出した直後のシリコンウェーハの表面には切断ダメージが生じている。特許文献1で行うアルカリ溶液によるエッチングは、この切断加工起因のダメージを除去する程度に行うものである。つまり、アルカリ処理によって切断加工起因のダメージを除去した後、酸溶液によるエッチングにより凹凸構造を形成し、このウェーハを基板として太陽電池を作製する。
【0005】
ここで、多結晶半導体ブロックを切断して多結晶半導体ウェーハを得る場合の切断方法としては、遊離砥粒方式と固定砥粒方式とに大別される。遊離砥粒方式は、砥粒を含むスラリーを加工液として用い、スラリーをワイヤーに連続供給しながらワイヤーを走行させる。そして、ワイヤーの走行により加工部に送り込まれるスラリーの研削作用により多結晶半導体ブロックが切断される。しかしながら、遊離砥粒方式では、加工液としてスラリーを用いることに起因して、加工速度が遅くなるなどの問題がある。そのため、近年、固定砥粒ワイヤーを用いて多結晶半導体ブロックを切断する固定砥粒方式が注目されつつある。固定砥粒方式は、樹脂または電気鍍金にて砥粒を定着させたワイヤー(固定砥粒ワイヤー)を用いてスライス加工を行うものである。すなわち、固定砥粒ワイヤーでは、表面に固着した砥粒の研削作用により多結晶半導体ブロックを切断加工するため、砥粒を含まない加工液(クーラント)の使用が可能となり、遊離砥粒ワイヤーが抱えるスラリーに起因した問題が解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−136081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、固定砥粒ワイヤーにより切断した多結晶半導体ウェーハから製造した太陽電池は、遊離砥粒方式により切断した多結晶半導体ウェーハから製造した太陽電池よりも、変換効率が低いことが明らかになってきており、固定砥粒ワイヤーにより切断した多結晶半導体ウェーハは太陽電池用ウェーハとしては使用されていないのが現状である。そのため、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから、変換効率の高い太陽電池を製造する方法が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから製造したにもかかわらず、変換効率の高い太陽電池を作製できる太陽電池用ウェーハおよびその製造方法、ならびに、この方法を含む太陽電池セルの製造方法および太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、本発明者が鋭意検討したところ、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハに対して酸テクスチャ処理を施す前における表面状態が所定の状態である場合に、その後酸テクスチャ処理を施すことで良好な凹凸構造を形成することができることを見出した。その結果、効果的にウェーハ表面における光の反射ロスを低減でき、このウェーハから製造した太陽電池の変換効率を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記の知見に基づくものである。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから製造する、酸テクスチャ処理前の太陽電池用ウェーハであって、
該太陽電池用ウェーハの少なくとも片面の表面には、アモルファス層がなく、かつ、前記固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存することを特徴とする太陽電池用ウェーハ。
(2)固定砥粒ワイヤーで切り出した多結晶半導体ウェーハから、酸テクスチャ処理前の太陽電池用ウェーハを製造する方法であって、
前記多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面の表面に、構成元素としてNを含むアルカリを含むアルカリ性溶液を接触させて、少なくとも前記片面を、アモルファス層がなく、かつ、前記固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する状態になるまで、エッチングすることを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
(3)前記アルカリ性溶液に過酸化水素を含む、上記(2)に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
(4)前記アルカリ性溶液に界面活性剤を含む、上記(2)または(3)に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
(5)上記(2)〜(4)のいずれか1により製造した前記太陽電池用ウェーハの前記片面に対して酸テクスチャ処理を行う工程を有する、太陽電池用ウェーハの製造方法。
(6)上記(5)に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、該太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する太陽電池セルの製造方法。
