説明

安全キャビネット

【課題】
プレフィルタとHEPAフィルタとを備えた安全キャビネットにおいて、プレフィルタ交換頻度を低減するとともに交換による汚染の可能性を低減する。
【解決手段】
安全キャビネット1の本体ケース1a内に作業空間3を形成し、その前面側に開閉可能に前面シャッター4を配置する。HEPAフィルタ吸い込み側空間12aには、HEPAフィルタ12と送風機12が、HEPAフィルタの上流側にはプレフィルタ18が配置されている。プレフィルタは、ロール状に巻きつけられたシート状のフィルタであって、繰り出し部に一端が巻きつけられており、巻き取り部に他端部が巻きつけられている。繰り出し部と巻き取り部の中間に平面状の濾材面が形成される。繰り出し部と巻き取り部のいずれかに、作業空間外からプレフィルタを回動させて濾材面を更新するハンドル17が付設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラフトチャンバーやバイオハザード対策用キャビネット、ケミカルハザード対策用キャビネット(以下総称して安全キャビネットと呼ぶ)に係り、特に、汚染物質の処理にプレフィルタを利用した安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
ドラフトチャンバーやナノテクノロジー用キャビネット、ケミカルハザード対策用キャビネット等の安全キャビネットを用いて作業空間内で作業するときは、装置正面に設けた前面シャッターの下部に形成された作業開口部から作業者が腕を挿入して、ナノ材料やケミカル汚染物質を取り扱っている。作業者が、実験中にナノ材料またはケミカル汚染物質により汚染されないよう、作業開口部にキャビネット内に吸い込まれる吸い込み気流またはエアバリアを発生させている。
【0003】
また、病原体等の研究に動物を作業空間で飼育するバイオハザード対策用キャビネットでは、動物由来の発塵がバイオハザード対策用キャビネット内部から外部に漏れずにキャビネット内の作業空間に吸い込まれるよう、エアバリアを形成している。エアバリアの吸い込み気流は、キャビネット外の空気を作業開口部から作業空間内に導入する。作業空間内で取り扱うナノ材料由来の発塵や汚染物質は、この吸い込み気流と一緒に作業空間内に形成したプレフィルタに流入し、粗塵が除去される。
【0004】
プレフィルタより気流の下流側(2次側)にはHEPAフィルタが配置されており、HEPAフィルタで微細な塵埃が除去される。HEPAフィルタを通過した空気は、清浄空気となって排気口からキャビネット外へ排出される。動物を作業空間で飼育するバイオハザード対策用キャビネットの場合には、キャビネット外の塵埃の他に、動物の毛なども作業空間内に配置したプレフィルタで除去している。
【0005】
このような安全キャビネットの例が、特許文献1および非特許文献1に開示されている。プレフィルタが、作業空間内で最初に一般空気のホコリや粗塵、動物の毛などと、ナノ材料やケミカル汚染物質、病原体等を一緒に除去している。HEPAフィルタは、プレフィルタの下流側に配置されているので、大きな埃や粗塵を取り除いた後の、微細な汚染物質だけをHEPAフィルタが取り除いている。
【0006】
また、特許文献2には、排気浄化装置でロール状のフィルタを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−217735号公報
【特許文献2】特開平11−33325号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】株式会社ダルトン カタログ “ナノマテリアル対策キャビネット・ダルトン”、[online]、[平成22年6月28日検索]、インターネット(URL:http://www.dalton.co.jp/products/topics/nano/01.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の安全キャビネットにおいては、作業空間内でナノ粒子や汚染物質を取り扱うので、試験や観察等の作業終了後にフィルタの交換が、周期がそれほど短くはないといえ、必要となる。微細フィルタであるHEPAフィルタの交換周期は使用法にもよるが、数年に一度であるのに比べて、比較的大きな塵埃や異物を除去するプレフィルタの場合には、数ヶ月に1回交換という場合もある。
【0010】
