説明

孔版印刷用W/O型エマルションインキ

【課題】安全性が高く定着率に優れた植物由来原料を用いているにも関わらず臭気が少なく、高温保存安定性や機上放置性に優れ、インキと接するゴム/高分子部材への影響も少ない孔版印刷用W/O型エマルションインキの提供。
【解決手段】(1)水相に植物由来原料及び、水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤を含有し、油相に油溶性の非イオン性界面活性剤を含有する孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
(2)前記水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤が、シクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、デカグリセリルモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルから選択される少なくとも一種である(1)記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用W/O型エマルションインキに関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷方式は、孔版印刷用原紙を用い、この原紙を製版して形成された穿孔部を通して、孔版印刷版の一方の側から他方の側へインキを移動させることにより紙等の被印刷物表面に印刷を行う方式である。
この方式では、インキの安全性を高めるため、使用するW/O型エマルションインキに植物由来原料を添加することが行われている。例えば大豆油を添加し、アメリカ大豆協会より認可を受けてソイシールを貼り付けたインキ製品が、その高い安全性のアピールにより、広く市場に出回っている。
また、上記植物由来原料をW/O型エマルションインキに添加すると定着性を改善できることが分かっている。これは、インキと紙の親和性が向上し、インキの浸透性が良くなることに起因すると考えられる。
しかし、従来のW/O型エマルションインキでは、連続相である油相に植物由来原料を添加しているため、インキとして好ましくない植物由来原料の特性の影響も強く受けてしまう。
【0003】
影響の第一は、植物由来原料は有臭の低沸点成分を含有しているため、これをW/O型エマルションインキの油相に添加するとインキに臭気が伴うようになることである。
孔版印刷方式は、ドラム内部のインキローラー上でインキ塊が空気に開放された状態で練られるため、インキ中の低沸点成分が蒸発しやすく、油相に有臭の低沸点成分を含有していると印刷時の臭気が顕著となる。
影響の第二は、植物由来原料を添加すると、高温保存安定性が低くなる傾向があることである。これは植物由来原料が比較的、極性が高いことに起因するものと考えられる。
【0004】
影響の第三は、植物由来原料はヨウ素価で表わされるように構造に不飽和結合を含むものが多く、経時的に不飽和結合部が酸化するため、酸化の進行に伴って植物由来原料の粘度が高くなることである。即ち、油相に植物由来原料が添加されていると経時的にインキの粘度が高くなる。その結果、ポンプ等によるインキの移送量が低下して印刷中のインキ消費に対するインキ供給が追い付かなくなったり、孔版印刷機を使用しない放置期間が長くなった場合に、ドラム周りのスクリーンや版銅上のインキが固化し放置後の印刷の際に画像立ち上がりが遅くなったり、インキが固化した部分の画像部分がかすれたり、一部の画像が出なくなったりして、異常画像を引き起こす。
これはW/O型エマルションインキの外相である油相は空気と接触・暴露される機会が多く、油相に植物由来原料が存在すると酸化の進行が速くなり粘度上昇も速まることによると考えられる。
影響の第四は、植物由来原料はゴム/高分子を膨潤させる惧れがあることである。そのため、外相である油相に植物由来原料が存在すると、孔版印刷システムのインキ経路上のゴム/高分子部材に影響し、該部材の機能を損なうことがある。
【0005】
ところで、孔版印刷用W/O型エマルションインキにおける植物油の臭気や、主に植物油の不飽和結合の酸化により引き起こされるインキの不具合の抑制を課題とする発明としては、酸化防止剤・酸化防止助剤の添加や添加量を規定した特許文献1〜3、エステル化植物油、エポキシ化植物油を使用する特許文献4〜5、水相中の電解質を規定した特許文献6、パックのガスバリア性、遮光性に関する特許文献7などが挙げられるが、いずれもその効果は十分とはいえない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性が高く定着率に優れた植物由来原料を用いているにも関わらず臭気が少なく、高温保存安定性や機上放置性に優れ、インキと接するゴム/高分子部材への影響も少ない孔版印刷用W/O型エマルションインキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 水相に植物由来原料及び、水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤を含有し、油相に油溶性の非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
2) 前記水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤が、シクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、デカグリセリルモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルから選択される少なくとも一種であることを特徴とする1)記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
3) 前記植物由来原料が、脂肪酸メチルエステルであることを特徴とする1)又は2)記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
4) 前記油溶性の非イオン性界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安全性が高く定着率に優れた植物由来原料を用いているにも関わらず臭気が少なく、高温保存安定性や機上放置性に優れ、インキと接するゴム/高分子部材への影響も少ない孔版印刷用W/O型エマルションインキを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】部品の膨潤試験に用いる道具を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
