説明

太陽電池用基板およびそれを用いた太陽電池

【課題】 加熱・冷却工程においても、基板上に形成した絶縁層の剥離を抑制できる太陽電池用基板、およびそれを用いた太陽電池を提供する。
【解決手段】 基材11と、基材11上に積層された電気絶縁性の絶縁層(第1の層)13と、基材11と絶縁層13との間に配置された軟化層(第2の層)12とを含み、軟化層12が軟化する温度が、基材11および絶縁層13が軟化する温度よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用基板およびそれを用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、太陽電池用の基板として様々な基板が提案されている。たとえば、基板上に、絶縁層、低融点層およびモリブデン薄膜(下部電極)が順に積層された基板が開示されている(たとえば特許文献1の[0025]段落および図2)。低融点層は、モリブデン薄膜の剥離を防止するために形成される。
【特許文献1】特開2004−103663
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の基板では、絶縁層とモリブデン薄膜との間の剥離を抑制することはできるが、基板と絶縁層との間で剥離が生じる場合があった。
【0004】
そのため、本発明は、基板上に形成した絶縁層の剥離を抑制できる太陽電池用基板、およびそれを用いた太陽電池を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の太陽電池用基板は、太陽電池に用いられる基板であって、基材と、前記基材上に積層された電気絶縁性の第1の層と、前記基材と前記第1の層との間に配置された第2の層とを含み、前記第2の層が軟化する温度が、前記基材および前記第1の層が軟化する温度よりも低い。
【0006】
また、本発明の太陽電池は、基板と前記基板上に形成された光起電力層とを備える太陽電池であって、前記基板が上記本発明の太陽電池用基板である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の太陽電池用基板によれば、基板上に形成した絶縁層の剥離を抑制できる。また、この基板によれば、絶縁層上に導電層を形成した場合でも、導電層が基板から分離することを抑制できる。この太陽電池用基板を用いた本発明の太陽電池は、製造時の歩留まりが高く、製造後の信頼性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、以下の説明では、特定の材料、特定の層厚、特定の積層構造を例示する場合があるが、それらは一例であり、本発明はそれらの例示に限定されない。
【0009】
本発明の基板は、太陽電池に用いられる基板であって、基材と、基材上に積層された電気絶縁性の第1の層と、基材と第1の層との間に配置された第2の層とを含む。第2の層が軟化する温度は、基材および第1の層が軟化する温度よりも低い。この構成によれば、加熱(たとえば400℃以上の加熱)や冷却の過程において、基板上に形成された絶縁層が熱膨張の差によって剥離することを抑制できる。
【0010】
物質には、所定の融点を有する物質と、所定の融点を有さない物質(たとえば無定形物質)とが存在する。この明細書において、「軟化する温度」とは、その物質が所定の融点を有する場合にはその融点を意味し、所定の融点を有さない場合にはその軟化点(軟化温度)を意味する。また、その軟化点とは、粘性率(η)が、4.5×107ポアズになるときの温度を意味する。
【0011】
上記本発明の太陽電池用基板では、第1の層に対して第2の層とは反対側に積層された導電性の第3の層をさらに含んでもよい。すなわち、第1〜第3の層は、基板側から、第2の層、第1の層、および第3の層の順で配置される。第3の層は、金属などの導電性の材料からなる。第3の層の厚さに特に限定はなく、たとえば0.2μm〜1μm程度であってもよい。第3の層は、太陽電池の裏面電極として利用できる。
【0012】
CIS太陽電池やCIGS太陽電池の基板の場合、第3の層としてモリブデン(Mo)からなる層を用いることが好ましい。モリブデン層は、CIS膜やCIGS膜とオーミックコンタクトが可能であり、CIS膜やCIGS膜などの化合物半導体層への拡散の恐れもない。また、モリブデン層の熱膨張率とCIS膜やCIGS膜などの化合物半導体層の熱膨張率との差が比較的小さいため、モリブデン層から化合物半導体層が剥離するおそれが少ない。
【0013】
上記本発明の太陽電池用基板では、第2の層が軟化する温度が400℃以下であってもよい。この構成によれば、400℃以上の加熱によって生じる剥離を抑制できる。なお、第2の層が軟化する温度は、200℃〜400℃の範囲であることが好ましく、たとえば250℃〜300℃の範囲である。
【0014】
