説明

嫌気性生物処理方法及び嫌気性生物処理装置

【課題】炭素数6以下の有機物を含む排水の嫌気性生物処理において、高負荷で安定して処理を行うことができる嫌気性生物処理方法及び嫌気性生物処理装置を提供する。
【解決手段】炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽16と、反応槽16で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離装置26と、を備え、反応槽16における生物汚泥濃度を、15000〜35000mg/Lの範囲に調整する嫌気性生物処理装置1を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数6以下の有機物等を含有する排水を嫌気性下で生物処理する生物処理方法及び生物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子産業工場やパルプ製造工場、化学工場から排出される炭素数6以下、具体的にはメタノール、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(以下、TMAHと呼ぶ場合がある)、エタノール、アセトアルデヒド、酢酸等の有機物を主成分とする排水を高負荷で嫌気処理する場合、グラニュール汚泥を利用したUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)やEGSB(Expanded Granular Sludge Blanket)等が適用されている。
【0003】
通常の嫌気処理では、高分子の糖質、タンパク質、脂質を低分子に分解する嫌気性加水分解菌や有機酸を生成する酸生成細菌が生成するバイオポリマー等の架橋効果がグラニュールの生成、維持に重要な働きをしていると考えられている。さらに、糸状性のメタン生成細菌であるMethanosaeta属がグラニュール化の骨格となるとも言われており、グラニュール形成に重要な存在である。
【0004】
ところが、炭素数の小さい有機物を分解する場合、嫌気性加水分解菌や酸生成細菌が少なく、メタン生成細菌が主要な生物相となる。さらに、メタノールやTMAH等では糸状性のメタン生成細菌であるMethanosaeta属より、糸状性でないメタン生成細菌であるMethanosarcina属やMethanobacteriumu属が優占し易く、グラニュール汚泥が微細化し崩れる傾向がある。グラニュール汚泥が微細化し崩れると反応槽内の汚泥が流出し処理が不安定となる。
【0005】
従来、これらの対策の具体例としては、例えば、高分子凝集剤を添加する方法、亜硝酸や硝酸を添加する方法、酢酸を添加する方法、デンプンやグルコースを添加する方法、糖蜜やアルコールを添加する方法等が提案されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0006】
また、電子産業工場から排出されるジメチルスルホキシド、モノエタノールアミン、TMAHを含む排水を嫌気性下でメタン発酵させて生物処理した後、ろ過膜により固液分離処理する方法が提案されている(例えば、特許文献7,8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4193310号公報
【特許文献2】特開2008−279383号公報
【特許文献3】特許第2563004号公報
【特許文献4】特開2008−279385号公報
【特許文献5】特開2010−274207号公報
【特許文献6】特開2009−255067号公報
【特許文献7】特開2010−17614号公報
【特許文献8】特開2010−17615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜6に記載の方法では、高分子凝集剤や硝酸、有機物などを外部から添加する必要があるため、それら薬剤の適切な管理が必要である。また、特許文献7,8に記載の方法では、薬剤の添加は行われないものの、低濃度排水系において低負荷処理を行うものである。
【0009】
そこで、本発明の目的は、炭素数6以下の有機物を含む排水の嫌気性生物処理において、高負荷で安定して処理を行うことができる嫌気性生物処理方法及び嫌気性生物処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の嫌気性生物処理方法は、炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程と、を有し、前記生物処理工程における生物汚泥濃度を、15000〜35000mg/Lの範囲に調整する。
【0011】
また、前記嫌気性生物処理方法において、前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0012】