W/O型(油中水滴型)エマルションインキは、油相を外相とし水相を内相とするものであり、油中に水滴が分散している形態のインキである。そして従来の孔版印刷用W/O型エマルションインキは、前述したように油相に植物由来原料を含有させている。これに対し本発明は、水相に植物由来原料及び、その可溶化剤又は乳化剤として機能する水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤を含有させ、油相に油溶性の非イオン性界面活性剤を含有させた点に特徴を有する。
上記構成により、植物由来原料を水相に安定に分散させると共に、植物由来原料が外気と触れる機会を極端に少なくし、植物由来原料に含まれる有臭成分の蒸発と不飽和脂肪酸の酸化を大幅に抑制できる。その結果、前述した植物由来原料を用いることに伴う種々の悪影響を防止することが可能となる。
【0011】
水相に含有させる植物由来原料としては、植物油、エステル化植物油、再生エステル化植物油などが挙げられる。
植物油としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ヒマワリ油、サフラワー油、ごま油、ひまし油、脱水ひまし油、つばき油、オリーブ油、やし油、米油、綿実油、パーム油、あまに油、パーム核油、桐油、カメリアオイル、グレープシード油、スイートアルモンド油、ピスタチオナッツ油、ホホバ油、マカデミアンナッツ油、メドウホーム油などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
エステル化植物油は、前記植物油をエステル化したものであるが、脂肪酸メチルエステルや脂肪酸エチルエステルを用いると機上放置性が向上するので好ましい。
また、再生エステル化植物油は、廃食油として回収し再生した前記植物油をエステル化したものである。
植物由来原料の添加量はインキ全体の1〜8重量%が好ましい。
【0012】
水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤は、植物由来原料の可溶化剤又は乳化剤として用いるものである。その例としては、シクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、デカグリセリルモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい
水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤の添加量は、インキ全体の0.1〜3.0重量%が好ましく、0.2〜1.0重量%がより好ましい。0.1重量%未満では可溶化剤又は乳化剤として機能せず、3.0重量%より多いとW/O型エマルションが不安定となることがある。
【0013】
油相には、少なくとも着色剤、油、及び乳化剤を含有させる。
着色剤としては、カーボンブラック、アゾ系顔料、ニトロソ系顔料、フタロシアニン系顔料、ニトロ系顔料、建染染料系顔料、媒染染料系顔料、塩基性染料系顔料、酸性染料系顔料、天然染料系顔料等の顔料;ジアゾ染料、アントラキノン系染料等の油溶性染料が挙げられる。これらの染料や顔料は、1種を単独でも用いても2種以上を併用しても良い。
【0014】
油としては、公知の鉱物油、例えば石油系溶剤、スピンドル油、流動パラフィン、軽油、灯油、マシン油、ギヤー油、潤滑油、モーター油等を使用する。
また、ポリイソブチレン類、水素化ポリデセン類、トリメチロールプロパンエステル類、ネオペンチルエステル類、ペンタエリスリトールエステル類、シロキサン類、シリコーン類、フロロカーボン類、アルキル置換ジフェニルエーテル類、フタル酸エステル類、リン酸エステル類等の合成油も使用可能である。なお、石油系溶剤としてはエクソン社製のアイソパーや日本石油社製の日石ソルベント等の混合溶剤を使っても良い。これらの油は1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0015】
油相の乳化剤には、油溶性の非イオン性界面活性剤を用いる。その例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
中でも、ソルビタン脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルを用いると、高温保存安定性が向上するので好ましい。その理由は不明であるが、油相/水相の極性のバランスが良くなることも一因であると推測される。
乳化剤の添加量は、インキ全体の1.0〜10重量%が好ましく、2.0〜6.0重量%より好ましくい。添加量が1.0重量%未満では乳化不良となることがあり、10重量%より多いとW/O型エマルションが不安定となることがある。
【0016】
更に、油相には従来用いられている樹脂を添加してもよい。その具体例としては、重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂;ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂;フェノール樹脂;石油樹脂;アルキッド樹脂;ゴム誘導体;重合ひまし油等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用しても良い。
樹脂の添加量はインキ全体の10重量%以下が好ましく、0.5〜7.0重量%がより好ましい。
【0017】
以上のほか、油相にはエマルションの形成を妨害しない範囲でゲル化剤、酸化防止剤等を添加することができる。
ゲル化剤は、油相に含まれる樹脂をゲル化してインキの保存安定性、定着性、流動性等を向上させる役割を持ち、本発明では油相中の樹脂と配位結合する化合物が好ましい。
その例としては、Li、Na、K、Al、Ca、Co、Fe、Mn、Mg、Pb、Zn、Zr等の金属を含む有機酸塩、有機キレート化合物、金属石鹸オリゴマー等があり、具体例としては、オクチル酸アルミニウム等のオクチル酸金属塩、ナフテン酸マンガン等のナフテン酸金属塩、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩、アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテート等の有機キレート化合物等が挙げられる。
これらのゲル化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
