説明

好塩菌による乳酸及び/又は酢酸の産生方法

【課題】ペプトンや酵母エキス等の複数の有機炭素・窒素源を含む培地を用いることが生育に必須ではなく、高アルカリ条件下で生育できる好塩菌を用いた、乳酸及び/又は酢酸の産生方法を提供する。
【解決手段】ハロモナス属に属する好塩菌を用いた乳酸及び/又は酢酸の産生方法であって、好塩菌は無機塩と単一の有機炭素源からなる初期pH8.8〜11の培地で増殖並びに乳酸及び/又は酢酸を培地中に産生することが可能であり、好塩菌を無機塩と単一又は複数の有機炭素源を含む初期pHが8.8〜11の培地で培養し、培地中の乳酸及び/又は酢酸が存在している間に培養を停止する、乳酸及び/又は酢酸の産生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロモナス属に属する好塩菌による乳酸及び/又は酢酸の産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸、酢酸などは工業用の原料などとして多量に生産消費され、工業用としてはほとんどが石油から合成される。
【0003】
一方で、乳酸は生分解性プラスチックポリ乳酸の原料として、デンプンを原料に微生物により生産され、その生産は拡大している。また、酢酸は、工業用原料の基礎をなし、酢酸菌などで生産されているものの、嫌気発酵でおこなわれているためその生産速度はさほど早くない。
【0004】
ピークオイルが叫ばれ、エネルギーのみならずケミカルリファイナリーのバイオベース化が必要とされる昨今、これらの工業用原料のバイオベース化も喫緊の課題である。
【0005】
本発明者らは、商業的な屋外培養でコンタミがほとんどないことが知られている微細藻類スピルリナの効率的な培養方法を検討していたところ、ある条件下で好塩菌が唯一のコンタミ菌として生育することを認めた。
【0006】
この好塩菌は、pH8.8以上のアルカリ性、高濃度のナトリウムを含む培地で、好気発酵
下で良好に生育するため他のバクテリア等のコンタミが極めて起こりにくいことが推定された。そこで各種の炭素源の資化性を調べるために菌体を培養し、ポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates)(PHAs)の生産量を調べたところ著量のPHAsの蓄積を行
うことを認めた(特許文献1)。
【0007】
また、既知の文献においては、培養に用いられる培地には、ペプトンや酵母エキスが必ず含まれているのに対して、当該好塩菌は、ペプトンや酵母エキスは用いることなく、無機塩と単純な有機炭素源を加えた低コスト培地で培養可能であることが確認されている。従って、当該好塩菌は、上記乳酸や酢酸の商業培養において有利であると言える。
【0008】
また、地球に優しい燃料として利用がすすんでいるバイオディーゼルフュエル(BDF)の
生産では、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を用いて、植物、動物油脂から脂肪酸メチルエステル(BDFの主体)を作製する方法が主流である。そのため、この
手法によるアルカリを多く含んだ廃グリセロールの処理が問題となっている。特許文献1には、これらの廃グリセロールからメタノール除去を行えば、当該好塩菌が廃グリセロールを炭素源として、PHAsを生産することができることも記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の実施例では、当該好塩菌のPHAsの産生について調査されているが、それ以外の物質の産生についての検討はなされていない。
【0010】
既知の文献において、好塩菌による酸の産生について報告がなされている(非特許文献
1)。非特許文献1では、培養に用いられているMH培地には緩衝成分がほとんど含まれておらず、僅かな酸の産成で容易にpH変化が起こりうる。pHにより変化する試薬の呈色により酸の産生を見ているが、当該の酸の同定はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2009/041531号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】JUAN ANTONIO MATA; JOSE MARTINEZ-CANOVAS; EMILIA QUESADA; VICTORIA BEJAR: “A Detailed Phenotypic Characterisation of the Type Strains of Halomonas Species” System. Appl. Microbiol. 2002; 25, 360-375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ペプトンや酵母エキス等の複数の有機炭素・窒素源を含む培地を用いることが生育に必須ではなく、高アルカリ条件下で生育できる好塩菌を用いた、乳酸及び/又は酢酸の産生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、特許文献1の好塩菌について同様の培地で培養検討を継続していたところ、過剰の炭素源存在下で菌体濃度が上昇すると、培地のpHの低下が見られることを認めた。そこで、この培養液を分析したところ、培地中に著量の乳酸及び酢酸が蓄積していることを見出した。