また、前記嫌気性生物処理方法において、前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整することが好ましい。
【0013】
また、前記嫌気性生物処理方法において、前記生物処理工程では、CODcr負荷10kg/m/d以上又はTMAH負荷5kg/m/dで生物処理が行われる場合に有効である。
【0014】
また、本発明の嫌気性生物処理装置は、炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部と、を有し、前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000〜35000mg/Lの範囲に調整する。
【0015】
また、前記嫌気性生物処理装置において、前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0016】
また、前記嫌気性生物処理装置において、前記膜分離部は、前記反応槽外に設けられていることが好ましい。
【0017】
また、前記嫌気性生物処理装置において、前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整する手段を有することが好ましい。
【0018】
また、前記嫌気性生物処理装置において、前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m/d以上又はTMAH負荷5kg/m/dで生物処理が行われる場合に有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、炭素数6以下の有機物を含む排水の嫌気性生物処理において、高負荷で安定して処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。
【図5】実施例1で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。
【図6】比較例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。
【図7】実施例2により得られる処理水中のメタノール濃度及びCODcr負荷である。
【図8】実施例2で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。
【図9】実施例3の嫌気性汚泥の汚泥濃度と粘度との関係をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、嫌気性生物処理装置1は、原水第1ライン10、原水槽12、原水第2ライン14、反応槽16、処理液排出ライン19、処理水排出ライン20、ガス排出ライン22、濃縮水返送ライン24、膜分離装置26、栄養剤供給装置、pH調整剤供給装置、を備える。本実施形態の栄養剤供給装置は、栄養剤貯槽30、栄養剤供給ライン32から構成されている。本実施形態のpH調整剤供給装置は、pH調整剤貯槽34、pH調整剤供給ライン36から構成されている。但し、各供給装置の構成は、溶液を排水に供給することができるものであれば上記構成に制限されるものではなく、例えば、溶液の流量を自在に調節するために、各供給ラインにポンプを設置することが好ましい。原水槽12内には、撹拌装置38が設けられており、撹拌装置38等で濃度の均一化を行うことが好ましい。
【0023】
原水槽12の原水導入口(不図示)には、原水第1ライン10が接続されている。栄養剤貯槽30の栄養剤排出口(不図示)と原水槽12の栄養剤供給口(不図示)間は、栄養剤供給ライン32により接続され、pH原水槽12のpH調整剤排出口(不図示)と原水槽12のpH調整剤供給口(不図示)間は、pH調整剤供給ライン36により接続されている。また、原水槽12の原水排出口(不図示)と反応槽16間は、原水第2ライン14により接続されている。なお、反応槽16側の原水第2ライン14の接続位置は反応槽16の下部であることが好ましい。
【0024】
反応槽16内には、気固液分離装置(以下、GSSと呼ぶ場合がある)が設けられている。気固液分離装置は、互いに逆方向に傾斜する仕切り板40a,40bを備え、その上部内側に固液分離部42が形成される。仕切り板40a,40bの下端部は隔離しており、連通路44が形成され、また、仕切り板40a,40bの一方の下端部は他方の下端部の下側を覆い、浮上するガスが連通路44から固液分離部42に入るのを阻止する構造となっている。固液分離部42には越流式の処理液取出部46が設けられており、処理水取出部46の処理水排出口(不図示)には、処理水排出ライン20が接続されている。また、反応槽16の頂部には、ガス排出ライン22が接続されている。
【0025】
反応槽16としては、有機物を含む排水を嫌気性下で生物処理することができるものであればよいため、図1の反応槽16のように槽内にGSSを設置した混合型の反応槽に限定されるものではなく、槽内にGSSを設置しない混合型の反応槽等であってもよい。
【0026】
