太陽電池用電極体及びその製造方法、この電極体を備えた太陽電池
【課題】有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として使用可能である上に耐熱性に優れた太陽電池用電極体を提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池用電極体は、少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた太陽電池用電極体であって、上記導電性ポリマー層が、3位と4位に置換基を有するチオフェンから成る群から選択されたモノマーの重合により得られたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である化合物から発生したアニオンと、を含むことを特徴とする。上記非スルホン酸系有機化合物のアニオンが導電性ポリマー層にドーパントとして含まれることにより、導電性ポリマー層の耐熱性が向上する。
【解決手段】本発明の太陽電池用電極体は、少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた太陽電池用電極体であって、上記導電性ポリマー層が、3位と4位に置換基を有するチオフェンから成る群から選択されたモノマーの重合により得られたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である化合物から発生したアニオンと、を含むことを特徴とする。上記非スルホン酸系有機化合物のアニオンが導電性ポリマー層にドーパントとして含まれることにより、導電性ポリマー層の耐熱性が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として使用可能である、耐熱性に優れた太陽電池用電極体及びその製造方法に関する。本発明はまた、この電極体を備えた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池とに大別される有機系太陽電池は、シリコン系太陽電池や化合物系太陽電池と比較して、資源的制約が無く、原材料が安価であり、製法が簡便であるため生産コストを低く抑えることができ、軽量で柔軟性をもたせることができるなどの利点を有している。
【0003】
有機薄膜太陽電池は、正孔輸送体(p型半導体)と電子輸送体(n型半導体)とを含む光電変換層が陽極と陰極との間に挟みこまれた構造を有している。一般に、ガラスなどの透明基体の表面にスズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの半導体セラミックスの蒸着層を形成した透明電極が陽極として使用されており、ITOやFTOより小さい仕事関数を有するアルミニウム膜、マグネシウム−銀合金膜などの金属電極が陰極として使用されている。透明電極を介して上記光電変換層に光が照射されると、光電変換層内に電子と正孔とが生成し、正孔は正孔輸送体を介して陽極側に、電子は電子輸送体を介して陰極側に、それぞれ分離して輸送される。
【0004】
ところで、有機薄膜太陽電池の性能は、光電変換層ばかりでなく、陽極と光電変換層との界面によっても影響を受ける。陽極と光電変換層の間の平滑性や密着性の悪さに起因して、光電変換層から陽極への正孔輸送効率が低下するが、このことが太陽電池の短絡電流密度を低下させ、光電変換効率を低下させる。このことを防止する目的で、陽極と光電変換層の間に、正孔輸送能を有する導電性ポリマー層で構成される正孔取り出し層が設けられている。この正孔取り出し層は、主として陽極の表面を平滑化して光電変換層と陽極との界面抵抗を減少させる作用を果たす。
【0005】
そして、この正孔取り出し層として、ポリチオフェン、特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のポリスチレンスルホン酸塩から成る層が頻繁に使用されてきた(以下、3,4−エチレンジオキシチオフェンを「EDOT」と表し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を「PEDOT」と表し、ポリスチレンスルホン酸を「PSS」と表し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のポリスチレンスルホン酸塩を「PEDOT:PSS」と表す)。例えば、非特許文献1(Solar Energy Materials & Solar Cells 94(2010)623−628)は、ITOガラス電極から成る陽極上にPEDOT:PSS水性分散液をスピンコートすることにより正孔取り出し層を形成し、次いで、銅−フタロシアニンから成る正孔輸送体層、フラーレンから成る電子輸送体層、フッ化リチウム薄膜から成る正孔ブロック層、及びアルミニウム膜から成る陰極をこの順番で真空蒸着法により形成した有機薄膜太陽電池を開示している。この文献は、PEDOT:PSS正孔取り出し層によりITOガラス電極表面の凹凸が顕著に改善され、光電変換層から陽極への正孔輸送効率が顕著に改善された結果、太陽電池の短絡電流密度が大幅に上昇したことを報告している。
【0006】
色素増感太陽電池は、対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層が、光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、電解質層中の酸化種を還元種に変換する触媒層を有する陽極との間に挟み込まれた構造を有している。一般に、上述した透明電極の上にルテニウム錯体などの色素を担持した酸化物半導体層を形成した電極が陰極として使用されており、上述した透明電極や鋼などの基体上にPtをスパッタリング法、真空蒸着法などにより付着させた電極が陽極として使用されている。透明電極を介して半導体層の色素に光が照射されると、色素が光エネルギーを吸収して励起状態となり、電子を半導体に向けて放出する。放出された電子は半導体層から透明電極へと移動し、さらに透明電極から外部回路を経由して陽極へと移動する。そして、陽極のPt触媒層の作用により電解質層の酸化種(例えばI3−)が陽極から電子を受け取って還元種(例えばI−)へと変換され、さらに還元種(例えばI−)が色素に電子を放出して酸化種(例えばI3−)へと変換される。
【0007】
陽極のPt触媒層は、電解質層の酸化種を還元種に変換する触媒能に優れているが、高価であり、また水分存在下でのI−イオンに対する耐久性が十分でないという問題点を有している。そのため、Pt触媒層の代替となる導電性材料が検討されており、これまでにポリチオフェン層、特にPEDOT:PSS層の使用が検討されてきた。例えば、非特許文献2(Electrochemistry 71,No.11(2003)944−946)は、PEDOT:PSS、ポリアニリン、及びポリピロールの3種の導電性ポリマー層を備えた電極を選択し、I−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムを測定し、Pt電極のものと比較した結果を報告している。Pt電極のサイクリックボルタモグラムにはI3−からI−への還元波が明瞭に認められるのに対し、PEDOT:PSS電極及びポリピロール電極のサイクリックボルタモグラムにはI3−からI−への還元波がほとんど認められず、ポリアニリン電極のサイクリックボルタモグラムには酸化還元波自体が全く認められていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Solar Energy Materials & Solar Cells 94(2010)623−628
【非特許文献2】Electrochemistry 71,No.11(2003)944−946
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、PEDOT:PSS層は、有機薄膜太陽電池における正孔取り出し層としても色素増感太陽電池の陽極における触媒層としても検討されている導電性ポリマー層である。しかしながら、PEDOT:PSS層が高い吸水性を示すという問題がある。
【0010】
この点について、非特許文献1は、PEDOT:PSS正孔取り出し層を有する有機薄膜太陽電池を温度25℃湿度55%の空気中に光未照射の状態で放置すると、PEDOT:PSS層が雰囲気から水蒸気を吸収してシート抵抗を増加させるため、太陽電池の特性が急速に劣化することを報告している。また、PSSは拡散しやすい物質であるため、拡散して太陽電池の他の構成要素と反応することが懸念される。さらに、正孔取り出し層を形成するためのPEDOT:PSS水性分散液はpHが3未満の酸性物質であるため、太陽電池の他の構成要素を腐食させるおそれもある。
【0011】
また、色素増感太陽電池の陽極には電解質層の酸化種を還元する触媒能が特に求められるが、非特許文献2に示されているように、ポリアニリン電極やポリピロール電極はもちろんのことPEDOT:PSS電極であっても、I3−の還元反応が容易には起こらず、したがってI−の十分な再生が困難であり、色素増感太陽電池の陽極として満足のいく性能を有していない。
【0012】
さらに、太陽電池の製造過程において太陽電池の各構成要素が高温を経験することがあり、また太陽電池を猛暑時に野外で使用する場合も想定されるため、太陽電池の各構成要素には十分な耐熱性が求められる。しかしながら、有機薄膜太陽電池の正孔取り出し層或いは色素増感太陽電池の陽極の触媒層としてこれまで検討されてきたPEDOT:PSS層は満足のいく耐熱性を有していない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として使用可能である上に耐熱性に優れた太陽電池用電極体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、鋭意検討した結果、3位と4位に置換基を有するチオフェン(以下、「置換チオフェン」と表わす)から得られた導電性ポリマーに対するドーパントとして、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である化合物から発生したアニオンを選択することにより、上記目的が達成されることを発見した。なお、「非スルホン酸系有機化合物」とは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有していない有機化合物を意味する。
【0015】
したがって、本発明はまず、少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた太陽電池用電極体であって、上記導電性ポリマー層が、少なくとも一種の置換チオフェンから構成されたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、を含むことを特徴とする太陽電池用電極体に関する。
【0016】
本発明の太陽電池用電極体における導電性ポリマー層は、正孔輸送能に優れ、酸化還元対の酸化種を還元種に変換する触媒能にも優れる。また、この導電性ポリマー層は、空気中の水分に対して安定であり、耐熱性にも優れる。
【0017】
この導電性ポリマー層には、ドーパントとして、非スルホン酸系有機化合物であってそアニオンの分子量が200以上である化合物から発生したアニオンが含まれる。無機化合物から発生したアニオン、或いは、有機化合物であってもスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有する化合物から発生したアニオン、或いは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有していない有機化合物であってもアニオンの分子量が200未満である化合物から発生したアニオンは、耐熱性に優れた導電性ポリマー層を与えない。
【0018】
特に、上記非スルホン酸系有機化合物が、ボロジサリチル酸、ボロジサリチル酸塩、式(I)又は式(II)
【化1】
(式中、mが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩から成る群から選択された化合物であるのが好ましい。これらの非スルホン酸系有機化合物のアニオンは、特に耐久性に優れた導電性ポリマー層を与える。中でも、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸塩が好ましい。
【0019】
本発明の太陽電池用電極体において、導電性ポリマーを構成するモノマーは、置換チオフェン、すなわち、3位と4位に置換基を有するチオフェンから成る群から選択された化合物であれば、特に限定が無い。チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。特にモノマーがEDOTであると、環境安定性と光透過性(透明性)に優れる導電性ポリマー層が得られるため好ましく、また、基体として透明な基体を使用することにより、光透過性(透明性)に優れる太陽電池用電極体が得られるため好ましい。透明な基体は、透明で絶縁性のガラス基板又はプラスチック基板の表面に、ITO、酸化スズ、FTOなどの透明な半導体セラミックス層を蒸着又は塗布により設けることにより得ることができる。
【0020】
本発明の太陽電池用電極体は、溶媒としての水に、上述した特定範囲の非スルホン酸系有機化合物を支持電解質として含み、置換チオフェンを油滴として含む、透明である重合液を用いた電解重合により好適に得ることができる。なお、「透明である重合液」とは、重合液に分散している置換チオフェンの油滴のうち、全数の90%以上の油滴が250nm以下の直径を有している重合液を意味する。油滴のサイズは動的光散乱法により測定することができる。
【0021】
溶媒としての水に飽和溶解量より多い量の置換チオフェンを添加した相分離液に超音波を照射することにより、水中に置換チオフェンが油滴として分散した乳濁分散液を得た後、この乳濁分散液にさらに高い周波数の超音波を照射すると、置換チオフェンの油滴のサイズ(直径)を容易に減少させることができ、分散液全体が透明に見える透明分散液を容易に得ることができる。透明である重合液には、このような微小な置換チオフェンの油滴が高分散状態で存在しており、油滴による光散乱が実質的に認められず、重合液全体が透明に見える。なお、「超音波」とは10kHz以上の周波数を有する音波を意味する。
【0022】
上述した特定範囲の非スルホン酸系有機化合物は、相分離液、乳濁分散液及び透明分散液のいずれかに添加すればよい。この化合物は重合液において支持電解質として作用するため、「非スルホン酸系有機支持電解質」とも表わされる。但し、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩に含まれるボロジサリチル酸イオンは、水中で水への溶解度が極めて小さいサリチル酸とホウ酸とに加水分解することがわかっている。そのため、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を支持電解質として使用すると、徐々に重合液中に沈殿が生じて使用に耐えなくなる。このことを回避するため、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を支持電解質として使用する場合には、この支持電解質を液に添加した後沈殿生成前に電解重合を行うか、或いは、p−ニトロフェノールと併用する。p−ニトロフェノールがボロジサリチル酸イオンの加水分解を抑制するためであると思われるが、p−ニトロフェノールとボロジサリチル酸イオンとを含む重合液からは沈殿が生成しない。p−ニトロフェノールと併用する場合には、p−ニトロフェノールをボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩とほぼ同時に添加するか、或いは、p−ニトロフェノールをボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩より先に添加する。
【0023】
透明である重合液に少なくとも表面に導電性部分を有する基体を導入し、電解重合を行うと、重合液中のモノマーの微小な油滴と基体の導電性部分との間の直接的な電荷移動により電解重合が円滑に進行し、微小な油滴のサイズとほぼ等しいサイズのポリマー粒子、したがって透明に見えるポリマー粒子が緻密に集積した導電性ポリマー層が基体の導電性部分の上に形成される。環境負荷が小さく且つ経済的である水に飽和溶解量以下の置換チオフェンを溶解させた重合液を用いて電解重合を行うと、置換チオフェンの水への溶解度が低いため、所望の厚さの導電性ポリマー層を得るのに時間がかかる場合があるが、モノマーを微小な油滴として水に分散させることにより電解重合が円滑に進行するため、この問題が解決される。
【0024】
したがって、本発明はまた、上記太陽電池用電極体の製造方法であって、
(A)以下の(a1)〜(a4)のステップにより、溶媒としての水と、水に油滴として分散したモノマーとしての置換チオフェンと、上記非スルホン酸系有機化合物と、を含み、且つ透明である重合液を得る調製工程、
(a1)水に置換チオフェンを添加し、水と置換チオフェンとが相分離した相分離液を得るステップ、
(a2)上記相分離液に超音波を照射することにより、置換チオフェンを油滴として分散させ、乳濁分散液を得るステップ、
(a3)上記乳濁分散液に、(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射することにより、置換チオフェンの油滴のサイズを減少させ、透明分散液を得るステップ、
(a4)上記非スルホン酸系有機化合物を、支持電解質として、上記相分離液、上記乳濁分散液、又は、上記透明分散液に添加するステップ、
及び、
(B)上記調製工程で得られた重合液に上記基体を導入し、電解重合を行うことにより、置換チオフェンの重合により得られた導電性ポリマー層を上記基体の導電性部分の上に形成する重合工程、
を含むことを特徴とする、太陽電池用電極体の製造方法に関する。
【0025】
電解重合により基体の導電性部分の上に導電性ポリマー層が密着性良く形成されるため、基体の導電性部分と導電性ポリマー層との間の界面抵抗が小さい。また、電解重合により得られる導電性ポリマー層は、正孔輸送能に優れ、酸化還元対の酸化種を還元種に変換する触媒能に優れる上に、耐熱性に優れる。さらに、電解重合により得られる導電性ポリマー層は、空気中の水分に安定であり、太陽電池の他の構成要素を腐食させる心配も無い。
【0026】
(a2)ステップは、15〜200kHzの周波数を有し、比較的高出力な、好適には4W/cm2以上の出力を有する超音波を使用することにより、好適に実施することができ、(a3)ステップは、1〜4MHzの周波数を有し、比較的高出力な、好適には5W/cm2以上の出力を有する超音波を使用することにより、好適に実施することができる。(a2)ステップにおける超音波の周波数が15kHzより小さいか、或いは、周波数が200kHzを超えると、また、(a2)ステップにおける超音波の出力が4W/cm2より小さいと、乳濁分散液を得るのに好適なキャビテーションが発生しにくくなる。また、(a3)ステップにおける超音波の周波数が1MHzより小さいか、或いは、周波数が4MHzを超えると、また、(a3)ステップにおける超音波の出力が5W/cm2より小さいと、(a2)ステップで生成した置換チオフェンの油滴の平均サイズを透明分散液が得られるようになるまで減少させるのに好適なキャビテーションが発生しにくくなる。