【0015】
特許文献1のPHAsの産生では、長時間培養することにより菌体内にPHAsが蓄積されている。それに対し、乳酸や酢酸は産生されて培地中に分泌されても、菌体により再度取り込まれて栄養源として利用されるため、乳酸や酢酸は培養時間が長くなると培地中から無くなってしまう。そのため、これらが培地中に存在している期間に培地成分を分析することにより、上記好塩菌により乳酸や酢酸が産生されていることが分かった。
【0016】
そして、本発明者らは、ある種の好塩菌において、単一の有機炭素源を基質として、高アルカリ条件下で乳酸及び/又は酢酸を産生させることができるため、低コストでの培養、BDF廃液を用いた培養、光合成できる微細藻類スピルリナなどとの混合培養、及び他の
バクテリアのコンタミが起こりにくい環境での培養が可能であるという知見を得た。また、乳酸及び/又は酢酸の産生は一連の菌体増殖の中で行われるため、一段階の培養での乳酸及び/又は酢酸の産生が可能である。
【0017】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の乳酸及び/又は酢酸の産生方法を提供するものである。
項1.ハロモナス属に属する好塩菌を用いた乳酸及び/又は酢酸の産生方法であって、好塩菌は無機塩と単一の有機炭素源からなる初期pH8.8〜11の培地で増殖並びに乳酸及び/
又は酢酸を培地中に産生することが可能であり、好塩菌を無機塩と単一又は複数の有機炭素源を含む初期pHが8.8〜11の培地で培養し、培地中の乳酸及び/又は酢酸が存在してい
る間に培養を停止する、乳酸及び/又は酢酸の産生方法。
項2.pHの低下によって培地中の酢酸の存在の確認を行う、項1に記載の方法。
項3.前記培養を行う培地中の有機炭素源がグルコースである、項1又は2に記載の方法。
項4.前記培養を行う培地中の有機炭素源が廃グリセロールである、項1又は2に記載の方法。
項5.前記好塩菌がハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株(FERM BP-10995)である、項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の乳酸及び/又は酢酸の産生方法によれば、乳酸及び/又は酢酸生産に際し従来
のようにペプトンや酵母エキス等の高価な有機炭素・窒素源を用いず低コストでの培養が可能であって、乳酸及び/又は酢酸の産生を一段階の培養で、他のバクテリアのコンタミが起こりにくい環境で行うことができる。
【0019】
また、本発明によれば、地球に優しい燃料として利用がすすんでいるバイオディーゼルフュエル(BDF)の生産における廃グリセロールからメタノール除去等をおこなえば、本発
明に用いる好塩菌が炭素源として利用し、乳酸及び/又は酢酸を産生することができる。更に、光合成できる微細藻類スピルリナなどとの混合培養の実施も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株をグルコース5%、グルコース2.5%+キシロース2.5%、又はキシロース5%を有機炭素源として培養したときの培養時間と酢酸生産量(培地中の酢酸濃度w/v%)の関係を調べたグラフである。
【図2】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株をグリセロール5%、又は廃グリセロール5%を有機炭素源として培養したときの培養時間と酢酸生産量(培地中の酢酸濃度w/v%)の関係を調べたグラフである。
【図3】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株をグルコース5%、グルコース2.5%+キシロース2.5%、又は廃グリセロール5%を有機炭素源として培養したときの培養時間と乳酸生産量(培地中の乳酸濃度w/v%)の関係を調べたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の乳酸及び/又は酢酸の産生方法について詳細に説明する。
【0022】
本発明の乳酸及び/又は酢酸の産生方法は、ハロモナス属に属する好塩菌を用いた乳酸及び/又は酢酸の産生方法であって、好塩菌は無機塩と単一の有機炭素源からなる初期pH8.8〜11の培地で増殖並びに乳酸及び/又は酢酸を培地中に産生することが可能であり、
好塩菌を無機塩と単一又は複数の有機炭素源を含む初期pHが8.8〜11の培地で培養し、培
地中の乳酸及び/又は酢酸が存在している間に培養を停止することを特徴とする。
【0023】
(a)好塩菌
本発明に用いる好塩菌は、ハロモナス属に属する好塩菌であって、無機塩と単一の有機炭素源からなる初期pH8.8〜11の培地で増殖並びに乳酸及び/又は酢酸を培地中に産生す
ることが可能であることを特徴とする。
【0024】
ここで、ハロモナス属とは、0.2M以上1.0M程度までの塩濃度を適とする好塩性有し、時には塩を含まない培地においても生育する細菌である。