ゲル化剤の添加量は、油相中の樹脂に対し、15重量%以下が好ましく、5〜10重量%がより好ましい。
【0018】
酸化防止剤は、油相の油やバインダー樹脂等の酸化を防ぎ、インキ粘度の上昇を防止するために添加される。その例としては、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。
また、酸化防止剤の添加量は、インキ中の油の重量の2重量%以下が好ましく、0.1〜1.0重量%がより好ましい。
これらの酸化防止剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0019】
水相にはエマルションの形成を妨害しない範囲で、水、着色剤、分散剤、水溶性高分子化合物、防腐・防かび剤、pH調整剤、電解質、水の蒸発抑制剤等を添加することができる。水は清浄であれば良く、水道水、イオン交換水、蒸留水等を使えば良い。
着色剤としては、前述した油相の場合と同じものを用いることができる。
着色剤の分散剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、脂肪族多価カルボン酸、ポリエーテルエステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩、ポリアミド、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
着色剤の分散剤の添加量は、着色剤重量の40重量%以下が好ましく、2〜35重量%がより好ましい。
【0020】
水溶性高分子化合物は保湿や増粘のために添加する。その例としては、デンプン、マンナン、アルギン酸ソーダ、ガラクタン、トラガントガム、アラビアガム、プルラン、デキストラン、キサンタンガム、ニカワ、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン等の天然高分子化合物;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン等の半合成高分子化合物;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸トリエタノールアミン等のアクリル酸樹脂誘導体;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルメチルエーテル等の合成高分子化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
水溶性高分子化合物の添加量は、インキに含まれる水の重量に対し、25重量%以下が好ましく、0.5〜15重量%がよりが好ましい。
【0021】
防腐・防かび剤は、エマルション内で細菌やかびが繁殖するのを防ぐために添加する。エマルションを長期間保存する場合は防腐・防かび剤を添加することが好ましい。
その例としては、サリチル酸、フェノール類、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル等の芳香族ヒドロキシ化合物及びそれらの塩素置換化合物、ソルビン酸やデヒドロ酢酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
防腐・防かび剤の添加量は、インキ中に含まれる水の重量に対し3重量%以下が好ましく、0.05〜1.2重量%がよりが好ましい。
【0022】
pH調整剤は、必要に応じてインクのpHを6〜8に保つため添加する。その例としては、トリエタノールアミン、酢酸ナトリウム、トリアミルアミン等が挙げられる。
電解質は、エマルションの安定性を高めるために添加する。電解質としては、エマルションの安定性向上に有効な離液順列が高いイオンで構成されたものが好ましい。
離液順列が高い陰イオンとしては、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等があり、離液順列が高い陽イオンは、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンであるから、電解質としては陰イオンと陽イオンの少なくとも一方が前記イオンからなる塩が好ましい。具体例としては、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
電解質の添加量は、水相全体の0.1〜2重量%が好ましく、0.5〜1.5重量%がより好ましい。
【0023】
さらに、本発明では、印刷時に印刷用紙と印刷ドラムとの分離を良くするため、或いは印刷用紙の巻き上がり防止等のため、油相にワックスを添加することができる。
また、水相にはトリエタノールアミンや水酸化ナトリウム等を添加して、水溶性高分子化合物の添加による高粘度化を更に増進させることができる。
また、水相に防錆剤や消泡剤を添加して、印刷の際に孔版印刷機がインキによって錆びたり、インキが泡立ったりするのを防止することができる。
これらの添加剤は、孔版印刷用インキに添加されている公知のものを必要に応じて添加すれば良く、その添加量は従来品の場合と同程度で良い。
【0024】
また、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール等の多価アルコールを不凍液として添加することができる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
不凍液の添加量は、インキ中の水の重量に対し、15重量%以下が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
【0025】
本発明の孔版印刷用W/O型エマルションインキは、油相及び水相液を調製した後、両者を公知の乳化機内で乳化させて作製すれば良い。即ち、着色剤、乳化剤及び必要に応じて添加される樹脂等の添加物を良く分散させた油を常法で調製し、これに着色剤、防腐・防かび剤や水溶性高分子化合物等を必要に応じて添加した水溶液を徐々に添加して乳化させれば得られる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、例中の「部」は「重量部」である。
【0027】
実施例1
<油相の調製>
下記組成の材料を用い、150℃で油に樹脂を溶解させ、次いで、着色剤と界面活性剤を混合し、高速ディゾルバ−により周速10m/sec.で30分攪拌した。その後、ビ−ズミルにより下記条件で分散処理を行って油相を得た。
ジルコニア製ビ−ズ径;1.5mm
周速;12m/sec.
流速;0.7L/min.

