安全分析システム
【課題】
労働災害の発生以前に、労働災害の発生を予測することのできる安全分析システムの制御方法を提供する。労働災害発生の重大性及び発生可能性を定量的に評価可能で、且つ低コストで実現できる安全分析システムの制御方法を提供する。
【解決手段】
携帯情報端末で作業者の作業情報及び前記作業者の作業に伴う安全情報を収集し、労働災害の発生を予測する安全分析システムの制御方法であって、前記携帯情報端末が、少なくとも前記作業者の作業ステージ情報、職種情報、作業内容情報及び作業場所情報を含む作業情報と、不安全状態情報及び安全レベル情報を含む安全情報を同時に収集する作業及び安全観測記録ステップと、前記情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、前記コンピュータが、前記情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、前記分析ステップにおける分析結果を作業者にフィードバックする評価ステップを有するように構成した。
労働災害の発生以前に、労働災害の発生を予測することのできる安全分析システムの制御方法を提供する。労働災害発生の重大性及び発生可能性を定量的に評価可能で、且つ低コストで実現できる安全分析システムの制御方法を提供する。
【解決手段】
携帯情報端末で作業者の作業情報及び前記作業者の作業に伴う安全情報を収集し、労働災害の発生を予測する安全分析システムの制御方法であって、前記携帯情報端末が、少なくとも前記作業者の作業ステージ情報、職種情報、作業内容情報及び作業場所情報を含む作業情報と、不安全状態情報及び安全レベル情報を含む安全情報を同時に収集する作業及び安全観測記録ステップと、前記情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、前記コンピュータが、前記情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、前記分析ステップにおける分析結果を作業者にフィードバックする評価ステップを有するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造現場等で発生する事故を防止するために、労働災害の発生を予測する安全分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1999年、厚生労働省は、労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS:Occupational Health and Safety Management System)の指針を告示した。OHSMSは、環境マネジメントシステムと同様に、計画(Plan)、実施・運用(Do)、点検・是正(Check)、見直し(Act)の順に、いわゆるPDCAサイクルに則って実施する。計画時にリスク評価が実施され、このサイクルを繰り返すことによって、リスクが継続的に低減される仕組みになっている。昨今、民間企業によるOHSMS導入の動きは顕著である。企業においては、業務上の設備、作業に関するリスク評価及びリスク管理が求められている。
【0003】
このリスク評価の具体的な実施方法は、厚生労働省の指針には明確に定められていない。しかし、OHSMS審査機関の推奨する標準的な方法として、評価対象となる業務を工程に分け、工程毎にリスクによる危害を想定し、この危害の重大性及び発生可能性の両面からリスクを定性的、定量的に評価するものが知られている。
【0004】
この労働災害を防止するための具体的なシステムとして、過去に発生した労働災害のデータベースを構築し、このデータに基づいて新たな事故を防止するシステムが提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のシステムはいくつかの問題点を有している。第1に、既に発生した労働災害をもとに、同一又は類似の災害の再発を防止するシステムであるため、この範囲でしか効果を得ることができない。つまり、新設した工場及び新たに追加した作業工程等における新規な作業に対しては、事故を防止することができない。
【0006】
第2に、事故が発生するまでは、たとえ危険な作業等であっても、看過されてしまう可能性がある。
【0007】
第3に、計画時のリスク評価において、重大性及び発生可能性を評価することが困難であるという問題がある。この重大性とは、業務の各工程で労働災害が発生した場合に、どの程度の災害が発生するかを示す指標である。この重大性の評価においては、予め発生する災害を決定しておかなければ、評価することはできない。したがって、各工程の内容を理解しているレベルやこの工程に潜む危険を予知する感度など、個人のスキルで重大性の評価の精度が大きく変わってしまうという問題を有している。
【0008】
また、発生可能性とは、どの程度の確率で業務の各工程に従事するかを示す指標である。この発生可能性の評価においては、精度向上のために定量的に評価する必要がある。しかし、定量評価のためには、業務の各工程の時間的な割合を求めることが必要となり、この作業には膨大な時間及びコストが必要となるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−196448号公報
【特許文献2】特開平06−119310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、労働災害の発生以前に、労働災害の発生を予測することのできる安全分析システムの制御方法を提供する。つまり、事故の発生を前提としないOSHMSの制御方法を提供する。更に、労働災害発生の重大性及び発生可能性を定量的に評価可能で、且つ低コストで実現することのできる安全分析システムの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明に係る安全分析システムの制御方法は、携帯情報端末で作業者の動作の情報及び前記動作における不安全状態の情報を収集し、労働災害の発生を予測する安全分析システムの制御方法であって、前記携帯情報端末が、少なくとも前記作業者の作業ステージ情報、職種情報、作業内容情報、作業場所情報、不安全状態情報、安全レベル情報を収集する作業及び安全観測記録ステップと、前記情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、前記コンピュータが、前記情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、前記分析ステップにおける分析結果を作業者にフィードバックする評価ステップを有したことを特徴とする。