【0027】
本発明の太陽電池用電極体の製造方法では、(a2)ステップ及び(a3)ステップをそれぞれ1回(例えば、(a2)ステップを20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して、(a3)ステップを1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行っても良いが、(a2)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波に続いて50kHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行っても良く、及び/又は、(a3)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波に続いて2MHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行っても良い。特に、(a3)ステップは、回数が増加するほど超音波の周波数を増加させる条件で複数回行うのが好ましい。(a3)ステップを複数回繰り返すことにより、置換チオフェンの油滴がさらに細分化し、この重合液を用いた電解重合により得られる導電性ポリマー層の透明性がさらに向上する。
【0028】
(a2)ステップ及び(a3)ステップにおける超音波照射時間は、約1分程度であっても、乳濁分散液又は透明分散液が得られるが、超音波照射時間が長くなると、置換チオフェンの油滴の凝集が阻害され、解乳化までの時間が長期化するため好ましい。(a2)ステップにおける超音波照射時間は、2〜10分の範囲であるのが好ましく、(a3)ステップにおける超音波照射時間は、2〜10分の範囲であるのが好ましい。各分散工程における超音波照射時間が10分以上では、油滴の凝集阻害効果が飽和する傾向が認められる。
【0029】
ところで、電解重合用の重合液の調製に超音波照射を利用する方法自体は公知である。J.AM.CHEM.SOC.(2005),127(38),13160−13161には、支持電解質としてのLiClO4を溶解させた水溶液に飽和溶解量より多い量のEDOTを添加し、周波数20kHz、出力22.6W/cm2の超音波を60秒間照射し、モノマー油滴が水に分散している乳濁した重合液を得(この文献の図1参照)、この重合液を用いてPt電極上に電解重合層を形成した結果が報告されている。しかし、この文献には、本発明で使用される支持電解質を示唆する記載が存在せず、この支持電解質の使用により耐熱性に優れた太陽電池用電極体が得られることを示唆する記載も存在しない。
【0030】
本発明の太陽電池用電極体は、基体の上に形成されている導電性ポリマー層が優れた正孔輸送能を有するため、有機薄膜太陽電池の構成要素として好適に使用することができる。したがって、本発明はまた、少なくとも表面に導電性部分を有する陽極と、該陽極の導電性部分の上に積層された正孔取り出し層と、該正孔取り出し層上に積層された正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、該光電変換層上に積層された陰極と、を備えた有機薄膜太陽電池であって、上記陽極と上記正孔取り出し層とが本発明の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする有機薄膜太陽電池に関する。
【0031】
本発明の太陽電池用電極体はまた、基体の上に形成されている導電性ポリマー層が優れた還元触媒能を有するため、色素増感太陽電池の構成要素として好適に使用することができる。したがって、本発明はまた、光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、該陰極の半導体層上に積層された対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層と、該電解質層上に積層された上記酸化種を上記還元種に変換する触媒として作用する導電性ポリマー層を有する陽極と、を備えた色素増感太陽電池であって、上記陽極が本発明の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする色素増感太陽電池に関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の太陽電池用電極体において基体の上に形成されている導電性ポリマー層は、正孔輸送能に優れ、酸化還元対の酸化種を還元種に変換する触媒能に優れる上に、耐熱性に優れる。したがって、本発明の太陽電池用電極体は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体の光透過率を、PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体の光透過率と比較した図である。
【図2】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体の表面の平滑度を、PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体の表面の平滑度と比較した図である。
【図3】ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図4】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図5】PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図6】ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとEDOTとを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図7】硝酸カリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図8】過塩素酸リチウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図9】ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムを、PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体及び白金蒸着電極のサイクリックボルタモグラムと比較した図である。
【図10】ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムである。
【図11】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムである。
【図12】ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとEDOTとを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムである。
【図13】色素増感太陽電池としての評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(1)太陽電池用電極体
少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた本発明の太陽電池用電極体は、上記導電性ポリマー層が、モノマーとしての置換チオフェンから構成されたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、を含むことを特徴とする。
【0035】
そして、この太陽電池用電極体は、
(A)以下の(a1)〜(a4)のステップにより、溶媒としての水と、水に油滴として分散したモノマーとしての置換チオフェンと、上記非スルホン酸系有機化合物と、を含み、且つ透明である重合液を得る調製工程、
(a1)水に置換チオフェンを添加し、水と置換チオフェンとが相分離した相分離液を得るステップ、
(a2)上記相分離液に超音波を照射することにより、置換チオフェンを油滴として分散させ、乳濁分散液を得るステップ、
(a3)上記乳濁分散液に、(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射することにより、置換チオフェンの油滴のサイズを減少させ、透明分散液を得るステップ、
(a4)上記非スルホン酸系有機化合物を、支持電解質として、上記相分離液、上記乳濁分散液、又は、上記透明分散液に添加するステップ、
及び、
(B)上記調製工程で得られた重合液に上記基体を導入し、電解重合を行うことにより、置換チオフェンの重合により得られた導電性ポリマー層を上記基体の導電性部分の上に形成する重合工程、
を含む方法により好適に得ることができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0036】
(A)調製工程
(a1)ステップ
(a1)ステップでは、水にモノマーを添加し、水とモノマーとが相分離した相分離液を得る。重合液には、環境負荷が小さく、経済的にも優れる水を溶媒として使用し、モノマーとしては、水に難溶である置換チオフェン、すなわち、3位と4位に置換基を有するチオフェンを使用する。
【0037】
チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。使用可能なモノマーの例としては、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェンなどの3,4−ジアルコキシチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェン、EDOT、3,4−(1,2−プロピレンジオキシ)チオフェンなどのアルキレンジオキシチオフェン、3,4−メチレンオキシチアチオフェン、3,4−エチレンオキシチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンオキシチア)チオフェンなどのアルキレンオキシチアチオフェン、3,4−メチレンジチアチオフェン、3,4−エチレンジチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンジチア)チオフェンなどのアルキレンジチアチオフェン、チエノ[3,4−b]チオフェン、イソプロピルチエノ[3,4−b]チオフェン、t−ブチル−チエノ[3,4−b]チオフェンなどのアルキルチエノ[3,4−b]チオフェンが挙げられる。モノマーとして、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を混合して使用しても良い。特に、EDOTを使用するのが好ましい。
【0038】
(a1)ステップでは、水に置換チオフェンを添加するほか、支持電解質を添加することができる((a4)ステップ)。支持電解質としては、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である化合物を使用する。このような非スルホン酸系有機支持電解質としては、ボロジサリチル酸、ボロジサリチル酸塩、式(I)又は式(II)
【化2】
(式中、mが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩を好ましく使用することができる。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩などのアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩などのジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩などのトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩を挙げることができる。これらの支持電解質は、特に耐久性に優れた導電性ポリマー層を与える。中でも、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸の塩、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩が極めて好ましい。この段階でボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を使用する場合には、p−ニトロフェノールと併用する。非スルホン酸系有機支持電解質は、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。
【0039】
モノマーとしての置換チオフェンは、重合液に対して、飽和溶解量を超える量で、したがって、静置した状態で飽和溶解量を超えた置換チオフェンが水から相分離する量で使用される。飽和溶解量を超える置換チオフェンの量は、超音波照射により解乳化が抑制され、透明分散液が得られる量であれば良く、モノマーの種類ばかりでなく、支持電解質の種類と量、超音波照射条件によっても変化する。モノマーとしてEDOTを使用する場合には、一般に、水1リットルに対して20〜30ミリモルのEDOTを水に添加するのが好ましい。
【0040】
非スルホン酸系有機支持電解質は、支持電解質の種類に依存して、重合液に対する飽和溶解度以下の量で且つ電解重合のために充分な電流が得られる濃度、好ましくは水1リットルに対して10ミリモル以上の濃度で使用される。支持電解質が濃すぎると、置換チオフェンが油滴として分散しにくくなり、透明分散液が得られにくくなる。なお、支持電解質は、この(a1)ステップにおいて添加することもできるが、これに限定されず、後述する(a2)ステップと(a3)ステップの間、又は、(a3)ステップの後に添加することもできる。
【0041】
水と、置換チオフェンと、場合により非スルホン酸系支持電解質とを含み、水と置換チオフェンとが相分離した相分離液は、次に超音波処理に付される。本発明において置換チオフェンの電解重合のために使用する重合液は、置換チオフェンが水に油滴として分散した透明である重合液、すなわち、重合液中に存在する置換チオフェンの油滴のうち、全数の90%以上の油滴が250nm以下の直径を有している重合液である。このような微小な油滴を超音波照射により得るためには、少なくとも同等サイズ、好適には百nm以下のサイズのキャビテーションを発生させる必要があるが、百nm以下のサイズのキャビテーションは、相分離している状態の置換チオフェンを均一に分散させるためにはあまりにも小さく機械的作用も小さいため、実質上置換チオフェンを分散させる作用を有しない。そこで、本発明において置換チオフェンの電解重合のために使用する重合液は、以下の(a2)ステップとこれに続く(a3)ステップとを実施することにより好適に得ることができる。
【0042】
(a2)ステップ
(a2)ステップでは、(a1)ステップで得られた相分離液に超音波処理を施こすことにより置換チオフェンを油滴として分散させ、乳濁分散液を得る。乳濁分散液中では、数μm以下の直径を有する置換チオフェンの油滴が水中に高分散状態で分散しているものの、全数の10%を超える油滴が250nmを超える直径を有しており、油滴による光散乱により液全体が乳濁して見える。
【0043】
(a2)ステップのために使用される超音波発振器として、超音波洗浄機用、細胞粉砕機用等として従来から知られている超音波発振器を特に制限なく使用することができる。この工程では、機械的作用が強い数百nm〜数μmのキャビテーションを発生させることができる超音波を相分離液に照射する。超音波の周波数は、15〜200kHzの範囲であるのが好ましく、20〜100kHzの範囲であるのが特に好ましい。超音波の出力は、4W/cm2以上であるのが好ましい。
【0044】
(a2)ステップにおける超音波照射時間は、乳濁分散液が得られる時間であれば厳密な制限はないが、2〜10分の範囲であるのが好ましい。照射時間が長いほど、置換チオフェンの油滴の凝集が阻害され、解乳化までの時間が長期化する傾向にあるが、超音波照射時間が10分以上では、油滴の凝集阻害効果が飽和する傾向が認められる。また、超音波照射時の相分離液の温度は、液の組成変化が起こらず、安定な乳濁分散液が得られれば特に限定がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。
【0045】
本発明では、(a2)ステップは、1回、例えば、20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して1回行っても良いが、(a2)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波に続いて50kHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行うこともできる。
【0046】
(a3)ステップ
(a2)ステップに続いて、乳濁分散液に(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射し、置換チオフェンの油滴の平均サイズを減少させることにより、透明な分散液、すなわち、置換チオフェンの油滴数の90%以上の油滴が250nm以下の直径を有している分散液を得ることができる。非スルホン酸系有機支持電解質を相分離液に添加しなかった場合には、(a3)ステップの前に乳濁分散液に添加することもできる((a4)ステップ)。但し、この段階でボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を使用する場合には、p−ニトロフェノールと併用する。
【0047】
(a3)ステップに使用される超音波発振器としては、超音波洗浄機用、細胞粉砕機用等として従来から知られている超音波発振器を特に制限なく使用することができる。この工程では、乳濁分散液中の置換チオフェンの油滴のサイズを250nm以下に減少させるために、機械的作用が弱いものの、少なくとも同等サイズ、好適には百nm以下のキャビテーションを発生させることができる超音波が使用される。超音波の周波数は、1〜4MHzの範囲が好ましく、超音波の出力は、5W/cm2以上であるのが好ましい。超音波の周波数が4MHzを超えると、もはやキャビテーションが発生しない。
【0048】
(a3)ステップにおける超音波照射時間は、透明分散液が得られる時間であれば厳密な制限はないが、2〜10分の範囲であるのが好ましい。照射時間が長いほど、置換チオフェンの油滴の凝集が阻害され、解乳化までの時間が長期化する傾向にあるが、超音波照射時間が10分以上では、油滴の凝集阻害効果が飽和する傾向が認められる。また、超音波照射時の乳濁分散液の温度は、液の組成変化が起こらず、安定な透明分散液が得られれば特に限定がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。