(7)上記(6)に記載の太陽電池セルの製造方法に加えて、該太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから、その表面にアモルファス層がなく、かつ、前記固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する状態の太陽電池用ウェーハを製造し、その後酸テクスチャ処理を行うことにより、ウェーハ表面に寸法や分布が均一な凹凸構造を形成することができ、この太陽電池用ウェーハを用いることにより、変換効率の高い太陽電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例8による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後のウェーハ表面、(b)はその後1.5%NHOHおよび1.5%Hを含むアルカリ性溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(c)はその後さらに酸テクスチャ処理を行った後のウェーハ表面である。
【図2】実施例12による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断したウェーハ表面に、2.0%KS−3050および0.1%KOHを含むアルカリ性溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸テクスチャ処理を行った後のウェーハ表面である。
【図3】比較例9による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後、さらにアルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸テクスチャ処理を行った後のウェーハ表面である。
【図4】比較例1による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後、アルカリ性溶液によるエッチング処理を行わずに酸テクスチャ処理を行った後のウェーハ表面である。
【図5】酸テクスチャ処理前の多結晶シリコンウェーハ表面のラマン分光測定結果であり、(a)は実施例7、(b)は実施例8、(c)は実施例12において、それぞれ多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後、さらにアルカリ性溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(d)は比較例1において多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後のウェーハ表面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。まず、本発明に用いる多結晶半導体ウェーハは特に限定されず、一般に太陽電池の製造に用いられるものを用いることができ、例えば、多結晶シリコンインゴットから切断加工により得た多結晶シリコンウェーハを挙げることができる。以下、多結晶シリコンウェーハにエッチング処理を施し、多結晶シリコン太陽電池用ウェーハを製造する方法を例に本発明を説明する。
【0014】
(太陽電池用ウェーハ)
本発明は、固定砥粒ワイヤーにより切断した多結晶半導体ウェーハから製造する、酸テクスチャ処理前の太陽電池用ウェーハである。ここで、本明細書において「太陽電池用ウェーハ」とは、多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面を、太陽電池セル製造のためにエッチング処理した状態のウェーハを意味するものである。この片面は、太陽電池セルにおいて受光面となる面である。そして、本発明にかかる太陽電池用ウェーハは、その表面に、アモルファス層がなく、かつ、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存することを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の上記特徴的構成を採用したことの技術的意義を、作用効果とともに具体例で説明する。
【0016】
本発明者の検討によれば、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶シリコンウェーハに対して、公知の酸テクスチャ処理を施して得た太陽電池用ウェーハから製造した太陽電池の変換効率は、遊離砥粒方式で切断した多結晶シリコンウェーハに対して、同様の酸テクスチャ処理を施して得た太陽電池用ウェーハから製造した太陽電池のそれよりもやはり低かった。そして、このウェーハの酸テクスチャ処理後の表面を観察したところ、図4に示すように、ウェーハ表面に形成された凹凸の寸法や分布が不均一であることが判明した。
【0017】