【0012】
この構成により、作業者の動作に関する情報(作業情報)と、安全情報を同時に収集することができるため、事故発生前に事故の重大性及び発生可能性を定量的に評価することができる。また、重大性及び発生可能性を評価するための情報収集を、携帯情報端末で行うため、情報の収集、集積及び解析を短時間で行うことができる。更に、収集する対象としている情報が、従来のOSHMSで利用していた労働災害情報ではなく、作業者の動作に関する情報であるため、大幅に増加した件数の情報を得ることができる。
【0013】
なお、携帯情報端末による情報収集は、携帯情報端末を所持する観測者が、工場や製造現場等を移動しながら行うように構成してもよく、又は、それぞれの作業者が携帯情報端末を所持し、携帯情報端末に搭載したセンサ等で自動的に行うように構成してもよい。
【0014】
上記の安全分析システムの制御方法において、前記分析ステップにおいて、集積した前記作業情報から作業の発生可能性を算出し、集積した前記安全情報から労働災害の重大性を算出し、前記発生可能性と前記重大性からリスクを定量的に評価することを特徴とする。この構成により、労働災害発生の重大性及び発生可能性を定量的に評価可能で、且つ低コストで実現することができる。
【0015】
上記の安全分析システムの制御方法において、前記記録集計ステップが、無線又は記録媒体を介して、前記携帯情報端末から前記コンピュータに前記情報を蓄積することを特徴とする。この構成により、複数の携帯情報端末を利用して情報を収集し、この情報をコンピュータに集積することができる。
【0016】
上記の安全分析システムの制御方法において、前記分析ステップが、前記作業ステージ情報、前記職種情報、前記作業内容情報、及び前記作業場所情報を有する要素作業項目と、前記不安全状態情報及び前記安全レベル情報を有する不安全行為項目について、クロス集計を行うことを特徴とする。
【0017】
この構成により、事故発生前に、事故発生の危険性を予測し、対策を講じることができる。また、事故発生の危険性のある要素作業を行う作業者に対して、この危険性を事前に通知することができる。具体的には、コンピュータから携帯情報端末に、事故発生の危険性の情報を送り、作業者に通知するように構成することができる。
【0018】
また、各要素作業項目の情報に対応する不安全行為項目の情報をデータベースとして集積する構成により、同様の要素作業項目を有する他の製造現場でも事故の危険性を予測することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るクレーンによれば、労働災害の発生以前に、労働災害の発生を予測することのできる安全分析システムの制御方法を提供することができる。つまり、本発明ではPDA(携帯情報端末)を用いて、実際の工場での作業情報と危険度を瞬間観測法(JISZ8141)により入力し、各作業における危険度を定量的に算出する。この安全分析システムの制御方法は、作業者の作業情報及び安全情報を同時に収集する点、及び既に発生した事故ではなく、その前段階である危険度を扱うことに特徴がある。作業頻度及び危険度が高い作業を事前に把握することで、危険度の少ない安全な職場を構築することができる。更に、多くの工場等の製造現場のデータを収集して、データベースを充実し、データの信頼性を上げることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態の安全分析システムの概念を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図3】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図4】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図5】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図6】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図7】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図8】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図9】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図10】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図11】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図12】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図13】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図14】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図15】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図16】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図17】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで集積した情報の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、工場等の作業者の作業状態を携帯情報端末(例えば、PDA、Personal Digital Assistant等)で、情報として収集する。この情報を、コンピュータに集積し、解析して、事故発生の危険性を事前に予測する。また、事故発生の予測を、コンピュータからPDAに送信し、事故発生の危険性を伴う作業を行う作業者に対して、注意喚起を行うシステムの制御方法である。
【0022】