【0049】
(a3)ステップは、1回、例えば1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して1回行っても良いが、(a3)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波に続いて2MHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行うこともでき、回数が増加するほど超音波の周波数を増加させる条件で複数回行うのが好ましい。(a3)ステップを複数回繰り返すと、置換チオフェンの油滴がさらに細分化し、高電導度と高い透明性とを有する導電性ポリマー層を与える特に好適な重合液を容易に得ることができる。
【0050】
本発明の太陽電池用電極体の製造方法においては、(a3)ステップにより得られた透明分散液を重合液として電解重合を行うが、非スルホン酸系有機支持電解質を相分離液及び乳濁分散液に添加しなかった場合には、電解重合の前に透明分散液に支持電解質を添加することもできる((a4)ステップ)。この段階でボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を使用する場合には、p−ニトロフェノールと併用する必要がない。
【0051】
(B)重合工程
上述の調製工程により得られた重合液に、少なくとも表面に導電性部分を有する作用極(導電性ポリマー層の基体)と対極とを導入し、電解重合を行うことにより、上記モノマーの重合により得られた導電性ポリマー層を作用極の導電性部分の上に形成し、太陽電池用電極体を得る。作用極の種類は、太陽電池用電極体の用途に応じて選択される。
【0052】
有機薄膜太陽電池の陽極及び正孔取り出し層として使用される太陽電池用電極体を得る場合には、作用極として、有機薄膜太陽電池において使用する陰極より仕事関数が大きい導電性部分を少なくとも表面に有する基体が選択される。例えば、仕事関数が大きい金、銀、コバルト、ニッケル、白金などの金属層のほか、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの半導体セラミックス層を少なくとも表面に有する基体を作用極とすることができる。導電性部分は、単層であっても良く、異なる仕事関数を有する複数の層であっても良い。
【0053】
この重合工程で得られる導電性ポリマー層は透明性に優れるため、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、酸化亜鉛、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を作用極として使用するのが好ましい。
【0054】
色素増感太陽電池の陽極として使用される太陽電池用電極体を得る場合には、作用極として、少なくとも表面に導電性部分を有する基体を使用することができ、導電性部分は、単層であっても良く、異なる種類の複数の層を含んでいても良い。例えば、白金、ニッケル、チタン、鋼などの導電体の板或いは箔を作用極として使用することができる。しかしながら、この重合工程で得られる導電性ポリマー層は透明性に優れるため、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルナフタレート、ポリカーボネートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、酸化亜鉛、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を作用極として使用するのが好ましい。
【0055】
電解重合の対極としては、白金、ニッケルなどの板を用いることができる。
【0056】
電解重合は、調製工程により得られた透明である重合液を用いて、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して1.0〜1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、モノマーの種類に依存するが、1〜10000μA/cm2、好ましくは5〜500μA/cm2、より好ましくは10〜100μA/cm2の電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して−0.5〜1.5Vの範囲を5〜200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。
【0057】
透明である重合液を用いた電解重合により、重合液中のモノマーの微小な油滴と作用極の導電性部分との間の直接的な電荷移動により電解重合が円滑に進行し、微小な油滴のサイズとほぼ等しいサイズのポリマー粒子、したがって透明に見えるポリマー粒子が緻密に集積した導電性ポリマー層が作用極の導電性部分の上に形成される。そして、この導電性ポリマー層には上述した特定範囲の非スルホン酸系有機支持電解質のアニオンがドーパントとして含まれている。導電性ポリマー層の厚みは、一般的には1〜1000nm、好ましくは5〜500nmの範囲である。厚みが1nmより薄いと、基体の導電性部分の凹凸を平滑化する効果が得られにくくなり、厚みが1000nmより厚いと、導電性ポリマー層の内部抵抗が大きくなるため好ましくない。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。重合時間は、一般的には0.6秒〜1時間、好ましくは0.6秒〜2分、特に好ましくは6秒〜1分の範囲である。また、作用極として透明基体を使用する場合には、光電変換層に十分量の光を照射するために、透明基体と導電性ポリマー層の両方を透過する光の透過率が約80%以上、好ましくは約85%以上であるのが好ましい。
【0058】
電解重合後の導電性ポリマー層を水、エタノール等で洗浄し、乾燥することにより、耐熱性に優れた導電性ポリマー層が基体の導電性部分の上に密着性良く形成された本発明の太陽電池用電極体を得ることができる。本発明の太陽電池用電極体に含まれる導電性ポリマー層は、空気中の水分に安定であり、また中性付近のpHを示すため、太陽電池の製造或いは使用の過程で本発明の太陽電池用電極体により他の構成要素が腐食されるおそれも無い。
【0059】
(2)太陽電池
本発明の太陽電池用電極体により、色素増感太陽電池或いは有機薄膜太陽電池を得ることができる。
【0060】
本発明の有機薄膜太陽電池は、少なくとも表面に導電性部分を有する陽極と、該陽極の導電性部分の上に積層された正孔取り出し層と、該正孔取り出し層上に積層された正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、該光電変換層上に積層された陰極と、を備えている。そして、本発明の太陽電池用電極体は、陽極と正孔取り出し層とが一体に積層された構成要素として好適に使用することができ、基体の導電性部分の上に形成された導電性ポリマー層は、従来のPEDOT:PSS層に比較して、優れた正孔輸送能と耐熱性とを有している。
【0061】
有機薄膜太陽電池における光電変換層は、正孔輸送体(p型半導体)と電子輸送体(n型半導体)とを含む。正孔輸送体としては、従来の有機薄膜太陽電池において正孔輸送体として使用されている化合物を特に限定無く使用することができ、例としては、ポリフェニレン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、ポリアルキルチオフェン及びその誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン及びフタロシアニン誘導体が挙げられる。電子輸送体としては、従来の有機薄膜太陽電池において電子輸送体として使用されている化合物を特に限定無く使用することができ、例としては、フラーレン及びフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ポリフルオレン誘導体、ペリレン誘導体、ポリキノン誘導体、シアノ基又はトリフルオロメチル基含有ポリマーが挙げられる。正孔輸送体及び電子輸送体は、それぞれ、単一の化合物を使用しても良く、2種以上の混合物を使用しても良い。
【0062】
光電変換層は、正孔輸送体と電子輸送体とが層状に積層されたバイレイヤー型であってもよく、正孔輸送体と電子輸送体とが混在したバルクヘテロ型であってもよく、正孔輸送体と電子輸送体との間に正孔輸送体と電子輸送体とが混在した層が形成されたp−i−n型であっても良い。バイレイヤー型又はp−i−n型の場合には、本発明の太陽電池用電極体における導電性ポリマー層の直上に正孔輸送体が積層される。
【0063】
光電変換層の厚みは、一般的には1〜3000nmの範囲、好ましくは1nm〜600nmの範囲である。光電変換層の厚みが3000nmより厚いと、光電変換層の内部抵抗が高くなり好ましくない。光電変換層の厚みが1nmより薄いと、陰極と導電性ポリマー層とが接触するおそれがある。
【0064】
有機薄膜太陽電池における陰極としては、本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体の導電性部分(有機薄膜太陽電池の陽極)より仕事関数が低い導電性部分を少なくとも表面に有する基体が使用される、例えば、リチウム、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、カルシウム、マグネシウム、マグネシウム−銀合金などの金属層又は合金層を少なくとも表面に有する基体を陰極とすることができる。導電性部分は、単層であっても良く、異なる仕事関数を有する複数の層であっても良い。
【0065】
また、本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体が不透明である場合には、透明な基体を陰極として使用する。このような陰極としては、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を好適に使用することができる。
【0066】
有機薄膜太陽電池は、本発明の太陽電池用電極体を使用して公知の方法により得ることができる。例えば、本発明の太陽電池用電極体の導電性ポリマー層の上に、光電変換層を、使用される正孔輸送体及び電子輸送体の種類に依存して、真空蒸着法、スパッタリング法などの乾式法により、或いは、トルエン,クロロベンゼン,オルトジクロロベンゼンなどの溶媒に正孔輸送体及び/又は電子輸送体を添加した液をスピンコート,バーコート、キャストコートなどの湿式法により積層し、必要に応じて加熱乾燥した後、陰極を真空蒸着法、スパッタリング法などにより積層する方法、或いは、本発明の太陽電池用電極体の導電性ポリマー層と陰極の導電性部分の間に正孔輸送体及び電子輸送体を含む液を充填して加熱乾燥する方法、などが挙げられる。
【0067】
本発明の色素増感太陽電池は、光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、該陰極の半導体層上に積層された対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層と、該電解質層上に積層された酸化種を還元種に変換する触媒能を有する導電性ポリマー層を有する陽極と、を備えている。そして、本発明の太陽電池用電極体は、陽極として好適に使用することができ、基体の導電性部分の上に形成された導電性ポリマー層は、酸化還元対を構成する酸化種を還元種に変換させるのに十分な触媒能を有している。
【0068】
色素増感太陽電池における陰極を構成する導電性基体及び半導体層は、従来の色素増感太陽電池における導電性基体及び半導体層を特に限定無く使用することができる。
【0069】
導電性基体としては、少なくとも表面に導電性部分を有する基体を使用することができ、基体の導電性部分は、単層であっても良く、異なる種類の複数の層を含んでいても良い。例えば、白金、ニッケル、チタン、鋼などの導電体の板或いは箔を基体として使用することができ、或いは、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルナフタレート、ポリカーボネートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を使用することもできる。本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体が不透明である場合には、透明な基体を陰極の基体として使用する。また、本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体が透明であっても、陰極のためにも透明基体を使用することにより、全透明型の太陽電池を構成することもできる。
【0070】
半導体層は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケル、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムなどの酸化物半導体を使用して形成することができる。酸化物半導体は、単一の化合物を使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。光電変換効率が高い酸化チタンを使用するのが好ましい。酸化物半導体は、通常、多くの色素を半導体層に担持できるように、多孔質の形態で使用される。
【0071】
光増感剤として作用する色素としては、有機色素又は金属錯体色素を使用することができる。有機色素としては、クマリン系、シアニン系、メロシアニン系、フタロシアニン系、ポルフィリン系などの色素を使用することができ、クマリン系の色素を使用するのが好ましい。金属錯体色素としては、オスミウム錯体、ルテニウム錯体、鉄錯体などを使用することができ、特に、幅広い吸収帯を有する点で、N3、N719のようなルテニウムビピリジン錯体及びN749のようなルテニウムターピリジン錯体を使用するのが好ましい。これらの色素も、単一の化合物を使用しても良く、2種以上の混合物を使用しても良い。
【0072】
色素増感太陽電池の陰極は、公知の方法により得ることができる。例えば、基体の導電性部分の上に、上述した酸化物半導体とポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどの有機バインダーとを含む分散物をスピンコート,バーコート、キャストコートなどの湿式法により積層し、加熱乾燥した後、焼成することにより、酸化物半導体の多孔質層を基体上に設け、次いで、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の溶剤に上述した色素を溶解した液に焼成後の基体を浸漬し、所定時間経過後に浸漬液から取り出し、乾燥して酸化物半導体に色素を担持することにより、陰極を得ることができる。半導体層の厚みは、一般には1〜100μm、好ましくは3〜50μmの範囲である。半導体層の厚みが1μmより薄いと光の吸収が不十分な場合があり、半導体層の厚みが100μmより厚いと、酸化物半導体から基体の導電性部分に電子が到達する距離が長くなって電子が失活するため好ましくない。
【0073】
色素増感太陽電池の電解質層を形成する電解液としては、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、エチレングリコールなどの有機溶剤に、ヨウ素系酸化還元対を構成するヨウ化物とヨウ素との組合せ、臭素系酸化還元対を構成する臭化物と臭素との組合せ、コバルト錯体系酸化還元対を構成するCo(II)ポリピリジン錯体などを溶解した電解液を使用することができる。光電変換効率が高いヨウ化物とヨウ素との組合せを使用するのが好ましい。また、上記電解液にゲル化剤を添加して擬固体化したゲル電解質により電解質層を形成することもできる。物理ゲルとする場合には、ゲル化剤としてポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンなどを使用することができ、化学ゲルとする場合には、ゲル化剤としてアクリル(メタクリル)エステルオリゴマー、テトラ(ブロモメチル)ベンゼンとポリビニルピリジンとの組み合わせなどを使用することができる。
【0074】
色素増感太陽電池は、本発明の太陽電池用電極体を使用して公知の方法により得ることができる。例えば、陰極の半導体層と本発明の太陽電池用電極体の導電性ポリマー層とを所定の間隙を開けて配置し、間隙に電解液を注入し、必要に応じて加熱して電解質層を形成することにより、色素増感太陽電池を得ることができる。電解質層の厚みは、半導体層内に浸透した電解質層の厚みを除いて、一般には1〜10μmの範囲である。電解質層の厚みが1μmより薄いと、陰極の半導体層が短絡するおそれがあり、電解質層の厚みが10μmより厚いと、内部抵抗が高くなるため好ましくない。
【実施例】
【0075】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0076】
(1)太陽電池用電極体の製造
実施例1
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOTを0.140g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm2の超音波を5分間、次いで周波数2.4MHz、出力7.1W/cm2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液のEDOT油滴のサイズを25℃で動的光散乱法により測定したところ、油滴の平均直径は数平均で52.2nmであり、全数の99.9%の油滴が250nm以下の直径を有しており、全数の95.2%が100nm以下の直径を有していた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。この液に、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムを0.08Mの濃度で溶解させ、重合液を得た。
【0077】
得られた重合液に、作用極としての1cm2の面積を有するITO電極、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、ITO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体を得た。
【0078】
実施例2
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、ボロジサリチル酸アンモニウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0079】
比較例1
1cm2の面積を有するITO電極上に、市販のPEDOT:PSS水性分散液(商品名バイトロンP、スタルク社製)の100μLをキャストし、5000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行った。次いで、150℃で30分間乾燥し、ITO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体を得た。
【0080】
