説明

宇宙空間用シリコーン粘着性物品およびその使用方法

【解決手段】下記(A)乃至(D)成分を含有する無溶剤付加型シリコーン粘着剤組成物を硬化させてなる宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
(A)アルケニル基含有ポリジオルガノシロキサン、
(B)下記に示す(a)、(b)成分の縮合反応物、
(a)分子鎖の両末端に水酸基又はアルコキシ基を有するポリジオルガノシロキサン、
(b)R13SiO1/2単位及びSiO2単位を必須単位とし、分子中にHOSiO3/2単位を有するポリオルガノシロキサン、
(C1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するポリオルガノヒドロシロキサン、
(C2)両末端にSiH基を有するポリジオルガノヒドロシロキサン、
(D)白金族金属系触媒。
【効果】本発明のシリコーン粘着性物品を用いると、宇宙環境における宇宙放射線や温度サイクルに耐える粘着性物品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶剤型付加型シリコーン粘着剤組成物を硬化させてなる宇宙空間用シリコーン粘着性物品及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星、太陽系天体探査機、月面着陸機、有人宇宙往還機などの宇宙機や、有人宇宙ステーションや軌道間輸送機などの宇宙構造体において、さまざまな部材を固定するには、通常溶接だけでなく、ビス止めやベルクロなどによる固定や接着剤による固定などの方法が用いられる。しかし、部材自体の強度が低い場合や、部材が接着剤の組成により化学的に劣化を受ける場合は、これ以外の方法が必要であり、例えば、粘着剤や粘着テープを用いた貼り合わせにより固定する方法がある。ところが、宇宙空間で使用する制約から、この目的に使用する粘着剤には、高真空環境での脱ガスや物性変化が少ないこと、高温から低温まで幅広い温度範囲を持つ熱サイクルに耐えて、長期のミッション期間にわたって一定以上の粘着性を有すること、紫外線や宇宙放射線などが存在する宇宙環境に耐えること、などが要求される。これらを考慮すると、アクリル粘着剤、ゴム粘着剤等の有機樹脂系の粘着剤はいずれもその耐久性の点で使用できない。
【0003】
従来、知られているシリコーン粘着剤は、プラスチック基材などに塗工して十分な粘着性を有する粘着テープや粘着シートに作製することができるが、柔軟性や被着体の寸法変化に対する追随性や緩衝性が不足し、宇宙空間で繰り返される温度サイクルにおいて、被着体に生じる伸び縮みを吸収できる緩衝性を有する粘着部材として用いるには不十分であった。また、被着体表面に凹凸がある形状のものに貼りつけた場合、粘着剤層の表面が凹凸に追随することができず、空隙が残留し完全に密着させることができないことがあった。また、従来のシリコーン粘着剤は一般に溶剤型であり、宇宙空間における高真空下では、残留溶剤による気泡の発生が懸念されるため、このような用途には無溶剤型であることが望ましい。
【0004】
公知のシリコーン粘着剤として、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとアルケニル基を有しないポリオルガノシロキサンの混合物と、R3SiO0.5単位及びSiO2単位を有するポリオルガノシロキサンと、SiH基を含有するポリオルガノシロキサンとを含む付加硬化型粘着剤用シリコーン組成物が知られている(特開2008−24777号公報:特許文献1)。この組成物はシリコーンゴムに対する粘着力が強いとされるが、溶剤型であり、柔軟性が劣るため表面に凹凸のある部材を貼り合わせるには不都合であった。
【0005】
更に、(A)ケイ素結合水酸基を有しアルケニル基を有さない生ゴム状のジオルガノポリシロキサン、(B)アルケニル基を有する生ゴム状のジオルガノポリシロキサン、(C)R3SiO1/2単位及びSiO2単位からなり、1.8質量%以上のケイ素結合水酸基を有するポリオルガノシロキサン、(D)R3SiO1/2単位及びSiO2単位からなり、1.8質量%未満のケイ素結合水酸基を有するポリオルガノシロキサンを組み合わせて部分縮合反応させてなる成分と、ケイ素結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンを含む付加型シリコーン感圧接着剤組成物が知られている(特開2004−231900号公報:特許文献2)。この組成物は、粘着力が大きくタックが小さいとされるが、溶剤型であること、及び柔軟性が不十分でタックが小さすぎるため、この粘着剤も表面に凹凸のある部材を貼り合わせるには不都合であった。更に1辺が数cm以上で面積が数十cm2以上の大きさの粘着シートとして、部材の貼り合わせに使用した場合、粘着力が強いと、貼り合わせ時の位置ずれを修正するために必要に応じて要求される貼り直し(リワーク)のための剥離ができなくなってしまうことがあった。
【0006】
人類がこれまで固体表面から直接サンプルを採取したことのある地球以外の天体は、2005年に日本の探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワについて実施するまでは、1970年代に米ソが訪問した月だけである。しかし、地球や火星のような惑星や月のように大きな固体天体は熱的に変成してしまっているため、太陽系の初期物質を獲得することができない。一方、彗星や小惑星のような太陽系小天体は惑星が誕生するころの原始太陽系の記録を比較的よくとどめている天体だといわれている。そこで小天体からサンプルを持ち帰る技術が確立されれば、「惑星や衛星を作るもとになった物質がどのようなものであったか」、「惑星が誕生するころの原始太陽系星雲内の様子がどうであったのか」について、人類史上重要な知見を得ることができる。
【0007】
地球へ持ち帰ることを前提とした、サンプルリターン探査機による天体表面からの試料採取方法としてこれまで宇宙実績がある方法としては、月や火星のように重力の大きな天体では着陸機のロボットアームに付けたスコップで採掘する方法、そして小惑星のように重力の小さな天体では探査機から天体表面に向けて金属弾を高速で打ち出して表面を破砕し、それにより飛び散った破片を探査機内の収集箱へ回収する方法の二種類のみである。
【0008】
ところが微小重力天体向けの前記の方法では天体表面を破砕してしまうので、回収した試料からは天体表面の砂礫のサイズ分布状態を知ることができないし、試料の最表面と内部の組成分布の違いも知ることができない。これを知るには上記の方法とは別の方法が必要であり、例えば、粘着性物質を天体表面に押付けることにより最も上層の試料を採取する方法が考えられている。
【0009】
天体表面に分布する数分の1mmから数mmの大きさの試料を同時により多く採取するためには、粘着性物質の機能が重要な鍵となる。
【0010】
宇宙空間で使用する制約から、この目的に使用する粘着性物質には、高温から低温まで幅広い温度範囲で一定以上の粘着性を有すること、宇宙放射線や宇宙紫外線などが存在する宇宙環境に耐えること、長期間にわたる探査機の航行中の温度サイクルに耐えること、粘着性物質による採取した試料への汚染をできる限り少なくすること、試料採取性を確保するために0.1〜数cmの厚みに成形できること、などが要求される。
【0011】
工業製品として入手できる粘着性物質として、例えば、粘着剤、グリース、ポッティング剤等があるが、これらを考慮すると、アクリル粘着剤、ゴム粘着剤等の有機樹脂系の粘着剤、鉱物油系、シリコーン系等のグリース、有機樹脂系のポッティング剤等は、有機樹脂系のものは温度サイクルや宇宙放射線に対する耐久性の点で、シリコーングリースは汚染性の点でいずれも使用できない。
【0012】
天体表面の試料採取の目的のために、粘着性物質に必要な特に重要な要件としては柔軟性と試料への低汚染性である。
例えば、細かい砂粒や小石などが散在する天体表面に粘着性物質を押付けた場合、柔軟性が乏しければ小石の近傍にある砂粒にまで粘着性物質が到達できずこれらを同時に採取することができない。また、採取した試料を地球に持ち帰った後、分析を行う際に、粘着性物質から試料を引き剥がすが、このとき試料表面に粘着性物質が残留した場合、試料の分析に支障がある。
【0013】