反応槽16内には、嫌気性下での生物処理に先立ち、該生物処理に利用される種汚泥を投入することが望ましい。種汚泥としては、特に制限されるものではないが、例えば、食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場、畜産排水処理等で使用される嫌気性汚泥、グラニュール、又は下水処理場の消化汚泥等が挙げられる。
【0027】
反応槽16の処理液排出口(不図示)と膜分離装置26の処理液供給口(不図示)間は処理液排出ライン19が接続されている。また、膜分離装置の処理水排出口(不図示)には、処理水排出ライン20が接続されている。また、膜分離装置26の濃縮水排出口(不図示)と原水槽12の濃縮水供給口(不図示)間は、濃縮水返送ライン24により接続されている。
【0028】
膜分離装置26内にはろ過膜が設けられている。このろ過膜は、主に反応槽16により処理された処理液中の汚泥等を分離することができるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、限外ろ過膜(UF膜)や精密ろ過膜(MF膜)等が挙げられる。膜分離装置26のモジュール形成は特に制限されるものではなく、例えば、中空糸膜を束ねたモジュール形式、平膜をユニット化した形式等が採用される。また、本実施形態では、膜分離装置26は、反応槽16の槽外に設けられる槽外型であるが、これに制限されるものではなく、後述するように槽内に設けられる槽内型であってもよい。但し、反応槽16とは個別に膜分離装置26のろ過膜を洗浄又は交換することができる等の運転管理の面で、槽外型の膜分離装置が好ましい。槽外型の膜分離装置の場合、後述する生物汚泥によるろ過膜の目詰まりを防止する等の点で、例えば、クロスフロー型で膜面線流速を0.1〜3m/sの範囲とすることが好ましい。
【0029】
本実施形態の嫌気性生物処理装置1の動作について説明する。
【0030】
まず、炭素数6以下の有機物を含有する排水が原水第1ライン10から原水槽12に供給される。そして、該排水が原水第2ライン14から反応槽16内へ導入される。反応槽16では、炭素数6以下の有機物が、嫌気性下で生物汚泥によりメタン発酵処理され、メタン、炭酸イオン等に分解される。前述した通り、通常、炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下で生物処理すると、反応槽内の生物汚泥の粒子が微細化され(特にグラニュール汚泥において顕著)、反応槽16から処理水と共に生物汚泥が流出し、その後段の膜分離装置に用いられるろ過膜の目詰まりが生じやすくなる。したがって、従来では、嫌気性下での生物処理と、ろ過膜を用いた固液分離処理(膜処理)を併用した嫌気MBR(Membrane Bioreactor)により、炭素数6以下の有機物を含有する排水を継続して安定に処理すること、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)やEGSB(Expanded Granular Sludge Blanket)等のグラニュールを用いた処理と同等の高負荷処理を実現することは困難であった。しかし、発明者らは鋭意検討の結果、炭素数6以下の有機物を含有する排水を適切な運転条件で嫌気性生物処理することにより、高濃度の汚泥を保持しつつ、微生物汚泥の過度な粘度上昇が抑制されて、後段のろ過膜の細孔に生物汚泥が詰まり難くなることを見出した。これにより、高負荷でも安定した処理を実現できる。
【0031】
本実施形態では、炭素数6以下の単一の有機物が、全体の有機物の90重量%以上含まれている排水を嫌気性下で生物処理する場合に特に有効である。
【0032】
したがって、電子産業工場やパルプ製造工場、化学工場等から排出される排水中に、例えば、TMAH、メタノール、及びその他の炭素数7以上の有機物が含まれている場合には、排水を反応槽16に投入する前(実質的には原水第1ライン10に投入する前)に、TMAHが全体の有機物の90重量%以上含まれる排水、メタノールが全体の有機物の90重量%以上含まれる排水に分別処理しておく。そして、例えば、TMAHが全体の有機物の90重量%以上含まれる排水を反応槽16に投入し、生物処理を行う。上記分別処理は炭素数6以下の単一の有機物の含有率が上記範囲を満たすような処理であれば、特に制限されるものではない。
【0033】
本実施形態の排水中に含まれる炭素数6以下の有機物は、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルジエチルアンモニウムヒドロキシド、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、モノエタノールアミン、酢酸、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)等が挙げられる。本実施形態では、特に、半導体製造工場等から排出されるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、メタノールの処理に好適である。