比較例2
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOT0.14g(濃度0.02M)と、スルホン酸塩基を有する界面活性剤であるブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム1.08g(濃度0.08M)とを添加し、25℃で60分間攪拌して重合液を得た。得られた重合液に、作用極としての1cm2の面積を有するITO電極、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、ITO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体を得た。
【0081】
比較例3
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、p−トルエンスルホン酸ナトリウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0082】
比較例4
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、クエン酸を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0083】
比較例5
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、硝酸カリウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0084】
比較例6
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、過塩素酸カリウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0085】
実施例2の電極体、比較例1の電極体、及び、これらの電極体の製造過程で基体として使用したITO電極について、光透過率を可視紫外分光光度計にて測定した。図1にその結果を示す。実施例2の電極体におけるPEDOT層は、主に100nm以下のPEDOT粒子から構成されているため、可視光が散乱することなく容易に通過し、可視光領域(360〜830nm)において比較例1の電極体とほぼ同一の光透過率を示した。
【0086】
実施例2の電極体及び比較例1の電極体について、原子間力顕微鏡にて導電性ポリマー層の膜厚と表面の二乗平均面粗さ(RMS)を測定した。ITO電極上での導電性ポリマー層形成部と未形成部(ITO電極表面)との界面における段差をポリマー層の膜厚として算出した。その結果、実施例2の電極体のポリマー層の厚みは33nm、比較例1の電極体のポリマー層の厚みは41nmであった。導電性ポリマー層の表面のRMSについては、ポリマー層の中心部の表面100×100μm2の面積を観察することにより算出した。図2に、観察結果及び算出されたRMSの値を示す。実施例2の電極体のポリマー層(RMS:4.9nm)は、比較例1の電極体のポリマー層(RMS:2.6nm)よりもわずかに粗い表面を有しているものの、いずれのポリマー層も平滑な表面を有していた。
【0087】
(2)硫酸ナトリウム電解液における電気化学的応答の評価
実施例1,2及び比較例1〜6の電極体の正孔輸送能をサイクリックボルタモグラムにより評価した。電解液としての1Mの硫酸ナトリウムを溶解した水溶液に、作用極としての実施例1,2及び比較例1〜6のいずれかの電極体、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、走査電位範囲を−0.5〜+0.5Vとし、走査速度を10mV/sとして評価した。比較例3,4の電極体については、安定なサイクリックボルタモグラムを得ることができなかった。
【0088】
次いで、実施例1,2及び比較例1,2,5,6の電極体を電解液から取り出し、洗浄後、空気中、150℃で330時間熱エージングを行い、再度サイクリックボルタモグラムを得た。
【0089】
図3〜8に、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを示す。図3、図4、図5、図6、図7、及び図8は、順番に、実施例1(ドーパント:ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸アニオン)、実施例2(ドーパント:ボロジサリチル酸アニオン)、比較例1(ドーパント:PSSアニオン)、比較例2(ドーパント:ブチルナフタレンスルホン酸アニオン)、比較例5(ドーパント:硝酸アニオン)及び比較例6(ドーパント:過塩素酸アニオン)の電極体のサイクリックボルタモグラムを示している。(A)は初期のサイクリックボルタモグラムであり、(B)は熱エージング後のサイクリックボルタモグラムである。サイクリックボルタモグラムにおける電気化学的応答が大きいほど正孔輸送能に優れ、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムの変化が少ないほど、耐熱性に優れていると判断することができる。
【0090】
初期のサイクリックボルタモグラムを比較すると、比較例1のPEDOT:PSS層を有する電極体は、他の電極体に比較して、電流応答が著しく小さく、電気化学的活性に乏しいものであることがわかる。熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを比較すると、実施例1,2の電極体は、比較例1,2,5,6の電極体に比較して、熱経験による電流応答の減少が著しく小さいことがわかる。したがって、本発明の電極体が、正孔輸送能に優れ、耐熱性にも優れることがわかった。
【0091】
従来、水難溶性のEDOTの水中濃度を高めるために、スルホン酸基又はスルホン酸塩基を有するアニオン系界面活性剤が支持電解質として多用されており、これらの界面活性剤のアニオンがドープされたPEDOT層が、ドーパントの嵩高さにより脱ドープが抑制されるため、熱耐久性に優れることが報告されている。例えば、特開2000−269087号公報は、EDOTのようなチオフェン誘導体をアルキルナフタレンスルホン酸系界面活性剤により乳化した水媒体の重合液を用いた電解重合を報告しているが、ドーパントとしてポリマー層に取り込まれたアルキルナフタレンスルホン酸アニオンの嵩が大きいため、脱ドープが抑制され、高温・高湿中で安定な導電性ポリマー層が得られている。
【0092】
比較例1,2の電極体のサイクリックボルタモグラムを、比較例5,6の電極体のものと比較すると、熱経験による電流応答の減少が小さかったが、実施例1,2の電極体はさらに優れた耐熱性を有していた。特に、支持電解質としてビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムを含む重合液から得られた実施例1の電極体は、極めて優れた熱安定性を示した。
【0093】
したがって、本発明の太陽電池用電極体は、従来のPEDOT:PSS層を有する電極体よりも正孔輸送能に優れ、その上、嵩高いスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有するアニオンをドーパントとして含むPEDOT層を有する電極体よりも耐熱性に優れることがわかった。この結果より、本発明の太陽電池用電極体は、有機薄膜太陽電池における構成要素、すなわち、陽極と正孔取り出し層とが一体化した構成要素として好適であると判断された。
【0094】
(3)I−/I3−電解液における電気化学的応答の評価
実施例1及び比較例1の電極体のI−/I3−電解液における電気化学的応答をサイクリックボルタモグラムにより評価した。
【0095】
10mMのヨウ化リチウム、1mMのヨウ素、1Mのテトラフルオロホウ酸リチウムをアセトニトリルに溶解させた電解液に、作用極としての実施例1の電極体或いは比較例1の電極体、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、走査電位範囲を−0.8〜+0.8Vとし、走査速度を10mV/sとして評価した。
【0096】
図9に、得られたサイクリックボルタモグラムを、これらの電極体の製造において基体として使用したITO電極、及び、ガラス板上にスパッタ法により1cm2の面積のPt層を設けたPt電極のサイクリックボルタモグラムと比較して示す。
【0097】
ITO電極のサイクリックボルタモグラムには、明瞭な酸化還元波が認められなかった。実施例1の電極体及びPt電極のサイクリックボルタモグラムには、2対の酸化還元波が明瞭に認められた。負電位側の酸化還元波がI3−/I−に対応する酸化還元波であり、正電位側の酸化還元波がI2/I3−に対応する酸化還元波である。色素増感太陽電池において、銀−塩化銀電極に対して−0.2V付近に認められるI3−からI−への還元波が特に重要である。I−の十分な再生が必要だからである。しかしながら、比較例1の電極体のサイクリックボルタモグラムには、非特許文献2の報告と同様に、I3−からI−への還元波が認められなかった。したがって、実施例1の電極体は、これまでに色素増感太陽電池の陽極として検討されてきたPEDOT:PSS層を有する比較例1の電極体と比較して、I3−をI−に変換する還元触媒能に優れ、色素増感太陽電池の陽極としてPt電極を代替しうる電極体であることがわかった。
【0098】
次いで、硫酸ナトリウム電解液における評価において比較的優れた耐熱性を示した実施例1,2及び比較例2の電極体について、I−/I3−電解液における電気化学的応答をサイクリックボルタモグラムにより評価した、次いで、これらの電極体を電解液から取り出し、洗浄後、空気中、130℃で700時間熱エージングを行い、再度サイクリックボルタモグラムを得、耐熱性を評価した。サイクリックボルタモグラムを得るための条件は、図9の結果を得た条件と同一である。
【0099】
図10〜12に、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを示す。図10、図11、図12は、順番に、実施例1(ドーパント:ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸アニオン)、実施例2(ドーパント:ボロジサリチル酸アニオン)、及び比較例2(ドーパント:ブチルナフタレンスルホン酸アニオン)の電極体のサイクリックボルタモグラムを示している。
【0100】
初期には、実施例1、実施例2、及び比較例2の電極体のいずれのサイクリックボルタモグラムにも2対の酸化還元波が認められたが、熱エージング後には、比較例2の電極体のサイクリックボルタモグラムには2対の酸化還元波のいずれも認められなかったのに対し、実施例1及び実施例2のサイクリックボルタモグラムのいずれにも2対の酸化還元波が明瞭に認められた。
【0101】
したがって、本発明の太陽電池用電極体における導電性ポリマー層は、酸化種(I3−)を還元種(I−)に変換する還元触媒能に優れ、その上、嵩高いスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有するアニオンをドーパントとして含む導電性ポリマー層よりも耐熱性に優れることがわかった。この結果より、本発明の太陽電池用電極体は、色素増感太陽電池における陽極として好適であると判断された。
【0102】
(4)色素増感太陽電池としての評価
実施例3
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOTを0.140g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、p−ニトロフェノールを0.02Mの濃度で、ボロジサリチル酸アンモニウムを0.08Mの濃度で、それぞれ添加し、周波数20kHz、出力22.6W/cm2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm2の超音波を5分間、次いで周波数2.4MHz、出力7.1W/cm2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。
【0103】
得られた重合液に、作用極としての1cm2の面積を有するFTO電極、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、FTO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体(陽極)を得た。
【0104】
ITO電極の表面に酸化チタンペースト(日揮触媒化成株式会社製)をバーコート法により膜厚が約100μmになるように塗布し、130℃で10分間予備乾燥し、さらに450℃で30分間焼成することにより、ITO電極上に酸化チタン多孔質層を形成した。さらに、色素N719を0.2mMの濃度で含むエタノール溶液に酸化チタン多孔質層を3時間浸漬した後、室温にて乾燥することにより、酸化チタン多孔質層に色素N719を添着させ、色素増感太陽電池の陰極を得た。
【0105】
次いで、得られた陰極と陽極とを酸化チタン多孔質層と導電性ポリマー層とが対向するように張り合わせ、間隙に電解液を含浸させることにより電解質層を形成した。電解液としては、0.5Mのヨウ化リチウム、0.05Mのヨウ素、及び0.5Mの4−t−ブチルピリジンをアセトニトリルに溶解させた液を用いた。最後にエポキシ樹脂を用いて封口し、色素増感太陽電池を得た。
【0106】
比較例7
実施例3において得られた陰極と、鋼の基体の上にスパッタ法により1cm2の面積のPt層を設けたPt電極から成る陽極を、酸化チタン多孔質層とPt層とが対向するように張り合わせ、間隙に電解液を含浸させることにより電解質層を形成した。電解液としては、0.5Mのヨウ化リチウム、0.05Mのヨウ素、及び0.5Mの4−t−ブチルピリジンをアセトニトリルに溶解させた液を用いた。最後にエポキシ樹脂を用いて封口し、色素増感太陽電池を得た。
【0107】
実施例3及び比較例7の色素増感太陽電池について、ソーラシュミレータによる100mW/cm2、AM1.5Gの照射条件下での電流−電圧特性を評価した。測定は、20℃で、電圧を50mV/sの速度で変化させながら行った。図13に得られた結果を示す。表1には、図13の測定結果から得られた短絡電流、開放電圧、曲線因子及び光電変換効率をまとめた。従来のPt電極を陽極とした比較例7の太陽電池の光電変換効率には及ばないものの、実施例3の太陽電池においても比較例7の太陽電池の80%を超える光電変換効率が得られた。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の太陽電池用電極体は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として好適に使用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として使用可能である、耐熱性に優れた太陽電池用電極体及びその製造方法に関する。本発明はまた、この電極体を備えた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池とに大別される有機系太陽電池は、シリコン系太陽電池や化合物系太陽電池と比較して、資源的制約が無く、原材料が安価であり、製法が簡便であるため生産コストを低く抑えることができ、軽量で柔軟性をもたせることができるなどの利点を有している。
【0003】
有機薄膜太陽電池は、正孔輸送体(p型半導体)と電子輸送体(n型半導体)とを含む光電変換層が陽極と陰極との間に挟みこまれた構造を有している。一般に、ガラスなどの透明基体の表面にスズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの半導体セラミックスの蒸着層を形成した透明電極が陽極として使用されており、ITOやFTOより小さい仕事関数を有するアルミニウム膜、マグネシウム−銀合金膜などの金属電極が陰極として使用されている。透明電極を介して上記光電変換層に光が照射されると、光電変換層内に電子と正孔とが生成し、正孔は正孔輸送体を介して陽極側に、電子は電子輸送体を介して陰極側に、それぞれ分離して輸送される。
【0004】
ところで、有機薄膜太陽電池の性能は、光電変換層ばかりでなく、陽極と光電変換層との界面によっても影響を受ける。陽極と光電変換層の間の平滑性や密着性の悪さに起因して、光電変換層から陽極への正孔輸送効率が低下するが、このことが太陽電池の短絡電流密度を低下させ、光電変換効率を低下させる。このことを防止する目的で、陽極と光電変換層の間に、正孔輸送能を有する導電性ポリマー層で構成される正孔取り出し層が設けられている。この正孔取り出し層は、主として陽極の表面を平滑化して光電変換層と陽極との界面抵抗を減少させる作用を果たす。
【0005】
そして、この正孔取り出し層として、ポリチオフェン、特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のポリスチレンスルホン酸塩から成る層が頻繁に使用されてきた(以下、3,4−エチレンジオキシチオフェンを「EDOT」と表し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を「PEDOT」と表し、ポリスチレンスルホン酸を「PSS」と表し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のポリスチレンスルホン酸塩を「PEDOT:PSS」と表す)。例えば、非特許文献1(Solar Energy Materials & Solar Cells 94(2010)623−628)は、ITOガラス電極から成る陽極上にPEDOT:PSS水性分散液をスピンコートすることにより正孔取り出し層を形成し、次いで、銅−フタロシアニンから成る正孔輸送体層、フラーレンから成る電子輸送体層、フッ化リチウム薄膜から成る正孔ブロック層、及びアルミニウム膜から成る陰極をこの順番で真空蒸着法により形成した有機薄膜太陽電池を開示している。この文献は、PEDOT:PSS正孔取り出し層によりITOガラス電極表面の凹凸が顕著に改善され、光電変換層から陽極への正孔輸送効率が顕著に改善された結果、太陽電池の短絡電流密度が大幅に上昇したことを報告している。
【0006】
色素増感太陽電池は、対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層が、光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、電解質層中の酸化種を還元種に変換する触媒層を有する陽極との間に挟み込まれた構造を有している。一般に、上述した透明電極の上にルテニウム錯体などの色素を担持した酸化物半導体層を形成した電極が陰極として使用されており、上述した透明電極や鋼などの基体上にPtをスパッタリング法、真空蒸着法などにより付着させた電極が陽極として使用されている。透明電極を介して半導体層の色素に光が照射されると、色素が光エネルギーを吸収して励起状態となり、電子を半導体に向けて放出する。放出された電子は半導体層から透明電極へと移動し、さらに透明電極から外部回路を経由して陽極へと移動する。そして、陽極のPt触媒層の作用により電解質層の酸化種(例えばI3−)が陽極から電子を受け取って還元種(例えばI−)へと変換され、さらに還元種(例えばI−)が色素に電子を放出して酸化種(例えばI3−)へと変換される。