つまり、PDAで情報を収集する作業及び安全観測記録ステップと、この情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、この情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、分析した結果を製造現場にフィードバックする評価ステップを有している。以下に、本発明に係る実施の形態の安全分析システムの制御方法について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の安全分析システムは、造船所、製鉄所等の製造業の作業場で利用することができる。ここでは、特に造船所の船殻を製造する工程で使用した場合の例を具体的に説明する。まず、システムの構成を説明する。この安全分析システムは、複数のPDAと、このPDAが取得した情報を集積し、解析するコンピュータからなる。このコンピュータは、複数のPDAと情報の授受を無線LAN又はBlue Tooth等の無線で行うように構成することが望ましい。
【0024】
なお、PDAによる情報取得は、観測者が造船所内を移動しながら、作業者を観察し、入力するように構成する。また、PDAに3次元加速度センサ、GPS等の各種センサを搭載するように構成し、このPDAを作業者がそれぞれ所持するようにしてもよい。この作業者が所持したPDAは、各種センサで自動的に情報を取得するように構成することができる。
【0025】
図1に、携帯情報端末(PDA等)による情報収集の概念を示す。このPDAは、少なくとも作業者の(1)作業ステージ情報、(2)職種情報、(3)作業内容情報、(4)作業場所情報、(5)不安全状態情報、(6)安全レベル情報を収集するように構成している。これらの情報をコンピュータは蓄積し、事故の発生を予測する。
【0026】
次に、収集する情報について説明する。図2及び3に、PDAで(1)作業ステージ情報を取得する際の様子を示す。図2は、船体ブロック名を示している。ここで、現在の船体(船殻)の製造には、ブロックごとに分割して製造し、各ブロックを船台でつなぎ合わせて建造する手法を用いている。また、図3に工程名を示している。この工程は、具体的には、工程1で鋼板の荷降ろしや板継ぎを行い、工程2及び3でロンジ取付やウェブ取付を行い、工程4及び5でウェブ起しやトランス起しを行う。また、工程5でパネル取付、ブロック及び外板起しを行い、工程6で船体ブロックの反転を行い、工程7で搬出を行う。
【0027】
図4に、PDAで(2)職種情報を取得する際の様子を示す。これは、作業者が所属するグループを示しており、例えば、配材は玉掛け作業、クレーン操作等を行う作業者のグループであり、鉄工は鋼材の位置合わせを行うため仮付け溶接をすることや、位置合わせのためのピースを取付ける作業グループであり、溶接は鋼材の溶接等を行う作業者のグループである。
【0028】
図5乃至7に、PDAで(3)作業内容情報を取得する際の様子を示す。これは、例えば図5Aは、配材を担当する作業者が工程1で行う作業内容を示している。つまり、作業者の担当及び工程毎に異なる作業内容情報を予め設定しておくことができる。
【0029】
図8に、PDAで(4)作業場所情報を取得する際の様子を示す。これは、作業者の足元の状態を示している。
【0030】
図9に、PDAで(5)不安全状態情報を取得する際の様子を示す。これは、作業者の担当毎に異なる不安全状態を示している。具体的には、作業者が安全帯を使用していない、若しくは正しく使用していない場合、例えば図9Cに示す安全帯未使用の情報をPDAが取得する。
【0031】
図10に、PDAで(6)安全レベル情報を取得する際の様子を示す。これは、例えば、安全帯不使用の場合は作業上のルール違反であり、正しくない使用の場合は、不足またはやや不足の情報を取得する。以上が、PDAが取得する各情報の詳細項目である。なお、図11乃至16に、PDAが取得する情報の定義を示す。
【0032】
次に、PDAが各情報を得る際の方法を説明する。第1の方法として、PDAを所持する観察者が、製造現場を見回り、情報を収集する方法がある。観察者は、視界に入った作業者について、PDAにそれぞれの情報を入力していく(瞬間観測法等)。このとき、PDAに図2乃至10に示すような表示を順次出力し、観察者が指先やタッチペン等で順次選択して入力するように構成することができる。
【0033】
第2の方法として、PDAに3次元加速度センサ、GPS等の各種センサを搭載するように構成し、このPDAを作業者がそれぞれ所持する方法がある。以下に、具体的に説明する。まず、PDAによる(1)作業ステージ情報、(3)作業内容情報、及び(4)作業場所情報の取得に関して説明する。コンピュータが、造船所の地図と、造船所内で建造中のブロックの位置等を情報として保持するように構成する。PDAは、このコンピュータの保持する情報と、PDAに搭載したGPSの位置情報を合成し、造船所内における作業者の位置を認識する。これにより、作業者が作業を行う船体ブロックのブロック情報を得ることができる。
【0034】
また、コンピュータが、各ブロックがどの作業工程にあるかを、工程管理の情報として保持するように構成する。この情報から、PDAは、作業者がこれから作業を行う工程の情報、つまり(3)作業内容情報を自動的に得ることができる。
【0035】
更に、コンピュータの保持する工程管理の情報と、PDAの保持するGPSによる位置情報を組み合わせて、PDAは作業者の足元の状態を認識することができる。つまり、図8に示す様に、作業者が傾斜したブロック上にいる、ブロック端部にいる、又は足場上にいる等の情報を取得することができる。
【0036】
次に、PDAによる(2)作業者の職種情報の取得に関して説明する。この職種情報は、作業者がPDAに入力することができる。また、予めPDAに登録しておいてもよい。更に、コンピュータに作業工程表及び作業員の割り振り情報を入力しておき、コンピュータからPDAに職種情報を送信するように構成してもよい。
【0037】
次に、PDAによる(5)不安全状態情報、(6)安全レベル情報の取得に関して説明する。これらの情報は、PDAに搭載した3次元加速度センサにより取得するように構成することができる。つまり、作業者が不安定な姿勢で作業を行い、バランスを崩した際に、大きな加速度を検出することができる。また、反射的に物を避けようとした際にも、大きな加速度を検出することができる。PDAは、この検出した情報から、作業者の姿勢を認識することができる。なお、作業者の靴、手袋、ヘルメット等に加速度センサを設置し、この加速度センサから作業者の安全状態を取得するように構成してもよい。頭部、手及び足が急に動く場合は、何かしら問題が発生している場合が多いためである。