粘着性物質を天体表面に押し付ける試料採取方法の先行研究では、例えば、グリースを使ったものがある(SAMPLE COLLECTION FROM SMALL AIRLESS BODIES: EXAMINATION OF TEMPERATURE CONSTRAINTS FOR THE TGIP SAMPLE COLLECTOR FOR THE HERA NEAR-EARTH ASTEROID SAMPLE RETURN MISSION: M. A. Franzen, L. A. Roe, J. A. Buffington, D. W. G. Sears, W. M. Keck、Abstract of Lunar and Planetary Science XXXVI, 1467, (2005).:非特許文献1)。しかし、岩石試料への浸透等による汚染の軽減は十分考慮されていなかった。つまり、グリースはペースト状の物質であり硬化物ではないため付着した試料を剥がすと試料にグリースがまとわりついて除去することができなかった。
【0014】
上記の要件を考慮すると、ポリシロキサン硬化物を形成するシリコーンゲル、シリコーン粘着剤が候補と考えられた。
【0015】
粘着性及び耐熱性を有するゲル材料としてはシリコーンゲルがあり、粘着性を有するシリコーンゲルも知られている(特開2007−126576号公報:特許文献3)。シリコーンゲルは無溶剤型であるため数cmの厚みでの成形が可能である。その硬化物は柔軟で試料採取性は十分であるが、被着体への粘着力が不十分で、外力が加わった場合、剥がれてしまうことがある。また、非反応成分であるフリーオイルを多く含有するため、これが試料へ浸透してしまう。更にシリコーンゲルから試料を引き剥がそうとすると、凝集性が不十分であるため、試料の表面にシリコーンゲルが凝集破壊して残留し、はなはだしく汚染することがあった。
【0016】
一方、シリコーン粘着剤はプラスチック基材等に塗工して十分な粘着性を有する粘着テープや粘着シートに成形できるが、通常溶剤型であるため、厚膜で塗工しようとしても加熱硬化させる際に溶剤による発泡が生じてしまい、1cmもの厚みに一体成形することが困難である。また、基材上に塗工した100μm程度の厚膜として硬化物を用いたとしても、硬度が高いために天体表面の分布する試料の凹凸に追随できるための柔軟性がなく、試料採取性は不十分である。
【0017】
公知のシリコーン粘着剤として前述のものが挙げられるが、いずれも溶剤型であるため試料採取性に必要な0.1mm〜数cmの厚みに塗工ないし成形することができない。厚膜で塗工しようとしても加熱硬化させる際に溶剤による発泡が生じてしまう。また、柔軟性が不十分であるためさまざまな大きさの天体表面試料を同時に採取することができない。
【0018】
また、無溶剤型シリコーン粘着剤として、アルケニル基含有ポリジオルガノシロキサン、3個のSiH基を有するポリオルガノヒドロシロキサン、両末端にアルケニル基を有する低重合度のポリジオルガノシロキサン、両末端にSiH基を有する低重合度のポリジオルガノシロキサン、R3SiO1/2単位とSiO2単位からなるポリオルガノシロキサン、白金系触媒からなる組成物が知られている(特許文献4:特開2008−274251号公報)。この組成物は、再剥離性に優れ適度の粘着力を有し、無溶剤型であるので厚膜での塗工性を有するが、柔軟性や緩衝性が不十分であった。
特開2006−160923号公報(特許文献5)に示される無溶剤型シリコーン粘着剤も同様に柔軟性や緩衝性が不十分であった。
【0019】
更に、別の無溶剤型又は低溶剤型シリコーン粘着剤として、アルケニル基末端ポリジオルガノシロキサン、シラノール末端ポリジオルガノシロキサン、R3SiO1/2単位とSiO2単位を含む樹脂状コポリマー、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、ヒドロシリル化触媒、有機ペルオキシド又は有機アゾ化合物を含む低溶剤型シリコーン感圧接着剤がある(特許文献6:特表2004−506778号公報)。この組成物は、強粘着、高タックであるため、貼り直し等のリワークの際、被着体を変形させたり、破壊させてしまう可能性がある。有機ペルオキシド又は有機アゾ化合物等を用いて硬化させるので、その分解残渣が硬化物中に残留し、硬化物を高温下や真空下で使用する時に発泡してしまうという問題があった。
【0020】
別の無溶剤型シリコーン粘着剤として、脂肪族不飽和基を有する有機シロキサンポリマー、R3SiO1/2単位とSiO2単位を持つ樹脂、反応性希釈剤、SiH含有架橋剤、ヒドロシリル化触媒、阻害剤を含む無溶媒シリコーン感圧接着剤がある(特許文献7:特表2006−520838号公報)。この組成物も同様に柔軟性や緩衝性が不十分である。また、末端二重結合をもつアルケン等の反応性希釈剤を含むため、厚膜での硬化時に発泡し硬化物に気泡が残留したり、これが未反応で残留した場合、厚膜の硬化物を高温下や真空下で使用する時に発泡してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2008−24777号公報
【特許文献2】特開2004−231900号公報
【特許文献3】特開2007−126576号公報
【特許文献4】特開2008−274251号公報
【特許文献5】特開2006−160923号公報
【特許文献6】特表2004−506778号公報
【特許文献7】特表2006−520838号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】SAMPLE COLLECTION FROM SMALL AIRLESS BODIES: EXAMINATION OF TEMPERATURE CONSTRAINTS FOR THE TGIP SAMPLE COLLECTOR FOR THE HERA NEAR-EARTH ASTEROID SAMPLE RETURN MISSION: M. A. Franzen, L. A. Roe, J. A. Buffington, D. W. G. Sears, W. M. Keck、Abstract of Lunar and Planetary Science XXXVI, 1467, (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、上記事情を改善したもので、柔軟性、粘着性、良好なタックを有し、宇宙機などにおいて宇宙空間で使用する部材貼り合わせ用や仮固定用としての使用が可能であり、特に小惑星や月など固体天体表面からの試料採取用粘着部材としての使用が可能な宇宙空間用シリコーン粘着性物品及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、宇宙機の部材を固定するために用いるシリコーン系粘着性物質について、特に、数分の1mmから数mmの大きさの天体表面試料を効率よく採取するためのシリコーン系粘着性物質について詳細に検討した結果、シリコーン粘着剤組成物として下記(A)〜(D)成分を含有する無溶剤付加型シリコーン粘着剤組成物を硬化させてなる宇宙空間用シリコーン粘着性物品を用いると、上記目的を達成するのに有効であることを知見した。
【0025】
従って、本発明は、下記の宇宙空間用シリコーン粘着性物品及びその使用方法を提供する。
請求項1:
下記(A)乃至(D)成分を含有する無溶剤付加型シリコーン粘着剤組成物を硬化させてなることを特徴とする宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
(A)下記一般式(1)で表される、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基含有有機基を有するポリジオルガノシロキサン、
b3-bSiO−[R2SiO]a−SiXb3-b (1)
(但し、Xは炭素数2〜10のアルケニル基含有有機基であり、Rは同一もしくは異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基である。aは整数で、50≦a≦2,000であり、bは1〜3の整数である。)
(B)下記に示す(a)成分のSiOR2基と(b)成分のSiOH基を縮合させた縮合反応物、
(a)下記一般式(2)で表される、分子鎖の両末端に水酸基又はアルコキシ基を有するポリジオルガノシロキサン、
(R2O)R12SiO−[R12SiO]c−SiR12(OR2) (2)
(但し、R1は同一又は異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、アルケニル基含有有機基を含まない。R2は水素原子又はR1であり、cは整数で、50≦c≦2,000である。)