ところで、HEPAフィルタの早期の目詰まりを防止するためにプレフィルタを設けているので、HEPAフィルタには、多量の微細な塵埃であるナノ粒子やケミカル汚染物質が多く付着する。このナノ粒子やケミカル汚染物質が付着したHEPAフィルタを交換する場合は、作業空間の背面に設けられている作業室内カバーを開け、HEPAフィルタ側に設けたビニールバッグでHEPAフィルタを覆い、HEPAフィルタに付着した汚染物質に触れることなく、HEPAフィルタを取り出す構造になっている。このように、交換周期の長いHEPAフィルタは、ビニールバッグで覆いながら取り出すので、作業者が汚染する可能性は少ない。
【0011】
これに対して、プレフィルタは最初に比較的大きな塵埃を除去し、HEPAフィルタに比べて早く目詰まりを起こすので、HEPAフィルタより交換頻度が多くなる。しかも、プレフィルタは作業空間内にあるので、プレフィルタを取り出すときに、作業者は汚染物質の存在している空間に腕を入れる必要がある。また、プレフィルタには、大きな塵埃だけではなく、汚染物質も付着している。安全キャビネットのプレフィルタ交換作業は、作業者が汚染物質に接触する機会を与える。
【0012】
つまり、交換周期の短いプレフィルタを交換する場合に、作業者が取り扱いを誤ると、作業者が汚染するおそれが生じる。上記従来技術のいずれにおいても、プレフィルタの交換時には、汚染物質がある空間に作業者が腕を入れ、汚染したプレフィルタをそのまま取り出す必要があった。また、プレフィルタの交換周期はHEPAフィルタより短く、作業者が汚染物質に接触する機会が増している。
【0013】
また、上記特許文献2に記載のロール状のフィルタは、排気浄化装置に用いられるもので取り扱いスペースが十分に確保でき、また、空気吸込み側からロール状のフィルタを取り外すことができる。そのため、安全キャビネットのようにロール状のフィルタの空気吸込み側が汚染された空間で、その取り扱いにも十分な注意を要するような環境で用いられることについては、考慮されていない。
【0014】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、安全キャビネットにおいて、プレフィルタ交換頻度を低減するとともに交換による汚染の可能性を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する本発明の特徴は、本体ケース内に形成した作業空間の前面側に開閉可能に配置された前面シャッターと、本体ケース内であって作業空間の背面側に形成した排気空間に配置したHEPAフィルタと、作業空間内の空気から塵埃等の物質を濾過しHEPAフィルタの上流側に配置されたプレフィルタと、排気空間内であってHEPAフィルタの下流側に配置された送風手段とを備えた安全キャビネットにおいて、プレフィルタは、ロール状に巻きつけられたシート状のフィルタであって、この安全キャビネットの幅方向一端側に設けた繰り出し部に一端が巻きつけられており、安全キャビネットの幅方向他端側に設けた巻き取り部にプレフィルタの他端部が巻きつけられて、繰り出し部と巻き取り部の中間に平面状の濾材面を形成し、繰り出し部と巻き取り部との少なくともいずれかに、作業空間外からロール状のプレフィルタを回動させて濾材面を更新させる手段を付設したことにある。
【0016】
そしてこの特徴において、巻き取り部と繰り出し部とを、本体ケース内であって作業空間外に配置するのがよく、さらに、巻き取り部の近傍であって、本体ケース内の作業空間外の場所に、プレフィルタの汚染した濾材面に殺菌光を照射可能な殺菌灯を設けてもよい。
【0017】
また上記特徴において、プレフィルタとHEPAフィルタとを一緒に収納可能な防塵袋を作業室の近傍に設けるのがよく、プレフィルタの巻き取り側端を、空気を通さない包装材で構成してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プレフィルタとHEPAフィルタとを有する安全キャビネットにおいて、プレフィルタをロール状にして複数枚分を保持するようにしたので、HEPAフィルタに比べて交換周期の短いプレフィルタの交換周期を長くできる。その結果、フィルタ交換作業者が汚染物質に接触する機会を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る安全キャビネットの一実施例(実施例1)の縦断面図および正面図である。
【図2】図1に示した安全キャビネットにおけるHEPAフィルタの取り出しを説明する図である。