【0038】
更に、作業者の重心の移動を検出し、このパターンから(5)不安全状態情報、及び(6)安全レベル情報を取得するように構成してもよい。具体的には、作業場の各所にビデオカメラを設置し、このカメラで作業者の姿勢を画像情報として取得し、この画像情報から作業者の重心を検出する。この作業者の重心の検出には、モーションキャプチャ法等の既存の方法を利用することができる。
【0039】
上記のようにして得た作業者の重心の情報を、連続的に蓄積する。この重心位置のゆらぎから、作業者の安全状態を判断することができる。すなわち、重心位置が規則的に変動している場合は、歩行などを行っていると判断することができ、この重心位置が変則的に変動する場合は、足下の状態が悪い等、安全レベルが低いと判断することができる(日本船舶海洋工学会2009年6月号「カオス解析による作業のための歩行路環境の安全評価に関する研究」参照)。
【0040】
なお、容易に作業者の安全レベルを取得するため、作業者の大腿骨の外側の出っ張りである大転子、又は腰等にマーカーを設置し、このマーカーの動きを作業者の重心に見立てて判断してもよい。ここで、作業者の安全レベルの判断は、PDA又はコンピュータで行うように構成する。
【0041】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、船体ブロック名の情報収集により、形状や作業環境の異なるブロック毎の特有の危険を予測することができる。同様に、作業者の職種は、工程、作業内容ごとに安全性を評価し、この情報を蓄積するため、細かい事故発生要因を予め知ることができる。なお、PDAで収集する情報の組み合わせは、この安全分析システムを適用する工場や製造現場ごとに適宜定めることができる。
【0042】
次に、コンピュータによる記録集計、分析及び評価を説明する。コンピュータでは、PDAから無線又はメモリーカード等の記録媒体を介して、情報を集積していく。この情報を分析して作業者の不安全状態の定量的把握を行う。つまり、(6)安全レベル情報において、例えば良好であれば1点、やや不足で2点、不足で3点、ルール違反で5点として、点数を積算し、点数の多い箇所に事故が発生する危険性があると判断する。なお、コンピュータは、気象情報等を取得するように構成してもよい。
【0043】
上記の構成により、作業内容及び工程と、不安全状態との因果関係を推定することができる。つまり、従来の既に発生した事故情報をもとにした分析に比べ、得られる情報量が莫大な量となるため、信頼性の高い因果関係を推定することが可能となる。また、PDAで取得した情報に加えて、過去に発生した災害の記録や、気象情報等も追加してもよい。この構成により、過去に類似した作業行動が行われる可能性のある場合、及び雨や気温が高い場合に発生しやすい事故等を予測することができる。
【0044】
なお、PDAで取得した情報の集積及び分析は、コンピュータを使用せずに、PDA相互で情報を共有し、PDA自体で集積及び分析を行うように構成してもよい。
【0045】
次に、上記の安全分析システムを造船所内で運用して取得したデータに関して説明する。図17に、作業工程1における溶接担当の行った作業(図7A参照)に関する情報を集計したグラフの1例を示す。横軸の観測件数は、PDAで収集した情報の合計数を示している。また、縦軸の度数は、PDAで収集した情報の合計の中で、ある作業がどの程度含まれているかを示している。グラフにおける1は本付け溶接、2は手直し、3は清掃、4は溶接付随作業を示している。なお、他の作業(溶接準備作業、自動溶接等)に関しては、グラフに示してはいないが、同様に作業情報を蓄積している。
【0046】
図17のグラフは、例えば、観測件数の合計が15件であった場合、その作業情報の内、本付け溶接1が50パーセントを占め、手直し2が20パーセント強、清掃3が10パーセント弱、溶接付随作業4が0パーセントとなっていることを示している。
【0047】
この観測件数が増加するにつれて、各作業の度数はある一定の値に収束していく。つまり、観測件数が少ない場合は、PDAを所持する観察者の判断の偏りや、センサ等を搭載
した作業者の仕事内容の偏り、天候、繁忙期及び閑散期等の影響がでる。しかし、PDAを所持する観察者又は作業者を変更しながら、観測件数を積み重ねていくと、各作業の度数は、工場毎に特有の値に収束することがわかった。つまり、この度数は、対象としている作業の発生可能性を定量的に評価したものと言える。なお、作業情報における度数の収束状況から、観測件数が十分であるか否かを容易に判断することができる。
【0048】
また、作業情報(作業ステージ、職種、作業内容及び作業場所情報)の収集と同時に行った安全情報(不安全状態及び安全レベル情報)の収集により、発生可能性と重大性の積をリスクとして、定量的に評価することができる。更に、改善作業等に伴い変化するリスクを可視化することができる。
【0049】
なお、本発明の安全分析システムにおいて、観察者がPDAを入力する場合、1回あたりの入力時間は30秒から75秒程度となった。作業情報及び安全情報を極めて短時間で取得することができるため、観察の時間及び時間帯をフレキシブルに選択することができる。つまり、時間を決めて複数の観察者が集合して行う従来の安全パトロール等と比べ、本発明の安全分析システムでは、隙間の時間で情報収集ができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造現場等で発生する事故を防止するために、労働災害の発生を予測する安全分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1999年、厚生労働省は、労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS:Occupational Health and Safety Management System)の指針を告示した。OHSMSは、環境マネジメントシステムと同様に、計画(Plan)、実施・運用(Do)、点検・是正(Check)、見直し(Act)の順に、いわゆるPDCAサイクルに則って実施する。計画時にリスク評価が実施され、このサイクルを繰り返すことによって、リスクが継続的に低減される仕組みになっている。昨今、民間企業によるOHSMS導入の動きは顕著である。企業においては、業務上の設備、作業に関するリスク評価及びリスク管理が求められている。
