説明

奇数の炭素原子を持つオレフィンを製造するための触媒前駆体、その調製方法、並びにそのようなオレフィンの製造方法

本発明は、XおよびYがハロゲンであり、nが2または3である化学式(I)を持つ奇数の炭素原子を持つオレフィンを製造するための触媒前駆体、並びにその調製方法およびエチレンのオリゴマー化方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、奇数の炭素原子を持つオレフィンを製造するための触媒前駆体、その調製方法並びにその触媒前駆体を用いた奇数の炭素原子を持つオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンまたは他のオレフィンのオリゴマー化プロセスが、従来技術においてよく知られている。例えば、ハロゲン化鉄の2,6−ジイミノピリジンとの配位化合物が、エチレンの重合およびオリゴマー化の触媒前駆体(precatalyst)であると報告された。例えば、非特許文献1および2参照のこと。
【0003】
さらに、奇数の炭素原子を持つオレフィン、例えば、1−ヘプテン、1−ノネン、1−ウンデセンまたは1−トリデセンは、様々な化合物の合成のための価値のある化学中間体である。従来、そのような炭素数が奇数のオレフィンは、主に天然生成物から単離されるか、または偶数の炭素原子を持つオリゴマーの製造のための工業工程、例えば、SHOPプロセスの副生成物として少量生成されいる。
【非特許文献1】Small,B.L.; Brookhar,M. Journal of the American Chemical Society 1998, 120, 7143-7144
【非特許文献2】Birtovsek,G.J.P.; Gibson,V.; Kimberley,B.S.; Maddox,P.J.; McTavish,S.J.; Solan,G.A.; White,A.J.P.; Williams,D.J. Chemical Communications (Cambridge) 1998, 849-850
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服すること、および奇数の炭素原子を持つオレフィンを増加した量で提供するためのエチレンのオリゴマー化方法に用いられる触媒組成物を提供することにある。さらに、本発明の目的は、その触媒組成物の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、化学式:
【化1】

【0006】
ここで、XおよびYはハロゲンであり、nは2または3である;
を持つ炭素数が奇数のオレフィンを製造するための触媒前駆体により達成される。
【0007】
Xが塩素であり、Yがフッ素、塩素、臭素またはヨウ素であることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明の触媒前駆体の調製方法であって、
(i) 以下の化学式:
【化2】

【0009】
にしたがって、2,6−ジアセチルピリジンを適切に置換されたアニリンと反応させて、2,6−ジイミノピリジンを調製する工程、および
(ii) 以下の化学式:
【化3】

【0010】
にしたがって、工程(i)で得た2,6−ジイミノピリジンをハロゲン化鉄と反応させる工程、
を有してなる方法が提供される。
【0011】
工程(i)および(ii)を、トルエン、n−ブタノール、二塩化メチレンまたはジエチルエーテルなどの、不活性溶媒中で行うことが好ましい。
【0012】
そのハロゲン化鉄における鉄の酸化状態は+2または+3であることがより好ましい。
【0013】
さらに、炭素数が奇数のオレフィンを製造する方法であって、
(a) 本発明の触媒前駆体を活性化剤で活性化させる工程、および
(b) 工程(a)で得た活性化済みの前記触媒前駆体でエチレンをオリゴマー化させる工程、
を有してなる方法が提供される。
【0014】
その活性化剤が、アルキルアルミニウム、メチルアミノキサン、変性メチルアルミノキサン、ボレートまたは超酸であることが好ましい。
【0015】
活性化剤がアルミニウム化合物であり、アルミニウムの鉄に対する比が、約50から約10000、好ましくは約200から約3000であることがより好ましい。
【0016】
ある実施の形態において、オリゴマー化温度が、約−100から約300℃、好ましくは約−10から約100℃である。
【0017】
オリゴマー化は、トルエンおよび/またはペンタンなどの、不活性溶媒中で行ってよい。
【0018】
最後に、エチレンの圧力は、約0.1から約60バール、好ましくは約0.5から約10バールであってよい。
【0019】
意外なことに、本発明による触媒前駆体を用いたエチレンのオリゴマー化方法において、炭素数が奇数のオレフィンが著しく多量に含まれているオレフィン系オリゴマーが得られることが分かった。
【0020】
さらに、選択した特定の触媒前駆体および特定の反応条件に応じて、それぞれ奇数と偶数の炭素原子を持つオリゴマーの比が最適化されるであろう。
【0021】
本発明の主題の追加の特徴および利点は、添付の図面と共に、以下の詳細な説明および実施例の項目を読んだ際に、当業者には明らかとなるであろう。
【実施例】
【0022】
以下の省略形が用いられる:
FW=式量
GC=ガスクロマトグラフィー
GC/MS=ガスクロマトグラフィーとその後の質量分析
NMR=核磁気共鳴
RT=室温
MeOH=メタノール
EtOH=エタノール
THF=テトラヒドロフラン
実施例1
2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジン
25mlの丸底フラスコに、3gの2,6−ジアセチルピリジン(FW 163.13、18.4ミリモル)および100mlのトルエンを入れた。次に、数ミリグラムのp−トルエンスルホン酸を加え、続いて、7.81gの5−クロロ−2−メチル−アニリン(FW 141.60、55.2ミリモル)を加えた。この反応混合物を、2日間に亘りディーン・スターク・トラップで環流させながら加熱し、次いで、室温まで冷却した。NaHCO3で中和した後、その混合物を水で洗浄し、分離漏斗を用いて有機層を分離した。Na2SO4を用いてトルエン溶液を乾燥させ、その溶媒を蒸留によって除去した。残留物をEtOHから再結晶化させて、薄黄色の結晶5.88g(78%の収率)を得た。この生成物にGC/MS分析を行った:
MS m/e (%) 411(39), 410(36), 409(57), 397(20), 396(70), 395(54), 394(100), 284(13), 244(15), 243(15), 229(16), 166(23), 131(14), 125(32), 89(26)
【0023】