【図3】図1および図2中のA部詳細図である。
【図4】図3のB−B矢視断面図である。
【図5】本発明に係る安全キャビネットの他の実施例(実施例2)の縦断面図および正面図である。
【図6】図5に示した安全キャビネットにおける、プレフィルタの取り付けを説明する図である。
【図7】図5に示した安全キャビネットにおけるプレフィルタの取り付け方法を説明する図である。
【図8】本発明に係る安全キャビネットのさらに他の実施例(実施例3)の縦断面図および正面図である。
【図9】図8のD−D矢視断面図である。
【図10】図9の変形例であり、図8のD−D矢視断面図である。
【図11】図9の他の変形例であり、図8のD−D矢視断面図である。
【図12】本発明にかかる安全キャビネットのさらに他の実施例(実施例4)の縦断面図および正面図である。
【図13】図12に示した安全キャビネットにおけるHEPAフィルタとプレフィルタの一括取り出視を説明する図である。
【図14】本発明に係るプレフィルタの一実施例の展開図である。
【図15】図14に示したプレフィルタの取り出しを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のいくつかの実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1ないし図4を用いて、本発明の実施例1を説明する。図1は、本発明にかかる安全キャビネットの一つであるケミカルハザード対策用キャビネットの図であり、同図(a)はその縦断面図、同図(b)は正面図である。図2は、図1に示した安全キャビネット1に備えられたHEPAフィルタ12を取り出す説明図であり、同図(a)はその縦断面図、同図(b)は全面カバー4を開けた状態の正面図である。図3は、図1および図2のA部の詳細で、プレフィルタ18の取り付け(同図(a)、取り外し(同図(b))を説明する図である。図4は、図3(a)のB−B矢視断面図である。なお、以下の説明においては、安全キャビネット1の中で、装置内に送風機を配置したものをケミカルハザード対策用キャビネット、装置外に送風機を配置したものをドラフトチャンバーと呼ぶこともある。ただし、装置内部の気流の流れは両者とも同様である。
【0022】
安全キャビネット1では、試験や観察等を行う作業空間3を中心にして、前面側には上下に移動可能な前面シャッター4が設けられている。作業空間3の背面側上部には、HEPAフィルタ12を取り出す開口を覆ってカバー13が設けられている。カバー13は、パッキン14を介して開口を密封している。作業空間3の背面側下部には、詳細を後述するプレフィルタ18がフィルタ面を垂直にして設けられており、作業空間3内で発生した汚染物質や塵埃等をフィルタリングする。
【0023】
作業空間3の底面は、作業台2になっている。作業台2の下方の空間および作業空間3の背面側の空間、作業空間3の上方の空間は連通しており、作業空間3へ流入し作業空間3で汚染した空気から塵埃や汚染物質を取り除いて外部へ排気する流路となっている。そのため、作業空間3の背面のHEPAフィルタ吸い込み側空間12aには、HEPAフィルタ12が取り付けられており、HEPAフィルタ12の上方には、送風機5が取り付けられている。安全キャビネット1の本体ケース1aの天井部には、排気口8が形成されている。
【0024】
このように構成した安全キャビネット1における空気の流れを、以下に説明する。前面シャッター4の下には作業開口部6が形成されており、送風機5により作業開口部6から安全キャビネット1外の空気が吸い込まれ、流入気流7が形成される。流入気流7は、作業空間3内に入る。流入気流7には、ケミカルハザード対策用キャビネット1を配置した室内の埃や塵埃が含まれる。
【0025】
作業空間3に入った流入気流7は、作業空間3内で取り扱われている汚染物資10と一緒に、プレフィルタ18で比較的大きな塵埃や埃が除去される。そして、プレフィルタ18の風下に設けたHEPAフィルタ12で、ナノ粒子や汚染物質10がさらにフィルタリングされる。HEPAフィルタ12を通過した清浄空気は、送風機5から排気口8へ排出される。このとき、図示しない作業者は作業開口部6から作業空間3に腕を挿入し、作業空間3内でナノ粒子や汚染物質10を取り扱う。作業開口部6から流入した流入気流7により、作業空間3内の汚染物質10がケミカルハザード対策用キャビネット1の外に漏れ出るのを防止している。