(b)R13SiO1/2単位とSiO2単位、及びケイ素原子に結合した水酸基を有するシロキサン単位を含有し、R13SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.6〜1.0であり、水酸基の含有量が0.1質量%以上1.8質量%未満であるポリオルガノシロキサン(R1は前記と同じ)、
(但し、(A)、(a)、(b)成分の合計100質量部に対して、(A)成分が10〜60質量部であり、(a)成分が5〜60質量部であり、(b)成分が5〜60質量部である。)
(C1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するポリオルガノヒドロシロキサン、
(C2)下記一般式(3)に示す両末端にSiH基を有するポリジオルガノヒドロシロキサン、
HR12SiO−[R12SiO]d−SiR12H (3)
(R1は前記と同じであり、dは整数で、5≦d≦500である。)
(但し、(A)成分のアルケニル基に対する(C1)成分のSiH基のモル数の比が0.2〜10であり、(C2)成分のSiH基のモル数の比が0.2〜3である。)
(D)白金族金属系触媒(白金族金属分として(A)、(a)、(b)成分の合計に対して質量基準で1〜500ppm)。
請求項2:
シリコーン粘着剤組成物の25℃における粘度が5,000〜500,000mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
請求項3:
厚み50μmのポリイミドフィルムに厚み0.5mmとなるようにシリコーン粘着剤組成物の粘着剤層を設けた粘着シートに、先端が平滑な直径5mmのプローブを速度1cm/秒で接触圧力が20g/cm2となるように垂直に押し付け、停止時間1秒後にプローブを引き離したときの力を測定することにより求めたプローブタックが、50〜500gfであることを特徴とする請求項1又は2記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
請求項4:
厚み25μmのポリイミドフィルムに厚み40μmとなるようにシリコーン粘着剤組成物の粘着剤層を設けた幅25mmの粘着テープをステンレス板に貼り合わせ、この粘着テープを180°方向に300mm/分の速さで剥がした時の粘着力が、0.05〜4.0N/25mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
請求項5:
太陽系小天体、固体惑星又は固体衛星の表面試料採取用である請求項1乃至4のいずれか1項記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
請求項6:
0.1〜30mmの厚みを持つように塗工、硬化又は成形した請求項1乃至4のいずれか1項記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品を用いて、小惑星、彗星などの太陽系小天体、水星などの固体惑星、又は月などの固体衛星の表面試料を採取するための方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、有機溶剤を含まない無溶剤付加型シリコーン粘着剤組成物を硬化させてなる宇宙空間用シリコーン粘着性物品を得ることができる。このシリコーン粘着性物品を用いると、宇宙環境における宇宙放射線や温度サイクルに耐える粘着性物品が得られる。この粘着性物品は、人工衛星、宇宙探査機などにおいて宇宙空間で使用する部材貼り合わせ用や仮固定用としての使用が可能である。また、小惑星、彗星などの太陽系小天体、水星などの固体惑星、月などの固体衛星などの天体表面の試料を採取するのに有効であり、試料への汚染を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を更に詳述する。
[(A)成分]
(A)成分は、下記一般式(1)で示される、分子鎖の末端にアルケニル基含有有機基を有する実質的に直鎖状のポリジオルガノシロキサンである。
b3-bSiO−[R2SiO]a−SiXb3-b (1)
【0028】
Xは炭素数2〜10のアルケニル基含有有機基である。具体的には、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基、アクリロイルプロピル基、アクリロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基等のアクリロイルアルキル基及びメタクリロイルアルキル基、シクロヘキセニルエチル基等のシクロアルケニルアルキル基、ビニルオキシプロピル基等のアルケニルオキシアルキル基などであり、特に、工業的にはビニル基が好ましい。
【0029】
Rは同一又は異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基である。具体的には、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などであり、更に、これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子等のハロゲン原子又はその他の基で置換されていてもよく、トリフルオロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が例示される。特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0030】
aは整数で、50≦a≦2,000であり、特に50≦a≦1,500であることが好ましい。
bは整数で、1〜3であり、1であることが好ましい。
【0031】
(A)成分の全ケイ素原子の0.03〜4モル%、特に0.03〜1.5モル%、更には0.05〜1モル%にアルケニル基を含有することが好ましい。0.03モル%未満では得られる組成物の硬化性が不十分になることがあり、4モル%を超えると得られる組成物の粘着力やタックが低下することがある。
【0032】
また、このポリジオルガノシロキサンは実質的に直鎖状であるが、RSiO3/2単位、SiO2単位を、(A)成分1分子中にそれぞれ10個以下として含有することができる。RSiO3/2単位をx個(x=1〜10の整数)含有する場合、末端となるXb3-bSiO1/2単位の数はx+2個とすることが好ましい。SiO2単位をx個(x=1〜10の整数)含有する場合、末端となるXb3-bSiO1/2単位の数は2x+2個とすることが好ましい。
【0033】
このポリジオルガノシロキサンの性状はオイル状であることが好ましい。(A)成分の粘度は25℃において、オイル状のものであれば60mPa・s以上、200,000mPa・s以下であることが好ましい。60mPa・s未満では粘着剤層の柔軟性が低下する場合があるため不適である。200,000mPa・sを超えると、組成物が高粘度となりすぎて塗工が困難になる場合がある。なお、この粘度は回転粘度計により測定し得る(以下、同様)。
【0034】
更に、(A)成分は2種以上を併用してもよい。この場合は、(A)成分の合計に含まれる全ケイ素原子のうち0.03〜4モル%にアルケニル基を含有するようにすればよい。
【0035】
(A)成分は、通常、オクタメチルシクロテトラシロキサン等のモノマーと、ジメチルビニルシロキサン単位を有するシラン化合物やシロキサン化合物、ジメチルシロキサン単位やメチルビニルシロキサン単位を有するシラン化合物やシロキサン化合物を、触媒を用いて重合させて製造するが、重合後は環状の低分子シロキサンを含有しているため、この環状低分子シロキサンを加熱及び/又は減圧下で不活性気体を通気させながら、留去したものを用いることが好ましい。
【0036】
本発明において、(A)成分は、(C1)成分と反応し架橋構造を生成するための成分である。架橋構造の生成が不十分であると、硬化後の組成物の凝集性が低下してしまう。架橋構造が強固でありすぎると硬化後の組成物柔軟性が低下してしまう。
【0037】
[(B)成分]
(B)成分は本組成物に粘着性と柔軟性とを同時に付与するための成分で、下記に示す(a)成分のSiOR2基と(b)成分のSiOH基を縮合させた縮合反応物である。
(a)成分は下記一般式(2)で示される分子鎖の両末端に水酸基又はアルコキシ基を有する実質的に直鎖状のポリジオルガノシロキサンである。
(R2O)R12SiO−[R12SiO]c−SiR12(OR2) (2)