ここで、図1(a)は、固定砥粒ワイヤーで切断した直後の多結晶シリコンウェーハ表面を示している。図1(a)によると、ウェーハ表面には、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が不均一に形成されているとともに、ワイヤーの運動方向(図中の横方向)に沿って、切断加工起因の凹凸が筋のように方向性を有して形成されていた。そして、本発明者らの検討によると、切断加工起因の凹凸が比較的少なくかつ小さい領域(平滑部)には、アモルファス層が形成されていることが判明した。アモルファス層は、酸テクスチャ処理によるエッチング反応の進行を阻害する。そのため、当該表面に対して酸テクスチャ処理を施すと、前述の図4のように、平滑部ではエッチングが進みにくい結果凹凸が形成されにくく、アモルファス層のない部分(比較的大きな凹凸が明瞭に形成されている領域)では、エッチングが進みやすい結果凹凸が形成されやすい。その結果、凹凸の寸法や分布が不均一になるものと考えられた。
【0018】
そこで、本発明者は、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶シリコンウェーハに対して酸テクスチャ処理を施す前に、上記アモルファス層を除去することを検討した。既述の特許文献1では、固定砥粒ワイヤーで切断したものではないものの、アルカリ溶液により7μm以上の深さをエッチングして切断加工起因の凹凸を除去した後、酸テクスチャ処理を行っている。そこで、この方法を固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶シリコンウェーハに対して適用した。すると、酸テクスチャ処理後の表面は、やはり凹凸構造が不均一であり、得られる太陽電池の変換効率もさほど向上しないことが判明した。
【0019】
このときの表面状態は以下のようであった。まず、アルカリ溶液によりスライス加工起因の凹凸を除去した表面は、図3(a)のような、多結晶シリコンの結晶面が露出した形状となる。つまり、多結晶シリコンウェーハの、固定砥粒ワイヤーに起因した凹凸の下には、様々な結晶方位の面が混在している。凹凸をアモルファス層もろとも除去するほどにエッチングを施すと、それらの結晶部分もエッチングされることになり、ウェーハ面内は様々な結晶面の露出した不均一な表面形状となる。例えば、結晶方位が(100)面の部分はピラミッド型のテクスチャ構造となり、(110)面の部分は(111)側面を持つ深い溝となり、ウェーハ面内が不均一な凹凸構造となる。このような太陽電池用ウェーハに対して、酸テクスチャ処理を行うと、ウェーハ表面の形状は、図3(b)のように、アルカリ処理後の不均一な凹凸構造が残存する状態となることが判明した。そして、その結果、表面に電極を形成する際に、結晶粒ごとに表面凹凸状態が異なるため電気抵抗が異なる事態が発生することとなり、このウェーハから製造した太陽電池では高い変換効率を得ることができないとの結論に至った。
【0020】
以上の知見から、本発明者は、酸テクスチャ処理前に、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸を除去して結晶面を露出させてしまうのではなく、表面に若干形成されているアモルファス層のみを除去して、むしろ積極的に固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸を利用して、酸テクスチャ処理によりウェーハ表面に均一なテクスチャ構造を形成することのできる太陽電池用ウェーハを着想した。
【0021】
本発明にかかる太陽電池用ウェーハの少なくとも片面の表面には、アモルファス層がなく、かつ、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する。図1および図2は、多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、図1(a)は多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後のウェーハ表面であり、図1(b)および図2(a)は、アモルファス層のみ除去し、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存した本発明にかかる太陽電池用ウェーハの表面である。
【0022】
図1(c)および図2(b)は、本発明の太陽電池用ウェーハに対して酸テクスチャ処理を行った後の太陽電池用ウェーハ表面であり、図3(b)および図4と比較して、ウェーハ全面に均一な凹凸構造が形成されていることがわかる。このように、本発明にかかる太陽電池用ウェーハに、酸テクスチャ処理を行うことにより、寸法や分布が均一な凹凸を表面全体に形成することができ、さらに、これにより変換効率の高い太陽電池を製造することができる。
【0023】
ここで、本発明におけるアモルファス層の有無の判定は、以下のように行う。ラマン分光法によって測定するラマンスペクトルの420〜480cm−1の範囲内にショルダーピークが生じる場合、アモルファス層が有ると判定できる。また、420〜480cm−1の範囲内にショルダーピークが見られない場合には、アモルファス層がウェーハ表面に全く無いと判定することができる。
【0024】
(太陽電池用ウェーハの製造方法)
本発明にかかる太陽電池用ウェーハを製造する方法として、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面の表面に構成元素としてN(窒素)を含むアルカリを含むアルカリ性溶液を接触させて、少なくとも前記片面を、アモルファス層がなく、かつ、前記固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する状態になるまで、エッチングすることを特徴とする方法が挙げられる。