上記本発明の太陽電池用基板では、第2の層が、ガラスからなるものであってもよい。ガラスとしては、たとえば、PbO−SiO2、PbO−B23を用いることができる。また、上記本発明の太陽電池用基板では、第2の層が、In、Sn、In合金、またはSn合金のいずれかからなるものであってもよい。
【0015】
第2の層は、比較的低い温度(第2の層が軟化する温度よりも低い温度)では固体の状態であり、所定の形状を維持する。第2の層は、500〜600℃の高温で劣化しない無機物からなることが好ましい。そのような無機物としては、融点または軟化点が400℃以下の金属やガラス等が挙げられる。
【0016】
第2の層の材料として金属を用いる場合、特に、In、Snまたはそれらの合金が好ましい。Inの融点は約157℃であり、Snの融点は約232℃であり、これらの合金はさらに融点が低い。また、これらの金属からなる薄膜は、作製が容易である。
【0017】
Sn合金としては、融点が400℃以下のSn−Pb、Sn−Bi、Sn−In−Ag、Sn−Bi−Zn、Sn−Zn、Sn−Ag−Bi、Sn−Bi−Ag−Cu、Sn−Ag−Cu、Sn−Ag−Cu−Sb、Sn−Ag、Sn−Cu、Sn−Sb等が挙げられる。なお、他のSn合金を用いてもよい。
【0018】
上記本発明の太陽電池用基板では、第1の層と第3の層との間に配置された第4の層をさらに含んでもよい。この第4の層が軟化する温度は、基材、第1の層および第3の層が軟化する温度よりも低い。この構成によれば、絶縁層(第1の層)および導電層(第3の層)が、加熱や冷却の過程において剥離することを抑制できる。
【0019】
第4の層は、第2の層と同様の性質を有する層であり、第2の層と同様の材料で形成できる。すなわち、第4の層が軟化する温度が400℃以下であってもよい。第4の層が軟化する温度は、200℃〜400℃の範囲であることが好ましく、たとえば250℃〜300℃の範囲である。また、第4の層は、In、Sn、In合金、またはSn合金のいずれかからなるものであってもよいし、第2の層の材料として説明した他の材料からなるものであってもよい。
【0020】
上記本発明の太陽電池用基板では、基材が、ステンレス、チタンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1つの材料からなるものであってもよい。これらの材料からなる基材は耐熱性が高いため、耐熱性に優れる基板が得られる。
【0021】
基材は、ステンレス、チタンおよび銅以外の材料からなる基材であってもよく、たとえば、アルミニウムホイル、コバルト膜、ポリイミドフィルムといった耐熱性のある基材が好ましい。ステンレス薄膜は、比較的安価である、軽量である、高温に耐える、強度が優れる、といった利点を有するため、太陽電池用の基材として適している。基材の厚さは、素材の種類によっても異なり、特に限定されないが、強度や重量などを考慮して、通常、20μm〜1mmの範囲から選択される。
【0022】
これらの基板は軽量であるため、太陽電池を湾曲させて取り付ける場合にも施工が容易である。また、薄い基板は可撓性を有するので、基板をロール状にして連続的に太陽電池を形成できる。その結果、生産が容易になり、また、生産された太陽電池をロール状に巻き取って保管できるため、保管や運搬などを含めた生産性に優れる。
【0023】
上記本発明の太陽電池用基板では、第1の層が、SiO2、TiO2およびAl23からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物からなるものであってもよい。これらの材料は電気絶縁性に優れるため好ましい。なお、他の絶縁物で第1の層を形成してもよい。
【0024】
第1の層の厚さに特に限定はないが、第1の層が厚すぎると、第2の層の溶融または軟化時に流動や変形が生じることがある。そのため、第1の層の厚さは、通常、0.01μm〜0.5μm程度であることが好ましい。
【0025】
第1〜第4の層の形成方法に限定はなく、公知の方法を適用できる。たとえば、第1の層(絶縁層)は、溶射法や、スパッタリング法や、ガラスの材料を溶融する方法で形成できる。第2および第4の層(軟化層)は、たとえば、スパッタリング法や、ゾルーゲル法や、蒸着法で形成できる。第3の層(導電層)は、たとえば、スパッタリング法や蒸着法で形成できる。
【0026】
本発明の太陽電池は、基板と基板上に形成された光起電力層とを備える太陽電池であって、基板が上記本発明の太陽電池用基板である。光起電力層に特に限定はなく、光の照射によって起電力を生じる接合を含む多層膜が適用される。たとえば、光起電力層として、CIS層やCIGS層からなる半導体層を光吸収層として含む多層膜を用いることができる。CIS層やCIGS層は、Cuなどの1B族元素と、InやGaなどの3B族元素と、SeやSなどの6B族元素とによって構成される、I−III−VI族化合物半導体層であり、Gaを含むものがCIGS層である。p形のCIS層またはCIGS層と、n形の半導体層とを組み合わせることによって、光起電力層を構成できる。この場合のn形半導体層には、ZnO層やCdS層などを用いることができる。