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 15.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 5.0部
(日本油脂社製:ノニオンOP−80R)

【0028】
<水相の調製>
下記組成の材料を用い、まず植物由来原料、水溶性エステル油、多価アルコール、及び防腐・防かび剤を混合・攪拌し、均一な溶液を得た。次いで、この溶液を攪拌しながら、少しずつ水を添加・混合して水相を得た。

(水相液組成)
・水 イオン交換水 61.9部
・植物由来原料 大豆白絞油(日清オイリオ社製) 4.0部
・水溶性エステル油(シクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール)
(日本精化社製:ネオソリュー−アクリオ) 1.0部
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

<W/O型エマルションインクの作製>
続いて、乳化機として高速ディゾルバ−を使用し、この中に上記油相液を仕込んで周速15m/sec.で撹拌しながら、徐々に上記水相液を添加しW/O型エマルションインクを得た。
【0029】
なお、上記水相の調製及び乳化によるW/O型エマルションインクの作製工程は上記方法に限定されず、例えば下記工程等でも良い。
(1)植物由来原料、水溶性エステル油及び少量の水を、高速ディゾルバ−で攪拌し均一に混合して、水相(1)を調製する。
(2)残りの水、多価アルコール及び防腐・防かび剤を混合・攪拌して水相(2)を調製する。
上記水相(1)(2)を順に、高速ディゾルバ−を用いて油相液に添加し乳化させて、W/O型エマルションインクとする。水相(1)(2)の乳化順は(1)⇒(2)、(2)⇒(1)のどちらでも良い。
【0030】
実施例2
油相液及び水相液の組成を下記のようにした点以外は、実施例1と同様にしてW/O型エマルションインクを作製した。この例では、水相の水溶性エステル油に代えて水溶性の非イオン性界面活性剤を用いた。

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 15.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 5.0部
(日本油脂社製:ノニオンOP−80R)

(水相液組成)
・水 イオン交換水 61.9部
・植物由来原料 大豆白絞油(日清オイリオ社製) 4.0部
・水溶性の非イオン性界面活性剤 デカグリセリルモノラウレート 1.0部
(日光ケミカルズ社製:Decaglyn1−L)
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

【0031】
実施例3
水相の水溶性の非イオン性界面活性剤の種類を変えた点以外は、実施例2と同様にして、W/O型エマルションインクを作製した。

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 15.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 5.0部
(日本油脂社製:ノニオンOP−80R)

(水相液組成)
・水 イオン交換水 61.9部
・植物由来原料 大豆白絞油(日清オイリオ社製) 4.0部
・水溶性の非イオン性界面活性剤 ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート
(日光ケミカルズ社製:TO−10) 1.0部
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

【0032】
実施例4
水相の水溶性の非イオン性界面活性剤の種類を変えた点以外は、実施例2と同様にして、W/O型エマルションインクを作製した。

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 15.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 5.0部
(日本油脂社製:ノニオンOP−80R)

(水相液組成)
・水 イオン交換水 61.9部
・植物由来原料 大豆白絞油(日清オイリオ社製) 4.0部
・水溶性の非イオン性界面活性剤 ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
(日光ケミカルズ社製:NP−7.5) 1.0部
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

【0033】
実施例5
水相の植物由来原料の種類を変えた点以外は、実施例4と同様にして、W/O型エマルションインクを作製した。

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 15.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 5.0部
(日本油脂社製:ノニオンOP−80R)

(水相液組成)
・水 イオン交換水 61.9部
・植物由来原料 ヤシ脂肪酸メチル(花王社製:エキセパール MC) 4.0部
・水溶性の非イオン性界面活性剤 ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
(日光ケミカルズ社製:NP−7.5) 1.0部
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