【0003】
このリスク評価の具体的な実施方法は、厚生労働省の指針には明確に定められていない。しかし、OHSMS審査機関の推奨する標準的な方法として、評価対象となる業務を工程に分け、工程毎にリスクによる危害を想定し、この危害の重大性及び発生可能性の両面からリスクを定性的、定量的に評価するものが知られている。
【0004】
この労働災害を防止するための具体的なシステムとして、過去に発生した労働災害のデータベースを構築し、このデータに基づいて新たな事故を防止するシステムが提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のシステムはいくつかの問題点を有している。第1に、既に発生した労働災害をもとに、同一又は類似の災害の再発を防止するシステムであるため、この範囲でしか効果を得ることができない。つまり、新設した工場及び新たに追加した作業工程等における新規な作業に対しては、事故を防止することができない。
【0006】
第2に、事故が発生するまでは、たとえ危険な作業等であっても、看過されてしまう可能性がある。
【0007】
第3に、計画時のリスク評価において、重大性及び発生可能性を評価することが困難であるという問題がある。この重大性とは、業務の各工程で労働災害が発生した場合に、どの程度の災害が発生するかを示す指標である。この重大性の評価においては、予め発生する災害を決定しておかなければ、評価することはできない。したがって、各工程の内容を理解しているレベルやこの工程に潜む危険を予知する感度など、個人のスキルで重大性の評価の精度が大きく変わってしまうという問題を有している。
【0008】
また、発生可能性とは、どの程度の確率で業務の各工程に従事するかを示す指標である。この発生可能性の評価においては、精度向上のために定量的に評価する必要がある。しかし、定量評価のためには、業務の各工程の時間的な割合を求めることが必要となり、この作業には膨大な時間及びコストが必要となるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−196448号公報
【特許文献2】特開平06−119310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、労働災害の発生以前に、労働災害の発生を予測することのできる安全分析システムの制御方法を提供する。つまり、事故の発生を前提としないOSHMSの制御方法を提供する。更に、労働災害発生の重大性及び発生可能性を定量的に評価可能で、且つ低コストで実現することのできる安全分析システムの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明に係る安全分析システムの制御方法は、携帯情報端末で作業者の動作の情報及び前記動作における不安全状態の情報を収集し、労働災害の発生を予測する安全分析システムの制御方法であって、前記携帯情報端末が、少なくとも前記作業者の作業ステージ情報、職種情報、作業内容情報、作業場所情報、不安全状態情報、安全レベル情報を収集する作業及び安全観測記録ステップと、前記情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、前記コンピュータが、前記情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、前記分析ステップにおける分析結果を作業者にフィードバックする評価ステップを有したことを特徴とする。
【0012】
この構成により、作業者の動作に関する情報(作業情報)と、安全情報を同時に収集することができるため、事故発生前に事故の重大性及び発生可能性を定量的に評価することができる。また、重大性及び発生可能性を評価するための情報収集を、携帯情報端末で行うため、情報の収集、集積及び解析を短時間で行うことができる。更に、収集する対象としている情報が、従来のOSHMSで利用していた労働災害情報ではなく、作業者の動作に関する情報であるため、大幅に増加した件数の情報を得ることができる。
【0013】
なお、携帯情報端末による情報収集は、携帯情報端末を所持する観測者が、工場や製造現場等を移動しながら行うように構成してもよく、又は、それぞれの作業者が携帯情報端末を所持し、携帯情報端末に搭載したセンサ等で自動的に行うように構成してもよい。
【0014】
上記の安全分析システムの制御方法において、前記分析ステップにおいて、集積した前記作業情報から作業の発生可能性を算出し、集積した前記安全情報から労働災害の重大性を算出し、前記発生可能性と前記重大性からリスクを定量的に評価することを特徴とする。この構成により、労働災害発生の重大性及び発生可能性を定量的に評価可能で、且つ低コストで実現することができる。
【0015】
上記の安全分析システムの制御方法において、前記記録集計ステップが、無線又は記録媒体を介して、前記携帯情報端末から前記コンピュータに前記情報を蓄積することを特徴とする。この構成により、複数の携帯情報端末を利用して情報を収集し、この情報をコンピュータに集積することができる。
【0016】
上記の安全分析システムの制御方法において、前記分析ステップが、前記作業ステージ情報、前記職種情報、前記作業内容情報、及び前記作業場所情報を有する要素作業項目と、前記不安全状態情報及び前記安全レベル情報を有する不安全行為項目について、クロス集計を行うことを特徴とする。
【0017】
この構成により、事故発生前に、事故発生の危険性を予測し、対策を講じることができる。また、事故発生の危険性のある要素作業を行う作業者に対して、この危険性を事前に通知することができる。具体的には、コンピュータから携帯情報端末に、事故発生の危険性の情報を送り、作業者に通知するように構成することができる。
【0018】