【0038】
1は同一又は異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、アルケニル基含有有機基を含まない。具体的には、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などであり、更に、これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子等のハロゲン原子やその他の基で置換されていてもよく、トリフルオロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が例示される。特にメチル基、フェニル基が好ましい。
2は水素原子又はR1であり、水素原子であることが好ましい。cは整数で、50≦c≦2,000であり、更に50≦c≦1,500であることが好ましい。
【0039】
また、このポリジオルガノシロキサンは実質的に直鎖状であるが、R1SiO3/2単位、SiO2単位を、(a)成分中の全シロキサン単位のうち2モル%以下で含有することができる。
【0040】
このポリジオルガノシロキサンの性状はオイル状であることが好ましい。(a)成分の粘度は25℃において、オイル状のものであれば100mPa・s以上200,000mPa・s以下であることが好ましい。100mPa・s未満では粘着剤層の柔軟性が低下する場合があるため不適である。また、200,000mPa・sを超えると、組成物が高粘度となりすぎて塗工が困難になる場合がある。
更に、(a)成分は2種以上を併用してもよい。
【0041】
(b)成分はR13SiO1/2単位とSiO2単位、及びケイ素原子に結合した水酸基を有するシロキサン単位を含有するポリオルガノシロキサンである。R1は前記のとおりである。R13SiO1/2単位/SiO2単位のモル比は0.6〜1.0、好ましくは0.8〜1.0である。0.6未満では本組成物の粘着力や柔軟性が低下することがあり、1.0を超えると粘着力が低下することがある。水酸基の含有量は0.1質量%以上1.8質量%未満であり、0.3〜1.7質量%であることが好ましい。水酸基の含有量が1.8質量%以上では硬化物の柔軟性が低下してしまう。水酸基の含有量が0.1質量%未満では、硬化物の凝集性が不足したり、以下に示す(a)成分と(b)成分の縮合反応が十分に進行せず、被着体への汚染が多くなってしまう。
ケイ素原子に結合した水酸基を含有するシロキサン単位は主として(HO)SiO3/2単位であり、これ以外に、(HO)(R2O)SiO2/2単位、(HO)(R2O)2SiO1/2単位が挙げられる。
更に、SiO2単位のうち一部がR1OSiO3/2であってもよい。
【0042】
また、本発明の特性を損なわない範囲でR12SiO単位、R1SiO3/2単位を(b)成分中に全ケイ素原子のうち20モル%以下となる割合で含有させることも可能である。なお、(b)成分は2種以上を併用してもよい。
【0043】
(A)、(a)、(b)成分の合計100質量部に対して、(A)成分の配合割合は10〜60質量部であり、好ましくは15〜50質量部である。(A)成分の質量比が10質量部未満では硬化性が低下し、60質量部を超えると柔軟性が低下する。また、(a)成分の配合割合は5〜60質量部であり、好ましくは15〜50質量部である。(a)成分の質量比が5質量部未満では柔軟性が低下し、60質量部を超えると凝集性が低下したり、被着体へのシリコーン移行が多くなる。また、(b)成分の配合割合は5〜60質量部であり、好ましくは5〜45質量部である。(b)成分の質量比が5質量部未満では粘着力が低下し、60質量部を超えると粘着力が強くなりすぎて剥離性(リワーク性)が低下したり、柔軟性が低下する。(a)、(b)成分の配合割合は上記のとおりであるが、分子数(モル数)として(b)成分は(a)成分よりも過剰になるように配合することが好ましく、未反応の(a)成分を含まないようにすることが好ましい。未反応の(b)成分があっても硬化物中で流動しないため、硬化物の凝集性や被着体への汚染性には影響しない。
【0044】
(a)、(b)成分は予め縮合反応により(B)成分の縮合反応生成物としたものを使用する。また、(A)、(a)及び(b)成分を一緒に縮合反応に供して(a)、(b)成分を縮合反応生成物としたものを使用してもよい。縮合反応を行うには、必要に応じてトルエン、キシレン、ヘプタン、オクタン等の有機溶剤に溶解した(a)、(b)成分の混合物を、アルカリ性触媒を用い、室温〜還流下で反応させ、必要に応じて中和すればよい。
【0045】
アルカリ性触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩、ナトリウムメトキシド、カリウムブトキシド等の金属アルコキシド、ブチルリチウム等の有機金属、カリウムシラノレート、アンモニアガス、アンモニア水、メチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の窒素化合物などが挙げられるが、アンモニアガス又はアンモニア水が好ましい。縮合反応の温度は、20〜150℃とすることができるが、通常は、室温〜有機溶剤の還流温度で行えばよい。反応時間は、特に限定されないが、0.5〜20時間、好ましくは1〜10時間とすればよい。
【0046】
更に、反応終了後、必要に応じて、アルカリ性触媒を中和する中和剤を添加してもよい。中和剤としては、塩化水素、二酸化炭素等の酸性ガス、酢酸、オクチル酸、クエン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸等が挙げられる。アルカリ性触媒としてアンモニアガス又はアンモニア水、低沸点のアミン化合物を用いた場合は、窒素等の不活性ガスを通気し留去してもよい。
【0047】
本発明において、(B)成分は、被着体への汚染を抑えながら、本組成物に粘着性と柔軟性とを同時に付与するための成分である。(a)成分量が多くなるとより柔軟になり、(b)成分量が多くなるとより粘着性が強くなる。(b)成分が存在しないと本組成物の硬化物は柔軟であるが粘着性や凝集性が不十分となり、(a)成分が存在しないと柔軟性が不十分となる。また、(a)、(b)成分が縮合されていないと、(a)成分は流動性を有するオイル状のポリマーであるため、硬化物から容易にブリードし被着体を汚染してしまう。(a)成分と(b)成分を縮合させると、直鎖状のポリマーである(a)成分の両末端にかさ高い構造を持つ(b)成分が結合することになる。このため立体障害により硬化物の架橋のネットワークに保持され容易にはブリードしなくなり、被着体への浸透や汚染を抑えることができる。更に、(B)成分の縮合反応物はアルケニル基を含まないため、(A)成分と反応することがなく、架橋のネットワークに組み込まれることはない。このため架橋のネットワーク中で、ある程度の分子の動きが許容され、硬化後の物品に柔軟性を付与することができる。(b)成分は通常のシリコーン粘着剤における粘着付与成分として用いられるものである。
【0048】
[(C)成分]
(C)成分は、下記(C1)成分及び(C2)成分である。
[(C1)成分]
(C1)成分は架橋剤で、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するポリオルガノヒドロシロキサンであり、直鎖状、分岐状又は環状のものを使用できる。(C1)成分として、具体的には、下記一般式(4)で表されるものを例示することができるが、これには限定されないし、1種単独でも2種以上の組合わせでも使用することができる。
【0049】
g13-gSiO−[HR1SiO]e−[R12SiO]f−SiHg13-g
(4)
(式(4)において、R1は前記と同じであり、gは0又は1、eは1以上の整数、fは0以上の整数である。但し、e+2gは3以上であり、かつ1≦e+f≦500である。なお、e+2gは好ましくは3〜100、更に好ましくは3〜70である。更に、R1SiO3/2単位、HSiO3/2単位、SiO2単位を含有する構造のものも例示できる。)
【0050】
このポリオルガノヒドロシロキサンの25℃における粘度は、好ましくは1〜1,000mPa・sである。特に2〜500mPa・sが好ましい。2種以上の混合物でもよい。
【0051】