【0025】
また、これに酸テクスチャ処理工程を加えることにより、反射ロスを低く抑えることのできる均一な凹凸構造を形成した、太陽電池用ウェーハを形成することができる。
【0026】
本発明は、多結晶シリコンウェーハに対するアルカリ処理で切断ダメージを除去した太陽電池用ウェーハに、酸溶液処理で凹凸構造を形成するというものではなく、所定のアルカリ性溶液によりアモルファス層を選択的にエッチング除去した太陽電池用ウェーハに対して、酸テクスチャ処理を行い、所定のアルカリ処理と酸テクスチャ処理との組合せで、ウェーハ表面全体に最適な凹凸構造を作りこもうという、従来とは大きく異なる技術思想に基づくものである。これにより、固定砥粒ワイヤーにより切り出した多結晶半導体ウェーハを用いて変換効率の高い太陽電池を作製することが可能となった。
【0027】
このように、固定砥粒ワイヤーで切断したウェーハの場合、酸溶液によるエッチングで形成された凹凸の寸法や分布が不均一になりやすくても、本発明者の検討によれば、構成元素としてNを含むアルカリを含むアルカリ性溶液によってウェーハ表面のアモルファス層を選択的にエッチングし、その後酸溶液によるエッチングを施すことにより、凹凸の寸法や分布を均一にすることができることがわかった。
【0028】
アモルファス層は、構成元素としてNを含むアルカリを含むアルカリ性溶液によって優先的に除去される。アモルファス層は任意のアルカリ溶液または酸溶液によっても除去されうる。しかし、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸をできるだけ残しつつ、酸エッチング処理を行うことにより、所望のテクスチャを有する太陽電池用ウェーハを得ることができる。従って、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸をなるべく残しつつ、酸テクスチャ処理を阻害してしまうアモルファス層を除去するためには、構成元素としてNを含むアルカリを含むアルカリ性溶液による処理が必要となる。
【0029】
Nを含むアルカリとしては、アンモニア、ヒドラジン、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびアミンを挙げることができる。水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、アルキル部分の炭素数が1〜3であることが好ましく、特に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であることが好ましい。アミンは、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのいずれでもよく、炭化水素基の炭素数は1〜3であることが好ましい。炭化水素基の一部の水素がOH基で置換されたアルカノールアミンでもよい。アミンとしては例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンを使用することができる。
【0030】
また、本発明では、アモルファス層がなく、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する程度にエッチングを行うため、アルカリ性溶液に過酸化水素を含有させて、エッチング速度を低下させることが、エッチング深さの制御性の観点から好ましい。アルカリ性溶液は、例えば、0.1〜6.0質量%、好ましくは0.1〜3.0質量%、さらに好ましくは1.5〜3.0質量%過酸化水素を含有してもよい。
【0031】
エッチング速度を低下させるためには、アルカリ性溶液に界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤は、Nを含むアルカリによるエッチングの反応性を極端に低下させない成分であれば特に限定されないが、アニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤が好ましく、分子量1000以下の高分子からなることが好ましい。さらに、アミノエタノール含有系界面活性剤であることが特に好ましい。
【0032】
界面活性剤を含むアルカリ性溶液として、例えば花王製クリンスルーKS−3050(商標)(以下、「KS−3050」と記載する。)を使用することができる。KS−3050は、アミノエタノール含有系界面活性剤を含み、アルカノールアミンである2−アミノエタノールを含有する溶液である。KS−3050を単独でアルカリ性溶液とする場合、エッチングはKS−3050の濃度および処理時間に依存し、濃度は例えば0.1〜10質量%の範囲内とすることが好ましく、1〜5質量%の範囲内とすることがより好ましく、2〜3質量%の範囲内とすることがさらに好ましい。0.1質量%未満の場合、エッチングの反応性を十分に確保できないか、または、エッチングに時間がかかりすぎてしまうおそれがあり、10質量%超えの場合、コストが上昇し、かつ、後段処理のリンス処理で完全に界面活性剤が除去できなくなるおそれがあるからである。KS−3050の反応速度を上げるために、1%以下のKOHを添加することもできる。アモルファス層を優先的にエッチングする効果が得られなくなる恐れがあるため、1%以下の添加が好ましい。