【0007】
陽極のPt触媒層は、電解質層の酸化種を還元種に変換する触媒能に優れているが、高価であり、また水分存在下でのI−イオンに対する耐久性が十分でないという問題点を有している。そのため、Pt触媒層の代替となる導電性材料が検討されており、これまでにポリチオフェン層、特にPEDOT:PSS層の使用が検討されてきた。例えば、非特許文献2(Electrochemistry 71,No.11(2003)944−946)は、PEDOT:PSS、ポリアニリン、及びポリピロールの3種の導電性ポリマー層を備えた電極を選択し、I−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムを測定し、Pt電極のものと比較した結果を報告している。Pt電極のサイクリックボルタモグラムにはI3−からI−への還元波が明瞭に認められるのに対し、PEDOT:PSS電極及びポリピロール電極のサイクリックボルタモグラムにはI3−からI−への還元波がほとんど認められず、ポリアニリン電極のサイクリックボルタモグラムには酸化還元波自体が全く認められていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Solar Energy Materials & Solar Cells 94(2010)623−628
【非特許文献2】Electrochemistry 71,No.11(2003)944−946
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、PEDOT:PSS層は、有機薄膜太陽電池における正孔取り出し層としても色素増感太陽電池の陽極における触媒層としても検討されている導電性ポリマー層である。しかしながら、PEDOT:PSS層が高い吸水性を示すという問題がある。
【0010】
この点について、非特許文献1は、PEDOT:PSS正孔取り出し層を有する有機薄膜太陽電池を温度25℃湿度55%の空気中に光未照射の状態で放置すると、PEDOT:PSS層が雰囲気から水蒸気を吸収してシート抵抗を増加させるため、太陽電池の特性が急速に劣化することを報告している。また、PSSは拡散しやすい物質であるため、拡散して太陽電池の他の構成要素と反応することが懸念される。さらに、正孔取り出し層を形成するためのPEDOT:PSS水性分散液はpHが3未満の酸性物質であるため、太陽電池の他の構成要素を腐食させるおそれもある。
【0011】
また、色素増感太陽電池の陽極には電解質層の酸化種を還元する触媒能が特に求められるが、非特許文献2に示されているように、ポリアニリン電極やポリピロール電極はもちろんのことPEDOT:PSS電極であっても、I3−の還元反応が容易には起こらず、したがってI−の十分な再生が困難であり、色素増感太陽電池の陽極として満足のいく性能を有していない。
【0012】
さらに、太陽電池の製造過程において太陽電池の各構成要素が高温を経験することがあり、また太陽電池を猛暑時に野外で使用する場合も想定されるため、太陽電池の各構成要素には十分な耐熱性が求められる。しかしながら、有機薄膜太陽電池の正孔取り出し層或いは色素増感太陽電池の陽極の触媒層としてこれまで検討されてきたPEDOT:PSS層は満足のいく耐熱性を有していない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として使用可能である上に耐熱性に優れた太陽電池用電極体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、鋭意検討した結果、3位と4位に置換基を有するチオフェン(以下、「置換チオフェン」と表わす)から得られた導電性ポリマーに対するドーパントとして、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である化合物から発生したアニオンを選択することにより、上記目的が達成されることを発見した。なお、「非スルホン酸系有機化合物」とは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有していない有機化合物を意味する。
【0015】
したがって、本発明はまず、少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた太陽電池用電極体であって、上記導電性ポリマー層が、少なくとも一種の置換チオフェンから構成されたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、を含むことを特徴とする太陽電池用電極体に関する。
【0016】
本発明の太陽電池用電極体における導電性ポリマー層は、正孔輸送能に優れ、酸化還元対の酸化種を還元種に変換する触媒能にも優れる。また、この導電性ポリマー層は、空気中の水分に対して安定であり、耐熱性にも優れる。
【0017】
この導電性ポリマー層には、ドーパントとして、非スルホン酸系有機化合物であってそアニオンの分子量が200以上である化合物から発生したアニオンが含まれる。無機化合物から発生したアニオン、或いは、有機化合物であってもスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有する化合物から発生したアニオン、或いは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を有していない有機化合物であってもアニオンの分子量が200未満である化合物から発生したアニオンは、耐熱性に優れた導電性ポリマー層を与えない。
【0018】
特に、上記非スルホン酸系有機化合物が、ボロジサリチル酸、ボロジサリチル酸塩、式(I)又は式(II)
【化1】
(式中、mが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩から成る群から選択された化合物であるのが好ましい。これらの非スルホン酸系有機化合物のアニオンは、特に耐久性に優れた導電性ポリマー層を与える。中でも、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸塩が好ましい。
【0019】
本発明の太陽電池用電極体において、導電性ポリマーを構成するモノマーは、置換チオフェン、すなわち、3位と4位に置換基を有するチオフェンから成る群から選択された化合物であれば、特に限定が無い。チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。特にモノマーがEDOTであると、環境安定性と光透過性(透明性)に優れる導電性ポリマー層が得られるため好ましく、また、基体として透明な基体を使用することにより、光透過性(透明性)に優れる太陽電池用電極体が得られるため好ましい。透明な基体は、透明で絶縁性のガラス基板又はプラスチック基板の表面に、ITO、酸化スズ、FTOなどの透明な半導体セラミックス層を蒸着又は塗布により設けることにより得ることができる。
【0020】
本発明の太陽電池用電極体は、溶媒としての水に、上述した特定範囲の非スルホン酸系有機化合物を支持電解質として含み、置換チオフェンを油滴として含む、透明である重合液を用いた電解重合により好適に得ることができる。なお、「透明である重合液」とは、重合液に分散している置換チオフェンの油滴のうち、全数の90%以上の油滴が250nm以下の直径を有している重合液を意味する。油滴のサイズは動的光散乱法により測定することができる。
【0021】
溶媒としての水に飽和溶解量より多い量の置換チオフェンを添加した相分離液に超音波を照射することにより、水中に置換チオフェンが油滴として分散した乳濁分散液を得た後、この乳濁分散液にさらに高い周波数の超音波を照射すると、置換チオフェンの油滴のサイズ(直径)を容易に減少させることができ、分散液全体が透明に見える透明分散液を容易に得ることができる。透明である重合液には、このような微小な置換チオフェンの油滴が高分散状態で存在しており、油滴による光散乱が実質的に認められず、重合液全体が透明に見える。なお、「超音波」とは10kHz以上の周波数を有する音波を意味する。
【0022】
上述した特定範囲の非スルホン酸系有機化合物は、相分離液、乳濁分散液及び透明分散液のいずれかに添加すればよい。この化合物は重合液において支持電解質として作用するため、「非スルホン酸系有機支持電解質」とも表わされる。但し、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩に含まれるボロジサリチル酸イオンは、水中で水への溶解度が極めて小さいサリチル酸とホウ酸とに加水分解することがわかっている。そのため、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を支持電解質として使用すると、徐々に重合液中に沈殿が生じて使用に耐えなくなる。このことを回避するため、ボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を支持電解質として使用する場合には、この支持電解質を液に添加した後沈殿生成前に電解重合を行うか、或いは、p−ニトロフェノールと併用する。p−ニトロフェノールがボロジサリチル酸イオンの加水分解を抑制するためであると思われるが、p−ニトロフェノールとボロジサリチル酸イオンとを含む重合液からは沈殿が生成しない。p−ニトロフェノールと併用する場合には、p−ニトロフェノールをボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩とほぼ同時に添加するか、或いは、p−ニトロフェノールをボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩より先に添加する。
【0023】
透明である重合液に少なくとも表面に導電性部分を有する基体を導入し、電解重合を行うと、重合液中のモノマーの微小な油滴と基体の導電性部分との間の直接的な電荷移動により電解重合が円滑に進行し、微小な油滴のサイズとほぼ等しいサイズのポリマー粒子、したがって透明に見えるポリマー粒子が緻密に集積した導電性ポリマー層が基体の導電性部分の上に形成される。環境負荷が小さく且つ経済的である水に飽和溶解量以下の置換チオフェンを溶解させた重合液を用いて電解重合を行うと、置換チオフェンの水への溶解度が低いため、所望の厚さの導電性ポリマー層を得るのに時間がかかる場合があるが、モノマーを微小な油滴として水に分散させることにより電解重合が円滑に進行するため、この問題が解決される。
【0024】
したがって、本発明はまた、上記太陽電池用電極体の製造方法であって、
(A)以下の(a1)〜(a4)のステップにより、溶媒としての水と、水に油滴として分散したモノマーとしての置換チオフェンと、上記非スルホン酸系有機化合物と、を含み、且つ透明である重合液を得る調製工程、
(a1)水に置換チオフェンを添加し、水と置換チオフェンとが相分離した相分離液を得るステップ、
(a2)上記相分離液に超音波を照射することにより、置換チオフェンを油滴として分散させ、乳濁分散液を得るステップ、
(a3)上記乳濁分散液に、(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射することにより、置換チオフェンの油滴のサイズを減少させ、透明分散液を得るステップ、
(a4)上記非スルホン酸系有機化合物を、支持電解質として、上記相分離液、上記乳濁分散液、又は、上記透明分散液に添加するステップ、
及び、
(B)上記調製工程で得られた重合液に上記基体を導入し、電解重合を行うことにより、置換チオフェンの重合により得られた導電性ポリマー層を上記基体の導電性部分の上に形成する重合工程、
を含むことを特徴とする、太陽電池用電極体の製造方法に関する。
【0025】
電解重合により基体の導電性部分の上に導電性ポリマー層が密着性良く形成されるため、基体の導電性部分と導電性ポリマー層との間の界面抵抗が小さい。また、電解重合により得られる導電性ポリマー層は、正孔輸送能に優れ、酸化還元対の酸化種を還元種に変換する触媒能に優れる上に、耐熱性に優れる。さらに、電解重合により得られる導電性ポリマー層は、空気中の水分に安定であり、太陽電池の他の構成要素を腐食させる心配も無い。
【0026】
(a2)ステップは、15〜200kHzの周波数を有し、比較的高出力な、好適には4W/cm2以上の出力を有する超音波を使用することにより、好適に実施することができ、(a3)ステップは、1〜4MHzの周波数を有し、比較的高出力な、好適には5W/cm2以上の出力を有する超音波を使用することにより、好適に実施することができる。(a2)ステップにおける超音波の周波数が15kHzより小さいか、或いは、周波数が200kHzを超えると、また、(a2)ステップにおける超音波の出力が4W/cm2より小さいと、乳濁分散液を得るのに好適なキャビテーションが発生しにくくなる。また、(a3)ステップにおける超音波の周波数が1MHzより小さいか、或いは、周波数が4MHzを超えると、また、(a3)ステップにおける超音波の出力が5W/cm2より小さいと、(a2)ステップで生成した置換チオフェンの油滴の平均サイズを透明分散液が得られるようになるまで減少させるのに好適なキャビテーションが発生しにくくなる。
【0027】
本発明の太陽電池用電極体の製造方法では、(a2)ステップ及び(a3)ステップをそれぞれ1回(例えば、(a2)ステップを20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して、(a3)ステップを1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行っても良いが、(a2)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波に続いて50kHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行っても良く、及び/又は、(a3)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波に続いて2MHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行っても良い。特に、(a3)ステップは、回数が増加するほど超音波の周波数を増加させる条件で複数回行うのが好ましい。(a3)ステップを複数回繰り返すことにより、置換チオフェンの油滴がさらに細分化し、この重合液を用いた電解重合により得られる導電性ポリマー層の透明性がさらに向上する。
【0028】
(a2)ステップ及び(a3)ステップにおける超音波照射時間は、約1分程度であっても、乳濁分散液又は透明分散液が得られるが、超音波照射時間が長くなると、置換チオフェンの油滴の凝集が阻害され、解乳化までの時間が長期化するため好ましい。(a2)ステップにおける超音波照射時間は、2〜10分の範囲であるのが好ましく、(a3)ステップにおける超音波照射時間は、2〜10分の範囲であるのが好ましい。各分散工程における超音波照射時間が10分以上では、油滴の凝集阻害効果が飽和する傾向が認められる。
【0029】
ところで、電解重合用の重合液の調製に超音波照射を利用する方法自体は公知である。J.AM.CHEM.SOC.(2005),127(38),13160−13161には、支持電解質としてのLiClO4を溶解させた水溶液に飽和溶解量より多い量のEDOTを添加し、周波数20kHz、出力22.6W/cm2の超音波を60秒間照射し、モノマー油滴が水に分散している乳濁した重合液を得(この文献の図1参照)、この重合液を用いてPt電極上に電解重合層を形成した結果が報告されている。しかし、この文献には、本発明で使用される支持電解質を示唆する記載が存在せず、この支持電解質の使用により耐熱性に優れた太陽電池用電極体が得られることを示唆する記載も存在しない。
【0030】
本発明の太陽電池用電極体は、基体の上に形成されている導電性ポリマー層が優れた正孔輸送能を有するため、有機薄膜太陽電池の構成要素として好適に使用することができる。したがって、本発明はまた、少なくとも表面に導電性部分を有する陽極と、該陽極の導電性部分の上に積層された正孔取り出し層と、該正孔取り出し層上に積層された正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、該光電変換層上に積層された陰極と、を備えた有機薄膜太陽電池であって、上記陽極と上記正孔取り出し層とが本発明の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする有機薄膜太陽電池に関する。
【0031】
本発明の太陽電池用電極体はまた、基体の上に形成されている導電性ポリマー層が優れた還元触媒能を有するため、色素増感太陽電池の構成要素として好適に使用することができる。したがって、本発明はまた、光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、該陰極の半導体層上に積層された対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層と、該電解質層上に積層された上記酸化種を上記還元種に変換する触媒として作用する導電性ポリマー層を有する陽極と、を備えた色素増感太陽電池であって、上記陽極が本発明の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする色素増感太陽電池に関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の太陽電池用電極体において基体の上に形成されている導電性ポリマー層は、正孔輸送能に優れ、酸化還元対の酸化種を還元種に変換する触媒能に優れる上に、耐熱性に優れる。したがって、本発明の太陽電池用電極体は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体の光透過率を、PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体の光透過率と比較した図である。
【図2】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体の表面の平滑度を、PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体の表面の平滑度と比較した図である。
