安全弁振動解析装置
【課題】弁体の振動を好適に解析できる安全弁振動解析装置を提供する。
【解決手段】安全弁振動解析装置100は、物理モデルの設定条件を入力する設定条件入力部108と、弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する安全弁支配方程式保持部110と、上流配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する配管支配方程式保持部112と、入力された設定条件と、安全弁の支配方程式と、配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出する演算部116と、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数を保持する揚弁力関数保持部114を備える。演算部116は、弁体の運動方程式に揚弁力関数を適用して弁体のリフト量の時間変化を導出する。
【解決手段】安全弁振動解析装置100は、物理モデルの設定条件を入力する設定条件入力部108と、弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する安全弁支配方程式保持部110と、上流配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する配管支配方程式保持部112と、入力された設定条件と、安全弁の支配方程式と、配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出する演算部116と、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数を保持する揚弁力関数保持部114を備える。演算部116は、弁体の運動方程式に揚弁力関数を適用して弁体のリフト量の時間変化を導出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全弁における弁体の振動を解析する安全弁振動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
安全弁は、内部流体の圧力が異常に上昇したときに自動的に作動する安全装置であり、ボイラー、圧力容器、配管などを保護するために使用される。ばね式安全弁は、弁体をばねで弁座に押し付ける構造になっている。ばね式安全弁は、内部流体の圧力がセット圧力以上になると、圧力により弁体に加わる揚弁力がばね荷重よりも大きくなって弁体を押し上げ開放して内部流体を系外に放出することにより、過大な圧力上昇を防ぐ。一方、ばね式安全弁は、内部流体の圧力が低下すれば、ばね荷重が揚弁力より大きくなり閉鎖する。ばね式安全弁は、可動部分がばねと弁体からなる単純な機構であるため、作動に関しては非常に信頼性が高い。
【0003】
ばね式安全弁は、弁体がばねで支えられているため、ばね荷重と内部流体の圧力との関係が不安定となり、弁体が開閉を繰り返して振動が発生する場合がある。弁体の振動は、弁体と弁座の打撃による損傷、弁座からの漏れ、弁摺動部の摩耗はもとより、弁体の振動により励起された管内圧力脈動を引き起こすことがある。このため、安全弁の振動については、従来から種々の研究が行われている(たとえば、非特許文献1、2参照)。
【非特許文献1】I.Harris, R.E.Lewis and T.A.Burton, "Dynamic Simulation of Safety Valve Installations", AIChE Symp. Ser., Vol.80, No.236, 171-178, 1984
【非特許文献2】P.Coppolani, J.M.Henry, P.Caumette, J.L.Huet and M.Lott, "Stability of Self Actuating Safety Valves in Liquid Service", Trans. Int. Conf. Structural Mech. Reactor Tech., Vol.9, No.F, 3-16, 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、安全弁の振動は、安全弁に接続された上流配管および下流配管における過大な圧力損失が主な原因であると考えられていた。しかしながら、本発明者は、安全弁における振動の発生原因について解析を行う中で、圧力損失の他にも原因があるのではないかと考察し、安全弁に接続された上流配管の長さを変化させて振動発生の有無を確認する実験を行った。
【0005】
本発明者は、上述の実験の結果、上流配管が長い場合よりも、むしろ短い場合の方が安全弁の振動が発生しやすいという知見を得た。圧力損失は、配管の長さに比例するので、従来の理論によれば配管が短い方が振動が起きにくいはずである。このことから分かるように、従来の安全弁の振動の解析技術は、安全弁の振動を正確に解析するのに十分でなく、実用的な解析手法は未だ確立されていない。
【0006】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、安全弁における弁体の振動を好適に解析できる安全弁振動解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の安全弁振動解析装置は、安全弁における弁体の振動を解析する安全弁振動解析装置であって、安全弁と、安全弁に接続された上流配管とを含む物理モデルの設定条件を入力する入力部と、弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する第1保持部と、上流配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する第2保持部と、入力部に入力された設定条件と、第1保持部に保持された安全弁の支配方程式と、第2保持部に保持された配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出する演算部と、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数を保持する第3保持部と、を備える。演算部は、第3保持部から揚弁力関数を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数を適用して弁体のリフト量の時間変化を導出する。
【0008】
この態様によると、揚弁力関数を弁体の運動方程式に適用することにより、弁体の運動方程式が適切に表されるので、安全弁における弁体の振動を好適に解析することができる。
【0009】
揚弁力関数は、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成されてもよい。
【0010】
演算部は、安全弁のオリフィス臨界流量係数に対するオリフィス流量係数の比を含んだ弁体の運動方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出してもよい。この場合、チョーキングが発生する場合を基準としてチョーキングが発生しない場合も含めて揚弁力の変化を考慮した弁体の運動方程式を構築できるので、安全弁における弁体の振動をより好適に解析することができる。
【0011】
弁体の運動方程式は、
【数1】
で表現されてもよい。なお、Msは、弁体を含んだ可動部質量、Csは、減衰係数、Kは、ばね定数、Zは、弁体のリフト量、Pvは、安全弁入口圧力、PBは、弁箱内圧力、AHは、弁ディスクホルダ面積、f(Z)は、揚弁力関数、Ψは、オリフィス流量係数、Ψcは、オリフィス臨界流量係数、Zsは、ばね初期変形量、tは、時間である。この式では、右辺第1項に、揚弁力関数f(Z)と、安全弁のオリフィス臨界流量係数Ψcに対するオリフィス流量係数Ψの比Ψ/Ψcを含んでいる。このように表現された弁体の運動方程式を用いることにより、安全弁における弁体の振動を良好に解析することができる。
【0012】
演算部による演算結果を受けて、入力部に入力された設定条件の是非を判定する評価部をさらに備えてもよい。たとえば、弁体の振動の振幅が所定値を超える場合に、入力された設定条件が不適切であることを判定してもよい。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全弁における弁体の振動を好適に解析できる安全弁振動解析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る安全弁振動解析装置について、図面を参照して説明する。この安全弁振動解析装置は、安全弁や配管を含む配管系の物理モデルを設定し、物理モデルの設定条件を入力することにより、安全弁における弁体の振動や、配管や弁箱内における圧力を解析することができる。ユーザは、安全弁振動解析装置を用いることにより、安全弁の振動を未然に防いだり、振動の発生原因を特定したりすることができる。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る安全弁振動解析装置100の構成を示す図である。図1に示すように、安全弁振動解析装置100は、物理モデル設定部102と、境界条件入力部104と、初期条件入力部106と、設定条件入力部108と、安全弁支配方程式保持部110と、配管支配方程式保持部112と、揚弁力関数保持部114と、演算部116と、評価部118と、設定条件決定部120を備える。