【0027】
太陽電池を製造する場合、通常、500〜600℃の高温に基板が加熱されて半導体層などが形成されたのち、冷却される。このとき、従来の基板では、基板の熱膨張率と絶縁層の熱膨張率との差によって、基板の冷却時に、基板から絶縁層が剥離する場合があった。これに対し、本発明の基板を用いた場合には、基材と絶縁層(第1の層)との間に比較的低温で軟化する第2の層が存在するため、高温に加熱した際に発生する基板と絶縁層との間の応力を緩和する。その結果、加熱および冷却の差異に基材から絶縁層が剥離することを抑制できる。
【0028】
また、本発明では、絶縁層(第1の層)と導電層(第3の層)との間に、比較的低温で軟化する第4の層を形成することによって、加熱および冷却の際に、絶縁層から導電層が剥離することを抑制できる。なお、基材上に絶縁層を形成することによって、基材が導電性であっても、複数の太陽電池が直列に接続した構造を1つの基板上に形成できる。このような直列接続構造とすることによって、出力電圧が高い太陽電池が得られる。
【0029】
なお、別の観点では、本発明は、本発明の基板を用いて、軟化層が軟化する温度以上の温度に加熱する工程を含む製造工程で太陽電池を製造する方法に関する。軟化層が軟化する温度以上の温度(たとえば400℃以上の温度)で加熱する工程は、たとえば半導体層を形成する際の工程である。この製造方法によれば、太陽電池を歩留まりよく製造できる。
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
【0031】
<基板の例>
本発明の基板の一例を図1に示す。図1の基板10は、基材11と、基材11上に順に積層された、軟化層(第2の層)12および絶縁層(第1の層)13とを備える。
【0032】
本発明の基板の他の一例を図2に示す。図2の基板20は、基材11と、基材11上に順に積層された、軟化層12、絶縁層13および導電層(第3の層)14とを備える。
【0033】
本発明の基板のその他の一例を図3に示す。図3の基板30は、基材11と、基材11上に順に積層された軟化層12、絶縁層13、軟化層(第4の層)15、および導電層14とを備える。基材および第1〜第4の層は、上述した材料で形成される。
【0034】
<太陽電池の例>
図3の基板30を用いた本発明の太陽電池の一例の断面図を図4に示す。図4の太陽電池40は、導電層(第3の層)14としてモリブデン層を用いている。
【0035】
太陽電池40は、基板30と、基板30の上に順に積層されたp形半導体層41、n形半導体層42、窓層43、および透明電極44とを備える。基板30の導電層14は、モリブデンからなる。また、太陽電池40は、透明電極44上に形成されたn側の取り出し電極45と、導電層14上に形成されたp側の取り出し電極46とを備える。
【0036】
p形半導体層41は光吸収層であり、CIGS層などを適用できる。n形半導体層42はCdSなどで形成でき、窓層43はZnOなどで形成でき、透明電極44は、ITO(インジウム−錫−酸化物)などで形成できる。
【0037】
p形半導体層41となるCIS層やCIGS層を形成する場合、基板の温度を500〜600℃程度の高温にする必要がある。本発明の基板30には軟化層12および15が存在するため、加熱および冷却の際に、基材11と絶縁層13との間に発生する応力、および絶縁層13と導電層14との間に発生する応力を緩和できる。そのため、基板30を加熱および冷却した際にそれらの層の界面で剥離が生じすることを抑制できる。
【0038】
本発明の太陽電池の他の一例を図5に示す。図5の太陽電池50は、直列接続された複数のユニットセル50aを備える。
【0039】
太陽電池50は、基板30と、基板30の上に順に積層されたp形半導体層41、n形半導体層42、窓層43、および透明電極44とを備える。基板30の導電層14は、モリブデンからなる。導電層14以外の部分の材料の例については、上述したため説明を省略する。
【0040】
基板30の軟化層15および導電層14には、複数の溝51がほぼ平行に形成されている。また、p形半導体層41、n形半導体層42および窓層43にも、複数の溝52がほぼ平行に形成されている。溝52の内部は、透明電極44によって埋められている。また、p形半導体層41から透明電極44を切断する溝53が形成されている。溝51、52および53は、互いにほぼ平行であり、それぞれ、少しずつずれるように形成されている。これらの溝は、メカニカルスクライブ法や、レーザスクライブ法などの公知の方法で形成できる。
【0041】