【0034】
また、反応槽16に供給される排水中に、炭素数6以下の単一の有機物、例えばTMAHが、全体の有機物の90重量%以上含まれていれば、その他の炭素数6以下の有機物や、炭素数7以上の有機物を含んでいてもよい。炭素数7以上の有機物は、例えば、例えば、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(即ち、コリン)等が挙げられる。
【0035】
上記でも説明したように、反応槽16では、排水中の有機物が嫌気性下で生物処理されることによって、メタン、炭酸イオン等に分解される。そして、生物処理された液(生物汚泥等も含む)が連通路44から固液分離部42に入り、固液分離された処理液は越流して処理液取出部46へ流れ、処理液排出ライン19から取り出される。反応槽16で発生するメタン等のガスは、仕切り板40a,40bに遮られて固液分離部42には流入せず、反応槽16を上昇し、ガス排出ライン22から取り出される。
【0036】
処理液排出ライン19を流れる処理液は、膜分離装置26に流入し、汚泥と処理水とに分離される。そして、処理水は膜分離装置26から排出され、処理水排出ライン20を通り、系外へ排出される。また、膜分離装置26内の濃縮水(汚泥も含む)は、濃縮水返送ライン24から原水槽12に供給される。これにより、原水槽12から反応槽16へ濃縮水が供給されるため、反応槽16内の汚泥濃度の減少を容易に防止することが可能となる。
【0037】
本実施形態では、反応槽16内に消化汚泥やグラニュール等を投入すること、膜分離装置26内の濃縮水(生物汚泥も含む)を反応槽16に供給する等して、反応槽16内の汚泥濃度を15000〜35000mg/Lの範囲に調整する。また、生物処理により汚泥は増加するため、汚泥濃度が35000mg/Lを超過した場合は、反応槽16及び膜分離装置の濃縮水を反応槽16に供給するラインの少なくとも一方から、汚泥の一部を引き抜いて、反応槽16内の汚泥濃度を15000〜35000mg/Lの範囲に調整する。反応槽16内の汚泥濃度が15000mg/L未満であると、高負荷で生物処理を行うことができない場合がある。ここで、「高負荷処理」とは、例えば、10kg/m/d以上のCODcr負荷又は5kg/m/d以上のTMAH負荷で嫌気性生物処理を行うことをいう。また、反応槽16内の汚泥濃度が35000mg/Lを超えると、生物汚泥の粘度が上昇し、後段のろ過膜の目詰まりを引き起こして、結果的に高負荷での処理ができない場合がある。
【0038】
以下に、本実施形態の嫌気性生物処理のその他の条件の一例について説明する。
【0039】
本実施形態では、反応槽16に流入する際(生物処理する際)の排水中の炭素数6以下の単一の有機物濃度を10000mg/L以下とすることが好ましく、2000mg/L以上から5000mg/L以下の範囲とすることが好ましい。反応槽16に流入する際の排水中の炭素数6以下の単一の有機物濃度が、10000mg/Lを超えると、生物処理の際、有機物の分解反応速度が遅くなる場合がある。本実施形態において、原水槽12に供給された排水中の炭素数6以下の単一の有機物濃度が、10000mg/Lを超える場合等には、生物処理後の処理水の一部を濃縮水返送ライン24から原水槽12に供給して、10000mg/L以下の濃度に希釈することが望ましい。
【0040】
本実施形態では、例えば、処理水排出ライン20等に生物処理後の処理水中の有機物濃度を検出するセンサを設置してもよい。そして、検出した有機物濃度に基づいて、反応槽16に流入する際の炭素数6以下の単一の有機物濃度を推定し、その推定値に基づいて、炭素数6以下の単一の有機物濃度が上記範囲となるように、処理水の供給量を決定することが好ましい。また、例えば、原水槽12又は原水第1ライン10等に有機物濃度を検出するセンサを設置してもよい。また、上記生物処理した処理水に代えて、例えば、工業用水、放流水、又は工場内で設備がある場合にはアンモニア廃液、IPA廃液の蒸留等から得られる蒸留処理水(凝縮水)等の希釈水を用いて、排水の希釈を行ってもよい。蒸留処理水は、水温が40℃と高いことから、反応槽16を加温し、有機物の分解反応を促進させることができる点で好ましい。
【0041】
本実施形態では、有機物含有排水を生物処理するに当たり、排水のpHは6.5〜9.0の範囲が好ましく、7.0〜8.0の範囲がより好ましい。排水のpH調整は、例えば、pH調整剤供給ライン36から原水槽12にpH調整剤を供給することにより行われる。有機物含有排水のpHが上記範囲外であると、生物処理による有機物の分解反応速度が低下する場合がある。また、従来、TMAH等のアルキルアンモニウム塩を嫌気性生物処理する場合においては、アンモニア阻害を抑制するために、pH6.5〜7の弱酸性が好ましいとされていたが、TMAH等のアルキルアンモニウム塩の処理に関しては、pH7〜8の弱アルカリ側で、最も処理性能が良くなる。