【0017】
安全弁振動解析装置100は、CPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現され、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。プログラムは、安全弁振動解析装置100に内蔵されていてもよく、また記録媒体に格納された形態で外部から供給されるものであってもよい。したがってこれらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者に理解されるところである。
【0018】
物理モデル設定部102は、安全弁や、安全弁に接続される配管を含んだ配管系の物理モデルを設定する。図2は、物理モデル設定部102において設定する配管系の物理モデルの一例を示す図である。
【0019】
図2に示す配管系の物理モデル10は、安全弁12と、安全弁12の上流側に接続された上流配管14と、安全弁12の下流側に接続された下流配管16を含む。上流配管14の安全弁入口36と反対側の端部には、上流側配管入口13が設けられ、下流配管16の安全弁出口38と反対側の端部には、下流側配管出口15が設けられる。上流側配管入口13、下流側配管出口15は開口端となっている。上流側配管入口13、下流側配管出口15、安全弁入口36および安全弁出口38における境界条件は、後述する境界条件入力部104により設定される。
【0020】
なお、本実施の形態では、作動流体を空気として説明を行うが、作動流体は空気に限られず、他の種類の気体であってもよい。上流側配管入口13から吸入された空気は、上流配管14、安全弁12、下流配管16を通って、下流側配管出口15より吐出される。
【0021】
図3は、安全弁12の構造を説明するための図である。図3に示す安全弁12は、ディスクホルダ22とディスク24からなる弁体25が、スプリング30によりノズル20の上端部に押し付けられる構造となっている。ノズル20は上流配管14と連通しており、上流配管14の圧力が高まって所定のセット圧力以上となると、スプリング30のばね力に抗して弁体25が上方に変位し、空気が弁箱26の内部に流入する。弁箱26内に流入した空気は、安全弁出口38を通って下流配管16に流れ込む。
【0022】
境界条件入力部104は、上流側配管入口13、下流側配管出口15、安全弁入口36および安全弁出口38における境界条件を入力する。本実施の形態では、以下のように境界条件を設定する。まず、安全弁入口36においては、上流配管14の流出流量Wと、安全弁12の流入流量Wsが等しい、すなわち、W=Wsと設定する。安全弁出口38においては、安全弁12の流出流量WDと、下流配管16の流入流量Wが等しい、すなわち、W=WDと設定する。上流側配管入口13においては、大容量の圧力容器が接続されているものとして、上流配管14の圧力Pを一定と設定する。下流側配管出口15においては、大口径のヘッダーが接続されているものとして、下流配管16の圧力Pを一定と設定する。
【0023】
設定条件入力部108は、安全弁12と、上流配管14と、下流配管16を含む配管系の物理モデルの設定条件を入力する。設定条件として、振動解析に用いるパラメータ、すなわち安全弁形状、配管系寸法などが入力される。設定条件とは、物理モデルの解析に必要なパラメータであり、具体的には、後述する安全弁や配管の支配方程式に要求されるパラメータである。
【0024】
初期条件入力部106は、時間t=0における所定のパラメータの初期条件を入力する。たとえば、初期条件入力部106には、時間t=0における弁体のリフト量や、弁体の速度などの初期条件が入力される。
【0025】
安全弁支配方程式保持部110は、弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する。以下、それぞれの式を示す。
【0026】
弁体の運動方程式は、以下の(1)式のように表される。
【数2】
ここで、Msは、可動部質量(kg)、Csは、減衰係数(N・s/m)、Kは、ばね定数(N/m)、Zは、弁体のリフト量(m)、Pvは、安全弁入口圧力(Pa)、PBは、弁箱内圧力(Pa)、AHは、弁ディスクホルダ面積(m2)、f(Z)は、揚弁力関数、Ψは、オリフィス流量係数、Ψcは、オリフィス臨界流量係数、Zsは、ばね初期変形量(m)、tは、時間(s)である。なお、可動部質量Msは、ディスクホルダ22と、ディスク24と、スピンドル28と、ロワ側スプリング受金具34と、スプリング30の質量の和である(スプリング30は質量の1/3)。
【0027】
(1)式の右辺第1項は、弁体25に作用する力である揚弁力Fを表す項である。(1)式に示すように、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100では、揚弁力Fに、安全弁入口圧力Pvと弁箱内圧力PBとの差分(Pv−PB)に弁ディスクホルダ面積AHを乗じて、さらに揚弁力関数f(Z)と安全弁のオリフィス臨界流量係数Ψcに対するオリフィス流量係数Ψの比Ψ/Ψc(以下、流量係数比と呼ぶ)の二乗を乗じた項を含んでいる。この項を含むことにより、揚弁力Fを適切に表現することができる。
【0028】
揚弁力関数f(Z)は、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す関数であり、安全弁の構造によって定まる関数である。揚弁力関数f(Z)は、後述する揚弁力関数保持部114に保持されており、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成される。弁体の運動方程式に揚弁力関数f(Z)を適用することにより、弁体に作用する揚弁力Fを適切に表すことができ、好適な振動解析を行うことができる。
【0029】
オリフィス流量係数Ψは、以下の(2)式によって定まる臨界圧力Pcと、弁箱内圧力PBとの関係によって変わってくる。
【数3】
【0030】
弁箱内圧力PBが臨界圧力Pc以下の場合(PB≦Pc)、オリフィス流量係数Ψは、以下の(3)式のように表される。これは定数であり、このときのオリフィス流量係数Ψが、オリフィス臨界流量係数Ψcである。
【数4】
【0031】
一方、弁箱内圧力PBが臨界圧力Pcより大きい場合(PB>Pc)、オリフィス流量係数Ψは、以下の(4)式のように表される。これは、(4)式に示すように、安全弁入口圧力Pvと弁箱内圧力PBの圧力比PB/Pvの関数である。
【数5】
【0032】
本実施の形態においては、(3)〜(4)式を用いて求められた流量係数比Ψ/Ψcを弁体の運動方程式に適用することにより、空気がノズル20から弁箱26内に流入した際のチョーキング(閉塞)の影響を考慮した弁体の運動方程式を構築している。たとえば、弁箱内圧力PBが臨界圧力Pcより低く、チョーキングしている状態の場合、流量係数比Ψ/Ψcは1となるので、揚弁力Fは、(Pv−PB)AHに1+f(Z)を乗じたものとなる。一方、弁箱内圧力PBが臨界圧力Pcより高くなった場合、流量係数比Ψ/Ψcが1より小さい値となるので、揚弁力Fは、チョーキングしている状態より小さくなる。このように、弁体の運動方程式に流量係数比Ψ/Ψcを適用することにより、チョーキングによる揚弁力Fの変化が考慮され、好適な振動解析を行うことができる。なお、(1)式において流量係数比を二乗しているのは、運動エネルギとして表すためである。
【0033】
安全弁入口36における流量式は、以下の(5)式のように表される。
【数6】
ここで、Wsは、流入流量(kg/s)、Asは、有効オリフィス面積(m2)、Cdは、ノズル流量係数、zは、ガス圧縮係数、Mwは、ガス平均分子量(kg/kmol)、Rは、ガス定数(8314J・kg/kmol/K)、T0は、全温度(K)である。
【0034】
(5)式における有効オリフィス面積Asは、以下の(6)式で表される。
【数7】
ここで、(6)式において、dHは、ディスクホルダ直径(m)、Aoは、ノズルオリフィス面積(m2)である。
【0035】
安全弁出口38における流量式は、以下の(7)式のように表される。
【数8】
ここで、WDは、流出流量(kg/s)、ADは、安全弁出口面積(m2)、CdDは、出口面積流量係数である。また、(7)式におけるオリフィス流量係数Ψは、(4)式における弁箱内圧力PBを安全弁下流圧力PDと、安全弁入口圧力Pvを弁箱内圧力PBと置き換えて適用する。
【0036】
弁箱内の質量保存式は、以下の(8)式のように表される。また、(9)式は、弁箱内のガス密度ρB(Pa)を表し、(10)式は、弁箱内における状態方程式を表す。
【数9】