基材11上には、これらの溝によって分けられた複数のユニットセル50aが存在する。隣接するユニットセル50aは、溝52に充填された透明電極44によって直列に接続されている。このように複数のユニットセル50aを直列に接続することによって、高い出力電圧が得られる。なお、溝51にはp形半導体層41が埋め込まれているが、溝51の幅を適切な幅とすることによって、1つのユニットセル50aの導電層14とそれに隣接するユニットセル50aの導電層14との間の抵抗を充分に高くできる。
【0042】
太陽電池50は、公知の方法で形成できる。太陽電池50の製造過程においても、太陽電池40と同様に、絶縁層13や導電層14が剥離することを抑制できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0044】
(実施例1)
実施例1では、図1の基板10を作製した例について説明する。まず、厚さ0.5mmのステンレス板に、軟化層12としてSn膜を蒸着法で形成した。Sn膜の膜厚は0.1μmであった。次に、Sn膜の上に、SiO2を53wt%、B23を14wt%、Na2Oを13wt%、TiO2を15wt%、Al23を5wt%の割合でそれぞれ含むガラス層を形成した。ガラス層は、上記成分の混合物を約800℃で加熱することによって形成した。
【0045】
このようにして得られた基板に対して、室温から1000℃まで加熱したのち室温に冷却するサイクルを10回以上繰り返したが、絶縁層の剥離は起こらなかった。
【0046】
なお、本実施例では軟化層としてSn膜を用いた例について記したが、Snの代わりに、軟化層12の材料として上述したどの材料を用いても同様の結果が得られた。
【0047】
(実施例2)
実施例2では、図4に示した太陽電池40と同様の形態の太陽電池を作製した一例について説明する。まず、厚さ50μmのステンレス基板上に、軟化層12としてIn膜を蒸着法で形成した。In膜の膜厚は0.1μmであった。この上に、溶射によってアルミナ膜を形成した。アルミナ膜の膜厚は100μmであった。この上に、軟化層15としてIn膜を蒸着法で形成した。In膜の膜厚は0.1μmであった。この上に、導電層14として膜厚0.4μmのMo膜をスパッタ法で形成した。
【0048】
次に、Mo膜上に、p形半導体層41として膜厚2μmのCIGS膜を蒸着法によって形成した。CIGS膜の製膜温度(基板温度)は600℃であった。CIGS膜の形成過程において、膜の剥離は見られなかった。
【0049】
次に、Inを含む化合物(塩)である塩化インジウム(InCl3)とチオアセトアミドとを含有する水溶液を用意した。水溶液中の塩化インジウムの濃度は0.005Mとし、チオアセトアミドの濃度は0.1Mとし、pHは1.9とした。この水溶液を入れた容器を75℃に保った温水槽に静置した。この水溶液にCIGS膜を形成した基板を、約10秒間浸漬した。その後、溶液から基板を引き上げて純水で洗浄した。この操作によって、Cu(In,Ga)Se2膜の表面に膜厚が約5nmのCu(In,Ga)S2膜を形成した。Cu(In,Ga)S2膜によってパッシベーション効果とオールバリヤー効果が得られるため、特性が高い太陽電池を形成できる。
【0050】
次に、カドミウムを含む化合物(塩)である硫酸カドミウム(CdSO4)とアンモニアとを含有する水溶液を用意した。水溶液中の硫酸カドミウムの濃度は0.001Mとし、アンモニアの濃度は1Mとした。この溶液を入れた容器を85℃に保った温水槽に静置した。この溶液にCIGS膜を形成した基板を約6分間浸漬した。その後、溶液から基板を引き上げて純水で洗浄し、CdSからなるn形半導体層を形成した。
【0051】
次に、窓層であるZnO膜(膜厚100nm)と、透明電極であるITO膜(膜厚100nm)とをスパッタリング法によって形成した。ZnO膜形成時のスパッタの条件は、アルゴンガス圧1.5×10-4Pa(2×10-2Torr)、高周波パワー400Wとした。また、ITO膜形成時のスパッタの条件は、アルゴンガス圧6×10-5Pa(8×10-3Torr)、高周波パワー400Wとした。
【0052】
次に、裏面電極(Mo膜)の一部の上に、取り出し電極としてNiCr膜を形成した。また、ITO膜の一部の上に、取り出し電極としてAu膜を形成した。これらの電極は、電子ビーム蒸着法によって形成した。
【0053】
このようにして、本発明の太陽電池を形成した。上記の一連の工程において、ステンレス基板上の膜には剥離が生じなかった。
【0054】
一方、比較のため、軟化層12および15であるIn膜を形成しなかった基板を用いて、上記の太陽電池と同様に光起電力層を形成した。この場合、600℃の基板温度でCIGS膜を形成したのち試料作製室から基板を取り出すと、約65%の試料で、ステンレス基板表面またはMo膜表面での剥離が生じた。このとき剥離が生じなかった試料についてさらに製造工程を進めると、Cu(In,Ga)S2膜を形成するための処理において、さらに23%の試料で剥離が生じた。このとき剥離が生じなかった試料についてさらに製造工程を進めると、CdS膜を形成するための処理において、さらに12%の試料で剥離が生じた。このようにして、軟化層を形成しなかった基板を用いた試料では、すべての試料で剥離が生じた。