【0025】
無機塩と有機炭素源については、培地の欄に記載のものが適用される。
【0026】
本発明で用いるハロモナス属に属する好塩菌は、ペプトンや酵母エキス等の複数の有機炭素・窒素源を培養に必要とせず、無機塩と単一の有機炭素源からなり、pHが8.8以上、
好ましくは8.8〜11の培地で生育が可能なものである。
【0027】
このような好塩菌は、アルカリ条件の培地で、単一の有機炭素源を用いて培養できるため、他のバクテリアのコンタミネーションの恐れがほとんどなく、また単一の安価な炭素源を用いて培養が行えるため、低コストでの培養が可能となる。
【0028】
当該ハロモナス属に属する好塩菌は、培地中に0.08w/v%以上の乳酸及び/又は0.4w/v%
以上の酢酸を産生できることが好ましく、0.17w/v%以上の乳酸及び/又は2.0w/v%以上の
酢酸を産生できることがより好ましい。
【0029】
本発明で用いるハロモナス属に属する好塩菌としては、好ましくはハロモナス・エスピー(Halomonassp.) KM-1株である。当該ハロモナス・エスピー KM-1株は、無機塩と単一の有機炭素源からなり、pHが8.8以上、好ましくは8.8〜11の培地で培養でき、当該培地中に0.08w/v%以上の乳酸及び/又は0.4w/v%以上の酢酸を産生することを特徴とする。当該ハ
ロモナス・エスピー KM-1株はまた、16S rRNA遺伝子が、DDBJ Accession Number AB477015として登録されている。
【0030】
当該ハロモナス・エスピー KM-1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術
総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM P-21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10995である。
【0031】
本発明者は、当該ハロモナス・エスピー KM-1株をスピルリナ菌株の培地から分離した
。そして、この菌株の培養とバイオプラスチックPHAsの生産、乳酸及び酢酸生産の関連を観察した結果、十分量の炭素源が存在して培養している場合には、乾燥菌体重量に対し20重量%以上のPHBの蓄積を行うとともに、著量の乳酸及び酢酸を培地中に蓄積することが
判明した。これらの工程は一連の菌体増殖の中で行われるため、特段の変更操作を必要としない(実施例参照)。
【0032】
ハロモナス・エスピー KM-1株以外の当該好塩菌の具体例としては、例えば同じ培地で
培養可能なハロモナス・メルリアナ(Halomonas meridiana) NBRC15608株等が挙げられ、
本株もKM-1株と同様に、著量の酸を生産し、pHの低下が見られた。
【0033】
更に、当該ハロモナス属に属する好塩菌は遺伝子が導入されていてもよい。
【0034】
該遺伝子の導入は、導入する遺伝子が宿主細胞中で発現できる組換えDNAを作成し、こ
れを宿主細胞に導入して形質転換することにより行なわれる。例えば宿主菌中で複製可能なプラスミドベクターを用い、このベクター中に該遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD(シヤイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを利用するのが好ましい
。かくして得られる所望の組換えDNAの宿主細胞への導入方法及びこれによる形質転換方
法としては、一般的な各種方法を採用できる。
【0035】
(b)培地
本発明の乳酸及び/又は酢酸の産生方法に用いる培地は、無機塩と単一又は複数の有機炭素源を含む初期pHが8.8〜11であることを特徴とする。
【0036】
当該無機塩としては、リン酸塩、硫酸塩、及びナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。ナトリウムを含む培地成分としては、NaCl、NaNO3、NaHCO3等が挙げられる。当該無機塩は複数であってもよく、当
該無機塩の濃度は、総量で通常0.2M〜2.0 M、好ましくは0.2〜1.0 M、より好ましくは0.2〜0.5 M程度である。
【0037】
当該有機炭素源としては、六単糖(グルコース、フラクトース)、五単糖(キシロース、
アラビノース)、二糖(スクロース)、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール)、酢酸
、酢酸ナトリウム、エタノール、グリセロール、可溶性デンプン、n-プロパノール、プロピオン酸等が挙げられ、好ましくは、グルコース、及び廃グリセロールである。
【0038】
当該有機炭素源は単一又は複数であり、適切な濃度は有機炭素源により異なるが、例え
ばグリセロールの場合、好ましくは培地中に0.1〜20 w/v%、より好ましくは2〜10 w/v%含まれ、廃グリセロールの場合、好ましくは培地中に1〜20 w/v%、より好ましくは3〜10 w/v%含まれ、グリセロールの場合、好ましくは培地中に1〜20 w/v%、より好ましくは3〜10 w/v%含まれる。