ここで、MBは弁箱内ガス質量(kg)、TBは弁箱内ガス温度(K)、VBは弁箱容積(m3)である。
【0037】
配管支配方程式保持部112は、上流配管14、下流配管16などの配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する。図4は、配管における流体の質量保存式およびエネルギー式を説明するための図である。配管については、配管を図4に示すような分割長さΔx(m)の配管要素に分割して、それぞれの配管要素ごとに支配方程式を適用する。以下、それぞれの式を示す。
【0038】
図4に示すある配管要素50における質量保存式は、以下の(11)式のように表される。また、(12)式は、配管要素50におけるガス密度ρを表し、(13)式は、配管要素50内における状態方程式を表す。
【数10】
ここで、Mは、配管要素50内のガス質量(kg)、Winは、配管要素50に流入する流入流量(kg/s)、Woutは、配管要素50から流出する流出流量(kg/s)、ρは、配管要素50内のガス密度(Pa)、Aは、配管流路面積(m2)、Pは、配管要素50内のガス圧力(Pa)、Tは、配管要素50内のガス温度(K)である。
【0039】
配管要素50におけるエネルギー式は、以下の(14)式のように表される。
【数11】
ここで、Uは、配管要素50におけるガス流速(m/s)、Cpは、ガス低圧比熱比(J/kg/K)である。(14)式は、ガス流速Uが大きくなると、ガス温度Tは低下することを意味する。
【0040】
図5は、配管における流体の運動方程式を説明するための図である。図5では、分割長さΔxの配管要素50の上流側のガス流速をUuと、ガス圧力をPuと、ガス密度をρuとしている。また、配管要素50の下流側のガス流速をUdと、ガス圧力をPuと、ガス密度をρdとしている。
【0041】
配管要素50における流体の運動方程式は、一般に、以下の(15)式のように表される。
【数12】
ここで、fは、ガス配管摩擦係数、Dは、配管内径である。
【0042】
(15)式を変形することにより、ガス流速Uの変化率を表す(16)式が得られる。(16)式におけるF1は(17)式、F2は(18)式または(19)式、F3は(20)式で表される。
【数13】
【0043】
(16)〜(20)式において、F1は圧力項、F2は慣性項、F3は摩擦損失項を表している。なお、(18)式は、流体が上流側から下流側に移動する場合の慣性項を表し、(19)式は、流体が下流側から上流側に移動する場合の慣性項を表している。
【0044】
揚弁力関数保持部114は、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数f(Z)を保持する。この揚弁力関数は、上述したように、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成される関数であり、安全弁の構造によって定まる関数である。
【0045】
図6は、揚弁力関数の一例を示す図である。図6の横軸は、弁体のリフト量(mm)を表し、縦軸は、1+f(Z)を表す。揚弁力関数保持部114は、図6に示すような揚弁力関数を保持する。揚弁力関数保持部114は、安全弁の種類に応じて複数の揚弁力関数を保持していてもよい。
【0046】
この揚弁力関数f(Z)を生成する場合、安全弁のスプリングを取り外し、治具を用いて弁体のリフト量を調整し、ロードセルを用いて弁体のリフト量ごとに揚弁力を測定する。この測定した揚弁力と、安全弁入口・弁箱内の圧力とから、揚弁力関数f(Z)を算出する。
【0047】
演算部116は、物理モデル設定部102で設定された物理モデル、境界条件入力部104に入力された境界条件、初期条件入力部106に入力された初期条件、設定条件入力部108に入力された設定条件、安全弁支配方程式保持部110に保持された安全弁の支配方程式、配管支配方程式保持部112に保持された配管の支配方程式を用いて、安全弁の振動解析を行う。ここでは、安全弁の振動解析として、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化を導出する。演算を行う際に、演算部116は、適宜揚弁力関数保持部114から揚弁力関数を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数f(Z)を適用して弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化を導出する。
【0048】
具体的には、(1)式の弁体の運動方程式、(8)式の弁箱内の質量保存式、(11)式の配管を流れる流体の質量保存式および(16)式の流体の運動方程式の微分方程式を、(2)式〜(7)式、(9)式、(10)式、(12)式〜(14)式および(17)式〜(20)式の関係を用いてルンゲクッタ法により数値積分を行う。(1)式の弁体の運動方程式を積分することにより弁体のリフト量Zの時間変化が求まり、(8)式の弁箱内質量保存式、(11)式の流体の質量保存式および(16)式の流体の運動方程式を積分して結果として上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化が求まる。数値積分は、オイラー法を適用することもできる。
【0049】
評価部118は、演算部116による演算結果を受けて、設定条件入力部108に入力された設定条件の是非を判定する。たとえば、入力した設定条件により振動が発生する場合、その設定条件が不適切であることを判定する。振動の発生は、たとえば振動の振幅が所定値を超えたかどうかの判断に基づいて判定される。このとき、評価部118は、新たな設定条件の入力を行うように、設定条件入力部108に指示してもよい。この指示は、振動解析プログラムに対して自動的に実行されるものであってもよく、設定条件を入力するユーザに対してモニタないしは音声を通じて示されるものであってもよい。
【0050】
設定条件決定部120は、評価部118による評価結果で設定条件が適切であったことが判定された場合に、その設定条件を適切なものとして決定する。
【0051】
図7は、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100の処理フローを示す。まず、ユーザは、物理モデル設定部102に、安全弁12と、上流配管14と、下流配管16を含む配管の物理モデルを設定する(S10)。
【0052】
次に、ユーザは、上流側配管入口13、下流側配管出口15、安全弁入口36および安全弁出口38における境界条件を境界条件入力部104に入力する(S12)。次に、ユーザは、初期条件入力部106に、初期条件を入力する(S14)。次に、ユーザは、設定条件入力部108に、設定した物理モデルの設定条件を入力する(S16)。
【0053】
以上の入力が完了した後、演算部116は、物理モデル設定部102で設定された物理モデル、境界条件入力部104に入力された境界条件、初期条件入力部106に入力された初期条件、設定条件入力部108に入力された設定条件、安全弁支配方程式保持部110に保持された安全弁の支配方程式、配管支配方程式保持部112に保持された配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化を演算する(S18〜S22)。演算を行う際に、演算部116は、適宜揚弁力関数保持部114から揚弁力関数f(Z)を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数f(Z)を適用して演算を行う。
【0054】
演算が終了した後、評価部118は、演算部116による解析結果を受けて、設定条件入力部108において入力された設定条件が適切か否かを判定する(S24)。設定条件が適切でなかった場合、評価部118は、新たな設定条件の入力を行うように設定条件入力部108に支持する(S26のN)。設定条件が適切であった場合(S26のY)、設定条件決定部120は、その設定条件を適切なものとして決定する(S28)。以上で、安全弁振動解析装置100の処理フローは終了する。
【0055】
以下に、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100を用いたシミュレーション結果と、実験データとの比較を示す。
【0056】
図8は、安全弁振動測定の実験系200を示す図である。実験系200は、安全弁12と、安全弁12の上流側に接続された上流配管14と、上流配管14にボール弁74を介して接続された容器70と、容器70の圧力を一定値(20barG)に保つためのコンプレッサ72と、安全弁12の下流側に安全弁出口面積絞り78、ボール弁76を介して接続された下流配管16を備える。安全弁12には、弁体の変位を測定するレーザ変位計82を設け、上流配管14、安全弁12には、それぞれの圧力を測定する圧力センサ80を設けた。このように構築された実験系200を用いて、上流配管14の長さxを変化させた場合と、安全弁出口面積ADを変化させた場合について、安全弁の振動実験を行った。
【0057】