【0055】
上述した方法で作製した本発明の太陽電池について、AM1.5、100mW/cm2の疑似太陽光を照射して特性を評価した。その結果、短絡電流が34.5mA/cm2、開放電圧が0.63V、曲線因子が0.70、変換効率が15.2%であった。この特性はガラス基板上に形成したCIGS太陽電池の特性と同じであった。
【0056】
なお、本実施例では、軟化層として、Inを用いた場合について説明したが、Inの代わりに、軟化層12の材料として上述したどの材料を用いても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、太陽電池用の基板および太陽電池に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の太陽電池用基板の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の太陽電池用基板の他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の太陽電池用基板のその他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の太陽電池の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の太陽電池の他の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10、20、30 基板
11 基材
12 軟化層(第2の層)
13 絶縁層(第1の層)
14 導電層(第3の層)
15 軟化層(第4の層)
40、50 太陽電池
41 p形半導体層
42 n形半導体層
43 窓層
44 透明電極
45、46 取り出し電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池に用いられる基板であって、
基材と、前記基材上に積層された電気絶縁性の第1の層と、前記基材と前記第1の層との間に配置された第2の層とを含み、
前記第2の層が軟化する温度が、前記基材および前記第1の層が軟化する温度よりも低い太陽電池用基板。
【請求項2】
前記第1の層に対して前記第2の層とは反対側に積層された導電性の第3の層をさらに含む請求項1に記載の太陽電池用基板。
【請求項3】
前記第2の層が軟化する温度が400℃以下である請求項1または2に記載の太陽電池用基板。
【請求項4】
前記第2の層が、ガラスからなる請求項1または2に記載の太陽電池用基板。
【請求項5】
前記第2の層が、In、Sn、In合金、またはSn合金のいずれかからなる請求項1または2に記載の太陽電池用基板。
【請求項6】
前記第1の層と前記第3の層との間に配置された第4の層をさらに含み、
前記第4の層が軟化する温度が、前記基材、前記第1の層および前記第3の層が軟化する温度よりも低い請求項2に記載の太陽電池用基板。
【請求項7】
前記第4の層が軟化する温度が400℃以下である請求項6に記載の太陽電池用基板。
【請求項8】
前記基材が、ステンレス、チタンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1つの材料からなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の太陽電池用基板。
【請求項9】
前記第1の層が、SiO2、TiO2およびAl23からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物からなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の太陽電池用基板。
【請求項10】
基板と前記基板上に形成された光起電力層とを備える太陽電池であって、
前記基板が請求項1〜9のいずれか1項に記載された太陽電池用基板である太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−294767(P2006−294767A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111550(P2005−111550)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電技術研究開発(先進太陽電池技術研究開発)」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】