【0026】
作業空間3の背面に配置したプレフィルタ18は、比較的大きな塵埃や埃を気流の流れの最初に除去し、HEPAフィルタ12に直接大きな塵埃や埃が付着するのを防止している。HEPAフィルタ12もプレフィルタ18も、塵埃が付着すると空気が流れにくくなり、空気の流動抵抗が所定以上になると交換が必要になる。プレフィルタ18を設けてHEPAフィルタ12が大きな塵埃により目詰まりするのを防止し、HEPAフィルタ12の長寿命化を図っている。
【0027】
上述したようにHEPAフィルタ12もプレフィルタ18も、流動抵抗が所定以上になれば交換する。そこで、HEPAフィルタ12とHEPAフィルタ12を取り出すためのカバー13の間には、ビニールバッグ15aが装着されている。このビニールバッグ15aは、空気の漏れない袋形状または機密性が保たれるのであればビニール製でなくとも良い。
【0028】
HEPAフィルタ12に塵埃が詰まり、取り出す必要がある場合は、図2に示すように、カバー13を取り外し、ビニールバッグ15aにHEPAフィルタ12を収容する。そして、鋏や溶着機等の切断手段30を用いて、HEPAフィルタ12が収容されたビニールバッグ15bの途中を切り取り、それとともにビニールバッグ15a、15bの両切断端をそれぞれ溶着して密閉する。その後、ケミカルハザード対策用キャビネット1の外に取り出す。これにより、HEPAフィルタ12交換時にも、作業者がHEPAフィルタ12に付着した汚染物質10に触れる可能性を排除できる。なお、図2(b)において15bはHEPAフィルタ12が収容されたビニールバッグ15aは、何も入っていないビニールバッグである。
【0029】
HEPAフィルタ12の取り出しは、以上のようにして周囲を汚染することなく実行できる。一方、作業空間3に配置したプレフィルタ18については、以下のようにして周囲の汚染を防止する。作業空間3には、ロール状プレフィルタ18が配置されている。ロール状プレフィルタ18の下方に位置する作業台2の端部には、下面側にロール状プレフィルタ18を回転させるハンドル17が取り付けられている。
【0030】
図3(a)に示すように、作業台2の端部に回転座受け23が取り付けられている。この回転座受け23に上述のハンドル17が固定されている。ハンドル17の操作側は、作業台2の下方であって本体ケース1a外まで延びており、作業空間3から完全に隔離されている。回転座受け23には、ロール状プレフィルタ18が取り付けられている。
【0031】
図3(b)に示すように、回転座受け23と同心に回転座22が連接している。回転座22には、ロール状プレフィルタ18が嵌合している。ロール状プレフィルタ18の上部側面には、このフィルタが回転座22上で倒れないようにするためプレフィルタガイド20が配置されている。汚染雰囲気とは異なる一般空気の雰囲気中からハンドル17を回すと、回転座受け23に連接した回転座22が回転する。回転座22に取り付けたロール状プレフィルタ18は、フィルタ18の剛性が高いので、座屈せずに図の左右方向に展開する。
【0032】
すなわち、図4に示すように、右側の軸26には、ロール状プレフィルタ18を構成する濾材の繰り出し先端部が巻きつけられており、左側の軸にはロール状プレフィルタ18の濾材の未使用部が、ロール状に積層されて取り付けられている。ロール状プレフィルタ18の回転の軸26をハンドル17で回すと、濾材は作業空間3の左側から右側に伸展する。
【0033】
作業空間3の汚染物質や塵埃を含んだ空気は、ロール状プレフィルタ18により汚染物質や塵埃を濾過され、HEPAフィルタ吸い込み側空間12aに流れる。流動抵抗の増加等でロール状プレフィルタ18の濾材に塵埃が多量に付着したと判断した場合、ハンドル17を回して新しい濾材の部分を作業空間3内に導き、新しい濾材面で、集塵を開始する。
【0034】
さらに、濾材面が汚染し尽くして新しい濾材面が残っていないときは、図3(b)に示すように、予め準備したビニールバッグ15に巻き取られたロール状プレフィルタ18を収納する。このとき、HEPAフィルタ12用のビニールバッグ15を用いて、HEPAフィルタ12と一緒に収納するようにすれば、交換における作業者の汚染をより防止できる。
【実施例2】
【0035】