【0042】
本実施形態で用いられるpH調整剤としては、塩酸等の酸剤、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤等特に制限されるものではない。また、pH調整剤は、例えば、緩衝作用を持つ重炭酸ナトリウム、燐酸緩衝液等であってもよい。
【0043】
本実施形態では、嫌気性生物汚泥の分解活性を良好に維持するために、例えば、栄養剤供給ライン32から原水槽12に栄養剤を供給することが好ましい。栄養剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素源、窒素源、その他無機塩類等が挙げられる。
【0044】
本実施形態では、有機物含有排水を生物処理するに当たり、反応槽16内の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましく、28〜35℃の範囲となるように温度調整することがより好ましい。嫌気性生物処理による有機物の分解は、20℃未満でも可能であるが、20℃未満であると、分解反応速度が低下してしまうため、水温を上記範囲に調整することが好ましい。上記温度調整方法は、特に制限されるものではないが、例えば、蒸気を原水槽12に供給することで、反応槽16内の水温を調整してもよいし、反応槽16にヒータを設置して、ヒータの熱により反応槽16内の水温を調整しても良い。また、例えば、加温した希釈水を供給することで、反応槽16内の水温を調整してもよい。また、例えば、炭素数6以下の有機物の分解によりメタンガスが発生するが、通常の嫌気処理同様に脱硫処理を実施後、メタンガスボイラーで熱エネルギとして回収し、該熱エネルギを反応槽16に供給し、水温を調整してもよい。
【0045】
図2は、本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。図2に示す嫌気性生物処理装置2において、図1に示す嫌気性生物処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図2に示す嫌気性生物処理装置2では、反応槽16内に膜分離装置27が設けられており、膜分離装置27の処理水排出口(不図示)に処理水排出ライン20が接続されている。なお、本実施形態では、反応槽16内に固液分離装置は設置されていない。
【0046】
本実施形態でも、前述したように、炭素数6以下の有機物が含まれている排水が反応槽16内に供給され、汚泥濃度を15000〜30000mg/Lに調整された嫌気性下で生物処理される。その結果、反応槽16内の生物汚泥の微細化は緩和され、また生物汚泥の粘度の増加も抑制される。その結果、反応槽16内に膜分離装置27を設置した場合でも、膜分離装置27のろ過膜の目詰まりを抑制することができるため、高負荷での処理が可能となる。
【0047】
反応槽16内に設置する分離膜装置27としては、例えば、多数の中空糸膜が束ねられ、筒状ケース内に平行に延びるように収容された中空糸膜モジュールとすることが好ましい。なお、束ねられた中空糸膜は、その両端部が筒状ケース内で接着用樹脂を用いて互いに接着固定される。
【0048】
図3は、本実施形態に係る嫌気性生物処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。図3に示す嫌気性生物処理装置3において、図1に示す嫌気性生物処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態の嫌気性生物処理装置3には、複数の反応槽が設けられている。具体的には、第1反応槽16と、第2反応槽17が設けられている。そして、第2反応槽17内に、膜分離装置27が設置されている。また、図3に示すように、第1反応槽16の処理水排出口(不図示)と第2反応槽17の処理水供給口(不図示)との間には、処理液排出ライン19が接続されている。また、膜分離装置27の濃縮水排出口(不図示)と第1反応槽16の濃縮水供給口(不図示)との間には濃縮水返送ライン24が接続されている。さらに、膜分離装置27の処理水排出口(不図示)には処理水排出ライン20が接続されている。
【0049】
図3に示す嫌気性生物処理装置では、炭素数6以下の単一の有機物が含まれている排水が第1の反応槽16内に供給され、汚泥濃度を15000〜3000mg/Lに調整された嫌気性下で生物処理される。また、第1反応槽16内の排水、第1反応槽16内で生物処理された処理液は処理液排出ライン19から第2反応槽17内へ供給される。そして、第2反応槽17内でも有機物を含む排水が嫌気性下で生物処理されると共に、第2反応槽17内の膜分離装置27により、処理液中の生物汚泥が除去される。膜分離処理された濃縮水の一部は濃縮水返送ライン24から第1反応槽16内に返送されることにより、例えば、第1反応槽16内の汚泥濃度が調整される。膜分離装置27により固液分離された処理水は処理水排出ライン20から系外へ排出される。