この化合物の質量スペクトルが図1に与えられている。さらに、1Hおよび13C NMRスペクトルを収集した:
1H NMR (ppm, CDCl3) 8.36 (d, 2H), 7.91 (t, IH), 7.19 (d, 2H), 6.99 (d, 2H), 6.69 (d, 2H), 2.32 (s, 6H), 2.11 (s, 6H)
13C NMR (ppm, CDCl3) 167.6, 155.1, 151.2, 132.2, 125.4, (Cq); 137.0, 131.0, 123.3, 122.5, 119.4, (CH); 16.5, 14.7, (CH3)
【0024】

1Hおよび13C NMRスペクトルは図2に与えられている。
【0025】
さらに、ジエチルエーテルからの再結晶化後、X線分析に適した結晶が得られ、以下の結晶データを得た。
【0026】

得られた結晶データの結果として、図3に与えられた化合物の構造になる。
【0027】
実施例2
2,6−ビス[1−(5−ブロモ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジン
25mlの丸底フラスコに、3gの2,6−ジアセチルピリジン(FW 163.13、18.4ミリモル)および100mlのトルエンを入れた。次に、数ミリグラムのp−トルエンスルホン酸を加え、続いて、10.27gの5−ブロモ−2−メチル−アニリン(FW 186.05、55.2ミリモル)を加えた。この反応混合物を、8時間に亘りディーン・スターク・トラップで環流させながら加熱し、次いで、室温まで冷却した。NaHCO3で中和した後、その混合物を水で洗浄し、分離漏斗を用いて有機層を分離した。Na2SO4を用いてトルエン溶液を乾燥させ、その溶媒を蒸留によって除去した。残留物をMeOHから再結晶化させて、薄黄色の結晶3.76g(41%の収率)を得た。この生成物にGC/MS分析を行った:
保持時間=918秒
MS m/e(%) 501(26), 500(20), 499(51), 497(26), 486(53), 485(26), 484(100), 482(52), 210(16), 171(16), 169(18), 90(24), 89(16)
【0028】

実施例3
[2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]
−ピリジン]二塩化鉄(II)
シュレンク管(250ml)を排気し、アルゴンを3回充填した。この管に80mlの乾燥n−ブタノールを注ぎ、その中に0.501gの2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジン(FW 410.35、1.2ミリモル)を溶解させた。乾燥した二塩化鉄(II)(FW 126.75、0.154g、1.2ミリモル)を加えると、色が黄色から青色に直ちに変化した。この反応混合物を1時間に亘り室温で撹拌し、次いで、沈殿物を不活性ガス雰囲気下で濾過した。残留物をペンタンで洗浄し、真空下で乾燥させて、0.63g(96%の収率)の生成物を得た。この生成物を質量分析により特徴付けた:
MS m/e(%) 411(34), 410(21), 409(48), 408(18), 396(62), 395(23), 394(100), 296(51), 244(23), 243(19), 229(22), 166(32), 131(17), 125(32), 89(18)
【0029】

実施例3による触媒前駆体の質量スペクトルが図4に与えられている。
【0030】
実施例4
[2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]
−ピリジン]二臭化鉄(II)
シュレンク管(250ml)を排気し、アルゴンを3回充填した。この管に80mlの乾燥n−ブタノールを注ぎ、その中に0.500gの2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジン(FW 410.35、1.2ミリモル)を溶解させた。乾燥した二臭化鉄(II)(FW 213.77、0.256g、1.2ミリモル)を加えると、色が黄色から青色に直ちに変化した。この反応混合物を1時間に亘り室温で撹拌し、次いで、沈殿物を不活性ガス雰囲気下で濾過した。残留物をペンタンで洗浄し、真空下で乾燥させて、0.68g(90%の収率)の生成物を得た。この生成物を質量分析により特徴付けた:
MS m/e(%) 546(20), 411(32), 410(23), 409(46), 396(68), 395(26), 394(100), 244(25), 243(28), 229(34), 209(18), 166(35), 131(27), 125(42), 89(26), 44(31)
【0031】