図5ないし図7を用いて、本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネット(安全キャビネット)の他の実施例(実施例2)について説明する。図5は安全キャビネット1の縦断面図(図5(a))および正面図(図5(b))である。なお、この図5(b)では、左半に正面図、右半に前面シャッター4の奥部での一部断面正面図で示している。図6は図5のC−C断面図、図7は、プレフィルタ18を軸22aへ装着および軸22bから取り外す様子を説明する図である。
【0036】
実施例1と同様に、ロール状プレフィルタ18は、作業空間3内に配置され、作業空間3内で取り扱う汚染物質10ととともに、塵埃を最初に除去する。本体ケース1a内であって作業空間3外の両側部には、回転座22a、22bが設けられている。回転座22a、22bはハンドル17に連接し、ハンドル17を回すと回転座22bが回転する。本体ケース1aの回転座22a、22bに対応した部分の外表面には、プレフィルタ交換用カバー24a、24bがねじ止めされている。ハンドル17および回転座22a、22b、プレフィルタ交換用カバー24a、24bは、ケミカルハザード対策用キャビネット1の左右に、同様に配置されている。
【0037】
図6を参照して、作業空間3内の流入気流7からロール状プレフィルタ18の濾材が塵埃を除去する。ロール状プレフィルタ18で除去しきれなかった微細な塵埃は、HEPAフィルタ吸い込み側空間12aに流入する。新品のロール状プレフィルタ18aを取り付ける場合、プレフィルタ交換用カバー24aを開け、回転座22aに設置する。本体ケース1aの作業空間3側にある側壁には、濾材が出入りできるようにプレフィルタ出入り口25が形成されており、このプレフィルタ出入り口25から濾材を作業空間3内に取り出す。そして、作業空間3内で対向するプレフィルタ出入り口25へと導く。
【0038】
反対側の回転座22bにロール状プレフィルタ18aの端部を引き込む場合は、反対側のプレフィルタ交換用カバー24bを開ける。そして、引っ掛け金具31を用いてプレフィルタ出入り口25からプレフィルタ18aの濾材を引き込み、反対側の回転座22bにセットする。
【0039】
ケミカルハザード対策用キャビネット1を使用中に、作業空間3内のロール状プレフィルタ18の濾材面が塵埃により汚れて目詰まりしたときには、プレフィルタ交換用カバー24bを開け、ハンドル17(図示せず)を回してロール状プレフィルタ18の濾材面を移動させ、新しい濾材面を作業空間3内に導く。この操作により、ロール状プレフィルタ18を取り外さなくとも、作業空間3の外側からプレフィルタ18の濾材面を更新できる。
【0040】
この様子を、図7に示す。図7(a)に示すように、新品ロール状プレフィルタ18aを左側の回転座22aに設置し、濾材をプレフィルタ出入り口25aから作業空間3内に導く。右側では、図7(b)に示すように、新品のロール状プレフィルタ18aの濾材を回転座22bに固定した軸26に巻きつけるために、プレフィルタ出入り口25bまでロール状プレフィルタ18aの先端を導く。図7(c)に示すように、新品のロール状プレフィルタ18aを軸26に引っ掛けハンドル17を回す。軸26に新品のロール状プレフィルタ18aが巻きつけられる。
【0041】
プレフィルタ18のロールされていたすべての濾材を使い切ったときには、図7(d)に示すように、汚染されたロール上プレフィルタ18bを回収する。すなわち、作業空間3内で塵埃を除去し、軸26側に回収された汚染ロール状プレフィルタ18bを、ハンドル17を回して全て巻き終える。その後、軸26と一緒に汚染したロール状プレフィルタ18bを回転座22から外し、廃棄する。この作業は、汚染物質10が存在する作業空間3の外側で実施できる。
【0042】
なお、この廃棄作業における作業者の汚染を低減するために、巻き取り側の回転座22bの近傍の床面に開口とこの開口を開閉する部材を設け、その背面側にビニールバッグ15を設置しておけば、巻き取ったロール状プレフィルタ18bをこの開口から落とし込むことにより汚染したロール状プレフィルタ18bを、周囲を汚染することなく容易に回収できる。
【実施例3】
【0043】
本発明に係る安全キャビネット1のさらに他の実施例(実施例3)を、図8ないし図11を用いて説明する。図8は、安全キャビネットの縦断面図(同図(a))および正面図(同図(b))である。図5の場合と同様、図8(b))では、左半を正面図、右半を全面シャッターの奥部での一部断面正面図としている。図9ないし図11は、図8のD−D断面であり、いくつかの変形例を含んでいる。