【0034】
実施例6
油相の界面活性剤の種類を変えた点以外は、実施例5と同様にして、W/O型エマルションインクを作製した。

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 15.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ポリグリセリン脂肪酸エステル 5.0部
(日光ケミカルズ社製:Hexaglyn PR−15)

(水相液組成)
・水 イオン交換水 61.9部
・植物由来原料 ヤシ脂肪酸メチル(花王社製:エキセパール MC) 4.0部
・水溶性の非イオン性界面活性剤 ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
(日光ケミカルズ社製:NP−7.5) 1.0部
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

【0035】
実施例7
油相の界面活性剤の種類を変えた点以外は、実施例5と同様にして、W/O型エマルションインクを作製した。

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 15.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ポリオキシエチレンひまし油 5.0部
(日光ケミカルズ社製:CO−3)

(水相液組成)
・水 イオン交換水 61.9部
・植物由来原料 ヤシ脂肪酸メチル(花王社製:エキセパール MC) 4.0部
・水溶性の非イオン性界面活性剤 ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
(日光ケミカルズ社製:NP−7.5) 1.0部
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

【0036】
比較例1
油相液及び水相液の組成を下記のようにした点以外は、実施例1と同様にしてW/O型エマルションインクを作製した。この例は、水相の植物由来原料を油相に移した点が最も重要な相違点である。

(油相液組成)
・着色剤 カ―ボンブラック(三菱化学社製:MA77) 3.0部
・油 スピンドル油 11.0部
・樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:P−140)
・油溶性の非イオン性界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 5.0部
(日本油脂社製:ノニオンOP−80R)
・植物由来原料 大豆白絞油(日清オイリオ社製) 4.0部

(水相液組成)
・水 イオン交換水 66.9部
・多価アルコール グリセリン 5.0部
・防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

【0037】
上記実施例及び比較例のW/O型エマルションインキについて、臭気、高温保存安定性、部品の膨潤試験、及び孔版印刷機上での長期放置後の画像立ち上がりを評価した。結果を表1に示す。

<臭気>
実施例及び比較例の各インキを60℃に保存し、一ヶ月経過後に取り出し、臭気を次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○;腐敗臭なし。
△;若干の腐敗臭が確認されるが、実使用上は支障なし。
×;強烈な腐敗臭があり、使用不可。

【0038】
<高温保存安定性>
実施例及び比較例の各インキを60℃に保存し、一ヶ月経過後に取り出し、目視により次の基準で保存安定性を評価した。
〔評価基準〕
○;インクの分離や変質が認められない。
△;インクから油又は水が少し滲み出ているが、実使用上は支障なし。
×;インク成分が完全に分離している。

【0039】
<部品の膨潤試験>
図1に示すように、孔版印刷機に使用される両面テープを、2枚のステンレス板の間に配置し、この両面テープで貼り合わせた部分を、実施例及び比較例の各インキで浸漬し、70℃で1週間放置した。両面テープは、H9004(日東電工社製)を使用した。
その後、常温に慣らし、次いで浸漬インキを取り除き、両面テープの幅を測定して、
次の式により膨潤率(%)を算出した。

70℃で1週間放置した後の両面テープ幅÷初期の両面テープ幅(15mm)×100

【0040】
<孔版印刷機上での長期放置後の画像立ち上がり>
実施例及び比較例の各インキについて、リコー社製孔版印刷機:サテリオA411を使用し、20℃、65%RHで、原稿(全面にほぼ均一に印刷された印字率15%の原稿)に印刷し、同じ環境で1ヵ月間放置した後、放置前と同じ環境、同じ原稿で印刷を行い、完全な画像に復帰するまでの立ち上がり枚数を調べた。
【0041】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0042】
【特許文献1】特開2003−335998号公報
【特許文献2】特許第3462472号公報
【特許文献3】特許第4520765号公報
【特許文献4】特開2004−250667号公報
【特許文献5】特許第4510404号公報
【特許文献6】特開2004−231903号公報
【特許文献7】特開2005−162783号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相に植物由来原料及び、水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤を含有し、油相に油溶性の非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【請求項2】
前記水溶性エステル油又は水溶性の非イオン性界面活性剤が、シクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール、デカグリセリルモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【請求項3】
前記植物由来原料が、脂肪酸メチルエステルであることを特徴とする請求項1又は2記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【請求項4】
前記油溶性の非イオン性界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、又はポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−28765(P2013−28765A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167294(P2011−167294)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】