実施例5
触媒前駆体として[2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)
−エチル]−ピリジン]二臭化鉄(II)を用いたオリゴマー化
シュレンク管に150mlのトルエンを注ぎ、0.068gの[2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジン]二臭化鉄(II)(FW 625.99、0.11ミリモル)を加えた。助触媒MAOを加え(11.6ml、Al:Fe=500:1)、シュレンク管を1バールのエチレンで加圧した。反応を1時間に亘り室温で行い、圧力を解放した後に増加した質量を測定することによって、活性を決定した。その後、混合物を0℃まで冷却し、水を加えることによって、加水分解させた。有機層を分離し、Na2SO4上で乾燥させ、GC分析を行った。
【0032】
得られた活性は、2480g(PE)/g(Fe)*-1であり、奇数の炭素原子を持つオリゴマーの量は約19%であった。
【0033】
実施例6
触媒前駆体として[2,6−ビス[1−(5−ブロモ−2−メチルフェニルイミノ)
−エチル]−ピリジン]二塩化鉄(II)を用いたオリゴマー化
シュレンク管に150mlのトルエンを注ぎ、0.0176gの[2,6−ビス[1−(5−ブロモ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジン]二塩化鉄(II)(FW 625.99、0.028ミリモル)を加えた。助触媒MAOを加え(4.3ml、Al:Fe=750:1)、シュレンク管を1バールのエチレンで加圧した。反応を1時間に亘り0℃で行い、圧力を解放した後に増加した質量を測定することによって、活性を決定した。その後、混合物を、水を加えることによって加水分解させた。有機層を分離し、Na2SO4上で乾燥させ、GC分析を行った。
【0034】
得られた活性は、2980g(PE)/g(Fe)*-1であり、奇数の炭素原子を持つオリゴマーの量は約6%であった。
【0035】
以上のように、エチレンのオリゴマー化方法において本発明による触媒前駆体を用いると、奇数の炭素原子を持つオリゴマーが多量に得られる。
【0036】
これまでは、エチレンから炭素数が奇数のオレフィンをそのような多量に生成する他の触媒前駆体は知られていない。
【0037】
先の説明、特許請求の範囲および/または添付の図面に開示された特徴は、別々とその任意の組合せの両方で、本発明をその様々な形態で実現するための素材である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジンの質量スペクトル
【図2】2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジンの1Hおよび13Cスペクトル
【図3】2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジンのX線分析により得られた構造
【図4】[2,6−ビス[1−(5−クロロ−2−メチルフェニルイミノ)−エチル]−ピリジン]二塩化鉄(II)の質量スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式:
【化1】

ここで、XおよびYが、Xは臭素でありYは塩素である組合せおよびXは塩素でありYは臭素である組合せの内の一方であり、nは2または3である;
を持つ炭素数が奇数のオレフィンを製造するための触媒前駆体。
【請求項2】
請求項1記載の触媒前駆体の調製方法であって、
(i) 以下の化学式:
【化2】

にしたがって、2,6−ジアセチルピリジンを適切に置換されたアニリンと反応させて、2,6−ジイミノピリジンを調製する工程、および
(ii) 以下の化学式:
【化3】

にしたがって、工程(i)で得た前記2,6−ジイミノピリジンをハロゲン化鉄と反応させる工程、
を有してなる方法。
【請求項3】
前記工程(i)および(ii)を不活性溶媒中で行うことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記不活性溶媒がトルエン、n−ブタノール、二塩化メチレンまたはジエチルエーテルであることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化鉄における鉄の酸化状態が+2または+3であることを特徴とする請求項2から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
炭素数が奇数のオレフィンを製造する方法であって、
(a) 請求項1記載の触媒前駆体を活性化剤で活性化させる工程、および
(b) 工程(a)で得た活性化済みの前記触媒前駆体でエチレンをオリゴマー化させる工程、
を有してなる方法。
【請求項7】
前記活性化剤が、アルキルアルミニウム、メチルアルミノキサン、変性メチルアルミノキサン、ボレートまたは超酸であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記活性化剤がアルミニウム化合物であり、アルミニウムの鉄に対する比が約50から約10000であることを特徴とする請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
前記アルミニウムの鉄に対する比が約200から約3000であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記オリゴマー化の温度が約−100℃から約300℃であることを特徴とする請求項6から9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記オリゴマー化の温度が約−10℃から約100℃であることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記オリゴマー化を不活性溶媒中で行うことを特徴とする請求項6から11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記不活性溶媒がトルエンおよび/またはペンタンであることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記エチレンの圧力が約0.1から約60バールであることを特徴とする請求項6から13いずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記圧力が約0.5から約10バールであることを特徴とする請求項14記載の方法。

【公表番号】特表2008−539056(P2008−539056A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508102(P2008−508102)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003035
【国際公開番号】WO2006/117048
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】