本実施例では、ロール状プレフィルタ18の取り付け方法と操作方法は、実施例2と同様である。
【0044】
本実施例の特徴は、図8(b)に示すように、汚染ロール状プレフィルタ18bの近傍に殺菌灯28を配置したことにある。新品ロール状プレフィルタ18aが取り付けられている様子は、実施例2と同様である。図8のD−D断面である図9に示すように、汚染ロール状プレフィルタ18bを巻き取る側の近傍に、殺菌灯28が配置されている。殺菌灯28の位置は、本体ケース1aが安全キャビネット1の左右両側部に形成する非作業空間33内であって、巻き取り側の非作業空間33内である。プレフィルタ出入り口25からは少し離れた位置とする。
【0045】
殺菌灯28を安全キャビネット1内に設けているので、殺菌灯28から照射される紫外線が安全キャビネット外に漏れて、人体に悪影響を与えるおそれはない。汚染したロール状プレフィルタ18bは、プレフィルタ出入り口25から非作業空間33に導かれる。そして、殺菌灯28の紫外線を浴びることにより、プレフィルタ18bに付着した病原体などの汚染物質は滅菌される。汚染したロール状プレフィルタ18bを装置外に回収するときは、紫外線により汚染物質が予備的に処理される。本実施例は、病原体などを持つ動物を飼育する安全キャビネットに用いるプレフィルタを、作業空間内で処理するのに有効である。
【0046】
図10に、図9の変形例を示す。本変形例では、図9の実施例に比べて殺菌灯28から照射される紫外線の濾材に当たる面積を広くしている。プレフィルタ出入り口25から本体ケース1aが形成する非作業空間33に出た汚染ロール状プレフィルタ18bは、非作業空間33に設けたローラー32により方向を変え、安全キャビネット1の後部の非作業空間33に設けた軸22に巻き取られる。
【0047】
殺菌灯28は、ローラー32と軸22の間にある汚染ロール状プレフィルタ18bの濾材が紫外線に当たるように、配置されている。軸22がローラー32より安全キャビネット1の前側に配置されているときは、プレフィルタ18の濾材に付着した汚染物質が多い側に紫外線が当たるよう、殺菌灯28の配置を変更する必要がある。本変形例では図9に示した実施例よりも、長時間濾材に紫外線を照射することが可能なので、病原体などの汚染物質を効果的に処理できる。
【0048】
図11に、殺菌灯28の位置を可変にする他の変形例を示す。新品ロール状プレフィルタ18aが取り付けられている様子は、図9および図10と同様である。汚染ロール状プレフィルタ18bは、プレフィルタ出入り口25から本体ケース1aが形成する非作業空間33に導かれ、この非作業空間に設けた軸26に巻き付けられる。軸26へ巻き始めて(同図(a)参照)から、軸26に相当量が巻きついた状態(同図(b)参照)まで変化しても、殺菌灯28から汚染ロール状プレフィルタ18bの濾材までの距離αが一定になるように、殺菌灯28の位置を変化させる図示しない手段を設けている。紫外線は被射体との距離が短くなると殺菌効果は増すが、紫外線が照射される面積が小さくなる。そこで、軸26の回転数に応じて殺菌灯28を移動させ、汚染ロール状プレフィルタ18bと殺菌灯28間の距離αを一定に保つ。この動作により、汚染ロール状プレフィルタ18bに対する紫外線の照射面積と照射強度が一定に保たれる。
【実施例4】
【0049】
図12および図14を用いて、本発明に係る安全キャビネット1のさらに他の実施例(実施例4)を説明する。図12(a)は安全キャビネット1の縦断面図であり、図12(b)は、後述するHEPAフィルタ交換カバー13を取り外した正面図であり、右半がビニールバッグを取り付けた正面図、左半がビニールバッグを省いた正面図である。図13は、図12と同様の安全キャビネット1の縦断面図であり、汚染ロール状プレフィルタ18bとHEPAフィルタ12とを、一体的に取り出す様子を説明する図である。
【0050】
本実施例では、プレフィルタ18は作業空間3の境ではなくHEPAフィルタ吸い込み空間12aであって、HEPAフィルタ12の真下に配置されている。その他の構成は、上述各実施例と同じである。プレフィルタ18は、ロール状プレフィルタ18である。ロール状プレフィルタ18を繰り出すためのハンドル17は、安全キャビネット1の背面側に設けられている。また、ロール状プレフィルタ18の濾材は水平に配置されている。
【0051】