【0033】
アルカリ性溶液処理時間すなわち、ウェーハ表面をアルカリ性溶液に接触させている時間は、アモルファス層がなく、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する状態となるまでの時間であれば特に限定されないが、例えば
3〜30分程度が好ましく、5〜20分程度がより好ましく、5〜10分程度とすることが最も好ましい。
【0034】
また、エッチングに用いるアルカリ性溶液中のNを含むアルカリの濃度は、アモルファス層がなく、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する状態になるようにエッチングすることができれば特に限定されないが、例えば、0.1〜3.0質量%の範囲内であることが好ましく、1.0〜2.5質量%の範囲内であることがより好ましく、1.5〜2.0質量%の範囲内であることが最も好ましい。
【0035】
また、アルカリ性溶液によるエッチング中の処理温度は、アモルファス層がなく、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する状態になるようにエッチングすることができれば特に限定されないが、例えば30〜50℃、好適には35〜45℃とすることができる。
【0036】
酸テクスチャ処理に用いる酸溶液には、フッ化水素酸および硝酸を含む水溶液が好適に用いられる。酸溶液は、例えば、濃度50質量%のフッ化水素酸と濃度70質量%の硝酸と水とを混合したものが好ましい。フッ化水素酸および硝酸の終濃度を、それぞれ1〜10質量%および10〜50質量%とすることが好ましく、それぞれ3〜6質量%および20〜40質量%とすることがより好ましい。
【0037】
ウェーハ表面に処理液を接触させる方法としては、例えば浸漬法、スプレー法が挙げられる。また、受光面となるウェーハの片面に処理液を滴下させるキャスト法を用いてもよい。
【0038】
以上、本発明の太陽電池用ウェーハの製造方法について、作用効果も含めて説明してきたが、この製造方法の付加的な効果として、本発明は切断加工傷の全てを除去しなくともよいという利点がある。すなわち、従来技術と比較してウェーハからの取りしろが非常に少ないため材料ロスが小さく、安価な太陽電池を提供できる。
【0039】
(太陽電池セルの製造方法)
本発明に従う太陽電池セルの製造方法は、これまで説明した本発明に従う、酸テクスチャ処理後の太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、この太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する。セル作製工程は、ドーパント拡散熱処理でpn接合を形成する工程と、電極を形成する工程とを少なくとも含む。ドーパント拡散熱処理は、p基板に対してはリンを熱拡散させる。
【0040】
なお、pn接合形成工程は、本発明におけるエッチング処理工程の前に行ってもよい。すなわち、切断加工後、ドーパント熱拡散処理でpn接合を形成したウェーハの状態で、本発明におけるエッチング処理を行う。こうして得た太陽電池用ウェーハに対して電極を形成して、太陽電池セルとすることもできる。
【0041】
本発明に従う太陽電池セルの製造方法によれば、セルの受光面における入射光の反射ロスを抑制し、高いエネルギー変換効率の太陽電池セルを得ることができる。
【0042】
(太陽電池モジュールの製造方法)
本発明に従う太陽電池モジュールの製造方法は、上記太陽電池セルの製造方法における工程に加えて、この太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する。モジュール作製工程は、複数の太陽電池セルを配列し、電極を配線する工程と、強化ガラス基板上に配線された太陽電池セルを配置し、樹脂と保護フィルムで封止する工程と、アルミフレームを組み立てて、端子ケーブルを配線と電気的に接続する工程とを含む。
【0043】
本発明に従う太陽電池モジュールの製造方法によれば、太陽電池セルの受光面における入射光の反射ロスを抑制し、高いエネルギー変換効率の太陽電池モジュールを得ることができる。
【0044】
以上、本発明を説明したが、これらは代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0045】
本発明の効果をさらに明確にするため、以下に説明する実施例・比較例の実験を行った比較評価について説明する。
【0046】
<試料の作製>
(実施例)
まず、固定砥粒ワイヤーにより切断した156mm角のp型多結晶シリコンウェーハ(厚さ:0.2mm)を用意し、表1のアルカリ性溶液を各々用い、このアルカリ性溶液に表1の温度および時間でウェーハを浸漬させた。その後、ウェーハを水で洗浄し、窒素雰囲気にて乾燥させ、本発明にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。その後、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。
【0047】
(比較例1)