(C1)成分の配合量は、(A)成分中のアルケニル基に対する(C1)成分中のSiH基のモル比(SiH基/アルケニル基)が0.2〜10となる量であり、特に0.3〜5の範囲となるように配合することが好ましい。モル比が小さすぎると架橋密度が低くなり、これに伴い硬化性が低下したり、得られる粘着剤組成物の保持力や凝集性が低くなることがあり、モル比が大きすぎると組成物の柔軟性が低下する場合がある。
【0052】
[(C2)成分]
(C2)成分は両末端にケイ素原子に結合した水素原子を有するポリジオルガノヒドロシロキサンであり、(A)成分と交互に反応し鎖長を延長する効果がある。下記一般式(3)で表されるものを使用する。
HR12SiO−[R12SiO]d−SiR12H (3)
(式(3)において、R1は前記と同じであり、dは整数で、5≦d≦500である。)
【0053】
このポリオルガノヒドロシロキサンの25℃における粘度は、好ましくは2〜5,000mPa・sである。更に3〜100mPa・sが好ましい。2種以上の混合物でもよい。
【0054】
(C2)成分の配合量は、(A)成分中のアルケニル基に対する(C2)成分中のSiH基のモル比(SiH基/アルケニル基)が0.2〜3となる量であり、特に0.5〜3の範囲となるように配合することが好ましい。0.2未満では架橋密度が低くなり、これに伴い硬化性が低下したり、得られる粘着剤組成物の保持力や凝集性が低くなることがある。3を超えると組成物の柔軟性が低下する場合がある。
なお、(A)成分中のアルケニル基に対する(C1)成分と(C2)成分とのSiH基の合計モル比(SiH基/アルケニル基)は0.4〜13、特に0.5〜8であることが好ましい。
【0055】
[(D)成分]
(D)成分は白金族金属系の付加反応触媒であり、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニル基含有シロキサン錯体、ロジウム錯体等が挙げられ、特に白金系触媒が好ましい。
【0056】
(D)成分の添加量は(A)、(a)、(b)成分の合計に対し、白金族金属分として質量基準で1〜500ppm、特に2〜100ppmとすることが好ましい。1ppm未満では硬化性が低下し、架橋密度が低くなり、保持力が低下することがあり、500ppmを超えると本組成物の柔軟性が低下する場合がある。
【0057】
[(E)成分]
本発明組成物には、更に必要により(E)成分として反応制御剤を配合することができる。これは、シリコーン粘着剤組成物を調合ないし基材に塗工する際に加熱硬化の以前に付加反応が開始して処理液が増粘やゲル化を起こさないようにするために添加するものである。反応制御剤は付加反応触媒である白金族金属に配位して付加反応を抑制し、加熱硬化させるときには配位がはずれて触媒活性が発現する。付加反応硬化型シリコーン組成物に従来使用されている反応制御剤はいずれも使用することができる。具体例としては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、マレイン酸エステル、アジピン酸エステル等が挙げられる。
【0058】
(E)成分の配合量は(A)、(a)、(b)成分の合計100質量部に対して0.005〜5質量部の範囲であることが好ましく、特に0.005〜2質量部が好ましい。0.005質量部未満であると処理液が増粘やゲル化を起こすことがある。5質量部を超えると硬化性が低下することがある。
【0059】
本発明の組成物を使用するには、例えば次のように行われるが、これらに限るものではない。
(I)(a)、(b)成分を縮合反応させ、(B)成分の縮合反応物を製造する。溶剤を用いて縮合反応させた場合は溶剤を除去する。ここに(A)成分、(C)成分、(D)成分、及び必要により(E)成分を混合して無溶剤型組成物を得る。
(II)(A)成分の存在下で(a)、(b)成分を縮合反応させ、(B)成分の縮合反応物を製造する。溶剤を用いて縮合反応させた場合は溶剤を除去する。ここに(C)成分、(D)成分、及び必要により(E)成分を混合して無溶剤型組成物を得る。
【0060】
上記の溶剤の除去は、常法により、常温〜200℃の温度範囲で常圧又は減圧下で、必要に応じて窒素等の不活性ガスを通気しながら溶剤を留去すればよい。
【0061】
本発明のシリコーン粘着剤組成物には、上記各成分以外に任意成分を添加することができる。例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサン等の非反応性のポリオルガノシロキサン、更に、フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、チオエーテル系等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤、リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、アンチモン系等の難燃剤、カチオン活性剤、アニオン活性剤、非イオン系活性剤、シリケート系、金属酸化物系、種々のイオン系等の帯電防止剤、染料、顔料等の着色剤、シリカ、アルミナ、金属塩系等の充填剤などが使用できる。
【0062】
上記のように配合された本発明のシリコーン粘着剤組成物は、25℃における粘度が5,000〜500,000mPa・sとなるように調整されたものがよい。好ましくは5,000〜300,000mPa・sとなるものがよい。5,000mPa・s未満では低すぎて基材上で組成物が流延して表面が不均一になったり、粘着力が低下する場合があるため不適である。500,000mPa・sを超えると、組成物が高粘度となりすぎて製造時の撹拌や流延、塗工が困難になる場合がある。
【0063】
更に、本発明の無溶剤型のシリコーン粘着剤組成物は、そのまま使用に供することが好ましいが、使用者の都合によっては溶剤希釈して使用する場合がある。本組成物を溶剤に希釈して使用する場合、希釈溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、2−メトキシエチルアセタート、2−エトキシエチルアセタート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、2−ブトキシエチルアセタート等の複官能性溶剤、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、テトラキス(トリメチルシロキシ)シラン等のシロキサン系溶剤、又はこれらの混合溶剤等が使用できる。
【0064】
上記のように調製されたシリコーン粘着剤組成物は、種々の基材に塗工し、所定の条件にて硬化させることにより粘着剤層を得ることができる。
【0065】
基材としては、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔、和紙、合成紙、クラフト紙、ポリエチレンラミネート紙等の紙、布、不織布、ガラスクロス、これらのうちの複数を積層、含浸してなる複合基材が挙げられる。
【0066】
これらの基材と粘着剤層の密着性を向上させるために基材に予めプライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理、サンドブラスト処理等を施したものを用いてもよい。プライマー処理及びコロナ処理が好ましい。
【0067】
プライマー処理に使用可能なプライマー組成物としては、末端にSiOH基を有するポリジオルガノシロキサン、SiH基を有するポリシロキサン及び/又はアルコキシ基を有するポリシロキサン、縮合反応触媒を含有する縮合型シリコーンプライマー組成物や、ビニル基等のアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン、SiH基を有するポリシロキサン、付加反応触媒を含有する付加型シリコーンプライマー組成物が挙げられる。
【0068】
塗工方法は、公知の塗工方式を用いて塗工すればよく、例えばコンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等が挙げられる。塗工量は、硬化したあとの粘着剤層の厚みが10μm〜40mm、特に20μm〜10mmとなることが好ましい。特に、宇宙空間用シリコーン粘着物品として小惑星、彗星などの太陽系小天体、水星などの固体惑星、又は月などの固体衛星の表面試料を採取するためには0.1〜30mmの厚みを持つように塗工硬化又は成形することが好ましい。0.1mm未満であれば大きなサイズの試料を採取することが困難となる。30mmを超えても試料の採取性は変わらなくなる。
【0069】
硬化条件としては、80〜180℃で30秒〜120分とすればよいが、この限りではない。