【0050】
本実施形態でも、前述したように、炭素数6以下の単一の有機物が含まれている排水が第1反応槽16及び第2反応槽17内に供給され、嫌気性下で生物処理される。その結果、第1反応槽16及び第2反応槽17内の生物汚泥の微細化は緩和され、また生物汚泥の粘度の増加も抑制される。その結果、第2反応槽17内に膜分離装置27を設置した場合でも、膜分離装置27のろ過膜の目詰まりを抑制することができるため、高負荷での処理が可能となる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
実施例1の試験は図3に示す嫌気性生物処理装置を用いて行った。実施例1において生物処理される排水は、半導体工場から排出されたTMAH含有の実排水であり、全体の有機物の90重量%以上がTMAHとなるように分別処理したものである。そして、この実排水中のTMAH濃度を8000mgTMAH/Lになるように調整した。次に、内容積1.5Lの第1反応槽に種汚泥として嫌気性汚泥(汚泥濃度23000mg/L)を添加した後、上記実排水を10kgTMAH/m/d(TOC負荷では5.4kgTOC/m/d)のTMAH負荷で通水した。また、0.4μmのPVDF製の中空糸膜を用いた固液分離装置を槽内に設置した第2反応槽(内容積1.2L)に、第1反応槽内の排水を供給し、0.3m/dで吸引ろ過した。固液分離処理は、7分吸引ろ過、1分停止のサイクルで行った。
【0053】
第1反応槽に排水を通水する際の温度は30℃、pHは7〜8となるように調整した。また、栄養剤(85%リン酸)を0.16mL、微量元素(オルガノ(株)製のオルガミン10)を5mL/L、Ni、Coを各0.4mg/L添加した。
【0054】
(比較例1)
比較例1は、嫌気性グラニュールを用いたUASB処理装置に、実施例1と同じ排水を通水して、排水処理を行った。なお、UASBから排出される処理水をUASB処理装置に流入する際の排水に供給して、排水中のTMAH濃度を8000mgTMAH/Lになるように調整した。処理装置立ち上げ時は、UASB処理装置に流入する際の排水に工水を供給してTMAH濃度を調整した。処理装置立ち上げ時のTMAH負荷を1kgTMAH/m/dとし、処理状況を確認しながら増加させた。その他の処理条件は、実施例1と同様に行った。
【0055】
図4は、実施例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。図5は、実施例1で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。また、図6は、比較例1により得られる処理水中のTMAH濃度及びTMAH負荷である。図4に示すように、実施例1では、TMAH負荷が10kgTMAH/m/d(TOC負荷では5.4kgTOC/m/d)と高負荷で処理を行っても、実施例1により得られる処理水、すなわち、膜分離装置から排出された処理水中のTMAH濃度は30日経過しても上昇することなく、高負荷でも安定してTMAHを除去することが可能であるとわかった。また、図5に示すように、ろ過膜の吸引圧力も変化することがなかった。すなわち、ろ過膜の膜目詰まりもほとんどなく、安定したフラックスでの膜処理が可能であることを確認した。一方、比較例1では、通水開始から10日程度までは、3kgTMAH/m/dのTMAH負荷で、比較例1により得られる処理水中のTMAH濃度もほとんど上昇することはなかった。しかし、通水開始から14日以降では、UASB処理装置内の嫌気性グラニュールが微細化して、UASB処理装置から流出し、UASB処理装置から排出された処理水中のTMAH濃度は上昇した。通水開始から20日目では、TMAH除去率は50%程度に低下し、安定した処理を行うことができなくなった。
【0056】
(実施例2)
実施例2において生物処理される排水は、半導体工場から排出されたメタノール含有の実排水であり、全体の有機物の90重量%以上がメタノールとなるように分別処理したものである。そして、この実排水中のTMAH濃度を10000mg/Lになるように調整した。次に、内容積1.5Lの第1反応槽に種汚泥として嫌気性汚泥(汚泥濃度23000mg/L)を添加した後、上記実排水を12kgCODcr/m/d(TOC負荷では3.2kgTOC/m/d)のCODcr負荷で通水した。また、0.4μmのPVDF製の中空糸膜を用いたろ過装置を槽内に設置した第2反応槽(内容積1.2L)に、第1反応槽内の排水を供給し、0.3m/dで吸引ろ過した。
【0057】
第1反応槽に排水を通水する際の温度は30℃、pHは7〜8となるように調整した。また、栄養剤(オルガノ(株)製、オルガミンNP−51)を0.3g/L、微量元素(オルガノ(株)製のオルガミン10)を3mL/L、Ni、Coを各0.3mg/L添加した。
【0058】