まず、固定砥粒ワイヤーにより切断した156mm角のp型多結晶シリコンウェーハ(厚さ:0.2mm)を用意し、アルカリ性溶液によるエッチングを行わず、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させ、比較例にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。
【0048】
(比較例2)
まず、遊離砥粒ワイヤーにより切断した156mm角のp型多結晶シリコンウェーハ(厚さ:0.2mm)を用意し、アルカリ性溶液によるエッチングを行わず、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させ、比較例にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。
【0049】
(比較例3〜9)
アルカリ性溶液として表1に記載の溶液を用い、アルカリ性溶液による処理時間を表1に記載のものとした以外は、実施例と同様の方法で、比較例にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。
【0050】
<評価1:アモルファス層残存評価>
各実施例・比較例について、酸テクスチャ処理前の多結晶シリコンウェーハ表面の、レーザラマン分光装置(LabRAM HR-80:JobinYvon社製)によるラマン分光測定を行った。図5は、それらのうち一部の結果を示すものである。(a)は実施例7、(b)は実施例8、(c)は実施例12において、それぞれ多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後、さらにアルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(d)は比較例1の多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後のウェーハ表面である。既述の通り、420〜480cm−1領域のショルダーピークはアモルファス層が残存していることを示す。その範囲のショルダーピークは、図5(a)〜(c)には見られないが、図5(d)には見られる。このことから、アモルファス層は、固定砥粒ワイヤーにより切断した後のウェーハ上に存在している(比較例1)が、アルカリ性溶液処理により製造した本発明の太陽電池用ウェーハ上には存在していないことが分かった。
【0051】
図5(a)〜(c)と図5(d)との比較から明らかなように、420〜480cm−1領域におけるスペクトルの挙動は、アモルファス層の有無によって明確に異なる。そして、他の実施例でも図5(a)〜(c)と同様のスペクトル挙動が得られ、アモルファス層がないことが確認された。また、比較例4、6、7、9においても、アルカリ溶液によって加工起因の凹凸まで除去される程度にエッチング処理を施しているため、当然ながらアモルファス層はなかった。一方、比較例3、5、8では、図5(d)と同様のスペクトル挙動となり、アルカリ溶液による処理が不十分でアモルファス層を除去し切れなかったことがわかった。なお、比較例2では遊離砥粒で切断しているため、そもそもアモルファス層は存在しなかった。
【0052】
<評価2:凹凸構造の観察および解析>
各実施例、各比較例について、ウェーハ表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察した。以下、代表的な例を示す。
【0053】
図4は、比較例1による多結晶シリコンウェーハ表面の酸溶液によるテクスチャ処理後のSEM画像である。多結晶シリコンウェーハを固定砥粒ワイヤーにて切断した直後のウェーハ表面は、ワイヤーの往復運動の方向(図4の左右方向)に沿って、切断加工起因の凹凸が筋のように方向性を有して形成されていた。図4から、酸溶液によるエッチングをした後も、この横筋が残存していることがわかる。特に、筋となっている凹凸は比較的大きな寸法であり、隣接する横筋の間には小さな寸法の凹凸も形成されており、ウェーハ表面に寸法および分布が不均一な凹凸が形成されていた。
【0054】
図1は、実施例8による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後のウェーハ表面、(b)は、その後アルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(c)はその後さらに酸溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面である。図2は、実施例12による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断したウェーハ表面に、アルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面である。図1(b)および図2(a)から、ウェーハ表面には、加工直後よりは多少不明小になったものの、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存していることがわかる。また、図1(c)および図2(b)から、さらに酸溶液によるエッチングを行うことによって、図4に比べて寸法および分布が比較的均一な凹凸がウェーハ表面に形成されていることがわかる。なお、他の実施例でも同様に、アルカリ処理後酸テクスチャ処理前のウェーハ表面には、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存していた。