本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100には、実験系200と同様の物理モデルを構築し、その設定条件を入力して安全弁の振動シミュレーションを行った。
【0058】
図9〜図13は、上流配管長さxを変化させたときの、実験データとシミュレーション結果を示す。図9は、上流配管長さxが0mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図10は、上流配管長さxが1mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図11は、上流配管長さxが5mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図12は、上流配管長さxが10mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図13は、上流配管長さxが20mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。それぞれ、(a)は、弁体のリフト量Zの時間変化を表し、(b)は、上流配管圧力Pvの時間変化を表し、(c)は、弁箱内圧力PBの時間変化を表す。
【0059】
実験データを見ると、上流配管長さxが0mのときは、図9に示すように殆ど弁体は振動しておらず、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBも殆ど変化していないが、上流配管長さが1m、5mのときは、図11〜図12に示すように、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBが大きく変動している。しかしながら、上流配管長さxが10m、20mと長くなるのに従い、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの変動が小さくなっている。
【0060】
一方、シミュレーション結果を見ると、振幅は若干ずれているものの、振動の発生するタイミングは、ほぼ一致している。たとえば、図12(a)を見ると、実験データでは、時間約0.02sで弁体が振動し、その後一旦減衰した後にもう一度約0.09sで振動している。この0.07sの振動の間隔は、安全弁が開弁することによって発生した圧力波が、10mの配管を往復する時間と略等しく、圧力波による振動の発生を、ほぼ正確にシミュレーションすることができている。このように振動の発生を正確にシミュレーションできるのは、弁体の運動方程式を(1)式のように揚弁力関数f(Z)と流量係数比Ψ/Ψcを適用して構築し、かつ配管の質量保存則および運動方程式を取り入れることにより安全弁と配管との相互影響を考慮したためである。
である。
【0061】
次に、図14〜図15に、安全弁出口面積ADを変化させたときの、実験データとシミュレーション結果を示す。図14は、安全弁出口面積ADが10.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図15は、安全弁出口面積ADが6.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す。それぞれ、(a)は、弁体のリフト量Zの時間変化を表し、(b)は、上流配管圧力Pvの時間変化を表し、(c)は、弁箱内圧力PBの時間変化を表す。
【0062】
安全弁出口面積ADが10.0cm2と大きい場合の実験データをみると、図14に示すように殆ど振動が発生していないが、安全弁出口面積ADが6cm2と小さくなると、振動が発生していることが分かる。安全弁振動解析装置100を用いたシミュレーション結果を見ると、実験データとほぼ一致した結果が得られている。このように、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100によれば、安全弁出口面積の影響を考慮したシミュレーションを行うことができる。
【0063】
図9〜図15に示したように、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100によれば、上流配管長さによる影響や、安全弁出口面積による影響を考慮した安全弁の振動解析を正確に行うことができる。安全弁振動解析装置100を用いることにより、たとえば、同じ長さの配管系システムであっても、安全弁の設置位置を調整して上流配管の長さを変えることにより、安全弁の振動を最小とする配管系システムを設計することができる。
【0064】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0065】
たとえば、上述の実施の形態では、上流側配管入口13に大容量の圧力容器が接続され、下流側配管出口15に大口径のヘッダーが接続された物理モデルを設定したが、上流側配管入口13、下流側配管出口15に主配管、ヘッダー配管などの他の配管を接続した物理モデルを構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態に係る安全弁振動解析装置の構成を示す図である。
【図2】物理モデル設定部において設定する配管系の物理モデルの一例を示す図である。
【図3】安全弁の構造を説明するための図である。
【図4】配管における流体の質量保存式およびエネルギー式を説明するための図である。
【図5】配管における流体の運動方程式を説明するための図である。
【図6】揚弁力関数の一例を示す図である。
【図7】本実施の形態に係る安全弁振動解析装置の処理フローを示す図である。
【図8】安全弁振動測定の実験系を示す図である。
【図9】上流配管長さxが0mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図10】上流配管長さxが1mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図11】上流配管長さxが5mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図12】上流配管長さxが10mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図13】上流配管長さxが20mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図14】安全弁出口面積ADが10.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図15】安全弁出口面積ADが6.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
10 物理モデル、 12 安全弁、 14 上流配管、 16 下流配管、 20 ノズル、 25 弁体、 26 弁箱、 30 スプリング、 36 安全弁入口、 38 安全弁出口、 50 配管要素、 100 安全弁振動解析装置、 102 物理モデル設定部、 104 境界条件入力部、 106 初期条件入力部、 108 設定条件入力部、 110 安全弁支配方程式保持部、 112 配管支配方程式保持部、 114 揚弁力関数保持部、 116 演算部、 118 評価部、 120 設定条件決定部、 200 実験系。
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全弁における弁体の振動を解析する安全弁振動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
安全弁は、内部流体の圧力が異常に上昇したときに自動的に作動する安全装置であり、ボイラー、圧力容器、配管などを保護するために使用される。ばね式安全弁は、弁体をばねで弁座に押し付ける構造になっている。ばね式安全弁は、内部流体の圧力がセット圧力以上になると、圧力により弁体に加わる揚弁力がばね荷重よりも大きくなって弁体を押し上げ開放して内部流体を系外に放出することにより、過大な圧力上昇を防ぐ。一方、ばね式安全弁は、内部流体の圧力が低下すれば、ばね荷重が揚弁力より大きくなり閉鎖する。ばね式安全弁は、可動部分がばねと弁体からなる単純な機構であるため、作動に関しては非常に信頼性が高い。
【0003】
ばね式安全弁は、弁体がばねで支えられているため、ばね荷重と内部流体の圧力との関係が不安定となり、弁体が開閉を繰り返して振動が発生する場合がある。弁体の振動は、弁体と弁座の打撃による損傷、弁座からの漏れ、弁摺動部の摩耗はもとより、弁体の振動により励起された管内圧力脈動を引き起こすことがある。このため、安全弁の振動については、従来から種々の研究が行われている(たとえば、非特許文献1、2参照)。
【非特許文献1】I.Harris, R.E.Lewis and T.A.Burton, "Dynamic Simulation of Safety Valve Installations", AIChE Symp. Ser., Vol.80, No.236, 171-178, 1984