また、各要素作業項目の情報に対応する不安全行為項目の情報をデータベースとして集積する構成により、同様の要素作業項目を有する他の製造現場でも事故の危険性を予測することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るクレーンによれば、労働災害の発生以前に、労働災害の発生を予測することのできる安全分析システムの制御方法を提供することができる。つまり、本発明ではPDA(携帯情報端末)を用いて、実際の工場での作業情報と危険度を瞬間観測法(JISZ8141)により入力し、各作業における危険度を定量的に算出する。この安全分析システムの制御方法は、作業者の作業情報及び安全情報を同時に収集する点、及び既に発生した事故ではなく、その前段階である危険度を扱うことに特徴がある。作業頻度及び危険度が高い作業を事前に把握することで、危険度の少ない安全な職場を構築することができる。更に、多くの工場等の製造現場のデータを収集して、データベースを充実し、データの信頼性を上げることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態の安全分析システムの概念を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図3】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図4】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図5】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図6】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図7】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図8】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図9】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図10】本発明に係る実施の形態の安全分析システムが取得する情報の一例である。
【図11】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図12】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図13】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図14】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図15】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図16】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで定義した情報の一例である。
【図17】本発明に係る実施の形態の安全分析システムで集積した情報の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、工場等の作業者の作業状態を携帯情報端末(例えば、PDA、Personal Digital Assistant等)で、情報として収集する。この情報を、コンピュータに集積し、解析して、事故発生の危険性を事前に予測する。また、事故発生の予測を、コンピュータからPDAに送信し、事故発生の危険性を伴う作業を行う作業者に対して、注意喚起を行うシステムの制御方法である。
【0022】
つまり、PDAで情報を収集する作業及び安全観測記録ステップと、この情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、この情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、分析した結果を製造現場にフィードバックする評価ステップを有している。以下に、本発明に係る実施の形態の安全分析システムの制御方法について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の安全分析システムは、造船所、製鉄所等の製造業の作業場で利用することができる。ここでは、特に造船所の船殻を製造する工程で使用した場合の例を具体的に説明する。まず、システムの構成を説明する。この安全分析システムは、複数のPDAと、このPDAが取得した情報を集積し、解析するコンピュータからなる。このコンピュータは、複数のPDAと情報の授受を無線LAN又はBlue Tooth等の無線で行うように構成することが望ましい。
【0024】
なお、PDAによる情報取得は、観測者が造船所内を移動しながら、作業者を観察し、入力するように構成する。また、PDAに3次元加速度センサ、GPS等の各種センサを搭載するように構成し、このPDAを作業者がそれぞれ所持するようにしてもよい。この作業者が所持したPDAは、各種センサで自動的に情報を取得するように構成することができる。
【0025】
図1に、携帯情報端末(PDA等)による情報収集の概念を示す。このPDAは、少なくとも作業者の(1)作業ステージ情報、(2)職種情報、(3)作業内容情報、(4)作業場所情報、(5)不安全状態情報、(6)安全レベル情報を収集するように構成している。これらの情報をコンピュータは蓄積し、事故の発生を予測する。
【0026】
次に、収集する情報について説明する。図2及び3に、PDAで(1)作業ステージ情報を取得する際の様子を示す。図2は、船体ブロック名を示している。ここで、現在の船体(船殻)の製造には、ブロックごとに分割して製造し、各ブロックを船台でつなぎ合わせて建造する手法を用いている。また、図3に工程名を示している。この工程は、具体的には、工程1で鋼板の荷降ろしや板継ぎを行い、工程2及び3でロンジ取付やウェブ取付を行い、工程4及び5でウェブ起しやトランス起しを行う。また、工程5でパネル取付、ブロック及び外板起しを行い、工程6で船体ブロックの反転を行い、工程7で搬出を行う。
【0027】
図4に、PDAで(2)職種情報を取得する際の様子を示す。これは、作業者が所属するグループを示しており、例えば、配材は玉掛け作業、クレーン操作等を行う作業者のグループであり、鉄工は鋼材の位置合わせを行うため仮付け溶接をすることや、位置合わせのためのピースを取付ける作業グループであり、溶接は鋼材の溶接等を行う作業者のグループである。
【0028】
図5乃至7に、PDAで(3)作業内容情報を取得する際の様子を示す。これは、例えば図5Aは、配材を担当する作業者が工程1で行う作業内容を示している。つまり、作業者の担当及び工程毎に異なる作業内容情報を予め設定しておくことができる。
【0029】