【0055】
一方、図3は、比較例9による多結晶シリコンウェーハ表面のSEM画像であり、(a)は多結晶シリコンを固定砥粒ワイヤーにより切断した後、さらにアルカリ溶液によるエッチング処理を行った後のウェーハ表面、(b)はその後さらに酸テクスチャ処理を行った後のウェーハ表面である。図3(a)から明らかなように、アルカリ処理後かつ酸テクスチャ処理前の段階で、加工起因の凹凸は明らかに除去され、ウェーハ表面には様々な結晶面が露出していた。図1(b)および図2(a)と図3(a)との比較から明らかなとおり、加工起因の凹凸が残存しているか否かは、SEM画像により明確に判定可能である。比較例4、6、7でも、比較例9と同様に、加工起因の凹凸は明らかに除去されていた。なお、比較例3、5、8では、アモルファス層も除去し切れないほどアルカリ処理が不十分であるため、加工起因の凹凸は残存していた。比較例2では、遊離砥粒方式の切断であるため、酸テクスチャ処理後の表面には比較的均一な大きさおよび分布の凹凸が形成されていた。
【0056】
以上から、各実施例・比較例について、酸テクスチャ処理前の表面にアモルファス層が存在していたか否か、固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存していたか否かを、表1にまとめる。
【0057】
<評価3:変換効率測定>
各実施例、各比較例のウェーハに対して、P―OCD(東京応化工業株式会社製 型番P−110211)をスピンコート法にて塗布し、拡散熱処理を施してpn接合を形成し、フッ化水素にて表面のリンガラスを除去した。その後、ウェーハ表面のリン拡散面に反射防止膜としてITO膜をスパッタリング法にて形成した。また、表面にAg電極用のAgペーストを、裏面にAl電極用のAlペーストを塗布し、その後熱処理を施すことでウェーハ表裏面に電極を形成し、太陽電池セルを作製した。そして、変換効率測定器(和泉テック社製:YQ−250BX)によりエネルギー変換効率を測定した結果を表1に示す。
【0058】
各実施例は、比較例2以外の比較例よりも高い変換効率となり、遊離砥粒ワイヤーで切断したウェーハから製造した比較例2の太陽電池の変換効率に近づいた。これは、図1、2で示したように、ウェーハ表面に寸法や分布が均一な凹凸構造を形成できたためと考えられる。一方、アモルファス層が存在する場合(比較例1、3、5、8)や、アモルファス層は除去できても、切断に起因して形成された凹凸まで除去されてしまう場合(比較例4、6、7、9)では、高い変換効率を得ることができなかった。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから製造したにもかかわらず、変換効率の高い太陽電池を作製できる太陽電池用ウェーハを提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定砥粒ワイヤーで切断した多結晶半導体ウェーハから製造する、酸テクスチャ処理前の太陽電池用ウェーハであって、
該太陽電池用ウェーハの少なくとも片面の表面には、アモルファス層がなく、かつ、前記固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存することを特徴とする太陽電池用ウェーハ。
【請求項2】
固定砥粒ワイヤーで切り出した多結晶半導体ウェーハから、酸テクスチャ処理前の太陽電池用ウェーハを製造する方法であって、
前記多結晶半導体ウェーハの少なくとも片面の表面に、構成元素としてNを含むアルカリを含むアルカリ性溶液を接触させて、少なくとも前記片面を、アモルファス層がなく、かつ、前記固定砥粒ワイヤーによる切断に起因した凹凸が残存する状態になるまで、エッチングすることを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ性溶液に過酸化水素を含む、請求項2に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ性溶液に界面活性剤を含む、請求項2または3に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項により製造した前記太陽電池用ウェーハの前記片面に対して酸テクスチャ処理を行う工程を有する、太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、該太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する太陽電池セルの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池セルの製造方法に加えて、該太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する太陽電池モジュールの製造方法。



【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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