【0039】
当該培地は、無機塩と有機炭素源以外の成分を一部含んでいてもよく、そのような成分としては、例えば廃グリセロールの場合、副次的な有機炭素源としての脂肪酸及び脂肪酸エステル、触媒由来のカリウム、ナトリウムなどの金属等が挙げられる。
【0040】
バイオディーゼルフュエル(BDF)の生産に伴い、アルカリを多く含んだ廃グリセロール
が排出されるが、これらの廃グリセロールからメタノール除去等を行ったものは、有機炭素源として上記培地に添加して使用することができる。廃グリセロールは、例えばグリセリンを350〜400 mg/g程度、カリウムを41〜62 mg/g程度含んでおり、廃グリセロール1 g
を蒸留水に100 mlに溶解したpHは10.3〜10.4程度である。培地への廃グリセロールの添加量は1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。
【0041】
有機炭素源として有望なバイオディーゼルに副製する廃グリセロールの代表的な組成は以下の通りである。
【0042】
【表1】

【0043】
一般的なバイオディーゼル製造装置では、アルカリ触媒はメタノールへの溶解度が高いKOHが用いられる。
【0044】
(c)培養
本発明での培養は、好塩菌を前記培地を用いて、培地中の乳酸及び/又は酢酸が存在している間に停止することを特徴とする。
【0045】
培養条件は、使用するハロモナス属に属する好塩菌の種類により乳酸及び/又は酢酸が生産される培養条件が適宜選択されるが、ハロモナス・エスピー KM-1株を用いた培養の
例を以下に挙げる。
【0046】
ハロモナス・エスピー KM-1株は、5 ml程度の培地に植菌され、30〜37℃程度、攪拌速
度120〜180 rpmで1晩振盪前培養される。
【0047】
前培養した菌体を、三角フラスコ、発酵槽等に入った培地中に100〜1000倍程度に希釈
し本培養する。本培養は20〜45℃で可能であるが、好ましくは30〜37℃で行う。
【0048】
本発明においては、培地中の乳酸及び/又は酢酸が存在している間に培養を停止する必
要がある。これは、乳酸や酢酸は好塩菌により産生されて培地中に分泌されるが、好塩菌により再度取り込まれて栄養源として利用されるため、培養時間が長くなると培地中から無くなってしまうためである。
【0049】
乳酸及び/又は酢酸が存在している時間は、菌種、培地成分、培養条件等により変わり得るものであるので、これらの要素を考慮して適宜決定する。例えば、小規模の培養を行い乳酸及び/又は酢酸が存在している時間を分析して、この分析を基に大規模の培養を行った場合の培養停止時間を決定することができる。また、培地成分の分析を短時間で行えるキャピラリー電気泳動などの分析方法を使用して、培養を行いながら培養を停止する時間を決定することもできる。培地中の酢酸の存在については、培地のpHの低下によって確認することも可能である。
【0050】
乳酸又は酢酸のどちらかの回収を目的とする場合は、一方の量がピークとなる時間に培養を停止すればよく、乳酸及び酢酸の両方の回収を目的とする場合は、両方の物質が培地中に存在している時間に培養を停止すればよい。
【0051】
培養を停止する方法としては、例えば培地を加熱することにより殺菌する方法、遠心分離や膜濾過により培地中から好塩菌を除去する方法等が挙げられる。
【0052】
(d)乳酸、酢酸
本発明により培地中に生産される乳酸及び/又は酢酸は、培地のアルカリ性を維持するために加える炭酸カルシウムと反応し、カルシウム塩として回収できる。酸のまま回収したい場合には、蒸留等の常法に従い回収することができる。
【0053】
本発明で産生される乳酸及び/又は酢酸の培地中の含有量(濃度)は、乳酸は0.08 w/v %以上、酢酸は0.4 w/v %以上が好ましく、乳酸は0.17w/v%以上、酢酸は2.0w/v%以上がより好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。しかし、本発明はこの実験例になんら限定されるものではない。
【0055】
本実施例では、好塩菌による乳酸及び酢酸を産生する方法について詳述する。
【0056】
実施例
<使用培地組成>
国立環境研究所のSOT培地に炭素源を加えて使用した。
(培地名)SOT改(Spirulina platensis Medium改)
(培地組成)
NaHCO3 1.68 g K2HPO4 50 mg
NaNO3 250 mg K2SO4 100 mg
NaCl 100 mg MgSO4・7H2O 20 mg
CaCl2・2H2O 4 mg FeSO4・7H2O 1 mg
Na2 EDTA 8 mg A5+Co 溶液 0.1 ml
例 (酢酸ナトリウム 1.0 g 炭素源として)
蒸留水に溶解し、100 mlとする。
A5+Co 溶液
H3BO3 286 mg MnSO4・7H2O 250 mg
ZnSO4・7H2O 22.2 mg CuSO4・5H2O 7.9 mg
Na2MoO4・2H2O 2.1 mg Co(NO3)6H2O 4.398 mg
蒸留水 100 ml