図7は、実施例2により得られる処理水中のメタノール濃度及びCODcr負荷である。図8は、実施例2で用いたろ過膜の吸引圧力の経日変化である。図7に示すように、実施例2では、CODcr負荷が10kgCODcr/m/d(TOC負荷では3.2kgTOC/m/d)と高負荷で処理を行っても、実施例2により得られる処理水、すなわち、膜分離装置から排出された処理水中のメタノール濃度は25日経過しても上昇することなく、安定してメタノールを除去することが可能であるとわかった。また、図8に示すように、ろ過膜の吸引圧力もほとんど変化することがなかった。すなわち、ろ過膜の膜目詰まりもほとんどなく、高負荷でも安定したフラックスでの膜処理が可能であることを確認した。
【0059】
(実施例3)
実施例3では、内容積1.5Lの第1反応槽に投入する嫌気性汚泥の汚泥濃度を0〜40000mg/Lまで変化させ、各汚泥濃度における粘度を測定した。嫌気性汚泥の汚泥濃度は、工水による希釈や遠心分離による濃縮で調整し、汚泥粘度は粘度計(リオン(株)製、ビスコテスタVT−03E)を用いて測定した。
【0060】
図9は、実施例3の嫌気性汚泥の汚泥濃度と粘度との関係をまとめた図である。図9に示すように、汚泥濃度(MLSS)が35000mg/Lを超えると、汚泥粘度が急激に上昇することを確認した。これにより反応槽内の汚泥濃度が35000mg/L以下となるように運転管理することで、後段の膜分離装置の膜の目詰まりをより抑制するため、高負荷での処理が可能となると言える。
【符号の説明】
【0061】
1〜3 嫌気性生物処理装置、10 原水第1ライン、12 原水槽、14 原水第2ライン、16 第1反応槽、17 第2反応槽、19 処理液排出ライン、20 処理水排出ライン、22 ガス排出ライン、24 濃縮水返送ライン、26,27 膜分離装置、30 栄養剤貯槽、32 栄養剤供給ライン、34 pH調整剤貯槽、36 pH調整剤供給ライン、38 撹拌装置、40a,40b 仕切り板、42 固液分離部、44 連通路、46 処理液取出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する生物処理工程と、前記生物処理工程で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離工程と、を有し、
前記生物処理工程における生物汚泥濃度を、15000〜35000mg/Lの範囲に調整することを特徴とする嫌気性生物処理方法。
【請求項2】
前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項3】
前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整することを特徴とする請求項1または2に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項4】
前記生物処理工程では、CODcr負荷10kg/m/d以上又はTMAH負荷5kg/m/dで生物処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理方法。
【請求項5】
炭素数6以下の有機物を含有する排水を嫌気性下でメタン発酵する反応槽と、前記反応槽で得られる処理液をろ過膜により汚泥と処理水とに分離する膜分離部と、を有し、
前記反応槽における生物汚泥濃度を、15000〜35000mg/Lの範囲に調整することを特徴とする嫌気性生物処理装置。
【請求項6】
前記有機物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびメタノールのうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項5に記載の嫌気性生物処理装置。
【請求項7】
前記膜分離部は、前記反応槽外に設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載の嫌気性生物処理装置。
【請求項8】
前記排水を、前記有機物が単一で、前記排水中の全有機物の90重量%以上含有するように調整する手段を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理装置。
【請求項9】
前記反応槽では、CODcr負荷10kg/m/d以上又はTMAH負荷5kg/m/dで生物処理が行われることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の嫌気性生物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−56321(P2013−56321A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197441(P2011−197441)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】