HEPAフィルタ12の前面には、ビニールバッグ15が配置されている。ロール状プレフィルタ18とビニールバッグ15の間には、プレフィルタ部室内カバー29が配置されている。プレフィルタ部室内カバー29の取り付け面にはパッキンが保持され、密閉性を保っている。密閉性のあるプレフィルタ部室内カバー29により、汚染空気がHEPAフィルタ12を通過しないで送風機5に吸込まれることを防止している。ビニールバッグ15と作業空間3の間には、HEPAフィルタ交換カバー13が設けられている。HEPAフィルタ交換カバー13は、パッキン14を挟んで作業空間3を構成する壁面に取り付けられている。そのため、作業空間3の汚染がHEPAフィルタ12を通らずに、直接、送風機5に吸込まれることが防止される。
【0052】
HEPAフィルタ交換カバー13を取り外した図12(b)を参照すると、HEPAフィルタ12の上流側にプレフィルタ部室内カバー29が見えている。安全キャビネット1の本体背面には、ロール状プレフィルタ18に連接する形でハンドル17が配置されている。ロール状プレフィルタ18とハンドル17の位置関係や、回転座22などを有する点は上記各実施例と同様である。ハンドル17や回転座22が取り付けられている本体ケース1a等に気流の漏れがあっても、ロール状プレフィルタ18を設けたHEPAフィルタ吸い込み側空間12aは、安全キャビネット1外に対し陰圧となっているので、安全キャビネット1の内部の汚染が、外部へ漏れるおそれはない。
【0053】
本実施例では、上記各実施例と同様に汚染物質3が流通する流路にロール状プレフィルタ18を配置しているので、このプレフィルタ18bの濾材が汚れて目詰まりしてきたら、ハンドル17を回して新しい濾材面に変える。この作業によりロール状プレフィルタ18を安全キャビネット1から取り出す交換周期を長くすることが可能となる。
【0054】
図13を用いて、本実施例の特徴であるHEPAフィルタ12とプレフィルタ18の一括交換の様子を説明する。ロール状プレフィルタ18の交換周期を長くすることができるので、交換周期をHEPAフィルタ12と合わせれば、同時交換が可能となる。ロール状プレフィルタ18とHEPAフィルタ12を一括で取り出すときは、初めにHEPAフィルタ交換カバー13を取り外す。その後、ビニールバッグ15aを引き出す。ビニールバッグ15aを引き出す際に、ビニールバッグ15aでHEPAフィルタ12を包むようにしてHEPAフィルタ12を取り外し、ビニールバッグ15a内に収容する。この操作は、汚染したHEPAフィルタ12に直接触れないので、交換作業時に汚染の拡大を防止できる。
【0055】
次にプレフィルタ部室内カバー29を取り外し、汚染したロール状プレフィルタ18をビニールバッグ15b内に回収する。この作業でも、汚染したロール状プレフィルタ18bに触れないので、交換作業時に汚染が拡大するのを防止できる。汚染したHEPAフィルタ12とロール状プレフィルタ18bをビニールバッグ15b内に回収したら、ビニールバッグ15bを切断手段30で切断し、端部を溶着密閉する。以上の作業により汚染したHEPAフィルタ12とロール状プレフィルタ18bを同時に密閉しながら一括取り出せる。
【0056】
交換用の新しいHEPAフィルタ12およびロール状プレフィルタ18a、新しいビニールバッグ15aの取り付け方法は省略する。本実施例では、HEPAフィルタ12とロール状プレフィルタ18を同時に交換できるので、HEPAフィルタ12とロール状プレフィルタ18を一体に成形したものを用いることもできる。
【実施例5】
【0057】
図14および図15を用いて、上記各実施例に適用可能なプレフィルタについて説明する。図14(a)は、新品ロール状プレフィルタ18aの斜視図であり、図14(b)は、汚染したプレフィルタ巻き取った最終状態に近い汚染ロール状プレフィルタ18bである。また、図14(c)は、汚染ロール状プレフィルタ18bを取り出した後の状態である。
図15は、図14に示した新品ロール状プレフィルタ18aの取り付け方を説明する図である。図14(b)に示すように、プレフィルタ18bの濾材の最終端は、包装材27で構成されている。包装材27の長さは、ロール状プレフィルタ18bの円周(1周分)より長い。
【0058】