滅菌の際には、上記培地組成を2種類に分け
SOT-A: (NaHCO3 1.68 g K2HPO450 mg/50 ml)2倍濃度水溶液
SOT-B: (上記以外/50 ml) 2倍濃度水溶液
(プレート培養の場合 SOT-Bに終濃度1.5 w/v%のアガーを加える。)
を別々にオートクレーブ滅菌し、50度以下に冷却した後混合する。培地調製後のpHは、液体培養、プレート培養ともに、pH8.9±0.1となる。
【0057】
実際の廃グリセロ-ルとして、京都市廃食油燃料化施設より、2008年5月1日に廃グリセ
ロールサンプルをいただき、培養に用いた。このサンプルのpHを前述する方法で測定すると、pH10.38であった。
【0058】
<乳酸、酢酸産生菌ハロモナス・エスピー KM-1株のプレ培養>
上記の培地(それぞれの炭素源を1 w/v%を含む)を5 ml加えた試験管に、プレート培養した菌体を植菌し、37℃ で1晩振盪培養した。
【0059】
<乳酸、酢酸産生菌ハロモナス・エスピー KM-1株の培養、分析>
プレ培養した菌体0.1 mlを、100 ml容量の三角フラスコに入れた液体培地30 mlに混合
して植菌し、シリコセンをした。これを、30℃で振盪培養し、12時間後より、経時的に培養液を1 ml回収して、遠心後の培養上清を回収し、キャピラリー電気泳動(CAPI-3300、大塚電子株式会社製)にて分析した。有機酸を含む陰イオンの一斉分析用に開発されたアル
カリ性泳動溶液を用い、泳動溶液のバックグラウンド吸収を利用する間接吸光法により検出を行った。以下の文献の記載に従い、培養液および有機酸標準溶液の測定結果を比較し、検出されたピークを同定・定量した(T. Soga and G.A. Ross, J. Chromatogr. A, 1999, 837, 231-239)。結果を図1〜3に示す。
【0060】
図1では、有機炭素源としてグルコース5%を用いたときは20時間、グルコース2.5%+キシロース2.5%では45時間、キシロース5%では50時間で酢酸の最大生産量に達していた。
【0061】
図2では、有機炭素源が廃グリセロール5%の場合は38時間で最大酢酸生産量2.0 w/v%に達し、グリセロール5%の場合には徐々に生産が増加し50時間で酢酸生産量が0.3 w/v%となった。
【0062】
図3では、有機炭素源がグルコース5%の場合50時間で0.17 w/v%、グルコース2.5%+キ
シロース2.5%の場合38時間で0.12 w/v%、廃グリセロール5%の場合45時間で0.08 w/v%の乳酸の最大生産量となった。
【0063】
上記結果から単一の有機炭素源を含む初期pHが8.8以上の培地で、ハロモナス・エスピ
ー KM-1株による乳酸と酢酸の産生が確認された。そのため、低コストでの培養が可能で
あって、乳酸及び/又は酢酸の産生を他のバクテリアのコンタミが起こりにくい環境で行うことができる。乳酸及び酢酸の産生が一連の菌体増殖の中で行われるため、一段階の培養での乳酸及び酢酸の産生が可能であることも分かる。
【0064】
また、廃グリセロールを有機炭素源として利用して乳酸及び酢酸を産生できることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の好塩菌による乳酸及び/又は酢酸の産生方法は、工業的な乳酸、酢酸の産生に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロモナス属に属する好塩菌を用いた乳酸及び/又は酢酸の産生方法であって、好塩菌は無機塩と単一の有機炭素源からなる初期pH8.8〜11の培地で増殖並びに乳酸及び/又は酢
酸を培地中に産生することが可能であり、好塩菌を無機塩と単一又は複数の有機炭素源を含む初期pHが8.8〜11の培地で培養し、培地中の乳酸及び/又は酢酸が存在している間に
培養を停止する、乳酸及び/又は酢酸の産生方法。
【請求項2】
pHの低下によって培地中の酢酸の存在の確認を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養を行う培地中の有機炭素源がグルコースである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養を行う培地中の有機炭素源が廃グリセロールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記好塩菌がハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株(FERM BP-10995)である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−273582(P2010−273582A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127818(P2009−127818)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BDF
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】