【非特許文献2】P.Coppolani, J.M.Henry, P.Caumette, J.L.Huet and M.Lott, "Stability of Self Actuating Safety Valves in Liquid Service", Trans. Int. Conf. Structural Mech. Reactor Tech., Vol.9, No.F, 3-16, 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、安全弁の振動は、安全弁に接続された上流配管および下流配管における過大な圧力損失が主な原因であると考えられていた。しかしながら、本発明者は、安全弁における振動の発生原因について解析を行う中で、圧力損失の他にも原因があるのではないかと考察し、安全弁に接続された上流配管の長さを変化させて振動発生の有無を確認する実験を行った。
【0005】
本発明者は、上述の実験の結果、上流配管が長い場合よりも、むしろ短い場合の方が安全弁の振動が発生しやすいという知見を得た。圧力損失は、配管の長さに比例するので、従来の理論によれば配管が短い方が振動が起きにくいはずである。このことから分かるように、従来の安全弁の振動の解析技術は、安全弁の振動を正確に解析するのに十分でなく、実用的な解析手法は未だ確立されていない。
【0006】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、安全弁における弁体の振動を好適に解析できる安全弁振動解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の安全弁振動解析装置は、安全弁における弁体の振動を解析する安全弁振動解析装置であって、安全弁と、安全弁に接続された上流配管とを含む物理モデルの設定条件を入力する入力部と、弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する第1保持部と、上流配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する第2保持部と、入力部に入力された設定条件と、第1保持部に保持された安全弁の支配方程式と、第2保持部に保持された配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出する演算部と、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数を保持する第3保持部と、を備える。演算部は、第3保持部から揚弁力関数を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数を適用して弁体のリフト量の時間変化を導出する。
【0008】
この態様によると、揚弁力関数を弁体の運動方程式に適用することにより、弁体の運動方程式が適切に表されるので、安全弁における弁体の振動を好適に解析することができる。
【0009】
揚弁力関数は、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成されてもよい。
【0010】
演算部は、安全弁のオリフィス臨界流量係数に対するオリフィス流量係数の比を含んだ弁体の運動方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出してもよい。この場合、チョーキングが発生する場合を基準としてチョーキングが発生しない場合も含めて揚弁力の変化を考慮した弁体の運動方程式を構築できるので、安全弁における弁体の振動をより好適に解析することができる。
【0011】
弁体の運動方程式は、
【数1】
で表現されてもよい。なお、Msは、弁体を含んだ可動部質量、Csは、減衰係数、Kは、ばね定数、Zは、弁体のリフト量、Pvは、安全弁入口圧力、PBは、弁箱内圧力、AHは、弁ディスクホルダ面積、f(Z)は、揚弁力関数、Ψは、オリフィス流量係数、Ψcは、オリフィス臨界流量係数、Zsは、ばね初期変形量、tは、時間である。この式では、右辺第1項に、揚弁力関数f(Z)と、安全弁のオリフィス臨界流量係数Ψcに対するオリフィス流量係数Ψの比Ψ/Ψcを含んでいる。このように表現された弁体の運動方程式を用いることにより、安全弁における弁体の振動を良好に解析することができる。
【0012】
演算部による演算結果を受けて、入力部に入力された設定条件の是非を判定する評価部をさらに備えてもよい。たとえば、弁体の振動の振幅が所定値を超える場合に、入力された設定条件が不適切であることを判定してもよい。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全弁における弁体の振動を好適に解析できる安全弁振動解析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る安全弁振動解析装置について、図面を参照して説明する。この安全弁振動解析装置は、安全弁や配管を含む配管系の物理モデルを設定し、物理モデルの設定条件を入力することにより、安全弁における弁体の振動や、配管や弁箱内における圧力を解析することができる。ユーザは、安全弁振動解析装置を用いることにより、安全弁の振動を未然に防いだり、振動の発生原因を特定したりすることができる。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る安全弁振動解析装置100の構成を示す図である。図1に示すように、安全弁振動解析装置100は、物理モデル設定部102と、境界条件入力部104と、初期条件入力部106と、設定条件入力部108と、安全弁支配方程式保持部110と、配管支配方程式保持部112と、揚弁力関数保持部114と、演算部116と、評価部118と、設定条件決定部120を備える。
【0017】
安全弁振動解析装置100は、CPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現され、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。プログラムは、安全弁振動解析装置100に内蔵されていてもよく、また記録媒体に格納された形態で外部から供給されるものであってもよい。したがってこれらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者に理解されるところである。
【0018】
物理モデル設定部102は、安全弁や、安全弁に接続される配管を含んだ配管系の物理モデルを設定する。図2は、物理モデル設定部102において設定する配管系の物理モデルの一例を示す図である。
【0019】
図2に示す配管系の物理モデル10は、安全弁12と、安全弁12の上流側に接続された上流配管14と、安全弁12の下流側に接続された下流配管16を含む。上流配管14の安全弁入口36と反対側の端部には、上流側配管入口13が設けられ、下流配管16の安全弁出口38と反対側の端部には、下流側配管出口15が設けられる。上流側配管入口13、下流側配管出口15は開口端となっている。上流側配管入口13、下流側配管出口15、安全弁入口36および安全弁出口38における境界条件は、後述する境界条件入力部104により設定される。
【0020】
なお、本実施の形態では、作動流体を空気として説明を行うが、作動流体は空気に限られず、他の種類の気体であってもよい。上流側配管入口13から吸入された空気は、上流配管14、安全弁12、下流配管16を通って、下流側配管出口15より吐出される。
【0021】
図3は、安全弁12の構造を説明するための図である。図3に示す安全弁12は、ディスクホルダ22とディスク24からなる弁体25が、スプリング30によりノズル20の上端部に押し付けられる構造となっている。ノズル20は上流配管14と連通しており、上流配管14の圧力が高まって所定のセット圧力以上となると、スプリング30のばね力に抗して弁体25が上方に変位し、空気が弁箱26の内部に流入する。弁箱26内に流入した空気は、安全弁出口38を通って下流配管16に流れ込む。
【0022】
境界条件入力部104は、上流側配管入口13、下流側配管出口15、安全弁入口36および安全弁出口38における境界条件を入力する。本実施の形態では、以下のように境界条件を設定する。まず、安全弁入口36においては、上流配管14の流出流量Wと、安全弁12の流入流量Wsが等しい、すなわち、W=Wsと設定する。安全弁出口38においては、安全弁12の流出流量WDと、下流配管16の流入流量Wが等しい、すなわち、W=WDと設定する。上流側配管入口13においては、大容量の圧力容器が接続されているものとして、上流配管14の圧力Pを一定と設定する。下流側配管出口15においては、大口径のヘッダーが接続されているものとして、下流配管16の圧力Pを一定と設定する。
【0023】