図8に、PDAで(4)作業場所情報を取得する際の様子を示す。これは、作業者の足元の状態を示している。
【0030】
図9に、PDAで(5)不安全状態情報を取得する際の様子を示す。これは、作業者の担当毎に異なる不安全状態を示している。具体的には、作業者が安全帯を使用していない、若しくは正しく使用していない場合、例えば図9Cに示す安全帯未使用の情報をPDAが取得する。
【0031】
図10に、PDAで(6)安全レベル情報を取得する際の様子を示す。これは、例えば、安全帯不使用の場合は作業上のルール違反であり、正しくない使用の場合は、不足またはやや不足の情報を取得する。以上が、PDAが取得する各情報の詳細項目である。なお、図11乃至16に、PDAが取得する情報の定義を示す。
【0032】
次に、PDAが各情報を得る際の方法を説明する。第1の方法として、PDAを所持する観察者が、製造現場を見回り、情報を収集する方法がある。観察者は、視界に入った作業者について、PDAにそれぞれの情報を入力していく(瞬間観測法等)。このとき、PDAに図2乃至10に示すような表示を順次出力し、観察者が指先やタッチペン等で順次選択して入力するように構成することができる。
【0033】
第2の方法として、PDAに3次元加速度センサ、GPS等の各種センサを搭載するように構成し、このPDAを作業者がそれぞれ所持する方法がある。以下に、具体的に説明する。まず、PDAによる(1)作業ステージ情報、(3)作業内容情報、及び(4)作業場所情報の取得に関して説明する。コンピュータが、造船所の地図と、造船所内で建造中のブロックの位置等を情報として保持するように構成する。PDAは、このコンピュータの保持する情報と、PDAに搭載したGPSの位置情報を合成し、造船所内における作業者の位置を認識する。これにより、作業者が作業を行う船体ブロックのブロック情報を得ることができる。
【0034】
また、コンピュータが、各ブロックがどの作業工程にあるかを、工程管理の情報として保持するように構成する。この情報から、PDAは、作業者がこれから作業を行う工程の情報、つまり(3)作業内容情報を自動的に得ることができる。
【0035】
更に、コンピュータの保持する工程管理の情報と、PDAの保持するGPSによる位置情報を組み合わせて、PDAは作業者の足元の状態を認識することができる。つまり、図8に示す様に、作業者が傾斜したブロック上にいる、ブロック端部にいる、又は足場上にいる等の情報を取得することができる。
【0036】
次に、PDAによる(2)作業者の職種情報の取得に関して説明する。この職種情報は、作業者がPDAに入力することができる。また、予めPDAに登録しておいてもよい。更に、コンピュータに作業工程表及び作業員の割り振り情報を入力しておき、コンピュータからPDAに職種情報を送信するように構成してもよい。
【0037】
次に、PDAによる(5)不安全状態情報、(6)安全レベル情報の取得に関して説明する。これらの情報は、PDAに搭載した3次元加速度センサにより取得するように構成することができる。つまり、作業者が不安定な姿勢で作業を行い、バランスを崩した際に、大きな加速度を検出することができる。また、反射的に物を避けようとした際にも、大きな加速度を検出することができる。PDAは、この検出した情報から、作業者の姿勢を認識することができる。なお、作業者の靴、手袋、ヘルメット等に加速度センサを設置し、この加速度センサから作業者の安全状態を取得するように構成してもよい。頭部、手及び足が急に動く場合は、何かしら問題が発生している場合が多いためである。
【0038】
更に、作業者の重心の移動を検出し、このパターンから(5)不安全状態情報、及び(6)安全レベル情報を取得するように構成してもよい。具体的には、作業場の各所にビデオカメラを設置し、このカメラで作業者の姿勢を画像情報として取得し、この画像情報から作業者の重心を検出する。この作業者の重心の検出には、モーションキャプチャ法等の既存の方法を利用することができる。
【0039】
上記のようにして得た作業者の重心の情報を、連続的に蓄積する。この重心位置のゆらぎから、作業者の安全状態を判断することができる。すなわち、重心位置が規則的に変動している場合は、歩行などを行っていると判断することができ、この重心位置が変則的に変動する場合は、足下の状態が悪い等、安全レベルが低いと判断することができる(日本船舶海洋工学会2009年6月号「カオス解析による作業のための歩行路環境の安全評価に関する研究」参照)。
【0040】
なお、容易に作業者の安全レベルを取得するため、作業者の大腿骨の外側の出っ張りである大転子、又は腰等にマーカーを設置し、このマーカーの動きを作業者の重心に見立てて判断してもよい。ここで、作業者の安全レベルの判断は、PDA又はコンピュータで行うように構成する。
【0041】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、船体ブロック名の情報収集により、形状や作業環境の異なるブロック毎の特有の危険を予測することができる。同様に、作業者の職種は、工程、作業内容ごとに安全性を評価し、この情報を蓄積するため、細かい事故発生要因を予め知ることができる。なお、PDAで収集する情報の組み合わせは、この安全分析システムを適用する工場や製造現場ごとに適宜定めることができる。
【0042】
次に、コンピュータによる記録集計、分析及び評価を説明する。コンピュータでは、PDAから無線又はメモリーカード等の記録媒体を介して、情報を集積していく。この情報を分析して作業者の不安全状態の定量的把握を行う。つまり、(6)安全レベル情報において、例えば良好であれば1点、やや不足で2点、不足で3点、ルール違反で5点として、点数を積算し、点数の多い箇所に事故が発生する危険性があると判断する。なお、コンピュータは、気象情報等を取得するように構成してもよい。
【0043】
上記の構成により、作業内容及び工程と、不安全状態との因果関係を推定することができる。つまり、従来の既に発生した事故情報をもとにした分析に比べ、得られる情報量が莫大な量となるため、信頼性の高い因果関係を推定することが可能となる。また、PDAで取得した情報に加えて、過去に発生した災害の記録や、気象情報等も追加してもよい。この構成により、過去に類似した作業行動が行われる可能性のある場合、及び雨や気温が高い場合に発生しやすい事故等を予測することができる。
【0044】
なお、PDAで取得した情報の集積及び分析は、コンピュータを使用せずに、PDA相互で情報を共有し、PDA自体で集積及び分析を行うように構成してもよい。