【図3】ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図4】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図5】PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図6】ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとEDOTとを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図7】硝酸カリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図8】過塩素酸リチウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についての硫酸ナトリウム水溶液中でのサイクリックボルタモグラムであり、(A)は初期の測定結果を、(B)は高温経験後の測定結果を示している。
【図9】ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムを、PEDOT:PSSを含むスラリーから得た電極体及び白金蒸着電極のサイクリックボルタモグラムと比較した図である。
【図10】ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムである。
【図11】ボロジサリチル酸アンモニウムとEDOT油滴とを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムである。
【図12】ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとEDOTとを含む重合液から得た電極体についてのI−/I3−酸化還元対を含む電解液中でのサイクリックボルタモグラムである。
【図13】色素増感太陽電池としての評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(1)太陽電池用電極体
少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた本発明の太陽電池用電極体は、上記導電性ポリマー層が、モノマーとしての置換チオフェンから構成されたポリマーと、該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、を含むことを特徴とする。
【0035】
そして、この太陽電池用電極体は、
(A)以下の(a1)〜(a4)のステップにより、溶媒としての水と、水に油滴として分散したモノマーとしての置換チオフェンと、上記非スルホン酸系有機化合物と、を含み、且つ透明である重合液を得る調製工程、
(a1)水に置換チオフェンを添加し、水と置換チオフェンとが相分離した相分離液を得るステップ、
(a2)上記相分離液に超音波を照射することにより、置換チオフェンを油滴として分散させ、乳濁分散液を得るステップ、
(a3)上記乳濁分散液に、(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射することにより、置換チオフェンの油滴のサイズを減少させ、透明分散液を得るステップ、
(a4)上記非スルホン酸系有機化合物を、支持電解質として、上記相分離液、上記乳濁分散液、又は、上記透明分散液に添加するステップ、
及び、
(B)上記調製工程で得られた重合液に上記基体を導入し、電解重合を行うことにより、置換チオフェンの重合により得られた導電性ポリマー層を上記基体の導電性部分の上に形成する重合工程、
を含む方法により好適に得ることができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0036】
(A)調製工程
(a1)ステップ
(a1)ステップでは、水にモノマーを添加し、水とモノマーとが相分離した相分離液を得る。重合液には、環境負荷が小さく、経済的にも優れる水を溶媒として使用し、モノマーとしては、水に難溶である置換チオフェン、すなわち、3位と4位に置換基を有するチオフェンを使用する。
【0037】
チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。使用可能なモノマーの例としては、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェンなどの3,4−ジアルコキシチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェン、EDOT、3,4−(1,2−プロピレンジオキシ)チオフェンなどのアルキレンジオキシチオフェン、3,4−メチレンオキシチアチオフェン、3,4−エチレンオキシチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンオキシチア)チオフェンなどのアルキレンオキシチアチオフェン、3,4−メチレンジチアチオフェン、3,4−エチレンジチアチオフェン、3,4−(1,2−プロピレンジチア)チオフェンなどのアルキレンジチアチオフェン、チエノ[3,4−b]チオフェン、イソプロピルチエノ[3,4−b]チオフェン、t−ブチル−チエノ[3,4−b]チオフェンなどのアルキルチエノ[3,4−b]チオフェンが挙げられる。モノマーとして、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を混合して使用しても良い。特に、EDOTを使用するのが好ましい。
【0038】
(a1)ステップでは、水に置換チオフェンを添加するほか、支持電解質を添加することができる((a4)ステップ)。支持電解質としては、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である化合物を使用する。このような非スルホン酸系有機支持電解質としては、ボロジサリチル酸、ボロジサリチル酸塩、式(I)又は式(II)
【化2】
(式中、mが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩を好ましく使用することができる。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩などのアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩などのジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩などのトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩を挙げることができる。これらの支持電解質は、特に耐久性に優れた導電性ポリマー層を与える。中でも、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸の塩、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩が極めて好ましい。この段階でボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を使用する場合には、p−ニトロフェノールと併用する。非スルホン酸系有機支持電解質は、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。
【0039】
モノマーとしての置換チオフェンは、重合液に対して、飽和溶解量を超える量で、したがって、静置した状態で飽和溶解量を超えた置換チオフェンが水から相分離する量で使用される。飽和溶解量を超える置換チオフェンの量は、超音波照射により解乳化が抑制され、透明分散液が得られる量であれば良く、モノマーの種類ばかりでなく、支持電解質の種類と量、超音波照射条件によっても変化する。モノマーとしてEDOTを使用する場合には、一般に、水1リットルに対して20〜30ミリモルのEDOTを水に添加するのが好ましい。
【0040】
非スルホン酸系有機支持電解質は、支持電解質の種類に依存して、重合液に対する飽和溶解度以下の量で且つ電解重合のために充分な電流が得られる濃度、好ましくは水1リットルに対して10ミリモル以上の濃度で使用される。支持電解質が濃すぎると、置換チオフェンが油滴として分散しにくくなり、透明分散液が得られにくくなる。なお、支持電解質は、この(a1)ステップにおいて添加することもできるが、これに限定されず、後述する(a2)ステップと(a3)ステップの間、又は、(a3)ステップの後に添加することもできる。
【0041】
水と、置換チオフェンと、場合により非スルホン酸系支持電解質とを含み、水と置換チオフェンとが相分離した相分離液は、次に超音波処理に付される。本発明において置換チオフェンの電解重合のために使用する重合液は、置換チオフェンが水に油滴として分散した透明である重合液、すなわち、重合液中に存在する置換チオフェンの油滴のうち、全数の90%以上の油滴が250nm以下の直径を有している重合液である。このような微小な油滴を超音波照射により得るためには、少なくとも同等サイズ、好適には百nm以下のサイズのキャビテーションを発生させる必要があるが、百nm以下のサイズのキャビテーションは、相分離している状態の置換チオフェンを均一に分散させるためにはあまりにも小さく機械的作用も小さいため、実質上置換チオフェンを分散させる作用を有しない。そこで、本発明において置換チオフェンの電解重合のために使用する重合液は、以下の(a2)ステップとこれに続く(a3)ステップとを実施することにより好適に得ることができる。
【0042】
(a2)ステップ
(a2)ステップでは、(a1)ステップで得られた相分離液に超音波処理を施こすことにより置換チオフェンを油滴として分散させ、乳濁分散液を得る。乳濁分散液中では、数μm以下の直径を有する置換チオフェンの油滴が水中に高分散状態で分散しているものの、全数の10%を超える油滴が250nmを超える直径を有しており、油滴による光散乱により液全体が乳濁して見える。
【0043】
(a2)ステップのために使用される超音波発振器として、超音波洗浄機用、細胞粉砕機用等として従来から知られている超音波発振器を特に制限なく使用することができる。この工程では、機械的作用が強い数百nm〜数μmのキャビテーションを発生させることができる超音波を相分離液に照射する。超音波の周波数は、15〜200kHzの範囲であるのが好ましく、20〜100kHzの範囲であるのが特に好ましい。超音波の出力は、4W/cm2以上であるのが好ましい。
【0044】
(a2)ステップにおける超音波照射時間は、乳濁分散液が得られる時間であれば厳密な制限はないが、2〜10分の範囲であるのが好ましい。照射時間が長いほど、置換チオフェンの油滴の凝集が阻害され、解乳化までの時間が長期化する傾向にあるが、超音波照射時間が10分以上では、油滴の凝集阻害効果が飽和する傾向が認められる。また、超音波照射時の相分離液の温度は、液の組成変化が起こらず、安定な乳濁分散液が得られれば特に限定がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。
【0045】
本発明では、(a2)ステップは、1回、例えば、20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して1回行っても良いが、(a2)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、20kHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波に続いて50kHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行うこともできる。
【0046】
(a3)ステップ
(a2)ステップに続いて、乳濁分散液に(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射し、置換チオフェンの油滴の平均サイズを減少させることにより、透明な分散液、すなわち、置換チオフェンの油滴数の90%以上の油滴が250nm以下の直径を有している分散液を得ることができる。非スルホン酸系有機支持電解質を相分離液に添加しなかった場合には、(a3)ステップの前に乳濁分散液に添加することもできる((a4)ステップ)。但し、この段階でボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を使用する場合には、p−ニトロフェノールと併用する。
【0047】
(a3)ステップに使用される超音波発振器としては、超音波洗浄機用、細胞粉砕機用等として従来から知られている超音波発振器を特に制限なく使用することができる。この工程では、乳濁分散液中の置換チオフェンの油滴のサイズを250nm以下に減少させるために、機械的作用が弱いものの、少なくとも同等サイズ、好適には百nm以下のキャビテーションを発生させることができる超音波が使用される。超音波の周波数は、1〜4MHzの範囲が好ましく、超音波の出力は、5W/cm2以上であるのが好ましい。超音波の周波数が4MHzを超えると、もはやキャビテーションが発生しない。
【0048】
(a3)ステップにおける超音波照射時間は、透明分散液が得られる時間であれば厳密な制限はないが、2〜10分の範囲であるのが好ましい。照射時間が長いほど、置換チオフェンの油滴の凝集が阻害され、解乳化までの時間が長期化する傾向にあるが、超音波照射時間が10分以上では、油滴の凝集阻害効果が飽和する傾向が認められる。また、超音波照射時の乳濁分散液の温度は、液の組成変化が起こらず、安定な透明分散液が得られれば特に限定がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。
【0049】
(a3)ステップは、1回、例えば1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波を使用して1回行っても良いが、(a3)ステップを異なる周波数及び/又は出力の超音波を使用して複数回(例えば、1MHzの周波数及び20W/cm2の出力を有する超音波に続いて2MHzの周波数及び10W/cm2の出力を有する超音波を使用して)行うこともでき、回数が増加するほど超音波の周波数を増加させる条件で複数回行うのが好ましい。(a3)ステップを複数回繰り返すと、置換チオフェンの油滴がさらに細分化し、高電導度と高い透明性とを有する導電性ポリマー層を与える特に好適な重合液を容易に得ることができる。
【0050】
本発明の太陽電池用電極体の製造方法においては、(a3)ステップにより得られた透明分散液を重合液として電解重合を行うが、非スルホン酸系有機支持電解質を相分離液及び乳濁分散液に添加しなかった場合には、電解重合の前に透明分散液に支持電解質を添加することもできる((a4)ステップ)。この段階でボロジサリチル酸及び/又はボロジサリチル酸塩を使用する場合には、p−ニトロフェノールと併用する必要がない。
【0051】
(B)重合工程
上述の調製工程により得られた重合液に、少なくとも表面に導電性部分を有する作用極(導電性ポリマー層の基体)と対極とを導入し、電解重合を行うことにより、上記モノマーの重合により得られた導電性ポリマー層を作用極の導電性部分の上に形成し、太陽電池用電極体を得る。作用極の種類は、太陽電池用電極体の用途に応じて選択される。
【0052】
有機薄膜太陽電池の陽極及び正孔取り出し層として使用される太陽電池用電極体を得る場合には、作用極として、有機薄膜太陽電池において使用する陰極より仕事関数が大きい導電性部分を少なくとも表面に有する基体が選択される。例えば、仕事関数が大きい金、銀、コバルト、ニッケル、白金などの金属層のほか、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの半導体セラミックス層を少なくとも表面に有する基体を作用極とすることができる。導電性部分は、単層であっても良く、異なる仕事関数を有する複数の層であっても良い。
【0053】
この重合工程で得られる導電性ポリマー層は透明性に優れるため、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、酸化亜鉛、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を作用極として使用するのが好ましい。
【0054】
色素増感太陽電池の陽極として使用される太陽電池用電極体を得る場合には、作用極として、少なくとも表面に導電性部分を有する基体を使用することができ、導電性部分は、単層であっても良く、異なる種類の複数の層を含んでいても良い。例えば、白金、ニッケル、チタン、鋼などの導電体の板或いは箔を作用極として使用することができる。しかしながら、この重合工程で得られる導電性ポリマー層は透明性に優れるため、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルナフタレート、ポリカーボネートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、酸化亜鉛、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を作用極として使用するのが好ましい。
【0055】
電解重合の対極としては、白金、ニッケルなどの板を用いることができる。
【0056】
電解重合は、調製工程により得られた透明である重合液を用いて、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して1.0〜1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、モノマーの種類に依存するが、1〜10000μA/cm2、好ましくは5〜500μA/cm2、より好ましくは10〜100μA/cm2の電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して−0.5〜1.5Vの範囲を5〜200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。
【0057】
透明である重合液を用いた電解重合により、重合液中のモノマーの微小な油滴と作用極の導電性部分との間の直接的な電荷移動により電解重合が円滑に進行し、微小な油滴のサイズとほぼ等しいサイズのポリマー粒子、したがって透明に見えるポリマー粒子が緻密に集積した導電性ポリマー層が作用極の導電性部分の上に形成される。そして、この導電性ポリマー層には上述した特定範囲の非スルホン酸系有機支持電解質のアニオンがドーパントとして含まれている。導電性ポリマー層の厚みは、一般的には1〜1000nm、好ましくは5〜500nmの範囲である。厚みが1nmより薄いと、基体の導電性部分の凹凸を平滑化する効果が得られにくくなり、厚みが1000nmより厚いと、導電性ポリマー層の内部抵抗が大きくなるため好ましくない。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10〜60℃の範囲である。重合時間は、一般的には0.6秒〜1時間、好ましくは0.6秒〜2分、特に好ましくは6秒〜1分の範囲である。また、作用極として透明基体を使用する場合には、光電変換層に十分量の光を照射するために、透明基体と導電性ポリマー層の両方を透過する光の透過率が約80%以上、好ましくは約85%以上であるのが好ましい。
【0058】