設定条件入力部108は、安全弁12と、上流配管14と、下流配管16を含む配管系の物理モデルの設定条件を入力する。設定条件として、振動解析に用いるパラメータ、すなわち安全弁形状、配管系寸法などが入力される。設定条件とは、物理モデルの解析に必要なパラメータであり、具体的には、後述する安全弁や配管の支配方程式に要求されるパラメータである。
【0024】
初期条件入力部106は、時間t=0における所定のパラメータの初期条件を入力する。たとえば、初期条件入力部106には、時間t=0における弁体のリフト量や、弁体の速度などの初期条件が入力される。
【0025】
安全弁支配方程式保持部110は、弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する。以下、それぞれの式を示す。
【0026】
弁体の運動方程式は、以下の(1)式のように表される。
【数2】
ここで、Msは、可動部質量(kg)、Csは、減衰係数(N・s/m)、Kは、ばね定数(N/m)、Zは、弁体のリフト量(m)、Pvは、安全弁入口圧力(Pa)、PBは、弁箱内圧力(Pa)、AHは、弁ディスクホルダ面積(m2)、f(Z)は、揚弁力関数、Ψは、オリフィス流量係数、Ψcは、オリフィス臨界流量係数、Zsは、ばね初期変形量(m)、tは、時間(s)である。なお、可動部質量Msは、ディスクホルダ22と、ディスク24と、スピンドル28と、ロワ側スプリング受金具34と、スプリング30の質量の和である(スプリング30は質量の1/3)。
【0027】
(1)式の右辺第1項は、弁体25に作用する力である揚弁力Fを表す項である。(1)式に示すように、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100では、揚弁力Fに、安全弁入口圧力Pvと弁箱内圧力PBとの差分(Pv−PB)に弁ディスクホルダ面積AHを乗じて、さらに揚弁力関数f(Z)と安全弁のオリフィス臨界流量係数Ψcに対するオリフィス流量係数Ψの比Ψ/Ψc(以下、流量係数比と呼ぶ)の二乗を乗じた項を含んでいる。この項を含むことにより、揚弁力Fを適切に表現することができる。
【0028】
揚弁力関数f(Z)は、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す関数であり、安全弁の構造によって定まる関数である。揚弁力関数f(Z)は、後述する揚弁力関数保持部114に保持されており、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成される。弁体の運動方程式に揚弁力関数f(Z)を適用することにより、弁体に作用する揚弁力Fを適切に表すことができ、好適な振動解析を行うことができる。
【0029】
オリフィス流量係数Ψは、以下の(2)式によって定まる臨界圧力Pcと、弁箱内圧力PBとの関係によって変わってくる。
【数3】
【0030】
弁箱内圧力PBが臨界圧力Pc以下の場合(PB≦Pc)、オリフィス流量係数Ψは、以下の(3)式のように表される。これは定数であり、このときのオリフィス流量係数Ψが、オリフィス臨界流量係数Ψcである。
【数4】
【0031】
一方、弁箱内圧力PBが臨界圧力Pcより大きい場合(PB>Pc)、オリフィス流量係数Ψは、以下の(4)式のように表される。これは、(4)式に示すように、安全弁入口圧力Pvと弁箱内圧力PBの圧力比PB/Pvの関数である。
【数5】
【0032】
本実施の形態においては、(3)〜(4)式を用いて求められた流量係数比Ψ/Ψcを弁体の運動方程式に適用することにより、空気がノズル20から弁箱26内に流入した際のチョーキング(閉塞)の影響を考慮した弁体の運動方程式を構築している。たとえば、弁箱内圧力PBが臨界圧力Pcより低く、チョーキングしている状態の場合、流量係数比Ψ/Ψcは1となるので、揚弁力Fは、(Pv−PB)AHに1+f(Z)を乗じたものとなる。一方、弁箱内圧力PBが臨界圧力Pcより高くなった場合、流量係数比Ψ/Ψcが1より小さい値となるので、揚弁力Fは、チョーキングしている状態より小さくなる。このように、弁体の運動方程式に流量係数比Ψ/Ψcを適用することにより、チョーキングによる揚弁力Fの変化が考慮され、好適な振動解析を行うことができる。なお、(1)式において流量係数比を二乗しているのは、運動エネルギとして表すためである。
【0033】
安全弁入口36における流量式は、以下の(5)式のように表される。
【数6】
ここで、Wsは、流入流量(kg/s)、Asは、有効オリフィス面積(m2)、Cdは、ノズル流量係数、zは、ガス圧縮係数、Mwは、ガス平均分子量(kg/kmol)、Rは、ガス定数(8314J・kg/kmol/K)、T0は、全温度(K)である。
【0034】
(5)式における有効オリフィス面積Asは、以下の(6)式で表される。
【数7】
ここで、(6)式において、dHは、ディスクホルダ直径(m)、Aoは、ノズルオリフィス面積(m2)である。
【0035】
安全弁出口38における流量式は、以下の(7)式のように表される。
【数8】
ここで、WDは、流出流量(kg/s)、ADは、安全弁出口面積(m2)、CdDは、出口面積流量係数である。また、(7)式におけるオリフィス流量係数Ψは、(4)式における弁箱内圧力PBを安全弁下流圧力PDと、安全弁入口圧力Pvを弁箱内圧力PBと置き換えて適用する。
【0036】
弁箱内の質量保存式は、以下の(8)式のように表される。また、(9)式は、弁箱内のガス密度ρB(Pa)を表し、(10)式は、弁箱内における状態方程式を表す。
【数9】
ここで、MBは弁箱内ガス質量(kg)、TBは弁箱内ガス温度(K)、VBは弁箱容積(m3)である。
【0037】
配管支配方程式保持部112は、上流配管14、下流配管16などの配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する。図4は、配管における流体の質量保存式およびエネルギー式を説明するための図である。配管については、配管を図4に示すような分割長さΔx(m)の配管要素に分割して、それぞれの配管要素ごとに支配方程式を適用する。以下、それぞれの式を示す。
【0038】
図4に示すある配管要素50における質量保存式は、以下の(11)式のように表される。また、(12)式は、配管要素50におけるガス密度ρを表し、(13)式は、配管要素50内における状態方程式を表す。
【数10】
ここで、Mは、配管要素50内のガス質量(kg)、Winは、配管要素50に流入する流入流量(kg/s)、Woutは、配管要素50から流出する流出流量(kg/s)、ρは、配管要素50内のガス密度(Pa)、Aは、配管流路面積(m2)、Pは、配管要素50内のガス圧力(Pa)、Tは、配管要素50内のガス温度(K)である。
【0039】
配管要素50におけるエネルギー式は、以下の(14)式のように表される。
【数11】
ここで、Uは、配管要素50におけるガス流速(m/s)、Cpは、ガス低圧比熱比(J/kg/K)である。(14)式は、ガス流速Uが大きくなると、ガス温度Tは低下することを意味する。
【0040】
図5は、配管における流体の運動方程式を説明するための図である。図5では、分割長さΔxの配管要素50の上流側のガス流速をUuと、ガス圧力をPuと、ガス密度をρuとしている。また、配管要素50の下流側のガス流速をUdと、ガス圧力をPuと、ガス密度をρdとしている。
【0041】
配管要素50における流体の運動方程式は、一般に、以下の(15)式のように表される。
【数12】
ここで、fは、ガス配管摩擦係数、Dは、配管内径である。
【0042】
(15)式を変形することにより、ガス流速Uの変化率を表す(16)式が得られる。(16)式におけるF1は(17)式、F2は(18)式または(19)式、F3は(20)式で表される。
【数13】
【0043】
(16)〜(20)式において、F1は圧力項、F2は慣性項、F3は摩擦損失項を表している。なお、(18)式は、流体が上流側から下流側に移動する場合の慣性項を表し、(19)式は、流体が下流側から上流側に移動する場合の慣性項を表している。
【0044】
揚弁力関数保持部114は、弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数f(Z)を保持する。この揚弁力関数は、上述したように、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成される関数であり、安全弁の構造によって定まる関数である。
【0045】
図6は、揚弁力関数の一例を示す図である。図6の横軸は、弁体のリフト量(mm)を表し、縦軸は、1+f(Z)を表す。揚弁力関数保持部114は、図6に示すような揚弁力関数を保持する。揚弁力関数保持部114は、安全弁の種類に応じて複数の揚弁力関数を保持していてもよい。
【0046】
この揚弁力関数f(Z)を生成する場合、安全弁のスプリングを取り外し、治具を用いて弁体のリフト量を調整し、ロードセルを用いて弁体のリフト量ごとに揚弁力を測定する。この測定した揚弁力と、安全弁入口・弁箱内の圧力とから、揚弁力関数f(Z)を算出する。
【0047】