【0070】
上記のような基材に本発明の組成物を直接塗工して粘着テープなどを製造してもよいし、表面に剥離性コーティングを設けた剥離フィルムや剥離紙に本発明の組成物を塗工し、硬化を行った後、得られた粘着剤層側を基材に貼り合わせることにより該粘着剤層を該基材に転写させることにより粘着テープなどを製造してもよい。更に、表面に剥離性コーティングを設けた剥離フィルムや剥離紙に本発明の組成物を塗工し、硬化を行った後、粘着剤層表面に別の剥離フィルムや剥離紙を貼り合わせて、基材のない粘着シートを製造してもよい。
【0071】
また、シリコーン粘着剤組成物は、所定の容器や成形用の型などに注入又は流延し、溶剤を含有する場合は溶剤を乾燥後、上記の条件にて硬化させることにより硬化物を得ることができる。
【0072】
容器や型としてはステンレス、アルミニウム等の金属製、セラミック製、フッ素樹脂等のプラスチック製のものが挙げられる。また、容器や型に注入又は流延した際に気泡を巻き込むことがあるが、この場合は常温、常圧又は減圧下で放置することにより脱泡すればよい。更に、型から離型しやすくするために、予め型の表面に離型剤を塗布しておくこともできる。この場合フッ素系離型剤、フッ素シリコーン系離型剤が好ましい。
【0073】
厚み50μmのポリイミドフィルムに本発明の組成物を厚み0.5mmとなるように塗工し硬化させた粘着シートの粘着剤層のプローブタックは、50〜500gf、特に60〜500gfであることが好ましく、更に70〜400gfであることが好ましい。このプローブタックは、先端が平滑な直径5mmのプローブを速度1cm/秒で接触圧力が20g/cm2となるように垂直に押し付け、停止時間1秒後にプローブを引き離したときの力である。50gf未満であると粘着テープ又は粘着シートを被着体に貼り付けるときに、背面から強い力で押さえることが必要になり、貼り付け時の作業性が低下し、500gfを超えると、貼り合わせ時の位置ずれなどを修正するための貼り直し(リワーク)のための作業性が低下する。なお、このようなプローブタックの値は、主として(b)成分量を調整することにより達成し得る。
【0074】
厚み25μmのポリイミドフィルムに厚み40μmとなるように粘着剤層を設けた幅25mmの粘着テープをステンレス板に貼り合わせ、この粘着テープを180°方向に300mm/分の速さで剥がした時の粘着力は、0.05〜4.0N/25mmであることが好ましい。0.05N/25mm未満であれば本発明の組成物を塗工した粘着テープや粘着シートの端部が被着体から浮いたり剥がれたりすることがあり、4.0N/25mmを超えると貼り合わせ時の位置ずれを修正するための貼り直し(リワーク)のための剥離ができなくなってしまうことがある。なお、このような粘着力の値は、主として(b)成分量を調整することにより達成し得る。
【実施例】
【0075】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、例中の部は質量部を示したものであり、特性値は下記の試験方法による測定値を示す。また、Meはメチル基、Viはビニル基を表す。
【0076】
粘度
25℃においてBH型回転粘度計を用いて測定した。
粘着力
シリコーン粘着剤組成物を、厚み25μm、幅25mmのポリイミドフィルムに硬化後の厚みが40μmとなるようにアプリケーターを用いて塗工した後、120℃,10分の条件で加熱し硬化させ、粘着テープを作製した。この粘着テープをステンレス板に貼りつけ、ゴム層で被覆された重さ2kgのローラーを2往復させることにより圧着した。室温で約20時間放置した後、引っ張り試験機を用いて300mm/分の速度で180゜の角度で粘着テープをステンレス板から引き剥がすのに要する力(N/25mm)を測定した。
【0077】
プローブタック
シリコーン粘着剤組成物を、厚み50μmのポリイミドフィルムに硬化後の厚みが500μmとなるようにアプリケーターを用いて塗工した後、120℃,10分の条件で加熱し硬化させ、粘着シートを作製した。この粘着シートから、約25×25mmの粘着シートを切り出し、テスティングマシーンズ社製ポリケンプローブタックテスターを用いてこのタックを測定した。接触圧力が20g/cm2となるウェイトリングを用い、プローブ速度1cm/秒、停止時間1秒、プローブ直径5mmφとした。
【0078】
針入度
直径30mm、深さ15mmのガラスシャーレにいっぱいになるように粘着剤組成物を流延し脱泡後、120℃,30分の条件で加熱硬化させた硬化物を用い、JIS K2220に示される1/4円錐を用いた9.4g荷重による方法で測定した。溶剤を使用するものは、離型処理をした型枠内に硬化後の厚みが約1.5mmとなるようにシリコーン粘着剤組成物溶液を流延し、約12時間風乾し、溶剤を揮発させた後、120℃,30分の条件で加熱硬化させシートを作製した。これを10枚重ねたものを用い、上記と同様に測定した。針入度が大きいほど硬化物が柔軟であることを示し、針入度が小さいほど硬化物が硬いことを示す。
【0079】
シリコーン移行量
プローブタックと同様の方法で粘着シートを作製した。これを厚み23μmのポリエステルフィルムに貼り合わせた。25℃で7日間放置した後、ポリエステルフィルムから粘着テープを剥がした。ポリエステルフィルム表面のケイ素量を蛍光X線分析装置で測定し、ポリエステル表面に移行したシリコーン量を1平方メートルあたりのポリジメチルシロキサン量に換算してシリコーン移行量とした。
【0080】
剥離時の凝集破壊
プローブタックと同様の方法で粘着シートを作製した。これを多孔質アルミナ板に貼り合わせた。25℃で7日間放置した後、多孔質アルミナ板から粘着テープを剥がしたときの剥離の状態を観察した。粘着層が凝集破壊し、アルミナ板に残留した場合、凝集破壊ありとし、残留がない場合、凝集破壊なしとした。
【0081】
試料採取性
針入度と同様にガラスシャーレ中で粘着剤組成物を硬化させた。モレキュラーシーブ4A(1/8inchペレット,長さ約3〜8mm)を約10mmの厚さとなるように敷き詰め、ここにガラスシャーレ中の粘着剤が接触するように約1kgの荷重で約2秒間押し付けた。溶剤を使用するものは、厚さ約1.5mmのシートを作製し、シートを直径約30mmの円になるように切り抜いて10枚を重ねた。積層した粘着シートを敷き詰めたモレキュラーシーブ4Aに約1kgの荷重で約2秒間押し付けた。粘着剤面に採取されたモレキュラーシーブの量を観察し、ほぼ全面に採取された場合を◎、ほぼ全面〜ほぼ1/2の部分に採取された場合を○、ほぼ1/2以下の部分に採取された場合を△、ほとんど採取されない場合を×とした。
【0082】
[実施例1]
次の平均組成式で示されるビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−1)(粘度30,000mPa・s)(45部)、
ViMe2SiO−[Me2SiO]740−SiMe2Vi (A−1)
次の平均組成式で示される水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−1)(粘度20,000mPa・s)(15部)、
(HO)Me2SiO−[Me2SiO]610−SiMe2(OH) (a−1)
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.82であり、Si原子に結合する水酸基の含有量が1.2質量%であるポリオルガノシロキサン(b−1)の60質量%トルエン溶液(66.7部)、
トルエン(6.6部)
を混合し、アンモニア水(0.5部)を添加し、25〜30℃で12時間攪拌した。100〜130℃でアンモニア水とトルエンの混合物を留去した後、120℃、減圧下でトルエンを留去した。
この生成物(100部)に、次式で示されるポリオルガノヒドロシロキサン(C1−1)(0.18部)、
Me3SiO−[Me2SiO]28−[HMeSiO]16−SiMe3 (C1−1)
次式で示されるポリジオルガノヒドロシロキサン(C2−1)(1.17部)
HMe2SiO−[Me2SiO]18−SiMe2H (C2−1)
及び、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(0.05部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.1部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2]
ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−1)(37.5部)、
水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−1)(32.5部)、
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.82であるポリオルガノシロキサン(b−1)の60質量%トルエン溶液(50部)、
トルエン(13.3部)
を混合し、アンモニア水(0.5部)を添加し、25〜30℃で12時間攪拌した。100〜130℃でアンモニア水とトルエンの混合物を留去した後、120℃、減圧下でトルエンを留去した。
この生成物(100部)に、ポリオルガノヒドロシロキサン(C1−1)(0.16部)、ポリジオルガノヒドロシロキサン(C2−1)(1.08部)、及び、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(0.05部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.1部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
[実施例3]
ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−1)(30部)、
水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−1)(40部)、
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.82であるポリオルガノシロキサン(b−1)の60質量%トルエン溶液(50部)、
トルエン(13.3部)
を混合し、アンモニア水(0.5部)を添加し、25〜30℃で12時間攪拌した。100〜130℃でアンモニア水とトルエンの混合物を留去した後、120℃、減圧下でトルエンを留去した。
この生成物(100部)に、ポリオルガノヒドロシロキサン(C1−1)(0.20部)、ポリジオルガノヒドロシロキサン(C2−1)(0.63部)、及び、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(0.05部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.1部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例4]
次の平均組成式で示されるビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−2)(粘度1,000mPa・s)(30部)、
ViMe2SiO−[Me2SiO]220−SiMe2Vi (A−2)
次の平均組成式で示される水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−2)(粘度100,000mPa・s)(40部)、
(HO)Me2SiO−[Me2SiO]1080−SiMe2(OH) (a−2)
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.82であるポリオルガノシロキサン(b−1)の60質量%トルエン溶液(50部)、
トルエン(13.3部)
を混合し、アンモニア水(0.5部)を添加し、25〜30℃で12時間攪拌した。100〜130℃でアンモニア水とトルエンの混合物を留去した後、120℃、減圧下でトルエンを留去した。
この生成物(100部)に、ポリオルガノヒドロシロキサン(C1−1)(0.39部)、ポリジオルガノヒドロシロキサン(C2−1)(2.61部)、及び、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(0.05部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.1部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例1]
ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−2)(100部)、
ポリオルガノヒドロシロキサン(C1−1)(0.05部)、
ポリオルガノヒドロシロキサン(C2−1)(6.5部)、
次式で示されるポリオルガノヒドロシロキサン(C3−1)(3.5部)、
Me3SiO−[Me2SiO]27−[HMeSiO]2−SiMe3 (C3−1)
1,3,5,7−ビニル−1,3,5,7−シクロテトラシロキサン(0.01部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.1部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例2]
次の平均組成式で示される生ゴム状のビニル基含有ポリジメチルシロキサン(ビニル基含有量が全シロキサン単位のうち0.075モル%)(A−3)(25部)、
ViMe2SiO−[MeViSiO]1.5−[Me2SiO]4500−SiMe2Vi
(A−3)
次の平均組成式で示される生ゴム状の水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−3)(25部)、
(HO)Me2SiO−[Me2SiO]4400−SiMe2(OH) (a−3)
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.74でありSi原子に結合する水酸基の含有量が1.4質量%であるポリオルガノシロキサン(b−2)の60質量%トルエン溶液(83.3部)、
トルエン(33.4部)
を混合し、アンモニア水(0.5部)を添加し、25〜30℃で12時間攪拌した。100〜110℃でアンモニア水とトルエンの混合物を留去した後、シロキサン分の濃度が40質量%となるようにトルエンを添加した。
(なお、これを120℃、減圧下でトルエンを留去したものは、25℃では流動性のない固体となり、無溶剤型で塗工、硬化又は成形することができなかった。)
この生成物(250部)に、次式で示されるポリオルガノヒドロシロキサン(C1−2)(0.24部)、
Me3SiO−[HMeSiO]40−SiMe3 (C1−2)
及び、エチニルシクロヘキサノール(0.16部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.5部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
[比較例3]
次の平均組成式で示される生ゴム状の両末端ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−4)(7.2部)、
ViMe2SiO−[Me2SiO]4400−SiMe2Vi (A−4)
水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−3)(23.7部)、
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.8でありSi原子に結合した水酸基の含有量が2.1質量%であるポリオルガノシロキサン(b−3)の60質量%トルエン溶液(104.2部)、Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.82でありSi原子に結合した水酸基の含有量が0.5質量%であるポリオルガノシロキサン(b−4)の60質量%トルエン溶液(7.7部)、トルエン(20.5部)を混合し、アンモニア水(0.5部)を添加し、25〜30℃で12時間攪拌した。100〜110℃でアンモニア水とトルエンの混合物を留去した後、シロキサン分の濃度が40質量%となるようにトルエンを添加した。
(なお、これを120℃、減圧下でトルエンを留去したものは、25℃では流動性のない固体であった。)
この生成物(250部)に、次式で示されるポリオルガノヒドロシロキサン(C1−2)(0.2部)、及び、エチニルシクロヘキサノール(0.16部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.5部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
[比較例4]
ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−1)(45部)、
水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−1)(15部)、
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.82であり、Si原子に結合した水酸基の含有量が2.2質量%であるポリオルガノシロキサン(b−3)の60質量%トルエン溶液(66.7部)、
トルエン(6.5部)
を混合し、アンモニア水(0.5部)を添加し、25〜30℃で12時間攪拌した。100〜130℃でアンモニア水とトルエンの混合物を留去した後、120℃、減圧下でトルエンを留去した。
この生成物(100部)に、ポリオルガノヒドロシロキサン(C1−1)(0.18部)、ポリジオルガノヒドロシロキサン(C2−1)(1.17部)、及び、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(0.05部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.1部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
[比較例5]
ビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A−1)(37.5部)、
水酸基含有ポリジメチルシロキサン(a−1)(32.5部)、
Me3SiO1/2単位及びSiO2単位を含有し、Me3SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.82であるポリオルガノシロキサン(b−1)の60質量%トルエン溶液(50部)、
トルエン(13.3部)
を混合し、100〜130℃でトルエンを留去した後、120℃、減圧下でトルエンを留去した。従って、(a−1)及び(b−1)成分は縮合反応が実質的になされていない。
この生成物(100部)に、ポリオルガノヒドロシロキサン(C1−1)(0.16部)、ポリジオルガノヒドロシロキサン(C2−1)(1.08部)、及び、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(0.05部)、白金分を0.5質量%含有する白金−ビニル基含有シロキサン錯体のシリコーン溶液(0.1部)を添加し混合し、シリコーン粘着剤組成物を調製した。このシリコーン粘着剤組成物の粘度、粘着力、プローブタック、針入度、シリコーン移行、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例6]
市販の真空用シリコーングリース(商品名HIVAC−G、信越化学工業(株)製)の粘度、針入度、剥離時の凝集破壊の有無、試料採取性を測定した。結果を表1に示す。この真空用シリコーングリースは、末端がメチル基封鎖されたジメチルポリシロキサンと表面をシリコーン処理した微粉末シリカとを混練したオイルコンパウンドである。真空用シリコーングリースは硬化させることができず、流動性のないペースト状であるため粘着力、プローブタック,シリコーン移行の測定は行わなかった。剥離時の凝集破壊では、真空用シリコーングリースを厚み50μmのポリイミドフィルムに厚みが約1mmとなるようにヘラを用いて塗工してシートを作製した。
【0092】
【表1】


*1 溶剤を除去すると流動性のない固体となり、無溶剤型で塗工硬化することができなかった。
*2 流動性のないペースト状で粘度を測定できなかった。
*3 BM型回転粘度計を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)乃至(D)成分を含有する無溶剤付加型シリコーン粘着剤組成物を硬化させてなることを特徴とする宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
(A)下記一般式(1)で表される、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基含有有機基を有するポリジオルガノシロキサン、
b3-bSiO−[R2SiO]a−SiXb3-b (1)
(但し、Xは炭素数2〜10のアルケニル基含有有機基であり、Rは同一もしくは異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基である。aは整数で、50≦a≦2,000であり、bは1〜3の整数である。)
(B)下記に示す(a)成分のSiOR2基と(b)成分のSiOH基を縮合させた縮合反応物、
(a)下記一般式(2)で表される、分子鎖の両末端に水酸基又はアルコキシ基を有するポリジオルガノシロキサン、
(R2O)R12SiO−[R12SiO]c−SiR12(OR2) (2)
(但し、R1は同一又は異なっていてもよい炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、アルケニル基含有有機基を含まない。R2は水素原子又はR1であり、cは整数で、50≦c≦2,000である。)
(b)R13SiO1/2単位とSiO2単位、及びケイ素原子に結合した水酸基を有するシロキサン単位を含有し、R13SiO1/2単位/SiO2単位のモル比が0.6〜1.0であり、水酸基の含有量が0.1質量%以上1.8質量%未満であるポリオルガノシロキサン(R1は前記と同じ)、
(但し、(A)、(a)、(b)成分の合計100質量部に対して、(A)成分が10〜60質量部であり、(a)成分が5〜60質量部であり、(b)成分が5〜60質量部である。)
(C1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するポリオルガノヒドロシロキサン、
(C2)下記一般式(3)に示す両末端にSiH基を有するポリジオルガノヒドロシロキサン、
HR12SiO−[R12SiO]d−SiR12H (3)
(R1は前記と同じであり、dは整数で、5≦d≦500である。)
(但し、(A)成分のアルケニル基に対する(C1)成分のSiH基のモル数の比が0.2〜10であり、(C2)成分のSiH基のモル数の比が0.2〜3である。)
(D)白金族金属系触媒(白金族金属分として(A)、(a)、(b)成分の合計に対して質量基準で1〜500ppm)。
【請求項2】
シリコーン粘着剤組成物の25℃における粘度が5,000〜500,000mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
【請求項3】
厚み50μmのポリイミドフィルムに厚み0.5mmとなるようにシリコーン粘着剤組成物の粘着剤層を設けた粘着シートに、先端が平滑な直径5mmのプローブを速度1cm/秒で接触圧力が20g/cm2となるように垂直に押し付け、停止時間1秒後にプローブを引き離したときの力を測定することにより求めたプローブタックが、50〜500gfであることを特徴とする請求項1又は2記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
【請求項4】
厚み25μmのポリイミドフィルムに厚み40μmとなるようにシリコーン粘着剤組成物の粘着剤層を設けた幅25mmの粘着テープをステンレス板に貼り合わせ、この粘着テープを180°方向に300mm/分の速さで剥がした時の粘着力が、0.05〜4.0N/25mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
【請求項5】
太陽系小天体、固体惑星又は固体衛星の表面試料採取用である請求項1乃至4のいずれか1項記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品。
【請求項6】
0.1〜30mmの厚みを持つように塗工、硬化又は成型した請求項1乃至4のいずれか1項記載の宇宙空間用シリコーン粘着性物品を用いて、小惑星、彗星などの太陽系小天体、水星などの固体惑星、又は月などの固体衛星の表面試料を採取するための方法。

【公開番号】特開2012−41504(P2012−41504A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186328(P2010−186328)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】