電解重合後の導電性ポリマー層を水、エタノール等で洗浄し、乾燥することにより、耐熱性に優れた導電性ポリマー層が基体の導電性部分の上に密着性良く形成された本発明の太陽電池用電極体を得ることができる。本発明の太陽電池用電極体に含まれる導電性ポリマー層は、空気中の水分に安定であり、また中性付近のpHを示すため、太陽電池の製造或いは使用の過程で本発明の太陽電池用電極体により他の構成要素が腐食されるおそれも無い。
【0059】
(2)太陽電池
本発明の太陽電池用電極体により、色素増感太陽電池或いは有機薄膜太陽電池を得ることができる。
【0060】
本発明の有機薄膜太陽電池は、少なくとも表面に導電性部分を有する陽極と、該陽極の導電性部分の上に積層された正孔取り出し層と、該正孔取り出し層上に積層された正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、該光電変換層上に積層された陰極と、を備えている。そして、本発明の太陽電池用電極体は、陽極と正孔取り出し層とが一体に積層された構成要素として好適に使用することができ、基体の導電性部分の上に形成された導電性ポリマー層は、従来のPEDOT:PSS層に比較して、優れた正孔輸送能と耐熱性とを有している。
【0061】
有機薄膜太陽電池における光電変換層は、正孔輸送体(p型半導体)と電子輸送体(n型半導体)とを含む。正孔輸送体としては、従来の有機薄膜太陽電池において正孔輸送体として使用されている化合物を特に限定無く使用することができ、例としては、ポリフェニレン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、ポリアルキルチオフェン及びその誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン及びフタロシアニン誘導体が挙げられる。電子輸送体としては、従来の有機薄膜太陽電池において電子輸送体として使用されている化合物を特に限定無く使用することができ、例としては、フラーレン及びフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ポリフルオレン誘導体、ペリレン誘導体、ポリキノン誘導体、シアノ基又はトリフルオロメチル基含有ポリマーが挙げられる。正孔輸送体及び電子輸送体は、それぞれ、単一の化合物を使用しても良く、2種以上の混合物を使用しても良い。
【0062】
光電変換層は、正孔輸送体と電子輸送体とが層状に積層されたバイレイヤー型であってもよく、正孔輸送体と電子輸送体とが混在したバルクヘテロ型であってもよく、正孔輸送体と電子輸送体との間に正孔輸送体と電子輸送体とが混在した層が形成されたp−i−n型であっても良い。バイレイヤー型又はp−i−n型の場合には、本発明の太陽電池用電極体における導電性ポリマー層の直上に正孔輸送体が積層される。
【0063】
光電変換層の厚みは、一般的には1〜3000nmの範囲、好ましくは1nm〜600nmの範囲である。光電変換層の厚みが3000nmより厚いと、光電変換層の内部抵抗が高くなり好ましくない。光電変換層の厚みが1nmより薄いと、陰極と導電性ポリマー層とが接触するおそれがある。
【0064】
有機薄膜太陽電池における陰極としては、本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体の導電性部分(有機薄膜太陽電池の陽極)より仕事関数が低い導電性部分を少なくとも表面に有する基体が使用される、例えば、リチウム、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、カルシウム、マグネシウム、マグネシウム−銀合金などの金属層又は合金層を少なくとも表面に有する基体を陰極とすることができる。導電性部分は、単層であっても良く、異なる仕事関数を有する複数の層であっても良い。
【0065】
また、本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体が不透明である場合には、透明な基体を陰極として使用する。このような陰極としては、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を好適に使用することができる。
【0066】
有機薄膜太陽電池は、本発明の太陽電池用電極体を使用して公知の方法により得ることができる。例えば、本発明の太陽電池用電極体の導電性ポリマー層の上に、光電変換層を、使用される正孔輸送体及び電子輸送体の種類に依存して、真空蒸着法、スパッタリング法などの乾式法により、或いは、トルエン,クロロベンゼン,オルトジクロロベンゼンなどの溶媒に正孔輸送体及び/又は電子輸送体を添加した液をスピンコート,バーコート、キャストコートなどの湿式法により積層し、必要に応じて加熱乾燥した後、陰極を真空蒸着法、スパッタリング法などにより積層する方法、或いは、本発明の太陽電池用電極体の導電性ポリマー層と陰極の導電性部分の間に正孔輸送体及び電子輸送体を含む液を充填して加熱乾燥する方法、などが挙げられる。
【0067】
本発明の色素増感太陽電池は、光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、該陰極の半導体層上に積層された対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層と、該電解質層上に積層された酸化種を還元種に変換する触媒能を有する導電性ポリマー層を有する陽極と、を備えている。そして、本発明の太陽電池用電極体は、陽極として好適に使用することができ、基体の導電性部分の上に形成された導電性ポリマー層は、酸化還元対を構成する酸化種を還元種に変換させるのに十分な触媒能を有している。
【0068】
色素増感太陽電池における陰極を構成する導電性基体及び半導体層は、従来の色素増感太陽電池における導電性基体及び半導体層を特に限定無く使用することができる。
【0069】
導電性基体としては、少なくとも表面に導電性部分を有する基体を使用することができ、基体の導電性部分は、単層であっても良く、異なる種類の複数の層を含んでいても良い。例えば、白金、ニッケル、チタン、鋼などの導電体の板或いは箔を基体として使用することができ、或いは、光学ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどの透明で絶縁性のガラス基板、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルナフタレート、ポリカーボネートなどの透明で絶縁性のプラスチック基板の表面にITO、酸化スズ、FTOなどの透明導電層を蒸着又は塗布により設けた透明基体を使用することもできる。本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体が不透明である場合には、透明な基体を陰極の基体として使用する。また、本発明の太陽電池用電極体に含まれる基体が透明であっても、陰極のためにも透明基体を使用することにより、全透明型の太陽電池を構成することもできる。
【0070】
半導体層は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケル、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムなどの酸化物半導体を使用して形成することができる。酸化物半導体は、単一の化合物を使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。光電変換効率が高い酸化チタンを使用するのが好ましい。酸化物半導体は、通常、多くの色素を半導体層に担持できるように、多孔質の形態で使用される。
【0071】
光増感剤として作用する色素としては、有機色素又は金属錯体色素を使用することができる。有機色素としては、クマリン系、シアニン系、メロシアニン系、フタロシアニン系、ポルフィリン系などの色素を使用することができ、クマリン系の色素を使用するのが好ましい。金属錯体色素としては、オスミウム錯体、ルテニウム錯体、鉄錯体などを使用することができ、特に、幅広い吸収帯を有する点で、N3、N719のようなルテニウムビピリジン錯体及びN749のようなルテニウムターピリジン錯体を使用するのが好ましい。これらの色素も、単一の化合物を使用しても良く、2種以上の混合物を使用しても良い。
【0072】
色素増感太陽電池の陰極は、公知の方法により得ることができる。例えば、基体の導電性部分の上に、上述した酸化物半導体とポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどの有機バインダーとを含む分散物をスピンコート,バーコート、キャストコートなどの湿式法により積層し、加熱乾燥した後、焼成することにより、酸化物半導体の多孔質層を基体上に設け、次いで、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の溶剤に上述した色素を溶解した液に焼成後の基体を浸漬し、所定時間経過後に浸漬液から取り出し、乾燥して酸化物半導体に色素を担持することにより、陰極を得ることができる。半導体層の厚みは、一般には1〜100μm、好ましくは3〜50μmの範囲である。半導体層の厚みが1μmより薄いと光の吸収が不十分な場合があり、半導体層の厚みが100μmより厚いと、酸化物半導体から基体の導電性部分に電子が到達する距離が長くなって電子が失活するため好ましくない。
【0073】
色素増感太陽電池の電解質層を形成する電解液としては、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、エチレングリコールなどの有機溶剤に、ヨウ素系酸化還元対を構成するヨウ化物とヨウ素との組合せ、臭素系酸化還元対を構成する臭化物と臭素との組合せ、コバルト錯体系酸化還元対を構成するCo(II)ポリピリジン錯体などを溶解した電解液を使用することができる。光電変換効率が高いヨウ化物とヨウ素との組合せを使用するのが好ましい。また、上記電解液にゲル化剤を添加して擬固体化したゲル電解質により電解質層を形成することもできる。物理ゲルとする場合には、ゲル化剤としてポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンなどを使用することができ、化学ゲルとする場合には、ゲル化剤としてアクリル(メタクリル)エステルオリゴマー、テトラ(ブロモメチル)ベンゼンとポリビニルピリジンとの組み合わせなどを使用することができる。
【0074】
色素増感太陽電池は、本発明の太陽電池用電極体を使用して公知の方法により得ることができる。例えば、陰極の半導体層と本発明の太陽電池用電極体の導電性ポリマー層とを所定の間隙を開けて配置し、間隙に電解液を注入し、必要に応じて加熱して電解質層を形成することにより、色素増感太陽電池を得ることができる。電解質層の厚みは、半導体層内に浸透した電解質層の厚みを除いて、一般には1〜10μmの範囲である。電解質層の厚みが1μmより薄いと、陰極の半導体層が短絡するおそれがあり、電解質層の厚みが10μmより厚いと、内部抵抗が高くなるため好ましくない。
【実施例】
【0075】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0076】
(1)太陽電池用電極体の製造
実施例1
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOTを0.140g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm2の超音波を5分間、次いで周波数2.4MHz、出力7.1W/cm2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液のEDOT油滴のサイズを25℃で動的光散乱法により測定したところ、油滴の平均直径は数平均で52.2nmであり、全数の99.9%の油滴が250nm以下の直径を有しており、全数の95.2%が100nm以下の直径を有していた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。この液に、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムを0.08Mの濃度で溶解させ、重合液を得た。
【0077】
得られた重合液に、作用極としての1cm2の面積を有するITO電極、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、ITO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体を得た。
【0078】
実施例2
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、ボロジサリチル酸アンモニウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0079】
比較例1
1cm2の面積を有するITO電極上に、市販のPEDOT:PSS水性分散液(商品名バイトロンP、スタルク社製)の100μLをキャストし、5000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行った。次いで、150℃で30分間乾燥し、ITO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体を得た。
【0080】
比較例2
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOT0.14g(濃度0.02M)と、スルホン酸塩基を有する界面活性剤であるブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム1.08g(濃度0.08M)とを添加し、25℃で60分間攪拌して重合液を得た。得られた重合液に、作用極としての1cm2の面積を有するITO電極、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、ITO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体を得た。
【0081】
比較例3
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、p−トルエンスルホン酸ナトリウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0082】
比較例4
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、クエン酸を使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0083】
比較例5
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、硝酸カリウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0084】
比較例6
ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムの代わりに、過塩素酸カリウムを使用し、実施例1の手順を繰り返した。
【0085】
実施例2の電極体、比較例1の電極体、及び、これらの電極体の製造過程で基体として使用したITO電極について、光透過率を可視紫外分光光度計にて測定した。図1にその結果を示す。実施例2の電極体におけるPEDOT層は、主に100nm以下のPEDOT粒子から構成されているため、可視光が散乱することなく容易に通過し、可視光領域(360〜830nm)において比較例1の電極体とほぼ同一の光透過率を示した。
【0086】
実施例2の電極体及び比較例1の電極体について、原子間力顕微鏡にて導電性ポリマー層の膜厚と表面の二乗平均面粗さ(RMS)を測定した。ITO電極上での導電性ポリマー層形成部と未形成部(ITO電極表面)との界面における段差をポリマー層の膜厚として算出した。その結果、実施例2の電極体のポリマー層の厚みは33nm、比較例1の電極体のポリマー層の厚みは41nmであった。導電性ポリマー層の表面のRMSについては、ポリマー層の中心部の表面100×100μm2の面積を観察することにより算出した。図2に、観察結果及び算出されたRMSの値を示す。実施例2の電極体のポリマー層(RMS:4.9nm)は、比較例1の電極体のポリマー層(RMS:2.6nm)よりもわずかに粗い表面を有しているものの、いずれのポリマー層も平滑な表面を有していた。
【0087】
(2)硫酸ナトリウム電解液における電気化学的応答の評価
実施例1,2及び比較例1〜6の電極体の正孔輸送能をサイクリックボルタモグラムにより評価した。電解液としての1Mの硫酸ナトリウムを溶解した水溶液に、作用極としての実施例1,2及び比較例1〜6のいずれかの電極体、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、走査電位範囲を−0.5〜+0.5Vとし、走査速度を10mV/sとして評価した。比較例3,4の電極体については、安定なサイクリックボルタモグラムを得ることができなかった。
【0088】
次いで、実施例1,2及び比較例1,2,5,6の電極体を電解液から取り出し、洗浄後、空気中、150℃で330時間熱エージングを行い、再度サイクリックボルタモグラムを得た。
【0089】
図3〜8に、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを示す。図3、図4、図5、図6、図7、及び図8は、順番に、実施例1(ドーパント:ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸アニオン)、実施例2(ドーパント:ボロジサリチル酸アニオン)、比較例1(ドーパント:PSSアニオン)、比較例2(ドーパント:ブチルナフタレンスルホン酸アニオン)、比較例5(ドーパント:硝酸アニオン)及び比較例6(ドーパント:過塩素酸アニオン)の電極体のサイクリックボルタモグラムを示している。(A)は初期のサイクリックボルタモグラムであり、(B)は熱エージング後のサイクリックボルタモグラムである。サイクリックボルタモグラムにおける電気化学的応答が大きいほど正孔輸送能に優れ、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムの変化が少ないほど、耐熱性に優れていると判断することができる。
【0090】
初期のサイクリックボルタモグラムを比較すると、比較例1のPEDOT:PSS層を有する電極体は、他の電極体に比較して、電流応答が著しく小さく、電気化学的活性に乏しいものであることがわかる。熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを比較すると、実施例1,2の電極体は、比較例1,2,5,6の電極体に比較して、熱経験による電流応答の減少が著しく小さいことがわかる。したがって、本発明の電極体が、正孔輸送能に優れ、耐熱性にも優れることがわかった。
【0091】