演算部116は、物理モデル設定部102で設定された物理モデル、境界条件入力部104に入力された境界条件、初期条件入力部106に入力された初期条件、設定条件入力部108に入力された設定条件、安全弁支配方程式保持部110に保持された安全弁の支配方程式、配管支配方程式保持部112に保持された配管の支配方程式を用いて、安全弁の振動解析を行う。ここでは、安全弁の振動解析として、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化を導出する。演算を行う際に、演算部116は、適宜揚弁力関数保持部114から揚弁力関数を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数f(Z)を適用して弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化を導出する。
【0048】
具体的には、(1)式の弁体の運動方程式、(8)式の弁箱内の質量保存式、(11)式の配管を流れる流体の質量保存式および(16)式の流体の運動方程式の微分方程式を、(2)式〜(7)式、(9)式、(10)式、(12)式〜(14)式および(17)式〜(20)式の関係を用いてルンゲクッタ法により数値積分を行う。(1)式の弁体の運動方程式を積分することにより弁体のリフト量Zの時間変化が求まり、(8)式の弁箱内質量保存式、(11)式の流体の質量保存式および(16)式の流体の運動方程式を積分して結果として上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化が求まる。数値積分は、オイラー法を適用することもできる。
【0049】
評価部118は、演算部116による演算結果を受けて、設定条件入力部108に入力された設定条件の是非を判定する。たとえば、入力した設定条件により振動が発生する場合、その設定条件が不適切であることを判定する。振動の発生は、たとえば振動の振幅が所定値を超えたかどうかの判断に基づいて判定される。このとき、評価部118は、新たな設定条件の入力を行うように、設定条件入力部108に指示してもよい。この指示は、振動解析プログラムに対して自動的に実行されるものであってもよく、設定条件を入力するユーザに対してモニタないしは音声を通じて示されるものであってもよい。
【0050】
設定条件決定部120は、評価部118による評価結果で設定条件が適切であったことが判定された場合に、その設定条件を適切なものとして決定する。
【0051】
図7は、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100の処理フローを示す。まず、ユーザは、物理モデル設定部102に、安全弁12と、上流配管14と、下流配管16を含む配管の物理モデルを設定する(S10)。
【0052】
次に、ユーザは、上流側配管入口13、下流側配管出口15、安全弁入口36および安全弁出口38における境界条件を境界条件入力部104に入力する(S12)。次に、ユーザは、初期条件入力部106に、初期条件を入力する(S14)。次に、ユーザは、設定条件入力部108に、設定した物理モデルの設定条件を入力する(S16)。
【0053】
以上の入力が完了した後、演算部116は、物理モデル設定部102で設定された物理モデル、境界条件入力部104に入力された境界条件、初期条件入力部106に入力された初期条件、設定条件入力部108に入力された設定条件、安全弁支配方程式保持部110に保持された安全弁の支配方程式、配管支配方程式保持部112に保持された配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの時間変化を演算する(S18〜S22)。演算を行う際に、演算部116は、適宜揚弁力関数保持部114から揚弁力関数f(Z)を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数f(Z)を適用して演算を行う。
【0054】
演算が終了した後、評価部118は、演算部116による解析結果を受けて、設定条件入力部108において入力された設定条件が適切か否かを判定する(S24)。設定条件が適切でなかった場合、評価部118は、新たな設定条件の入力を行うように設定条件入力部108に支持する(S26のN)。設定条件が適切であった場合(S26のY)、設定条件決定部120は、その設定条件を適切なものとして決定する(S28)。以上で、安全弁振動解析装置100の処理フローは終了する。
【0055】
以下に、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100を用いたシミュレーション結果と、実験データとの比較を示す。
【0056】
図8は、安全弁振動測定の実験系200を示す図である。実験系200は、安全弁12と、安全弁12の上流側に接続された上流配管14と、上流配管14にボール弁74を介して接続された容器70と、容器70の圧力を一定値(20barG)に保つためのコンプレッサ72と、安全弁12の下流側に安全弁出口面積絞り78、ボール弁76を介して接続された下流配管16を備える。安全弁12には、弁体の変位を測定するレーザ変位計82を設け、上流配管14、安全弁12には、それぞれの圧力を測定する圧力センサ80を設けた。このように構築された実験系200を用いて、上流配管14の長さxを変化させた場合と、安全弁出口面積ADを変化させた場合について、安全弁の振動実験を行った。
【0057】
本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100には、実験系200と同様の物理モデルを構築し、その設定条件を入力して安全弁の振動シミュレーションを行った。
【0058】
図9〜図13は、上流配管長さxを変化させたときの、実験データとシミュレーション結果を示す。図9は、上流配管長さxが0mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図10は、上流配管長さxが1mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図11は、上流配管長さxが5mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図12は、上流配管長さxが10mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図13は、上流配管長さxが20mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す。それぞれ、(a)は、弁体のリフト量Zの時間変化を表し、(b)は、上流配管圧力Pvの時間変化を表し、(c)は、弁箱内圧力PBの時間変化を表す。
【0059】
実験データを見ると、上流配管長さxが0mのときは、図9に示すように殆ど弁体は振動しておらず、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBも殆ど変化していないが、上流配管長さが1m、5mのときは、図11〜図12に示すように、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBが大きく変動している。しかしながら、上流配管長さxが10m、20mと長くなるのに従い、弁体のリフト量Z、上流配管圧力Pv、弁箱内圧力PBの変動が小さくなっている。
【0060】
一方、シミュレーション結果を見ると、振幅は若干ずれているものの、振動の発生するタイミングは、ほぼ一致している。たとえば、図12(a)を見ると、実験データでは、時間約0.02sで弁体が振動し、その後一旦減衰した後にもう一度約0.09sで振動している。この0.07sの振動の間隔は、安全弁が開弁することによって発生した圧力波が、10mの配管を往復する時間と略等しく、圧力波による振動の発生を、ほぼ正確にシミュレーションすることができている。このように振動の発生を正確にシミュレーションできるのは、弁体の運動方程式を(1)式のように揚弁力関数f(Z)と流量係数比Ψ/Ψcを適用して構築し、かつ配管の質量保存則および運動方程式を取り入れることにより安全弁と配管との相互影響を考慮したためである。
である。
【0061】
次に、図14〜図15に、安全弁出口面積ADを変化させたときの、実験データとシミュレーション結果を示す。図14は、安全弁出口面積ADが10.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す。図15は、安全弁出口面積ADが6.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す。それぞれ、(a)は、弁体のリフト量Zの時間変化を表し、(b)は、上流配管圧力Pvの時間変化を表し、(c)は、弁箱内圧力PBの時間変化を表す。
【0062】