【0045】
次に、上記の安全分析システムを造船所内で運用して取得したデータに関して説明する。図17に、作業工程1における溶接担当の行った作業(図7A参照)に関する情報を集計したグラフの1例を示す。横軸の観測件数は、PDAで収集した情報の合計数を示している。また、縦軸の度数は、PDAで収集した情報の合計の中で、ある作業がどの程度含まれているかを示している。グラフにおける1は本付け溶接、2は手直し、3は清掃、4は溶接付随作業を示している。なお、他の作業(溶接準備作業、自動溶接等)に関しては、グラフに示してはいないが、同様に作業情報を蓄積している。
【0046】
図17のグラフは、例えば、観測件数の合計が15件であった場合、その作業情報の内、本付け溶接1が50パーセントを占め、手直し2が20パーセント強、清掃3が10パーセント弱、溶接付随作業4が0パーセントとなっていることを示している。
【0047】
この観測件数が増加するにつれて、各作業の度数はある一定の値に収束していく。つまり、観測件数が少ない場合は、PDAを所持する観察者の判断の偏りや、センサ等を搭載
した作業者の仕事内容の偏り、天候、繁忙期及び閑散期等の影響がでる。しかし、PDAを所持する観察者又は作業者を変更しながら、観測件数を積み重ねていくと、各作業の度数は、工場毎に特有の値に収束することがわかった。つまり、この度数は、対象としている作業の発生可能性を定量的に評価したものと言える。なお、作業情報における度数の収束状況から、観測件数が十分であるか否かを容易に判断することができる。
【0048】
また、作業情報(作業ステージ、職種、作業内容及び作業場所情報)の収集と同時に行った安全情報(不安全状態及び安全レベル情報)の収集により、発生可能性と重大性の積をリスクとして、定量的に評価することができる。更に、改善作業等に伴い変化するリスクを可視化することができる。
【0049】
なお、本発明の安全分析システムにおいて、観察者がPDAを入力する場合、1回あたりの入力時間は30秒から75秒程度となった。作業情報及び安全情報を極めて短時間で取得することができるため、観察の時間及び時間帯をフレキシブルに選択することができる。つまり、時間を決めて複数の観察者が集合して行う従来の安全パトロール等と比べ、本発明の安全分析システムでは、隙間の時間で情報収集ができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯情報端末で作業者の作業情報及び前記作業者の作業に伴う安全情報を収集し、労働災害の発生を予測する安全分析システムの制御方法であって、
前記携帯情報端末が、少なくとも前記作業者の作業ステージ情報、職種情報、作業内容情報及び作業場所情報を含む作業情報と、不安全状態情報及び安全レベル情報を含む安全情報を同時に収集する作業及び安全観測記録ステップと、
前記情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、
前記コンピュータが、前記情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、
前記分析ステップにおける分析結果を作業者にフィードバックする評価ステップを有したことを特徴とする安全分析システムの制御方法。
【請求項2】
前記分析ステップにおいて、集積した前記作業情報から作業の発生可能性を算出し、集積した前記安全情報から労働災害の重大性を算出し、前記発生可能性と前記重大性からリスクを定量的に評価することを特徴とする請求項1に記載の安全分析システムの制御方法。
【請求項3】
前記記録集計ステップにおいて、無線又は記録媒体を介して、前記携帯情報端末から前記コンピュータに前記情報を蓄積することを特徴とする請求項1又は2に記載の安全分析システムの制御方法。
【請求項4】
前記分析ステップにおいて、前記作業ステージ情報、前記職種情報、前記作業内容情報、及び前記作業場所情報を有する要素作業項目と、前記不安全状態情報及び前記安全レベル情報を有する不安全行為項目について、クロス集計を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の安全分析システムの制御方法。
【請求項1】
携帯情報端末で作業者の作業情報及び前記作業者の作業に伴う安全情報を収集し、労働災害の発生を予測する安全分析システムの制御方法であって、
前記携帯情報端末が、少なくとも前記作業者の作業ステージ情報、職種情報、作業内容情報及び作業場所情報を含む作業情報と、不安全状態情報及び安全レベル情報を含む安全情報を同時に収集する作業及び安全観測記録ステップと、
前記情報をコンピュータに集積する記録集計ステップと、
前記コンピュータが、前記情報から事故発生要因を推定する分析ステップと、
前記分析ステップにおける分析結果を作業者にフィードバックする評価ステップを有したことを特徴とする安全分析システムの制御方法。
【請求項2】
前記分析ステップにおいて、集積した前記作業情報から作業の発生可能性を算出し、集積した前記安全情報から労働災害の重大性を算出し、前記発生可能性と前記重大性からリスクを定量的に評価することを特徴とする請求項1に記載の安全分析システムの制御方法。
【請求項3】
前記記録集計ステップにおいて、無線又は記録媒体を介して、前記携帯情報端末から前記コンピュータに前記情報を蓄積することを特徴とする請求項1又は2に記載の安全分析システムの制御方法。
【請求項4】
前記分析ステップにおいて、前記作業ステージ情報、前記職種情報、前記作業内容情報、及び前記作業場所情報を有する要素作業項目と、前記不安全状態情報及び前記安全レベル情報を有する不安全行為項目について、クロス集計を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の安全分析システムの制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−165120(P2011−165120A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30044(P2010−30044)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
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