図15の各図で、上段は上面図、下段は正面図である。図15(a)に示すように、作業空間3内に延びているプレフィルタ18において、濾材部分を使い果たしてしまったら、図15(b)に示すように、ハンドル17でロール状プレフィルタ18bを回転座22に巻き取った後、汚染したロール状プレフィルタ18bをプレフィルタ18の端部に設けた包装材27で覆う。図15(c)に示すように、汚染した部分に空気を通さない包装材27を巻き付け、回転座22から取り外す。このとき汚染した部分は、包装材27で覆われている。このようにロール状プレフィルタ18を構成したので、最終的に廃棄するまでロール状プレフィルタ18が周囲空気により擾乱されないので、汚染物質が拡大するのを防止できる。
【0059】
以上詳細を述べた各実施例によれば、安全キャビネットにおいて、汚染物質が付着したプレフィルタを装置外に取り出す交換周期を長くでき、作業者が汚染物質に触れる可能性を減らすことが可能となる。また、プレフィルタとHEPAフィルタを一緒にビニールバッグ内に収容する場合には、汚染物質に作業者が触れる機会を低減できる。さらに、廃棄前に紫外線を照射する実施例では、汚染を低減した状態でプレフィルタをビニールバッグに収容するので、周囲環境への汚染を低減できる。
【符号の説明】
【0060】
1…安全キャビネット(ケミカルハザード対策用キャビネット)
1a…本体ケース
2…作業台
3…作業空間
4…前面シャッター
5…送風機(送風手段)
6…作業開口部
7…流入気流
8…排気口
9…排気空気
10…汚染物質
12…HEPAフィルタ
12a…HEPAフィルタ吸い込み側空間(排気空間)
13…HEPAフィルタ交換カバー
14…パッキン
15…ビニールバッグ(防塵袋)
15a…何も入っていないビニールバッグ
15b…HEPAフィルタを収容したビニールバッグ
16…室内吸込口
17…ハンドル(濾材面更新手段)
18…ロール状プレフィルタ
18a…新品ロール状プレフィルタ
18b…汚染ロール状プレフィルタ
19…プレフィルタ芯
20…プレフィルタガイド
22…回転座
22a…回転座(繰り出し部)
22b…回転座(巻き取り部)
23…回転座受け
24…プレフィルタ交換用カバー
25…プレフィルタ出入り口
26、26a、26b…軸
27…包装材
28…殺菌灯
29…プレフィルタ部室内カバー
30…切断手段
31…引っ掛け金具
32…ローラー
33…非作業空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ケース内に形成した作業空間の前面側に開閉可能に配置された前面シャッターと、前記本体ケース内であって前記作業空間の背面側に形成した排気空間に配置したHEPAフィルタと、前記作業空間内の空気から塵埃等の物質を濾過し前記HEPAフィルタの上流側に配置されたプレフィルタと、前記排気空間内であって前記HEPAフィルタの下流側に配置された送風手段とを備えた安全キャビネットにおいて、
前記プレフィルタは、ロール状に巻きつけられたシート状のフィルタであって、この安全キャビネットの幅方向一端側に設けた繰り出し部に一端が巻きつけられており、安全キャビネットの幅方向他端側に設けた巻き取り部に前記プレフィルタの他端部が巻きつけられて、前記繰り出し部と前記巻き取り部の中間に平面状の濾材面を形成し、前記繰り出し部と巻き取り部との少なくともいずれかに、前記作業空間外からロール状の前記プレフィルタを回動させて濾材面を更新させる手段を付設したことを特徴とする安全キャビネット。
【請求項2】
前記巻き取り部と前記繰り出し部とを、前記本体ケース内であって前記作業空間外に配置したことを特徴とする請求項1に記載の安全キャビネット。
【請求項3】
前記巻き取り部の近傍であって、前記本体ケース内の前記作業空間外の場所に、前記プレフィルタの汚染した濾材面に殺菌光を照射可能な殺菌灯を設けたことを特徴とする請求項2に記載の安全キャビネット。
【請求項4】
前記プレフィルタと前記HEPAフィルタとを一緒に収納可能な防塵袋を前記作業室の近傍に設けたことを特徴とする請求項1に記載の安全キャビネット。
【請求項5】
前記プレフィルタの巻き取り側端を、空気を通さない包装材で構成したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の安全キャビネット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−35236(P2012−35236A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180361(P2010−180361)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】