安全弁出口面積ADが10.0cm2と大きい場合の実験データをみると、図14に示すように殆ど振動が発生していないが、安全弁出口面積ADが6cm2と小さくなると、振動が発生していることが分かる。安全弁振動解析装置100を用いたシミュレーション結果を見ると、実験データとほぼ一致した結果が得られている。このように、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100によれば、安全弁出口面積の影響を考慮したシミュレーションを行うことができる。
【0063】
図9〜図15に示したように、本実施の形態に係る安全弁振動解析装置100によれば、上流配管長さによる影響や、安全弁出口面積による影響を考慮した安全弁の振動解析を正確に行うことができる。安全弁振動解析装置100を用いることにより、たとえば、同じ長さの配管系システムであっても、安全弁の設置位置を調整して上流配管の長さを変えることにより、安全弁の振動を最小とする配管系システムを設計することができる。
【0064】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0065】
たとえば、上述の実施の形態では、上流側配管入口13に大容量の圧力容器が接続され、下流側配管出口15に大口径のヘッダーが接続された物理モデルを設定したが、上流側配管入口13、下流側配管出口15に主配管、ヘッダー配管などの他の配管を接続した物理モデルを構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態に係る安全弁振動解析装置の構成を示す図である。
【図2】物理モデル設定部において設定する配管系の物理モデルの一例を示す図である。
【図3】安全弁の構造を説明するための図である。
【図4】配管における流体の質量保存式およびエネルギー式を説明するための図である。
【図5】配管における流体の運動方程式を説明するための図である。
【図6】揚弁力関数の一例を示す図である。
【図7】本実施の形態に係る安全弁振動解析装置の処理フローを示す図である。
【図8】安全弁振動測定の実験系を示す図である。
【図9】上流配管長さxが0mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図10】上流配管長さxが1mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図11】上流配管長さxが5mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図12】上流配管長さxが10mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図13】上流配管長さxが20mの場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図14】安全弁出口面積ADが10.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【図15】安全弁出口面積ADが6.0cm2の場合の実験データとシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
10 物理モデル、 12 安全弁、 14 上流配管、 16 下流配管、 20 ノズル、 25 弁体、 26 弁箱、 30 スプリング、 36 安全弁入口、 38 安全弁出口、 50 配管要素、 100 安全弁振動解析装置、 102 物理モデル設定部、 104 境界条件入力部、 106 初期条件入力部、 108 設定条件入力部、 110 安全弁支配方程式保持部、 112 配管支配方程式保持部、 114 揚弁力関数保持部、 116 演算部、 118 評価部、 120 設定条件決定部、 200 実験系。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全弁における弁体の振動を解析する安全弁振動解析装置であって、
安全弁と、安全弁に接続された上流配管とを含む物理モデルの設定条件を入力する入力部と、
弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する第1保持部と、
上流配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する第2保持部と、
前記入力部に入力された設定条件と、前記第1保持部に保持された安全弁の支配方程式と、前記第2保持部に保持された配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出する演算部と、
弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数を保持する第3保持部と、
を備え、
前記演算部は、前記第3保持部から揚弁力関数を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数を適用して弁体のリフト量の時間変化を導出することを特徴とする安全弁振動解析装置。
【請求項2】
揚弁力関数は、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成されることを特徴とする請求項1に記載の安全弁振動解析装置。
【請求項3】
前記演算部は、安全弁のオリフィス臨界流量係数に対するオリフィス流量係数の比を含んだ弁体の運動方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出することを特徴とする請求項1または2に記載の安全弁振動解析装置。
【請求項4】
Msを弁体を含んだ可動部質量、Csを減衰係数、Kをばね定数、Zを弁体のリフト量、Pvを安全弁入口圧力、PBを弁箱内圧力、AHを弁ディスクホルダ面積、f(Z)を揚弁力関数、Ψをオリフィス流量係数、Ψcをオリフィス臨界流量係数、Zsをばね初期変形量、tを時間としたときに、弁体の運動方程式は、
【数1】
で表現されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の安全弁振動解析装置。
【請求項5】
前記演算部による演算結果を受けて、前記入力部に入力された設定条件の是非を判定する評価部をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の安全弁振動解析装置。
【請求項1】
安全弁における弁体の振動を解析する安全弁振動解析装置であって、
安全弁と、安全弁に接続された上流配管とを含む物理モデルの設定条件を入力する入力部と、
弁体の運動方程式、安全弁入口の流量式、安全弁出口の流量式および弁箱内の質量保存式を含む安全弁の支配方程式を保持する第1保持部と、
上流配管を流れる流体の質量保存式、エネルギー式および運動方程式を含む配管の支配方程式を保持する第2保持部と、
前記入力部に入力された設定条件と、前記第1保持部に保持された安全弁の支配方程式と、前記第2保持部に保持された配管の支配方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出する演算部と、
弁体のリフト量と、弁体に作用する揚弁力との関係を表す揚弁力関数を保持する第3保持部と、
を備え、
前記演算部は、前記第3保持部から揚弁力関数を読み出し、弁体の運動方程式に揚弁力関数を適用して弁体のリフト量の時間変化を導出することを特徴とする安全弁振動解析装置。
【請求項2】
揚弁力関数は、弁体のリフト量と揚弁力との関係を実測することにより生成されることを特徴とする請求項1に記載の安全弁振動解析装置。
【請求項3】
前記演算部は、安全弁のオリフィス臨界流量係数に対するオリフィス流量係数の比を含んだ弁体の運動方程式を用いて、弁体のリフト量の時間変化を導出することを特徴とする請求項1または2に記載の安全弁振動解析装置。
【請求項4】
Msを弁体を含んだ可動部質量、Csを減衰係数、Kをばね定数、Zを弁体のリフト量、Pvを安全弁入口圧力、PBを弁箱内圧力、AHを弁ディスクホルダ面積、f(Z)を揚弁力関数、Ψをオリフィス流量係数、Ψcをオリフィス臨界流量係数、Zsをばね初期変形量、tを時間としたときに、弁体の運動方程式は、
【数1】
で表現されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の安全弁振動解析装置。
【請求項5】
前記演算部による演算結果を受けて、前記入力部に入力された設定条件の是非を判定する評価部をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の安全弁振動解析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−14462(P2009−14462A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175647(P2007−175647)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】
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