従来、水難溶性のEDOTの水中濃度を高めるために、スルホン酸基又はスルホン酸塩基を有するアニオン系界面活性剤が支持電解質として多用されており、これらの界面活性剤のアニオンがドープされたPEDOT層が、ドーパントの嵩高さにより脱ドープが抑制されるため、熱耐久性に優れることが報告されている。例えば、特開2000−269087号公報は、EDOTのようなチオフェン誘導体をアルキルナフタレンスルホン酸系界面活性剤により乳化した水媒体の重合液を用いた電解重合を報告しているが、ドーパントとしてポリマー層に取り込まれたアルキルナフタレンスルホン酸アニオンの嵩が大きいため、脱ドープが抑制され、高温・高湿中で安定な導電性ポリマー層が得られている。
【0092】
比較例1,2の電極体のサイクリックボルタモグラムを、比較例5,6の電極体のものと比較すると、熱経験による電流応答の減少が小さかったが、実施例1,2の電極体はさらに優れた耐熱性を有していた。特に、支持電解質としてビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムを含む重合液から得られた実施例1の電極体は、極めて優れた熱安定性を示した。
【0093】
したがって、本発明の太陽電池用電極体は、従来のPEDOT:PSS層を有する電極体よりも正孔輸送能に優れ、その上、嵩高いスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有するアニオンをドーパントとして含むPEDOT層を有する電極体よりも耐熱性に優れることがわかった。この結果より、本発明の太陽電池用電極体は、有機薄膜太陽電池における構成要素、すなわち、陽極と正孔取り出し層とが一体化した構成要素として好適であると判断された。
【0094】
(3)I−/I3−電解液における電気化学的応答の評価
実施例1及び比較例1の電極体のI−/I3−電解液における電気化学的応答をサイクリックボルタモグラムにより評価した。
【0095】
10mMのヨウ化リチウム、1mMのヨウ素、1Mのテトラフルオロホウ酸リチウムをアセトニトリルに溶解させた電解液に、作用極としての実施例1の電極体或いは比較例1の電極体、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、走査電位範囲を−0.8〜+0.8Vとし、走査速度を10mV/sとして評価した。
【0096】
図9に、得られたサイクリックボルタモグラムを、これらの電極体の製造において基体として使用したITO電極、及び、ガラス板上にスパッタ法により1cm2の面積のPt層を設けたPt電極のサイクリックボルタモグラムと比較して示す。
【0097】
ITO電極のサイクリックボルタモグラムには、明瞭な酸化還元波が認められなかった。実施例1の電極体及びPt電極のサイクリックボルタモグラムには、2対の酸化還元波が明瞭に認められた。負電位側の酸化還元波がI3−/I−に対応する酸化還元波であり、正電位側の酸化還元波がI2/I3−に対応する酸化還元波である。色素増感太陽電池において、銀−塩化銀電極に対して−0.2V付近に認められるI3−からI−への還元波が特に重要である。I−の十分な再生が必要だからである。しかしながら、比較例1の電極体のサイクリックボルタモグラムには、非特許文献2の報告と同様に、I3−からI−への還元波が認められなかった。したがって、実施例1の電極体は、これまでに色素増感太陽電池の陽極として検討されてきたPEDOT:PSS層を有する比較例1の電極体と比較して、I3−をI−に変換する還元触媒能に優れ、色素増感太陽電池の陽極としてPt電極を代替しうる電極体であることがわかった。
【0098】
次いで、硫酸ナトリウム電解液における評価において比較的優れた耐熱性を示した実施例1,2及び比較例2の電極体について、I−/I3−電解液における電気化学的応答をサイクリックボルタモグラムにより評価した、次いで、これらの電極体を電解液から取り出し、洗浄後、空気中、130℃で700時間熱エージングを行い、再度サイクリックボルタモグラムを得、耐熱性を評価した。サイクリックボルタモグラムを得るための条件は、図9の結果を得た条件と同一である。
【0099】
図10〜12に、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを示す。図10、図11、図12は、順番に、実施例1(ドーパント:ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸アニオン)、実施例2(ドーパント:ボロジサリチル酸アニオン)、及び比較例2(ドーパント:ブチルナフタレンスルホン酸アニオン)の電極体のサイクリックボルタモグラムを示している。
【0100】
初期には、実施例1、実施例2、及び比較例2の電極体のいずれのサイクリックボルタモグラムにも2対の酸化還元波が認められたが、熱エージング後には、比較例2の電極体のサイクリックボルタモグラムには2対の酸化還元波のいずれも認められなかったのに対し、実施例1及び実施例2のサイクリックボルタモグラムのいずれにも2対の酸化還元波が明瞭に認められた。
【0101】
したがって、本発明の太陽電池用電極体における導電性ポリマー層は、酸化種(I3−)を還元種(I−)に変換する還元触媒能に優れ、その上、嵩高いスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有するアニオンをドーパントとして含む導電性ポリマー層よりも耐熱性に優れることがわかった。この結果より、本発明の太陽電池用電極体は、色素増感太陽電池における陽極として好適であると判断された。
【0102】
(4)色素増感太陽電池としての評価
実施例3
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOTを0.140g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、p−ニトロフェノールを0.02Mの濃度で、ボロジサリチル酸アンモニウムを0.08Mの濃度で、それぞれ添加し、周波数20kHz、出力22.6W/cm2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm2の超音波を5分間、次いで周波数2.4MHz、出力7.1W/cm2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。
【0103】
得られた重合液に、作用極としての1cm2の面積を有するFTO電極、対極としての4cm2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、FTO電極上に導電性ポリマー層が形成された電極体(陽極)を得た。
【0104】
ITO電極の表面に酸化チタンペースト(日揮触媒化成株式会社製)をバーコート法により膜厚が約100μmになるように塗布し、130℃で10分間予備乾燥し、さらに450℃で30分間焼成することにより、ITO電極上に酸化チタン多孔質層を形成した。さらに、色素N719を0.2mMの濃度で含むエタノール溶液に酸化チタン多孔質層を3時間浸漬した後、室温にて乾燥することにより、酸化チタン多孔質層に色素N719を添着させ、色素増感太陽電池の陰極を得た。
【0105】
次いで、得られた陰極と陽極とを酸化チタン多孔質層と導電性ポリマー層とが対向するように張り合わせ、間隙に電解液を含浸させることにより電解質層を形成した。電解液としては、0.5Mのヨウ化リチウム、0.05Mのヨウ素、及び0.5Mの4−t−ブチルピリジンをアセトニトリルに溶解させた液を用いた。最後にエポキシ樹脂を用いて封口し、色素増感太陽電池を得た。
【0106】
比較例7
実施例3において得られた陰極と、鋼の基体の上にスパッタ法により1cm2の面積のPt層を設けたPt電極から成る陽極を、酸化チタン多孔質層とPt層とが対向するように張り合わせ、間隙に電解液を含浸させることにより電解質層を形成した。電解液としては、0.5Mのヨウ化リチウム、0.05Mのヨウ素、及び0.5Mの4−t−ブチルピリジンをアセトニトリルに溶解させた液を用いた。最後にエポキシ樹脂を用いて封口し、色素増感太陽電池を得た。
【0107】
実施例3及び比較例7の色素増感太陽電池について、ソーラシュミレータによる100mW/cm2、AM1.5Gの照射条件下での電流−電圧特性を評価した。測定は、20℃で、電圧を50mV/sの速度で変化させながら行った。図13に得られた結果を示す。表1には、図13の測定結果から得られた短絡電流、開放電圧、曲線因子及び光電変換効率をまとめた。従来のPt電極を陽極とした比較例7の太陽電池の光電変換効率には及ばないものの、実施例3の太陽電池においても比較例7の太陽電池の80%を超える光電変換効率が得られた。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の太陽電池用電極体は、有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池の両方の構成要素として好適に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた太陽電池用電極体であって、
前記導電性ポリマー層が、
3位と4位に置換基を有するチオフェンから成る群から選択された少なくとも一種のモノマーからから構成されたポリマーと、
該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、
を含むことを特徴とする太陽電池用電極体。
【請求項2】
前記非スルホン酸系有機化合物が、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩から成る群から選択された少なくとも一種の化合物である、請求項1に記載の太陽電池用電極体。
【請求項3】
前記非スルホン酸系有機化合物が、式(I)又は式(II)
【化1】
(式中、mが1〜8の整数を意味し、nが1〜8の整数を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩から成る群から選択された少なくとも一種の化合物である、請求項1に記載の太陽電池用電極体。
【請求項4】
前記非スルホン酸系有機化合物が、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸塩である、請求項3に記載の太陽電池用電極体。
【請求項5】
前記モノマーが3,4−エチレンジオキシチオフェンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体。
【請求項6】
前記基体が透明である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体の製造方法であって、
(A)以下の(a1)〜(a4)のステップにより、溶媒としての水と、水に油滴として分散した前記モノマーと、前記非スルホン酸系有機化合物と、を含み、且つ透明である重合液を得る調製工程、
(a1)水に前記モノマーを添加し、水と前記モノマーとが相分離した相分離液を得るステップ、
(a2)前記相分離液に超音波を照射することにより、前記モノマーを油滴として分散させ、乳濁分散液を得るステップ、
(a3)前記乳濁分散液に、(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射することにより、前記モノマーの油滴のサイズを減少させ、透明分散液を得るステップ、
(a4)前記非スルホン酸系有機化合物を、支持電解質として、前記相分離液、前記乳濁分散液、又は、前記透明分散液に添加するステップ、
及び、
(B)前記調製工程で得られた重合液に前記基体を導入し、電解重合を行うことにより、前記モノマーの重合により得られた導電性ポリマー層を前記基体の導電性部分の上に形成する重合工程、
を含むことを特徴とする、太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項8】
(a2)ステップにおける超音波が15〜200kHzの範囲の周波数及び4W/cm2以上の出力を有する、請求項7に記載の太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項9】
(a3)ステップにおける超音波が1〜4MHzの範囲の周波数及び5W/cm2以上の出力を有する、請求項7又は8に記載の太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項10】
(a2)ステップにおける超音波照射時間が2〜10分の範囲であり、(a3)ステップにおける超音波照射時間が2〜10分の範囲である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項11】
少なくとも表面に導電性部分を有する陽極と、
該陽極の導電性部分の上に積層された正孔取り出し層と、
該正孔取り出し層上に積層された、正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、
該光電変換層上に積層された陰極と、
を備えた有機薄膜太陽電池であって、
前記陽極と前記正孔取り出し層とが請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【請求項12】
光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、
該陰極の半導体層上に積層された、対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層と、
該電解質層上に積層された、前記酸化種を前記還元種に変換する触媒として作用する導電性ポリマー層を有する陽極と、
を備えた色素増感太陽電池であって、
前記陽極が請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項1】
少なくとも表面に導電性部分を有する基体と、該基体の導電性部分の上に積層された導電性ポリマー層と、を備えた太陽電池用電極体であって、
前記導電性ポリマー層が、
3位と4位に置換基を有するチオフェンから成る群から選択された少なくとも一種のモノマーからから構成されたポリマーと、
該ポリマーに対するドーパントとしての、非スルホン酸系有機化合物であって該化合物のアニオンの分子量が200以上である少なくとも一種の化合物から発生したアニオンと、
を含むことを特徴とする太陽電池用電極体。
【請求項2】
前記非スルホン酸系有機化合物が、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩から成る群から選択された少なくとも一種の化合物である、請求項1に記載の太陽電池用電極体。
【請求項3】
前記非スルホン酸系有機化合物が、式(I)又は式(II)
【化1】
(式中、mが1〜8の整数を意味し、nが1〜8の整数を意味し、oが2又は3を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸及びこれらの塩から成る群から選択された少なくとも一種の化合物である、請求項1に記載の太陽電池用電極体。
【請求項4】
前記非スルホン酸系有機化合物が、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸塩である、請求項3に記載の太陽電池用電極体。
【請求項5】
前記モノマーが3,4−エチレンジオキシチオフェンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体。
【請求項6】
前記基体が透明である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体の製造方法であって、
(A)以下の(a1)〜(a4)のステップにより、溶媒としての水と、水に油滴として分散した前記モノマーと、前記非スルホン酸系有機化合物と、を含み、且つ透明である重合液を得る調製工程、
(a1)水に前記モノマーを添加し、水と前記モノマーとが相分離した相分離液を得るステップ、
(a2)前記相分離液に超音波を照射することにより、前記モノマーを油滴として分散させ、乳濁分散液を得るステップ、
(a3)前記乳濁分散液に、(a2)ステップにおける超音波の周波数より高い周波数の超音波を照射することにより、前記モノマーの油滴のサイズを減少させ、透明分散液を得るステップ、
(a4)前記非スルホン酸系有機化合物を、支持電解質として、前記相分離液、前記乳濁分散液、又は、前記透明分散液に添加するステップ、
及び、
(B)前記調製工程で得られた重合液に前記基体を導入し、電解重合を行うことにより、前記モノマーの重合により得られた導電性ポリマー層を前記基体の導電性部分の上に形成する重合工程、
を含むことを特徴とする、太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項8】
(a2)ステップにおける超音波が15〜200kHzの範囲の周波数及び4W/cm2以上の出力を有する、請求項7に記載の太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項9】
(a3)ステップにおける超音波が1〜4MHzの範囲の周波数及び5W/cm2以上の出力を有する、請求項7又は8に記載の太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項10】
(a2)ステップにおける超音波照射時間が2〜10分の範囲であり、(a3)ステップにおける超音波照射時間が2〜10分の範囲である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体の製造方法。
【請求項11】
少なくとも表面に導電性部分を有する陽極と、
該陽極の導電性部分の上に積層された正孔取り出し層と、
該正孔取り出し層上に積層された、正孔輸送体と電子輸送体とを含む光電変換層と、
該光電変換層上に積層された陰極と、
を備えた有機薄膜太陽電池であって、
前記陽極と前記正孔取り出し層とが請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【請求項12】
光増感剤としての色素を含む半導体層を有する陰極と、
該陰極の半導体層上に積層された、対を成す酸化種と還元種とを含む電解質層と、
該電解質層上に積層された、前記酸化種を前記還元種に変換する触媒として作用する導電性ポリマー層を有する陽極と、
を備えた色素増感太陽電池であって、
前記陽極が請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用電極体により構成されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9】
【公開番号】特開2012−216673(P2012−216673A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80676(P2011−80676)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【Fターム(参考)】
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